(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】誘電体セラミック形成用組成物及び誘電体セラミック材料
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20240722BHJP
C04B 35/468 20060101ALI20240722BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C01G23/00 C
C04B35/468 200
H01B3/12 303
(21)【出願番号】P 2021081483
(22)【出願日】2021-05-13
【審査請求日】2024-02-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 晃
(72)【発明者】
【氏名】国枝 武久
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-067519(JP,A)
【文献】特開2011-178643(JP,A)
【文献】国際公開第2011/046205(WO,A1)
【文献】特開2006-111524(JP,A)
【文献】特開2012-206885(JP,A)
【文献】特開2007-099541(JP,A)
【文献】特開2010-120802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
C04B 35/465
C04B 35/48
H01B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ペロブスカイト(ABO
3)型複合酸化物と、下記
一般式(1):
【化1】
で表される結合を有する化合物と、該原料ペロブスカイト(ABO
3)型複合酸化物のAサイト元素を含有する化合物と、を含有し、
該原料ペロブスカイト(ABO
3
)型複合酸化物は、Aサイト元素が、Ba、Ca、Mg及びSrから選択される少なくとも1種であり、且つ、Bサイト元素が、Ti及びZrから選択される少なくとも1種であるペロブスカイト型複合酸化物であり、
前記一般式(1)で表される結合を有する化合物が、尿素、メチル尿素、エチル尿素、ブチル尿素、アセチル尿素、アセトアミド、ホルムアミド、プロピオン酸アミド、ブチルアミド、ジアセトアミド、コハク酸アミド、ε-カプロラクタム、アクリルアミド、アセトアニリド、ニコチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、フタルイミド、スクシンイミド、ヒダントイン、バルビツール酸及びイソシアヌル酸から選択される少なくとも1種であり、
該原料ペロブスカイト(ABO
3
)型複合酸化物のAサイト元素を含有する化合物が、Ba、Ca、Mg又はSrの水酸化物、塩化物、硝酸塩、酢酸塩、酸化物及び炭酸塩から選択される少なくとも1種であり、
前記一般式(1)で表される結合を有する化合物の含有量が、該原料ペロブスカイト(ABO
3)型複合酸化物に対し、0.40~80モル%であること、
該Aサイト元素を含有する化合物の含有量が、該原料ペロブスカイト(ABO
3)型複合酸化物に対し、0.10~20モル%であること、
を特徴とする誘電体セラミック形成用組成物。
【請求項2】
更に、ヒドロキシ酸を含有し、
該ヒドロキシ酸の含有量が、前記原料ペロブスカイト(ABO
3)型複合酸化物に対し、0.010~20モル%であることを特徴とする請求項
1記載の誘電体セラミック形成用組成物。
【請求項3】
前記ヒドロキシ酸が、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸及びサリチル酸から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項
2記載の誘電体セラミック形成用組成物。
【請求項4】
請求項1~
3いずれか1項記載の誘電体セラミック形成用組成物の焼成物であることを特徴とする誘電体セラミック材料。
【請求項5】
前記誘電体セラミック形成用組成物の焼成温度が1000℃以下であることを特徴とする請求項
4記載の誘電体セラミック材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体、オプトエレクトロニクス材、圧電体、半導体、センサー等の機能性セラミックの原料として有用なペロブスカイト型複合酸化物を含有する誘電体セラミック形成用組成物及びこれを焼成して得られる誘電体セラミック材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウムに代表されるペロブスカイト型複合酸化物は、従来、圧電体、積層セラミックコンデンサ等の機能性セラミックの原料として用いられてきた。ところが、近年、積層セラミックコンデンサは、高容量化のために積層数の増加や高誘電率化が求められており、このため、ペロブスカイト型複合酸化物には、微細で高い正方晶性を持つことが要望されている。
【0003】
ペロブスカイト型複合酸化物の代表例としてチタン酸バリウムが挙げられるが、このチタン酸バリウムを製造する方法としては固相法、水熱合成法、アルコキシド法、シュウ酸塩法等の方法が挙げられる。これらの方法の何れも原料のチタン源及びバリウム源を反応させることによりチタン酸バリウムを得るものであるが、一般的には焼成等による熱エネルギーの付与による反応が最終的には行われており、高結晶化するために、より多くの熱エネルギーを付与することが必要である。
【0004】
この高結晶化のための熱エネルギーの付与は、焼成温度を高めれば得られるものであるが、得られるペロブスカイト型複合酸化物の高結晶化をもたらす半面、粒成長を促してしまうので、上記したような微細な原料を得る目的を達成できないという問題があった。
【0005】
この問題を解決するために、例えば、特許文献1では、原料となる炭酸バリウムと酸化チタンを混合して仮焼する過程において、アミド化合物、アミノ酸またはペプチドから成る助剤を仮焼前までに添加してから仮焼することにより、粒度分布が狭小で、且つ、平均粒径の小さいチタン酸バリウムが得られることが記載されている。また、特許文献2では、ペロブスカイト型複合酸化物の原料となる炭酸バリウムの製法が開示されており、水酸化バリウム、塩化バリウム等のバリウム化合物に対して、クエン酸及び酒石酸等の多塩基カルボン酸を加えて反応させることで微細な炭酸バリウムが得られるため、該炭酸バリウムを原料として得られる積層セラミックコンデンサなどの電子材料に好適に使用できることが記載されている。特許文献3では、バリウムチタニルシュウ酸塩の結晶にアンモニア等の窒素含有添加剤を加えて粉砕後、熱分解して得られるチタン酸バリウムは、誘電特性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-111524号公報
【文献】特開2019-189493号公報
【文献】特開2005-500239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献により開示された発明は、原料の段階で助剤を加えることにより、その後の焼成で主にバリウム化合物の分解が促進される又は粒成長が抑えられて比表面積が高くなることで微細なチタン酸バリウムが生成されるものである。しかしながら、この方法により得られるチタン酸バリウムは、焼成温度をある程度高くしないと高結晶なものが得られないため、低温焼成でも微細で高結晶なチタン酸バリウムを得るための方法が模索されている。
【0008】
従って、本発明の目的は、粒径が小さく且つ高結晶のペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる誘電体セラミック形成用組成物を提供すること、及びそれを用いた誘電体セラミック材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、原料となるペロブスカイト型複合酸化物に、特定の化合物を加えて焼成することにより、従来よりも低温でペロブスカイト型複合酸化物が得られるため、粒成長が抑えられつつ高結晶化が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物と、下記一般式(1):
【0011】
【0012】
で表される結合を有する化合物と、該原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物のAサイト元素を含有する化合物と、を含有し、
該原料ペロブスカイト(ABO
3
)型複合酸化物は、Aサイト元素が、Ba、Ca、Mg及びSrから選択される少なくとも1種であり、且つ、Bサイト元素が、Ti及びZrから選択される少なくとも1種であるペロブスカイト型複合酸化物であり、
前記一般式(1)で表される結合を有する化合物が、尿素、メチル尿素、エチル尿素、ブチル尿素、アセチル尿素、アセトアミド、ホルムアミド、プロピオン酸アミド、ブチルアミド、ジアセトアミド、コハク酸アミド、ε-カプロラクタム、アクリルアミド、アセトアニリド、ニコチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、フタルイミド、スクシンイミド、ヒダントイン、バルビツール酸及びイソシアヌル酸から選択される少なくとも1種であり、
該原料ペロブスカイト(ABO
3
)型複合酸化物のAサイト元素を含有する化合物が、Ba、Ca、Mg又はSrの水酸化物、塩化物、硝酸塩、酢酸塩、酸化物及び炭酸塩から選択される少なくとも1種であり、
前記一般式(1)で表される結合を有する化合物の含有量が、該原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物に対し、0.40~80モル%であること、
該Aサイト元素を含有する化合物の含有量が、該原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物に対し、0.10~20モル%であること、
を特徴とする誘電体セラミック形成用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、同じ温度で焼成した場合に、従来のペロブスカイト型複合酸化物に比べて、粒径が小さく且つ高結晶のペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる誘電体セラミック形成用組成物を提供すること、及びそれを用いた誘電体セラミック材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の誘電体セラミック形成用組成物の熱重量分析により得られたDTG曲線である。
【
図2】実施例2の誘電体セラミック形成用組成物の熱重量分析により得られたDTG曲線である。
【
図3】実施例3の誘電体セラミック形成用組成物の熱重量分析により得られたDTG曲線である。
【
図4】比較例1の乾粉の熱重量分析により得られたDTG曲線である。
【
図5】比較例2の誘電体セラミック形成用組成物の熱重量分析により得られたDTG曲線である。
【
図6】表2におけるBET比表面積とc/aの関係性を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の誘電体セラミック形成用組成物は、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物と、下記式(1):
【0016】
【0017】
で表される結合を有する化合物と、を含有し、
前記一般式(1)で表される結合を有する化合物の含有量が、該原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物に対し、0.40~80モル%であること、
を特徴とする誘電体セラミック形成用組成物である。
【0018】
本発明の誘電体セラミック形成用組成物は、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物を含有する。本発明の誘電体セラミック形成用組成物に含有されている原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物は、誘電体セラミック形成用組成物の焼成により、焼結して、ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物の焼結体、すなわち、誘電体セラミック材料を形成する原料複合酸化物である。
【0019】
本発明の誘電体セラミック形成用組成物に係る原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物は、ABO3型の構造を有するペロブスカイト型の複合酸化物であれば、特に制限されないが、Aサイト元素が、Ba、Ca、Mg及びSrから選択される少なくとも1種であり、且つ、Bサイト元素が、Ti及びZrから選択される少なくとも1種であるペロブスカイト型複合酸化物が好ましい。このような、Aサイト元素が、Ba、Ca、Mg及びSrから選択される少なくとも1種であり、且つ、Bサイト元素が、Ti及びZrから選択される少なくとも1種であるペロブスカイト型複合酸化物ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物としては、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタンジルコン酸バリウムカルシウム、チタンジルコン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸ストロンチウム、ジルコン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウムストロンチウム、ジルコン酸カルシウムストロンチウムが挙げられる。ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。これらの中、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物としては、低温焼成でより高い結晶化度を有するペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる点で、チタン酸バリウムが特に好ましい。
【0020】
原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物の平均粒子径は、好ましくは0.010~10μm、より好ましくは0.020~1.0μmである。原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物の平均粒子径が、上記範囲にあることにより、ペロブスカイト型複合酸化物の電気的特性、焼結諸特性、ハンドリング特性が良好となる。なお、本発明において、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真により、任意に200個の粒子の粒径を測定し、その平均値を平均粒子径とする。
【0021】
原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物のBET比表面積は、好ましくは0.10m2/g以上、より好ましくは1.0~50m2/gである。原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物のBET比表面積が、上記範囲にあることにより、焼結性及びハンドリング性が良好となり、粒径が小さく高結晶なペロブスカイト型複合酸化物が得られるので好ましい。
【0022】
原料ペロブスカイト型複合酸化物の調製方法は、特に限定されるものではなく、例えば、シュウ酸塩法、共沈法、加水分解法、水熱合成法、固相法等が挙げられる。また、市販のペロブスカイト型複合酸化物を用いることもできる。
【0023】
本発明の誘電体セラミック形成用組成物は、下記式(1):
【0024】
【0025】
で表される結合を有する化合物を含有する。一般式(1)で表される結合を有する化合物は、分子中に、少なくとも1つ一般式(1)で表される結合を有している。本発明の誘電体セラミック形成用組成物において、一般式(1)で表される結合を有する化合物は、誘電体セラミック形成用組成物を焼成して得られる誘電体セラミック材料が、粒径が小さく且つ高結晶のペロブスカイト型複合酸化物となるために必要なものである。一般式(1)で表される結合を有する化合物が存在しない場合、原料ペロブスカイト型複合酸化物の結晶化度を高くするためには、焼成温度を高くして熱エネルギーを付与する必要がある。それに対して、一般式(1)で表される結合を有する化合物が存在することにより、原料ペロブスカイト型複合酸化物の結晶化を進み易くする効果が得られるため、焼成温度を上げなくても結晶化度が高くなり、また、焼成温度を上げる必要がないため粒成長が抑えられるものとなる。この理由として、原料ペロブスカイト型複合酸化物には、Ba、Ca、Mg又はSrの水酸化物、塩化物、硝酸塩、酢酸塩、酸化物又は炭酸塩といった原料ペロブスカイト型複合酸化物のAサイト元素を含有する化合物が、原料ペロブスカイト型複合酸化物の粒子表面に付着していたり、或いは、後述するように本発明において結晶化度を上げる目的で前記Aサイト元素を含有する化合物を原料ペロブスカイト型複合酸化物に加えるが、前記一般式(1)で表される結合を有する化合物が存在することにより、前記Aサイト元素を含有する化合物の分解が促進され、Aサイト元素と原料ペロブスカイト型複合酸化物の反応が進み易くなるためであると本発明者らは考えている。なお、一般式(1)で表される結合を有する化合物中で、一般式(1)中の炭素原子は、一般式(1)中の酸素原子及び窒素原子以外に、他の1つの原子と結合しており、また、一般式(1)中の窒素原子は、一般式(1)中の炭素原子以外に、他の2つの原子と結合している。
【0026】
一般式(1)で表される結合を有する化合物としては、下記一般式(2):
【0027】
【0028】
で表されるアミド化合物が挙げられる。アミド化合物は、分子中に、アミド骨格(-C(=O)-N-)を有する化合物である。式(2)中、R1、R2及びR3は、H又は有機基であり、それぞれ独立に選択される。式(2)中のR1、R2及びR3に係る有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、芳香族基等が挙げられ、それらの基は、アルキル基、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。
【0029】
また、一般式(1)で表される結合を有する化合物としては、下記一般式(3):
【0030】
【0031】
で表される尿素化合物が挙げられる。尿素化合物は、分子中に、尿素骨格(-N-C(=O)-N-)を有する化合物である。式(3)中、R1、R2、R3及びR4は、H又は有機基であり、それぞれ独立に選択される。式(3)中のR1、R2、R3及びR4に係る有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、芳香族基等が挙げられ、それらの基は、アルキル基、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。
【0032】
また、一般式(1)で表される結合を有する化合物としては、下記一般式(4):
【0033】
【0034】
で表されるイミド化合物が挙げられる。イミド化合物は、分子中に、イミド骨格(-C(=O)-N-C(=O)-)を有する化合物である。式(4)中、R1、R2及びR3は、H又は有機基であり、それぞれ独立に選択される。式(4)中のR1、R2及びR3に係る有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、芳香族基等が挙げられ、それらの基は、アルキル基、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。
【0035】
一般式(1)で表される結合を有する化合物に係るアミド化合物としては、アセトアミド、ホルムアミド、プロピオン酸アミド、ブチルアミド、ジアセトアミド、コハク酸アミド、ε-カプロラクタム、アクリルアミド、アセトアニリド、ニコチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0036】
また、一般式(1)で表される結合を有する化合物に係る尿素化合物としては、尿素、メチル尿素、エチル尿素、ブチル尿素、アセチル尿素等が挙げられる。
【0037】
また、一般式(1)で表される結合を有する化合物に係るイミド化合物としては、フタルイミド、スクシンイミド、ヒダントイン、バルビツール酸、イソシアヌル酸等が挙げられる。
【0038】
これらのうち、一般式(1)で表される結合を有する化合物としては、反応性が高く、低コストである点で、尿素、メチル尿素、エチル尿素、ブチル尿素、アセチル尿素等の尿素化合物が好ましく、尿素が特に好ましい。
【0039】
一般式(1)で表される結合を有する化合物は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0040】
誘電体セラミック形成用組成物中、一般式(1)で表される結合を有する化合物の含有量は、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物に対し、0.40~80モル%、好ましくは0.80~60モル%、特に好ましくは2.0~40モル%である。誘電体セラミック形成用組成物中の一般式(1)で表される結合を有する化合物の含有量が上記範囲にあることにより、低温で焼成してもペロブスカイト型複合酸化物の結晶化が進みつつ粒成長が抑えられるため、粒径が小さく且つ高結晶のペロブスカイト型複合酸化物の焼結体からなる誘電体セラミック材料を得ることができる。一方、誘電体セラミック形成用組成物中の一般式(1)で表される結合を有する化合物の含有量が、上記範囲未満だと誘電体セラミック形成用組成物を焼成したときに一般式(1)で表される結合を有する化合物の添加の効果が得られないため、高温焼成が必要となり、その結果、粒成長を起こしてしまう。また、誘電体セラミック形成用組成物中の一般式(1)で表される結合を有する化合物の含有量が、上記範囲を超えると、生成物の物性、反応性、作業環境への悪影響や製造コストの増大につながる。
【0041】
本発明の誘電体セラミック形成用組成物に、一般式(1)で表される結合を有する化合物が含まれることの効果は、本発明の誘電体セラミック形成用組成物を昇温加熱したときの重量変化を熱重量分析して得られる熱重量曲線(TG曲線)の微分曲線(DTG曲線)を用いて評価することができる。すなわち、本発明の誘電体セラミック形成用組成物の熱重量分析を実施したとき、DTG曲線において、原料ペロブスカイト型複合酸化物のAサイト元素を含有する化合物の熱分解反応に由来するピークの極小値が、好ましくは500~595℃、特に好ましくは510~590℃に観察される。DTG曲線におけるピークの極小値が前記範囲にあることにより、より低温で原料ペロブスカイト型複合酸化物とAサイト元素の反応が行えるため、原料ペロブスカイト型複合酸化物の粒子成長を抑えつつ高結晶化することができる。
【0042】
本発明の誘電体セラミック形成用組成物は、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物及び一般式(1)で表される結合を有する化合物以外に、ヒドロキシ酸を含有することができる。
【0043】
本発明の誘電体セラミック形成用組成物に係るヒドロキシ酸としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、サリチル酸が挙げられる。これらの中、ヒドロキシ酸としては、反応性及びコスト面の観点からクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、イソクエン酸が好ましく、クエン酸、酒石酸であることが特に好ましい。ヒドロキシ酸は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0044】
本発明の誘電体セラミック形成用組成物中、ヒドロキシ酸の含有量は、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物に対し、0.010~20モル%、好ましくは0.020~10モル%、より好ましくは0.030~5.0モル%である。本発明の誘電体セラミック形成用組成物中のヒドロキシ酸の含有量が上記範囲にあることにより、焼成による原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物の粒成長を抑えることができるため、粒径が小さいペロブスカイト型複合酸化物を得易くなる。
【0045】
本発明の誘電体セラミック形成用組成物は、更に、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物のAサイト元素を含有する化合物を含有することができる。本発明の誘電体セラミック形成用組成物中、Aサイト元素を含有する化合物の含有量は、好ましくは0.10~20モル%、より好ましくは0.20~15モル%である。誘電体セラミック形成用組成物中のAサイト元素を含有する化合物の含有量が、上記範囲にあることにより、高結晶なペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる。
【0046】
原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物のAサイト元素を含有する化合物としては、Ba、Ca、Mg又はSrの水酸化物、塩化物、硝酸塩、酢酸塩、酸化物及び炭酸塩から選択される少なくとも1種が好ましい。このようなAサイト元素を含有する化合物としては、例えば、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物がチタン酸バリウムである場合、水酸化バリウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、酢酸バリウム、酸化バリウム、炭酸バリウム等が挙げられ、また、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物がチタン酸カルシウムである場合、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられ、また、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物がチタン酸マグネシウムである場合、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが挙げられ、また、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物がチタン酸ストロンチウムである場合、水酸化ストロンチウム、塩化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム等が挙げられる。
【0047】
また、本発明の誘電体セラミック形成用組成物は、更に、誘電体セラミック材料の諸特性を補正する目的で、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、V、Nb、Ta、Mn、Cr、Mo及びWからなる群から選ばれる少なくとも1種の副成分元素を含有する副成分元素含有化合物粉末を含有することができる。副成分元素含有化合物としては、副成分元素を含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、カルボン酸塩、アンモニウム塩及び有機酸塩等が挙げられる。これらは1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0048】
副成分元素含有化合物粉末の平均粒子径は、好ましくは0.010μm~5.0μmであり、より好ましくは0.020μm~3.0μmである。副成分元素含有化合物粉末の平均粒子径が上記範囲にあることにより、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物との接触が良好になり、得られる誘電体セラミック材料の均質配合性の向上が図れるので好ましい。なお、本発明における副成分元素含有化合物粉末の平均粒子径は、レーザー回折散乱法による体積分布計測におけるD50粒径により求められる値である。
【0049】
副成分元素含有化合物粉末のBET比表面積は、好ましくは2.0m2/g以上であり、より好ましくは2.0~200m2/gである。副成分元素含有化合物粉末のBET比表面積が上記範囲にあることにより、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物との接触が良好になり、得られる誘電体セラミック材料の均質配合性の向上が図れるので好ましい。
【0050】
本発明の誘電体セラミック形成用組成物は、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物及び一般式(1)で表される結合を有する化合物、また、必要に応じて用いられるヒドロキシ酸、原料ペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物のAサイト元素を含有する化合物及び/又は副成分元素含有化合物粉末が、所望の配合割合となるように混合され、調製される。混合方法は、特に限定されるものではなく、湿式法、乾式法等が挙げられる。
【0051】
湿式法には、ボールミル、ビーズミル、ディスパーミル、ホモジナイザー、振動ミル、サンドグラインドミル、アトライター、強力撹拌機等の公知の装置を用いることができる。また、乾式法には、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサーヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー等の公知の装置を用いることができる。
【0052】
より均一な組成物とし、より高性能な誘電体セラミック材料を得る観点から、本発明の誘電体セラミック形成用組成物は、湿式法により調製されたものであることが好ましい。湿式混合に用いる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、塩化メチレン、酢酸エチル、ジメチルホルムアルデヒド、ジエチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコールを用いると、より均一な組成物が得られるので、焼成により得られる誘電体セラミック材料の電気特性をより向上させることができる。
【0053】
本発明の誘電体セラミック材料は、上記した本発明の誘電体セラミック形成用組成物を焼成して得られるもの、すなわち、本発明の誘電体セラミック形成用組成物の焼成物である。本発明の誘電体セラミック材料は、粒径が小さく且つ高結晶なペロブスカイト(ABO3)型複合酸化物の焼結体である。本発明の誘電体セラミック形成用組成物を焼成する際の焼成温度は、誘電体セラミック形成用組成物が焼結できる温度であれば特に制限されるものではないが、本発明の利点を考えれば、好ましくは1000℃以下、より好ましくは300~970℃、特に好ましくは400~950℃である。本発明の誘電体セラミック形成用組成物を焼成する際の焼成時間は、好ましくは1時間以上、特に好ましくは1~48時間である。本発明の誘電体セラミック形成用組成物を焼成する際の雰囲気は、大気雰囲気、酸素雰囲気又は不活性雰囲気のいずれで行ってもよく、特に制限されるものではない。また、本発明の誘電体セラミック形成用組成物の焼成は、必要に応じて、複数回行われてもよい。
【0054】
本発明の誘電体セラミック形成用組成物又は本発明の誘電体セラミック材料に、添加剤、有機系バインダ、可塑剤、分散剤等の積層セラミックコンデンサを製造する上で従来公知の配合剤を混合分散して、スラリー化し、シート成形を行って、セラミックシートを得、次に、このセラミックシートの一面に内部電極形成用導電ペーストを印刷し、乾燥後、複数枚のセラミックシートを積層し、次に厚み方向に圧着することにより積層体として、この積層体を加熱処理して脱バインダ処理を行い、焼成して焼成体を得、次に、この燒結体にIn-Gaペースト、Niペースト、Agペースト、ニッケル合金ペースト、銅ペースト、銅合金ペースト等を塗布して焼き付けることにより積層コンデンサとすることができる。
【0055】
また、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂に本発明の誘電体セラミック形成用組成物又は誘電体セラミック材料を配合し、樹脂シート、樹脂フィルム、接着剤等として用いるプリント配線板や多層プリント配線板等の材料、内部電極と誘電体層との収縮差を抑制するための共材、電極セラミックス回路基板、ガラスセラミックス回路基板の基材及び回路周辺材料、排ガス除去及び化学合成等の反応時に使用される触媒、及び印刷トナーの表面改質材として添加し、帯電防止あるいはクリーニング効果を付与する材料としても用いることもできる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)熱重量分析
メトラー・トレド株式会社製熱重量測定装置TGA/DSC 1を用いて、30mgの試料を50mL/minの空気気流中、30℃から1200℃まで昇温速度10℃/minの条件とし、熱重量曲線(TG曲線)及びTG曲線における微分曲線(DTG曲線)を測定した。
(2)平均粒子径
走査型電子顕微鏡(SEM)写真により、任意に200個の粒子の粒径を測定し、その平均値を平均粒子径とした。
(3)比表面積
BET法により求めた。
(4)c/a値
線源としてCu-Kα線を用いてX線回折装置(Bruker社製、D8 ADVANCE)により、c軸とa軸の比c/aを測定した。
【0057】
(実施例1)
表1に示す物性の原料チタン酸バリウム(日本化学工業株式会社製)50gを純水450mlに入れた後、配合物として尿素(ナカライテスク株式会社製)及び炭酸バリウム(日本化学工業株式会社製)を原料チタン酸バリウムに対して表1の割合で加えてボールミルで湿式混合した。その後、115℃で乾燥して乾粉とし、チタン酸バリウム、尿素及び炭酸バリウムからなる誘電体セラミック形成用組成物を得た。この組成物を熱重量分析した結果を
図1に示す。この分析結果から、DTG曲線による前記炭酸バリウムの分解温度は582.3℃であった。
上記で得られた誘電体セラミック形成用組成物を大気雰囲気下、表2に示す温度で10時間焼成して焼成後のチタン酸バリウムを得た。得られたチタン酸バリウムの物性値は表2の通りであった。
【0058】
(実施例2)
実施例1と同じ原料チタン酸バリウム50gを純水450mlに入れた後、配合物として尿素(ナカライテスク株式会社製)、クエン酸(ナカライテスク株式会社製)、酒石酸(関東化学株式会社製)及び炭酸バリウム(日本化学工業株式会社製)を原料チタン酸バリウムに対して表1の割合で加えてボールミルで湿式混合した。その後、115℃で乾燥して乾粉とし、チタン酸バリウム、尿素、クエン酸、酒石酸及び炭酸バリウムからなる誘電体セラミック形成用組成物を得た。この組成物を熱重量分析した結果を
図2に示す。この分析結果から、DTG曲線による前記炭酸バリウムの分解温度は562.8℃であった。
上記で得られた誘電体セラミック形成用組成物を実施例1と同じ条件で焼成して焼成後のチタン酸バリウムを得た。得られたチタン酸バリウムの物性値は表2の通りであった。
【0059】
(実施例3)
実施例1と同じ原料チタン酸バリウム50gを純水450mlに入れた後、配合物として尿素(ナカライテスク株式会社製)を原料チタン酸バリウムに対して表1の割合で加えてボールミルで湿式混合した。その後、115℃で乾燥して乾粉とし、チタン酸バリウム及び尿素からなる誘電体セラミック形成用組成物を得た。この組成物を熱重量分析した結果を
図3に示す。この分析結果から、DTG曲線による混合物中のバリウム化合物の分解温度は580.5℃であった。
上記で得られた誘電体セラミック形成用組成物を実施例1と同じ条件で焼成して焼成後のチタン酸バリウムを得た。得られたチタン酸バリウムの物性値は表2の通りであった。
【0060】
(比較例1)
実施例1と同じ原料チタン酸バリウム50gを純水450mlに入れた後、ボールミルで湿式混合した。その後、115℃で乾燥して乾粉とした。この乾粉を熱重量分析した。その結果を
図4に示す。この分析結果から、DTG曲線による乾粉中のバリウム化合物の分解温度は603.8℃であった。また、このチタン酸バリウムを実施例1と同じ条件で焼成して焼成後のチタン酸バリウムを得た。得られたチタン酸バリウムの物性値は表2の通りであった。
【0061】
(比較例2)
実施例1と同じ原料チタン酸バリウム50gを純水450mlに入れた後、炭酸バリウム(日本化学工業株式会社製)を原料チタン酸バリウムに対して表1の割合で加えてボールミルで湿式混合した。その後、115℃で乾燥して乾粉とし、チタン酸バリウム及び炭酸バリウムからなる誘電体セラミック形成用組成物を得た。この組成物を熱重量分析した結果を
図5に示す。この分析結果から、DTG曲線による前記炭酸バリウムの分解温度は596.5℃であった。
上記で得られた誘電体セラミック形成用組成物を実施例1と同じ条件で焼成して焼成後のチタン酸バリウムを得た。得られたチタン酸バリウムの物性値は表2の通りであった。
【0062】
【0063】
【0064】
図6に、縦軸をc/aとし、横軸を比表面積(SSA)として、表2の結果を、プロットしたグラフで示す。なお、
図6中、各実施例及び比較例のプロットは、右から焼成温度が、800℃、850℃、900℃のデータである。
【0065】
以上の結果から、実施例1及び2の誘電体セラミック形成用組成物では、比較例1及び2と比べてチタン酸バリウムは粒成長し難く、粒径が小さく且つ高結晶なものが得られることが判る。また、尿素のみを加えた実施例3は、炭酸バリウムのみを加えた比較例2と比べて、同じ焼成温度で比べるとc/a値が高く、結晶化が促進されていることが判る。