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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】防音材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20240722BHJP
【FI】
G10K11/16 120
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020149509
(22)【出願日】2020-09-06
(65)【公開番号】P2022044070
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】中根 和靖
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-211493(JP,A)
【文献】特開2020-013001(JP,A)
【文献】特開2020-100101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンフォームの片側面に表皮材が一体化された防音材であって、
前記表皮材のうち前記ポリウレタンフォームとの境界部分に設けられ、前記ポリウレタンフォームの原料が含浸硬化した含浸硬化層と、
前記ポリウレタンフォームのうち前記片側面とは反対側の露出面から、前記含浸硬化層まで又は前記ポリウレタンフォームのうち前記片側面と前記露出面との間の中央よりも前記片側面側の位置まで延びた切り込みと、を有し、
前記ポリウレタンフォームの発泡セルのうちクローズドセルの単位断面積当たりの数が、前記ポリウレタンフォームの内部より前記片側面又は前記露出面に近いほど少なくなっている構造を含む防音材。
【請求項2】
前記ポリウレタンフォームは、扁平形状をなし、その表裏の何れか一方の面が前記片側面になっていると共に表裏の他方の面が前記露出面になっていて、
前記クローズドセルの数が、前記ポリウレタンフォームの厚み方向における同じ位置では、前記切り込みに近いほど少ない請求項1に記載の防音材。
【請求項3】
前記ポリウレタンフォームは、扁平形状をなし、その表裏の何れか一方の面が前記片側面になっていると共に表裏の他方の面が前記露出面になっていて、
前記ポリウレタンフォームの厚み方向の中央部における単位断面積当たりの前記クローズドセルの数に対する、前記ポリウレタンフォームの前記露出面から深さ3mmまでの表層部における単位断面積当たりの前記クローズドセルの数の比が0.7倍以下になっている請求項1又は2に記載の防音材。
【請求項4】
前記切り込みが格子状に形成されている請求項1から3の何れか1の請求項に記載の防音材。
【請求項5】
ポリウレタンフォームの片側面に表皮材が一体化された防音材の製造方法であって、
前記表皮材のうち前記ポリウレタンフォームとの境界部分に前記ポリウレタンフォームの原料が含浸硬化した含浸硬化層を形成し、
前記ポリウレタンフォームのうち前記片側面とは反対側の露出面から、前記含浸硬化層まで又は前記ポリウレタンフォームのうち前記片側面と前記露出面との間の中央よりも前記片側面側の位置まで延びる切り込みを形成する切り込み処理を行った後、前記ポリウレタンフォームの内部へ厚み方向に圧縮ガスを吹き込むブロー処理を行って、前記ポリウレタンフォームに含まれる複数の発泡セルのセル膜に破断孔を追加工する防音材の製造方法。
【請求項6】
前記切り込み処理で、前記切り込みを格子状に形成する請求項5に記載の防音材の製造方法。
【請求項7】
前記ブロー処理を、前記圧縮ガスを噴出するノズルの先端面を前記ポリウレタンフォームに接触又は近接させて行う請求項5又は6に記載の防音材の製造方法。
【請求項8】
前記圧縮ガスの動圧は、0.1~1MPaである請求項7に記載の防音材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリウレタンフォームを含む防音材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の防音材として、音源からの空気の振動をポリウレタンフォームの内部まで取り込んで吸音するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実全昭49-081516号(明細書第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリウレタンフォームに含まれる複数のセルの構成によっては、空気の振動がポリウレタンフォームの内部に取り込まれ難くなり、十分な防音性が得られないことがあった。そこで、従来より空気の振動がポリウレタンフォームの内部に取り込まれ易い防音材の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた発明の第1態様は、ポリウレタンフォームの片側面に表皮材が一体化された防音材であって、前記表皮材のうち前記ポリウレタンフォームとの境界部分に設けられ、前記ポリウレタンフォームの原料が含浸硬化した含浸硬化層と、前記ポリウレタンフォームのうち前記片側面とは反対側の露出面から、前記含浸硬化層まで又は前記ポリウレタンフォームのうち前記含浸硬化層寄り位置まで延びた切り込みと、を有し、前記ポリウレタンフォームの発泡セルのうちクローズドセルの単位断面積当たりの数が、前記ポリウレタンフォームの内部より前記片側面又は前記露出面に近いほど少なくなっている構造を含む防音材である。
【0006】
発明の第2態様は、前記ポリウレタンフォームは、扁平形状をなし、その表裏の何れか一方の面が前記片側面になっていると共に表裏の他方の面が前記露出面になっていて、前記クローズドセルの数が、前記ポリウレタンフォームの厚み方向における同じ位置では、前記切り込みに近いほど少ない第1態様に記載の防音材である。
【0007】
発明の第3態様は、前記ポリウレタンフォームは、扁平形状をなし、その表裏の何れか一方の面が前記片側面になっていると共に表裏の他方の面が前記露出面になっていて、ポリウレタンフォームの厚み方向の中央部における単位断面積当たりの前記クローズドセルの数に対する、前記ポリウレタンフォームの前記露出面から深さ3mmまでの表層部における単位断面積当たりの前記クローズドセルの数の比が0.7倍以下になっている第1態様又は第2態様に記載の防音材である。
【0008】
発明の第4態様は、前記切り込みが格子状に形成されている第1態様から第3態様の何れか1の態様に記載の防音材である。
【0009】
発明の第5態様は、ポリウレタンフォームの片側面に表皮材が一体化された防音材の製造方法であって、前記表皮材のうち前記ポリウレタンフォームとの境界部分に前記ポリウレタンフォームの原料が含浸硬化した含浸硬化層を形成し、前記ポリウレタンフォームのうち前記片側面とは反対側の露出面から、前記含浸硬化層まで又は前記ポリウレタンフォームのうち前記含浸硬化層寄り位置まで延びる切り込みを形成する切り込み処理を行った後、前記ポリウレタンフォームの表裏の少なくとも一方から内部へと圧縮ガスを吹き込むブロー処理を行って、前記ポリウレタンフォームに含まれる複数の発泡セルのセル膜に破断孔を追加工する防音材の製造方法である。
【0010】
発明の第6態様は、前記切り込み処理で、前記切り込みを格子状に形成する第5態様に記載の防音材の製造方法である。
【0011】
発明の第7態様は、前記ブロー処理を、前記圧縮ガスを噴出するノズルの先端面を前記ポリウレタンフォームに接触又は近接させて行う第5態様又は第6態様に記載の防音材の製造方法である。
【0012】
発明の第8態様は、前記圧縮ガスの動圧は、0.1~1MPaである第7態様に記載の防音材の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
発明の第1態様の防音材では、ポリウレタンフォームが、発泡セルのうちクローズドセルの単位断面積当たりの数が、ポリウレタンフォームの内部より片側面又は露出面に近いほど少ない構造を含むので、音源からの空気の振動が従来より容易にポリウレタンフォームの内部に取り込まれ易くなり、従来より防音性の高い防音材を得ることができる。また、本開示の防音材では、空気の振動をポリウレタンフォームのうち切り込みの内面からも取り込むことが可能となるので、切り込みがない場合に比べて防音材の防音性を向上させることが可能となる。さらに、ポリウレタンフォームに表皮材が重ねられているので、切り込みを形成することによる防音材の強度低下を抑えることが可能となる。さらに、切り込みを形成することにより、防音材の反りを抑制することができる。
【0014】
上述した構造を有するポリウレタンフォームは、表面から内部に圧縮ガスを吹き込ませてクローズドセルのセル膜に破断孔を追加工することで得られる。発明の第2態様の開示のように、ポリウレタンフォームの厚み方向における同じ位置では、切り込みに近いほどクローズドセルの数が少なくなるように圧縮ガスをポリウレタンフォームに吹き込ませることで、切り込みの内面の吸音性を向上することが可能となる。
【0015】
ポリウレタンフォームの露出面(表皮材と反対側の面)側で吸音性の高い防音材を得るには、発明の第3態様の開示のように、ポリウレタンフォームの厚み方向における中央部におけるクローズドセルの数に対して、ポリウレタンフォームの露出面から深さ3mmまでの表層部におけるクローズドセルの数の比が0.7倍以下になるまで圧縮ガスを吹き込むことが好ましい。
【0016】
発明の第4態様の防音材のように、切り込みを格子状とすることで、ポリウレタンフォームの他方の面全体に切り込みを容易に分散させることができ、ポリウレタンフォームに全体的に圧縮ガスが容易に吹き込まれるようになる。
【0017】
発明の第5態様の防音材の製造方法では、ポリウレタンフォームの内部へ厚み方向に圧縮ガスを吹き込むブロー処理を行ってポリウレタンフォームに含まれる複数の発泡セルのセル膜に破断孔を追加工するので、ポリウレタンフォームに、ブロー処理が行われた面から内部に連通する通気経路を形成することができる。これにより、ポリウレタンフォームの内部に音が取り込まれ易くなり、従来より防音性の高い防音材を得ることができる。また、ブロー処理の前にポリウレタンフォームに切り込みを形成する切り込み処理を行うので、圧縮ガスがポリウレタンフォームの内部に入り易くなり、セル膜に破断孔を容易に形成することができる。
【0018】
ブロー処理では、圧縮ガスを噴出するノズルの先端面をポリウレタンフォームに接触又は近接させて行うのが好ましく(発明の第7態様)、その場合の圧縮ガスの動圧は、0.1~1MPaであることが好ましい(発明の第8態様)。切り込み処理では、切り込みを格子状に形成することで、ポリウレタンフォームの他方の面全体に切り込みを容易に分散させることができ、この面全体に圧縮ガスが容易に吹き込まれるようになる(発明の第6態様)。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示の一実施形態に係る防音材の斜視図
図2】防音材の拡大断面図
図3】ポリウレタンフォームの発泡セルの拡大断面図
図4】成形型の断面図
図5】ブロー処理されるポリウレタンフォームの側断面図
図6】ポリウレタンフォームの外周面における発泡セルの拡大画像
図7】実施例及び比較例を示すテーブル
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1から図5を参照しつつ、本開示の一実施形態に係る防音材10を説明する。図1に示されるように、防音材10は、平板状のポリウレタンフォーム11の表裏の一方の面に表皮材21が一体化してなる。ポリウレタンフォーム11は、表皮材21に覆われた第1面11Xと、第1面11Xの反対側の露出した第2面11Yとを有する。本実施形態の防音材10では、ポリウレタンフォーム11のうち第2面11Yが吸音面11Mになっている。なお、ポリウレタンフォーム11は、平板状に限らず、板状その他の平たい形状(扁平形状)となっていればよく、扁平形状には表面又は裏面に凹凸が形成された形状も含まれる。
【0021】
図2に示されるように、表皮材21は、2枚の繊維シート21A,21Bからなる。表皮材21のうちポリウレタンフォーム11と対向する内側の繊維シート21Aには、ポリウレタンフォーム11の原料11Mが含浸硬化してなる含浸硬化層22が形成される。そして、含浸硬化層22を含む表皮材21が、通気性を有している。含浸硬化層22を含む表皮材21のJIS K6400-7 B法:2012に基づく通気量は、3~90ml/cm/sであることが好ましく、5~80ml/cm/sであることがより好ましい。なお、表皮材21は、非通気性のものであってもよく、例えば、繊維シート21Aに含浸硬化層22が含浸することで非通気性となったものや、樹脂フィルム等であってもよい。例えば、本実施形態では、表皮材21の厚みは2mmである。
【0022】
本実施形態では、表皮材21の内側の繊維シート21Aよりも、外側の繊維シート21Bの方が、繊維径と目付量が大きい構成となっている。なお、例えば、内側の繊維シート21Aと外側の繊維シート21Bとは、ニードルパンチにより一体化されている。
【0023】
繊維シート21A,21Bを構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタラート(PET)繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリウレタン繊維(スパンデックス)、ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維(例えば、羊毛、コットン、セルロースナノファイバー等)、ザイロン(登録商標)等が挙げられる。また、繊維シート21A,21Bの形態としては、不織布、織物、編み物等が挙げられる。不織布としては、例えば、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、ニードルパンチ不織布等が挙げられる。
【0024】
繊維シート21A,21Bの繊維径としては、2~10デニールであることが好ましく、2~8デニールであることがより好ましい。また、繊維シート21A,21Bの目付量としては、70~500g/mであることが好ましく、90~500g/mであることがより好ましい。このように繊維径の細い繊維で繊維シート21A,21Bを構成することで、細い各繊維同士の距離を近くして繊維を緻密な状態とすることができるため、ポリウレタンフォーム11の原料11Aが表皮材21から染み出し難くすることができる。
【0025】
表皮材21のうち内側の繊維シート21Aには、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル系樹脂やスチレン・ブタジエンゴム(SBR)等のゴム系樹脂等、ポリウレタン系樹脂以外の樹脂が35~100g/m付着していることが好ましい。繊維シート21Aにポリウレタン系樹脂以外の樹脂が付着することにより、繊維間にポリウレタン系樹脂以外の樹脂が介在し、ポリウレタンフォーム11の原料11Aが繊維シート21Aを通過し難くなり、原料11Aを更に染み出し難くすることができる。ポリウレタン系以外の樹脂は、繊維シート21Aの表面に付着していてもよいし、繊維シート21Aの内部の繊維に付着していてもよい。例えば、後者の場合、含浸硬化層22を構成するポリウレタン系樹脂は、繊維に付着したポリウレタン系以外の樹脂を覆っていてもよい。なお、ポリウレタン系樹脂以外の樹脂を繊維シート21Aに付着させるには、エマルジョンを繊維シート21Aの表面に塗布したり、繊維シート21Aにエマルジョンを含浸させたり、パウダーを繊維シート21Aの表面に散布して熱ローラーや熱風を当てたりすること等により行えばよい。
【0026】
表皮材21は、繊維シート21A,21Bを構成する繊維の種類、繊維径、目付量、アクリル酸エステル系樹脂等のポリウレタン系樹脂以外の樹脂の付着量等を調整することにより、含浸硬化層22の通気性を調整することができる。
【0027】
内側の繊維シート21Aは、細い繊維が密になっており、かつ、アクリル酸エステル系樹脂が含浸しているため、原料11Aの含浸(染み込み)量を制限することができる。これにより、表皮材21の通気性を確保することができる。一方、外側の繊維シート21Bは、繊維径を内側の繊維シート21Aよりも大きくすることで、例えば、5デニール以上とすることで、防音材10の耐摩耗性を向上させることができる。なお、図2等において、含浸硬化層22は、灰色で示されている。
【0028】
ポリウレタンフォーム11は、例えば半硬質ポリウレタンフォームであって、連続気泡を有し、吸音性を有する。
【0029】
なお、ポリウレタンフォーム11は、軟質ポリウレタンフォームや硬質ポリウレタンフォームであってもよい。但し、軟質ポリウレタンフォームは柔らかく剛性が低く、硬質ポリウレタンフォームは硬度が高く剛性が高過ぎるため、適度な剛性を有する半硬質ポリウレタンフォームがより好ましい。半硬質ポリウレタンフォームとしては、例えば、JIS K6400-2:2012のE法に基づく50%圧縮硬さが、500~3000Nであるものが好ましい。ポリウレタンフォーム11の50%圧縮硬さを500~3000Nとすることで、ポリウレタンフォーム11に、剛性を確保しつつ復元力も持たせることが可能となり、ポリウレタンフォーム11の形状の安定性を図ることが可能となる。
【0030】
ポリウレタンフォーム11の見掛け密度(JIS K7222:2005に基づく。)は、30~90kg/mであることが好ましい。見掛け密度が40kg/m以上であると、ポリウレタンフォーム11の遮音性が特に向上し、見掛け密度が60kg/m以下であると、ポリウレタンフォーム11の軽量化の点で特に好ましい。
【0031】
さて、ポリウレタンフォーム11のうち表皮材21と一体化した第1面11Xとは反対側の第2面11Yには、切り込み13が形成されている。本実施形態では、切り込み13は、格子状になっている。具体的には、互いに平行に延びた直線状切り込み15群同士が直交した構成となっていて、これら直線状切り込み15は、ポリウレタンフォーム11の端から端まで延びている。従って、ポリウレタンフォーム11は、第2面11Y側から見ると複数の矩形状のブロックに分割されている。また、切り込み13は、ポリウレタンフォーム11と表皮材21(含浸硬化層22)との境界部分(本実施形態では深さ18mm)まで入れられていて、ポリウレタンフォーム11を厚み方向に貫通している。なお、防音材10がフラットな状態になっているときには、切り込み13は閉じていて、切り込み13の内面が見えないようになっている。なお、直線状切り込み15同士の間隔は、例えば5~150mmである。
【0032】
図3に示されるように、ポリウレタンフォーム11は、発泡セル30が密集した構造になっている。ポリウレタンフォーム11には、発泡セル30としては、オープンセル30Aとクローズドセル30Bが設けられている。オープンセル30Aは、発泡セル30を区切るセル膜31を貫通したセル孔32で互いに連通したものである。クローズドセル30Bは、セル孔32を有さないセル膜31に囲まれていて、他の発泡セル30と連通していない。ここで、本開示では、ポリウレタンフォーム11をSEM(走査電子顕微鏡)で35倍に拡大した画像において、発泡セル30を囲むセル膜31にセル孔32が視認されない場合、その発泡セル30をクローズドセル30Bとする。なお、例えば、ポリウレタンフォーム11には、発泡セル30が20~150個/25mm含まれている(セル数の求め方は、JIS K6400-1:2004 附属書1に基づく。)。
【0033】
図3に示されるように、ポリウレタンフォーム11は、ポリウレタンフォーム11内へ音(空気)を進入させる吸音面11Mと、その吸音面11Mからポリウレタンフォーム11の内部に連通する吸音経路33と、が設けられた吸音構造を有する。詳細には、ポリウレタンフォーム11の第2面11Yが吸音面11Mに相当し、ポリウレタンフォーム11のオープンセル30Aが吸音面11Mに向かって開口している。また、吸音経路33は、吸音面11Mからポリウレタンフォーム11の内部に向かって連通した複数のオープンセル30Aにより構成される。なお、ポリウレタンフォーム11の吸音面11Mには、スキン層が形成されていなくてもよいし、通気性を有するスキン層が形成されていてもよい。ここで、本開示において、スキン層とは、それよりもポリウレタンフォーム11の内側の部分に対して見掛け密度が高くなった表面層のことであり、例えば、ポリウレタンフォーム11の表面から深さ0.5~1mmまでの部分である。例えば、図6では、ポリウレタンフォーム11の表面が上側に示されていて、スキン層は符号16で示されている。
【0034】
ここで、上述のセル孔32としては、ポリウレタンフォーム11の発泡成形時に形成された発泡孔32Xと、発泡成形の後にセル膜31が破断されて形成された破断孔32Yとが、設けられている。具体的には、後述するように、破断孔32Yは、ポリウレタンフォーム11の吸音面11Mから内部へと吹き込まれた圧縮ガスの風圧でセル膜31が破断されてなる。なお、図示しないが、破断孔32Yの開口縁には破断したセル膜31が付着している。
【0035】
ポリウレタンフォーム11は、クローズドセル30Bの数が、ポリウレタンフォーム11の内部より吸音面11Mに近いほど少なくなっている。そして、吸音面11Mから同じ深さでは、切り込み13の内面に近いほどクローズドセル30Bの数が少なくなっている。具体的には、ポリウレタンフォーム11のうち厚み方向の中央部の第1位置10D(図2参照。本実施形態の例では、吸音面11Mからの深さが9mmの位置)における単位断面積当たりのクローズドセル30Bの数に対する、吸音面11Mから深さ3mmまでの表層部10Sにおける単位断面積当たりのクローズドセル30Bの数の比であるクローズドセル比が、0.7以下であることが好ましい。ここで、ポリウレタンフォーム11の厚み方向の中央部とは、表層部10Sより内側に配置されてポリウレタンフォーム11の厚み方向の中央位置10D(本実施形態の例では、吸音面11Mからの深さが9mmの位置)を含む領域(例えば、図2に示す中央領域D,d等)である。このクローズドセル比は、0.65以下であることがより好ましく、0.6以下であることがさらに好ましい。さらに、本実施形態のポリウレタンフォーム11に含まれる発泡セル30の合計数に対する、オープンセル30Aの数の割合が、ポリウレタンフォーム11の内部より吸音面11Mに近いほど多くなっている。なお、単位断面積当たりのクローズドセル30Bとオープンセル30Aの数は、例えば、ポリウレタンフォーム11の切断面(例えば外周面11E)の所定面積の領域(例えば、図2に示す表面側領域S,中央領域D,d)の拡大画像に写ったクローズドセル30Bとオープンセル30Aの個数を数えれば得ることができる。そして、それらの数をポリウレタンフォーム11のうち吸音面11Mや切り込み13内面からの距離の異なる領域同士で比較すれば(具体的には、表面側領域Sと中央領域Dの比較、中央領域Dとそれより切り込み13に近い中央領域dとの比較をすれば)、クローズドセル数の比等を得ることができる。
【0036】
また、本実施形態の防音材10に含まれるポリウレタンフォーム11は、発泡孔32Xと破断孔32Yとを含むセル孔32の総開口面積が、ポリウレタンフォーム11の内部より吸音面11Mに近いほど広い構造になっている。そして、ポリウレタンフォーム11の通気量が、ポリウレタンフォーム11の内部より吸音面11Mに近いほど大きくなっている。なお、上記の総開口面積の比較は、例えば、ポリウレタンフォーム11のうち切断面の所定領域(例えば、図2に示す表面側領域S、中央領域D)の拡大写真に写ったセル孔32の面積を算出して、それらを吸音面11Mからの深さの異なる箇所で比較することで行うことができる。また、ポリウレタンフォーム11の通気量は、例えば、ポリウレタンフォーム11を厚み方向に3等分して、厚み方向の中央部分と吸音面11M側の部分との通気量(JIS K6400-7 B法:2012に基づく。)を測定することで比較することができる。
【0037】
本実施形態の防音材10は、吸音面11Mがポリウレタンフォーム11の第2面11Yに備えられていて、ポリウレタンフォーム11の外周面11Eは、スキン層が形成されていない切断面となっている。そして、外周面11Eにおいて、発泡セル30のセル膜31のうちセル孔32の開いていない部分は、光を反射して光り易くなっている。即ち、発泡セル30としてクローズドセル30Bが多いと光り易い部分が多い。一方、外周面11Eのうちセル孔32の総開口面積が大きい部分は、光り難くなっている。そのため、ポリウレタンフォーム11の外周面11Eを見ると、厚み方向の中央部から吸音面11Mに近づくほど光り難くなっている。本実施形態では、吸音面11Mを有する表層部10Sが、それよりさらに深い部分に比べて光り難くなった層状の領域となっていて、この層状の領域に破断孔32Yが偏在している。
【0038】
本実施形態の防音材10の構成に関する説明は以上である。次に、防音材10の製造方法について説明する。
【0039】
まず、ポリウレタンフォーム11の原料11Aと、2枚の繊維シート21A,21Bが一体化された表皮材21とが用意される。ポリウレタンフォーム11の原料11Aとしては、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、発泡剤、及び触媒等を含んだものが用意される。
【0040】
ポリウレタンフォーム11は、図4に示されるように、キャビティを挟んで対向する下型51と上型52とからなる成形型50で発泡成形されることにより得られる。なお、ポリウレタンフォーム11は、スラブ成形によって形成されてもよい。ポリウレタンフォーム11を発泡成形する際には、離型剤として、例えば、直鎖状炭化水素ワックスを使用することが好ましい。これにより、ポリウレタンフォーム11の表面に、発泡セル30が開口したオープンセル面11MA(即ち、通気する面)を形成することが容易となる。具体的には、発泡成形用の成形型50のうちオープンセル面11MAを形成する成形面に、直鎖状炭化水素ワックスを塗布してから、成形型50内にポリウレタンフォーム11の原料11Aを注入し(図4(A))、それを発泡硬化させてポリウレタンフォーム11を成形すればよい(図4(B)。
【0041】
直鎖状炭化水素ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等が挙げられ、有機溶剤に分散させた溶剤系離型剤、乳化剤を用いて水に分散させた水系離型剤等を使用することができる。また、分岐鎖状炭化水素ワックスとしては、例えば、マイクロクリスタリンワックス、変性ポリエチレンワックス等が挙げられ、溶剤系離型剤や水系離型剤等を使用することができる。
【0042】
上述した離型剤が、例えば成形型50の下型51に塗布され、成形型50の上型52に、繊維シート21Aを下側にした状態の表皮材21が固定される。なお、表皮材21のうち繊維シート21Aには、アクリル酸エステル系樹脂が予め含浸されている。そして、ポリウレタンフォーム11の原料11Aが、下型51に注入されて成形型50が型閉じされ、原料11Aが発泡硬化し、板状のポリウレタンフォーム11が形成される。このとき、原料11Aが繊維シート21Aに含浸して硬化することで、ポリウレタンフォーム11の片面に表皮材21が接着一体化される。
【0043】
片面を表皮材21によって覆われたポリウレタンフォーム11は、成形型50から取り外され、表皮材21が下側になるように配置されて切り込み処理が行われる。具体的には、例えば下面に格子状の切り込み刃が設けられた押し型が、ポリウレタンフォーム11の上方から、ポリウレタンフォーム11のうち表皮材21の含浸硬化層22との境界部分まで挿入される。これにより、ポリウレタンフォーム11に格子状の切り込み13が形成され、ポリウレタンフォーム11が複数の直方体に分割される。ポリウレタンフォーム11に切り込み13が入れられることで、成形後に冷却されたポリウレタンフォーム11が反ることが抑制される。なお、切り込み13は、ポリウレタンフォーム11の厚み方向を貫通する深さまで入れられていなくてもよく、ポリウレタンフォーム11のうち含浸硬化層22寄りの位置や含浸硬化層22と反対のオープンセル面MA寄りの位置に入れられていてもよい。但し、切り込み13がポリウレタンフォームのオープンセル面MA寄りの位置に入れられる場合、スキン層よりも深く切り込み13が形成されることが好ましい。なお、切り込み13を表皮材21に入り込む深さまで入れてもよい。
【0044】
次いで、切り込み13が入れられたポリウレタンフォーム11に、ブロー処理が行われる。これにより、ポリウレタンフォーム11内に圧縮ガスが吹き込まれ、ポリウレタンフォーム11に含まれる発泡セル30のセル膜31を破断して破断孔32Yを形成する追加工が行われる。
【0045】
具体的には、ブロー処理では、ポリウレタンフォーム11のうち含浸硬化層22と反対のオープンセル面11MAから圧縮ガス(例えば圧縮空気)が吹き込まれる。詳細には、図5に示されるように、ブロー処理は、ブローガンのうち圧縮ガスを噴出するノズルNの先端面を(即ち、噴出口の開口縁を)、ポリウレタンフォーム11の上記オープンセル面11MAに接触させて行われる。なお、ブロー処理を、ノズルNを上記オープンセル面11MAに対して近接させて(例えば、2mm以内の距離で離して)行ってもよい。これらの方法によれば、ポリウレタンフォーム11に圧縮ガスを吹き込み易くなると共に、圧縮ガスの吹込み量のばらつきを抑えることが可能となる。また、この場合、ポリウレタンフォーム11に吹き込む圧縮ガスの動圧を0.1~1.0MPaとすることが好ましい。これにより、ポリウレタンフォーム11の内部までの吸音経路の形成が容易となる。ブロー処理で使用される圧縮ガスは、空気以外に、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガスであってもよい。本実施形態では、ブロー処理は、ポリウレタンフォーム11のオープンセル面11MAの全体に行われる。本実施形態では、ポリウレタンフォーム11のオープンセル面11MAに切り込みが形成されているので、ブロー処理が行われることで、ポリウレタンフォーム11のオープンセル面11MAからだけでなく切り込み13の内面からもポリウレタンフォーム11の内部へ圧縮ガスを吹き込むことが可能となる。
【0046】
ブロー処理が行われると、ポリウレタンフォーム11のうち特に上記オープンセル面11MA近くの部分において、発泡成形時に形成された発泡孔32Xの総開口面積が大きくなると共に、ポリウレタンフォーム11に破断孔32Yが形成されて吸音経路33が追加される。なお、このとき、オープンセル面11MAから吸音面11Mが形成される。
【0047】
本実施形態のブロー処理は、ポリウレタンフォーム11の上記オープンセル面11MA全体に亘って行われるが、一部にのみ行われてもよい。また、ブロー処理に使用されるブロー装置は、一つだけ設けられていてもよいし、複数設けられていてもよい。また、例えば、ブロー処理で使用するブロー装置のノズルNを、ポリウレタンフォーム11の幅より広い幅のT字状等にすることで、ブロー処理を効率良く行うことができる。
【0048】
上述のブロー処理は、複数回行われてもよい。また、切り込み13を開いた状態で切り込み13の内面にブロー処理を行ってもよい。このようにすれば、切り込み13の内面からポリウレタンフォーム11内に圧縮ガスを吹き込み易くなる。なお、切り込み処理やブロー処理の前に任意の長さ、形状にポリウレタンフォーム11が裁断されてもよい。
【0049】
上述のブロー処理を終えると、ポリウレタンフォーム11のうち表皮材21に覆われた第1面11Xとは反対側の第2面11Yが吸音面11Mとなった防音材10が完成する。このように、本実施形態では、ポリウレタンフォーム11の表面にブロー処理を行って、発泡セル30同士を破断孔32Yにより連通させることで、内部より該表面に近づくほどクローズドセル30Bの数が少ないポリウレタンフォーム11を得ることが可能となる。
【0050】
本実施形態の防音材10では、ポリウレタンフォーム11の第2面11Y(露出面)に圧縮ガスが吹き込まれて第2面11Yを吸音面11Mに形成したが、上述のブロー処理をポリウレタンフォーム11のうち表皮材21が一体化された面(第1面11X)に施して、第1面11Xを吸音面11Mに形成してもよい。また、ポリウレタンフォーム11の表裏の両面にブロー処理を施して第1面11X、第2面11Yの両面を吸音面11Mとしてもよい。
【0051】
なお、ブロー処理の前に、ポリウレタンフォーム11のオープンセル面11MAに複数の針又は刃物の突先を突き刺す突き刺し処理を行ってもよい。これにより、突き刺し処理で形成された刺し痕を通して、圧縮ガスをポリウレタンフォーム11の内部に吹き込み易くすることが可能となる。突き刺し処理は、ポリウレタンフォーム11のうちスキン層が形成された表面にブロー処理を行う場合に、特に有効であり、ポリウレタンフォーム11を貫通しない深さでかつスキン層よりも深い刺し痕が形成されることで、ポリウレタンフォーム11の内部に圧縮ガスを吹き込み易くすることができる。なお、突き刺し処理は、ポリウレタンフォーム11の両面に施されてもよい。この場合、厚み方向から見て刺し痕が重ならない位置に形成されると、ポリウレタンフォーム11の剛性の低下を抑制することができるのでより好ましい。
【0052】
ポリウレタンフォーム11の原料の詳細は、以下のようになっている。
【0053】
ポリオール成分は、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のエーテル系ポリオール、エステル系ポリオール、エーテルエステル系ポリオール、ポリマーポリオール等を単独であるいは複数組み合わせて使用することができる。エーテル系ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール、またはその多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオールを挙げることができる。また、エステル系ポリオールとしては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の脂肪族グリコール等とから重縮合して得られたポリエステルポリオールを挙げることできる。さらにポリオール中にエーテル基とエステル基の両方を含むエーテルエステル系ポリオールやエーテル系ポリオール中でエチレン性不飽和化合物等を重合させて得られるポリマーポリオールを使用することもできる。
【0054】
ポリイソシアネート成分は、芳香族系、脂環式系、脂肪族系の何れでもよく、また、1分子中に2個のイソシアネート基を有する2官能のイソシアネートであっても、あるいは1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する3官能以上のイソシアネートであっても、それらの変性体(例えば、ウレタン変性、アロファネート変性、ビューレット変性等種々の変性がなされたもの)であってもよく、それらを単独であるいは複数組み合わせて使用することができる。2官能のイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4'-MDI)、2,4'-ジフェニルメタンジアネート、2,2'-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系のもの、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環式系のもの、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンイソシアネート等の脂肪族系のものを挙げることができる。また、3官能以上のイソシアネートとしては、1-メチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、1,3,5-トリメチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、ポリメリックMDI(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート)等を挙げることができる。
【0055】
発泡剤は、特に限定されないが、水が好ましい。また、二酸化炭素ガス、ペンタン、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)等を発泡助剤として、発泡剤である水と併用してもよい。
【0056】
触媒は、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のものを使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエチレンジアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N′,N″,N″-ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、イミダゾール系化合物等のアミン触媒や、スタナスオクトエート等の錫触媒やフェニル水銀プロピオン酸塩あるいはオクテン酸鉛等の金属触媒(有機金属触媒とも称される。)を挙げることができる。触媒は複数を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
なお、ポリウレタンフォーム11の原料11Aには、整泡剤が含まれていてもよい。整泡剤としては、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のものを使用することができ、例えば、シリコーン系整泡剤、非シリコーン系の界面活性剤等が挙げられる。
【0058】
本実施形態の防音材10の製造方法に関する説明は以上である。次に、防音材10の作用効果について説明する。
【0059】
本実施形態の防音材10では、ポリウレタンフォーム11の発泡セル30に含まれるクローズドセル30Bの数が、ポリウレタンフォーム11の内部より吸音面11Mである第2面11Yに近いほど少ない構造になっているので、音による振動が従来より容易にポリウレタンフォーム11の内部に取り込まれ易くなり、従来より防音性の高い防音材を得ることができる。また、本開示の防音材では、音による振動がポリウレタンフォーム11のうち切り込み13内の側面からも取り込まれるので、切り込み13がない場合に比べて防音材11の防音性を向上させることができる。さらに、ポリウレタンフォーム11に表皮材21が重ねられているので、切り込み13を形成することによる防音材10の強度低下が抑えられる。
【0060】
上述した構造を有するポリウレタンフォーム11は、吸音面11Mから内部に圧縮ガスを吹き込ませてクローズドセル30Bのセル膜に破断孔を追加工することで得られる。また、ポリウレタンフォーム11の厚み方向における同じ位置では、切り込み13に近いほどクローズドセル30Bの数が少なくなるまで圧縮ガスをポリウレタンフォーム11に吹き込ませることで、切り込み13内の側面から進入した騒音に対する吸音性が向上する。
【0061】
ポリウレタンフォーム11の切り込み13が格子状に形成されていることで、吸音面11M全体に切り込み13を容易に分散させることができ、吸音面11M全体に圧縮ガスが容易に吹き込まれ、ポリウレタンフォーム11の吸音面11Mに近い位置で吸音性を高くすることができる。また、切り込み13がポリウレタンフォーム11の厚さ方向のうち表皮材21の含浸硬化層22との境界部分まで形成されているので、防音材10が容易に曲げ変形され、防音材10の取り付けが容易になると共に、ポリウレタンフォーム11が切り込み13から裂けてしまうことが抑制される。
【0062】
なお、防音材10は、ポリウレタンフォーム11のうち第1面11X又は第2面11Yのうち少なくともいずれか一方で吸音性を有していればよく、切り込み13内の側面が吸音性を有していなくてもよい。
【0063】
本実施形態の防音材10の表皮材21は通気性を有しているが、表皮材21は非通気性を有していてもよい。表皮材21が非通気性であると、防音材10の遮音性が向上し、防音性を向上させることが可能となる。但し、ポリウレタンフォーム11の第1面11Xが吸音面11Mとなる防音材10を得るには、含浸硬化層22を含む表皮材21が通気性を有していることが好ましい。
【0064】
本実施形態の防音材10は、表皮材21とポリウレタンフォームとで構成されていたが、表皮材21を有さずポリウレタンフォーム11だけで構成されていてもよい。或いは、防音材10のうち表皮材21に覆われていない第2面11Yが、被覆材等に覆われてもよい。
【0065】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態の防音材10は、吸音面11Mがポリウレタンフォーム11の第1面11X又は第2面11Yに形成されていたが、吸音面11Mが外周面11Eにも形成されていてもよい。
【0066】
(2)上記実施形態の防音材10では、防音材10が平坦な状態で、切り込み13が閉じていていたが、切り込み13が拡開されていてもよい。
【0067】
(3)上記実施形態の防音材10は、切り込み13が格子状に入れられていたが、一方向に延びる平行線状に入れられていてもよい。また、切り込み13によって分割されたポリウレタンフォーム11の形状は上記実施形態では矩形状であったが、三角形状、円形状、台形状、多角形状等であってもよい。また、切り込み13は直線状でなくてもよく、曲線状であってもよい。また、切り込み13の直線状切り込み15の間隔や深さが異なっていてもよい。さらに、切り込み13が、ポリウレタンフォーム11の端まで延びていなくてもよい。
【実施例
【0068】
以下、実施例及び比較例によって上記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明の防音材は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
1.防音材の構成及び製造方法
実施例1~4、比較例1,2では、上述の第3実施形態の製造方法のように、A液とB液を混合した原料11Gを反応させてポリウレタンフォーム11(半硬質ポリウレタンフォーム)を発泡成形すると共に表皮材21をポリウレタンフォーム11の片面(第1面)に一体化させることで、500mm×500mm×20mm(厚み)のサイズの防音材を得た。そして、実施例1~4、比較例2では、そのサイズの防音材に後述の追加工を行った。ポリウレタンフォーム11の厚みは18mm、表皮材21の厚みは2mmである。実施例1~4、比較例2は、ポリウレタンフォーム11に対する追加工の有無又は追加工の種類が互いに異なっていて、ポリウレタンフォーム11の原料11Gや表皮材21は同じである。
【0070】
なお、実施例1~4、比較例1,2では、発泡成形時の離型剤としては、コニシ株式会社製の直鎖状炭化水素ワックス「URM-520」を用いた。
【0071】
1)ポリウレタンフォーム
各実施例、各比較例では、ポリウレタンフォーム11の原料11Gは同じである。原料11Gの組成の詳細は、以下の通りである。
【0072】
<A液>
ポリオール1;ポリエーテルポリオール(30重量部、数平均分子量:5500、官能基数:3.6、水酸基価:31.5mgKOH/g)
ポリオール2;ポリマーポリオール(70重量部、数平均分子量:5000、官能基数:3、水酸基価25mgKOH/g、固形分濃度:30%)
発泡剤;水(4.35重量部)
アミン触媒1;昭和化学株式会社製の「ジエタノールアミン」(2.50重量部)
アミン触媒2;エボニックジャパン株式会社製の「DABCO BL-11」(0.37重量部)
整泡剤;エボニックジャパン株式会社製の「TEGOSTAB B8715LF2」(0.50重量部)
添加剤;ポリエーテルポリオール(1.85重量部、数平均分子量:5000、官能基数:3、水酸基価34mgKOH/g)
<B液>
ポリイソシアネート;ポリメリックMDI(NCO価31.5%)
【0073】
なお、イソシアネートインデックスは、105とした。イソシアネートインデックスとは、ポリイソシアネートのイソシアネート基のモル数を、ポリオール、発泡剤(水)等の全活性水素基のモル数で除した値に100をかけた値である。
2)表皮材
実施例4、比較例3,4では、表皮材21を繊維シート21,21(内側の繊維シート21A及び外側の繊維シート21B)の2枚重ね構成とした。内側の繊維シート21Aは、繊維径が3デニールのPET繊維からなり、目付量は100g/mである。外側の繊維シート21Bは、繊維径が6デニールのPET繊維からなり、目付量は150g/mである。なお、表皮材21では、内側の繊維シート21Aのみに、アクリル酸エステル系樹脂が含浸されていて、その含浸量は、50g/mとなっている。
【0074】
3)追加工の種類
実施例、比較例の防音材を製造する際に行った追加工の詳細は以下の通りである。
【0075】
(1)ブロー処理
ブロー処理では、圧縮空気を、防音材の表面にブローガンのノズルNの先端面を接触させた状態で吹き込んだ。このブロー処理は、防音材の表裏の少なくとも一方の面に対して行い、その面の全体に行った(以下、適宜、ブロー処理を行った面をブロー処理面という)。使用したブローガンのノズルNにおける圧縮空気の噴出口の直径は1.6mmであり、防音材に吹き込む圧縮空気の動圧は0.6MPaである。
【0076】
(2)切り込み処理
切り込み処理では、上記第4実施形態と同様にして、ポリウレタンフォーム11の表裏のうち表皮材21と反対側の面(第2面)から厚み方向に切り込みを入れる切り込み処理を行った。具体的には、第2面の全体に格子状の切り込み13を形成した。切り込み13は、互いに平行になった複数の直線状の切り込み15群同士が直交してなる。直線状の切り込み15同士の間隔は、5~150mmである。また、切り込み13の防音材への切り込み深さは、図23の通りである。
【0077】
<実施例1>
第1面(表皮材側の面)にはブロー処理のみを行い、第2面には切り込み処理を行ってからブロー処理を行った。切り込み処理では、切り込み13を表皮材21との境界まで行った(切り込み13がポリウレタンフォーム11を貫通している)。
<実施例2>
第1面にはブロー処理のみを行い、第2面には切り込み処理のみを行った。切り込み処理では、切り込み13を表皮材21との境界まで行った(切り込み13がポリウレタンフォーム11を貫通している)。
<実施例3>
第1面には追加工を行わず、第2面には切り込み処理を行ってからブロー処理を行った。切り込み処理では、切り込み13を表皮材21との境界まで行った(切り込み13がポリウレタンフォーム11を貫通している)。
<実施例4>
第1面には追加工を行わず、第2面には切り込み処理のみを行った。切り込み処理では、切り込み13を表皮材21との境界まで行った(切り込み13がポリウレタンフォーム11を貫通している)。
<比較例1>
防音材に追加工を行っていない。そのため、破断孔32Yが形成されていない。
<比較例2>
第1面には追加工を行わず、第2面には切り込み処理のみを行った。なお、切り込み処理では、ポリウレタンフォーム11の第2面寄り位置までの深さの浅い切り込み(深さ5mm)を形成した。
【0078】
2.評価
各実施例と各比較例について、外観、クローズドセル比、硬さ、残響室法吸音率、透過損失等を評価した。測定項目の測定方法は以下の通りである。
【0079】
<測定方法>
(1)密度
JIS K7222:2005に基づいて防音材の見かけ密度を測定した。具体的には、500mm×500mm×20mm(厚み)のテストピースを100mm×100mm×20mm(厚み)に裁断して測定を行った。
【0080】
(2)通気量
JIS K6400-7 B法:2012に基づいて通気量を測定した。具体的には、防音材を厚さ方向に分割するようにスライスして得た3つのスライスサンプル(100mm角)について、空気を下面から上面に通過させて通気量を測定した。詳細には、第1面側に配置された表皮材20のみからなるスライスサンプルと、ポリウレタンフォーム11のうち厚み方向の中央部分である中央部スライスサンプル(厚み4mm)と第2面を含む第2面側スライスサンプル(厚み4mm)と、を作成した。そして、前者1つのスライスサンプル(表皮材20)については、含浸層22側から通気させ(含浸層22側を下側に配置し)、中央部スライスサンプルと第2面側スライスサンプルについては、第2面側から通気させて(第2面側を下側に配置して)測定した。
【0081】
(3)クローズドセル比
走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子株式会社製)にて、ポリウレタンフォーム11の外周面11Eのうち中央部と表層部10Sにおける所定面積の領域(図2の中央領域D,表面側領域Sを参照)を観察し、その所定面積の領域におけるクローズドセル30Bの個数を数えた。そして、中央領域Dのクローズドセル30Bの個数に対しての表面側領域Sのクローズドセル30Bの個数の比をクローズドセル比とした。なお、中央領域Dは、ポリウレタンフォーム11の厚み方向の中央位置10Dが中央領域Dの中央となるように決定し、表面側領域Sは、ポリウレタンフォーム11の厚み方向において表面から深さ3mmまでの範囲内に収まるように決定した。また、中央領域D,表面側領域SにおいてSEMで観察した上記所定面積は、2.5mm×2.5mmである。なお、クローズドセル比が低いということは、ポリウレタンフォーム11の内部よりも表面側の方がクローズドセルの数が少ないということである。なお、SEMの拡大倍率を35倍とした。
【0082】
クローズドセル比は、0.7以下の場合には◎、0.7より大きくかつ1.0以下の場合には○、1.0より大きい場合には×、と評価した。
【0083】
(4)セル径
走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子株式会社製)にて、ポリウレタンフォーム11の外周面11Eにおける厚み方向の中央部(中央領域D(図2参照))の拡大画像に写った発泡セル30のうち、最も大きい発泡セル30と、最も小さい発泡セル30と、その他の任意の3個の発泡セル30と、の合計5個の発泡セルの平均長径及び平均短径から、それら平均長径と平均短径の比(長径/短径)を算出した。発泡セル30の長径とは、SEMで確認した各発泡セル30において、最も長くなった部分の長さであり、発泡セル30の短径とは、SEMで確認した各発泡セル30において、最も短くなった部分の長さである。なお、SEMの拡大倍率を35倍とした。
【0084】
発泡セル30の上記した長径/短径の値は、1以上で1.5以下の場合には◎、1.5より大きい場合には×、と評価した。
【0085】
(5)追加工による変形
追加工の前後での防音材の変形を確認した。具体的には、追加工の前後におけるテストピースの厚みを測定し、その変化を確認した。なお、テストピースの厚みは、テストピースの4辺部のそれぞれについて3か所(両端部、中央部)ずつ厚みを測定し、それら12箇所の厚みの平均値とした。
【0086】
追加工後の防音材の厚みは、19mm以上である場合には◎、18mm以上で19mm未満である場合には○、18mm未満である場合には×、と評価した。なお、上述したように、追加工前の防音材の厚みは、20mmである。
【0087】
(6)硬さ
JIS K6400-2 E法:2012に基づいてポリウレタンフォーム11の硬さを測定した。具体的には、500mm×500mm×20mmのテストピースを200mm×200mm×20mmにカットし、圧縮治具(押圧面が直径80mmの円形になっている。)によって上方から圧縮スピード50mm/minで、テストピースを厚み方向の変形量がテストピースのもとの厚みの80%となるまで圧縮し、その際の50%圧縮時の荷重(50%圧縮硬さ)を測定した。なお、防音材は、第1面が上向きになるように配置した。
【0088】
50%圧縮硬さは、500N以上の場合には◎、500N未満の場合には×、と評価した。
【0089】
(7)透過損失
JIS A1441-1:2007に基づいて透過損失を測定した。具体的には、鉄板(500mm×500mm×0.8mm(厚み)の上にテストピースを重ね、さらにその上にゴム板(500mm×500mm×1.0mm(厚み))を重ねたものを測定サンプルとした。なお、防音材は、第1面が上向きとなるように配置した。
【0090】
透過損失は、50dB以上の場合には◎、48dB以上で50dB未満の場合には○、48dB未満の場合には×、と評価した。
【0091】
(8)残響室法吸音率
JIS A1409:1998に基づいて、防音材のテストピースの残響室法吸音率を測定した。具体的には、500mm×500mm×20mm(厚み)のサイズのテストピースを4枚、残響室の床面に敷き詰めたものを、1m×1m×20mmのサイズの測定サンプルとして、各周波数における残響室法吸音率を測定した。この際、測定サンプルの外周をアルミ製の固定具で覆い、テストピース同士、テストピースと固定具の隙間をアルミテープでシールした。そして、周波数500、630、800、1000、1250、1600、2000、2500、3150、4000、5000、6300Hzにおける吸音率を、第1面を上向きにした配置と第2面を上向きにした配置との両方で測定し、それら全ての測定値の平均値を、そのテストピースの残響室法吸音率とした。
【0092】
残響室法吸音率は、0.50以上の場合には◎、0.45以上で0.50未満の場合には○、0.45未満の場合には×、と評価した。
【0093】
(9)反り
防音材を、表皮材21側(第1面側)が上向きとなるように水平面に載置して、ポリウレタンフォーム11と水平面との間の隙間のうち最も大きい隙間を測定し、その値を反りとした。
【0094】
反りは、0.5mm以下の場合には◎、0.5mmより大きく5mm以下の場合には○、5mmより大きい場合には×、と評価した。
【0095】
上記した評価項目が、全て◎の場合を総合評価「◎」、○があるが×がない場合を総合評価「○」、×が1つでもある場合を総合評価「×」、とした。
【0096】
<評価結果>
図7に示されるように、追加工としてブロー処理が行われた実施例1~3では、追加工が行われていない比較例1に比べて、残響室法吸音率が大幅に向上することが確認できた(評価◎)。実施例1~3では、比較例1に対して透過損失も良好となっている(評価◎)。また、実施例1と実施例3との比較からわかるように、ブロー処理は、防音材の片面からだけよりも両面から行った方が残響室法吸音率の向上が大きくなることがわかった。また、実施例4と比較例1との比較から、追加工として切り込み処理を行うと、残響室法吸音率及び損失係数が良好になることも確認できた。
【0097】
実施例1~4と比較例2との比較から、切り込み13をポリウレタンフォーム11のうち表皮材21(含浸硬化層22)寄り位置まで深く入れることで、反りが改善されることがわかる(評価◎)。比較例2では、切り込み13が形成されているものの、ポリウレタンフォーム11の第2面(表皮材と反対面)寄り位置までの浅い切り込みであるため、反りが大きかった(評価×)。
【0098】
以上のように、切り込み処理を行った実施例1~4の防音材では、比較例1,2の防音材に比べて、反りを抑えつつ吸音性を向上可能であることが確認できた(総合評価が○以上)。
【符号の説明】
【0099】
10 防音材
11 ポリウレタンフォーム
11A 原料
11X 第1面
11Y 第2面
13 切り込み
21 表皮材
22 含浸硬化層
30 発泡セル
30B クローズドセル
31 セル膜
32Y 破断孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7