(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】洗浄廃液の処理装置および洗浄廃液の処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 1/22 20060101AFI20240722BHJP
B01F 23/53 20220101ALI20240722BHJP
B01F 27/921 20220101ALI20240722BHJP
C07D 207/267 20060101ALI20240722BHJP
B01F 35/92 20220101ALI20240722BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240722BHJP
【FI】
B01D1/22 B
B01F23/53
B01F27/921
C07D207/267
B01F35/92
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2020159055
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2019186434
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000176763
【氏名又は名称】三菱ケミカルエンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520350627
【氏名又は名称】愛尓集新能源(南京)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】田村 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】西島 陽大郎
(72)【発明者】
【氏名】唐 渊
(72)【発明者】
【氏名】方 南日
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/142314(WO,A1)
【文献】特開2015-037778(JP,A)
【文献】特開2010-105257(JP,A)
【文献】特開2007-099690(JP,A)
【文献】特開2015-026603(JP,A)
【文献】特開2005-108531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 1/00- 8/00
B01F 21/00-25/90
B01F 27/00-27/96
B01F 35/00-35/95
C07D 207/267
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の電極製造工程から排出される洗浄廃液を処理する装置であって、洗浄廃液が、
洗浄に使用されたNMPを主成分とし且つ電極材料を構成する固形成分を含む洗浄廃液であり、電極製造工程から導入された洗浄廃液を撹拌する撹拌手段と、当該撹拌手段から洗浄廃液を取り出す送液ラインと、当該送液ラインによって洗浄廃液が供給され且つ洗浄廃液中の洗浄液を蒸発させて固形成分を分離する蒸発分離手段とから構成され、前記撹拌手段で洗浄廃液を撹拌しながら前記送液ラインにより前記蒸発分離手段に洗浄廃液を供給するようになされていることを特徴とする洗浄廃液の処理装置。
【請求項2】
撹拌手段が、槽本体に撹拌装置を有する撹拌槽である請求項1に記載の洗浄廃液の処理装置。
【請求項3】
撹拌手段が撹拌槽であり、当該撹拌槽が、内部に撹拌翼を有する槽本体と、当該槽本体の外周部に配置された加熱手段とを備え、前記槽本体内の洗浄廃液を加熱可能に構成されている請求項1に記載の洗浄廃液の処理装置。
【請求項4】
撹拌手段が撹拌槽であり、当該撹拌槽が、内部に撹拌翼を有する槽本体と、当該槽本体の外周部に配置された加熱手段とを備え、前記槽本体内の洗浄廃液を加熱可能に構成されており、前記槽本体において洗浄廃液を40~90℃に加熱可能に構成されている請求項1に記載の洗浄廃液の処理装置。
【請求項5】
撹拌手段が撹拌槽であり、当該撹拌槽が、ポンプによる循環ラインを有する槽本体と、当該槽本体の外周部に配置された加熱手段とを備え、前記槽本体内の洗浄廃液を加熱可能に構成されている請求項1に記載の洗浄廃液の処理装置。
【請求項6】
撹拌手段が撹拌槽であり、当該撹拌槽が、ポンプによる循環ラインを有する槽本体と、当該槽本体の外周部に配置された加熱手段とを備え、前記槽本体内の洗浄廃液を加熱可能に構成されており、前記槽本体において洗浄廃液を50~90℃に加熱可能に構成されている請求項1に記載の洗浄廃液の処理装置。
【請求項7】
蒸発分離手段が薄膜蒸発器である請求項1に記載の洗浄廃液の処理装置。
【請求項8】
蒸発分離手段が薄膜蒸発器であり、当該薄膜蒸発器が、その一端部から洗浄廃液が供給される円筒状の蒸発器本体と、当該蒸発器本体の中心線に沿って配置された回転羽根と、前記蒸発器本体の外周部に配置された加熱手段とを有し、前記蒸発器本体の内周面に付着した固形成分物を前記回転羽根で掻き取って前記蒸発器本体の他端部から排出する構造を備えている請求項1に記載の洗浄廃液の処理装置。
【請求項9】
撹拌槽から洗浄廃液を取り出して蒸発分離手段に供給する送液ラインには、加熱装置が付設され、蒸発分離手段に供給する洗浄廃液を60~100℃に加熱可能に構成されている請求項1に記載の洗浄廃液の処理装置。
【請求項10】
リチウムイオン二次電池の電極製造工程から排出される洗浄廃液を処理装置によって処理する方法であって、洗浄廃液が、
洗浄に使用されたNMPを主成分とし且つ電極材料を構成する固形成分を含む洗浄廃液であり、前記処理装置が、電極製造工程から導入された洗浄廃液を撹拌する撹拌手段と、当該撹拌手段から洗浄廃液を取り出す送液ラインと、当該送液ラインによって洗浄廃液が供給され且つ洗浄廃液中の洗浄液を蒸発させて固形成分を分離する蒸発分離手段とから構成され、当該処理方法においては、前記撹拌手段によって洗浄廃液を撹拌し、固形成分を拡散させた状態で洗浄廃液を前記蒸発分離手段に供給することにより、当該蒸発分離手段において洗浄廃液中の洗浄液を蒸発させて固形成分を分離することを特徴とする洗浄廃液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄廃液の処理装置および洗浄廃液の処理方法に関するものであり、詳しくは、リチウムイオン二次電池の電極製造工程から排出される洗浄廃液から液体成分と固形成分とを効率的に分離して回収処理を容易にする処理装置および処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の電極製造工程においては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等、リチウム化合物などの活物質、ポリフッ化ビニリデン等のバインダー及び溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」と略記する。)から成る電極材料を基材に塗布し、これを焼成して陽極を作成する。また、炭素、チタン等を含むリチウム化合物、ポリフッ化ビニリデン等のバインダー及び溶媒としての水から成る電極材料を基材に塗布し、これを焼成して陰極を作成する。
【0003】
また、電極製造工程では、電極材料の調合操作に併せて、調合に使用される調合槽の洗浄が行われるが、その場合、正極製造工程の調合槽においては、通常、洗浄液としてNMPが使用され、また、陰極製工程の調合槽においては、洗浄液として水が使用される。そして、これらの調合槽から排出される洗浄廃液は、多くの場合、各々、IBC容器(Intermediate Bulk Container)等の可搬式容器に収容され、処理工場に搬送されて廃棄処理される。
【0004】
ところで、上記のような電極製造工程においては、調合槽から洗浄除去される電極材料に対して多量の洗浄液を使用し、発生する洗浄廃液の全量を可搬式容器で搬出、廃棄処理するため、洗浄廃液の処理が電極製造コストに大きく影響している。従って、電極製造工程においては、洗浄廃液から固形成分である電極材料を分離して廃液を出来る限り減容し、また、洗浄液として使用したNMPを回収することが望まれる。
【0005】
電極製造工程から排出される洗浄廃液は、洗浄液と電極材料との懸濁液であり、これら液体成分と固形成分とを分離するには、蒸発分離による処理が考えられる。そして、例えば、蒸発による分離処理としては、NMPの精製にも使用されるような蒸留装置を利用する方法(特許文献1参照)、あるいは、薄膜蒸発器を利用する方法などが挙げられる(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-56484号公報
【文献】特開2007-99690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウムイオン二次電池の電極製造工程から排出される洗浄廃液は、上記のような懸濁液であり、固形成分がその比重の大きさから沈降し易いため、蒸発によって分離処理しようとした場合、蒸発装置に導入するまでの流路や機器類、蒸発装置内の機器類の閉塞が発生し、実際、円滑に且つ連続的に処理するのが難しいという問題が生じる。従って、電極製造工程においては、液体成分と固形成分とを確実に分離し得る実現可能な技術が望まれる。
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、リチウムイオン二次電池の電極製造工程から排出される洗浄廃液を処理する処理装置および処理方法であって、液体成分と固形成分とを効率的に分離し、液体成分を十分に回収でき且つ廃液を減容処理できる洗浄廃液の処理装置および洗浄廃液の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明においては、電極製造工程から排出される洗浄廃液を蒸発分離手段に供給し、蒸発により固形成分を分離するに当たり、予め、撹拌手段によって洗浄廃液を撹拌して固形成分を均一に拡散させ、固形成分を拡散させた状態で蒸発分離手段に供給することにより、流路や装置内での固形成分の滞留、付着を防止しするようにした。更に、洗浄廃液を蒸発分離手段に供給するに当たり、洗浄廃液の撹拌と共に、洗浄廃液を所定温度まで加熱することにより、蒸発分離手段における蒸発効率を高めるようにした。
【0010】
すなわち、本発明は2つの要旨から成り、その第1の要旨は、リチウムイオン二次電池の電極製造工程から排出される洗浄廃液を処理する装置であって、洗浄廃液が、固形成分である電極材料と洗浄液との懸濁液であり、電極製造工程から導入された洗浄廃液を撹拌する撹拌手段と、当該撹拌手段から洗浄廃液を取り出す送液ラインと、当該送液ラインによって洗浄廃液が供給され且つ洗浄廃液中の洗浄液を蒸発させて固形成分を分離する蒸発分離手段とから構成され、前記撹拌手段で洗浄廃液を撹拌しながら前記送液ラインにより前記蒸発分離手段に洗浄廃液を供給するようになされていることを特徴とする洗浄廃液の処理装置に存する。
【0011】
また、本発明の第2の要旨は、リチウムイオン二次電池の電極製造工程から排出される洗浄廃液を処理装置によって処理する方法であって、洗浄廃液が、固形成分である電極材料と洗浄液との懸濁液であり、前記処理装置が、電極製造工程から導入された洗浄廃液を撹拌する撹拌手段と、当該撹拌手段から洗浄廃液を取り出す送液ラインと、当該送液ラインによって洗浄廃液が供給され且つ洗浄廃液中の洗浄液を蒸発させて固形成分を分離する蒸発分離手段とから構成され、当該処理方法においては、前記撹拌手段によって洗浄廃液を撹拌し、固形成分を拡散させた状態で洗浄廃液を前記蒸発分離手段に供給することにより、当該蒸発分離手段において洗浄廃液中の洗浄液を蒸発させて固形成分を分離することを特徴とする洗浄廃液の処理方法に存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、固形成分を拡散させた状態で蒸発分離手段に洗浄廃液を供給するため、固形成分による流路や機器の閉塞を防止できる。また、洗浄廃液の撹拌と共に、洗浄廃液を所定温度まで加熱することにより、蒸発分離手段での蒸発効率を更に高めることができるため、液体成分と固形成分の分離効率を向上でき、かつ、高沸成分や過酸化物の生成を抑制できる。そして、本発明によれば、廃液の減容処理が可能になるため、電極の製造コストを一層低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る洗浄廃液の処理方法および洗浄廃液の処理装置の主要な構成を示すフロー図である。
【
図2】本発明に使用される撹拌手段の一例の撹拌槽の構造を示す縦断面図である。
【
図3】本発明に使用される蒸発分離手段としての薄膜蒸発器の一例の構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る洗浄廃液の処理装置(以下、「処理装置」と略記する。)及び当該処理装置を使用した本発明に係る洗浄廃液の処理方法(以下、「処理方法」と略記する。)の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
本発明は、リチウムイオン二次電池の電極製造工程から排出される洗浄廃液を処理するために適用される。上記の洗浄廃液は、固形成分である電極材料と洗浄液との懸濁液であり、陽極製造工程の調合槽から排出される洗浄廃液は、洗浄に使用されるNMPを主成分とし且つ電極材料を構成する固形成分やバインダーを含んでいる。また、陰極製造工程の調合槽から排出される洗浄廃液は、洗浄に使用される水を主成分とし且つ電極材料を構成する固形成分やバインダーを含んでいる。
【0016】
先ず、本発明の処理装置について説明する。本発明の処理装置は、各電極の製造工程から排出された各々の洗浄廃液ごとに適用される。以下の実施形態においては、陽極製造工程から排出され且つNMPを含む洗浄廃液の処理に適用される処理装置の一例について説明する。なお、処理装置を示す
図1~3においては、弁類、温度計、液面計および制御装置を省略している。
【0017】
図1に示すように、本発明の処理装置は、電極製造工程から導入された洗浄廃液を撹拌する撹拌手段と、当該撹拌手段から洗浄廃液を取り出す送液ラインと、当該送液ラインによって洗浄廃液が供給され且つ洗浄廃液中の洗浄液を蒸発させて固形成分を分離する蒸発分離手段とから構成されており、撹拌手段で洗浄廃液を撹拌しながら前記の送液ラインにより蒸発分離手段に洗浄廃液を供給するようになされている。
【0018】
通常、電極製造工程の後段には、塗布装置の調合槽(図示省略)から洗浄廃液排出用の流路10を通じて従前の可搬式容器40に洗浄廃液が貯留されるようになされている。そして、処理装置においては、流路11、ポンプ31、流路12から成る被処理液供給ラインを通じて、可搬式容器40から上記の撹拌手段に洗浄廃液が導入されるようになされている。
【0019】
撹拌手段としては、図示するような撹拌槽6が挙げられる。撹拌槽6は、後述するように、上記の蒸発分離手段に供給する洗浄廃液中の固形成分を分散させるために配置されたものであり、斯かる撹拌槽6としては、洗浄廃液を撹拌し得る回転翼やスクリュー等の撹拌装置を備えたものであれば、適宜の構造の槽を利用することができる。更に、上記の蒸発分離手段に供給する洗浄廃液の流動性を高めるため、撹拌槽6は、加熱手段を備えているものが好ましい。
【0020】
具体的には、
図2に示すように、撹拌槽6は、内部に撹拌翼62を有する槽本体60と、当該槽本体の外周部に配置された加熱用の例えばジャケット61とを備えている。槽本体60は、内容量が5~20m
3程度の密閉型容器であり、上端側には、上記の流路12が繋ぎ込まれた被処理液入口60aが設けられ、下端側には、後述する流路13が繋ぎ込まれた被処理液出口60bが設けられている。槽本体60の底部近傍に配置された撹拌翼62は、槽本体60の上端から挿通された駆動軸によって回転可能に構成されている。ジャケット61は、槽本体60の外周部に加熱媒体としての蒸気を循環させる加熱釜であり、その上端部には、加熱媒体供給口61aが設けられ、その下端部には、加熱媒体排出口(ドレン)61bが設けられている。
【0021】
また、図示を省略するが、撹拌手段としての撹拌槽は、他の構造の撹拌装置を備えていてもよい。例えば、撹拌槽は、ポンプによる循環ラインを槽本体に有していてもよい。斯かるポンプによる撹拌装置は、槽本体の底部から洗浄廃液を抜き出す流路、ポンプ、槽本体の上部に洗浄廃液を還流する流路を順次繋いで構成されている。更に、上記の撹拌槽6と同様に、撹拌槽は、槽本体の外周部に配置されたジャケット等の加熱手段を備え、前記槽本体内の洗浄廃液を加熱可能に構成されているのが好ましい。更に、撹拌手段としては、懸濁液を撹拌しながら移送するスクリューポンプ等も利用することができる。
【0022】
なお、上記の撹拌手段における加熱手段としては、ジャケットのように槽の外周部に配置されるもの他、内部に配置されるヒーター等、各種の熱交換器を使用することができる。そして、図示しないが、上記の加熱手段により洗浄廃液を所定温度に加熱するようになされている。例えば、撹拌槽6に設けられた温度センサー及び処理装置の制御装置により、槽本体60内の洗浄廃液の温度を検出し、槽本体60内の洗浄廃液を40~90℃、好ましくは70~90℃に加熱可能に構成されている。
【0023】
図1に示すように、撹拌槽6から洗浄廃液を取り出してこれを上記の蒸発分離手段に供給する上記の送液ラインは、流路13、ポンプ32、流路14、流路15によって構成されている。更に、好ましくは、蒸発分離手段に供給する洗浄廃液の流動性を高め且つ洗浄廃液の温度を蒸発温度に近づけるため、送液ラインは、ポンプ32の下流側、すなわち、流路14と流路15の間に加熱装置51が付設されており、斯かる加熱装置51により、送液する洗浄廃液を60~100℃、好ましくは80~100℃に加熱可能に構成されている。なお、加熱装置51としては、スパイラル型などの各種の熱交換器を使用することができる。
【0024】
ところで、NMPを含む洗浄廃液を蒸発により回収する場合、高沸成分や過酸化物の生成を抑制するため、出来る限り低い温度で且つ短い滞留時間で蒸発させることが好ましい。そこで、本発明においては、洗浄廃液を蒸発させて固形成分を分離する上記の蒸発分離手段として、例えば薄膜蒸発器が使用される。薄膜蒸発器は、蒸発面に被処理液の薄膜を形成してこれを加熱し、被処理液の精製、濃縮などを行う公知の装置であり、通常は減圧条件下で運転され、比較的低温で液体成分を蒸発させることができる。具体的には、薄膜蒸発器として、
図3に示すような流下式の薄膜蒸発器7が使用される。
【0025】
図3に示す薄膜蒸発器7は、その一端部から洗浄廃液が供給される円筒状の蒸発器本体70と、当該蒸発器本体の中心線に沿って配置された回転羽根72と、蒸発器本体70の外周部に配置された加熱手段とを有し、蒸発器本体70の内周面に被処理液である洗浄廃液の薄膜を形成すると共に、残留する固形成分物を回転羽根72で掻き取って蒸発器本体70の他端部から排出する構造を備えている。
【0026】
薄膜蒸発器7において、蒸発器本体70は、伝熱面積が2~10m2程度の金属製の円筒状容器であり、その内周面を蒸発面として使用される。蒸発器本体70の上端部は、被処理液供給排出部として構成されており、流路15に繋ぎ込まれた被処理液入口70aを通じて洗浄廃液が供給され、流路16に繋ぎ込まれた蒸気出口70bを通じて、洗浄廃液から分離された蒸気(NMP)を排出するようになされている。
【0027】
回転羽根72は、蒸発器本体70の中心に挿通された駆動軸73に沿って例えば螺旋状に配置されており、回転羽根72の先端部は、蒸発器本体70の内周面に略接触する状態に構成されている。駆動軸73は、蒸発器本体70の上端の上蓋74に設けられた軸受と、蒸発器本体70の下端の底蓋75に設けられた軸受とで支持されている。また、底蓋75には、スラッジである固形成分を下方へ落下させるスリット75cが設けられており、薄膜蒸発器7は、後述する流路23に繋ぎ込まれたスラッジ排出口76から固形成分を排出するように構成されている。
【0028】
蒸発器本体70の外周部の加熱手段としては、通常、加熱媒体としての蒸気を循環させるジャケット71が使用される。前述の撹拌槽6と同様に、ジャケット71は、蒸発器本体70の蒸気を循環させる加熱釜であり、その上端部には、加熱流体入口71aが設けられ、その下端部には、加熱流体出口(ドレン)71bが設けられている。
【0029】
図1に示すように、処理装置においては、その系内を後述する真空ポンプ34で減圧するため、薄膜蒸発器7で分離された固形成分をスラッジ回収容器8に流路23を通じて取り出して一旦貯留するようになされている。そして、スラッジ回収容器8の底部には、搬出ラインである流路24、ポンプ35、流路25が繋ぎ込まれており、斯かる搬出ラインを通じて、スラッジ回収容器8内の固形成分を搬出用の可搬式容器41に移し替えるように構成されている。
【0030】
一方、上記の薄膜蒸発器7の被処理液供給排出部には、蒸気回収ラインとしての前述の流路16が接続されており、流路16の下流側には、凝縮器52が配置されている。そして、処理装置においては、薄膜蒸発器7で分離されたNMPの蒸気を凝縮器52で液化し、液化されたNMPを分離液回収容器9に流路17を通じて回収するようになされている。なお、凝縮器52としては、多管式熱交換器などの各種の熱交換器を使用することができる。
【0031】
分離液回収容器9は、前述のスラッジ回収容器8と同様に、系内を減圧状態に保持するために配置されている。分離液回収容器9の底部には、流路18、ポンプ33、流路19、冷却器53、流路20から成る液体取出ラインが繋ぎ込まれており、処理装置においては、斯かる液体取出ラインを通じて、分離液回収容器9のNMPを回収液貯槽42に収容するようになされている。冷却器53は、回収液貯槽42に収容するNMPを常温に冷却するために配置されたものであり、冷却器53としては、多管式熱交換器などの各種の熱交換器を使用することができる。
【0032】
また、処理装置においては、その系内を減圧して薄膜蒸発器7における蒸発を促進させるため、例えば分離液回収容器9の上部は、流路21を介して真空ポンプ34に接続されている。また、系内への大気の侵入を防止し、回収されるNMPにおける過酸化物の生成を抑制するため、窒素などの不活性ガスを供給するための流路22が、例えば上記の流路21に接続されている。
【0033】
次に、上記の処理装置を使用した本発明の処理方法について説明する。電極製造工程から排出される洗浄廃液、例えば陽極製造工程の塗布装置から排出され且つNMPを主成分とする洗浄廃液は、流路10を通じて可搬式容器40に貯留される。
【0034】
本発明の処理方法においては、先ず、流路11、ポンプ31、流路12を通じて、可搬式容器40の洗浄廃液を撹拌手段としての例えば撹拌槽6へ導入する。電極製造工程の規模によっても異なるが、撹拌槽6への洗浄廃液の導入量は、例えば100~500kg/時に設定する。また、処理装置を運転する際は、流路22を通じて系内に例えば窒素を供給しながら、真空ポンプ34を稼働させて系内を1~10kPaAに減圧する。
【0035】
次いで、撹拌槽6において、洗浄廃液の液面レベルが所定の高さに達した際、撹拌翼62を回転させて洗浄廃液を撹拌し、これにより、洗浄廃液中の固形成分を拡散させる。また、同時に、ジャケット61に加熱用の蒸気を供給して撹拌槽6内の洗浄廃液を40~90℃、好ましくは70~90℃に加熱する。これにより、洗浄廃液の流動性を高め且つ蒸発温度に近づけることができる。そして、撹拌槽6において撹拌しながら、送液ラインである流路13、ポンプ32、流路14及び流路15を通じて、蒸発分離手段としての薄膜蒸発器7へ洗浄廃液を供給する。
【0036】
また、薄膜蒸発器7へ洗浄廃液を供給するに当たり、上記の送液ラインにおいて、加熱装置51により更に洗浄廃液を60~100℃、好ましくは80~100℃まで加熱する。これにより、洗浄廃液の流動性を維持し、かつ、洗浄廃液の温度を蒸発温度に一層近づけることができる。すなわち、本発明の処理方法では、洗浄廃液中の固形成分を拡散させ且つ粘度を低下させた状態で薄膜蒸発器7へ洗浄廃液を供給することにより、流路や機器類における閉塞を防止する。しかも、蒸発温度に近づけた状態で薄膜蒸発器7へ洗浄廃液を供給することにより、薄膜蒸発器7の機能を十分に発揮させる。
【0037】
薄膜蒸発器7においては、蒸発器本体70に洗浄廃液を供給しながら、回転羽根72を回転させる。また、その際、ジャケット71に加熱用の蒸気を供給し、蒸発器本体70を例えば100~130℃に加熱する。これにより、薄膜蒸発器7においては、蒸発器本体70の内表面に洗浄廃液の薄膜が形成され、洗浄液の蒸発が促進される。本発明の処理方法においては、上記のように、薄膜蒸発器7に供給する洗浄廃液を撹拌し且つ加熱して蒸発温度に近づけるため、薄膜蒸発器7における蒸発効率を一層高めることができる。
【0038】
薄膜蒸発器7においては、上記のように洗浄廃液の薄膜を形成することにより、洗浄液中の洗浄液を蒸発させて固形成分を分離する。そして、分離した固形成分を回転羽根72で連続的に掻き取り、蒸発器本体70からスラッジ排出口76を通じて下方へ排出する。また、蒸発させて得られるNMPは蒸発器本体70上端の蒸気出口70bから回収する。
【0039】
薄膜蒸発器7の蒸発分離操作により薄膜蒸発器7から排出される固形成分、すなわち、電極材料を含む固形成分は、流路23を通じてスラッジ回収容器8に回収する。スラッジ回収容器8に回収された固形成分は、流路24、ポンプ35、流路25から成る搬出ラインを通じて例えば可搬式容器41に取り出すことができる。
【0040】
また、薄膜蒸発器7の蒸発分離操作により薄膜蒸発器7から回収される蒸気、すなわち、NMPの蒸気は、流路16を通じて凝縮器52に導入し、当該凝縮器において液化すると共に、流路17を通じて液体のNMPを分離液回収容器9に貯留する。そして、分離液回収容器9のNMPは、流路18、ポンプ33、流路19、流路20を通じて回収液貯槽42に貯蔵することができる。また、回収液貯槽42に送液する際、流路19と流路20との間に介装された冷却器53により、NMPを常温まで冷却する。回収液貯槽42のNMPは、更に従前の各種蒸留法により精製して再利用することができる。
【0041】
上記のように、本発明においては、予め、撹拌槽6において洗浄廃液を撹拌して固形成分を均一に拡散させ、固形成分を拡散させた状態で蒸発分離手段である薄膜蒸発器7に供給するため、流路および装置内での固形成分の滞留、付着、ならびに、固形成分による機器の閉塞を防止することができる。更に、薄膜蒸発器7に洗浄廃液を供給するに当たり、洗浄廃液の撹拌と共に、洗浄廃液の温度を所定温度まで加熱することにより、洗浄廃液の粘度を下げるため、流路や装置内での固形成分の滞留を一層抑制できる。しかも、洗浄廃液の温度を上げることにより、薄膜蒸発器7における蒸発効率を高めることができるため、液体成分と固形成分の分離効率を向上でき、かつ、高沸成分や過酸化物の生成を抑制できる。更に、本発明によれば、廃液の一層の減容処理が可能になるため、電極の製造コストを一層低減することができる。
【0042】
なお、本発明は、上記のように陽極製造工程から排出された洗浄排水の処理と同様に、陰極製造工程から排出され且つ洗浄液として水を含む洗浄廃液の処理にも適用することができ、蒸発分離手段によって水を回収できるため、環境に影響を及ぼすことなくこれを容易に処理でき、また、同様に、廃液の一層の減容処理を行うことができる。
【実施例】
【0043】
実施例:
陽極製造工程の調合槽から排出された洗浄廃液を
図1の装置によって処理し、NMPを分離回収すると共に、電極材料を含む残渣を回収する実験を行った。薄膜蒸発器7の蒸発器本体70における伝熱面積(実質的な蒸発面積)は0.5m
2とした。そして、分離液回収容器9に回収されたNMPを計量し、洗浄廃液の減容率を確認した。主な運転条件および減容率は表1に示す通りであり、かつ、運転中の配管および機器類における閉塞は確認されなかった。
【0044】
比較例:
陽極製造工程の塗布装置から排出された洗浄廃液を実施例と同様の薄膜蒸発器7に供給して蒸発分離処理を行った。その際、流路およびポンプだけから成る搬送ラインを使用し、可搬式容器40から薄膜蒸発器7に洗浄廃液を直接供給したところ、運転開始後に搬送ラインが閉塞し、継続して運転することができなかった。
【0045】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る洗浄廃液の処理装置ならびに洗浄廃液の処理方法は、懸濁液から液体成分と固形成分とを効率的に分離でき、液体成分を十分に回収でき且つ減容処理できるため、リチウムイオン二次電池の電極製造工程から排出され且つ沈降し易い電極材料を含む洗浄廃液の処理に好適である。
【符号の説明】
【0047】
40:可搬式容器
41:可搬式容器
51:加熱装置
52:凝縮器
53:冷却器
6 :撹拌槽
60:槽本体
61:ジャケット(加熱手段)
62:撹拌翼(撹拌手段)
7 :薄膜蒸発器(蒸発分離手段)
70:蒸発器本体
71:ジャケット(加熱手段)
72:回転羽根
76:被処理液供給排出部
77:スラッジ排出口
8 :スラッジ回収容器
9 :分離液回収容器