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特許7524203有効成分の溶出を改善するための薬デリバリーシリコーン組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】有効成分の溶出を改善するための薬デリバリーシリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/34 20170101AFI20240722BHJP
   A61K 31/565 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 31/567 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 31/57 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240722BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240722BHJP
   A61P 15/18 20060101ALI20240722BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20240722BHJP
   C08K 5/3472 20060101ALI20240722BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20240722BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
A61K47/34
A61K31/565
A61K31/567
A61K31/57
A61K47/14
A61K47/22
A61P15/18
C08K5/101
C08K5/3472
C08L83/05
C08L83/07
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021548618
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-06
(86)【国際出願番号】 US2020019055
(87)【国際公開番号】W WO2020172418
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】62/809,311
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519289224
【氏名又は名称】エルケム・シリコーンズ・ユーエスエイ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】ELKEM SILICONES USA CORP.
【住所又は居所原語表記】Two Tower Center Boulevard,Suite 1601,East Brunswick,NJ 08816 U.S.A.
(73)【特許権者】
【識別番号】521138844
【氏名又は名称】エルケム・シリコーンズ・ジャーマニー・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ELKEM SILICONES GERMANY GMBH
【住所又は居所原語表記】Hans-Sachs-Strasse 4a,23566 Lubeck,GERMANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・マーティン
(72)【発明者】
【氏名】リーアン・ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・キハラ
(72)【発明者】
【氏名】ニコル・マクマレン
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-509359(JP,A)
【文献】特表2011-526609(JP,A)
【文献】特開2016-166245(JP,A)
【文献】特開平09-131404(JP,A)
【文献】特表2010-522170(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056725(WO,A1)
【文献】特表2008-513377(JP,A)
【文献】特表2005-505557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
A61K 6/00- 51/12
A61P 1/00- 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む硬化性液体シリコーンゴム組成物:
(A)分子あたり少なくとも2つのケイ素結合アルケニル基を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA;前記アルケニル基がそれぞれ2~14個の炭素原子を含む;
(B)分子あたり少なくとも2つのケイ素結合水素原子を有する少なくとも1つの有機ケイ素化合物B;
(C)少なくとも1つのヒドロシリル化触媒C;
(E)少なくとも1つの脂肪酸エステルG及び少なくとも1つのトリアゾール化合物Eからなる混合物Mであって、前記硬化性液体シリコーンゴム組成物の総重量に基づいて、0.01~10重量%である、混合物M;
(F)化学構造中に少なくとも1つの末端アルケン、少なくとも1つの末端アルキン又は少なくとも1つの末端カルボニルを含む治療有効量の少なくとも1つの医薬品有効成分F;ここで、成分(A)及び(B)は、成分(A)に含まれるケイ素結合アルケニル基に対する成分(B)に含まれるケイ素結合水素原子のモル比が0.1~20の範囲になるような量で存在する;
(G)少なくとも1つの硬化速度コントローラーG。
【請求項2】
前記混合物Mが、0.1~10重量%のトリアゾール化合物E及び99.9~90重量%の脂肪酸エステルGを含む、請求項1に記載の硬化性液体シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸エステルGが、2~20個の炭素原子を含む脂肪酸から形成される、請求項1に記載の硬化性液体シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸が、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、及びリノール酸からなる群から選択される、請求項3に記載の硬化性液体シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸エステルGが、2~20個の炭素原子のアルコールから形成される、請求項1に記載の硬化性液体シリコーンゴム組成物。
【請求項6】
前記アルコールが2~4個の炭素原子のアルカノールである、請求項5に記載の硬化性液体シリコーンゴム組成物。
【請求項7】
前記脂肪酸エステルGがミリスチン酸イソプロピルである、請求項1に記載の硬化性液体シリコーンゴム組成物。
【請求項8】
前記医薬品有効成分が、レボノルゲストレル、エチニルエストラジオール、ノルエチステロン、エチノジオールジアセテート、デソゲストレル、リネストレノール、プロゲステロン及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の硬化性液体シリコーンゴム組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の硬化性液体シリコーンゴム組成物を、硬化及び成形することを含む、成形シリコーンゴムの製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の硬化性液体シリコーンゴム組成物を、硬化及び成形することを含む、薬デリバリーデバイスの製造方法。
【請求項11】
射出成形装置又は圧縮成形装置を介して、請求項1~8のいずれか1項に記載の硬化性液体シリコーンゴム組成物を、硬化及び成形することを含む、薬デリバリーデバイスの製造方法。
【請求項12】
前記薬デリバリーデバイスが膣内薬デリバリーデバイスであることを特徴とする、請求項10又は11に記載の薬デリバリーデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2019年2月22日に出願された米国仮出願第62/809,311号(その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)の優先権を主張する特許協力条約に基づく国際出願である。
【0002】
本発明は、硬化後に薬デリバリーデバイスとして有用なシリコーンエラストマーを提供する、新しい硬化性液体シリコーンゴム組成物に関する。組成物は、医薬品有効成分の回収率の向上を示す末端アルケン、アルキン、又はカルボニル官能基を有する医薬品有効成分(active pharmaceutical ingredient、API)を含む。
【背景技術】
【0003】
硬化性液体シリコーンゴム組成物は、通常、硬化又は反応して、シリコーンエラストマーとも呼ばれる硬化シリコーンゴムを提供する。シリコーンゴムとシリコーンエラストマーという用語は同じ意味で使用され得る。硬化性LSR組成物は、1980年頃から使用されており、医療、自動車、幼児ケア、一般産業市場、航空宇宙、電子機器、他の専門産業などの幅広い用途向けのシリコーンゴム部品及びシリコーン製品の製造に最適な原材料となっている。シリコーンゴムは、その生理学的不活性、高い血液適合性、低毒性、優れた熱及び酸化安定性、及び低弾性率特性により、幅広い生物医学的用途で使用されてきた。
【0004】
シリコーンエラストマーは、硬化可能な液体シリコーンゴム組成物に、硬化前に組成物内に水素結合を誘導するシリカ及び/又は樹脂を添加することによって強化される。しかし、水素結合を形成する能力にもかかわらず、硬化シリコーンゴムは本質的に疎水性であると考えられている。これは主にシロキサンポリマー骨格のメチル成分によるもので、アルコール又はケトン構造を持つほとんどの非極性構造を持つ医薬品を可溶化するための理想的な材料になる。さらに、ミクロポーラス構造により、多くの薬デリバリー用途に最適な材料となっている。
【0005】
高分子材料からの制御された薬放出の概念は1960年代に最初に確立され、循環するウサギの血液を含むシリコーンゴム動静脈シャントの外面への麻酔ガスの曝露がウサギを眠らせた。薬放出は、ポリマーマトリックスを介した拡散によって発生する。徐放性の最初の市販のシリコーンエラストマーデバイスは、1991年に米国で販売されたPopulation Councilの皮下避妊インプラントNorplant(登録商標)であった。これは6つのシリコーンエラストマーシリンダーで構成されており、それぞれが、多くの避妊薬で使用されている治療効果のある量のレボノルゲストレル(levonorgestrel、LNG)で内部が満たされている。付加硬化シリコーンエラストマーは、その生体安定性と不活性な性質のために薬デリバリー用途に好ましいが、LNGなどの特定の有効成分は、付加硬化反応を阻害することが知られており、マトリックス内で不可逆的な薬結合の傾向を示している。微粉化LNGを重付加シリコーン硬化性組成物に混合して製造され、160℃で90秒間硬化される避妊リングは、LNG成分のインビトロ(in vitro)放出がゼロであることは、次の参考文献で確立されている:Boyd, P. et al., (2016) International Journal of Pharmaceutics, 511(1), 619-629。この問題に対する既存の解決策のいくつかは、有効成分の粒子サイズを注意深く監視し、エラストマーの硬化温度と時間を制御するか、液浸/含浸によって医薬品有効成分(API)を完全に加硫されたシリコーンに含浸させることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、上記の問題を回避する新しい硬化性液体シリコーンゴム組成物を見つける必要が依然としてある。
【0007】
本発明の1つの目的は、硬化後に薬デリバリーデバイスとして有用なシリコーンエラストマーを提供する、新しい硬化可能な液体シリコーンゴム組成物を提供することである。組成物は、医薬品有効成分の回収率の向上を示す末端アルケン、アルキン、又はカルボニル官能基を有する医薬品有効成分(API)を含む。
【0008】
本発明の別の目的は、本発明の硬化性液体シリコーンゴム組成物を硬化及び成形することによって得られる成形シリコーンゴムを提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、前記成形シリコーンゴムを含む薬デリバリーデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらすべての目的は、とりわけ、以下を含む硬化性液体シリコーンゴム組成物に関連する本発明によって達成される:
(A)分子あたり少なくとも2つのケイ素結合アルケニル基を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA;前記アルケニル基がそれぞれ2~14個の炭素原子を含み、好ましくは、前記アルケニル基は、ビニル、アリル、ヘキセニル、デセニル及びテトラデセニルからなる群から選択され、最も好ましくは、前記アルケニル基はビニル基である;
(B)分子あたり少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つのケイ素結合水素原子を有する少なくとも1つの有機ケイ素化合物B;
(C)少なくとも1つのヒドロシリル化触媒C、好ましくは少なくとも1つの白金族金属触媒C;さらにより好ましくは、ヒドロシリル化触媒Cは、成分(A)及び(B)の合計重量に基づいて、百万部(ppm)あたり、濃度が白金族金属として0.1~500重量部である量で存在する;
(D)最終的に、少なくとも1つの充填剤D;好ましくは、前記充填剤Dは表面処理シリカであり、さらにより好ましくは、前記充填剤Dは、ヘキサメチルジシラザン及び/又はテトラメチルジビニルジシラザンで現場で処理されたヒュームドシリカである;
(E)少なくとも1つの脂肪酸エステルG及び少なくとも1つのトリアゾール化合物Eを含む混合物Mであって、前記硬化性液体シリコーンゴム組成物の総重量に基づいて、0.01~10重量%である、混合物M;
(F)化学構造中に少なくとも1つの末端アルケン、少なくとも1つの末端アルキン又は少なくとも1つの末端カルボニルを含む治療有効量の少なくとも1つの医薬品有効成分F;ここで、成分(A)及び(B)は、成分(A)に含まれるケイ素結合アルケニル基に対する成分(B)に含まれるケイ素結合水素原子のモル比が0.1~20、好ましくは0.25~5.0、最も好ましくは0.25~2.0の範囲になるような量で存在する;
(G)少なくとも1つの硬化速度コントローラーG。
【0011】
この目的を達成するために、出願人は、その功績として、まったく驚くべき予想外のことに、脂肪酸エステルGに溶解したトリアゾール化合物Eを含む特定の混合物を、末端アルケン、アルキン、又はカルボニル官能基を有する医薬品有効成分(API)を含む硬化性液体シリコーンゴム組成物に使用することが、薬が白金と複合体を形成すること及び硬化したシリコーンゴム材料のエラストマーネットワークに結合することを制限することにより、医薬品有効成分の回収率の増加を示すシリコーンエラストマーを硬化させた後に調製することができることを実証した。
【0012】
好ましい一実施形態では、前記混合物Mが、0.1~10重量%のトリアゾール化合物E及び99.9~90重量%の脂肪酸エステルGを含む。
【0013】
別の好ましい実施形態では、前記脂肪酸エステルGが、2~20個の炭素原子を含む脂肪酸から形成される。好ましくは、前記脂肪酸が、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、アジピン酸及びラノリン酸からなる群から選択される。
【0014】
前記脂肪酸エステルGが、2~20個の炭素原子のアルコールから形成され得る。好ましくは、前記アルコールが2~4個の炭素原子のアルカノールである。
【0015】
別の好ましい実施形態では、脂肪酸エステルGはミリスチン酸イソプロピルである。
【0016】
好ましい医薬品有効成分は、レボノルゲストレル、エチニルエストラジオール、ノルエチステロン、エチノジオールジアセテート、デソゲストレル、リネストレノール、プロゲステロン及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
成分(A)は分子あたり少なくとも2つのケイ素結合アルケニル基を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンAであって、前記アルケニル基がそれぞれ2~14個の炭素原子を含み、好ましくは、前記アルケニル基は、ビニル、アリル、ヘキセニル、デセニル及びテトラデセニルからなる群から選択され、最も好ましくは、前記アルケニル基はビニル基である。
【0018】
このような成分は、アルケニルラジカル以外のケイ素結合有機基をさらに含む。このようなケイ素結合有機基は、典型的に、以下から選択される:1価の飽和炭化水素ラジカル(典型的には1~10個の炭素原子を含む)、及び1価の芳香族炭化水素ラジカル(典型的には6~12個の炭素原子を含み、非置換であるか、ハロゲン原子などの硬化反応を妨げない基で置換されている)。ケイ素結合有機基の好ましい種は、例えば、メチル、エチル、及びプロピルなどのアルキル基;3,3,3-トリフルオロプロピルなどのハロゲン化アルキル基;及びフェニルなどのアリール基である。
【0019】
成分(A)の分子構造は通常線状であるが、分子内に3価又は4価のシロキサン単位が存在するため、分岐があり得る。好ましくは、オルガノポリシロキサンAは、25℃で50~300,000mPa・sの間の動粘度を有する。本開示におけるすべての粘度は、いわゆる「ニュートン」、25℃での動粘度の量に対応すると想定、すなわち、測定された速度勾配の粘度は、それ自体が測定された既知の方法で、ブルックフィールド(Brookfield)粘度動粘度計を使用して、低せん断で、速度勾配から十分に独立している。シリコーンの動粘度は、ASTM D445規格に従って25℃で測定される。
【0020】
本発明による適切なオルガノポリシロキサンAの例は、以下の式(1)のポリマーである。
【化1】
【0021】
式中:R及びR”は、互いに独立して選択され、1価の飽和炭化水素ラジカル(典型的には1~10個の炭素原子を含む)、又は1価の芳香族炭化水素ラジカル(典型的には6~12個の炭素原子を含み、非置換であるか、ハロゲン原子などの硬化反応を妨げない基で置換されている)である。ケイ素結合有機基の好ましい種は、例えば、メチル、エチル、及びプロピルなどのアルキル基;3,3,3-トリフルオロプロピルなどのハロゲン化アルキル基;及びフェニルなどのアリール基である。R’は、それぞれ2~14個の炭素原子を含むアルケニル基であり、好ましくは、前記アルケニル基は、ビニル、アリル、ヘキセニル、デセニル及びテトラデセニルからなる群から選択され、最も好ましくは、前記アルケニル基はビニル基である。最も好ましくは、R’はビニルラジカルであり、nは、25℃で50から300,000mPa・sの間の動粘度を有するように成分(A)に適した重合度を表す。
【0022】
使用されるオルガノポリシロキサンAの他の例として、ジメチルビニルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン、ジメチルビニルシロキシ末端ポリメチル-3,3,3-トリフルオロプロピルシロキサン、ジメチルビニルシロキシ末端ジメチルシロキサン-3,3,3-トリフルオロプロピルメチルシロキサン共重合体、及びジメチルビニルシロキシ末端ジメチルシロキサン/メチルフェニルシロキサン共重合体を挙げることができる。
【0023】
一般に、成分(A)の粘度は25℃で少なくとも0.05Pa・s、通常は0.1~300Pa・sであり、より典型的には、25℃で0.1~110Pa・sである。
【0024】
成分(A)はまた、Si-アルケニル基を有するシリコーン樹脂を含み得る。Si-アルケニル基を有する適切なシリコーン樹脂の例には、以下が含まれる:
-本質的に以下からなる式MTViQのオルガノポリシロキサン樹脂:
(a)式R’SiO3/2の3価シロキサン単位TVi
(b)式R3SiO1/2の1価シロキサン単位M
(c)式SiO4/2の4価シロキサン単位Q
-本質的に以下からなる式MDViQのオルガノポリシロキサン樹脂:
(a)式RR’SiO2/2の2価シロキサン単位DVi
(b)式R3SiO1/2の1価シロキサン単位M
(c)式SiO4/2の4価シロキサン単位Q
-本質的に以下からなる式MDDViQのオルガノポリシロキサン樹脂:
(a)式RR’SiO2/2の2価シロキサン単位DVi
(b)式R2SiO2/2の2価シロキサン単位D
(b)式R3SiO1/2の1価シロキサン単位M
(c)式SiO4/2の4価シロキサン単位Q
-本質的に以下からなる式MViQのオルガノポリシロキサン樹脂:
(a)式R’R2SiO1/2の1価シロキサン単位MVi
(c)式SiO4/2の4価シロキサン単位Q
-本質的に以下からなる式MViViQのオルガノポリシロキサン樹脂:
(a)式R’R2SiO1/2の1価シロキサン単位MVi
(b)式R’SiO3/2の3価シロキサン単位TVi
(c)式SiO4/2の4価シロキサン単位Q
ここで、Rはメチル基を示し、R’はビニル基を示す。
Si-アルケニル基を有する最も好ましいシリコーン樹脂は、式MDViQのオルガノポリシロキサン樹脂である。
【0025】
成分(A)は、アルケニル基を有する線状オルガノポリシロキサンとSi-アルケニル基を有するシリコーン樹脂(両方とも上記のとおりである)との混合物として存在し得る。
【0026】
成分(B)は、分子あたり少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つのケイ素結合水素原子を有する有機ケイ素化合物Bである。有機ケイ素化合物Bの分子形態は特に制限されず、直鎖、分岐含有直鎖、又は環状であり得る。
【0027】
好ましい実施形態では、前記有機ケイ素化合物Bは、以下を含むオルガノポリシロキサンである:
・式(XL-1)の少なくとも3つのシロキシ単位:
(H)(L)eSiO(3-e)/2 (XL-1)
式中、記号Hは水素原子を表し、記号Lは1~8個の炭素原子を含むアルキル又はC6~C10のアリールを表し、記号eは0、1、又は2に等しい;
・任意選択で、式(XL-2)の他のシロキシ単位:
(L)gSiO(4-g)/2 (XL-2)
式中、記号Lは1~8個の炭素原子を含むアルキル又はC6~C10のアリールを表し、記号gは0、1、2、又は3に等しい。
【0028】
有機ケイ素化合物Bは、式(XL-1)のシロキシル単位のみから形成され得るか、又は式(XL-2)の単位を含み得る。それは、線状、分岐状、又は環状構造を有し得る。重合度は好ましくは2以上である。より一般的には、それは1,000未満である。その動粘度は通常、25℃で約1~2,000mPa・s、一般に25℃で約5~2,000mPa・s、又は好ましくは25℃で5~500mPa・sの範囲である。
【0029】
適切な有機ケイ素化合物Bの例には、以下が含まれるが、これらに限定されない:
(i)トリメチルシロキシ末端メチルヒドロゲンポリシロキサン
(ii)トリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン-メチルヒドロゲンシロキサン
(iii)ジメチルヒドロゲンシロキシ末端ジメチルシロキサン-メチルヒドロゲンシロキサン共重合体
(iv)ジメチルシロキサン-メチルヒドロゲンシロキサン環状共重合体
(v)以下を含むシリコーン樹脂M’Q:(H)(CH32SiO1/2単位(M’単位)及びSiO4/2単位(Q単位)
(vi)以下を含むシリコーン樹脂MM’Q:(CH33SiO1/2単位(M単位)、(CH32HSiO1/2単位、及びSiO4/2単位。
【0030】
成分(B)は、SiH基を有する線状オルガノポリシロキサンとSi-Hを有するシリコーン樹脂(両方とも上記のとおりである)との混合物として存在し得る。
【0031】
適切なヒドロシリル化触媒Cの例には、米国特許第3,715,334号に示されているカルステット(Karstedt)触媒又は当技術分野で知られている他の白金若しくはロジウム触媒などのヒドロシリル化触媒が含まれ、マイクロカプセル化されたヒドロシリル化触媒、例えば、米国特許第5,009,957号に見られるような当技術分野で知られているものも含まれる。ただし、本発明に関連するヒドロシリル化触媒は、以下の元素のうちの少なくとも1つを含むことができる:Pt、Rh、Ru、Pd、Ni(例えばラネーニッケル(Raney Nickel))、及びそれらの組み合わせ。触媒は、任意選択で、不活性又は活性支持体に結合される。使用できる好ましい触媒の例には、クロロ白金酸、クロロ白金酸のアルコール溶液、白金とオレフィンの錯体、白金と1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの錯体(カルステット触媒として知られている)及び白金が担持されている粉末などの白金型触媒が含まれる。白金触媒は、文献に詳しく記載されている。特に、米国特許第3,159,601号、第3,159,602号及び第3,220,972号ならびに欧州特許EP-A-057,459、EP-188,978及びEP-A-190,530に記載されている白金と有機生成物の錯体、及び米国特許第3,419,593号、第3,715,334号、第3,377,432号、第3,814,730号、及び第3,775,452号に記載されている白金とビニル化オルガノポリシロキサンの錯体を挙げることができる。特に、白金系触媒が特に望ましい。白金触媒は、室温で十分に迅速な架橋を可能にするために、触媒的に十分な量で使用されるべきことが好ましい。
【0032】
本発明の硬化性LSR組成物を使用して調製することができるいくつかのタイプの硬化エラストマーを特徴付ける最適な物理的特性を達成するために、細かく分割されたシリカなどの充填剤を含むことが望ましい場合がある。シリカ及び他の強化充填剤は、硬化性組成物の処理中の「クレープ」又は「クレープ硬化」と呼ばれる現象を防ぐために、1つ又は複数の既知の充填剤処理剤で処理されることが多い。充填剤を疎水性にし、したがって取り扱いを容易にし、他の成分との均一な混合物を得るために、典型的には、充填剤は、例えば、脂肪酸若しくはステアリン酸などの脂肪酸エステル、又はオルガノシラン、ポリジオルガノシロキサン、又はオルガノシラザンヘキサアルキルジシラザン又は短鎖シロキサンジオールを使用して表面処理される。
【0033】
コロイダルシリカは、表面積が比較的大きく、通常は1グラムあたり少なくとも50m2であるため、特に好ましい。コロイダルシリカは、ヒュームドシリカとして、又は沈降シリカとして提供され得、表面処理され得る。表面処理の1つの方法において、ヒュームドシリカ又は沈降シリカは、熱及び圧力下で環状オルガノポリシロキサンに曝露される。充填剤を処理する別の方法は、アミン化合物の存在下でシリカをシロキサン又はシランに曝露する方法である。
【0034】
シリカ充填剤を表面処理する別の方法は、メチルシラン又はシラザン表面処理剤を使用する。メチルシラン又はシラザンで表面処理されたヒュームド又は沈降シリカ充填剤は、ポンプ輸送可能なシリコーン化合物を生成する特性を示し、未硬化の液体前駆体シリコーン組成物の低粘度を過度に増加させない。硬化後、シラザン処理されたシリカは、硬化したエラストマーに改善された引裂強度を与える。米国特許第3,365,743号及び第3,847,848号はそのような方法を開示している。
【0035】
より好ましいシリカ充填剤は、BET法に従って測定された表面積がグラムあたり約50~約600m2、最も好ましくはグラムあたり約100~約400m2で、現場(in situ)で形成されたヒュームドシリカである。現場で処理されたヒュームドシリカは、ヒュームドシリカの表面のシラノールが、ミキサーでポリマーと配合されている間に、アルキル、アリール、又はアルケニルペンダント基を含むケイ素原子でキャップされている場合に発生する。このプロセスは、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルジビニルジシラザン、又はトリメチルシラノール及びジメチルビニルシラノールなどの当技術分野で知られている適切なシラノールキャッピング剤を利用して、充填剤を処理することができる。
【0036】
本発明の硬化性LSR組成物に使用される細かく分割されたシリカ又は他の強化充填剤の量は、少なくとも部分的に、硬化されたエラストマーに望まれる物理的特性によって決定される。本発明の硬化性LSR組成物は、成分(A)の100重量部あたり、典型的には5~100重量部、典型的には10~60重量部の強化充填剤を含む。
【0037】
適切な充填剤の別の例は、比表面積が高く、多孔性が高く、密度が低く、誘電率が低く、優れた断熱特性を有するナノ構造材料である疎水性シリカエアロゲルである。シリカエアロゲルは、多孔質構造を得るために、超臨界乾燥プロセス又は大気圧乾燥技術のいずれかを介して合成される。現在、広く市販されている。
【0038】
疎水性シリカエアロゲルは、500~1,500m2/g、あるいは500~1,200m2/gの範囲の表面積を特徴とし、いずれの場合もBET法で測定される。疎水性シリカエアロゲルは、その多孔度が80%を超えるか、あるいは90%を超えることによってさらに特徴付けられ得る。疎水性シリカエアロゲルは、レーザー光散乱によって測定される場合、5~1,000μm、あるいは5~100μm、あるいは5~25μmの範囲の平均粒子サイズを有し得る。疎水性シリカエアロゲルの例は、トリメチルシリル化エアロゲルである。疎水性シリカエアロゲルは、硬化性液体シリコーンゴム組成物中に、硬化性液体シリコーンゴムの総重量に対して1~30重量%の量で存在し得る。
【0039】
触媒抑制剤としても知られている硬化速度コントローラーGは、硬化反応を遅くするように設計されている。硬化速度コントローラーは当技術分野で周知であり、そのような材料の例は米国特許に見出すことができる。米国特許第3,923,705号は、ビニル含有環状シロキサンの使用に言及している。米国特許第3,445,420号は、アセチレンアルコールの使用を記載している。米国特許第3,188,299号は、複素環式アミンの有効性を示している。米国特許第4,256,870号は、硬化を制御するために使用されるマレイン酸アルキルについて記載している。米国特許第3,989,667号に記載されているように、オレフィンシロキサンを使用することもできる。ビニルラジカルを含むポリジオルガノシロキサンも使用されており、この技術は、米国特許第3.498,945号、第4,256,870号、及び第4,347,346号に見ることができる。この組成物の好ましい抑制剤は、メチルビニルシクロシロキサン、3-メチル-1-ブチン-3-オール、及び1-エチニル-1-シクロヘキサノールであり、最も好ましいのは、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニル-シクロテトラシロキサンであり、所望の硬化速度に応じて、シリコーン化合物の0.002~1.00%の量である。好ましい硬化速度コントローラーGは、以下の中から選択される:1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニル-シクロテトラシロキサン、3-メチル-1-ブチン-3-オール、及び1-エチニル-1-シクロヘキサノール(ECH)。
【0040】
より長い作業時間又は「ポットライフ」を得るために、硬化速度コントローラーG1の量は、所望の「ポットライフ」に到達するように調整される。本シリコーン組成物中の触媒阻害剤の濃度は、高温での硬化を防止又は過度に延長することなく、室温での組成物の硬化を遅らせるのに十分である。この濃度は、使用する特定の抑制剤、ヒドロシリル化触媒の性質と濃度、及びオルガノヒドロゲノポリシロキサンの性質によって大きく異なる。白金族金属1モルあたり1モルの抑制剤という低い抑制剤濃度は、場合によっては、満足のいく貯蔵安定性と硬化速度をもたらす。他の例では、白金族金属1モルあたり最大500モル以上の抑制剤の抑制剤濃度が必要とされ得る。所与のシリコーン組成物中の特定の抑制剤の最適濃度は、ルーティン実験によって容易に決定することができる。
【0041】
本発明による硬化性LSR組成物は、鎖延長剤をさらに含み得、鎖延長剤は、ジオルガノヒドロゲンシロキシ末端ポリオルガノシロキサンであり得る。適切なジオルガノヒドロゲンシロキシ末端ポリオルガノシロキサンの例として、25℃で1~500mPa・s、好ましくは5~200mPa・s、さらにより好ましくは1~30mPa・sの動粘度を有する、ジメチルヒドロゲンシロキシ末端基を含むポリジメチルシロキサンを挙げることができる。
【0042】
特に有利な鎖延長剤は、式MHXHのポリ(ジメチルシロキシ)-α、ω-(ジメチルヒドロゲンシロキシ)であり、式中:
-MH=式(H)(CH32SiO1/2のシロキシ単位
-D=式(CH32SiO2/2のシロキシ単位
-xは、値が1~200、好ましくは1~150、さらにより好ましくは3~120の整数である。
【0043】
鎖延長剤は、架橋時にネットワークのメッシュサイズを大きくする効果があると推定されるため、「鎖延長剤」と呼ばれる。SiH反応性官能基が鎖末端にある場合、「テレケリック」ポリマーという用語が使用されることがある。
【0044】
本発明による硬化性液体ゴム組成物は、使用前に2つの部分からなる構成要素システム(パーツA及びパーツB)として保管することができる。第1の成分(パーツA)は、ビニルシロキサンポリマー(成分(A))、充填剤D及びヒドロシリル化触媒Cを含み得る。一方、第2の成分(パーツB)は、ビニルシロキサンポリマー(成分(A))、充填剤D、有機ケイ素化合物B、硬化速度コントローラーG、及び少なくとも1つの脂肪酸エステルGと少なくとも1つのトリアゾール化合物Eを含む混合物Mを含み得る。前記治療有効量の医薬品有効成分Fは、異なる部分に貯蔵され得、本発明による上記の硬化性液体シリコーンゴム組成物を調製するため、硬化直前に、パーツA及びパーツBの成分を混合することによって調製された混合物に添加され得る(1:1の重量比)。
【0045】
硬化性液体シリコーンゴム組成物の硬化は、利用される液体シリコーンゴムのタイプに応じて実施することができる。典型的な硬化温度は、60~220℃、あるいは80~190℃の範囲であり得る。
【0046】
一実施形態では、本発明は、上記で定義された本発明による前記硬化性液体シリコーンゴム組成物を、好ましくは60~220℃の範囲の温度で加熱及び成形することにより、硬化及び成形することによって得られる成形シリコーンゴムに関する。
【0047】
硬化は、例えば、モールド内で行われて、成形されたシリコーン物品を形成することができる。本発明による硬化性液体シリコーンゴム組成物は、例えば、薬デリバリーデバイスを調製するために、好ましくは射出成形装置又は圧縮成形装置を介して、硬化及び成形することができる。
【0048】
別の実施形態において、本発明は、膣内薬デリバリーデバイスであることを特徴とする上記のような薬デリバリーデバイスに関する。
【0049】
ここで、本発明は、以下の非限定的な例によって開示される。
【実施例
【0050】
I)原材料
-オルガノポリシロキサンA-1=25℃で約4,000mPa・sの粘度を有する、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン;
-オルガノポリシロキサンA-2=25℃で約100mPa・sの粘度を有する、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン;
-以下からなるオルガノポリシロキサン樹脂混合物1:
60重量%のオルガノポリシロキサンA-3=25℃で約60,000mPa・sの粘度を有する、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサンA-3、及び
40重量%の本質的に以下からなる式MDViQのシリコーン樹脂:
(a)式RR’SiO2/2の2価シロキサン単位DVi
(b)式R3SiO1/2の1価シロキサン単位M
(c)式SiO4/2の4価シロキサン単位Q
ここで、Rはメチル基を示し、R’はビニル基を示す。
-LSRベース1は、次の混合物を含む:
オルガノポリシロキサンA-4=25℃で約100,000mPa・sの粘度を有する、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン、
オルガノポリシロキサンA-3=25℃で約60,000mPa・sの粘度を有する、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン、及び
約300m2/gのBET比表面積を有し、ヘキサメチルジシラザンとテトラメチルジビニルシラザンで現場で処理されたシリカの約30重量%。
-LSRベース2は、次の混合物を含む:
オルガノポリシロキサンA-5=25℃で約20,000mPa・sの粘度を有する、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン、
約300m2/gのBET比表面積を有し、ヘキサメチルジシラザンとテトラメチルジビニルシラザンで現場で表面処理されたシリカの約30重量%。
-有機ケイ素化合物B-1:(H)(CH32SiO1/2単位及びSiO4/2単位を含むシリコーン樹脂(M’Q)。
-混合物M1=1重量%のベンゾトリアゾールと99重量%のミリスチン酸イソプロピル。
-触媒C1-=10重量%の白金金属。ジメチルビニルダイマー(350mPa・s)で希釈され、Johnson Matthey Companyから販売されているカルステットの触媒として知られている。
-硬化速度コントローラーG-1:1-エチニル-1-シクロヘキサノール(ECH)
【0051】
【表1】
【0052】
硬化性液体シリコーンゴム組成物1~8は、1:1の重量比のパーツA及びパーツBで混合することによって調製された。次に、射出成形(約180℃の温度で硬化)の前に、医薬品有効成分(レボノルゲストレル)をさまざまな量で添加して、薬デリバリーデバイスとして適した成形シリコーンゴムを生成した。