(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】ダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240722BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20240722BHJP
C09J 7/29 20180101ALI20240722BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240722BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240722BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/52 E
H01L21/78 W
C09J7/29
C09J7/38
C09J201/00
B32B27/00 M
(21)【出願番号】P 2020100018
(22)【出願日】2020-06-09
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2019110199
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄大
(72)【発明者】
【氏名】毎川 英利
(72)【発明者】
【氏名】武田 公平
(72)【発明者】
【氏名】植野 大樹
(72)【発明者】
【氏名】中浦 宏
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-216704(JP,A)
【文献】国際公開第2014/129469(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152919(WO,A1)
【文献】特開2017-112381(JP,A)
【文献】特開2012-062405(JP,A)
【文献】特開2016-021494(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066480(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/52
C09J 7/29
C09J 7/38
C09J 201/00
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に粘着剤層が積層されたダイシングテープであって、
前記基材は、分子量分散度が5以下である第1樹脂を含む第1樹脂層と、前記第1樹脂層の一面上に積層された第2樹脂層と、前記第1樹脂層とは逆側において前記第2樹脂層に積層された第3樹脂層と、を備え、
前記第2樹脂層がα-オレフィン系熱可塑性エラストマーであり、
前記第2樹脂層は、前記第1樹脂層及び前記第3樹脂層よりも、室温における引張貯蔵弾性率が低い
ダイシングテープ。
【請求項2】
前記第1樹脂は、115℃以上130℃以下の融点を有する
請求項1に記載のダイシングテープ。
【請求項3】
前記第1樹脂は、質量平均分子量が100000以上1000000以下であり、数平均分子量が20000以上600000以下である
請求項1または2に記載のダイシングテープ。
【請求項4】
前記第1樹脂は、メタロセン触媒による重合品であるポリプロピレン樹脂を含む
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のダイシングテープ。
【請求項5】
前記基材の厚さは60μm以上160μm以下であり、
前記第2樹脂層の厚さに対する前記第1樹脂層の厚さの比は、1/4~1/20の範囲にあり、
前記第2樹脂層の厚さに対する前記第3樹脂層の厚さの比は、1/4~1/20の範囲にある
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のダイシングテープ。
【請求項6】
前記第2樹脂層は、α-オレフィン系熱可塑性エラストマーを含む
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のダイシングテープ。
【請求項7】
前記α-オレフィン系熱可塑性エラストマーは、α-オレフィンのホモポリマー又はα-オレフィンの共重合体の少なくとも1種を含む
請求項6に記載のダイシングテープ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のダイシングテープと、
前記ダイシングテープの粘着剤層上に積層されたダイボンド層と、を備える
ダイシングダイボンドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムに関する。より詳しくは、基材が積層構造を有するダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置の製造において、ダイボンディング用の半導体チップを得るために、ダイシングダイボンドフィルムを用いることが知られている。ダイシングダイボンドフィルムは、基材上に粘着剤層が積層されたダイボンドテープと、該ダイボンドテープの粘着剤層上に積層されたダイボンド層と、を備えている。
【0003】
そして、前記ダイシングダイボンドフィルムを用いてダイボンディング用の半導体チップ(ダイ)を得る方法として、半導体ウェハを割断処理によってチップ(ダイ)へ加工すべき半導体ウェハに溝を形成し、さらに半導体ウェハを研削して厚さを薄くするハーフカット工程と、ハーフカット工程後の半導体ウェハを研削して厚さを薄くするバックグラインド工程と、バックグラインド工程後の半導体ウェハの一面(例えば、回路面とは反対側の面)をダイボンド層に貼付して、ダイシングテープに半導体ウェハを固定するマウント工程と、ハーフカット加工された半導体チップ同士の間隔を広げるエキスパンド工程と、半導体チップ同士の間隔を維持するカーフ維持工程と、ダイボンド層と粘着剤層との間を剥離してダイボンド層が貼付された状態で半導体チップを取り出すピックアップ工程と、ダイボンド層が貼付された状態の半導体チップを被着体(例えば、実装基板等)に接着させるダイボンド工程と、を有する方法を採用することが知られている。
なお、前記カーフ維持工程においては、ダイシングテープに熱風(例えば、100~130℃)を当ててダイシングテープを熱収縮させた後冷却固化させて、割断された隣り合う半導体チップ間の距離(カーフ)を維持している。
【0004】
前記のようなダイボンディング用の半導体チップを得る方法のカーフ維持工程において、カーフをより十分に維持するために、ダイシングテープの物性と基材の物性とを特定の関係を満たすものとすることが知れている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、カーフ維持工程において、カーフをより十分に維持するために、更なる検討が要望されている。
【0007】
そこで、本発明は、カーフをより十分に維持することができるダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討したところ、基材上に粘着剤層が積層されたダイシングテープにおいて、前記基材を、分子量分散度が5以下である第1樹脂を含む第1樹脂層と、前記第1樹脂層の一面上に積層された第2樹脂層と、前記第1樹脂層とは逆側において前記第2樹脂層に積層された第3樹脂層と、を備えるものとし、さらに、前記第2樹脂層を、前記第1樹脂層及び前記第3樹脂層よりも、室温における引張貯蔵弾性率が低いものとすることにより、カーフ維持工程において、カーフをより十分に維持することができることを見出して、本発明を想到するに至った。
また、本発明者らは、前記構成のダイシングテープを備えたダイシングダイボンドフィルムにおいても、カーフ維持工程において、カーフをより十分に維持することができることを見出した。
【0009】
即ち、本発明に係るダイシングテープは、
基材上に粘着剤層が積層されたダイシングテープであって、
前記基材は、分子量分散度が5以下である第1樹脂を含む第1樹脂層と、前記第1樹脂層の一面上に積層された第2樹脂層と、前記第1樹脂層とは逆側において前記第2樹脂層に積層された第3樹脂層と、を備え、
前記第2樹脂層は、前記第1樹脂層及び前記第3樹脂層よりも、室温における引張貯蔵弾性率が低い。
【0010】
斯かる構成によれば、前記基材は、分子量分散度が5以下である第1樹脂を含む第1樹脂層を備えるので、カーフ維持工程において、前記基材をより迅速に冷却固化することができる。
また、第1樹脂層の一面上に積層された第2樹脂層であって、前記第1樹脂層とは逆側に第3樹脂層が積層された第2樹脂層、すなわち、前記第1樹脂層と前記第3樹脂層とで挟まれた前記第2樹脂層の室温における引張貯蔵弾性率が、前記第1樹脂層及び前記第3樹脂層の室温における引張貯蔵弾性率よりも低いので、前記第2樹脂層を、引張応力を緩和する応力緩和層として機能させることができる。すなわち、前記基材に生じる引張応力を比較的小さくすることができるので、前記基材を適度な硬さを有しつつ、比較的伸び易いものとすることができる。
これにより、カーフ維持工程において、カーフをより十分に維持することができる。
さらに、前記第2樹脂層の室温における引張貯蔵弾性率が、前記第1樹脂層及び前記第3樹脂層の室温における引張貯蔵弾性率よりも低いことにより、半導体ウェハから複数の半導体チップへの割断性を向上させることができることに加えて、エキスパンド工程において、前記基材が破れて破損することを抑制することができる。
また、前記第1樹脂層に含まれる第1樹脂と前記第2樹脂層に含まれる第2樹脂とが親和性の高いものである場合、前記第1樹脂層と前記第2樹脂層とを剥離させることなく比較的良好に押出成形することができる。
【0011】
前記ダイシングテープにおいては、
前記第1樹脂は、115℃以上130℃以下の融点を有することが好ましい。
【0012】
斯かる構成によれば、前記第1樹脂が115℃以上130℃以下の融点を有しているので、カーフ維持工程において、前記ダイシングテープに当てる熱風(例えば、100~130℃)と前記第1樹脂層を構成する樹脂との温度差を比較的小さくすることができる。そのため、カーフ維持工程において、前記基材をより迅速に冷却固化することができる。
これにより、カーフ維持工程において、カーフをより十分に維持することができる。
【0013】
前記ダイシングテープにおいては、
前記第1樹脂は、質量平均分子量が100000以上1000000以下であり、数平均分子量が20000以上600000以下であることが好ましい。
【0014】
斯かる構成によれば、カーフ維持工程において、カーフをより十分に維持することができる。
【0015】
前記ダイシングテープにおいては、
前記第1樹脂は、メタロセン触媒による重合品であるポリプロピレン樹脂を含むことが好ましい。
【0016】
斯かる構成によれば、カーフ維持工程において、カーフをより十分に維持することができる。
【0017】
前記ダイシングテープにおいては、
前記基材の厚さは60μm以上160μm以下であり、
前記第2樹脂層の厚さに対する前記第1樹脂層の厚さの比は、1/4~1/20の範囲にあり、
前記第2樹脂層の厚さに対する前記第3樹脂層の厚さの比は、1/4~1/20の範囲にあることが好ましい。
【0018】
斯かる構成によれば、カーフ維持工程において、カーフをより十分に維持することができる。
また、割断工程におけるエキスパンド時に、半導体ウェハから複数の半導体チップへの割断性をより向上させることができる。
【0019】
前記ダイシングテープにおいては、
前記第2樹脂層は、α-オレフィン系熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。
【0020】
斯かる構成によれば、カーフ維持工程において、カーフをより十分に維持することができる。
また、割断工程におけるエキスパンド時に、半導体ウェハから複数の半導体チップへの割断性をより向上させることができる。
【0021】
前記ダイシングテープにおいては、
前記α-オレフィン系熱可塑性エラストマーは、α-オレフィンのホモポリマー又はα-オレフィンの共重合体の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0022】
斯かる構成によれば、カーフ維持工程において、カーフをより十分に維持することができる。
また、割断工程におけるエキスパンド時に、半導体ウェハから複数の半導体チップへの割断性をより向上させることができる。
【0023】
本発明に係るダイシングダイボンドフィルムは、
前記ダイシングテープと、
前記ダイシングテープの粘着剤層上に積層されたダイボンド層と、を備える。
【0024】
斯かる構成によれば、カーフ維持工程において、カーフをより十分に維持することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、カーフをより十分に維持することができるダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係るダイシングテープの構成を示す断面図。
【
図2】本発明の一実施形態に係るダイシングダイボンドフィルムの構成を示す断面図。
【
図3A】半導体集積回路の製造方法におけるハーフカット加工の様子を模式的に示す断面図。
【
図3B】半導体集積回路の製造方法におけるハーフカット加工の様子を模式的に示す断面図。
【
図3C】半導体集積回路の製造方法におけるバックグラインド加工の様子を模式的に示す断面図。
【
図3D】半導体集積回路の製造方法におけるバックグラインド加工の様子を模式的に示す断面図。
【
図4A】半導体集積回路の製造方法におけるマウント工程の様子を模式的に示す断面図。
【
図4B】半導体集積回路の製造方法におけるマウント工程の様子を模式的に示す断面図。
【
図5A】半導体集積回路の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に示す断面図。
【
図5B】半導体集積回路の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に示す断面図。
【
図5C】半導体集積回路の製造方法における低温でのエキスパンド工程の様子を模式的に示す断面図。
【
図6A】半導体集積回路の製造方法における常温でのエキスパンド工程の様子を模式的に示す断面図。
【
図6B】半導体集積回路の製造方法における常温でのエキスパンド工程の様子を模式的に示す断面図。
【
図7】半導体集積回路の製造方法におけるカーフ維持工程の様子を模式的に示す断面図。
【
図8】半導体集積回路の製造方法におけるピックアップ工程の様子を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0028】
[ダイシングテープ]
図1に示しように、本実施形態に係るダイシングテープ10は、基材1上に粘着剤層2が積層されたダイシングテープ10である。
基材1は、分子量分散度が5以下である第1樹脂を含む第1樹脂層1aと、第1樹脂層1aの一面上に積層された第2樹脂層1bと、第1樹脂層1aとは逆側において第2樹脂層1bに積層された第3樹脂層1cとを備え、第2樹脂層1bは、第1樹脂層1a及び第3樹脂層1cよりも室温(23℃)における引張貯蔵弾性率が低い。
なお、第2樹脂層1bは第2樹脂を含み、第3樹脂層1cは第1樹脂を含んでいる。
ここで、第1樹脂の分子量分散度とは、第1樹脂の数平均分子量に対する第1樹脂の質量平均分子量の比を意味する。
【0029】
基材1が、分子量分散度が5以下である第1樹脂を含む第1樹脂層1aを備えることにより、カーフがより十分に維持される理由については、以下のように考えられる。
第1樹脂は5以下という比較的小さい分子量分散度を示す、すなわち、第1樹脂は比較的均一な分子量を有する樹脂であるので、このような第1樹脂を含む第1樹脂層においては、層が溶融する温度は比較的均一になると考えられる。
そして、層が溶融する温度が比較的均一であることにより、カーフ維持工程において、ダイシングテープ10に熱風(例えば、100~130℃)を当ててダイシングテープ10を熱収縮させた後冷却固化させるときに、熱風により溶融した層部分を比較的均一な速度で固化させることができると考えられる。すなわち、溶融した層部分が固化する速度にバラツキがない分だけ、溶融した層部分を比較的迅速に固化させることができると考えられる。
その結果、ダイシングテープ10を熱収縮させた後に、基材1が縮むことをより十分に抑制することができるようになり、カーフをより十分に維持することができるようになると考えられる。
【0030】
第1樹脂の数平均分子量及び質量平均分子量は、以下の条件においてGPCにより測定することができる。
・測定装置:Waster社製、型式「Alliance GPC 2000型」
・カラム:TSkgel GMH6-HT(東ソー社製)を2本直列に接続し、下流側に、さらにTSKgel GMH-HTLを2本直列に接続したもの
・カラムサイズ:TSKgel GMH6-HT及びTSKgel GMH-HTL共に、内径7.5mm×長さ300mm
・カラム温度:140℃
・流速:1.0mL/分
・溶離液:o-ジクロロベンゼン
・サンプル調製濃度:0.10質量%(o-ジクロロベンゼンに溶解)
・サンプル注入量:40μL
・検出器:RI(示差屈折計)
・標準試料:ポリスチレン
【0031】
第2樹脂層1bとしては、室温での引張貯蔵弾性率が10MPa以上100MPa以下のものが挙げられ、第1樹脂層1a及び第3樹脂層1cとしては、室温での引張貯蔵弾性率が200MPa以上500MPa以下のものが挙げられる。
【0032】
常温における引張貯蔵弾性率は、以下のようにして測定することができる。
詳しくは、長さ40mm(測定長さ)、幅10mmのダイシングテープを試験片とし、固体粘弾性測定装置(例えば、型式RSAIII、レオメトリックサイエンティフィック株式会社製)を用いて、周波数1Hz、ひずみ量0.1%、昇温速度10℃/min、チャック間距離22.5mmの条件において、-50~100℃の温度範囲で前記試験片の引張貯蔵弾性率を測定することにより求めることができる。その際、23℃での値を読み取り、23℃における引張貯蔵弾性率とする。
なお、前記測定は、前記試験片をMD方向(樹脂流れ方向)に引っ張ることにより行う。
【0033】
第1樹脂としては非エラストマーを用いることが好ましい。非エラストマーとしては、メタロセン触媒の共重合品であるポリプロピレン樹脂(以下、メタロセンPPという)が挙げられる。メタロセンPPとしては、メタロセン触媒の重合品であるプロピレン/α-オレフィン共重合体が挙げられる。第1樹脂層1a及び第3樹脂層1cがメタロセンPPを含むことにより、ダイシングテープを効率良く製造することができ、かつ、ダイシングテープに貼付した半導体ウェハを効率良く割断することができる。
なお、市販のメタロセンPPとしては、ウィンテックWXK1233、ウィンテックWMX03(いずれも、日本ポリプロ社製)が挙げられる。
【0034】
ここで、メタロセン触媒とは、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期表第4族の遷移金属化合物(いわゆる、メタロセン化合物)と、メタロセン化合物と反応して該メタロセン化合物を安定なイオン状態に活性化し得る助触媒とからなる触媒であり、必要により、有機アルミニウム化合物を含む。メタロセン化合物は、プロピレンの立体規則性重合を可能とする架橋型のメタロセン化合物である。
【0035】
前記メタロセン触媒の重合品であるプロピレン/α-オレフィン共重合体の中でも、メタロセン触媒の重合品であるプロピレン/α-オレフィンランダム共重合体が好ましく、前記メタロセン触媒の重合品であるプロピレン/α-オレフィンランダム共重合体の中でも、メタロセン触媒の重合品であるプロピレン/炭素数2のα-オレフィンランダム共重合体、メタロセン触媒の重合品であるプロピレン/炭素数4のα-オレフィンランダム共重合体、及び、メタロセン触媒の重合品であるプロピレン/炭素数5のα-オレフィンランダム共重合体の中から選ばれるものが好ましく、これらの中でも、メタロセン触媒の重合品であるプロピレン/エチレンランダム共重合体が最適である。
【0036】
前記メタロセン触媒の重合品であるプロピレン/α-オレフィンランダム共重合体としては、前記エラストマー層との共押出成膜性、及び、ダイシングテープに貼付した半導体ウェハの割断性の観点から、融点が80℃以上140℃以下、特に、100℃以上130℃以下のものが好ましい。
前記メタロセン触媒の重合品であるプロピレン/α-オレフィンランダム共重合体の融点は、示差走査熱量(DSC)分析により測定することができる。例えば、示差走査熱量計装置(TAインスツルメント社製 型式DSC Q2000)を用い、窒素ガス気流下、昇温速度5℃/minにて200℃まで昇温し、吸熱ピークのピーク温度を求めることにより測定することができる。
第1樹脂は、質量平均分子量が100000以上1000000以下であり、数平均分子量が20000以上600000以下であることが好ましい。
【0037】
第2樹脂としてはエラストマーを用いることが好ましい。エラストマーとしては、例えば、α-オレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。α-オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、α-オレフィンのホモポリマー、2種以上のα-オレフィンの共重合体、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、1種または2種以上のα-オレフィンと他のビニルモノマーとの共重合体等が挙げられる。
α-オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、プロピレン・エチレン共重合体とプロピレンホモポリマーとを組み合わせたもの、または、プロピレン・エチレン・炭素数4以上のα-オレフィン三元共重合体も挙げられる。
α-オレフィン系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、プロピレン系エラストマー樹脂であるビスタマックス3980(エクソンモービルケミカル社製)が挙げられる。
【0038】
α-オレフィンのホモポリマーとしては、炭素数2以上12以下のα-オレフィンのホモポリマーであることが好ましい。このようなホモポリマーとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。
【0039】
2種以上のα-オレフィンの共重合体としては、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1-ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/1-ブテン共重合体、エチレン/炭素数5以上12以下のα-オレフィン共重合体、プロピレン/エチレン共重合体、プロピレン/1-ブテン共重合体、プロピレン/炭素数5以上12以下のα-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0040】
1種または2種以上のα-オレフィンと他のビニルモノマーとの共重合体としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。
【0041】
基材1が前記のような三層構造の場合、第1樹脂と第2樹脂とを共押出して、第2樹脂層1bの両面側に第1樹脂層1a及び第3樹脂層1cが積層された積層構造とする共押出成形により得られることが好ましい。共押出成形としては、フィルムやシート等の製造において一般に行われる任意の適切な共押出成形を採用することができる。共押出成形の中でも、基材1を効率良く安価に得ることができる点から、インフレーション法や共押出Tダイ法を採用することが好ましい。
【0042】
第2樹脂層1bがα-オレフィン系熱可塑性エラストマーを含み、かつ、第1樹脂層1a及び第3樹脂層1cがメタロセンPPのようなポリオレフィンを含む場合、第2樹脂層1bは、第2樹脂層1bに含まれるエラストマーの総質量に対して、α-オレフィン系熱可塑性エラストマーを50質量%以上100質量%以下含んでいることが好ましく、70質量%以上100質量%以下含んでいることがより好ましく、80質量%以上100質量%以下含んでいることがさらに好ましく、90質量%以上100質量%以下含んでいることが特に好ましく、95質量%以上100質量%以下含んでいることが最適である。α-オレフィン系熱可塑性エラストマーが前記範囲で含まれていることにより、第1樹脂層1aと第2樹脂層1bとの親和性及び第3樹脂層1cと第2樹脂層1bとの親和性が高くなるため、基材1を比較的容易に押出成形することができ、かつ、ダイシングテープに貼付した半導体ウェハを効率良く割断することができる。
【0043】
積層構造をなす基材1を共押出成形にて得る場合、第1樹脂層1a及び第2樹脂層1b、並びに、第3樹脂層1c及び第2樹脂層1bは、加熱されて溶融された状態で接するため、前記第1樹脂及び前記第2樹脂の融点差は小さい方が好ましい。融点差が小さいことにより、低融点樹脂に過度の熱がかかることが抑制されることから、低融点樹脂の熱劣化によって副生成物が生成されることを抑制できる。また、低融点樹脂の粘度が過度に低下することにより、第1樹脂層1aと第2樹脂層1bとの間、及び、第3樹脂層1cと第2樹脂層1bとの間に積層不良が生じることも抑制できる。前記第1樹脂及び前記第2樹脂の融点差は、0℃以上70℃以下であることが好ましく、0℃以上55℃以下であることがより好ましい。
前記第1樹脂及び前記第2樹脂の融点は、前記した方法によって測定することができる。
【0044】
基材1の厚さは、55μm以上195μm以下であることが好ましく、55μm以上190μm以下であることがより好ましく、55μm以上170μm以下であることがさらに好ましく、60μm以上160μm以下であることが最適である。基材1の厚さを前記の範囲とすることにより、ダイシングテープを効率良く製造することができ、かつ、ダイシングテープに貼付した半導体ウェハを効率良く割断することができる。
基材1の厚さは、例えば、ダイアルゲージ(PEACOCK社製 型式R-205)を用いて、ランダムに選んだ任意の5点の厚さを測定し、これらの厚さを算術平均することにより求めることができる。
【0045】
基材1において、第2樹脂層1bの厚さに対する第1樹脂層1aの厚さの比、及び、第2樹脂層1bの厚さに対する第3樹脂層1cの厚さの比は、1/25以上1/3以下であることが好ましく、1/25以上1/3.5以下であることがより好ましく、1/25以上1/4以下であることがさらに好ましく、1/22以上1/4以下であることが特に好ましく、1/20以上1/4以下であることが最適である。第2樹脂層1bの厚さに対する第1樹脂層1aの厚さの比、及び、第2樹脂層1bの厚さに対する第3樹脂層1cの厚さの比を前記範囲とすることにより、ダイシングテープに貼付した半導体ウェハをより効率良く割断することができる。
第1樹脂層1a、第2樹脂層1b、及び、第3樹脂層1cの厚さは、凍結ミクロトーム法により第1樹脂層1aから切り出した断面を顕微鏡で観察することにより求めることができる。例えば、電子顕微鏡を用いて100倍の倍率で凍結ミクロトーム法により切り出した断面の中央部分を観察し、第1樹脂層1a、第2樹脂層1b、及び、第3樹脂層1cについてMD方向(樹脂流れ方向)に沿って任意に選んだ3点の厚さをそれぞれ測定し、各層について測定した3点の測定値をそれぞれ算術平均することにより求めることができる。
【0046】
第1樹脂層1a及び第3樹脂層1cは、単層(1層)構造であってもよいし、積層構造であってもよい。第1樹脂層1aは、1層~5層構造であることが好ましく、1層~3層構造であることがより好ましく、1層~2層構造であることがさらに好ましく、1層構造であることが最適である。第1樹脂層1a及び第3樹脂層1cが積層構造である場合、全ての層が同じ第1樹脂を含んでいてもよいし、少なくも2層が異なる第1樹脂を含んでいてもよい。
【0047】
第2樹脂層1bは、単層(1層)構造であってもよいし、積層構造であってもよい。第2樹脂層1bは、1層~5層構造であることが好ましく、1層~3層構造であることがより好ましく、1層~2層構造であることがさらに好ましく、1層構造であることが最適である。第2樹脂層1bが積層構造である場合、全ての層が同じ第2樹脂を含んでいてもよいし、少なくとも2層が異なる第2樹脂を含んでいてもよい。
【0048】
ここで、エラストマー層が基材1の最外層に配されていると、基材1をロール体とした場合に、最外層に配されたエラストマー層同士がブロッキングし易くなる(くっつき易くなる)。そのため、基材1をロール体から巻き戻し難くなる。これに対し、本実施形態に係る基材1では、第1樹脂層1a及び第3樹脂層1cが非エラストマー層であり、第2樹脂層1bがエラストマー層である、すなわち、最外層に非エラストマー層が配されているので、このような態様の基材1は、耐ブロッキング性に優れたものとなる。これにより、ブロッキングによってダイシングテープ10を用いた半導体装置の製造が遅延することを抑制できる。
【0049】
第2樹脂層1bは、115℃以上130℃以下の融点を有し、かつ、分子量分散度(質量平均分子量/数平均分子量)が5以下である樹脂で構成されていることが好ましい。このような樹脂としては、メタロセンPPが挙げられる。
第2樹脂層1bが前記のごとき樹脂で構成されていることにより、低温条件下で半導体ウェハを割断して得た複数の半導体チップ間の間隔(カーフ)を維持するために、前記半導体ウェハの外周縁との境界部分のダイシングテープに熱風(例えば、100~130℃)を当てて前記ダイシングテープを熱収縮させた後に、熱風を当てることにより溶融した非エラストマー層(最外層)が固化するように要する時間を比較的短くすることができる。
これにより、カーフをより好適に維持することができる。
【0050】
粘着剤層2は、粘着剤を含有する。粘着剤層2は、半導体チップに個片化するための半導体ウェハを粘着することにより保持する。本実施形態では、基材1の第1樹脂層1a上に粘着剤層2が積層されている。
【0051】
前記粘着剤としては、ダイシングテープ10の使用過程において外部からの作用により粘着力を低減可能なもの(以下、粘着低減型粘着剤という)が挙げられる。
【0052】
粘着剤として粘着低減型粘着剤を用いる場合、ダイシングテープ10の使用過程において、粘着剤層2が比較的高い粘着力を示す状態(以下、高粘着状態という)と、比較的低い粘着力を示す状態(以下、低粘着状態という)とを使い分けることができる。例えば、ダイシングテープ10に貼付された半導体ウェハが割断に供されるときには、半導体ウェハの割断により個片化された複数の半導体チップが、粘着剤層2から浮き上がったり剥離したりすることを抑制するために、高粘着状態を利用する。これに対し、半導体ウェハの割断後に、個片化された複数の半導体チップをピックアップするためには、粘着剤層2から複数の半導体チップをピックアップし易くするために、低粘着状態を利用する。
【0053】
前記粘着低減型粘着剤としては、例えば、ダイシングテープ10の使用過程において放射線照射によって硬化させることが可能な粘着剤(以下、放射線硬化粘着剤という)が挙げられる。
【0054】
前記放射線硬化粘着剤としては、例えば、電子線、紫外線、α線、β線、γ線、またはX線の照射によって硬化するタイプの粘着剤が挙げられる。これらの中でも、紫外線照射により硬化する粘着剤(紫外線硬化粘着剤)を用いることが好ましい。
【0055】
前記放射線硬化粘着剤としては、例えば、アクリル系ポリマーなどのベースポリマーと、放射線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基を有する放射線重合性モノマー成分や放射線重合性オリゴマー成分とを含む、添加型の放射線硬化粘着剤が挙げられる。
【0056】
前記アクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマー単位を含むものが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、及び、(メタ)アクリル酸アリールエステル等が挙げられる。
【0057】
粘着剤層2は、外部架橋剤を含んでいてもよい。外部架橋剤としては、ベースポリマーであるアクリル系ポリマーと反応して架橋構造を形成できるものであれば、どのようなものでも用いることができる。このような外部架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリオール化合物、アジリジン化合物、及び、メラミン系架橋剤等が挙げられる。
【0058】
前記放射線重合性モノマー成分としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、および、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。前記放射線重合性オリゴマー成分としては、例えば、ウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系などの種々のオリゴマーが挙げられる。前記放射線硬化粘着剤中の放射線重合性モノマー成分や放射線重合性オリゴマー成分の含有割合は、粘着剤層2の粘着性を適切に低下させる範囲で選ばれる。
【0059】
前記放射線硬化粘着剤は、光重合開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、α-ケトール系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ケタール系化合物、芳香族スルホニルクロリド系化合物、光活性オキシム系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、カンファーキノン、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、及び、アシルホスフォナート等が挙げられる。
【0060】
粘着剤層2は、前記各成分に加えて、架橋促進剤、粘着付与剤、老化防止剤、顔料や染料などの着色剤等を含んでいてもよい。
【0061】
粘着剤層2の厚さは、1μm以上50μm以下であることが好ましく、2μm以上30μm以下であることがより好ましく、5μm以上25μm以下であることがさらに好ましい。
【0062】
[ダイシングダイボンドフィルム]
次に、
図2を参照しながら、ダイシングダイボンドフィルム20について説明する。なお、ダイシングダイボンドフィルム20の説明において、ダイシングテープ10と重複する部分においては、その説明は繰り返さない。
【0063】
図2に示したように、本実施形態に係るダイシングダイボンドフィルム20は、基材1上に粘着剤層2が積層されたダイシングテープ10と、ダイシングテープ10の粘着剤層2上に積層されたダイボンド層3とを備える。
基材1は、分子量分散度が5以下である第1樹脂を含む第1樹脂層1aと、第1樹脂層1aの一面上に積層された第2樹脂層1bと、第1樹脂層1aとは逆側において第2樹脂層1bに積層された第3樹脂層1cとを備え、第2樹脂層1bは、第1樹脂層1a及び第3樹脂層1cよりも室温(23℃)における引張貯蔵弾性率が低い。
なお、第2樹脂層1bは第2樹脂を含み、第3樹脂層1cは第1樹脂を含んでいる。
ダイシングダイボンドフィルム20では、ダイボンド層3上に半導体ウェハが貼付される。
ダイシングダイボンドフィルム20を用いた半導体ウェハの割断においては、半導体ウェハと共にダイボンド層3も割断される。ダイボンド層3は、個片化された複数の半導体チップのサイズに相当する大きさに割断される。これにより、ダイボンド層3付の半導体チップを得ることができる。
【0064】
本実施形態に係るダイシングダイボンドフィルム20においては、ダイシングテープ10と同様に、第1樹脂の融点は115℃以上130℃以下であることが好ましく、第1樹脂は、質量平均分子量が100000以上1000000以下であり、数平均分子量が20000以上600000以下であることが好ましく、第1樹脂はメタロセン触媒による重合品であるポリプロピレン樹脂を含むことが好ましい。
また、ダイシングダイボンドフィルム20は、ダイシングテープ10と同様に、基材1の厚さが60μm以上160μm以下であり、第2樹脂層1bの厚さに対する第1樹脂層1aの厚さの比は、1/4~1/20の範囲にあり、第2樹脂層1bの厚さに対する第3樹脂層1cの厚さの比は、1/4~1/20の範囲にあることが好ましい。
また、ダイシングダイボンドフィルム20は、ダイシングテープ10と同様に、第2樹脂層1bは、α-オレフィン系熱可塑性エラストマーを含むことが好ましく、α-オレフィン系熱可塑性エラストマーは、α-オレフィンのホモポリマー又はα-オレフィンの共重合体の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0065】
ダイボンド層3は、熱硬化性を有することが好ましい。ダイボンド層3に熱硬化性樹脂及び熱硬化性官能基を有する熱可塑性樹脂の少なくとも一方を含ませることにより、ダイボンド層3に熱硬化性を付与することができる。
【0066】
ダイボンド層3が熱硬化性樹脂を含む場合、このような熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、及び、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの中でもエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0067】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型、及び、グリシジルアミン型のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0068】
エポキシ樹脂の硬化剤としてのフェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、及び、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレンが挙げられる。
【0069】
ダイボンド層3が、熱硬化性官能基を有する熱可塑性樹脂を含む場合、このような熱可塑性樹脂としては、例えば、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂が挙げられる。熱硬化性官能基含有アクリル樹脂におけるアクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマー単位を含むものが挙げられる。
熱硬化性官能基を有する熱硬化性樹脂においては、熱硬化性官能基の種類に応じて、硬化剤が選ばれる。
【0070】
ダイボンド層3は、樹脂成分の硬化反応を十分に進行させたり、硬化反応速度を高めたりする観点から、熱硬化触媒を含有していてもよい。熱硬化触媒としては、例えば、イミダゾール系化合物、トリフェニルフォスフィン系化合物、アミン系化合物、およびトリハロゲンボラン系化合物が挙げられる。
【0071】
ダイボンド層3は、上記熱硬化性樹脂に加えて、熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。熱可塑性樹脂はバインダとして機能する。熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミド6やポリアミド6,6等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、一種のみが用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。上記熱可塑性樹脂としては、イオン性不純物が少なく、かつ、耐熱性が高いために、ダイボンド層による接続信頼性が確保し易くなるという観点から、アクリル樹脂が好ましい。
【0072】
上記アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマー単位を質量割合で最も多いモノマー単位として含むポリマーであることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、及び、(メタ)アクリル酸アリールエステル等が挙げられる。上記アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他の成分に由来するモノマー単位を含んでいてもよい。上記他の成分としては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、グリシジル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、アクリルニトリル等の官能基含有モノマーや、各種の多官能性モノマー等が挙げられる。ダイボンド層において高い凝集力を実現するという観点から、上記アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル(特に、アルキル基の炭素数が4以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル)と、カルボキシ基含有モノマーと、窒素原子含有モノマーと、多官能性モノマー(特に、ポリグリシジル系多官能モノマー)との共重合体であることが好ましく、アクリル酸エチルと、アクリル酸ブチルと、アクリル酸と、アクリロニトリルと、ポリグリシジル(メタ)アクリレートとの共重合体であることがより好ましい。
【0073】
ダイボンド層3は、必要に応じて、1種又は2種以上の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、難燃剤、シランカップリング剤、およびイオントラップ剤が挙げられる。
【0074】
ダイボンド層3の厚さは、40μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましい。また、ダイボンド層3の厚さは、200μm以下であることが好ましく、160μm以下であることがより好ましく、120μm以下であることがさらに好ましい。
【0075】
本実施形態に係るダイシングダイボンドフィルム20は、例えば、半導体集積回路を製造するための補助用具として使用される。以下、ダイシングダイボンドフィルム20の使用の具体例について説明する。
以下では、基材1が一層であるダイシングダイボンドフィルム20を用いた例について説明する。
【0076】
半導体集積回路を製造する方法は、半導体ウェハを割断処理によってチップ(ダイ)へ加工すべく半導体ウェハに溝を形成し、さらに半導体ウェハを研削して厚さを薄くするハーフカット工程と、ハーフカット工程後の半導体ウェハを研削して厚さを薄くするバックグラインド工程と、バックグラインド工程後の半導体ウェハの一面(例えば、回路面とは反対側の面)をダイボンド層3に貼付して、ダイシングテープ10に半導体ウェハを固定するマウント工程と、ハーフカット加工された半導体チップ同士の間隔を広げるエキスパンド工程と、半導体チップ同士の間隔を維持するカーフ維持工程と、ダイボンド層3と粘着剤層2との間を剥離してダイボンド層3が貼付された状態で半導体チップ(ダイ)を取り出すピックアップ工程と、ダイボンド層3が貼付された状態の半導体チップ(ダイ)を被着体に接着させるダイボンド工程と、を有する。これらの工程を実施するときに、本実施形態のダイシングテープ(ダイシングダイボンドフィルム)が製造補助用具として使用される。
【0077】
ハーフカット工程では、
図3A及び
図3Bに示すように、半導体集積回路を小片(ダイ)に割断するためのハーフカット加工を施す。詳しくは、半導体ウェハWの回路面とは反対側の面に、ウェハ加工用テープTを貼り付ける(
図3A参照)。また、ウェハ加工用テープTにダイシングリングRを取り付ける(
図3A参照)。ウェハ加工用テープTを貼付した状態で、分割用の溝を形成する(
図3B参照)。バックグラインド工程では、
図3C及び
図3Dに示すように、半導体ウェハを研削して厚さを薄くする。詳しくは、溝を形成した面にバックグラインドテープGを貼付する一方で、始めに貼り付けたウェハ加工用テープTを剥離する(
図3C参照)。バックグラインドテープGを貼付した状態で、半導体ウェハWが所定の厚さになるまで研削加工を施す(
図3D参照)。
【0078】
マウント工程では、
図4A~
図4Bに示すように、ダイシングテープ10の粘着剤層2にダイシングリングRを取り付けた後、露出したダイボンド層3の面に、ハーフカット加工された半導体ウェハWを貼付する(
図4A参照)。その後、半導体ウェハWからバックグラインドテープGを剥離する(
図4B参照)。
【0079】
エキスパンド工程では、
図5A~
図5Cに示すように、ダイシングリングRをエキスパンド装置の保持具Hに固定する。エキスパンド装置が備える突き上げ部材Uを用いて、ダイシングダイボンドフィルム20を下側から突き上げることによって、ダイシングダイボンドフィルム20を面方向に広げるように引き伸ばす(
図5B参照)。これにより、特定の温度条件において、ハーフカット加工された半導体ウェハWを割断する。上記温度条件は、例えば-20~5℃であり、好ましくは-15~0℃、より好ましくは-10~-5℃である。突き上げ部材Uを下降させることによって、エキスパンド状態を解除する(
図5C参照)。
さらに、エキスパンド工程では、
図6A~
図6Bに示すように、より高い温度条件下(例えば、室温(23℃))において、面積を広げるようにダイシングテープ10を引き延ばす。これにより、割断された隣り合う半導体チップWをフィルム面の面方向に引き離して、さらに間隔を広げる。
【0080】
カーフ維持工程では、
図7に示すように、ダイシングテープ10に熱風(例えば、100~130℃)を当ててダイシングテープ10を熱収縮させた後冷却固化させて、割断された隣り合う半導体チップW間の距離(カーフ)を維持する。
ここで、本実施形態に係るダイシングダイボンドフィルム20では、基材1が、分子量分散度が5以下である第1樹脂を含む第1樹脂層1aと、第1樹脂層1aの一面上に積層された第2樹脂層1bと、第1樹脂層1aとは逆側において第2樹脂層1bに積層された第3樹脂層1cとを備え、第2樹脂層1bは、第1樹脂層1a及び第3樹脂層1cよりも室温(23℃)における引張貯蔵弾性率が低いので、カーフ維持工程において、カーフをより十分に維持することができる。
【0081】
ピックアップ工程では、
図8に示すように、ダイボンド層3が貼付された状態の半導体チップWをダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離する。詳しくは、ピン部材Pを上昇させて、ピックアップ対象の半導体チップWを、ダイシングテープ10を介して突き上げる。突き上げられた半導体チップを吸着治具Jによって保持する。
【0082】
ダイボンド工程では、ダイボンド層3が貼付された状態の半導体チップWを被着体に接着させる。
なお、上記の半導体集積回路の製造においては、ダイシングダイボンドフィルム20を補助具として用いる例について説明したが、ダイシングテープ10を補助具として用いた場合にも、上記と同様にして半導体集積回路を製造することができる。
【0083】
なお、本発明に係るダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムは、前記実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係るダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムは、前記した作用効果によって限定されるものでもない。本発明に係るダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0084】
次に、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。以下の実施例は本発明をさらに詳しく説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0085】
[実施例1]
<基材の成形>
2種3層押出Tダイ成形機を用いて、A層/B層/C層の3層構造(B層を中心層とし、B層の両面に外層たるA層及びC層が積層された3層構造)を有する基材を成形した。A層及びC層の樹脂にはメタロセンPP(商品名:ウィンテックWXK1233、日本ポリプロ社製)を用い、B層の樹脂にはEVA(商品名:エバフレックスEV250、三井・デュポンポリケミカル社製)を用いた。
前記押出成形は、ダイス温度190℃で行った。すなわち、A層、B層、及び、C層は190℃で押出成形された。押出成形により得られた基材の厚さは100μmであった。なお、A層、B層、及びC層の厚さの比(層厚比)は、A層:B層:C層=1:10:1であった。
成形された基材を十分に固化させた後に、固化後の基材をロール状に巻き取ってロール体とした。
なお、基材の共押出成形性は良好であった。
<ダイシングテープの作製>
ロール状の基材から基材の一方の表面に、アプリケータを用いて厚さ10μmとなるように粘着剤組成物を塗布した。粘着剤組成物塗布後の基材を110℃で3分加熱乾燥し、粘着剤層を形成することにより、ダイシングテープを得た。
前記粘着剤組成物は、以下のようにして調製した。
まず、INA(イソノニルアクリレート)173質量部、HEA(ヒドロキシエチルアクリレート)54.5質量部、AIBN(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.46質量部、酢酸エチル372質量部を混合して第1樹脂組成物を得た。
次に、丸底セパラブルフラスコ(容量1L)、温度計、窒素導入管、及び、撹拌翼が装備された重合用実験装置の前記丸底セパラブルフラスコ内に前記第1樹脂組成物を加え、前記第1樹脂組成物を撹拌しながら、前記第1樹脂組成物の液温を常温(23℃)として、前記丸底セパラブルフラスコ内を6時間窒素置換した。
引き続き前記丸底セパラブルフラスコ内に窒素を流入させた状態で、前記第1樹脂組成物を撹拌しながら、前記第1樹脂組成物の液温を62℃で3時間保持した後さらに75℃で2時間保持して、前記INA、前記HEA、及び、前記AIBNを重合させて、第2樹脂組成物を得た。その後、前記丸底セパラブルフラスコ内への窒素の流入を停止した。
液温が常温となるまで前記第2樹脂組成物を冷却した後、前記第2樹脂組成物に、重合性炭素-炭素二重結合を有する化合物として、2-イソシアナトエチルメタクリレート(昭和電工社製、商品名「カレンズMOI(登録商標)」)52.5質量部、及び、ジラウリン酸ジブチルスズIV(和光純薬工業社製)0.26質量部を加えて得た第3樹脂組成物を、大気雰囲気下にて、液温50℃で24時間撹拌した。
次に、前記第3樹脂組成物において、ポリマー固形分100質量部に対してコロネートL(イソシアネート化合物)及びOmnirad127(光重合開始剤)をそれぞれ0.75質量部及び2質量部加えた後、酢酸エチルを用いて、固形分濃度が20質量%となるように前記第3樹脂組成物を希釈して、粘着剤組成物を調製した。
<ダイシングダイボンドフィルムの作製>
アクリル樹脂(ナガセケムテックス社製、商品名「SG-P3」、ガラス転移温度12℃)100質量部、エポキシ樹脂(三菱化学社製、商品名「JER1001」)46質量部、フェノール樹脂(明和化成社製、商品名「MEH-7851ss」)51質量部、球状シリカ(アドマテックス社製、商品名「SO-25R」)191質量部、及び、硬化触媒(四国化成工業社製、商品名「キュアゾールPHZ」)0.6質量部を、メチルエチルケトンに加えて混合し、固形分濃度20質量%のダイボンド組成物を得た。
次に、剥離ライナーたるPET系セパレータ(厚さ50μm)のシリコーン処理を施した面上に、アプリケータを用いて厚さ10μmとなるように前記ダイボンド組成物を塗布し、130℃で2分間乾燥して前記ダイボンド組成物から脱溶媒し、前記剥離ライナー上にダイボンド層が積層されたダイボンドシートを得た。
次に、前記ダイシングテープの前記粘着剤層上に、前記ダイボンドシートにおける前記剥離シートが積層されていない側を貼り合せた後、前記剥離ライナーを前記ダイボンド層から剥離して、ダイボンド層を備えるダイシングダイボンドフィルムを得た。
【0086】
上のようにして得たダイシングダイボンドフィルムについて、以下のようにして、ウェハ及びダイボンド層の割断性(以下、割断性という)、ダイシングテープからのダイボンド層の浮き上がり(以下、ダイボンド層の浮きという)、及び、カーフの維持性について評価した。
【0087】
(割断性の評価)
実施例1に係るダイシングダイボンドフィルムに、ベアウェハ(直径300mm)及びダイシングリングを貼付した。次に、ダイセパレータDDS230(ディスコ社製)を用いて、ベアウェハ及びダイボンド層の割断を行うことにより割断性を評価した。
ベアウェハは、長さ3.2mm×幅1.4mm×厚さ0.025mmの大きさのベアチップに割断した。
【0088】
割断性は、詳細には以下のようにして評価した。
まず、クールエキスパンダーユニットにて、エキスパンド温度-5℃、エキスパンド速度100mm/秒、エキスパンド量14mmの条件でベアウェハ及びダイボンド層を割断し、ダイボンド層付き半導体チップを得た。
次に、室温、エキスパンド速度1mm/秒、エキスパンド量10mmの条件で常温エキスパンドを行った。そして、エキスパンド状態を維持したまま、ヒート温度200℃、ヒート距離18mm、ローテーションスピード5°/secの条件で、ベアウェハの外周縁との境界部分のダイシングダイボンドフィルムを熱収縮させた。
次に、顕微鏡観察によりダイボンド層付き半導体チップの割断部を観察し、割断率を算出した。そして、割断率が90%以上である場合を〇と評価し、割断率が90%未満の場合を×と評価した。
【0089】
(ダイボンド層の浮きの評価)
実施例1に係るダイシングダイボンドフィルムに、ベアウェハ(直径300mm)及びダイシングリングを貼付した。次に、ダイセパレータDDS230(ディスコ社製)を用いて、ベアウェハ及びダイボンド層の割断を行い、割断後におけるダイボンド層の浮きを評価した。
ベアウェハは、長さ12mm×幅4mm×厚さ0.055mmの大きさのベアチップに割断した。
なお、ベアウェハとしては、反りウェハを用いた。
【0090】
反りウェハは以下のようにして作製した。
まず、下記(a)~(f)をメチルエチルケトンに溶解させ、固形分濃度20質量%の反り調整組成物を得た。
(a)アクリル樹脂(ナガセケムテックス社製、商品名「SG-70L」):5質量部
(b)エポキシ樹脂(三菱化学社製、商品名「JER828」):5質量部
(c)フェノール樹脂(明和化成社製、商品名「LDR8210」):14質量部
(d)エポキシ樹脂(三菱化学社製、商品名「MEH-8005」):2質量部
(e)球状シリカ(アドマテックス社製、商品名「SO-25R」):53質量部
(f)リン系触媒(TPP-K):1質量部
次に、前記反り調整組成物を、剥離ライナーたるPET系セパレータ(厚さ50μm)のシリコーン処理した面上に、アプリケータを用いて厚さ25μmで塗布し、130℃で2分間乾燥して前記反り調整組成物から脱溶媒し、前記剥離ライナー上に反り調整層が積層された反り調整シートを得た。
次に、前記反り調整シートにおける前記剥離ライナーが積層されていない側に、ラミネータ(MCK社製、型式MRK-600)を用いて、60℃、0.1MPa、10mm/sの条件でベアウェハを貼付し、オーブンに入れて175℃で1時間加熱して前記反り調整層における樹脂を熱硬化させ、これにより、前記反り調整層が収縮することにより反ったベアウェハを得た。
前記反り調整層を収縮させた後、反ったベアウェハにおける前記反り調整層が積層されていない側にウェハ加工用テープ(日東電工株式会社製、商品名「V-12SR2」)を貼付した後、前記ウェハ加工用テープを介して、反ったベアウェハにダイシングリングを固定した。その後、反ったベアウェハから前記反り調整層を取り除いた。
ダイシング装置(DISCO社製、型番6361)を用いて、反ったベアウェハにおける前記反り調整層を取り除いた面(以下、一方面という)の全体に、この面から100μmの深さの溝を格子状(巾20μm)に形成した。
次に、反ったベアウェハの一方面にバックグラインドテープを貼り合せ、反ったベアウェハの他方面(前記一方面と反対側の面)から前記ウェハ加工用テープを取り除いた。
次に、バックグラインダー(DISCO社製、型式DGP8760)を用いて、反ったベアウェハの厚みが55μm(0.055mm)となるように、他方面側から反ったベアウェハを研削することにより得られたウェハを、反りウェハとした。
【0091】
ダイボンド層の浮きは、詳細には以下のようにして評価した。
実施例1に係るダイシングダイボンドフィルムにおいて、ダイボンド層がダイシングテープから浮いている部分の面積(ダイボンド層全体の面積を100%としたときの浮いているダイボンド層の面積の割合)を顕微鏡で観察し、ダイボンド層の浮きの面積を算出した。そして、ダイボンド層の浮きの面積が30%未満の場合を〇と評価し、30%以上の場合を×と評価した。
【0092】
(カーフ維持性の評価)
実施例1に係るダイシングダイボンドフィルムに、ベアウェハ(直径300mm)及びダイシングリングを貼付した。次に、ダイセパレータDDS230(ディスコ社製)を用いて、ベアウェハ及びダイボンド層の割断を行い、割断後のカーフ維持性について評価した。
ベアウェハは、長さ12mm×幅4mm×厚さ0.055mmの大きさのベアチップに割断した。
なお、ベアウェハとしては、反りウェハを用いた。反りウェハは上記と同様にして作製した。
【0093】
カーフ維持性は、詳細には以下の様にして評価した。
まず、クールエキスパンダーユニットにて、エキスパンド温度-5℃、エキスパンド速度100mm/秒、エキスパンド量12mmの条件で、半導体ウェハ及びダイボンド層を割断して、複数のダイボンド層付き半導体チップを得た。割断後、顕微鏡観察により、複数のダイボンド層付き反りチップ間の間隔を測定した(以下、割断後チップ間隔という)。複数のダイボンド層付き反りチップ間の間隔は、任意の10点の間隔を測定し、算術平均することにより求めた。
次に、室温、エキスパンド速度1mm/秒、エキスパンド量5mmの条件で常温エキスパンドを行った。そして、エキスパンド状態を維持したまま、ヒート温度200℃、ヒート距離18mm、ローテーションスピード5°/secの条件で、半導体ウェハの外周縁との境界部分のダイシングダイボンドフィルムを熱収縮させた。熱収縮後、顕微鏡観察により、複数のダイボンド層付き半導体チップ間の間隔(以下、熱収縮後チップ間隔という)を測定した。複数のダイボンド層付き半導体チップ間の間隔は、任意の10点の間隔を測定し、算術平均することにより求めた。
次に、割断後チップ間隔に対する熱収縮後チップ間隔の減少比率を算出した。そして、減少比率が10%未満である場合を〇と評価し、減少比率が10%以上である場合を×と評価した。
【0094】
(融点の測定)
A層及びC層の樹脂であるウィンテックWXK1233、並びに、B層の樹脂であるエバフレックスEV250について融点を測定した。測定した融点については以下の表1に示した。
融点の測定は、以下の条件で行った。
すなわち、示差走査熱量計装置(TAインスツルメント社製 型式DSC Q2000)を用い、窒素ガス気流下、昇温速度5℃/minにて200℃まで昇温し、吸熱ピークのピーク温度を求めることにより測定した。
【0095】
(数平均分子量、質量平均分子量、及び、分子量分散度の測定)
A層及びC層の樹脂であるウィンテックWXK1233の数平均分子量及び質量平均分子量を、以下の条件で測定した。
また、以下の条件で測定した数平均分子量及び質量平均分子量から、ウィンテックWXK1233の分子量分散度(質量平均分子量/数平均分子量)を求めた。
・測定装置:Waster社製、型式「Alliance GPC 2000型」
・カラム:TSkgel GMH6-HT(東ソー社製)を2本直列に接続し、下流側に、さらにTSKgel GMH-HTLを2本直列に接続したもの
・カラムサイズ:TSKgel GMH6-HT及びTSKgel GMH-HTL共に、内径7.5mm×長さ300mm
・カラム温度:140℃
・流速:1.0mL/分
・溶離液:o-ジクロロベンゼン
・サンプル調製濃度:0.10質量%(o-ジクロロベンゼンに溶解)
・サンプル注入量:40μL
・検出器:RI(示差屈折計)
・標準試料:ポリスチレン
【0096】
[実施例2]
基材を80μmとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るダイシングダイボンドフィルムを得た。なお、基材の共押出成形性は良好であった。
また、実施例2に係るダイシングダイボンドフィルムについて、実施例1と同様にして、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフの維持性について評価した。
【0097】
[実施例3]
基材を150μmとした以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るダイシングダイボンドフィルムを得た。なお、基材の共押出成形性は良好であった。
また、実施例3に係るダイシングダイボンドフィルムについて、実施例1と同様にして、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフの維持性について評価した。
【0098】
[実施例4]
基材のB層(中心層)を構成する樹脂をエバフレックスEV550(三井・デュポンポリケミカル社製)とし、基材を80μmとした以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係るダイシングダイボンドフィルムを得た。なお、基材の共押出成形性は良好であった。
また、実施例4に係るダイシングダイボンドフィルムについて、実施例1と同様にして、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフの維持性について評価した。
さらに、エバフレックスEV550について、実施例1と同様にして融点を測定した。測定した融点については以下の表1に示した。
【0099】
[実施例5]
B層の樹脂をプロピレン系エラストマー(商品名:ビスタマックス3980、エクソンモービルケミカル社製)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係るダイシングダイボンドフィルムを得た。なお、基材の共押出成形性は良好であった。
また、実施例5に係るダイシングダイボンドフィルムについて、実施例1と同様にして、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフの維持性について評価した。
さらに、ビスタマックス3980について、実施例1と同様にして、融点を測定した。測定した融点については以下の表1に示した。
【0100】
[実施例6]
基材の厚さを80μmとし、基材の層厚比を、A層:B層:C層=1:4:1とした以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係るダイシングダイボンドフィルムを得た。なお、基材の共押出成形性は良好であった。
また、実施例6に係るダイシングダイボンドフィルムについて、実施例1と同様にして、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフの維持性について評価した。
【0101】
[実施例7]
基材の厚さを80μmとし、基材の層厚比を、A層:B層:C層=1:20:1とした以外は、実施例1と同様にして、実施例7に係るダイシングダイボンドフィルムを得た。なお、基材の共押出成形性は良好であった。
また、実施例7に係るダイシングダイボンドフィルムについて、実施例1と同様にして、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフの維持性について評価した。
【0102】
[実施例8]
基材のA層及びC層(外層)を構成するメタロセンPPをウィンテックWMX03(日本ポリプロ社製)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係るダイシングダイボンドフィルムを得た。なお、基材の共押出成形性は良好であった。
また、実施例8に係るダイシングダイボンドフィルムについて、実施例1と同様にして、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフの維持性について評価した。
【0103】
[比較例1]
基材のA層及びC層(外層)を構成する樹脂を非メタロセンランダムPP(商品名:ノバティックPP EG7FT、日本ポリプロ社製)とした以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係るダイシングダイボンドフィルムを得た。なお、基材の共押出成形性は不良であった。
また、比較例1に係るダイシングダイボンドフィルムについて、実施例1と同様にして、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフの維持性について評価した。
さらに、ノバティックPP EG7FTについて、実施例1と同様にして、融点を測定した。測定した融点については以下の表1に示した。
【0104】
[比較例2]
基材のA層及びC層(外層)を構成する樹脂を非メタロセン低密度ポリエチレン(商品名:ノバティックLC LC720、日本ポリプロ社製)とした以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係るダイシングダイボンドフィルムを得た。なお、基材の共押出成形性は良好であった。
また、比較例2に係るダイシングダイボンドフィルムについて、実施例1と同様にして、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフの維持性について評価した。
さらに、ノバティックLC LC720について、実施例1と同様にして、融点を測定した。測定した融点については以下の表1に示した。
【0105】
[比較例3]
基材のA層及びC層(外層)を構成する樹脂をエバフレックスEV250とした以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係るダイシングダイボンドフィルムを得た。なお、基材の共押出成形性は良好であった。
また、比較例3に係るダイシングダイボンドフィルムについて、実施例1と同様にして、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフの維持性について評価した。
【0106】
[比較例4]
基材のA層、B層、及びC層を構成する樹脂をビスタマックス3980とした以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係るダイシングダイボンドフィルムを得た。なお、基材の共押出成形性は良好であった。
また、比較例4に係るダイシングダイボンドフィルムについて、実施例1と同様にして、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフの維持性について評価した。
【0107】
[比較例5]
基材のB層を構成する樹脂をウィンテックWXK1233とした以外は、実施例1と同様にして、比較例5に係るダイシングダイボンドフィルムを得た。なお、基材の共押出成形性は良好であった。
また、比較例5に係るダイシングダイボンドフィルムについて、実施例1と同様にして、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフ維持性について評価した。
【0108】
各例に係るダイシングダイボンドフィルムについて、基材の共押出性、割断性、ダイボンド層の浮き、及び、カーフ維持性について評価した結果を以下の表1に示した。
【0109】
【0110】
表1より、実施例1~8に係るダイシングダイボンドフィルムは、基材の共押出成形性が良好であり、割断性に優れ、ダイボンド層の浮きを抑制でき、かつ、カーフ維持性が良好であることが分かる。
これに対し、比較例1に係るダイシングダイボンドフィルムは、割断性に優れ、ダイボンド層の浮きを抑制できるものの、基材の共押出性が不良であり、カーフを十分に維持できていないことが分かる。
また、比較例2に係るダイシングダイボンドフィルムは、基材の共押出成形性が良好であり、割断性に優れ、ダイボンド層の浮きを抑制できるもの、カーフを十分に維持できていないことが分かる。
さらに、比較例3及び4に係るダイシングダイボンドフィルムは、基材の共押出成形性が良好であり、割断性に優れるものの、ダイボンド層の浮きを十分に抑制できず、カーフを十分に維持できていないことが分かる。
また、比較例5に係るダイシングダイボンドフィルムは、基材の共押出成形性が良好であるものの、割断性が不良であり、ダイボンド層の浮きを十分に抑制できず、カーフを十分に維持できていないことが分かる。
なお、表1に掲載した結果は、ダイシングダイボンドフィルムに関するものであるが、ダイシングダイボンドフィルムに含まれるダイシングテープにおいても、表1に示したものと同様の結果が得られると予想される。
【符号の説明】
【0111】
1 基材
2 粘着剤層
3 ダイボンド層
10 ダイシングテープ
20 ダイシングダイボンドフィルム
1a 第1樹脂層
1b 第2樹脂層
1c 第3樹脂層
G バックグラインドテープ
H 保持具
J 吸着治具
P ピン部材
R ダイシングリング
T ウェハ加工用テープ
U 突き上げ部材
W 半導体ウェハ