(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】拡声器
(51)【国際特許分類】
H04R 27/00 20060101AFI20240722BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H04R27/00 A
H04R1/40 310
(21)【出願番号】P 2020219002
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000232003
【氏名又は名称】日本電音株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】永木 清彦
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-201887(JP,A)
【文献】特開平09-261791(JP,A)
【文献】国際公開第2007/116658(WO,A1)
【文献】実開昭55-036689(JP,U)
【文献】登録実用新案第3115945(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 27/00
H04R 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクとスピーカを有する、手で把握可能な略長円柱形の拡声器であって、拡声器の略長円柱形の一方の端部に第一スピーカの音孔を設け、他方の端部にマイクを設け、さらに拡声器の略長円柱形の長手方向の側面で使用時に上方になる部分のうち、第一スピーカの音孔を設けた端部寄りに第二スピーカの音孔を設けたことを特徴とする拡声器。
【請求項2】
拡声器の略長円柱形の長手方向の側面で使用時に下方になる部分に手で把握可能なグリップホルダーを設けたことを特徴とする請求項1に記載の拡声器。
【請求項3】
増幅器及び電源が内蔵されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の拡声器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクとスピーカを内蔵した略長円柱形の手持ち可能な拡声器においてマイクとスピーカの配置を工夫することによりハウリングの低減と音圧の増強を可能にした拡声器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクとスピーカを内蔵した携帯式拡声器が数多く提案されている(特許文献1及び2参照)。しかしながら、これらの拡声器は、少人数使用や携帯性を重視するあまり特殊な形態を有しており、使用時の取扱い性に問題があった。
【0003】
かかる問題を解消し、違和感なく使用するために従来の手持ちマイク形態でスピーカを内蔵した拡声器も提案されている。かかる拡声器は、細長い円柱形のマイク形態の中にマイクとスピーカを配置するためにハウリングが発生しやすく、それを防止するため、マイクとスピーカを両端に離して配置することが一般的である。しかしながら、かかる配置の拡声器は、聴取者の方向への指向角が狭く、音圧が不十分であった。
【0004】
一方、ハウリングを防止しながら、十分な音圧を得るために、一方の端部にマイクを設け、長手方向の側面に二つの対称に配置されたスピーカを設けたマイクサウンドボックス装置が提案されている(特許文献3参照)。かかる装置は、二つのスピーカによって音圧が高く、二つのスピーカの対称軸の近くで振動が相殺され、ハウリングを効果的に低減することができるが、カラオケ使用を目的にしたものであるため、会議や講演やプレゼンなどの使用の場合に聴取者の方向に音圧が適切に伝搬されるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-120495号公報
【文献】特開2008-99062号公報
【文献】登録実用新案登録第3216709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のスピーカ付きのマイク型拡声器の従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、略長円柱形の手持ち可能なマイク型拡声器においてハウリングの低減と音圧の増強を効果的に図ったものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、マイク型拡声器の略長円柱形の一方の端部に第一スピーカの音孔を設け、他方の端部にマイクを設け、さらに略長円柱形の長手方向の側面で使用時に上方になる部分のうち、第一スピーカの音孔を設けた端部寄りに第二スピーカの音孔を設け、第一スピーカと第二スピーカの音声の伝搬方向が90度異なる構成をとることにより、ハウリングの軽減だけでなく、実際に使用時の聴取者の正面方向の音圧の増強を達成できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)~(3)の構成を有するものである。
(1)マイクとスピーカを有する、手で把握可能な略長円柱形の拡声器であって、拡声器の略長円柱形の一方の端部に第一スピーカの音孔を設け、他方の端部にマイクを設け、さらに拡声器の略長円柱形の長手方向の側面で使用時に上方になる部分のうち、第一スピーカの音孔を設けた端部寄りに第二スピーカの音孔を設けたことを特徴とする拡声器。
(2)拡声器の略長円柱形の長手方向の側面で使用時に下方になる部分に手で把握可能なグリップホルダーを設けたことを特徴とする(1)に記載の拡声器。
(3)増幅器及び電源が内蔵されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の拡声器。
【発明の効果】
【0009】
本発明の拡声器は、第一スピーカと第二スピーカの音声の伝搬方向が互いに90度異なるので、一方向への音声の伝搬より大きなハウリングマージンを得ることができ、ハウリングが極めて少ない。また、本発明の拡声器は、第一スピーカと第二スピーカの音声の伝搬方向が互いに90度異なり、45度方向で音声の伝搬が合成されるため、実際に拡声器を傾けて使用するときに聴取者の正面方向への音声の伝搬を増強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の拡声器(グリップホルダー付)の内部構造の説明図である。
【
図2】
図2は、
図1の拡声器を三方向から見た概略図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は正面図である。
【
図3】
図3は、本発明の拡声器(グリップホルダーなし)の二つのスピーカにより正面方向に音声合成される構造を示す。
【
図4】
図4は、本発明の拡声器の本発明の拡声器の使用態様例を示し、(a)は、手持ちマイク形態、(b)は、ハンドメガホン形態、(c)は、マイクスタンド取付形態での使用を示す。
【
図5】
図5は、本発明例の拡声器と比較例の拡声器のポーラ特性図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の拡声器の実施形態を図面に基づいて以下説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の拡声器の一例の内部構造を断面で示した説明図であり、
図2は、
図1の拡声器を三方向から見た概略図を(a)斜視図、(b)平面図、(c)正面図で示したものである。図中、1は、マイク本体、2は、グリップホルダーであり、マイク本体1とグリップホルダー2は、互いに脱着可能である。3は、マイク、4は、マイク集音部であり、5は、第一スピーカ、5´は、第二スピーカ、6は、第一スピーカの音孔、6´は、第二スピーカの音孔である。7は、増幅器を構成する基板、8は、電源を構成する電池(又は蓄電池)、9は、電池カバー、10は、電源スイッチ、11は、スイッチ基板、12は、防振材、13は、吸音材、14は、ネジ穴である。
【0013】
図1,2に示すように、マイク本体1は、手で把握可能な略長円柱形を有し、例えば長さは20~40cm、最大径は3~7cmの寸法を有する。マイク本体1の一方の端にはマイク3とその集音部4が設けられ、他方の端には第一スピーカ5とその音孔6が設けられている。さらに、本発明の拡声器では、略長円柱形の長手方向の側面で使用時に上方になる部分のうち、第一スピーカ5の音孔6を設けた端部寄りに第二スピーカ5´とその音孔6´が設けられている。
【0014】
本発明の拡声器では、マイク本体1の端部に装備した第一スピーカ5の音孔6からの音声の伝搬方向(マイク本体1の長手方向)と、マイク本体1の側面に装備した第二スピーカ5´の音孔の音孔6´からの音声の伝搬方向(マイク本体1の長手方向に直角な上方向)が90度異なるため、
図3に示すように第一スピーカ5と第二スピーカ5´により聴取者の正面方向に音声合成される構造をとることができ、一方向への音声の伝搬より大きなハウリングマージンを得ることができる。また、この構造により、マイク本体1の端部を下方に45°傾けて持つ場合に聴取者の正面方向に大きな音圧を伝搬することができる。
【0015】
本発明の拡声器では、
図1に示すように、略長円柱形のマイク本体1の長手方向の側面で使用時に下方になる部分から延びるグリップホルダー2を設けることができる。このグリップホルダー2は、マイク本体1から着脱自在に取り付けられていることが好ましい。グリップホルダー2は、手で把握可能な棒状のものであり、手で把握して使用する以外にマイク本体1をマイクスタンドの上方端部へ取り付ける場合の支柱としての役割も有する。本発明の拡声器においてマイク本体1にグリップホルダー2を着脱自在に取り付けるためには、ネジ止め、嵌合、固定部材の使用などの従来公知のいずれかの方法を適宜採用することができる。
【0016】
本発明の拡声器は、マイク本体1の単独使用の場合には、
図4(a)に示すように手持ちマイク形態で使用することができる。手持ちマイク形態では、プレゼンテーション、講演、会議室、教室などの屋内シーンでの使用に好適である。この形態では、グリップホルダー2を分離してマイク本体1を単独で使用しているため、軽量でコンパクトに持ち運ぶことができる。
【0017】
本発明の拡声器は、マイク本体1とグリップホルダー2を一体化した使用の場合には、
図4(b)に示すハンドメガホン形態や
図4(c)に示すマイクスタンド取付形態で使用することができる。
【0018】
図4(b)のハンドメガホン形態では、公園、中庭、少人数ツアー、小イベントでの使用に好適である。この形態では、グリップホルダー2を把握して使用するため、マイク本体1のスピーカの音孔部分に触れてハウリングを起こす心配がなく、スピーカの拡声方向が自然に聴取者の方に向くことができる。また、この形態では、マイク本体1よりスリムな径で角度的に持ちやすいグリップホルダー2を把握できるため、拡声器を安定して持ちやすく、低い手の位置の腕の負担が少ない最適なポジションで話すことができる。
【0019】
さらに、
図4(c)のマイクスタンド取付形態では、市販の従来一般的な棒状マイクスタンドの上方端部にしっかりと固定取付が可能である。この形態では、特に両手などで身体全体を使って話したいときに便利に使用することができる。この場合、グリップホルダー2のマイク本体1から離れた端部に、マイクスタンドの上方端部に固定取付可能な部材が設けられているか、又はマイクスタンドの上方端部に固定取付可能な加工が施されることが好ましい。固定取付可能な部材又は加工としては、マイクスタンドの上方端部のネジ部に螺合するネジ穴付き部材又は加工が挙げられる。具体的には、
図1の符号14に示すものであり、W5/16(JIS規格)に対応したネジ穴が挙げられる。
【0020】
本発明の拡声器は、
図4(b)に示すハンドメガホン形態や
図4(c)に示すマイクスタンド取付形態で好適に使用するためには、グリップホルダー2のマイク本体1への取付位置がマイク本体1のスピーカ5の音孔6を有する端部よりマイク3を有する端部の近くに存在することが好ましく、またマイク本体1の略長円柱形の中心軸線と、グリップホルダー2の把握部の中心軸線とが形成する角度が45~75°であるように設計することが好ましい。これらにより、グリップホルダーを手持ちする場合の負担が軽減されるとともにスピーカからの聴取者の方向への音の十分な伝達が可能になる。
【実施例】
【0021】
本発明の拡声器の二つのスピーカ配置による音声の伝搬効果を示すために無響室で500Hz、1kHz、2kHz、3kHz、5kHzの角周波数正弦波を入力して音圧を測定した。かかる測定で作られたポーラ特性図を
図5に示す。
【0022】
測定した拡声器としては、
図1に示すように構成した拡声器を使用し、本発明例では、第一スピーカと第二スピーカを両方使用し、比較例では第一スピーカのみを使用した。
【0023】
図5の上部のポーラ特性図は、側面スピーカーユニット直上の音圧を基準(0dB)として1個当たり1Wを入力して音圧を測定し、その差分をマイクに対して縦方向に360°の音の分布を記載したものである。下側のポーラ特性図は、スピーカーユニット1個当たり1Wを入力して音圧を測定し、測定値で360°の音の分布を記載したものである。
図5のポーラ特性図の2pcsのプロットは、本発明例の拡声器のスピーカを鳴動させた場合の特性であり、1pc正面のプロットは、比較例の拡声器のスピーカを鳴動させた場合の特性である。
【0024】
ポーラ特性図から明らかなように、本発明例の拡声器は、いずれの周波数正弦波においても比較例のものより優れた音の伝搬特性を示す。また、本発明例の拡声器は、
図4に示す(a)~(c)の三態様で使用したが、ハウリングを全く発生させなかった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の拡声器は、上述のような構成で、二つのスピーカを配置して構成しているので、手持ち可能なマイクの形態をとりながらハウリングの低減と音圧の増強を効果的に図ることができ、手持ちマイク形態、ハンドメガホン形態、マイクスタンド取付形態などの様々なシーンで好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 マイク本体
2 グリップホルダー
3 マイク
4 マイク集音部
5 スピーカ
6 スピーカの音孔
7 増幅器を構成する基板
8 電源を構成する電池(又は蓄電池)
9 電池カバー
10 電源スイッチ
11 スイッチ基板
12 防振材
13 吸音材
14 ネジ穴