(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】二酸化炭素電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 13/07 20210101AFI20240722BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20240722BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20240722BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20240722BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20240722BHJP
【FI】
C25B13/07
C25B1/23
C25B13/08 301
C25B9/19
C25B11/054
(21)【出願番号】P 2021044783
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小藤 勇介
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由紀
(72)【発明者】
【氏名】北川 良太
(72)【発明者】
【氏名】山際 正和
(72)【発明者】
【氏名】田村 淳
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 智
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103160849(CN,A)
【文献】特開2019-056136(JP,A)
【文献】特開2013-249510(JP,A)
【文献】国際公開第2013/183584(WO,A1)
【文献】特開2016-089197(JP,A)
【文献】特開2015-117407(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158719(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 13/07
C25B 1/23
C25B 13/08
C25B 9/19
C25B 11/054
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水または水酸化物イオンを酸化して酸素を生成するためのアノードと、
アノード溶液を前記アノードに供給するためのアノード溶液流路と、
二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するためのカソードと、
二酸化炭素を含むガスを前記カソードに供給するためのガス流路と、
前記アノードと前記カソードとの間に設けられ、親水性ポリマーが担持された多孔質膜を含む隔膜と、
前記アノードと前記隔膜との間に設けられ、前記隔膜を保護する保護材と、
を具備
し、
前記保護材は、10
3
Ωm以上10
19
Ωm以下の電気抵抗率を有する絶縁体を含む、
二酸化炭素電解装置。
【請求項2】
前記カソードは、前記隔膜に接して設けられる、請求項1に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項3】
カソード溶液を前記カソードに供給するためのカソード溶液流路をさらに具備する、請求項1に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項4】
前記カソードは、前記ガス流路に面する第1の表面と、前記カソード溶液流路に面する第2の表面と、を有し、
前記カソード溶液流路は、前記カソード溶液が前記隔膜および前記カソードと接するように、前記隔膜と前記カソードとの間に設けられる、請求項3に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項5】
前記カソード溶液は、リン酸イオン、ホウ酸イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、塩化物イオン、炭酸水素イオン、および炭酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも一つのイオンを含む、請求項3または請求項4に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項6】
前記アノード溶液は、リン酸イオン、ホウ酸イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、塩化物イオン、炭酸水素イオン、および炭酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも一つのイオンを含む、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項7】
前記多孔質膜は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリオレフィン、ポリウレタン、およびポリプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも一つを有する、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項8】
前記親水性ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メトキシポリエチレンオキシドメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、シクロデキストリン、およびメチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも一つを有する、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項9】
前記隔膜は、前記アノード側に親水性の表面を有する、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項10】
前記保護材は、金属酸化物、ガラス、およびセラミックからなる群より選ばれる少なくとも一つを有する、請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項11】
前記保護材の水の透過速度は、前記隔膜の水の透過速度以上である、請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項12】
前記保護材は、
前記アノードに接する第3の表面と、
前記隔膜に接する第4の表面と、を有する、請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項13】
前記アノードは、
担体と、
前記担体に担持され、前記第3の表面に接する酸化触媒と、
を有する、請求項12に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項14】
前記アノードと前記カソードとの間に電流を供給する電源をさらに具備する、請求項1ないし請求項13のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二酸化炭素電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー問題と環境問題の両方の観点から、太陽光などの再生可能エネルギーを電気エネルギーに変換して利用するだけでなく、それを貯蔵し且つ運搬可能な状態に変換することが望まれている。この要望に対して、植物による光合成のように太陽光を用いて化学物質を生成する人工光合成技術の研究開発が進められている。この技術により、再生可能エネルギーを貯蔵可能な燃料として貯蔵する可能性もでき、また、工業原料となる化学物質を生成することにより、価値を生み出すことも期待される。
【0003】
太陽光などの再生可能エネルギーを用いて化学物質を生成する装置として、例えば発電所やごみ処理所等の二酸化炭素供給源から発生した二酸化炭素(CO2)を還元するカソードと、水(H2O)を酸化するアノードと、を具備する電気化学反応装置が知られている。カソードでは、例えば二酸化炭素を還元して一酸化炭素(CO)等の炭素化合物を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/183584号
【文献】国際公開第2020/158719号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、電解効率の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
二酸化炭素電解装置は、水または水酸化物イオンを酸化して酸素を生成するためのアノードと、アノード溶液をアノードに供給するためのアノード溶液流路と、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するためのカソードと、二酸化炭素を含むガスをカソードに供給するためのガス流路と、アノードとカソードとの間に設けられ、親水性ポリマーが担持された多孔質膜を含む隔膜と、アノードと隔膜との間に設けられ、隔膜を保護する保護材と、を具備する。保護材は、10
3
Ωm以上10
19
Ωm以下の電気抵抗率を有する絶縁体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】二酸化炭素電解装置の構成例を説明するための模式図である。
【
図2】二酸化炭素電解装置の他の構成例を説明するための模式図である。
【
図3】
図1に示す二酸化炭素電解装置の一部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0009】
なお、本明細書において、「接続する」とは、特に指定する場合を除き、直接的に接続することだけでなく、間接的に接続することも含む。
【0010】
図1は、二酸化炭素電解装置の構成例を説明するための模式図である。
図2は、二酸化炭素電解装置の他の構成例を説明するための模式図である。
図1および
図2は、電解セル10を具備する二酸化炭素電解装置1を示す。
【0011】
電解セル10は、アノード部11と、カソード部12と、アノード部11とカソード部12とを分離する隔膜13と、を含む。
【0012】
アノード部11は、アノード111と、流路板112に設けられたアノード溶液流路112aと、アノード集電体113と、保護材114と、を含む。
【0013】
カソード部12は、カソード121と、流路板122に設けられたガス流路122aと、カソード集電体123と、を含む。
【0014】
アノード111は、アノード溶液中の水(H2O)の酸化反応を促し、酸素(O2)や水素イオン(H+)を生成する、またはカソード部12で生じた水酸化物イオン(OH-)の酸化反応を促し、酸素や水を生成する電極(酸化電極)である。
【0015】
アノード111は、保護材114と流路板112との間に、これらと接するように配置されている。アノード111の第1の表面は、保護材114と接する。アノード111の第2の表面は、アノード111の第1の表面の反対側に設けられ、アノード溶液流路112aに面する。
【0016】
アノード111の酸化反応により生成される化合物は、酸化触媒の種類等によって異なる。アノード溶液に電解液を用いる場合、アノード111は水(H2O)を酸化して酸素や水素イオンを生成する、もしくは水酸化物イオン(OH-)を酸化して水や酸素を生成することが可能で、そのような反応の過電圧を減少させることが可能な触媒材料(アノード触媒材料)で主として構成されることが好ましい。そのような触媒材料としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等の金属、それらの金属を含む合金や金属間化合物、酸化マンガン(Mn-O)、酸化イリジウム(Ir-O)、酸化ニッケル(Ni-O)、酸化コバルト(Co-O)、酸化鉄(Fe-O)、酸化スズ(Sn-O)、酸化インジウム(In-O)、酸化ルテニウム(Ru-O)、酸化リチウム(Li-O)、酸化ランタン(La-O)等の二元系金属酸化物、Ni-Co-O、Ni-Fe-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等の三元系金属酸化物、Pb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等の四元系金属酸化物、Ru錯体やFe錯体等の金属錯体が挙げられる。
【0017】
アノード111は、隔膜13および保護材114とアノード溶液流路112aとの間でアノード溶液やイオンを移動させることが可能な構造、例えばメッシュ材、パンチング材、または多孔体等の多孔質構造を有する基材(担体)を備えていることが好ましい。多孔体構造を有する基材としては、金属繊維焼結体のような、比較的空隙の大きいものも包含する。基材は、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の金属やこれら金属を少なくとも1つ含む合金(例えばSUS)等の金属材料で構成してもよいし、上述したアノード触媒材料で構成してもよい。アノード触媒材料として酸化物を用いる場合には、上記した金属材料からなる基材の表面にアノード触媒材料を付着もしくは積層して触媒層を形成することが好ましい。アノード触媒材料は、酸化反応を高める上でナノ粒子、ナノ構造体、ナノワイヤ等の形状を有することが好ましい。ナノ構造体とは、触媒材料の表面にナノスケールの凹凸を形成した構造体である。また、必ずしも酸化電極に酸化触媒を設けなくてもよい。酸化電極以外に設けられた酸化触媒層を酸化電極に電気的に接続してもよい。
【0018】
カソード121は、二酸化炭素の還元反応や還元生成物の還元反応を生起し、炭素化合物を生成するための電極(還元電極)である。
【0019】
カソード121は、電極基材、および炭素材料に担持された金属触媒に加えて、イオン伝導性物質から構成されることが好ましい。イオン伝導性物質は、層中に含まれる金属触媒の間のイオンを授受する作用を奏するため、電極活性の向上に効果を示す。
【0020】
上記イオン伝導性物質としてはカチオン交換樹脂またはアニオン交換樹脂が好ましく用いられる。これらは、イオン性修飾基を有するポリマーであり、例えばペルフルオロスルホン酸基を有するカチオン性ポリマーが知られている。より具体的には、デュポン社製のナフィオン(登録商標)、AGC株式会社製のフレミオン(登録商標)などのカチオン交換樹脂、三菱ケミカル株式会社製のダイヤイオン(登録商標)、ダイオキサイドマテリアルズ社製のサステニオン(登録商標)等のアニオン交換樹脂が用いられる。
【0021】
金属触媒の担体は、多孔質構造を有していると好ましい。適用可能な材料としては、上記材料に加え、例えばケッチェンブラックやバルカンXC-72等のカーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ等が挙げられる。多孔質構造を有することにより、酸化還元反応に寄与する活性面の面積を大きくすることができるため、変換効率を高めることができる。
【0022】
担体だけでなく、基材上に形成された触媒層そのものも多孔質構造を有し、比較的大きな空孔を多数有していると好ましい。具体的には、水銀圧入法で測定した触媒層の細孔径分布において、直径5μm以上200μm以下の範囲において空孔の分布頻度が最大となると好ましい。この場合、触媒層内全体にガスが素早く拡散し、還元生成物もこの経路を経て触媒層外へと排出されやすくなるため、効率が良い電極となる。
【0023】
二酸化炭素を触媒層に効率良く供給するために、触媒層を担持する電極基材にガス拡散層を有することが好ましい。ガス拡散層は導電性がある多孔体によって形成される。ガス拡散層は撥水性のある多孔体で形成されると、還元反応によって生成された水や、酸化側から移動してきた水の量を減らし、還元流路を経て水を排出させ、多孔体中の二酸化炭素ガスの割合を多くできるため、好ましい。
【0024】
ガス拡散層の厚さが極端に小さいと、セル面での均一性が損なわれるため、好ましくない。一方で厚さが極端に大きいと部材コストが増加するほか、ガスの拡散抵抗の増加により効率が低下するため、好ましくない。拡散性をより向上させるためにガス拡散層と触媒層の間により緻密な拡散層(メソポーラスレイヤー)を設けると、撥水性や多孔体度を変えて、ガスの拡散性と液体成分の排出を促進させるため、より好ましい。
【0025】
上記担体に担持される金属触媒としては、水素イオンや二酸化炭素を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料が挙げられる。言い換えると、二酸化炭素の還元反応により炭素化合物を生成する際の過電圧を低下させる金属材料が挙げられる。例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、カドニウム(Cd)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、鉛(Pb)、および錫(Sn)からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属および金属酸化物、または当該金属を含む合金を用いることが好ましい。なお、これに限定されず、還元触媒として例えばルテニウム(Ru)錯体またはレニウム(Re)錯体等の金属錯体を用いることもできる。また、複数の材料を混合してもよい。金属触媒には板状、メッシュ状、ワイヤ状、粒子状、多孔質状、薄膜状、島状等の各種形状を適用することができる。また、カソード触媒材料は、酸化反応を高める上でナノ粒子、ナノ構造体、ナノワイヤ等の形状を有することが好ましい。
【0026】
金属触媒に金属ナノ粒子を適用する場合には、その平均直径は1nm以上15nm以下が好ましく、1nm以上10nm以下がより好ましく、1nm以上5nm以下がさらに好ましい。この条件を満たすと、触媒重量あたりの金属の表面積が大きくなり、少量の金属で高い活性を示すようになるため好ましい。
【0027】
還元反応により生成される化合物は、還元触媒として機能する金属触媒の種類等によって異なる。還元反応により生成される化合物は、例えば一酸化炭素(CO)、蟻酸(HCOOH)、メタン(CH4)、メタノール(CH3OH)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、エタノール(C2H5OH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、エチレングリコール等の炭素化合物、または水素である。
【0028】
アノード集電体113およびカソード集電体123は、電源20に接続可能である。電源20の例は、通常の系統電源や電池に限定されず、太陽電池や風力発電等の再生可能エネルギーで発生させた電力を供給する電力源を含んでいてもよい。電源20は、上記電源の出力を調整してアノード111とカソード121との間の電圧を制御するパワーコントローラをさらに有していてもよい。なお、電源20は、二酸化炭素電解装置1の外部に設けられてもよい。
【0029】
アノード溶液流路112aは、アノード111にアノード溶液を供給する機能を有する。アノード溶液流路112aは、流路板112に設けられたピット(溝部/凹部)により構成される。流路板112は、アノード溶液流路112aに接続された、導入口および導出口(いずれも図示せず)を有し、これら導入口および導出口を介して、ポンプ(図示せず)によりアノード溶液が導入および排出される。アノード溶液は、アノード111と接するようにアノード溶液流路112a内を流通する。
【0030】
ガス流路122aは、カソード121の第1の表面に面する。ガス流路122aは、カソード121に二酸化炭素を含むガスを供給する機能を有する。ガス流路122aは、例えば、二酸化炭素を含むガスを供給する二酸化炭素供給源に接続可能である。二酸化炭素供給源としては、例えば発電所やごみ処理所等の施設が挙げられる。ガス流路122aは、流路板122に設けられたピット(溝部/凹部)により構成される。流路板122は、ガス流路122aに接続された、導入口および導出口(いずれも図示せず)を有し、これら導入口および導出口を介して、ポンプ(図示せず)により上記ガスが導入および排出される。
【0031】
流路板112および流路板122の材料は、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料の例は、例えばTiやSUS等の金属材料、カーボン等を含む。なお、流路板122は、図示されていないが、各流路のための流入口および流出口、または締め付けのためのネジ穴を有する。また、各流路板の前後には、図示を省略したパッキンが必要に応じて挟み込まれる。
【0032】
流路板122は、カソード121との電気的接続のためにカソード121と接するランドを有することができる。ガス流路122aの形状としては、柱状のランドに隣接する形状や細長い流路を折り曲げたサーペンタイン形状等の形状が挙げられるが、空洞を有する形状であれば特に限定されない。並列に接続された複数の流路またはサーペンタイン流路やその組み合わせによりガス流路122aを構成すると、カソード121に供給されるガスの均一性を高めることができ、電解反応の均一性を高めることができるため、好ましい。
【0033】
ガス流路122aの深さは、ガス拡散層への二酸化炭素の供給や、液体の排出の観点、セル面で均一の反応を行うといった観点から浅い方が好ましい。ただし、流路が細いことによって流路圧損が増加することで、ガス供給のエネルギーロスや、流路ではなく、ガス拡散層を通過することによるセル面での均一反応の妨げとなるため、極端に狭いのは好ましくない。
【0034】
ガス流路122aに供給されるガス中の二酸化炭素濃度は100%でなくてもよい。この場合、効率は低下するが、様々な施設で排出された二酸化炭素を含むガスを還元することも可能である。
【0035】
図2に示す二酸化炭素電解装置1は、
図1に示す二酸化炭素電解装置1と比較して流路板124に設けられたカソード溶液流路124aをさらに具備する点が異なる。流路板124は、カソード部12に設けられる。カソード溶液流路124aは、カソード121と隔膜13との間に設けられ、カソード121の上記第1の表面の反対側の第2の表面に面する。カソード溶液流路124aは、カソード121にカソード溶液を供給する機能を有する。カソード溶液流路124aは、流路板124に設けられたピット(溝部/凹部)により構成される。カソード溶液は、カソード121および隔膜13と接するようにカソード溶液流路124a内を流通する。流路板124は、例えば流路板112、流路板122に適用可能な材料を用いて形成されてもよい。
【0036】
アノード溶液およびカソード溶液としては、任意の電解質を含む水溶液を用いることができる。電解質を含む水溶液としては、例えばリン酸イオン(PO4
2-)、ホウ酸イオン(BO3
3-)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、リチウムイオン(Li+)、セシウムイオン(Cs+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、炭酸イオン(CO3
2-)等の少なくとも一つのイオンを含む水溶液が挙げられる。他にも、LiHCO3、NaHCO3、KHCO3、CsHCO3、リン酸、ホウ酸等を含む水溶液を用いてもよい。
【0037】
カソード溶液には、イミダゾリウムイオンやピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF4
-やPF6
-等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液を用いてもよい。その他のカソード溶液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジン等のアミンもしくはその水溶液が挙げられる。アミンは、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれでもよい。
【0038】
アノード集電体113は、流路板112のアノード111との接触面と反対側の面に接する。アノード集電体113は、アノード111に電気的に接続される。アノード集電体113は、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を含むことが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
【0039】
カソード集電体123は、流路板122のカソード121との接触面と反対側の面に接する。カソード集電体123は、カソード121に電気的に接続される。カソード集電体123は、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を含むことが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。
【0040】
隔膜13は、アノード111とカソード121との間に設けられる。隔膜13は、親水性ポリマーが担持された多孔質膜を含む。多孔質膜は、疎水性材料を含む。多孔質膜における水との接触角は、例えば100度以上180度未満である。
【0041】
多孔質膜の材料は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリオレフィン、ポリウレタン、およびポリプロピレンの少なくとも一種以上を有することが好ましい。これらの中でもポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる一種以上であることが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンであることがより好ましい。
【0042】
多孔質膜の平均孔径は、好ましくは1nm以上500nm以下、より好ましくは1nm以上300nm以下、さらに好ましくは1nm以上100nm以下である。平均孔径が1nm未満である場合、電解液・イオンの移動が阻害され、セル電圧が上昇するため好ましくない。一方で、平均孔径が500nmを超える場合、電解液がアノード111側からカソード121側へと移動し、カソード121が水等の液体で満たされることにより副反応である水素生成が優位となるため好ましくない。
【0043】
平均孔径は、具体的には走査型電子顕微鏡(SEM)、およびSEMに付随する、細孔解析ソフトウェアを用いた測定装置により算出される。測定装置としては、例えば、ジャスコインタナショナル社製のPhenom ProとPhenom Proに付随のPoroMetricソフトウェアを用いる。測定の際のパラメータの一例として、測定倍率8000倍、Min contrast:0.5、Merge shared borders:0.3、Exclude edge pores:on、 Conductance:0.3、 Min detection size: 1.0が挙げられる。
【0044】
親水性ポリマーは、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メトキシポリエチレンオキシドメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、シクロデキストリン、およびメチルセルロースの少なくとも一つを有することが好ましい。親水性ポリマーにおける水との接触角は、例えば0度超90度以下である。
【0045】
隔膜13の厚さは、5μm以上500μm以下が好ましく、10μm以上400μm以下がより好ましく、20μm以上300μm以下がさらに好ましい。1μm未満である場合、機械的な強度が低下し、長時間運転時に問題が生じる。一方で、500μmを超える場合、電解液・イオンの移動が阻害されてセル電圧が上昇するため好ましくない。
【0046】
保護材114は、アノード111と隔膜13との間に設けられる。保護材114の第1の表面は、アノード111に接する。保護材114の第2の表面は、保護材114の第1の表面の反対側に設けられ、隔膜13に接する。
【0047】
保護材114は絶縁体が好ましい。保護材114が導電体からなる場合、保護材114の表面で隔膜13の酸化反応が進行するおそれがある。隔膜13の酸化反応を抑制するため、保護材114の電気抵抗率は、103Ωm以上であることが好ましく、104Ωm以上であることがより好ましく、105Ωm以上であることがさらに好ましい。保護材114は、例えば、金属酸化物、ガラス、およびセラミックの少なくとも一つの無機材料を有する。保護材114の電気抵抗率の上限は、特に限定されないが、例えば1019Ωmである。
【0048】
アノード111とカソード121との間でイオンを移動させるため、保護材114は、イオンの透過が可能である。保護材114のイオンの透過は、例えば多孔質材料を用いて保護材114を形成する方法や、保護材114に開口を形成する方法により実現可能である。保護材114が多孔質の場合、保護材114の平均孔径は、好ましくは10μm以上1000μm以下、より好ましくは30μm以上900μm以下、さらに好ましくは50μm以上800μmである。平均孔径は、隔膜13の平均孔径の算出方法と同じ方法により算出可能である。
【0049】
電解セル10は、アノード111側に流通させる電解液の透過に従ってイオンは隔膜13を透過するため、保護材114の水の透過速度は隔膜13の水の透過速度以上が好ましい。保護材114の水の透過速度は隔膜13の水の透過速度のより好ましくは2倍以上、さらに好ましくは5倍以上であると、保護材114がイオンの透過を邪魔することなく、高い効率を示すセルとなる。水の透過速度は、ドイツ工業規格の一つであるDIN53137に従って測定される。
【0050】
保護材114の厚さは、5μm以上1000μm以下が好ましい。5μm未満であると、保護材114の機械的強度を担保できなくなり、セル締め付け時や運転時に壊れやすくなる。また、1000μmを超えると、保護材114の電気抵抗率が高くなり、セル電圧が上昇してしまう。保護材114の厚さは、より好ましくは5μm以上800μm以下、さらに好ましくは5μm以上500μm以下であると、機械的強度が高くかつセル電圧が低いセルを達成することが可能となる。
【0051】
次に、実施形態の二酸化炭素電解装置の動作例について説明する。ここでは、
図1に示す二酸化炭素電解装置1が炭素化合物として一酸化炭素を生成する場合について、主として説明するが、二酸化炭素の還元生成物としての炭素化合物は一酸化炭素に限定されない。炭素化合物は、前述したようにメタン、ギ酸、エタン、エチレン、メタノール、エタノール、エチレングリコール等であってもよく、さらに還元生成物である一酸化炭素をさらに還元し、上記したような有機化合物を生成してもよい。溶液状の炭素化合物を生成する場合には電解セル10を使用することが好ましい。また、電解セル10による反応過程としては、主に水素イオン(H
+)を生成する場合と、主に水酸化物イオン(OH
-)を生成する場合とが考えられるが、これら反応過程のいずれかに限定されない。
【0052】
主に水(H2O)を酸化して水素イオン(H+)を生成する場合の反応過程について述べる。アノード111とカソード121との間に電源20から電流を供給すると、アノード溶液と接するアノード111で水(H2O)の酸化反応が生じる。具体的には、下記の(1)式に示すように、アノード溶液中に含まれるH2Oが酸化されて、酸素(O2)と水素イオン(H+)とが生成する。
2H2O → 4H++O2+4e- ・・・(1)
【0053】
アノード111で生成されたH+は、アノード111および保護材114内に存在する電解液、隔膜13を移動し、カソード121付近に到達する。電源20からカソード121に供給される電流に基づく電子(e-)とカソード121付近に移動したH+とによって、二酸化炭素(CO2)の還元反応が生じる。具体的には、下記の(2)式に示すように、ガス流路122aからカソード121に供給された二酸化炭素が還元されて一酸化炭素が生成される。また、下記式(3)のように水素イオンが電子を受け取ることにより、水素が生成する。このとき、水素は一酸化炭素と同時に生成してもよい。
CO2+2H++2e- → CO+H2O ・・・(2)
2H++2e- → H2 ・・・(3)
【0054】
次に、主に二酸化炭素(CO2)を還元して水酸化物イオン(OH-)を生成する場合の反応過程について述べる。アノード111とカソード121との間に電源20から電流を供給すると、カソード121付近において、下記の(4)式に示すように、水(H2O)と二酸化炭素(CO2)が還元されて、一酸化炭素(CO)と水酸化物イオン(OH-)とが生成する。また、下記式(5)のように水が電子を受け取ることにより、水素が生成する。このとき、水素は一酸化炭素と同時に生成してもよい。これらの反応により生成した水酸化物イオン(OH-)はアノード111付近に拡散し、下記の(6)式に示すように、水酸化物イオン(OH-)が酸化されて酸素(O2)が生成する。
2CO2+2H2O+4e- → 2CO+4OH- ・・・(4)
2H2O+2e- → H2+2OH- ・・・(5)
4OH- → 2H2O+O2+4e- ・・・(6)
【0055】
二酸化炭素電解装置1は、二酸化炭素の還元のみに特化するだけでなく、たとえば一酸化炭素と水素を1:2で生成し、その後の化学反応でメタノールを製造するなどの任意の割合で二酸化炭素還元物と水素を製造することもできる。
【0056】
水素は水の電解や化石燃料から安価かつ入手しやすい原料であるため、水素の比率が大きい必要はない。これらの観点から一酸化炭素の水素に対する比率が少なくとも1以上、好ましくは1.5以上であると経済性や環境性の観点から好ましい。
【0057】
以上のように、実施形態の二酸化炭素電解装置は、アノード111と隔膜13との間に、隔膜13を保護する保護材114を具備する。
【0058】
図3は、
図1に示す電解セル10の一部を示す断面模式図である。
図3は、アノード111と、隔膜13と、保護材114と、を部分的に示す。
図3に示すアノード111は、上記基材(担体)を含む層111aと、層111a上に設けられるとともに上記酸化触媒を含む層111bと、を有する。
図3に示す隔膜13は、上記多孔質膜を含む層13aと、層13a上に担持された上記親水性ポリマーを含む層13bと、を有する。
【0059】
二酸化炭素電解装置を構成する場合、例えばPolymer Electric Fuel Cell(PEFC)等の燃料電池に類似する形態により実現することが有効である。具体的に、二酸化炭素をカソードの触媒層に直接供給することにより、速やかに二酸化炭素還元反応を進行させることが可能となる。
【0060】
このような形態では、カソードとアノードとを分離する隔膜の選定が重要となる。隔膜にはアノード部で生成したガス(例えば酸素)とカソード部で生成したガス(例えば一酸化炭素)が混合しないように高いガス遮断性が求められる。また上記のような二酸化炭素電解装置では、電気(電子)を運ぶ媒体はイオンであるため、反応を効率よく進行させるために、隔膜には高いイオン透過性が求められる。
【0061】
PEFCでは、例えばデュポン社製のナフィオン(登録商標)、AGC社製のフレミオン(登録商標)等のカチオン交換樹脂からなる安定な膜が用いられるが、これを二酸化炭素電解装置の隔膜に用いると、副反応である水素の生成が優位となってしまい、反応効率が低下する。一方で、ダイオキサイドマテリアルズ社製のサステニオン(登録商標)等のアニオン交換樹脂を用いると水素の生成は抑制されるが、現時点ではこれらの膜は熱および機械的安定性に乏しく、耐久性の面で難がある。
【0062】
上記のようなイオン交換膜使用時に生じる問題を解決する方法の一つとして、イオンの透過選択性を有しない多孔質膜を隔膜に用いる方法が考えられる。この方法では、電解液が直接移動することによりイオンが隔膜を透過する。これはアルカリ水電解等でも検討されている手法であり、安定な隔膜を供給するための方法が提案されている。
【0063】
上記の技術は、特殊な親水性多孔質膜の製造法や特徴に関わるものであり、実用化した際に膜のコストや供給量等の問題が存在する。現時点で既に製造法が確立された膜を適用可能になれば上記の問題を解決できる。例えば、安定なポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の疎水性多孔質膜の表面に親水性ポリマーを担持・被覆することにより製造された親水性多孔質膜は、広い分野で活用されており、この膜の電解セルへの適用が期待される。
【0064】
しかしながら、従来の電解セルではアノードと隔膜が接触する。例えば、
図3において、保護材114が無い場合、隔膜13の層13bがアノード111の層111bに接触してしまう。
【0065】
アノードと隔膜との接触は、上記ポリマーの電気化学的な酸化反応が進行し、組成、形状、孔径や空隙率等が変化して隔膜としての機能の低下や機械的強度の低下を引き起こすおそれがある。
【0066】
隔膜の酸化を防ぐためには、隔膜とアノードとの接触を防ぐ必要がある。部材の間にあらかじめ一定の空間を設ける設計のセルとする方法でも接触を防ぐことが可能であるが、この場合空間の厚さの調整が難しくなる。空間が狭いと電解液やガスの流量変更時に部材同士が触れ合う可能性があり、厚いとセル電圧が上昇してしまうため、空間の厚さには細かい調整が必要であるが、一定の空間を設けるように設計したセルでは対応力に乏しい。
【0067】
これに対し、実施形態の二酸化炭素電解装置では、保護材114を設けることにより、アノード111と隔膜13との接触を防ぎ、上記酸化反応を抑制できる。よって、隔膜13の状態を維持することができ、二酸化炭素電解装置を長時間運転する場合であっても電解効率の低下を抑制できる。また、保護材114を設ける場合は、保護材114の厚さや材質を変えることにより容易に制御可能であるため、取り扱いが容易である。
【0068】
PTFE等の疎水性材料を隔膜13に使用する際には、電解液を透過させるために親水性ポリマー等の担持により親水性を付与する必要がある。このような親水化処理を施した膜を隔膜13に使用すると、上記酸化反応により親水化剤が容易に変性する。その結果、膜が疎水性となって湿潤しにくくなり、生成した空隙からカソード121側のガスがアノード111側に移動するクロスオーバーが発生することで性能が低下する。以上の理由により、親水化膜を使用する際には保護材114を挿入することによる耐久性向上の効果が表れると考えられる。PTFE等の疎水性材料には熱的・化学的安定性が非常に高いものが多く存在することが知られており、上記の保護材の挿入によって親水性を保つことができれば、安定な隔膜13として長時間運転に寄与する。
【実施例】
【0069】
(実施例1)
以下の手順に従い、
図1に示す二酸化炭素電解装置を作製した。
【0070】
カソード触媒層の作製にはスプレー塗布を用いた。電極基材にはマイクロポーラス層を持つ拡散層付きカーボンペーパーを用いた。金属触媒、純水、イソプロパノール、およびナフィオン溶液を所定の割合で混合した塗布溶液をカーボンペーパー上に噴射してスプレー塗布を行った。これを4×4cmの大きさに切り出してカソード(電極面積16cm2)とした。
【0071】
アノードには、Tiメッシュ上に触媒となるIrO2ナノ粒子を塗布した電極を用いた。このIrO2/Tiメッシュを4×4cmに切り出し、アノードとした。
【0072】
電解セルは、上からカソード集電板、ガス流路、カソード、隔膜、保護材、アノード、電解液流路、アノード集電板の順で積層し、図示しない支持板により挟み込み、さらにボルトで締め付けて作製した。さらに、アノード集電板とカソード集電板を外部電源に接続し、
図1に示す電解装置を作製した。
【0073】
隔膜には、親水化処理されたPTFE膜である、住友電工社製のポアフロン(登録商標)を用いた。公称孔径は0.05μm、公称厚みは30μmである。DIN 53137に基づいて25mLの水が隔膜を透過するまでの時間を測定したところ48秒であった。
【0074】
保護材には、ユニチカ社製のガラスクロスを用いた。公称織密度は25mmあたり70本、公称厚みは25μm、ガラス繊維の電気抵抗率は1017Ωmである。DIN 53137に基づいて25mLの水が保護材を透過するまでの時間を測定したところ1秒未満であった。
【0075】
上記電解装置を以下の条件で運転した。ガス流路に二酸化炭素ガスを所定量供給し、電解液流路に炭酸水素ナトリウム水溶液(濃度0.1M)をフローした。アノードとカソードとの間に400mAcm-2の定電流を印加し続けた。また、10分おきにカソード側から発生する気体を捕集し、ガスクロマトグラフィにより定量することでCO生成ファラデー効率を算出した。このセルは電解開始後にCO生成ファラデー効率が90%を示し、50時間この効率を維持し続けた。
【0076】
(比較例1)
保護材を挿入せず、その他は実施例1と同様にセルを組み、実施例1と同様の手順で評価した。この場合、電解開始後にCO生成ファラデー効率が90%を示したが、徐々に効率が低下し、16時間経過後に効率は80%に低下した。これはPTFE膜の親水化材が電気化学的な酸化によって失われ、隔膜の性質が変化したことが原因であると考えられる。このことから、保護材を挿入することにより耐久性が向上し、電解効率の向上効果を奏することがわかる。
【0077】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0078】
10…電解セル、11…アノード部、12…カソード部、13…隔膜、13a…層、13b…層、20…電源、111…アノード、111a…層、111b…層、112…流路板、112a…アノード溶液流路、113…アノード集電体、114…保護材、121…カソード、122…流路板、122a…ガス流路、123…カソード集電体、124…流路板、124a…カソード溶液流路。