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特許7524211バイオリアクタ内における細胞培養性能の予測
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】バイオリアクタ内における細胞培養性能の予測
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/10 20190101AFI20240722BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240722BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240722BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
G16C20/10
C12M1/34 D
C12M1/00 D
G05B23/02 P
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021557390
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-01
(86)【国際出願番号】 US2020025444
(87)【国際公開番号】W WO2020205611
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】62/826,910
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,ウィリアム・リー
(72)【発明者】
【氏名】カルカモ・ベーレンス,マルティン・ロドリゴ
【審査官】岡北 有平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0364520(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0039682(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00 - 99/00
C12M 1/34
C12M 1/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオリアクタを計算的にモデリングする方法であって、方法は、空間的不均質性を計上するものであり、該方法は、
プロセス変数の複数の現在値を受信することであって、前記プロセス変数はモデリングされた前記バイオリアクタの第1の部分の第1の仮想内容物と、モデルリングされた前記バイオリアクタの対応する1つ以上の追加の部分の1つ以上の追加の仮想内容物とを記述し、前記仮想内容物は、仮想細胞外溶液中の仮想細胞バイオマスを含む、ことと、
計算システムの処理ハードウェアによって、シミュレーションされた期間中の前記プロセス変数の新しい値を計算することであって、少なくとも部分的に、
代謝反応速度に対する前記プロセス変数の前記現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響をモデリングすることによって、前記仮想細胞バイオマスを記述する代謝フラックスのフラックス率に対する複数の制約を生成することと、
代謝目標、及び前記フラックス率に対する前記生成された複数の制約に従うフラックスバランス解析を実施することにより、前記代謝フラックスの前記フラックス率を計算することと、
前記計算されたフラックス率に少なくとも部分的に基づいて、前記プロセス変数のうち少なくともいくつかの変化率を計算することと、
前記シミュレーションされた期間内の仮想時間ステップの前記計算された変化率のうち1つ以上を積分することに少なくとも部分的により、前記プロセス変数の前記現在値のうち1つ以上を更新することと、による、ことと、
前記プロセス変数の前記計算された新しい値に少なくとも部分的に基づいて、前記処理ハードウェアによって、計算的にモデリングされた前記バイオリアクタのメトリックを計算することと、
前記処理ハードウェアによって、且つモデリングされた前記バイオリアクタの前記メトリックに基づいて、i)ユーザインターフェースを介してユーザに対して表示される情報、ii)現実世界のバイオリアクタの制御設定、又はiii)バイオリアクタの人工知能モデル用の訓練セットのうち1つ以上を生成することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記プロセス変数は、
1)温度と、酸性度と、若しくは前記仮想内容物の合計浸透圧モル濃度を示す1つ以上の変数とのうち少なくとも1つ、又は
2)前記仮想細胞バイオマスの濃度を示す1つ以上の変数と、前記仮想細胞外溶液の細胞外代謝産物濃度を示す1つ以上の変数
を含み、
オプションとして、前記仮想細胞外溶液中の前記細胞外代謝産物濃度を示す前記1つ以上の変数は、酸素、二酸化炭素、アンモニア、グルコース、アスパラギン、グルタミン、グリシン又は少なくとも1つの標的代謝生成物のうち少なくとも1つの濃度を示す1つ以上の変数を含み、オプションとして、前記プロセス変数は、前記仮想細胞バイオマス中の1つ以上の細胞内代謝産物濃度を示す1つ以上の変数を追加的に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フラックス率に対する前記複数の制約は、i)グルコース取り込み、ii)グルタミン取り込み、iii)アスパラギン取り込み、若しくはiv)酸素取り込みのうち少なくとも1つに対する上限を含むか、又は、前記変化率に対する前記複数の制約は、細胞維持のためのエネルギー消費率に対する下限を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記代謝反応速度に対する前記プロセス変数の前記現在値のうち少なくともいくつかの前記1つ以上の影響は、
1) 代謝産物取り込み率の上限に対する、i)温度、ii)酸性度、又はiii)浸透圧モル濃度のうちの少なくとも1つの値の影響であって、オプションとして、前記代謝反応速度に対する前記プロセス変数の前記現在値のうち少なくともいくつかの前記1つ以上の影響をモデリングすることは、非理想的条件に起因する前記取り込み率の低下を示す補正係数で前記上限を乗じることにより、前記代謝産物取り込み率の前記上限に対する、i)温度、ii)酸性度、又はiii)浸透圧モル濃度のうちの少なくとも1つの前記値の前記影響を計算することを含む、影響
2) 細胞維持のためのエネルギー消費率の下限に対するストレスの影響であって、オプションとして、前記ストレスの影響をモデリングすることは、前記仮想細胞バイオマスに対する温度シフトの累積効果に少なくとも部分的に基づいて前記影響を計算することを含む、影響、又は、
3) 代謝副生成物のうち少なくとも1つの濃度の影響
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上の影響をモデリングすることは、フィッティング、回帰、及び/又は最適化アルゴリズムを用いて、前記モデリングされた影響を現実世界の細胞培養物からの実験データで較正することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記代謝目標は、
1)前記フラックスバランス解析において前記フラックス率のうち少なくともいくつかの線形結合とフラックス率の二乗との比を最小化すること、又は、
2)前記フラックスバランス解析において前記フラックス率のうち少なくともいくつかの線形結合を最小化し、オプションとして、前記線形結合は、前記フラックスバランス解析における前記フラックスの和である、こと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記代謝目標は、細胞維持のためのエネルギー消費率を最大化すること、又は、前記仮想細胞バイオマスの成長率を最大化することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
1) モデリングされた前記バイオリアクタ内への1つ以上の仮想入力ストリームの流率及び組成を示す1つ以上の変数を受信し、前記プロセス変数の前記現在値のうち前記少なくともいくつかを更新することは、前記1つ以上の仮想入力ストリームの前記流率及び前記組成をモデリングされた前記バイオリアクタの前記第1の部分または1つ以上の前記追加の部分のうちの少なくとも1つに計上することを含み、オプションとして、前記プロセス変数の前記現在値のうち少なくともいくつかを更新することは、物質収支方程式を解くことを含み、オプションとして、
仮想出力フィルタの特性を示す1つ以上の変数を受信することと、
前記仮想出力フィルタの前記特性を用いてモデリングされた前記バイオリアクタから1つ以上の仮想出力ストリームの組成を計算することとを更に含み、前記プロセス変数の前記現在値のうち前記少なくともいくつかを更新することは、前記1つ以上の仮想出力ストリームの前記組成をモデリングされた前記バイオリアクタの前記第1の部分又は1つ以上の前記追加の部分のうちの少なくとも1つから計上することを含む、こと、又は、
2) 計算的にモデリングされた前記バイオリアクタの仮想制御設定を表す、1つ以上の制御変数を受信することと、前記受信した制御変数に少なくとも部分的に基づき、前記プロセス変数の前記現在値の影響を受けたセットを更新することと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
1) モデリングされた前記バイオリアクタの前記メトリックは前記シミュレーションされた期間内の様々な仮想時間における前記プロセス変数のうち少なくとも1つの値を含む、あるいは、
2) 計算的にモデリングされた前記バイオリアクタの前記メトリックは、標的生成物の生成における計算的にモデリングされた前記バイオリアクタの有効性又は効率を示す、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
1) 前記方法は、前記制御設定を生成することを含み、前記方法は、前記生成された制御設定に基づき現実世界のバイオリアクタに対する入力を制御することを更に含む、又は、
2) 前記方法は、バイオリアクタの人工知能モデルのための訓練セットを生成することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の前記現在値を受信することは、
i)グラフィカルユーザインターフェースを介してユーザから値を受信すること、
ii)現実のバイオリアクタの測定値に基づく値を受信すること、
iii)以前に計算された値に基づいてコンピュータメモリから値を読み込むこと、又は
iv)コンピュータストレージから所定のデフォルト値を読み込むこと、のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記プロセス変数は、前記第1の仮想内容物を記述する第1のプロセス変数と、前記1つ以上の追加の仮想内容物のそれぞれの仮想内容物を記述する1つ以上の追加のプロセス変数とを含み
前記方法は、前記1つ以上の追加のプロセス変数の複数の現在値を受信することを更に含み、
前記シミュレーションされた期間中の前記第1のプロセス変数の新しい値を計算することは、前記1つ以上の追加のプロセス変数の前記受信された複数の現在値に部分的に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記シミュレーションされた期間中の前記第1のプロセス変数の前記新しい値を計算することは、前記1つ以上の追加のプロセス変数のうち対応する1つの値に基づいて前記第1のプロセス変数のうち少なくとも1つの勾配を計算することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の仮想内容物に関連する1つ以上の速度を決定することを更に含み、オプションとして、前記1つ以上の速度を決定することは、計算流体力学に少なくとも部分的に基づく、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
バイオリアクタを計算的にモデリングし、空間的不均質性を計上するための命令を記憶する非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記命令は、1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサに、
プロセス変数の複数の現在値を受信することであって、前記プロセス変数はモデリングされた前記バイオリアクタの第1の部分の第1の仮想内容物と、モデルリングされた前記バイオリアクタの対応する1つ以上の追加の部分の1つ以上の追加の仮想内容物とを記述し、前記仮想内容物は、仮想細胞外溶液中の仮想細胞バイオマスを含む、ことと、
計算システムの処理ハードウェアによって、シミュレーションされた期間中の前記プロセス変数の新しい値を計算することであって、少なくとも部分的に、
代謝反応速度に対する前記プロセス変数の前記現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響をモデリングすることによって、前記仮想細胞バイオマスを記述する代謝フラックスのフラックス率に対する複数の制約を生成することと、
代謝目標、及び前記フラックス率に対する前記生成された複数の制約に従うフラックスバランス解析を実施することにより、前記代謝フラックスの前記フラックス率を計算することと、
前記計算されたフラックス率に少なくとも部分的に基づいて、前記プロセス変数のうち少なくともいくつかの変化率を計算することと、
前記シミュレーションされた期間内の仮想時間ステップの前記計算された変化率のうち1つ以上を積分することに少なくとも部分的により、前記プロセス変数の前記現在値のうち1つ以上を更新することと、による、前記プロセス変数の新しい値を計算することと、
前記プロセス変数の前記計算された新しい値に少なくとも部分的に基づいて、前記処理ハードウェアによって、モデリングされた前記バイオリアクタのメトリックを計算することと、
前記処理ハードウェアによって、且つモデリングされた前記バイオリアクタの前記メトリックに基づいて、i)ユーザインターフェースを介してユーザに対して表示される情報、ii)現実世界のバイオリアクタの制御設定、又はiii)バイオリアクタの人工知能モデル用の訓練セットのうち1つ以上を生成することと、を行わせる、非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項16】
前記プロセス変数は、
1)温度、酸性度、若しくは前記仮想内容物の合計浸透圧モル濃度を示す1つ以上の変数のうち少なくとも1つ、又は、
2)前記仮想細胞バイオマスの濃度を示す1つ以上の変数と、前記仮想細胞外溶液の細胞外代謝産物濃度を示す1つ以上の変数
を含み、
オプションとして、前記仮想細胞外溶液中の前記細胞外代謝産物濃度を示す前記1つ以上の変数は、酸素、二酸化炭素、アンモニア、グルコース、アスパラギン、グルタミン、グリシン、又は少なくとも1つの標的代謝生成物のうちの少なくとも1つの濃度を示す1つ以上の変数を含み、オプションとして、前記プロセス変数は、前記仮想細胞バイオマス中の1つ以上の細胞内代謝産物濃度を示す1つ以上の変数を追加的に含む、請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項17】
変化率に対する前記複数の制約は、i)グルコース取り込み、ii)グルタミン取り込み、iii)アスパラギン取り込み、若しくはiv)酸素取り込みのうち少なくとも1つに対する上限、又は、細胞維持のためのエネルギー消費率に対する下限を含む、請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項18】
前記代謝反応速度に対する前記プロセス変数の前記現在値のうち少なくともいくつかの前記1つ以上の影響は、
1) 代謝産物取り込み率の上限に対する、i)温度、ii)酸性度、又はiii)浸透圧モル濃度のうちの少なくとも1つの値の影響であって、オプションとして、前記代謝反応速度に対する前記プロセス変数の前記現在値のうち少なくともいくつかの前記1つ以上の影響をモデリングすることは、非理想的条件に起因する前記取り込み率の低下を示す補正係数で前記上限を乗じることにより、前記代謝産物取り込み率の前記上限に対する、i)温度、ii)酸性度、又はiii)浸透圧モル濃度のうちの少なくとも1つの前記値の前記影響を計算することを含む、影響
2) 細胞維持のためのエネルギー消費率の下限に対するストレスの影響であって、オプションとして、前記ストレスの影響をモデリングすることは、前記仮想細胞バイオマスに対する温度シフトの累積効果に少なくとも部分的に基づいて前記影響を計算することを含む、影響、又は、
3) 代謝副生成物のうち少なくとも1つの濃度の影響
を含む、請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項19】
前記1つ以上の影響をモデリングすることは、フィッティング、回帰、及び/又は最適化アルゴリズムを用いて、前記モデリングされた影響を現実世界の細胞培養物からの実験データで較正することを含む、請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項20】
前記代謝目標は、
1) 前記変化率のうち少なくともいくつかの線形結合を最小化すること、又は、
2) 前記フラックスバランス解析において少なくともいくつかのフラックスの線形結合を最小化し、オプションとして、前記線形結合は、前記フラックスバランス解析における前記フラックスの和である、こと、
3) 細胞維持のためのエネルギー消費率を最大化すること、又は、
4) 前記仮想細胞バイオマスの成長率を最大化すること、
を含む、請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項21】
前記命令は、更に、前記1つ以上のプロセッサに、
1) モデリングされた前記バイオリアクタ内への1つ以上の仮想入力ストリームの流率及び組成を示す1つ以上の変数を受信させ、前記プロセス変数の前記現在値のうち前記少なくともいくつかを更新することは、前記1つ以上の仮想入力ストリームの前記流率及び前記組成を前記第1の部分、あるいはモデリングされた前記バイオリアクタの1つ以上の前記追加の部分のうちの少なくとも1つに計上することを含み、オプションとして、前記プロセス変数の前記現在値のうち前記少なくともいくつかを更新することは、物質収支方程式を解くことを含み、オプションとして、前記命令は、更に、前記1つ以上のプロセッサに、
仮想出力フィルタの特性を示す1つ以上の変数を受信させ、
前記仮想出力フィルタの前記特性を用いてモデリングされた前記バイオリアクタから1つ以上の仮想出力ストリームの組成を計算させ、前記プロセス変数の前記現在値のうち前記少なくともいくつかを更新することは、前記1つ以上の仮想出力ストリームの前記組成を前記第1の部分、あるいはモデリングされた前記バイオリアクタの1つ以上の前記追加の部分のうちの少なくとも1つから計上することを含み、又は、
2) 計算的にモデリングされた前記バイオリアクタの仮想制御設定を表す、1つ以上の制御変数を受信させ、前記受信した制御変数に少なくとも部分的に基づき、前記プロセス変数の前記現在値の影響を受けたセットを更新させる、
請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項22】
モデリングされた前記バイオリアクタの前記メトリックは前記シミュレーションされた期間内の様々な仮想時間における前記プロセス変数のうち少なくとも1つの値を含むか、又は、
モデリングされた前記バイオリアクタの前記メトリックは、標的生成物の生成におけるモデリングされた前記バイオリアクタの有効性又は効率を示す、
請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項23】
前記命令は、
1) 前記1つ以上のプロセッサに、前記制御設定を生成させ、更に、前記1つ以上のプロセッサに、前記生成された制御設定に基づき現実世界のバイオリアクタに対する入力を制御させる、又は、
2) 前記1つ以上のプロセッサに、バイオリアクタの人工知能モデルのための訓練セットを生成させる、
請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項24】
前記複数の前記現在値を受信することは、
i)グラフィカルユーザインターフェースを介してユーザから値を受信すること、
ii)現実のバイオリアクタの測定値に基づく値を受信すること、
iii)以前に計算された値に基づいてコンピュータメモリから値を読み込むこと、又は
iv)コンピュータストレージから所定のデフォルト値を読み込むこと、のうちの少なくとも1つを含む、請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項25】
前記プロセス変数は、前記第1の仮想内容物を記述する第1のプロセス変数と、1つ以上の前記追加の仮想内容物のそれぞれの仮想内容物を記述する1つ以上の追加のプロセス変数とを含み
前記命令は、更に、前記1つ以上のプロセッサに、前記1つ以上の追加のプロセス変数の複数の現在値を受信させ、
前記シミュレーションされた期間中の前記第1のプロセス変数の新しい値を計算することは、前記第2のプロセス変数の前記受信された複数の現在値に部分的に基づき、オプションとして、前記シミュレーションされた期間中の前記第1のプロセス変数の前記新しい値を計算することは、前記1つ以上の追加のプロセス変数のうち対応する1つの値に基づいて前記第1のプロセス変数のうち少なくとも1つの勾配を計算することを含む、請求項15に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項26】
前記命令は、更に、前記1つ以上のプロセッサに、前記第1の仮想内容物に関連する1つ以上の速度を決定させ、オプションとして、前記1つ以上の速度を決定することは、計算流体力学に少なくとも部分的に基づく、請求項25に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、広義には、バイオプロセス設計及び/又は操作を改善するためのバイオリアクタのインシリコ(in silico)モデリング、及び関連する生物学的プロセスの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーは、有益な生化学化合物を生成するために生細胞を用いる。医薬、農業、又はその他の用途のための多種多様な標的生化学生成物を生成するために、様々な細胞を操作することができる。施術者は、その他の代謝副生成物と共に標的生成物を生成する細胞培養物を成長させるために、バイオリアクタを構築及び使用する。所与の生産コストに対する標的生成物の量及び質を最大化することは、バイオリアクタ設計の主な目標の1つである。
【0003】
バイオリアクタは、様々なモードで、且つ異なる目標をもって操作するように構成及び制御することができる。プロセスの第1の目標は、必要量を超えた基質養分を用いることなしに、十分な量の細胞培養物を成長させることである場合がある。バイオリアクタ内で成長させられる細胞バイオマスの種類は、用途に依存する場合があり、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの一部の普及したバイオ培養物(bio-cultures)は、多くの異なる用途に用いられている。バッチモードと称されるバイオリアクタ操作の一モードでは、特に、バイオリアクタの制御システムが成長のための良好な条件を維持できる場合、バイオ培養物の成長は、リアクタを流入又は流出する液体がなくとも生じ得る。成長のための良好な条件は、基質代謝産物の適切な温度、酸性度、及び濃度を必要とする場合がある。成長するバイオマスは基質代謝産物を消費するため、入力流れが、成長に必要な代謝産物の補充を補助して、バイオリアクタのフェドバッチ構成を形成することができる。成長中に生成された代謝副生成物は、成長条件の最適性を損なう場合がある。入力及び出力流れストリームを追加して連続的バイオリアクタ構成を形成することで、代謝副生成物の悪影響を軽減し、且つ細胞成長段階の所要時間をより良好に制御することができる。細胞バイオマスの除去を防いでバイオリアクタの灌流構成を形成するために、フィルタを出力ストリームに追加することができる。
【0004】
バイオリアクタ内で十分な量のバイオマスが生成されたら、操作の次の段階で、標的代謝生成物の産生及び回収を優先することができる。こうした標的生成物としては、治療抗体又はその他の生物製剤を挙げることができる。代謝エネルギーをバイオマスの成長から標的生成物の生成に移行させるように細胞を誘導することは、ストレス係数の導入を伴う場合が多い。ストレスは、最適宿主温度を低下させ、それによって細胞がより多くのエネルギーを非成長代謝(non-growth metabolism)のために消耗し、これが続いて標的生成の増加をもたらし得ることを含み得る。
【0005】
バイオリアクタ操作の全ての段階を最適化することは、大きな課題を提示する。多くの判断には、いつ成長から生成に遷移するか、いつ収穫を開始するか、いつ、及びどの量で代謝産物を供給及び除去するか、どのようにバイオリアクタ環境を制御するかが含まれ得る。多くの場合、操作条件を選択するために数多くの高価で且つ時間のかかるインビボ実験が実施される。バイオリアクタ操作を最適化及び制御するための代替的方法は、業界、及び当該業界が奉仕する公衆に相当な利益をもたらすことであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
細胞培養性能を予測するため、バイオリアクタの設計及び/又は操作を改善及び/又は最適化するために、バイオリアクタの計算モデリング方法が用いられる。一態様では、本方法は、プロセス変数の複数の現在値を受信することを含み、プロセス変数はモデリングされたバイオリアクタの仮想内容物を記述し、仮想内容物は、仮想細胞外溶液中の仮想細胞バイオマスを含む。方法は、計算システムの処理ハードウェアによって、シミュレーションされた期間中のプロセス変数の新しい値を計算することを更に含む。方法は、少なくとも部分的に、代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響をモデリングすることによって、仮想細胞バイオマスを記述する代謝フラックスのフラックス率に対する複数の制約を生成することと、代謝目標、及びフラックス率に対する生成された複数の制約に従うフラックスバランス解析を実施することにより、代謝フラックスのフラックス率を計算することと、計算されたフラックス率に少なくとも部分的に基づいて、プロセス変数のうち少なくともいくつかの変化率を計算することと、シミュレーションされた期間内の仮想時間ステップの計算された変化率のうち1つ以上を積分することに少なくとも部分的により、プロセス変数の現在値のうち1つ以上を更新することと、によって新しい値を計算する。方法は、プロセス変数の計算された新しい値に基づいて、処理ハードウェアによって、計算的にモデリングされたバイオリアクタのメトリックを計算することと、処理ハードウェアによって、且つモデリングされたバイオリアクタのメトリックに基づいて、i)ユーザインターフェースを介してユーザに対して表示される情報、ii)現実世界のバイオリアクタの制御設定、又はiii)バイオリアクタの人工知能モデル用の訓練セットのうち1つ以上を生成することと、を更に含む。本明細書に記載される任意の方法の場合、方法は、任意選択的に、モデリングされたバイオリアクタ中で識別された1つ以上のパラメータを用いてバイオリアクタ内で哺乳動物細胞を培養することを更に含んでもよい。一例として、哺乳動物細胞は、治療用タンパク質をコードすることができ、また、バイオリアクタ内で培養されると治療用タンパク質を生成することができる。哺乳動物細胞の例としては、CHO細胞及びBHK細胞が挙げられる。簡潔にするため、「バイオリアクタ」は、本明細書では「リアクタ」とも称することができ、また明示的に別段の定めがない限り、これらの用語は、本明細書では互換可能であるものと理解されよう。
【0007】
別の態様では、非一時的コンピュータ可読媒体は、バイオリアクタを計算的にモデリングするための命令を記憶し、命令は、1つ以上のプロセッサによって実行されると、1つ以上のプロセッサに、プロセス変数の複数の現在値を受信させ、プロセス変数はモデリングされたバイオリアクタの仮想内容物を記述し、仮想内容物は、仮想細胞外溶液中の仮想細胞バイオマスを含む。命令は更に、計算システムの処理ハードウェアによって、1つ以上のプロセッサに、シミュレーションされた期間中のプロセス変数の新しい値を計算させる。1つ以上のプロセッサは、少なくとも部分的に、代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響をモデリングすることによって、仮想細胞バイオマスを記述する代謝フラックスのフラックス率に対する複数の制約を生成することと、代謝目標、及びフラックス率に対する生成された複数の制約に従うフラックスバランス解析を実施することにより、代謝フラックスのフラックス率を計算することと、計算されたフラックス率に少なくとも部分的に基づいて、プロセス変数のうち少なくともいくつかの変化率を計算することと、シミュレーションされた期間内の仮想時間ステップの計算された変化率のうち1つ以上を積分することに少なくとも部分的により、プロセス変数の現在値のうち1つ以上を更新することと、によって新しい値を計算する。命令は更に、1つ以上のプロセッサに、プロセス変数の計算された新しい値に基づいて、処理ハードウェアによって、モデリングされたバイオリアクタのメトリックを計算させ、また、処理ハードウェアによって、且つモデリングされたバイオリアクタのメトリックに基づいて、i)ユーザインターフェースを介してユーザに対して表示される情報、ii)現実世界のバイオリアクタの制御設定、又はiii)バイオリアクタの人工知能モデル用の訓練セットのうちの1つ以上を生成させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】バイオリアクタを計算的にモデリングするための例示的なプロセス、及び対応する計算モデルを示す。
図2図1のモデリングプロセスの実施態様における、ストレス変数に対する温度シフトの例示的な影響を示すグラフである。
図3図1のモデリングプロセスを実施することができる例示的なコンピュータシステムを示す。
図4A】ユーザ入力を受信するための例示的なユーザインターフェースのパネルを示す。
図4B】ユーザ入力を受信するための例示的なユーザインターフェースのパネルを示す。
図5】ユーザに対する出力を表示するための例示的なユーザインターフェースを示す。
図6】例示的なバイオリアクタ制御システムを示す。
図7】バイオリアクタを計算的にモデリングする例示的方法を示すフローチャートである。
図8】バイオリアクタのモデルと実験的観察との比較を示す。
図9A】均質部分を用いてモデリングされた不均質なバイオリアクタの代謝モデルと、計算流体力学(CFD)を用いて計算され得る速度場との間の関係を示す。
図9B】均質部分を用いてモデリングされた不均質なバイオリアクタの代謝モデルと、計算流体力学(CFD)を用いて計算され得る速度場との間の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書の記述の大半は、例えば、特定の生物学的生成物を生成するように構成されたバイオリアクタの代謝(生物学的及び生化学的)モデルに焦点を当てる。本明細書は主に、細胞外溶液と細胞バイオマスとの均質な混合物としてのバイオリアクタを取り扱っているが、代謝モデルは、バイオリアクタ内の空間的不均質性を計上するように容易に適応可能である。この目的のために、代謝モデルは、インシリコで輸送物理学の計算モデルにより積分され得る。このため、本明細書の特定の部分は、モデル積分について説明して、十分に混合する必要のないバイオリアクタに対する代謝モデルの一般的な適用性を実証する。
【0010】
図1は、示される時間ステップ102を含む一連の時間ステップ内でバイオリアクタを計算的にモデリングするための例示的なプロセス100を示し、対応する計算モデル104が仮想空間110内に表されている。時間ステップ102は、モデリングプロセス100の間に任意の好適な回数だけ繰り返されてもよいことが理解される。モデリングされたバイオリアクタ120の仮想内容物は、仮想細胞外溶液124と、仮想細胞外溶液124内に配設された仮想細胞バイオマス130と、を含み得る。便宜上、モデリングされたバイオリアクタ120は、本明細書では「バイオリアクタ」と称されてもよく、仮想細胞外溶液124は、本明細書では「細胞外溶液」(又は単に「溶液」)と称されてもよく、仮想細胞バイオマス130は、本明細書では「細胞バイオマス」(又は単に「バイオマス」)と称されてもよい。フラックス132a~iの一群は、少なくとも部分的に、バイオマス130の状態を表し得る。仮想入力ストリーム140及び仮想出力ストリーム142はそれぞれ、モデリングされたバイオリアクタ120の仮想内容物を補充し、且つ枯渇させ得る。仮想フィルタ144は、モデリングされたバイオリアクタ120外への一部の内容物の流れを選択的に促進、許可、制限、又は防止することができる。例えば、操作の灌流モードにあるバイオリアクタをモデリングするために、フィルタ144は、細胞バイオマス130の流れを制限又は防止しながら、細胞外溶液124の流れを許可することができる。対照的に、仮想入力及び出力ストリーム140、142を排除又はゼロ化することで、操作のバッチモードにあるバイオリアクタがモデリングされる。一般に、仮想入力及び出力ストリーム140、142の流れ及び/又は組成を変更することによって、バイオリアクタ120の操作のバッチ、フェドバッチ、連続、及び/又は灌流の構成又はモードのモデリングを可能にすることができる。
【0011】
いくつかの実施態様では、モデリングプロセス100は、バイオリアクタの空間的不均質性をモデリングするように構成され得る。空間的不均質性とは、例えば、細胞外溶液の組成における空間的変動、細胞バイオマスの濃度若しくは組成、又はバイオリアクタ内の様々な位置におけるその他のプロセスパラメータ(例えば温度)を指す場合がある。十分に混合されたバイオリアクタ内では、こうした差異は小さい場合があり、均質モデルは、十分に混合されたバイオリアクタを十分な精度でシミュレーションすることができる。一方で、十分に混合されていないバイオリアクタのモデリングにおいては、空間的不均質性を計算的に計上することによって、モデルの精度を実質的に改善することができる。この目的のために、本明細書に記載される代謝モデルは、リアクタ内の質量及び熱輸送の物理モデルと組み合わせることができる。いくつかの実施態様では、計算流体力学(CFD)モデルは、本明細書で論じられる代謝モデルと協働することができる。一般に、不均質性のモデリングは、精度と計算の複雑性とのトレードオフを考慮しながら実施され得る。
【0012】
モデリングプロセス100を用いて空間的不均質性をモデリングするために、モデリングされた/仮想バイオリアクタ120は、不均質なバイオリアクタの一部分をモデリングすることができる。したがって、空間的に不均質なバイオリアクタモデルの文脈では、バイオリアクタ120は、不均質なバイオリアクタの一部分として考えられ得る。モデリングされた不均質なバイオリアクタは、例えば不均質性の程度及び組み合わせられた物理モデルに応じて、様々な好適な方法のうち任意の1つで複数の部分に分割され得る。いくつかの実施態様では、様々な寸法からなる少なくとも2、5、10、20、又は別の好適な数(列挙された値のうち任意の2つの間の範囲を含む)の部分は、バイオリアクタの異なる領域を表し得る(例えば、入口及び出口、中心部分など)。いくつかの実施態様では、バイオリアクタの体積は、例えばCFDモデルの有限体積要素としての役割も果たし得る有限体積要素によって表される、少なくとも100、1000、10000、100000、1000000、又は任意の他の好適な数(列挙された値のうち任意の2つの間の範囲を含む)の部分に分割され得る。
【0013】
バイオリアクタ120によって表されるモデリング部分は、実質的に均質であると仮定され得る。その結果、細胞外溶液124は、不均質なリアクタのモデリング部分に対応する細胞外溶液の一部分をモデリングすることができ、バイオマス130は、不均質なバイオリアクタ全体に分布したバイオマスの対応する部分をモデリングすることができる。入力ストリーム140は、不均質なバイオリアクタの1つ以上の隣接部分から不均質なバイオリアクタの部分(バイオリアクタ120によってモデリングされた)内への質量輸送(すなわち、細胞外溶液及びバイオマスの流れ)をモデリングすることができる。同様に、出力ストリーム142は、不均質なバイオリアクタの部分(バイオリアクタ120によって表される)から不均質なバイオリアクタの隣接部分内への質量輸送(すなわち、細胞外溶液及びバイオマスの流れ)をモデリングすることができる。このように、均質なバイオリアクタモデルの一群(それぞれが不均質なバイオリアクタの一部分を表す)は、連結して、不均質なバイオリアクタをモデリングすることができる。不均質なバイオリアクタを補充し且つ枯渇させる入力及び出力ストリームを、不均質なバイオリアクタ外部からの入力又は不均質なバイオリアクタ外部への出力を用いて、不均質なバイオリアクタの一部分の入力及び出力ストリーム140、142に加えることができる。こうした場合、入力及び出力ストリーム140、142の少なくとも部分は、均質なバイオリアクタモデルからアセンブルされた不均質なバイオリアクタモデルの入力及び出力境界条件を計上するものと考えられ得る。
【0014】
計算(例えばCFD)モデルは、不均質なバイオリアクタモデルの各部分(例えばバイオリアクタ120)の入力及び出力ストリーム(例えばストリーム140、142)を計算するように構成され得る。いくつかの実施態様では、プロセス100によってモデリングされた不均質なバイオリアクタの各部分は、上述したように、CFDモデルの有限体積要素に対応し得る。しかしながら、一般には、CFDモデルの空間的離散化は、モデリングプロセス100を適用するためのリアクタ部分内への空間的離散化と同じである必要はない。例えば、CFDモデルは、1つの空間分解能でモデリングされた不均質なバイオリアクタ内の速度場を計算することができる。速度場は、異なる空間分解能の代謝モデルによって計算されたバイオリアクタの組成と組み合わせて、代謝モデルによって表される各バイオリアクタ部分の入力及び出力ストリーム140、142を更新することができる。
【0015】
速度場の計算は、バイオリアクタの物理的構成(例えば混合機構)に依存し得る。一部のバイオリアクタにおいては、自然対流が主要な混合機構であり得る。つまり、代謝プロセス又はリアクタ温度制御に起因する温度勾配が、対流を駆動し得る。その他の実施態様では、液体基質又はガスなどの注入された流体が、対流を駆動し得る。追加的に又は代替的に、インペラ又は他の好適な混合機構が、混合プロセスを行うことができる。計算的又は経験的モデルを用いて、好適な時間スケールで速度場を計算してもよい。例えば、一旦計算されたら、速度場は、バイオリアクタ内容物の物理特性の実質的変化(例えば、バイオマス成長に起因する粘度変化)、又は混合プロセスの駆動方式の実質的変化(例えば、バイオリアクタの制御によって課される入力又は出力流率の変化)が起こるまで、実質的に一定であると仮定され得る。
【0016】
代謝モデル及び物理モデルの時間分解能は、少なくとも上記の考察を考慮すると、空間分解能と同様に同じである必要はない。すなわち、モデリングプロセス100の時間ステップ102は、代謝プロセスモデルを記述する。不均質なリアクタ内における混合(例えばCFDによる)又はその他の物理プロセスのモデリングを伴う、不均質なバイオリアクタの部分に適用されるモデリングプロセス100を積分する態様は、必要に応じて本明細書で参照される。
【0017】
計算システムのハードウェア上で実行されるソフトウェアに実装されたモデリングプロセス100及び計算モデル104は、一連の時間ステップ102で構成されるシミュレーションされた期間にわたって仮想バイオリアクタ120の操作をシミュレーションすることができる。モデリングプロセス100は、時間ステップ102の開始時にプロセス変数の現在値150aを受信すること(ユーザから、又は前の時間ステップ102から)、及び、時間ステップ102の終了時に、一連の計算ステップにわたるこれらのプロセス変数のうち少なくともいくつかの更新値150bを生成することを含む。任意の所与の時間ステップ102に対する正確なタイミングが問題ではない文脈においては、現在値150a及び更新値150bは、本明細書では集合的に、単なるプロセス変数の「値」と称してもよい。プロセス変数は、バイオリアクタの計算モデル104を記述する1セットの変数であってよい。いくつかの実施態様では、プロセス変数は、制御変数152、プロセス条件、実験条件、培地組成、バイオリアクタパラメータ、モデル定数、及び/又は計算モデル104のパラメータを記述する様々なその他の項目の値を反映し得る。プロセス変数としては、細胞外溶液124の様々な物理的、化学的、及び生化学的性質、例えば溶液の体積、温度、酸性度又はpH、浸透圧モル濃度、質量、濃度、並びに化学的及び生化学的組成を記述するか又は示す変数が挙げられ得る。更に、プロセス変数は、モデリングされたバイオリアクタ120内の細胞外溶液124中に配置された細胞バイオマス130の量又は濃度を示し得る。追加的に又は代替的に、プロセス変数150は、細胞外溶液124中又はバイオマス130内に配置された様々な無機又は有機代謝産物の濃度又は絶対量を示し得る。細胞外又は細胞内濃度がプロセス変数150によって示される溶解した代謝産物としては、ガス、塩、イオン、金属、鉱質、糖、アミノ酸、脂肪酸、及び/若しくはその他の有機酸、並びに/又はその共役塩基が挙げられ得る。より具体的には、溶解した代謝産物としては、酸素、二酸化炭素、アンモニア、グルコース、スクロース、ラクトース、ラクテート、グルタミン、グルタミン酸塩、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸塩、及び/又は様々なその他の化学物質若しくは生化学物質が挙げられ得る。プロセス変数はまた、抗体、ペプチド、治療用タンパク質、又はその他の生物製剤が挙げられ得る1つ以上の標的代謝生成物(又は単に標的生成物)の濃度を示すことができる。プロセス変数はまた、標的生成物と共に仮想細胞バイオマス120によって生成され得る様々な代謝副生成物(又は単に副生成物)のうちの1つ以上の濃度を示すことができる。標的生成物及び副生成物は、集合的に、代謝生成物(又は単に生成物)と称され得る。
【0018】
プロセス変数の現在値150aからプロセス変数の更新値150bを決定するために、モデリングプロセス100は、細胞バイオマス130を伴うフラックス132a~iのうちの少なくともいくつかの速度又は率を計算することができる。フラックス132a~iは、細胞バイオマス130の成長132a、基質代謝産物の取り込み132b、c、代謝標的生成物及び副生成物の除去若しくは分泌132d、e、並びに/又は様々な細胞内代謝経路フラックス132f~iを表すフラックスに対応し得る。細胞内代謝経路フラックス132f~iは、図1のフラックス表現のトポロジーによって示される、多くの代謝産物から多くの他の代謝産物への代謝変換を表し得る。例えば、フラックス132fは、2つの代謝産物が結合して別の代謝産物を生成する反応又は代謝経路を表し得、フラックス132gは、1つの代謝産物が2つの他の代謝産物を生成する反応又は代謝経路を表し得、フラックス132hは、2つの代謝産物が結合して2つの他の代謝産物を生成する反応又は代謝経路を表し得、フラックス132iは、2つの代謝産物が結合して3つの代謝産物を生成する反応又は代謝経路を表し得る。成長フラックス132aは、いくつかの実施態様では、追加的に細胞内代謝プロセスを表す別のフラックスの出力としてモデリングされ得る。集合的に、フラックス132a~iは、細胞バイオマス130を作製する所与のタイプの細胞をモデリングするための代謝ネットワークを表し得る。モデリングされた細菌細胞、例えばエシェリキア・コリ(Escherichia coli、E.coli)のための代謝ネットワークは、モデリングされた哺乳動物生殖細胞、例えばCHO細胞のための代謝ネットワークとは異なる場合がある。図1のフラックス132a~iは、概略的な例示のためのものであり、代謝ネットワークは、0~12回超の入力及び/又は出力を含んだフラックスを含む場合がある。更に、代謝ネットワークは、5、20、100、500、2500、又は任意の他の好適な数の代謝経路を含んでもよい。
【0019】
代謝ネットワークのフラックス132a~iによってモデリングされた細胞バイオマス130中に配置された細胞内代謝産物は、細胞外溶液中でモデリングされた以下の代謝産物のうち一部又は全部を含み得る:酸素、二酸化炭素、アンモニア、その他のガス、塩、イオン、金属、鉱質、グルコース、スクロース、ラクトース、ラクテート、グルタミン、グルタミン酸塩、グリシン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸塩、及び/又は様々なその他の化学物質若しくは生化学物質。フラックス132a~iに関与する細胞内代謝産物としては、エネルギー輸送に関与する様々な酵素、タンパク質、アミノ酸、並びに/又はADP(アデノシン二リン酸)及びATP(アデノシン三リン酸)分子も挙げられ得る。代謝産物の細胞内濃度を示す変数は、プロセス変数に含まれ得る。
【0020】
各代謝経路フラックスは、フラックスに関連する代謝産物の変換率を特性決定するフラックス率によって定量化され得る。フラックス率は、本明細書では、フラックス速度とも称され得る。特定のフラックス率は、時間に対するいくつかのプロセス変数の変化率を表し得るか、これと等しくあり得るか、これを示し得るか、又はその他の方法でこれと関連し得る。例えば、成長フラックス132aの率は、細胞外溶液124内に配置された細胞バイオマス130の濃度又は合計量を示すプロセス変数の変化率を表し得る。代謝産物取り込みフラックス132b又は132cの率は、少なくとも特定のモデリングされたバイオリアクタの操作条件下では、細胞外溶液124中の対応する代謝産物の量又は濃度を示すプロセス変数の変化率を表し得る。例えば、酸素取り込み率は、細胞外酸素濃度を示すプロセス変数の変化率を表し得、一方で、グルコース取り込み率は、グルコース濃度を示すプロセス変数の変化率を表し得る。細胞バイオマス130による標的生成物又は副生成物の生成に対応するフラックスの速度は、細胞外溶液124中の対応する標的生成物又は副生成物の量又は濃度に関連するプロセス変数の変化率を表し得る。
【0021】
上述したように、細胞外溶液124及び細胞バイオマス130に加えて、計算モデル104は、1つ以上の仮想入力ストリーム140及び/又は1つ以上の仮想出力ストリーム142の記述を含み得る。本明細書では、1つ以上の入力ストリーム140は、簡潔にするため、単数形の「仮想入力ストリーム(virtual input stream)」又は「入力ストリーム(input stream)」と称してもよく、1つ以上の出力ストリーム140は、簡潔にするため、単数形の「仮想出力ストリーム(virtual output stream)」又は「出力ストリーム(output stream)」と称してもよい。ストリーム140、142の記述は、入力ストリーム140及び出力ストリーム142に関連する組成及び/又は流率を示す変数を含み得る。いくつかの実施態様では、液体入力ストリーム140の体積流率の和の絶対値及び出力ストリーム142の体積流率の和の絶対値は等しく、そのため細胞外溶液の一定体積がもたらされる。入力ストリーム140の流率及び出力ストリーム142流率が平衡していない実施態様は、細胞外溶液124の体積の変化をもたらす。仮想入力ストリーム140及び仮想出力ストリーム142は、例えば、基質代謝産物を補充する、及び/又はモデリングされたバイオリアクタ120の仮想内容物を枯渇させることにより、細胞外溶液124の組成を示すものを含むプロセス変数の変化率に影響を与え得る。
【0022】
モデリングプロセス100に戻ると、プロセス変数の現在値150aは、反応速度モデル160への入力としての役割を果たし得る。反応速度モデル160は、フラックス率、すなわち、バイオマス130に関連するフラックス132a~iのうち少なくともいくつかの速度に対する多くの制約164を計算することができる。制約164は、例えば、基質代謝産物の取り込み量を表すフラックス率に対する上限を課すことができる。したがって、制約164は、制約されたフラックスに関連する基質代謝産物の量又は濃度を示すプロセス変数の変化率を制約することができる。例えば、制約は、入力140及び出力142ストリームの影響の不在下での、酸素、グルコース、アスパラギン、並びに/又はグルタミン及び/若しくはグリシンの最大取り込み率、また同様に、細胞外溶液124中の酸素、グルコース、アスパラギン、グルタミン、及び/又はグリシンの量又は濃度を示すプロセス変数の最大変化率を表すことができる。
【0023】
反応速度モデル160は、代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値150aの影響を計算することができ、代謝反応速度は、続いてフラックス率の制約に影響を及ぼす。例えば、反応速度モデル160によって算出する時、最大取り込み率は、細胞外溶液124の物理的又は化学的性質を示すか又は記述するその他のプロセス変数に依存する場合がある。より具体的な実施例として、細胞外溶液の温度、酸性度若しくはpH、及び/又は浸透圧モル濃度を示すプロセス変数は、最大取り込み率に影響を及ぼし得る。
【0024】
反応速度モデル160は、最適条件からの偏差を計上するプロセス条件係数によって最適最大取り込み率を重み付け又は乗算することによって、最大代謝産物取り込み率に対する、温度、酸性度、及び/又は浸透圧モル濃度を示すプロセス変数の現在値150aの影響を計算することができる。最適最大取り込み率は、理想的プロセス条件下での取り込み率に対する上限に対応し得る。続いて、プロセス条件係数は、非理想的条件に起因する取り込み率の低下を示す補正係数としての役割を果たすことができる。プロセス条件係数は、様々な関数形式で定義され得る。例えば、プロセス条件係数は、所与の代謝産物取り込み量に対する最適プロセス条件に対する1の値(value of unity)、及び最適プロセス条件からの偏差の増加を伴う1からの低減を有し得る。プロセス条件係数は、異なる代謝産物取り込み率に対して異なる又は同様の形式を取ってもよく、最適条件は、異なる代謝産物取り込み量に対して異なるか又は同様であってもよい。
【0025】
いくつかの実施態様では、反応速度モデル160は、代謝反応速度に対する、1つ以上の代謝副生成物の濃度を示す現在値150aの影響を計算する。例えば、アンモニア及びラクテートの濃度は、グルコース、グルタミン、アスパラギン、及びその他の基質代謝産物の最大取り込み率を低減させ得る。
【0026】
いくつかの実施態様では、反応速度モデル160は、細胞維持を司る細胞内代謝フラックス、及び対応するエネルギー消費率の率制約に対するプロセス変数の現在値150aの影響をモデリングする。細胞維持フラックスは、細胞バイオマス132を成長させることなしに、ATP形態の細胞バイオマス130が利用可能なエネルギーのうちいくつかを消費する代謝経路をモデリングすることができる。細胞維持フラックスは、いくつかの実施態様では、標的生成物を生成するフラックスと密結合することができる。換言すると、標的生成物を生成するためにフラックス率に対する制約を計算することは、細胞維持のためのエネルギー消費率の下限を計算することを含むことができる。
【0027】
細胞維持のためのエネルギー消費率の下限を計算するために、反応速度モデル160は、プロセス変数の関連する現在値150aの影響を計上することができる。いくつかの実施態様では、「ストレス」変数は、プロセス変数がどのように細胞維持のためのエネルギー消費率の下限に影響を与えるかを定量化するものと定義され得る。そして、ストレスは、経時的な細胞外溶液温度、及び、細胞バイオマス130が経験するか又は感知する温度差異の変化の関数となり得る。いくつかの実施態様では、ストレスは、経時的に積分された温度差異の累積効果として評価される。追加的に又は代替的に、いくつかの実施態様では、異なるストレス変数が、細胞維持のための最小エネルギー消費率を計算することに寄与し、且つ/或いは、ストレス変数は、温度、浸透圧モル濃度、副生成物の濃度、及び/又はバイオマス130の高い細胞密度の状態又は変化を計上する。
【0028】
反応速度モデル160によるフラックス率制約164に対する現在のプロセス変数150aの影響を計算することは、実験データに基づき得る。計算のための数式は、理論モデルから導出されてもよく、実験に基づくものであってもよく、且つ/又は実験的因子を理論的導出と組み合わせてもよい。いずれの場合も、現在のプロセス変数150aの影響を計算するための式は、例えば較正データをフィッティングさせることによって、較正手順を用いて得ることができる係数又はモデルパラメータを含んでよい。いくつかの実施態様では、較正データは実験データを含む。追加的に又は代替的に、計算的に生成されたデータは、較正の少なくともいくつかに用いることができる。フィッティング、回帰、及び/又は最適化アルゴリズムは、較正データから反応速度モデルパラメータを計算することを補助し得る。
【0029】
いくつかの実施態様では、フラックス率制約164に対するプロセス変数の影響を計算する前に、反応速度モデルは、制御変数152に基づきプロセス変数のうち少なくともいくつかを更新する。制御変数としては、温度設定、酸性度設定、又はバイオリアクタ130の仮想制御設定を表し得る任意の他の好適な変数が挙げられ得る。モデリングプロセス100は、シミュレーション開始前のシミュレーションされた期間内の関連する時間を含む制御変数152を受信してもよく、又は、シミュレーションされた期間中の任意の時間における制御変数152を受信してもよい。
【0030】
反応速度モデル160によって計算された制約164は、上述したように、仮想細胞バイオマス130の代謝経路をモデリングするフラックス132a~iのうちのいくつかの率に対する上限又は下限を定義することができる。続いて、モデリングプロセス100は制約164を用いて、細胞バイオマス130の代謝ネットワーク内の全てのモデリングされたフラックスに対して、フラックス率174を同時に計算するフラックスバランス解析170を実施することができる。フラックスバランス解析170は、モデリングされたバイオマス130中の細胞内代謝産物の濃度が実質的に定常状態にあることを保証するフラックス率を決定することができる。例えば、フラックスのうちの1つが、その他の代謝産物を生成しながら特定の細胞内代謝産物を消費する場合、その他のフラックスが、第1のフラックスによって生成された全ての代謝産物を消費又は除去し、第1のフラックスによって消費された全ての代謝産物を細胞外溶液124から生成するか又は吸収することによって、第1のフラックスを平衡させることができる。フラックスによって細胞バイオマス130に吸収された代謝産物は、細胞外溶液124から除去され得、一方でフラックスによって細胞バイオマス130から除去された代謝産物は、細胞外溶液124内に堆積され得る。したがって、フラックスバランス解析は、細胞内濃度又は代謝産物の量の変化率を実質的にゼロに維持することができる一方で、これは、基質代謝産物、標的生成物及び副生成物、並びに関連するプロセス変数を含み得る細胞外代謝産物の変化率に寄与することができる。
【0031】
細胞外代謝産物濃度の変化の計算に寄与することに加えて、或いはこれに代わり、フラックスバランス解析170は、細胞バイオマス130の成長率を決定することができる。いくつかの実施態様では、決定された成長率はマイナスであり、細胞バイオマス130の細胞死又は脱落(attrition)をモデリングする場合がある。モデリングされた細胞バイオマス130の死又は脱落は、フラックス率に対する制約が、細胞維持のためのエネルギー消費率の下限を含み、且つ、その他のフラックス率制約との兼ね合いにより、エネルギーが代謝フラックスによって必要な率で生成することができない場合に起こり得る。この状況下では、モデリングプロセス100は、フラックスバランス解析170のための最小維持エネルギー制約を無視することができ、維持エネルギー生成率の不足分に基づいて死亡率を計算することができる。
【0032】
反応速度モデル160によって計算された制約164に加えて、フラックスバランス解析170は、モデリングプロセス100によって定義された代謝目標172(又は単に代謝目標)を用いて、仮想バイオマス130の生物学的目標を表すことができる。代謝目標関数172なしではフラックスバランス解析170は唯一解を得ることができないが、その代わりに、細胞内代謝産物を定常状態に保つ可能なフラックス率の多くの又は無限のセットを有する解空間をもたらすことができる。したがって、代謝目標関数は、フラックスバランス解析170を唯一解に限定するように機能し得る。その他の実施態様では、代謝目標関数172を含めてもフラックスバランス解析170に対する解が唯一でない場合がある。
【0033】
様々な代謝目標関数172は、異なる実施態様に用いることができる。例えば、代謝目標関数172は、細胞バイオマス130の成長率を最大化するフラックスバランス解析170をもたらすことができる。或いは、代謝目標関数172は、代謝産物取り込み率の線形結合を最小化するフラックスバランス解析170の解をもたらすことができる。線形結合は、取り込みフラックス率のうちのいくつか又は全部の和又は重み付け和であり得る。いくつかの実施態様では、代謝目標関数は複数の要件、制限、又は制約を組み合わせる。例えば、代謝目標関数172は、取り込みフラックス率の線形結合を最小化しながら、成長率を最大化することを組み合わせることができる。別の実施態様では、代謝目標172は、取り込みフラックス率の線形結合を最小化しながら、細胞維持エネルギーに関連するフラックスを最大化する。
【0034】
フラックスバランス解析170によって計算されたフラックス率174のうちいくつか又は全ては、入力ストリーム140及び出力ストリーム142からの寄与の不在下で、プロセス変数のうちのいくつかの変化率に対応し得る。率174は、率を用いてプロセス変数の更新値150bを計算することができる率積分モジュール180への入力として機能し得る。続いてプロセス変数の更新値150bは、次の時間ステップのためのプロセス変数の現在値150aとなることができる。
【0035】
率積分モジュール180は、フラックスバランス解析モジュール170によって提供されたフラックス率174を用いて、プロセス変数の時間変化率を計算することができる。いくつかの実施態様では、プロセス変数のうちいくつかの時間変化率は、フラックス率174のうちいくつかに直接対応する。その他の実施態様では、入力ストリーム140及び出力ストリーム142を記述する入力及び出力流変数182は、プロセス変数の変化率の計算に寄与する。入力及び出力流変数182は、入力ストリーム140及び出力ストリーム142の流率及び組成に関する情報を含有し得る。入力ストリーム140及び出力ストリーム142の寄与は、バッチ操作モードでバイオリアクタ120をモデリングしている時は無視され得る。フェドバッチ操作モードでバイオリアクタ120をモデリングしている時、入力ストリーム140に対応する流変数182は、プロセス変数の更新値150bの計算に寄与し得る。連続又は灌流操作モードでバイオリアクタ120をモデリングしている時、入力ストリーム140及び出力ストリーム142の両方に対応する流変数182は、それぞれプロセス変数の更新値150bの計算に寄与し得る。いくつかの実施態様では、例えば、モデリングされたバイオリアクタ120の内容物を、補充することなく仮想的に収穫している時、出力ストリーム142に対応する流変数182のみが、プロセス変数150の変化率に寄与する。
【0036】
プロセス変数の更新セット150bの計算に寄与する入力ストリーム140及び出力ストリーム142を定義する流変数182は、ストリーム140、142の全体積流率(等しくてもよく、等しくなくてもよい)並びに入力ストリーム140及び出力ストリーム142の組成を定義する流変数を含み得る。入力ストリーム140の組成は入力流変数によって、直接、すなわち、モデリングプロセス100中で実施される計算とは関係なく定義され得るが、出力ストリーム142の組成を計算することは、細胞外溶液124の組成を記述するプロセス変数の現在値150aに依存し得る。追加的に又は代替的に、出力ストリーム142の組成の計算に寄与する流変数182は、出力フィルタ144の選択性を定義することができる。例えば、入力ストリーム140のグルコース濃度は、入力流変数として直接定義され得るが、出力ストリーム142のグルコース濃度は、出力フィルタ144のグルコース選択性を示す出力流変数、及び細胞外溶液124中のグルコースの濃度を示すプロセス変数から計算され得る。同様に、その他の代謝産物又は細胞バイオマス130の場合、出力ストリーム142の濃度の計算は、細胞外溶液124の対応する濃度を示すプロセス変数、及び出力フィルタ144の選択性の対応する値を示す出力流変数に依存し得る。
【0037】
バイオリアクタの不均質性をモデリングする時、入力及び出力ストリーム140、142は、本明細書に記載されるように、異なるバイオリアクタの部分(それぞれ、バイオリアクタ120などの均質なバイオリアクタとしてモデリングされる)を接続する流れを表し得る。その結果、入力及び出力流変数182は、物理モデル(例えばCFDモデル)から得られた速度場を考慮して計算され得る。
【0038】
率積分モジュール180は、フラックス率174、入力流変数と出力流変数とを組み合わせる入力/出力流変数182、及びプロセス変数の現在値150aを用いて微分方程式又は差分方程式を構築することができる。その後、率積分モジュール180は、数値微分又は数値差分方程式解法を用いて、プロセス変数の更新値150bを計算することができる。率を積分するための時間ステップ102は、実施態様に応じて数秒、数分、数時間、数日、又は任意の他の好適な期間と等しくあり得る。これがプロセス変数の更新値150bを一旦計算したら、モデリングプロセス100は、プロセス変数の現在値150aのうち1つ以上を更新値150bと置換することができる。置換された現在値150aは、廃棄してもよく、更なる計算のためにコンピュータメモリに保存してもよい。モデリングプロセスは、現在値150aの新しいセットを用いて次の時間ステップ(例えば時間ステップ102と同じ所要時間)のために反復し、シミュレーションされた期間が終了するまで反復する。
【0039】
不均質なバイオリアクタ内では、プロセス変数の現在及び更新値150a、bは、プロセス変数の空間分布のサンプル又は代表値(各バイオリアクタ部分の)として考えられ得る。積分モジュール180によって構築された微分又は差分方程式は、後述するように、時間偏微分(partial time derivatives)を含む偏微分又は差分方程式であり得る。積分モジュール180は、隣接領域のプロセス変数値に基づいて空間偏微分(又は偏差分)を構築することができる。積分モジュール180は、プロセス変数値の空間偏微分を速度場(例えば、CFDモデルによって計算される)と組み合わせて、プロセス変数の更新値150bを計算することができる。例示的な実施態様では、プロセス変数及び局所速度の勾配ベクトル間のドット積は、不均質なバイオリアクタの一部分を表す有限体積領域の入力及び出力ストリーム140、142の間の差を表し得る。
【0040】
いくつかの実施態様では、プロセス変数のうちいくつかは、制御変数152の受信された値に基づいて更新される。いくつかの実施態様では、反応速度モデル160は、プロセス変数を用いてフラックス率に対する制約164を計算する前に、制御変数を用いてプロセス変数の値を更新する。モデリングプロセスのその他の部分も、制御変数152に基づいてプロセス変数を更新することができる。制御変数としては、シミュレーションされた期間の異なる時間の温度設定、フィルタ144を変化させる時間、入力140及び出力144ストリームの率及び/若しくは組成を変化させる時間、又は、バイオリアクタ130の仮想制御設定を表し得る任意の他の好適な変数が挙げられ得る。いくつかの実施態様では、率積分モジュール180は、対応する制御変数に対するプロセス変数の漸進的応答を表す微分又は差分方程式を構築して解くことができる。例えば、温度制御変数がある時間ステップ102から次の時間ステップ102に変化する時、細胞外溶液の温度のプロセス変数は、率積分モジュール180によって複数の時間ステップにわたり調節され得る。その他の実施態様では、プロセス変数は即座に制御変数の値をとり、仮想時間ステップ102よりも速い応答をモデリングする。
【0041】
前述の説明は、反応速度モデル160の例示的な実施態様を解明し、その詳細を与えるものである。上述したように、反応速度モデル160は、代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値150aのうち少なくともいくつかの1つ以上の影響をモデリングすることによって、フラックス率に対する複数の制約164を生成する。モデリングされた影響としては、例えば、代謝産物取り込み率の上限に対する、温度、酸性度、及び/又は浸透圧モル濃度の影響が挙げられ得る。モデルは、いくつかの理想的条件に対する所与の代謝産物取り込みに関連するフラックス率の上限を定義することができ、この理想的条件としては、理想的温度、理想的酸性度、及び/又は理想的浸透圧モル濃度が挙げられ得る。反応速度モデル160は、理想的条件の上限に補正係数を掛けることによって非理想的条件の影響を計算することができる。非理想的条件に起因する取り込み率の低下を示す補正係数は、温度、酸性度、及び/又は浸透圧モル濃度などの1つ以上の変数の関数として定義され得る。いくつかの実施態様では、補正係数は、ラクテート又はアンモニアなどの代謝副生成物の濃度の影響を含む。
【0042】
理想的条件下では、例えばグルコースの取り込み率の上限は、以下の方程式によってモデリングすることができ:
【数1】
式中、vGLCは、グルコース取り込みの条件が理想的である時、また、細胞外溶液のグルコース濃度が十分に大きい時、
【数2】
の飽和値に近似し、
任意の更なる増加によってグルコース取り込み率が認識可能な程度に増加しない。方程式1においては、[GLC]はグルコース濃度であり、
【数3】
は、グルコース濃度に対するグルコース取り込みフラックス率の従属性を記述する反応速度モデルパラメータである。条件がグルコース取り込みに理想的ではない場合、補正係数、例えばCGLC(T,pH,π,[LAC],[NH3])<1は、グルコース取り込み率を増加させることができ、補正係数は、温度T、酸性度pH、浸透圧モル濃度π、ラクテート濃度[LAC]、及び/又はアンモニア濃度[NH3]を含む様々な係数に依存し得る。
【数4】
【0043】
補正係数は、プロセス変数の1、2、3、4、5、又は任意の他の好適な数の現在値に依存し得る。補正係数CGLC(T,pH)は、温度及び酸性度に依存する補正を表し得、補正係数CGLC(T,π,[NH3])は、温度、浸透圧モル濃度、及びアンモニア濃度に依存する補正を表し得る。複数の変数に依存する補正係数は、1つ以上の変数に依存する複数の補正係数を組み合わせてよい。例えば、CGLC(T,pH,π,[LAC]は、4つの個別に定義された補正係数、例えば:温度の補正係数
【数5】

酸性度の補正係数
【数6】

浸透圧モル濃度の補正係数
【数7】

及びラクテート濃度の補正係数
【数8】
を組み合わせてもよい。構成要素係数(constituent factors)の組み合わせは、機構モデルの環境係数に対する反応速度論の従属性を好適に表す様々な数式をとってもよい。例えば、いくつかの実施態様では、複数の変数に依存する補正係数は、以下の方程式によって例証される乗法によって構成要素補正係数を組み合わせる:
【数9】
【0044】
別の実施態様では、複数の変数に依存する補正係数は、別の方法で構成要素補正係数を組み合わせ:
【数10】
式中、
【数11】
は、補正のための反応速度モデル160パラメータである。上記の式において、もし
【数12】
である場合、
温度の補正係数及び酸性度の補正係数は両方とも0となり、合計補正係数も0にしなくてはならない。
【0045】
補正係数は、上記では単に例示を目的としてグルコース取り込みの補正係数として説明した。グルタミン取り込み、アスパラギン取り込み、又は別の代謝産物取り込みの補正係数は同様の形式を有し得る。一般に、任意の代謝産物Mに関して、補正係数は、例えば、温度、酸性度、浸透圧モル濃度、ラクテート濃度、アンモニア濃度、及び/又はMの最大取り込みフラックス率に影響を与え得る、一般にM2と指定される任意の他の代謝産物を含む複数のプロセス変数に依存し得る。得られた補正係数C(T,pH,π,[LAC],[NH3],[M2])は、個別に定義された補正係数:温度の補正係数
【数13】

酸性度の補正係数
【数14】

浸透圧モル濃度の補正係数
【数15】

ラクテート濃度の補正係数
【数16】

アンモニア濃度の補正係数
【数17】

及び
M2の濃度の補正係数
【数18】
を組み合わせることができる。
【0046】
単一のプロセス変数の補正係数は、環境に対するフラックス率制約の機構的従属性を表す様々な数学的形式を取ることができる。これらの補正係数は、第一原理の導出、又は経験的観察から得ることができる。温度の補正係数は、
【数19】
の形式を取ることができ、
式中、温度は、Tmin<T<Tmaxとなるように最小値と最大値の間であり、dtempは、従属性の正の係数であり、
【数20】
は、補正係数を、1の最大値を有するように正規化する。酸性度の補正係数は、
【数21】
の形式を取ることができ、
式中、pHで表される酸性度は最小値と最大値との間であり、その結果、
【数22】
は、補正係数を、1の最大値を有するように正規化する。浸透圧モル濃度の補正係数は、
【数23】
の関数形式を取ることができ、
式中、π>0は浸透圧モル濃度であり、
π及びπ0.5
は、浸透圧モル濃度に対する従属性を判定する係数であり、
【数24】
は、補正係数を、1の最大値を有するように正規化する。代謝産物濃度の影響の補正係数は、
【数25】
の飽和方程式の形式を取ることができ、
式中、[M2]は取り込みフラックスを制限する代謝産物の濃度であり、
【数26】
は、[M2]に対する取り込みフラックス率制限Mの従属性を判定する係数である。
【0047】
例示的な実施態様では、グルコース、グルタミン、アスパラギン、及び酸素の最大取り込み率は、それぞれ以下の方法で計算することができ:
【数27】
式中、非理想的な温度及び酸性度に起因する補正係数は、CGLC(T,pH),CGLN(T,pH),CASN(T,pH)及び
【数28】
であり、
グルコース[GLC]、グルタミン[GLN]、アスパラギン[ASN]、ラクテート[LAC]、グルタミン酸塩[GLU]、アンモニア[NH]、アスパラギン酸塩[ASP]の濃度は、取り込み率うちのいくつかに影響を及ぼし、上記の取り込みフラックス率の制限を計算するための反応速度モデル160パラメータは、下記の表1で関連する反応速度機構ごとに要約してある。いくつかの実施態様では、方程式に対する入力は代謝産物の細胞外濃度であり、いくつかの実施態様では、方程式に対する入力は細胞内濃度である。その他の実施態様では、代謝産物の細胞外濃度と細胞内濃度との組み合わせは、フラックス率に対する制約164の計算することへの入力であり得る。いくつかの実施態様では、追加の反応速度モデル160パラメータは、温度、酸性度、及び組み合わせられた補正係数に対する取り込みフラックス率の従属性を定量化する。
【0048】
【表1】
【0049】
代謝産物取り込みフラックス率に対する制約を算出することに加えて、又はそれに代わって、反応速度モデル160は、細胞維持及び/又は標的生成物の生成のためのエネルギー消費を決定する代謝プロセスの1つ以上のフラックス率に対する制約を算出することができる。代謝産物取り込み率に対する制約は取り込み率の上限であり得るが、維持エネルギーに対する制約は、関連するフラックス率の下限であり得る。維持エネルギーは、現実環境で生存するために現実細胞によって用いられるエネルギーを反映し得る、仮想細胞バイオマス130のモデリングされた代謝性要求を表す。エネルギーは、ATPの細胞内濃度又は量によって表され得る。細胞バイオマス130が、維持に必要とされるよりも多くのエネルギー又はATPを生成する場合、細胞バイオマスは、正の成長率で成長することができる。一方で、細胞バイオマス130が、維持に必要な量のATP又はエネルギーを生成することに失敗した場合、細胞バイオマス130は低減又は実質上の死を開始する場合がある。モデリングプロセス100は、負の成長率を成長のための方程式に割り当てることによって、細胞死又は脱落に起因する細胞バイオマス130の低減を計上することができる。
【0050】
細胞バイオマスの低減を防ぐのに必要な細胞維持エネルギーの下界は、1つ以上のプロセス変数によって表される様々な環境係数に依存する場合がある。反応速度モデル160は、維持エネルギー必要量に影響を与える環境係数のうち少なくともいくつかを表すストレス変数又は係数Sを計算することができる。続いてモデリングプロセス100は、
【数29】
としてのATP消費量の最小率として最小維持エネルギーを計算することができ、
式中、vATP.minは、ストレスが存在しない、すなわちS=0である時の維持エネルギー必要量を表し、ks,mntは、ストレス変数の影響を調節する係数である。上記の方程式は、Sに対する維持エネルギー必要量の一次従属性を表すが、反応速度モデル160は、多項式、平方根若しくはその他の分数乗、対数、指数関数、若しくは前述の形式の組み合わせ、又は任意の他の好適な関係を含むその他の関数形式を用いてもよい。ストレス変数自体は、温度、酸性度、及び/又は任意の他の好適なプロセス変数、並びにこれらの経時的な変化に基づいて算出することができる。ストレス変数としては、代謝副生成物などの代謝産物の濃度に対する従属性が挙げられ得る。しかし、いくつかの実施態様では、反応速度モデル160は、最小維持エネルギーを計算する際に、以下の例示的な方程式によって表されるように、いくつかの代謝産物の濃度の影響を個別に含むことができ:
【数30】
式中、kmntは、有意なラクテート濃度[LAC]>>Kmnt,LAC及びアンモニア濃度
【数31】
が細胞外溶液内(又は、いくつかの実施態様では、細胞内溶液)に存在する場合に近似する最大追加維持エネルギー又はATP消費率であり、
【数32】
は、最小維持エネルギーに対するラクテート及びアンモニアそれぞれの影響を決定する反応速度モデルパラメータである。上記の方程式は、2つの代謝産物の影響を計上する単一の加法項(additive term)を示すが、別個の加法項又は任意の別の好適な関数従属性が、細胞維持のための最小維持エネルギー又は最小ATP消費率に影響を与える代謝産物濃度又はその他の環境係数を計上することができる。
【0051】
維持エネルギーの下界を計算した後で、反応速度モデル160は、追加的に、標的生成物を生成する最小率を計算することができる。標的生成物は、抗体、又は別の好適な生物学的生成物であり得る。反応速度モデル160は、最小維持エネルギーと生成物生成との間の比例関係を用い、生成物生成のための非理想的条件を計上する補正係数を適用することにより、標的生成物の生成の下方制約を計算することができる。例えば、反応速度モデル160は、標的生成物が抗体である場合の生成物生成の最小率を、以下の式によって計算することができ:
【数33】
式中、CANTI(T,pH)は、非理想的な温度及び酸性度に起因する抗体生成の低減を計上する補正係数であり、[LAC]はラクテート濃度であり、KANTI/LACは、生成物形成に対するラクテートの阻害効果を反映する反応速度モデルパラメータであり、βは、維持のためのATP消費の率と抗体生産の率とを関連付ける比例定数である。補正係数CANTI(T,pH)は、代謝取り込み率の補正係数として、温度及び酸性度に対する同様の関数従属性を有し得る。例えば、代謝産物の追加的な阻害効果を計上するその他の補正係数が、抗体又は別の標的生成物生成の下限の計算に含まれ得る。
【0052】
方程式1~15に用いられ、且つ表1に列挙されているものなどの反応速度モデルパラメータは、較正手順、又は単に較正を用いて得ることができる。較正目的で実施される実験は、実験的較正データを供給することができる。較正のための実験は、灌流実験、小規模バッチ、若しくはケモスタット実験、及び/又は任意の他の好適な実験であってよい。追加的に又は代替的に、較正データを、公開文献、理論計算、及び/又は任意の好適な供給源の組み合わせから適合させてもよい。較正手順は、反応速度モデルパラメータを発見するために、例えば、レーベンバーグ-マーカート、微分進化、及び/又は遺伝的アルゴリズムを含む様々な回帰、フィッティング、又は最適化の技法及び/又はアルゴリズムを、較正データに適用することができる。較正手順は、大域的及び局所的最適化アルゴリズムを組み合わせることができ、様々な好適なコスト又は目標関数の1つ以上を用いることができる。較正手順は、反応速度モデルパラメータを、個別に且つモデリングプロセス100の実行前に計算することができる。しかし、いくつかの実施態様では、較正手順の1つ以上の部分が、反応速度モデル160に組み込まれる。更に、いくつかの応用では、反応速度モデルパラメータの異なるセットが、例えばプロセス変数の現在値150によって決定されるとおりに、シミュレーションの異なる段階で適用される。
【0053】
実験的較正データとしては、代謝産物のセットの異なる時点における濃度が挙げられ得る。最小化されるべき総計較正誤差(aggregate calibration error)は、
【数34】
として定義することができ、
式中、[Msim(t)は、k-th代謝産物の時間tにおけるシミュレーションされた濃度であり、[Mexp(t)は、k-th代謝産物の時間tにおける実験濃度であり、wは、総計誤差におけるk-th代謝産物の誤差の重みである。この実施態様では、k-th代謝産物の誤差は、異なる時間における相対濃度誤差の二乗の和として計算される。その他の実施態様では、誤差は、絶対及び相対濃度誤差の組み合わせに基づいてもよい。総計誤差は、各代謝産物の重み付けされた和である。異なる代謝産物の重みは、その他の代謝産物濃度を抑圧又は除外しながらも、較正におけるいくつかの代謝産物濃度の重要性を強調することができ、また、実験に依存し得る。例えば、グルコース濃度は、バイオプロセスの成長段階に対応する実験により関連がある場合があり、抗体濃度は、生成段階に対応する実験により関連がある場合がある。一般に、種々の好適な実験及び誤差関数の公式化は、異なる反応速度モデルパラメータを較正するのに適切である場合がある。
【0054】
以下の説明は、フラックスバランス解析170の例示的な実施態様を解明し、その詳細を与えるものである。フラックスバランス解析170は、例えば、最大代謝産物取り込み率、細胞維持のための最小エネルギー消費率、及び関連する標的生成物生成の最小率などの、反応速度モデル160によって生成された制約164を用いて、細胞バイオマス130の代謝モデルのためのフラックス率174の完全なセットを計算する。異なる代謝モデルは、異なる代謝産物、及び異なる代謝経路の配置を計上することができる。各代謝経路フラックスは、反応、又は反応のセットを表して、集合的に、代謝産物のセットを別の代謝産物のセットに変換することができる。代謝経路フラックスが代謝産物を消費又は生成する割合は、フラックスの化学量論係数を形成する。下記の表2は、抗体生成物を生成するように構成されたCHO細胞をモデリングする代謝フラックスの例示的なネットワークを例示する。
【0055】
【表2】
【0056】
添字は、細胞プロセスの一部であるサイトゾル又は細胞代謝産物(c)、細胞外代謝産物(e)、及びミトコンドリア代謝産物(m)を区別する。以下の表3は、表2の代謝フラックスに関与する代謝産物を列記及び説明する。
【0057】
【表3】
【0058】
モデリングプロセス100のフラックスバランス解析170は、各代謝経路のフラックス率を計算することができる。続いて、表2に記載される代謝ネットワークの例では、フラックスバランス解析170は、多くの条件、制限、制約、又は目標に従って、34個の代謝経路のそれぞれのフラックス率を決定することができる。フラックスの計算に対する1つの制約は、細胞バイオマス130の代謝産物濃度の定常状態を維持するための必要条件であり得る。例えば表2の代謝経路33は、1の化学量論係数によって示される均等な割合で、水素、還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、及びピルベートを、非還元形態のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド及びラクテートに変換することができる。その他の代謝フラックスのセットは、続いて、水素、還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを生成して、非還元形態のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド及びラクテートを消費することができる。別の例として、表2の代謝経路14は、細胞外溶液124から吸収することによって水素を生成してもよく、又は、細胞外溶液124内へと除去することによってラクテートを消費してもよいが、両方が達成されなくてもよい。ピルベートを細胞外溶液124から吸収するか、又はピルベートを細胞外溶液124内に除去して、ピルベートが細胞内経路フラックスと平衡する必要があり得る必要条件をもたらすための経路がなくてもよい。一般に、細胞内代謝産物濃度は、定常状態で細胞内経路フラックスと平衡し得るか、或いは細胞外溶液と相互作用し得る。方程式
【数35】
(式中、
【数36】
は、代謝ネットワーク及び速度ベクトルの化学量論行列であり、
【数37】
は、全てのフラックス率のベクトルである)は、フラックスバランス解析170の定常状態条件を記述する。しかし、定常状態条件は、フラックスバランス解析170に対する唯一解を発見するには十分でない場合があり、したがって、フラックスバランス解析170は、可能な解のセットを限定するために、その他の制約164を必要とする場合がある。
【0059】
代謝経路のうちいくつかは、細胞バイオマス130からの代謝産物の除去、又は細胞外溶液124から細胞バイオマス130への代謝産物の取り込みを計上する。フラックスバランス解析170の定常状態解は、取り込み又は除去フラックス率に対する制約に依存し得る。例えば、基質代謝産物の取り込みフラックスは、反応速度モデル160に関連して上述したように、細胞外溶液124中の対応する代謝産物の濃度によって、且つ非理想的環境条件によって、制約され得る。例えば、表2によって説明される代謝ネットワークの場合、細胞外酸素入力を省略する表2の代謝経路5によって示されるように、酸素は細胞外溶液中で豊富であり得る。それでもなお、酸素の最大取り込み率は、プロセス変数の現在値150aによって示される理想的条件及び非理想的条件の補正係数に対する最大取り込み率を考慮に加える方程式12によって制約され得る。いくつかの実施態様では、表2の代謝経路3~17に対応する代謝フラックス率のうち少なくともいくつかは、反応速度モデル160によって計算される率制約164によって制約される。その他の実施態様では、反応速度モデル160によって計算される率制約164は、細胞外条件及び取り込み率によって間接的な影響を受け得る細胞内代謝経路に適用される。例えば、方程式10のグルタミン制約は、代謝経路27のフラックス率を制限することができ、方程式9のグルコース制約は、代謝経路34のフラックス率を制限することができ、方程式11のアスパラギン制約は、代謝経路25のフラックス率を制限することができる。
【0060】
フラックスバランス解析170は、反応速度モデル160によって生成される制約164下の定常状態条件に対する、フラックス率の固有のセットを計算することができない場合があり、また、細胞バイオマス130に対して定義される少なくとも1つの代謝目標172を追加的に得ることができる。インシリコモデル104における仮想細胞バイオマス130の代謝目標は、現実のインビボ細胞培養の生物学的目標に対応し得る。様々な代謝目標関数は、異なる生物学的代替物を表す、異なる実施態様におけるフラックスバランス解析170を制約することができる。代謝目標関数172は、細胞バイオマス130の成長率を最大化してもよく、代謝産物取り込み率の線形結合を最小化してもよく、エネルギー又はATP生成に関連する経路のフラックス率を最大化してもよく、或いはフラックス率のセットに対する別の制限を生成してもよい。一般に、代謝目標関数172は、代謝ネットワークの速度ベクトル
【数38】
(フラックス率のセット)によって表され得る速度ベクトルによって表されるフラックス率の任意のセットに対するコスト又は値を計算することができる。いくつかの実施態様では、フラックスバランス解析170はコスト又は値を最小化し、その他の実施態様では、フラックスバランス解析170はコスト又は値を最大化する。更に、代謝目標関数は、プロセス変数の様々な現在値150a、その履歴、並びに、現時点及び過去のシミュレーションされた時点における細胞バイオマス130及びその環境を記述する様々なその他の変数に依存し得る。
【0061】
速度ベクトル
【数39】
の要素である、フラックス率v、v、・・・vN-1、vを含むN代謝経路又は反応の集合を考慮すると、代謝目標関数172は、下記の表4に例示される様々な数式を取ることができる。表は更に、代謝目標関数の説明及び動機を提供する。
【0062】
【表4】
【0063】
フラックスバランス解析170は、所与の代謝目標関数172に対して反応速度モデル160によって生成された全ての制約を満たす解を発見することができない場合がある。特に、維持フラックスの最小率に対する制約が、の他のフラックス率のいくつかの関数に対する成長又は成長比を最大化する目標関数172に関して満たすことができない場合、フラックスバランス解析170は異なる代謝目標172に切り替えることができ、また、標的生成物の最小維持フラックス率及び最小生成率に対する制約を無視することができる。フラックスバランス解析170は、例えば、維持フラックス率を最大化する代謝目標172に切り替えてもよい。最大取り込み率などの残りの制約164を満たしつつも維持フラックス率を最大化する定常状態解を発見すると、無視された最小維持フラックス率と達成された維持フラックス率との間の差異に基づいて、フラックスバランス解析170は、細胞バイオマス130の死亡率又は脱落率を計算することができる。バイオマス濃度に対するバイオマス130の変化率を表す死亡率方程式は、
=c(vATP,min-vATP) (式17)
を用いて計算することができ、
式中、vATP,min-vATPは、最小維持フラックス率と計算された不十分な維持フラックス率との間の正の差分であり、cは、モデリングプロセス100のパラメータである比例係数である。
【0064】
以下の説明は、率積分モジュール180の例示的な実施態様を解明し、その詳細を与えるものである。フラックスバランス解析170が、細胞バイオマス130の成長又は死亡率を含むフラックス率174を計算したら、率積分モジュール180は計算されたフラックス率174を用いて、プロセス変数の更新値150bを計算することができる。率積分モジュール180は、バイオリアクタ120の仮想内容物の物質収支を実施することができる。追加的に又は代替的に、率積分モジュール180は、基質代謝産物を含むバイオリアクタ120入力の消費、及び/又は標的生成物の生成を計算することができる。
【0065】
率積分モジュール180は、最初にプロセス変数の時間変化率を計算し、続いて、プロセス変数の微分方程式、又は、離散時間形式で差分方程式を、解くか或いは数値積分することができる。プロセス変数の時間変化率のための方程式は、入力ストリーム140及び出力ストリーム142からの寄与を含めることができる。プロセス変数のセットのためのいくつかの例示的な方程式を下記に示す。例えば細胞外溶液中の代謝産物の時間変化率のための一般方程式は、
【数40】
と記述することができ、
式中、[M]は、細胞外溶液124中の代謝産物の濃度(すなわち、検討中のプロセス変数)であり、[BIOM]は、細胞外溶液124のバイオマスの濃度であり、
【数41】
は、代謝経路フラックスi中の細胞外代謝産物Mの化学量論係数であり、vはフラックスバランス解析170によって計算されるフラックスiのフラックス率であり、Vは細胞外溶液124の体積であり、FINは、入力ストリーム140の体積流率であり、
【数42】
は、入力ストリーム140中の代謝産物M(細胞外代謝産物Mと同じ物質)の濃度であり、FOUTは、出力ストリーム142の体積流率であり、Tは、代謝産物Mのフィルタ144の透過又は選択性因子である。式
【数43】
は、代謝ネットワーク中のフラックスの全てによる、Mの細胞外濃度に対する合計寄与であり、それに応じて、取り込みフラックスのみ、又は除去(排出)フラックスのみが、Mの細胞外代謝産物濃度に影響を与える場合は、-v又はvと簡約してもよい。複数の入力ストリームを含むモデリングプロセス100の実施態様では、複数の入力ストリームを表す多重項にわたる総和が、
【数44】
と置き換わり得る。体積Vは、
【数45】
によって与えられる変化率を含むプロセス変数であり得、体積を実質的に一定に維持する実施態様では、FIN=FOUTである。いくつかの実施態様では、出力ストリーム142に対するフィルタ144は存在せず、全ての代謝産物に対してT=1であり、その他の実施態様では、フィルタは所与の代謝産物実質的に濾過せず、所与の代謝産物に対してT=1をもたらす。
【0066】
不均質なリアクタの場合、本明細書で説明するように、方程式18は、バイオリアクタの所与の部分における代謝産物の変化率を表し得、不均質性、及び混合力学を計上するように調整され得る。特に、比較的微細な空間離散化を伴ういくつかの実施態様では、入力及び出力ストリーム140、142を表す加法項は、代謝産物の濃度勾配と速度場とのドット積によって置き換えられ得る。こうしたアプローチは、ある意味では、時間に関する偏微分及び空間次元に関する偏微分に基づく時間に関する全微分を計算する。その他の実施態様では、入力及び出力ストリーム140、142を表す加法項は、速度場を考慮して不均質なバイオリアクタの隣接部分からの流れ寄与を加算した結果であり得る。いくつかのバイオリアクタ体積離散化においては、ある部分はリアクタ外から来た入力ストリームを含み得、別の部分はリアクタからの出力ストリームを含み得る。
【0067】
均質なバイオリアクタモデルの議論に戻ると、しかしながら、論じられたように、不均質なバイオリアクタへの一般的適用性を失うことなく、方程式18は、1つ以上の特定の代謝産物に適用するように適合され得る。例えば、細胞バイオマス130が、流率FIN=FOUT=Fを有する入力ストリーム140及び出力ストリーム142、
【数46】
の入力ストリーム140におけるグルコース濃度、及びTGLC=TANTI=TBIOM=0の灌流構成を用いて、表2の代謝経路によってモデリングさる、モデリングプロセス100の実施態様を検討すると、グルコース、バイオマス、及び抗体生成物の濃度の時間変化率のための方程式は、
【数47】
となり得、
式中、v15はグルコース取り込みのための経路15のフラックス率であり、v16は抗体除去のための経路16のフラックス率であり、v17はバイオマス除去のための経路17のフラックス率である。いくつかの実施態様では、細胞内バイオマスと細胞外バイオマスとの間に差異が存在しない場合があるが、表2の定義は、バイオマス生成経路19をバイオマス除去経路17と区別し、細胞外バイオマス濃度は、細胞外溶液124中の細胞バイオマス130を表す。
【0068】
率積分モジュール180は、細胞バイオマス130の時間変化率を、フラックスバランス解析170中の計算された死亡又は脱落率に基づき、
【数48】
として計算することができ、
式中、[BIOM]は細胞外溶液124中の細胞バイオマス130の濃度であり、vは、フラックスバランス解析170中で計算された死亡率又は脱落率である。バイオマス130は、進行中の代謝プロセスを含む仮想生細胞バイオマスのみを計上することができるが、いくつかの実施態様では、死亡細胞又は死亡バイオマスの濃度又は量は、モデリングプロセス100によって更新されるプロセス変数のうちの別の1つである。[BIOM]によって表される仮想生細胞バイオマス130のいかなる低下も、死亡バイオマスを表すプロセス変数の値における対応する増加に寄与し得る。死亡バイオマスは進行中の代謝プロセスを有さない場合があるが、これは、細胞外溶液124の性質に影響を及ぼし得る。
【0069】
率積分モジュール180は、モデリングプロセス100によってシミュレーションされた期間の所要時間を通して、1つ以上の入力ストリーム140によって供給され、細胞バイオマス130によって消費される基質代謝産物の合計量、及び、1つ以上の出力ストリーム142を通して除去又は回収された生成物の合計量を計算することができる。例えば、回収された抗体生成物は、
【数49】
を用いて計算することができ、
式中、ANTIは回収された抗体生成物のモル又は質量の量であり、TANTiは、出力フィルタ144による抗体の経時変化する透過率であり、FOUTは、出力ストリーム142の経時変化する流率であり、[ANTI]は、細胞外溶液124中の抗体のモル濃度又は密度である。流率及び透過率は、経時的に変化して、異なる操作形態を示すか又は出力フィルタの性能をシミュレーションする場合があり、率積分モジュール180によって更新されるプロセス変数によって表され得る。操作形態は、細胞外溶液124中の生成物の蓄積段階、及び、生成物濃度が十分なレベルとなれば開始する収穫段階を表し得る。現実のバイオリアクタ操作における個別の蓄積及び収穫段階は、出力ストリーム142から生成物を分離するコストを低減することができる。フィルタ透過関数TANTIは、フィルタ144が置き換えられたときの透過性の階段状変化、又は濾過された代謝産物若しくは出力ストリーム142のその他の構成要素のうちいくつかを保持することに起因する透過性の漸進的変化を表し得る。
【0070】
いくつかの実施態様では、率積分モジュール180は、温度、pH、及び/又はその他のプロセス変数の変化から、細胞バイオマス130に対するストレスを計算することができる。プロセス変数におけるこれらの変化は、制御変数152に依存し得る。制御変数152は、いくつかの実施態様では、フラックスバランス解析170及び/又は率積分モジュール180によって処理される。ストレスが経時的に蓄積することにより、率積分モジュール180は、ストレスを示す更新されたプロセス変数の計算に好適となることができる。追加的なプロセス変数は、ストレスの計算を促進することができる。例えば温度メモリ変数は、細胞バイオマス130維持エネルギー必要量に対する、変化する温度の影響の時間発展を示すことができる。
【0071】
率積分モジュール180は、計算された代謝産物濃度の時間変化率を用いて、プロセス変数の現在値に基づき、以下の方法で対応する濃度のプロセス変数の更新値を計算することができ:
【数50】
式中、[Mn+1は、モデリングプロセス100の(n+1)回目の時間ステップ102後の代謝産物Mの細胞外濃度の更新値を表し得、[M]は、n回目の時間ステップ102後の現在値を表し得、
【数51】
は計算された微分係数であり、Δtn+1は(n+1)回目の時間ステップの所要時間である。
【0072】
不均質なリアクタの場合、
【数52】
は、上述したように、例えば濃度の勾配及び速度場を考慮して計算したバイオリアクタの一部分の全微分を表し得る。速度場は、時間ステップ102よりも高い頻度で、或いは時間ステップ102よりも少ない頻度で、全ての時間ステップ102にて更新され得る。速度場は、シミュレーション中の特定のトリガ条件に応答して更新され得る。例えば、バイオリアクタを供給するシミュレーションストリームの流率の変化、シミュレーションされたバイオリアクタの混合の変化、又はバイオリアクタ内容物の物理的性質の実質的な変化が、速度場の新たな計算をトリガすることができる。
【0073】
いくつかの実施態様では、各時間ステップ102の所要時間は一定に保たれ、その他の実施態様では、モデリングプロセスは、異なるnの値に対して時間ステップ102の所要時間を変更することができる。各時間ステップ102の所要時間の変更は、例えば、計算されたフラックス率174、入力ストリーム140若しくは出力ストリーム142の流率、制御変数152、及び/又は、モデリングプロセス100の実行速度若しくは精度に関する必要条件に依存し得る。
【0074】
率積分モジュール180は、プロセス変数の微分又は変化率を積分して、方程式24以外のプロセス変数更新式を導入するための、様々な技法のうちの1つ以上を用いてもよい。率積分モジュール180は、オイラー法、ルンゲクッタ法、後退微分法、指数積分法、又はその他の好適な方法を含む一次、二次、又はより高次の方法を用いてよい。
【0075】
モデリングプロセス100の反復部分は、シミュレーションの仮想時間に対応するプロセス変数が、いつシミュレーションされた期間の終了を示すかを結論づけることができる。実施態様では、時間ステップ102の各反復においてモデリングプロセス100により計算されたプロセス変数の新しい/更新値は、更なる計算又は処理のために記憶又は保存することができる。例えば、仮想時間ステップ102の異なる仮想時間又は異なる反復で計算された値を組み合わせて、プロセス変数の時間発展を示すデータセットを作成することができる。
【0076】
一連の時間ステップ102のために実行された反復部分が完了したら、モデリングプロセス100は、計算されたプロセス変数の新しい値に基づいて、計算的にモデリングされたバイオリアクタ120の1つ以上のメトリックを計算するための追加モジュールを含み得る。1つ以上のメトリックのメトリックは、ベクトル、アレイ、又はその他の好適なデータ構造の数値若しくは数値の集合、好適なデータ構造のテキスト値若しくはテキスト値の集合、又は好適なデータ構造のブール値若しくはブール値の集合であり得る。メトリックは、シミュレーションの品質及び出力の信頼度を示すことができ、或いは、これは、シミュレーションに対応する仮定的な現実のバイオリアクタの性能の指標となり得る。例えば、メトリックは、基質代謝産物から標的生成物への変換効率を示すことができ、効率は、経済コスト及び/又は時間の点で算出される。追加的に又は代替的に、メトリックは、生成された標的生成物の合計量、及び/又は生成物の品質を示すことができる。
【0077】
モデリングプロセス100は、モデリングされたバイオリアクタのメトリックに基づいて、ユーザインターフェースを介してユーザに対して表示される情報、現実世界のバイオリアクタの制御設定、及び/又はシミュレーションされるバイオリアクタ120と操作の点で同様な仮定的現実世界バイオリアクタの人工知能モデル用の訓練セットを生成するための追加モジュールを含み得る。
【0078】
図2は、モデリングプロセス100の実施態様における、計算されたストレス変数に対する温度シフトの例示的な影響を示すグラフ200である。グラフ200は、モデリングプロセス100によってシミュレーションされた、左から右にかけて増加する時間を表す水平の時間軸202を有する。垂直の温度軸204は、細胞外溶液124の温度を表すTSOLとラベルされた実線トレース、及びメモリ温度を表すTMEMとラベルされた破線トレースに対応し、一方で、上記のストレス変数を表す別の垂直軸206は、ストレスとラベルされた点線トレースに対応する。
【0079】
更に図2を参照すると、モデリングプロセス100によって実施されるシミュレーションは、仮想バイオマス130に実質的なストレスを導入しないレベルTで、細胞外溶液124の温度TSOLのプロセス変数から開始することができる。レベルTは、細胞バイオマス130の成長のための最適温度に対応し得る。tによってマークされる特定の時間に、溶液124の温度は、より低いレベルTへと低下し得、これは細胞バイオマス130の最適温度未満である。温度の低下は、制御変数152のうちの1つに応答して起きてもよく、また、グラフ200に示すように急激であってもよく、より緩やかであってもよい。TSOLの温度シフトの急激性は、モデリングされたバイオリアクタ内容物の混合の速度及び品質を含む、バイオリアクタ120のモデリングされた制御機構に依存し得る。グラフ200に示す温度の急激な変化があっても、バイオマス130によって検知されたメモリ温度TMEMは、温度シフトに対する生物学的応答を計上してより緩慢に変化する場合があり、以下の方程式によって表される時間発展に従い得:
【数53】
式中、ktempは、温度シフトに対する細胞バイオマス130の順応速度に対応するモデルパラメータである。率積分モジュール180は、方程式25を積分することによってTMEM(t)を計算することができ、以下の方程式を用いてTMEMとTSOLとの間の面積を数値積分することによってストレスを計算することができ、
【数54】
結果は、グラフ200のストレスの表現上の点線によって表される。
【0080】
図3は、本明細書に記述される方法及び技法を実施し得る例示的なコンピュータシステム300を示す。図3のコンピュータシステム300はコンピュータ310を含む。コンピュータ310の構成要素としては、システムバス320を介してシステムメモリ330と通信接続する1つ以上のプロセッサ312が挙げられ得るが、これに限定されない。1つ以上のプロセッサ312としては、1つ以上のシングルコア若しくはマルチコア中央処理装置(CPU)、画像処理装置(GPU)、又は任意の他の好適なプロセッサアーキテクチャが挙げられ得る。システムメモリ330としては、例えば読み取り専用メモリ(ROM)コンポーネント及びランダムアクセスメモリ(RAM)コンポーネントが挙げられ得る。システムメモリ330のRAMコンポーネントは、スタティックRAM(SRAM)、ダイナミックRAM(DRAM)、同期型ダイナミックRAM(SDRAM)、ダブルデータレートSDRAM (DDR SDRAM)、又は別の好適な種類のRAMを含む、いくつかの種類のRAMのうち任意のものであってよい。システムバス320としては、メモリバス若しくはメモリコントローラ、周辺バス、又はローカルバスなどを含む1つ以上の種類のバス構造が挙げられ得、また、任意の好適なバスアーキテクチャを用いてよい。例として、限定するものでないが、こうしたアーキテクチャとしては、業界標準アーキテクチャ(ISA)バス、マイクロチャネルアーキテクチャ(MCA)バス、拡張ISA(EISA)バス、及び周辺装置相互接続(PCI)バス(メザニンバスとしても知られる)が挙げられる。
【0081】
1つ以上のプロセッサ312は、システムバス320を介して、1つ以上の周辺装置及びネットワークインタフェース340、並びに内部不揮発性メモリ342とも通信接続することができる。内部不揮発性メモリは、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)又は半導体ドライブ(SSD)であり得る。追加的に又は代替的に、外部不揮発性メモリ装置344が、周辺装置及びネットワーク機器インタフェース340を介してコンピュータ310と通信接続することができる。周辺装置及びネットワークインタフェース340としては、コンピュータ310のパッケージ又は筐体外の装置と通信接続するための様々なコネクタ又はアダプタが挙げられ得る。
【0082】
周辺装置及びネットワークインタフェース340としては、1つ以上のユニバーサルシリアルバス(USB)インタフェース、VGA(ビデオグラフィックスアレイ)、DVI(デジタルビジュアルインタフェース)、及び/又はHDMI(高解像度マルチメディアインタフェース)が挙げられるが、これらに限定されない1つ以上のビデオコネクタが挙げられ得る。周辺装置及びネットワークインタフェース340は、モニタ352、キーボード354、及びマウス356が挙げられるがこれらに限定されない1つ以上のユーザインターフェース装置350に接続され得る。いくつかの実施態様では、ユーザインターフェース装置350のうちいくつか又は全部がコンピュータ310に統合されており、バス320を介して1つ以上のプロセッサ312と通信接続することができる。追加的に又は代替的に、モニタ352、キーボード354、及びマウス356は、タッチスクリーンとして統合されていてもよい。
【0083】
ユーザインターフェース装置350と接続することに加えて、又はその代わりに、周辺装置インタフェース340は、1つ以上の外部不揮発性メモリ装置344と通信接続してもよい。不揮発性メモリ装置344としては、HDD、SSD、及びコンパクトディスク(CD)、デジタル多用途ディスク(DVD)、磁気テープ、フロッピーディスク、又はフラッシュメモリが挙げられるがこれらに限定されない光学、磁気、又は電子的媒体用リムーバブルストレージドライブが挙げられ得る。追加的に又は代替的に、周辺装置及びネットワークインタフェース340は、プリンタ、プロッタ、スピーカ、又は任意の他の好適な視覚的、聴覚的、触知的若しくは触覚的出力装置が挙げられるがこれらに限定されない出力装置と通信接続することができる。
【0084】
周辺装置及びネットワークインタフェース340は、地域内ネットワーク(LAN)及び/又は広域ネットワーク(WAN)、例えばインターネットが挙げられ得る1つ以上のネットワーク(図示せず)と通信接続する1つ以上のネットワークアダプタを含み得る。接続は、有線接続、又は例えば、無線通信若しくは光信号を用いるなどした無線接続であってよい。接続されたネットワークを経由して、計算システム300は、その他の計算システム、周辺装置、又はその他の装置と通信接続することができる。
【0085】
集合的に、1つ以上のプロセッサ312、バス320、システムメモリ330、周辺装置及びネットワークインタフェース340、内部不揮発性メモリ342、外部不揮発性メモリ装置344、及びユーザインターフェース装置350は、計算システム300の処理ハードウェアと称することができる。図1のモデリングプロセス100を実施する処理ハードウェアは、図3に図示された要素のうちのいくつかを省略してもよく、又は追加の要素を含んでもよい。
【0086】
操作時には、計算システム300は、1つ以上のプロセッサ312による実行のためのプログラム命令をシステムメモリ330内に読み込むことができる。システムは、プログラム命令を例えば内部不揮発性メモリ342又は外部不揮発性メモリ装置344からシステムメモリ330内に読み込むことができる。システムメモリに読み込まれたプログラム命令としては、オペレーティングシステム362、及び様々なアプリケーションプログラム364が挙げられ得る。いくつかの実施態様では、計算システム300は、計算システム300と通信接続しているその他の計算システムに、その他のコンピュータシステムのプロセッサによって実行するためのプログラム命令を読み込ませることができる。
【0087】
コンピュータ310のシステムメモリ330に読み込まれたアプリケーションプログラム364としては、計算システム300の処理ハードウェアを用いて少なくとも部分的に図1のモデリングプロセス100を実施するための命令を含むバイオリアクタシミュレーションプログラム365が挙げられ得る。いくつかの実施態様では、計算システム300と通信接続しているその他の計算システムは、その他の計算システムの処理ハードウェアを用いてモデリングプロセス100の一部を実施することができる。コンピュータ310のシステムメモリ330に読み込まれたアプリケーションプログラム364は、モデリングプロセス100の一部を実施するように、又は様々な方法で実施に寄与するか、若しくは実施を強化するように計算システム300のハードウェアを構成する、ユーザインターフェース実施プログラム366を更に含むことができる。例えば、ユーザインターフェース実施プログラム366は、シミュレーションの開始時に、又はいくつかの実施態様ではシミュレーションの途中で、プロセス変数、制御変数152、並びに/又は入力及び出力流変数182の複数の現在値150aを受信するようにハードウェアを構成することができる。追加的に又は代替的に、ユーザインターフェース実施プログラム366は、例えばモニタ352上にレンダリングされたユーザインターフェースを介して、ユーザに情報を表示するようにハードウェアを構成することができる。
【0088】
ユーザインターフェース実施プログラム366は、様々な方法でユーザに情報を表示するようにハードウェアを構成することができる。この文脈において、情報を表示することとは、これを、モニタ352上に若しくは印刷された紙の上に視覚的形態で、若しくはスピーカを通して聴覚形態で、若しくは触知的若しくは触覚的装置を通して触知的若しくは触覚的形態で、又は様々なその他の好適な方法で提示することを意味し得る。表示された情報を受け取るユーザは、科学者、バイオリアクタの操作者、又は表示された情報に興味を持つ任意の他の人物であり得る。いくつかの実施態様では、ユーザは、表示された情報を処理し、処理された情報に基づいて処置を起こすことが可能な別の機械である。いくつかの実施態様及び/又はシナリオでは、ユーザインターフェース装置350のうち少なくとも1つを通して情報を受け取るユーザと、ユーザインターフェース装置350のうち少なくとも1つを通して情報を入力するユーザとは、異なるユーザである。
【0089】
バイオリアクタシミュレーションプログラム365及びユーザインターフェース実施プログラム366を含み得るアプリケーションプログラム364を再び参照すると、操作中のアプリケーションプログラム364は、システムメモリ330のプログラムデータ368部分にアクセスしてこれを改変することができる。プログラムデータ368としては、シミュレーション全体を通して計算された全ての新しいデータと共にシミュレーションの開始時に受信したデータが挙げられ得る。プログラムデータ368としては、例えば、プロセス変数の現在値150aのインスタンス、プロセス変数の更新値150b、制御変数152、並びに/又は入力及び出力流変数182のうちの全て又はいくつかが挙げられ得る。プログラムデータ368としては、シミュレーションのその他の時間パラメータと共に、時間ステップ102のインデックス又は値が挙げられ得る。その他の時間パラメータとしては、例えば、仮想開始時間、仮想終了時間、及びt(すなわち、図2の温度シフト時間)などの様々な仮想遷移時間が挙げられ得る。更に、プログラムデータ368は、計算されたプロセス変数の新しい値に基づいて計算的にモデリングされたバイオリアクタ120の1つ以上のメトリック、及び1つ以上のメトリックに基づいて生成された出力情報を含むことができる。生成された出力情報としては、ユーザインターフェース装置350のうちの1つ以上にレンダリングされたユーザインターフェースを介してユーザに表示することが意図された情報、又は例えば、内部不揮発性メモリ342又は外部不揮発性メモリ装置344に記憶させることが意図されたバイオリアクタの人工知能モデル用の訓練セットが挙げられ得る。
【0090】
いくつかの実施態様では、バイオリアクタシミュレーションプログラム365及びユーザインターフェース実施プログラム366は、単一のアプリケーションの部分である。その他の実施態様では、バイオリアクタシミュレーションプログラム365及びユーザインターフェース実施プログラム366は、コンピュータ310のハードウェアリソースを同時的又は逐次的に共有する別個のアプリケーションである。例えば、ユーザインターフェース実施プログラム366は、バイオリアクタシミュレーションプログラム365に必要なデータを受信し、内部不揮発性メモリ342又は外部不揮発性メモリ装置344にデータを記憶するために、ユーザインターフェース装置350上でユーザインターフェースをレンダリングすることができる。別の時点で、バイオリアクタシミュレーションプログラム365は、バイオリアクタモデリングプロセス100を実施し、内部不揮発性メモリ342又は外部不揮発性メモリ装置344内に任意の生成されたメトリック又はその他の出力データを記憶するために、ユーザインターフェース実施プログラム366(又は別のアプリケーション)によって記憶されたデータを使用することができる。後続の時点で、ユーザインターフェース実施プログラム366は、バイオリアクタシミュレーションプログラム365の出力を読み出して、ユーザに向けて適切な出力を生成することができる。
【0091】
図4A及び4Bは、例えばコンピュータ310上で実行されるユーザインターフェース実施プログラム366によってモニタ352上にレンダリングされ得る、例示的なユーザインターフェース400の2つのパネルを示す。ユーザインターフェース400は、モデリングプロセス(例えば図1のモデリングプロセス100)が、プロセス変数の初期値のうち少なくともいくつか(例えば、第1の時間ステップ102の現在値150a)を受信することを可能にし得る。この目的のために、例示的なユーザインターフェース400は、ユーザから実験条件変数を受信するための1つのパネル410と、ユーザから培地組成変数を受信するための別のパネル412と、を含むことができ、ユーザはユーザインターフェース装置350(例えばキーボード354及びマウス356)を介して情報を入力する。図4Aの実験条件パネル410は、ユーザがプロセス変数の指定された初期値の数値を入力することができる入力セル422a~mと、マウス356上のボタンをクリックして、対応する値をプログラムデータ368内に読み込ませることによりユーザが作動させることのできるボタン424a~mと、を含み得る。
【0092】
実験条件パネル410に入力された値のうちいくつかは、モデリングプロセス100の制御変数152の値を設定することができる。例えば、フィルタ変更422d、収穫時間422f、及びグルコース注入時間422mは、計算された変化率を積分することによりプロセス変数を更新するのではなく、プロセス変数が仮想制御に基づいて変更できる時にシミュレーションされた時間間隔内の仮想時間を示し得る。
【0093】
図4Bの培地組成パネル412は、モデリングプロセス100がユーザから、入力セル432a~hを通して、バイオリアクタ120のバッチモードのバッチ培地若しくは細胞外溶液124中の代謝産物濃度を示す初期プロセス変数値、及び/又は入力セル442a~hを通して、バイオリアクタ120の操作の灌流モード中の入力ストリーム140の代謝産物濃度を受信することを可能にする。灌流モードに対応するシミュレーション時間間隔が開始したら、率積分モジュール180によって計算された対応する変化率を改変することによって、入力ストリーム140中の代謝産物の濃度が、細胞外溶液124中の代謝産物濃度に対応するプロセス変数に影響を与えることを開始し得る。
【0094】
図5は、情報をユーザに表示する例示的なユーザインターフェース500を示す。図3のユーザインターフェース実施プログラム366は、例えば、モニタ352上にユーザインターフェース500をレンダリングすることができる。ユーザインターフェース実施プログラム366は、バイオリアクタシミュレーションプログラム365によって計算されたメトリックに基づいてユーザインターフェース500に表示することが必要な情報を生成し、パネル510a~eに情報を表示することができる。表示されたメトリックは、シミュレーションされた期間中のいくつかのプロセス変数の値を表すトレース512a~fを含み得る。ユーザは、ユーザインターフェース実施プログラム366によって提供された別のユーザインターフェースを通して、どの変数を表示するか選択することができる。追加的に又は代替的に、ユーザは、過去にシミュレーションされた期間からの値を表すトレース514a~fの別のセットを表示することを選択できる。2つのシミュレーションからのトレース512a~f、514a~fは、例えばユーザインターフェース400を通してユーザによって入力されていてもよい異なるプロセス条件を反映することができる。
【0095】
一実施例では、ユーザインターフェース500のパネル510a~eは、それぞれ、バイオマス変数のトレース512a、ラクテート変数のトレース512b、グルコース変数のトレース512c、アンモニア変数のトレース512d、透過(permeate)変数のトレース512e、及び抗体変数のトレース512fを表示する。過去のシミュレーションからの対応する514a~fトレースにより提供される比較は、現実世界のバイオリアクタでのインビボ実験を実施することなしに、仮定的なバイオリアクタ実行性能の予期される変化に関する有用な情報をユーザに提供することができる。透過トレース512e、514eは、出力ストリーム142から収穫された抗体生成物の濃度又は量の、例えば多くの日数にわたる仮想時間発展を示し得る。透過トレース512e、514eのゼロベースラインからの急激な上昇は、ユーザインターフェース400Aの収穫時間に関して入力セル422fに入力された仮想時間における仮想収穫の開始に対応し得る。収穫の開始は、シミュレーションされたバイオリアクタ120の操作のバッチモードから灌流モードへの変更、又は出力ストリーム142中の標的抗体生成物の量を制御する仮想フィルタ144の変更、及び、率積分モジュール180による抗体濃度変数の更新の計算における対応する変更にも対応し得る。結果として、収穫のシミュレーションが開始すると、細胞外溶液中の抗体濃度を示すトレース512f、514fは低下を開始する。
【0096】
バイオマスのトレース512a、514aは、高成長率の領域、続いてより遅い成長の領域の2つの個別の領域を示し得る。2つの領域間の遷移は、例えば、図2に示すように時間tに細胞外溶液の温度をTからTに低下させることによるものであり、且つユーザインターフェース400Aの入力セル422g~iに入力された値に基づく、ストレスの導入に対応し得る。ラクテート及びアンモニアの代謝副生成物トレース512b、514b、512d、514dにおける温度シフトに対応する変化は、モデリングプロセス100のフラックスバランス解析170によって計算して、ラクテート生成の低下及びアンモニア生成の上昇を示し得る。グルコーストレース512c、514cの前半における変動性は、ユーザインターフェース400Aの入力セル422l~mに入力された値に基づく、入力流ストリーム140内でのグルコース注入の導入に対応し得る。例示的な実施態様では、パネル510a~fに提示されるトレースは、計算システム300上で実行するアプリケーションプログラム365、366によりモデリングプロセス100を用いて計算されたプロセス変数値の相互従属を示唆する。
【0097】
図6は、バイオリアクタをモデリングするためのプログラム(例えばバイオリアクタシミュレーションプログラム365及び/又は別のアプリケーション)が、コンピュータ610の処理ハードウェアに、現実世界のバイオリアクタ620のための制御設定を生成させる一実施態様における、バイオリアクタ制御システム600を示す。このコンピュータは図3のコンピュータ310であってもよく、例えば、周辺装置及びネットワークインタフェース340のインタフェースのうちの1つにわたる制御設定を通信することができる。バイオリアクタ制御システム600は、現実世界のバイオリアクタ620に加えて、コントローラ630、及び1つ以上のセンサ640を含み得る。コントローラ630は、バイオリアクタ620及び任意の接続されたシステムの物理的、化学的、及び生物学的性質を、検知、測定、及び/又は変換する1つ以上のセンサ640と通信接続することができる。センサ640は、例えば、バイオリアクタ620の重量、バイオリアクタ620内の液位、複数の位置の温度、酸性度、濁度、光学密度、浸透圧モル濃度、酸素レベル、様々な代謝産物の濃度、固体、液体、又は気体試料の化学組成、細胞計数、並びに、任意の他の好適なバイオリアクタ620、及び/又はバイオリアクタ620に流体的若しくは機械的に接続されたコンポーネントの性能又は操作の指標を測定することができる。
【0098】
コントローラ630は、通信的、電気的、又は機械的接続を通して、1つ以上のヒータ若しくは熱交換器、1つ以上のミキサ、変換器、ポンプ、バルブ、並びに/又はバイオリアクタ620及びその内容物の物理的、化学的、及び生物学性質を改変するためのその他の装置を含む様々な機械的及び/又は電気的コンポーネントを制御することができる。いくつかの実施態様では、コントローラ630は、それぞれの比例積分微分(PID)コントローラハードウェア、ファームウェア、及び/又はソフトウェアを用いて、バイオリアクタ620に関連する1つ以上の量(例えば温度、グルコース濃度など)を制御する。コントローラは、例えば、バイオリアクタ620への流れの入力流率若しくは組成の変化、及び/又はバイオリアクタ620内容物の温度の変化を生じさせることができる。コントローラは、例えば、バッチ操作モードから連続流操作から灌流モードへの切り替え、細胞成長に実質的な最適な環境における高成長率モードから標的生成物の生成を増加させるためのストレスモードへの切り替え、生成モードから収穫モードへの切り替え、及び/又は任意の他の所望される変更を含む、バイオリアクタ620の操作モードの変更を開始することができる。コンピュータ610によってコントローラ630に通信された1つ以上の制御設定に応答して、コントローラ630は上記の処置のいずれかを取ることができる。追加的に又は代替的に、コントローラ630はセンサ640からコンピュータ610に信号を通信することができる。コンピュータ610は、モデリングプロセス100の実行においてセンサ640からの信号を用いることができる。例えば、コンピュータ610は、コントローラ630から受信したセンサ信号に少なくとも部分的に基づいて、モデル104の1つ以上のモデリングパラメータを調節することができる。いくつかの実施態様では、センサ640は、コンピュータ610と直接通信接続している。コンピュータ610が図3のコンピュータ310であるいくつかの実施態様では、ユーザは、ユーザインターフェース装置350を通して、又は外部不揮発性メモリ装置344を通してセンサ信号を示す値を入力することができる。いくつかの実施態様では、コントローラ630はモデル予測制御(MPC)を実施して、機械的及び/又は電気的コンポーネントを制御する。
【0099】
センサ640からの信号がモデリングプロセス100の実施に用いられているか否かにかかわらず、コンピュータ610によって生成され、計算的にモデリングされたバイオリアクタ120のメトリックに少なくとも部分的に基づく制御設定は、コントローラ630を介して、現実世界のバイオリアクタ620の操作を改変することができる。例えば、コンピュータ610上で実行されるモデリングプロセス100は、最適時間を示すメトリックを計算して、操作モードを変更し、コントローラ630に対応する制御設定を送信することができる。いくつかの実施態様では、コンピュータ310及びコンピュータ610は、相互に通信接続している異なる装置であり、制御設定はコンピュータ310によって生成される。制御設定は、例えば周辺装置及びネットワークインタフェース340のうち1つを通したネットワークを介して、又は外部不揮発性メモリ装置344のうちの1つを介して、コンピュータ610に転送され得る。いくつかの実施態様では、現実世界のバイオリアクタ620の制御設定は、バイオリアクタ620のリアルタイムモデルベース制御の一部である。その他の実施態様では、制御設定は、現実世界のバイオリアクタ620の操作に関連するインシリコ実験の一部として過去の時点のモデルによって生成されたメトリックに基づく。
【0100】
図7は、一例示的実施態様による、バイオリアクタを計算的にモデリングするコンピュータによって実施される方法700を示すフローチャートである。方法700は、図1の計算モデル104を適用することができ、また、例えば、図1のモデリングプロセス100の実行を含むことができる。更に、方法700は、コンピュータ310のプロセッサ312(例えば、バイオリアクタシミュレーションプログラム365を実行する時に)、又は別の好適な計算装置若しくは計算システムによって実施され得る。方法700は、例えば上記の技法を用いて、空間的に不均質なバイオリアクタをモデリングするように適合され得る。
【0101】
方法700は、プロセス変数の複数の現在値を受信することを含む(ブロック710)。値は、図4A及び4B、並びに関連する考察で例示されるように、グラフィカルユーザインターフェースを介してユーザから受信することができる。図6及び関連する考察で示されるように、いくつかの実施態様では、受信された値は現実のバイオリアクタの測定値に基づいてもよい。プロセス変数の現在値を受信するか又は得るための追加的又は代替的方法としては、コンピュータメモリから値を読み込むこと(例えば過去に計算された値)、及び/又はコンピュータストレージから所定のデフォルト値を読み込むことが挙げられ得る。
【0102】
ブロック710で受信したプロセス変数は、例えば、図1のモデリングされたバイオリアクタ120の仮想細胞外溶液124中の仮想細胞バイオマス130などのバイオリアクタの仮想内容物を記述することができる。プロセス変数としては、例えば、細胞外溶液(例えば細胞外溶液124)、バイオマス(例えばバイオマス130)、並びに/又は入力及び出力ストリーム(例えば入力ストリーム140及び/又は出力ストリーム142)を記述する、温度、酸性度、及び/又は合計浸透圧モル濃度を示す1つ以上の変数が挙げられ得る。追加的に又は代替的に、プロセス変数は、仮想バイオマス(例えばバイオマス130)の量若しくは濃度、並びに/又は、仮想細胞外溶液(例えば溶液124)並びに/若しくは入力及び出力ストリーム(例えば入力ストリーム140及び/又は出力ストリーム142)中の代謝産物のいずれかの量若しくは濃度を示すことができる。プロセス変数によって記述される量又は濃度を含む代謝産物としては、酸素、二酸化炭素、アンモニア、ラクテート、グルコース、アスパラギン、グルタミン、グリシン、及び/又は任意の他の好適な代謝産物が挙げられ得る。変数は、代謝産物の細胞外及び/又は細胞内(仮想細胞内部の)量又は濃度記述することができる。いくつかの実施態様では、プロセス変数は、異なる細胞オルガネラ又は器官中の代謝産物濃度を記述する。更に、方法700が不均質なバイオリアクタをモデリングする場合、プロセス変数は、モデリングされたバイオリアクタ部分のそれぞれを記述することができる。
【0103】
シミュレーションされた期間中のプロセス変数の新しい値を計算するために、方法700は、ブロック720で、各所与の時間ステップ(例えば、時間ステップ102の複数の反復)に対して、代謝フラックスのフラックス率(例えば、仮想細胞バイオマス130を記述する)に対する複数の制約を生成することができる。代謝フラックスは、図1の132a~iとして示されたフラックス、表2に列挙されたフラックス、又は、任意の他の細胞代謝プロセスにおける代謝経路及び/若しくは生化学的反応の好適な記述であってよい。代謝フラックスは、細菌細胞、動物細胞、及び/又は真菌細胞を含む異なる種類の細胞の代謝ネットワークを記述することができる。細胞バイオマスによってモデリングされる細胞の種類としては、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの幹細胞又は生殖細胞が挙げられ得る。
【0104】
方法700は、例えば反応速度モデル160などの反応速度モデルを用いて、代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうちの少なくともいくつか(例えば現在値150a)の1つ以上の影響をモデリングすることによってフラックス率に対する制約を生成することができる。制約されるフラックス率としては、グルコース取り込み、グルタミン取り込み、アスパラギン取り込み、酸素取り込み、並びに/又は、細胞外条件(例えば、細胞外溶液124の条件)によって、上端及び/若しくは下端で、直接的若しくは間接的に制限される任意の他のフラックス率が挙げられ得る。制限条件としては、例えば温度、酸性度、及び/又は浸透圧モル濃度が挙げられ得る。代謝フラックス率に対する制約としては、バイオマス成長又は細胞維持のためのエネルギー消費のためのフラックス率に対する上限及び/又は下限が挙げられ得る。代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値の1つ以上の影響をモデリングすることは、理想的条件下の上限を、非理想的条件に起因する取り込み率の低下を示す補正係数で乗じることによって代謝産物取り込み率の上限に対する温度、酸性度、及び/又は浸透圧モル濃度の影響を計算することを含むことができる。補正係数は、条件の変化に影響を受ける現実世界の細胞培養の実験的観察を考慮して構築され得る。これら及びその他の実験的観察は、計算モデル104などの計算モデルの較正手順に含まれ得る。
【0105】
代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値の影響は、細胞維持のためのエネルギー消費率の下限に対するストレスの影響を含み得る。ストレスは、より高い標的生成物の生成率を誘発するために増加させてもよい。一実施態様では、図2に示されるように、温度シフトはストレスを誘発し、そのため細胞バイオマスは非成長プロセス上でより多くのエネルギーを費やすことが必要となる。細胞バイオマス中でストレスを誘発するその他の方法は、細胞外溶液の酸性度又は浸透圧モル濃度を変更することであり得る。代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値の影響は、代謝副生成物の影響を含み得る。ラクテート濃度及びアンモニア濃度は、反応速度モデルによって計算されるフラックス率に対する制約に影響を及ぼす係数に含まれ得る。上記の影響をモデリングすることは、現実世界の細胞培養物からの実験データでモデリングされた影響を較正することを含み得る。
【0106】
方法700は、ブロック730で、フラックスバランス解析(例えばフラックスバランス解析170)を実施することによって、(例えば仮想バイオマス130の)代謝フラックスのフラックス率の計算を続けることができる。フラックスバランス解析は、代謝目標(例えば代謝目標172)、及びフラックス率に対する生成された複数の制約(例えば制約164)に従い得る。いくつかの例示的な代謝目標を上記の表4に列挙した。代謝目標の広範なクラスは、フラックス率のうち少なくともいくつかの線形結合とフラックス率の二乗との比を最小化することによって生成され得る。線形結合における各重みは、正、負、又はゼロであり得る。したがって、生成された代謝目標は、例えば、効果的に合計フラックス比あたりの成長を最大化するか、又は基質代謝産物消費に対する成長を最大化することができる。維持エネルギーが不十分なシナリオでは、例えば非負の成長は達成が不可能であり得、また、維持エネルギーの最大化は、フラックスバランス解析で用いられる代謝目標であり得る。十分な維持エネルギーが存在する場合、仮想バイオマスの成長率を最大化することが、フラックスバランス解析で用いられる代謝目標であり得る。
【0107】
ブロック740で、方法700は、ブロック730で計算されたフラックス率に少なくとも部分的に基づいて、プロセス変数のうちの少なくともいくつかの変化率を計算することができる。変化率を計算することは、入力ストリーム(例えば、入力ストリーム140に対応する流変数182)、出力ストリーム(例えば、出力ストリーム142に対応する流変数182)、及び/又は出力フィルタ(例えばフィルタ144)の流率及び組成を示す1つ以上の変数を受信することを含み得る。
【0108】
続いて、方法700は、ブロック750で、仮想時間ステップの所要時間の計算された変化率のうち1つ以上を積分することに少なくとも部分的により、プロセス変数の現在値(例えば現在値150a)のうちの1つ以上を更新することができる。これは、所与の仮想時間ステップの反復を完了することができる。例えば、1つの時間ステップの完了時の更新値は、移行の時間ステップで用いられる現在値となることができる。ブロック750は、例えば、現在値150aから更新値150bを計算する時に、図1の率積分モジュール180によって実施することができる。方法700は、入力及び/又は出力ストリームの流率及び組成を示す変数を計上することに少なくとも部分的により、更新値を計算することができる(例えば率積分モジュール180を用いて)。方法700は、ブロック750で、上記の物質収支の差分方程式又は微分方程式におけるストリーム変数を含み、積分によって方程式を解くことができる。物質収支方程式は、追加的に又は代替的に、仮想出力ストリームの組成に対する、仮想出力フィルタの性質を示す変数の影響を含むことができる。
【0109】
方法700が不均質なバイオリアクタをモデリングする時、方法は、計算された速度場に少なくとも部分的に基づいて、モデリングされたバイオリアクタの各部分のプロセス変数を更新することを含み得る。速度場は、例えば、CFDモデルを用いて計算することができる。方法700は、バイオリアクタの隣接部分のプロセス変数を考慮して、バイオリアクタの一部分のプロセス変数を更新することができる。いくつかの実施態様では、方法700は、バイオリアクタのモデリングされた部分の少なくともいくつかにおけるプロセス変数の少なくともいくつかの勾配を画定することができる。
【0110】
ブロック760に移動する前に、方法700は、時間ステップのシーケンスに分割された、シミュレーションされた期間の一部分の又は全体に対してブロック710~750を反復することができる。その他の実施態様では、ブロック760は、ブロック720~750の1つ以上に関連する反復と並行して実行する。ブロック760では、任意の仮想時間ステップの間に計算されたプロセス変数の新しい値を用いて、モデリングされたバイオリアクタ、又は、より一般的には、仮想バイオリアクタを含むシステムのモデル(例えばモデル104)のメトリックを計算する。計算的にモデリングされたバイオリアクタのメトリックは、標的生成物の生成における計算的にモデリングされたバイオリアクタの有効性又は効率を示すことができる。例えば、メトリックは、合計生成物出力、エネルギー、及び/若しくは基質代謝産物に対する収率、リアクタの生産性、並びに/又は標的生成物の品質を示すことができる。いくつかの実施態様では、複数のメトリックがブロック760で計算される。メトリックは、追加的に又は代替的に、例えば図5及び関連する説明に例示されるように、シミュレーションされた期間内の異なる仮想時間におけるプロセス変数のうち少なくとも1つの値を含むことができる。不均質なバイオリアクタの場合、バイオリアクタの一部分に関して計算されたメトリックは、バイオリアクタ全体としてのメトリックに寄与することができる。しかしながら、いくつかの実施態様では、バイオリアクタのメトリックは、バイオリアクタ外への出力ストリームを含むバイオリアクタの1つ以上の部分に基づき得る。追加的に又は代替的に、方法700は、ブロック760で、バイオリアクタ内の不均質性を示すメトリックを生成することができる。
【0111】
方法700のブロック770では、情報が生成されて、例えばモニタ(例えばモニタ352)上にレンダリングされたユーザインターフェースを介してユーザに表示され得る。方法700は、ブロック760で計算されたメトリックに少なくとも部分的に基づいて表示情報を生成することができる。いくつかの実施態様では、ブロック770は、追加的又は代替的に、例えば図6及び付随する説明に示されるように、現実世界のバイオリアクタ(例えばバイオリアクタ620)の制御設定を生成することを含む。いくつかの実施態様では、方法700は、現実世界のバイオリアクタのモデルベースの制御スキームに統合される(例えば、モデル予測制御を用いて)。不均質なバイオリアクタをモデリングする時、方法700は、ユーザインターフェースに不均質性を表示するか、又は例えば計算された不均質性のメトリックに基づいて1つ以上の制御設定を生成することができる。例えば、混合は、不均質性を示すメトリックが閾値を超えた時に開始又は強化され得る。
【0112】
追加的に又は代替的に、ブロック770は、バイオリアクタモデルのグランドトルースラベルとしてブロック760で計算されたメトリックを用いることによる、バイオリアクタの人工知能モデル用の訓練セットの生成を含むことができ、モデルはパラメータのセットによって記述される。方法700の複数の実行により、モデルパラメータ及び対応するメトリックの複数のデータセットの蓄積が可能となり得る。データセットは、ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク、決定木、クラスタ化アルゴリズム、及び/又はその他の好適な機械学習技法に基づいて人工知能モデルを訓練するように用いられ得る。続いて、訓練された人工知能モデルは、計算モデリング方法700を再び実行する必要なしに、バイオリアクタモデルパラメータに基づいて新しいメトリックを推定又は予測することができる。
【0113】
図8は、方法700を用いて計算したプロセス変数及びメトリックの例示的な発展を示す。モノクローナル抗体の製造プロセスのための初期プロセス変数のデータセット(pH、温度、培地組成を含む)及び媒体供給スケジュール(入力ストリーム)が受信された。プロセスを、図1及び7に例示され、且つ上記で説明されたワークフローに従って計算的にモデリングした。代謝産物濃度(表3で定義される、CC-GLC)に対応するプロセス変数の値(単位は任意)、並びにモデルによって算出される細胞生存度、生存細胞密度(VCD)、及び抗体生成物(力価)のメトリックを、図8の実線としてプロットする。同じ製造プロセスの現実世界の実行中に測定された代謝産物濃度、生存細胞密度(VCD)、細胞生存、及び抗体力価の値を、対応する計算値と同じスケール上でドットとしてプロットする。計算モデルは、観察された現実世界のプロセス性能を実質的に予測した。特定の代謝産物の濃度における激しい変動は、バイオリアクタの非連続的な供給に起因するものであり、代謝産物は、1日の特定の時間にバッチとして添加された。測定は、供給代謝産物を添加する前の1日の時間に限定されていたため、測定された代謝産物は急激な変動を有さない。生存度(VIAB)のメトリックは、生成物を生成することが依然として可能なバイオマス中の分画細胞(fraction cells)を表し、これは、上述したように、細胞死の蓄積効果に依存する。続いてVCDは、生存度によって乗じられたバイオマス濃度を表す。
【0114】
図9A及び9Bは、バイオリアクタ900中の空間的不均質性のモデリングに対する例示的なアプローチを概略的に示す。バイオリアクタ900は、インペラ905、又はバイオリアクタ内容物を混合するように構成された別の混合装置を含み得る。図9Aは、バイオリアクタ900から複数の部分910a~dへの例示的な分配を示す。均質な代謝モデル(例えばモデル104)は、部分910a~dのそれぞれを表し得る。部分910a~dのそれぞれは、1つ以上の他の部分と境界を共有し得る。例示された実施例では、部分910cは、完全に部分910dの内に配設され、部分910dは、3つの他の部分、すなわち910a~cの全てと境界を接する。バイオリアクタ900内への入口及び出口(図示せず)は、モデリングされた部分910a~cのいずれかに対して代謝産物を添加又は除去することができる。部分910a~dのそれぞれに関して、モデリングされた入力及び出力ストリーム(例えばストリーム140、142)は、入口及び出口、並びに隣接部分との境界線全体に起因する仮想内容物の流れを含み得る。境界線全体にわたるバイオリアクタ部分910a~d間の仮想内容物の流れは、図9Bに例示される例示的速度場920に従い得る。入力及び出力ストリームを計算することは、境界を接する領域におけるプロセス変数値の対応する差として、境界におけるプロセス変数の勾配を推定することと、各境界における(且つ境界に対して垂直な)速度場920を積分することと、推定勾配を各境界に対応する速度場920の積分値で乗じることと、を含み得る。
【0115】
図9Bは、破線矢印のセットとしての速度場920を示す。CFDモデルは、バイオリアクタ900の体積離散化及び好適な計算技法に基づいて速度場920を計算することができる。いくつかの実施態様では、バイオリアクタ900を計算的にモデリングする方法(例えば方法700)は、測定(例えば粒子速度測定)、又は予め計算されたか若しくは測定された速度場の組み合わせに少なくとも部分的に基づいて、速度場920を決定することができる。速度場920は、バイオリアクタ900及びインペラ905の幾何学的形状、並びにインペラ905の速度に依存し得る。速度場920は、バイオリアクタ900の任意の入口及び出口の入力及び出力ストリームにも依存し得る。重要なことに、静的な条件のセット下では、速度場920は定常状態を有し得、その定常状態から、モデルは境界線全体にわたるバイオリアクタ部分910a~d間の仮想内容物の流れを計算することができる。追加的に又は代替的に、連結した流体力学及び代謝モデルは、速度場920における動的変化、及びバイオリアクタ部分910a~dの代謝産物濃度の発展に対する対応する影響を計上することができる。
【0116】
下記の選択肢のリストは、本開示によって明示的に想到される様々な実施形態を反映する。
【0117】
選択肢1.バイオリアクタを計算的にモデリングする方法であって、
プロセス変数の複数の現在値を受信することであって、プロセス変数はモデリングされたバイオリアクタの少なくとも一部分の仮想内容物を記述し、仮想内容物は、仮想細胞外溶液中の仮想細胞バイオマスを含む、ことと、
計算システムの処理ハードウェアによって、シミュレーションされた期間中のプロセス変数の新しい値を計算することであって、少なくとも部分的に、
代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響をモデリングすることによって、仮想細胞バイオマスを記述する代謝フラックスのフラックス率に対する複数の制約を生成することと、
代謝目標、及びフラックス率に対する生成された複数の制約に従うフラックスバランス解析を実施することにより、代謝フラックスのフラックス率を計算することと、
計算されたフラックス率に少なくとも部分的に基づいて、プロセス変数のうち少なくともいくつかの変化率を計算することと、
シミュレーションされた期間内の仮想時間ステップの計算された変化率のうち1つ以上を積分することに少なくとも部分的により、プロセス変数の現在値のうち1つ以上を更新することと、による、ことと、
プロセス変数の計算された新しい値に少なくとも部分的に基づいて、処理ハードウェアによって、計算的にモデリングされたバイオリアクタのメトリックを計算することと、
処理ハードウェアによって、且つモデリングされたバイオリアクタのメトリックに基づいて、i)ユーザインターフェースを介してユーザに対して表示される情報、ii)現実世界のバイオリアクタの制御設定、又はiii)バイオリアクタの人工知能モデル用の訓練セットのうち1つ以上を生成することと、を含む、方法。
【0118】
選択肢2.プロセス変数は、温度、酸性度、又は仮想内容物の合計浸透圧モル濃度を示す1つ以上の変数のうち少なくとも1つを含む、選択肢1に記載の方法。
【0119】
選択肢3.プロセス変数は、仮想細胞バイオマスの濃度を示す1つ以上の変数と、仮想細胞外溶液の細胞外代謝産物濃度を示す1つ以上の変数と、を含む、選択肢1又は2に記載の方法。
【0120】
選択肢4.仮想細胞外溶液中の細胞外代謝産物濃度を示す1つ以上の変数は、酸素、二酸化炭素、又はアンモニアのうち少なくとも1つの濃度を示す1つ以上の変数を含む、選択肢3に記載の方法。
【0121】
選択肢5.仮想細胞外溶液中の細胞外代謝産物濃度を示す1つ以上の変数は、グルコース、アスパラギン、グルタミン、又はグリシンのうち1つ以上の濃度を示す変数を含む、選択肢3~4のいずれか1つに記載の方法。
【0122】
選択肢6.仮想細胞外溶液中の細胞外代謝産物濃度を示す1つ以上の変数は、少なくとも1つの標的代謝生成物の濃度を示す変数を含む、選択肢3~5のいずれか1つに記載の方法。
【0123】
選択肢7.プロセス変数は、仮想細胞バイオマス中の1つ以上の細胞内代謝産物濃度を示す1つ以上の変数を追加的に含む、選択肢3~6のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
選択肢8.フラックス率に対する複数の制約は、i)グルコース取り込み、ii)グルタミン取り込み、iii)アスパラギン取り込み、又はiv)酸素取り込みのうち少なくとも1つに対する上限を含む、選択肢1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0125】
選択肢9.変化率に対する複数の制約は、細胞維持のためのエネルギー消費率に対する下限を含む、選択肢1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0126】
選択肢10.代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響は、
代謝産物取り込み率の上限に対する、i)温度、ii)酸性度、又はiii)浸透圧モル濃度のうちの少なくとも1つの値の影響を含む、選択肢1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0127】
選択肢11.代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響をモデリングすることは、非理想的条件に起因する取り込み率の低下を示す補正係数で上限を乗じることにより、代謝産物取り込み率の上限に対する、i)温度、ii)酸性度、又はiii)浸透圧モル濃度のうちの少なくとも1つの値の影響を計算することを含む、選択肢10に記載の方法。
【0128】
選択肢12.代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響は、細胞維持のためのエネルギー消費率の下限に対するストレスの影響を含む、選択肢1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0129】
選択肢13.ストレスの影響をモデリングすることは、仮想細胞バイオマスに対する温度シフトの累積効果に少なくとも部分的に基づいて影響を計算することを含む、選択肢12に記載の方法。
【0130】
選択肢14.代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響は、代謝副生成物のうち少なくとも1つの濃度の影響を含む、選択肢1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0131】
選択肢15.1つ以上の影響をモデリングすることは、モデリングされた影響を現実世界の細胞培養物からの実験データで較正することを含む、選択肢1~14のいずれか1つに記載の方法。
【0132】
選択肢16.代謝目標は、フラックスバランス解析においてフラックス率のうち少なくともいくつかの線形結合とフラックス率の二乗との比を最小化することを含む、選択肢1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0133】
選択肢17.代謝目標は、フラックスバランス解析においてフラックス率のうち少なくともいくつかの線形結合を最小化することを含む、選択肢1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0134】
選択肢18.線形結合は、フラックスバランス解析におけるフラックスの和である、選択肢17に記載の方法。
【0135】
選択肢19.代謝目標は、細胞維持のためのエネルギー消費率を最大化することを含む、選択肢1~18のいずれか1つに記載の方法。
【0136】
選択肢20.代謝目標は、仮想細胞バイオマスの成長率を最大化することを含む、選択肢1~19のいずれか1つに記載の方法。
【0137】
選択肢21.モデリングされたバイオリアクタ内への1つ以上の仮想入力ストリームの流率及び組成を示す1つ以上の変数を受信することを更に含み、
プロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかを更新することは、1つ以上の仮想入力ストリームの流率及び組成を計上することを含む、選択肢1~20のいずれか1つに記載の方法。
【0138】
選択肢22.仮想出力フィルタの特性を示す1つ以上の変数を受信することと、
仮想出力フィルタの特性を用いてモデリングされたバイオリアクタから1つ以上の仮想出力ストリームの組成を計算することと、を更に含み、
プロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかを更新することは、1つ以上の仮想出力ストリームの組成を計上することを含む、選択肢21に記載の方法。
【0139】
選択肢23.プロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかを更新することは、物質収支方程式を解くことを含む、選択肢21に記載の方法。
【0140】
選択肢24.1つ以上の制御変数を受信することと、
受信した制御変数に少なくとも部分的に基づき、プロセス変数の現在値の影響を受けたセットを更新することと、を更に含む、選択肢1~23のいずれか1つに記載の方法。
【0141】
選択肢25.モデリングされたバイオリアクタのメトリックはシミュレーションされた期間内の様々な仮想時間におけるプロセス変数のうち少なくとも1つの値を含む選択肢1~24のいずれか1つに記載の方法。
【0142】
選択肢26.計算的にモデリングされたバイオリアクタのメトリックは、標的生成物の生成における計算的にモデリングされたバイオリアクタの有効性又は効率を示す、選択肢1~25のいずれか1つに記載の方法。
【0143】
選択肢27.方法は、制御設定を生成することを含み、
方法は、生成された制御設定に基づき現実世界のバイオリアクタに対する入力を制御することを更に含む、選択肢1~26のいずれか1つに記載の方法。
【0144】
選択肢28.方法は、バイオリアクタの人工知能モデルのための訓練セットを生成することを含む、選択肢1~27のいずれか1つに記載の方法。
【0145】
選択肢29.仮想細胞バイオマスは、仮想チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む、選択肢1~28のいずれか1つに記載の方法。
【0146】
選択肢30.複数の現在値を受信することは、
i)グラフィカルユーザインターフェースを介してユーザから値を受信すること、
ii)現実のバイオリアクタの測定値に基づく値を受信すること、
iii)以前に計算された値に基づいてコンピュータメモリから値を読み込むこと、又は
iv)コンピュータストレージから所定のデフォルト値を読み込むこと、のうちの少なくとも1つを含む、選択肢1~29のいずれか1つに記載の方法。
【0147】
選択肢31.モデリングされたバイオリアクタは空間的に均質なバイオリアクタであり、モデリングされたバイオリアクタの少なくとも一部分は、空間的に均質なバイオリアクタの全体である、選択肢1~30のいずれか1つに記載の方法。
【0148】
選択肢32.モデリングされたバイオリアクタは空間的に不均質なバイオリアクタであり、
モデリングされたバイオリアクタの少なくとも一部分は、モデリングされたバイオリアクタの第1の部分であり、
プロセス変数は第1のプロセス変数であり、
方法は、第2のプロセス変数の複数の現在値を受信することを更に含み、第2のプロセス変数は、モデリングされたバイオリアクタの第2の部分の第2の仮想内容物を記述し、
シミュレーションされた期間中の第1のプロセス変数の新しい値を計算することは、第2のプロセス変数の受信された複数の現在値に部分的に基づく、選択肢1~30のいずれか1つに記載の方法。
【0149】
選択肢33.シミュレーションされた期間中の第1のプロセス変数の新しい値を計算することは、第2のプロセス変数のうち対応する1つの値に基づいて第1のプロセス変数のうち少なくとも1つの勾配を計算することを含む、選択肢32に記載の方法。
【0150】
選択肢34.モデリングされたバイオリアクタの第1の部分の仮想内容物に関連する1つ以上の速度を決定することを更に含む、選択肢32~33のいずれか1つに記載の方法。
【0151】
選択肢35.1つ以上の速度を決定することは、計算流体力学に少なくとも部分的に基づく、選択肢34に記載の方法。
【0152】
選択肢36.バイオリアクタを計算的にモデリングするための命令を記憶する非一時的コンピュータ可読媒体であって、命令は、1つ以上のプロセッサによって実行されると、1つ以上のプロセッサに、
プロセス変数の複数の現在値を受信することであって、プロセス変数はモデリングされたバイオリアクタの仮想内容物を記述し、仮想内容物は、仮想細胞外溶液中の仮想細胞バイオマスを含む、ことと、
計算システムの処理ハードウェアによって、シミュレーションされた期間中のプロセス変数の新しい値を計算することであって、少なくとも部分的に、
代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響をモデリングすることによって、仮想細胞バイオマスを記述する代謝フラックスのフラックス率に対する複数の制約を生成することと、
代謝目標、及びフラックス率に対する生成された複数の制約に従うフラックスバランス解析を実施することにより、代謝フラックスのフラックス率を計算することと、
計算されたフラックス率に少なくとも部分的に基づいて、プロセス変数のうち少なくともいくつかの変化率を計算することと、
シミュレーションされた期間内の仮想時間ステップの計算された変化率のうち1つ以上を積分することに少なくとも部分的により、プロセス変数の現在値のうち1つ以上を更新することと、による、ことと、
プロセス変数の計算された新しい値に基づいて、処理ハードウェアによって、モデリングされたバイオリアクタのメトリックを計算することと、
処理ハードウェアによって、且つモデリングされたバイオリアクタのメトリックに基づいて、i)ユーザインターフェースを介してユーザに対して表示される情報、ii)現実世界のバイオリアクタの制御設定、又はiii)バイオリアクタの人工知能モデル用の訓練セットのうち1つ以上を生成することと、を行わせる、非一時的コンピュータ可読媒体。
【0153】
選択肢37.プロセス変数は、温度、酸性度、又は仮想内容物の合計浸透圧モル濃度を示す1つ以上の変数のうち少なくとも1つを含む、選択肢36に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0154】
選択肢38.プロセス変数は、仮想細胞バイオマスの濃度を示す1つ以上の変数と、仮想細胞外溶液の細胞外代謝産物濃度を示す1つ以上の変数と、を含む、選択肢36又は37に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0155】
選択肢39.仮想細胞外溶液中の細胞外代謝産物濃度を示す1つ以上の変数は、酸素、二酸化炭素、又はアンモニアのうち少なくとも1つの濃度を示す1つ以上の変数を含む、選択肢38に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0156】
選択肢40.仮想細胞外溶液中の細胞外代謝産物濃度を示す1つ以上の変数は、グルコース、アスパラギン、グルタミン、又はグリシンのうち1つ以上の濃度を示す変数を含む、選択肢38又は39に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0157】
選択肢41.仮想細胞外溶液中の細胞外代謝産物濃度を示す1つ以上の変数は、少なくとも1つの標的代謝生成物の濃度を示す変数を含む、選択肢38~40のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0158】
選択肢42.プロセス変数は、仮想細胞バイオマス中の1つ以上の細胞内代謝産物濃度を示す変数を追加的に含む、選択肢38~41のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0159】
選択肢43.変化率に対する複数の制約は、i)グルコース取り込み、ii)グルタミン取り込み、iii)アスパラギン取り込み、又はiv)酸素取り込みのうち少なくとも1つに対する上限を含む、選択肢36~42のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0160】
選択肢44.変化率に対する複数の制約は、細胞維持のためのエネルギー消費率に対する下限を含む、選択肢36~43のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0161】
選択肢45.代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響は、
代謝産物取り込み率の上限に対する、i)温度、ii)酸性度、又はiii)浸透圧モル濃度のうちの少なくとも1つの値の影響を含む、選択肢36~44のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0162】
選択肢46.代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響をモデリングすることは、非理想的条件に起因する取り込み率の低下を示す補正係数で上限を乗じることにより、代謝産物取り込み率の上限に対する、i)温度、ii)酸性度、又はiii)浸透圧モル濃度のうちの少なくとも1つの値の影響を計算することを含む、選択肢45に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0163】
選択肢47.代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響は、細胞維持のためのエネルギー消費率の下限に対するストレスの影響を含む、選択肢36~46のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0164】
選択肢48.ストレスの影響をモデリングすることは、仮想細胞バイオマスに対する温度シフトの累積効果に少なくとも部分的に基づいて影響を計算することを含む、選択肢47に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0165】
選択肢49.代謝反応速度に対するプロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかの1つ以上の影響は、代謝副生成物のうち少なくとも1つの濃度の影響を含む、選択肢36~48のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0166】
選択肢50.1つ以上の影響をモデリングすることは、モデリングされた影響を現実世界の細胞培養物からの実験データで較正することを含む、選択肢36~49のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0167】
選択肢51.代謝目標は、変化率のうち少なくともいくつかの線形結合を最小化することを含む、選択肢36~50のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0168】
選択肢52.代謝目標は、フラックスバランス解析において少なくともいくつかのフラックスの線形結合を最小化することを含む、選択肢36~51のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0169】
選択肢53.線形結合は、フラックスバランス解析におけるフラックスの和である、選択肢52に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0170】
選択肢54.代謝目標は、細胞維持のためのエネルギー消費率を最大化することを含む、選択肢36~53のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0171】
選択肢55.代謝目標は、仮想細胞バイオマスの成長率を最大化することを含む、選択肢36~54のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0172】
選択肢56.命令は、更に、1つ以上のプロセッサに、
モデリングされたバイオリアクタ内への1つ以上の仮想入力ストリームの流率及び組成を示す1つ以上の変数を受信することを行わせ、
プロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかを更新することは、1つ以上の仮想入力ストリームの流率及び組成を計上することを含む、選択肢36~55のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0173】
選択肢57.命令は、更に、1つ以上のプロセッサに、
仮想出力フィルタの特性を示す1つ以上の変数を受信することと、
仮想出力フィルタの特性を用いてモデリングされたバイオリアクタから1つ以上の仮想出力ストリームの組成を計算することと、を行わせ、
プロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかを更新することは、1つ以上の仮想出力ストリームの組成を計上することを含む、選択肢56に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0174】
選択肢58.プロセス変数の現在値のうち少なくともいくつかを更新することは、物質収支方程式を解くことを含む、選択肢56~57のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0175】
選択肢59.命令は、更に、1つ以上のプロセッサに、
1つ以上の制御変数を受信することと、
受信した制御変数に少なくとも部分的に基づき、プロセス変数の現在値の影響を受けたセットを更新することと、を行わせる、選択肢36~58のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0176】
選択肢60.モデリングされたバイオリアクタのメトリックはシミュレーションされた期間内の様々な仮想時間におけるプロセス変数のうち少なくとも1つの値を含む、選択肢36~59のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0177】
選択肢61.モデリングされたバイオリアクタのメトリックは、標的生成物の生成におけるモデリングされたバイオリアクタの有効性又は効率を示す、選択肢36~60のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0178】
選択肢62.命令は、1つ以上のプロセッサに、制御設定を生成させ、
更に、1つ以上のプロセッサに、生成された制御設定に基づき現実世界のバイオリアクタに対する入力を制御させる、選択肢36~61のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0179】
選択肢63.命令は、1つ以上のプロセッサに、バイオリアクタの人工知能モデルのための訓練セットを生成させる、選択肢36~62のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0180】
選択肢64.仮想細胞バイオマスは、仮想チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む、選択肢36~63のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0181】
選択肢65.複数の現在値を受信することは、
i)グラフィカルユーザインターフェースを介してユーザから値を受信すること、
ii)現実のバイオリアクタの測定値に基づく値を受信すること、
iii)以前に計算された値に基づいてコンピュータメモリから値を読み込むこと、又は
iv)コンピュータストレージから所定のデフォルト値を読み込むこと、のうちの少なくとも1つを含む、選択肢36~64のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0182】
選択肢66.モデリングされたバイオリアクタは空間的に均質なバイオリアクタであり、モデリングされたバイオリアクタの少なくとも一部分は、空間的に均質なバイオリアクタの全体である、選択肢36~65のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0183】
選択肢67.モデリングされたバイオリアクタは空間的に不均質なバイオリアクタであり、
モデリングされたバイオリアクタの少なくとも一部分は、モデリングされたバイオリアクタの第1の部分であり、
プロセス変数は第1のプロセス変数であり、
命令は、更に、1つ以上のプロセッサに、第2のプロセス変数の複数の現在値を受信させ、第2のプロセス変数は、モデリングされたバイオリアクタの第2の部分の第2の仮想内容物を記述し、
シミュレーションされた期間中の第1のプロセス変数の新しい値を計算することは、第2のプロセス変数の受信された複数の現在値に部分的に基づく、選択肢36~65のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0184】
選択肢68.シミュレーションされた期間中の第1のプロセス変数の新しい値を計算することは、第2のプロセス変数のうち対応する1つの値に基づいて第1のプロセス変数のうち少なくとも1つの勾配を計算することを含む、選択肢67に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0185】
選択肢69.命令は、更に、1つ以上のプロセッサに、モデリングされたバイオリアクタの第1の部分の仮想内容物に関連する1つ以上の速度を決定させる、選択肢67又は68に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0186】
選択肢70.1つ以上の速度を決定することは、計算流体力学に少なくとも部分的に基づく、選択肢67~69のいずれか1つに記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【0187】
当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく上記の実施形態に対して多種多様な修正、変更、及び組み合わせを施すことができ、そうした修正、変更、及び組み合わせは本発明の概念の範囲であると解釈されることを理解するであろう。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B