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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】細胞凍結保存液
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20240722BHJP
   C12N 5/07 20100101ALN20240722BHJP
【FI】
C12N1/04
C12N5/07
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020566496
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2020001432
(87)【国際公開番号】W WO2020149394
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019006350
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】河野 憲司
(72)【発明者】
【氏名】岡 茂範
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/141991(WO,A1)
【文献】特開2005-239685(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182019(WO,A1)
【文献】特開2010-213692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00~7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0~25.0v/v%の細胞膜透過性多価アルコール類(a)、100~300mMの糖類(b)、および合計0.5~10.0w/v%のフィコールおよびポリエチレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種(c)を含み、ジメチルスルホキシドを含まない、緩慢凍結用の細胞凍結保存液であって、
細胞膜透過性多価アルコール類(a)は、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ブチレングリコール、イソプレングリコール、ジプロピレングリコールおよびグリセリンからなる群より選択された少なくとも1種であり、糖類(b)は、単糖およびオリゴ糖からなる群より選択された少なくとも1種である、緩慢凍結用の細胞凍結保存液。
【請求項2】
基礎溶液が、緩衝液、または基礎培地である、請求項1記載の緩慢凍結用の細胞凍結保存液。
【請求項3】
細胞膜透過性多価アルコール類(a)が、エチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種である、請求項1または2記載の緩慢凍結用の細胞凍結保存液。
【請求項4】
細胞膜透過性多価アルコール類(a)として、エチレングリコールのみを含む、請求項3記載の緩慢凍結用の細胞凍結保存液。
【請求項5】
糖類(b)が、オリゴ糖である、請求項1~4のいずれか一項に記載の緩慢凍結用の細胞凍結保存液。
【請求項6】
糖類(b)が、トレハロース、スクロース、ラクトース、およびマルトトリオースからなる群より選択された少なくとも1種である、請求項5記載の緩慢凍結用の細胞凍結保存液。
【請求項7】
さらに、L-アスコルビン酸2-グルコシドを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の緩慢凍結用の細胞凍結保存液。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の緩慢凍結用の細胞凍結保存液を使用することを特徴とする、細胞の緩慢凍結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞凍結保存液に関する。
【背景技術】
【0002】
培養細胞は、継代を繰り返すことによって、細胞変質、遺伝的変異および雑菌汚染を生じる可能性があることから、長期間、細胞を安定的に利用するために、培養細胞を凍結保存しておくことが行われている。例えば、細胞を培地や血清などにジメチルスルホキシド(DMSO)やグリセリンなどを加えた保存液に懸濁し、これをクライオバイアルに充填し、速度制御フリーザー等で制御的に温度を下げて細胞を凍結し、液体窒素中に保存することが行われている。
【0003】
この細胞凍結のための保存液については、これまで、その用途に応じて、種々の保存液が開発されている。保存液に使用される成分の一つであるジメチルスルホキシド(DMSO)については、培養細胞の分化を誘導するために使用される事例や、凍結保存に用いることにより細胞の分化形質が変化してしまう可能性についての報告等もある。このため、ジメチルスルホキシド(DMSO)を使用しない保存液が開発されている(特許文献1)。
【0004】
ところで、これまでの細胞凍結保存液においては、保存細胞に与える影響や保存効果の高さの観点から開発が行われていたことから、その操作性については未だ不十分なものが多い。例えば、泡立ちやすい細胞凍結保存液では、懸濁操作の際に生じた泡がはじけて、細胞へダメージを与えることやコンタミネーションの原因となることが危惧される。したがって、このような細胞保存液を使用する際には、非常に慎重な操作が必要となり、操作性が低下してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-273549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、上記で説明した事情を鑑み、細胞の保存効果に優れ、かつ泡立ちの少ない細胞凍結保存液の提供にある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、ジメチルスルホキシド(DMSO)を必須の成分としない細胞凍結保存液の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的のため鋭意検討を行った結果、細胞凍結保存液を調製するのに、1.0~25.0v/v%の細胞膜透過性多価アルコール類(a)、100~1000mMの糖類(b)、および合計0.5~10.0w/v%のフィコールおよびポリエチレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種(c)を主な成分として用いることによって、細胞の保存効果に優れ、かつ泡立ちの少ない細胞凍結保存液が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
【0010】
(1)1.0~25.0v/v%の細胞膜透過性多価アルコール類(a)、100~1000mMの糖類(b)、および合計0.5~10.0w/v%のフィコールおよびポリエチレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種(c)を含む、細胞凍結保存液。
(2)基礎溶液が、緩衝液、または基礎培地である、前記(1)に記載の細胞凍結保存液。
(3)細胞膜透過性多価アルコール類(a)が、エチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種である、前記(1)または(2)に記載の細胞凍結保存液。
(4)細胞膜透過性多価アルコール類(a)として、エチレングリコールのみを含む、前記(3)に記載の細胞凍結保存液。
(5)糖類(b)が、オリゴ糖である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の細胞凍結保存液。
(6)糖類(b)が、トレハロース、スクロース、ラクトース、およびマルトトリオースからなる群より選択された少なくとも1種である、前記(5)に記載の細胞凍結保存液。
(7)さらに、L-アスコルビン酸2-グルコシドを含む、前記(1)~(6)のいずれかに記載の細胞凍結保存液。
【0011】
また、本発明は以下にも関する。
【0012】
(8)前記(1)~(7)のいずれかに記載の細胞凍結保存液を使用することを特徴とする、細胞の緩慢凍結方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細胞の保存効果に優れ、かつ泡立ちの少ない細胞凍結保存液を提供することができる。また、この細胞凍結保存液は、ジメチルスルホキシド(DMSO)を必須の成分としていないことから、予期しない細胞の分化が誘導される危険性が低く、安全に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、各細胞凍結保存液の正常ヒト皮膚繊維芽細胞に対する保存効果を示すグラフである。
図2図2は、各細胞凍結保存液の正常ヒト皮膚繊維芽細胞に対する保存効果を示すグラフである。
図3図3は、各細胞凍結保存液の正常ヒト皮膚繊維芽細胞に対する保存効果を示すグラフである。
図4図4は、各細胞凍結保存液のNIH3T3細胞(マウス繊維芽細胞)に対する保存効果を示すグラフである。
図5図5は、各細胞凍結保存液の正常ヒト皮膚繊維芽細胞またはヒト骨髄由来間葉系幹細胞に対する保存効果を示すグラフである。
図6図6は、各細胞凍結保存液の泡切れ試験における泡の残存状態を示す代表的な写真である。
図7図7は、各細胞凍結保存液の正常ヒト皮膚繊維芽細胞に対する保存効果を示すグラフである。
図8図8は、各細胞凍結保存液の正常ヒト皮膚繊維芽細胞に対する保存効果を示すグラフである。
図9図9は、各細胞凍結保存液の、2種のヒト骨髄由来間葉系幹細胞またはヒト脂肪組織由来幹細胞に対する保存効果を示すグラフである。
図10図10は、各細胞凍結保存液の正常ヒト皮膚繊維芽細胞に対する保存効果を示すグラフである。
図11図11は、各細胞凍結保存液の正常ヒト皮膚繊維芽細胞または骨髄由来間葉系幹細胞に対する保存効果を示すグラフである。
図12図12は、各細胞凍結保存液の正常ヒト皮膚繊維芽細胞に対する保存効果を示すグラフである。
図13図13は、各細胞凍結保存液の正常ヒト皮膚繊維芽細胞に対する保存効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書中で使用される用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で解釈される。
【0016】
[細胞凍結保存液]
本発明の細胞凍結保存液は、1.0~25.0v/v%の細胞膜透過性多価アルコール類(a)、100~1000mMの糖類(b)、および合計0.5~10.0w/v%のフィコールおよびポリエチレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種(c)を含む。本発明の細胞凍結保存液は、このような組成を有しており、細胞の保存効果に優れ、かつ泡立ちが少ない。
【0017】
<細胞膜透過性多価アルコール類(a)>
本発明において、細胞膜透過性多価アルコール類(a)は、細胞膜を透過可能な多価アルコール類であり、基本的に低分子量の多価アルコール類である。本発明に使用される細胞膜透過性多価アルコール類としては、特に制限はないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ブチレングリコール、イソプレングリコール、ジプロピレングリコールおよびグリセリンが好ましく、エチレングリコールおよびプロピレングリコールがより好ましく、プロピレングリコールが特に好ましい。これらの細胞膜透過性多価アルコール類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0018】
本発明の細胞凍結保存液において、細胞膜透過性多価アルコール類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できるが、単独で使用することが好ましい。そこで、本発明の細胞凍結保存液は、細胞膜透過性多価アルコール類として、プロピレングリコールのみを含むことが好ましく、また、エチレングリコールのみを含むことも好ましい。
【0019】
本発明の細胞凍結保存液における細胞膜透過性多価アルコール類(a)の含有量は、1.0~25.0v/v%である。より好ましい細胞膜透過性多価アルコール類(a)の含有量は、2.0~20.0v/v%であり、さらに好ましい含有量は、2.5~17.5v/v%であり、さらには5.0~15.0v/v%であり、特に好ましい含有量は、8.0~12.0v/v%である。
【0020】
<糖類(b)>
本発明において、糖類(b)は、単糖およびオリゴ糖ならびにこれらの誘導体を意味する。ここで、オリゴ糖は、単糖が2分子から10分子結合したオリゴマーを指し、具体的には、二糖、三糖、四糖、五糖、七糖等が挙げられる。単糖としては、グルコース、ガラクトース、フルクトース、リボース、マンノース等が挙げられ、オリゴ糖としては、トレハロース、スクロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、ラクトース等の二糖、マルトトリオース等の三糖、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘプタオース等が挙げられる。本発明に使用される糖類としては、オリゴ糖が好ましく、二糖および三糖がより好ましく、これらのなかでもトレハロース、スクロース、ラクトース、およびマルトトリオースが好ましく、トレハロース、スクロース、およびマルトトリオースがより好ましく、トレハロースおよびスクロースがさらにより好ましく、トレハロースが特に好ましい。なお、これらの糖類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0021】
本発明の細胞凍結保存液において、糖類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できるが、単独で使用することが好ましい。そこで、本発明の細胞凍結保存液は、糖類として、トレハロース、スクロース、ラクトース、およびマルトトリオースからなる群より選択された1種のみを含むことが好ましく、トレハロース、スクロース、およびマルトトリオースからなる群より選択された1種のみを含むことが好ましく、トレハロースおよびスクロースからなる群より選択された1種のみを含むことがさらにより好ましく、トレハロースのみを含むことが特に好ましい。
【0022】
本発明の細胞凍結保存液における糖類(b)の含有量は、100~1000mMである。より好ましい糖類(b)の含有量は、100~600mMであり、さらに好ましい含有量は、100~400mMであり、さらに好ましい含有量は、100~300mMであり、特に好ましい含有量は、200~300mMである。
【0023】
<フィコールおよび/またはポリエチレングリコール(c)>
本発明の細胞凍結保存液は、フィコールおよびポリエチレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種(c)を含む。フィコールおよびポリエチレングリコールは、それぞれ単独でまたは組み合わせて使用できる。本発明において、フィコールおよび/またはポリエチレングリコールは、上記細胞膜透過性多価アルコール類(a)および糖類(b)と組み合わされて本発明の細胞凍結保存液を構成するが、このような細胞凍結保存液は、細胞の保存効果に優れ、かつ泡立ちが少ない細胞凍結保存液である。
【0024】
本発明の細胞凍結保存液は、フィコールおよびポリエチレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種(c)を含むが、より確実に、細胞の保存効果に優れ、かつ泡立ちが少ない細胞凍結保存液を得るために、これら以外の細胞膜非透過性高分子は含まないことが好ましい。ここで、細胞膜非透過性高分子とは、細胞膜を透過しない高分子をいい、例えば、アルブミン(血清アルブミン等)、ポリビニルアルコール(PVA)等が含まれ、本発明における糖類(b)、L-アスコルビン酸2-グルコシド等は含まれない。そこで、本発明の細胞凍結保存液は、アルブミン(血清アルブミン等)を含まないことがより好ましく、アルブミン(血清アルブミン等)およびポリビニルアルコール(PVA)を含まないことがさらに好ましく、フィコールおよびポリエチレングリコールからなる群より選択された少なくとも1種(c)以外の細胞膜非透過性高分子を一切含まない(細胞膜非透過性高分子として、フィコールおよび/またはポリエチレングリコールのみを含む)ことが特に好ましい。とりわけ、本発明の細胞凍結保存液は、細胞膜非透過性高分子として、ポリエチレングリコールのみを含むことが好ましい。
【0025】
フィコール(ポリスクロース)は、ショ糖から作られた側鎖に富む、中性、親水性の合成多糖類である(なお、フィコールはGEヘルスケア社の登録商標)。本発明に使用されるフィコールとしては、平均分子量が10,000~1,000,000のものが好ましく、300,000~550,000のものが特に好ましい。ここで、平均分子量が10,000~1,000,000のフィコールの具体的な製品としては、GEヘルスケア社のFicoll PM70(平均分子量60,000~80,000)、Ficoll PM400(平均分子量300,000~500,000)等が例示でき、平均分子量が300,000~550,000のフィコールの具体的な製品としては、GEヘルスケア社のFicoll PM400等が例示できる。なお、フィコールはGEヘルスケア社の登録商標であるが、本発明におけるフィコールには、これと同一の構成分子を有するポリマーも含まれ、具体的な製品としては、富士フイルム和光純薬社のポリスクロース400(平均分子量350,000~550,000)等が例示できる。
【0026】
ポリエチレングリコールは、エチレングリコールが重合した構造をもつ高分子化合物である。本発明に使用されるポリエチレングリコールとしては、平均分子量が200~50,000のものが好ましく、特に、6,000~30,000のものが好ましい。ここで、平均分子量が200~50,000のポリエチレングリコールの具体的な製品としては、ナカライテスク社のポリエチレングリコール#200、#300、#400、#600、#1,000、#1,500、#1,540、#2,000、#4,000、#6,000、#20,000等が例示でき、平均分子量が6,000~30,000のポリエチレングリコールの具体的な製品としては、ナカライテスク社の#6,000、#20,000等が例示できる。
【0027】
本発明の細胞凍結保存液におけるフィコールおよび/またはポリエチレングリコール(c)の含有量は、合計0.5~10.0w/v%である。好ましい含有量の下限は、合計0.5w/v%、合計1.0w/v%、合計1.5w/v%、合計2.0w/v%、合計2.5w/v%、合計4.0w/v%、合計4.5w/v%であり、好ましい含有量の上限は、合計10.0w/v%、合計9.0w/v%、合計8.0w/v%、合計7.5w/v%、合計6.0w/v%、合計5.5w/v%である。範囲として、好ましい含有量は、合計1.0~10.0w/v%である。より好ましい含有量は、合計2.0~10.0w/v%である。さらに好ましい含有量は、合計2.5~7.5w/v%である。さらにより好ましい含有量は、合計4.0~6.0w/v%であり、特に好ましい含有量は、合計4.5~5.5w/v%である。また、合計1.5~6.0w/v%、合計2.0~6.0w/v%、合計2.5~6.0w/v%も好ましい。
【0028】
<他の成分>
本発明の細胞凍結保存液には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を配合することで、本発明の効果を高めたり、さらなる効果を付与したりすることができる。かかる成分としては、例えば、上記成分以外の細胞凍結保護剤、抗酸化剤、pH調整剤、賦形剤、結合剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、保湿剤、防腐剤等が挙げられる。なかでも、本発明の細胞凍結保存液には、抗酸化剤を配合することが好ましい。なお、本発明の細胞凍結保存液において、これら他の成分はそれぞれ単独でまたは二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0029】
これらのうち、抗酸化剤は、本発明の細胞凍結保存液に配合した場合、細胞保存効果がさらに向上することから、本発明の細胞凍結保存液に好ましく配合される。とくに、抗酸化剤は、本発明の細胞凍結保存液に配合した場合、多能性幹細胞、とりわけ骨髄由来間葉系幹細胞等の間葉系幹細胞に対する細胞保存効果がさらに向上することから、本発明の細胞凍結保存液に好ましく配合される。抗酸化剤としては、例えば、グルタチオン、α-トコフェリルリン酸ナトリウム(TPNa:なお、TPNaは昭和電工株式会社の登録商標)、アスコルビン酸、これらの誘導体等が挙げられる。アスコルビン酸誘導体の具体例としては、L-アスコルビン酸2-グルコシド、L-アスコルビン酸2-リン酸セスキマグネシウム水和物、L-アスコルビン酸2-リン酸エステル三ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、好ましくはアスコルビン酸またはアスコルビン酸誘導体であり、さらに好ましくはL-アスコルビン酸2-グルコシドである。
【0030】
なお、本発明の細胞凍結保存液において、ジメチルスルホキシド(DMSO)は必須の成分ではない。ジメチルスルホキシド(DMSO)は、培養細胞の分化を誘導するために使用されたり、凍結保存に用いることにより細胞の分化形質が変化してしまう可能性が指摘されていることから、本発明の細胞凍結保存液は、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含まないことが好ましい。
【0031】
<基礎溶液>
本発明の細胞凍結保存液は、上記成分を基礎溶液に分散させてなる。この基礎溶液には、例えば、水系またはアルコール系の溶液を使用できるが、好ましくは水溶液を使用できる。水溶液としては、例えば、等張液、各種の緩衝液(緩衝効果のある等張液を含む)、または各種の細胞もしくは組織用の基礎培地を使用できる。等張液としては、例えば、生理食塩水、リンゲル液、ハンクス液等が挙げられる。緩衝液としては、例えば、グッド緩衝液、リン酸緩衝液、イミダゾール緩衝液、トリエタノールアミン塩酸塩緩衝液(TEA)等が挙げられ、さらには、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、HEPES緩衝生理食塩水等の緩衝効果のある生理食塩水が挙げられる。基礎培地としては、例えば、DMEM、EMEM、RPMI-1640、α-MEM、F-12、F-10、M-199等が挙げられる。
【0032】
本発明に使用される基礎溶液としては、緩衝液または基礎培地が好適に使用される。ここで、基礎培地とは、組成が明らかであって、由来不明の生体高分子(例えば、血清、あるいは成長因子、アルブミン、細胞外マトリックス等のタンパク質成分等)を含まない、アミノ酸、ビタミン、無機塩およびグルコース等の炭素源等からなる培地のことである。このような基礎溶液を使用することで、より確実に細胞の保存効果に優れ、かつ泡立ちが少ない細胞凍結保存液を得ることができる。なかでも、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)が特に好ましく使用される。
【0033】
<pH>
本発明の細胞凍結保存液のpHは、通常pH6.0~8.0であり、好ましくはpH7.0~7.5である。なお、このpHは、上記のpH調整剤の使用により調整することができる。
【0034】
[細胞の凍結保存方法]
本発明の細胞凍結保存液は、各種の凍結保存方法により保存対象となる細胞を凍結保存することができる。本発明の細胞凍結保存液が使用できる凍結保存方法には、特に制限はなく、各種の凍結保存方法により保存対象となる細胞を凍結保存することができるが、特に緩慢凍結法に好適に使用できる。緩慢凍結法による細胞の凍結保存方法は、例えば、保存対象となる細胞を、本発明の細胞凍結保存液に懸濁させ、その後、緩慢に冷却して細胞を凍結し、この凍結細胞を適切に保存(例えば、超低温フリーザー中、液体窒素中等に保存)することで実施できる。
【0035】
そこで、本発明は、本発明の細胞凍結保存液を使用することを特徴とする、細胞の緩慢凍結方法にも関する。
【0036】
具体的には、本発明の細胞の緩慢凍結方法は、例えば、保存対象となる細胞を本発明の細胞凍結保存液に懸濁する工程と、細胞を懸濁した細胞凍結保存液を緩慢に冷却して細胞を凍結する工程とを含む、細胞の緩慢凍結方法である。
【0037】
本発明の細胞の緩慢凍結方法は、本発明の細胞凍結保存液を使用することから、細胞を細胞凍結保存液に懸濁させる際に泡立ちを気にしなくてもよいため操作性に優れ、また緩慢凍結法であることから、例えば、ガラス化法で必要となる液体窒素や特別な器具などを準備する必要がなく、実施が簡便である。さらに、本発明の細胞の凍結保存方法は、高い保存効率で細胞を保存することができる。
【0038】
<保存対象となる細胞>
保存対象となる細胞としては、特に制限はなく、一般に凍結保存される細胞であれば本発明の細胞凍結保存液によって保存可能である。例えば、培養細胞として株化された細胞、生物組織から得られる株化されていない正常細胞、遺伝子工学的手法により得られた形質転換細胞等、いずれの形式のものであっても保存可能であり、さらに、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)等の多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、神経系幹細胞、骨髄幹細胞、生殖幹細胞等の各種の幹細胞も保存可能である。また、本発明の細胞凍結保存液は、これら細胞だけでなく、例えば、各種の組織や臓器も保存可能である。
【0039】
細胞の由来は特に制限されず、微生物、細菌、動物細胞、植物細胞であってよく、好ましくは動物細胞である。動物細胞としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒト等の哺乳動物細胞、ニワトリ、ダチョウ等の鳥類、ワニ等の爬虫類、カエル等の両生類、ゼブラフィッシュ、メダカ等の魚類を含む脊椎動物の細胞が挙げられ、また、蚕、蛾、ショウジョウバエ等の昆虫を含む非脊椎動物の細胞が挙げられる。
【0040】
これらのうち、本発明の細胞凍結保存液は、間葉系細胞および間葉系幹細胞に好適に使用される。間葉系細胞および間葉系幹細胞としては、例えば、骨細胞、軟骨細胞、骨髄細胞、筋細胞、心筋細胞、腱細胞、脂肪細胞、毛乳頭細胞、歯髄細胞およびこれらの幹細胞が挙げられる。特に、本発明の細胞凍結保存液は、骨髄由来間葉系幹細胞および脂肪組織由来幹細胞に好適に使用できる。
【実施例
【0041】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]細胞の保存効果試験
1.材料
<細胞凍結保存液>
下記の各成分および基礎溶液を用いて、各種組成の細胞凍結保存液を調製した。また、細胞凍結保存液は、それぞれ0.22μmのフィルター(Nalgene(Thermo Scientific)製)でろ過滅菌して試験に用いた。
【0043】
(各成分)
細胞凍結保存液の各成分は、以下のものを使用した。
・プロピレングリコール:ナカライテスク製
・トレハロース:林原製
・スクロース:ナカライテスク製
・ラクトース:ナカライテスク製
・マルトトリオース:林原製
・フィコール:ナカライテスク製
・ポリエチレングリコール(PEG)#200、PEG#600、PEG#2000、PEG#6000、PEG#20000:ナカライテスク製
・ヒドロキシエチルスターチ(HES):SIGMA製
・プルラン:林原製
・ヒト血清アルブミン(HSA):ナカライテスク製
・L-アスコルビン酸2-グルコシド:林原製
【0044】
(基礎溶液)
基礎溶液は、以下のものを使用した。
・DMEM:ナカライテスク製
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS):ナカライテスク製
なお、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、最終濃度が1×、0.5×、0.2×となるように細胞凍結保存液を調製した。
【0045】
<細胞>
実験には、以下の細胞を使用した。
・正常ヒト皮膚繊維芽細胞(クラボウから入手した)
・NIH3T3細胞(マウス繊維芽細胞)(ECACCから入手した)
・ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(Lonzaから入手した)
【0046】
2.方法
細胞の保存効果は、各細胞凍結保存液を用いて保存対象の細胞を凍結保存し、解凍後の細胞の生存率を測定することによって評価した。具体的には、まず、各細胞凍結保存液に、保存対象の細胞を、細胞濃度が1.0×10cells/mlとなるように懸濁し、これをそれぞれ凍結チューブに1mlずつ分注した上、これら細胞を-80℃で緩慢凍結させた。このように凍結させた細胞を、-80℃で所定の期間保存した後、37℃にて解凍した。解凍した細胞を、所定の密度で播種し、細胞培養用培地で一晩培養した。そして、それぞれの生細胞数を、alamarBlue(登録商標) Cell Viability Reagent(Invitrogen(Thermo Scientific)製)を使用して、添付のプロトコルに従い測定した。なお、本測定法では、生存率は、生細胞数に比例する蛍光強度によって示される。
【0047】
3.結果
(1)試験1
以下の組成の細胞凍結保存液を試験した。なお、以下の組成において、単位「%」は、プロピレングリコールの場合「v/v%」であり、それ以外の成分の場合「w/v%」である(以下、実施例1および2の試験において同様)。
【0048】
【表1】
【0049】
試験1では、正常ヒト皮膚繊維芽細胞を保存対象とし、各種細胞凍結保存液において3週間保存した後の細胞の生存率を測定した(n=2)。ここで、解凍後の細胞は、1.0×10cells/well(24ウェルプレート)の細胞密度で播種し、これについてalamarBlue(登録商標) Cell Viability Reagentを使用して生細胞数を測定した。また、参考例として、市販の細胞凍結保存液であるSTEM-CELLBANKER(登録商標) DMSO Free GMP grade(日本全薬工業製、参考例1)についても試験した。結果を、図1に示す。
【0050】
図1に示すように、10%プロピレングリコールおよび250mMトレハロースの他に、5%のフィコールまたは5%のポリエチレングリコール(PEG#200、PEG#600、PEG#2000、PEG#6000、PEG#20000)を含む細胞凍結保存液は、5%のフィコールまたは5%のポリエチレングリコールに代えて5%のヒドロキシエチルスターチ、5%のプルラン、または5%のヒト血清アルブミンを含む細胞凍結保存液と比較して高い生存率を示し、また市販の細胞凍結保存液と比較しても高い生存率を示した。
【0051】
(2)試験2
以下の組成の細胞凍結保存液を試験した。
【0052】
【表2】
【0053】
試験2では、正常ヒト皮膚繊維芽細胞を保存対象とし、各種細胞凍結保存液において10日間保存した後の細胞の生存率を測定した(n=4)。ここで、解凍後の細胞は、1.0×10cells/well(24ウェルプレート)の細胞密度で播種し、これについてalamarBlue(登録商標) Cell Viability Reagentを使用して生細胞数を測定した。結果を、図2に示す。
【0054】
図2に示すように、10%プロピレングリコール、250mMトレハロース、および5%のフィコールを含む細胞凍結保存液と同様、250mMトレハロースに代えて250mMスクロースを含む細胞凍結保存液も高い生存率を示した。
【0055】
(3)試験3
以下の組成の細胞凍結保存液を試験した。
【0056】
【表3】
【0057】
試験3では、正常ヒト皮膚繊維芽細胞を保存対象とし、各種細胞凍結保存液において2週間保存した後の細胞の生存率を測定した(n=4)。ここで、解凍後の細胞は、1.0×10cells/well(24ウェルプレート)の細胞密度で播種し、これについてalamarBlue(登録商標) Cell Viability Reagentを使用して生細胞数を測定した。結果を、図3に示す。
【0058】
図3に示すように、10%プロピレングリコール、250mMトレハロース、および5%のフィコールを含む細胞凍結保存液と同様、トレハロースの濃度が100mM、200mM、または300mMである細胞凍結保存液も高い生存率を示した。
【0059】
(4)試験4
以下の組成の細胞凍結保存液を試験した。
【0060】
【表4】
【0061】
試験4では、NIH3T3細胞(マウス繊維芽細胞)を保存対象とし、各種細胞凍結保存液において2週間保存した後の細胞の生存率を測定した(n=4)。ここで、解凍後の細胞は、1.0×10cells/well(24ウェルプレート)の細胞密度で播種し、これについてalamarBlue(登録商標) Cell Viability Reagentを使用して生細胞数を測定した。また、試験4では、参考例として、市販の細胞凍結保存液であるSTEM-CELLBANKER(登録商標) DMSO Free GMP grade(日本全薬工業製、参考例1)についても試験した。結果を、図4に示す。
【0062】
図4に示すように、10%プロピレングリコール、250mMトレハロース、および5%のフィコールを含む細胞凍結保存液は、基礎溶液としてPBS(1×、0.5×、0.2×の濃度)を使用した場合においても、NIH3T3細胞(マウス繊維芽細胞)に対して、市販の細胞凍結保存液と比較して高い生存率を示した。
(5)試験5
以下の組成の細胞凍結保存液を試験した。
【0063】
【表5】
【0064】
試験5では、正常ヒト皮膚繊維芽細胞またはヒト骨髄由来間葉系幹細胞を保存対象とし、各種細胞凍結保存液において2週間保存した後の細胞の生存率を測定した(n=1)。ここで、解凍後の細胞は、1.0×10cells/well(24ウェルプレート)の細胞密度で播種し、これについてalamarBlue(登録商標) Cell Viability Reagentを使用して生細胞数を測定した。結果を、図5に示す。図5では、各細胞に対する保存効果を、保存液19の測定値(蛍光強度)を100%としたときの相対値として示す。
【0065】
図5に示すように、10%プロピレングリコール、250mMトレハロース、および5%のフィコールの他、さらに5mMのL-アスコルビン酸2-グルコシドを含む細胞凍結保存液は、5mMのL-アスコルビン酸2-グルコシドを含まない細胞凍結保存液と比較して、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞において高い生存率を示した。
【0066】
[実施例2]細胞凍結保存液の泡切れ試験
1.材料
<細胞凍結保存液>
実施例1と同様にして、各種組成の細胞凍結保存液を調製した。
【0067】
2.方法
細胞凍結保存液の泡切れは、各細胞凍結保存液を強制的に泡立たせて、その泡が消えるまでの時間を測定することによって評価した。具体的には、まず、NIH-3T3細胞(1.0×10cells/ml)を懸濁した各細胞凍結保存液を2mLの遠心チューブ(エッペンドルフ製)中に調製した。次いで、200μLのチップを装填したマイクロピペット(20-200)を用いて、200μLの気泡を各細胞凍結保存液中で発生させた。遠心チューブを室温に静置し、経時的に遠心チューブ中の細胞凍結保存液に泡が残存しているか否かを調べた。
【0068】
3.結果
以下の組成の細胞凍結保存液を試験した。
【表6】
【0069】
また、参考例として、市販の細胞凍結保存液であるSTEM-CELLBANKER(登録商標) DMSO Free GMP grade(日本全薬工業製、参考例1)、CELLBANKER(登録商標)1(日本全薬工業製、参考例2)、CELLBANKER(登録商標)1 plus(日本全薬工業製、参考例3)についても試験した。結果を、表7および図6に示す。表7は、各細胞凍結保存液について、それぞれ4本の遠心チューブを用いて上記の方法で泡切れ試験を行い、各時間において泡が残存していた遠心チューブの数を示す表である。図6は、気泡発生操作後、1時間、3時間、24時間の時点での、各細胞凍結保存液における泡の残存状態を示す代表的な写真である。なお、この泡切れ試験は20回繰り返したが全て同様の結果であった。
【表7】
【0070】
表7および図6に示すように、10%プロピレングリコール、250mMトレハロース、5%のフィコールまたはPEG#20000、および5mMのL-アスコルビン酸2-グルコシドを含む細胞凍結保存液は、市販の細胞凍結保存液と比較して非常に泡切れがよいことが示された。また、5mMのL-アスコルビン酸2-グルコシドを含まない保存液21も、気泡発生操作後10秒以内に遠心チューブ中の全ての泡が消失した(n=20)。
【0071】
また、保存液22において、トレハロースに代えて、スクロース、ラクトースまたはマルトトリオースを使用した保存液について試験したが、いずれも、気泡発生操作後約10秒以内には遠心チューブ中の全ての泡が消失した。また、保存液22において、フィコールに代えて、ヒト血清アルブミンを使用した保存液について試験したところ、気泡発生操作後24時間後にも、遠心チューブ中に泡が残存していた。
【0072】
[実施例3]細胞の保存効果試験2
1.材料
<細胞凍結保存液>
下記の各成分および基礎溶液を用いて、各種組成の細胞凍結保存液を調製した。また、細胞凍結保存液は、それぞれ0.22μmのフィルター(Nalgene(Thermo Scientific)製)でろ過滅菌して試験に用いた。
【0073】
(各成分)
細胞凍結保存液の各成分は、以下のものを使用した。
・プロピレングリコール:ナカライテスク製
・エチレングリコール:ナカライテスク製
・トレハロース:林原製
・スクロース:ナカライテスク製
・マルトトリオース:林原製
・ポリエチレングリコール(PEG)#20000:ナカライテスク製
・L-アスコルビン酸2-グルコシド:林原製
なお、基礎溶液は、いずれの細胞凍結保存液についても、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(ナカライテスク製)を、最終濃度が0.5×となるように調整して使用した。
【0074】
<細胞>
実験には、以下の細胞を使用した。
・正常ヒト皮膚繊維芽細胞(クラボウから入手した)
・ヒト脂肪組織由来幹細胞(PromoCellから入手した)
・ヒト骨髄由来間葉系幹細胞1(Lonzaから入手した)
・ヒト骨髄由来間葉系幹細胞2(PromoCellから入手した)
【0075】
2.方法
細胞の保存効果は、各細胞凍結保存液を用いて保存対象の細胞を凍結保存し、解凍後の細胞の生存率を測定することによって評価した。具体的には、まず、各細胞凍結保存液に、保存対象の細胞を、細胞濃度が1.0×10cells/mlとなるように懸濁し、これをそれぞれ凍結チューブに0.2ml(試験8)または1ml(試験6~7および試験9~11)ずつ分注した上、これら細胞を-80℃で緩慢凍結させた。このように凍結させた細胞を、-80℃で所定の期間保存した後、37℃にて解凍した。そして、それぞれの生細胞数について、alamarBlueアッセイもしくはトリパンブルー染色法によって測定した。ここで、alamarBlueアッセイは、解凍した細胞を、所定の密度で播種し、細胞培養用培地で一晩培養した後、実施例1と同様にして行った。トリパンブルー染色法では、解凍した細胞について、トリパンブルーにより染色を行ったのち、血球計算盤上で全細胞数および生細胞数を測定し、全細胞に対する生細胞の割合から生存率を算出した。
【0076】
3.結果
(1)試験6
以下の組成の細胞凍結保存液を試験した。なお、以下の組成において、単位「%」は、プロピレングリコールおよびエチレングリコールの場合「v/v%」であり、それ以外の成分の場合「w/v%」である(以下、実施例3の試験において同様)。
【0077】
【表8】
【0078】
試験6では、正常ヒト皮膚繊維芽細胞を保存対象とし、各種細胞凍結保存液において2週間保存した後の細胞の生存率を測定した(n=4)。ここで、解凍後の細胞は、5.0×10cells/well(24ウェルプレート)の細胞密度で播種し、これについてalamarBlue(登録商標) Cell Viability Reagentを使用して生細胞数を測定した。結果を図7に示す。
【0079】
図7に示すように、プロピレングリコール、トレハロース、ポリエチレングリコールを含む細胞凍結保存液において、プロピレングリコールの濃度を5%、10%、15%と変化させたとき、いずれの濃度でも高い生存率を示したが、とくに10%の濃度で高い生存率を示した。
【0080】
(2)試験7
以下の組成の細胞凍結保存液を試験した。
【0081】
【表9】
【0082】
試験7では、正常ヒト皮膚繊維芽細胞を保存対象とし、各種細胞凍結保存液において2週間保存した後の細胞の生存率を測定した(n=4)。ここで、解凍後の細胞は、5.0×10cells/well(24ウェルプレート)の細胞密度で播種し、これについてalamarBlue(登録商標) Cell Viability Reagentを使用して生細胞数を測定した。結果を、図8に示す。
【0083】
図8に示すように、プロピレングリコール、トレハロース、ポリエチレングリコールを含む細胞凍結保存液において、ポリエチレングリコールの濃度を2.5%、5.0%、7.5%と変化させたとき、いずれの濃度であっても高い生存率を示した。
【0084】
(3)試験8
以下の組成の細胞凍結保存液を試験した。
【0085】
【表10】
【0086】
試験8では、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞1(Lonzaから入手)、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞2(PromoCellから入手)、ヒト脂肪組織由来幹細胞、または正常ヒト皮膚繊維芽細胞を保存対象とし、各種細胞凍結保存液において1~5日間保存し(骨髄由来間葉系幹細胞は2日、脂肪組織由来幹細胞は一晩、皮膚繊維芽細胞は5日)、保存後の細胞の生存率を測定した(n=4)。ここで、解凍後の細胞は、5.0×10cells/well(24ウェルプレート)の細胞密度で播種し、これについてalamarBlue(登録商標) Cell Viability Reagentを使用して生細胞数を測定した。ヒト骨髄由来間葉系幹細胞1(Lonzaから入手)を保存対象としたときの結果を図9Aにし、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞2(PromoCellから入手)を保存対象としたときの結果を図9Bに示し、ヒト脂肪組織由来幹細胞を保存対象としたときの結果を図9Cに示す。また、正常ヒト皮膚繊維芽細胞を保存対象としたときの結果を図10に示す。なお、試験8では、参考例として、市販の細胞凍結保存液であるSTEM-CELLBANKER(登録商標) GMP grade(DMSO含有、日本全薬工業製、参考例4)についても試験した(正常ヒト皮膚繊維芽細胞には試験せず)。
【0087】
図9に示すように、10%プロピレングリコール、250mMトレハロース、および5%のポリエチレングリコールを含む細胞凍結保存液は、いずれの幹細胞に対しても、市販の細胞凍結保存液と比較して同等かそれ以上の高い生存率を示した。さらに、プロピレングリコールに代えてエチレングリコールを含む細胞凍結保存液は、プロピレングリコールを含む細胞凍結保存液と同等かそれ以上の高い生存率を示し、また、図10に示すように、正常ヒト皮膚繊維芽細胞に対しても、プロピレングリコールを含む細胞凍結保存液よりも高い生存率を示した。
【0088】
(4)試験9
以下の組成の細胞凍結保存液を試験した。
【0089】
【表11】
【0090】
試験9では、正常ヒト皮膚繊維芽細胞または骨髄由来間葉系幹細胞1(Lonzaから入手)を保存対象とし、各種細胞凍結保存液において10日間保存した後の細胞の生存率を測定した(n=4)。ここで、解凍後の細胞についてトリパンブルー染色法によって生細胞数を測定し、生存率を算出した。正常ヒト皮膚繊維芽細胞を保存対象としたときの結果を図11Aに示し、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞1を保存対象としたときの結果を図11Bに示す。また、試験9では、参考例として、市販の細胞凍結保存液であるSTEM-CELLBANKER(登録商標) DMSO Free GMP grade(日本全薬工業製、参考例1)、CELLBANKER(登録商標)1(日本全薬工業製、参考例2)、STEM-CELLBANKER(登録商標) GMP grade(日本全薬工業製、参考例4)についても試験した(正常ヒト皮膚繊維芽細胞では参考例2のみ)。
【0091】
図11に示すように、10%プロピレングリコール、250mMトレハロース、5%のポリエチレングリコール、および5mMのL-アスコルビン酸2-グルコシドを含む細胞凍結保存液は、正常ヒト皮膚繊維芽細胞、骨髄由来間葉系幹細胞1のいずれに対しても、市販の細胞凍結保存液と比較して同等かそれ以上の高い生存率を示した。
【0092】
(5)試験10
以下の組成の細胞凍結保存液を試験した。
【0093】
【表12】
【0094】
試験10では、正常ヒト皮膚繊維芽細胞を保存対象とし、各種細胞凍結保存液において1週間保存した後の細胞の生存率を測定した(n=4)。ここで、解凍後の細胞は、5.0×10cells/well(24ウェルプレート)の細胞密度で播種し、これについてalamarBlue(登録商標) Cell Viability Reagentを使用して生細胞数を測定した。結果を、図12に示す。なお、試験10では、参考例として、市販の細胞凍結保存液であるSTEM-CELLBANKER(登録商標) GMP grade(DMSO含有、日本全薬工業製、参考例4)についても試験した。
【0095】
図12に示すように、10%プロピレングリコール、250mMスクロース、および5%のポリエチレングリコールを含む細胞凍結保存液は、正常ヒト皮膚繊維芽細胞に対して、市販の細胞凍結保存液と比較して同等かそれ以上の高い生存率を示した。また、スクロースに代えてマルトトリオースを含む細胞凍結保存液も、同様に高い生存率を示した。
【0096】
(6)試験11
以下の組成の細胞凍結保存液を試験した。
【0097】
【表13】
【0098】
試験11では、正常ヒト皮膚繊維芽細胞を保存対象とし、各種細胞凍結保存液において1週間保存した後の細胞の生存率を測定した(n=3)。ここで、解凍後の細胞は、5.0×10cells/well(24ウェルプレート)の細胞密度で播種し、これについてalamarBlue(登録商標) Cell Viability Reagentを使用して生細胞数を測定した。結果を、図13AおよびBに示す。図13AおよびBでは、各細胞凍結保存液の細胞に対する保存効果を、L-アスコルビン酸2-グルコシドを含まない細胞凍結保存液(保存液37、39)の測定値(蛍光強度)を100%としたときの相対値として示す。
【0099】
図13AおよびBに示すように、10%プロピレングリコール、250mMトレハロース、および5%のポリエチレングリコールの他、さらに5mMのL-アスコルビン酸2-グルコシドを含む細胞凍結保存液は、5mMのL-アスコルビン酸2-グルコシドを含まない細胞凍結保存液と比較して、高い生存率を示した。また、プロピレングリコールに代えてエチレングリコールを含む細胞凍結保存液も、5mMのL-アスコルビン酸2-グルコシドを含む細胞凍結保存液の方が、5mMのL-アスコルビン酸2-グルコシドを含まない細胞凍結保存液よりも高い生存率を示した。
【0100】
(7)泡切れ試験
保存液25~27、29~40について、各保存液に細胞を懸濁させなかった以外は、実施例2と同様にして泡切れ試験を実施したが、いずれの保存液も、気泡発生操作後約10秒以内には遠心チューブ中の全ての泡が消失した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、細胞の保存効果に優れ、かつ泡立ちの少ない細胞凍結保存液を提供することができる。このような細胞凍結保存液は、医療用幹細胞や分化細胞(細胞製剤等を含む)などの保存剤、また基礎研究用試薬として有用に使用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13