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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】コンクリートの打設方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20240722BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20240722BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240722BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20240722BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240722BHJP
   C04B 40/04 20060101ALI20240722BHJP
   B28B 1/14 20060101ALI20240722BHJP
   E21D 13/02 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
E04G21/02 103A
B28B1/30
C04B28/02
C04B24/38 D
C04B24/26 E
C04B40/04
B28B1/14 Z
E21D13/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021099234
(22)【出願日】2021-06-15
(65)【公開番号】P2022190793
(43)【公開日】2022-12-27
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】向 俊成
(72)【発明者】
【氏名】澤 拓寿
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 雄介
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 良一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢三
(72)【発明者】
【氏名】塩見 尚潔
(72)【発明者】
【氏名】柴田 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】坂井 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】須崎 浩二
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-140468(JP,A)
【文献】特公昭60-031982(JP,B2)
【文献】特開2016-061075(JP,A)
【文献】特開2016-029005(JP,A)
【文献】特開2015-175160(JP,A)
【文献】特開2021-130982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
B28B 1/14,1/30
C04B 24/26,24/38,28/02,40/04
E21D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層側コンクリート体の上に、打重ねによって、上層側コンクリート体を形成するコンクリートの打設方法であって、
凝結遅延剤を含有しない通常コンクリートを打設して、前記下層側コンクリート体の下方寄りの一部を構成する第1の通常コンクリート層を形成する第1の通常コンクリート層打設工程と、
未硬化の前記第1の通常コンクリート層上に、凝結遅延剤を含有する凝結遅延コンクリートを打設して、凝結遅延コンクリート層を形成する凝結遅延コンクリート層打設工程と、
未硬化の前記凝結遅延コンクリート層上に、前記通常コンクリートを打ち重ねて、上層側コンクリート体を形成する第2の通常コンクリート層打設工程と、を含んでなり、
前記第1の通常コンクリート層打設工程と前記凝結遅延コンクリート層打設工程を同一の日に行い、前記第2の通常コンクリート層打設工程を、前記凝結遅延コンクリート層打設工程を行った日の翌日以降に行う、コンクリートの打設方法。
【請求項2】
前記凝結遅延コンクリート層の厚さを、200mm以上とする、
請求項1に記載のコンクリートの打設方法。
【請求項3】
前記凝結遅延コンクリートは、混和剤として、凝結遅延剤と、増粘剤と、高性能AE減水剤と、を含有してなり、
打設後、所定温度下において12時間以上の時間として規定される打重ね時間間隔が経過した時点でのプロクター貫入抵抗値が、0.1N/mm以下となるように、予め行う環境試験の結果に基づいて前記混和剤の配合比が、調整されている、
請求項1又は2に記載のコンクリートの打設方法。
【請求項4】
前記凝結遅延コンクリートに含まれる前記増粘剤の粘度が、2%水溶液で、7500mPa.s以上であり、前記凝結遅延コンクリート中における前記増粘剤の含有量が、0.3kg/m以下である、
請求項3に記載のコンクリートの打設方法。
【請求項5】
前記第2の通常コンクリート層打設工程の実施前に、前記凝結遅延コンクリート層の凝結の進行の程度を確認する、凝結状態確認工程を行う、
請求項1から4の何れかに記載のコンクリートの打設方法。
【請求項6】
前記第2の通常コンクリート層打設工程の実施日に、前記凝結遅延コンクリート層に振動を加える再振動工程を行う、
請求項1から5の何れかに記載のコンクリートの打設方法。
【請求項7】
前記凝結遅延コンクリート層打設工程の完了後、前記凝結遅延コンクリート層の表面に乾燥防止用シートを載置するか、或いは、前記凝結遅延コンクリート層の表面に養生水を散布する、乾燥防止手段付与工程を行う、
請求項1から6の何れかに記載のコンクリートの打設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの打設方法に関する。本発明は、詳しくは、「打重ね」によるコンクリートの打設を行う場合において、後から打ち込む上層側のコンクリートの打設を、下層側のコンクリートの打設後、日を跨いだ翌日以降に行う、コンクリートの打設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浄水場や地下鉄の駅等の大規模地下躯体、或いは、橋梁等の巨大なコンクリート構造物の施工においては、当該コンクリート構造物を複数の層に分けて、各層毎にコンクリートを逐次的に打設していく打設方法が採用されている。
【0003】
上記のように、複数の層に逐次的にコンクリートを打設していく方法は、「打重ね」と「打継ぎ」の2つの打設方法に大別される。前者の「打重ね」とは、先に打ち込んだ下層側のコンクリートの凝結が一定以上に進行する前に、上層側のコンクリートを打ち込んで一体化させる打設方法である。一方、後者の「打継ぎ」とは、先に打ち込んだ下層側のコンクリートが硬化してから、その硬化体の表面に、新たなコンクリートを打ち込む打設方法である。
【0004】
上記の2つの打設方法のうち、「打継ぎ」によるコンクリートの打設方法には、凝結が進行した下層側のコンクリートのレイタンス層(コンクリートの天端に形成される脆弱層)を、高圧水による処理で除去して骨材を露出させる方法と、下層側のコンクリートに打継ぎ処理剤を散布して、上層側に打設するコンクリートとの付着強度を向上させる方法とがある。これらの何れの方法による場合であっても、「打継ぎ」によるコンクリートの打設は、「打重ね」によるコンクリートの打設と比較して、打継ぎ面(打重ね面)の引張強度が弱くなる傾向がある。又、「打継ぎ」によるコンクリートの打設においては、特に、高圧水を用いた方法による場合に大量のアルカリ水が汚水として発生するため、この汚水を処理するための作業の時間と費用が嵩むという問題もあった。
【0005】
そこで、複数層に分けて逐次的にコンクリートを打設していく際、全ての打設作業を「同日」内に完了させることができる場合には、「打継ぎ」よりも「打重ね」によるコンクリートの打設が広く選択されている。尚、「打重ね」によるコンクリートの打設を行う場合には、下層側のコンクリートの凝結時間が外気温及び貫入抵抗値で規定される期限に達する前に上層側のコンクリートを打設する必要がある(特許文献1参照)。コンクリートを打重ねるまでの適正な打重ね時間間隔は、通常、気温25℃以下の施工条件下では2時間30分程度、気温25℃超過の施工条件下では2時間程度の時間間隔が設定されている(土木学会2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]参照)。
【0006】
ここで、「打重ね」によるコンクリートの打設を行う場合において、下層側のコンクリートの打設と上層側のコンクリートの打設作業の時間間隔(本明細書において「打重ね時間間隔」と言う)が、所定の期限を越えてしまった場合には、前後に打設されたコンクリート同士が適切に一体化されず、コールドジョイントと称される継目又は不連続面が生じてしまうことがある。
【0007】
一方で、各々の施工現場においては、周辺環境や1日当たりの材料供給量等に係る様々な制約によって、コンクリートを各層毎に逐次的に打設していく作業を、日を跨いで複数の日に分けて行わざるを得ない場合もある。この場合、上記の「打重ね時間間隔」が、12時間程度以上の長時間となる。そこで、このような日跨ぎの作業による場合にも、上述のコールドジョイント等の不具合を回避しながら、「打重ね」によるコンクリートの打設を行なえるようにすることを企図して、凝結遅延剤と高性能減水剤とを同時に添加することによって、コンクリートの品質を維持したまま、凝結時間をより長時間化することを企図した凝結遅延コンクリートが提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
又、近年では、打重ねによる打設用に用途を特定したコンクリートとして、粘度が特定の低粘度範囲にある増粘剤と凝結遅延剤とを含有する、打重ね用のコンクリートも提案されている(特許文献3)。
【0009】
しかしながら、凝結遅延剤及び高性能AE減水剤は、何れも高価な添加剤であり、これを必須の成分として、多量に含有する特殊なコンクリートで下層側のコンクリート全体を形成することは経済性の点において実際の施工現場への適用は難しく、その普及は、ごく限られた範囲に止まっている。このため、従来、打設作業が日を跨ぎ、打重ね時間間隔が12時間程度以上となる場合には、多くの場合において、上記のように、費用の嵩む「打重ね」ではなく、硬化後の下層側のコンクリートに、新たに、上層側コンクリートを打設する「打継ぎ」による打設方法が採用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-36607号公報
【文献】特公昭60-31982号公報
【文献】特開2016-29005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、複数の層にコンクリートを逐次的に打設していく作業を、日を跨いで複数の日に分けて行う場合においても、「打重ね」によるコンクリートの打設によってコンクリート構造物の品質を良好に維持することができて、尚且つ、経済性にも優れるコンクリートの打設方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、複数の層にコンクリートを逐次的に打設していく作業を、日を跨いで複数の日に分けて行う場合において、先に打設を行う下層側コンクリート体の最上層側の所定深さ以上の一部範囲に、「凝結遅延コンクリート」からなる層を形成する打設方法とすることによって、上記課題を解決することができることに想到し、本発明を完成させるに至った。本発明は具体的には、以下の各方法等を提供する。
【0013】
(1) 下層側コンクリート体の上に、打重ねによって、上層側コンクリート体を形成するコンクリートの打設方法であって、凝結遅延剤を含有しない通常コンクリートを打設して、前記下層側コンクリート体の下方寄りの一部を構成する第1の通常コンクリート層を形成する第1の通常コンクリート層打設工程と、未硬化の前記第1の通常コンクリート層上に、凝結遅延剤を含有する凝結遅延コンクリートを打設して、凝結遅延コンクリート層を形成する凝結遅延コンクリート層打設工程と、未硬化の前記凝結遅延コンクリート層上に、前記通常コンクリートを打ち重ねて、上層側コンクリート体を形成する第2の通常コンクリート層打設工程と、を含んでなり、前記第1の通常コンクリート層打設工程と前記凝結遅延コンクリート層打設工程を同一の日に行い、前記第2の通常コンクリート層打設工程を、前記凝結遅延コンクリート層打設工程を行った日の翌日以降に行う、コンクリートの打設方法。
【0014】
(1)のコンクリートの打設方法によれば、複数の層にコンクリートを逐次的に打設していく作業を、日を跨いで複数の日に分けて行う場合においても、「打重ね」によるコンクリートの打設におけるコンクリート構造物の品質を良好に維持しつつ、コンクリートの打設作業の経済性を向上させることができる。
【0015】
(2) 前記凝結遅延コンクリート層の厚さを、200mm以上とする、(1)に記載のコンクリートの打設方法。
【0016】
(2)のコンクリートの打設方法によれば、(1)のコンクリートの打設方法における、コンクリート構造物の品質をより確実に良好に維持することができる。
【0017】
(3) 前記凝結遅延コンクリートは、混和剤として、凝結遅延剤と、増粘剤と、高性能AE減水剤と、を含有してなり、打設後、所定温度下において12時間以上の時間として規定される打重ね時間間隔が経過した時点でのプロクター貫入抵抗値が、0.1N/mm以下となるように、予め行う環境試験の結果に基づいて前記混和剤の配合比が、調整されている、(1)又は(2)に記載のコンクリートの打設方法。
【0018】
(3)のコンクリートの打設方法によれば、施工現場に搬入される凝結遅延コンクリートの高い品質安定性を維持して、施工現場内でのコンクリートの受け入れのための性能確認試験における不合格率を極めて小さくすることができる。
【0019】
(4) 前記凝結遅延コンクリートに含まれる前記増粘剤の粘度が、2%水溶液で、7500mPa.s以上であり、前記凝結遅延コンクリート中における前記増粘剤の含有量が、0.3kg/m以下である、(3)に記載のコンクリートの打設方法。
【0020】
(4)のコンクリートの打設方法によれば、(3)に記載のコンクリートの打設方法における、凝結遅延コンクリートの配合を、高粘度の増粘剤を少量添加する配合とすることにより、増粘剤がコンクリートの乾燥収縮に与える影響を軽減して、硬化後のコンクリート構造物のひび割れリスクを低減することができる。
【0021】
(5) 前記第2の通常コンクリート層打設工程の実施前に、前記凝結遅延コンクリート層の凝結の進行の程度を確認する、凝結状態確認工程を行う、(1)から(4)の何れかに記載のコンクリートの打設方法。
【0022】
(5)のコンクリートの打設方法によれば、(1)から(4)の何れかに記載のコンクリートの打設方法において、コールドジョイント等の不具合の発生を、より確実に回避することができる。
【0023】
(6) 前記第2の通常コンクリート層打設工程の実施日に、前記凝結遅延コンクリート層に振動を加える再振動工程を行う、(1)から(5)の何れかに記載のコンクリートの打設方法。
【0024】
(6)のコンクリートの打設方法によれば、(1)から(5)の何れかに記載のコンクリートの打設方法において、凝結遅延コンクリート層と、第2の通常コンクリート層とのより強固な一体性をより確実に発現させることができる。
【0025】
(7) 前記凝結遅延コンクリート層打設工程の完了後、前記凝結遅延コンクリート層の表面に乾燥防止用シートを載置するか、或いは、前記凝結遅延コンクリート層の表面に養生水を散布する、乾燥防止手段付与工程を行う、(1)から(6)の何れかに記載のコンクリートの打設方法。
【0026】
(7)のコンクリートの打設方法によれば、(1)から(6)の何れかに記載のコンクリートの打設方法において、12時間以上に及ぶ打ち重ね時間間隔が経過する間に、凝結が不要に進行してしまうことを、より確実に回避することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、複数の層にコンクリートを逐次的に打設していく作業を、日を跨いで複数の日に分けて行う場合においても、「打重ね」によるコンクリートの打設によってコンクリート構造物の品質を良好に維持することができて、尚且つ、経済性にも優れるコンクリートの打設方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の「コンクリートの打設方法」の実施態様の一例の流れを示すフロー図である。
図2】本発明の「コンクリートの打設方法」によって打設が行われたコンクリート構造物の層構成を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。尚、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0030】
<コンクリートの打設方法>
本発明のコンクリートの打設方法(以下、単に、「コンクリートの打設方法」とも言う)は、「打重ね」による各層の打設を、日を跨いで、2日間以上に分けて行う打設方法である。より具体的には、例えば、打設作業の初日(第1日目)に、下層側コンクリート体を形成するコンクリートの打設作業を行い、12時間以上の打重ね時間間隔を経た翌日(第2日目)、若しくはそれ以降の任意の日に、未硬化の下層側コンクリート体の上に、上層側コンクリート体を形成するコンクリートを打ち重ねる打設方法である。
【0031】
「コンクリートの打設方法」を2日間に亘って行う場合、図1に示すように、第1日目の工程ST1内においては、第1の通常コンクリート層打設工程st1及び凝結遅延コンクリート層打設工程st2が最小限の必須の工程として行い、第2日目の工程ST2内においては、第2の通常コンクリート層打設工程st6が最小限の必須の工程として行う。
【0032】
又、これらの最小限の必須の工程に加えて、第1日目の工程ST1内においては、凝結遅延コンクリート層打設工程st2に引き続いて、乾燥防止手段付与工程st3を行うことがより好ましく、又、第2日目の工程ST2内においては、第2の通常コンクリート層打設工程st6に先行して、凝結状態確認工程st4、再振動工程st5を順次行うことがより好ましい。
【0033】
又、「コンクリートの打設方法」は、例えば、第2日目の工程ST2において、第2の通常コンクリート層打設工程st6の後に、第1日目の工程ST1と同様に、通常コンクリート層の上面に凝結遅延コンクリートを打設する凝結遅延コンクリート層打設工程を行い、更に、第3日目に、第2日目の工程ST2と同様に、通常コンクリート層打設工程(第3の通常コンクリート層打設工程)を行う実施態様とすることもできる。これにより、「コンクリートの打設方法」を、3日間に亘る日跨ぎの打重ねによるコンクリートの打設方法として実施することもできる。そして、「コンクリートの打設方法」は、同様にして、4日間以上の任意の日数に亘る日跨ぎの打重ねによるコンクリートの打設方法として実施することもできる。以下においては、本発明のコンクリートの打設を、第1日目と第2日目の2日間分けて実施する場合における「コンクリートの打設方法」の実施態様について、その詳細を説明する。
【0034】
[コンクリート構造物]
図2は、本発明の「コンクリートの打設方法」によって、2日間に亘る打設によって建造されるコンクリート構造物1の層構成を模式的に示す縦断面図である。図2においては、本発明の「コンクリートの打設方法」によって、型枠2内に想定される6つの層(11A、11B、11C、12、11D、11E)に、コンクリートが逐次的に打設されてなるコンクリート構造物1が例示されている。図2に示す、コンクリート構造物1の6つの層のうち、下層側の3つの層が、第1日目に打設される部分である下層側コンクリート体10であり、上層側の3つの層が、第2日目に打設される部分である上層側コンクリート体20である。
【0035】
下層側コンクリート体10は、少なくとも下方寄りの一部を構成する層、好ましくは、最上層以外の各層が、通常コンクリート層(11A、11B)とされている。そして、下層側コンクリート体10においては、これらの通常コンクリート層(11A、11B)以外の最上層のみが、凝結遅延コンクリート層12とされている。一方、上層側コンクリート体20は、全ての層が通常コンクリート層(11D、11E)とされている。
【0036】
凝結遅延コンクリート層12は、適量の凝結遅延剤を含んでなる「凝結遅延コンクリート」によって形成されいて、これに対して、通常コンクリート層(11A、11B、11C、11D、11E)は、凝結遅延剤を含有しない各種の汎用的なコンクリート(本明細書において「通常コンクリート」と称する)によって形成されている。上記の何れのコンクリートも、セメント材としては、低熱ポルトランドセメントの他、普通、中庸熱ポルトランドセメント、各種混合セメントを適宜選択して用いることができるが、品質変動が少ない低熱ポルトランドセメントとすることが好ましい。「凝結遅延コンクリート」の詳細については、別途後述する。
【0037】
コンクリート構造物1における、上記各層(6つの層)のそれぞれの厚さは一例として、概ね500mm程度以内の範囲で各施工現場における個別の施工条件に、応じて適宜決定すればよい。但し、凝結遅延コンクリート層12については、凝結を遅延させてコールドジョイント等の不具合を回避する効果を十分に高い精度で発現させるためには、少なくとも200mm以上とすることが好ましく、500mm以上の厚さとすることがより好ましい。凝結遅延コンクリート層12の厚さが200mm未満であると、凝結遅延コンクリート層12を均一な厚さで形成することが難しくなるばかりでなく、凝結遅延コンクリートが、第1の通常コンクリート層打設工程st1で打設した通常のコンクリートと混合することによって、想定以上の速度で凝結が進行してしまうリスクが高まるからである。
【0038】
本発明の「コンクリートの打設方法」においては、凝結遅延コンクリート層12の厚さを、上記のように品質保持の観点から、200mm以上確保する一方で、経済性の観点から、凝結遅延コンクリート層12の厚さの上限を、第1の通常コンクリート層11の厚さと同一の厚さ、若しくは、それ以下の厚さとすることが好ましい。又、図2に示すように、通常コンクリート層11が逐次的に打設される複数の層(11A、11B)からなる場合には、一つ一つの層(例えば層11A)の厚さと同一の厚さ、若しくは、それ以下の厚さとすることが好ましい。凝結遅延コンクリート層12の厚さを上記範囲内に特定した打設方法とすることによって、高価な添加剤を含む「凝結遅延コンクリート」の使用量を最小限に抑えながら、コンクリート構造物1の品質を良好に維持しつつ、日を跨ぐ打ち重ねを行うことができる。
【0039】
[第1日目の工程]
第1日目の工程ST1においては、第1の通常コンクリート層打設工程st1、凝結遅延コンクリート層打設工程st2、及び、乾燥防止手段付与工程st3が、順次行われる。
【0040】
(第1の通常コンクリート層打設工程)
第1の通常コンクリート層打設工程st1は、凝結遅延剤を含有しない通常コンクリートを打設して、下層側コンクリート体10の下方寄りの一部を構成する第1の通常コンクリート層11(11A、11B)を形成する工程である。
【0041】
(凝結遅延コンクリート層打設工程)
凝結遅延コンクリート層打設工程st2は、未硬化の第1の通常コンクリート層11(11A、11B)上に、凝結遅延剤を含有する「凝結遅延コンクリート」を打設して、層厚さ200mm以上の凝結遅延コンクリート層12を形成する工程である。打設に際しては、下層側コンクリートを形成する通常コンクリート(第1の通常コンクリート層11A、11B)と「凝結遅延コンクリート」とが混合しないように、打設用のコンクリートの吐出口を、型枠に近い部分に設置して、打設を行うことが好ましい。尚、「凝結遅延コンクリート」の詳細については、後述する。
【0042】
(乾燥防止手段付与工程)
乾燥防止手段付与工程st3は、凝結遅延コンクリート層打設工程st2の完了後、凝結遅延コンクリート層12の表面に乾燥防止手段を付与する工程である。乾燥防止手段は具体的には、凝結遅延コンクリート層12の表面への乾燥防止用シートの載置、或いは、同表面への養生水の散布によることができる。通常、各種の混和剤の添加等によってコンクリートの凝結を遅延させると、ブリーディング(コンクリートの硬化過程で表面に浮いてくる水)が増加する傾向があるが、後述するように、凝結遅延コンクリートにおいても、増粘剤を適切な態様で添加することによって、ブリーディングを十分に抑制することもできる。従って、特に、その場合において、12時間以上に及ぶ打重ね時間間隔が経過する間に、コンクリートが乾燥し硬化後の性能が低下してしまうことを回避するために、上述の乾燥防止手段の付与は有効である。
【0043】
[第2日目の工程]
第2日目の工程ST2においては、凝結状態確認工程st4、再振動工程st5、及び、第2の通常コンクリート層打設工程st6が、順次行われる。
【0044】
(凝結状態確認工程)
凝結状態確認工程st4は、上層側コンクリート体20を形成する第2日目の工程ST2の実施日(2日目)において、第2の通常コンクリート層打設工程st6、即ち、第1日目の工程ST1内において打設が行われた凝結遅延コンクリート層12上に通常コンクリートを打ち重ねる工程の実施前に、凝結遅延コンクリート層12の凝結の進行程度を確認する工程である。
【0045】
凝結遅延コンクリート層12の凝結の進行程度を確認するための具体的方法は、特に限定されない。「バイブレータや棒状のものを挿入し、人間の感覚で確認する方法」、「プロクター貫入試験機(JIS A 1147)による方法」、「N式貫入試験による方法」、「T式、S式、K式、ANP式等、各種貫入試験による方法」、「積算温度による方法」、或いは、「超音波伝搬速度による方法」等、従来公知の各種方法によることができる。
【0046】
上記の確認作業を、「プロクター貫入試験機(JIS A 1147)による方法」によって行う場合は、上層側コンクリートを打ち重ねる際における凝結遅延コンクリート層12の貫入抵抗値が、0.1N/mm以下であることを、本発明の「コンクリートの打設方法」によって、通常コンクリートを打ち重ねることが可能であると判定するための基準値として設定することが好ましい。
【0047】
上記確認作業を、「N式貫入試験による方法」によって行う場合は、上層側コンクリートを打ち重ねる際における凝結遅延コンクリート層12の貫入量が、プロクター貫入抵抗試験による貫入抵抗値に換算した場合において、0.1N/mm以下とみなすことができる値を、上記同様の判定を行うための基準値とすることが好ましい。例えば、事前に室内試験を行い、プロクター貫入試験による試験値とN式貫入試験の試験値の関係を取得し、その結果から、適切なプロクター貫入抵抗値(0.1N/mm)に相当する貫入量を基準値として設定すればよい。そのような貫入量の基準値は一例として60mm程度である。
【0048】
尚、例えば、作業現場周辺の天候の急変や突発的な事故等に起因して、凝結状態確認工程st4において、万一、凝結遅延コンクリート層12の凝結が上記の基準値を超えて進行していて、通常コンクリートを打ち重ねることが不可能、或いは、コンクリート構造物の品質保持上不適切であると判定された場合には、凝結遅延コンクリート層12の表面に打継ぎ処理剤を散布して、「打継ぎ」によるコンクリートの打設を行う工法に変更することによって、コンクリート構造物1の品質を維持することも可能である。
【0049】
(再振動工程)
再振動工程st5は、第2の通常コンクリート層打設工程st6の実施日に、凝結遅延コンクリート層12に振動を加える工程である。再振動工程st5は、例えば、第2の通常コンクリート層打設工程st6を行う前に、凝結遅延コンクリート層12にバイブレータを挿入して、「凝結遅延コンクリート」の表面を流動化させる方法によることができる。これにより、凝結遅延コンクリート層12と、第2の通常コンクリート層11Cとのより強固な一体性がより確実に発現する。尚、この場合、バイブレータの挿入深さは、凝結遅延コンクリート層12の表面近傍域までで足りる。例えば、凝結遅延コンクリート層12の厚さが500mmであれば、バイブレータの挿入深さは、100mm以上300mm以下程度、好ましくは100mm以上200mm以下程度の深さでよい。尚、再振動はバイブレータによる上記方法以外に、型枠振動機等の外部振動機による方法、埋設振動材による方法とすることもできる。
【0050】
(第2の通常コンクリート層打設工程)
第2の通常コンクリート層打設工程st6は、未硬化の凝結遅延コンクリート層12上に、第1の通常コンクリート層打設工程st1と同様に、凝結遅延剤を含有しない通常コンクリートを打ち重ねて、上層側コンクリート体20を形成する工程である。この工程におけるコンクリート構造物1の天端の仕上げ、養生、脱型等は通常のコンクリート構造物の打設作業時と同様に実施する。
【0051】
本発明の「コンクリートの打設方法」はスラブ構造物、杭、壁、梁、柱にも適用可能である。特に、スラブや大口径深礎杭等への適用により、工期の短縮と打継目の削減が可能であり、従来工法に対する特段の優位性を発揮する。
【0052】
[凝結遅延コンクリート]
本発明の「コンクリートの打設方法」に用いる「凝結遅延コンクリート」には、練混ぜから12時間以上、好ましくは、24時間以上の時間の経過後まで流動可能なフレッシュ性状(柔らかい状態)を保つことが求められる。又、硬化が遅くなることでブリーディング(コンクリートの硬化過程で表面に浮いてくる水)が増加し、鉄筋の下にブリーディングが溜まってコンクリートと鉄筋の付着が妨げられる恐れがあるため、ブリーディングの発生量も普通コンクリートと同程度に抑制する必要がある。尚、「凝結遅延コンクリート」は、「通常コンクリート」と同様に施工し、本設躯体として使用するため、「通常コンクリート」と同様のフレッシュ性状、硬化性状を満たす必要がある。表1及び表2に、そのような要件を満たしえるコンクリートであって、本発明の「コンクリートの打設方法」において好適に用いることができる「通常コンクリート」及び「凝結遅延コンクリート」の配合の具体例を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1、2に示す凝結遅延コンクリートについて練り混ぜ後、24時間経過後に「プロクター貫入試験機(JIS A 1147)による方法」によって測定したプロクター貫入抵抗値は、0.02N/mmであった。尚、測定は、環境温度10℃の試験室にて実施した。
【0056】
「凝結遅延コンクリート」において、結合材として用いるセメント材は、水硬性又は潜在水硬性を有するものであれば特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントを適宜選択して用いることができる。上述の通り、これらの中でも、品質変動が少ない低熱ポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0057】
「凝結遅延コンクリート」は、打設後、所定温度下において12時間以上の時間として規定される打重ね時間間隔が経過した時点での流動性等の性状が、打重ねが可能な程度に維持されているものであれば、特定の組成からなるものに限定はされない。但し、「凝結遅延コンクリート」は、混和剤として、凝結遅延剤と、増粘剤と、高性能AE減水剤と、を含有してなるものであり、尚且つ、打設後、所定温度下において12時間以上の時間として規定される打重ね時間間隔が経過した時点でのプロクター貫入抵抗値が、0.1N/mm以下となるように、予め行う環境試験の結果に基づいて混和剤の配合比が、調整されているものであることが好ましい。
【0058】
「凝結遅延コンクリート」に、混和剤として添加する凝結遅延剤としては、変性リグニンスルホン酸とオキシカルボン酸化合物の複合体を主成分として含有する凝結遅延剤を好ましい凝結遅延剤として挙げることできるが、特にこれに限らず、その他、リグニンスルホン酸塩、オキシカルボン酸塩、糖類誘導体を主成分とするものを適宜選択して用いることができる。
【0059】
「凝結遅延コンクリート」に、混和剤として添加する増粘剤としては、水溶性セルロースエーテルの一種であるHPMCを主成分とする増粘剤等、公知の増粘剤を適宜選択して用いることができる。但し、本発明の「コンクリートの打設方法」においては、粘度が、2%水溶液で、7500mPa.s以上の高粘度の増粘剤を選択して、凝結遅延コンクリート中における当該増粘剤の含有量を0.3kg/m以下とすることがより好ましい。例えば、特許文献3に開示されている「打重ね用のコンクリート」は、低粘度の増粘剤を大量(1.0kg/m~0.7kg/m)に使用しているが、セルロース系増粘剤を大量(0.4kg/m以上)使用した場合、コンクリートの乾燥収縮量が増大して硬化後のコンクリート構造物のひび割れリスクが高くなることが分かっている(「コンクリート工学年次論文報告集Vel.17,No.11995 論文 増粘剤を添加した高流動コンクリートの乾燥収縮低減に関する実験的研究/佐原晴也・竹下治之」参照)。上述したように、高粘度の増粘剤を少量(0.3kg/m)添加する配合とすることにより、増粘剤がコンクリートの乾燥収縮に与える影響を軽減することができ、構造物に適用した際にコンクリートのひび割れリスクを低減することができる。尚、表1に記載のセルロース系の増粘剤は、粘度が、2%水溶液で、7500mPa.s以上である高粘度の増粘剤である。
【0060】
又、「凝結遅延コンクリート」は、凝結遅延剤と、増粘剤、及び、高性能AE減水剤の他に、必要に応じて、その他の混和剤として、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤を含むものとすることができる。
【0061】
「凝結遅延コンクリート」の製造における、凝結遅延剤と増粘剤の添加は、両混和剤をミキサーに投入して、コンクリート練混ぜ時に添加することも、片方又は両方をアジテータ車の上部から投入して高速攪拌する後添加でも行うこともできる。「凝結遅延コンクリート」の運搬は、アジテータ車と、コンクリートポンプの他、バケットやベルコン等によることもできる。
【符号の説明】
【0062】
1 コンクリート構造物
11(11A~11E) 通常コンクリート層
12 凝結遅延コンクリート層
2 型枠
10 下層側コンクリート体
20 上層側コンクリート体
ST1 第1日目の工程
st1 第1の通常コンクリート層打設工程
st2 凝結遅延コンクリート層打設工程
st3 乾燥防止手段付与工程
ST2 第2日目の工程
st4 凝結状態確認工程
st5 再振動工程
st6 第2の通常コンクリート層打設工程
図1
図2