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特許7523973回転電機の損傷診断システム及び損傷診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】回転電機の損傷診断システム及び損傷診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240722BHJP
【FI】
G01M99/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020115390
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013082
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】早坂 靖
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 雅章
(72)【発明者】
【氏名】福永 淳
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-178397(JP,A)
【文献】特表2019-502222(JP,A)
【文献】実開昭64-021226(JP,U)
【文献】特開平10-160646(JP,A)
【文献】米国特許第07219044(US,B1)
【文献】MIYAMOTO, N.,プラント設備の疲労評価に関する情報(その4-背景),[オンライン],[検索日 2021.06.21],2015年,インターネット:<URL:https://catfood-tecsheet.ssl-lolipop.jp/se21tm004.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M13/00-13/045、99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機に設けたセンサで検知したセンサ信号に基づいて、前記回転電機の部品の疲労損傷を評価する回転電機の損傷診断システムであって、
前記センサにより検知した前記回転電機の回転数の2次関数として前記回転電機の評価部位における弾性ひずみと弾性応力を求め、前記評価部位の弾性ひずみ範囲の頻度と振幅、弾性応力範囲の頻度を求めノイバー則を用いて弾性ひずみ範囲と弾性応力範囲の全ひずみ範囲に変換するひずみ範囲算出部と、
変換された前記全ひずみ範囲から前記回転電機の評価部位における疲労損傷率を算出する疲労損傷率算出部と、
前記疲労損傷率を積算して累積疲労損傷率を算出する積算部を備えることを特徴とする回転電機の損傷診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機の損傷診断システムであって、
前記疲労損傷率算出部は、評価部位における材料のひずみ制御の時間強度線図と修正マイナー則を用いて前記回転電機の評価部位における疲労損傷率を算出することを特徴とする回転電機の損傷診断システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の回転電機の損傷診断システムであって、
前記疲労損傷率算出部あるいは前記積算部は、前記疲労損傷率あるいはその積算値が、あらかじめ設定された閾値を超えた場合には警報を与えることを特徴とする回転電機の損傷診断システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回転電機の損傷診断システムであって、
前記ひずみ範囲算出部と、疲労損傷率算出部と、積算部を備えて構成される損傷診断装置は、前記回転電機の設置場所との間に通信回線を介して接続され、遠隔診断を行うことを特徴とする回転電機の損傷診断システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の回転電機の損傷診断システムであって、
前記回転電機は、回転部品と非回転部品により構成されており、前記評価部位は前記回転部品における部位とされることを特徴とする回転電機の損傷診断システム。
【請求項6】
請求項5に記載の回転電機の損傷診断システムであって、
前記評価部位は、回転による遠心力が加わる前記回転部品における、導電体である銅部材が回転する部材として使用されている箇所、部品であり、または回転による遠心力が加わる前記回転部品における、応力集中がある部位とされることを特徴とする回転電機の損傷診断システム。
【請求項7】
回転電機に設けたセンサで検知したセンサ信号に基づいて、前記回転電機の部品の疲労損傷を評価する回転電機の損傷診断方法であって、
前記センサにより検知した前記回転電機の回転数の2次関数として前記回転電機の評価部位における弾性ひずみと弾性応力を求め、前記評価部位の弾性ひずみ範囲の頻度と振幅、弾性応力範囲の頻度を求めノイバー則を用いて弾性ひずみ範囲と弾性応力範囲の全ひずみ範囲に変換し、変換された前記全ひずみ範囲から前記回転電機の評価部位における疲労損傷率を算出し、前記疲労損傷率を積算して累積疲労損傷率を算出することを特徴とする回転電機の損傷診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機やモータなどの回転電機に対する損傷診断システム及び損傷診断方法
に係り、特に、回転電機を構成する各種機器の損傷状態として、低サイクル疲労損傷などに代表される、ひずみを使った損傷の診断をすることができる回転電機の損傷診断システム及び損傷診断方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、発電設備を構成する各種機器の損傷を診断する場合には、定期点検として、一定期間が経過する度毎に、または、一定回数の運転が実行された段階で各種機器の動作を停止させ、各種機器の部品の損傷状態を点検したり、各種機器の部品の損傷状態が決められた基準状態に達しているかを点検したりして、部品交換の時期に到達している部品があった場合、その部品について必要な補修や交換を行っている。
【0003】
また、発電設備を構成する各種機器の動作を一定期間毎または一定運転回数毎に停止させる代わりに、常時監視として、各種機器にそれぞれの機器の動作を監視するセンサを設け、それらのセンサから出力されるセンサ信号を常時監視し、センサ信号がある基準範囲を逸脱した場合に限って各種機器の動作を停止させ、各種機器の部品の損傷状態を点検することも行われている。
【0004】
一方、近年におけるコンピュータ(計算機)やインターネットに代表される通信ネットワークの進歩普及に伴って、発電設備を構成する各種機器の損傷を診断する場合に、各種機器の運転状態を示す監視信号を、通信ネットワークを通して遠隔地にある監視施設に送信し、監視施設において受信した監視信号に基づいて発電設備を構成する各種機器の劣化状態を診断するようにした診断システムが開発されており、その一例として、特許文献1に示す診断システムが知られている。
【0005】
特許文献1に開示された診断システムによれば、発電設備を構成する各種機器から得られた監視信号を、通信ネットワークを用いて遠隔地にある監視施設に送信することにより、監視施設において受信した監視信号に基づいて各種機器の劣化状態を常時監視することができる。特許文献1には、通信ネットワーク負荷の低減と機器損傷診断精度向上の適切化を図るために、データ取得のサンプリング周波数を2種類有し、これらの信号を使い損傷診断をする装置の発明が示されている。
【0006】
また診断システムにおける診断内容として、各種機器の疲労寿命評価を行う場合があり、これに関連して、特許文献2の疲労寿命評価装置は、部材形状及び構成材料の情報に基づきその弾性応力を導く解析部と、前記弾性応力に基づき前記構成材料における負荷時の応力及び歪を導く第1演算部と、前記負荷時の応力及び歪を基点とする除荷時の応力及び歪を導く第2演算部と、前記負荷時の応力及び歪並びに前記除荷時の応力及び歪に基づき塑性歪を導く算出部と、塑性歪に基づき部材の疲労様式が弾性変形のみによる高サイクル疲労であるか又は塑性変形を伴う低サイクル疲労であるかを導く判定部と、前記疲労様式に基づき機器1の寿命を導く評価部とから構成される。この装置は、第1演算部と第2演算部にノイバー則を使うこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許4105852号
【文献】特開2012-112787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の従来技術では、機械設備の経年劣化的な損傷の大多数を占める、低サイクル疲労損傷などに代表される、ひずみを使った損傷診断においては、評価精度が不十分な場合があった。
【0009】
また特許文献2に開示された装置は、弾性応力を解析する際に機械の運転条件をセンサーから入手していないので弾性応力の解析精度が低く、引き続き解析されるひずみの予測精度が低くなり、その結果として、疲労寿命予測の正確さに課題がある。
【0010】
本発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、機械設備の経年劣化的な損傷の大多数を占める、低サイクル疲労損傷などに代表される、ひずみを使った損傷の診断の精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上のことから本発明は、「回転電機に設けたセンサで検知したセンサ信号に基づいて、回転電機の部品の疲労損傷を評価する回転電機の損傷診断システムであって、センサにより検知した回転電機の回転数の2次関数として回転電機の評価部位における弾性ひずみと弾性応力を求め、評価部位の弾性ひずみ範囲と弾性応力範囲の頻度を計数し、弾性ひずみ範囲と弾性応力範囲の全ひずみ範囲に変換するひずみ範囲算出部と、変換された全ひずみ範囲から回転電機の評価部位における疲労損傷率を算出する疲労損傷率算出部と、疲労損傷率を積算して累積疲労損傷率を算出する積算部を備えることを特徴とする回転電機の損傷診断システム。」としたものである。
【0012】
また本発明は、「回転電機に設けたセンサで検知したセンサ信号に基づいて、回転電機の部品の疲労損傷を評価する回転電機の損傷診断方法であって、センサにより検知した回転電機の回転数の2次関数として回転電機の評価部位における弾性ひずみと弾性応力を求め、評価部位の弾性ひずみ範囲と弾性応力範囲の頻度を計数し、弾性ひずみ範囲と弾性応力範囲の全ひずみ範囲に変換し、変換された全ひずみ範囲から回転電機の評価部位における疲労損傷率を算出し、疲労損傷率を積算して累積疲労損傷率を算出することを特徴とする回転電機の損傷診断方法。」としたものである。
【発明の効果】
【0013】
これにより、機械設備の経年劣化的な損傷の大きな割合を占める、低サイクル疲労に代表される、ひずみを使った疲労損傷の評価、より具体的には、回転電機部品の回転に起因する損傷を正確に予測することができるので、残寿命を正確に評価でき、回転電機の信頼性を高めたり、メンテナンスの適切化を図ったりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】風力発電装置に適用した損傷診断システムの構成例を示す図。
図2】診断装置11の処理機能を示すブロック図。
図3】処理部12における損傷診断処理フローの例を示す図。
図4】回転数の時間関数N(t)の例を示す図。
図5】回転数の時間関数N(t)から、評価部位iの弾性応力の時間関数σei(t)を作成した例を示す図。
図6】回転数の時間関数N(t)から、評価部位iの弾性ひずみの時間関数εei(t)を作成した例を示す図。
図7】回転数の時間関数N(t)と弾性応力σeiと弾性ひずみεeiの関係を示した図。
図8】レインフロー法の考え方を示した図。
図9】レインフロー法により求まる弾性ひずみ範囲と回数の関係を例示した図。
図10】部材iの弾性ひずみ範囲Δεeiを全ひずみ範囲Δεiに変換を示す図。
図11】各点(i)の弾性ひずみ範囲Δεeiの頻度分布を,全ひずみ範囲Δεiの頻度分布への変換を示す図。
図12】全ひずみ範囲Δεiとその頻度の関係を示す図。
図13】ひずみ範囲Δεと破断寿命(破断繰り返し回数N)の関係として疲労寿命曲線L3を示し,評価部位iの線形損傷則による疲労損傷率Dfiの算出方法を示す図。
図14】修正グッドマン線図による補正の考え方を示す図。
図15】平均応力の効果を考慮した、ひずみ範囲と破断寿命の関係を示す図。
図16】部位iの応力範囲とひずみ範囲を弾塑性有限要素法解析によって求めた例を示す図。
図17】ノイバー則を使って弾性応力範囲Δσe0iと弾性応力範囲Δεe0iに変換することを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施例について図を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1について図1から図15を用いて説明する。本発明の損傷診断システムは、各種の回転電機に適用可能であるが、ここでは風力発電装置における回転電機を例にして説明するものとする。
【0017】
図1は、風力発電装置に適用した損傷診断システムの構成例を示している。この図において、風力発電装置は、タワー1上のナセル2によりブレード3を回転可能に支持しており、ナセル2内でブレード3の回転が増速機4を介して回転電機である発電機5に伝達され発電している。また複数の風力発電装置10によりウインドファーム7を形成することがある。損傷診断システムは、風力発電装置10のナセル2内の回転部分に設置した回転数計6により回転数を検出し、一般にはウインドファーム7内の他の風力発電装置10の回転数とともにファーム内制御監視部8に集約され、制御監視部8からインターネット9などの通信を介して遠方の診断装置11に信号伝送する。診断装置11は、計算機で構成された処理部12とキーボードなどの入力部14とモニタ画面などの出力部13を含んで構成されている。なお診断装置11は、ウインドファーム7内の制御監視部8に隣接して設置されるものであってもよい。
【0018】
図2は、診断装置11の処理機能を示すブロック図である。処理機能は、回転数入力部12a、部品ひずみ範囲算出部12b、疲労損傷率算出部12c、積算記憶部12d、表示制御部12eから構成される。
【0019】
本発明では、診断装置11は、回転部品5bと非回転部品5aにより構成される回転電機5(発電機)に設けたセンサ6により回転数などを検知し、インターネット9などの通信を介して遠方の診断装置11の信号入力部12aに取り込み、最終的にはセンサ信号と、回転電機の運転情報に基づいて、例えば回転部品5bの疲労損傷を評価する。このためにまず、部品ひずみ範囲算出部12bでは回転数センサ信号の2次関数、弾性有限要素法解析結果、材料の応力ひずみ線図とノイバー則を用いて、部品のひずみ範囲を算出する。次に疲労損傷率算出部12cでは、材料のひずみ制御の時間強度線図と修正マイナー則を用いて、回転部品5bの疲労損傷率を算出し、積算記憶部12dでは累積疲労損傷率を積算、記憶する。表示制御部12eは、解析結果をユーザが理解しやすい表示形式に変換してモニタ画面などの出力部13に表示する。またこの時にユーザの指示をキーボードなどの入力部14から取り込んで、演算手法や表示に反映する。
【0020】
図3は、処理部12における損傷診断処理フローの例を示す図である。なおこの図の右側には、当該処理を示す処理ステップの記号(S1からS9)を、また左側には図2に示した各機能の演算処理部分(12aから12e)を表している。これによれば、例えば部品ひずみ範囲算出部12bは、処理ステップS1からS5により実現されている。なお、図3における各処理ステップの処理順序は、必ずしも図2の各機能の演算処理部の処理順序と同じになるわけではない、これは実際の処理では繰り返し処理や、その都度の記憶処理、表示処理、修正処理などが適宜実行されることによる。
【0021】
この一連の処理では、最初に部品ひずみ範囲算出部12bの処理として、処理ステップS1において、回転電機5の回転部品5bであるロータの回転数の信号を所定のサンプリング周波数で取得し、回転数の時間関数N(t)を作成する。風車発電機5などでは、1Hz程度のサンプリング周波数で時間関数N(t)を作成し、これを制御監視部8内の内部記憶装置に保持する。このサンプリング周波数は、回転電機の回転数変動を記述できる周波数とする。処理ステップS1における上記処理は、制御監視部8の入力段階において実施され、回転数の信号は、制御監視部8から通信ネットワーク9を用いて、遠隔地にある監視施設に送信したり、クラウドに送信したりして、保持される。
【0022】
図4に回転数の時間関数N(t)の例を示す。この例ではT日間収集したものを示している。なおこの例では、T日間の前半分の期間では変動しながらも所定幅内で運用されているが、後半では時折瞬断現象を呈しているものとする。次に処理ステップS2において、回転数の時間関数の2乗の関数N(t)を作成し、これを保持する。
【0023】
処理ステップS3において、回転数の時間関数の2乗の関数N(t)に比例するロータ弾性応力関数σei(t)を作成し、これを保持する。ロータ弾性応力の関数σei(t)は、損傷を評価するロータの部位ごとに作成される。このとき、ロータの部位iの弾性応力の関数は(1)式にて表すことができる。なおiは、評価する部位につけられたサフィックス(=1、2、3、・・)である。
【0024】
【数1】
【0025】
また、この処理ステップS3は、(2)式にて示される弾性ひずみεei(t)を算出するステップとしてもよい。なぜなら、弾性応力σei(t)と弾性ひずみεei(t)は、材料の縦弾性係数を比例定数とした比例関係にあるからである。ここでも、iは、評価するロータの部位につけられたサフィックス(=1、2、3、・・)である。
【0026】
【数2】
【0027】
(1)(2)式において、係数項ksiとkeiの設定は、以下のようにして行われる。図7は、横軸に定格回転数Nを含む回転数N、縦軸に弾性応力σeiと弾性ひずみεeiを示した特性図である。ここに示される特性は、(1)(2)式に示した二次関数である。定格回転数Nのときの弾性応力σei0と弾性ひずみεei0に対して、計測された現在時刻N(t)の値が弾性応力σei(t)と弾性ひずみεei(t)である。(1)(2)式の係数項ksiとkeiの設定については、弾性有限要素法などの数値計算や材料力学計算により、回転数Nにおける、評価部位iの弾性応力σe0iと弾性ひずみεe0iをそれぞれ求める。ここでiは、評価する部位につけられたサフィックスである。残留応力がある部位iにおいては、(1)(2)式に(3)(4)式で示した定数項を設ける。
【0028】
【数3】
【0029】
【数4】
【0030】
(1)式と(3)式と図4の回転数の時間関数N(t)から、評価部位iの弾性応力の時間関数σei(t)を作成した例を図5に示す。また、(2)式と(4)式と図4の回転数の時間関数N(t)から、評価部位iの弾性ひずみの時間関数εei(t)を作成した例を図6に示す。
【0031】
図7は、(1)式から(4)式で表した、回転数の時間関数N(t)と弾性応力σeiと弾性ひずみεeiの関係を示した図であり、横軸に回転数の時間関数N(t)、縦軸に弾性応力σeiと弾性ひずみεeiを表記した時、弾性応力σeiと弾性ひずみεeiは回転数の時間関数N(t)の二乗特性として表すことができる。また回転数が定格回転数Nの時の弾性応力σeiと弾性ひずみεeiの値がそれぞれσei0と弾性ひずみεei0であり、また現時点での回転数がN(t)である時の弾性応力σeiと弾性ひずみεeiの値がそれぞれσei(t)と弾性ひずみεei(t)である。この二乗特性によれば、回転数が高いほど弾性応力σeiと弾性ひずみεeiの増加分が大きく反映されてくることになる。
【0032】
図3の処理ステップS4では、弾性応力の時間関数σei(t)または弾性ひずみの時間関数εei(t)から、レインフロー法などに代表される応力範囲またはひずみ範囲頻度計数法を用いて、応力範囲またはひずみ範囲の頻度を求める。そして、損傷を評価する部位の弾性応力範囲Δσeiまたは弾性ひずみ範囲Δεeiとその発生数を算出し、これを保持する。
【0033】
図8は、レインフロー法の考え方を示した図であり、縦軸が弾性ひずみεei(または弾性応力σei)、横軸が時間で、左から右へ向かって時間が経過する。ひずみは下側が負、上側が正とする。ジグザグの太線L1はひずみの時間変化を示している。細線L2がレインフロー法にもとづいて流れる「雨だれ」である。ここでは、弾性ひずみ範囲Δεeiの頻度をレインフローにより計数した例を示している。頻度の計数は、レンジペア法、レンジペアミーン法など、適当な頻度読み取り法を用いてもよい。このとき、ある時間範囲のひずみの最大値Δεも保持する。これにより、弾性ひずみ範囲Δεeiの頻度分布をヒストグラム表示がしやすい。
【0034】
図9は、レインフロー法により求まる弾性ひずみ範囲と回数の関係を例示したものである。弾性ひずみ範囲Δεeiは、ある時間範囲のひずみの最大値Δεpをある分割数mで分割することにより、頻度分布の刻みが等分布になり、ひずみ範囲の頻度回数の分布の分析がしやすい。弾性応力範囲Δσeiの頻度分布を求める場合も同様である。
【0035】
図10は、部材iの弾性ひずみ範囲Δεeiを全ひずみ範囲Δεiに変換することを示す図であり、この図で横軸にはひずみ範囲Δε、縦軸には応力範囲Δσを表記している。またこの図上には部材iの弾性計算特性L1である直線と、応力範囲Δσとひずみ範囲Δεの関係を示す飽和特性L2が記述されている。この図に示されるように、弾性計算により求められた部材iの弾性応力範囲Δσeiと弾性ひずみ範囲Δεeiは比例関係にあり、弾性計算特性L1上に位置付けて表記することができる。
【0036】
これに対し、ノイバー則により、弾性計算特性L1上の点を応力範囲Δσとひずみ範囲Δεの関係を示す飽和特性L2上の点として反映することができる。因みに弾性の観点から求められた部材iの弾性応力範囲と弾性ひずみ範囲が示す点の座標は(Δσei、Δεei)であり、(5)式で示すノイバー則により求めた飽和特性上の点の座標は(Δσi、Δεi)である。飽和特性L2上の点の座標を示すΔσi、Δεiは、それぞれ全応力範囲Δσi、全ひずみ範囲Δεiである。
【0037】
【数5】
【0038】
処理ステップS5では、部材iの弾性応力範囲Δσeiと弾性ひずみ範囲Δεeiを、材料の応力範囲Δσとひずみ範囲Δεの関係を使って、全ひずみ範囲Δεiに変換し、これを保持する。これはノイバー則として知られている方法である。すなわち、応力範囲Δσとひずみ範囲Δεの関係と(5)式から、全ひずみ範囲Δεiを求めるものである。また、応力範囲Δσとひずみ範囲Δεの関係は、応力、ひずみの繰り返しにより変化するので、この関係を繰り返し数に応じて変化させてもよい。
【0039】
さらに、この結果として、図9の弾性ひずみ範囲Δεeiの頻度分布が示す各点(Δeim)を、図11に示すように、全ひずみ範囲Δεiの頻度分布が示す各点(Δim)に変換することができる。これにより、図12に示す如く、全ひずみ範囲Δεiとその頻度の関係が求まったことになる。なお図11は、各点(i)の弾性ひずみ範囲Δεeiの頻度分布を,全ひずみ範囲Δεiの頻度分布への変換することを示す図であり、図12は全ひずみ範囲Δεiとその頻度の関係を示す図である。
【0040】
ここまでが、図2の部品ひずみ範囲算出部12bの処理であり、次に疲労損傷率算出部12cの処理が処理ステップS6において実施される。ここでは、処理ステップS5で作成した図12に示す全ひずみ範囲Δeとその頻度(回数n)の関係と、評価している部材の材料の疲労試験結果、すなわち、図13に示す全ひずみ範囲Δeと破断寿命(破断繰り返し回数N)の関係から、その部位iの疲労損傷率Dfiを算出する。疲労損傷率Dfiの算出には、例えば、(6)式に示すような修正マイナー則に代表される線形損傷則や各種の損傷則を使うことができる。
【0041】
【数6】
【0042】
なお図13はひずみ範囲Δεと破断寿命(破断繰り返し回数N)の関係として疲労寿命曲線L3を示し,評価部位iの線形損傷則による疲労損傷率Dfiの算出方法を示す図であり、この特性は評価している部材の材料の疲労試験結果として予め求められた特性である。この特性L3を参照することで、図12に纏めた全ひずみ範囲Δeの値を参照することで、この値の時の破断繰り返し回数Nが求められ、図12の回数nと破断繰り返し回数Nを用いて、(6)式が実行できる。
【0043】
なお、図13に例示したところのひずみ範囲Δeと破断寿命(破断繰り返し回数N)の関係について、ひずみ制御の疲労試験結果を用いて予め求めておくとしたが、これは引張保持の疲労試験結果を使い、引張保持により寿命低下の影響を考慮してもよい。
【0044】
また、平均応力の効果による寿命低下を考慮した、修正グッドマン線図を用いたひずみ範囲と破断寿命の関係を用いてもよい。図14は、修正グッドマン線図による補正の考え方を示した図であり、横軸に平均応力、縦軸に交播応力の振幅を表記している。修正グッドマン線図とは、破断繰り返し数Nのひずみ範囲に縦弾性係数を乗じて、1/2とした破断繰り返し数Nのときの、応力振幅σNと、材料の降伏応力σy、引張強さσuから、平均応力の効果により低下した、破断繰り返し数Nのときの、応力振幅σ’Nを求める。そして、平均応力の効果により低下した、破断繰り返し数Nのときの応力振幅σ’Nを縦弾性係数にて除して、これを2倍して破断繰り返し数Nのときのひずみ範囲ΔεNとするものである。
【0045】
この平均応力の効果を考慮した、ひずみ範囲と破断寿命の関係を図15に示す。図15のようなひずみ範囲(縦軸)と破断寿命(破断繰り返し回数:横軸)の関係を用いることにより、簡便に平均応力の効果を考慮することができる。平均応力の効果により、図15中の点線のように、平均応力の効果により、寿命が短くなる。ここでは、平均応力の効果を考慮したひずみ範囲と破断繰り返し数の関係を述べたが、これらの関係に、保持応力の効果や腐食環境などの環境の効果を考慮した疲労試験結果によるひずみ範囲と破断繰り返し数の関係を用いてもよい。
【0046】
またこの処理ステップS6では、図2の積算記憶部12dの機能として、これを保持し、積算する。
【0047】
処理ステップS7では、図2の表示制御部12eの機能として、処理ステップS6で求めたその部位iの疲労損傷率Dfiとその積算値ΣDfiを適宜の形式で表示する。
【0048】
さらに処理ステップS8では、図2の疲労損傷率算出部12cあるいは積算部12d、及び表示制御部12eの機能として、疲労損傷率Dfi(i=1、2、3、・・・・、iは部材の番号)あるいはその積算値が、あらかじめ設定された閾値Dthi(i=1、2、3、・・・・、iは部材の番号)を超えた場合には警報を表示する。これにより、部材iの疲労破壊前の補修や交換などメンテナンスを行うことができる。
【0049】
また処理ステップS9においては、実際に部材iが破損した事例がある場合は、実際に破損したときのDfaiを算出し、これをデータベースに保持し、このDfaiをもとに算出した閾値Dthiを変更する。
【0050】
実施例1によれば、回転電機部品の回転に起因する損傷を正確に予測することができるので、残寿命を正確に評価でき、回転電機の信頼性を高めたり、メンテナンスの適切化を図ったりすることができる。
【実施例2】
【0051】
実施例2では、回転電機5における好適な監視適用個所について説明する。監視適用個所の一つは、回転による遠心力が加わる回転電機5のなかで、導電体である銅部材が回転する部材として使用されている箇所、部品である。これらは特に、コイル、コイルエンド、亘り線、導体棒(バー)、端絡環(エンドリング)といったものである。このような銅部品では、加工性をよくするため降伏応力が低い熱処理材が使われ、あるいはバーやエンドリングの例のように、ロウ付けを行うことにより、800℃程度高温にさらされ、降伏応力が低下することがある。
【0052】
本発明によれば、このような降伏応力が低くなりがちな部材が回転による遠心力に繰り返しさらされるときの寿命を評価し、損傷が発生する前に、補修や交換を行うことができる。
【0053】
また他の監視適用個所は、回転電機の回転する部位で、応力集中がある部位への適用にも好適である。すなわち、バーの鉄心コアを挿入するスロットや鉄心コアに設けられた冷却孔、ファンの取り付けボルトの穴などである。
【0054】
本発明は、ガスタービン、蒸気タービン、水力タービン、風力タービン、圧縮機など、タービンのような、回転機械の回転による遠心力を受ける応力集中部位への適用も含むものである。
【実施例3】
【0055】
図16に部位iの応力範囲とひずみ範囲を弾塑性有限要素法解析によって求めた例を示す。これは、回転数をパラメータとして部位iの応力とひずみを求めたものである。
【0056】
この図では、回転数を0からNまで上昇させることを繰り返した時の応力範囲はΔσ0iでひずみ範囲がΔε0iであることがわかる。この弾塑性応力解析で求めた、応力範囲Δσ0iとひずみ範囲Δε0iを使って、(1)式、(2)式に示した回転数と弾性応力と弾性ひずみの関数を作成してもよい。
【0057】
これは、図17に示すように、図16にて求められた応力範囲Δσ0iとひずみ範囲Δε0iを、ノイバー則を使って弾性応力範囲Δσe0iと弾性応力範囲Δεe0iに変換するものである。
【0058】
変換された弾性応力範囲Δσe0iと弾性応力範囲Δεe0iと(3)式、(4)式を使って係数ksi、eiを求めてもよい。疲労を評価する装置や部位の非線形性が強い場合には、図16図17の方法は有効である。なぜなら、この方法は、有限要素法で、複雑な構造物の弾塑性挙動を計算するからである。
【符号の説明】
【0059】
1:タワー
2:ナセル
3:ブレード
4:増速機
5:発電機5
5a:非回転部品
5b:回転部品
6:回転数計
7:ウインドファーム
8:ファーム内制御監視部
9:インターネット
10:風力発電装置
11:診断装置
12:処理部
12a:信号入力部
12b:部品ひずみ範囲算出部
12c:疲労損傷率算出部
12d積算記憶部
12e:表示制御部
14:入力部
13:出力部
図1
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