(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】ストッパ、ストッパ装置、携帯用加工機とともに使用する付属品セット、および、プランジ加工を行う方法
(51)【国際特許分類】
B27B 9/04 20060101AFI20240722BHJP
B23D 47/02 20060101ALI20240722BHJP
B27G 19/04 20060101ALI20240722BHJP
B27B 9/00 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B27B9/04
B23D47/02
B27G19/04 Z
B27B9/00 E
(21)【出願番号】P 2020151959
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 弘
(72)【発明者】
【氏名】青山 修司
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-022376(JP,A)
【文献】実公平06-030388(JP,Y2)
【文献】米国特許第07798187(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0023541(US,A1)
【文献】特開2011-143526(JP,A)
【文献】特開平05-208401(JP,A)
【文献】実開昭60-072201(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27B 9/04
B23D 47/02
B27G 19/04
B27B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材に当接させるためのベースを有する携帯用加工機と、長尺定規と、ともに使用するためのストッパ装置であって、
前記長尺定規の長手方向に沿った前記携帯用加工機の移動を前記ベースとの当接によって規制することによって加工開始位置を規定するための第1のストッパと、
前記長尺定規の長手方向に沿った前記携帯用加工機の移動を前記ベースとの当接によって規制することによって加工終了位置を規定するための第2のストッパと、
を備え、
前記ストッパ装置は、前記長尺定規の長手方向における前記第1のストッパと前記第2のストッパとの距離を調節可能に前記長尺定規に取り付けられるように構成され
、
前記第1のストッパおよび前記第2のストッパの各々は、
前記ベースと一体的に前記長尺定規上をスライド可能となるように前記ベースと連結可能に構成され、スライド方向の両側にそれぞれ永久磁石を有する連結部と、
前記永久磁石を挿入可能な収容部であって、該収容部から前記永久磁石が抜け止めされた状態で前記永久磁石を収容する収容部と
を備え、
前記ベースは、前記スライド方向の両側の端部に強磁性体を備える
ストッパ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のストッパ装置であって、
前記第1のストッパおよび前記第2のストッパの各々は、互いに分離された個別の部品であり、
前記第1のストッパは、前記長尺定規に固定解除可能に固定するための第1の固定機構を有し、
前記第2のストッパは、前記長尺定規に固定解除可能に固定するための第2の固定機構を有する
ストッパ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のストッパ装置であって、
前記第1の固定機構および前記第2の固定機構の各々は、
雄ネジが形成された軸部を有するつまみネジと、前記雄ネジに螺合するネジ孔を有する押圧部材と、を備え、
前記つまみネジを締めることによって、前記長尺定規の所定部位を前記つまみネジと前記押圧部材とで挟持可能に構成される
ストッパ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のストッパ装置であって、
前記第1のストッパおよび前記第2のストッパの各々は、剛体から形成された
ストッパ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のストッパ装置であって、
前記第1のストッパおよび前記第2のストッパは、互いに同一の構成を有する
ストッパ装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項
5のいずれか一項に記載のストッパ装置であって、
前記第1のストッパおよび前記第2のストッパの各々の前記連結部は、前記第1のストッパおよび前記第2のストッパが前記長尺定規に取り付けられた状態において前記長手方向の第1の側に配置される第1の連結部と、前記第1の側と反対の第2の側に配置される第2の連結部と、を含む
ストッパ装置。
【請求項7】
被加工材に当接させるためのベースを有する携帯用加工機と、長尺定規と、ともに使用するためのストッパであって、
前記長尺定規の長手方向に沿った前記携帯用加工機の移動を前記ベースとの当接によって規制することによって加工開始位置
および加工終了位置の少なくとも一方を規定するために、前記長尺定規に取り付け可能に構成され、
前記ベースと一体的に前記長尺定規上をスライド可能となるように前記ベースと連結可能に構成され
、スライド方向の両側にそれぞれ永久磁石を有する連結部
と、
前記永久磁石を挿入可能な収容部であって、該収容部から前記永久磁石が抜け止めされた状態で前記永久磁石を収容する収容部と
を備え
、
前記ベースは、前記スライド方向の両側の端部に強磁性体を備える
ストッパ。
【請求項8】
携帯用加工機とともに使用する付属品セットであって、
請求項1ないし請求項
7のいずれか一項に記載のストッパ装置またはストッパと、
前記長尺定規と
を備える付属品セット。
【請求項9】
被加工材に当接させるためのベースを有する携帯用加工機と、長尺定規と、を用いてプランジ加工を行う方法であって、
前記長尺定規の長手方向に移動可能に前記長尺定規にストッパを取り付ける第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記携帯用加工機のベースに対して、前記携帯用加工機を加工開始位置から加工終了位置まで移動させるときの移動方向の後方に前記ストッパが位置するように、前記ベースに前記ストッパを連結する第2の工程と、
前記第2の工程の後に、前記携帯用加工機を基準として前記ストッパを位置決めして、前記ストッパを前記長尺定規に固定する第3の工程と、
前記第3の工程の後に、前記ストッパと前記ベースとが当接した状態で、プランジ加工を開始する第4の工程と
を備える方法。
【請求項10】
被加工材に当接させるためのベースを有する携帯用加工機と、長尺定規と、を用いてプランジ加工を行う方法であって、
前記長尺定規の長手方向に移動可能に前記長尺定規にストッパを取り付ける第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記携帯用加工機のベースに対して、前記携帯用加工機を加工開始位置から加工終了位置まで移動させるときの移動方向の前方に前記ストッパが位置するように、前記ベースに前記ストッパを連結する第2の工程と、
前記第2の工程の後に、前記携帯用加工機を基準として前記ストッパを位置決めして、前記ストッパを前記長尺定規に固定する第3の工程と、
前記第3の工程の後に、前記加工開始位置から、前記ストッパと前記ベースとが当接するまで前記携帯用加工機を移動させることによって前記プランジ加工を行う第4の工程と
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工材に当接させるためのベースを有する携帯用加工機と、長尺定規と、ともに使用するためのストッパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯用プランジマルノコ(以下、単にマルノコとも呼ぶ)と称される切断機が知られている(例えば、下記の特許文献1)。この種のマルノコは、被切断材に当接させるための当接面を有する略矩形のベースと、本体部と、を備えている。本体部は、電動モータと、電動モータによって回転駆動される円盤形状の鋸刃と、を備えている。鋸刃は、付勢部材によって上側に向けて付勢された状態でカバー内に収容されている(このときの鋸刃の位置を上死点とも呼ぶ)。
【0003】
かかるマルノコを使用する際、ユーザは、ベースの当接面が被切断材に当接するように、マルノコを被切断材の切断開始位置に配置する。次いで、ユーザは、鋸刃が回転した状態で鋸刃を上死点から下死点まで変位させる。このとき、鋸刃の下部がベースよりも下方に突出して、被切断材の切断が開始される。次いで、ユーザは、鋸刃の位置を下死点に維持しつつ、マルノコを切断終了位置まで前方に移動させる(このときのマルノコの移動方向を切断方向とも呼ぶ)。そして、ユーザは、鋸刃の回転を停止させてから鋸刃を上死点に戻す。このような切断方法はプランジカットと称させる。被切断材上に切断開始位置から切断終了位置まで墨線が付されている場合、その墨線に基づいて、プランジカット中の被切断材に対するマルノコの位置決めが行われる。
【0004】
このようなプランジカット作業を補助するために、マルノコとともに長尺定規が使用されることがある。例えば、マルノコのベースの底面に、切断方向に延在する直線状の溝部が形成されている場合には、この溝部に嵌合する直線状の凸部が長手方向に沿って形成された長尺定規を使用することができる。具体的には、使用者は、長尺定規の凸部とベースの溝部とが嵌合するように長尺定規およびマルノコを配置し、この嵌合状態を保ちながらマルノコを切断方向に移動させる。これにより、被切断材を切断開始位置から切断終了位置までまっすぐに切断することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のプランジマルノコは、長尺定規とともに使用されたとしても、依然としてプランジカット時の操作性について改善の余地を残している。具体的には、長尺定規を使用すれば、長尺定規の短手方向における切断位置は、墨線に正確に一致させることができるが、長手方向における切断位置は、墨線に必ずしも正確に一致させることができる訳ではない。
【0007】
例えば、切断終了位置で正確に切断を終了するためには、鋸刃の位置を墨線の終点に正確に位置合わせした状態で、プランジカットを終了する必要がある。切断終了位置でのこのような位置合わせは、鋸刃を目視しつつ行われるか、あるいは、鋸刃を覆うカバーに設けられた鋸刃の位置を表すマーカーを目視しつつ行われる。いずれの場合にしても、マルノコを前方に移動させながら、切断の進行状況を慎重に目視確認する必要があるので、ユーザの負担が大きくなる。あるいは、操作ミスによって、切断終了位置で正確に切断を終了できない恐れがあった。
【0008】
あるいは、回転する鋸刃が切断開始位置において上死点から下死点に変位され、被切断材に接触すると、マルノコは、被切断材から反力を受けることになる。ユーザがこの反力に耐えきれず、被切断材に対するマルノコの位置がずれると、切断開始位置は、当然に、正確な位置からずれることになる。
【0009】
上述の問題は、プランジマルノコを使用する場合に限らず、種々の携帯用加工機を使用してプランジ加工を行う場合に共通する。このようなことから、携帯用加工機を使用してプランジ加工を行う場合の操作性を向上することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、被加工材に当接させるためのベースを有する携帯用加工機と、長尺定規と、ともに使用するためのストッパ装置が提供される。このストッパ装置は、長尺定規の長手方向に沿った携帯用加工機の移動をベースとの当接によって規制するための第1のストッパと、長尺定規の長手方向に沿った携帯用加工機の移動をベースとの当接によって規制するための第2のストッパと、を備えている。ストッパ装置は、長尺定規の長手方向における第1のストッパと第2のストッパとの距離を調節可能に長尺定規に取り付けられるように構成される。
【0011】
このストッパ装置は、例えば、以下のようにして使用することができる。まず、ユーザは、被加工材上の適所に長尺定規を固定する。次いで、ユーザは、携帯用加工機が加工終了位置にあるときに携帯用加工機の移動方向(以下、単に移動方向と呼ぶ)における携帯用加工機の前方で第1のストッパがベースと当接するように、長尺定規に対する第1のストッパの位置を固定する。次いで、ユーザは、携帯用加工機が加工開始位置にあるときに移動方向における携帯用加工機の後方で第2のストッパがベースと当接するように、長尺定規に対する第2のストッパの位置を固定する。第1のストッパおよび第2のストッパの位置決めに際して、携帯用加工機は、携帯用加工機が駆動されていない状態で、加工刃を覆うカバーに設けられた加工刃の位置を表すマーカーと、墨線と、を位置合わせすることによって、加工終了位置および加工開始位置へ正確に配置され得る。次いで、ユーザは、携帯用加工機の後方で第2のストッパがベースと当接するように携帯用加工機を加工開始位置へ配置し、加工刃を回転させながら上死点から下死点まで変位させる。次いで、ユーザは、加工刃を回転させながら、ベースが第1のストッパに当接するまで、携帯用加工機を長尺定規に沿って前方へ移動させる。このようにして、携帯用加工機が加工終了位置まで移動されると、ユーザは、加工刃の回転を停止させた後に加工刃を下死点から上死点まで戻す。
【0012】
このようにしてストッパ装置を使用してプランジ加工を行えば、回転する加工刃が加工開始位置において上死点から下死点に変位され、被加工材に接触した際に、携帯用加工機が被加工材から後ろ向きの反力を受けたとしても、第2のストッパが携帯用加工機の後方でベースと当接して携帯用加工機の後方への移動を規制する。このため、携帯用加工機が後方にずれることがない。しかも、ベースが第1のストッパに当接するまでユーザが携帯用加工機を長尺定規に沿って前方へ移動させれば、携帯用加工機は、自ずと、正確な加工終了位置に停止する。したがって、ユーザは、携帯用加工機を正確な加工終了位置に停止させるために携帯用加工機の前方への移動状況(つまり、加工の前方への進行状況)を慎重に目視確認する必要が無い。その結果、操作性が向上するとともに、正確な加工が可能になる。
【0013】
本発明の一態様によれば、第1のストッパおよび第2のストッパの各々は、互いに分離された個別の部品であってもよい。第1のストッパは、長尺定規に固定解除可能に固定するための第1の固定機構を有していてもよい。第2のストッパは、長尺定規に固定解除可能に固定するための第2の固定機構を有していてもよい。この態様によれば、第1のストッパと第2のストッパとを連結する必要が無いので、ストッパ装置全体としてコンパクト化できる。また、コンパクト化に伴って、ストッパ装置を取り扱いやすくなるので、操作性も向上する。
【0014】
本発明の一態様によれば、第1の固定機構および第2の固定機構の各々は、雄ネジが形成された軸部を有するつまみネジと、雄ネジに螺合するネジ孔を有する押圧部材と、を備えていてもよい。第1の固定機構および第2の固定機構の各々は、つまみネジを締めることによって、長尺定規の所定部位をつまみネジと押圧部材とで挟持可能に構成されてもよい。この態様によれば、簡単な構成で、第1のストッパおよび第2のストッパを長尺定規に取り付けることができる。
【0015】
本発明の一態様によれば、第1のストッパおよび第2のストッパは、剛体から形成されてもよい。この態様によれば、第1のストッパおよび第2のストッパの各々は、どの部分がベースと当接しても、実質的に変形することなく、携帯用加工機の移動を規制することができる。したがって、第1のストッパおよび第2のストッパの各々は、携帯用加工機の前方に取り付けられた場合、および後方に取り付けられた場合の両方において、その機能を果たすことができる。このため、ユーザは、第1のストッパおよび第2のストッパを区別することなく、携帯用加工機の前方および後方のいずれでも、長尺定規に取り付け可能となり、操作性が向上する。
【0016】
本発明の一態様によれば、第1のストッパおよび第2のストッパは、互いに同一の構成を有していてもよい。この態様によれば、第1のストッパおよび第2のストッパが互いに異なる構成を有する場合と比べて、ストッパ装置の製造工程を簡略化できるとともに、製造コストを低減できる。
【0017】
本発明の一態様によれば、第1のストッパおよび第2のストッパの各々は、ベースと一体的に長尺定規上をスライド可能となるようにベースと連結可能に構成された連結部を備えていてもよい。この態様によれば、携帯用加工機の加工開始位置および加工終了位置に対応する位置に第1のストッパおよび第2のストッパをそれぞれ位置決めする際に、携帯用加工機を適所に移動させれば、第1のストッパおよび第2のストッパも一体的に移動して、適所に配置される。このため、携帯用加工機、第1のストッパおよび第2のストッパをそれぞれ、個別に適所に移動させる必要がなく、操作性が向上する。
【0018】
本発明の一態様によれば、第1のストッパおよび第2のストッパの各々の連結部は、第1のストッパおよび第2のストッパが長尺定規に取り付けられた状態において長手方向の第1の側に配置される第1の連結部と、第1の側と反対の第2の側に配置される第2の連結部と、を含んでいてもよい。この態様によれば、ユーザは、第1のストッパおよび第2のストッパを区別することなく、携帯用加工機の前方および後方のいずれに取り付けても、連結部を機能させることができる。したがって、操作性が向上する。
【0019】
本発明の一態様によれば、被加工材に当接させるためのベースを有する携帯用加工機と、長尺定規と、ともに使用するためのストッパが提供される。このストッパは、長尺定規の長手方向に沿った携帯用加工機の移動をベースとの当接によって規制するために、長尺定規に取り付け可能に構成される。ストッパは、ベースと一体的に長尺定規上をスライド可能となるようにベースと連結可能に構成された連結部を備えている。このストッパは、上述した第1のストッパおよび第2のストッパのいずれかと同様の態様で使用することができる。さらに、この態様によれば、携帯用加工機の加工開始位置または加工終了位置に対応する位置にストッパを位置決めする際に、携帯用加工機を適所に移動させれば、ストッパも一体的に移動して、適所に配置される。このため、携帯用加工機とストッパとをそれぞれ、個別に適所に移動させる必要がなく、操作性が向上する。
【0020】
本発明の一態様によれば、連結部は永久磁石を備えていてもよい。この態様によれば、磁石の吸着力を利用して、簡単な構成でベースと連結部とを連結でできる。ベースには、連結部と連結する箇所に強磁性体部材が取り付けられてもよい。
【0021】
本発明の一態様によれば、ストッパ装置またはストッパは、永久磁石を挿入可能な収容部であって、当該収容部から永久磁石が抜け止めされた状態で永久磁石を収容する収容部を備えていてもよい。この態様によれば、簡単な構造で、永久磁石がストッパ(または、第1および第2のストッパ)に保持され得る。
【0022】
本発明の一態様によれば、携帯用加工機とともに使用する付属品セットが提供される。この付属品セットは、上述のストッパ装置およびストッパのいずれかと、長尺定規と、を備えている。この付属品セットによれば、上述のストッパ装置およびストッパと同様の効果が得られる。
【0023】
本発明の一態様によれば、被加工材に当接させるためのベースを有する携帯用加工機と、長尺定規と、を用いてプランジ加工を行う方法が提供される。この方法は、長尺定規の長手方向に沿って携帯用加工機を加工開始位置から加工終了位置まで移動させつつ被加工材をプランジ加工する第1の工程と、携帯用加工機が加工開始位置にあるときに携帯用加工機の移動方向における携帯用加工機の後方でベースと当接するように、第1の工程よりも前に、ストッパを長尺定規に取り付ける第2の工程と、を備えている。第1の工程において、第2の工程によって取り付けられたストッパとベースとが当接した状態で、プランジ加工が開始される。この方法によれば、プランジ加工の開始時に携帯用加工機が被加工材から後ろ向きの反力を受けたとしても、ストッパが携帯用加工機の後方でベースと当接して携帯用加工機の後方への移動を規制する。このため、携帯用加工機が後方にずれることがない。
【0024】
本発明の一態様によれば、被加工材に当接させるためのベースを有する携帯用加工機と、長尺定規と、を用いてプランジ加工を行う方法が提供される。この方法は、長尺定規の長手方向に沿って携帯用加工機を加工開始位置から加工終了位置まで移動させつつ被加工材をプランジ加工する第1の工程と、携帯用加工機が加工終了位置にあるときに携帯用加工機の移動方向における携帯用加工機の前方でベースと当接するように、第1の工程よりも前に、ストッパを長尺定規に取り付ける第2の工程と、を備えている。第1の工程において、第2の工程によって取り付けられたストッパとベースとが当接するまで携帯用加工機を移動させることによって、プランジ加工が行われる。この方法によれば、携帯用加工機は、自ずと、正確な加工終了位置に停止する。したがって、ユーザは、慎重な目視を必要とすることなく、携帯用加工機を正確な加工終了位置に停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態によるストッパとともに使用される長尺定規の斜視図である。
【
図5】
図4のA-A線に沿ったストッパの縦断面図である。
【
図6】
図4のB-B線に沿ったストッパの縦断面図である。
【
図8】ストッパを長尺定規に取り付けた状態を示す断面図である。
【
図9】前側ストッパを位置決めする様子を示す斜視図である。
【
図11】
図9と反対側から見た、前側ストッパを位置決めする様子を示す斜視図である。
【
図12】後側ストッパを位置決めする様子を示す斜視図である。
【
図13】
図12と反対側から見た、後側ストッパを位置決めする様子を示す斜視図である。
【
図14】切断開始位置で切断を開始した様子を示す斜視図である。
【
図15】切断終了位置まで切断を進めた様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態による携帯用マルノコ(以下、単にマルノコと呼ぶ)10、長尺定規60およびストッパ100を用いてプランジカットを行う方法について図面を参照して説明する。以下の説明では、ユーザがマルノコ10を手に持って被切断材を切断するときにマルノコ10を進行させる方向(切断が進められる方向であり、切断方向とも呼ぶ)を前側とし、その反対方向を後側と定義する。また、このとき、鉛直方向上方に位置する側を上側と定義し、その反対側を下側と定義する。
【0027】
まず、マルノコ10、長尺定規60およびストッパ100の構成について説明する。マルノコ10は、いわゆるプランジマルノコである。プランジマルノコは周知であるので、マルノコ10の構成については簡略的に説明する。
図10に示すように、マルノコ10は、ベース20と本体部30とカバー40とを備えている。ベース20は、略矩形の外形を有している。ベース20の底面には、前後方向に延在する溝が形成されている(図示せず)。この溝は、後述する長尺定規60の凸部61が嵌合可能に構成される。
【0028】
本体部30は、基本的には、ベース20に対して上側に配置される。本体部30は、電動モータ(図示せず)と、チップソーと称される円盤形状の鋸刃(図示せず)と、を備えている。鋸刃は、電動モータによって回転駆動される。カバー40は、鋸刃を少なくとも部分的に覆う。鋸刃を含む本体部30は、ベース20およびカバー40に対して揺動可能であり、円弧状の軌跡を描きながら上下方向に変位するように構成される。鋸刃を含む本体部30は、ベース20と本体部30との間に配置された圧縮バネ(図示せず)によって、ベース20と反対側に向けて(つまり、上側に向けて)付勢されている。
【0029】
鋸刃が上死点にあるときは、鋸刃はカバー40内に完全に収容される。換言すれば、鋸刃は、全体的に、ベース20よりも上方に位置している。一方、本体部30が押し下げられることによって鋸刃が下死点にあるときは、鋸刃の一部(下側の略半分)は、ベース20よりも下側に位置し、被切断材の切断が可能になる。
【0030】
カバー40には、マーカー41,42が付されている。マーカー41は、鋸刃が下死点にあるときの鋸刃の前端位置(つまり、切断可能な範囲の前端)を示している。マーカー42は、鋸刃が下死点にあるときの鋸刃の後端位置(つまり、切断可能な範囲の後端)を示している。
【0031】
図1に示すように、長尺定規60は、上方から見て、長方形の形状を有している。長尺定規60は、凸部61とガイド溝部62とを備えている。凸部61およびガイド溝部62は、長尺定規60の長手方向D1に延在している。凸部61は、上述の通り、マルノコ10のベース20の底面に形成された溝に嵌合する部分である。ガイド溝部62は、長手方向D1に直交する方向D2(以下、短手方向D2と呼ぶ)における長尺定規60の一方の端部に位置している。ガイド溝部62の上端に位置するガイド溝上端部64は、短手方向D2の両端から互いに近づくように内側に向けて突出している。ガイド溝上端部64によって、ガイド溝部62の上側の開口は狭められている。凸部61とガイド溝部62との間には、長手方向D1に沿って凹部63が形成されている。この長尺定規60は、使用時には、長手方向D1が前後方向となるように配置される。
【0032】
図2~7に示すように、ストッパ100は、ストッパ本体110を備えている。
図2および
図3における方向表示は、ストッパ100の使用時における向きを示しており、「D1」は長尺定規60の長手方向D1を、「D2」は長尺定規60の短手方向D2を表している。ストッパ本体110は、略直方体の上部111と、2つの突出部112と、1つの突出部113と、を備えている。2つの突出部112は、短手方向D2における上部111の一方の端部付近において、上部111から下方に突出しており、長手方向D1に離間して配置されている。突出部113は、短手方向D2における上部111の中央を含む領域で、上部111から下方に突出している。突出部113は、長手方向D1における上部111の幅全体に亘って形成されている。
【0033】
ストッパ100は、さらに、ストッパ100を長尺定規60に固定解除可能に固定するための固定機構の一例として、つまみネジ120と、押圧部材130と、を備えている。
図7に示すように、つまみネジ120は、つまみ部121と、つまみ部121の一端から延在する軸部122と、を備えている。軸部122には雄ネジが形成されている。軸部122は、ワッシャ140を介して、上部111に形成された貫通孔117に挿入されている。軸部122の先端は、貫通孔117を貫通して上部111から下方に突出している。
【0034】
図7に示すように、押圧部材130は、略直方体のプレートであり、軸部122の雄ネジに螺合するネジ孔131を有している。
図3および
図5に示すように、押圧部材130は、軸部122とネジ孔131とが螺合することによって、軸部122の先端に取り付けられている。
図3に示すように、押圧部材130は、2つの突出部112の間に配置される。
図3に示すように、押圧部材130の短手方向D2の幅は、突出部112の短手方向D2の幅よりも大きい。このため、押圧部材130は、長手方向D1の両側において、突出部112よりも外側に突出している。
【0035】
このような構造を有するストッパ100は、本実施例では、全体的に剛体から形成されている。つまり、ストッパ100は、後述する手順で使用した際にベース20と衝突しても変形しない材料から形成されている。ストッパ本体110は、例えば、硬質プラスチックから形成されていてもよく、押圧部材130は、例えば、金属から形成されていてもよい。
【0036】
このストッパ100は、
図8に示すように、突出部112および押圧部材130が長尺定規60のガイド溝部62内に配置された状態で長尺定規60に固定される。突出部112および押圧部材130は、長尺定規60の長手方向D1の両端部からガイド溝部62内に挿入できる。突出部112および押圧部材130がガイド溝部62内に配置された状態では、突出部113は凹部63内に収容される。ガイド溝上端部64の開口よりも大きいので、押圧部材130は、ガイド溝上端部64の開口から上方に抜け出ることはない。
図8に示す状態でつまみネジ120を締めると、つまみ部121と押圧部材130との距離が小さくなり、つまみ部121と押圧部材130とによってガイド溝上端部64が上下方向に挟持される。これによって、ストッパ100は、長手方向D1に沿った任意の位置で長尺定規60に固定され得る。つまみネジ120および押圧部材130によれば、簡単な構成で、ストッパ100を長尺定規60に固定することができる。
【0037】
図6に示すように、ストッパ本体110は、突出部113の内部空間の形態の2つの収容部116を備えている。収容部116は、長手方向D1における突出部113の両端付近にそれぞれ位置している。収容部116の各々には、永久磁石150が収容されている。
図3および
図6に示すように、収容部116は、突出部113の底面に形成された開口114によって外部と連通している。開口114は、収容部116と同じ大きさを有している。
図3および
図5に示すように、開口114の短手方向D2の中央には、返し115が形成されている。返し115は、その上端において、収容部116の長手方向D1の幅を、永久磁石150とほぼ同じ幅に制限している。このため、開口114を介して下方から永久磁石150を収容部116内へ押し込んで挿入することはできるが、永久磁石150が収容部116に一旦収容されると、永久磁石150は、返し115によって抜け止めされる。この構成によれば、簡単な構造で、永久磁石150がストッパ100に保持される。
【0038】
この永久磁石150は、つまみネジ120が緩められ、かつ、マルノコ10のベース20とストッパ100とが当接した状態において、ストッパ100がベース20と一体的に長尺定規60上をスライド可能となるように、ベース20と連結可能にするために設けられる。この目的のために、ベース20のうちのストッパ100と当接可能な箇所には、強磁性体が取り付けられる。強磁性体は、クリップ、両面テープ、接着剤など任意の手法でベース20に取り付けられてもよい。
【0039】
以上説明したストッパ100、長尺定規60およびマルノコ10を用いてプランジカットを行う方法の一例について、
図9~15を参照して、以下に説明する。本実施態様では、上述した構成を有する2つのストッパ100が使用される。つまり、同一構成を有する2つのストッパ100が使用される。2つのストッパ100のうち、一方はマルノコ10よりも前方に配置され、他方はマルノコ10よりも後方に配置される。このため、以下の説明では、便宜上、マルノコ10よりも前方に配置されるストッパ100を前側ストッパ100aと呼び、マルノコ10よりも後方に配置されるストッパ100を後側ストッパ100bと呼ぶ。
【0040】
以下では、
図9に示すように、被切断材90上に付された墨線91のうちの墨線91aに沿って、切断開始位置P1から切断終了位置P2までプランジカットを行う作業を例示する。墨線91は矩形形状を有しており、墨線91aは、当該矩形の1つの辺に相当する。プランジカット作業を行うために、ユーザは、まず、
図9および
図10に示すように、長尺定規60と墨線91aとを位置合わせして、長尺定規60を被切断材90に固定する。この固定作業は、公知の任意の固定手段(図示せず)を利用して行うことができる。
【0041】
次いで、ユーザは、長尺定規60上にマルノコ10を載置する。次いで、ユーザは、ストッパ100の突出部112および押圧部材130が、長尺定規60のガイド溝部62内に配置されるように、前側ストッパ100aおよび後側ストッパ100bを長尺定規60上に載置する。このとき、前側ストッパ100aおよび後側ストッパ100bのつまみネジ120は緩められており、前側ストッパ100aおよび後側ストッパ100bは、長手方向D1に沿って長尺定規60上をスライド可能である。
【0042】
次いで、ユーザは、
図9~11に示すように、前側ストッパ100aおよび後側ストッパ100bをベース20に当接させる。その結果、前側ストッパ100aおよび後側ストッパ100bの永久磁石150と、ベース20に取り付けられた強磁性体と、の間で作用する吸着力によって、前側ストッパ100aおよび後側ストッパ100bは、ベース20と一体的にスライド可能に、ベース20と連結する。
【0043】
この状態において、ユーザは、
図10に示すように、鋸刃の下死点での前端位置を表すマーカー41の位置と、切断終了位置P2と、が一致するように、マルノコ10を移動させる。上述の通り、前側ストッパ100aおよび後側ストッパ100bはベース20と連結しているので、マルノコ10を移動させると、前側ストッパ100aおよび後側ストッパ100bも一体的に移動する。次いで、ユーザは、前側ストッパ100aのつまみネジ120を締めて、長尺定規60に対する前側ストッパ100aの位置を固定する。
【0044】
次いで、ユーザは、
図12および
図13に示すように、マルノコ10を後方にスライドする。より具体的には、ユーザは、
図12に示すように、鋸刃の下死点での後端位置を表すマーカー42(
図10参照)の位置と、切断開始位置P1と、が一致するように、マルノコ10を後方に移動させる。このとき、前側ストッパ100aは長尺定規60に固定されているので、前側ストッパ100aとベース20との連結状態は、永久磁石150の吸着力に抗って解除される。つまり、前側ストッパ100aは、ベース20と前側ストッパ100aとが当接したときにマーカー41と切断終了位置P2とが一致する位置に留まっている。一方、後側ストッパ100bは、ベース20との連結状態を保ったまま、マルノコ10と一体的に後方に移動することになる。次いで、ユーザは、後側ストッパ100bのつまみネジ120を締めて、長尺定規60に対する後側ストッパ100bの位置を固定する。
【0045】
次いで、ユーザは、
図14に示すように、マルノコ10の鋸刃を回転させ、その後、鋸刃を上死点から下死点まで変位させる。これにより、被切断材90の切断が開始される。このとき、回転する鋸刃が被切断材90に接触するので、マルノコ10は、被切断材90から後ろ向きの反力を受ける。ユーザがこの反力に耐えきれない場合であっても、マルノコ10の後方への移動は、ベース20に当接している後側ストッパ100bによって規制されるので、マルノコ10が、ユーザの意図に反して、切断開始位置P1よりも後方を切断する位置まで移動することはない。
【0046】
次いで、ユーザは、
図15に示すように、ベース20が前側ストッパ100aに当接するまで、マルノコ10を前方に向けてスライドさせる。前側ストッパ100aは、上述の通り、マーカー41と切断終了位置P2とが一致する位置に固定されているので、マルノコ10は、自ずと、正確な所望の位置で停止する。したがって、ユーザは、慎重な目視確認を必要とすることなく、マルノコ10を望ましい位置まで移動できる。次いで、ユーザは、鋸刃の回転を停止させた後、鋸刃を下死点から上死点に戻す。こうして、墨線91aに沿ったプランジカットは終了する。
【0047】
上述したマルノコ10、長尺定規60およびストッパ100によれば、ユーザは、非常に簡単な操作を行うだけで、墨線91aに沿ったプランジカットを正確な位置精度で行うことができる。しかも、2つのストッパ100は、互いに分離された個別の部品であるから、コンパクトであり、取扱いもしやすい。
【0048】
さらに、ストッパ100は、全体的に剛体から形成されているので、ストッパ100の前側および後側のいずれがベース20と衝突しても、ストッパ100は変形しない。したがって、ユーザは、2つのストッパ100のうち、いずれを前側ストッパ100aとして使用してもよく、同様に、いずれを後側ストッパ100bとして使用してもよい。したがって、ユーザは、2つのストッパ100を区別して取り扱う必要が無い。また、永久磁石150が、長手方向D1の両端に設けられていることからも、同様の効果が得られる。
【0049】
さらに、同一の構成を有する2つのストッパ100が使用されるので、その製造工程も簡略化でできる。ただし、互いに構成が異なる2つのストッパが使用されてもよい。
【0050】
さらに、ストッパ100は、永久磁石150によってベース20と一体的にスライド可能に構成されるので、マルノコ10とストッパ100とを位置決めする際に、これらを個別に適所に移動させる必要がない。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、上述した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各要素の任意の組み合わせ、または、任意の省略が可能である。
【0052】
例えば、ストッパ100を長尺定規60に固定するための固定機構として、上述したつまみネジ120および押圧部材130に代えて、任意の構造および形式が採用されてもよい。例えば、長尺定規60の凸部61を横方向に挟持するように構成されたつまみネジおよび押圧部材が採用されてもよい。あるいは、ネジ構造に代えて、スプリングクランプが利用されてもよい。
【0053】
また、ストッパ100がベース20と一体的にスライド可能とする連結構造として、上述した永久磁石150に代えて、任意の構造および形式が採用されてもよい。例えば、ストッパ100とベース20とに連結可能なフックが利用されてもよい。
【0054】
また、2つのストッパ100を必ずしも同時に使用する必要は無く、前側ストッパ100aおよび後側ストッパ100bのうちの一方のみが使用されてもよい。例えば、後側ストッパ100bのみが使用されてもよい。この場合、プランジカットにおけるマルノコ10の前方への移動の停止位置は、従来通り、目視確認によって決定されてもよい。
【0055】
また、互いに分離された個別の部品としての2つのストッパ100に代えて、互いに対する距離を調節可能な2つのストッパが連結された一体型のストッパ装置が使用されてもよい。この場合、例えば、2つのストッパは、伸縮式のロッドで連結されていてもよい。
【0056】
さらに、上述した種々の形態は、プランジマルノコに限らず、プランジ加工を行うための種々の携帯用加工機にも適用可能である。このような携帯用加工機は、例えば、プランジタイプの溝切りカッタ、ルータなどであってもよい。
【符号の説明】
【0057】
10...マルノコ
20...ベース
30...本体部
40...カバー
41,42...マーカー
60...長尺定規
61...凸部
62...ガイド溝部
63...凹部
64...ガイド溝上端部
90...被切断材
91,91a...墨線
100...ストッパ
100a...前側ストッパ
100b...後側ストッパ
110...ストッパ本体
111...上部
112,113...突出部
114...開口
115...返し
116...収容部
117...貫通孔
120...つまみネジ
121...つまみ部
122...軸部
130...押圧部材
131...ネジ孔
140...ワッシャ
150...永久磁石
D1...長手方向
D2...短手方向
P1...切断開始位置
P2...切断終了位置