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特許7524223受信信号のコード及び位相の両方の分類を用いて時間飛行を決定するシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】受信信号のコード及び位相の両方の分類を用いて時間飛行を決定するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/36 20100101AFI20240722BHJP
   G01S 19/30 20100101ALI20240722BHJP
   H04B 17/30 20150101ALI20240722BHJP
【FI】
G01S19/36
G01S19/30
H04B17/30
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021566282
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-12
(86)【国際出願番号】 US2020032175
(87)【国際公開番号】W WO2020231840
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】62/846,240
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/964,950
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520460904
【氏名又は名称】スター アリー インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フア、ワンシェン
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-529107(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0224973(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0214172(US,A1)
【文献】Seung-Hyun Kong,"High Sensitivity and Fast Acquisition Signal Processing Techniques for GNSS Receivers: From fundamentals to state-of-the-art GNSS acquisition technologies",IEEE Signal Processing Magazine,2017年09月06日,Vol.34, No.5,pp.59-71,DOI: 10.1109/MSP.2017.2714201
【文献】Rafiullah Khan et al.,"Acquisition strategies of GNSS receiver",International Conference on Computer Networks and Information Technology,2011年07月,pp.119-124,DOI: 10.1109/ICCNIT.2011.6020917
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-19/55
H04B 17/30
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推定コード遅延及び推定ドップラー周波数でプローブ信号を検出する方法であって、
(i)プローブ信号の期間を、予め定められた持続時間を各々有する複数のセクションに分割するステップと、
(ii)前記プローブ信号の前記各セクションに、複数のコードカテゴリのうちの1つを割り当てるステップであって、前記各コードカテゴリが、それに対応するセクション内の前記プローブ信号の信号パターンを示す、該ステップと、
(iii)正弦波信号の位相カテゴリを複数の位相カテゴリから選択するステップであって、前記各位相カテゴリが、それに対応する前記正弦波信号の位相の範囲を示す、該ステップと、
(iv)前記プローブ信号を含む受信信号を受信するステップと、
(v)前記受信信号を、予め定められた持続時間を各々有する各セクションに分割するステップと、
(vi)前記受信信号を前記正弦波信号を含むものとして扱って、推定コード遅延及び推定ドップラー周波数にそれぞれ基づいて、前記受信信号の各セクションに、それに対応する前記コードカテゴリ及び前記位相カテゴリの両方を割り当てるステップと、
(vii)前記各セクションに割り当てられた前記コードカテゴリ及び前記位相カテゴリにしたがって、前記受信信号の前記各セクションを個別に累積するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記予め定められた持続時間は、最大1チップである、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記受信信号の前記各セクションは、複数のサンプルを含む、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
前記各サンプルは、同相成分と、直交成分とを含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、
前記プローブ信号は、擬似乱数コードの繰り返しサイクルで変調されている、方法。
【請求項6】
受信した信号中のプローブ信号を検出するための集積回路であって、
プローブ信号を含む受信信号の、予め定められた持続時間を各々有する1以上のセクションを記憶するメモリ回路と、
1以上の個別にアドレス指定可能なアキュムレータを各々有する複数の処理回路と、
ディスパッチ回路と、を備え、
前記ディスパッチ回路は、
(i)前記プローブ信号の連続的な複数のセクションのうちの対応する1つに各々割り当てられた複数のコードカテゴリを記憶するための記憶素子であって、前記プローブ信号の前記各セクションが前記予め定められた持続時間を有し、かつ、前記各コードカテゴリが、それに対応する前記セクション内の前記プローブ信号の信号遷移パターンを示す、該記憶素子と、
(ii)前記プローブ信号と前記受信信号との間の推定コード遅延に基づいて、前記受信信号の前記各セクションを、前記記憶素子に記憶された前記複数のコードカテゴリのうちの対応する1つにマッピングするコードカウンタ回路と、
(iii)前記受信信号を正弦波信号を含むものとして扱って、前記プローブ信号と前記受信信号との間の推定ドップラー周波数に基づいて、前記受信信号の前記各セクションを、前記正弦波信号の複数の位相カテゴリのうちの対応する1つにマッピングする位相カウンタ回路と、を含み、
前記ディスパッチ回路は、前記受信信号の前記各セクションを、それに対応する前記コードカテゴリ及び前記位相カテゴリに基づいて、複数の前記アドレス指定可能なアキュムレータのうちの1つにマッピングする、集積回路。
【請求項7】
請求項6に記載の集積回路であって、
前記プローブ信号の前記コードカテゴリを前記記憶素子に記憶させる制御回路をさらに含む、集積回路。
【請求項8】
請求項7に記載の集積回路であって、
前記ディスパッチ回路は、前記制御回路によって指定された擬似ランダムコードに基づいて前記記憶素子に記憶させる前記コードカテゴリを決定するコードカテゴリ生成回路をさらに含む、集積回路。
【請求項9】
請求項8に記載の集積回路であって、
前記ディスパッチ回路は、ゴールドコード生成回路をさらに含む、集積回路。
【請求項10】
請求項7に記載の集積回路であって、
前記制御回路は、マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラを含む、集積回路。
【請求項11】
請求項10に記載の集積回路であって、
前記マイクロプロセッサまたは前記マイクロコントローラは、システムオンチップ方式で当該集積回路に集積される、集積回路。
【請求項12】
請求項6に記載の集積回路であって、
前記ディスパッチ回路は、複数のプローブ信号、複数の推定コード遅延、及び複数の推定ドップラー周波数を検出するための、複数の組の記憶素子、コードカウンタ回路、及び位相カウンタ回路を含む、集積回路。
【請求項13】
請求項6に記載の集積回路であって、
前記予め定められた持続時間は、最大1チップである、集積回路。
【請求項14】
請求項6に記載の集積回路であって、
前記受信信号の前記各セクションは、複数のサンプルを含む、集積回路。
【請求項15】
請求項14に記載の集積回路であって、
前記各サンプルは、同相成分と、直交成分とを含む、集積回路。
【請求項16】
請求項15に記載の集積回路であって、
前記各アキュムレータは、前記各サンプルの前記同相成分及び前記直交成分を個別に累積し、
前記各アキュムレータは、前記各サンプルの前記同相成分及び前記直交成分を個別に累積するための、ベクトルレジスタ、ベクトル加算器、及びベクトル累積素子をさらに含む、集積回路。
【請求項17】
請求項6に記載の集積回路であって、
前記プローブ信号は、擬似乱数コードの繰り返しサイクルで変調されている、集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本発明は、(i)2019年5月10日出願の「System of Method For Time-of-Flight Determination Using Categorization of Both Code and Phase in Received Signal」なる標題の米国仮特許出願第62/846、240号、及び、(ii)2020年1月23日出願の「System of Method For Time-of-Flight Determination Using Categorization of Both Code and Phase in Received Signal」なる標題の米国仮特許出願第62/964、950号に基づく優先権を主張するものである。
【0002】
本発明はまた、2014年8月13日出願の「System and Method of Time of Flight Detection」なる標題の米国仮特許出願第62/037、607号に基づく優先権を主張する、2015年8月13日出願の「System and Method of Time of Flight Detection」なる標題の米国特許出願第14/826、128号(現米国特許9、439、040号)の継続出願である、2016年7月26日出願の「System and Method of Time of Flight Detection」なる標題の米国特許出願第15/220、360号(現米国特許9、723、444号)の継続出願である、2017年7月27日出願の「System and Method of Time of Flight Detection」なる標題の米国特許出願第15/661、477号(現米国特許10、285、009号)の継続出願である、2019年3月20日出願の「System and Method of Time of Flight Detection」なる標題の米国特許出願第16/359、315号(現米国特許10、477、353号)の継続出願である、2019年9月30日出願の「System and Method of Time of Flight Detection」なる標題の米国特許出願(「関連出願」)第16/587、779号明細書に関連する。この関連出願の開示内容の全体は、参照により本明細書に援用される。
【0003】
(技術分野)
本発明は、信号の発信源からの距離を求めるために、受信信号を処理することに関する。特に、本発明は、直接拡散符号分割多重アクセス(CDMA)信号を処理して、その符号列及び位相の両方を用いて、その信号の発信源から受信機までの距離を求めることに関する。
【背景技術】
【0004】
所与の時刻における信号受信機の位置は、その時刻における位置が非常に正確に分かっている複数の信号送信衛星から受信した信号を用いて、非常に正確に三角測量することができる。現在、位置情報の取得に利用できる衛星としては、Beidou、GLONASS、GNSS、及びGPSの各システムから送信されるものが挙げられる。例えば、GPSシステムの各衛星は、1.023Mbpsの1023チップの擬似乱数(PRN)コードによって変調されたキャリア信号と、1575.42MHz及び50bpsの航法データとを含む「プローブ信号」を送信する。受信機は、衛星と受信機との間で検出されたプローブ信号の送信時間(「飛行時間」または「コード遅延」)に基づいて、衛星からの距離を正確に求めることができる。また、受信機は、複数の衛星(例えば、5個以上)からの信号を検出することにより、その位置を三角測量によって正確に求めることが可能となる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態によれば、推定コード遅延及び推定ドップラー周波数でプローブ信号を検出する方法であって、(i)プローブ信号の期間を、予め定められた持続時間を各々有する複数のセクションに分割するステップと、(ii)プローブ信号の各セクションに、複数のコードカテゴリのうちの1つを割り当てるステップであって、各コードカテゴリが、それに対応するセクション内のプローブ信号の信号パターンを示す、該ステップと、(iii)正弦波信号の位相カテゴリを複数の位相カテゴリから選択するステップであって、各位相カテゴリが、それに対応する正弦波信号の位相の範囲を示す、該ステップと、(iv)プローブ信号を含む受信信号を受信するステップと、(v)受信信号を、予め定められた持続時間を各々有する各セクションに分割するステップと、(vi)推定コード遅延及び推定ドップラー周波数に基づいて、受信信号の各セクションに、それに対応するコードカテゴリ及び位相カテゴリの両方を割り当てるステップと、(vii)各セクションに割り当てられたコードカテゴリ及び位相カテゴリにしたがって、受信信号の各セクションを個別に累積するステップと、を含む、方法が提供される。いくつかの実施形態では、予め定められた持続時間は、最大1チップである。また、いくつかの実施形態では、受信信号の各セクションは、複数のサンプルを含む。また、いくつかの実施形態では、各サンプルは、同相成分と、直交成分とを含む。また、いくつかの実施形態では、プローブ信号は、擬似乱数コードの繰り返しサイクルで変調されている。
【0006】
また、本発明の一実施形態によれば、受信した信号中のプローブ信号を検出するための集積回路であって、プローブ信号を含む受信信号の、予め定められた持続時間を各々有する1以上のセクションを記憶するメモリ回路と、1以上の個別にアドレス指定可能なアキュムレータを各々有する複数の処理回路と、ディスパッチ回路と、を備え、ディスパッチ回路は、(i)プローブ信号の連続的な複数のセクションのうちの対応する1つに各々割り当てられた複数のコードカテゴリを記憶するための記憶素子であって、プローブ信号の各セクションが予め定められた持続時間を有し、かつ、各コードカテゴリが、それに対応するセクション内のプローブ信号の信号遷移パターンを示す、該記憶素子と、(ii)プローブ信号と受信信号との間の推定コード遅延に基づいて、受信信号の各セクションを、記憶素子に記憶された複数のコードカテゴリのうちの対応する1つにマッピングするコードカウンタ回路と、(iii)プローブ信号と受信信号との間の推定ドップラー周波数に基づいて、受信信号の各セクションを、正弦波信号の複数の位相カテゴリのうちの対応する1つにマッピングする位相カウンタ回路と、を含み、ディスパッチ回路は、受信信号の各セクションを、それに対応するコードカテゴリ及び位相カテゴリに基づいて、複数のアドレス指定可能なアキュムレータのうちの1つにマッピングする、集積回路が提供される。
【0007】
本発明のいくつかの実施形態では、各アキュムレータは、各サンプルの同相成分及び直交成分を個別に累積し、各アキュムレータは、各サンプルの同相成分及び直交成分を個別に累積するための、ベクトルレジスタ、ベクトル加算器、及びベクトル累積素子をさらに含む。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態では、本開示の集積回路は、プローブ信号のコードカテゴリを記憶素子に記憶させる制御回路をさらに含む。制御回路は、集積回路内の回路素子の全体的な制御を提供し、プローブ信号検出のためのリソース(例えば、各処理ユニット内のアキュムレータ回路)を割り当てる。ディスパッチ回路は、制御回路によって指定された擬似ランダムコードに基づいて記憶素子に記憶させるコードカテゴリを決定するコードカテゴリ生成回路をさらに含んでもよい。コードカテゴリは、ソフトウェアまたはファームウェアを実行する制御回路によって生成してもよい。さらに、ディスパッチ回路は、ゴールドコード生成回路をさらに含んでもよい。
【0009】
本発明の一実施形態では、制御回路は、マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラによってシステムオンチップ方式で提供される。
【0010】
本発明の一実施形態では、ディスパッチ回路は、複数のプローブ信号、複数の推定コード遅延、及び複数の推定ドップラー周波数を検出するための、複数の組の記憶素子、コードカウンタ回路、及び位相カウンタ回路を含む。
【0011】
本発明は、添付の図面と共に以下の詳細な説明を参照することによって、より良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A図1Aは、GPS受信機の信号処理回路100を示すブロック図である。
図1B図1Bは、図1Aにおける各チャンネル103-1、103-2、・・・、103-nの例示的な実装150を示す図である。
図2A図2Aは、例示的な12チップPRNコード603のサンプルをどのようにしてセクションに時間的に分割したかを示す図である。
図2B図2Bは、周波数fの正弦波信号650の位相変化(モジュロ2π)を、3周期にわたって示す図である。
図3A図3Aは、本発明の一実施形態による、演算論理装置(ALC)301と、ディスパッチ回路(またはカテゴリ割り当て回路)302と、メモリ回路303と、処理回路304-1、304-2、・・・、304-nとを含むデジタル回路300を示すブロック図である。
図3B図3Bは、セクション累積中のディスパッチ回路302の機能表現315を示す図である。
図3C図3Cは、本発明の一実施形態による、処理回路304-1、304-2、・・・、304-nのうちのいずれかにおける累積を支援するためのアキュムレータの実装320を示す図である。
図3D図3Dは、機能表現315の実装を支援するためにディスパッチ回路302に設けられたデータレジスタを示す図である。
図4図4は、受信信号の或るセクションにおける累積した同相サンプルに対応する波形401(すなわち、信号の実数部の値)と、受信信号における同一のセクションの累積した直交サンプルに対応する波形402(すなわち、信号の虚数部の値)とを示す図である。
図5図5は、衛星捕捉における周波数探索空間の相対的な大きさを示す図であり、相対速度|v-v|の不確かさに起因する周波数探索空間501と、全ドップラー成分の不確かさに起因する周波数探索空間502とを示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1Aは、GPS受信機の信号処理回路100を示すブロック図である。図1Aに示すように、アンテナ101は、衛星信号120を受信する。アンテナ101が受信した衛星信号120は、無線周波数(RF)フロントエンド回路102において局部発振器生成信号122と混合させることによって、中間周波数(IF)信号121(例えば4MHz)にダウンコンバートされる。局部発振器生成信号122は、例えば、発振器125(例えば、温度補償水晶発振器(「TCXO」))によって生成される。上述のダウンコンバートは、例えば、RFフロントエンド回路102内のアナログミキサにおいて、衛星信号120と、局部生成信号122(例えば、1471.42MHzの信号)とを混合させることにより実現される。本発明は、複数のコンステレーション(例えば、GPS、GLONASS、Galileo、及びBeidou)を有する衛星からの信号を処理するのに適用可能である。これらのコンステレーションは、互いに異なる複数のキャリア周波数を使用しているため、IF信号121は、互いにわずかに異なる中間周波数で変調された、互いに異なるコンステレーションからの信号を含む。
【0014】
その後、IF信号121をアナログ/デジタル(ADC)回路103で(例えば、32MHzで)サンプリングすることによって、デジタル化信号123が得られる。このデジタル化信号123は、その後、並行して検出するために、各チャンネル104-1、104-2、・・・、104-nに提供される。多くの実施形態では、デジタル化信号123は、複素数形式で、すなわち、同相(I)成分及び直交(Q)成分を有する形式で提供される(例えば、I成分及びQ成分の各成分が2ビット提供される)。受信機に対する衛星の相対的な移動により、受信信号120の周波数にシフトfが生じる(「ドップラー周波数」)。多くの実施形態では、ドップラー周波数は、通常、±5KHzの範囲に決定される。通常、任意の所与の時刻において受信信号120を検出するために、各チャンネル104-1、104-2、・・・、104-nは、推定されるコード遅延(推定コード遅延)及びドップラーシフト(推定ドップラー周波数)の両方を仮定して試験を行う。
【0015】
図1Bは、図1Aにおける各チャンネル104-1、104-2、・・・、104-nの例示的な実装150を示す図である。図1Bに示すように、チャンネルの実施形態150は、ドップラー周波数除去(DFR)回路151と、マッチフィルタ回路152とを含む。ドップラー周波数除去回路151は、デジタル化された受信信号123を、推定ドップラー周波数を有する正弦波信号のデジタルサンプルに乗算することにより、ドップラー周波数が除去された入力信号124を提供する。マッチフィルタ回路152は、ドップラー周波数が除去された入力信号124と、推定コード遅延におけるプローブ信号のPRNコードのレプリカとの間の相関値125を算出する。マッチフィルタ回路152の出力値125がバックグラウンドノイズレベルよりも大幅に大きい場合、推定コード遅延及び推定ドップラー周波数で衛星が検出されたと判断する。
【0016】
図1Aのプロセッサ180は、検出された衛星のコード遅延を処理して、受信機の位置、速度、及びGPS時間を決定するために使用される。プロセッサ180は、例えば、任意のマイクロプロセッサ(例えば、信号処理用にカスタマイズされたマイクロプロセッサ、または汎用マイクロプロセッサ)、または任意の適切なホストコンピュータによって実現される。
【0017】
相関を算出するための非常に効率的な方法は、上記の関連出願に開示されている(その開示内容は、この参照により本明細書に援用される)。上記の関連出願は、例示的な12チップPRNコード603のサンプルを、時間にしたがって各セクションに分割する方法を教示している(その方法は、図2Aと併せて本明細書に説明されている)。なお、図2AのPRNコード603は、単に説明のために構成されたものであり、任意のプローブ信号(例えば、GPS衛星から送信されたプローブ信号)における実際のPRNコードは、非常に多数のチップ(すなわち、コード長)を有する。また、図2Aは、推定コード遅延でPRNコード603に整列させた受信信号604を示す。受信信号604は、ダウンコンバートされており、かつ、そのドップラー周波数は除去されている。セクションの境界601は、それぞれ、プローブ信号603の12チップPRNコードにおける対応するチップの中間点に設定されている。各セクションは、1チップ時間tだけ持続する。図2Aに示すように、各セクションは、セクション内におけるPRNコード603のビット遷移にしたがって分類されている。例えば、互いに隣接するセクション602は、カテゴリ「0」及び「1」に分類される。残りのセクションのカテゴリも、同様にラベル付けされる。図2Aの例では、各セクションのカテゴリkは、(a)k=0(セクション内のすべての信号値が+1レベルに等しい場合)、(b)k=1(セクション内の信号値が+1レベルから-1レベルに1回遷移する場合)、(c)k=2(セクション内のすべての信号値が-1レベルに等しい場合)、(d)k=3(セクション内の信号値が-1レベルから+1レベルに遷移する場合)、の4つのカテゴリのうちのいずれかである。
【0018】
上記の関連出願に開示されている方法では、受信信号604の各セクションのサンプルは、そのセクションのカテゴリに対応するアキュムレータに累積される。例えば、図2Aに示す分類方法では、4つのカテゴリにそれぞれ対応する4つのアキュムレータを使用して、受信信号604における、対応するカテゴリに分類されたセクションのサンプルを、それぞれ並行して累積する。各アキュムレータでは、検出された信号(すなわち、その推定コード遅延及び推定ドップラー周波数は、実際のコード遅延及び実際のドップラー周波数に近い)により、各アキュムレータの累積サンプルを、そのセクションにおけるPRNコード中の対応するビット遷移の波形に一致させることとなる。
【0019】
本発明は、上記の関連出願に記載の方法を拡張することにより、ドップラー周波数を除去する別個のステップの必要性を排除する。図2Bは、周波数fの正弦波信号650の位相変化(モジュロ2π)を、3周期(すなわち、時刻0.0から時刻3.0/fの間)にわたって示す図である。図2Bに示すように、正弦波信号650の位相は、各信号周期内で、0から2πまで、時間と共に直線的に増加する。各信号周期内において、任意の時刻における正弦波信号650の位相は、任意の数の「位相カテゴリ」のうちの1つに割り当てられる。例えば、図2Bでは、正弦波信号650の位相はすべて、4つの位相カテゴリ、すなわち、(i)間隔651で示される0.0からπ/2の間、(ii)間隔652で示されるπ/2からπの間、(iii)間隔653で示されるπから3π/2の間、及び、(iv)間隔654で示される3π/2から2πの間(すなわち0.0)のうちのいずれかに割り当てられる。図2Bは、説明のみを目的として、正弦波信号の各周期における位相変化を4つの位相カテゴリにマッピングした様子を示したものである。正弦波信号の各サイクルにおける位相変化は、任意の数の位相カテゴリにマッピングしてもよい。例えば、図2Bでは、正弦波信号の各サイクルにおける位相変化は、8つの位相カテゴリ、すなわち、(i)0.0からπ/4の間、(ii)π/4からπ/2の間、(iii)π/2から3π/4の間、(iv)3π/4からπの間、(v)πから5π/4の間、(vi)5π/4から3π/2の間、(vii)3π/2から7π/4の間、及び、(viii)7π/4から2πの間にマッピングしてもよい。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、図2Aの受信信号604は、図2Aに関連して上述したようなコードカテゴリだけでなく、位相カテゴリにも分類されるセクションに、時間的に分割することができる。換言すれば、受信信号604の各セクションにおいて、cをコードカテゴリとし、pを位相カテゴリとする複合カテゴリ(c、p)を割り当てることができる。このようにして複合カテゴリ(c、p)が割り当てられた受信信号604の各セクションのサンプルは、その複合カテゴリに割り当てられたアキュムレータに累積される。各アキュムレータでは、検出された信号により、各アキュムレータの累積サンプルを、推定コード遅延及び推定ドップラー周波数において、それに対応するダウンコンバートされたプローブ信号の位相及び直交波形に一致させることとなる。本発明の一実施形態によれば、図2Aの4つのコードカテゴリと図2Bの4つの位相カテゴリとを併用することにより、16個のアキュムレータを使用して、それぞれに対応するアキュムレーション(累積)を並列に実行することができる。ドップラー周波数が通常±5KHzの間であり、かつ各チップの持続時間が1.0マイクロ秒であるGPS用途では、コード期間中に、位相カテゴリの変化はほとんど発生しない。したがって、本発明の一実施形態によれば、GPS用途では、図2Aに示すように、同一の1チップ持続時間を使用して、信号セクションを作成することができる。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、次に示す方法によって、推定コード遅延及び推定ドップラー周波数においてプローブ信号を検出する。
(i)プローブ信号の期間を、予め定められた持続時間を各々有する複数のセクションに分割するステップと、
(ii)プローブ信号の各セクションに、複数のコードカテゴリのうちの1つを割り当てるステップであって、各コードカテゴリが、それに対応するセクション内のプローブ信号の信号パターンを示す、該ステップと、
(iii)正弦波信号の位相カテゴリを複数の位相カテゴリから選択するステップであって、各位相カテゴリが、それに対応する正弦波信号の位相の範囲を示す、該ステップと、
(iv)プローブ信号を含む受信信号を受信するステップと、
(v)受信信号を、予め定められた持続時間を各々有する各セクションに分割するステップと、
(vi)推定コード遅延及び推定ドップラー周波数に基づいて、受信信号の各セクションに、それに対応するコードカテゴリ及び位相カテゴリの両方を割り当てるステップと、
(vii)各セクションに割り当てられたコードカテゴリ及び位相カテゴリにしたがって、受信信号の各セクションを個別に累積するステップと、を含む、方法。
【0022】
上記のステップ(vii)は、例えば、アキュムレータに各複合カテゴリ(c、p)を提供することによって実施される。上記の複合カテゴリにおいて、cはコードカテゴリであり、pは位相カテゴリである。このような構成によれば、並列性を利用することにより、高性能及び高効率を実現することができる。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、本発明による方法は、例えば図3A図3Cのデジタル回路300によって示されるような、専用のデジタル回路によって実施される。図3Aは、本発明の一実施形態による、デジタル回路300を示すブロック図である。デジタル回路300は、中央処理装置(CPU)301(演算論理装置(ALC)301)と、ディスパッチ回路(またはカテゴリ割り当て回路)302と、メモリ回路303と、処理回路304-1、304-2、・・・、304-nとを含む。デジタル回路300は、複数の信号源(「チャンネル」)から複数のプローブ信号を同時に探索するために使用することができる。データ(例えば、デジタル化された受信信号、PRNコード、及び出力データ)は、デジタル回路300に受信され、システムバス305を介して、デジタル回路300の全体に分配されるか、またはデジタル回路300から送出される。内部バス306は、デジタル回路300の回路間での内部データ及び制御信号の通信を提供する。
【0024】
いくつかの実施形態では、CPU301は、任意の汎用マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラ(例えば、ARMアーキテクチャの)であり、しばしば、カスタム「システムオンチップ」集積回路に直接組み込むことができるコンフィギュラブル回路モジュールとして利用可能である。いくつかの実施形態では、CPU301は、選択された演算機能及び論理機能を実行可能なカスタム制御回路である。本発明の一実施形態によれば、CPU301は、デジタル回路300内の回路の動作を構成し、制御する。いくつかの実施形態では、各処理回路304-1、304-2、・・・、304-nは、以下でさらに詳細に説明するように、受信信号のセクションのサンプルを累積するために使用するのに適した1以上のアキュムレータ回路を含む。例えば、CPU301は、各アキュムレータを、任意の所与の時刻に、受信信号のセクションを、特定のチャンネル、特定の複合カテゴリ、並びに、特定の推定コード遅延及び推定ドップラー周波数の対について、受信信号のセクションを累積させるのに使用するために割り当ててもよい。
【0025】
ディスパッチ回路302は、受信信号の各セクションを、それに割り当てられたアキュムレータにディスパッチして、累積する論理回路である。デジタル回路300は、複数のチャンネルからプローブ信号を探索するために使用され、受信信号の各セクションは、多数のアキュムレータにディスパッチされる。まず、CPU301は、ディスパッチ回路302に1以上のPRNコードをロードする。ディスパッチ回路302は、PRNコードのサイクルを所望のセクションに分割し、各セクションを、予め定められたコードカテゴリにしたがって分類する。あるいは、CPU301は、ディスパッチ回路302にPRNコードを提供するのではなく、PRNコードサイクルの各セクションに対してコードカテゴリを提供してもよい。いくつかの実施形態では、ディスパッチ回路は、所望のPRNコードを生成するように構成可能なゴールドコード生成器(gold code generator)を備えている。ディスパッチ回路302は、受信信号のセクションを、それに対応する推定コード遅延及び対応する推定ドップラー周波数の対に基づいて、特定のプローブ信号の複合カテゴリに割り当てるのに必要なデータを格納し、かつ、さらなる処理のために、その受信信号のセクションを、処理回路304-1、304-2、・・・、304-nのうちの1以上にディスパッチするためのデータレジスタを含む。
【0026】
図3Bは、セクション累積中のディスパッチ回路302の機能表現315を示す図である。図3Dは、機能表現315の実装を支援するためにディスパッチ回路302に設けられたデータレジスタを示す図である。まず、PRNコードサイクルのコードカテゴリと、それに対応する探索チャンネルのアイデンティティが、データレジスタ343(図3D)に提供される。図3Bに示すように、受信信号の各セクションのサンプル316は、メモリ回路303からディスパッチ回路302(例えば、図3Dのレジスタ344のサンプルデータの部分)に取り出される。例えば、GPS用途では、32MHzのサンプリングレート下で、32個の複素サンプル(すなわち、同相サンプル及び直交サンプルの両方)が、1チップ持続時間を有する各セクションに提供される。ディスパッチ回路302は、受信したサンプルを、アキュムレータにディスパッチし、アキュムレータは、それを、探索パラメータ317、すなわち、割り当てられたチャンネル、推定コード遅延、及び(時間の経過に伴う位相カテゴリの遷移を決定する)ドップラー周波数の関数としてマッピングする。推定コード遅延に基づいて、受信信号のセクションは、割り当てられたチャンネルのPRNコードのサイクルの開始点(先頭)にマッピングされる。オフセットカウンタ341(図3D)は、PRNコードの開始点に対する、受信信号の現在のセクションのオフセット318を示す。このオフセットに基づいて、ディスパッチ回路302は、コードカテゴリを決定する。推定ドップラー周波数に基づく位相カウンタ342は、受信したセクションの位相カテゴリを示す。チャンネル、コードカテゴリ、及び位相カテゴリの組み合わせにより、ディスパッチ回路302は、累積のためにCPU301によって割り当てられたディスネーション・アキュムレータ(destination accumulator)を決定することが可能となる。ディスネーション・アキュムレータの識別子またはアドレスは、レジスタ344(図3D)におけるアキュムレータアドレスの部分に提供される。レジスタ344のアキュムレータアドレス及びサンプルデータは、受信信号のサンプルをディスネーション・アキュムレータに送信するために、内部データバス306(図3A)に提供される。
【0027】
図3Cは、本発明の一実施形態による、処理回路304-1、304-2、・・・、304-nのうちのいずれかにおける累積を支援するためのアキュムレータの実装320を示す図である。図3Cに示すように、各セクションのサンプルが、データバス324に提供される(データバス324は、図3Aの内部データバス306の一部であり得る)。上述のように、各セクションの各サンプルには、同相成分及び直交成分の両方が提供される(例えば、同相成分及び直交成分の各成分が2ビット提供される)。サンプルの同相成分及び直交成分は、それぞれ、ベクトルレジスタ325-I及び325-Qに受信される。ベクトルレジスタ325-I及び325-Qの各々は、例えば、セクション内の32個のサンプルのうちの対応する1つをそれぞれ保持する32個の2ビットサブレジスタを含む。累積レジスタ327-I及び327-Qは、以前に受信したセクションにおけるサンプルの対応する同相成分及び直交成分の対応する累積ベクトル和を保持する。ベクトル和算器326-I及び326-Qは、現在のセクションの同相成分及び直交成分を、累積レジスタ327-I及び327-Q内の累積ベクトル和に加算する。累積レジスタ327-I及び327-Q内の各サンプルの各同相成分または直交成分は、必要に応じて、予想されるPRNコードの長さに部分的に基づいて、例えば、8ビットまたは16ビットであってもよい。
【0028】
上述したように、各アキュムレータにおいて、検出された信号(すなわち、その推定コード遅延及び推定ドップラー周波数は、実際のコード遅延及び実際のドップラー周波数に近い)により、各アキュムレータの累積サンプルを、そのセクション内のPRNコード中の対応するビット遷移の波形に一致させることとなる。図4は、受信信号の或るセクションにおける累積した同相サンプルに対応する波形401(すなわち、信号の実数部の値)と、受信信号における同一のセクションの累積した直交サンプルに対応する波形402(すなわち、信号の虚数部の値)とを示す図である。なお、図4の受信信号のセクションに対応するPRNコードのセクションは、信号遷移(例えば、-1から+1、または+1から-1への遷移)を含むことに留意されたい。波形401及び波形402は、それぞれ、ステップ関数及びその導関数(すなわち、インパルス関数)に類似している。図4において、波形402は、波形401における信号遷移の中間点404に先行するピーク(すなわち、ピーク403)を有する。本願発明者は、この構成において、受信信号が、マルチパスを介して到着する信号の重畳を表し、波形402のピーク403が、それの最も早い到着時間を表すことを見出した。
【0029】
受信機と、衛星から信号を受信した位置との間の距離(「疑似距離」)は、測定されたコード遅延に光速cを乗じることによって算出することができる。受信機が時刻tに信号を受信した場合、信号はGPS時刻t-τに衛星から送信されたはずである(τは、実際のコード遅延を表す)。GPS時刻t-τにおける衛星の位置は、そのエフェメリスから正確に推定することができる。受信機の位置及び速度は通常、4つ以上の衛星の疑似距離の測定値を用いて算出することができる。この計算は、例えば、上述の図1Aに図示したプロセッサ180において実施され得る。例えば、書籍「Global Positioning System: Signals, Measurement and Performance(「Misra」)」(P.Misra and P.Enge著、改訂第2版)の6.1節では、Misraは、衛星からの疑似距離の測定値ρ(t、t-τ)のモデルを提供している(1≦k≦N、N≧4)。
【0030】
【数1】
【0031】
式中、r(t、t-τ)は、実際の疑似距離である。δt(t)は、受信機のクロックバイアスであり、δt(t-τ)は、衛星のクロックバイアスである。A(t)は、大気遅延補償係数を表す。ερ (t)は、ノイズ項であり、通常、ゼロ平均のガウス雑音としてモデル化される。まとめると、疑似距離は、疑似距離ベクトルρ(t)を形成し、その時間微分は、疑似距離時間微分ベクトルρ(t)を形成する。
【0032】
受信機の位置ベクトルx及び速度ベクトルvは、疑似距離ベクトルρ(t)及び疑似距離時間微分ベクトルρ(t)、衛星のエフェメリス、並びに、当業者に既知の統計解析技術(例えば、カルマンフィルタ)を用いて解くことができる力学系のシステム状態変数としてモデル化することができる。例えば、上記のMisraによる書籍の6.2節を参照されたい。
【0033】
上記の数式1は、次のように書き直すことができる。
【0034】
【数2】
【0035】
式中、|x-x|は実際の疑似距離であり、衛星の位置ベクトルxと受信機の位置ベクトルxとの間のユークリッド距離で表されている。上記の数式2の時間微分により、衛星の速度ベクトルvと、受信機の速度ベクトルvとは、以下のように関係付けられる。
【0036】
【数3】
【0037】
したがって、各衛星について、観測されたドップラー周波数(これは、疑似距離の時間変化率に対して線形関係にある)は、衛星と受信機との間の視線に沿った相対速度(v-v)と、受信機のクロックバイアスレートδ(t)及び衛星のクロックバイアスレートδ(t-τ)と、大気補正係数レートA・k(t)との合計である。衛星のクロックが高品質であり、かつ比較的緩やかに変化する大気モデルを仮定すると、これらのドップラー成分のうち、衛星のクロックバイアスレートδ(t-τ)及び大気補正係数レートA・k(t)は、一般的に、受信機のクロックバイアスレートδ(t)及び相対視線速度|v-v|に対して小さな値となる。上述したように、IF信号121は、受信信号と、局部発振器125(通常はTXCO)によって生成された固定周波数信号とを混合することにより得られる。発振器125の安定性は、受信機のクロックバイアスレートδ(t)に反映される。相対速度の不確かさ|v-v|は衛星の動きによって支配されており、この不確かさは通常100KHzのオーダーである。しかしながら、受信機のクロックバイアスレートδ(t)の不確かさは、かなり大きい場合がある。図5は、衛星捕捉における周波数探索空間の相対的な大きさを示す図であり、相対速度|v-v|の不確かさに起因する周波数探索空間501と、全ドップラー成分の不確かさに起因する周波数探索空間502とを示している。また、図5には、コード探索空間503も示されている。
【0038】
従来技術では、周波数探索空間502の大きさを小さくするためには、既知の限定的なドリフトを有する高品質のTXCOを必要とし、これにより、受信機に追加のコストが生じていた。しかしながら、この従来技術では、例えばIoT用途などの多くの用途において、受信機が非常に高価になるおそれがある。受信機におけるTCXOに起因する不確かさがすべての衛星に共通であることを観測すると、本発明による方法は、コールドスタートまたはウォームスタートにおける最初の衛星の初期捕捉中にのみ、周波数探索空間502の全範囲を必要とする。最初の衛星の捕捉に成功すると、最初の衛星の初期捕捉中に求められた受信機のクロックバイアスδt(t)及び受信機のクロックバイアスレートδ(t)の値と、それぞれの分散とが、その後のすべての衛星の捕捉に使用される。この方法により、不確かさは、各衛星の相対速度の不確かさ以外は実質的に取り除かれ、これにより、必要とされる可能性が高い周波数探索空間は、周波数探索空間501のみとなる。この方法は、次のように要約される。
(i)受信機の位置ベクトルx及び速度ベクトルv、並びに受信機クロックバイアスδt(t)及び受信機クロックバイアスレートδ(t)を状態変数として含むシステムモデルを用いて、受信機の位置ベクトルx及び速度ベクトルvを、最良の初期推定値に初期化する。
(ii)第1の衛星(最初の衛星)の軌道に起因する不確かさと、受信機クロックバイアスδt(t)及び受信機クロックバイアスレートδ(t)に起因する不確かさとの両方をカバーする第1の周波数探索空間を用いて、第1の衛星を捕捉する。
(iii)受信機クロックバイアスδt(t)及び受信機クロックバイアスレートδ(t)に対応する内部状態を、第1の衛星の捕捉時に得られたそれぞれの推定値に設定する。
(iv)第2の衛星の軌道に起因する不確かさにのみを実質的にカバーする第2の周波数探索空間を用いて、第2の衛星を捕捉する。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態では、カルマンフィルタにより、受信機の位置ベクトルx及び速度ベクトルv、並びに、受信機クロックバイアスδt(t)及び受信機クロックバイアスレートδ(t)を、システムの状態変数とするシステムモデルが実現される。いくつかの実施形態では、衛星クロックバイアスδt(t-τ)、大気補正係数A(t)、及び、疑似距離の測定値に影響を与える他の要因は、入力変数として提供してもよいし、または、別々に処理してもよい。カルマンフィルタでは、システムの状態変数x及びv、受信機クロックバイアスδt(t)及び受信機クロックバイアスレートδ(t)、並びに、それらの共分散は、それらに対応する現在の推定値及びノイズモデルから予測される。システム変数の現在の推定値及びそれらの共分散は、次に、それぞれの衛星の疑似距離及びドップラー周波数の最新の推定値及び測定値を用いて更新される。例えば、受信機クロックバイアスレートδ(t)の現在の推定値は、その最新の推定値とドップラー周波数の測定値との線形関数を用いて更新される。
【0040】
上記の詳細な説明は、本発明の特定の実施形態を例示するために提供されたものであり、限定することを意図するものではない。本発明の範囲内で様々な変更及び変形が可能である。本発明は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5