(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】温度ヒューズ用接点材およびこれを用いた感温ペレット型温度ヒューズ
(51)【国際特許分類】
H01H 37/76 20060101AFI20240722BHJP
【FI】
H01H37/76 B
(21)【出願番号】P 2021206406
(22)【出願日】2021-12-20
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】300078431
【氏名又は名称】ショット日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 時弘
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-099249(JP,A)
【文献】特表2016-521434(JP,A)
【文献】特開2013-196984(JP,A)
【文献】特開平10-162704(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0366680(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度ヒューズの筒状ケースの内壁面及び当該温度ヒューズの固定接点のそれぞれと接触するように前記筒状ケース内に設けられるものであり、
碗状に屈曲された板状をなし、前記筒状ケースと対向する外側面及び前記固定接点と対向する内側面を有する導電基材と、
前記導電基材の表面を覆う導電性部材とを備え、
前記導電性部材は、
前記外側面における前記筒状ケースとの接触部及び前記内側面における前記固定接点との接触部に少なくとも設けられようにして、前記外側面及び内側面の一方又は両方を部分的に覆い、
前記導電基材と
ヤング率・剛性率が異なる材料から構成されたことを特徴とする温度ヒューズ用接点材。
【請求項2】
前記導電性部材は、前記
筒状ケースとの接触部
又は前記固定接点との接触部にオーバーレイまたはインレイで設けたことを特徴とする請求項1に記載の温度ヒューズ用接点材。
【請求項3】
前記導電基材は、CuまたはCu合金あることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の温度ヒューズ用接点材。
【請求項4】
前記導電性部材は、AgまたはAg合金であることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の温度ヒューズ用接点材。
【請求項5】
前記Ag合金は、AgCuO,AgSnO
2,AgSnO
2-In
2O
3またはAgNiのいずれかから選択されたことを特徴とする請求項4に記載の温度ヒューズ用接点材。
【請求項6】
前記導電基材と前記導電性部材との界面にAgめっき層、Niめっき層、Ni-P合金めっき層、Niを主成分とする合金めっき層の何れかからなる金属界面層を設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れか1つに記載の温度ヒューズ用接点材。
【請求項7】
前記導電基材は、前記導電性部材よりも弾発力を有し圧縮しやくすくかつ圧縮戻り性が良くヤング率・剛性率の高い材料から構成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項6の何れか1つに記載の温度ヒューズ用接点材。
【請求項8】
前記導電性部材は、前記導電基材よりもヤング率・剛性率が低い材料から構成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項7の何れか1つに記載の温度ヒューズ用接点材。
【請求項9】
前記導電性部材は、さらに前記導電基材よりも電気抵抗が低い材料から構成されたことを特徴とする請求項8に記載の温度ヒューズ用接点材。
【請求項10】
温度ヒューズの筒状ケースの内壁面及び当該温度ヒューズの固定接点のそれぞれと接触するように前記筒状ケース内に設けられるものであり、
碗状に屈曲された板状をなし、前記筒状ケースと対向する外側面及び前記固定接点と対向する内側面を有する導電基材と、
前記導電基材の表面を覆う導電性部材とを備え、
前記導電性部材は、
前記外側面における前記筒状ケースとの接触部及び前記内側面における前記固定接点との接触部に少なくとも設けられようにして、前記外側面及び内側面の一方又は両方を部分的に覆い、
前記導電基材と
ヤング率・剛性率が異なる材料から構成されたことを特徴とする可動接点。
【請求項11】
前記導電性部材は、前記
筒状ケースとの接触部
又は前記固定接点との接触部にオーバーレイまたはインレイで設けたことを特徴とする請求項10に記載の可動接点。
【請求項12】
前記導電基材は、CuまたはCu合金あることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の可動接点。
【請求項13】
前記導電性部材は、AgまたはAg合金であることを特徴とする請求項10ないし請求項12の何れか1つに記載の可動接点。
【請求項14】
前記Ag合金は、AgCuO,AgSnO
2,AgSnO
2-In
2O
3またはAgNiのいずれかから選択されたことを特徴とする請求項13に記載の可動接点。
【請求項15】
前記導電基材と前記導電性部材との界面にAgめっき層、Niめっき層、Ni-P合金めっき層、Niを主成分とする合金めっき層の何れかからなる金属界面層を設けたことを特徴とする請求項10ないし請求項14の何れか1つに記載の可動接点。
【請求項16】
前記導電基材は、前記導電性部材よりも弾発力を有し圧縮しやくすくかつ圧縮戻り性が良くヤング率・剛性率の高い材料から構成されたことを特徴とする請求項10ないし請求項14の何れか1つに記載の可動接点。
【請求項17】
前記導電性部材は、前記導電基材よりもヤング率・剛性率が低い材料から構成されたことを特徴とする請求項10ないし請求項16の何れか1つに記載の可動接点。
【請求項18】
前記導電性部材は、さらに前記導電基材よりも電気抵抗が低い材料から構成されたことを特徴とする請求項17に記載の可動接点。
【請求項19】
良導電性かつ良熱伝導性の筒状ケース
と、
前記筒状ケースの内部
に設けられ、特定温度で溶融または軟化する感温ペレットと、
前記感温ペレットを押圧する強圧縮ばねと、
前記筒状ケースの開口を閉止する絶縁蓋体と、
前記絶縁蓋体に当接した弱圧縮ばねと、
前記絶縁蓋体を貫通した内端を固定接点とした第1リードと、
前記第1リード
の固定接点および前記筒状ケース
の内壁面のそれぞれと電気接続した可動接点と、
前記第1リードの一部を囲み前記絶縁蓋体の外端部を覆って設けられ前記筒状ケースの開口端部を封止した封止樹脂と、
前記筒状ケースの片端に配設された第2リードとを有し、
前記可動接点は、
碗状に屈曲された板状をなし、前記筒状ケースと対向する外側面及び前記固定接点と対向する内側面を有する導電基材と、
前記導電基材の表面を覆う導電性部材とを備え、
前記導電性部材は、
前記外側面における前記筒状ケースとの接触部及び前記内側面における前記固定接点との接触部に少なくとも設けられようにして、前記外側面及び内側面の一方又は両方を部分的に覆い、
前記導電基材と
ヤング率・剛性率が異なる材料から構成されたことを特徴とする感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項20】
前記導電性部材は、前記
筒状ケースとの接触部
又は前記固定接点との接触部にオーバーレイまたはインレイで設けたことを特徴とする請求項19に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項21】
前記導電基材は、CuまたはCu合金あることを特徴とする請求項19または請求項20に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項22】
前記導電性部材は、AgまたはAg合金であることを特徴とする請求項19ないし請求項21の何れか1つに記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項23】
前記Ag合金は、AgCuO,AgSnO
2,AgSnO
2-In
2O
3またはAgNiのいずれかから選択されたことを特徴とする請求項22に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項24】
前記導電基材と前記導電性部材との界面にAgめっき層、Niめっき層、Ni-P合金めっき層、Niを主成分とする合金めっき層の何れかからなる金属界面層を設けたことを特徴とする請求項19ないし請求項23の何れか1つに記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項25】
前記導電基材は、前記導電性部材よりも弾発力を有し圧縮しやくすくかつ圧縮戻り性が良くヤング率・剛性率の高い材料から構成されたことを特徴とする請求項19ないし請求項24の何れか1つに記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項26】
前記導電性部材は、前記導電基材よりもヤング率・剛性率が低い材料から構成されたことを特徴とする請求項19ないし請求項25の何れか1つに記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項27】
前記導電性部材は、さらに前記導電基材よりも電気抵抗が低い材料から構成されたことを特徴とする請求項26に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層積層構造の複合材料からなる接点材およびこれを用いた感温ペレット型温度ヒューズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用あるいは産業用電子・電気機器の過熱損傷を保護するために温度ヒューズが使用されている。温度ヒューズは、機器の温度を正確に感知し、異常過熱時に速やかに回路を遮断する保護部品として、各種家電製品、携帯機器、通信機器、事務機器、車載機器、ACアダプタ、充電器、モータ、電池、その他電子部品に使用されている。一般に温度ヒューズは概ね0.5A~15Aの幅広い公称定格電流を有するが、特に6A以上の高電流用には、接点を有し異常温度を感知して該接点を開離動作させる感温ペレット型温度ヒューズが好適に利用される。感温ペレット型温度ヒューズは、細部に関して種々の形態があるが、例えば、特許文献1に記載された感温ペレット型温度ヒューズには、Agめっき金属ケース、一対のAgめっきリード線、絶縁材、強弱2つの圧縮バネ、摺動接点および感温材を主要構成要素とし、摺動接点はAgめっきを施した金属ケースの内面に接触しながら移動し得る。摺動接点と絶縁材の間には弱圧縮バネ、また摺動接点と感温材の間には強圧縮バネがある。平常時には両圧縮バネはそれぞれ圧縮状態にあり、弱圧縮バネより強圧縮バネの方が強いため、摺動接点は絶縁材側に付勢され、摺動接点は導通可能な状態となる。従ってリード線を電子機器などの配線に接続すると、電流はリード線から摺動接点を経由して金属ケースからもう一方のリード線へと通電する。感温材は有機薬剤や熱可塑性樹脂などを使用することができ、所定の作動温度に達すると感温材は溶融または軟化し、圧縮バネからの負荷により変形する。このため温度ヒューズを接続する電子機器などが過熱し所定の作動温度に達すると感温材は変形し、圧縮バネを除荷し、圧縮バネの伸張に応動して圧縮バネの圧縮状態が解放され、圧縮バネが伸張することにより摺動接点が金属ケースの内面に接触しながら移動して通電が遮断される。このような機能を有する感温ペレット型温度ヒューズを電子機器などの配線に接続することにより、機器の異常過熱による機器本体の破損や火災などを事前に防止することができる。
【0003】
一般に感温ペレット型温度ヒューズに用いられている摺動接点は、金属材を薄板状に圧延し、これをプレス成形で星型凹状に形成したものを用いるが、従来の感温ペレット型温度ヒューズに用いられている摺動接点は、開離動作時のアークによる接点溶着を防止する必要から、特許文献1に記載のように、Cuなどを含む内部酸化性Ag合金を加圧酸化炉中で内部酸化することにより、接点材の表層部にCu酸化物などの酸化物粒子をAg基材に分散生成させた摺動接点を用いていた。さらに特許文献2には、Cu基材の表面に一層の極薄のAgをめっきした摺動接点が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】再公表WO2003/009323号公報
【文献】実用新案登録第3161636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の内部酸化性Ag合金材を利用した摺動接点は、Ag基材と卑金属との合金材を内部酸化法により卑金属を選択酸化し、表層部に酸化物粒子を分散、包含させることで接点の溶着や固着を防止する接点材である。一方で軟質なAgが多い表面となるので接点の溶着や固着が発生しやすい材料と言える。またAgを使用するので比較的高価な接点材とも言える。摺動接点には、金属ケースとの電気的接触を確保できるばね性と、溶着・固着することなくスムーズに摺動できる可動性が要求される。特許文献2に記載の考案は、これを改良するため提案された廉価な接点材であるが、この考案の記載通りに単にCu基材上にAgめっき材の薄膜のみで接点部を形成した場合、Agめっき膜厚が薄すぎ、開離動作時のアーク等によって容易にAgめっき膜が破壊されCu材表面が露出して接点固着を起こすことがある。長期間熱環境に曝されると経時的に表面のAg層がCu基材に拡散消失してしまい、ヒューズ抵抗値の増大や接点開離時に溶着を起こすようになってしまう欠点もあった。また、焼鈍効果によって摺動接点の接点部を摺動面等に押圧する弾発力が小さくなってヒューズ抵抗値が増大することもあった。なお、固着とは、接点部が熱環境下に長時間曝されることにより互いに圧接されて凝着または固着状態となり動かなくなることを言い、溶着とは、接点部が開離する際に発生したアークにより接点同士が開離動作中に溶接されて動かなくなることを言う。
【0006】
本発明は、Ag基材等の貴金属利用量を極力抑えた廉価な基材を用い、かつ金属ケースとの電気的接触を確保するばね性を調整することができ、接点抵抗値の増大を抑えつつ、リードとの溶着や固着も防止できる温度ヒューズ用の接点材およびそれを利用した感温ペレット型温度ヒューズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、感温ペレット型温度ヒューズの可動接点であって、導電基材と、前記導電基材の表面のうち所定部位を覆って設けた導電性部材とを備え、前記導電性部材は、少なくとも前記温度ヒューズの固定接点および筒状ケースの接触部に設けられ、ヤング率・剛性率が前記導電基材と異なる材料から構成されたことを特徴とする温度ヒューズ用接点材が提供される。この接点材は感温ペレット型温度ヒューズの摺動接点に適用できる。例えば、温度ヒューズの星形可動接点に利用できる。前記導電性部材は、少なくとも前記導電基材の片面の固定接点ないし筒状ケースの接触部に重ね合わせたオーバーレイまたは嵌め込み象嵌のインレイで部分的に設けてもよい。導電基材にオーバーレイまたはインレイで導電性部材を複合させることにより、ヤング率の異なる材料の組み合わせが可能となり、また接点材自体の厚みも必要に応じて変化させることが可能となる。これにより、接点材のばね特性を所望範囲に調整することが容易となる。なお、前記オーバーレイまたはインレイを施した表面は、必ずしも導電基材面と同一平面となるように平坦に形成しなくてもよく、オーバーレイ部またはインレイ部により凹凸に構成してもよい。ただし、本発明に係る可動接点は、金属ケースとの電気的接触を確保できるばね性と、所定の電圧/電流定格においてAgすることなくスムーズに摺動できる可動性が確保できれば、何れの形状ものを用いてもよく例示された星形のものに限定されない。
【0008】
本発明の別の観点によると、リード内端面に設けた固定接点と可動接点との当接面を接点開離面とする感温ペレット型温度ヒューズであって、
図4に示めすように良導電性かつ良熱伝導性の筒状ケース41の内部に、特定温度で溶融または軟化する感温ペレット42と、感温ペレット42を押圧する強圧縮ばね43と、筒状ケース41の開口を閉止する絶縁蓋体44と、絶縁蓋体44に当接した弱圧縮ばね45と、絶縁蓋体44を貫通した内端を固定接点400とした第1リード46と、第1リード46および筒状ケース41と電気接続した可動接点47と、第1リード46の一部を囲み絶縁蓋体44の外端部を覆って設けられ筒状ケース41の開口端部を封止した封止樹脂48と、筒状ケース41の片端に配設された第2リード49を有し、前記可動接点47は、
図2に示めすように導電基材21と、導電基材21の所定表面を覆った導電性部材22とからなり、導電性部材22は、少なくとも固定接点400および筒状ケース41の内壁面との接触部に設けられ、ヤング率・剛性率が前記導電基材21と異なる材料から構成されたことを特徴とする。前記可動接点における前記導電性部材は、前記導電基材の片面の固定接点の接触部と筒状ケース内壁面の接触部に、導電基材の平板面と導電性部材とを重ね合わせたオーバーレイまたは導電基材に設けたキャビティに導電性部材を嵌め込み象嵌したインレイで設けてもよい。前記可動接点は、導電基材と導電性部材から構成されるため、ヤング率の異なる材料の組み合わせによって弾性を場所によって変化させることができ、あるいは左記材料それぞれの厚みを必要に応じて変化させることもできる。したがって、本発明の感温ペレット型温度ヒューズの可動接点は、ばね特性を所望範囲に調整することが容易となる。前記オーバーレイまたはインレイを施した表面は、必ずしも導電基材面と同一平面となるように平坦に形成しなくてもよく、オーバーレイ部またはインレイ部により可動接点の表面を凹凸に構成してもよい。これにより、可動接点の所望部位における厚みを変化させることができるので、可動接点の弾発力を所望の値に調整することが可能となる。ただし、本発明に係る可動接点は、金属ケースとの電気的接触を確保できるばね性と、所定の電圧/電流定格において溶着・固着することなくスムーズに摺動できる可動性が確保できれば、何れの形状ものを用いてもよく
図2に例示された星形凹状のものに限定されない。
【0009】
前記感温ペレット型温度ヒューズは
図6に示すように、動作前(a)は第1リード66―筒状ケース61―可動接点67―第2リード69が導通状態に保持されている。そして、例えば配線の短絡等の異常通電によって設置箇所の温度が感温ペレット型温度ヒューズの動作温度に達すると、感温ペレット62が溶融し、可動接点67を第1リード66の内端部の固定接点600に押圧接触している付勢力が解かれるので、動作後(b)に示すように、可動接点67が第1リードの固定接点600から開離して、第1リード66と第2リード69との導通が遮断される。感温ペレット型温度ヒューズは、
図6の動作前(a)から動作後(b)となることで、電気機器への給配電を停止し、電気設備の過熱損傷あるいは発火事故を未然に防止するようになっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、感温ペレット型温度ヒューズの可動接点について、複層積層材料からなる接点材を適用した可動接点を用いることで、より廉価な導電性基材を用いながら、感温ペレット型温度ヒューズの低い内部抵抗値を確保し、かつばね特性を調整することでリードとの溶着や固着を軽減することが期待できる。また、貴金属材料の使用量の軽減が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る接点材10の部分を示した図であり、
図1(a)は、可動接点における固定接点との接触部を含む側の面および可動接点の打抜き箇所の一例を、
図1(b)は、可動接点における筒状ケースとの接触部を含む側の面および可動接点の打抜き箇所の一例を示した図である。
【
図2】本発明に係る可動接点20の形状の一例を示し、
図2(a)は平面図を、
図2(b)は側面図を、
図2(c)は下面図を示す。
【
図3】本発明に係る可動接点の断面図の一例を示し、
図3(a)は
図2(a)のD-D線に沿って切断したときの断面を平板に均した図を、
図3(b)は
図2(a)のd-d線に沿って切断したときの断面を平板に均した図である。
【
図4】本発明に係る可動接点20を適用するのに好適な感温ペレット型温度ヒューズ40を示した断面図である。
【
図5】変形例の可動接点の断面図の一例を示し、
図5(a)は
図2(a)のD-D線に沿って切断したときの断面を平板に均した図を、
図5(b)は
図2(a)のd-d線に沿って切断したときの断面を平板に均した図である。
【
図6】本発明に係る感温ペレット型温度ヒューズの動作を示した断面図であり、
図6(a)は動作前の感温ペレット型温度ヒューズの断面図を、
図6(b)は動作後の感温ペレット型温度ヒューズの断面図を示す。
【
図7】本発明に係る接点材10における可動接点の打抜き箇所の変形例を示した図であり、
図7(a)は、可動接点における固定接点との接触部を含む側の面における打抜き箇所の変形例を、
図7(b)は、可動接点における筒状ケースとの接触部を含む側の面における打抜き箇所の変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る温度ヒューズ用接点材10の一例を
図1に示す。温度ヒューズ用接点材10は、導電基材11と、導電基材11の必要部位に設けられた導電性部材12とを備え、導電性部材12は、感温ペレット型温度ヒューズの固定接点および筒状ケースの接触部を含む所望部分のみに設けられ、ヤング率・剛性率が前記導電基材と異なる材料から構成されたことを特徴とする。
図1は、可動接点を打抜く前の接点材の一部分の一例を示した図であり、
図1の星形の部分13は可動接点の打抜き箇所を示している。温度ヒューズ用接点材10は、所定の形状に加工され、
図4に示した感温ペレット型温度ヒューズ40の可動接点47に適用できる。例えば、本発明に係る温度ヒューズ用接点材10は、プレス打抜き加工によって
図2ないし
図3に示したような可動接点20ないし30に加工して使用され、温度ヒューズ用接点材10は、弾発力を有し圧縮しやくすくかつ圧縮戻り性が良いヤング率・剛性率の高い導電基材11と、導電基材11の必要部位に設けられた導電基材11よりもヤング率・剛性率が低い導電性部材12とを備え、導電性部材12は、感温ペレット型温度ヒューズの固定接点および筒状ケースの接触部を含む所望部分のみに設けてもよい。
図1の(a)側に配置された導電性部材12は、温度ヒューズの固定接点との接触部を含む面となり、
図2の可動接点20における凹面内側の面22aとなる。一方、
図1の(b)側に配置された導電性部材12は、温度ヒューズの筒状ケースとの接触部を含む面となり、
図2の可動接点20における凹面外側の面22bとなる。温度ヒューズ用接点材10は、例えば五隅の延伸部を有した星形の可動接点20に成形されて、前記延伸部の外側面22bが温度ヒューズの筒状ケース内壁と接触しかつ同ケース内壁と摺動できるように、さらに前記延伸部を碗状ないし皿状に一方向に屈曲させ、同延伸部における碗状ないし皿状の内側面22aの底面に温度ヒューズの固定接点が当接されて使用される。導電性部材12は、少なくとも導電基材11の固定接点との接触部および筒状ケースとの接触部に重ね合わせたオーバーレイまたは嵌め込み象嵌したインレイで設けられている。本発明の可動接点は、導電基材に導電性部材を複合させることにより、ヤング率の異なる材料の組み合わせが可能となり、また接点材自体の厚みも必要に応じて変化させることが可能になる。これにより、接点材のばね特性を所望範囲に調整することが容易となり、焼鈍による可動接点材の弾発力の低下を抑制する。なお、前記オーバーレイまたはインレイを施した表面は、必ずしも導電基材面と同一平面(平坦)でなくてもよく、オーバーレイ部またはインレイ部により凹凸に構成してもよい。可動接点20は、
図2に示すように星形凹状の形状とするのが好ましい。可動接点20は、所望する感温ペレット型温度ヒューズの固定接点と閉開ができ、筒状ケース内壁と接触できかつ同ケース内壁と摺動できれば、何れの形状のものでも良く前記星形のものに限定されない。例えば、星型の角数を増減させた形状や丸皿状の形態も可能である。また、可動接点20は、
図5に示すように導電基材51と導電性部材52との界面に、両材料の相互拡散の防止および密着性改善のためにAgめっき層、Niめっき層、Ni-P合金めっき層、Niを主成分とする合金めっき層の何れかからなる金属界面層53を設けた可動接点50に変形してもよい。これにより、熱環境における導電性部材12の導電基材11への拡散を遅延または防止する。
【0013】
接点材10のヤング率・剛性率を変える手段としては、導電基材11と導電性部材12とに厚みの差をつける方法、導電基材11と導電性部材12との材料間で圧延/鍛造などにより加工硬化の程度を変えたり、導電基材11または導電性部材12の何れか片方を加工硬化させて差を設ける方法、または導電基材11と導電性部材12との材料間で焼入/焼鈍などの熱処理の程度を変えたり、導電基材11または導電性部材12の何れか片方に左記何れかの熱処理を施して差を設ける方法がある。また、合金製の導電性部材12の場合は、構成する合金の金属成分または金属酸化物の含有量を増減させることで、接点材10のヤング率・剛性率を調整してもよい。例えば、Ag合金の場合は、CuO,Ni,SnO2,In2O3などの成分量を増減させることで、接点材10のヤング率・剛性率を調整してもよい。
【0014】
本発明に係る感温ペレット型温度ヒューズ40は、温度ヒューズ用接点材10ないし可動接点20を利用した感温ペレット型温度ヒューズである。感温ペレット型温度ヒューズ40は
図4に示すとおり、良導電性かつ良熱伝導性の筒状ケース41の内部に、特定温度で溶融または軟化する感温ペレット42と、感温ペレット42を押圧する強圧縮ばね43と、筒状ケース41の開口を閉止する絶縁蓋体44と、絶縁蓋体44に当接した弱圧縮ばね45と、絶縁蓋体44を貫通した内端を固定接点400とした第1リード46と、第1リード46および筒状ケース41と電気接続した可動接点47と、第1リード46の一部を囲み絶縁蓋体44の外端部を覆って設けられ筒状ケース41の開口端部を封止した封止樹脂48と、筒状ケース41の片端に配設された第2リード49とを備え、可動接点47は、導電基材と、前記導電基材の所定表面を覆った導電性部材とからなり、前記導電性部材は、固定接点400および筒状ケース41との接触部を含む所望部分のみに設けられ、ヤング率・剛性率が前記導電基材と異なる材料から構成されたことを特徴とする。前記可動接点における前記導電性部材は、前記導電基材の
固定接点および筒状ケースとの接触部に、前記導電基材の平板面上に導電性部材を重ね合わせたオーバーレイまたは導電基材に設けたキャビティに導電性部材を嵌め込み象嵌したインレイで設けてもよい。前記可動接点は、導電基材と導電性部材から構成されるため、ヤング率の異なる材料の組み合わせができ、また接点材自体の厚みも必要に応じて変化させることができる。したがって、本発明の感温ペレット型温度ヒューズの可動接点は、ばね特性を所望範囲に調整することが容易となり、焼鈍による可動接点材の弾発力の低下を抑制する。前記オーバーレイまたはインレイを施した表面は、必ずしも導電基材面と同一平面(平坦)でなくてもよく、オーバーレイ部またはインレイ部により凹凸に構成してもよい。例えば、可動接点47は、
図4には特に図示しないが、
図2に記載されるように、圧縮しやくすくかつ圧縮戻り性が良いヤング率・剛性率の高い弾発性の導電基材21と、固定接点400との接触部を含む所望部分22aおよび筒状ケース41との接触部22bに導電
基材21よりもヤング率・剛性率が低い導電性部材22a,22bからなるオーバーレイ層またはインレイ層を設ける。感温ペレット型温度ヒューズ40は、さらに必要に応じて強圧縮ばね43の両端に押板401を設けてもよく、さらに必要に応じて絶縁碍管402を第1リード46に挿通すると共に封止樹脂48で固着してもよい。
【実施例】
【0015】
本発明の実施例1として、
図1の温度ヒューズ用接点材10を示す。温度ヒューズ用接点材10は、弾発力を有し圧縮しやくすくかつ圧縮戻り性が良くヤング率・剛性率の高いCuまたはCu合金から選択されたリン青銅の導電基材11(Cu-8Sn-0.2P,ヤング率110[E/GPa],ずれ弾性率43[G/GPa],電気抵抗2.3[μΩ・cm])と、導電基材11の固定接点および筒状ケースの接触部を含む所望部分に導電基材11よりもヤング率・剛性率が低く、かつ導電基材11よりも電気抵抗値が低いAgまたは
Ag合金の導電性部材12(ヤング率82.7[E/GPa],ずれ弾性率30.3[G/GPa],電気抵抗1.47[μΩ・cm])で構成される。
前記Ag合金製の導電性部材12は、AgCuO,AgSnO
2
,AgSnO
2
-In
2
O
3
などの含酸化物金属合金の何れか1つを含むAg合金、またはAgNiなどのAg合金から選択される。導電性部材12は、特にそれのみに限定されないが導電基材11よりも電気抵抗値が低
いものであってもよい。温度ヒューズ用接点材10は、
図2ないし
図3に示した感温ペレット型温度ヒューズの可動接点20、30に成形され、感温ペレット型温度ヒューズに利用される。温度ヒューズ用接点材10のヤング率・剛性率を調整する手段としては、導電基材11と導電性部材12とに厚みの差をつける方法、導電基材11と導電性部材12との材料間で圧延/鍛造などによる加工硬化の程度を変えたり何れか片方のみに施工することにより差を設ける方法、または導電基材11と導電性部材12との材料間で焼入/焼鈍などの熱処理の程度を変えたり何れか片方のみに左記熱処理を施して差を設ける方法、導電
性部材1
2を構成するAg合金のCuO,Ni,SnO
2,In
2O
3の含有量を増減させる方法が利用できる。
【0016】
本発明の実施例2の可動接点20、30を
図2ないし
図3に示す。可動接点20、30は、弾発力を有し圧縮しやくすくかつ圧縮戻り性が良くヤング率・剛性率の高いCuまたはCu合金の導電基材21、31と、導電基材21、31の固定接点および筒状ケースの接触部を含む所望部分に導電基材21、31よりもヤング率・剛性率が低いAgまたはAg合金の導電性部材22a,22bおよび32からなる。導電性部材22a,22bおよび32は、特にそれのみに限定されないが導電基材21、31よりも電気抵抗値が低ものであってもよい。
【0017】
本発明の実施例3の可動接点20、50を
図2および
図5に示す。可動接点20、50は、弾発力を有し圧縮しやくすくかつ圧縮戻り性が良くヤング率・剛性率の高いCuまたはCu合金から選択されたリン青銅の導電基材21、51(Cu-8Sn-0.2P,ヤング率110[E/GPa],ずれ弾性率43[G/GPa],電気抵抗2.3[μΩ・cm])と、導電基材21、51の固定接点および筒状ケースの接触部を含む所望部分に導電基材21、51よりもヤング率・剛性率が低く、かつ導電基材21、51よりも電気抵抗値が低いAgまたはAg合金から選択された銀の導電性部材22a,22bおよび52(ヤング率82.7[E/GPa],ずれ弾性率30.3[G/GPa],電気抵抗1.47[μΩ・cm])で構成される。さらに導電基材51と導電性部材52との界面には、
図5に示すように、両材料の相互拡散の防止および密着性改善のためのNiめっき層からなる金属界面層53を設ける。可動接点20、50は、ヤング率・剛性率が互いに異なる導電基材と、導電性部材とからなり、前記導電性部材は、特にそれのみに限定されないが前記導電基材よりも電気抵抗値が低
いものであってもよい。
【0018】
本発明の実施例4として、
図4の感温ペレット型温度ヒューズ40を示す。感温ペレット型温度ヒューズ40は、良導電性かつ良熱伝導性の筒状ケース41の内部に、特定温度で溶融または軟化する感温ペレット42と、感温ペレット42を押圧する強圧縮ばね43と、筒状ケース41の開口を閉止する絶縁蓋体44と、絶縁蓋体44に当接した弱圧縮ばね45と、絶縁蓋体44を貫通した内端を固定接点400とした第1リード46と、第1リード46および筒状ケース41と電気接続した可動接点47と、第1リード46の一部を囲み絶縁蓋体44の外端部を覆って設けられ筒状ケース41の開口端部を封止した封止樹脂48と、筒状ケース41の片端に配設された第2リード49を備え、可動接点47は、弾発力を有し圧縮しやくすくかつ圧縮戻り性が良くヤング率・剛性率の高いCuまたはCu合金から選択されたリン青銅の導電基材(Cu-8Sn-0.2P,ヤング率110[E/GPa],ずれ弾性率43[G/GPa],電気抵抗2.3[μΩ・cm])と、この導電基材の固定接点400および筒状ケース41の接触部周辺のみを覆った前記導電基材よりもヤング率・剛性率が低く、かつ前記導電基材よりも電気抵抗値が低いAgまたはAg合金から選択された
導電性部材(ヤング率82.7[E/GPa],ずれ弾性率30.3[G/GPa],電気抵抗1.47[μΩ・cm])で構成される。
前記Ag合金の導電性部材は、AgCuO,AgSnO
2
,AgSnO
2
-In
2
O
3
などの含酸化物金属合金の何れか1つを含むAg合金、またはAgNiなどのAg合金から選択される。可動接点47は、ヤング率・剛性率が互いに異なる導電基材と、導電性部材とからなり、前記導電性部材は、特にそれのみに限定されないが前記導電基材よりも電気抵抗値が低いものであってもよい。可動接点47のヤング率・剛性率を調整する手段としては、前記導電基材と前記導電性部材とに厚みの差をつける方法、前記導電基材と前記導電性部材との材料間で圧延/鍛造などの加工硬化の程度を変えたり何れか片方のみに施工して差を設ける方法、または前記導電基材と前記導電性部材との材料間で焼入/焼鈍などの熱処理の程度を変えたり何れか片方のみに左記熱処理を施して差を設ける方法、
前記導電
性部材を構成するAg合金のCuO,Ni,SnO
2,In
2O
3の含有量を増減させる方法が利用できる。
【0019】
図7は、本発明に係る接点材10における可動接点の打抜き箇所の変形例を示した図である。
図7(a)は、可動接点における固定接点との接触部を含む側の面における打抜き箇所の変形例を、
図7(b)は、可動接点における筒状ケースとの接触部を含む側の面における打抜き箇所の変形例を示した図である。このように接点材10における可動接点の打抜き箇所13は、可動接点における導電基材部12が、少なくとも感温ペレット型温度ヒューズの固定接点および筒状ケースの接触部に対応して、固定接点と筒状ケースとに接触するように配置され成形されてあればよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、可動接点を有し異常温度を感知して接点を開離動作させる高電流用の接点開離型温度ヒューズやバイメタル式保護素子など接点を有する温度保護素子に利用でき、特に感温ペレット型温度ヒューズに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0021】
温度ヒューズ用接点材10、導電基材11、導電性部材12、可動接点の打抜き箇所13、可動接点20、導電性基材21、導電性部材22a,22b、可動接点30、導電基材31、導電性部材32、感温ペレット型温度ヒューズ40、筒状ケース41、感温ペレット42、強圧縮ばね43、絶縁蓋体44、弱圧縮ばね45、第1リード46、可動接点47、封止樹脂48、第2リード49、固定接点400、押板401、絶縁碍管402、可動接点50、導電基材51、導電性部材52、金属界面層53、感温ペレット型温度ヒューズ60、筒状ケース61、感温ペレット62、強圧縮ばね63、絶縁蓋体64、弱圧縮ばね65、固定接点600、第1リード66、可動接点67、封止樹脂68、第2リード69、押板601、絶縁碍管602。