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特許7524236酵素の内部移行のための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】酵素の内部移行のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/47 20060101AFI20240722BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240722BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 38/45 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20240722BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20240722BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20240722BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240722BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240722BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20240722BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240722BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240722BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240722BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240722BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
A61K38/47 ZNA
C07K19/00
A61K47/68
A61P3/00
A61K38/45
A61K38/46
A61K38/43
A61K39/395 L
A61K39/395 P
A61K47/65
A61P3/06
A61P3/08
A61P43/00 111
C07K16/18
C12N9/14
C12N15/62 Z
C12N15/55
C12N15/13
C12N15/11 Z
C12N15/85 Z
【請求項の数】 2
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022012834
(22)【出願日】2022-01-31
(62)【分割の表示】P 2018529603の分割
【原出願日】2016-12-08
(65)【公開番号】P2022058799
(43)【公開日】2022-04-12
【審査請求日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】62/264,702
(32)【優先日】2015-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/379,629
(32)【優先日】2016-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】バイク アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】シグナー キャサリン
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-506317(JP,A)
【文献】特表2015-511962(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0320844(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104160033(CN,A)
【文献】国際公開第2008/143354(WO,A1)
【文献】International Journal of Cell Biology,2013年,Vol.2013,Article ID 703545, p. 1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C07K
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-グルコシダーゼ(GAA)およびインテグリンアルファ-7(ITGA7)に結合する抗体若しくはその抗原結合断片を含む融合タンパク質、を含む組成物。
【請求項2】
ポンペ病に罹患している対象を治療する方法における使用のための生物学的治療用複合体であって、
前記方法が、前記対象に前記生物学的治療用複合体を投与することを含み、
前記生物学的治療用複合体が、前記対象の細胞のリソソームに入り、前記ポンペ病に関連する酵素活性補充する酵素活性提供し、
前記生物学的治療用複合体が、α-グルコシダーゼ(GAA)およびインテグリンアルファ-7(ITGA7)結合する抗体若しくはその抗原結合断片を含む融合タンパク質、を含む、
前記生物学的治療用複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、全体として、リソソーム蓄積症を治療するための組成物および方法を対象とする。本出願は、特に、補充酵素を含有する標的指向化されたタンパク質複合体と、リソソーム蓄積症の治療におけるそれらの使用とを対象とする。
【背景技術】
【0002】
リソソーム蓄積症は、リソソームにおける種々の基質の分解に影響を及ぼす希少疾患の一つである。それらの基質には、スフィンゴ脂質類、ムコ多糖類、糖タンパク質類、グリコーゲン、およびオリゴ糖類が含まれ、これらが疾患を有する人の細胞に蓄積して細胞死をもたらし得る。リソソーム蓄積症によって冒される器官として、中枢神経系(CNS)、末梢神経系(PNS)、肺、肝臓、骨、骨格筋および心筋、ならびに細網内皮系が挙げられる。
【0003】
リソソーム蓄積症の治療に対する選択肢として、酵素補充療法(ERT)、基質減少療法、薬理学的シャペロン介在療法、造血幹細胞移植療法、および遺伝子療法が挙げられる。基質減少療法の例として、ゴーシェ病1型を治療するためのミグルスタットまたはエリグルスタットの使用が挙げられる。これらの薬剤は、シンターゼ活性を阻害することによって作用し、その結果、基質の産生を抑制する。造血幹細胞療法(HSCT)は、例えば、MPSの一部の型の患者において、中枢神経系の陰性表現型を緩和かつ低減させるのに用いられる。R.M.Boustany,“Lysosomal storage diseases--the horizon expands,”9(10)Nat.Rev.Neurol.583-98,Oct.2013(非特許文献1)を参照されたい。表1には、一部のリソソーム蓄積症と、その関連酵素または他のタンパク質の一覧表を示す。
【0004】
(表1)リソソーム蓄積症
【0005】
最もよく見られるLSDには、ポンペ病とファブリー病の2種がある。ポンペ病は欠損リソソーム酵素アルファ-グルコシダーゼ(GAA)によって引き起こされ、その結果、リソソーム内のグリコーゲンのプロセシングが不十分になる。リソソーム内のグリコーゲンの蓄積が、主に骨格組織、心臓組織、および肝組織に生じる。乳児期にポンペ病を発症すると、通例2歳になる前に、心肥大、筋緊張低下、肝腫大に見舞われ、また心肺不全による死亡に見舞われることになる。成人期のポンペ病は、10代~50代までに発症し、通例、骨格筋のみに関与する。
【0006】
ファブリー病は、欠損リソソーム酵素アルファ-ガラクトシダーゼA(GLA)により引き起こされ、その結果、血管、ならびに他の組織および器官内にグロボトリアオシルセラミドが蓄積する。ファブリー病に付随する症状として、神経損傷および/または小血管閉塞による疼痛、腎機能不全および腎不全、高血圧および心筋症などの心合併症、被角血管腫の形成などの皮膚症状、無汗症または多汗症、ならびに渦巻き状角膜、放射状白内障、結膜異常、および網膜血管異常などの眼の疾患が挙げられる。
【0007】
リソソーム蓄積症に対して現在行われている治療は、至適なものとは言えない。例えば、一般的には、ERTを高頻度および高用量で、例えば、隔週に最大40mg/kgまで投与しなければならない。さらに、一部の補充酵素は免疫学的に交差反応性(CRIM)があり、対象におけるIgGの産生を刺激して、マンノース6-リン酸(M6P)受容体を介して酵素がリソソームに送達されるのを妨げる可能性がある。IgGは、補充酵素のM6P残基を遮蔽する可能性があり、抗原-IgG-抗体複合体が細胞のリソソームにFc受容体を介して取り込まれ、その結果、補充酵素は優先的にマクロファージの方へ送られ得る。
【0008】
また、補充酵素の該当罹患組織への送達は非効率である(表2、およびDesnick&Schuchman,“Enzyme replacement therapy for lysosomal diseases:lessons from 20 years of experience and remaining challenges,”13 Annu.Rev.Genomics Hum.Genet.307-35,2012(非特許文献2)を参照)。例えば、乳児型ポンペに対して長期の酵素補充療法を受けている患者が、引き続き、開鼻音、持続性筋力低下、下垂、オステオペニア、難聴、誤嚥リスク、嚥下障害、心不整脈、および嚥下障害を患う場合がある。補充酵素の用量を、毎週または隔週、経時的に最大40mg/kgまで増加させなければならないことが多い。
【0009】
(表2)ERTの非効率な組織標的指向化
【0010】
内因性マンノース-6リン酸受容体(MPR)は、大部分の組換え酵素のリソソームへの輸送を媒介する。MPRには、カチオン非依存性(CI-MPR)およびカチオン依存性(CD-MPR)の2つの相補的な形態がある。いずれの形態のノックアウトも、リソソーム酵素の輸送異常を来した。リソソーム加水分解酵素は小胞体で合成され、マンノース6-リン酸(M6P)基の付加によって共有結合修飾された場合、シス-Golgiネットワークに移動する。このマーカーの構成は、以下の2つのリソソーム酵素の逐次作用によって決まる:UDP-N-アセチルグルコサミン-1-ホスホトランスフェラーゼ(G1cNac-ホスホトランスフェラーゼ)、およびN-アセチルグルコサミン-1-ホスホジエステル-α-N-アセチル-グルコサミニダーゼ(脱被覆酵素(uncovering enzyme))。GlcNac-ホスホトランスフェラーゼは、G1cNAc-1-リン酸残基を、UDP-G1cNAcから、加水分解酵素の高マンノース型オリゴ糖における選択マンノースのC6位置に移動させる触媒作用を及ぼす。続いて、脱被覆酵素は末端のG1cNAcを除去し、M6P認識シグナルを出すようにする。トランス-Golgiネットワークでは、このM6Pシグナルによって、リソソーム加水分解酵素がM6P受容体への選択的結合を介して他の全ての種のタンパク質から分離されるようになる。生成したクラスリン-被覆小胞は、トランス-Golgiネットワークから分離し、後期エンドソームと融合する。後期エンドソームの低pHで、加水分解酵素はM6P受容体から切り離され、空の受容体はさらなる輸送を繰り返すためにGolgi体へ再循環される。
【0011】
マンノース受容体を介して送達されるβ-グルコセレブロシダーゼを除いて、組換えリソソーム酵素はM6P糖鎖修飾を含み、主にCI-MPR/IGF2Rを介してリソソームに送達される。しかしながら、糖鎖修飾/CI-MPR-媒介酵素補充送達は、臨床的に意義のある組織の全てに達するわけではない(表2)。酵素補充療法の改良においては、(i)β2-アゴニストのクレンブテロールを用いてCI-MPRの表面発現を増加させること(Koeberl et al.,“Enhanced efficacy of enzyme replacement therapy in Pompe disease through mannose-6-phosphate receptor expression in skeletal muscle,”103(2)Mol.Genet.Metab.107-12,2011(非特許文献3))、(ii)酵素のM6P残基量を増加させること(Zhu et al.,“Conjugation of mannose-6-phosphate-containing oligosaccharides to acid alpha-glucosidase improves the clearance of glycogen in Pompe mice,”279(48)J.Biol.Chem.50336-41,2004(非特許文献4))、または(iii)IGF-IIドメインを酵素に融合させること(Maga et al.,“Glycosylation-independent lysosomal targeting of acid alpha-glucosidase enhances muscle glycogen clearance in Pompe mice,”288(3)J.Biol.Chem.1428-38,2013(非特許文献5))によって、CI-MPR送達を改善することに焦点が絞られている。
【0012】
数多くのリソソーム蓄積症が酵素補充療法または遺伝子療法により不適切に処置されているが、これは、主には、関連する組織または器官への補充酵素の標的指向化が不十分であることに起因する。良好な組織生体内分布および酵素のリソソーム取り込みを強化かつ促進する改良型酵素補充療法に対してのニーズが生じている。出願人らは、標的罹患組織のリソソームへの酵素のCI-MPR非依存抗体誘導送達を用いた、改良型酵素補充療法の開発を行ってきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】R.M.Boustany,“Lysosomal storage diseases--the horizon expands,”9(10)Nat.Rev.Neurol.583-98,Oct.2013
【文献】Desnick&Schuchman,“Enzyme replacement therapy for lysosomal diseases:lessons from 20 years of experience and remaining challenges,”13 Annu.Rev.Genomics Hum.Genet.307-35,2012
【文献】Koeberl et al.,“Enhanced efficacy of enzyme replacement therapy in Pompe disease through mannose-6-phosphate receptor expression in skeletal muscle,”103(2)Mol.Genet.Metab.107-12,2011
【文献】Zhu et al.,“Conjugation of mannose-6-phosphate-containing oligosaccharides to acid alpha-glucosidase improves the clearance of glycogen in Pompe mice,”279(48)J.Biol.Chem.50336-41,2004
【文献】Maga et al.,“Glycosylation-independent lysosomal targeting of acid alpha-glucosidase enhances muscle glycogen clearance in Pompe mice,”288(3)J.Biol.Chem.1428-38,2013
【発明の概要】
【0014】
出願人らは、補充酵素を、細胞表面の標的指向化要素に結合させると、特定の標的細胞のリソソームに効果的に送達できることを見出した。この酵素と標的指向化要素との組み合わせは、生物学的治療用複合体と称される。したがって、一態様では、本発明は、組成物、すなわち酵素と抗原結合タンパク質とを含む生物学的治療用複合体を提供する。酵素はリソソーム蓄積症(LSD)に関連するものであり、抗原結合タンパク質は内部移行エフェクターに結合するものである。内部移行エフェクターは、細胞の結合とリソソーム区画内への取り込みとを媒介する。
【0015】
一部の実施形態では、酵素は、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、サポシン-C活性化因子、セラミダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、β-ヘキソサミニダーゼ、GM2活性化因子、GM3シンターゼ、アリールスルファターゼ、スフィンゴ脂質活性化因子、α-イズロニダーゼ、イズロニダーゼ-2-スルファターゼ、ヘパリンN-スルファターゼ、N-アセチル-α-グルコサミニダーゼ、α-グルコサミドN-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-硫酸スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、β-グルクロニダーゼ、およびヒアルロニダーゼのうちの任意の1つである。一部の実施形態では、酵素は、上記に列挙した酵素のうちの任意の1つ以上と同一または同様の活性を有するアイソザイムである。一部の実施形態では、α-グルコシダーゼ活性は、スクラーゼ・イソマルターゼ(SI)、マルターゼ・グルコアミラーゼ(MGAM)、グルコシダーゼII(GANAB)、または中性α-グルコシダーゼ(C GNAC)などのアイソザイムによって付与され得る。別の実施形態では、α-ガラクトシダーゼA活性は、GLA活性を得るように操作されたα-N-アセチルガラクトサミニダーゼなどのアイソザイムによって付与され得る。
【0016】
一部の実施形態では、抗原結合タンパク質は、1つ以上の内部移行エフェクターに結合することができる任意のタンパク質である。さらなる特定の実施形態では、抗原結合タンパク質は、受容体融合分子、トラップ分子、受容体Fc融合分子、抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、一本鎖Fv(scFv)分子、dAb断片、単離相補性決定領域(CDR)、CDR3ペプチド、拘束FR3-CDR3-FR4ペプチド、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ、一価ナノボディ、二価ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP:small modular immunopharmaceutical)、ラクダ抗体(VHH重鎖ホモ二量体抗体)、およびサメ可変IgNARドメインなどのうちの任意の1つ以上である。特定の一実施形態では、抗原結合タンパク質は、内部移行エフェクターと酵素とに結合する二重特異性抗体である。
【0017】
一部の実施形態では、内部移行エフェクターは、受容体タンパク質であるか、または受容体タンパク質に結合するリガンドであり、受容体タンパク質は、細胞膜内に、細胞膜上に、または細胞膜に存在し、かつエンドサイトーシスによって取り込まれ得る。さらなる特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、CD63、MHC-I、Kremen-1、Kremen-2、LRP5、LRP6、LRP8、トランスフェリン受容体、LDL-受容体、LDL関連タンパク質1受容体、ASGR1、ASGR2、アミロイド前駆体タンパク質様タンパク質-2(APLP2)、アペリン受容体(APLNR)、PRLR(プロラクチン受容体)、MAL(Myelin And Lymphocyteタンパク質、別名VIP17)、IGF2R、液胞型H+ATPアーゼ、ジフテリア毒素受容体、葉酸受容体、グルタミン酸受容体、グルタチオン受容体、レプチン受容体、スカベンジャー受容体、SCARA1-5、SCARB1-3、およびCD36のうちの任意の1つ以上である。特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、腎臓特異的インターナライザーであり、例えば、CDH16(Cadheri-16)、CLDN16(Claudn-16)、KL(Klotho)、PTH1R(副甲状腺ホルモン受容体)、SLC22A13(溶質輸送体ファミリー22メンバー13)、SLC5A2(ナトリウム/グルコース共輸送体2)、およびUMOD(ウロモジュリン)などである。他の特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、筋特異的インターナライザーであり、例えば、BMPR1A(骨形態形成タンパク質受容体1A)、M-カドヘリン、CD9、MuSK(筋特異的キナーゼ)、LGR4/GPR48(Gタンパク質共役受容体48)、コリン作動性受容体(ニコチン性)アルファ1、CDH15(Cadheri-15)、ITGA7(インテグリンアルファ-7)、CACNG1(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-1)、CACNAlS(L型カルシウムチャネルサブユニットアルファ-15)、CACNG6(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-6)、SCN1B(ナトリウムチャネルサブユニットベータ-1)、CHRNA1(ACh受容体サブユニットアルファ)、CHRND(ACh受容体サブユニットデルタ)、LRRC14B(ロイシンリッチリピート含有タンパク質14B)、およびPOPDC3(Popeyeドメイン含有タンパク質3)などである。一部の特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、ITGA7、CD9、CD63、APLP2、またはPRLRである。一部の特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、マクロファージ優先インターナライザーであり、例えば、VSIG4(CRIG)、MSR1(CD204)、およびMMR1(MCR1、CD206)を含む。
【0018】
生物学的治療用複合体は、いくつかのフォーマットのうちの任意の1つを有し得る。一部の実施形態では、酵素は抗原結合タンパク質に共有結合されている。特定の一実施形態では、抗原結合タンパク質は半抗体(すなわち、単一重鎖および単一軽鎖)を含み、酵素はイムノグロブリンのFcドメインに共有結合し、酵素に共有結合したFcドメインは抗原結合タンパク質のFcドメインと結合している。特定の別の実施形態では、抗原結合タンパク質は抗体であり、酵素は抗体の重鎖(または軽鎖)のC末端に共有結合している。さらなる特定の別の実施形態では、抗原結合タンパク質は抗体であり、酵素は抗体の重鎖(または軽鎖)のN末端に共有結合している。
【0019】
他の実施形態では、酵素は抗原結合タンパク質に共有結合されていない。一実施形態では、抗原結合タンパク質は、内部移行エフェクターと酵素の両方に結合する。特定の一実施形態では、抗原結合タンパク質は、内部移行エフェクターと酵素とに結合する二重特異性抗体である。
【0020】
一部の実施形態では、酵素はGAAであるか、またはGAA活性を有するアイソザイムであり、内部移行エフェクターはCD9、ITGA7、CD63、APLP2、またはPRLRである。他の実施形態では、酵素はGLAであるか、またはGLA活性を有するアイソザイムであり、内部移行エフェクターはCD9、ITGA7、CD63、APLP2、またはPRLRである。
【0021】
別の態様では、本発明は、リソソーム蓄積症(LSD)に罹患している対象を治療する方法であって、該対象に生物学的治療用複合体(上記に記載の通り)を投与する工程を含み、該生物学的治療用複合体が、該対象の細胞のリソソームに入って、LSDに関連する酵素活性(「内因性酵素」)を補充する酵素活性(「補充酵素」)を付与する、該方法を提供する。LSDには、スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖症、およびグリコーゲン蓄積症が含まれる。より具体的には、治療可能なLSDは表1に列挙した疾患のうちの任意の1つ以上であり、補充酵素は表1に列挙した対応する酵素の活性を有する。特定の実施形態では、LSDはポンペ病であり、関連酵素はα-グルコシダーゼ(GAA)である。特定の別の実施形態では、LSDはファブリー病であり、関連酵素はα-ガラクトシダーゼA(GLA)である。さらなる特定の別の例では、LSDはリソソーム酸性リパーゼ欠損症(LAL-D)であり、関連酵素はリソソーム酸性リパーゼ(LIPA)である。
【0022】
一実施形態では、補充酵素は、対象において免疫反応を誘発するものではない。補充酵素がアイソザイムである場合もある。例えば、内因性酵素がα-グルコシダーゼである場合、アイソザイムは、α-グルコシダーゼと同一または同様の酵素活性を付与する別種のタンパク質であり、例えば、スクラーゼ・イソマルターゼ(SI)、マルターゼ・グルコアミラーゼ(MGAM)、グルコシダーゼII(GANAB)、および中性α-グルコシダーゼ(C GNAC)などである。内因性酵素がα-ガラクトシダーゼA(GLA)である場合、アイソザイムは、α-ガラクトシダーゼAと同一または同様の酵素活性を付与する別種のタンパク質であり、例えば、GLA活性を得るように操作されたα-N-アセチルガラクトサミニダーゼなどである。
【0023】
一態様では、本発明は、酵素と、酵素を必要とする患者に酵素を効果的に補充する抗原結合タンパク質とを含有する生物学的治療用複合体を選択またはスクリーニングする方法を提供する。一実施形態では、生物学的治療用複合体はモデル系に投与され、該モデル系を補充酵素活性に対して評価する。一実施形態では、モデル系は、酵素の発現が不足しており、かつ抗原結合タンパク質の抗原コグネイトを発現する動物である。一実施形態では、動物モデルは、抗原結合タンパク質のヒト化コグネイトを発現し、酵素をコードする遺伝子のノックアウトを有するマウスである。
[本発明1001]
エンドサイトーシスを起こす膜タンパク質に結合する抗原結合タンパク質に直接、または単一のリンカーによって連結されているリソソーム酵素を含む、組成物。
[本発明1002]
前記膜タンパク質が、リソソーム膜に局在する、本発明1001の組成物。
[本発明1003]
前記リソソーム酵素が、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、サポシン-C活性化因子、セラミダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、β-ヘキソサミニダーゼ、GM2活性化因子、GM3シンターゼ、アリールスルファターゼ、スフィンゴ脂質活性化因子、α-イズロニダーゼ、イズロニダーゼ-2-スルファターゼ、ヘパリンN-スルファターゼ、N-アセチル-α-グルコサミニダーゼ、α-グルコサミドN-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-硫酸スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、β-グルクロニダーゼ、およびヒアルロニダーゼからなる群から選択される、本発明1001の組成物。
[本発明1004]
前記抗原結合タンパク質が、受容体融合分子、トラップ分子、受容体Fc融合分子、抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、一本鎖Fv(scFv)分子、dAb断片、単離相補性決定領域(CDR)、CDR3ペプチド、拘束FR3-CDR3-FR4ペプチド、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ、一価ナノボディ、二価ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP:small modular immunopharmaceutical)、ラクダ抗体(VHH重鎖ホモ二量体抗体)、およびサメ可変IgNARドメインからなる群から選択される、本発明1001から本発明1003のうちのいずれかの組成物。
[本発明1005]
前記膜タンパク質が、CD63、MHC-I、Kremen-1、Kremen-2、LRP5、LRP6、LRP8、トランスフェリン受容体、LDL-受容体、LDL関連タンパク質1受容体、ASGR1、ASGR2、アミロイド前駆体タンパク質様タンパク質-2(APLP2)、アペリン受容体(APLNR)、PRLR(プロラクチン受容体)、MAL(Myelin And Lymphocyteタンパク質、別名VIP17)、IGF2R、液胞型H+ATPアーゼ、ジフテリア毒素受容体、葉酸受容体、グルタミン酸受容体、グルタチオン受容体、レプチン受容体、スカベンジャー受容体、SCARA1-5、SCARB1-3、CD36、CDH16(Cadheri-16)、CLDN16(Claudn-16)、KL(Klotho)、PTH1R(副甲状腺ホルモン受容体)、SLC22A13(溶質輸送体ファミリー22メンバー13)、SLC5A2(ナトリウム/グルコース共輸送体2)、UMOD(ウロモジュリン)、BMPR1A(骨形態形成タンパク質受容体1A)、m-カドヘリン、CD9、MuSK(筋特異的キナーゼ)、LGR4/GPR48(Gタンパク質共役受容体48)、コリン作動性受容体(ニコチン性)アルファ1、CDH15(Cadheri-15)、ITGA7(インテグリンアルファ-7)、CACNG1(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-1)、CACNAls(L型カルシウムチャネルサブユニットアルファ-15)、CACNG6(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-6)、SCN1B(ナトリウムチャネルサブユニットベータ-1)、CHRNA1(ACh受容体サブユニットアルファ)、CHRND(ACh受容体サブユニットデルタ)、LRRC14B(ロイシンリッチリピート含有タンパク質14B)、およびPOPDC3(Popeyeドメイン含有タンパク質3)からなる群から選択される、本発明1001から本発明1004のうちのいずれかの組成物。
[本発明1006]
前記リソソーム酵素が、前記抗原結合タンパク質に直接連結している、本発明1001から本発明1005のうちのいずれかの組成物。
[本発明1007]
前記抗原結合タンパク質が抗体を含み、前記酵素が前記抗体の重鎖のC末端に共有結合している、本発明1006の組成物。
[本発明1008]
前記リソソーム酵素が、単一のリンカーによって前記抗原結合タンパク質に連結している、本発明1001から本発明1005のうちのいずれかの組成物。
[本発明1009]
前記抗原結合タンパク質が半抗体を含み、前記リソソーム酵素がイムノグロブリンのFcドメインに共有結合し、前記酵素に共有結合した前記Fcドメインが、前記抗原結合タンパク質のFcドメインと結合している、本発明1008の組成物。
[本発明1010]
前記リンカーが開裂可能なリンカーである、本発明1008の組成物。
[本発明1011]
前記リソソーム酵素がGAAであるか、またはGAA活性を含み、前記膜タンパク質が、CD63、APLP2、およびPRLRからなる群から選択される、本発明1001から本発明1010のうちのいずれかの組成物。
[本発明1012]
前記リソソーム酵素がGAAであるか、またはGAA活性を含み、前記膜タンパク質がCD63である、本発明1001から本発明1011のうちのいずれかの組成物。
[本発明1013]
前記リソソーム酵素が配列番号1のアミノ酸配列を含む、本発明1001から本発明1012のうちのいずれかの組成物。
[本発明1014]
前記リソソーム酵素がGLAであるか、またはGLA活性を含み、前記膜タンパク質が、CD63、APLP2、およびPRLRからなる群から選択される、本発明1001から本発明1010のうちのいずれかの組成物。
[本発明1015]
前記酵素がGLAであるか、またはGLA活性を含み、前記膜タンパク質がCD63である、本発明1001から本発明1010および本発明1014のうちのいずれかの組成物。
[本発明1016]
前記リソソーム酵素が配列番号2のアミノ酸配列を含む、本発明1001から本発明1010、本発明1014、および本発明1015のうちのいずれかの組成物。
[本発明1017]
リソソーム蓄積症(LSD)に罹患している対象を治療する方法であって、
前記対象に(a)酵素と(b)エンドサイトーシスを起こす膜タンパク質に結合する抗原結合タンパク質とを含む生物学的治療用複合体を投与することを含み、
前記生物学的治療用複合体が、前記対象の細胞のリソソームに入って、前記リソソームに前記酵素を送達し、それが前記LSDに関連する酵素活性(「内因性酵素」)を補充する、前記方法。
[本発明1018]
前記LSDが、スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖症、およびグリコーゲン蓄積症からなる群から選択される、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記LSDが、ファブリー病、ゴーシェ病I型、ゴーシェ病II型、ゴーシェ病III型、ニーマン・ピック病A型、ニーマン・ピック病B型、GM1-ガングリオシドーシス、サンドホフ病、テイ・サックス病、GM2-活性化因子欠損、GM3-ガングリオシドーシス、異染性白質ジストロフィー、スフィンゴ脂質活性化因子欠損、シャイエ病、ハーラー・シャイエ病、ハーラー病、ハンター病、サンフィリポA、サンフィリポB、サンフィリポC、サンフィリポD、モルキオ症候群A、モルキオ症候群B、マロトー・ラミー病、スライ病、MPS IX、およびポンペ病からなる群から選択される、本発明1017または本発明1018の方法。
[本発明1020]
前記LSDがファブリー病またはポンペ病である、本発明1017から本発明1019のうちのいずれかの方法。
[本発明1021]
前記酵素が、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、サポシン-C活性化因子、セラミダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、β-ヘキソサミニダーゼ、GM2活性化因子、GM3シンターゼ、アリールスルファターゼ、スフィンゴ脂質活性化因子、α-イズロニダーゼ、イズロニダーゼ-2-スルファターゼ、ヘパリンN-スルファターゼ、N-アセチル-α-グルコサミニダーゼ、α-グルコサミドN-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-硫酸スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、β-グルクロニダーゼ、およびヒアルロニダーゼからなる群から選択される、本発明1017の方法。
[本発明1022]
前記酵素が、前記対象において免疫反応を誘導しない、本発明1017から本発明1021のうちのいずれかの方法。
[本発明1023]
前記酵素がアイソザイムである、本発明1017から本発明1022のうちのいずれかの方法。
[本発明1024]
前記LSDがポンペ病であり、前記内因性酵素がα-グルコシダーゼ(GAA)であり、前記アイソザイムが、酸性α-グルコシダーゼ、スクラーゼ・イソマルターゼ(SI)、マルターゼ・グルコアミラーゼ(MGAM)、グルコシダーゼII(GANAB)、および中性α-グルコシダーゼ(C GNAC)からなる群から選択される、本発明1023の方法。
[本発明1025]
前記LSDがファブリー病であり、前記内因性酵素がα-ガラクトシダーゼA(GLA)であり、前記アイソザイムがGLA活性を得るように操作されたα-N-アセチルガラクトサミニダーゼである、本発明1023の方法。
[本発明1026]
前記膜タンパク質が、CD63、MHC-I、Kremen-1、Kremen-2、LRP5、LRP6、LRP8、トランスフェリン受容体、LDL-受容体、LDL関連タンパク質1受容体、ASGR1、ASGR2、アミロイド前駆体タンパク質様タンパク質-2(APLP2)、アペリン受容体(APLNR)、PRLR(プロラクチン受容体)、MAL(Myelin And Lymphocyteタンパク質、別名VIP17)、IGF2R、液胞型H+ATPアーゼ、ジフテリア毒素受容体、葉酸受容体、グルタミン酸受容体、グルタチオン受容体、レプチン受容体、スカベンジャー受容体、SCARA1-5、SCARB1-3、CD36、CDH16(Cadheri-16)、CLDN16(Claudn-16)、KL(Klotho)、PTH1R(副甲状腺ホルモン受容体)、SLC22A13(溶質輸送体ファミリー22メンバー13)、SLC5A2(ナトリウム/グルコース共輸送体2)、UMOD(ウロモジュリン)、BMPR1A(骨形態形成タンパク質受容体1A)、m-カドヘリン、CD9、MuSK(筋特異的キナーゼ)、LGR4/GPR48(Gタンパク質共役受容体48)、コリン作動性受容体(ニコチン性)アルファ1、CDH15(Cadheri-15)、ITGA7(インテグリンアルファ-7)、CACNG1(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-1)、CACNAls(L型カルシウムチャネルサブユニットアルファ-15)、CACNG6(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-6)、SCN1B(ナトリウムチャネルサブユニットベータ-1)、CHRNA1(ACh受容体サブユニットアルファ)、CHRND(ACh受容体サブユニットデルタ)、LRRC14B(ロイシンリッチリピート含有タンパク質14B)、およびPOPDC3(Popeyeドメイン含有タンパク質3)からなる群から選択される、本発明1017から本発明1025のうちのいずれかの方法。
[本発明1027]
前記膜タンパク質がCD63である、本発明1017から本発明1026のうちのいずれかの方法。
[本発明1028]
前記膜タンパク質がAPLP2である、本発明1017から本発明1026のうちのいずれかの方法。
[本発明1029]
前記抗原結合タンパク質が、抗体、抗体断片、または他の抗原結合タンパク質である、本発明1017から本発明1028のうちのいずれかの方法。
[本発明1030]
前記抗原結合タンパク質が、前記酵素と前記膜タンパク質とに結合する二重特異性抗体である、本発明1029の方法。
[本発明1031]
前記酵素がイムノグロブリンのFcドメインに連結しており、前記抗原結合タンパク質が半抗体を含む、本発明1017から本発明1029のうちのいずれかの方法。
[本発明1032]
前記酵素が、抗膜タンパク質抗体の前記重鎖のC末端に共有結合している、本発明1017から本発明1029のうちのいずれかの方法。
[本発明1033]
前記酵素が、抗膜タンパク質抗体の前記重鎖のN末端に共有結合している、本発明1017から本発明1029のうちのいずれかの方法。
[本発明1034]
前記酵素がGLAを含み、前記膜タンパク質がCD63であり、および前記LSDがファブリー病である、本発明1030の方法。
[本発明1035]
前記酵素がGAAを含み、前記膜タンパク質がCD63であり、および前記LSDがポンペ病である、本発明1030の方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、生物学的治療用複合体を概略的に示す図である。パネルAは、二重特異性抗体(ii)と補充酵素(i)とを含む生物学的治療用複合体を示す。パネルBは、内部移行エフェクター特異的ハーフボディ(ii)と結合して、生物学的治療用複合体を形成している酵素-Fc融合ポリペプチド(i)を示す。パネルCは、抗内部移行エフェクター抗体の重鎖のC末端に共有結合した補充酵素(六角形)を示す。パネルDは、抗内部移行エフェクター抗体の重鎖のN末端に共有結合した補充酵素(六角形)を示す。パネルEは、抗内部移行エフェクター抗体の軽鎖のC末端に共有結合した補充酵素(六角形)を示す。パネルFは、抗内部移行エフェクター抗体の軽鎖のN末端に共有結合した補充酵素(六角形)を示す。パネルC、パネルD、パネルE、およびパネルFにおける曲線はリンカーを表す。
図2図2は、内部移行エフェクター結合タンパク質(IE-BP)またはリソソーム蓄積症補充タンパク質(LSD-RP)を発現するCHO細胞上清の抗hFc非還元ウェスタンブロットを示す図である。レーン1には抗CD63 IgG4をロードし、レーン2にはGAA-Fcノブをロードし、レーン3には抗CD63 IgG4 GAAをロードし、レーン4にはGAA抗CD63 IgG4をロードした。
図3図3は、蛍光基質(4-メチルウンベリフェリル-α-グルコシド)を用いて算出されたおおよそのGAA活性を表す棒グラフである。パネルAとパネルBのY軸は、タンパク質1モル当たりの毎時加水分解された基質のモル数である。X軸には、GAA融合タンパク質の各々を列挙している。
図4図4は、HEK細胞によって内部移行されたGAA構築物のおおよそのGAA活性を表す折れ線グラフである。パネルAおよびパネルBのY軸は、細胞可溶化物1mg当たりの毎時加水分解された基質のナノモル数を示す。X軸は、GAA構築物の漸増濃度を示す。パネルAの正方形(■)は、5mMのマンノース6-リン酸(M6P)(MPR媒介リソソーム標的の競合物)の存在下でHEK細胞に投与された抗CD63-GAAに相当し、丸(D)は、HEK細胞に単独で投与された抗CD63-GAAに相当する。パネルBの丸(D)は、HEK細胞に投与された抗CD63-GAAに相当し、正方形(■)は、HEK細胞に投与された、CD63に結合しない抗CD63-GAAの変異体に相当し、三角(▲)は、CD63を発現しないA CD63 HEK細胞に投与された抗CD63-GAAに相当する。
図5図5は、ヒト筋芽細胞(パネルA)またはマウス筋芽細胞(パネルB)によって内部移行された、GAA構築物のおおよそのGAA活性を表す折れ線グラフである。パネルAおよびパネルBのY軸は、細胞可溶化物1mg当たりの毎時加水分解された基質のナノモル数を示す。X軸は、M6Pの存在下または非存在下におけるGAA構築物(抗CD63-GAAまたはmycGAAのいずれか)の漸増濃度を示す。
図6図6は、GAA野生型の新生児ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)と比較した、3つのポンペ細胞株(GM20089、GM20090、およびGM20091)のGAAレベル(パネルA)およびグリコーゲン含有量(パネルB)を示す図である。パネルAは、ポンペ細胞株における残留GAAタンパク質と、NHDFにおけるGAAタンパク質の野生型レベルとを示す抗hGAAウェスタンブロットである。パネルBは、細胞質内グリコーゲンを低減させるグルコース飢餓後のグリコーゲン含有量を、100万個の細胞当たりのマイクログラムとして示す棒グラフである。
図7図7は、ポンペ細胞株GM20089(パネルA)、GM20090(パネルB)、およびGM20091(パネルC)のグリコーゲン蓄積異常を、200nMの抗CD63-GAAまたは200nMのmyc-GAAによって救済した結果を棒グラフの形態で示す。Y軸は、1ミリグラムの細胞可溶化物当たりのグリコーゲン含有量をマイクログラム数で表す。
図8図8は、抗CD63-GLA(レーン1)、GLA-Fcノブ(レーン2)、GLA-抗CD63(レーン3)、抗mycノブ(レーン4)、抗CD63ホール(レーン5)を含有するCHO細胞抽出物上清、ならびに抗mycノブおよび抗CD63ホールを含有する上清の混合物(レーン6)の抗hFc非還元ウェスタンブロットを示す。
図9図9は、GLA含有融合タンパク質のGLA酵素活性(Y軸は融合タンパク質1ナノモル当たりの毎時加水分解された基質のナノモル数)を棒グラフの形態で示し、X軸の左から右に、抗CD63-GLA(重鎖C末端構築物)、GLA-Fc、GLA-抗CD63(重鎖N末端構築物)、GLA-myc-FLAG、およびGLA 6-hisを挙げている。
図10図10は、HEK細胞によって内部移行されたGLA構築物を含有するHEK細胞の抽出物に見られる、おおよそのGLA活性を表す折れ線グラフである。Y軸は、GLA活性を、細胞可溶化物1ミリグラム当たりの毎時加水分解された基質のナノモル数で示す。X軸は、GAA構築物の漸増濃度を示す。最上部の線はGLA-抗CD63に相当し、中間の線はGLA-myc+抗myc/抗CD63二重特異性抗体に相当し、最下部の線はGLA-mycに相当する。
図11図11は、pHrodoタグ付きタンパク質が、HEK細胞(パネルA)、PC-3細胞(パネルB)、およびHepG2細胞(パネル3)の低pH分画(すなわち、リソソーム分画)に取り込まれる量を表す折れ線グラフである。丸(D)はpHrodoタグ付き抗CD63抗体に相当し、正方形(■)はpHrodoタグ付き抗APLP2抗体に相当し、三角(▲)はpHrodoタグ付きGLAに相当する。
図12図12は、内部移行された抗CD63-GAAを含有する細胞可溶化物の還元ウェスタンブロットを示す。各レーンは、タンパク質内部移行後、所定の日数で作製された細胞抽出物に相当する。パネルAは、抗GAA抗体でプローブされたウェスタンブロットである。150kDaの抗CD63-GAAは、マーカー(←a)の場所で観察されている。リソソーム内のGAAの76kDa活性形態は、マーカー(←b)の場所で観察されている。パネルBは、抗hIgG抗体でプローブされたウェスタンブロットである。150kDaの抗CD63-GAAは、マーカー(c→)の場所で観察されている。抗体重鎖(50kDa)は、マーカー(d→)の場所で観察されている。抗体軽鎖(23kDa)は、マーカー(e→)の場所で観察されている。
図13図13は、抗hGAA抗体のウェスタンブロットを示す図である。76kDaのバンドは、成熟GAAに相当する。レーン1には抗CD63-GAAを付与されたヒト化CD63マウスからの肝臓抽出物が含まれ、レーン2には腎臓、レーン3には心臓、レーン4には腓腹筋、レーン5には四頭筋、レーン6には横隔膜の抽出物が含まれる。
図14図14は、抗hCD63-GAAを50mg/kgで付与されてから24時間後の野生型(+/+)マウスおよびヒト化CD63(hu/hu)マウスからの組織抽出物の抗hGAA抗体ウェスタンブロットを示す。リソソーム内のGAAの76kDa活性形態が観察されている。レーン1およびレーン2は、それぞれ、野生型マウスおよびヒト化マウスからの心臓抽出物に相当する。レーン3およびレーン4は、野生型マウスおよびヒト化マウスからの腓腹筋抽出物に相当する。レーン5およびレーン6は、野生型マウスおよびヒト化マウスからの横隔膜抽出物に相当する。
図15図15は、腓腹筋、四頭筋、横隔膜、心臓、肝臓、腎臓、および脾臓に存在する、抗インテグリンアルファ7抗体、抗CD9抗体、および抗ジストログリカン抗体の相対量であって、肝臓に存在するレベルに標準化された相対量を示すヒストグラムである。
図16図16は、pHrodoタグ付き抗体のリソソーム標的指向化を表すヒストグラムである。Y軸は標準化された小胞の蛍光量を表す。X軸は、各抗体を示し、左から右に、抗myc、抗CD63、抗ジストログリカン、抗M-カドヘリン、抗CD9、および抗インテグリンアルファ7を示す。
図17図17は、組織1ミリグラム当たりのグリコーゲンをマイクログラム数で表したグリコーゲンレベルを示すドットプロットである。組織を、X軸の左から右に、心臓、四頭筋、腓腹筋、横隔膜、および三頭筋として示している。丸(●)は未処置のGAAノックアウト(KO)マウスにおけるグリコーゲンレベルを示し、正方形(■)は抗mCD63-GAAで処置したGAA KOマウスにおけるグリコーゲンレベルを示し、上向き三角(▲)はhGAAで処置したGAA KOマウスにおけるグリコーゲンレベルを示し、下向き三角(▼)は未処置の野生型マウスにおけるグリコーゲンレベルを示す。処置剤は、DNA構築物の流体力学的送達によって投与された。
図18図18は、組織1ミリグラム当たりのグリコーゲンをマイクログラム数で表したグリコーゲンレベルを示すドットプロットである。組織を、X軸の左から右に、心臓、四頭筋、腓腹筋、横隔膜、および三頭筋として示している。丸(●)は未処置のGAAノックアウト(KO)マウスにおけるグリコーゲンレベルを示し、正方形(■)は抗mCD63-GAAで処置したGAA KOマウスにおけるグリコーゲンレベルを示し、上向き三角(▲)は抗hCD63-GAAで処置したGAA KOマウスにおけるグリコーゲンレベルを示し、下向き三角(▼)は未処置の野生型マウスにおけるグリコーゲンレベルを示す。処置剤は、DNA構築物の流体力学的送達によって投与された。
図19図19は、抗myc抗体、天然リソソーム酸性リパーゼ(LIPA)、抗myc-LIPA融合タンパク質(重鎖C末端融合)、およびLIPA-抗myc(重鎖N末端融合)によって毎時加水分解された基質(4-メチルウンベリフェリルオレアート)をナノモル数として表した(Y軸)、リパーゼ活性を示すヒストグラムである。
図20図20は、組織1ミリグラム当たりのグリコーゲンをマイクログラム数で表したグリコーゲンレベルを示すドットプロットである。組織を、X軸の左から右に、心臓、三頭筋、四頭筋、腓腹筋、および横隔膜として示している。丸(●)は未処置のGAAノックアウト(KO)マウスにおけるグリコーゲンレベルを示し、正方形(■)は抗mCD63-GAAで処置したGAA KOマウスにおけるグリコーゲンレベルを示し、上向き三角(▲)は抗hCD63-GAAで処置したGAA KOマウスにおけるグリコーゲンレベルを示し、下向き三角(▼)は未処置の野生型マウスにおけるグリコーゲンレベルを示す。処置剤は、DNA構築物の流体力学的送達(HDD)によって投与された。
【発明を実施するための形態】
【0025】
説明
本発明は、記載された特定の実施形態、組成物、方法、および実験条件に限定されるものではないが、それはこうした実施形態、組成物、方法、および条件が異なる場合があるからである。本発明の範囲が添付の特許請求の範囲のみによって限定されるものである以上、本明細書に使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のためだけのものであり、限定することを意図するものではない。
【0026】
本明細書に記載した方法および材料と類似または同等の任意の方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができるが、一部の好ましい方法および材料をこれから記述する。本明細書で引用された全ての出版物は、その記述全体が参照により本明細書に組み込まれる。別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。
【0027】
「リソソーム蓄積症」は、リソソームの機能不全により生じる任意の障害を含む。現在おおよそ50種の障害が確認されており、その中で最もよく知られているものとして、テイ・サックス病、ゴーシェ病、およびニーマン・ピック病が挙げられる。これらの疾患の病因は、通常、タンパク質機能の喪失に起因して、不完全な分解産物がリソソーム内に蓄積することであると考えられている。リソソーム蓄積症は、正常な機能ではリソソーム含有物を分解するかまたは分解を調整するタンパク質における機能喪失または減弱バリアントによって引き起こされる。リソソーム蓄積症と密接に関連するタンパク質として、酵素、受容体および他の膜貫通タンパク質(例えば、NPC1)、翻訳後修飾タンパク質(例えば、スルファターゼ)、膜輸送タンパク質、ならびに非酵素的補助因子および他の可溶性タンパク質(例えば、GM2ガングリオシド活性化因子)が挙げられる。リソソーム蓄積症には、欠損酵素それ自体によって引き起こされる前述の障害が包含されるだけでなく、任意の分子欠損によって引き起こされる任意の障害も含まれる。したがって、本明細書で使用される場合、用語「酵素」は、リソソーム蓄積症に関連する前述の他のタンパク質を包含することが意図される。
【0028】
分子的損傷の性質が疾患の重症度に影響を及ぼすことが多く、換言すれば、完全な機能喪失は、胎児または新生児の発症に関連する傾向にあり重度の症状に関与するが、部分的な機能喪失は、(比較的)軽度の遅発型疾患に関連している。一般的に、欠損細胞における代謝障害を治すために、回復させる必要があるのは、活性のごくわずかな割合のみである。表1には、よく見られるリソソーム蓄積症の一部と、それらに関連する機能喪失タンパク質の一覧を示す。リソソーム蓄積症は、概してDesnick and Schuchman,2012に記載されている。
【0029】
リソソーム蓄積症は、欠陥のあるリソソーム内に蓄積する産物の種類によって分類され得る。スフィンゴリピドーシスは、脂肪族アミノアルコールに結合した脂肪酸を含む脂質であるスフィンゴ脂質の代謝に影響を及ぼす疾患の一つである(S.Hakomori,“Glycosphingolipids in Cellular Interaction,Differentiation,and Oncogenesis,”50 Annual Review of Biochemistry 733-764,July 1981に概説されている)。スフィンゴリピドーシスの蓄積産物として、ガングリオシド(例えば、テイ・サックス病)、糖脂質(例えば、ファブリー病)、およびグルコセレブロシド(例えば、ゴーシェ病)が挙げられる。
【0030】
ムコ多糖症は、グリコサミノグリカン(GAGSまたはムコ多糖類)の代謝に影響を及ぼす疾患の一群であり、このグリコサミノグリカンは、骨、軟骨、腱、角膜、皮膚、および結合組織の形成に役立つ二糖の反復構造を持つ非分岐長鎖である(J.Muenzer,“Early initiation of enzyme replacement therapy for the mucopolysaccharidoses,”111(2)Mol.Genet.Metab.63-72(Feb.2014);Sasisekharan et al.,“Glycomics approach to structure-function relationships of glycosaminoglycans,”8(1)Ann.Rev.Biomed.Eng.181-231(Dec.2014)に概説されている)。ムコ多糖症の蓄積産物として、ヘパリン硫酸、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸、コンドロイチン硫酸の種々の形態、およびヒアルロン酸が挙げられる。例えば、モルキオ症候群Aは、リソソーム酵素のガラクトース-6-硫酸スルファターゼの欠損により生じ、リソソーム内のケラチン硫酸およびコンドロイチン6-硫酸の蓄積をもたらす。
【0031】
グリコーゲン蓄積症(別名、糖原病)は、細胞がグリコーゲンを代謝(生成または分解)することができないことに起因する。グリコーゲン代謝は、グルコース-6-ホスファターゼ、酸性アルファグルコシダーゼ、グリコーゲン脱分枝酵素、グリコーゲン分枝酵素、筋グリコーゲンホスホリラーゼ、肝グリコーゲンホスホリラーゼ、筋ホスホフルクトキナーゼ、ホスホリラーゼキナーゼ、グルコーストランスポーター、アルドラーゼA、ベータエノラーゼ、およびグリコーゲンシンターゼ含めた種々の酵素または他のタンパク質により調整される。典型的なリソソーム蓄積/グリコーゲン蓄積症はポンペ病であり、ポンペ病では、欠陥酸性アルファグルコシダーゼによりグリコーゲンがリソソーム内に蓄積されることになる。症状として、肝腫大、筋力低下、心不全、また乳児バリアントの場合には、2歳までの死亡が挙げられる(DiMauro and Spiegel,“Progress and problems in muscle glycogenosis,”30(2)Acta Myol.96-102(Oct.2011)を参照)。
【0032】
「生物学的治療用複合体」は、(i)2つ以上の機能ドメインを含む単一タンパク質、(ii)2つ以上のポリペプチド鎖を含むタンパク質、および(iii)2つ以上のタンパク質または2つ以上のポリペプチドの混合物を含む。ポリペプチドという用語は、通例、ペプチド結合により結合している一本鎖アミノ酸を意味するものである。タンパク質という用語は、ポリペプチドという用語を包含するだけでなく、さらに複雑な構造をも含む。すなわち、単一ポリペプチドはタンパク質であり、タンパク質は、高次構造に結合した1つ以上のポリペプチドを含むことができる。例えば、ヘモグロビンは、4つのポリペプチド(2つのアルファグロビンポリペプチドおよび2つのベータグロビンポリペプチド)を含むタンパク質である。ミオグロビンもタンパク質であるが、これは単一のミオグロビンポリペプチドのみを含むものである。
【0033】
生物学的治療用複合体は1つ以上のポリペプチドと、少なくとも2つの機能を含む。これらの機能のうちの一方は、リソソーム蓄積症に関連した欠陥タンパク質の活性を補充することである。これらの機能のうちの他方は、内部移行エフェクターへの結合である。したがって、リソソームタンパク質活性(例えば、酵素活性またはトランスポーター活性、別名、リソソーム病関連タンパク質(LSD-RP)活性)と、内部移行エフェクターに結合する能力(別名、内部移行エフェクター結合タンパク質(IE-BP)活性)とを付与する単一ポリペプチドは、生物学的治療用複合体である。また、一方のタンパク質がリソソームタンパク質機能を有し、別のタンパク質が内部移行エフェクター結合活性を有するタンパク質の混合物も生物学的治療用複合体である。図1は、生物学的治療用複合体の様々な例を示す。一例(図1、パネルA)では、生物学的治療用複合体は、リソソーム補充タンパク質(六角形により示されるLSD-RP)と、リソソーム補充タンパク質に結合する(破線)および内部移行エフェクターに結合する(実線)二重特異性抗体(IE-BP)とを含む。ここで、二重特異性抗体の一方アームはLSD-RPに非共有結合し、他方のアームは内部移行エフェクターに非共有結合し、その結果、補充タンパク質(LSD-RP)がリソソーム内に内部移行できるようになる。別の例(パネルB)では、生物学的治療用複合体は、2つのポリペプチド(一方のポリペプチドはLSD-RP機能を有し、他方はIE-BP機能を有する)を含む単一タンパク質を含む。ここで、LSD-RPはイムノグロブリンFcドメインまたは重鎖定常領域に融合され、これが、LSD-RP半抗体のFcドメインと結合し、二機能性生物学的治療用複合体を形成する。パネルBに示した実施形態は、LSD-RPが、半抗体のイムノグロブリン可変ドメインでの抗原抗体相互作用を介するのではなく半抗体の一方に共有結合で結合していることを除いて、パネルAの実施形態と類似している。
【0034】
他の例では、生物学的治療用複合体は、IE-BPに(直接的に、またはリンカーを介して間接的に)共有結合したLSD-RPからなる。一実施形態では、LSD-RPは、イムノグロブリン分子のC末端(例えば、重鎖または軽鎖)に結合されている。別の実施形態では、LSD-RPは、イムノグロブリン分子のN末端(例えば、重鎖または軽鎖)に結合されている。これらの例では、イムノグロブリン分子はIE-BPである。
【0035】
「リソソーム蓄積症関連タンパク質」または「LSD-RP」は、リソソーム蓄積症の病因または生理作用に関連した任意のタンパク質を意味する。LSD-RPには、実在の酵素、輸送タンパク質、受容体か、または、欠陥があり、かつ疾患の原因となった分子的損傷があると考えられる他のタンパク質が含まれる。LSD-RPにはまた、疾患の分子的損傷を補充もしくは回避する類似または十分な生化学的または生理学的活性を付与することができる任意のタンパク質も含まれる。例えば、「アイソザイム」はLSD-RPとして用いられ得る。リソソーム蓄積症関連タンパク質の例として、表1の「関与酵素/タンパク質」に列挙されたもの、およびリソソーム蓄積症の分子欠損を回避する任意の既知のタンパク質もしくは最近発見されたタンパク質または他の分子が挙げられる。
【0036】
分子欠損がα-グルコシダーゼ活性における欠損であるポンペ病の場合には、LSD-RPとして、ヒトアルファ-グルコシダーゼ、および「アイソザイム」が挙げられ、アイソザイムの例として、他のアルファ-グルコシダーゼ類、改変組換えアルファ-グルコシダーゼ、他のグルコシダーゼ類、組換えグルコシダーゼ類、非還元末端1-4結合アルファ-グルコース残基を加水分解して単一アルファグルコース分子を放出するように改変された任意のタンパク質、任意のEC 3.2.1.20酵素、グリコーゲンまたはデンプン用の天然または組換え低pH糖質加水分解酵素、およびグルコシル加水分解酵素(例えば、スクラーゼ・イソマルターゼ、マルターゼ・グルコアミラーゼ、グルコシダーゼII、および中性アルファ-グルコシダーゼ)などがある。
【0037】
「内部移行エフェクター」は、細胞へ内部移行され得るタンパク質か、または逆行性膜輸送に関与もしくは寄与するタンパク質を含む。いくつかの例において、内部移行エフェクターは経細胞輸送を経るタンパク質である;すなわち、該タンパク質は細胞の一方の側で内部移行されて、細胞の他方の側へ(例えば、頂端から基底へ)輸送されるものである。多くの実施形態において、内部移行エフェクタータンパク質は細胞表面発現タンパク質または可溶性細胞外タンパク質である。一方で、本発明はまた、内部移行エフェクタータンパク質がエンドソーム、小胞体、Golgi、リソソームなどの細胞内区画内で発現する実施形態についても考慮する。例えば、逆行性膜輸送(例えば、初期/リサイクリングエンドソームからトランス-Golgiネットワークへの経路)に関与するタンパク質は、本発明の種々の実施形態において、内部移行エフェクタータンパク質として作用してもよい。いずれの場合も、IE-BPが内部移行エフェクタータンパク質に結合することによって、生物学的治療用複合体全体およびそれらに関連する任意の分子(例えば、LSD-RP)も、細胞内へ内部移行されるようになる。以下で説明する通り、内部移行エフェクタータンパク質は、細胞へ直接内部移行されるタンパク質、および細胞へ間接的に内部移行されるタンパク質を含む。
【0038】
細胞へ直接内部移行される内部移行エフェクタータンパク質は、細胞の内部移行を起こす、少なくとも1つの細胞外ドメイン(例えば、膜貫通タンパク質、GPIアンカータンパク質など)を有する膜結合性分子を含み、好ましくは細胞内分解経路および/またはリサイクリング経路を介してプロセシングされる。細胞へ直接内部移行される内部移行エフェクタータンパク質の特定の非限定例として、例えば、CD63、MHC-I(例えば、HLA-B27)、Kremen-1、Kremen-2、LRP5、LRP6、LRP8、トランスフェリン受容体、LDL-受容体、LDL関連タンパク質1受容体、ASGR1、ASGR2、アミロイド前駆体タンパク質様タンパク質-2(APLP2)、アペリン受容体(APLNR)、MAL(Myelin And Lymphocyteタンパク質、別名VIP17)、IGF2R、液胞型H+ATPアーゼ、ジフテリア毒素受容体、葉酸受容体、グルタミン酸受容体、グルタチオン受容体、レプチン受容体、およびスカベンジャー受容体(例えば、SCARA1-5、SCARB1-3、CD36)などが挙げられる。
【0039】
特定の実施形態において、内部移行エフェクターはプロラクチン受容体(PRLR)である。PRLRは、特定の治療用途の標的になるだけでなく、その高速の内部移行および代謝回転によって有効な内部移行エフェクタータンパク質でもあることが見出された。内部移行エフェクタータンパク質としてのPRLRの可能性は、例えば、国際公開第2015/026907号に記載されており、とりわけ抗PRLR抗体がインビトロにてPRLR発現細胞により効果的に内部移行されることが示されている。
【0040】
特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、腎臓特異的インターナライザーであり、例えば、CDH16(Cadheri-16)、CLDN16(Claudn-16)、KL(Klotho)、PTH1R(副甲状腺ホルモン受容体)、SLC22A13(溶質輸送体ファミリー22メンバー13)、SLC5A2(ナトリウム/グルコース共輸送体2)、およびUMOD(ウロモジュリン)などである。他の特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、筋特異的インターナライザーであり、例えば、BMPR1A(骨形態形成タンパク質受容体1A)、m-カドヘリン、CD9、MuSK(筋特異的キナーゼ)、LGR4/GPR48(Gタンパク質共役受容体48)、コリン作動性受容体(ニコチン性)アルファ1、CDH15(Cadheri-15)、ITGA7(インテグリンアルファ-7)、CACNG1(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-1)、CACNAlS(L型カルシウムチャネルサブユニットアルファ-15)、CACNG6(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-6)、SCN1B(ナトリウムチャネルサブユニットベータ-1)、CHRNA1(ACh受容体サブユニットアルファ)、CHRND(ACh受容体サブユニットデルタ)、LRRC14B(ロイシンリッチリピート含有タンパク質14B)、およびPOPDC3(Popeyeドメイン含有タンパク質3)などである。一部の特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、ITGA7、CD9、CD63、ALPL2、またはPPRLRである。
【0041】
内部移行エフェクター(IE)を細胞に直接内部移行する実施形態において、IE-BPは、例えば、IEと特異的に結合する抗体もしくは抗体の抗原結合断片、またはIEと特異的に相互作用するリガンドもしくはリガンドの一部であり得る。例えば、IEがKremen-1またはKremen-2である場合、IE-BPは、Kremenリガンド(例えば、DKK1)もしくはそのKremen結合部分を含んでいてもよいか、またはそれからなっていてもよい。別の例として、IEがASGR1などの受容体分子である場合、IE-BPは、受容体(例えば、アシアロオロソムコイド[ASOR]またはベータ-Ga1NAc)またはその受容体結合部分に特異的なリガンドを含んでいてもよいか、またはそれからなっていてもよい。
【0042】
細胞へ間接的に内部移行される内部移行エフェクタータンパク質は、それら自身では内部移行しないが、細胞へ直接内部移行される第2タンパク質またはポリペプチドと結合または他の方法で結びついた後に細胞へ内部移行される、タンパク質およびポリペプチドを含む。細胞へ間接的に内部移行されるタンパク質は、例えば、内部移行細胞表面発現受容体分子と結合することができる可溶性リガンドを含む。内部移行細胞表面発現受容体分子とのその相互作用を介して細胞へ(間接的に)内部移行する、可溶性リガンドの非限定的な例としては、トランスフェリンが挙げられる。IEがトランスフェリン(または別の間接的に内部移行されるタンパク質)である実施形態において、IE-BPとIEとの結合、およびIEとトランスフェリン受容体(または別の内部移行細胞表面発現受容体分子)との相互作用により、IE-BP全体およびそれと関連する任意の分子(例えば、LSD-RP)が細胞へ内部移行されるようになり、同時にIEとその結合パートナーの内部移行を伴う。
【0043】
IEを細胞に間接的に内部移行する実施形態において、IE-BPは、例えば、IEと特異的に結合する抗体もしくは抗体の抗原結合断片、または可溶性エフェクタータンパク質と特異的に相互作用する受容体もしくは受容体の一部であり得る。例えば、IEがサイトカインである場合、IE-BPは対応するサイトカイン受容体またはそのリガンド結合部分を含んでいてもよいか、またはそれからなっていてもよい。
【0044】
IEの典型例は、細胞膜を4回貫通する細胞表面タンパク質のテトラスパニンスーパーファミリーのメンバーであるCD63である。CD63は、実質的に全ての組織で発現し、シグナル伝達複合体の形成および安定化に関与していると考えられている。CD63は、細胞膜、リソソーム膜、および後期エンドソーム膜に局在化している。CD63はインテグリンと結合することが知られており、また上皮間葉転移に関与している可能性がある。H.Maecker et al.,“The tetraspanin superfamily:molecular facilitators,”11(6)FASEB J.428-42,May 1997;and M.Metzelaar et al.,“CD63 antigen.A novel lysosomal membrane glycoprotein,cloned by a screening procedure for intracellular antigens in eukaryotic cells,”266 J.Biol.Chem.3239-3245,1991を参照されたい。
【0045】
IEの別の典型例は、アミロイドベータ(A4)前駆体様タンパク質2(「APLP2」)であり、これはAPP(アミロイド前駆体タンパク質)ファミリーの遍在発現メンバーである。APLP2は、主要組織適合複合体(MHC)クラスI分子(例えば、Kd)と相互作用することが知られている膜結合タンパク質である。このタンパク質は細胞表面でKdに結合し、クラスリン依存的にKdと共に内部移行される。Tuli et al.,“Mechanism for amyloid precursor-like protein 2 enhancement of major histocompatibility complex class I molecule degradation,”284 The Journal of Biological Chemistry 34296 -34307(2009)を参照されたい。
【0046】
IEの別の典型例は、プロラクチン受容体(PRLR)である。プロラクチン受容体は、I型サイトカイン受容体ファミリーのメンバーであり、リガンドが結合しそれに続いて二量体化されると、「チロシンキナーゼのJak2、Fyn、およびTec、ホスファターゼSHP-2、グアニンヌクレオチド交換因子Vav、ならびにシグナル伝達抑制因子SOCS」を活性化する(Clevenger and Kline,“Prolactin receptor signal transduction,”10(10)Lupus 706-18(2001),摘要を参照)。プロラクチン受容体は、エンドサイトーシスリサイクリングを経て、リソソーム分画内で見出され得る。Genty et al.,“Endocytosis and degradation of prolactin and its receptor in Chinese hamster ovary cells stably transfected with prolactin receptor cDNA,”99(2)Mol.Cell Endocrinol.221-8(1994);and Ferland et al.,“The effect of chloroquine on lysosomal prolactin receptors in rat liver,”115(5)Endocrinology 1842-9(1984)を参照されたい。
【0047】
「免疫反応」は、本明細書で使用される場合、通例、外部または「非自己」タンパク質に対する患者の免疫学的応答を意味するものである。免疫学的応答は、アレルギー反応、および補充酵素の有効性を妨げる抗体の発生を含む。一部の患者は、非機能性タンパク質のいずれをも産生することはなく、したがって補充酵素を「異種」タンパク質にする場合がある。例えば、GLAが欠乏しているファブリー病患者への組換えGLA(rGLA)の反復注射は、アレルギー反応を引き起こすことが多い。他の患者では、rGLAに対する抗体の産生によって、疾患の治療において補充酵素の有効性が低減することが示されている。例えば、Tajima et al.(“Use of a Modified α-N-Acetylgalactosaminidase(NAGA)in the Development of Enzyme Replacement Therapy for Fabry Disease,”85(5)Am.J.Hum.Genet.569-580(2009))を参照されたい。この文献は、修飾NAGAを「アイソザイム」として使用して、GLA補充することについて論じている。修飾NAGAは、GLAとの免疫学的交差反応性を有さず、「組換えGLAで繰り返し治療を受けているファブリー病患者由来の血清に対して反応しなかった」(同上文献の摘要)。
【0048】
用語「タンパク質」は、アミド結合を介して共有結合している約20個を超えるアミノ酸を有する任意のアミノ酸ポリマーを意味する。タンパク質は、一般に当該技術分野で「ポリペプチド」として知られる1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。したがって、ポリペプチドはタンパク質であってもよく、タンパク質は複数のポリペプチドを含有して、単一機能性生体分子を形成してもよい。ジスルフィド架橋(すなわち、システイン残基間で架橋してシスチンを形成)が一部のタンパク質に含まれてもよい。これらの共有結合は、単一ポリペプチド鎖内にあっても、2つの個々のポリペプチド鎖間にあってもよい。例えば、ジスルフィド架橋は、インスリン、イムノグロブリン類、およびプロタミンなどの適切な構造と機能とに不可欠である。ジスルフィド結合形成の最近の総説として、Oka and Bulleid,“Forming disulfides in the endoplasmic reticulum,”1833(11)Biochim Biophys Acta 2425-9(2013)を参照されたい。
【0049】
ジスルフィド結合形成に加えて、タンパク質は、他の翻訳後修飾を受ける場合がある。これらの修飾として、脂質修飾(例えば、ミリストイル化、パルミトイル化、ファルネシル化、ゲラニルゲラニル化、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー形成)、アルキル化(例えば、メチル化)、アシル化、アミド化、グリコシル化(例えば、アルギニン、アスパラギン、システイン、ヒドロキシリジン、セリン、トレオニン、チロシン、および/またはトリプトファンにおけるグリコシル基の付加)、およびリン酸化(すなわち、セリン、トレオニン、チロシン、および/またはヒスチジンへのリン酸基の付加)が挙げられる。真核生物で産生されるタンパク質の翻訳後修飾に関する最近の総説として、Mowen and David,“Unconventional post-translational modifications in immunological signaling,”15(6)Nat Immunol 512-20(2014);およびBlixt and Westerlind,“Arraying the post-translational glycoproteome(PTG),”18 Curr Opin Chem Biol.62-9(2014)を参照されたい。
【0050】
イムノグロブリンは、複数のポリペプチド鎖と広範な翻訳後修飾とを有するタンパク質である。標準のイムノグロブリンタンパク質(例えば、IgG)は、4つのポリペプチド鎖(2つの軽鎖および2つの重鎖)を含む。各軽鎖は1つの重鎖にシスチンジスルフィド結合を介して結合し、2つの重鎖は2つのシスチンジスルフィド結合を介して相互に結合している。哺乳類系で産生されるイムノグロブリンはまた、種々の残基(例えばアスパラギン残基)で種々の多糖類によりグリコシル化され、種と種の間で異なる可能性があり、治療用抗体に対する抗原性に影響を及ぼし得る(Butler and Spearman,“The choice of mammalian cell host and possibilities for glycosylation engineering”,30 Curr Opin Biotech 107-112(2014)を参照)。
【0051】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」には、生物学的治療用タンパク質、研究または治療法において使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質および他のFc-融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、二重特異性抗体、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ならびにペプチドホルモンなどが含まれる。タンパク質は、組換え細胞系産生システム、例えば、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えばピキア属の種)、哺乳類系(例えば、CHO細胞、およびCHO-K1細胞などのCHO派生物)を用いて産生されてもよい。生物学的治療用タンパク質とその産生について論じている最近の総説として、Ghaderi et al.,“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,”28 Biotechnol Genet Eng Rev.147-75(2012)を参照されたい。
【0052】
用語「抗体」には、本明細書で使用される場合、4つのポリペプチド鎖(ジスルフィド結合によって相互接続した2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖)を含む、イムノグロブリン分子が包含される。各重鎖は、重鎖可変領域(本発明においてHCVRまたはVHと省略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本発明においてLCVRまたはVLと省略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL)を含む。VH領域およびVL領域はさらに、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分化することができ、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存的な領域に割り込まれている。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRによって構成され、アミノ末端からカルボキシ末端まで、以下の順序で配列される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4(重鎖CDRは、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3として省略されてもよく、軽鎖CDRは、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3として省略されてもよい)。用語「高親和性」抗体は、それらの標的への結合親和性が、表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE(商標))または溶液親和性ELISAで測定した場合に、少なくとも10-9M、少なくとも10-10M、少なくとも10-11M、または少なくとも10-12Mである抗体を意味する。
【0053】
語句「二重特異性抗体」には、2以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体が含まれる。二重特異性抗体は、通例2つの異なる重鎖を含み、各重鎖は、(2つの異なる分子(例えば、抗原)上にある、または同一分子上(例えば、同一抗原上)にある)別々のエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1のエピトープおよび第2のエピトープ)に選択的に結合することができる場合、第1のエピトープに対する第1の重鎖の親和性は、第2のエピトープに対する第1の重鎖の親和性よりも少なくとも1桁~2桁、または3桁もしくは4桁低いのが一般的であり、その逆の場合もまた同様である。二重特異性抗体により認識されるエピトープは、同一の標的または異なる標的(例えば、同一のタンパク質または異なるタンパク質)にあり得る。二重特異性抗体は、例えば、同一の抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製することができる。例えば、同一の抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合可能であり、こうした配列は、イムノグロブリン軽鎖を発現する細胞内で発現することができる。典型的な二重特異性抗体は、2つの重鎖であって、その各々が3つの重鎖CDR、それに続けて(N末端からC末端方向に)CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを有する該重鎖と、イムノグロブリン軽鎖であって、抗原結合特異性を付与しないが各重鎖と結合可能であるか、または各重鎖と結合可能でありかつ重鎖抗原結合領域が結合するエピトープの1つ以上に結合することができるか、または各重鎖と結合可能でありかつ重鎖の一方もしくは両方をエピトープの一方もしくは両方に結合させることができる該イムノグロブリン軽鎖とを有する。
【0054】
語句「重鎖」または「イムノグロブリン重鎖」には、任意の生物体由来のイムノグロブリン重鎖定常領域配列が含まれ、特別の規定がない限り、重鎖可変ドメインが含まれる。特別の規定がない限り、重鎖可変ドメインには、3つの重鎖CDRと4つのFR領域とが含まれる。重鎖の断片には、CDRと、CDRおよびFRと、それらの組み合わせとが含まれる。典型的な重鎖は、可変ドメインに続いて(N末端からC末端方向に)、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを有する。重鎖の機能性断片には、抗原を特異的に認識する(例えば、抗原をマイクロモル濃度、ナノモル濃度、またはピコモル濃度範囲のKDで認識する)ことができ、発現できかつ細胞から分泌可能であり、少なくとも1つのCDRを含む断片が含まれる。
【0055】
語句「軽鎖」には、任意の生物体由来のイムノグロブリン軽鎖定常領域配列が含まれ、特別の規定がない限り、ヒトカッパ軽鎖およびヒトラムダ軽鎖が含まれる。軽鎖可変(VL)ドメインには、特別の規定がない限り、3つの軽鎖CDRと4つのフレームワーク(FR)領域が含まれるのが典型的である。一般に、完全長軽鎖には、アミノ末端からカルボキシル末端の方向に、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を含むVLドメインと、軽鎖定常ドメインとが含まれる。本発明で使用可能な軽鎖には、例えば、抗原結合タンパク質が選択的に結合する第1の抗原と第2の抗原のいずれにも選択的に結合することのない軽鎖が含まれる。適切な軽鎖として、現存する抗体ライブラリー(ウエットライブラリーまたはインシリコ)で最も一般的に用いられる軽鎖をスクリーニングすることにより特定され得る軽鎖が挙げられ、該軽鎖は、抗原結合タンパク質の抗原結合ドメインの親和性および/または選択性を実質的に損なわないものである。また、適切な軽鎖として、抗原結合タンパク質の抗原結合領域が結合するエピトープの一方または両方に結合可能な軽鎖が挙げられる。
【0056】
語句「可変ドメイン」には、次のアミノ酸領域をN末端からC末端の配列に含む(特に明記されない限り)、イムノグロブリン軽鎖または重鎖(所望通りに修飾済)のアミノ酸配列が含まれる:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。「可変ドメイン」には、二重ベータシート構造を有する標準ドメイン(VHまたはVL)にフォールディング可能なアミノ酸配列が含まれ、このベータシートは第1のベータシートと第2のベータシートの残基間がジスルフィド結合により連結されている。
【0057】
語句「相補性決定領域」または用語「CDR」には、生物体のイムノグロブリン遺伝子の核酸配列でコードされるアミノ酸配列が含まれ、該アミノ酸配列は、通常(すなわち、野生型動物では)イムノグロブリン分子(例えば、抗体またはT細胞受容体)の軽鎖または重鎖の可変領域における2つのフレームワーク領域の間に見られる。CDRは、例えば生殖細胞系の配列または再構成配列もしくは非再構成配列によってコードされ、例えば、ナイーヴB細胞もしくは成熟B細胞またはT細胞によってコードされ得る。一部の状況(例えば、CDR3に関して)では、CDRは2つ以上の配列(例えば、生殖細胞系配列)によりコードされることができ、該2つ以上の配列は、隣接していない(例えば、非再構成核酸配列において)が、配列をスプライシングするかまたは連結(例えば、重鎖CDR3を形成するためのV-D-J再構成)した結果として、B細胞核酸配列において隣接するものである。
【0058】
用語「抗体断片」は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を意味する。用語「抗体断片」に包含される結合断片の例として、(i)VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、およびCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結した2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片;(iii)VHドメインとCH1ドメインとからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLドメインとVHドメインとからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.(1989)Nature 241:544-546)、(vi)単離されたCDR、ならびに(vii)Fv断片の2つのドメイン(VLおよびVH)からなり、合成リンカーによって接続されて単一タンパク質鎖を形成し、そこでVL領域とVH領域が一対となって一価分子を形成しているscFvが挙げられる。ダイアボディなどの一本鎖抗体の他の形態も用語「抗体」に包含される(例えば、Holliger et al.(1993)PNAS USA 90:6444-6448;Poljak et al.(1994)Structure 2:1121-1123を参照)。
【0059】
語句「Fc含有タンパク質」には、イムノグロブリンCH2およびCH3領域の少なくとも機能性部分を含む、抗体、二重特異性抗体、イムノアドヘシン、および他の結合タンパク質が含まれる。「機能性部分」は、Fc受容体(例えば、FcyRまたはFcRn、すなわち胎児性Fc受容体)を結合することができる、ならびに/または補体の活性化に関与することができるCH2およびCH3領域を意味する。CH2およびCH3領域が、任意のFc受容体を結合不可能にし、かつ補体の活性化を不可能にする欠失、置換、および/もしくは挿入、または他の修飾を含む場合、CH2およびCH3領域は機能性ではない。
【0060】
Fc含有タンパク質は、イムノグロブリンドメインに修飾部を含むことができ、その修飾部が結合タンパク質の1つ以上のエフェクター機能に影響を及ぼす箇所を含んでいる(例えば、FcyR結合、FcRn結合に影響を及ぼし、したがって半減期および/またはCDC活性に影響を及ぼす修飾部など)。こうした修飾は、以下に限定されないが、イムノグロブリン定常領域のEU番号付けに準拠した次に示す修飾およびそれらの組み合わせを含む:238、239、248、249、250、252、254、255、256、258、265、267、268、269、270、272、276、278、280、283、285、286、289、290、292、293、294、295、296、297、298、301、303、305、307、308、309、311、312、315、318、320、322、324、326、327、328、329、330、331、332、333、334、335、337、338、339、340、342、344、356、358、359、360、361、362、373、375、376、378、380、382、383、384、386、388、389、398、414、416、419、428、430、433、434、435、437、438、および439。
【0061】
例えば、限定のためではないが、結合タンパク質はFc含有タンパク質であり、血清半減期が(記載の修飾を含まない同一のFc含有タンパク質と比較して)改善されており、250位(例えば、EまたはQ)での修飾;250位および428位(例えば、LまたはF)での修飾;252位(例えば、L/Y/F/WまたはT)、254位(例えば、SまたはT)、および256位(例えば、S/R/Q/E/DまたはT)での修飾;または428位および/もしくは433位(例えば、L/R/SI/P/QまたはK)および/もしくは434位(例えば、H/FまたはY)での修飾;または250位および/もしくは428位での修飾;または307位もしくは308位(例えば、308F、V308F)、および434位での修飾を有する。別の例では、修飾は、428L(例えば、M428L)および434S(例えば、N434S)の修飾;428L、2591(例えば、V259I)、および308F(例えば、V308F)の修飾;433K(例えば、H433K)および434(例えば、434Y)の修飾;252、254、および256(例えば、252Y、254T、および256E)の修飾;250Qおよび428Lの修飾(例えば、T250QおよびM428L);307および/または308の修飾(例えば、308Fまたは308P)を含み得る。
【0062】
用語「抗原結合タンパク質」は、本明細書で使用される場合、抗原(細胞特異的抗原および/または本発明の標的抗原)のエピトープを特異的に認識するポリペプチドまたはタンパク質(機能単位で複合体化した1つ以上のポリペプチド)を意味する。抗原結合タンパク質は、多特異性であってもよい。抗原結合タンパク質に関連する用語「多特異性」は、そのタンパク質が同一の抗原または異なる抗原における異なるエピトープを認識することを意味する。本発明の多特異性抗原結合タンパク質は、単一の多機能性ポリペプチドであり得るか、または相互に共有結合的または非共有結合的に結合した2つ以上のポリペプチドの多量体複合体であり得る。用語「抗原結合タンパク質」には、別の機能性分子(例えば、別のペプチドまたはタンパク質)と連結し得るかまたは共発現し得る、本発明の抗体またはその断片が含まれる。例えば、抗体またはその断片は、1つ以上の他の分子実体(タンパク質またはその断片など)に機能的に連結して(例えば、化学的共役、遺伝子融合、または非共有結合的結合などにより)、第2の結合特異性を有する二重特異性または多特異性の抗原結合分子を生成することができる。
【0063】
本明細書で使用される場合、用語「エピトープ」は、多特異性抗原結合ポリペプチドによって認識される抗原の一部分を意味する。単一抗原(抗原ポリペプチドなど)が、2つ以上のエピトープを有していてもよい。エピトープは、構造的または機能的として定義され得る。機能的エピトープは一般に、構造的エピトープのサブセットであり、抗原結合ポリペプチドと抗原間の相互作用の親和性に直接寄与する残基として定義される。エピトープは、高次構造的、すなわち、非直線状アミノ酸で構成されていてもよい。特定の実施形態では、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、またはスルホニル基などの分子の化学的活性表面基である決定基を含んでもよく、特定の実施形態では、特定の3次元構造特性および/または特定の荷電特性を有してもよい。連続アミノ酸から形成されたエピトープは一般に、変性溶媒への露出に際して保持されるのに対して、三次フォールディングにより形成されるエピトープは一般に、変性溶媒での処理に際して損なわれる。
【0064】
用語「ドメイン」は、特定の機能または構造を有するタンパク質またはポリペプチドの任意の部分を意味する。好ましくは、本発明のドメインは細胞特異的抗原または標的抗原に結合する。本明細書で使用される場合、細胞特異的抗原ドメインまたは標的抗原結合ドメインなどには、天然に存在するか、酵素的に入手可能であるか、合成か、または遺伝子操作されている任意のポリペプチドまたは糖タンパク質であって、抗原に特異的に結合する該ポリペプチドまたは糖タンパク質が含まれる。
【0065】
用語「ハーフボディ」または「半抗体」は、交換可能に用いられ、基本的に1つの重鎖と1つの軽鎖とを含む抗体の半分を意味する。抗体重鎖は二量体を形成することができ、したがって1つのハーフボディの重鎖は、異なる分子(例えば、別のハーフボディ)または別のFc含有ポリペプチドと結合している重鎖と結合することができる。2つのわずかに異なるFcドメインは、二重特異性抗体、または他のヘテロ二量体、ヘテロ三量体、およびヘテロ四量体などの形成に見られるのと同様に、ヘテロ二量体化し得る。Vincent and Murini,“Current strategies in antibody engineering:Fc engineering and pH-dependent antigen binding,bispecific antibodies and antibody drug conjugates,”7 Biotechnol.J.1444-1450(20912);and Shimamoto et al.,“Peptibodies:A flexible alternative format to antibodies,”4(5)MAbs 586-91(2012)を参照されたい。
【0066】
一実施形態では、ハーフボディ可変ドメインは内部移行エフェクターを特異的に認識し、ハーフボディのFcドメインは補充酵素(例えば、ペプチボディ)を含むFc-融合タンパク質と二量体化する(同上文献の586ページ)。
【0067】
「アルファ-グルコシダーゼ」(または「α-グルコシダーゼ」)、「α-グルコシダーゼ活性」、「GAA」、および「GAA活性」は交換可能に用いられ、グリコーゲンおよびデンプンの1,4-アルファ結合を加水分解してグルコースにすることを促進する任意のタンパク質を意味する。GAAは、特に、EC 3.2.1.20、マルターゼ、グルコインべルターゼ、グルコシドスクラーゼ、マルターゼ・グルコアミラーゼ、アルファ-グルコピラノシダーゼ、グルコシドインベルターゼ、アルファ-D-グルコシダーゼ、アルファ-グルコシドヒドロラーゼ、アルファ-1,4-グルコシダーゼ、およびアルファ-D-グルコシドグルコヒドロラーゼとしても知られている。GAAは、リソソーム内、および小腸の刷子縁で見つけることができる。ポンペ病に罹患している患者は、機能性リソソームα-グルコシダーゼが欠乏している。S.Chiba,“Molecular mechanism in alpha-glucosidase and glucoamylase,”61(8)Biosci.Biotechnol.Biochem.1233-9(1997);およびHesselink et al.,“Lysosomal dysfunction in muscle with special reference to glycogen storage disease type II,”1637(2)Biochim.Biophys.Acta.164-70(2003)を参照されたい。
【0068】
「アルファ-ガラクトシダーゼA」(または「α-ガラクトシダーゼA」)、「α-ガラクトシダーゼA活性」、「α-ガラクトシダーゼ」、「α-ガラクトシダーゼ活性」、「GLA」、および「GLA活性」は、交換可能に用いられ、糖脂質および糖タンパク質由来の末端α-ガラクトシル部分の加水分解を促進し、またα-D-フコシドを加水分解する任意のタンパク質を意味する。GLAはまた、特に、EC 3.2.1.22、メリビアーゼ、α-D-ガラクトシダーゼ、α-ガラクトシダーゼA、α-ガラクトシドガラクトヒドロラーゼ、α-D-ガラクトシドガラクトヒドロラーゼとしても知られている。GLAは、X連鎖GLA遺伝子によりコードされるリソソーム酵素である。GLAの欠損によりファブリー病が引き起こされ得るが、そこでは、グロボトリアオシルセラミド(別名Gb3、GL-3、またはセラミドトリヘキソシド)として知られる糖脂質が血管内に蓄積し(すなわち、隆起血管障害)、その結果、疼痛や、腎臓、心臓、皮膚、および/または脳血管組織、ならびに他の組織および器官の機能に障害をもたらす。例えば、Prabakaran et al.“Mannose 6-phosphate receptor and sortilin mediated endocytosis of α-galactosidase A in kidney endothelial cells,”7(6)PLoS One e39975 pp.1-9(2012)を参照されたい。
【0069】
一態様では、本発明は、リソソーム蓄積症(LSD)に罹患している患者(または対象)を、該患者に「生物学的治療用複合体」を投与することによって治療する方法を提供する。生物学的治療用複合体は、患者の細胞に入って、LSDに関連する酵素または酵素活性(すなわち「内因性酵素」)を補充する酵素または酵素活性(すなわち「補充酵素」)をリソソームに送達する。
【0070】
LSDには、スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖症、およびグリコーゲン蓄積症が含まれる。一部の実施形態では、LSDは、ファブリー病、ゴーシェ病I型、ゴーシェ病II型、ゴーシェ病III型、ニーマン・ピック病A型、ニーマン・ピック病B型、GM1-ガングリオシドーシス、サンドホフ病、テイ・サックス病、GM2-活性化因子欠損、GM3-ガングリオシドーシス、異染性白質ジストロフィー、スフィンゴ脂質活性化因子欠損、シャイエ病、ハーラー・シャイエ病、ハーラー病、ハンター病、サンフィリポA、サンフィリポB、サンフィリポC、サンフィリポD、モルキオ症候群A、モルキオ症候群B、マロトー・ラミー病、スライ病、MPS IX、およびポンペ病のうちの任意の1つ以上である。特定の実施形態では、LSDはファブリー病である。別の実施形態では、LSDはポンペ病である。
【0071】
一部の実施形態では、生物学的治療用複合体は、(a)補充酵素と、(b)内部移行エフェクターに結合する分子実体とを含む。一部の実施形態では、補充酵素は、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、サポシン-C活性化因子、セラミダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、β-ヘキソサミニダーゼ、GM2活性化因子、GM3シンターゼ、アリールスルファターゼ、スフィンゴ脂質活性化因子、α-イズロニダーゼ、イズロニダーゼ-2-スルファターゼ、ヘパリンN-スルファターゼ、N-アセチル-α-グルコサミニダーゼ、α-グルコサミドN-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-硫酸スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、β-グルクロニダーゼ、およびヒアルロニダーゼのうちの任意の1つ以上である。
【0072】
患者が、補充酵素を「非自己」として認識するに足るタンパク質を作製することができず、補充酵素の投与後に免疫反応が結果として生じる場合がある。これは望ましくないことである。したがって、一部の実施形態では、補充酵素は、対象における免疫反応の誘発を回避するように設計されるか、または生成される。1つの解決策は、補充酵素として「アイソザイム」を用いることである。アイソザイムは患者の「自己」タンパク質に十分類似しているが、LSDの症状を緩和するのに十分な補充酵素活性を有する。
【0073】
LSDがポンペ病であり、内因性酵素がα-グルコシダーゼ(GAA)である特定の一実施形態では、アイソザイムは、酸性α-グルコシダーゼ、スクラーゼ・イソマルターゼ(SI)、マルターゼ・グルコアミラーゼ(MGAM)、グルコシダーゼII(GANAB)、および中性α-グルコシダーゼ(C GNAC)のうちの任意の1つであり得る。LSDがファブリー病であり、内因性酵素がα-ガラクトシダーゼA(GLA)である特定の別の実施形態では、アイソザイムはGLA活性を持つように操作されたα-N-アセチルガラクトサミニダーゼであり得る。
【0074】
生物学的治療用複合体は、補充酵素の細胞内への取り込みを可能にする内部移行エフェクター結合タンパク質成分を有する。したがって、一部の実施形態では、内部移行エフェクターは、CD63、MHC-I、Kremen-1、Kremen-2、LRP5、LRP6、LRP8、トランスフェリン受容体、LDL-受容体、LDL関連タンパク質1受容体、ASGR1、ASGR2、アミロイド前駆体タンパク質様タンパク質-2(APLP2)、アペリン受容体(APLNR)、PRLR(プロラクチン受容体)、MAL(Myelin And Lymphocyteタンパク質、別名VIP17)、IGF2R、液胞型H+ATPアーゼ、ジフテリア毒素受容体、葉酸受容体、グルタミン酸受容体、グルタチオン受容体、レプチン受容体、スカベンジャー受容体、SCARA1-5、SCARB1-3、およびCD36であり得る。特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、腎臓特異的インターナライザーであり、例えば、CDH16(Cadheri-16)、CLDN16(Claudn-16)、KL(Klotho)、PTH1R(副甲状腺ホルモン受容体)、SLC22A13(溶質輸送体ファミリー22メンバー13)、SLC5A2(ナトリウム/グルコース共輸送体2)、およびUMOD(ウロモジュリン)などである。他の特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、筋特異的インターナライザーであり、例えば、BMPR1A(骨形態形成タンパク質受容体1A)、m-カドヘリン、CD9、MuSK(筋特異的キナーゼ)、LGR4/GPR48(Gタンパク質共役受容体48)、コリン作動性受容体(ニコチン性)アルファ1、CDH15(Cadheri-15)、ITGA7(インテグリンアルファ-7)、CACNG1(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-1)、CACNAlS(L型カルシウムチャネルサブユニットアルファ-15)、CACNG6(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-6)、SCN1B(ナトリウムチャネルサブユニットベータ-1)、CHRNA1(ACh受容体サブユニットアルファ)、CHRND(ACh受容体サブユニットデルタ)、LRRC14B(ロイシンリッチリピート含有タンパク質14B)、およびPOPDC3(Popeyeドメイン含有タンパク質3)などである。一部の特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、ITGA7、CD9、CD63、APLP2、またはPRLRである。
【0075】
一部の実施形態では、内部移行エフェクター結合タンパク質は抗原結合タンパク質を含み、該抗原結合タンパク質は、例えば、受容体融合分子、トラップ分子、受容体Fc融合分子、抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、一本鎖Fv(scFv)分子、dAb断片、単離相補性決定領域(CDR)、CDR3ペプチド、拘束FR3-CDR3-FR4ペプチド、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ、一価ナノボディ、二価ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP:small modular immunopharmaceutical)、ラクダ抗体(VHH重鎖ホモ二量体抗体)、およびサメ可変IgNARドメインを含む。
【0076】
一実施形態では、内部移行エフェクターに結合する分子実体は、抗体、抗体断片、または他の抗原結合タンパク質である。例えば、分子実体は二重特異性抗体である可能性があり、そこで一方のアームは内部移行エフェクター(例えば、ITGA7、CD9、CD63、PRLR、APLP2)に結合し、他方のアームは補充酵素に結合する。ここで、生物学的治療用複合体は、二重特異性抗体と、補充酵素とを含む(図1A)。特定の実施形態では、治療される疾患はファブリー病であり、生物学的治療用複合体は、GLAと、GLAおよびCD63に結合する二重特異性抗体とを含む。特定の別の実施形態では、治療される疾患はポンペ病であり、生物学的治療用複合体は、GAAと、GAAおよびCD63に結合する二重特異性抗体とを含む。
【0077】
別の実施形態では、内部移行エフェクターに結合する分子実体は、半抗体と、Fcドメインを含有する補充酵素(酵素-Fc融合ポリペプチド)とを含む。一実施形態では、酵素-Fc融合ポリペプチドのFcドメインが、内部移行エフェクター特異的ハーフボディのFcドメインと結合して、生物学的治療用複合体を形成する(図1B)。
【0078】
他の実施形態では、補充酵素は内部移行エフェクター結合タンパク質に共有結合している。上記段落で述べた酵素-Fc融合:ハーフボディの実施形態(図1Bも参照のこと)はこの部類に入るが、これはそのFc二量体を1つ以上のジスルフィド架橋を介して繋ぐことができるからである。酵素活性ドメインまたはポリペプチドと、内部移行-結合ドメインまたはポリペプチドとの間の共有結合的連結は、共有結合の任意の種類(すなわち、電子の共有に関与した任意の結合)であってもよい。場合によっては、共有結合は2つのアミノ酸の間のペプチド結合であり、その結果、補充酵素と内部移行エフェクター結合タンパク質とが、全体としてまたは部分的に、融合タンパク質に見られるような連続ポリペプチド鎖を形成する。補充酵素部分と内部移行エフェクター結合タンパク質とが直接連結されている場合がある。他の場合には、リンカーを用いて2つの部分を繋いでいる。Chen et al.,“Fusion protein linkers:property,design and functionality,”65(10)Adv Drug Deliv Rev.1357-69(2013)を参照されたい。
【0079】
特定の実施形態では、補充酵素は抗内部移行エフェクター抗体の重鎖のC末端に(図1Cを参照)、または軽鎖のC末端に(図1E)共有結合している。特定の別の実施形態では、補充酵素は抗内部移行エフェクター抗体の重鎖のN末端に(図1Dを参照)、または軽鎖のN末端に(図1F)共有結合している。
【0080】
特に補充酵素がリソソーム内で通例通りにタンパク質分解的にプロセシングされない場合には、切断可能なリンカーが、抗体-酵素融合を含む生物学的治療用複合体の実施形態に加えられる。一部の実施形態では、a)立体的に大きい抗体を除去することによって酵素活性の保持を図ることができるように、かつb)酵素のリソソーム内半減期を増加できるようにするために、カテプシン切断可能リンカーを抗体と補充酵素との間に挿入し、リソソーム内での抗体の除去を容易にする。
【0081】
別の態様では、本発明は、酵素活性と抗原結合タンパク質とを含む組成物を提供し、そこで該酵素はリソソーム蓄積症(LSD)と内部移行エフェクター結合タンパク質とに関連するものである。リソソーム蓄積症に関連する酵素(それ自体触媒性ではないタンパク質を含む)には、例えば、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、サポシン-C活性化因子、セラミダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、β-ヘキソサミニダーゼ、GM2活性化因子、GM3シンターゼ、アリールスルファターゼ、スフィンゴ脂質活性化因子、α-イズロニダーゼ、イズロニダーゼ-2-スルファターゼ、ヘパリンN-スルファターゼ、N-アセチル-α-グルコサミニダーゼ、α-グルコサミドN-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-硫酸スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、β-グルクロニダーゼ、およびヒアルロニダーゼなどが含まれる。
【0082】
内部移行エフェクター結合タンパク質には、例えば、受容体融合分子、トラップ分子、受容体Fc融合分子、抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、一本鎖Fv(scFv)分子、dAb断片、単離相補性決定領域(CDR)、CDR3ペプチド、拘束FR3-CDR3-FR4ペプチド、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ、一価ナノボディ、二価ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP:small modular immunopharmaceutical)、ラクダ抗体(VHH重鎖ホモ二量体抗体)、サメ可変IgNARドメイン、および他の抗原結合タンパク質などが含まれる。
【0083】
内部移行エフェクターには、例えば、CD63、MHC-I、Kremen-1、Kremen-2、LRP5、LRP6、LRP8、トランスフェリン受容体、LDL-受容体、LDL関連タンパク質1受容体、ASGR1、ASGR2、アミロイド前駆体タンパク質様タンパク質-2(APLP2)、アペリン受容体(APLNR)、PRLR(プロラクチン受容体)、MAL(Myelin And Lymphocyteタンパク質、別名VIP17)、IGF2R、液胞型H+ATPアーゼ、ジフテリア毒素受容体、葉酸受容体、グルタミン酸受容体、グルタチオン受容体、レプチン受容体、スカベンジャー受容体、SCARA1-5、SCARB1-3、およびCD36が含まれる。特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、腎臓特異的インターナライザーであり、例えば、CDH16(Cadheri-16)、CLDN16(Claudn-16)、KL(Klotho)、PTH1R(副甲状腺ホルモン受容体)、SLC22A13(溶質輸送体ファミリー22メンバー13)、SLC5A2(ナトリウム/グルコース共輸送体2)、およびUMOD(ウロモジュリン)などである。他の特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、筋特異的インターナライザーであり、例えば、BMPR1A(骨形態形成タンパク質受容体1A)、m-カドヘリン、CD9、MuSK(筋特異的キナーゼ)、LGR4/GPR48(Gタンパク質共役受容体48)、コリン作動性受容体(ニコチン性)アルファ1、CDH15(Cadheri-15)、ITGA7(インテグリンアルファ-7)、CACNG1(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-1)、CACNAlS(L型カルシウムチャネルサブユニットアルファ-15)、CACNG6(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-6)、SCN1B(ナトリウムチャネルサブユニットベータ-1)、CHRNA1(ACh受容体サブユニットアルファ)、CHRND(ACh受容体サブユニットデルタ)、LRRC14B(ロイシンリッチリピート含有タンパク質14B)、およびPOPDC3(Popeyeドメイン含有タンパク質3)などである。一部の特定の実施形態では、内部移行エフェクターは、ITGA7、CD9、CD63、ALPL2、またはPPRLRである。
【0084】
一部の実施形態では、酵素は抗原結合タンパク質に共有結合されている(すなわち、電子が原子間で共有されている)。特定の一実施形態では、内部移行エフェクター結合タンパク質はハーフボディからなるか、またはハーフボディを含み、酵素はFc-融合ドメインに(例えばC末端で)融合されており、酵素に共有結合しているFcドメインは抗原結合タンパク質のFcドメインと結合し、その結合は1つ以上のジスルフィド架橋を含むようになっている。特定の実施形態を図1Bに概略的に示している。
【0085】
特定の別の実施形態では、内部移行エフェクター結合タンパク質(IE-BP)は、抗体または抗体断片からなるかまたはそれを含み、酵素は抗体または抗体断片に共有結合している。特定の実施形態では、IEBPは抗体であり、酵素は、該抗体の重鎖または軽鎖のC末端に(ペプチド結合を介して直接的にまたはリンカーを介して間接的に)共有結合している(それぞれ図1Cまたは図1E)。特定の別の実施形態では、IEBPは抗体であり、酵素は、該抗体の重鎖または軽鎖のN末端に(ペプチド結合を介して直接的にまたはリンカーを介して間接的に)共有結合している(それぞれ図1Dまたは図1F)。
【0086】
一部の実施形態では、酵素およびIEBPは共有結合されていないが、混合物の状態で組み合わされている。IEBPと酵素とは、非共有結合力により結合して、複合体を形成することができる。例えば、特定の一実施形態では、IEBPは二重特異性抗体であり、その抗体の一方のアームが内部移行エフェクターに結合し、他方のアームが酵素に結合する。この実施形態を図1Aに概略的に示している。
【0087】
一部の実施形態では、酵素はGAAであるか、またはGAA活性を含み(例えば、GAA活性を有するアイソザイムなど)、内部移行エフェクターは、ITGA7、CDH15、CD9、CD63、APLP2、またはPRLRである。特定の実施形態では、酵素はGAAであるか、またはGAA活性を含み、内部移行ドメインはCD63であり、IEBPはCD63およびGAAに対して特異性を有する二重特異性抗体である。
【0088】
一部の実施形態では、酵素はGLAであるか、またはGLA活性を含み(例えば、GAA活性を有するアイソザイムなど)、内部移行エフェクターは、ITGA7、CD9、CD63、APLP2、またはPRLRである。特定の実施形態では、酵素はGLAであるか、またはGLA活性を含み、内部移行ドメインはCD63であり、IEBPはCD63およびGLAに対して特異性を有する二重特異性抗体である。
【0089】
別の態様では、本発明は、酵素と、酵素を必要とする患者に酵素を効果的に補充する抗原結合タンパク質とを含有する生物学的治療用複合体を選択またはスクリーニングする方法を提供する。一実施形態では、生物学的治療用複合体はモデル系に投与され、該モデル系を補充酵素活性について評価する。一実施形態では、モデル系は、酵素の発現が不足しており、かつ抗原結合タンパク質の抗原コグネイトを発現する動物である。一実施形態では、動物モデルは、抗原結合タンパク質のヒト化コグネイトを発現し、酵素をコードする遺伝子のノックアウトを有するマウスである。
【0090】
一実施形態では、マウスはリソソーム酵素のノックアウトを含み、該リソソーム酵素は、α-ガラクトシダーゼA、セラミダーゼ、β-グルコシダーゼ、サポシン-C活性化因子、スフィンゴミエリナーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-ヘキソサミニダーゼAおよびB、β-ヘキソサミニダーゼA、GM2-活性化因子タンパク質、GM3シンターゼ、アリールスルファターゼA、スフィンゴ脂質活性化因子、α-イズロニダーゼ、イズロニダーゼ-2-スルファターゼ、ヘパリンN-スルファターゼ、N-アセチル-α-グルコサミニダーゼ、アセチル-CoA;α-グルコサミドN-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-硫酸スルファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ(アリールスルファターゼB)、β-グルクロニダーゼ、ヒアルロニダーゼ、α-グルコシダーゼ2、またはリソソーム酸性リパーゼなどである。一実施形態では、ノックアウトマウスは、内部移行エフェクターのヒト型またはヒト化型(すなわち、抗原結合タンパク質のコグネイト)も発現する。ヒト内部移行エフェクターには、CD63、MHC-I、Kremen-1、Kremen-2、LRP5、LRP6、LRP8、トランスフェリン受容体、LDL-受容体、LDL関連タンパク質1受容体、ASGR1、ASGR2、アミロイド前駆体タンパク質様タンパク質-2(APLP2)、アペリン受容体(APLNR)、PRLR(プロラクチン受容体)、MAL(Myelin And Lymphocyteタンパク質、別名VIP17)、IGF2R、液胞型H+ATPアーゼ、ジフテリア毒素受容体、葉酸受容体、グルタミン酸受容体、グルタチオン受容体、レプチン受容体、スカベンジャー受容体、SCARA1-5、SCARB1-3、CD36、CDH16(Cadheri-16)、CLDN16(Claudn-16)、KL(Klotho)、PTH1R(副甲状腺ホルモン受容体)、SLC22A13(溶質輸送体ファミリー22メンバー13)、SLC5A2(ナトリウム/グルコース共輸送体2)、UMOD(ウロモジュリン)、BMPR1A(骨形態形成タンパク質受容体1A)、M-カドヘリン、CD9、MuSK(筋特異的キナーゼ)、LGR4/GPR48(Gタンパク質共役受容体48)、コリン作動性受容体(ニコチン性)アルファ1、CDH15(Cadheri-15)、ITGA7(インテグリンアルファ-7)、CACNG1(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-1)、CACNAlS(L型カルシウムチャネルサブユニットアルファ-15)、CACNG6(L型カルシウムチャネルサブユニットガンマ-6)、SCN1B(ナトリウムチャネルサブユニットベータ-1)、CHRNA1(ACh受容体サブユニットアルファ)、CHRND(ACh受容体サブユニットデルタ)、LRRC14B(ロイシンリッチリピート含有タンパク質14B)、およびPOPDC3(Popeyeドメイン含有タンパク質3)が含まれる。
【0091】
ヒト受容体を発現するマウスを作製する方法は、当該技術分野で既知である。例えば、Ma et al.,Drug Metab.Dispos.2008 Dec;36(12):2506-12;および米国特許 第8,878,001 B2号を参照されたい。これらの文献は、ヒト受容体を発現するトランスジェニックマウスに関して本明細書に援用される。酵素ノックアウトマウスを作製する方法も、当該技術分野で既知である。例えば、Kuemmel et al.,Pathol.Res.Pract.1997;193(10):663-71を参照されたい。この文献は、マウスのリソソーム蓄積酵素ノックアウトに関して本明細書に援用される。
【0092】
下記の実施例は、本発明の方法をさらに説明するために提供されている。これらの実施例は、説明のためだけのものであり、本発明の範囲を何ら限定することを意図するものではない。
【実施例
【0093】
実施例1 リソソームα-グルコシダーゼ融合タンパク質
CI-MPR非依存抗体誘導送達系を、酵素をリソソームに送達するように設計した。表3には、分子構築物を列挙し、それらのCHO細胞内発現レベル(図2を参照)、蛍光基質4-メチルウンベリフェリル-α-グルコシドを用いて測定されたおおよそのGAA活性(図3を参照)、ならびにリソソーム標的指向化、内部移行、および活性状態(図4および図5を参照)を示している。
【0094】
実施例2 GAA構築物内部移行
GAA構築物の内部移行を、細胞可溶化物における酵素活性を測定することにより定量した。組換えGAA(配列番号1)の種々の構築物を、HEK293、ヒト骨格筋芽細胞(Lonza、メリーランド州ウォーカーズビル)、または、C2C12マウス筋芽細胞に添加した。酵素構築物の添加の24時間前に、細胞を24ウェルプレートにプレーティングした。酵素構築物を細胞の培地に18時間添加した。続いて、細胞を氷冷PBS中にて十分に洗浄し、氷冷した0.5% NP-40のアッセイ緩衝液(0.2Mの酢酸ナトリウム、0.4Mの塩化カリウム、pH4.3)中で溶解した。溶解物を4℃にて15,000×gで15分間遠心分離し、上清をGAA基質である4-メチルウンベリフェリルアルファ-D-グルコシドと共に、96ウェルプレートでアッセイ緩衝液中にて1時間インキュベートした。グリシン-炭酸緩衝液を用いてpH10.7で反応を停止した。蛍光を、励起波長360nmおよび発光波長450nmにおいてプレートリーダーで読み取った。溶解物のタンパク質濃度を、ビシンコニン酸アッセイキットを用いて定量した。4-メチルウンベリフェロンを基質として用いた。GAA活性を、精製タンパク質1mg当たりに毎時放出される4-メチルウンベリフェロンのnmol数として記録した。Fuller et al.,“Isolation and characterisation of a recombinant,precursor form of lysosomal acid alpha-glucosidase,”234(3)European Journal of Biochemistry 903-909(1995)を参照されたい。
【0095】
GAA活性の内部移行を、マンノース6-リン酸(M6P)の存在下または非存在下(図4A)、およびCD63の存在下または非存在下で評価した。いくつかのリソソーム酵素は、マンノース6-リン酸受容体(MPR)に結合している結合M6P部分を媒介として、リソソームを標的とする。したがって、抗CD63-GAAの内部移行へのCI-MPRの関与を、抗CD63-GAAの取り込みの間に、MPR結合を競合するM6P(5mM)をHEK培養培地に含めることによって評価した。M6Pを含めても、細胞可溶化物における4-メチルウンベリフェロンの検出で測定されたように、抗CD63-GAAの取り込みに何ら影響を及ぼさなかった(図4A)。しかしながら、抗CD63-GAAの取り込みは、CD63の存在に依存した(図4B)。抗CD63・GAAは、CD63を発現するHEK細胞によって取り込まれたが、CD63遺伝子のノックアウトを担持するHEK細胞には取り込まれなかった(図4B)。
【0096】
(表3)
NA=該当なし;NT=未試験
【0097】
実施例3 GAA構築物の筋芽細胞による取り込み
骨格筋芽細胞(ポンペ病における検討対象の組織タイプ)が種々のGAA構築物を取り込む能力を評価した。種々の濃度(すなわち、25nM、50nM、および200nM)の(1)抗CD63-GAA、(2)抗CD63-GAA+5mM M6P、(3)myc-GAA、および(4)myc-GAA+5mM M6Pの存在下、ヒト骨格筋芽細胞を培養した。GAA構築物の内部移行を、4-メチルウンベリフェロンの蓄積によって示される細胞可溶化物で検出したGAA活性レベルから推測し、評価した。200nMのMPR非依存性抗CD63-GAAの取り込み量は、MPR依存性のmyc-GAAの取り込み量よりも5倍超多かった(図5A)。
【0098】
抗CD63-GAA構築物の細胞内局在を測定するために、ヒト骨格筋芽細胞を、抗ヒトIgG抗体(抗CD63-GAA構築物の抗CD63部分の検出用)および抗LAMP抗体(リソソームの標識用)で染色した。LAMP、すなわちリソソーム膜糖タンパク質は、リソソームに特異的な内在性膜タンパク質を含む。共標識実験により抗CD63-GAAが抗LAMPと共局在化することがわかり、これは抗CD63-GAAがリソソームに局在化していることを示している。
【0099】
マウスC2C12筋芽細胞を同様に、種々の濃度(すなわち、25nM、50nM、および200nM)の(1)抗CD63-GAA、(2)抗CD63-GAA+5mM M6P、(3)myc-GAA、および(4)myc-GAA+5mM M6Pと接触させた。GAA構築物の内部移行を、4-メチルウンベリフェロンの蓄積によって示される細胞可溶化物で検出したGAA活性レベルから推測し、評価した。200nMの抗CD63-GAAの取り込み量は、M6Pによって不利な影響を受けず、myc-GAAの取り込み量よりも約6倍~約9倍超多かった(図5B)。
【0100】
実施例4 抗CD63-GAAのグリコーゲン蓄積への影響
抗CD63-GAAが3つの異なる種類のポンペ細胞株のリソソームにおいてグリコーゲン蓄積に及ぼす影響を評価した。ポンペ細胞株は、重症の乳児型ポンペ病を発症した患者から得られた線維芽細胞由来であり、GAA遺伝子においてノックアウト変異またはノックダウン変異を含んでいた。使用した細胞株は、GM20089(エクソン18欠失)、GM20090(エクソン14およびエクソン16における複合ヘテロ接合体)、およびGM20090(エクソン2における複合ヘテロ接合体)であった。これらの細胞株をCoriell Institute(ニュージャージー州カムデン)から得た。Huie et al.,“Increased occurrence of cleft lip in glycogen storage disease type II(GSDII):exclusion of a contiguous gene syndrome in two patients by presence of intragenic mutations including a novel nonsense mutation Gln58Stop,”85(1)Am.J.Med.Genet.5-8(1999);Huie et al.,“Glycogen storage disease type II:identification of four novel missense mutations(D645N,G648S,R672W,R672Q)and two insertions/deletions in the acid alpha-glucosidase locus of patients of differing phenotype,”244(3)Biochem.Biophys.Res.Commun.921-7(1998)and;Nishiyama et al.,“Akt inactivation induces endoplasmic reticulum stress-independent autophagy in fibroblasts from patients with Pompe disease,”107 Molecular genetics and metabolism 490-5(2012)を参照されたい。新生児ヒト皮膚線維芽(NHDF、Lonza)を対照として用いた。全てのポンペ細胞株は、残留(<0.1%)GAA活性が存在する場合でも、リソソームグリコーゲン蓄積を示した(細胞質内グリコーゲンを低減させるグルコース飢餓の72時間後)(図6、パネルAおよびパネルB)。グリコーゲンをグリコーゲンアッセイキット(Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を用いて測定した。
【0101】
細胞を、溶解前に約96時間の間グルコース飢餓の状態にして、細胞質内グリコーゲンを除去した(Umapathysivam et al.,“Correlation of acid alpha-glucosidase and glycogen content in skin fibroblasts with age of onset in Pompe disease,”361(1-2)Clin Chim Acta.191-8(2005)を参照)。細胞を、抗CD63-GAA(200nM)またはmyc-GAA(200nM)で、溶解前に72時間処理した。全3種のポンペ細胞株に対して抗CD63-GAAで処理した結果、リソソーム内グリコーゲン蓄積に有意な減少が見られ(図7)、これは、外因的に投与された抗CD63-GAAがリソソームに到達し、酵素的に活性であったことを示している。
【0102】
実施例5 GAAに対するアイソザイム
GAA(すなわち、交差反応免疫学的物質またはCRIM)に対して起こり得るポンペ患者の免疫応答を回避するために、GAA活性を救済する他のヒトグルコシダーゼを送達することを検討した。GAA(別名は酸性α-グルコシダーゼ)に対して同様のグリコーゲン加水分解活性を有する非リソソーム酵素を調べた。これらの酵素として、スクラーゼ・イソマルターゼ(SI)、マルターゼ・グルコアミラーゼ(MGAM)、グルコシダーゼII(GANAB)、および中性α-グルコシダーゼ(C GNAC)が挙げられる。これらの酵素および種々の組換え実施形態が、Dhital et al.,“Mammalian mucosal α-glucosidases coordinate with α-amylase in the initial starch hydrolysis stage to have a role in starch digestion beyond glucogenesis,”8(4)PLoS One e625462013 Apr 25(2013);Sim et al.,“Human intestinal maltase-glucoamylase:crystal structure of the N-terminal catalytic subunit and basis of inhibition and substrate specificity,”375(3)J.Mol.Biol.782-92(2008);およびQuezada-Calvillo et al.,“Luminal starch substrate “brake”on maltase-glucoamylase activity is located within the glucoamylase subunit,”138(4)J.Nutr.685-92(2008)に記載されている。
【0103】
以下のアイソザイム構築物を作製し、CHO細胞内で発現させた:(1)抗CD63、(2)抗CD63-NtMGAM(すなわち、抗CD63抗体重鎖のC末端に連結されたマルターゼ・グルコアミラーゼのN末端サブユニット)、および(3)抗CD63-CtMGAM。Dhital,2013を参照されたい。マウスマルターゼ・グルコアミラーゼ(抗mCD63-mctMGAM)のC末端サブユニットに融合した抗マウスCD63重鎖を発現する別の構築物も、マウスモデルで使用するために改変された(実施例11を参照)。
【0104】
実施例6 リソソームα-ガラクトシダーゼA(GLA)融合タンパク質
ヒトGLA(配列番号2)を含む種々の融合タンパク質を構築し、CHO細胞内で発現させた。これらの構築物には、(i)抗CD63重鎖のC末端に融合したGLA(抗CD63-GLA)、(ii)イムノグロブリンFcに融合したGLA(例えば、Fc「ノブ」)、(iii)GLA-抗CD63(すなわち、抗CD63重鎖のN末端に融合したGLA)、および(iv)GLA-myc融合を含めた(図8)。また、GLA部分のない内部移行エフェクター結合タンパク質(IEBP)を、改変かつ発現させた。一例では、IEBPは、CD63に対する結合特異性を持つ一方の半分と、mycに対する結合特異性を持つ他方の半分を備えた二重特異性抗体であった。GLA酵素活性(すなわち、4-メチルウンベリフェリル-β-ガラクトピラノシドの加水分解)を各GLA融合タンパク質に対して評価し、その結果を図9に示す。全構築物は、C末端抗CD63-GLA融合を除外して、α-ガラクトシダーゼ活性を示した(図9)。Fcノブについては、Ridgway et al.,“‘Knobs-into-holes’ engineering of antibody CH3 domains for heavy chain heterodimerization,”9(7)Protein Eng.617-621(1996)に記載されている。
【0105】
各構築物(またはIEBPとGLA-mycの組み合わせ)のHEK細胞への内部移行を、4-メチルウンベリフェリル-β-ガラクトピラノシドの酵素触媒加水分解から形成されるメチルウンベリフェロンを測定することにより定量した。種々の構築物をHEK293細胞に添加し、続いてインキュベートしてエンドサイトーシスさせた後、洗浄し、pH4で溶解した。GLA基質を各細胞可溶化物に加え、α-ガラクトシダーゼの反応を進行させた。その結果を図9に示し、図9では、GLA-抗CD63融合タンパク質がHEK細胞に内部移行されたことが示されている。GLA-myc単独では、すなわち、IEBP要素の非存在下では、HEK細胞によって取り込まれなかった。しかしながら、CD63に結合し、かつmycエピトープに結合した二重特異性抗体の存在下では取り込まれた(図10)。
【0106】
実施例7 内部移行エフェクター結合タンパク質の取り込み
抗CD63抗体または抗APLP2抗体の低pH細胞分画への内部移行を、高M6P含有量を有している、組換えヒトGLA(rhGLA)の低pH分画への内部移行と比較した。GLA、抗CD63、および抗APLP2の各々を、低pH感受性色素pHrodo(登録商標)(Invitrogen、カリフォルニア州カールスバッド)で標識した。HEK細胞、HepG2細胞(肝癌)、およびPC-3細胞(前立腺癌)をpHrodo(登録商標)で標識したタンパク質と接触させ、一晩または約16時間インキュベートした。続いて、細胞をイメージングし、蛍光小胞をカウントした。各タンパク質の標識度合いに応じて蛍光出力を標準化した。HEK細胞、PC-3細胞、およびHepG2細胞は、rhGLAに比べて抗CD63と抗APLP2の取り込み量がより多くなることを示した(図11)。
【0107】
実施例8 リソソーム内での融合タンパク質のプロセシング
抗CD63-GAA構築物がリソソーム内でタンパク質分解的にプロセシングされるか否かを、ポンペ細胞可溶化物のウェスタンブロット分析により評価した。GM20089ポンペ細胞を抗CD63-GAAの存在下で培養し、生じた細胞可溶化物を、抗GAA抗体(図12、パネルA)または抗hIgG抗体(図12、パネルB)を用いて還元ウェスタンブロット分析した。
【0108】
Coriellから入手したGM20089ポンペ病線維芽細胞株を6ウェルプレートにプレーティングし、抗CD63-GAAと共に18時間インキュベートした後、培養液で十分に洗浄した。ウェル内容物を、様々な時点(すなわち、抗CD63-GAAの除去0時間後、24時間後、48時間後、72時間後)でRIPA緩衝液中で溶解した。抗ヒトGAA抗体(ab113021、Abcam LTD、英国ケンブリッジ)を用いたウェスタンブロットにより、溶解物についてGAAの定量を行った(図12)。完全な抗CD63-GAAと小形の中間体とを早期の時点で検出し、GAAの成熟リソソーム76kDa型を抗CD63-GAAを添加した後の全時点で検出した。これは、抗CD63-GAAが患者細胞内に内部移行し、GAAの成熟リソソーム型に正常にプロセシングされていることを示している。さらに、細胞内での76kDa型の半減期がGAA内部移行の他の研究と符合している(Maga,J.A.et al.Glycosylation-independent lysosomal targeting of acid α-glucosidase enhances muscle glycogen clearance in Pompe mice.Journal of Biological Chemistry 288,1428-1438(2013))。
【0109】
実施例9 抗CD63-GAAの組織分布とプロセシング
CD63部位でヒト化されたマウス(Valenzuela et al.,“High-throughput engineering of the mouse genome coupled with high-resolution expression analysis,”21 Nature Biotechnology 652 - 659(2003)を参照)に抗CD63-GAAを投与した。組織サンプルを採取し、GAAをウェスタンブロット分析により評価した。GAAは、肝臓、横隔膜、腎臓、心臓、ならびに四頭筋および腓腹筋で検出された(図13)。
【0110】
簡潔に述べると、ヒトCD63部位をマウスCD63部位に入れることによって、ヒト化CD63マウスを作製した。抗CD63-GAAまたは抗CD63を、2月齢のヒト化CD63マウスまたはヒトCD63を持たない野生型マウスに、50mg/kgで尾静脈注射により投与した。様々な時点(例えば、注射の0時間後、6時間後、24時間後)で尾出血させた。抗ヒトFc ELISAを行い、抗CD63-GAAの血清濃度を算出した。抗CD63-GAAは血清から速やかに排除され、親抗CD63抗体よりも高速であった。また、注射されたマウスを様々な時点で屠殺し、組織を解剖し、液体窒素で急速凍結した。組織をRIPA緩衝液中に溶解し、ウェスタンブロットによりGAAの定量を行った。76kDa成熟リソソーム型が、定量した組織の多くに存在していたが、これは抗CD63-GAAが組織内の細胞に内部移行していることを示している(図13)。ヒト化CD63マウスは抗CD63-GAAを骨格筋(心臓、腓腹筋、四頭筋)に内部移行したが、野生型マウスはいかなる取り込みも示さなかった。これは、抗CD63-GAAがCD63により媒介されて骨格筋細胞に内部移行したことを示している。
【0111】
CD63ヒト化マウス(CD63hu/hu)と対照マウス(CD63+/+)とに、抗CD63-GAAを尾静脈注射により50mg/kgで投与した。24時間時点で組織を抽出し、溶解物の200μgをレーン毎にロードした。ウェスタンブロットを、抗hGAA抗体と、ローディング対照として抗GAPDHとを用いてプローブした。図14はウェスタンブロットを示し、CD63hu/huにおいて、CD63が抗hCD63-GAAの筋組織への取り込みを媒介したが、野生型CD63+/+マウスにおいては媒介しなかったことを明らかにしている。抗hCD63-GAAが、成熟76kDa hGAAにプロセシングされた。
【0112】
実施例10 筋特異的内部移行エフェクター
筋特異的抗原(抗インテグリンアルファ7、抗CD9、および抗ジストログリカン)に対するビオチン化抗体をGAAノックアウトマウスに投与した。これらの抗体の組織分布をウェスタンブロット分析により測定した。図15には、骨格筋(腓腹筋、四頭筋、および横隔膜)、心筋、肝臓(標準化用のベースラインとして機能する)、腎臓、および脾臓内で見られた抗体レベルのヒストグラムを示す。抗インテグリンアルファ7抗体は、骨格筋および心臓で(肝臓で見られたレベルを上回るレベルで)見られた。抗CD9抗体は骨格筋および心臓で(肝臓で見られたレベルを上回るレベルで)見られ、また腎臓および脾臓でも同様に見られた(図15)。
【0113】
これらの選択された筋特異的抗体がリソソームを標的にできるか否かを判定するために、抗体をpHrodo-赤色で標識し、続いて10μg/mLでマウスC2C12筋芽細胞と共に一晩インキュベートした。小胞蛍光を定量し、蛍光体の抗体への標識度合いに応じて標準化した。結果を図16に示し、図16では、抗CD63、抗ジストログリカン、抗M-カドヘリン、抗CD9、および抗インテグリンアルファ7がC2C12筋芽細胞の低pHリソソーム分画を標的にしたことが示されている。
【0114】
実施例11 筋グリコーゲンレベルの回復
天然マウスCD63発現を有する2~3月齢のGAAノックアウト(KO)マウスに、完全長ヒトα-グルコシダーゼ(hGAA)、抗mCD63-GAA(抗マウスCD63)およびその関連軽鎖、または抗hCD63-GAA(抗ヒトCD63)およびその関連軽鎖をコードするプラスミド構築物を流体力学的送達(HDD)した。全ての構築物は、ユビキチンプロモーターとSV40polyAテールとからなる同一のプラスミドバックボーンを用いた。簡単に述べると、各プラスミドの40μg(すなわち、重鎖と軽鎖の40μgまたはhGAAのみの40μg)を滅菌生理食塩水2mL~3mLで希釈し、GAA KOマウスの尾静脈にすばやく注射した。3日毎の尾出血により、約10日間のhGAA構築物または抗体GAA構築物の血清レベルを明らかにした。マウスをHDDの3週間後に屠殺し、組織を液体窒素で急速凍結した。組織を蒸留水で均質化し、煮沸、遠心沈殿した。蛍光グリコーゲンアッセイキット(MAK016、Sigma Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を用いて上清についてグリコーゲンの定量を行った。
【0115】
心臓、横隔膜、ならびに三頭筋、腓腹筋、および四頭筋を含めた骨格筋におけるグリコーゲンレベルを、野生型マウス、GAA KOマウス、および流体力学的に送達かつ発現したhGAAまたは抗mCD63-GAAで処置したGAA KOマウスにおいて測定した。その結果を図17に示し、図17には、グリコーゲンが、抗mCD63-GAA処置マウスにおいてほぼ野生型レベルまで回復していることが示されている。グリコーゲン回復の効果は抗mCD63-GAAでより顕著に見られ、抗mCD63-GAAは、GAA KOマウスの骨格筋または横隔膜においてわずか約10%~35%のグリコーゲンレベルの低減を示したhGAA単独に比べて、野生型の筋グリコーゲンレベルのほぼ100%回復を示した(図17を参照)。
【0116】
心臓、横隔膜、ならびに三頭筋、腓腹筋、および四頭筋を含めた骨格筋におけるグリコーゲンレベルを、野生型マウス、GAA KOマウス、および流体力学的に送達(HDD)かつ発現した抗hCD63-GAA、抗mCD63-GAAまたは抗mCD63-mctMGAMで処置したGAA KOマウスにおいて測定した。図18に示した結果には、グリコーゲンが、抗mCD63-GAA処置マウスにおいてほぼ野生型レベルまで回復していることが示されている。グリコーゲン回復の効果は抗mCD63-GAAでより顕著に見られ、抗mCD63-GAAは、GAA KOマウスの骨格筋または横隔膜においてわずか約20%のグリコーゲンレベルの低減を示した抗hCD63-GAA単独に比べて、野生型レベルの20%未満の範囲に筋グリコーゲンレベルを回復させた(図18を参照)。この結果は、リソソームに送達されたGAAの作用が、種特異的なCD63内部移行によって増強されることをさらに裏付けるものである。対照(未処置)GAA KOマウスと比較した、GAA KOマウスにおけるHDDを介した抗mCD63-mctMGAM処置を、HDDの7日後または12日後に試験した(図20を参照)。未処置である他は同一の条件下の野生型マウスにはグリコーゲン蓄積に変化が見られないのに対し、マウス特異的抗mCD63-mctMGAMのHDD構築物で処置したGAA KOマウスにおいて、両方の時点でグリコーゲンがインビボで低減された(図20)。
【0117】
実施例12 リソソーム酸性リパーゼ
リソソーム酸性リパーゼ(LALまたはLIPA)は、コレステリルエステルおよびトリグリセリドをリソソーム内で分解する酵素である。LIPAにおける欠損(例えば、LAL-Dまたはウォルマン病)は、肝臓、脾臓、および他の器官で脂肪質の蓄積をもたらす。LAL-Dの有病率は、世界で40,000人に1人~300,000人に1人である。LIPA欠損を持つ乳児は、処置されなければ、多臓器不全のために6か月~12か月で死亡する。より年長の子供は診断未確定のまま、心臓発作、脳卒中、または肝不全で死亡する可能性がある。
【0118】
LIPAに繋留する抗体が内因性リパーゼ活性に及ぼす影響を評価するために、2種のLIPA抗体構築物である重鎖C末端融合体(抗myc-LIPA)と重鎖N末端融合体(LIPA-抗myc)とを作製した。ヒトリソソーム酸性リパーゼ酵素(配列番号3)のアミノ酸24~399のcDNAを、抗体重鎖プラスミドのN末端またはC末端にクローニングした。カテプシン切断可能配列を重鎖と酵素間にリンカーとして用いた。対応する軽鎖に付随した構築物をCHO-K1細胞にトランスフェクトした。CHO細胞上清をトランスフェクトした5日後に採取し、細菌濾過した。上清をウェスタンブロット分析し、抗LIPA抗体と抗hIgG抗体とでプローブした。CHO細胞におけるLIPA、抗myc-LIPA、およびLIPA-抗mycの発現を確認した。
【0119】
上清のアッセイ緩衝液(0.2Mの酢酸ナトリウム、0.4Mの塩化カリウム、pH4.3)希釈液をLIPA基質である4-メチルウンベリフェリルオレアートで1時間インキュベートした。グリシン-炭酸緩衝液を用いてpH10.7で反応を停止した。蛍光を、励起波長360nmおよび発光波長450nmにおいてプレートリーダーで読み取った。抗myc-LIPA構築物とLIPA-抗myc構築物の両方が、天然LIPA対照と比較して有意なリパーゼ活性を示した(図19)。
【0120】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態による範囲に限定されるものではない。実際には、本明細書に記載されたものに加えて本発明の種々の変更が、上記の記述から当業者に明らかとなるであろう。そのような変更は、添付される特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。
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【配列表】
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