(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】作業機の情報収集システム
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20240722BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
E02F9/20 Z
E02F9/26 Z
(21)【出願番号】P 2021102237
(22)【出願日】2021-06-21
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤本 光一
(72)【発明者】
【氏名】池田 亮
(72)【発明者】
【氏名】三浦 敬典
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-045144(JP,A)
【文献】国際公開第2021/060533(WO,A1)
【文献】特開2017-160600(JP,A)
【文献】特開2020-149413(JP,A)
【文献】特開2009-137763(JP,A)
【文献】特開2020-052592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
E02F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
稼動部を有する作業機とサーバとを通信可能に接続した作業機の情報収集システムであって、
前記作業機は、
前記稼動部の稼動状態に応じた稼動データを出力する稼動データ出力部と、
前記稼動データ出力部が出力する稼動データを前記サーバに送信するか否かの判定を行うための判定条件に、前記稼動データが適合しているか否かを判定する判定部と、
前記稼動データが判定条件に適合していると前記判定部が判定した場合、前記サーバに前記稼動データを送信する第1通信部と、を備え
、
前記サーバは、
前記第1通信部から送信された稼動データに基づいて、前記作業機の診断用に収集すべき稼動データである収集データを決定する収集決定部と、
前記収集決定部で決定された収集データの送信を要求する要求信号を前記作業機に送信する第2通信部と、を含み、
前記第1通信部は、前記要求信号を受信した場合、前記要求信号に対応する収集データを前記サーバに送信する、作業機の情報収集システム。
【請求項2】
前記サーバは、前記収集データに基づいて、前記稼動部の状態を診断する診断部を備えている請求項
1に記載の作業機の情報収集システム。
【請求項3】
稼動部を有する作業機とサーバとを通信可能に接続した作業機の情報収集システムであって、
前記作業機は、
前記稼動部の稼動状態に応じた稼動データを出力する稼動データ出力部と、
前記稼動データ出力部が出力する稼動データを前記サーバに送信するか否かの判定を行うための判定条件に、前記稼動データが適合しているか否かを判定する判定部と、
前記稼動データが判定条件に適合していると前記判定部が判定した場合、前記サーバに前記稼動データを送信する第1通信部と、を備え、
前記作業機は、
警告を行うか否かの判断を行うための第1判断条件に前記稼動データが適合しているか否かを判断する第1判断部と、
前記第1判断部が適合していると判断したとき、警告を発生する警告部とを有し、
前記判定部は第2判断部であり、
前記判定条件は第2判断条件であり、
前記第1判断条件は、前記稼動データに含まれる信号の状態を判断する第1閾値を含み、
前記第2判断条件は、前記稼動データに含まれる信号の状態を判断する閾値であって前記第1閾値よりも閾値が高い第2閾値を含んでいる
、作業機の情報収集システム。
【請求項4】
稼動部を有する作業機とサーバとを通信可能に接続した作業機の情報収集システムであって、
前記作業機は、
前記稼動部の稼動状態に応じた稼動データを出力する稼動データ出力部と、
前記稼動データ出力部が出力する稼動データを前記サーバに送信するか否かの判定を行うための判定条件に、前記稼動データが適合しているか否かを判定する判定部と、
前記稼動データが判定条件に適合していると前記判定部が判定した場合、前記サーバに前記稼動データを送信する第1通信部と、を備え、
前記作業機は、
警告を行うか否かの判断を行うための第1判断条件に前記稼動データが適合しているか否かを判断する第1判断部と、
前記第1判断部が適合していると判断したとき、警告を発生する警告部とを有し、
前記判定部は第2判断部であり、
前記判定条件は第2判断条件であり、
前記第1判断条件は、前記稼動データに含まれる信号の状態を判断する第1閾値を含み、
前記第2判断条件は、前記稼動データに含まれる信号の状態を判断する閾値であって前記第1閾値よりも閾値が低い第2閾値を含んでいる
、作業機の情報収集システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機の情報収集システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バックホー等の作業機の故障を診断するために、作業機とサーバとを通信可能に接続した故障診断システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようなシステムでは、サーバは、稼動データを作業機から吸い上げ、吸い上げた稼動データに基づいて故障の診断を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシステムでは、作業機側からサーバに対して多くのデータが送信されると、通信トラフィックが増加し、作業機の通信装置にも負荷がかかる。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、作業機を診断する際の情報収集に係る通信トラフィックを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この技術的課題を解決するための本発明の技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。
【0007】
作業機の情報収集システムは、稼動部を有する作業機とサーバとを通信可能に接続した作業機の情報収集システムであって、前記作業機は、前記稼動部の稼動状態に応じた稼動データを出力する稼動データ出力部と、前記稼動データ出力部が出力する稼動データを前記サーバに送信するか否かの判定を行うための判定条件に、前記稼動データが適合しているか否かを判定する判定部と、前記稼動データが判定条件に適合していると前記判定部が判定した場合、前記サーバに前記稼動データを送信する第1通信部と、を備えている。
【0008】
前記サーバは、前記通信部から送信された稼動データに基づいて、前記作業機の診断用に収集すべき収集データを決定する収集決定部と、前記収集決定部で決定された収集データの送信を要求する要求信号を前記作業機に送信する第2通信部と、を含み、前記第1通信部は、前記要求信号を受信した場合、前記要求信号に対応する収集データを前記サーバに送信する。
【0009】
前記サーバは、前記収集データに基づいて、前記稼動部の状態を診断する診断部を備えている。
【0010】
前記作業機は、警告を行うか否かの判断を行うための第1判断条件に前記稼動データが適合しているか否かを判断する第1判断部と、前記第1判断部が適合していると判断したとき、警告を発生する警告部とを有し、前記判定部は第2判断部であり、前記判定条件は第2判断条件であり、前記第1判断条件は、前記稼動データに含まれる信号の状態を判断する第1閾値を含み、前記第2判断条件は、前記稼動データに含まれる信号の状態を判断する閾値であって前記第1閾値よりも閾値が高い第2閾値を含んでいる。
【0011】
前記作業機は、警告を行うか否かの判断を行うための第1判断条件に前記稼動データが適合しているか否かを判断する第1判断部と、前記第1判断部が適合していると判断したとき、警告を発生する警告部とを有し、前記判定部は第2判断部であり、前記判定条件は第2判断条件であり、前記第1判断条件は、前記稼動データに含まれる信号の状態を判断する第1閾値を含み、前記第2判断条件は、前記稼動データに含まれる信号の状態を判断する閾値であって前記第1閾値よりも閾値が低い第2閾値を含んでいる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、作業機を診断する際の情報収集に係る通信トラフィックを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】作業機の情報収集システムの全体図を示したものである。
【
図2】作業機の情報収集システムのブロック図を示したものである。
【
図6】収集データ、判断値及び診断結果の一例を示す図である。
【
図7】本実施形態の特徴的な処理動作について説明するフローチャートである(その1)。
【
図8】本実施形態の特徴的な処理動作について説明するフローチャートである(その2)。
【
図9】本実施形態の特徴的な処理動作について説明するフローチャートである(その3)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態による作業機の情報収集システムを説明する。
【0015】
本システムは、例えば、バックホーの作業機における故障を診断するために用いられるものである。まず、本システムを作業機の構成と合わせて説明する。
【0016】
図11は、作業機の一例を示したものである。
図11に示すように、作業機(バックホー)1は、下部の走行装置2と、上部の旋回体3とを備えている。走行装置2は、ゴム製覆帯を有する左右一対の走行体4を備え、両走行体4を走行モータMで駆動するようにしたクローラ式走行装置が採用されている。また、該走行装置2の前部にはドーザ5が設けられている。
【0017】
旋回体3は、走行装置2上に旋回ベアリング11を介して上下方向の旋回軸回りに左右旋回自在に支持された旋回台12と、該旋回台12の前部に備えられた作業装置13(掘削装置)とを有している。旋回台12上には、エンジン,ラジエータ,運転席9,燃料タンク,作動油タンク等が設けられている。運転席9の周囲には、作業機1に関する様々な情報を表示する表示装置25が設けられている。運転席9は、旋回台12上に設けられたキャビン14により囲まれている。
【0018】
作業装置13は、旋回台12の前部に左右方向の中央部よりやや右寄りにオフセットして設けられた支持ブラケット16に上下方向の軸心回りに左右揺動自在に支持されたスイングブラケット17と、該スイングブラケット17に基部側を左右方向の軸心廻りに回動自在に枢着されて上下揺動自在に支持されたブーム18と、該ブーム18の先端側に左右方向の軸心廻りに回動自在に枢着されて前後揺動自在に支持されたアーム19と、該アーム19の先端側にスクイ・ダンプ動作可能に設けられたバケット20とを備えている。
【0019】
スイングブラケット17は、旋回台12内に備えられたスイングシリンダの伸縮によって揺動され、ブーム18は、該ブーム18とスイングブラケット17との間に介装されたブームシリンダ22の伸縮によって揺動され、アーム19は、該アーム19とブーム18との間に介装されたアームシリンダ23の伸縮によって揺動され、バケット20は、該バケット20とアーム19との間に介装されたバケットシリンダ21の伸縮によってスクイ・ダンプ動作される。
【0020】
図10は、作業機の構成を示すブロック図である。
図10に示すように、作業機1は、制御装置100を備えている。制御装置100は、作業機の様々な制御を行う。制御装置100は、バケットシリンダ21、ブームシリンダ22、アームシリンダ23等の油圧アクチュエータを作動させる制御弁90、例えば、3位置切換電磁弁に制御信号を出力することによって、制御弁90を切り換えることによって、油圧アクチュエータを作動させる。また、制御装置100は、作業灯91に制御信号を出力することによって、当該作業灯91を点灯、点滅、消灯等の照明制御を行う。
【0021】
制御装置100には、複数のセンサ101~106が接続されている。センサ101は、油圧ポンプP1から吐出した作動油の圧力、即ち、油圧ポンプP1の出力を測定する。センサ102は、原動機92の出力、即ち、原動機92の回転数を測定する。センサ103は、作動油の温度(油温)を測定する。センサ104は、ベアリング(軸受)、ギア等の潤滑油の量を測定する。センサ105は、軸受けの近傍、又は、軸受けを支持するハウジング等に設けられ当該軸受けの加速度等を測定する。センサ106は、バッテリ等の蓄電池の電圧、即ち、蓄電容量を測定する。
【0022】
図1は、作業機の情報収集システムの全体図を示したものである。
図1に示すように、作業機の情報収集システムは、データ収集装置30と、サーバ40と、を備えている。
【0023】
データ収集装置30は、作業機1に搭載されていて、作業機1の稼動部が稼動したときの稼動データを収集して、収集した稼動データをサーバ40に送信したり、サーバ40から送信されてくるデータを受信したりする。ここで、作業機1には、様々な機器等が搭載されているが、稼動する機器全般のことを稼動部という。稼働部は、例えば、作業灯91、油圧ポンプP1、原動機92、軸受け(ベアリング)、油圧アクチュエータ、制御弁90、バッテリ等である。なお、上述した稼働部は、一例であり、限定されない。稼動部の稼動状態に応じた稼動データは、具体的には、稼動部における物理量を示すデータである。当該データとしては、例えば、稼動部に発生する振動を示す値、稼動部が発する音響を示す値、稼動部の所定箇所を流れる電流値、電圧などが挙げられる。
【0024】
物理量を示すデータ以外のデータも稼動データである。例えば、作動油の温度、作業機1の運転積算時間(アワメータ)、水温を示すデータも稼動データである。また、稼動データには、作業機を販売した販売会社、作業機を所有する顧客名、顧客の連絡先、メンテナンス契約の有無、担当者等の販売管理データが含まれていてもよい。データ収集装置30は、サーバ40側の要求に応じて、収集すべき稼動データ、即ち、収集データをサーバ40に送信する。
【0025】
サーバ40は、作業機1の保守点検等に関する様々なデータを記憶すると共に当該データの処理を行うものである。サーバ40は、データ収集装置30にデータを要求したり、データ収集装置30から送られてくるデータを受け付けたりする。このように、作業機の情報収集システムでは、データ収集装置30及びサーバ40の相互間で様々なデータのやりとりを行うことによって、作業機1の保守点検等の管理を行うことができる。
【0026】
以下、作業機の情報収集システムについて、作業機1を例にとり詳しく説明する。
【0027】
図2は、作業機の情報収集システムのブロック図を示したものである。
図2に示すように、データ収集装置30は、作業機1に搭載されて、当該作業機1に設けられた車載ネットワークに接続されている。この車載ネットワークは、例えば、CAN、LIN、FlexRayなどであって、当該車載ネットワークには、作業機1が稼動したときの様々な信号(データ)が流れている。データ収集装置30は、作業機1が稼動した際に、車載ネットワークに流れる様々なデータを収集して、収集したデータを記憶する。
【0028】
詳しくは、データ収集装置30は、稼動データ出力部31と、第1判断部32と、第2判断部33(判定部)と、第1通信部34と、を備えている。
【0029】
稼動データ出力部31は、稼動部の稼動状態に応じた稼動データを出力する。例えば、稼動データ出力部31は、油圧ポンプP1の作動中に、センサ101の出力結果に基づいて、油圧ポンプP1の稼働状態に応じた稼働データを出力する。また例えば、稼動データ出力部31は、作業機1の走行中に、センサ105の出力に基づいて、軸受けの稼働状態に応じた稼働データを出力する。また例えば、作業灯91を点灯させるスイッチがオンされたとき、制御装置100から作業灯91に出力される制御信号に基づいて、作業灯91の稼働状態に応じた稼働データを出力する。
【0030】
第1判断部32は、警告を行うか否かの判断を行う第1判断条件に、稼動部が稼動したときの稼動データが適合しているか否かを判断する。ここでの警告は、例えば作業機1の運転席に設けた図示しない警告灯を点灯したり、警報を鳴らしたりすることで行われる。第1判断条件は、第1閾値を用いて設定することができ、例えば、稼動データに含まれる物理量が第1閾値以下となったとき(又は第1閾値以上となったとき)に、警告を行うようにしてもよい。
【0031】
第2判断部33は、稼動データ出力部31が出力する稼動データをサーバ40に送信するか否かの判定を行うための判定条件(第2判断条件)に、稼動データが適合しているか否かを判定する。第2判断条件は、警告を行うか否かに用いる第1閾値よりも緩めの第2閾値を用いて設定することができる。
【0032】
図3及び
図4は、閾値判定の一例を示す説明図である。例えば、
図3に示すように、稼動データに含まれる物理量が第1閾値以下となったときに警告を行う場合には、稼動データに含まれる物理量が第1閾値よりも高い第2閾値を下回ったか否かを判定し、稼動データに含まれる物理量が警告を実行する前の第2閾値を下回ったときに、稼動データをサーバ40に送信することを決定する。
【0033】
また、
図4に示すように、稼動データに含まれる物理量が第1閾値以上となったときに警告を行う場合には、稼動データに含まれる物理量が第1閾値よりも低い第2閾値を上回ったか否かを判定し、稼動データに含まれる物理量が警告を実行する前の第2閾値を上回ったときに、稼動データをサーバ40に送信することを決定する。
【0034】
つまり、第2判断条件は、稼動データに含まれる物理量が警告に相当する値に達しているか否かを判断する条件であり、警告を発生するか否かを判断するための第1判断条件(第1閾値)に比べると、緩めの第2閾値により判定する条件である。言い換えれば、第2判断条件は、稼動データに含まれる物理量が警告に相当する第1判断条件に近づいていることを把握するための条件である。なお、第1判断条件(第1閾値)を100%(1.0)とした場合、例えば、第2判断条件(第2閾値)は、第1判断条件(第1閾値)を基準として±20%(第1閾値未満~第1閾値の80%(0.8)、第1閾値超~第1閾値の120%(1.2)に設定される。上述した第2閾値は、一例であり、限定されない。
【0035】
第1通信部34は、サーバ40と無線通信を行うものであって、通信装置で構成されている。第1通信部34は、稼動データに含まれる物理量が第2判断条件(第2閾値)に適合していると第2判断部33が判定した場合、すなわち、稼動データに含まれる物理量が警告に相当する第1判断条件(第1閾値)に近づいている場合、サーバ40に稼動データ(第1稼動データ)を送信する。第1通信部34は、サーバ40から後述する要求信号を受信した場合、この要求信号に対応する収集データ(第2稼動データ)をサーバ40に送信する。ここで、閾値(第1閾値、第2閾値)は稼動部ごとに異なっていてよい。
【0036】
第1通信部34は、稼動データや収集データをサーバ40に送信する際は、作業機1を識別するための機械識別情報もサーバ40に送信する。これにより、稼動データや収集データと、機械識別情報とが対応付けられるため、稼動データや収集データがどの作業機1に対応しているかを把握することができる。
【0037】
サーバ40は、診断用データベース41を備えている。診断用データベース41は、稼動データに収集データを対応付けたデータの集合である。
【0038】
図5は、診断用データベース41の一例を示す図である。診断用データベース41は、作業機1(第1通信部34)から送信された稼動データ、即ち、第2判断条件に適合してサーバ40に送信された稼動データ(第1稼動データという)に対して、サーバ40から作業機1(第1通信部34)に対して要求する稼動データ(第2稼動データ)を決定するためのテーブルを含んでいる。つまり、診断用データベース41は、作業機1の第1通信部34から送信された稼動データ(第1稼動データ)と、作業機1の診断に最低限必要な情報を収集すべき収集データ(第2稼動データ)との関係を示すテーブルを含んでいる。
【0039】
例えば、
図5に示すように、第1稼動データが油圧ポンプP1の出力である場合、第2稼動データは、油圧ポンプの吐出側の圧力センサ値(センサ101が検出した値)、原動機回転数(センサ102が検出した値)、油温(センサ103が検出した値)であることを示している。
【0040】
また、第1稼動データが振動である場合、第2稼動データは、原動機回転数、アワメータ、油圧ポンプP1の出力、潤滑油の量(センサ104が検出した値)、軸受けの加速度(センサ105が検出した値)であることを示している。
【0041】
さらに、第1稼動データが作業灯91の電圧である場合、第2稼動データは、制御装置100の入力電圧、出力電圧、蓄電池(バッテリ)の電圧であることを示している。なお、
図5に示した第1稼動データ及び、第2稼動データは一例であり限定されない。
【0042】
サーバ40は、さらに、収集決定部42と、第2通信部43と、診断部44と、を備えている。収集決定部42は、作業機1の第1通信部34から送信された稼動データ(第1稼動データ)に基づいて、作業機1の診断に最低限必要な情報を収集すべき稼動データである収集データ(第2稼動データ)として決定する。収集決定部42は、サーバ40が第1稼動データを受信(取得)した場合、診断用データベース41を参照し、収集データを決定する。例えば、
図5に示したように、第1稼動データが油圧ポンプP1の出力である場合、収集決定部42は、圧力センサ値、原動機回転数、油温を収集データであると決定する。また、第1稼動データが振動である場合、収集決定部42は、原動機回転数、アワメータ、油圧ポンプP1の出力、潤滑油の量、軸受けの加速度を収集データであると決定する。さらに、第1稼動データが作業灯91の電圧である場合、収集決定部42は、制御装置100の入力電圧、出力電圧、蓄電池(バッテリ)の電圧を収集データであると決定する。
【0043】
第2通信部43は、データ通信網などによりデータ収集装置30との間で無線通信を行い、収集決定部42で決定された収集データの送信を要求する要求信号をデータ収集装置30に送信したり、第1通信部34から送信される稼動データを受信したりする。そして、データ収集装置30が備える第1通信部34は、前記要求信号を受信した場合、要求信号に対応する収集データをサーバ40に送信する。
【0044】
診断部44は、データ収集装置30側から送られてきた収集データに基づいて、所定の診断ロジック(アルゴリズム)に従って、稼動部の状態を診断する。診断部44は、収集データを参照し、収集データが予め設定された診断値を満たしているか否かによって、稼働部の状態を判断する。
【0045】
図6は、収集データ、判断値及び診断結果の一例を示している。
図6に示す「〇」は、収集データが判断値を満たしていることを示し、「×」は、収集データが判断値を満たしていないことを示している。なお、判定値は、収集データ毎に定められている。
【0046】
図6に示すように、収集データが圧力センサ値、原動機回転数、油温である場合、診断部44は、圧力センサ値、原動機回転数、油温がそれぞれ判断値を満たしているか否かを判定する。診断部44は、圧力センサ値が判断値以上であって正常に動作している場合、原動機回転数が油圧ポンプP1を稼動させることが可能な回転数(判断値)以上である場合、油温が判断値以上(例えば、-10度以上)であり作動油の粘性が低い場合は、判断値を満たしているため、油圧ポンプP1が異常であると診断する。一方、診断部44は、圧力センサ値が判断値未満である場合、センサが異常であると診断し、油温が判断値未満である場合、作動油の粘性が高い、即ち、作動油が低温であると診断し、原動機回転数が判断値未満である場合、原動機回転数の低下であると診断する。
【0047】
また、収集データが原動機回転数、アワメータ、油圧ポンプの出力、潤滑油の量、軸受けの加速度である場合、診断部44は、原動機回転数、アワメータ、油圧ポンプの出力、潤滑油の量、軸受けの加速度がそれぞれ判断値を満たしているか否かを判定する。診断部44は、原動機回転数が判断値以上である場合、アワメータの値が判断値以上である場合、油圧ポンプの出力が判断値以上である場合、潤滑油の量が判断値以上であり、且つ、軸受けの加速度のみが判断値以上(加速度が大きい)場合は、軸受けの異常であると診断する。一方、診断部44は、潤滑油の量が判断値未満である場合、潤滑油不足と診断し、アワメータが判断値以上である場合、経年劣化であると診断する。
【0048】
さらに、収集データが制御装置100の入力電圧、出力電圧、バッテリの電圧である場合、診断部44は、入力電圧、出力電圧、バッテリの電圧がそれぞれ判断値を満たしているか否かを判定する。診断部44は、入力電圧が判断値以上であり制御装置100が正常に動作可能な電圧である場合、出力電圧が判断値以上であり制御装置100からの出力が正常である電圧である場合、作業灯91の異常であると判断する。一方、診断部44は、入力電圧が判断値未満であり制御装置100が正常に動作できない電圧である場合、制御装置100の入力電圧が異常であると診断し、出力電圧が判断値未満であり制御装置100からの出力が異常な電圧である場合、制御装置100の出力電圧が異常であると診断し、バッテリの電圧が判断値以下である場合、バッテリ電圧の低下であると診断する。
【0049】
次に、
図7のフローチャートを参照して、稼動部が油圧ポンプP1の場合について、本実施形態の特徴的な処理動作について説明する。
【0050】
まず、エンジンが始動されて作業機1が駆動されると、データ収集装置30が備える第1判断部32は、警告を行うか否かの判断を行う第1判断条件に、第1稼動データである油圧ポンプP1の出力値が適合しているか否かを判断する。ここでは、第1稼動データである油圧ポンプP1の出力値が第1閾値以下であるか否かを基準として、警告を行うかどうかの判断が行われる(S1)。
【0051】
油圧ポンプP1の出力値が第1閾値以下であった場合(S1におけるYes)、すなわち、第1判断条件に適合している場合、例えば作業機1の運転席に設けた図示しない警告灯を点灯したり、ブザーを鳴らしたりすることで警告が行われる(S2)。これにより、作業機1を操作する作業者は、視覚や聴覚によって、油圧ポンプP1の異常を知ることができる。
【0052】
続いて、データ収集装置30が備える第2判断部33は、油圧ポンプP1の出力値をサーバ40に送信するか否かの判断を行う第2判断条件に、油圧ポンプP1の出力値が適合しているか否か判断する。ここでは、油圧ポンプP1の出力値が第1閾値よりも高い第2閾値以下であるか否かを基準として、サーバ40に送信するかどうかの判断が行われる(S3)。ステップS1でNoと判断された場合、同様にステップS3へ進み、油圧ポンプP1の出力値が第2判断条件に適合しているか判断される。
【0053】
この判断の結果に応じて、油圧ポンプP1の出力値をサーバ40に送信するべきという判断の場合(S3におけるYes)、すなわち、第2判断条件に適合している場合、データ収集装置30が備える第1通信部34は、油圧ポンプP1の出力値をサーバ40に送信する処理を行う(S4)。なお、ステップS3でNoと判断された場合、処理動作は終了することになる。また、作業機1側に異常が無い場合、ステップS3でNoと判断されて終了することになる。
【0054】
続いて、サーバ40側では、作業機1から送信された稼動データを基に、所定のテーブルを参照して、収集決定部42が診断に必要な第2稼動データである収集データ(圧力センサ値、原動機回転数、油温)を決定する(S5)。そして、第2通信部43は、その決定に基づいて、データ収集装置30に対して収集データ(圧力センサ値、原動機回転数、油温)を要求する要求信号を送信する(S6)。そして、データ収集装置30側では、第1通信部34は、要求信号を受信したら、要求信号にて要求された収集データ(圧力センサ値、原動機回転数、油温)をサーバ40に送信する(S7)。
【0055】
このように、送信された稼動データに基づいて診断に必要な収集データが決定され、この決定に基づいて収集データを要求する要求信号を送信することにより、サーバ40側が収集すべきデータを絞り込むことができ、むやみに多数のデータがデータ収集装置30側からサーバ40側に送信されることを抑制できる。
【0056】
サーバ40が備える診断部44は、データ収集装置30側から送られてきた収集データ(圧力センサ値、原動機回転数、油温)に基づいて、油圧ポンプP1の状態を診断する(S8)。
【0057】
次に、
図8のフローチャートを参照して、稼動部が軸受けの場合について説明する。
【0058】
まず、エンジンが始動されて作業機1が駆動されると、データ収集装置30が備える第1判断部32は、警告を行うか否かの判断を行う第1判断条件に、第1稼動データである軸受けの振動値が適合しているか否かを判断する。ここでは、第1稼動データである軸受けの振動値が第1閾値以下であるか否かを基準として、警告を行うかどうかの判断が行われる(S11)。軸受けの振動値が第1閾値以下であった場合(S11におけるYes)、すなわち、第1判断条件に適合している場合、例えば作業機1の運転席に設けた図示しない警告灯を点灯したり、ブザーを鳴らしたりすることで警告が行われる(S12)。これにより、作業機1を操作する作業者は、視覚や聴覚によって、軸受けの異常を知ることができる。
【0059】
続いて、データ収集装置30が備える第2判断部33は、軸受けの振動値をサーバ40に送信するか否かの判断を行う第2判断条件に、軸受けの振動値が適合しているか否か判断する。ここでは、軸受けの振動値が第1閾値よりも高い第2閾値以下であるか否かを基準として、サーバ40に送信するかどうかの判断が行われる(S13)。ステップS11でNoと判断された場合、同様にステップS13へ進み、軸受けの振動値が第2判断条件に適合しているか判断される。
【0060】
この判断の結果に応じて、軸受けの振動値をサーバ40に送信するべきという判断の場合(S13におけるYes)、すなわち、第2判断条件に適合している場合、データ収集装置30が備える第1通信部34は、軸受けの振動値をサーバ40に送信する処理を行う(S14)。なお、ステップS13でNoと判断された場合、処理動作は終了することになる。また、作業機1側に異常が無い場合、ステップS13でNoと判断されて終了することになる。
【0061】
続いて、サーバ40側では、作業機1から送信された稼動データを基に、所定のテーブルを参照して、収集決定部42が診断に必要な第2稼動データである収集データ(原動機回転数、アワメータ、油圧ポンプP1の出力、潤滑油の量、軸受けの加速度)を決定する(S15)。そして、第2通信部43は、その決定に基づいて、データ収集装置30に対して収集データ(原動機回転数、アワメータ、油圧ポンプP1の出力、潤滑油の量、軸受けの加速度)を要求する要求信号を送信する(S16)。そして、データ収集装置30側では、第1通信部34は、要求信号を受信したら、要求信号にて要求された収集データ(原動機回転数、アワメータ、油圧ポンプP1の出力、潤滑油の量、軸受けの加速度)をサーバ40に送信する(S17)。
【0062】
サーバ40が備える診断部44は、データ収集装置30側から送られてきた収集データ(原動機回転数、アワメータ、油圧ポンプP1の出力、潤滑油の量、軸受けの加速度)に基づいて、軸受けの状態を診断する(S18)。
【0063】
次に、
図9のフローチャートを参照して、稼動部が作業灯91の場合について説明する。
【0064】
まず、エンジンが始動されて作業機1が駆動されると、データ収集装置30が備える第1判断部32は、警告を行うか否かの判断を行う第1判断条件に、第1稼動データである作業灯91の電圧値が適合しているか否かを判断する。ここでは、第1稼動データである作業灯91の電圧値が第1閾値以下であるか否かを基準として、警告を行うかどうかの判断が行われる(S21)。作業灯91の電圧値が第1閾値以下であった場合(S21におけるYes)、すなわち、第1判断条件に適合している場合、例えば作業機1の運転席に設けた図示しない警告灯を点灯したり、ブザーを鳴らしたりすることで警告が行われる(S22)。これにより、作業機1を操作する作業者は、視覚や聴覚によって、作業灯91の異常を知ることができる。
【0065】
続いて、データ収集装置30が備える第2判断部33は、作業灯91の電圧値をサーバ40に送信するか否かの判断を行う第2判断条件に、作業灯91の電圧値が適合しているか否か判断する。ここでは、作業灯91の電圧値が第1閾値よりも高い第2閾値以下であるか否かを基準として、サーバ40に送信するかどうかの判断が行われる(S23)。ステップS1でNoと判断された場合、同様にステップS23へ進み、作業灯91の電圧値が第2判断条件に適合しているか判断される。
【0066】
この判断の結果に応じて、作業灯91の電圧値をサーバ40に送信するべきという判断の場合(S23におけるYes)、すなわち、第2判断条件に適合している場合、データ収集装置30が備える第1通信部34は、作業灯91の電圧値をサーバ40に送信する処理を行う(S24)。なお、ステップS23でNoと判断された場合、処理動作は終了することになる。また、作業機1側に異常が無い場合、ステップS23でNoと判断されて終了することになる。
【0067】
続いて、サーバ40側では、作業機1から送信された稼動データを基に、所定のテーブルを参照して、収集決定部42が診断に必要な第2稼動データである収集データ(制御装置100の入力電圧、出力電圧、バッテリの電圧)を決定する(S25)。そして、第2通信部43は、その決定に基づいて、データ収集装置30に対して収集データ(制御装置100の入力電圧、出力電圧、バッテリの電圧)を要求する要求信号を送信する(S26)。
【0068】
そして、データ収集装置30側では、第1通信部34は、要求信号を受信したら、要求信号にて要求された収集データ(制御装置100の入力電圧、出力電圧、バッテリの電圧)をサーバ40に送信する(S27)。
【0069】
サーバ40が備える診断部44は、データ収集装置30側から送られてきた収集データ(制御装置100の入力電圧、出力電圧、バッテリの電圧)に基づいて、作業灯91の状態を診断する(S28)。
【0070】
従来のように全ての診断を実行しようとすると、最初から多くのデータを作業機1からサーバ40に送信する必要がある。この点、本実施形態においては、作業機1側で一旦診断が必要かどうか判断することで(上述のステップS3、S13、S23)、送信するデータを絞り込むことができる。サーバ40側では、診断に必要なデータのみが作業機1側に要求されることで(上述のステップS6、S16、S26)、全体的な通信トラフィックを低減することができる。
【0071】
なお、本実施形態では、バックホーを例示したが、本発明の適用対象はこれに限らず、例えばトラクタ、コンバイン、田植機等の農業機械、コンパクトトラックローダ、スキッドステアローダ等の建設機械など、各種の作業機に適用することができる。
【0072】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1 :作業機
2 :走行装置
3 :旋回体
4 :走行体
5 :ドーザ
9 :運転席
11 :旋回ベアリング
12 :旋回台
13 :作業装置
14 :キャビン
16 :支持ブラケット
17 :スイングブラケット
18 :ブーム
19 :アーム
20 :バケット
21 :バケットシリンダ
22 :ブームシリンダ
23 :アームシリンダ
25 :表示装置
30 :データ収集装置
31 :稼動データ出力部
32 :第1判断部
33 :第2判断部
34 :第1通信部
40 :サーバ
41 :診断用データベース
42 :収集決定部
43 :第2通信部
44 :診断部
90 :制御弁
91 :作業灯
92 :原動機
100 :制御装置
101 :センサ
102 :センサ
103 :センサ
104 :センサ
105 :センサ
106 :センサ
M :走行モータ
P1 :油圧ポンプ