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特許7524054建築構造体、動物細胞培養方法および動物細胞製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】建築構造体、動物細胞培養方法および動物細胞製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240722BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C12M1/00 K
C12M1/00 C
C12N5/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020508943
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031830
(87)【国際公開番号】W WO2019187201
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-03-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2018058670
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山本 聡彦
(72)【発明者】
【氏名】上西 彰
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】長井 啓子
【審判官】中根 知大
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-247297(JP,A)
【文献】特開2016-067232(JP,A)
【文献】特開2015-206670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
JST7580/JMEDPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
BIOSIS/CAPLUS/EMBASE/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物細胞培養または当該動物細胞培養に関する作業を行うための空間に人体に無害な第1微生物生育抑制因子を供給する工程と、
前記第1微生物生育抑制因子が供給されている前記空間内で動物細胞培養または当該動物細胞培養に関する作業を行う工程と、を含み、
前記第1微生物生育抑制因子は、正イオンおよび負イオンを含み、
前記動物細胞培養の対象となる細胞の種類に応じて、前記空間における前記正イオンおよび負イオンの濃度を、それぞれ7000個/cm以上、40万個/cm以下となるように設定することを特徴とする動物細胞培養方法。
【請求項2】
前記動物細胞培養の対象となる細胞は、人工多能性幹細胞であることを特徴とする請求項1に記載の動物細胞培養方法。
【請求項3】
動物細胞培養または当該動物細胞培養に関する作業を行うための空間に人体に無害な第1微生物生育抑制因子を供給する工程と、
前記第1微生物生育抑制因子が供給されている前記空間内で動物細胞培養または当該動物細胞培養に関する作業を行うことにより培養細胞を製造する工程と、を含み、
前記第1微生物生育抑制因子は、正イオンおよび負イオンを含み、
前記動物細胞培養の対象となる細胞の種類に応じて、前記空間における前記正イオンおよび負イオンの濃度を、それぞれ7000個/cm以上、40万個/cm以下となるように設定することを特徴とする動物細胞製造方法。
【請求項4】
動物細胞培養または当該動物細胞培養に関する作業を行うための空間を画定する建築構造体であって、
前記空間に人体に無害な第1微生物生育抑制因子を供給する抑制因子供給部と、
前記空間に作業者が出入りするためのドアを備えており、
前記第1微生物生育抑制因子は、正イオンおよび負イオンを含み、
前記動物細胞培養の対象となる細胞の種類に応じて、前記空間における前記正イオンおよび負イオンの濃度は、それぞれ7000個/cm 以上、40万個/cm 以下となるように設定されるものであり、
前記抑制因子供給部は、前記ドアの開閉に応じて前記第1微生物生育抑制因子の供給量を変化させるものである、建築構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清浄空間における細胞培養方法およびそのための装置、施設等に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養を行う場合、コンタミネーションを防止するために、清浄空間(無菌空間)内で作業が行われる。特許文献1には、清浄空間を形成する安全キャビネットの一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国公開特許公報「特開2016-165249号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
清浄空間を維持するためには、細胞培養の区切りの良いタイミングで除菌処理を行う必要がある。研究施設全体に対して除菌処理が行われることもある。除菌処理として、一般的にホルマリン、過酢酸製剤、過酸化水素または紫外線などを用いた処理が行われる。
【0005】
このような従来の除菌処理では、当該除菌処理を行っている間(数時間から1週間程度)は、細胞培養および細胞培養に関する作業を行うことができないという問題がある。
【0006】
本発明の一態様は、継続的に細胞培養または細胞培養に関する作業を行うことができる清浄空間維持装置および細胞培養方法等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る動物細胞培養方法は、動物細胞培養または当該動物細胞培養に関する作業を行うための空間に人体に無害な第1微生物生育抑制因子を供給する工程と、前記第1微生物生育抑制因子が供給されている前記空間内で動物細胞培養または当該動物細胞培養に関する作業を行う工程と、を含み、前記第1微生物生育抑制因子は、正イオンおよび負イオンを含み、前記動物細胞培養の対象となる細胞の種類に応じて、前記空間における前記正イオンおよび負イオンの濃度を、それぞれ7000個/cm 以上、40万個/cm 以下となるように設定する方法である。
【0009】
本発明の一実施形態に係る動物細胞製造方法は、動物細胞培養または当該動物細胞培養に関する作業を行うための空間に人体に無害な第1微生物生育抑制因子を供給する工程と、前記第1微生物生育抑制因子が供給されている前記空間内で動物細胞培養または当該動物細胞培養に関する作業を行うことにより培養細胞を製造する工程と、を含み、前記第1微生物生育抑制因子は、正イオンおよび負イオンを含み、前記動物細胞培養の対象となる細胞の種類に応じて、前記空間における前記正イオンおよび負イオンの濃度を、それぞれ7000個/cm 以上、40万個/cm 以下となるように設定する方法である。
【0011】
本発明の一実施形態に係る建築構造体は、動物細胞培養または当該動物細胞培養に関する作業を行うための空間を画定する建築構造体であって、前記空間に人体に無害な第1微生物生育抑制因子を供給する抑制因子供給部と、前記空間に作業者が出入りするためのドアを備えており、前記第1微生物生育抑制因子は、正イオンおよび負イオンを含み、前記動物細胞培養の対象となる細胞の種類に応じて、前記空間における前記正イオンおよび負イオンの濃度は、それぞれ7000個/cm 以上、40万個/cm 以下となるように設定されるものであり、前記抑制因子供給部は、前記ドアの開閉に応じて前記第1微生物生育抑制因子の供給量を変化させるものである
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、除菌処理によって中断されることなく、継続的に細胞培養または細胞培養に関する作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係る安全キャビネットの構成を示す断面図である。
図2】イオン発生器の構成を示す図である。
図3】実施形態2に係るクリーンチャンバーの構成を示す断面図である。
図4】実施形態3に係るインキュベータを、その正面に平行な平面で切断したときの断面図である。
図5】実施形態4に係る細胞培養システムの構成を示す見取り図である。
図6】フィルタリング形態における抑制因子供給部とフィルタとの位置関係を示す図である。
図7】正負イオンのマイコプラズマに対する効果を示すグラフである。
図8】正負イオンの浮遊細菌に対する効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。本明細書において、除菌という概念には、細菌、カビ類、ウイルスなどの微生物を死滅させることのみならず、当該微生物の生育および増殖を抑制すること、および当該微生物をフィルタリングにより物理的に除去することが含まれる。なお、以下では、当該微生物を細菌等と称することがある。
【0015】
図1は、本実施形態に係る安全キャビネット1の構成を示す断面図である。安全キャビネット1は、細胞培養に関する作業を行うための清浄空間(無菌空間)を維持する清浄空間維持装置である。安全キャビネット1は、特に、再生医療に関わる多細胞生物(例えば、人間)の細胞を培養することを想定して設計されている。前記細胞培養の対象となる細胞は、例えば、人工多能性幹細胞(iPS細胞)である。ただし、安全キャビネット1を再生医療のための細胞培養以外の無菌操作(例えば、細菌、真菌または植物細胞の培養)のために使用してもよい。
【0016】
図1に示すように、安全キャビネット1は、細胞培養に関する作業を行うための作業空間3を画定する空間形成部4を備えている。空間形成部4の底面が作業台5として利用される。前面シャッター12も空間形成部4の一部であると見なすこともできる。
【0017】
前面シャッター12と作業台5との間の隙間である開口部13から吸い込まれた室内空気14は、作業台5に形成された開口部15に流入した後、本体2の内部に形成された循環流路16を通り、送風機9に吸い込まれる。送風機9に吸い込まれた空気は、給気用HEPA(High Efficiency Particulate Air Filter)フィルタ7により濾過された後、イオン発生器8(抑制因子供給部)を通過することにより正イオンおよび負イオン(第1微生物生育抑制因子)を付与される。正イオンおよび負イオンを付与された空気は、清浄空気17(清浄気体)として作業空間3内に供給される。
【0018】
イオン発生器8は、作業空間3内の正イオンおよび負イオンの濃度が、それぞれ7000個/cm以上、100万個/cm以下、より好ましくは、7000個/cm以上、40万個/cm以下となるように正イオンおよび負イオンを供給することが好ましい。正イオンおよび負イオンの濃度を7000個/cm以上にすることにより、細菌等の生育および増殖を抑制することができる。また、正イオンおよび負イオンの濃度を100万個/cm以下とすることにより、培養の対象となる細胞への悪影響を抑えることができる。さらに、当該濃度を40万個/cm以下とすることにより、当該悪影響をより確実に抑えることができる。当該濃度を40万個/cm以下とすれば、iPS細胞を培養する場合に、陽性率、生存率および増殖率についてコントロールと同じ値が得られることを本発明の発明者らは確認している。なお、以下の説明では、正イオンおよび負イオンを総称して正負イオンと称することがある。
【0019】
このようにイオン発生器8は、安全キャビネット1に内蔵されており、作業空間3に供給される気体に第1微生物生育抑制因子としての正負イオンを供給する。清浄空気17に正負イオンが含まれているため、作業空間3内に存在する細菌等の生育および増殖を抑制することができる。
【0020】
作業空間3内に供給された清浄空気17の一部は、開口部15に流入した後、送風機9に吸い込まれ、正負イオンを再び付与される。このように安全キャビネット1の内部を循環する空気に正負イオンを継続的に付与することにより作業空間3の清浄度が維持される。
【0021】
一方、循環流路16を上昇した空気の一部は、排気用HEPAフィルタ10により濾過され、清浄空気として排気口11から装置外に排出される。
【0022】
本明細書において微生物生育抑制因子とは、細菌、カビ類など、細胞培養に悪影響を及ぼす微生物の生育および増殖を抑制させる能力を有している物質、ウイルスなどの微生物を不活化する能力を有している物質、または上述の微生物を空気中から除去するために利用される物質を意味する。微生物生育抑制因子の利用形態として、微生物生育抑制因子を作業空間3に供給する形態(放出形態)と、作業空間3内に供給される気体が通過するフィルタに微生物生育抑制因子を供給する形態(フィルタリング形態)とが考えられる。
【0023】
放出形態で用いる第1微生物生育抑制因子は、細菌またはカビ類の生育および増殖を抑制する能力、またはウイルスを不活化する能力を有しているが、人体に無害であり、多細胞生物の細胞の増殖を実質的に阻害しない因子であることが好ましい。
【0024】
放出形態において利用可能な第1微生物生育抑制因子として、正負イオン、およびラジカルを含むナノメータサイズの帯電微粒子を挙げることができる。フィルタリング形態において利用可能な第2微生物生育抑制因子として、電荷、低温プラズマおよび塩素系化合物を挙げることができる。正負イオン以外の微生物生育抑制因子の詳細については後述する。
【0025】
給気用HEPAフィルタ7は、細菌、ウイルス等の微生物または不活化対象を捕捉するためのフィルタであるが、正負イオンによる微生物の生育および増殖を抑制する効果が十分な場合には、給気用HEPAフィルタ7を省略することも可能である。
【0026】
図2は、イオン発生器8の構成を示す図である。図2の(a)に示すように、イオン発生器8は、気流F1・F2に対して垂直な方向に並列した2つのイオン発生部8Aおよび8Bを備えている。図示しない給電部によってイオン発生部8Aおよび8Bに電圧を供給することより、イオン発生部8Aおよびイオン発生部8Bそれぞれがコロナ放電し、イオンが発生する。イオン発生部8Aは正イオンを発生し、イオン発生部8Bは負イオンを発生する。
【0027】
また、図2の(a)に示すように、2個以上のイオン発生部8Aを並列させた第1ユニット81と、2個以上のイオン発生部8Bを並列させた第2ユニット82とを並列させてイオン発生器8としてもよい。
【0028】
イオン発生部8Aおよび8Bはそれぞれ、尖鋭状をなす放電電極凸部8Aa,8Ba、および放電電極凸部8Aa,8Baを囲繞する誘導電極環8Ab,8Bbを有している。放電電極凸部8Aaおよび8Baはそれぞれ、誘導電極環8Ab,8Bbの中心部に配されている。
【0029】
なお、放電電極凸部8Aa,8Baは、面電極、針電極、ブラシ電極などであってもよく、放電可能であれば放電電極凸部8Aa,8Baの形状、種類および素材は問わない。
【0030】
イオン発生部8Aには正電圧が印加される。イオン発生部8Aに正電圧が印加されると、放電によるプラズマ領域で、空気中の水分子が電気的に分解され、主として水素イオンHが生成する。そして、生成した水素イオンHの周りに空気中の水分子が凝集し、安定した電荷が正のクラスターイオンH(HO)が形成される。
【0031】
イオン発生部8Bには負電圧が印加される。イオン発生部8Bに負電圧が印加されると、放電によるプラズマ領域で、空気中の酸素分子が電気的に分解され、主として酸素イオンO が生成する。そして、生成した酸素イオンO の周りに空気中の水分子が凝集し、安定した電荷が負のクラスターイオンO (HO)が形成される。ここで、m、nは任意の整数である。この明細書中で「正イオン」というときは正のクラスターイオンを意味し、「負イオン」というときは負のクラスターイオンを意味する。なお、正負のクラスターイオンの生成は、飛行時間分解型質量分析法により確認することができる。
【0032】
(安全キャビネット1の効果)
正イオン及び負イオンは、同時に空気中に放出されると、空気中に浮遊する微生物の表面で凝集してこれらを取り囲む。そして、瞬間的に、正イオンと負イオンが結合して、[・OH](水酸基ラジカル)またはH(過酸化水素)が微生物の表面上にて凝集生成される。[・OH]およびHは、酸化力の非常に高い活性種であるので、化学反応により微生物の表面のタンパク質を分解してその働きを抑制する。
【0033】
そのため、イオン発生器8によって正イオン及び負イオンを発生させ、作業空間3に供給することにより、作業空間3内に存在するウイルスを不活化し、作業空間3内に存在する細菌およびカビ類の生育および増殖を抑制することができる。
【0034】
正負イオンは、人体および培養細胞には無害のため、細胞培養の作業を行いつつ、作業空間3の除菌を行うことができる。そのため、除菌処理のために細胞培養の作業が行えない時期が発生しない。その結果、効率の良い細胞培養を行うことができる。
【0035】
従来の安全キャビネットでも、給気用HEPAフィルタ7によって細菌等を捕捉することはできるが、作業空間3に侵入した細菌等の生育および増殖を抑制することは困難である。
【0036】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0037】
図3は、本実施形態に係るクリーンチャンバー20の構成を示す断面図である。クリーンチャンバー20は、イオン発生器8を内蔵する清浄空間維持装置である。図3に示すように、クリーンチャンバー20は、送風機9を作動させることにより給気口21から空気を給気し、給気した空気を給気用HEPAフィルタ7に通す。さらにクリーンチャンバー20は、給気用HEPAフィルタ7を通過した空気に対して、イオン発生器8によって正負イオンを付与する。正負イオンを付与された空気(清浄空気17)は、作業空間3に供給される。
【0038】
イオン発生器8は、作業空間3内の正イオンおよび負イオンの濃度が、それぞれ7000個/cm以上、100万個/cm以下、より好ましくは、7000個/cm以上、40万個/cm以下となるように正負イオンを供給することが好ましい。
【0039】
清浄空気17に含まれる正負イオンによって、作業空間3内に存在するウイルスを不活化し、作業空間3内に存在する細菌およびカビ類の生育および増殖を抑制することができる。クリーンチャンバー20は、再生医療に関わる細胞培養のための作業の他、他の無菌操作(例えば、細菌、真菌または植物細胞の培養のための作業)を行うための清浄空間維持装置として用いることができる。
【0040】
〔実施形態3〕
本発明のさらに別の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0041】
図4は、本実施形態に係るインキュベータ30(恒温装置)の構成を示す断面図である。図4は、インキュベータ30を、その正面に平行な平面で切断したときの断面図である。インキュベータ30は、イオン発生器35(抑制因子供給部)を内蔵する清浄空間維持装置である。
【0042】
図4に示すように、インキュベータ30は、シャーレ等を載置するための複数の棚31、棚31を保持するフレーム32、送風機34、イオン発生器35およびヒータ36を備えている。イオン発生器35は、イオン発生器8と同様に正負イオンを発生させる。
【0043】
イオン発生器35は、作業空間3内の正イオンおよび負イオンの濃度が、それぞれ7000個/cm以上、100万個/cm以下、より好ましくは、7000個/cm以上、40万個/cm以下となるように正負イオンを供給することが好ましい。
【0044】
インキュベータ30の本体37(恒温空間形成部)によって、細胞を培養するための培養空間38(恒温空間)が画定されている。この培養空間は、ヒータ36によって培養に好ましい温度に調節されている。また、COを培養空間38に供給するための供給管(図示せず)を本体37に設けてもよい。
【0045】
送風機34によって、インキュベータ30の内部に気流が発生する。この気流は、流路33を循環するとともに、フレーム32に形成されている複数の開口部を通って棚31の間を通過する。イオン発生器35は、流路33において、送風機34よりも気流の下流に位置している。そのため、イオン発生器35が発生させた正負イオンは、インキュベータ30の内部を循環し、インキュベータ30の内部の清浄度を維持することができる。
【0046】
〔実施形態4〕
本発明のさらに別の実施形態について、以下に説明する。図5は、本実施形態に係る細胞培養システム60の構成を示す見取り図である。細胞培養システム60は、再生医療に関わる多細胞生物の細胞を培養するためのシステム(細胞培養施設)である。ただし、細胞培養システム60を再生医療のための細胞培養以外の細胞培養のためのシステムとして使用してもよい。
【0047】
細胞培養システム60は、作業室40(建築構造体)および制御装置50を備えている。細胞培養システム60は、複数の作業室40を備えていてもよい。作業室40は、複数の壁面41、床42および天井(図示せず)を有しており、これらによって作業空間48が画定されている。作業空間48は、細胞培養または当該細胞培養に関する作業を行うための空間である。壁面41の少なくとも1つには、少なくとも1つのドア43が設けられている。作業空間48への出入りは、ドア43を開閉することで行うことができる。
【0048】
作業空間48には、安全キャビネット1、クリーンチャンバー20およびインキュベータ30が配置されている。これらの装置の配置は特に限定されず、これらの装置のうちの一部のみを配置してもよい。また、これらの装置に替えて、従来の安全キャビネット、クリーンチャンバーまたはインキュベータを配置してもよい。
【0049】
壁面41または天井の少なくとも1箇所には、空調機44(抑制因子供給部)が設けられている。空調機44は、備え付けの装置であり、通常の空調機能とともに、正負イオンを発生させる機能を有している。この空調機44は、HEPAフィルタ45、送風機46およびイオン発生器47を備えている。イオン発生器47は、イオン発生器8と同様に正負イオンを発生させる。発生した正負イオンは、送風機46が発生させる気流に乗って、作業空間48に放出される。送風機46が発生させる気流が作業空間48の隅々まで行きわたるように、空調機44の設置位置および送風方向を設定すればよい。
【0050】
イオン発生器47は、作業空間48内の正イオンおよび負イオンの濃度が、それぞれ7000個/cm以上、100万個/cm以下、より好ましくは、7000個/cm以上、40万個/cm以下となるように正負イオンを供給することが好ましい。正負イオン濃度がそれぞれ7000個/cm以上であれば、細菌およびウイルス等の生育および増殖を抑制することができる。一方、正イオンおよび負イオンの濃度が高すぎると、細胞培養に支障をきたす恐れがある。そのため、正イオンおよび負イオンの濃度は、それぞれ100万個/cm以下、より好ましくは、40万個/cm以下であることが好ましい。
【0051】
ただし、正イオンおよび負イオンの濃度の上限値は、培養の対象となる細胞によって異なる。そのため、細胞培養を開始する前に培養の対象となる細胞の種類に応じて、作業空間48における正負イオンの濃度を設定してもよい。
【0052】
作業空間48内の正負イオンの濃度を変化させる方法としては、(1)空調機44の設置台数を変更する、(2)設置されている複数の空調機44(またはイオン発生器47)のうちの、稼働する空調機44(またはイオン発生器47)の数を変更する、(3)空調機44の設置位置を変更する、(4)送風機46の風速、風量または風向を変更するなどの方法を用いることができる。このような調整を可能とするために、空調機44を、備え付けの装置ではなく、移動させることが可能な装置として実現してもよい。
【0053】
制御装置50は、空調機44を制御する装置であり、作業室40の内部に設けられていてもよいし、作業室40の外部に設けられていてもよく、空調機44に内蔵されていてもよい。制御装置50は、複数の作業室40のそれぞれに設けられた空調機44を制御してもよい。
【0054】
制御装置50は、作業室40を使用するユーザの指示に従って空調機44の動作を制御する。特に、制御装置50は、当該ユーザの指示に従ってイオン発生器47が発生させる正負イオンの量を調節してもよい。イオン発生器47は、継続的に正負イオンを発生させればよい。ただし、無菌操作が行われない時間帯(例えば、夜間)において、イオン発生器47が正負イオンを発生させないように、制御装置50がイオン発生器47を制御してもよい。
【0055】
また、制御装置50は、ドア43の開閉に応じて、イオン発生器47の正負イオンの供給量を変化させてもよい。例えば、制御装置50は、ドア43が開いてから所定の時間(例えば、5分間)は、イオン発生器47による正負イオンの供給量を増加させてもよい。この構成により、コンタミネーションが起きやすい状況において正負イオンによる除菌効果を高めることができる。逆に、長時間ドア43の開閉が行われない場合に、イオン発生器47による正負イオンの供給量を低下させてもよい。
【0056】
ドア43の開閉は、制御装置50と通信可能に接続されたセンサ51によって検出される。センサ51は、ドア43の開閉を物理的に検出する装置であってもよいし、赤外線センサなど、ドア43の開閉を光学的に検出する装置であってもよい。
【0057】
(細胞培養システム60の効果)
細胞培養システム60では、イオン発生器47によって正イオン及び負イオンを発生させ、作業空間48に供給することにより、作業空間48内に存在するウイルス等を不活化し、作業空間48内に存在する細菌およびカビ類等の生育および増殖を抑制することができる。
【0058】
さらに、作業空間48内に配置されている安全キャビネット1、クリーンチャンバー20およびインキュベータ30の内部においても正負イオンによる除菌を行うことにより、より確実に除菌を行うことができる。
【0059】
正負イオンは、人体および培養細胞には無害のため、細胞培養の作業を行いつつ、作業空間48の除菌を行うことができる。そのため、除菌処理のために細胞培養の作業が行えない期間が発生しない。その結果、効率の良い細胞培養を行うことができる。
【0060】
また、従来のホルマリン等を使用した除菌方法では、除菌処理の後にコンタミネーションが発生することを防止できない。しかし、細胞培養システム60における除菌方法では、作業中でも継続的に除菌を行うことができる。そのため、作業者に細菌等が付着している場合でも、当該細菌等の生育および増殖を抑制することができる。
【0061】
このような作業空間48の内部で培養された(製造された)培養細胞も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0062】
〔実施形態5〕
上述の実施形態1~4において、微生物生育抑制因子として、正負イオン以外の物質を使用することができる。
【0063】
微生物生育抑制因子として、電荷および低温プラズマ(第2微生物生育抑制因子)を用いてもよい。この場合には、安全キャビネット1、クリーンチャンバー20、インキュベータ30および空調機44は、イオン発生器8・35・47に替えて、イオン化部および放電装置を抑制因子供給部として備える。この構成では、上記放電装置は、イオン化部に組み込まれており、当該イオン化部の下流(空気の流れにおける下流)に静電フィルタおよび触媒フィルタが設けられている。
【0064】
上記イオン化部は、空気中の比較的小さな塵埃、細菌、ウイルス等(以下、細菌等と称する)を帯電させるための複数のイオン化線および複数の対向電極を備えている。これらイオン化線および対向電極は、上記静電フィルタに平行な一枚の仮想面上に位置している。上記イオン化部によってプラスに帯電した細菌等は、マイナスに帯電した静電フィルタにより捕集される。
【0065】
上記放電装置は、低温プラズマを発生させる装置であり、放電電極および対向電極を備えている。この放電装置が備える対向電極は、上記イオン化部の対向電極と共用されている。これら放電電極と対向電極との間に放電電圧が印加される。当該放電装置は、下流に位置する触媒フィルタに向けて低温プラズマを供給する。
【0066】
放電装置が発生させる低温プラズマには反応性の高い物質(電子、イオン、オゾン、ラジカルなどの活性種)が含まれている。これらの反応性の高い物質は、触媒フィルタに達すると、さらに活性化して空気中の有害物質および臭気物質が分解除去される。
【0067】
微生物生育抑制因子として、ラジカルを含むナノメータサイズの帯電微粒子(第1微生物生育抑制因子)を用いてもよい。当該帯電微粒子は、人体に無害な微生物生育抑制因子である。この場合には、安全キャビネット1は、イオン発生器8・35・47に替えて、前記帯電微粒子を生成する静電霧化装置を抑制因子供給部として備える。静電霧化で生じるミストは、電界強度が700~1200V/mmである時、3~100nmの粒子径を有するナノメータサイズの微粒子の集合となる。これらの微粒子は、ラジカル(ヒドロキシラジカル、スーパーオキサイド等)を有し、かつ強い電荷量を有している。
【0068】
前記帯電微粒子を作業空間3・48またはインキュベータ30の内部に供給することにより、作業空間3・48およびインキュベータ30の内部における清浄度を維持することができる。
【0069】
微生物生育抑制因子として、塩素系化合物(第2微生物生育抑制因子)を用いてもよい。この場合には、安全キャビネット1は、イオン発生器8・35・47に替えて、塩素系化合物を空気中へ供給する塩素系化合物供給部(抑制因子供給部)と、前記塩素系化合物と反応する気体処理用フィルタとを備える。気体処理用フィルタは、1級アミノ基を有する化合物、アンモニア、およびアンモニウム塩のいずれかを保持する繊維により構成されており、送風機9・34・46が発生される気流に関して、前記塩素系化合物供給部よりも下流に設置されている。
【0070】
前記塩素系化合物供給部は、塩素系化合物含有水を貯水する貯水部と、塩素系化合物含有水を噴霧する噴霧部との組み合わせ、または前記貯水部と塩素系化合物含有水の揮発を促進するように気液接触効率を向上させる揮発促進部との組み合わせを有していてもよい。前記揮発促進部とは、例えば、多数の分岐形状を有する吸水性の繊維体である。
【0071】
また、前記塩素系化合物供給部は、さらに、塩化物イオン含有水を電解することで前記塩素系化合物含有水を生成する電解ユニットを備えていてもよい。前記電解ユニットは、電極板を備えており、塩化物イオンを含む水、例えば塩化ナトリウムを溶かした水に通電することにより、次亜塩素酸に代表される塩素系化合物含有水(電解水)を生成する。生成された塩素系化合物含有水は前記貯水部に貯められる。
【0072】
前記塩素系化合物供給部によって供給された塩素系化合物は、前記気体処理用フィルタ上の、1級アミノ基を有する化合物、アンモニア、およびアンモニウム塩のいずれかと反応することで結合塩素となる。そのため、前記塩素系化合物供給部は、前記気体処理用フィルタに向けて塩素系化合物を供給していると言える。
【0073】
送風機9・34・46から発生される気流が前記気体処理用フィルタを通過するとき、当該気流に含まれる細菌等が結合塩素と接触することにより、当該細菌等の生育および増殖を抑制できる。
【0074】
図6は、作業空間3内に供給される気体が通過するフィルタに第2微生物生育抑制因子を供給する実施形態における抑制因子供給部とフィルタとの位置関係を示す図である。図6に示すように、第2微生物生育抑制因子を利用する実施形態では、第2微生物生育抑制因子を発生させる抑制因子供給部80の下流に、第2微生物生育抑制因子と作用する、上述した各種のフィルタ(フィルタ70と総称する)が配置されている。この構成は、上述した安全キャビネット1、クリーンチャンバー20、インキュベータ30および空調機44に適用可能である。
【0075】
以上のように、抑制因子供給部は、細胞培養のための培養空間38または作業空間3・48に微生物生育抑制因子を供給してもよい。また、抑制因子供給部は、培養空間38または作業空間3・48内に供給される空気(気体)が通過するフィルタに微生物生育抑制因子を供給してもよい。
【0076】
〔実施例1〕
正負イオンの効果について図7を参照しつつ説明する。本実施例では、マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae NBRC14401)に対する正負イオンの効果を調べた。
【0077】
マイコプラズマが生育した培養液10μlを、シャーレに作製した寒天培地にスポットした(計12枚)。これらのうちの6枚のシャーレには正負イオンを照射し、残りのシャーレはコントロールとして使用した。正負イオンの照射は、シャープ社製のイオン発生素子(A272AK)を用いて、安全キャビネット内に設置したアクリルボックス内にて24時間または48時間行った。上記イオン発生素子に入力電圧としてDC5Vを印加し、放電させてイオンを発生させた。
【0078】
その後、コロニーを形成させるために、アネロパック微好気(三菱ガス)を入れたジャーに計12枚のシャーレを置き、37℃にて5日間培養した。培養後、顕微鏡(40倍)を用いてコロニーをカウントした。その結果を図6に示す。
【0079】
図7に示すように、正負イオン(PCI)を照射することにより、照射しなかった場合(コントロール)よりもマイコプラズマの生育数が有意(p<0.002)に減少することが明らかになった。
【0080】
後述する実施例2にその一例を示すように、正負イオンには、種々の細菌の生育および増殖を抑制させる効果およびウイルスを不活化する効果があることが既に明らかになっている。また、その効果は、正負イオンの濃度に依存していることも明らかになっている。そのため、マイコプラズマに対する正負イオンの効果も濃度依存的であると考えられる。
【0081】
本実施例においてシャーレの周囲の正負イオンの濃度はおよそ7000個/cm程度であり、他の細菌等の生育および増殖を抑制させるために必要な正負イオンの濃度と同等の濃度でマイコプラズマの生育および増殖を抑制することができると考えられる。
【0082】
マイコプラズマは、再生医療のための細部培養を行うときに、コンタミネーションの主たる原因となっている。マイコプラズマは、作業者の体に由来するものであると推測されており、培養細胞の植え継ぎのときにコンタミネーションが起こっている可能性がある。このようなコンタミネーションは、従来の除菌方法では防止することが困難である。
【0083】
正負イオンは、人体および培養細胞には無害であるため、作業中でも照射可能である。このような正負イオンを照射することにより、マイコプラズマによるコンタミネーションを防止することができるため、再生医療のための細部培養を効率良く行うことが可能になる。
【0084】
〔実施例2〕
本実施例では、浮遊細菌に対する正負イオンの効果を調べた。図8は、正負イオンの浮遊細菌に対する効果を示すグラフである。除菌対象となる浮遊細菌は、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)およびMDRP(多剤耐性緑膿菌)である。
【0085】
内部空間の容積が1mであるチャンバー内にシャープ社製のイオン発生装置を設置した後、チャンバー内にMRSAおよびMDRPを含む菌液を噴霧した。イオン発生装置によって正負イオンを発生させた後、0、10、20、30、40、50分後にチャンバー内の浮遊菌をインピンジャーにて回収し、捕集液中の菌数を評価した。
【0086】
図8の(a)に示すように、7千個/cmの濃度の正負イオンを発生させた場合には、自然減衰の場合と比較して、MRSAは30分間で約99.9%が除去された。2万5千個/cmの濃度の正負イオンを発生させた場合には、MRSAは20分間で約99.9%が除去された。
【0087】
図8の(b)に示すように、7千個/cmの濃度の正負イオンを発生させた場合には、自然減衰の場合と比較して、MDRPは40分間で約99.9%が除去された。2万5千個/cmの濃度の正負イオンを発生させた場合には、MDRPは30分間で約99.9%が除去された。
【0088】
以上の結果から、正負イオンは、MRSAおよびMDRPの生育および増殖を抑制する効果があり、その効果は、正負イオンの濃度に依存していることが明らかになった。そのため、実施例1に示したマイコプラズマに対する正負イオンの効果も濃度依存的であると考えられる。
【0089】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る清浄空間維持装置は、細胞培養または当該細胞培養に関する作業を行うための空間を画定する空間形成部と、前記空間に人体に無害な第1微生物生育抑制因子を供給するか、または前記空間に供給される気体が通過するフィルタに第2微生物生育抑制因子を供給する抑制因子供給部とを備える構成である。
【0090】
上記の構成により、人体および培養細胞に影響を与えることなく除菌することができるため、除菌処理によって中断されることなく、継続的に細胞培養を行うことができる。
【0091】
本発明の態様2に係る清浄空間維持装置は、上記の態様1において、前記抑制因子供給部は、前記第1または第2微生物生育抑制因子を放電または電解により生成する構成としてもよい。
【0092】
本発明の態様3に係る清浄空間維持装置は、上記の態様1または2において、前記第1微生物生育抑制因子は、正イオンおよび負イオンを含む構成としてもよい。
【0093】
正負イオンを微生物生育抑制因子とすることにより、人体および培養細胞に影響を与えることなく、効果的に除菌することができる。
【0094】
本発明の態様4に係る清浄空間維持装置は、上記の態様3において、前記抑制因子供給部は、前記空間内の正イオンおよび負イオンの濃度が、それぞれ7000個/cm以上となるように正イオンおよび負イオンを供給する構成としてもよい。
【0095】
本発明の態様5に係る清浄空間維持装置は、上記の態様4において、前記抑制因子供給部は、前記空間内の正イオンおよび負イオンの濃度が、それぞれ7000個/cm以上、100万個/cm以下となるように正イオンおよび負イオンを供給する構成としてもよい。
【0096】
上記の構成によれば、正イオンおよび負イオンの濃度を7000個/cm以上にすることにより、細菌等の生育および増殖を抑制することができる。また、正イオンおよび負イオンの濃度を100万個/cm以下とすることにより、培養の対象となる細胞への悪影響を抑えることができる。
【0097】
本発明の態様6に係る細胞培養方法は、細胞培養または当該細胞培養に関する作業を行うための空間に人体に無害な第1微生物生育抑制因子を供給するか、第2微生物生育抑制因子を利用して生成された清浄気体を前記空間に供給する工程と、前記第1微生物生育抑制因子が供給されている前記空間内または前記清浄気体が供給されている前記空間内で細胞培養または当該細胞培養に関する作業を行う工程と、を含む方法である。
【0098】
本発明の態様7に係る細胞培養方法では、前記細胞培養の対象となる細胞の種類に応じて、前記空間における前記第1微生物生育抑制因子または前記第2微生物生育抑制因子の濃度を設定してもよい。
【0099】
本発明の態様8に係る細胞培養方法では、前記細胞培養の対象となる細胞は、人工多能性幹細胞であってもよい。
【0100】
本発明の態様9に係る細胞製造方法は、細胞培養または当該細胞培養に関する作業を行うための空間に人体に無害な第1微生物生育抑制因子を供給するか、第2微生物生育抑制因子を利用して生成された清浄気体を前記空間に供給する工程と、前記第1微生物生育抑制因子が供給されている前記空間内または前記清浄気体が供給されている前記空間内で細胞培養または当該細胞培養に関する作業を行うことにより培養細胞を製造する工程と、を含む方法である。
【0101】
本発明の態様10に係る建築構造体は、細胞培養または当該細胞培養に関する作業を行うための空間を画定する建築構造体であって、前記空間に人体に無害な第1微生物生育抑制因子を供給するか、または前記空間に供給される気体が通過するフィルタに第2微生物生育抑制因子を供給する抑制因子供給部を備える構成である。
【0102】
本発明の態様8に係る建築構造体は、上記の態様7において、前記空間に出入りするためのドアを備えており、
前記抑制因子供給部は、前記ドアの開閉に応じて前記第1微生物生育抑制因子の供給量を変化させる構成としてもよい。
【0103】
上記の構成により、コンタミネーションが起きやすい状況、すなわち、ドアが開閉されたかどうかに応じて第1微生物生育抑制因子による除菌効果を調節することが可能となる。
【符号の説明】
【0104】
1 安全キャビネット
3 作業空間
4 空間形成部
8・35・47 イオン発生器(抑制因子供給部)
20 クリーンチャンバー
30 インキュベータ
38 培養空間
40 作業室
43 ドア
44 空調機
48 作業空間
50 制御装置
60 細胞培養システム
70 フィルタ
80 抑制因子供給部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8