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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】ストラットマウント
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/54 20060101AFI20240722BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20240722BHJP
   B60G 15/07 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
F16F9/54
F16F15/08 E
B60G15/07
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020203155
(22)【出願日】2020-12-08
(65)【公開番号】P2022090704
(43)【公開日】2022-06-20
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】橋本 岳宗
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-081503(JP,A)
【文献】特開平10-019079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/54
F16F 15/08
B60G 15/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショックアブソーバのロッド先端に取り付けられる内側部材と、前記内側部材の外周を取り囲み車体側に取り付けられる外側部材と、前記内側部材と前記外側部材との間に介在して各部が同一の弾性体から構成される環状の防振基体と、を備えるストラットマウントであって、
前記内側部材または前記外側部材の一方は、互いの対向方向に前記防振基体を周方向に亘って挟む一対のストッパ面部を備え、
前記内側部材または前記外側部材の他方は、一対の前記ストッパ面部の間に前記防振基体を介して挟まれる板部を備え、
前記防振基体は、前記板部側から前記ストッパ面部側へ突出して周方向に分散配置される複数の第1突出部および第2突出部を備え、
前記第1突出部は、前記板部と前記ストッパ面部との間で予圧縮され、
前記第2突出部と前記ストッパ面部との間に0.05~0.5mmの隙間があり、
前記第1突出部の前記板部側における基端の周方向寸法は、前記第2突出部の前記板部側における基端の周方向寸法よりも小さいことを特徴とするストラットマウント。
【請求項2】
ショックアブソーバのロッド先端に取り付けられる内側部材と、前記内側部材の外周を取り囲み車体側に取り付けられる外側部材と、前記内側部材と前記外側部材との間に介在して各部が同一の弾性体から構成される環状の防振基体と、を備えるストラットマウントであって、
前記内側部材または前記外側部材の一方は、互いの対向方向に前記防振基体を周方向に亘って挟む一対のストッパ面部を備え、
前記内側部材または前記外側部材の他方は、一対の前記ストッパ面部の間に前記防振基体を介して挟まれる板部を備え、
前記防振基体は、前記板部側から前記ストッパ面部側へ突出して周方向に分散配置される複数の第1突出部および第2突出部を備え、
前記第1突出部および前記第2突出部は、前記板部と前記ストッパ面部との間で予圧縮され、
前記第1突出部の予圧縮量よりも前記第2突出部の予圧縮量が少ないことを特徴とするストラットマウント。
【請求項3】
ショックアブソーバのロッド先端に取り付けられる内側部材と、前記内側部材の外周を取り囲み車体側に取り付けられる外側部材と、前記内側部材と前記外側部材との間に介在して各部が同一の弾性体から構成される環状の防振基体と、を備えるストラットマウントであって、
前記内側部材または前記外側部材の一方は、互いの対向方向に前記防振基体を周方向に亘って挟む一対のストッパ面部を備え、
前記内側部材または前記外側部材の他方は、一対の前記ストッパ面部の間に前記防振基体を介して挟まれる板部を備え、
前記防振基体は、前記板部側から前記ストッパ面部側へ突出して周方向に分散配置される複数の第1突出部および第2突出部を備え、
前記第1突出部は、前記板部と前記ストッパ面部との間で予圧縮され、
前記第2突出部と前記ストッパ面部との間に0.05~0.5mmの隙間があり、
前記第1突出部の前記板部側における基端の径方向寸法は、前記第2突出部の前記板部側における基端の径方向寸法よりも小さいことを特徴とするストラットマウント。
【請求項4】
前記第1突出部は、前記ストッパ面部側の先端へ向かうにつれて径方向寸法が小さくなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のストラットマウント。
【請求項5】
前記第1突出部と前記第2突出部とが周方向に離れることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のストラットマウント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はストラットマウントに関し、特に各部が同一の弾性体から構成される防振基体において大振幅振動時の静ばね定数を高くしつつ、小振幅振動時の動ばね定数を低くできるストラットマウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両におけるサスペンション機構では、ストラットマウントを介して、ショックアブソーバのロッド先端が車体側に弾性的に結合することで、車輪側からの振動が車体側へ伝達されることを抑制する。例えば、特許文献1に開示されたストラットマウントは、ロッド先端が取り付けられる筒状の内側部材から径方向外側へ鍔部を張り出させ、その鍔部の両側を覆った弾性体製の環状の防振基体を、車体側に取り付けられる外側部材の一対のストッパで挟む。
【0003】
さらに、このストラットマウントは、環状のゴムの周方向の一部にウレタンを重ねて防振基体を構成している。これにより、大振幅振動時(大入力時)の静ばね定数を高くして操縦安定性を確保しつつ、小振幅振動時の動ばね定数を低くして車輪側から車体側への振動伝達を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-90995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術では、異なる2種類の弾性体で防振基体を構成しているため、防振基体の部品点数や製造工程が増加すると共に、異なる弾性体同士の接触摩擦による疲労が生じ易いという問題点がある。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、各部が同一の弾性体から構成される防振基体において大振幅振動時の静ばね定数を高くしつつ、小振幅振動時の動ばね定数を低くできるストラットマウントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明のストラットマウントは、ショックアブソーバのロッド先端に取り付けられる内側部材と、前記内側部材の外周を取り囲み車体側に取り付けられる外側部材と、前記内側部材と前記外側部材との間に介在して各部が同一の弾性体から構成される環状の防振基体と、を備えるものであって、前記内側部材または前記外側部材の一方は、互いの対向方向に前記防振基体を周方向に亘って挟む一対のストッパ面部を備え、前記内側部材または前記外側部材の他方は、一対の前記ストッパ面部の間に前記防振基体を介して挟まれる板部を備え、前記防振基体は、前記板部側から前記ストッパ面部側へ突出して周方向に分散配置される複数の第1突出部および第2突出部を備え、前記第1突出部は、前記板部と前記ストッパ面部との間で予圧縮され、前記第2突出部と前記ストッパ面部との間に0.05~0.5mmの隙間がある。
【0008】
また、本発明のストラットマウントは、ショックアブソーバのロッド先端に取り付けられる内側部材と、前記内側部材の外周を取り囲み車体側に取り付けられる外側部材と、前記内側部材と前記外側部材との間に介在して各部が同一の弾性体から構成される環状の防振基体と、を備えるものであって、前記内側部材または前記外側部材の一方は、互いの対向方向に前記防振基体を周方向に亘って挟む一対のストッパ面部を備え、前記内側部材または前記外側部材の他方は、一対の前記ストッパ面部の間に前記防振基体を介して挟まれる板部を備え、前記防振基体は、前記板部側から前記ストッパ面部側へ突出して周方向に分散配置される複数の第1突出部および第2突出部を備え、前記第1突出部および前記第2突出部は、前記板部と前記ストッパ面部との間で予圧縮され、前記第1突出部の予圧縮量よりも前記第2突出部の予圧縮量が少ない。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載のストラットマウントによれば、各部が同一の弾性体から構成される環状の防振基体は、板部側からストッパ面部側へ突出して周方向に分散配置される複数の第1突出部および第2突出部を備える。この第1突出部が板部とストッパ面部との間で予圧縮されるので、板部とストッパ面部との間隔が安定化する。第2突出部とストッパ面部との間に0.05~0.5mmの隙間があるので、この隙間よりも小さい振幅の振動が防振基体に入力された場合(以下「小振幅振動時」と称す)には、第2突出部がストッパ面部に当たらず、防振基体の動ばね定数を低くできる。
【0010】
一方、第2突出部とストッパ面部との隙間以上の振幅の振動が防振基体に入力された場合(以下「大振幅振動時」と称す)には、第2突出部がストッパ面部に当たるので、防振基体の静ばね定数を高くできる。これらの結果、各部が同一の弾性体から構成される防振基体において大振幅振動時の静ばね定数を高くしつつ、小振幅振動時の動ばね定数を低くでき、即ち防振基体の静動比を小さくできる。
【0011】
また、大振幅振動のうち、第2突出部とストッパ面部との隙間の2倍以下の振幅の振動が防振基体に入力された場合(以下「中振幅振動時」と称す)には、ストッパ面部に当たった第2突出部の圧縮量が小さいため、中振幅振動時の静ばね定数や動ばね定数を低く保つことができる。これにより、中振幅振動時の衝撃や振動をストラットマウントから車体側へ伝達し難くできる。
第1突出部の板部側における基端の周方向寸法は、第2突出部の板部側における基端の周方向寸法よりも小さい。これにより、小振幅振動時の防振基体の動ばね定数をより一層低くできると共に、大振幅振動時の防振基体の静ばね定数をより一層高くできる。
【0012】
請求項2記載のストラットマウントによれば、各部が同一の弾性体から構成される環状の防振基体は、板部側からストッパ面部側へ突出して周方向に分散配置される複数の第1突出部および第2突出部を備える。この第1突出部および第2突出部が板部とストッパ面部との間で予圧縮されるので、板部とストッパ面部との間隔が安定化する。第1突出部の予圧縮量よりも第2突出部の予圧縮量が少ない。これにより、比較的小さい振幅の振動が防振基体に入力された場合(以下「小振幅振動時」と称す)には、第1突出部および第2突出部の圧縮量が予圧縮量から殆ど変わらない。そのため、小振幅振動時には、予圧縮量の多い第1突出部の特性が支配的になって防振基体の動ばね定数が決まり、防振基体の動ばね定数を低くできる。
【0013】
一方、比較的大きい振幅の振動が防振基体に入力された場合(以下「大振幅振動時」と称す)には、第1突出部だけではなく第2突出部の圧縮量も多くなり、第1突出部および第2突出部の両方の静ばね定数を高くでき、防振基体の静ばね定数を高くできる。これらの結果、各部が同一の弾性体から構成される防振基体において大振幅振動時の静ばね定数を高くしつつ、小振幅振動時の動ばね定数を低くでき、即ち防振基体の静動比を小さくできる。
請求項3記載のストラットマウントによれば、請求項1記載のストラットマウントと同様に、第2突出部とストッパ面部との間に0.05~0.5mmの隙間があるので、小振幅振動時には防振基体の動ばね定数を低くしつつ、大振幅振動時には防振基体の静ばね定数を高くできると共に、中振幅振動時の静ばね定数や動ばね定数を低く保つことができる。
第1突出部の板部側における基端の径方向寸法は、第2突出部の板部側における基端の径方向寸法よりも小さい。これにより、第1突出部とストッパ面部との接触面積を小さくし易く、第2突出部とストッパ面部との接触面積を大きくし易い。その結果、第1突出部の特性が支配的となる小振幅振動時の動ばね定数をより一層低くできると共に、第1突出部の特性だけでなく第2突出部の特性も大きく影響する大振幅振動時の静ばね定数をより一層高くできる。
【0014】
請求項記載のストラットマウントによれば、第1突出部は、ストッパ面部側の先端へ向かうにつれて径方向寸法が小さくなる。これにより、大振幅振動時における第1突出部とストッパ面部との接触面積を大きくしつつ、小振幅振動時における第1突出部とストッパ面部との接触面積を小さくできる。よって、請求項1から3のいずれかの効果に加え、大振幅振動時の静ばね定数をより高くしつつ、小振幅振動時の動ばね定数をより低くできる。
【0015】
請求項記載のストラットマウントによれば、第1突出部と第2突出部とが周方向に離れるので、第1突出部および第2突出部の圧縮時の応力を分散でき、防振基体に亀裂などを生じ難くできる。さらに、第1突出部の変形に伴う第2突出部の変形を抑制できるので、請求項1からのいずれかの効果に加え、第2突出部の圧縮量に応じた静ばね定数の増加量を安定化でき、入力振動に応じた防振基体の静ばね定数を安定化できる。
【0016】
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態におけるストラットマウントの断面図である。
図2】防振基体および内側部材の平面図である。
図3図2のIII-III線における防振基体および内側部材の切断部端面図である。
図4】第2実施形態におけるストラットマウントの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、第1実施形態におけるストラットマウント10の断面図である。ストラットマウント10は、自動車のサスペンション機構(懸架機構、図示せず)において、ショックアブソーバのロッド(図示せず)と車体側(図示せず)との間に介設されることで、車輪側から車体側へ伝達される振動を低減する防振装置である。
【0019】
ストラットマウント10は、ショックアブソーバのロッド先端が締結固定される円筒状の内側部材11と、車体側に締結固定される外側部材14と、それら内側部材11及び外側部材14を連結する防振基体30と、を備える。なお、図1におけるストラットマウント10の断面図は、内側部材11の軸心C(ショックアブソーバのロッドの軸心)を含む断面を示す。
【0020】
内側部材11は、鉄鋼やアルミニウム合金などの金属製の円筒状の部材であり、上端から径方向外側へ張り出す円環状の板部12を備える。板部12は、軸心Cに垂直な平板である。内側部材11の内周側にショックアブソーバのロッド先端が挿入されて締結固定されることで、ロッド先端に内側部材11が取り付けられる。
【0021】
防振基体30は、板部12の上面、下面および外周面を覆うように各部が同一の弾性体から構成される環状の部材である。なお、本実施形態における弾性体はゴムであるが、その弾性体を熱可塑性エラストマや発泡合成樹脂などから構成しても良い。防振基体30は、板部12に加硫接着される。
【0022】
外側部材14は、内周側に防振基体30が収容される筒壁部15と、筒壁部15の下端から径方向内側へ張り出す下壁部16と、筒壁部15の下端から下壁部16よりも下方へ延びる筒状の保持部17と、筒壁部15の周方向の一部から径方向外側へ張り出す固定部18と、筒壁部15の上端を塞ぐ鉄鋼などの金属製の蓋体19と、を備える。筒壁部15、下壁部16、保持部17及び固定部18が鉄鋼などの金属により一体成形される。
【0023】
筒壁部15は、軸心Cを中心とした円筒状の部位であり、内周面15aによって防振基体30の径方向への移動を規制する。筒壁部15の上端部には、内周面15aを段差状に凹ませた開口部15bが形成されている。筒壁部15内に防振基体30を収容した後、この開口部15bに蓋体19を嵌め、蓋体19と筒壁部15とを溶接や溶着することで、蓋体19が筒壁部15に固定される。
【0024】
下壁部16は、軸心Cを中心とした円環状の部位であり、防振基体30を下方から支える。下壁部16の内周側を内側部材11の一部が通る。下壁部16は、防振基体30を間に挟んで内側部材11の板部12と上下方向(軸心C方向)に対向する環状のストッパ面部16aを備える。
【0025】
保持部17は、ショックアブソーバの圧縮時にストッパとして作用するバウンドバンパ(図示せず)が組付けられるカップ状の部位である。固定部18は、ボルト等によって車体に組み付けられる部位である。
【0026】
蓋体19は、筒壁部15に固定した状態において、下壁部16のストッパ面部16aとの間に防振基体30を挟んで保持する部位である。この蓋体19のうちストッパ面部16aと上下方向に対向する部位が環状のストッパ面部19aである。よって、ストッパ面部16a,19aは、防振基体30を上下方向(対向方向)に挟み、防振基体30を介して内側部材11の板部12を上下方向に挟んでいる。
【0027】
次に図1に加え図2,3を参照して防振基体30の詳細構成について説明する。図2は、防振基体30及び内側部材11の平面図である。図3は、図2のIII-III線における防振基体30及び内側部材11の切断部端面図である。
【0028】
図1及び図2に示すように、防振基体30は、板部12の上面、下面および外周面を覆う所定厚の環状のベース30aと、ベース30a(板部12側)からストッパ面部16a,19aそれぞれへ向けて突出する複数の第1突出部31及び第2突出部32と、を備える。これらベース30a、複数の第1突出部31及び第2突出部32が同一の弾性体によって一体成形されている。
【0029】
複数の第1突出部31及び第2突出部32は、防振基体30の周方向に分散配置される。具体的には、第1突出部31と第2突出部32とが周方向に交互に並び、板部12の片面側に第1突出部31及び第2突出部32が3個ずつ回転対称に配置される。また、板部12の上面側と下面側とで第1突出部31が同位置にあり、第2突出部32が同位置にある。なお、例えば、第1突出部31に対し板部12を挟んだ反対側に第2突出部32が位置するように、板部12の上面側と下面側とで第1突出部31及び第2突出部32の位置をずらしても良い。
【0030】
第1突出部31は、板部12とストッパ面部16a,19aとの間で予圧縮される高さに形成されている。なお、図1には、予圧縮される前の第1突出部31が二点鎖線で示され、予圧縮された第1突出部31が実線で示される。この予圧縮前後の第1突出部31の高さの差が予圧縮量である。周方向に分散配置された第1突出部31が板部12とストッパ面部16a,19aとの間で予圧縮されるので、防振基体30を挟んだ板部12とストッパ面部16a,19aとの間隔が安定する。
【0031】
第1突出部31は、ベース30a側(板部12側)の基端からストッパ面部16a,19a側の先端へ向かうにつれて径方向寸法が徐々に小さくなり、軸方向断面(図1の断面)が略三角形状に形成されている。また、図3に示すように、第1突出部31は、基端から先端へ向かうにつれて周方向寸法が徐々に小さくなり、周方向断面(図3の断面)も略三角形状に形成されている。
【0032】
図1に示すように、第2突出部32は、防振基体30に振動が入力されておらず車体の荷重が付与された静置状態において、ストッパ面部16a,19aに接触しない高さに形成されている。静置状態において、この第2突出部32とストッパ面部16a,19aとの間の最小の隙間Gは0.05~0.5mmである。
【0033】
第2突出部32は、ベース30a側の基端からストッパ面部16a,19a側の先端へ向かうにつれて径方向寸法が徐々に小さくなり、軸方向断面(図1の断面)が略台形状に形成されている。第2突出部32の先端は、径方向の中央が若干盛り上がった略平坦面によって形成されている。また、図3に示すように、第2突出部32の先端は、周方向端面において板部12と略平行(高さが周方向に略一定)である。
【0034】
図2及び図3に示すように、第1突出部31と第2突出部32とは、周方向に離れる。この第1突出部31と第2突出部32との間の凹部33の底面によってベース30aの上下面が露出する。この板部12から凹部33の底面までの厚さが環状のベース30aの厚さであり、凹部33の底面からの高さが第1突出部31及び第2突出部32の高さである。また、板部12から凹部33の底面までの厚さのベース30aとの境界部分が第1突出部31及び第2突出部32の基端である。
【0035】
第1突出部31の基端の径方向寸法L1は、第2突出部32の基端の径方向寸法L2よりも小さい。また、第1突出部31の基端の周方向寸法L3は、第2突出部32の基端の周方向寸法L4よりも小さい。
【0036】
以上のようなストラットマウント10によれば、第1突出部31が板部12とストッパ面部16a,19aとの間で予圧縮されるのに対し、静置状態で第2突出部32とストッパ面部16a,19aとの間に0.05~0.5mmの隙間Gがある。そのため、この隙間Gよりも小さい振幅の振動が防振基体30に入力された場合(以下「小振幅振動時」と称す)には、第2突出部32がストッパ面部16a,19aに当たらず、第1突出部31の特性により防振基体30の動ばね定数が決まる。そのため、小振幅振動時の防振基体30の動ばね定数を低くできるので、車輪側から車体側への振動伝達を抑制できる。
【0037】
一方、第2突出部32とストッパ面部16a,19aとの隙間G以上の振幅の振動が防振基体30に入力された場合(以下「大振幅振動時」と称す)には、第1突出部31だけでなく第2突出部32がストッパ面部16a,19aに当たる。そのため、大振幅振動時の防振基体30の静ばね定数を高くできるので、ストラットマウント10を用いた車両の操縦安定性を確保できる。これらの結果、各部が同一の弾性体から構成される防振基体30において大振幅振動時の静ばね定数を高くしつつ、小振幅振動時の動ばね定数を低くできる。即ち、防振基体30の静動比を小さくでき、車体側への振動伝達の抑制と操縦安定性とを両立できる。
【0038】
さらに、大振幅振動のうち、第2突出部32とストッパ面部16a,19aとの隙間Gの2倍以下の振幅(1mm以下)の振動が防振基体30に入力された場合(以下「中振幅振動時」と称す)には、ストッパ面部16a,19aに当たった第2突出部32の圧縮量が小さい。これにより、中振幅振動時の防振基体30の静ばね定数や動ばね定数を低く保つことができるので、中振幅振動時の衝撃や振動をストラットマウント10から車体側へ伝達し難くできる。
【0039】
第1突出部31は、先端へ向かうにつれて径方向寸法が小さくなるので、大振幅振動時における第1突出部31とストッパ面部16a,19aとの接触面積を大きくしつつ、小振幅振動時における第1突出部31とストッパ面部16a,19aとの接触面積を小さくできる。これにより、大振幅振動時の防振基体30の静ばね定数をより高くしつつ、小振幅振動時の防振基体30の動ばね定数をより低くできる。
【0040】
第2突出部32の先端は略平坦面であり、周方向断面における第2突出部32の高さは略一定である。これにより、第2突出部32がストッパ面部16a,19aに接触する大振幅振動時には、防振基体30の静ばね定数を急増させることができる。これにより、ストラットマウント10を用いた車両の操縦安定性を向上できる。
【0041】
但し、第2突出部32の先端の略平坦面は、径方向の中央が若干盛り上がっているので(最先端へ向かうにつれて第2突出部32の先端の径方向寸法が小さくなるので)、第2突出部32とストッパ面部16a,19aとの接触の初期段階では、防振基体30の静ばね定数を緩やかに増加させることができる。これにより、第2突出部32とストッパ面部16a,19aとの接触時の衝撃を車体側へ伝達し難くできる。
【0042】
第1突出部31と第2突出部32とが周方向に離れ、その間に凹部33があるので、第1突出部31及び第2突出部32の圧縮時の応力を凹部33によって分散でき、防振基体30に亀裂などを生じ難くできる。さらに、第1突出部31の変形に伴う第2突出部32の変形を凹部33によって抑制できるので、小振幅振動時の第2突出部32とストッパ面部16a,19aとの隙間Gの大きさや、大振幅振動時の第2突出部32の圧縮量に応じた防振基体30の静ばね定数の増加量を安定化できる。
【0043】
第1突出部31の基端の径方向寸法L1は、第2突出部32の基端の径方向寸法L2よりも小さい。これにより、第1突出部31とストッパ面部16a,19aとの接触面積を小さくし易いので、第1突出部31の特性が支配的となる小振幅振動時の防振基体30の動ばね定数をより一層低くできる。さらに、径方向寸法L1よりも径方向寸法L2が大きいので、第2突出部32とストッパ面部16a,19aとの接触面積を大きくし易いので、第1突出部31の特性だけでなく第2突出部32の特性も大きく影響する大振幅振動時の防振基体30の静ばね定数をより一層高くできる。
【0044】
同様に、第1突出部31の基端の周方向寸法L3が第2突出部32の基端の周方向寸法L4よりも小さいので、小振幅振動時の防振基体30の動ばね定数をより一層低くできると共に、大振幅振動時の防振基体30の静ばね定数をより一層高くできる。これらの結果、ストラットマウント10によって車体側への振動伝達をより抑制できると共に、操縦安定性をより向上できる。
【0045】
次に図4を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、静置状態で第2突出部32とストッパ面部16a,19aとの間に隙間Gがある場合について説明した。これに対して第2実施形態では、静置状態でも第2突出部42がストッパ面部16a,19aに当たる場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図4は、第2実施形態におけるストラットマウント40の断面図である。
【0046】
ストラットマウント40の防振基体41は、板部12の上面、下面および外周面を覆う所定厚のベース30aと、ベース30a(板部12側)からストッパ面部16a,19aそれぞれへ向けて突出する複数の第1突出部31及び第2突出部42と、を備える。これらベース30a、複数の第1突出部31及び第2突出部42が同一の弾性体(例えばゴム)によって一体成形されている。
【0047】
なお、複数の第1突出部31及び第2突出部42の位置関係は、第1実施形態における複数の第1突出部31及び第2突出部32の位置関係と同一である。また、第2突出部42は、第1実施形態における第2突出部32と高さが異なるだけで、第2突出部32と形状や径方向寸法L2、周方向寸法L4は略同一である。
【0048】
第2突出部42は、板部12とストッパ面部16a,19aとの間で予圧縮される高さに形成されている。なお、図4には、予圧縮される前の第2突出部42が二点鎖線で示され、予圧縮された第2突出部42が実線で示される。この予圧縮前後の第2突出部42の高さの差が予圧縮量である。周方向に分散配置された複数の第1突出部31及び第2突出部42が板部12とストッパ面部16a,19aとの間で予圧縮されるので、防振基体41を挟んだ板部12とストッパ面部16a,19aとの間隔が安定する。
【0049】
第2突出部42の予圧縮前の高さは、第1突出部31の予圧縮前の高さよりも低いため、第2突出部42の予圧縮量は、第1突出部31の予圧縮量よりも少ない。これにより、比較的小さい振幅(例えば0.5mm未満)の振動が防振基体41に入力された場合(以下「小振幅振動時」と称す)には、第1突出部31及び第2突出部42の圧縮量が予圧縮量から殆ど変わらない。そのため、小振幅振動時には、予圧縮量の多い第1突出部31の特性が支配的になって防振基体41の動ばね定数が決まり、防振基体41の動ばね定数を低くできる。
【0050】
一方、比較的大きい振幅(例えば0.5mm以上)の振動が防振基体41に入力された場合(以下「大振幅振動時」と称す)には、第1突出部31だけではなく第2突出部42の圧縮量も多くなる。そのため、大振幅振動時には、第1突出部31及び第2突出部42の両方の静ばね定数を高くでき、防振基体41の静ばね定数を高くできる。これらの結果、各部が同一の弾性体から構成される防振基体41において大振幅振動時の静ばね定数を高くしつつ、小振幅振動時の動ばね定数を低くできる。
【0051】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。内側部材11や外側部材14、防振基体30,41の各部形状や寸法は適宜変更しても良い。例えば、互いの対向方向に防振基体30,41を挟む一対の環状のストッパ面部を内側部材に設け、その一対のストッパ面部の間に防振基体30,41を介して挟まれる板部を外側部材に設けても良い。
【0052】
上記形態では、第1突出部31と第2突出部32,42とが周方向に離れる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1突出部31と第2突出部32,42とを周方向に連続させても良い。また、第1突出部31と第2突出部32,42との間の凹部33の底面がベース30aである場合に限らず、凹部33の底面が板部12になるようにベース30aを省略しても良い。この場合、第1突出部31及び第2突出部32,42は、板部12から突出する。さらに、この場合、第1突出部31及び第2突出部32,42を一体成形せずに、別体である第1突出部31と第2突出部32,42とを同一(同種)の弾性体から構成しても良い。
【0053】
上記形態では、第2突出部32,42の先端が略平坦面である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2突出部32,42の先端に周方向に亘って延びる突起や、複数の凹凸などを設けたり、その先端の軸方向断面をV字状や逆V字状、破線形状にしても良い。これにより、第2突出部32,42とストッパ面部16a,19aとが接触するときの衝撃を低減できる。
【符号の説明】
【0054】
10,40 ストラットマウント
11 内側部材
12 板部
14 外側部材
16a,19a ストッパ面部
30,41 防振基体
31 第1突出部
32,42 第2突出部
図1
図2
図3
図4