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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】希土類系磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240722BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20240722BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240722BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240722BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240722BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20240722BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20240722BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20240722BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240722BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F1/00 Y
B22F1/14 100
B22F1/14 500
B22F3/00 F
B22F3/10 C
B22F3/14 101B
B22F9/04 C
C22C38/00 303D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020164268
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056488
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸村 治洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳詔
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-030741(JP,A)
【文献】特開2018-186134(JP,A)
【文献】特開2003-197409(JP,A)
【文献】特表2016-531418(JP,A)
【文献】特開2011-135041(JP,A)
【文献】特開2012-056273(JP,A)
【文献】特開2010-114200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/032-1/117、41/02
B22F 1/00、1/14、3/00、3/14、3/10、9/04
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超急冷法によって作製された磁気的に等方性の希土類系磁石薄帯を粉砕し、分級して、希土類元素を12.5at%以上19.0at%以下の量で含む希土類系磁石粉末を得る磁石粉末作製工程と、
前記磁石粉末作製工程で得られた前記希土類系磁石粉末と、ベース樹脂として希土類系磁石粉末の結晶化温度以下の温度で分解する分子中に酸素を含まない樹脂と、有機溶剤とを混合して印刷用ペーストを得る印刷用ペースト作製工程と、
基板上に、前記印刷用ペースト作製工程で得られた印刷用ペーストを、スクリーン印刷により印刷して、成形体を得る成形体作製工程と、
前記有機溶剤の沸点未満の温度で、前記成形体作製工程で得られた前記成形体を乾燥する予備乾燥工程と、
前記有機溶剤の沸点以上の温度で、前記予備乾燥工程を経た前記成形体を乾燥および脱脂する本乾燥および脱脂工程と、
放電プラズマ焼結(SPS)装置に、前記本乾燥および脱脂工程を経た前記成形体をセットし、減圧下で、前記成形体を加圧しながら加熱し、焼結して、希土類系磁石を得る希土類系磁石作製工程と、を含み、
前記成形体作製工程における前記基板が、放電プラズマ焼結(SPS)装置に用いる下パンチであり、
前記予備乾燥工程が、前記成形体作製工程で得られた前記下パンチ上の前記成形体を乾燥する工程であり、
前記本乾燥および脱脂工程が、前記予備乾燥工程を経た後、前記放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットされた前記成形体に、上パンチを接触させ、前記成形体を乾燥および脱脂する工程であり、
前記希土類系磁石作製工程が、前記本乾燥および脱脂工程を経た放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットされた前記成形体を加圧しながら焼結して、希土類系磁石を得る希土類系磁石を得る工程である、
希土類系磁石の製造方法。
【請求項2】
前記印刷用ペースト100質量%中に、前記希土類系磁石粉末を80質量%以上95質量%以下の量で、前記ベース樹脂および前記有機溶剤を合計で5質量%以上20質量%以下の量で含む、
請求項1に記載の希土類系磁石の製造方法。
【請求項3】
前記希土類系磁石粉末の結晶化温度以下の温度で分解する分子中に酸素を含まない樹脂が、ポリイソブチレンまたはポリブテンである、
請求項1または2に記載の希土類系磁石の製造方法。
【請求項4】
希土類系磁石の厚さが50μm以上1mm未満である、
請求項1~のいずれか1項に記載の希土類系磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類系磁石の製造方法に関し、特に厚膜の希土類系磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジムに代表される希土類系の永久磁石は、優れた磁気特性を有し、モータをはじめとして様々な電子機器に用いられている。モータなどの電子機器の小型化に伴い、これらの電子機器に用いられる永久磁石の一層の小型化、薄型化が求められている。
【0003】
このような永久磁石の小型化、薄型化の要求に対して、従来、約1μm~数百μm程度の厚さの希土類系永久磁石を製造する方法として、PLD(Pulsed Laser Deposition)法を用いた希土類厚膜磁石が知られている(例えば、特許文献1参照)。このPLD法による厚膜磁石の製造は、使用する装置が大掛かりであり、装置が高価格であると共に、数百μmの厚さの磁石を作製するためには、その成膜速度が遅く、長時間を必要とするため、実用性に欠ける。また、成膜速度を上げた場合、厚膜磁石の表面粗さが低下する問題がある。
【0004】
これに対して、特許文献1のようなPLD法に比べて簡易な方法で厚膜磁石を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2の厚膜磁石は、SmFeN系の磁石粉体と、接着剤としてのエポキシ樹脂と、溶剤とを混ぜ合わせてペーストを作製し、スクリーン印刷を用いてポリイミド基板上に印刷する。その後、所定の温度で印刷した厚膜磁石を硬化させ、硬化させた後、厚膜磁石に着磁を行う。特許文献2の厚膜磁石は、スクリーン印刷を用いるため、簡易に厚膜磁石を作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-270418号公報
【文献】特開2009-094405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の厚膜磁石は、磁石粉体と、接着剤としてのエポキシ樹脂と、溶剤とを混ぜ合わせてペーストを作製し、このペーストを用いてスクリーン印刷して厚膜磁石を作製した後、硬化させるため、一種のボンド磁石である。ボンド磁石はバインダーである樹脂中に磁石粉末が充填された磁石であり、磁石粉末のみからなるバルク磁石と比べて磁気特性は低くなる。また、磁石中に有機化合物である樹脂が存在するため、自動車のエンジンルーム内のような高温となる環境下で厚膜磁石が使用された場合、バインダーである樹脂が軟化して磁石の形状が変化する虞がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑み、高磁気特性であり、かつ、高温環境下で使用される場合でも、磁石形状が変化することがない厚膜状の希土類系磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る希土類系磁石の製造方法は、超急冷法によって作製された磁気的に等方性の希土類系磁石薄帯を粉砕し、分級して、希土類元素を12.5at%以上19.0at%以下の量で含む希土類系磁石粉末を得る磁石粉末作製工程と、上記磁石粉末作製工程で得られた上記希土類系磁石粉末と、ベース樹脂としてポリイソブチレンまたはポリブテンと、有機溶剤とを混合して印刷用ペーストを得る印刷用ペースト作製工程と、基板上に、上記印刷用ペースト作製工程で得られた印刷用ペーストを、スクリーン印刷により印刷して、成形体を得る成形体作製工程と、上記有機溶剤の沸点未満の温度で、上記成形体作製工程で得られた上記成形体を乾燥する予備乾燥工程と、上記有機溶剤の沸点以上の温度で、上記予備乾燥工程を経た上記成形体を乾燥および脱脂する本乾燥および脱脂工程と、放電プラズマ焼結(SPS)装置に、上記本乾燥および脱脂工程を経た上記成形体をセットし、減圧下で、上記成形体を加圧しながら加熱し、焼結して、希土類系磁石を得る希土類系磁石作製工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、ボンド磁石と比較して高磁気特性であり、かつ、高温環境下で使用される場合でも、磁石形状が変化することがない厚膜状の希土類系磁石が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る希土類系磁石の製造方法の概略を示すフロー図である。
図2図2は、焼結した円柱状の厚膜の希土類系磁石をハンマーで粉砕し、その破片を振動試料式磁力計(VSM)にて磁気特性を測定した結果を示す図である。
図3A図3Aは、成形体作製工程のスクリーン印刷を説明するための図である。
図3B図3Bは、成形体作製工程のスクリーン印刷を説明するための図である。
図3C図3Cは、成形体作製工程のスクリーン印刷を説明するための図である。
図4図4は、本乾燥/脱脂工程を説明するための図である。
図5A図5Aは、希土類系磁石作製工程を説明するための図である。
図5B図5Bは、希土類系磁石作製工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に係る希土類系磁石の製造方法について説明する。図1は、実施形態に係る希土類系磁石の製造方法の概略を示すフロー図である。実施形態に係る希土類系磁石の製造方法は、磁石粉末作製工程ST1と、印刷用ペースト作製工程ST2と、成形体作製工程ST3と、予備乾燥工程ST4と、本乾燥および脱脂工程(本乾燥/脱脂工程)ST5と、希土類系磁石作製工程ST6とを含む。さらに、必要に応じて、表面処理工程ST7、着磁工程ST8を含む。
【0012】
磁石粉末作製工程ST1では、超急冷法によって作製された磁気的に等方性の希土類系磁石薄帯(具体的には希土類鉄系磁石薄帯)を粉砕し、分級して、希土類元素を12.5at%以上19.0at%以下の量で含む希土類系磁石粉末(具体的には希土類鉄系磁石粉末)を得る。
【0013】
具体的には、超急冷法によって作製された磁気的に等方性の希土類鉄系磁石薄帯を、公知の手段、例えば、自由粉砕機(形式M-2、株式会社奈良機械製作所製)を用いて粉砕し、希土類鉄系磁石粉末を得る。超急冷法によって作製された希土類鉄系磁石粉末は、通常扁平形状である。
【0014】
後述するスクリーン印刷に用いるため、メッシュにて所定の粒径に分級する。希土類鉄系磁石粉末は、20μmを超え75μm以下の範囲に分級することが好ましく、20μmを超え53μm以下の範囲に分級することがより好ましい。なお、分級した希土類鉄系磁石粉末も磁気的に等方性である。具体的には、公称目開き75mmのJIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)を通過しかつ公称目開き20μmのJIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)を通過しない範囲に分級することが好ましく、公称目開き53mmのJIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)を通過しかつ公称目開き20μmのJIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)を通過しない範囲に分級することがより好ましい。
【0015】
希土類鉄系磁石粉末は、希土類元素として少なくともNdを含むことが好ましく、例えばNd-Fe-B系磁石である。Nd-Fe-B系磁石は、三元系正方晶化合物であるNd2Fe14B型化合物相を主相として含む。また、Nd-Fe-B系磁石は、通常希土類リッチ相(Ndリッチ相)などをさらに含む。Nd-Fe-B系磁石は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
希土類鉄系磁石粉末(具体的にはNd-Fe-B系磁石)には、Nd以外の希土類元素が含まれていてもよい。Nd以外の希土類元素としては、プラセオジム(Pr)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)が挙げられる。Nd以外の希土類元素は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
Nd-Fe-B系磁石において、Feは、一部(通常50原子%未満)がCoで置換されていてもよい。また、Nd-Fe-B系磁石は、その他の元素を含んでいてもよい。その他の元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銅(Cu)、ガリウム(Ga)が挙げられる。その他の元素は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
希土類鉄系磁石粉末は、希土類元素を12.5at%以上19at%以下の量で含む。希土類元素の量が多いほど、希土類リッチ相の量も増加する。実施形態に係る希土類系磁石の製造方法では、得られた厚膜の希土類系磁石において、混合する樹脂(ポリイソブチレン等)に由来する炭素が少量残存する場合がある。しかし、希土類リッチ相の量が多い希土類鉄系磁石を用いているため、このような残存炭素に起因する磁気特性の低下を抑制できる。具体的には、希土類元素の量が多いほど、元々の保磁力を高くできるため、残存炭素によって多少保磁力が低下したとしても、十分な保磁力が維持できる。また、希土類元素の量が多いほど、初期減磁、角型比についても同様に、残存炭素による影響が抑えられる。しかしながら、希土類元素の量が19at%を超えると、磁化が低下しすぎたり、保磁力が大きくなりすぎて着磁性が低下したりする場合がある。一方、希土類元素の量が12.5at%未満であると、焼結時の磁気特性低下が起こる場合があり、残存炭素に起因する磁気特性の低下の抑制が不十分な場合がある。
【0019】
上述した分級による好ましい粒径範囲は、以下のようにして求められる。希土類元素を12.5at%以上19at%以下の量で含む希土類鉄系磁石粉末について、JIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)を用いて分級した。即ち、(1)公称目開き75μmの篩を通過し公称目開き20μmの篩を通過しない粉末、(2)公称目開き53μmの篩を通過し公称目開き20μmの篩を通過しない粉末、(3)公称目開き45μmの篩を通過し公称目開き20μmの篩を通過しない粉末、(4)公称目開き20μmの篩を通過する粉末を得た。この粉末(1)~(4)を用いて、同じ焼結条件の下で、放電プラズマ焼結を行い、円柱状の希土類系磁石を得た。図2は、円柱状の希土類系磁石をハンマーで粉砕し、その破片を振動試料式磁力計(VSM)にて磁気特性を測定した結果を示す図である。図2は、磁石の磁化曲線で、横軸は磁場H[kA/m]で示し、縦軸は磁化J[T]で示している。図2を参照すると、粉末(1)~(3)を用いた希土類系磁石の磁気特性は、ほぼ同じ特性を示し、磁気特性の劣化は見られなかった。しかし、粉末(4)、換言すれば、20μm以下の磁石粉末を用いた希土類系磁石の磁気特性については、磁気特性の劣化が認められた。したがって、磁石粉末は20μmを超え75μm以下の範囲に分級することが好ましく、20μmを超え53μm以下の範囲に分級することがより好ましい。
【0020】
印刷用ペースト作製工程ST2では、上記磁石粉末作製工程ST1で得られた上記希土類系磁石粉末と、ベース樹脂として希土類系磁石粉末の結晶化温度以下の温度で分解する分子中に酸素を含まない樹脂と、有機溶剤とを混合して印刷用ペーストを得る。
【0021】
例えば、まず、有機溶剤にベース樹脂を溶解させてインク(メジウム)を作製する。
【0022】
有機溶剤は、ベース樹脂の良溶媒が好適に用いられる。具体的にはn-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素などが使用可能である。安全性の観点から、メチルシクロヘキサンが好ましい。
【0023】
ベース樹脂は、スクリーン印刷に使用する場合、磁石粉末を入れたインクに流動性を持たせるために混合する。このベース樹脂は、後述する放電プラズマ焼結(SPS)装置による脱脂・焼結を行うため、分子構造中に酸素を含まず、分解・蒸発しやすい重合体である必要がある。分子構造中に酸素を含んだ樹脂を用いた場合、酸素が希土類元素であるNdと結合し、磁気特性の低下を招くため、好ましくない。希土類系磁石粉末の結晶化温度以下の温度で分解する分子中に酸素を含まない樹脂としては、具体的には、ポリイソブチレン、ポリブテンが挙げられる。
【0024】
また、スクリーン印刷用インクとして適した粘度を有していることが必要である。例えば、イソブテンの重合体であるポリブテンやポリイソブチレンなどの樹脂は、粘性の高い液状もしくは半固形の樹脂であり、有機溶剤等で粘度を調整したのちに微粉の磁石粉末と混合すればスクリーン印刷に適したペースト状にすることができる。
【0025】
次に、希土類系磁石粉末とインクとを混練し、ペースト状である印刷用ペーストを作製する。印刷用ペーストの粘度は、メジウムの比率で調整することができる。印刷用ペーストは、粘度の観点からは、印刷用ペースト100質量%中に、希土類系磁石粉末を80質量%以上95質量%以下の量で、インク(ベース樹脂および有機溶剤の合計)を5質量%以上20質量%以下の量で含むことが好ましい。
【0026】
成形体作製工程ST3では、基板上に、上記印刷用ペースト作製工程ST2で得られた印刷用ペーストを、スクリーン印刷により印刷して、成形体を得る。ここで、成形体作製工程ST3における基板は、放電プラズマ焼結(SPS)装置に用いる下パンチである。
【0027】
図3A図3B図3Cは、成形体作製工程のスクリーン印刷を説明するための図である。具体的には、まず、スクリーン印刷機に、後述する放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットするグラファイト製下パンチ1をセットする。グラファイト製下パンチ面には、離型性を良くするため、潤滑材として窒化ホウ素(BN)の膜を形成することが好ましい。スクリーン印刷機に取り付けたメタルマスク2の上に上述の磁石粉末を混錬した印刷用ペースト3を塗布する。例えば、メタルマスク2には、所望の厚膜の希土類系磁石の形状を得るため、開口4が形成されている。開口4の形状としては、円形状が挙げられる。より具体的には、次に、メタルマスク2に塗布した印刷用ペースト3は、スキージ5を移動(可動)させることで、グラファイト製下パンチ面上に、開口4の形状に応じた略円板状等の成形体6が形成される。また、スキージ圧力やスキージ速度等の動作は、スクリーン印刷機に具備する機構によって所定値に設定することで、機械的に行われる。最後に、メタルマスク2を取り外し、グラファイト製下パンチ1をスクリーン印刷機から取り外し、成形体6を得る。
【0028】
なお、本実施形態では、メタルマスクを用いてスクリーン印刷を行っているが、メタルマスクに限定されるものではなく、メッシュマスクを用いてもよい。メッシュマスクの場合、上述の磁石粉末の粒径が通過する開口率のマスクを用いることになる。
【0029】
予備乾燥工程ST4では、上記有機溶剤の沸点未満の温度で、上記成形体作製工程ST3で得られた上記成形体を乾燥する。言い換えると、予備乾燥工程ST4では、上記成形体作製工程ST3で得られた下パンチ上の成形体を乾燥する。予備乾燥する理由は、本乾燥での気泡の発生を防ぐ目的と、印刷物の粘度を高め、工程中の好ましくない印刷物の変形を防ぐためである。
【0030】
成形体の予備乾燥工程ST4では、グラファイト製下パンチ面上の成形体を乾燥機にて乾燥する。具体的には、成形体が形成されたグラファイト製下パンチを乾燥機の中にセットして乾燥させる。乾燥は、成形体中の有機溶剤の発泡を防ぐため、有機溶剤の沸点未満で、所定時間行う。有機溶剤としてメチルシクロヘキサンを用いる場合は、メチルシクロヘキサンの沸点は101℃のため、101℃未満で行うことが好ましい。
【0031】
本乾燥/脱脂工程ST5では、上記有機溶剤の沸点以上の温度で、上記予備乾燥工程ST4を経た上記成形体を乾燥および脱脂する。具体的には、本乾燥/脱脂工程ST5では、上記予備乾燥工程ST4を経た後、放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットされた成形体に、上パンチを接触させ、成形体を乾燥および脱脂する。
【0032】
図4は、本乾燥/脱脂工程を説明するための図である。まず、本乾燥工程では、スクリーン印刷によって成形された成形体6から有機溶剤を除去(蒸発)する。成形体6はスクリーン印刷の後、予備乾燥工程にて乾燥させているが、有機溶剤の沸点未満の温度で乾燥させているため、有機溶剤の一部は除去されるが、乾燥させた成形体6には有機溶剤が含まれている。本乾燥工程では、この残存している有機溶剤を除去(蒸発)する。
【0033】
具体的には、本乾燥工程では、予備乾燥工程を終了した成形体6が形成されたグラファイト製下パンチ1を放電プラズマ焼結(SPS)装置の金型(グラファイトダイ)7内にセットし、グラファイト製上パンチ8を成形体6の形状が変形しない程度で軽く接触させる。なお、下パンチ面には、窒化ホウ素(BN)の膜等の潤滑材9が形成されていることが好ましい。そして、図4の矢印のように、グラファイト製の上下パンチに通電して、放電プラズマ焼結(SPS)装置の中で成形体6を、有機溶剤の沸点以上の温度で、所定時間の間、熱暴露し、成形体6に含まれている不要な溶剤を除去する。例えば、101℃以上の温度で行う。
【0034】
次に、脱脂工程では、スクリーン印刷によって成形された成形体6から樹脂を除去する。成形体6には、磁石粉末を含んだ印刷用ペーストをスクリーン印刷にて作製されているので、この構造体には樹脂が含まれている。
【0035】
具体的には、脱脂工程では、上述の本乾燥工程で処理された成形体6を、引き続き、通常、上記有機溶剤の沸点以上の温度で、所定時間保持した状態で熱暴露し、成形体6に含まれている不要な樹脂を分解、除去する。例えば、300℃以上500℃以下の温度で行う。上記温度範囲は、成形体6に含まれている有機物を除去するのに適した温度範囲として規定される。脱脂工程は、通常、上記本乾燥工程の温度よりも高い温度で行われ、ベース樹脂の分解温度より高温でありかつ磁粉の結晶化温度(焼結温度)より低い温度で行うことが重要である。なお、ベース樹脂の分解温度は、分子量にもよるが、例えば300℃以上であり、Nd-Fe-B系磁石の結晶化温度は通常500℃を超える。
【0036】
このように、本乾燥および脱脂は、放電プラズマ焼結(SPS)装置の中で一連の工程として行われる。これにより、実施形態に係る希土類系磁石の製造方法は簡便に行うことができる。
【0037】
希土類系磁石作製工程ST6では、放電プラズマ焼結(SPS)装置に、上記本乾燥/脱脂工程ST5を経た成形体をセットし、減圧下で、成形体を加圧しながら加熱し、焼結して、希土類系磁石を得る。具体的には、希土類系磁石作製工程ST6では、上記本乾燥/脱脂工程ST5を経た放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットされた成形体を加圧しながら焼結して、希土類系磁石10を得る。
【0038】
図5A図5Bは、希土類系磁石作製工程を説明するための図である。具体的には、希土類系磁石作製工程では、放電プラズマ焼結(SPS)装置にて、上述の本乾燥/脱脂工程で処理された成形体6を、引き続き連続作業として、焼結し、厚膜の希土類系磁石10を作製する。
【0039】
放電プラズマ焼結(SPS)装置にて、ロータリーポンプで10-3Torr程度まで真空引きしながら、図5Aの矢印のように、減圧下でパルス通電焼結を行う。具体的には、図5Aの矢印のように、0.1MPa以上30MPa以下の圧力を成形体6に印加しながら、脱脂工程で設定した温度(例えば300℃以上500℃以下の温度)から600℃以上850℃以下の温度(例えば700℃付近)まで昇温して焼結を行う。成形体6を所定の膜厚にするため、加圧して焼結している。このため、成形体6は、予備乾燥工程における成形体の直径から大きくなると共に、膜厚は減少している。
【0040】
このように、本乾燥、脱脂から焼結まで、放電プラズマ焼結(SPS)装置の中で一連の工程として行われる。これにより、実施形態に係る希土類系磁石の製造方法は簡便に行うことができる。
【0041】
放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットした金型7を冷却した後、金型7から下パンチ1を取り外し、下パンチ面から焼結された成形体6を離型することで、円板状の厚膜の希土類系磁石10が得られる。
【0042】
本実施形態で得られる厚膜の希土類系磁石は、放電プラズマ焼結(SPS)装置の上下パンチ面で軸方向両端面が押圧されており、上下パンチ面の表面精度に倣う。この上下パンチ面の表面精度(表面粗さ)は高精度に仕上げられているため、焼結した後の厚膜の希土類系磁石の上下面の表面精度(表面粗さ)は高精度で作製される。この結果、仕上げの後加工を必要とすることなく、ネットシェイプにて厚膜の希土類系磁石を製造することができる。
【0043】
表面処理工程ST7では、焼結した厚膜の希土類系磁石の表面処理を行う。本実施形態で用いているネオジム磁石は特に酸化され易いため、表面処理として、厚膜の希土類系磁石の表面を所定の膜厚を有する防錆膜で被覆することが好ましい。防錆膜は、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)等のめっき処理、アルミ(Al)蒸着、または、樹脂塗装で形成することができる。
【0044】
着磁工程ST8では、厚膜の希土類系磁石に着磁を行う。着磁装置にて、厚膜の希土類系磁石に所定の極ピッチで所定の磁極数を着磁する。着磁は、例えば、アキシャル方向(厚さ方向)に磁化させ、円周方向に複数の磁極を有するように着磁を行う。
【0045】
上述した本実施形態で得られた希土類系磁石の特徴は、(1)スクリーン印刷で成型される厚膜磁石であること、および(2)Nd-Fe-B系等の焼結磁石であることである。厚膜であっても高い磁気特性を有しており、通常の粉末冶金プロセスによるNd焼結磁石よりも優れている。また、本実施形態で得られた希土類系磁石は、フル密度磁石であることによって、高い磁気特性を有し、高温での変形が少ないという利点も有する。このため、特許文献2の厚膜ボンド磁石よりも優れている。
また、本実施形態は大気中でスクリーン印刷するため、磁粉の酸化劣化、ひどい場合には粉塵爆発を防ぐため、磁粉の粒子径は20μm以上であることが好ましい(図2)。しかしながら、通常のNd-Fe-B焼結磁石の一次粉をその粒子径で作製してしまうと、保磁力・角形性が実用に耐えるものにはならない。そこで本実施形態では超急冷法で作製したナノ多結晶体の粉末を用いることで、等方性でも保磁力・角形性の良い磁石を実現している。この粉末をフル密度磁石に焼結する際、通常のNd-Fe-B焼結のような900℃を超える温度で焼結してしまうと結晶粒が成長してしまい、保磁力・角形性が著しく低下する。そこで本実施形態では850℃以下で放電プラズマ焼結する。また、この工法を用い、低温短時間焼結でフル密度化するために12.5at%以上の希土類を含む磁粉を用いている。
【0046】
なお、本明細書において、厚膜の希土類系磁石は、50μm以上1mm未満の厚さを有する磁石を対象としている。厚膜の希土類系磁石は、好ましくは200μm以上1mm未満の厚さを有する磁石である。厚膜の希土類系磁石の厚さが50μm未満の場合、磁石粉末が必ずしも十分充填されない箇所が生じる虞がある。その場合、磁石粉末の粗密が生じ、焼結工程における通電時、電気抵抗の低い部分に電流が集中し、過剰な熱により磁粉の微細結晶組織が破壊され、所望の磁気特性が得られない場合がある。一方、厚膜の希土類系磁石の厚さが1mm以上の場合、他の手段、例えば、粉末冶金の手段によって得られる焼結磁石を研削加工することによって容易に得ることができる。
【0047】
本実施形態で焼結して得られた厚膜の希土類系磁石は、等方性であるため、着磁パターンは自由に設定できる。
【0048】
なお、本実施形態で焼結して得られた厚膜の希土類系磁石は円形状(円板形状)であるが、メタルマスクを調整することで、ドーナツ形状に作製することもできる。
【0049】
また、上記では、成形体作製工程における基板が、放電プラズマ焼結(SPS)装置に用いる下パンチであるが、下パンチ以外の他の基板であってもよい。即ち、予備乾燥工程、本乾燥・脱脂工程または希土類系磁石作製工程において、下パンチに成形体を移してから行ってもよい。また、上記では、本乾燥、脱脂から焼結まで、放電プラズマ焼結(SPS)装置の中で一連の工程として行われるが、焼結が放電プラズマ焼結(SPS)装置の中で行われていればよく、本乾燥、脱脂は放電プラズマ焼結(SPS)装置を用いずに行ってもよい。
【0050】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0051】
[実施例]
実施例に基づいて上記実施の形態をより詳細に説明する。なお、上記実施の形態は、以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
[実施例1]
〔磁石粉末作製工程ST1〕
等方性の希土類鉄系磁石薄帯を、自由粉砕機(形式M-2、株式会社奈良機械製作所製)を用いて粉砕し、Nd-Fe-B系磁石粉末(希土類元素の量:14.5at%、超急冷粉)を得た。次いで、Nd-Fe-B系磁石粉末を、公称目開き53mmのJIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)を通過しかつ公称目開き20μmのJIS標準篩(JIS Z8801-1:2000規定)を通過しない範囲に分級した。
〔印刷用ペースト作製工程ST2〕
有機溶剤であるメチルシクロヘキサン(60質量%)にベース樹脂であるポリイソブチレン(40質量%)を溶解させてインク(メジウム)を作製した。次いで、希土類系磁石粉末40質量%とインク60質量%とを混練し、ペースト状である印刷用ペーストを作製した。
〔成形体作製工程ST3(図3A図3C)〕
まず、スクリーン印刷機に、後述する放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットするグラファイト製下パンチ1をセットする。グラファイト製下パンチ面には、潤滑材として窒化ホウ素(BN)の膜を形成しておいた。スクリーン印刷機に取り付けたメタルマスク2の上に印刷用ペースト3を塗布した。ここで、メタルマスク2は、円形状の厚膜の希土類系磁石を得るため、1mmの板厚のマスク材に、直径が5mmの円形状の開口4が形成されていた。次に、メタルマスク2に塗布した印刷用ペースト3は、スキージ5を移動(可動)させることで、グラファイト製下パンチ面上に、直径が約5mmからなる略円板状の成形体6が形成された。最後に、メタルマスク2を取り外し、グラファイト製下パンチ1をスクリーン印刷機から取り外し、成形体6を得た。
〔予備乾燥工程ST4〕
成形体が形成されたグラファイト製下パンチを乾燥機の中にセットし、成形体を乾燥した。メチルシクロヘキサンの沸点である101℃よりも低い温度(90℃)で、所定時間の間行った。
〔本乾燥/脱脂工程ST5(図4)〕
本乾燥工程では、予備乾燥工程を終了した成形体6が形成されたグラファイト製下パンチ1を放電プラズマ焼結(SPS)装置の金型(グラファイトダイ)7内にセットし、グラファイト製上パンチ8を成形体6の形状が変形しない程度で軽く接触させた。グラファイト製の上下パンチに通電して、放電プラズマ焼結(SPS)装置の中で成形体6を、メチルシクロヘキサンの沸点である101℃以上の温度(110℃)で、所定時間の間、熱暴露し、成形体6に含まれている不要な溶剤を除去した。
脱脂工程では、上述の本乾燥工程で処理された成形体6を、引き続き、上記有機溶剤の沸点101℃以上の温度でありかつ本乾燥工程の温度よりも高い温度(400℃)で、所定時間保持した状態で熱暴露し、成形体6に含まれている不要な樹脂を分解、除去した。
〔希土類系磁石作製工程ST6(図5A図5B)〕
放電プラズマ焼結(SPS)装置にて、ロータリーポンプで10-3Torr程度まで真空引きしながら、減圧下でパルス通電焼結を行った。ここで、30MPaの圧力を成形体6に印加しながら、脱脂工程で設定した温度(400℃)から700℃付近まで昇温して焼結を行った。成形体6は、予備乾燥工程における成形体6の直径から大きくなると共に、膜厚は減少していた。
放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットした金型を冷却した後、金型から下パンチ1を取り外し、下パンチ面から焼結された成形体6を離型することで、円板状の厚膜の希土類系磁石10が得られた。円板上の厚膜の希土類系磁石10は、直径が10mm、厚さが200μmであった。
【符号の説明】
【0052】
1 下パンチ、2 メタルマスク、3 印刷用ペースト、4 開口、5 スキージ、6 成形体、7 金型、8 上パンチ、9 潤滑材、10 厚膜の希土類系磁石
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B