(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】爪真菌感染症のレーザ支援局所治療のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 18/20 20060101AFI20240722BHJP
A61N 5/067 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
A61B18/20
A61N5/067
(21)【出願番号】P 2021555488
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 US2020015200
(87)【国際公開番号】W WO2020190376
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-01-25
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン リチャード ロックス
(72)【発明者】
【氏名】ガリビアン リリト
(72)【発明者】
【氏名】リー カチウ
(72)【発明者】
【氏名】オンウディウェ オゲ
(72)【発明者】
【氏名】ファリネッリ ウィリアム エイ.
(72)【発明者】
【氏名】マンステイン ディーター
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0069741(US,A1)
【文献】特表2004-505928(JP,A)
【文献】国際公開第2009/138459(WO,A1)
【文献】特表2008-539907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/20
A61N 5/067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染した爪を治療するためのレーザ支援局所治療システムであって、前記レーザ支援局所治療システムが、
レーザと、
ビヒクルおよび薬物を含む治療剤
と、
前記感染した爪を囲むように配置されたエンクロージャと、
を含み、
前記感染した爪を貫通し、前記感染した爪を通る複数のチャネルを生成するビームを出力するよう、前記レーザが構成され、
前記治療剤が、前記感染した爪の表面に塗布されて前記複数のチャネルに流
入し、
前記エンクロージャが、前記複数のチャネル内の前記治療剤の分配を促進するために、前記複数のチャンネル内の空気が膨張し、前記複数のチャンネル内から逃げるように、前記感染した爪に正および負の圧力を交互に供給するように構成された圧力源に接続されている、
レーザ支援局所治療システム。
【請求項2】
アクチュエータをさらに備え、前記アクチュエータが、経路に沿って前記レーザを移動させるように構成される、請求項1に記載の治療システム。
【請求項3】
前記レーザが、1ナノ秒以下のパルス持続時間を規定する、請求項1に記載の治療システム。
【請求項4】
前記複数のチャネルが、250マイクロメートル以下の幅を有する、請求項1に記載の治療システム。
【請求項5】
前記複数のチャネルが、1ミリメートル以下の間隔で配置される、請求項1に記載の治療システム。
【請求項6】
前記複数のチャネルが、50~200マイクロメートルの間隔で配置される、請求項5に記載の治療システム。
【請求項7】
前記複数のチャネルが、前記感染した爪の遠位部分に配置される、請求項1に記載の治療システム。
【請求項8】
前記複数のチャネルが、前記感染した爪の近位部分に配置される、請求項1に記載の治療システム。
【請求項9】
前記ビヒクルが、エポキシ樹脂、アクリレート、シリコーン、ゴム、ガラス繊維、ケラチン、コラーゲン、またはカゼインのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の治療システム。
【請求項10】
前記治療剤が、1.45~1.55の屈折率を規定する、請求項1に記載の治療システム。
【請求項11】
複数のレーザをさらに備える、請求項1に記載の治療システム。
【請求項12】
前記複数のレーザが、平行な経路に沿って移動するように構成される、請求項11に記載の治療システム。
【請求項13】
前記レーザが、近赤外レーザまたは紫外線レーザである、請求項1に記載の治療システム。
【請求項14】
前記レーザが、400ナノメートル以下の波長を有する前記ビームを出力するように構成される、請求項1に記載の治療システム。
【請求項15】
前記レーザが、350ナノメートル以下の波長を有する前記ビームを出力するように構成される、請求項1に記載の治療システム。
【請求項16】
前記レーザが、経路に沿って移動するように構成される、請求項1に記載の治療システム。
【請求項17】
前記レーザが移動する前記経路が直線状である、請求項16に記載の治療システム。
【請求項18】
前記レーザが移動する前記経路が湾曲している、請求項16に記載の治療システム。
【請求項19】
前記レーザが移動する前記経路が、前記感染した爪に合わせて調整されている、請求項16に記載の治療システム。
【請求項20】
前記治療剤を充填または再充填することができる、前記治療剤を保持するためのリザーバを形成する被覆層をさらに備える、請求項1に記載の治療システム。
【請求項21】
感染した爪を治療するためのレーザ支援局所治療システムであって、前記レーザ支援局所治療システムが、
経路に沿って移動し、ビームを出力して前記感染した爪に貫通させ、前記感染した爪を通る複数のチャネルを形成するように構成されたレーザと、
ビヒクルおよび薬物を含む治療剤
と、
前記感染した爪を囲むように配置されたエンクロージャと、
を含み、
前記治療剤が、前記感染した爪の外面に塗布されて前記複数のチャネルに流入し、
前記複数のチャネルは、幅が250マイクロメートル以下であり、1ミリメートル以下の間隔で配置さ
れ、
前記エンクロージャが、前記複数のチャネル内の前記治療剤の分配を促進するために、前記複数のチャンネル内の空気が膨張し、前記複数のチャンネル内から逃げるように、前記感染した爪に正および負の圧力を交互に供給するように構成された圧力源に接続されている、レーザ支援局所治療システム。
【請求項22】
前記治療剤が、1.45~1.55の屈折率を規定する、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項23】
前記レーザが移動する前記経路が直線状である、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項24】
前記レーザが移動する前記経路が湾曲している、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項25】
前記レーザが移動する前記経路が、前記感染した爪に合わせて調整されている、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項26】
前記レーザが、近赤外レーザまたは紫外線レーザである、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項27】
前記レーザが、400ナノメートル以下の波長で動作する、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項28】
前記レーザが、350ナノメートル以下の波長で動作する、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項29】
前記レーザが、1ナノ秒以下のパルス持続時間を規定する、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項30】
アクチュエータをさらに備え、前記アクチュエータが、前記経路に沿って前記レーザを移動させるように構成される、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項31】
前記複数のチャネルが、前記感染した爪の遠位部分に配置される、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項32】
前記複数のチャネルが、前記感染した爪の近位部分に配置される、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項33】
前記ビヒクルが、エポキシ樹脂、アクリレート、シリコーン、ゴム、ガラス繊維、ケラチン、コラーゲン、またはカゼインのうちの少なくとも1つを含む、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項34】
複数のレーザをさらに備える、請求
項21に記載の治療システム。
【請求項35】
前記複数のレーザが、平行な経路に沿って移動するように構成される、請求
項34に記載の治療システム。
【請求項36】
前記治療剤を充填または再充填することができる、前記治療剤を保持するためのリザーバを形成する被覆層をさらに備える、請求項21に記載の治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月15日に出願された米国仮特許出願第62/818,987号および2019年5月15日に出願された米国仮特許出願第62/848,213号に基づいており、これらに対する優先権を主張し、これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究に関する声明
該当せず
【背景技術】
【0003】
爪真菌症は、一般的な爪真菌であり、典型的には、肥厚した、脆い、砕けやすい、またはでこぼこした爪を引き起こす。従来、爪真菌症の治療には、局所用ラッカー、経口抗真菌薬、または爪剥離が含まれている。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、爪真菌感染症のレーザ支援局所治療のためのシステムおよび方法を提供する。
【0005】
一態様では、本開示は、感染した爪を治療するためのレーザ支援局所治療システムを提供する。治療システムは、レーザおよび治療剤を含む。治療剤は、ビヒクルおよび薬物を含む。レーザは、感染した爪を貫通して感染した爪を通るチャネルを形成するビームを出力するように構成される。治療剤は、感染した爪の表面に塗布され、チャネルに流入する。
【0006】
別の態様では、本開示は、感染した爪をレーザを使用して治療する方法を提供する。この方法は、感染した爪に対してレーザを位置決めすることを含む。次いで、感染した爪の表面にレーザを貫通させて、感染した爪の表面を通るチャネルを形成する。治療剤は、感染した爪の表面に塗布され、チャネルに流入する。
【0007】
別の態様では、本開示は、感染した爪を治療するためのレーザ支援局所治療システムを提供する。治療はレーザを含み、レーザは経路に沿って移動し、ビームを出力して感染した爪に貫通させ、感染した爪を通る複数のチャネルを形成する。治療は、ビヒクルおよび薬物を含む治療剤をさらに含む。治療剤は、爪の外面に塗布され、複数のチャネルに流入する。チャネルは、幅が250マイクロメートル以下であり、1ミリメートル以下の間隔で配置される。さらに、治療剤は、1.45~1.55の屈折率を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の態様によるレーザ支援局所治療システムの概略図である。
【
図3a】真菌性爪を治療する
図1のレーザ支援局所治療システムの側面図である。
【
図3b】
図3aのレーザ支援局所治療システムの上面図である。
【
図4a】レーザが平面経路を横切る
図3aのレーザ支援局所治療システムの正面図である。
【
図4b】レーザが湾曲経路を横切る
図3aのレーザ支援局所治療システムの正面図である。
【
図5】複数のレーザを含むレーザ支援局所治療システムの正面図である。
【
図6a】格子パターンのレーザを有する
図5のレーザ支援局所治療システムの上面図である。
【
図6b】線パターンのレーザを有する
図5のレーザ支援局所治療システムの上面図である。
【
図6c】ランダムパターンのレーザを有する
図5のレーザ支援局所治療システムの上面図である。
【
図7a】爪の遠位部分の治療中の
図3aのレーザ支援局所治療システムの側面図である。
【
図7b】爪の近位部分の治療中の
図3aのレーザ支援局所治療システムの側面図である。
【
図8a】本開示によるレーザ支援局所治療システムのレーザが通過する経路を示すつま先の平面図である。
【
図8b】本開示によるレーザ支援局所治療システムのレーザが通過する別の経路を示すつま先の平面図である。
【
図8c】本開示によるレーザ支援局所治療システムのレーザが通過する別の経路を示すつま先の平面図である。
【
図8d】本開示によるレーザ支援局所治療システムのレーザが通過する別の経路を示すつま先の平面図である。
【
図9a】本開示によるレーザ支援局所治療システムのレーザが通過する1つの経路を示すつま先の平面図である。
【
図9b】本開示によるレーザ支援局所治療システムのレーザが通過する別の経路を示すつま先の平面図である。
【
図9c】本開示によるレーザ支援局所治療システムのレーザが通過する別の経路を示すつま先の平面図である。
【
図9d】本開示によるレーザ支援局所治療システムのレーザが通過する別の経路を示すつま先の平面図である。
【
図10a】レーザアブレーション後の
図7の足指爪の側面図である。
【
図14】囲まれ、圧力源に接続された治療済みの爪の概略図である。
【
図15】本開示の態様によるレーザ支援局所治療の方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
爪真菌症は、手指の爪および足の爪の真菌感染症である。これにより、爪が変色、肥厚、および/または脆くなる可能性がある。さらに、爪がその爪床から分離する可能性がある。爪真菌症は、治療が困難であり得、時間のかかる治療プロセスを必要とする。爪真菌症の一般的な治療には、経口抗真菌薬が含まれる。これらの経口薬は効果的であり得るが、一般的に作用が遅く、薬物相互作用、肝不全、不整脈、および死亡などの極端な全身性副作用を引き起こす可能性がある。別の一般的な治療には、局所用ネイルラッカーまたはネイルクリームが含まれるが、この治療はネイルラッカーまたはネイルクリームを長期間にわたって再塗布する必要があるため、通常は効果的でなく面倒である。さらに、局所的なネイルラッカーおよびクリームは、爪甲内への拡散および爪甲内での拡散の距離が限られている。その結果、局所薬物は、爪の下の空間である爪下空間など、真菌性爪のすべての感染領域にアクセスすることができない可能性がある。近年、爪真菌症の治療方法としてレーザが利用されている。より具体的には、光熱レーザだけでなく、高強度青色光も商品化されている。これらのレーザ治療はどちらも多くの露光を必要とし、しばしば痛みを伴う。したがって、効果的で効率的であり、痛みを最小限に抑える爪真菌症の治療が必要とされている。
【0010】
説明するように、本開示は、真菌性爪の治療および予防を提供することができるシステムおよび方法を提供する。より具体的には、本開示は、感染した爪の爪真菌症を治療および予防することができるシステムおよび方法を提供する。本開示は、従来の治療と比較して、感染した爪のための一度で終わる解決策を提供し、短い時間(例えば、15分)で行うことができる治療のためのシステムおよび方法を提供する。より具体的には、本開示のレーザ支援局所治療は、1回または2回行うだけで有効であり得る。
【0011】
本明細書に記載のシステムおよび方法は、一般に、感染した爪を局所薬物が貫通するための経路を提供するために、部分的レーザアブレーションを利用する。
図1に示すように、本開示の非限定的な例による爪真菌症を治療するためのレーザ支援局所治療システム10は、レーザ20、アクチュエータ30、およびコントローラ40を含み得る。コントローラ40は、例えば、無線または有線接続のいずれかでレーザ20およびアクチュエータ30と通信することができる。いくつかの非限定的な例では、コントローラ40は、レーザ20の起動を制御することができる。例えば、コントローラ40は、レーザ20をトリガすることができ、レーザ20の出力パラメータ(例えば、パルス幅、出力電力、出力パルスの数、出力周波数、出力エネルギー、放出のタイミングなど)を決定することができる。
【0012】
いくつかの非限定的な例では、アクチュエータ30はレーザ20に結合され、レーザ20を経路に沿って移動させて、感染した爪を通る複数の小さなチャネル(例えば、部分的なレーザアブレーション)を形成することができる。いくつかの非限定的な例では、アクチュエータ30は、感染した爪に対して3軸の動きに沿ってレーザ20を移動させるように構成されてもよい。いくつかの非限定的な例では、アクチュエータ30は、感染した爪に対して1軸または2軸の動きに沿ってレーザ20を移動させるように構成されてもよい。いくつかの非限定的な例では、アクチュエータ30は、感染した爪上のほぼ平坦な経路に沿ってレーザ20を移動させることができる。いくつかの非限定的な例では、アクチュエータ30は、レーザ20をほぼ湾曲した経路に沿って移動させ、レーザ20を感染した爪の外面(例えば、上部)に対して垂直に維持することができる。アクチュエータ30は、空気圧アクチュエータ、電気アクチュエータ、油圧アクチュエータ、電磁アクチュエータ、ロボットアーム、または治療される感染した爪に対するレーザ20の位置を制御することができる別の機構上の形態であってもよい。一般に、コントローラ40はアクチュエータ30を作動させることができ、アクチュエータは、感染した爪上の経路に沿ってレーザ20の移動を開始することができる。いくつかの非限定的な例では、コントローラ40は、感染した爪上の所定の位置(例えば、x、y、z座標)にレーザ20を移動させるようにアクチュエータ30に命令することができる。
【0013】
いくつかの非限定的な例では、レーザ20が静止状態に保持され、治療される感染した爪をレーザ20に対して移動させてもよい。
【0014】
レーザ支援局所治療システム10は、ビヒクルおよび薬物を含む治療剤(図示せず)をさらに含む。一般に、レーザ20は、感染した爪を通る複数のチャネルを形成するために使用され、それにより、感染した爪の下の爪下空間へのアクセスを可能にする。次いで、治療剤がチャネルを通過して爪下空間を満たすように、治療剤を感染した爪の外面に塗布することができる。いくつかの非限定的な例では、本明細書に記載されるように、治療剤が爪下空間を確実に満たすように追加の工程を行うことができる。
【0015】
図2aおよび
図2bを参照すると、レーザ支援局所治療システム10は、爪真菌症に感染した爪102を対象とすることができる。爪102は、爪102の近位部分108に非感染領域104を含み、爪102の遠位部分116に感染領域112を含み得る。場合によっては、感染領域104は爪102の10%のみを占めてもよい。さらに、他の例では、感染領域104は爪の50%以上を占めてもよい。他の例では、感染領域104は爪の約50%~100%を占めてもよい。本明細書に記載されるように、感染領域104には爪甲離床症が発生する可能性があり、爪甲離床症とは、爪102がその周囲の皮膚(すなわち、爪床)から分離することである。爪甲離床症が起こると、爪102の下の爪下空間118に隙間が存在する可能性がある。その結果、爪甲離床症が爪102の大部分を占める場合、爪は剥離(すなわち、断裂または強制的な分離)のリスクがあり得る。
【0016】
図3aおよび
図3bを参照すると、レーザ支援局所治療システム10のレーザ20は爪102を貫通するように設けられ得る。一般に、レーザ20は、例えばアクチュエータ30を介して移動することができ、その結果、レーザ20によって出力されたビーム110は、爪102の表面122の表面積全体にアクセスすることができる。一般に、レーザ20は、爪102の表面122の上方に配置され、レーザ20によって出力されたビーム110が爪102の表面122に向けられるように配向されてもよい。このようにして、例えば、レーザ20によって出力されたビーム110を使用して、爪102を通って延びる爪102の表面122の1つまたは複数のチャネルをアブレーションすることができる。
【0017】
本明細書で説明するように、レーザ20は、爪102の表面122の上で移動可能であってもよい。いくつかの非限定的な例では、
図4aに示すように、アクチュエータ30は、レーザ20を平面方向に移動させることができる。すなわち、レーザ20は、爪102の表面122上の中心点にほぼ平行に配置された平面内で移動することができる。あるいは、
図4bに示すように、アクチュエータ30は、レーザ20が爪102の上を横方向に移動するときに、レーザ20をほぼ湾曲した経路で移動させることができる。このようにして、例えば、設けられたレーザ20は、湾曲面122に適応するように構成されてもよい。より具体的には、レーザ20は、爪102の表面122に対して移動して、治療時間全体にわたって表面122から一定の距離に留まることができる。言い換えれば、レーザ20によって出力されたビーム110は、レーザ20が爪102を横切って横方向に移動するとき、爪102の表面122に対して垂直のままであり得る。
【0018】
図3a~
図4bに示す非限定的な例では、レーザ支援局所治療システム10は、1つのレーザ20を含むことができる。いくつかの非限定的な例では、
図5~
図6cに示すように、レーザ支援治療システムは、複数のレーザ20を含むことができる。例えば、
図5を参照すると、レーザ支援治療システムは、感染した爪102の上に配置された複数のレーザ20を含むことができる。図示の非限定的な例では、複数のレーザ20は、爪102上で横方向に間隔が空き、ほぼ湾曲したパターンで配置される。すなわち、レーザ20の各々に角度が付けられて、出力されるビーム110がそれにより爪102の表面122に対して垂直に配置されるように出力されるビームを配置してもよい。
【0019】
図6a~
図6cを参照すると、レーザ20は、様々な配置で爪102上に編成することができる。例えば、
図6aを参照すると、複数のレーザ20は、感染した爪102のかなりの部分をカバーすることができる。すなわち、複数のレーザ20は、レーザ20がほぼ平行な行および列に配置されたグリッド形成で配置されてもよい。追加的または代替的に、
図6bに示すように、レーザ20は、単一の列に配向されてもよい。
図6bに示す例は、爪102の遠位端から爪102の近位端まで延びる一列に配置されたレーザ20を示しているが、レーザ20は、爪102を横切って横方向に延びる一列に配置されてもよい。さらに、
図6cを参照すると、レーザ20はランダムなパターンで配置されてもよい。複数のレーザ20を利用することにより、本開示によるレーザ支援局所治療の効率を高めることができる。例えば、爪102のより大きな表面積を同時に治療することができるため、治療の持続時間を短縮することができる。
【0020】
図7aを参照すると、動作中、レーザ20は、爪102の表面122上の様々な位置に向けられた1つまたは複数のビーム110を出力するようにコントローラ40によってトリガされ得る。爪102の表面122に入射するビーム110は、爪102から物質を除去して、爪102を通って延びるチャネル140を形成することができる。いくつかの非限定的な例では、チャネル140が爪102を通って延びるまで、爪102の表面122上の同じ位置でレーザ20によって一連のビーム110を出力することができる。レーザ20が所定の経路に沿って移動すると、レーザ20は、爪102を通る複数のチャネル140を形成するために、所与の位置に1つまたは複数のビーム110を出力し続けることができる。
【0021】
図8a~
図8dは、レーザ20(例えば、
図7aおよび
図7bを参照)が移動することができる経路130の非限定的な例を示す。例えば、
図8aに示すように、レーザは、軸線Aで示す軸方向に爪102を横切って徐々に移動しながら、感染した爪102を軸線Lで示す横方向に交互の方向に横切って走ることができる。追加的または代替的に、
図8bに示すように、レーザは、横方向Lに爪102上を移動しながら交互の方向に軸方向Aに沿って移動することができる。しかしながら、本開示によるレーザ20は、
図8aおよび
図8bに示すように対称的な経路に沿って移動しなくてもよい。例えば、追加の非限定的な例が
図8cに示されており、経路130はランダムおよび/または非直線状であり得る。さらに、経路130は、治療を受けている個人に合わせて調整(すなわち、カスタマイズ)することができる。
【0022】
図8a~
図8cは、感染した爪102の表面122のほぼ全表面積をカバーする経路に沿って移動するレーザを示しているが、レーザ20は爪102のすべての領域をアブレーションする必要はない場合がある。むしろ、レーザ20が爪102の一部のみをアブレーションすることが望ましい場合がある。より具体的には、場合によっては、レーザ20が感染した爪の40%~50%をアブレーションすることが望ましい場合がある。場合によっては、レーザ20が感染した爪の30%~60%をアブレーションすることが望ましい場合がある。場合によっては、レーザ20が感染した爪の20%~70%をアブレーションすることが望ましい場合がある。場合によっては、レーザ20が感染した爪の10%~80%をアブレーションすることが望ましい場合がある。場合によっては、レーザ20が感染した爪の0%~90%をアブレーションすることが望ましい場合がある。
【0023】
例えば、
図7aに示すように、爪真菌症は、しばしば爪102の遠位部分116で始まる、すなわち、真菌感染は爪102の先端付近で始まり、爪甲全体に感染しない場合がある。したがって、爪102の遠位部分116のみが治療を必要とし得る。あるいは、
図7bに示すように、爪102の近位部分117が治療され得る(例えば、近位部分を通る複数のチャネルのためにアブレーションされる)。このようにして、例えば、爪102が自然に成長するにつれて、爪102に塗布された治療剤を爪102上に適用することができる(例えば、近位部分117から遠位部分116に分散する)。
【0024】
図9a~
図9dは、本開示の態様による、複数のレーザ20が移動することができる経路の非限定的な例を提供する。
図9aを参照すると、複数のレーザ20は、横方向に間隔が空いていてもよく、爪102の軸方向Aに沿ってなど、直線状経路130に沿って移動してもよい。追加的または代替的に、
図9bを参照すると、複数のレーザ20は、軸方向に間隔が空いていてもよく、横方向Lに沿ってなど、直線状経路130に沿って移動してもよい。複数のレーザ20がグリッドに配置されている場合、例えば、
図6aの構成と同様に、複数のレーザ20は、
図9cに示すように、経路130に沿って同期して移動してもよい。さらに、追加的または代替的に、複数のレーザ20は、
図9dに示すように、互いに独立して、および/またはランダムな非直線状経路130に沿って移動してもよい。
【0025】
一般に、経路130および爪102に形成された複数のチャネル140の対応するパターンは、例えば、本明細書に開示された経路130のうちの1つおよび/または本明細書に開示された経路130のうちの2つ以上の組み合わせを含む任意の形態をとることができる。いくつかの非限定的な例では、複数のチャネル140は、爪102の注入領域へのアクセスを提供する位置に形成されてもよい。代替的にまたは追加的に、複数のチャネル140は、爪102の爪下空間118へのアクセスを提供する位置に形成されてもよい(例えば、
図10aおよび
図10bを参照)。
【0026】
図10aおよび
図10bは、レーザ20が爪102の感染領域112をアブレーションし、それによって爪102を通る複数のチャネル140を形成した後の爪102の非限定的な一例を示す。
図10bに最もよく見られるように、複数のチャネル140の各々、または複数のチャネル140の少なくとも一部は、爪102を通って爪下空間118に完全に延びてもよい。完全な爪甲離床症が存在する場合、爪下空間118は、爪102の下に連続的な間隙を含み得る。さらに、場合によっては、部分的な爪甲離床症が起こり得る。すなわち、爪甲離床症は斑状であり得るので、爪下空間118は爪102の下に散在する隙間を含み得る。一般に、複数のチャネル140の少なくとも1つは、爪102の表面122から爪下空間118へのアクセスを提供することができる。
【0027】
図11aおよび
図11bを参照すると、レーザが複数のチャネル140を、好ましくは感染領域112を通り、場合によってはそれに隣接する非感染領域104の一部を通って形成すると、爪102に治療剤150を適用する準備が整う。例えば、治療剤150は、少なくとも活性薬物を含み得る。いくつかの非限定的な例では、治療剤150は、活性薬物およびビヒクルを含み得る。治療剤150は、治療剤150が複数のチャネル140を通過することができるように、爪102の表面122に塗布され得る。治療剤150が複数のチャネル140内に少なくとも部分的に配置されると、治療剤150は、従来の治療用ラッカーと比較して爪102の表面積のより多くを占めることができ、治療剤150の有効性を高めることができる。さらに、チャネル140は、爪下空間118へのアクセスを提供するので、治療剤150は、爪下空間118に流入して係合することができる。部分的または完全な爪剥離症が生じている場合、治療剤150は、爪102と爪床との間の既存の隙間を充填することができる。
【0028】
図12a~
図13を参照すると、前述のように、レーザ支援局所治療システム10は、爪真菌症に感染した爪を治療するために実施され得る。爪下空間118へのアクセスを提供することにより、治療剤150は、従来の治療と比較して、感染した爪102のより大きな部分にアクセスすることができる。その結果、治療剤150中の薬剤がより効果的となり得る。さらに、本開示の一態様は、爪真菌症のための一度で終わる治療を提供することであり得る。すなわち、レーザ支援局所治療は、1回適用されるだけでよい場合がある。
図11aから
図13への感染領域112の後退で示すように、爪が成長し、非感染領域104が長くなりつつ、治療剤150は感染領域112および/または爪下空間118内に留まることができる。したがって、治療剤150は、感染領域112が切り取られ、非感染領域104のみになる(
図13)までは、爪102が自然に成長しながら無傷のままであり得る。
【0029】
上述のように、爪真菌症の既存の治療は、効果的であるために複数回の適用を必要とすることが多い。したがって、これらの既存の治療は面倒であり、一般に効果的ではない。したがって、本開示は、単純かつ効果的な爪真菌症のための一度で終わる解決策を提供することを意図する。例えば、本開示のレーザ補助局所治療は、1回または2回適用するだけ有効であり得る。一度で終わる治療が成功するためには、薬物の送達を延長しなければならない。すなわち、薬物は、少なくとも、感染した爪が自然に成長し、通常の爪切りによって除去されるのにかかる時間、活性かつ適切なままであるべきである。例えば、足の親指の爪は、成長するのに6ヶ月もかかる場合がある。したがって、足の親指の爪の感染症を首尾よく治療するために、薬物は6ヶ月間も活性のままである必要があり得る。
【0030】
しかしながら、ある期間(例えば、1ヶ月)を過ぎると薬物濃度が枯渇する場合、その期間が治療の適切な間隔をほぼ規定すべきである。したがって、治療は、感染した爪が成長して健康な爪に置き換わるまで、その間隔で繰り返されるべきである。前述の例を使用すると、足の親指の爪甲は、通常、約6ヶ月で自然な成長によって置き換えられる。したがって、薬物は、その期間にわたって存在し、活性なままでなければならない。そうでなければ、爪が成長するまで、規定の間隔で追加の治療を行うべきである。さらに、爪真菌症は遠位であることが多く、これは、真菌感染が爪の先端付近で始まり、爪甲全体に感染することができない場合があることを意味する。したがって、本開示によるレーザ支援局所治療は、感染した爪の遠位部分にわたって実行されるだけでよい場合がある。爪の遠位部分のみが治療される場合、持続的な抗真菌薬送達に必要な期間は幾分短くなり得る。追加的または代替的に、本開示によるレーザ支援局所治療は、爪が成長するにつれて「プッシュブルーム」方式で真菌を排除することを可能にするために、爪の近位部分に単純に適用されてもよい。
【0031】
本開示の好ましい態様は、一度で終わる治療を提供することであるが、一度で終わる治療は、感染した爪のすべての症例に適切であるとは限らない。例えば、感染した爪の元の治療後、爪が成長するにつれて、感染した爪の新しい領域が感染する場合がある。したがって、感染症を首尾よく治療するために追加の治療が必要となり得る。追加の治療が必要な場合、最初の治療中に使用された治療剤が、感染した爪と非常に似たようにレーザアブレーションに反応することが重要であり得る。すなわち、治療剤150は、レーザ20からのレーザ露光時に発火したり、接着が緩んだり、炭化したり、明らかに変色したりしてはならない。治療剤がレーザ露光に対処できることを保証することにより、最初に治療されたパターンおよび領域に関係なく、追加の治療を爪に適用することが可能になる(すなわち、感染した爪は、新しい未治療の爪であるかのように治療することができる)。さらに、爪真菌症は皮膚感染症として始まる。したがって、爪の感染および/または再感染を防止するための重要な工程は、爪の周囲の皮膚を治療することである。したがって、本開示のレーザ支援局所治療は、抗真菌クリーム、粉末、またはスプレーなどの既存の局所治療と組み合わせて使用することが望ましい場合がある。
【0032】
理想的には、治療剤150は、自然な成長による爪の置換に必要な時間よりも長い期間にわたって爪甲中の薬物の持続的な存在および濃度を提供することができる。感染した爪内の有効レベルの抗真菌薬の長期送達および持続的存在は、十分に高い体積分率、十分に高い薬物濃度、および安定な薬物の組み合わせによって達成され得る。爪における治療剤の最大体積分率は、アブレーション(すなわち、除去)の体積分率に等しい。例えば、爪の50%がアブレーションされている場合、爪体積の最大50%を治療剤で満たすことができる。追加的または代替的に、治療剤は、体積分率を増加させるために爪の外面(例えば、表面122)および爪床の両方に供給されてもよい。より具体的には、かつ好ましくは、治療剤の追加の被覆層(例えば、
図11bの被覆層124を参照)を、既存のネイルラッカーまたはクリームなどを用いて爪の外面(例えば、表面122)に塗布することができる。被覆層は、例えば、患者が家庭で週に1回塗布できるネイルラッカーであってもよい。場合によっては、被覆層は、治療剤を保持するためのリザーバを形成することができ、再充填することができる。この場合、圧力源を使用して爪に正および負の圧力を交互に供給して、リザーバへの治療剤の流れを促進することができる。さらに、場合によっては、被覆層は、治療剤がチャネル140および/または爪下空間118に留まることを確実にするためのバリアとして作用することができる。さらに、爪甲離床症が発生している場合、治療剤150を爪の下および直接爪床に追加で塗布することができる。しかしながら、爪甲離床症は斑状であり得、爪甲と爪床との間の見えない間隙をもたらし得るため、レーザアブレーションによる薬物の送達は、これらの隙間を埋めることができる。さらに、感染した爪が爪甲離床症を伴う場合、爪下空間に入り、上にある爪に結合するビヒクルを使用することにより、爪下経路による再感染を大幅に低減することができる。したがって、ビヒクルおよび薬物が複数のチャネル140を通って爪に入り、チャネル140をビヒクルおよび薬物を含む治療剤150で満たし、爪下空間に入って充填し、爪甲および爪床の両方に結合することが非常に望ましい。
【0033】
薬物の分配係数は、薬物の長期放出を確実にするための別の重要な因子である。治療剤のビヒクルを強く支持する薬物分配は、薬物の徐放をもたらし得る。さらに、ビヒクルに強く有利な薬物分配を、ビヒクル内の部位からの薬物の高い薬物濃度および/または時限放出(例えば、結晶性薬物粒子、カプセル化薬物、安定なリポソームなど)に加えて高い体積分率と組み合わせると、結果として非常に長期の薬物放出になり得る(すなわち、持続的な薬物存在が達成され得る)。治療剤成分として使用され得る薬物の非限定的な一例は、テルビナフィンであり、これは水および水性(極性)媒体に非常に不溶性の殺真菌剤である。治療剤が、テルビナフィンの結晶性粒子が埋め込まれるビヒクルとして極性ポリマーをさらに含む場合、治療剤の薬物含有量は、ビヒクルを通る薬物の溶解度が低く、爪への分配が少ないためにゆっくりと枯渇し得る。上述の例と同様の治療剤150を使用することは、複数のチャネル140の構成により、本開示にとって望ましい場合がある。すなわち、場合によっては、複数のチャネル140は、1ミリメートル以下の間隔で配置され得る。さらに、場合によっては、複数のチャネル140は、50から200マイクロメートル離れて配置され得る。したがって、複数のチャネル140は狭い間隔で配置され得るため、薬物は長距離拡散される必要がない場合がある。さらに、チャネル140の近接は、薬物がその周囲に失われないことを確実にすることができるため、高い薬物濃度は、完全な爪の再生に必要な時間にわたって持続することができる。
【0034】
互いに狭い間隔で配置された複数の小さなチャネルを達成するために、本開示によるレーザ支援局所治療システムは、例えば、約400ナノメートル(nm)未満の出力波長を有する紫外線(「UV」)範囲の出力ビーム110を有するレーザ20を使用することができる。さらに、レーザ20は、350nm未満の波長で動作してもよい。UV光子は、レーザ20が小さなスポットに焦点を合わせることを可能にし得る短波長を有する。例えば、約240nmのUVレーザを使用することは、小さなチャネルを生成することができるため、本開示のレーザ支援治療に望ましい場合がある。したがって、チャネル140は、250マイクロメートル以下の幅を有し得る。追加的または代替的に、高いビーム品質を有する近赤外レーザを利用することができる。複数の狭いチャネル140を達成するために、非常に短いパルス、例えばピコ秒またはフェムト秒のパルス持続時間を有するレーザを使用することが望ましい場合がある。例えば、レーザ20は、1ナノ秒以下のパルス持続時間で動作することができる。
【0035】
本開示によって必要とされ得るように爪を通る複数のチャネル140を設けることにより、大きなアブレーション体積分率および隣接するチャネル140間の非常に小さな分離に起因して、爪が力学的に弱くなる可能性がある。より具体的には、部分的な真菌消化によって既に弱まっている可能性がある爪甲は、レーザアブレーション処理後に非常に弱くなる可能性がある。このように、レーザ処理された爪は、破損、浸食、および損失を起こしやすい可能性がある。さらに、爪甲離床症も存在する場合、損害は制御されない爪剥離と同等であり得る。したがって、そのような問題を軽減するために、本開示は、感染した爪の力学的特性を回復するための態様を提供することができる。感染した爪の力学的特性の回復は、治療剤150のビヒクルが力学的に堅牢であることを確実にすることによって満たすことができる。ビヒクルが爪に力学的特性を回復させるためには、引張強度、弾性、および結合強度の組み合わせが重要な特性である。さらに、爪に部分的または完全な爪甲離床症が発生している場合、ビヒクルが爪の爪床への取り付けを回復することが望ましい場合がある。
【0036】
いくつかの化粧用ネイル材料と同様に、光を使用して、ビヒクルの重合および/または硬化を活性化し、架橋度を制御することができ、これはビヒクルの引張強度および弾性の両方に影響を及ぼし得る。したがって、ビヒクルには可視または紫外線硬化ポリマーが組み込まれてもよい。代替的または追加的に、力学的に堅牢な材料を達成するための機構として、ビヒクルに複合構造を採用してもよい。例えば、ガラス繊維をアクリルまたはエポキシビヒクルに使用して、「ガラス繊維」を作成することができる。複合材を使用すると、個々の構成材料単独を使用した場合よりも力学的に堅牢なビヒクルが得られる。追加の非限定的な例として、繊維状、粒子状、または結晶性材料をポリマー、接着剤、または他の材料と組み合わせて堅牢な複合材を形成することができる。さらに、抗真菌薬自体が複合材の固相成分であってもよい。例えば、抗真菌薬は、繊維として生じ得る構造タンパク質であるケラチンまたはコラーゲンを含み得る。
【0037】
本開示による治療剤のさらなる所望の特性には、非刺激性、非アレルギー性、安定性および非毒性が含まれる。より具体的には、感染した爪の周囲の皮膚とビヒクルが接触しているため、追加の要件は、治療剤150中のビヒクルが刺激物質またはアレルゲンではないことであり得る。必須ではないが、ビヒクルが米国食品医薬品局(FDA)のGenerally Recognized as Safe(GRAS)リストに記載されている物質で構成されていることも望ましい場合がある。非限定的な例としては、いくつかのエポキシ樹脂、アクリレート、シリコーン、他の重合材料、ゴム、ならびにケラチン、コラーゲン、およびカゼインを含むタンパク質が挙げられる。さらに、一般的なアレルゲン(例えばラテックス)を含有し、重合の副産物として毒性刺激物を放出し(例えば、アルデヒド)、分解し、皮膚糸状菌によって容易に消化され、爪周囲の生存可能な組織に放出され得る、または重合中に放出される熱によって損傷を引き起こし得る発癌物質を含有する製剤は、回避することが望ましい場合がある。しかしながら、選択された重合反応が非毒性の小分子を放出する場合、放出速度は、損傷が回避されるように十分に低くなければならない。例えば、シリコーンゴム調製物は、重合中に酢酸を放出し得る。酢酸は非毒性であるが、高濃度での長期適用では刺激性であり得る。したがって、重合の揮発性阻害剤として追加の酢酸がビヒクルに添加されると、治療が炎症を起こさせる可能性がある。したがって、非毒性小分子の放出速度が、刺激を回避するのに十分低いままであることを確実にするための工程がとられるべきである。追加的または代替的に、副生成物の放出を回避するために別の活性化剤を使用することが好ましい場合がある。例えば、シリコーンゴム調製物は、白金活性化剤を使用することにより、副生成物を放出することなく活性化され得る。
【0038】
本開示によるビヒクルの別の重要な特徴は、感染した爪のレーザアブレーションによって生成された深く狭いチャネルに流入する能力である。この能力は、十分に低い粘度、およびビヒクルと爪との間の低い表面張力を必要とする。したがって、必須ではないが、塗布後にビヒクルがその特性を変更することが望ましい場合がある。例えば、ビヒクルは、流動可能な材料として始まり、その後、塗布後に固体材料に移行することができる。より具体的には、ビヒクルは、レーザアブレーションされたチャネル140に液体として流入するかまたは容易に押し込まれてもよく、その後、固体に移行することによってチャネル140から抜け出すことなく、ある期間にわたって実質的に安定していてもよい。
【0039】
レーザ処理後、空気がチャネルを満たし、したがって、治療剤がこれらの小さなチャネルに流れ込むためには、空間内の閉じ込められた空気および他の気体を移動させなければならない。チャネルが治療剤150で完全に充填されることを確実にするために使用され得る1つの手法は、爪の表面における交互の空気圧である。例えば、
図14に示すように、治療剤150が塗布された爪102は、少なくとも部分的に囲まれ、爪102に正および負の圧力を交互に供給するように構成された圧力源160に接続されてもよい。治療剤150が液体またはゲル製剤としてチャネル上に配置されると、振動する正および負の空気圧によって、チャネル内の空気が膨張し、逃げ、最終的に治療剤をチャネル内に深く送り込むことができる。ビヒクルの低い表面張力および流動性により、治療剤150はチャネル140に徐々に侵入してコーティングし、目に見えない空間が治療剤150で実質的に満たされるまで気体を移動させることができる。さらに、使い捨てチャンバ170を使用して、治療剤150を分配する方法の間、爪102および対応する指骨または四肢に治療剤150および空気圧を閉じ込めることができる。追加的または代替的に、アブレーション可能な剛性マスクを介して各チャネルに治療剤150を注入するなど、他の手段を使用することもできる。
【0040】
治療剤150がチャネル140内に深く流れて爪甲の下に広がった後、流動可能な材料から固体で粘着性の強い材料に変化するはずである。したがって、流動性から固体への変化のタイミングは重要な特徴であり得る。流動性から固体への変化のタイミングは、一般的な一段階接着剤、接着剤、ポリマー、エラストマー、塗料、プラスチック、アクリル、シアノアクリレートなどを利用することによって好都合な時間に設定することができる。例えば、チャネル140および爪下空間118に治療剤150を塗布して充填し、任意で治療剤の被覆層150を塗布するのに2分かかる場合、液体から固体への移行時間は2分以上でなければならない。しかしながら、この時間は、不便であるほど長くてはならない。例えば、20分以上の時間は望ましくない場合がある。エポキシ樹脂および活性剤を使用して、複合材料を利用する用途における相変化を促進することができる。樹脂と活性剤とを混合した後、材料は予測可能な期間流動可能な液体のままであり、この期間は重合速度に基づいて調整することができる。別の非限定的な例として、治療剤150の相変化を促進するために、歯への充填、コーティング、接着に使用される歯科用樹脂および他の流動性/成形可能材料が与えられてもよい。これらの材料は、塗布後に自然に硬化し得る(例えば、水との接触によって活性化されるエポキシ混合物またはシアノアクリレートと同様に)。
【0041】
追加的または代替的に、露光を使用してビヒクルの硬化を活性化することができ、治療プロセスをより制御することができる。光活性化は、露光中にフリーラジカルを生成することを含み得、フリーラジカルは材料の連鎖重合を開始する。治療剤150に少量の光活性剤を添加することによって、同様の手法を使用することができる。典型的には、UV-Aまたは青色光が光活性化に使用される。しかしながら、感染した爪には真菌メラニン、シトクロム、および正常な爪には存在しない他のものなど、光を吸収する発色団が存在するため、かつ感染した爪の空隙および気体からの光散乱のため、感染した爪を通るUV-Aの透過は不十分である。光活性化には、380nmより長い波長を使用する(例えば、380~700nmの波長範囲で作用する光活性化剤を使用する)ことが好ましい場合がある。光活性化剤の非限定的な例としては、リボフラビン、ローズベンガル、フタロシアニン色素、ローダミン色素などが挙げられ得る。光活性化剤は、治療剤150の1または複数の成分に共有結合していてもよく、または独立した成分として添加されていてもよい。代替的または追加的に、活性化剤および治療剤150は、爪に塗布する別々の工程で送達されてもよい。
【0042】
治療剤150の上述の特徴に加えて、本開示による治療剤150は、薬物とビヒクルとを組み合わせたときに化学的に安定なままでなければならない。より具体的には、抗真菌薬は、レーザ処理された爪およびビヒクルの環境において、少なくとも治療期間と同じ長さ、理想的には少なくとも感染した爪が自然に成長し、通常の爪切りによって除去されるのにかかる長さ、化学的に安定でなければならない。さらに、前述のように、治療剤150は、自然にまたは光の結果として特性を変化させることが望ましい場合がある。したがって、薬物およびビヒクルは、特性および/または硬化を変化させながら化学的に安定なままであるべきである。
【0043】
さらに、治療剤150の別の重要な特徴は、その屈折率である。材料の屈折率は、光が材料を通ってどれだけ速く伝播するかを表す数である。したがって、材料の屈折率は、材料の外観に大きく影響する。したがって、治療剤150は、感染した爪の屈折率と密接に一致する屈折率を有することが望ましい場合がある。通常の爪は、約1.5の屈折率を有し、爪の水和に応じて約1.45~1.55の間で変化し得る。したがって、本開示によるレーザ支援局所治療に使用される治療剤150には、1.45~1.55の屈折率が規定され得る。目標屈折率範囲内の屈折率を達成するために、1.45~1.55の屈折率を有するビヒクルが使用され得る。追加的または代替的に、目標屈折率を達成するために、高屈折率または低屈折率の溶質が治療剤150に添加されてもよい。治療剤150の屈折率を爪の屈折率と一致させることにより、爪の自然な外観が回復する。
【0044】
図15は、感染した爪102を本開示によるレーザ支援局所治療システム10を使用して治療する方法200の非限定的な例を示す。ステップ210において、感染した爪102に対してレーザ20を位置決めすることができる。ステップ210は、感染した爪102の指、指骨、または四肢を安定させることをさらに含むことができる。指、節骨、または四肢を、ストラップ、ブロック、テープ、ラップ、発泡体などで安定化させてもよい。次に、ステップ220において、レーザ20は、感染した爪102の表面を貫通して、そこを通る少なくとも1つのチャネル140を形成することができる。例えば、レーザ20は、感染した爪102を通る複数のチャネル140を形成することができる。ステップ220は、感染した爪102を通る複数のチャネル140を形成するために、経路130に沿ってレーザ20を移動させること、および/またはレーザ20をパルス化することをさらに含むことができる。少なくとも1つのチャネル140を形成すると、ステップ230において、感染した爪102の外面に治療剤150を塗布することができ、治療剤150は少なくとも1つのチャネル140に流入する。治療剤150は、ビヒクルおよび爪真菌症を治療することを意図した薬物を含み得る。ステップ230で治療剤150がチャネル140に完全に流入することを促進するために、方法200は、チャネル140内の治療剤150の分配を促進するために正および負の空気圧を交互にすることをさらに含むことができる。例えば、ステップ230は、治療剤150を分配する方法の間に、治療剤150および圧力を爪102および対応する指骨または四肢に閉じ込めるために、使い捨てチャンバ170を使用することをさらに含むことができる。さらに、ステップ240において、治療剤150、アクリル系ゲルもしくは媒体、粉末系マニキュア液、またはネイルラッカーのうちの少なくとも1つを含む任意選択の被覆層を感染した爪102の外面に塗布することができ、これにより、治療の有効性を高めることができる。治療剤150の含有量に応じて、方法200は、ステップ250で塗布される治療剤150を硬化させるために、光または熱をさらに必要とし得る。追加的または代替的に、治療剤は自然に硬化してもよい。
【0045】
本明細書内では、明確かつ簡潔な明細書を書くことを可能にする方法で態様が説明されてきたが、本開示の態様は、本発明から逸脱することなく様々に組み合わされてもよく、または分離されてもよいことが意図され、理解されるであろう。例えば、本明細書に記載のすべての好ましい特徴は、本明細書に記載の本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されよう。
【0046】
したがって、本発明を特定の態様および非限定的な実施例に関連して説明してきたが、本発明は必ずしもそのように限定されず、多数の他の実施例、使用、修正、ならびに実施例および使用からの逸脱は、本明細書に添付の特許請求の範囲に包含されることが意図される。本明細書で引用される各特許および刊行物の全開示は、あたかもそのような各特許または刊行物が参照により本明細書に個々に組み込まれているかのように、参照により組み込まれる。
【0047】
本発明の様々な特徴および利点は、以下の特許請求の範囲に記載されている。