(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】球状黒鉛を含む鋳鉄の形成溶接及び補修溶接
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20240722BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20240722BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B23K9/23 D
B23K9/04 J
B23K9/173 A
(21)【出願番号】P 2020565309
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2019060585
(87)【国際公開番号】W WO2019223949
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-12-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-02
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521001582
【氏名又は名称】シーメンス エナジー グローバル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SIEMENS ENERGY GLOBAL GMBH & CO. KG
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ブルッスク,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ルイトル,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】シュライバー,ティム
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】田々井 正吾
【審判官】大山 健
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0151440(US,A1)
【文献】特開2017-074602(JP,A)
【文献】特開昭50-033137(JP,A)
【文献】特開平08-099171(JP,A)
【文献】特開平10-235492(JP,A)
【文献】特開昭63-016871(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0325372(US,A1)
【文献】特開2002-336966(JP,A)
【文献】特開昭50-040447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材(2)の表面を形成するための方法であって、
前記母材(2)が鋳鉄からなり、
以下の工程を有しており、即ち、
1つの前記母材(2)上のみで
凹部(4)を有する部分表面(3)の位置を特定するステップと、
前記
部分表面(3)上に第1の緩衝層(5)を形成するステップであって、その際に、
NiFe溶加材(EN ISO 1071のタイプNiFe-1)を使用する緩衝層の溶接法が用いられ、前記母材(2)への入熱量が僅かであり、溶接部及び熱影響域に亀裂が発生しないように溶接パラメータが選択されている、ステップと、
前記
第1の緩衝層(5)上に充填層(6)を形成するステップであって、その際に、
MIG溶接法が用いられ、NiFe溶加材(EN ISO 1071のタイプNiFe-2)が用いられる、ステップと、
を有しており、
予加熱は行わず、
前記
第1の緩衝層
(5)を形成する際には、MIG溶接法が用いられ、約65重量%のNi及び約30重量%のFeを有する溶加材が使用され、
前記充填層を形成する際には、約55重量%のNi及び約30重量%のFeを有する溶加材が使用される、
方法。
【請求項2】
前記
第1の緩衝層
(5)の形成時にアルゴンが用いられ、
前記充填層の形成時にアルゴン及びCO
2からなる混合物が用いられる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
母材(2)の表面と形成するための方法であって、
前記母材(2)が鋳鉄からなり、
以下の工程を有しており、即ち、
1つの前記の材(2)上のみで凹部(4)を有する部分表面(3)の位置を特定するステップと、
前記部分表面(3)上に第1の緩衝層(5)を形成するステップであって、その際に、NiFe溶加材(EN ISO 1071のタイプNiFe-2)を使用する緩衝層の溶接法が用いられ、前記母材(2)への入熱量が僅かであり、溶接部及び熱影響域に亀裂が発生しないように溶接パラメータが選択されている、ステップと、
前記第1の緩衝層(5)上に充填層(6)を形成するステップであって、その材に、MIG溶接法が用いられ、NiFe溶加材(EN ISO 1072のタイプNiFe-2)が用いられる、ステップと、
を有しており、
予熱は行わず、
前記第1の緩衝層
(5)の溶接法として、WIG溶接法
またはMAG溶接法が用いられ
、約55重量%のNi及び約30重量%のFeを有する溶加材が使用され、
前記充填層を形成する際には、約55重量%のNi及び約30重量%のFeを有する溶加材が使用される、
方法。
【請求項4】
前記母材(2)が、球状黒鉛を含む鋳鉄からなり、
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記充填層(6)を形成する前に、第2の緩衝層(5)が形成される、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記表面が、100℃未満の温度で形成される、
請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法を用いて製造されるターボ機械の構成要素(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材表面の形成方法に関し、母材は鋳鉄からなる。
【背景技術】
【0002】
球状黒鉛を含む鋳鉄から製造される複数の鋳造部品が、例えば蒸気タービンのようなターボ機械内で使用される。これらの鋳造部品は大体積で形成されていてもよい。鋳造部品を製造する場合、例えば細孔又は空洞のような鋳造欠陥が現れ得る。これに関しては、個々の場合に応じて、存在している欠陥と共に更なる対策なしに鋳造部品を使用出来るかどうかについて、決定されなければならない。そのような鋳造部品の溶接技術的な加工は、限られた範囲でのみ可能である。例えば、550℃から650℃の間に限定される高い予熱温度を使用しなければならないため、同種の溶接素材を使用する溶接は困難であろう。鋳造欠陥を取り除くための別の可能性は、種類の異なる溶加材(フィラーメタル)を用いて例えばNi-Fe電極を溶接することであり、これは、上昇された予熱温度を必要としない。
【0003】
しかしながらどちらの溶接においても、それぞれの方法によって得られる機械的特性が、往々にして、母材の機械的特性に到達しない、という問題が存在する。
【0004】
従って、個々の場合に応じて、鋳造部品が廃棄又は/及び新たに製造されなければならないかどうかが、決定されなければならない。
【0005】
新たな製造時のみならず、保守点検の場合でも、鋳鉄部品の損傷は修復されなければならないが、その理由は短い修正期間で新しい部品を製造することは不可能であるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、改善された品質を有する母材の表面を形成するための方法を示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、母材の表面を形成するための方法であって、母材が鋳鉄からなり、以下の工程を有する、即ち、
部分表面の位置を特定し、
部品表面上へ第1の緩衝層の形成し、その際に緩衝溶加材を使用する緩衝層の溶接法が用いられ、その際に母材への入熱量が僅かであるように溶接パラメータが選択されており、
緩衝層上へ充填層を形成し、その際にMAG溶接法が用いられ、その際にNiFe溶加材材料が使用される、
工程を有し、
予加熱は行われない
方法によって、解決される。
【0008】
有利な発展形態は従属請求項に示されている。
【0009】
従って、本発明を用いて、予熱なしで或いは低い予熱温度で行われるアーク溶接プロセスを有する溶接方法であって母材と比較出来るほどの特性を達成する溶接方法を提供するという目的が、達成される。
【0010】
溶接方法は、溶接作業及び溶接プロセスに合わせて調整され溶接の品質に著しい影響を及ぼす溶加材材料を使用する2段階のプロセスを含んでいる。溶接プロセス、溶加材材料及び溶接パラメータを的確に選択することによって、母材との接続部内の欠陥も、また同様に溶接材料或いは充填部内の欠陥も、防止することが出来る。
【0011】
先ず、本発明に従い、緩衝部を介して母材への接続部がもたらされる。第2のステップではそれに続き充填部が形成される。
【0012】
本発明に従う溶接方法/溶接プロセスを用いて、母材の機械的特性を実現する形成溶接部及び補修溶接部を形成することが可能である。これは、低温(凝縮水を含まない、約100℃)で行われ、また従って、低い入熱量のために反りが最小化されるので、完成まで加工された又はほぼ完成まで加工された構成要素への溶接を促進する。
【0013】
本質的な長所は、例えば鋳鉄部品を再加工する機械加工中に生成される鋳造欠陥が、本発明に従う溶接によって修復を行うことが出来る。従って、鋳鉄部品の廃棄とそれに伴う時間の掛かる再製造は必要ない。
【0014】
既に使用されておりまた例えば補修の間に亀裂、材料損傷などの形態の損傷が確認された複数の構成部品に対して、本発明に従う方法は、これらを溶接技術的に強化するのに適している。その結果、補修期間の延長は必要でないことが多い。
【0015】
第1の有利な発展形態では、母材は、球状黒鉛を含む鋳鉄からなる。
【0016】
別の有利な発展形態では、緩衝層の溶接方法としてWIG溶接法が用いられ、溶加材としてNiFe溶加材(EN ISO 1071のタイプNiFe-2)が使用される。
【0017】
代替的に、MIG溶接法が緩衝溶接方法として用いられてもよく、溶加材としてはEN ISO 1071に準拠するタイプNiFe-1のNiFe溶加材が使用される。
【0018】
充填層を形成する際にもMIG溶接法が用いられ、NiFe溶加材材料、特にNiFe溶加材が使用される。
【0019】
別の有利な発展形態では、充填層を形成する前に、第2の緩衝層が形成される。
【0020】
本発明の上述の特性、特徴及び長所、並びに、それらが達成される様式は、図面に関連してより詳細に説明される実施例の以下の説明に関連して、より明確且つより明瞭に理解される。
【0021】
本発明の実施例は、図面を参照して以下に説明される。この図面は実施例を決定して表すことを意図してはいない。むしろ、説明に有用な図面は、概略的及び/又はわずかに変形された形態で、示されている。図面に直接見ることができる教示の補足に関しては、関連する先行技術が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、鋳造法によって製造された部品1を示している。母材2は球状黒鉛を含む鋳鉄からなる。部品1は部分表面3を有しており、部分表面3は凹部4として形成されている。母材2へ溶接材料を接続するために、NiFe溶加材材料(EN ISO 1071のタイプNiFe-2)を使用するWIG溶接法が、選択されそして2層で実現される。その際に、溶接パラメータは母材2への入熱量が僅かであるように選択される。
【0024】
従って、第1のステップでは、部分表面3の位置が特定される。次のステップでは、第1の緩衝層5が部分表面3上に形成される。適切に選択された溶接パラメータにより、接続部及び熱影響域に亀裂が発生せず、また、熱影響域が比較的狭く均一な形成が達成される。第2のWIG層の溶接パラメータを選択することにより、母材2への熱影響域が的確に熱的に影響を及ぼされ、またそれに伴い機械的特性が最適化される。
【0025】
WIG溶接プロセスの代替として、MIG溶接プロセスが用いられてもよく、そのパラメータも同様に、母材2への入熱量が僅かである程度まで変更される。溶加材としては、NiFe溶加材(EN ISO 1071のタイプNiFe-1)が使用される。
【0026】
部品を埋めるために2層的な緩衝部が十分ではない場合、更なるステップでは、緩衝層5上に充填層6が形成される。これは、MIG溶接プロセスを用いる充填溶接によって行われる。このMIG溶接プロセスでも同様に、NiFe溶加材材料が使用され、当該NiFe溶加材材料は、第1の層と接続するためのWIG溶接の場合に使用される溶加材材料と同一のものである。
【0027】
表面の形成は、予熱が行われないか或いは100℃未満の温度で行われる。
【0028】
緩衝層を形成する際にはアルゴンが用いられ、充填層を形成する際にはアルゴンとCO2からなる混合物が用いられる。
【0029】
緩衝層の溶接方法としては、MIG溶接方法が用いられてもよく、基本的に65重量%のNi及び基本的に30重量%のFeを有する溶加材が使用される。
【0030】
充填層を形成する際には、基本的に55重量%のNi及び基本的に30重量%のFeを有する溶加材が使用される。
【0031】
緩衝溶接方法としては、WIG溶接方法が用いられてもよく、緩衝溶接方法でも、また同様にMAG溶接でも、基本的に55重量%のNi及び基本的に30重量%のFeを有する溶加材が使用される。
【0032】
本発明は好適な実施例によって詳細に解説及び説明されたが、本発明は、開示された例に限定されるものではなく、また、別の変型はここから、本発明の保護範囲を逸脱することなく、当業者によって導出され得る。
【符号の説明】
【0033】
1…部品、2…母材、3…部分表面、4…凹部、5…緩衝層、6…充填層