(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】トンネル付セラミック部材の製造方法及びトンネル付セラミック部材
(51)【国際特許分類】
B28B 11/00 20060101AFI20240722BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B28B11/00
H01L21/302 101G
(21)【出願番号】P 2020177441
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 正樹
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 輝
(72)【発明者】
【氏名】乾 靖彦
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-006505(JP,A)
【文献】特開2015-138910(JP,A)
【文献】特開2018-133502(JP,A)
【文献】特開2014-046661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 11/00 -19/00
H01L 21/302
H01L 21/461
H01L 21/68
B32B 1/00 -43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤が塗布された複数のセラミックシート体と複数の電極とが第1の方向に積層され、前記第1の方向に直交する一の仮想面に沿って延びる一のトンネルが内部に形成された圧着前駆体を準備する圧着前工程と、
前記圧着前駆体を10Kg/cm
2以上の圧力で圧着して未焼結体を形成する圧着工程と、
前記未焼結体を焼結する焼結工程と、を含む、半導体製造装置に関連したトンネル付セラミック部材の製造方法であって、
前記圧着前駆体は、前記第1の方向に直交する一の面を有し、
前記セラミックシート体と積層された複数の前記電極によって形成される複数の電極層が、前記第1の方向において、前記一のトンネルよりも前記一の面側に配され、
前記一のトンネルの前記複数の電極層側の面は、前記一のトンネルの前記第1の方向に平行
、かつ、前記一のトンネルの長手方向に直交する断面において、円弧もしくは楕円弧をなす、トンネル付セラミック部材の製造方法。
【請求項2】
前記複数の電極層は、5層以上に形成されている、請求項1に記載のトンネル付セラミック部材の製造方法。
【請求項3】
前記圧着前駆体の内部には、前記第1の方向に直交する他の仮想面に沿って延びる他のトンネルがさらに形成されており、
前記一のトンネルは、前記第1の方向において、前記複数の電極層と前記他のトンネルとの間に配されている、請求項1又は請求項2に記載のトンネル付セラミック部材の製造方法。
【請求項4】
セラミックを含有し、一の面を有する、半導体製造装置に関連したトンネル付セラミック部材であって、
複数の電極層と、前記一の面に平行な一の仮想面に沿って延びる一のトンネルと、が内部に形成されており、
前記複数の電極層は、
5層以上に形成され、
前記一の面に直交する第1の方向において、前記一のトンネルよりも前記一の面側に配されており、
前記一のトンネルの前記複数の電極層側の面は、前記一のトンネルの前記第1の方向に平行
、かつ、前記一のトンネルの長手方向に直交する断面において、円弧もしくは楕円弧をなす、トンネル付セラミック部材。
【請求項5】
前記一の面に平行な他の仮想面に沿って延びる他のトンネルが内部にさらに形成されており、
前記他のトンネルの前記複数の電極層側の面は、前記他のトンネルの第1の方向に平行な断面において、円弧もしくは楕円弧をなす、請求項4に記載のトンネル付セラミック部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トンネル付セラミック部材の製造方法及びトンネル付セラミック部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置の静電チャックやヒータ等として、トンネル付セラミック部材が使用されている。トンネル付セラミック部材は、例えば、複数のセラミック成形体を貼り合わせて内部にトンネルが形成された圧着前駆体を形成し、圧着前駆体に加圧してセラミック成形体同士が圧着された未焼結体を形成し、未焼結体を焼結することにより、製造される。このような製造過程では、圧着前駆体を圧着する際に加えた圧力がトンネルの特定箇所に集中して亀裂が生じ、これが焼結時に拡大して欠陥となるクラックが発生することがあった。
【0003】
下記特許文献1には、トンネル付セラミック部材の製造方法において、トンネルを所定の形状に形成することにより、圧着時の亀裂の発生を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トンネル付セラミック部材では、その内部に複数の電極層が形成されることがある。複数の電極層は、例えば有機溶剤が塗布された複数のセラミックシート体と、複数の電極とを積層することで形成される。このため、複数の電極層を備える圧着前駆体は、比較的多くの有機溶剤を含有して軟化しており、圧着時に特定箇所に応力が集中すると容易に変形し、亀裂等の欠陥を生じてしまう。このような欠陥の発生を低減するため、さらなる技術改良が希求されていた。
【0006】
本明細書が開示する技術は、トンネル付セラミック部材、特に複数の電極層を備えたトンネル付セラミック部材を製造する際に生じる欠陥を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るトンネル付セラミック部材の製造方法は、有機溶剤が塗布された複数のセラミックシート体と複数の電極とが第1の方向に積層され、前記第1の方向に直交する一の仮想面に沿って延びる一のトンネルが内部に形成された圧着前駆体を準備する圧着前工程と、前記圧着前駆体を10Kg/cm2以上の圧力で圧着して未焼結体を形成する圧着工程と、前記未焼結体を焼結する焼結工程と、を含む、半導体製造装置に関連したトンネル付セラミック部材の製造方法であって、前記圧着前駆体は、前記第1の方向に直交する一の面を有し、前記セラミックシート体と積層された複数の前記電極によって形成される複数の電極層が、前記第1の方向において、前記一のトンネルよりも前記一の面側に配され、前記一のトンネルの前記複数の電極層側の面は、前記一のトンネルの前記第1の方向に平行な断面において円弧もしくは楕円弧をなす、トンネル付セラミック部材の製造方法である。
【0008】
また、本開示に係るトンネル付セラミック部材は、セラミックを含有し、一の面を有する、半導体製造装置に関連したトンネル付セラミック部材であって、複数の電極層と、前記一の面に平行な一の仮想面に沿って延びる一のトンネルと、が内部に形成されており、前記複数の電極層は、5層以上に形成され、前記一の面に直交する第1の方向において、前記一のトンネルよりも前記一の面側に配されており、前記一のトンネルの前記第1の方向に平行な断面において、前記一のトンネルの前記複数の電極層側の面は、円弧もしくは楕円弧をなす、トンネル付セラミック部材である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、トンネル付セラミック部材を製造する際に生じる欠陥を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るトンネル付セラミック部材の断面構成を表した模式図である。
【
図2A】
図2Aは、製造例1において積層工程に供される電極シート体及びセラミックシート体の断面構成を表した模式図である。
【
図2B】
図2Bは、積層工程によって形成された電極ブロック体の断面構成を表した模式図である。
【
図3A】
図3Aは、製造例1において圧着前工程に供される、セラミックブロック体及び電極ブロック体の断面構成を表した模式図である。
【
図3B】
図3Bは、圧着前工程によって形成された圧着前駆体の断面構成を表した模式図である。
【
図4】
図4は、製造例2において圧着前工程に供される、貼合体及び電極ブロック体の断面構成を表した模式図である。
【
図5】
図5は、製造例3において圧着前工程に供される、セラミックブロック体及び接合体の断面構成を表した模式図である。
【
図6】
図6は、製造例4において圧着前工程に供される、セラミックブロック体、電極シート体及びセラミックシート体の断面構成を表した模式図である。
【
図7】
図7は、実施形態1の変形例に係るトンネル付セラミック部材の断面構成を表した模式図である。
【
図8】
図8は、実施形態2に係るトンネル付セラミック部材の断面構成を表した模式図である。
【
図9A】
図9Aは、圧着前工程に供される、セラミックブロック体及び電極ブロック体の断面構成を表した模式図である。
【
図9B】
図9Bは、圧着前工程によって形成された圧着前駆体の断面構成を表した模式図である。
【
図10】
図10は、他の実施形態に係るトンネルの断面形状を表した模式図である。
【
図11】
図11は、他の実施形態に係るトンネルの断面形状を表した模式図である。
【
図12】
図12は、実施例に係る圧着前駆体をZ軸方向に平行な面で切断した際の、トンネル近傍における断面構成の一例を模式的に表した部分拡大図である。
【
図13】
図13は、比較例に係る圧着前駆体をZ軸方向に平行な面で切断した際の、トンネル近傍における断面構成を表した部分拡大図である。
【
図14】
図14は、比較例に係るトンネル付セラミック部材をZ軸方向に平行な面で切断した際の、トンネル近傍の状態を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
<1> 本開示に係るトンネル付セラミック部材の製造方法は、有機溶剤が塗布された複数のセラミックシート体と複数の電極とが第1の方向に積層され、前記第1の方向に直交する一の仮想面に沿って延びる一のトンネルが内部に形成された圧着前駆体を準備する圧着前工程と、前記圧着前駆体を10Kg/cm2以上の圧力で圧着して、未焼結体を形成する圧着工程と、前記未焼結体を焼結する焼結工程と、を含む、半導体製造装置に関連したトンネル付セラミック部材の製造方法であって、前記圧着前駆体は、前記第1の方向に直交する一の面を有し、前記セラミックシート体と積層された複数の前記電極によって形成される複数の電極層が、前記第1の方向において前記一のトンネルよりも前記一の面側に配され、前記一のトンネルの前記複数の電極層側の面は、前記一のトンネルの前記第1の方向に平行な断面において円弧もしくは楕円弧をなす、トンネル付セラミック部材の製造方法である。
【0012】
上記構成によれば、トンネルにおける複数の電極層側の面が、平面を含まず、滑らかに連続する曲面のみによって形成される。よって、圧着前駆体の圧着時に、トンネルの特に軟化した面において特定箇所への応力集中が起こり難くなり、変形が抑制される。この結果、トンネル付セラミック部材を製造する際の、亀裂等の欠陥の発生が効果的に低減される。
【0013】
<2> 上記<1>のトンネル付セラミック部材の製造方法において、前記複数の電極層は、5層以上に形成されていることが好ましい。このような構成によれば、欠陥の発生を効果的に抑制しながら、5層以上の多くの電極層を備えたトンネル付セラミック部材を製造できる。
【0014】
<3> 上記<1>又は<2>のトンネル付セラミック部材の製造方法において、前記圧着前駆体の内部には、前記第1の方向に直交する他の仮想面に沿って延びる他のトンネルがさらに形成されており、前記一のトンネルは、前記第1の方向において、前記複数の電極層と前記他のトンネルとの間に配されていることが好ましい。このような構成によれば、複数の電極層に近接する一のトンネルの複数の電極層側の面の変形が抑制されることで、欠陥を効果的に低減しながら、複雑な構造のトンネル付セラミック部材を製造可能となる。
【0015】
<4> 本開示に係るトンネル付セラミック部材は、セラミックを含有し、一の面を有する、半導体製造装置に関連したトンネル付セラミック部材であって、複数の電極層と、前記一の面に平行な一の仮想面に沿って延びる一のトンネルと、が内部に形成されており、前記複数の電極層は、5層以上に形成され、前記一の面に直交する第1の方向において、前記一のトンネルよりも前記一の面側に配されており、前記一のトンネルの前記複数の電極層側の面は、前記一のトンネルの前記第1の方向に平行な断面において円弧もしくは楕円弧をなす、トンネル付セラミック部材である。このような構成によれば、トンネルの一方の側に複数の電極層が配されたトンネル付セラミック部材において、製造時のトンネルの変形が抑制され、欠陥の発生が低減される。
【0016】
<5> 上記<4>のトンネル付セラミック部材において、前記一の面に平行な他の仮想面に沿って延びる他のトンネルが内部にさらに形成されており、前記他のトンネルの前記複数の電極層側の面は、前記他のトンネルの第1の方向に平行な断面において円弧もしくは楕円弧をなすことが好ましい。このような構成によれば、製造時のトンネル面の変形を抑制して欠陥の発生を低減しながら、異なる高さに形成されたトンネルを有し、複数の電極層が配されたトンネル付セラミック部材を製造できる。
【0017】
[実施形態の詳細]
本開示の保持装置の実施態様を、図面を参照しつつ以下に具体的に説明する。本開示は、以下の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。本明細書における「直交する」「平行な」には、その作用効果が損なわれない範囲において、略直交するものや略平行なものが含まれる。なお、各図面の一部には、直交座標系XYZのX軸、Y軸及びZ軸を示しており、各軸方向が各図において同一方向となるように描かれている。以下の説明では、Z軸方向を上下方向として、
図1の上側を上、
図1の下側を下とする。また、複数の同一部材については、一の部材に符号を付して他の部材の符号は省略することがある。
【0018】
<実施形態1>
以下、実施形態1に係るトンネル付セラミック部材1と、その製造方法について、
図1から
図6を参照しつつ説明する。トンネル付セラミック部材1は、半導体製造装置において、例えば、半導体ウェハやガラス基板等を静電引力によって吸着し保持する静電チャックや、半導体ウェハやガラス基板等を所定の温度に維持するヒータとして使用される。
【0019】
(トンネル付セラミック部材1)
トンネル付セラミック部材1の構成について、
図1を参照しつつ説明する。
本実施形態に係るトンネル付セラミック部材1は、全体として、Z軸方向(第1の方向の一例)に直交するXY平面が円形をなす、直径が例えば150mm~300mm程度、厚さが例えば2mm~6mm程度の円盤状に形成されている。
図1は、トンネル付セラミック部材1のXZ断面すなわちZ軸方向に平行な断面の構成を模式的に表した側断面図である。
図1に示されるように、トンネル付セラミック部材1は、Z軸方向に直交して上方を指向する載置面FAと、同じくZ軸方向に直交し下方を指向する裏面(一の面の一例)FBを有し、セラミックを主成分とするセラミック領域3を備える。裏面FBには凹部FCが形成されており、例えば外部給電端子を差し込んでトンネル付セラミック部材1の内部に形成された電極に接続できるようになっている。
【0020】
トンネル付セラミック部材1の内部には、トンネル(一のトンネルの一例)8と、複数の電極層9が形成されている。トンネル8は、Z軸方向に直交する仮想面(一の仮想面の一例)8Aに沿って延びるように形成されており、電極層9は、Z軸方向において、トンネル8よりも裏面FB側に配されている。
【0021】
(セラミック領域3)
セラミック領域3におけるセラミックの組成比は、例えば98重量%以上である。セラミックの具体例としては、Al2O3、Y2O3、AlN、及びSiCからなる群から選択される1種以上が挙げられる。なお、トンネル付セラミック部材1をSEM観察することで、セラミック粒子を確認できる。
【0022】
(トンネル8)
図1に示されるように、セラミック領域3の内部にはトンネル8が形成されている。トンネル8には、ガス等の流体が流通される。トンネル付セラミック部材1の下方にベース部材を配置し、ウェハ等を吸着保持する静電チャックとして使用する場合、トンネル8は、例えば、トンネル付セラミック部材1及びベース部材を貫通して形成されるガス供給路を介して図示しないガス供給源に接続される。ガス供給源から供給されたガスは、トンネル8を流通し、トンネル付セラミック部材1の表面に開口するように形成された噴出口(不図示)から排出される。これにより、トンネル付セラミック部材1の表面に静電吸着保持されたウェハ等と、トンネル付セラミック部材1との間の空間に、ガスが導入される。トンネル8の下面(複数の電極層9側の面)は、平面を含まず、Z軸方向に平行なトンネル8の断面において円弧もしくは楕円弧をなすように形成されている。他方、本実施形態では、トンネル8は、その上面がトンネル付セラミック部材1の載置面FAと平行な平面をなすように形成されており、この平面を仮想面8Aとする。
【0023】
(複数の電極層9)
図1に示されるように、トンネル付セラミック部材1は、複数の電極層9を備えている。電極層9は、例えばTi、Cr、Mo、Cu、Ni、W、Pd、Pt及びAuの少なくとも1つの導体で形成される。複数の電極層9は、5層以上の層をなすように形成されていることが好ましい。本実施形態では、複数の電極層9は、6層に形成された電極91~96を含む場合について例示する。電極91~96は、それぞれが例えばヒータ電極やドライバ電極等として機能するものであるが、トンネル付セラミック部材1内に配置される電極であれば問わない。複数の電極層9は、接続用ビア(不図示)等によって、互いに、或いは、他の電極や端子パッド(不図示)等に、接続されていてもよい。例えば、複数層に形成したヒータ電極を、接続用ビアを介してドライバ電極と接続し、ドライバ電極を、接続ビア及び端子パッドを介して外部給電端子(不図示)と接続してもよい。このような構成では、ヒータ電極を形成した複数の層について層ごとに制御を行うことにより、トンネル付セラミック部材1の載置面FAや裏面FBを細かなゾーンに分割して温度制御したり、大まかな温度調整と細かな温度調整を別々に行ったりすることが可能となる。
【0024】
なお、
図1には示されていないが、トンネル付セラミック部材1は、例えば、トンネル8よりも上方に配されたチャック電極と、凹部FCに露出された端子パッドと、をさらに備えていてもよい。このようなトンネル付セラミック部材1では、例えば凹部FCに差し込んだ外部給電端子から、チャック電極に電圧を印加し、生じた静電引力によって載置面FAにウェハを吸着して保持させることができる。
【0025】
((トンネル付セラミック部材1の製造例1))
上記したトンネル付セラミック部材1の製造方法の一例について、
図2Aから
図3Bを参照しつつ説明する。本製造例では、まず、複数の電極層9を含む電極ブロック体20を形成し(積層工程)、次いで、電極ブロック体20及び複数のセラミックブロック体30を含む圧着前駆体50を形成し(圧着前工程)、圧着前駆体50を圧着して未焼結体を形成し(圧着工程)、未焼結体を焼結してトンネル付セラミック部材1を得る(焼結工程)場合について説明する。
【0026】
(積層工程:電極ブロック体20の形成)
本製造例では、
図2A及び
図2Bに示されるように、6枚の電極シート体11~16と、セラミックシート体10,10HとをZ軸方向に積層して、電極ブロック体20を形成する。ここで、電極シート体11~16は、セラミックシート体10の一方の面(
図2Aにおける下側の面)に、電極91~96がそれぞれ形成されたものである。電極91及び電極94はヒータとして使用され、電極92,93,95,96についてはドライバ電極として使用される。
【0027】
セラミックシート体10は、主成分としてセラミック粉末を含有するシート状の成形物であって、焼結工程実施前のものをいう。セラミック粉末として、具体的には、Al2O3、Y2O3、AlN、及びSiCから成る群から選択される1種以上の粉末が挙げられる。セラミック粉末の平均粒径は、0.5μm~3.0μmの範囲が好ましい。平均粒径がこの範囲内であれば、少ない助剤量でセラミックを緻密化できる。
【0028】
セラミックシート体10はまた、樹脂を含有している。セラミックシート体10に含まれる樹脂として、具体的には、ポリビニルアセタール樹脂の中から選択される1種もしくは2種以上の樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂には、光硬化型エポキシ樹脂や熱硬化型エポキシ樹脂が含まれる。樹脂の含有量は、セラミック粉末100重量部に対し、1重量部~15重量部の範囲であることが好ましい。含有量がこの範囲内であれば、容易に加工を行うことができ、後述する圧着前駆体50や未焼結体を形成する際に変形等が起こり難くなる。
【0029】
セラミックシート体10はまた、助剤成分を含有していてもよい。助剤成分として、具体的には、セラミック粉末がAl2O3の場合は、SiO2、MgO等を用いることができる。また、セラミック粉末がY2O3の場合は、CaO等を用いることができる。助剤成分の含有量は、セラミック粉末と助剤成分との合計重量を100重量部としたとき、2重量部以下であることが好ましい。含有量がこの範囲内であれば、セラミックシート体10を用いて製造したトンネル付セラミック部材1が、例えばプラズマに暴露された場合に、助剤成分が選択的にエッチングされて生じるパーティクルを低減できる。
【0030】
セラミックシート体10は、例えば、上記の材料を含む混合物(スラリー)を、ドクターブレード法やキャスト法等により、一定の厚みを有する均質なシート状に形成することで作製できる。なお、混合物は、上記したセラミック粉末及び樹脂等に、可塑剤や溶剤を混合して、調製することができる。本製造例では、例えば0.1mm~1.0mmの厚みを有するセラミックシート体10を使用する。セラミックシート体10は、例えばパンチング形成された穴と、この穴に充填されたペーストと、によって形成された接続用ビアを有していてもよい。
図2A等に示されるように、本製造例において電極ブロック体20の最も下側に配されるセラミックシート体10Hには、トンネル付セラミック部材1の裏面FBに凹部FCを形成するための開孔10Cが形成されている。
【0031】
電極91~96は、例えばTi、Cr、Mo、Cu、Ni、W、Pd、Pt及びAuの少なくとも1つの導体を含む導電ペーストを、スクリーン印刷法やエッチング法等により、セラミックシート体10の一方の面上に所定のパターンで付与することで形成できる。或いは、所定のパターンに形成した金属箔や金属メッシュを圧着してもよい。
【0032】
セラミックシート体10の他方の面(
図2Aにおける上側の面)には、粘着性を付与するための有機溶剤70がそれぞれ塗布されている。なお、
図2A等に示されている有機溶剤70は、セラミックシート体10に塗布され電極ブロック体20に含まれる有機溶剤70を、あくまでイメージとして図示したものであり、有機溶剤70が図示の範囲に分布していることを示すものではない。有機溶剤70の具体例としては、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ブチルカルビトール等のアルコール類から選択される1種以上が挙げられる。
図2Aに示すように、電極シート体11~16と、セラミックシート体10,10HとをZ軸方向(上下方向)に積層して圧着することにより、
図2Bに示されるような電極ブロック体20が形成される。このように形成された電極ブロック体20は、6層に形成された電極91~96を含む複数の電極層9を備えるとともに、比較的多くの有機溶剤70を含有している。なお、電極層9を形成する導電性材料にも、溶剤が含まれている場合がある。
【0033】
(圧着前工程:圧着前駆体50の形成)
続いて、本製造例では、
図3A及び
図3Bに示されるように、2個のセラミックブロック体30と、1個の電極ブロック体20とを貼り合わせて圧着前駆体50を形成する。
【0034】
セラミックブロック体30は、セラミックシート体10と同様の組成を有し、セラミックシート体10よりも大きな厚みを有するブロック状の成形体であって、焼結工程実施前のものをいう。セラミックブロック体30の厚みは特に限定されるものではないが、本製造例では、セラミックシート体10の約3倍~8倍の厚みを有するセラミックブロック体30を使用する。
【0035】
セラミックブロック体30は、例えば、セラミックシート体10について上記した材料を含む混合物(スラリー)をプレス成形したり、上記の材料に加えて熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂を含有する混合物を硬化させて成形したり、セラミックシート体10を複数枚積層したりすることで、作製できる。
【0036】
図3A及び
図3Bに示されるように、本製造例に係る圧着前駆体50では、2個のセラミックブロック体30が互いに貼り合わされ、これらの下側に電極ブロック体20が配される。貼り合わされる一対のセラミックブロック体30のうち少なくとも一方のセラミックブロック体30には、
図3Aに示されるように、溝81が形成されている。溝81が形成されたセラミックブロック体30を、第1ブロック体31と称することがある。本製造例では、第1ブロック体31の一方の面(
図3Aにおける上側の面)のみに溝81が形成されている。溝81が形成された面を、貼合面31Aと称することがある。
図3Aに示されるように、貼合面31A上に、溝81の開口を閉塞するように他のセラミックブロック体30を貼り合わせることにより、
図3Bに示されるように、圧着前駆体50の内部の仮想面8Aに沿ってトンネル8が形成される。溝81の底面は、圧着前駆体50においてトンネル8の下面すなわち複数の電極層9側の面を形成する。
【0037】
本製造例では、貼合面31Aに貼り合わされるセラミックブロック体30には、溝は形成されていない。以下、溝81が形成されていないセラミックブロック体30を、平滑ブロック体33と称することがある。このように第1ブロック体31のみに溝を形成することで、第1ブロック体31と平滑ブロック体33とを貼り合わせる際に多少のずれが生じてしまった場合でも、圧着前駆体50の内部に形成されるトンネル8の側面に段差が生じ難い。このように形成されたトンネル8は、焼結後のトンネル付セラミック部材1において、その上面が、トンネル付セラミック部材1の載置面FAと略平行で仮想面8Aと一致する平面をなす。なお、貼り合わされる一対のセラミックブロック体30の双方に、溝が形成されていてもよい。この場合、双方に形成された溝の側面が合致するように貼り合わせを行うことにより、圧着前駆体50の内部にトンネル8を形成できる。
【0038】
溝81は、その形状に応じたマシニングツールを用いて形成できる。第1ブロック体31が熱や光による樹脂硬化成形体である場合は、樹脂硬化成形体を成形するための型に予め溝の形状に応じた突条等を設けておくことで、溝81を形成してもよい。
【0039】
溝81の幅は、例えば、1mm以上とすることができる。また、溝81の深さは、例えば、1mm以上とすることができる。溝81の幅や深さをこの範囲内とすれば、トンネル付セラミック部材1に形成されるトンネル8の断面積を大きくして、トンネル8内を流れる流体の圧力損失を低減できる。貼合面31Aにおける溝81の平面配設パターンは特に限定されず、貼合面31Aの全面に亘って形成されていてもよく、特定の領域のみに形成されていてもよい。
【0040】
溝81は、その底面が、溝81の長手方向に直交する溝81の断面において、円弧もしくは楕円弧をなすように形成される。すなわち、溝81の底面は、平面を含まず、滑らかに連続する曲面のみによって形成される。なお、溝81の側面は、溝81の長手方向に直交する断面において直線を含むように、すなわち平面を含む形状に形成されていてもよい。本製造例に係る第1ブロック体31の溝81は、断面が半円形(底面の断面が中心角180°の円弧)をなすように形成されている。
【0041】
図3Bに示されるように、圧着前駆体50において、電極ブロック体20は、平滑ブロック体33及び第1ブロック体31よりも下側に配される。圧着前駆体50において、複数の電極層9は、トンネル8よりも下方、すなわちZ軸方向において、トンネル8よりも裏面FB側に配される。
【0042】
既述したように、複数のセラミックシート体10を積層して形成された電極ブロック体20は、比較的多くの有機溶剤70を含有している。このため、圧着前駆体50において、第1ブロック体31の電極ブロック体20寄りの部分が、電極ブロック体20から移行する有機溶剤70によって軟化することがある。特に、第1ブロック体31に形成された溝81の底面すなわちトンネル8の下面と、電極ブロック体20内の最も第1ブロック体31寄りに配された電極91との間の間隔が短い場合、トンネル8の下面(複数の電極層9側の面)が加圧によって容易に変形し、電極91近傍のセラミックシート体10が剥離し易い状態となる。ここで、
図3B等に示されるように、加圧によって変形し易いトンネル8の下面(複数の電極層9側の面)は、既述した溝81の底面によって形成されており、Z軸方向に平行なトンネル8の断面において、円弧もしくは楕円弧をなす(
図12参照)。
【0043】
(圧着工程:未焼結体の形成)
続いて、圧着前駆体50に加圧して圧着することで、未焼結成形体を形成する。なお、圧着前工程と、圧着工程は、連続的に実施してもよい。圧着前駆体50に加える圧力は、具体的には10Kg/cm2以上、より詳しくは15Kg/cm2以上とすることができる。加圧圧力がこの範囲内であれば、セラミックシート体10や電極ブロック体20、セラミックブロック体30を、互いに十分に密着させることができる。
【0044】
ここで、圧着前駆体50におけるトンネル8の下面は、既述したように断面が円弧もしくは楕円弧をなすように形成されており、圧着前駆体50に加圧した際に、トンネル8の下面における特定箇所への応力集中が起こり難くなっている。このため、仮に、電極ブロック体20から移行した有機溶剤70により第1ブロック体31の下部が軟化していたとしても、トンネル8の変形が起こり難い。よって、トンネル8周囲の特定箇所を起点として亀裂が生じたり、電極ブロック体20等の積層部分が剥離したりすることが低減される。特に、トンネル8の下面と、最も近接する電極層9(本実施形態では電極91)との間隔が0.2mm以上1.5mm以下であるような圧着前駆体50において、トンネル8の変形を効果的に低減できる。トンネル8と複数の電極層9と最短間隔が上記範囲より大きいと、そもそも複数の電極層9近傍に含まれる有機溶剤70に起因するトンネル8の変形が起こり難く、上記範囲より小さいと、トンネル8の変形が著しく起こり易くなって十分な変形低減効果が得られ難くなる。
【0045】
(焼結工程:トンネル付セラミック部材1の完成)
圧着工程によって形成した未焼結体を、未焼結体に含まれる樹脂成分を熱処理することで取り除く脱脂工程を行い、加湿した窒素及び水素の混合ガス中で1300℃~2000℃で熱処理して焼結する焼結工程を行う。なお、焼結工程が脱脂工程を兼ねていてもよい。
以上により、トンネル付セラミック部材1が製造される。トンネル付セラミック部材1は、外径研磨や穴あけ等の加工を施した後、静電チャックやヒータ等として使用できる。
【0046】
((トンネル付セラミック部材1の製造例2))
トンネル付セラミック部材1は、例えば
図4に示すように製造してもよい。すなわち、上記の製造例1と同様に形成した第1ブロック体31の貼合面31Aに平滑ブロック体33を貼り合わせて、両セラミックブロック体30が貼り合わされた貼合体40を予め形成する。圧着前工程では、製造例1と同様に形成した電極ブロック体20を、貼合体40の下側の面(貼合面31Aの反対側の面)に貼り合わせて、圧着前駆体50を形成し、製造例1と同様の圧着工程、焼結工程を経て、トンネル付セラミック部材1を得る。
【0047】
((トンネル付セラミック部材1の製造例3))
或いは、上記したトンネル付セラミック部材1は、例えば
図5に示すように製造してもよい。すなわち、第1ブロック体31の下側の面(貼合面31Aの反対側の面)に電極ブロック体20を貼り合わせて、セラミックブロック体30と電極ブロック体20との接合体41を予め形成する。圧着前工程では、接合体41の上側の面(第1ブロック体31の貼合面31A)に平滑ブロック体33を貼り合わせて、圧着前駆体50を形成し、製造例1と同様の圧着工程、焼結工程を経て、トンネル付セラミック部材1を得る。
【0048】
((トンネル付セラミック部材1の製造例4))
或いは、上記したトンネル付セラミック部材1は、例えば
図6に示すように製造してもよい。すなわち、予め電極ブロック体20を形成するのではなく、平滑ブロック体33及び第1ブロック体31と、電極シート体11~16及びセラミックシート体10,10Hを貼り合わせて、圧着前駆体50を形成する。製造例1と同様の圧着工程、焼結工程を経て、トンネル付セラミック部材1を得ることができる。なお、電極シート体11~16及びセラミックシート体10,10Hは、全て単独のものを同時もしくは順次に第1ブロック体31等に貼り合わせもよく、一部を積層してブロック体としたものを第1ブロック体31等に貼り合わせてもよい。
【0049】
(本実施形態の効果)
以上記載したように、本実施形態に係るトンネル付セラミック部材1の製造方法は、有機溶剤70が塗布された複数のセラミックシート体10と複数の電極91~96とがZ軸方向(第1の方向)に積層され、Z軸方向に直交する仮想面(一の仮想面の一例)8Aに沿って延びるトンネル(一のトンネルの一例)8が内部に形成された圧着前駆体50を準備する圧着前工程と、圧着前駆体50を10Kg/cm2以上の圧力で圧着して未焼結体を形成する圧着工程と、前記未焼結体を焼結する焼結工程と、を含む、半導体製造装置に関連したトンネル付セラミック部材1の製造方法であって、圧着前駆体50は、Z軸方向に直交する裏面(一の面の一例)FBを有し、セラミックシート体10と積層された複数の電極91~96によって形成される複数の電極層9が、Z軸方向において、トンネル8よりも裏面FB側に配され、トンネル8の複数の電極層9側の面は、トンネル8のZ軸方向に平行な断面において円弧もしくは楕円弧をなすものとされている。
【0050】
上記構成では、圧着前駆体50の内部に形成されたトンネル8における複数の電極層9側の面が、有機溶剤70の影響によって軟化し、圧着工程において特に変形し易くなる。本実施形態の構成によれば、トンネル8における複数の電極層9側の面が、Z軸方向に平行な断面において円弧をなし、直線部分を含まない形状とされる。換言すれば、トンネル8の複数の電極層9側の面は、平面を含まず、滑らかに連続する曲面のみによって形成される。よって、圧着前駆体50の圧着時に、軟化したトンネル8の下面における特定箇所への応力集中が起こり難くなり、変形が抑制される。この結果、トンネル付セラミック部材1を製造する際の、亀裂等の欠陥の発生が効果的に低減される。なお、上記構成において、圧着前工程と圧着工程は、連続的に実施できる。
【0051】
また、本実施形態において、複数の電極層9は、5層以上に形成されている。ヒータ電極やドライバ電極等を含む5層以上の電極層9を備えるトンネル付セラミック部材1は、例えば高い精度で表面温度を制御できるといった種々のメリットを有する。一方で、5枚以上のセラミックシート体10が積層された圧着前駆体50は、多くの有機溶剤70を含有しており、圧着時に極めて変形し易くなっている。本技術は、有機溶剤70によって軟化した圧着前駆体50の圧着時の変形を抑制するのに特に有用であり、本実施形態の構成によれば、欠陥の発生を効果的に抑制しながら、多くの電極層9を備えたトンネル付セラミック部材1を製造できる。
【0052】
また、本実施形態に係るトンネル付セラミック部材1は、セラミックを含有し、裏面(一の面の一例)FBを有する、半導体製造装置に関連したトンネル付セラミック部材1であって、複数の電極層9と、裏面FBに平行な仮想面(一の仮想面の一例)8Aに沿って延びるトンネル(一のトンネルの一例)8と、が内部に形成されており、複数の電極層9は、5層以上に形成され、裏面FBに直交するZ軸方向(第1の方向の一例)においてトンネル8よりも裏面FB側に配されており、トンネル8の複数の電極層9側の面は、トンネル8のZ軸方向に平行な断面において円弧もしくは楕円弧をなすものとされている。このような構成によれば、トンネル8の一方の側(下側)に複数の電極層9が配されたトンネル付セラミック部材1において、製造時のトンネル8の変形が抑制され、欠陥の発生が低減される。
【0053】
<実施形態1の変形例>
実施形態1の変形例に係るトンネル付セラミック部材101を、
図7を参照しつつ説明する。本変形例に係るトンネル付セラミック部材101は、その内部において複数の電極層9がトンネル108よりも上側に配されている点、並びに、トンネル108がZ軸方向に平行な断面において上面が直線をなし、下面が円弧をなすように形成されている点において、実施形態1に係るトンネル付セラミック部材1と相違している。その他の基本的な構成は実施形態1と同じであるため、以下の説明では、実施形態1と同様の構成については実施形態1と同じ符号を付し、重複する説明は割愛する(実施形態2についても同様とする)。
【0054】
図7に示されるように、トンネル付セラミック部材101のセラミック領域103には、トンネル(一のトンネルの他の例)108と、複数の電極層9が形成されている。トンネル108は、Z軸方向に直交する仮想面(一の仮想面の他の例)108Aに沿って延びるように形成されており、電極層9は、Z軸方向において、トンネル108よりも載置面(一の面の他の例)FA側に配されている。
【0055】
本変形例において、トンネル108は、その下面が載置面FAと平行な平面をなし仮想面108A上に位置するように形成されている。他方、トンネル108の上面(複数の電極層9側の面)は、平面を含まず、Z軸方向に平行な断面において円弧をなすように形成されている。
【0056】
((トンネル付セラミック部材101の製造))
トンネル付セラミック部材101は、例えば下記のように製造できる。まず、積層工程において、セラミックシート体10と、電極91~96を有する電極シート体11~16を積層して、電極ブロック体を形成する。圧着前工程では、電極ブロック体、貼合面31Aを下方に向けた状態の第1ブロック体31、平滑ブロック体33、セラミックシート体10Hを上から順に貼り合わせて、圧着前駆体を形成する。その後、実施形態1と同様の圧着工程、焼結工程を経て、トンネル付セラミック部材101を得る。
なお、トンネル付セラミック部材101の製造方法は、上記に限定されるものではなく、実施形態1に係るトンネル付セラミック部材1の製造方法と同じく、複数のセラミックシート体10や電極シート体11~16、セラミックブロック体30等を適宜に貼り合わせて、圧着前駆体を形成できる。
【0057】
(本変形例の効果)
本変形例では、複数の電極層9が、トンネル108よりも上側(載置面FA側)に配されており、圧着前駆体では、トンネル108よりも上側の部分が、有機溶剤により軟化し易くなる。本変形例でも、実施形態1と同様に、トンネル108の複数の電極層9側の面(本変形例では上面)が、Z軸方向に平行な断面において円弧をなし、直線部分を含まない形状とされている。この結果、実施形態1と同じく、軟化したトンネル108の上面における特定箇所への応力集中が起こり難くなり、変形が抑制されて、亀裂等の欠陥の発生が効果的に低減される。
【0058】
<実施形態2>
以下、実施形態2に係るトンネル付セラミック部材201を、
図8及び
図9Bを参照しつつ説明する。本実施形態に係るトンネル付セラミック部材201は、主として、異なる高さに形成されたトンネル218,228を備えている点で、実施形態1に係るトンネル付セラミック部材1と相違している。
【0059】
(トンネル付セラミック部材201)
図8に示されるように、トンネル付セラミック部材201のセラミック領域203には、下側トンネル(一のトンネルの一例)218及び上側トンネル(他のトンネルの一例)228と、複数の電極層9が形成されている。トンネル付セラミック部材201において、複数の電極層9は、Z軸方向において、下側トンネル218及び上側トンネル228よりも下側すなわち裏面(一の面の一例)FB側に配されている。下側トンネル218は、上側トンネル228よりも下側に位置しており、上側トンネル228と複数の電極層9の間に配されている。下側トンネル218は、Z軸方向に直交する下側仮想面(一の仮想面の一例)218Aに沿って、上側トンネル228は、Z軸方向に直交する上側仮想面(他の仮想面の一例)228Aに沿って、延びるように形成されている。下側トンネル218及び上側トンネル228は、何れもその上面が載置面FAと平行な平面をなし下側仮想面218Aもしくは上側仮想面228A上に位置するように、形成されている。他方、下側トンネル218及び上側トンネル228の下面(複数の電極層9側の面)は、平面を含まず、Z軸方向に平行な断面において円弧をなすように形成されている。
【0060】
((トンネル付セラミック部材201の製造))
上記したトンネル付セラミック部材201の製造方法の一例について、
図9A及び
図9Bを参照しつつ説明する。
まず、実施形態1の製造例1と同様に積層工程を実施し、電極シート体11~16及びセラミックシート体10,10Hを積層して、電極ブロック体20を形成する(
図2A及び
図2B参照)。圧着前工程では、例えば
図9Aに示されるような、平滑ブロック体33、第2ブロック体232、及び第1ブロック体231の3個のセラミックブロック体と、電極ブロック体20とを貼り合わせて、
図9Bに示されるような圧着前駆体250を形成する。その後、実施形態1と同様の圧着工程、焼結工程を経て、トンネル付セラミック部材201を得る。
【0061】
図9Aに示されるように、第1ブロック体231の上側の面には第1溝281が形成されており、この第1貼合面231Aに、第2ブロック体232の下側の面が貼り合わされる。また、第2ブロック体232の上側の面には第2溝282が形成されており、この第2貼合面232Aに、平滑ブロック体33が貼り合わされる。なお、第1ブロック体231及び第2ブロック体232の下側の面には、溝は形成されていない。
【0062】
図9A等に示されるように、本実施形態では、第1溝281及び第2溝282は、これらの長手方向に直交する断面において方形と半円を合体させた形状となるように形成されており、第1溝281及び第2溝282の底面は、上記断面において円弧をなしている。換言すれば、第1溝281及び第2溝282は、実施形態1に係る溝81とは異なり、側面の一部に平面を含んでいるが、実施形態1に係る溝81と同じく、底面には平面を含まず、滑らかに連続する曲面のみによって底面が形成されている。
図9Aに示されるように、第1ブロック体231と第2ブロック体232と平滑ブロック体33が貼り合わされることで、
図3Bに示されるように、圧着前駆体250の内部の下側仮想面218A及び上側仮想面228Aに沿って、下側トンネル218及び上側トンネル228が形成される。トンネル付セラミック部材201において、第1溝281及び第2溝282の底面は、それぞれ、下側トンネル218及び上側トンネル228の下面(複数の電極層9側の面)を形成する。
【0063】
図9Bに示されるような圧着前駆体250は、例えば、上記したように複数のセラミックブロック体と電極ブロック体20を貼り合わせることにより形成できる。或いは、一部もしくは全部のセラミックブロック体同士を貼り合わせた貼合体を予め作製し、貼合体等と電極ブロック体20と貼り合わせて、圧着前駆体250を形成してもよい。或いは、一部のセラミックブロック体と電極ブロック体20を貼り合わせた接合体を予め作製し、接合体と残りのセラミックブロック体とを貼り合わせて、圧着前駆体250を形成してもよい。或いは、電極ブロック体20は形成せず、電極シート体11~16やセラミックシート体10と、セラミックブロック体と貼り合わせて、圧着前駆体250を形成してもよい。
【0064】
(本実施形態の効果)
以上記載したように、本実施形態に係るトンネル付セラミック部材201の製造方法は、圧着前駆体250の内部に、Z軸方向(第1の方向の一例)に直交する上側仮想面(他の仮想面の一例)228Aに沿って延びる上側トンネル(他のトンネルの一例)228がさらに形成されており、下側トンネル(一のトンネルの一例)218は、Z軸方向において複数の電極層9と上側トンネル228との間に配されている、トンネル付セラミック部材201の製造方法である。
【0065】
上記構成によれば、下側仮想面(一の仮想面の一例)218Aに沿って延びる下側トンネル218と、下側仮想面218Aとは異なる高さに位置する上側仮想面228Aに沿って延びる上側トンネル228と、を有するトンネル付セラミック部材201を製造できる。互いに異なる高さに形成された下側トンネル218及び上側トンネル228を有するトンネル付セラミック部材201を製造するには、複数層にトンネル218,228が形成された圧着前駆体250を圧着する必要があり、特に複数の電極層9に近接するトンネルの面(上記構成では、下側トンネル218の複数の下面)が変形して欠陥を生じ易い。上記構成によれば、複数の電極層9に近接する下側トンネル218の複数の電極層9側の面の変形が抑制されることで、欠陥を効果的に低減しながら、複雑な構造のトンネル付セラミック部材201を製造可能となる。
【0066】
なお、本実施形態に係る圧着前駆体250では、上側仮想面228Aに沿って延びる上側トンネル228の複数の電極層9側の面(下面)も、下側トンネル218と同様に、Z軸に平行な断面において、円弧をなすように形成されている。このようにすれば、圧着前駆体250において下側トンネル218のみならず、上側トンネル228の変形も抑制でき、欠陥の発生が一層低減される。
【0067】
また、本実施形態に係るトンネル付セラミック部材201は、裏面(一の面の一例)FBに平行な上側仮想面228A(他の仮想面の一例)に沿って延びる上側トンネル(他のトンネルの一例)228が内部にさらに形成されており、上側トンネル228の複数の電極層9側の面は、上側トンネル228のZ軸方向(第1の方向の一例)に平行な断面において円弧もしくは楕円弧をなすものとされている。このような構成によれば、製造時のトンネル面の変形を抑制して欠陥の発生を低減しながら、異なる高さに形成されたトンネル218,228を有し、複数の電極層9が配されたトンネル付セラミック部材201を製造できる。
【0068】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0069】
(1)上記の実施形態では、トンネルの複数の電極層側の面(実施形態1及び実施形態2では下面、実施形態1の変形例1では上面)を、断面が半円形(中心角180°の円弧)なすものとしたが、これに限定されない。例えば、
図10及び
図11に示すように、電極層側の面(
図10及び
図11における下側の面)の断面が、楕円弧をなすように形成してもよい。また、円弧もしくは楕円弧は、中心角が180°であるものに限らず、任意の中心角に対応する円弧もしくは楕円弧であってもよい。
【0070】
(2)トンネル付セラミック部材は、トンネルに対し複数の電極層とは反対側に、電極層を有していてもよい。或いは、トンネルよりも裏面FB側及び載置面FA側の両方に、複数の電極層を有していてもよい。トンネルの両側に複数の電極層を有する場合、トンネルの裏面FB側及び載置面FA側の両面が、円弧もしくは楕円弧をなすように形成されていることが好ましい。
【0071】
(3)トンネル付セラミック部材の形状は、円柱状に限定されない。
【実施例】
【0072】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0073】
[実施例]
(セラミックシート体10の作製)
セラミック粉末(平均粒径1.0μmのAl2O3原料)と、セラミックシート体10に含まれる樹脂として実施形態1に記載した樹脂と、を含有するスラリー状の混合物Mを調製した。混合物Mを用いて、ドクターブレード法によりセラミックシート体10を複数枚作製した。また、セラミックシート体10の1つの所定箇所に開孔10Cを形成し、セラミックシート体10Hとした。
【0074】
(電極シート体11~16の作製)
6枚のセラミックシート体10のそれぞれについて、一方の面に、Mo(モリブデン)もしくはW(タングステン)と、セラミック(Al2O3)と、を含有する導電性ペーストを所定のパターンでスクリーン印刷し、電極91~96を有する6枚の電極シート体11~16を作製した。
【0075】
(電極ブロック体20の形成)
電極シート体11~16の電極91~96が形成されていない方の面と、セラミックシート体10,10Hの片面に、有機溶剤70をそれぞれ塗布した。
有機溶剤70が塗布された電極シート体11~16と、セラミックシート体10,10Hとを積層し、加圧圧着して、円盤形状をなす電極ブロック体20を作製した(積層工程)。
【0076】
(セラミックブロック体30の作製)
セラミックシート体10を複数枚積層し、加圧圧着して、円盤形状をなす2つのセラミックブロック体30を作製した。
セラミックブロック体30の1つは、一方の板面にマシニングツールで溝81を形成して、第1ブロック体31とした。以下、溝81が形成された面を、貼合面31Aとする。溝81は、溝81の長手方向に直交する断面において半円をなすように形成した(
図12参照)。溝81の幅は5mm、深さは3mmである。
もう1つのセラミックブロック体30は、溝を形成せず、平滑ブロック体33とした。
【0077】
(トンネル付セラミック部材の製造)
有機溶剤70を、溝81を除く第1ブロック体31の貼合面31Aと、電極ブロック体20の表面に塗布し、
図3Aに示されるように、上から順に平滑ブロック体33、第1ブロック体31、電極ブロック体20を貼り合わせて、
図3Bに示されるような圧着前駆体50を形成した(圧着前工程)。圧着前駆体50の内部には、電極91~96からなる複数の電極層9と、溝81の開口が閉塞されることで形成されたトンネル8が形成されている。
図12は、圧着前駆体50のZ軸方向と平行な断面におけるトンネル8近傍の拡大模式図である。トンネル8と、これに最も近接する電極91との間隔は、0.64mmであった。
【0078】
圧着前駆体50に、20Kg/cm2の圧力を加え、平滑ブロック体33と、第1ブロック体31と、電極ブロック体20と、が圧着された未焼結体を形成した(圧着工程)。
【0079】
次に、未焼結成形体を、還元雰囲気下で脱脂、焼結し(焼結工程)、
図1に示されるようなトンネル付セラミック部材1を完成した。
【0080】
トンネル付セラミック部材1におけるトンネル8を、Z軸方向に平行な面で切断して観察したところ、トンネル8に変形は認められず、周辺にクラックは見られなかった。本実施例のトンネル付セラミック部材1は、外径研磨や穴あけ等の加工を施した後、CVDヒータ等として使用できる。
【0081】
[比較例]
第1ブロック体に形成した溝の形状を変えたほかは上記実施例と同様にして、比較例に係る圧着前駆体C50を形成し、上記実施例と同様にトンネル付セラミック部材を製造した。
【0082】
比較例の溝は、底面の一部に平面を有し、当該溝の長手方向に直交する断面において底面の角部が曲線化(R化)された略長方形をなすように形成した。
図13は、圧着前駆体C50のZ軸方向に平行な断面における、トンネルC8近傍の部分拡大模式図である。この溝の底面が、
図13に示されるように、圧着前駆体C50においてトンネルC8の下面(複数の電極層9側の面)を形成する。なお、比較例において形成した溝の幅は1.8mm、角部Rの径は1.8mm、深さは1.5mmである。また、圧着前駆体C50において、トンネルC8と、これに最も近接する電極との間隔は、実施例と同じく0.64mmであった。
【0083】
焼結後の比較例に係るトンネル付セラミック部材におけるトンネルC8を、Z軸方向に平行な面で切断して観察したところ、
図14に示されるように、トンネルC8の角部にクラックCRが生じている様子が認められた。また、
図14に示すように、トンネルC8の下面の中央が僅かにトンネルC8側に湾曲変形している様子が窺われた。加圧工程において圧着前駆体C50を加圧すると、トンネルC8下面のうち、中央の平面部分に角の曲面部分よりも大きな圧力がかかり易い。このため、有機溶剤70によって軟化した第1ブロック体の下側部分や電極ブロック体20の上側部分が、トンネルC8下面の中央においてトンネルC8側に逃げるように変形したのではないかと推察される。これに伴い、未焼結体において電極ブロック体20を形成しているセラミックシート体10の積層部分が剥離することも考えられる。このように、未焼結体には僅かな変形や剥離等が生じており、これが焼結工程に供されて収縮した際に、脆弱部分に応力が集中してクラックが発生したと思われる。
【符号の説明】
【0084】
1,101,201: トンネル付セラミック部材
3,103,203: セラミック領域
8: トンネル(一のトンネルの一例)
8A: 仮想面(一の仮想面の一例)
9: 電極層
10,10H: セラミックシート体
10C: 開孔
11~16: 電極シート体
20: 電極ブロック体
30: セラミックブロック体
31: 第1ブロック体
31A: 貼合面
33: 平滑ブロック体
40: 貼合体
41: 接合体
50,250,C50: 圧着前駆体
70: 有機溶剤
81: 溝
91~96: 電極
108: トンネル(一のトンネルの他の例)
108A: 仮想面(一の仮想面の他の例)
218: 下側トンネル(一のトンネルの一例)
218A: 下側仮想面(一の仮想面の一例)
228: 上側トンネル(他のトンネルの一例)
228A: 上側仮想面(他の仮想面の一例)
231: 第1ブロック体
231A: 第1貼合面
232: 第2ブロック体
232A: 第2貼合面
281: 第1溝
282: 第2溝
FA: 載置面(一の面の他の例)
FB: 裏面(一の面の一例)
FC: 凹部
CR: クラック