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特許7524015樹脂組成物、成形品および薄肉成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形品および薄肉成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20240722BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20240722BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20240722BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20240722BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K7/04
C08K5/098
C08K3/01
C08G69/26
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020161097
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054099
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智則
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-062418(JP,A)
【文献】特開2012-062417(JP,A)
【文献】特開2012-061777(JP,A)
【文献】特開2017-210591(JP,A)
【文献】特開2019-143023(JP,A)
【文献】特開2008-163317(JP,A)
【文献】特開2012-017429(JP,A)
【文献】国際公開第2013/038846(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C08G69/00- 69/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の90モル%以上が1,12-ドデカン二酸に由来するポリアミド樹脂100質量部に対し、無機繊維80~150質量部と、脂肪酸金属塩0.01~2質量部と、無機結晶核剤0.1~10質量部を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂組成物を1.0mm厚の成形品に成形し、80℃で48時間乾燥させた後、23℃の水に24時間浸漬した際の質量増加率が0.45%以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機繊維の断面アスペクト比が、2以上である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機結晶核剤が、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、および、窒化ホウ素から選択される1種以上を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸金属塩が、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂の含有量が、28質量%以上47質量%以下であり、かつ、前記無機繊維の含有量が、50~60質量%であり、前記無機結晶核剤の含有量が0.1~4.5質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物を、金型温度100℃にて、1mmの厚の成形品に成形したときの、示差走査熱量測定における結晶化ピークの熱量が1J/g以下であるか、結晶化ピークが観察されない、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記キシリレンジアミンが10~90モル%のメタキシリレンジアミンと、90~10モル%のパラキシリレンジアミン(ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはない)を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記ジカルボン酸が、さらに、セバシン酸を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物を射出成形することを含む、薄肉成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物、成形品および薄肉成形品の製造方法に関する。特に、ポリアミド樹脂と無機繊維を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的なエンジニアリングプラスチックであるポリアミド樹脂は、加工が容易であり、さらに、機械的物性、電気特性、耐熱性、その他の物理的・化学的特性に優れている。このため、車両部品、電気・電子機器部品、その他の精密機器部品等に幅広く使用されている。
このようなポリアミド樹脂の中でも、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂は、優れた機械的強度を有することから、各種用途に広く用いられている(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-143023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、車両部品、電気・電子機器部品、その他の精密機器部品等のいずれにおいても、小型化が進行し、それに伴って、薄肉成形品の需要が進行している。特に、薄肉成形品を射出成形で成形する場合には、樹脂組成物を金型の端部まで確実に流し込むために、優れた流動性が求められる。また、スマートフォンに代表される電子機器等は、機械的強度が高いことも求められる。また、流動性を向上するためには低温成形することが考えられるが、低温成形すると、ポリアミド樹脂の結晶化が十分に進行しない場合がある。
流動長が長く、低温成形でも十分に結晶化が進行するポリアミド樹脂として、ナイロン6が考えられるが、吸水率が高いため、優れた低吸水性が求められる用途には好ましくない。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、機械的強度を高く維持しつつ、スパイラル流動長が長く、低温成形でも十分に結晶化され、水浸漬後の質量増加率を効果的に抑制できる成形品を提供可能な樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた成形品および薄肉成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂であって、ジカルボン酸として、長鎖脂肪族ジカルボン酸を用い、かつ、無機結晶核剤の量を少なくし、離型剤として、脂肪酸金属塩を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数9~18の脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂100質量部に対し、無機繊維80~150質量部と、脂肪酸金属塩0.01~2質量部と、無機結晶核剤0.1~10質量部を含む、樹脂組成物。
<2>樹脂組成物を1.0mm厚の成形品に成形し、80℃で48時間乾燥させた後、23℃の水に24時間浸漬した際の質量増加率が0.45%以下である、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記無機繊維の断面アスペクト比が、2以上である、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記無機結晶核剤が、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、および、窒化ホウ素から選択される1種以上を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記脂肪酸金属塩が、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記ポリアミド樹脂の含有量が、40質量%以上50質量%未満であり、かつ、前記無機繊維の含有量が、50~60質量%であり、前記無機結晶核剤の含有量が0.1~4.5質量%である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記樹脂組成物を、金型温度100℃にて、1mmの厚の成形品に成形したときの、示差走査熱量測定における結晶化ピークの熱量が1J/g以下であるか、結晶化ピークが観察されない、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>前記キシリレンジアミンが10~90モル%のメタキシリレンジアミンと、90~10モル%のパラキシリレンジアミン(ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはない)を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>前記ジカルボン酸が、セバシン酸および/または1,12-ドデカン二酸を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>前記ジカルボン酸が、1,12-ドデカン二酸を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<11><1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<12><1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物を射出成形することを含む、薄肉成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、機械的強度を高く維持しつつ、スパイラル流動長が長く、低温成形でも十分に結晶化され、水浸漬後の質量増加率を効果的に抑制できる成形品を提供可能な樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた成形品および薄肉成形品の製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
【0008】
本実施形態の樹脂組成物は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数9~18の脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂100質量部に対し、無機繊維80~150質量部、脂肪酸金属塩0.01~2質量部と、無機結晶核剤0.1~10質量部を含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、機械的強度を高く維持しつつ、スパイラル流動長が長く、低温成形でも十分に結晶化され、水浸漬後の質量増加率を効果的に抑制できる成形品を提供可能になる。
薄肉成形品を製造するに際し、射出成形で樹脂組成物を金型の末端部まで十分に流し込むには、高い流動性が求められる。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料モノマーとして、炭素数9~18の脂肪族ジカルボン酸を用い、さらに、無機結晶核剤の上限量を調整することにより、流動長を長くすることに成功していると推測される。また、無機結晶核剤の下限量を調整することにより、低温でも結晶化を十分に進行させていると推測される。
【0009】
<ポリアミド樹脂>
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数9~18の脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂である。本明細書では、このようなポリアミド樹脂を、「キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂」ということがある。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる成形品の低吸水性が達成できる。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは85モル%以上、より一層好ましくは90モル%以上、さらに一層好ましくは95モル%以上がキシリレンジアミンに由来する。上限は、100モル%である。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素数が炭素数9~18の脂肪族ジカルボン酸に由来する。上限は100モル%である。
【0010】
キシリレンジアミンは、メタキシリレンジアミンおよび/またはパラキシリレンジアミンが好ましい。
また、キシリレンジアミンが10~90モル%(好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、一層好ましくは50モル%以上、より一層好ましくは55モル%以上、また、好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下)のメタキシリレンジアミンと、90~10モル%(好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは60モル%以下、一層好ましくは50モル%以下、より一層好ましくは45モル%以下、また、好ましくは20モル以上、より好ましくは25モル%以上)のパラキシリレンジアミンを含むことが好ましい。ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはない。
【0011】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0012】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素数9~18(好ましくは炭素数9~14)の脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数9~18のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸である。このような脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でも、機械的物性と低吸水性の両立の観点から、セバシン酸および/または1,12-ドデカン二酸を含むことが好ましく、1,12-ドデカン二酸を含むことがより好ましい。
【0013】
上記炭素数9~18の脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、アジピン酸等の炭素数9未満の脂肪族ジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0014】
本実施形態におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位の0~100モル%(好ましくは10~90モル%)がメタキシリレンジアミンに由来し、100~0モル%(好ましくは10~90モル%)がパラキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上(好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上)がセバシン酸および/または1,12-ドデカン二酸に由来するものが好ましい。
【0015】
なお、本実施形態で用いるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成されるが、これらの構成単位が主成分であればよく、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90%以上を占めることが好ましく、95%以上を占めることがより好ましい。
【0016】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の融点は、150~350℃であることが好ましく、180~330℃であることがより好ましく、200~300℃であることがさらに好ましい。
融点は、示差走査熱量に従い、JIS K7121およびK7122に準じて測定できる。
【0017】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)の下限が、6,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、15,000以上であることが一層好ましく、20,000以上であることがより一層好ましく、22,000以上であることがさらに一層好ましい。上記Mnの上限は、35,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、28,000以下がさらに好ましく、26,000以下が一層好ましい。このような範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0018】
本実施形態の樹脂組成物におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の含有量は、28質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、32質量%以上であることがさらに好ましく、38質量%以上であることが一層好ましく、40質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、優れた流動性を示しつつ高い機械的物性を保持することができる。
また、本実施形態の樹脂組成物におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の含有量は、60質量%以下であることが好ましく、56質量%以下であることがより好ましく、53質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%未満であることが一層好ましく、47質量%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0019】
<無機繊維>
本実施形態の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、無機繊維80~150質量部を含む。無機繊維を含むことにより、得られる成形品の機械的強度を高くすることができる。
無機繊維としては、その種類等特に定めるものではないが、炭素繊維およびガラス繊維が例示され、ガラス繊維を含むことが好ましい。
【0020】
本実施形態における無機繊維とは、繊維状の無機材料を意味し、より具体的には、1,000~10,000本の無機繊維を集束し、所定の長さにカットされたチョップド形状のものが好ましい。
本実施形態における無機繊維は、数平均繊維長が0.5~10mmのものが好ましく、1~5mmのものがより好ましい。このような数平均繊維長の無機繊維を用いることにより、機械的強度をより向上させることができる。数平均繊維長は光学顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維長を測定する対象の無機繊維をランダムに抽出してその長辺を測定し、得られた測定値から数平均繊維長を算出する。観察の倍率は20倍とし、測定本数は1,000本以上として行う。概ね、カット長に相当する。
また、無機繊維の断面は、円形、楕円形、長円形、長方形、長方形の両短辺に半円を合わせた形状、まゆ型等いずれの形状であってもよいが、円形が好ましい。ここでの円形は、数学的な意味での円形に加え、本実施形態の技術分野において通常円形と称されるものを含む趣旨である。楕円形等についても同様である。
本実施形態においては、無機繊維の断面は扁平であることが好ましい。扁平断面を有する無機繊維を用いることにより、得られる成形品の反りを効果的に抑制することができる。また、無機繊維の断面アスペクト比が、2以上であることが好ましく、2~6であることがより好ましい。
無機繊維の数平均繊維径は、下限が、4.0μm以上であることが好ましく、4.5μm以上であることがより好ましく、5.0μm以上であることがさらに好ましい。無機繊維の数平均繊維径の上限は、15.0μm以下であることが好ましく、12.0μm以下であることがより好ましい。なお、無機繊維の数平均繊維径は、電子顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維径を測定する対象のガラス繊維をランダムに抽出し、中央部に近いところで繊維径を測定し、得られた測定値から算出する。観察の倍率は1,000倍とし、測定本数は1,000本以上として行う。円形以外の断面を有するガラス繊維の数平均繊維径は、断面の面積と同じ面積の円に換算したときの数平均繊維径とする。
【0021】
次に、本実施形態で好ましく用いられるガラス繊維について説明する。
ガラス繊維は、一般的に供給されるEガラスの他、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、Mガラス、Rガラス、および耐アルカリガラス等のガラスを溶融紡糸して得られる繊維が用いられるが、ガラス繊維にできるものであれば使用可能であり、特に限定されない。本実施形態では、Eガラスを含むことが好ましい。
【0022】
本実施形態で用いるガラス繊維は、例えば、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。表面処理剤の付着量は、ガラス繊維の0.01~1質量%であることが好ましい。さらに必要に応じて、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウム塩等の帯電防止剤、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤等の混合物で表面処理されたものを用いることもできる。
【0023】
ガラス繊維は市販品として入手できる。市販品としては、例えば、日本電気硝子社製、T-286H、T-756H、T-289H、T-275H、T-296、オーウェンスコーニング社製、DEFT2A、PPG社製、HP3540、日東紡社製、CSG3PA-820、CSG3PA-810S等が挙げられる。
【0024】
本実施形態の樹脂組成物における無機繊維の含有量は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、80質量部以上であり、90質量部以上であることが好ましく、100質量部以上であることがより好ましく、105質量部以上であることがさらに好ましく、110質量部以上であることが一層好ましく、115質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物における無機繊維の含有量は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、150質量部以下であり、145質量部以下であることが好ましく、140質量部以下であることがより好ましく、135質量部以下であることがさらに好ましく、133質量部以下であることが一層好ましく、131質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、無機繊維の表面露出を抑え成形品外観がより向上する傾向にある。
【0025】
本実施形態における無機繊維(好ましくはガラス繊維)の含有量は、また、40質量%以上であることが好ましく、44質量%以上であることがより好ましく、47質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが一層好ましく、53質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。また、本実施形態の樹脂組成物における無機繊維の含有量は、72質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、68質量%以下であることがさらに好ましく、62質量%以下であることが一層好ましく、60質量%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、無機繊維の表面露出を抑え成形品外観がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、無機繊維を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0026】
<無機結晶核剤>
本実施形態の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、無機結晶核剤0.1~10質量部を含む。無機結晶核剤を含むことにより、結晶化を促進させ、ポリアミドの機械的物性を最大限発現させることができる。
無機結晶核剤は、溶融加工時に未溶融であり、冷却過程において結晶の核となり得るものであれば、特に限定されない。
無機結晶核剤としては、グラファイト、二硫化モリブデン、硫酸バリウム、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、燐酸ソーダ、窒化ホウ素、および、カオリンが例示され、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、および、窒化ホウ素から選択される1種以上を含むことが好ましく、タルクおよび炭酸カルシウムから選択される1種以上を含むことがより好ましく、タルクを含むことがさらに好ましい。
無機結晶核剤の数平均粒子径は、下限値が、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。無機結晶核剤の数平均粒子径は、上限値が、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、28μm以下であることが一層好ましく、15μm以下であることがより一層好ましく、10μm以下であることがさらに一層好ましい。数平均粒子径を40μm以下とすることにより、無機結晶核剤の配合量に比して、核となる無機結晶核剤の数が多くなるため、結晶構造がより安定化する傾向にある。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物における無機結晶核剤の含有量は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上であり、0.2質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であってもよく、さらには0.8質量部以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、樹脂組成物の結晶状態をより十分に安定させることができる。また、本実施形態の樹脂組成物における無機結晶核剤の含有量は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、10質量部以下であり、8質量部以下であることが好ましく、6質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましく、4質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物を使用して成形した成形品の機械的強度をより向上させることが可能になる。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物における無機結晶核剤の含有量は、樹脂組成物中、0.1質量%以上であることが好ましく、また、本実施形態の樹脂組成物における無機結晶核剤の含有量は、樹脂組成物中、4.5質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、2.5質量%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、無機結晶核剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0029】
<脂肪酸金属塩>
本実施形態の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、脂肪酸金属塩0.01~2質量部を含む。脂肪酸金属塩は、離型剤として機能するものであり、金型からの離型性を向上させる。また、離型剤としては、脂肪酸アマイドワックス等も知られているが、本実施形態では、滑剤としての性能をより効果的に発揮させる観点から、脂肪酸金属塩を用いる。
脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、炭素鎖数20以上の脂肪酸が好ましく、炭素鎖数20~35の脂肪酸がより好ましく、炭素鎖数25~30の脂肪酸がさらに好ましい。脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸の具体例としては、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、リシノール酸が例示され、モンタン酸が好ましい。
また、脂肪酸金属塩を構成する金属としては、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、バリウム、リチウムが例示され、カルシウムが好ましい。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物における脂肪酸金属塩の含有量は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上であり、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、0.3質量部以上であることが一層好ましく、0.5質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、金型離型時の離型抵抗を下げ、成形品の突き出し変形を効果的に抑えることができる。また、本実施形態の樹脂組成物における脂肪酸金属塩の含有量は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、2質量部以下であり、1.7質量部以下であることが好ましく、1.4質量部以下であることがさらに好ましく、1.1質量部以下であることが一層好ましく、0.9質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、脂肪酸金属塩のブリードアウトや成形時のガスを効果的に抑えることができる。
本実施形態の樹脂組成物は、脂肪酸金属塩を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0031】
<その他の添加剤>
本実施形態の樹脂組成物は、上記の他、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂、光安定剤、熱安定剤、脂肪酸金属塩以外の離型剤、アルカリ、エラストマー、酸化チタン、酸化防止剤、耐加水分解性改良剤、艶消剤、紫外線吸収剤、有機結晶核剤、可塑剤、分散剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、難燃剤、着色剤等が例示される。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落0130~0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。これらの成分は、合計で、樹脂組成物の20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。これらの成分は、それぞれ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂、無機繊維、脂肪酸金属塩および無機結晶核剤の合計が樹脂組成物の95質量%以上を占めることが好ましく、99質量%以上を占めることがさらに好ましく100質量%であってもよい。
【0032】
<<他の樹脂>>
本実施形態の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂およびポリアミド樹脂以外の樹脂を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂としては、脂肪族ポリアミド樹脂であっても、半芳香族ポリアミド樹脂であってもよい。脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612等が挙げられる。半芳香族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6T、ポリアミド6I/6T、ポリアミド9T等が例示される。
ポリアミド樹脂以外の樹脂としては、エラストマー、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、さらには、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等が例示される。
さらに、本実施形態の樹脂組成物は、好ましくはキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外の他の樹脂成分を実質的に含まない構成とすることが好ましい。実質的に含まないとは、他の樹脂成分の含有量が、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の含有量の10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが一層好ましく、0.1質量%以下、さらには0質量%であってもよい。
【0033】
本実施形態の樹脂組成物は、脂肪酸金属塩以外の離型剤の含量が脂肪酸金属塩の含有量の10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが一層好ましい。
【0034】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、水吸収率が低いことが好ましい。具体的には、樹脂組成物を1.0mm厚の成形品に成形し、80℃で48時間乾燥させた後、23℃の水に24時間浸漬した際の質量増加率が0.45%以下であることが好ましく、0.35%以下であることがより好ましく、0.25%以下であることがさらに好ましく、0.20%以下であることが一層好ましい。前記質量増加率の下限値は、0%が理想であるが、0.01%以上が実際的であり、0.10%以上であっても十分に要求性能を満たすものである。
【0035】
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物を、金型温度100℃にて、1mmの厚の成形品に成形したときの、示差走査熱量測定における結晶化ピークの熱量が1J/g以下であるか、結晶化ピークが観察されないことが好ましい。このような性能を満たす樹脂組成物は、成形品としたときに低金型温度成形でも十分に結晶化が進行し、外観に優れた成形品が得られる。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物は、厚み4mmに成形したときの、ISO178に準拠した曲げ強さが290MPa以上であることが好ましく、300MPa以上であることがさらに好ましく、310MPa以上であることが一層好ましい。上記曲げ強さの上限は、特に定めるものではないが、例えば、400MPa以下が実際的である。
本実施形態の樹脂組成物は、厚み4mmに成形したときの、ISO178に準拠した曲げ弾性率が15.0GPa以上であることが好ましく、17.0GPa以上であることがさらに好ましく、18.0GPa以上であることが一層好ましい。上記曲げ弾性率の上限は、特に定めるものではないが、例えば、30.0GPa以下、さらには25.0GPa以下が実際的である。
【0037】
本実施形態の樹脂組成物は、厚み4mmに成形したときの、ISO179規格に準拠したノッチ有りシャルピー衝撃強さが10kJ/m2以上であることが好ましい。上記ノッチ付シャルピー衝撃強さの上限は、特に定めるものではないが、例えば、30kJ/m2以下、さらには25kJ/m2以下が実際的である。
本実施形態の樹脂組成物は、厚み4mmに成形したときの、ISO179規格に準拠したノッチ無しシャルピー衝撃強さが40kJ/m2以上であることが好ましく、45kJ/m2以上であることがより好ましく、50kJ/m2以上であることがさらに好ましい。上記ノッチ付シャルピー衝撃強さの上限は、特に定めるものではないが、例えば、120kJ/m2以下、さらには100kJ/m2以下が実際的である。
上記質量増加率、結晶化ピーク、曲げ強さ、曲げ弾性率およびシャルピー衝撃強さは、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0038】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法としては、任意の方法が採用される。
例えば、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂、無機繊維、脂肪酸金属塩および無機結晶核剤、ならびに、必要に応じ配合される他の成分をV型ブレンダー等の混合手段を用いて混合し、一括ブレンド品を調製した後、ベント付き押出機で溶融混練してペレット化する方法が挙げられる。あるいは、二段階練込法として、予め、無機繊維以外の成分等を、十分混合後、ベント付き押出機で溶融混練りしてペレットを製造した後、そのペレットと強化フィラーを混合後、ベント付き押出機で溶融混練りする方法が挙げられる。
さらに、無機繊維以外の成分等を、V型ブレンダー等で十分混合したものを予め調製しておき、それをベント付き二軸押出機の第一シュートより供給し、無機繊維は押出機途中の第二シュートより供給して溶融混練、ペレット化する方法が挙げられる。
【0039】
溶融混練に際しての加熱温度は、通常180~360℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、ストランド切れ等押出不良の原因になる場合がある。それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練り時や、後工程の成形時の分解を抑制するため、酸化防止剤や熱安定剤の使用が望ましい。
【0040】
<成形品>
本実施形態は、また、本実施形態の樹脂組成物から成形される成形品に関する。本実施形態における成形品は、薄肉成形品であることが好ましい。薄肉成形品としては、例えば、最薄肉部が1.0mm以下(好ましくは0.1mm以上、また、好ましくは0.6mm以下)である成形品をいう。
【0041】
本実施形態における、成形品の製造方法は、特に限定されず、樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることもできる。
本実施形態においては、成形品(好ましくは薄肉成形品)の製造に際し、樹脂組成物を射出成形することを含むことが好ましい。また、射出成形の際は、シリンダー温度220~330℃、金型温度は80~140℃とすることができる。本実施形態の樹脂組成物を用いることにより、金型温度が低くでも、成形品外観に優れた成形品が得られる。
【0042】
本実施形態の成形品は、機械的強度が良好で、吸水率が低く、薄肉成形品の用途にも優れているため、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品などに適用できる。特に、食品用容器、薬品用容器、油脂製品容器、車両用中空部品(各種タンク、インテークマニホールド部品、カメラ筐体など)、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、ブレーカー部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。特に、本実施形態の樹脂組成物は、携帯電話、スマートフォンなどに優れている。
【実施例
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0044】
1.原料
<ポリアミド樹脂>
MP10:M/Pモル比=7:3、下記合成例に従って合成した。
<<MP10の合成例(M/Pモル比=7:3)>>
セバシン酸を窒素雰囲気下の反応缶内で加熱溶解した後、内容物を撹拌しながら、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)とパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)のモル比が7:3の混合ジアミンを、加圧(0.35MPa)下で、ジアミンとセバシン酸とのモル比が約1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を235℃まで上昇させた。滴下終了後、60分間反応を継続し、分子量1,000以下の成分量を調整した。反応終了後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化し、ポリアミド樹脂(MP10)を得た。得られたポリアミドの融点は215℃であった。
【0045】
MP12:M/Pモル比=6:4、下記合成例に従って合成した。
<<MP12の合成例>>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、精秤したドデカン二酸13,820g(60mol)、次亜リン酸ナトリウム一水和物(NaH2PO2・H2O)10.180g(ポリアミド樹脂中のリン原子濃度として150質量ppm)、酢酸ナトリウム5.25gを入れ、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹拌しながら170℃まで加熱した。酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム一水和物のモル比は、0.67とした。
これにメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの6:4の混合ジアミン8,173g(60mol)を撹拌下に滴下し、生成する縮合水を系内へ除きながら系内を連続的に昇温した。混合メタキシリレンジアミンの滴下終了後、内温を260℃として40分間溶融重合反応を連続した。
その後、系内を窒素で加圧し、ストランドダイからポリマーを取り出して、これをペレット化した。得られたポリアミドの融点は216℃であった。
【0046】
MP6:M/Pモル比=7:3、下記合成例に従って合成した。
<<MP6の合成例(M/Pモル比=7:3)>>
アジピン酸を窒素雰囲気下の反応缶内で加熱溶解した後、内容物を撹拌しながら、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)とパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)のモル比が7:3の混合ジアミンを、加圧(0.35MPa)下、ジアミンとアジピン酸(ローディア社製)とのモル比が約1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を270℃まで上昇させた。滴下終了後、0.06MPaまで減圧し10分間反応を続け分子量1,000以下の成分量を調整した。その後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化し、ポリアミド樹脂(MP6)を得た。得られたポリアミドの融点は256℃であった。
【0047】
PA6:ナイロン6、宇部興産社製、1011FB、融点225℃
【0048】
<無機繊維>
CSG3PA-810S:日東紡績社、扁平断面のチョップドガラス繊維、Eガラス、断面アスペクト比4
T-296GH:日本電気硝子社、丸形(円形)断面のチョップドガラス繊維、Eガラス、数平均繊維径10μm、断面アスペクト比1
【0049】
<無機結晶核剤>
5000S:MW(ミクロンホワイト)5000S、タルク、林化成社製、数平均粒子径5μm
【0050】
<脂肪酸金属塩>
CS8CP:日東化成工業社製、モンタン酸カルシウム
<離型剤(比較用)>
WH255:共栄社化学社製、脂肪酸アマイドワックス、融点255℃
【0051】
2.実施例1~6、比較例1~5
<コンパウンド>
後述する表1~3に示す組成となるように、各成分をそれぞれ秤量し、無機繊維を除く成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)の根元から投入し、溶融した後で、無機繊維をサイドフィードしてペレットを作製した。二軸押出機の温度設定は、280℃とした。表1~3における各成分は質量比で示している。
【0052】
<曲げ強さおよび曲げ弾性率>
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度300℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO多目的ダンベル試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO178に準拠して、23℃の温度で曲げ強さ(単位:MPa)および曲げ弾性率(単位:GPa)を測定した。
【0053】
<荷重たわみ温度(DTUL)>
上述の方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO多目的ダンベル試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO75-1およびISO75-2に従い、上記ISO多目的試験片について、荷重(1.80MPa)にて、荷重たわみ温度(単位:℃)を測定した。
【0054】
<シャルピー衝撃強さ>
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO多目的ダンベル試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO179規格に従い、23℃の温度でシャルピー衝撃強さ(ノッチ有りおよびノッチ無し)の測定を行った。
単位は、kJ/m2で示した。
【0055】
<スパイラル流動長>
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(東芝機械社製、「EC50SX」)にて、スパイラル流動長金型(厚み1mm、幅5mm)を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃の条件で成形し、100MPaの射出圧力で成形したときの流動長を測定した。
単位は、cmで示した。
【0056】
<質量増加率>
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、60mm×60mm×厚さ1mmの平板試験片を射出成形した。
上記で得られた試験片を80℃で48時間乾燥した後に、アルミ防湿袋の中で常温に戻し、23℃水に24時間浸漬させ、質量増加率を測定した。以下の式に基づき、質量増加率を測定した。
質量増加率(単位:%)
=[(浸漬後の質量)-(浸漬前の質量)]/(浸漬前の質量)×100
【0057】
<DSC(示差走査熱量測定)低温結晶化ピーク>
上記の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度100℃、成形サイクル50秒の条件で、60mm×60mm×厚さ1mmの平板試験片を射出成形し、DSC(示差走査熱量測定)によって、平板試験片の低温結晶化ピークを測定した。具体的には、平板試験片から10mgの試料を切り出し、得られた試料を、日立ハイテクサイエンス社製DSC-7200を用いて、30~300℃まで10℃/分の速度で昇温し、70~110℃に現れる発熱ピークを低温結晶化ピークとして検出した。
ピークの熱量は、1J/g以上検出されると結晶化が不十分であり、成形品の仕上がりとして不十分であると言える。N.D.は、明確な結晶化ピークが検出されなかったことを意味する。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物から形成された成形品は、機械的強度を高く維持しつつ、スパイラル流動長が長く、低温成形でも十分に結晶化され、水浸漬後の質量増加率を効果的に抑制できた。
これに対し、離型剤として、脂肪酸金属塩以外のものを用いた時、スパイラル流動長が小さくなってしまった(比較例1)。
また、無機結晶核剤を配合しない場合(比較例2)、低温成形では、結晶化が不十分であった。
また、ポリアミド樹脂として、炭素数6の脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸)とキシリレンジアミンから形成されるものを用いた場合(比較例3)、スパイラル流動長が短く、かつ、低温成形では、結晶化が不十分であった。
また、ポリアミド樹脂として、ナイロン6を用いた場合(比較例4)、スパイラル流動長は長く、低温成形でも十分に結晶化されたが、水浸漬後の質量増加が大きかった。
一方、無機結晶核剤の配合量が多い場合(比較例5)、スパイラル流動長が短くなってしまった。