(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】ダクト構造
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20240722BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
G10K11/16 150
G10K11/16 100
G10K11/162
(21)【出願番号】P 2020123045
(22)【出願日】2020-07-17
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】大淵 知至
(72)【発明者】
【氏名】土屋 裕造
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇
(72)【発明者】
【氏名】佐脇 真平
【審査官】間宮 嘉誉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-60147(JP,A)
【文献】実開平7-028295(JP,U)
【文献】特開2014-218924(JP,A)
【文献】特開2001-248418(JP,A)
【文献】特開2009-235761(JP,A)
【文献】特開平7-279273(JP,A)
【文献】特開昭53-128301(JP,A)
【文献】特開2018-13031(JP,A)
【文献】特開2012-82880(JP,A)
【文献】特開平11-217891(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0047500(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調風が流れるダクトと、
前記ダクトの騒音を低減す
る防音材
とを備え、
前記防音材は、
前記ダクトの外周面に配置され
、前記ダクトの軸方向に延びる筒状を呈しかつ前記ダクトの周方向に並ぶ複数の袋体と、
前記周方向に並ぶ複数の前記袋体を互いに連結する可撓性の連結シートと、
前記
各袋体の内部に相対移動可能な状態で充填された多数の粒状物を含む充填材とを備え、
前記粒状物は、0.9以上2.5以下の比重を有しかつ0.5mm以上6.0mm以下の粒径を有する、ことを特徴とするダクト
構造。
【請求項2】
請求項1に記載のダクト
構造において、
前記袋体に対する前記充填材の充填率が30体積%以上90体積%以下である、ことを特徴とするダクト
構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載のダクト
構造において、
前記充填材は、合成樹脂および合成ゴムの少なくとも1つを主材料とする前記粒状物を含む、ことを特徴とするダクト
構造。
【請求項4】
請求項1または2に記載のダクト
構造において、
前記防音材は、前記連結シートの表面を覆う遮音層をさらに備えた、ことを特徴とするダクト
構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダクトの騒音を低減する防音材が適用されたダクト構造に関する。
【背景技術】
【0002】
空調用の空気などが流れるダクトの騒音対策として防音材が用いられることがある。この防音材を用いたダクト構造として、下記特許文献1のものが知られている。具体的に、この特許文献1に記載のダクト構造は、音を透過し易い(音透過性の)材質または多孔板から構成される内筒と、音を透過し難い(遮音性の)材質から構成される外筒と、これら内筒および外筒の間に形成される環状空間に充填された岩綿やガラス繊維等からなる防音材(吸音材)とを備えている。このダクト構造によれば、内筒の内部を流れる空気流に起因して生じる騒音を、内筒および外筒の間に充填された防音材の作用により低減できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭53-101306号公報(第1図、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、例えば大量の換気が必要な建物に用いられる換気用ダクトのように、比較的大流量の空気が流れるダクトでは、ダクトの振動に伴い生じる低音域の騒音が増大する傾向にある。このような低音域の騒音が大きいダクトに対しては、低音域の騒音を低減する効果に優れた防音材を用いることが望まれる。しかしながら、上記特許文献1のように岩綿またはガラス繊維(グラスウール)製の防音材を用いたのでは、高音域の騒音は低減できるものの、低音域の騒音は十分に低減できないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、低音域の騒音を効果的に低減することが可能なダクト構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためのものとして、本発明のダクト構造は、空調風が流れるダクトと、前記ダクトの騒音を低減する防音材とを備え、前記防音材は、前記ダクトの外周面に配置され、前記ダクトの軸方向に延びる筒状を呈しかつ前記ダクトの周方向に並ぶ複数の袋体と、前記周方向に並ぶ複数の前記袋体を互いに連結する可撓性の連結シートと、前記各袋体の内部に相対移動可能な状態で充填された多数の粒状物を含む充填材とを備え、前記粒状物は、0.9以上2.5以下の比重を有しかつ0.5mm以上6.0mm以下の粒径を有する、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0007】
本発明のダクト構造によれば、多数の粒状物を含む充填材が充填された袋体がダクトの外周面に取り付けられるので、ダクトに振動が発生したときに、袋体の内部の粒状物どうしが衝突したり擦れ合ったりして熱が発生する。これにより、振動エネルギーが熱エネルギーに変換されてダクトの振動が抑制され、当該振動に伴い生じる騒音が低減される。この場合に低減され易い騒音の音域は、粒状物の比重や粒径に応じて変化すると考えられるが、本発明では、粒状物の比重が0.9~2.5で粒径が0.5~6.0mmに設定されるので、後述する実施形態でも示されるとおり、周波数が125Hz以下の低音域の騒音を十分に低減することができる。これにより、低音域の騒音が発生し易い比較的大容量のダクトであっても、その騒音を効果的に低減することができる。
【0008】
また、筒状を呈する複数の袋体が可撓性の連結シートによって互いに連結されるので、連結シートをダクトに巻き付けることにより、複数の袋体をまとめてダクトの外周面に取り付けることができる。これにより、ダクトに対する防音材の取り付けを容易化しつつ、複数の袋体(その内部の粒状物)によって低音域の騒音を十分に低減することができる。
【0009】
好ましくは、前記袋体に対する前記充填材の充填率は30体積%以上90体積%以下である(請求項2)。
【0010】
この構成によれば、袋体の内部での粒状物の相対移動が阻害されることがなく、ダクトから発生する低音域の騒音を粒状物どうしの衝突や摩擦によって効果的に低減することができる。
【0011】
前記充填材の材質は特に限定されないが、例えば、合成樹脂および合成ゴムの少なくとも1つを主材料とする前記粒状物を含むものが好適である(請求項3)。
【0012】
好ましくは、前記防音材は、前記連結シートの表面を覆う遮音層をさらに備える(請求項4)。
【0013】
この構成によれば、連結シートの表面の遮音層により比較的高音域の騒音を低減することができる。これにより、低音域と高音域の両方の騒音を低減する効果を得ることができ、防音材の性能をより高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明のダクト構造によれば、ダクトから発生する低音域の騒音を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のダクト
構造が適用される空調設備の一例を示す図であり、当該空調設備が建物の天井裏に設置された状態を示す平面図である。
【
図2】上記空調設備が建物の天井裏に設置された状態を示す断面図である。
【
図3】上記空調設備のダクトに防音材を取り付けた状態を示す断面図である。
【
図4】上記空調設備のダクトに防音材を取り付けた状態を示す側面図である。
【
図6】上記防音材の内部構造(袋体の内部に充填された粒状物)を示す拡大断面図である。
【
図7】本発明の
ダクト構造による騒音低減効果を確認する検証実験において用いられた実験用空調設備を示す平面図である。
【
図8】上記実験用空調設備のダクトに防音材を取り付けた状態を示す断面図である。
【
図9】音圧レベルの測定結果を示す図であり、(a)は測定点1での音圧レベルの測定結果を周波数ごとに示すグラフ、(b)は測定点2での音圧レベルの測定結果を周波数ごとに示すグラフである。
【
図10】音圧レベルの低減量を示す図であり、(a)は測定点1での音圧レベルの低減量を周波数ごとに示すグラフ、(b)は測定点2での音圧レベルの低減量を周波数ごとに示すグラフである。
【
図11】振動加速度レベルの測定結果を示す図であり、(a)は測定点1での振動加速度レベルの測定結果を周波数ごとに示すグラフ、(b)は測定点2での振動加速度レベルの測定結果を周波数ごとに示すグラフである。
【
図12】振動加速度レベルの低減量を示す図であり、(a)は測定点1での振動加速度レベルの低減量を周波数ごとに示すグラフ、(b)は測定点2での振動加速度レベルの低減量を周波数ごとに示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)空調設備
図1および
図2は、本発明のダクト
構造が適用される空調設備の一例を示す図である。本図に示される空調設備1は、建物を換気するための設備であり、天井Rの上側の空間つまり天井裏Sに設置されている。空調設備1は、ファン2と、チャンバー3と、ダクト4とを備えている。ファン2は、空気を圧縮して送り出す送風機である。チャンバー3は、ファン2により圧送された空気の流れ(空調風)を安定化させるための容積拡大部である。ダクト4は、ファン2に導入される空気またはファン2から排出された空気
(空調風)が流通する配管であり、ファン2およびチャンバー3にそれぞれ接続されている。
【0017】
ダクト4は、同軸に接続された複数のダクト要素4a~4fを有している。具体的に、ダクト要素4aは、ファン2に上流側から接続される湾曲したエルボー管である。ダクト要素4bは、ファン2から下流側に真っ直ぐ延びてチャンバー3へと至るストレート管である。ダクト要素4cは、チャンバー3から下流側に真っ直ぐ延びるストレート管である。ダクト要素4dは、ダクト要素4cとダクト要素4eとを互いに連結する湾曲したエルボー管である。ダクト要素4eは、ダクト要素4dの下流端から下流側に真っ直ぐ延びるストレート管である。ダクト要素4fは、ダクト要素4eの下流端から下流側に延びる湾曲したエルボー管である。本実施形態におけるダクト4は、いわゆる矩形ダクト(角ダクト)であり、各ダクト要素4a~4fがそれぞれ矩形断面を有するように形成されている。これは、ファン2により圧送される比較的大流量の空気を支障なく流通させるためである。
【0018】
(2)防音材
ダクト4(各ダクト要素4a~4f)の外周面には、
図3~
図5に示す防音材10が取り付けられている。なお、
図3および
図4はダクト4に取り付けた状態の防音材10を示し、
図5は単体の状態の防音材10を示している。防音材10は、複数の袋体11と、各袋体11の内部に充填された充填材12と、各袋体11を互いに連結する可撓性の連結シート13と、連結シート13の表面を覆う遮音層14とを備えている。
【0019】
図5において紙面に直交する方向を第1方向Xとすると、複数の袋体11は、それぞれ第1方向Xに沿って延びる筒状に形成されている。また、第1方向Xに直交する方向を第2方向Yとすると、複数の袋体11は、第2方向Yに略一定の間隔をあけて並ぶように配置され、かつその位置関係が保持されるように連結シート13を介して互いに連結されている。防音材10は、各袋体11の延設方向である第1方向Xがダクト4の軸方向(
図3の紙面直交方向;
図4の左右方向)に一致する状態でダクト4の外周面に取り付けられる。すなわち、防音材10をダクト4に取り付けた状態において、複数の袋体11は、ダクト4の軸方向に沿って延びるとともにダクト4の周方向に略一定の間隔で並ぶように配置される。なお、筒状の袋体の断面形状は特に限定されず、例えば円筒形もしくは角筒形(矩形)のいずれであってもよいが、当実施形態の袋体11は円筒形の断面を有するように形成されている。
【0020】
袋体11は、例えば樹脂製フィルムからなる可撓性の筒状体の両端部を熱溶着により閉鎖することで形成されている。袋体11を構成する樹脂製フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはポリエチレンテレフタレート製のフィルムを用いることができる。中でも柔軟性のポリエチレンが好適である。袋体11には、多数の微細な通気孔(図示省略)が形成されている。通気孔のサイズは、袋体11内の充填材12を構成する後述する粒状物12a(
図6)が漏れ出さないようなサイズに設定される。
【0021】
袋体11の直径は、断面矩形のダクト4の各辺に対し十分に小さい値に設定される。例えば、ダクト4として500×300mmの矩形ダクトを用いる場合、つまり
図3に示す幅Wが500mmで高さHが300mmのダクトを用いる場合、袋体11の直径は50mm程度に設定することが好ましい。また、この場合の袋体11の長さは、例えば400mm程度に設定し得る。
【0022】
袋体11の配列ピッチ(隣接する袋体11の中心どうしの第2方向Yの距離)は、断面矩形のダクト4の各辺にそれぞれ複数の袋体11が配置されるような値に設定される。例えば、ダクト4の幅Wおよび高さHの各1/2よりも小さい値(W/2未満かつH/2未満)に配列ピッチを設定すれば、ダクト4の各辺にそれぞれ複数(2つ以上)の袋体11を配置することができる。なお、当実施形態では、ダクト4の長辺(幅Wの辺)に6つの袋体11が配置され、かつダクト4の短辺(高さHの辺)に3つの袋体11が配置されるように、袋体11の配列ピッチが設定されている(
図3参照)。
【0023】
充填材12は、
図6に示す多数の粒状物12aにより構成されている。粒状物12aどうしは互いに結合されておらず、袋体11の中で自由に相対移動することが可能である。粒状物12aの詳細については後述する。
【0024】
連結シート13は、可撓性の不織布または樹脂製フィルム等からなる帯状のシートである。この連結シート13の裏面に複数の袋体11がそれぞれ結合されることにより、複数の袋体11が連結シート13を介して互いに連結されている。具体的に、連結シート13は、第2方向Y(ダクト4の周方向)に並ぶ複数の袋体11の各周面と線状に接触するように配置され、かつそれぞれの接触部分と接着もしくは熱溶着(あるいは縫合)等の手段で結合されることにより、袋体11どうしを互いに連結している。連結シート13の幅寸法(第2方向Yの寸法)は、連結シート13が袋体11を間に挟んだ状態でダクト4を取り囲むことが可能なように、ダクト4の外周(矩形断面の四辺の合計寸法)よりも一回り大きい値に設定される。
【0025】
遮音層14は、所定厚みをもった層状(シート状)の遮音性部材であり、例えばPVC(ポリ塩化ビニル)を含む高分子材料に鉄系の充填材(鉄粉等)を付加した層を含む。遮音層14は、連結シート13の表面全体を覆うように当該連結シート13に貼着されている。
【0026】
以上のような構成の防音材10をダクト4に取り付ける際には、連結シート13とダクト4の各辺との間に複数の袋体11を挟み込むようにしながら連結シート13をダクト4の外周面に巻き付け、この状態を保持するための図外の拘束手段によって連結シート13を拘束する。これにより、複数の袋体11がダクト4の軸方向に沿って並列配置された状態で各袋体11がダクト4の外周面に保持される。また、ダクト4を軸方向の広範囲にわたって防音材10で覆うために、ダクト4には複数の防音材10が軸方向に隣接する状態で取り付けられる(
図4参照)。各防音材10をダクト4に拘束する拘束手段としては、例えば連結シート13における第2方向Yの端部どうしを結合するフックを用いることができる。あるいは、ダクト4を取り囲む連結シート13に弾性を有する帯状のバンド(例えばゴムバンド)を巻き付けることにより、防音材10をダクト4の外周面に保持するようにしてもよい。
【0027】
(3)粒状物の詳細
充填材12を構成する多数の粒状物12aは、特定範囲の比重および粒径を有する互いに独立した(互いに結合されていない)粒状物である。具体的に、粒状物12aの比重は、0.9以上2.5以下(より好ましくは1.2以上2.2以下)に設定され、粒状物12aの粒径は、0.5mm以上6.0mm以下(より好ましくは1.0mm以上5.0mm以下)に設定されている。なお、本明細書でいう粒径とは、粒状物12aと同一の体積を有する球の直径のことである。
【0028】
粒状物12aは、合成樹脂および合成ゴムの少なくとも1つを主材料として含む。すなわち、粒状物12aの主材料は、合成樹脂、合成ゴム、および両者の混合材料のいずれであってもよい。
【0029】
粒状物12aの主材料として用いられる合成樹脂としては、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)、軟質PVC、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどを採用することが可能である。
【0030】
粒状物12aの主材料として用いられる合成ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)などを採用することができる。
【0031】
粒状物12aは、上記のような主材料の他に、可塑剤、比重調整剤、繊維材料などを副材料として含んでいてもよい。この場合、主材料とは、粒状物12aを構成する各種成分の中で最も組成率が大きい材料のことを意味し、組成率の大きさ自体は主材料の定義に影響しない。
【0032】
比重調整剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、酸化アルミニウム、カオリン、ケイ酸カルシウムなどの無機系充填剤を採用することができる。
【0033】
繊維材料としては、例えば、セルロース繊維、紙・パルプなどの有機繊維、またはガラス繊維、炭素繊維などの無機物繊維を採用することができる。
【0034】
以上のような構成の粒状物12aは、袋体11に対する粒状物12a(充填材12)の充填率が30体積%以上90体積%以下(より好ましくは40体積%以上80体積%以下)になるように、その量(数)が調整される。このような充填率で袋体11に充填された粒状物12aは、袋体11の中で過度に拘束されることがなく、袋体11の中で比較的自由に相対移動することが可能である。なお、充填率とは、袋体11の最大容積に対し粒状物12a(充填材12)の容積が占める割合のことである。
【0035】
(4)作用効果
以上説明したように、当実施形態の防音材10は、ダクト4の外周面に配置される袋体11と、袋体11の内部に相対移動可能な状態で充填された多数の粒状物12aからなる充填材12とを備えている。このような構成によれば、ダクト4から発生する騒音(ダクト4の振動やダクト4内の空気流等に起因して生じる騒音)のうち特に低音域の騒音を効果的に低減することができる。
【0036】
すなわち、上記のような構成の防音材10がダクト4に取り付けられていれば、ダクト4の振動に応じて袋体11の内部の粒状物12aどうしが衝突したり擦れ合ったりして熱が発生する。これにより、振動エネルギーが熱エネルギーに変換されてダクト4の振動が抑制され、当該振動に伴い生じる騒音が低減される。この場合に低減され易い騒音の音域は、粒状物12aの比重や粒径に応じて変化すると考えられるが、上記実施形態では、粒状物12aの比重が0.9~2.5で粒径が0.5~6.0mmに設定されるので、後述する検証実験でも示されるとおり、周波数が125Hz以下の低音域の騒音を十分に低減することができる。これにより、低音域の騒音が発生し易い比較的大容量のダクトであっても、その騒音を効果的に低減することができる。
【0037】
また、上記実施形態では、袋体11に対する充填材12(粒状物12a)の充填率が30~90体積%に設定されるので、袋体11の内部での粒状物12aの相対移動が阻害されることがなく、ダクト4から発生する低音域の騒音を粒状物12aどうしの衝突や摩擦によって効果的に低減することができる。
【0038】
また、上記実施形態では、筒状を呈する複数の袋体11が可撓性の連結シート13によって互いに連結されるので、連結シート13をダクト4に巻き付けることにより、複数の袋体11をまとめてダクト4の外周面に取り付けることができる。これにより、ダクト4に対する防音材10の取り付けを容易化しつつ、複数の袋体11(その内部の粒状物12a)によって低音域の騒音を十分に低減することができる。
【0039】
また、上記実施形態では、連結シート13の表面に遮音層14が設けられるので、この遮音層14により比較的高音域の騒音を低減することができる。これにより、低音域と高音域の両方の騒音を低減する効果を得ることができ、防音材10の性能をより高めることができる。
【0040】
(5)変形例
以上、本発明の好ましい実施形態を
図1~
図6に基づき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態では、矩形断面のダクト4の各辺にそれぞれ複数の円筒状の袋体11を配置したが、各袋体は矩形断面を有する角筒状のものでもよい。また、ダクト4の各辺に近い長さの長辺を有する比較的扁平な袋体を用意し、この扁平な袋体をダクト4の各辺に1つずつ配置するようにしてもよい。
【0042】
上記実施形態では、複数の袋体11どうしを連結シート13で連結した上で、この連結シート13の表面にさらに遮音層14を設けたが、例えば遮音シートなどとして市販されている遮音性のシート部材を遮音層14として用いる場合には、連結シート13を省略することも可能である。すなわち、遮音性のシート部材(遮音層)によって各袋体11を直接連結するようにしてもよい。
【0043】
上記実施形態では、各袋体11に充填される充填材12として、合成樹脂および合成ゴムの少なくとも1つを主材料とする粒状物12aの集合体を用いたが、粒状物は、比重が0.9以上2.5以下でかつ粒径が0.5mm以上6.0mm以下の粒状の物質であればよく、その材質は特に限定されない。例えば、鉱物のような無機物を粉砕したものを上記粒状物として用いてもよい。
【0044】
(6)検証実験
次に、本発明の
ダクト構造による騒音低減効果を確認するために行った検証実験について説明する。
図7は、当該検証実験のために用意した空調設備101の概略構成を示す平面図である。この実験用の空調設備101は、仕切壁Wで仕切られた残響室S1と無響室S2とに跨って配置されており、ファン102と、ジョイント103と、ダクト104と、出口ダクト105とを備えている。ファン102は、空気を圧縮して送り出す送風機であり、残響室S1に配置されている。ダクト104は、ファン102から排出された空気が流通する配管であり、無響室S2においてU字状に並ぶように配置された複数のダクト要素104a~104iを有している。ジョイント103は、最も上流側(ファン102に近い側)のダクト要素104aとファン102とを連結するものであり、仕切壁Wを貫通するように配置されている。出口ダクト105は、最も下流側(ファン102から遠い側)のダクト要素104iに接続されており、仕切壁Wを貫通するように配置されている。
【0045】
ファン102は、残響室S1内の空気を取り込んで無響室S2側に圧送する。圧送された空気は、ジョイント103およびダクト104(ダクト要素104a~104i)を通過した後に出口ダクト105から残響室S1に排出される。
【0046】
ダクト104(各ダクト要素104a~104i)は、500mm×300mmの矩形断面を有する矩形ダクト(角ダクト)であり、その外周面には
図8に示す防音材110が取り付けられている。防音材110は、複数の袋体111と、各袋体111の内部に充填された充填材112と、各袋体111を互いに連結する可撓性の連結シート113とを備えている。
【0047】
袋体111は、比較的扁平な矩形断面を有する角筒状の袋体であり、その延設方向がダクト104の軸方向に一致する状態でダクト104の外周面に取り付けられている。具体的に、本検証実験では、袋体111として、15cm×4.5cmの矩形断面を有し、かつ3000cm3の容積を有するポリエチレン製の袋体を用いた。
【0048】
充填材112は、上記実施形態(
図3~
図6)の充填材12と同様のものであり、多数の粒状物112aから構成されている。具体的に、本検証実験では、PVC(ポリ塩化ビニル)製の主材料に複数種の副材料(可塑剤、比重調整剤、繊維材料)を加えた粒状物112aの集合体を充填材112として用いた。より詳しくは、主材料として33重量%のPVCを含み、かつ副材料として16重量%の可塑剤、30重量%の炭酸カルシウム(比重調整材)、および21重量%のセルロース繊維(繊維材料)を含む粒状物112aの集合体を充填材112として用いた。このような組成の粒状物112aの比重は約1.75であった。粒状物112aの粒径は約2.0mm(1.93~2.07mm)に設定した。また、袋体111に対する充填材112(粒状物112a)の充填率は80体積%に設定した。
【0049】
連結シート113は、ダクト4の外周を取り囲みかつその状態を保持することが可能な帯状のシートである。連結シート113の裏面には複数の袋体111がそれぞれ結合されている。具体的に、本検証実験では、連結シート113として市販の遮音シートを用いるとともに、この遮音シートの裏面に各袋体111を接着剤により結合した。遮音シートは、PVC(ポリ塩化ビニル)を含む高分子材料に鉄系の充填材(鉄粉等)を付加した層を含み、主に中・高音域の騒音を低減することが可能なシートである。なお、ダクト4の外周を取り囲んだ状態で連結シート113を保持し得るように、当該連結シート113には図外の拘束手段(フック、ゴムバンド等)が付加されている。
【0050】
以上のような防音材110が適用されたダクト104を含む実験用の空調設備101を用いて空調運転(ファン102を駆動してダクト104に空気を流す動作)を行い、この空調運転中に発生する騒音を測定する実験を行った。騒音の測定は、
図7に示す測定点1および測定点2の二点において行い、騒音データとして音圧レベルおよび振動加速度レベルの両データを取得した。音圧レベルとしては、測定点1,2に対応するダクト104(ダクト要素104b,104h)の各上面から300mm離れた位置での音圧レベルを測定し、振動加速度レベルとしては、測定点1,2に対応するダクト104(ダクト要素104b,104h)の各上面において生じている振動の加速度レベルを測定した。
【0051】
図9および
図10は、音圧レベルの測定結果を示すグラフである。具体的に、
図9(a)は、測定点1での音圧レベルの測定結果を周波数ごとに示すグラフであり、
図9(b)は、測定点2での音圧レベルの測定結果を周波数ごとに示すグラフである。なお、各グラフの横軸は1/1オクターブバンドの中心周波数(Hz)を示し、縦軸は音圧レベル(dB)を示している。また、■マークのドットを結んだ波形は防音材110(
図8)を使用した場合における各周波数での音圧レベルを示し、◆マークのドットを結んだ波形は防音材110を使用しなかった場合における各周波数での音圧レベルを示している。そして、
図9(a)(b)の各グラフに基づいて、防音材110の使用により低減された音圧レベルの量を特定し、
図10(a)(b)の各グラフを得た。すなわち、
図10(a)は、測定点1で得られた音圧レベルの低減量を周波数ごとに示すグラフであり、
図10(b)は、測定点2で得られた音圧レベルの低減量を周波数ごとに示すグラフである。
【0052】
図9および
図10の各グラフに示すように、測定点1,2のいずれにおいても、全ての周波数において音圧レベルを低減する効果が確認された。ここで、本検証実験では、主に中・高音域の騒音を低減可能な市販の遮音シートを連結シート113として用いたため、125Hzを超える中・高音域での音圧レベルの低減効果は、主にこの遮音シート(連結シート113)の働きによるものと考えられる。一方、遮音シートは、一般に125Hz以下の低音域の騒音を十分に低減できないため、仮に遮音シートのみを用いた場合(充填材112入りの袋体111を省略した場合)には、125Hz以下の低音域での音圧レベルの低減量は比較的小さくなるはずである。これに対し、本検証実験では上述したように、125Hz以下の低音域を含めた広範な周波数において音圧レベルを低減する効果が得られている。これは、遮音シート(連結シート113)に加えて充填材112(粒状物112a)入りの袋体111を使用したことによる効果であると考えられる。むしろ、本検証実験では、音圧レベルの低減量が最も大きくなる周波数が、125Hz以下の低音域に含まれている。このことは、充填材112入りの袋体111による低音域の騒音低減効果が非常に優れたものであることを示唆している。
【0053】
以上のことは、
図11および
図12の振動加速度レベルの測定結果からも確認することができる。なお、
図11(a)(b)の各グラフは、
図9(a)(b)の各グラフの縦軸を音圧レベルから振動加速度レベルに変えたものであり、
図12(a)(b)の各グラフは、
図10(a)(b)の各グラフの縦軸を音圧レベルの低減量から振動加速度レベルの低減量に変えたものである。これら
図11および
図12の各グラフによれば、125Hz以下の低周波域における振動加速度レベルの低減量と、125Hz以下の中・高周波域での振動加速度レベルの低減量とを全体的に比較した場合に、前者の方が後者よりもかなり大きくなっている。このことからも、充填材112(粒状物112a)入りの袋体111による低音域の騒音低減効果が優れたものであることが示唆される。
【0054】
図7~
図12を用いて説明した上記検証実験に加えて、建物の天井裏(
図1の天井裏S参照)に設置された空調設備のダクトの騒音を測定する実験を行った。具体的には、天井裏に設置された空調設備のダクトの外周面に、上記検証実験で用いたのと同様の充填材入り袋体を含む防音材を取り付け、この状態で空調設備を運転した場合に発生する騒音を階下の室内で測定した。そして、この場合に測定された音圧レベルの測定データを、防音材を取り付けなかった場合に測定された音圧レベルの測定データと比較することにより、防音材を用いることによる騒音低減効果を検証した。その結果、防音材が有るときは無いときに比べて、特に低音域での音圧レベルが低減されることが確認された。例えば、63Hzの周波数の音圧レベルは、防音材が有るときの方が無いときよりも約4.5dB低かった。このことからも、本発明の
ダクト構造が低音域の騒音に対し有効であることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
4 :ダクト
10 :防音材
11 :袋体
12 :充填材
12a :粒状物
13 :連結シート
14 :遮音層
104 :ダクト
110 :防音材
111 :袋体
112 :充填材
112a :粒状物
113 :連結シート