(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】マイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法及びキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20240722BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240722BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
G01N33/569 F
G01N33/53 D
G01N33/543 521
(21)【出願番号】P 2022013988
(22)【出願日】2022-02-01
(62)【分割の表示】P 2018178594の分割
【原出願日】2016-01-27
【審査請求日】2022-02-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2015015253
(32)【優先日】2015-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】321011240
【氏名又は名称】株式会社タウンズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】齋藤憲司
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】▲高▼見 重雄
【審判官】松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104198703(CN,A)
【文献】DALLO SF, LAZZELL AL, CHAVOYA A, REDDY SP, BASEMAN JB.,Biofunctional Domains of the Mycoplasma pneumoniae P30 Adhesin.,INFECTION AND IMMUNTIY,1996年7月,Vol.64,No.7,Page.2595-2601
【文献】CHANG HY, JORDAN JL, KRAUSE DC.,Domain Analysis of Protein P30 in Mycoplasma pneumoniae Cytadherence and Gliding Motility.,JOURNAL OF BACTERIOLOGY,2011年4月,Vol.193,No.7,Page.1726-1733
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus,BIOSIS,EMBASE,MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体と第二の抗体とを少なくとも備えてなるマイコプラズマ・ニューモニエのサンドイッチ式免疫測定キットであって、
菌濃度1×10
6
(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備え、前記第一の抗体および前記第二の抗体の両方が配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するP30タンパク質のエピトープに対するモノクローナル抗体であり、被検試料として生体試料が用いられるマイコプラズマ・ニューモニエのサンドイッチ式免疫測定キット。
【請求項2】
前記サンドイッチ式免疫測定が、ELISA法又はイムノクロマトグラフィー測定法である、請求項
1に記載のサンドイッチ式免疫測定キット。
【請求項3】
前記第一の抗体および前記第二の抗体がヘテロの組み合わせである、請求項1
または2に記載のサンドイッチ式免疫測定キット。
【請求項4】
マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体と第二の抗体と膜担体とを少なくとも備え、前記第一の抗体は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第二の抗体は適当な標識物質で標識され、かつ、前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように用意されてなるイムノクロマトグラフィー法テストストリップであって、
菌濃度1×10
6
(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備え、前記第一の抗体および前記第二の抗体の両方が配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するP30タンパク質のエピトープに対するモノクローナル抗体であり、被検試料として生体試料が用いられるマイコプラズマ・ニューモニエ検出用イムノクロマトグラフィー法テストストリップ。
【請求項5】
前記第一の抗体および前記第二の抗体がヘテロの組み合わせである、請求項
4に記載のイムノクロマトグラフィー法テストストリップ。
【請求項6】
前記第二の抗体は金属コロイド、ラテックスまたは蛍光物質の何れか1つで標識されている請求項
4または5に記載のイムノクロマトグラフィー法テストストリップ。
【請求項7】
前記膜担体がニトロセルロース膜である請求項
4~6の何れか1項に記載のイムノクロマトグラフィー法テストストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)のP30タンパク質に対する抗体とそれを用いたマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法、キットおよびテストストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
マイコプラズマ肺炎はマイコプラズマ・ニューモニエによって引き起こされる非定型肺炎である。マイコプラズマ肺炎はクラミジア肺炎とともに非定型肺炎の30~40%を占め、市中肺炎の中でも高い割合を占めている。
マイコプラズマ肺炎は幼児、小児、青年期に多く見られる。潜伏期間は2~3週間であり、気道粘膜への病原体の排出は初発症状発現前2~8日で見られ、臨床症状発現時にピークとなり、高いレベルが約1週間続いた後、4~6週間以上排出が続く。主な臨床症状としては発熱、全身倦怠、頭痛、その他の感冒様症状である。38℃を超える高熱、強い乾性咳嗽などが特徴とされ、咳嗽は解熱後も3~4週間と長期にわたる。しかし、マイコプラズマ肺炎に特徴的な検査所見はなく、胸部X線検査ではすりガラス様の淡い陰影が典型的とされる。
【0003】
マイコプラズマの感染様式は感染患者からの飛沫感染と接触感染であり、マイコプラズマ・ニューモニエが経気道的に侵入し、気管支、細気管支上皮に吸着することより感染が成立する。
【0004】
マイコプラズマ感染症は感染症法に基づく届出感染症(5類感染症)に指定されており、指定医療機関は迅速に患者数を届け出る義務がある。
【0005】
マイコプラズマ・ニューモニエは自己増殖可能な最小の微生物であり、他の細菌とは異なり細胞壁を持たない。したがって、細胞壁合成阻害作用を有する抗菌薬であるβラクタム系抗菌薬およびセファム系抗菌薬は無効であり、治療にあたってはマクロライド系抗菌薬、テトラサイクリン系抗菌薬およびニューキノロン系抗菌薬が投与される。よって、起因菌の特定は、治療方針を決定する上でも迅速に行われることが望まれている。
【0006】
現在、マイコプラズマ・ニューモニエ感染の確定診断には分離培養法と血清学的検査が用いられている。
分離培養にはマイコプラズマを検出するための専用培地(PPLO培地)を必要とする。また他の細菌と比べても、増殖が遅く判定まで早くても一週間程度かかるため、分離培養法では臨床現場において迅速に起因菌を特定することが難しい状況にある。
またマイコプラズマは温度に敏感であり、マイコプラズマを含有する検体は一般的な細菌を含有する検体と異なり、冷蔵状態で保管することができない。そのため検体保管もしくは輸送中に検体に含まれるマイコプラズマが死滅もしくは減少し、分離培養法によっても検出できないこともある。
【0007】
血清学的検査としては、IgG抗体やIgM抗体を特異的に検出する寒冷凝集反応、補体結合反応(Complement Fixation test:CF法)、間接赤血球凝集反応(Indirect Hemaggulutination test:IHA法)、粒子凝集法(Particle Aggulutination:PA法)、酵素免疫測定法(Enzyme Immunoassay:EIA法)などが挙げられる。
さらに、簡易検査として血清または血漿中のマイコプラズマ・ニューモニエ特異的IgM抗体をEIA法で検出するイムノクロマトグラフキット(イムノカード マイコプラズマ抗体(株式会社テイエフビー製))が市販されており、臨床現場にて使用されている。
【0008】
血清学的検査では、検出する検体中のIgM抗体は感染初期に上昇するが、抗体産生応答が低い場合や測定時期により偽陰性と判定される場合がある。さらに血中からIgM抗体が消失するまでに時間がかかるため、血清学的検査の結果が現在の感染状況を的確に示しているとは言い難い側面がある。
したがって、血清学的検査による確定診断は急性期と回復期のペア血清を用いた定量的検査をせざるを得ず、事後診断となる場合が多い。
【0009】
またマイコプラズマ・ニューモニエのDNAを検出する核酸検出法も用いられている。しかし、核酸検出法は核酸増幅の操作が複雑で、かつ、特別な機器を必要とすること、測定に数時間を要することなどから一般的に用いられている検査ではない。
【0010】
より迅速かつ簡便にマイコプラズマ・ニューモニエ感染を検出するために、マイコプラズマ・ニューモニエ抗原に対する特異的抗体が開発され、マイコプラズマ感染の有無を鑑別する検出法が報告されている。
【0011】
マイコプラズマ・ニューモニエは、フラスコ型の突起部である接着器官により呼吸器上皮細胞の繊毛に付着した後、滑走運動により細胞表面に移動して接着することで感染が成立する。この接着や滑走運動に中心的な役割を果たす接着タンパク質として知られているP1タンパク質(169KDa)に特異的な抗体を作製し、前記P1タンパク質を検出マーカーとして用いた検出法(特許文献1及び2)が報告されている。
前記報告にある検出抗原であるP1タンパク質は、2つの遺伝子型が存在し、遺伝子型間でP1タンパク質のアミノ酸配列が異なることも知られている。したがって、広範にマイコプラズマ・ニューモニエを検出するためには、それぞれのP1遺伝子型のP1タンパク質に対応した抗体、もしくは各遺伝子型間のP1タンパク質の共通部位を認識する抗体を作出する必要がある。また季節ごとの流行によっては、昨流行期とは異なる遺伝子型が検出されること、つまり流行期により遺伝子型が変化することが報告されているため、流行初期に遺伝子型を見極め、対応した抗体を使用する必要がある。
【0012】
またP1タンパク質よりもマイコプラズマ・ニューモニエの分離株間で保存されていることが知られているDnaKタンパク質を検出用マーカーとして用いた検出法(特許文献3)も報告されている。DnaKタンパク質は、ヒトにおける泌尿器感染症の原因となるマイコプラズマ・ジェニタリウムも有しているため交差反応性を示す。したがって、当該タンパク質を検出用マーカーとしてマイコプラズマ・ニューモニエを特異的に検出することはできない。
【0013】
またマイコプラズマ・ニューモニエの接着タンパク質であるP30タンパク質(30 kDa)の変異株に関し報告がある。(非特許文献1)。本報告において、P30タンパク質に対するウサギ抗血清を用いたSDS-PAGE検出法について報告されている。P30タンパク質のN末端アミノ酸配列からなるポリペプチド(102-181番目)およびC末端アミノ酸配列からなるポリペプチド(139-275番目)をModified murine dihydrofolate reductase(DHFR)との融合タンパク質として発現させ、当該融合タンパク質に対するウサギ抗血清を作出している。本報告において、P30タンパク質に対し反応性を有するウサギ抗血清が開示されるのみであり、P30タンパク質における特定のエピトープを認識する抗体については何ら開示されていない。さらには本抗血清が本発明における免疫検出法に使用できるものであるかは定かでは無く、高い特異性および反応性を有するものであるかも不明である。
【0014】
マイコプラズマ肺炎は、適切な治療が行われない場合、症状の長期化や重症化、さらには二次感染による感染拡大を招く恐れがあった。そこで適切な治療や抗菌薬を選択するため、マイコプラズマ・ニューモニエの迅速かつ確実な検出が求められていた。
さらにはマイコプラズマ・ニューモニエを迅速に検出する試みはなされているものの、さらにマイコプラズマ・ニューモニエを特異的に検出できる特異的抗体、さらに前記抗体を含む免疫測定法及びキットが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平5-304990号公報
【文献】特開2013-72663号公報
【文献】国際公開WO2011/068189号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】G. Layh-Schmittら,「The adhesin related 30-kDa protein of Mycoplasma peumoniae exhibits size and antigen variability.」, FEMS Microbiology Letters, 152, 1997, p.101-108.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、生体試料中のマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質を特異的に検出することにより、マイコプラズマ・ニューモニエによる感染の診断を従来よりも高い精度で行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質を免疫源としてマウスを免疫してP30タンパク質の特定のエピトープに対する抗体を取得することに成功し、当該抗体を免疫測定法、特にサンドイッチ式免疫測定法、とりわけイムノクロマトグラフィー測定法で使用することにより、マイコプラズマ・ニューモニエを従来よりも特異的かつ高感度に検出し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明の一局面によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する抗体を用いる免疫測定法からなり、前記抗体が配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するエピトープに対する抗体であるマイコプラズマ・ニューモニエの検出法が提供される。
同様に、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する抗体を少なくとも備えており、前記抗体が配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するP30タンパク質のエピトープに対する抗体であるマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的測定キットが提供される。
この検出法及び免疫学的測定キットにおける免疫測定法としては、とりわけELISA(Enzyme-linked Immunosorbent assay)法、イムノクロマトグラフィー測定法などのサンドイッチ式免疫測定法が好ましい。
【0020】
したがって、本発明の他の局面によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体と第二の抗体とを用いたサンドイッチ式免疫測定法からなり、前記第一の抗体および前記第二の抗体の少なくとも何れか一方が配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するエピトープに対する抗体であるマイコプラズマ・ニューモニエの検出法が提供される。
同様に、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体と第二の抗体とを少なくとも備えてなり、前記第一の抗体および前記第二の抗体の少なくとも何れか一方が配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するP30タンパク質のエピトープに対する抗体であるマイコプラズマ・ニューモニエのサンドイッチ式免疫測定キットが提供される。
【0021】
また、本発明の好ましい実施形態によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体を予め所定位置に固定せしめて形成された捕捉部位を備える膜担体を用意し、該P30タンパク質に対する第二の抗体と所定量の被検試料との混合液を、前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開せしめ、前記被検試料中に含まれる抗原と前記第二の抗体との複合体を前記捕捉部位に捕捉させるイムノクロマトグラフィー測定法であって、前記第一の抗体および前記第二の抗体の少なくとも何れか一方が、配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するエピトープに対する抗体であるマイコプラズマ・ニューモニエ検出用のイムノクロマトグラフィー測定法が提供される。
【0022】
また、本発明の好ましい実施形態によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体と第二の抗体と膜担体とを少なくとも備え、前記第一の抗体は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第二の抗体は適当な標識物質で標識され、かつ、前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように用意されてなるイムノクロマトグラフィーテストストリップであって、前記第一の抗体および前記第二の抗体の少なくとも何れか一方が配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するエピトープに対する抗体であるマイコプラズマ・ニューモニエ検出用のイムノクロマトグラフィー法テストストリップが提供される。
【0023】
本発明で必須に使用するP30タンパク質に対する抗体は、配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するエピトープに対する抗体であり、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点から、モノクローナル抗体とすることが好ましい。
なお、配列番号3乃至5のアミノ酸配列は、配列番号1に示されるP30タンパク質の全アミノ酸配列の一部を構成するものであり、P30タンパク質のエピトープを含む領域である。
【0024】
イムノクロマトグラフィー測定法などのサンドイッチ式免疫測定法の場合、そこで使用する第一の抗体及び第二の抗体は、それぞれ、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点から、一般に、少なくとも一方の抗体をモノクローナル抗体とすることが好ましく、両方の抗体をモノクローナル抗体とすることが特に好ましい。また、P30タンパク質は菌体表面に局在し多数存在しているが、使用した抗体による競合反応を回避し、より高い反応性を有するためにも、第一の抗体と第二の抗体は、P30タンパク質の異なるエピトープに対する抗体であることが好ましい。
【0025】
なお、本発明のマイコプラズマ・ニューモニエ検出用抗体が反応するマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質は、マイコプラズマが生体細胞に接着する際に必要なタンパク質であり、接着因子であるP1タンパク質と共に働く、アクセサリータンパク質の1つとして知られている。
【0026】
P30タンパク質は分子量30KDaのタンパク質であり、P1タンパク質と同様に接着と病原性に関係する接着タンパク質の1つである。マイコプラズマ・ニューモニエの菌体においては、接着器官の先端部の細胞表面に局在しており、細胞膜内に埋没しているN末端領域と細胞膜外に存在するC末端領域を持つ膜貫通型タンパク質である。また、C末端領域にはプロリンを多く含むアミノ酸配列が存在し、前記配列の繰り返し構造が存在する。一般的にプロリンを多く含むアミノ酸配列からなる領域は、立体的な高次構造をとることが知られており、抗体の反応するエピトープとなる可能性が高いことが知られている。
本発明で使用する抗体は、配列番号1に示されるP30タンパク質の全アミノ酸のうち、配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するエピトープに対する抗体である。またこれらの抗体は他のマイコプラズマ属と反応せず、マイコプラズマ・ニューモニエのみに反応し、特異性に優れるものである。配列番号3乃至5のアミノ酸配列はP30タンパク質のエピトープを含む領域である。したがって、本発明で使用する抗体は配列番号3乃至5のアミノ酸配列の何れか1つに含まれる12~15アミノ酸残基からなるP30タンパク質の断片と抗原抗体反応する抗体と言い換えることができる。
【0027】
かくして、本発明の他の局面によれば、配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するP30タンパク質のエピトープを認識する抗体が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、マイコプラズマ・ニューモニエP30タンパク質に対して特異的に反応する抗体を作製し、前記P30タンパク質を検出マーカーとして用いて免疫学的測定を行うことにより、マイコプラズマ・ニューモニエの感染を、迅速かつ特異的に診断することができる。また、本発明の免疫学的測定法および測定器具によれば、特殊な機器および熟練した技術を必要とすることなく、病院等において簡便かつ迅速にマイコプラズマ・ニューモニエによる感染の診断を従来よりも迅速かつ安全に行うことができる。
【0029】
本発明によれば、免疫測定法による検出法において配列番号1に示されるP30タンパク質の全アミノ酸配列のうち、配列番号3乃至5の何れか1つのアミノ酸配列に位置するエピトープに対する抗体を用いることにしたので、マイコプラズマ・ニューモニエによる感染の診断を従来よりも高い精度で行うことができ、さらには高感度に検出が可能となり早期に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】aはイムノクロマト法テストストリップの平面図、bはaで示されたイムノクロマト法テストストリップの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明において、抗体の製造および該抗体を使用する検出法及び測定法における各ステップは、それぞれ、それ自体、公知の免疫学的手法に準拠して行われる。
【0032】
本発明において、ポリクローナル抗体は、例えば、配列番号1に記載されるアミノ酸配列をコードするDNA配列のうち、配列番号3乃至5のアミノ酸配列に対応するDNA断片をクローニングし、当該クローン化遺伝子を大腸菌などの宿主で遺伝子工学的に発現させて発現タンパク質を抽出および精製し、この精製タンパク質を抗原として、常法に従って動物を免疫し、その抗血清から得ることができる。
本発明において、モノクローナル抗体は、例えば、上記と同様に得られた精製タンパク質を抗原として、マウスのような動物に免疫した後、この免疫された動物の脾臓細胞とミエローマ細胞とを細胞融合して得られた融合細胞をHAT含有培地で選択した後に増殖せしめる。増殖せしめた株を前記のようにして得られた配列番号3乃至5のアミノ酸配列からなるポリペプチドを使用して、例えば、酵素標識免疫法等により選別することで、取得することができる。
【0033】
別法として、上記モノクローナル抗体は、例えば、マイコプラズマ・ニューモニエ菌体より精製したP30タンパク質を抗原として、マウスのような動物に免疫した後、この免疫された動物の脾臓細胞とミエローマ細胞とを細胞融合して得られた融合細胞をHAT含有培地で選択した後に増殖せしめ、増殖せしめた株から、配列番号3乃至5のポリペプチドと反応する株を選別することで、取得することができる。
【0034】
本発明の抗体は、抗体ならびに当該抗体と実質的に同等のマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質における配列番号3乃至5のアミノ酸配列からなるポリペプチドに対して反応性を有する抗体フラグメントおよび改変抗体も含む。抗体フラグメントとしてはFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント、scFvフラグメントなどが挙げられる。
【0035】
被験試料中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出するための本発明のイムノクロマトグラフィー測定法は、公知のイムノクロマトグラフィー法テストストリップの構成に準拠して容易に実施できる。
一般に、かかるイムノクロマトグラフィー法テストストリップは、抗原の第一の抗原決定基にて抗体抗原反応可能な第一の抗体と、前記抗原の第二の抗原決定基にて抗体抗原反応可能で且つ標識された第二の抗体と、膜担体とを少なくとも備え、前記第一の抗体は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第二の抗体は前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように配置されて構成される。第一の抗体および第二の抗体は、上述のように、それぞれポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であっても良いが、少なくとも何れか一方がモノクローナル抗体であることが好ましい。通常は、第一の抗体及び第二の抗体は「ヘテロ」の組み合わせで用いられ、すなわち、抗原上の位置および構造の何れもが異なる各抗原決定基をそれぞれ認識する第一の抗体及び第二の抗体が組み合わせて用いられる。しかしながら、第一の抗原決定基と第二の抗原決定基は抗原上の位置が異なっていれば構造的に同一であってもよく、その場合、第一の抗体および第二の抗体は「ホモ」の組み合わせのモノクローナル抗体であってよく、すなわち、第一の抗体および第二の抗体の両方に同一のモノクローナル抗体が使用できる。
【0036】
例えば、
図1に示されるテストストリップが挙げられる。
図1において、数字1は粘着シート、2は含浸部材、3は膜担体、31は捕捉部位、32は対照捕捉部位、4は吸収用部材、5は試料添加用部材を示している。
図示の例では、膜担体3は、幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース製メンブレンフィルターで作成されている。
該膜担体3には、そのクロマト展開始点側の末端から7.5mmの位置に、第一の抗体が固定され、検体の捕捉部位31が形成される。さらに、膜担体3のクロマト展開始点側の末端から15mmの位置に対照捕捉部位32が設けられている。この対照捕捉部位32は、分析対象物質の存否にかかわらず反応が行われたことを確認するためのものであり、通常、前記第二の抗体と免疫学的に特異的に結合する物質(分析対象物質を除く)を膜担体3に固定化することによって形成することができる。例えば、第二の抗体としてマウス由来の抗体を用いた場合は、該マウス抗体に対する抗体を用いることができる。
図示の例では、膜担体3は、ニトロセルロース製メンブレンフィルターを用いているが、被験試料に含まれる検体をクロマト展開可能で、かつ、上記捕捉部位31を形成する抗体を固定可能なものであれば、いかなるものであってもよく、他のセルロース類膜、ナイロン膜、ガラス繊維膜なども使用できる。
【0037】
含浸部材2は、前記第一の抗体が結合する第一の抗原決定基と異なる部位に位置する第二の抗原決定基にて前記抗原と抗体抗原反応する第二の抗体を含浸せしめた部材からなる。当該第二の抗体は、適当な標識物質で予め標識される。
図示の例では、含浸部材2として、5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、セルロース類布(濾紙、ニトロセルロース膜等)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質プラスチック布類なども使用できる。
【0038】
第二の抗体の標識物質としては、使用可能なものであればいかなる物質であってもよく、呈色標識物質、酵素標識物質、蛍光標識物質、放射線標識物質などが挙げられる。このうち、捕捉部位31での色の変化を肉眼で観察することにより迅速かつ簡便に判定できる点から、呈色標識物質を用いることが好ましい。
呈色標識物質としては、金コロイド、白金コロイド等の金属コロイドの他、赤色および青色などのそれぞれの顔料で着色されたポリスチレンラテックスなどの合成ラテックスや、天然ゴムラテックスなどのラテックスが挙げられ、このうち、金コロイドなどの金属コロイドが特に好ましい。
当該含浸部材2は、標識された第二の抗体の懸濁液を前記ガラス繊維不織布等の部材に含浸せしめ、これを乾燥させることなどによって作製できる。
【0039】
図1に示されるように、膜担体3を粘着シート1の中程に貼着し、該膜担体3のクロマト展開の開始点側(すなわち
図1の左側、以下「上流側」と記す、また、その逆の側、すなわち
図1の右側を、以下「下流側」と記す)の末端の上に、含浸部材2の下流側末端を重ね合わせて連接するとともに、この含浸部材2の上流側部分を粘着シート1に貼着して本発明のイムノクロマトグラフィー法テストストリップを作製できる。
さらに、必要に応じて、含浸部材2の上面に試料添加用部材5の下流側部分を載置するとともに、該試料添加用部材5の上流側部分を粘着シート1に貼着してもよく、また、膜担体3の下流側部分の上面に吸収用部材4の上流側部分を載置するとともに、該吸収用部材4の下流側部分を粘着シート1に貼着せしめることもできる。
【0040】
吸収用部材4は、液体をすみやかに吸収、保持できる材質のものであればよく、綿布、濾紙、およびポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質プラスチック不織布等を挙げることができるが、特に濾紙が最適である。また吸水性ポリマーを包含した複合材料からなる濾紙も使用できる。
【0041】
試料添加用部材5としては、例えば、多孔質ポリエチレンおよび多孔質ポリプロピレンなどのような多孔質合成樹脂のシートまたはフィルム、ならびに、濾紙および綿布などのようなセルロース製の紙または織布もしくは不織布を用いることができる。
【0042】
さらに、
図1のイムノクロマトグラフィー法テストストリップは、試料添加用部材5と捕捉部位31の上方にそれぞれ被験試料注入部と判定部が開口された適当なプラスチック製ケース内に収容されて提供することができる。使用者の二次感染を防ぐ目的からイムノクロマトグラフィー法テストストリップは、プラスチック製ケース内に収容されて提供されることが好ましい。
【0043】
かくして、生体試料などからなる被験試料を必要に応じて適当な展開溶媒と混合してクロマト展開可能な混合液を得た後、当該混合液を
図1に示されるイムノクロマトグラフィー法テストストリップの試料添加用部材5上に注入すると、該混合液は、該試料添加用部材5を通過して含浸部材2において、標識された第二の抗体と混合する。
【0044】
その際、該混合液中に被検出物が存在すれば、抗原抗体反応により被検出物と第二の抗体との複合体が形成される。この複合体は、膜担体3中をクロマト展開されて捕捉部位31に到達し、そこに固定された第一の抗体と抗原抗体反応して捕捉される。
このとき、標識物質として金コロイドなどの呈色標識物質が使用されていれば、当該呈色標識物質の集積により捕捉部位31が発色するので、直ちに、検体を定性的または定量的に測定することができる。さらにイムノクロマトグラフィー法テストストリップの捕捉部位31に集積した当該呈色標識物質の呈色強度をイムノクロマトリーダーによる光学的読み取りを行うことにより、呈色強度を数値化し、定量的に測定することができる。
また正常にクロマト展開がなされた場合は、被検出物と抗原抗体反応しなかった第二の抗体が対照捕捉部位32に到達し、そこに固定された第二の抗体に対して反応する抗体に捕捉される。このとき、標識物質として呈色標識物質が使用されていれば、当該呈色標識物質の集積により対照捕捉部位32が発色し、正常にクロマト展開がなされたことが確認される。一方、対照捕捉領域32が発色しなかった場合は、第二の抗体の展開がなされていない等の問題が発生したことが確認される。
【0045】
被験試料としては、特に制限はないが、例えば、鼻腔吸引液、鼻咽頭吸引液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、鼻咽頭拭い液喀痰、唾液、気管支洗浄液等、マイコプラズマ・ニューモニエが存在し得る生体試料が挙げられる。被験試料は、生理食塩水や展開溶媒などの適当な希釈液で希釈して膜担体に注入してもよい。
なお血液が混入した被験試料を用いるときで、特に標識抗体の標識物質として金コロイドなどの呈色標識物質が用いられる場合、前記試料添加用部材に血球捕捉膜部材を配置しておくことが好ましい。血球捕捉膜部材は、前記含浸部材と前記試料添加用部材との間に積層することが好ましい。これにより、赤血球が膜担体に展開されるのが阻止されるので、膜担体の捕捉部位における呈色標識物質の集積の確認が容易になる。血球捕捉膜部材としては、カルボキシメチルセルロース膜が用いられ、具体的には、アドバンテック東洋株式会社から販売されているイオン交換濾紙CM(商品名)や、ワットマンジャパン株式会社から販売されているイオン交換セルロースペーパーなどを用いることができる。
【実施例】
【0046】
下記の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1:組換えP30タンパク質の発現と精製)
マイコプラズマ・ニューモニエM129株のP30タンパク質のアミノ酸配列をDDBJ(国立遺伝学研究所データベース)より入手した。前記P30タンパク質のアミノ酸配列から、膜貫通ドメインを除いた細胞外領域である配列番号2に示すアミノ酸配列(AA74-274)を特定し、対応する遺伝子配列を合成した。His-tag発現用ベクターであるpET302/NT-Hisを制限酵素EcoRIで切断した後、脱リン酸化処理としてアルカリフォスファターゼにより処理し、前記遺伝子配列と混合し、DAN Ligation Kit Ver.2(タカラバイオ)を用いてライゲーション反応をおこなった。目的遺伝子を組み込んだ組換えP30プラスミドを組換え蛋白発現用宿主E.coli BL(DE3) pLysS(Novagen社の製品)に導入した。導入菌をLB寒天平板培地で培養し、得られたコロニーをLB液体培地で培養した。さらに1mM IPTG(タカラバイオ社の製品)を添加して組換えP30タンパク質の発現を誘導した後、E.coliを回収した。回収した菌を可溶化バッファー[0.5% Triton X-100(Sigma社の製品)、10mM Imidazole、20mM Phosphateおよび0.5M NaCl(pH7.4)(Amersham社の製品)]に再浮遊し、超音波処理により可溶化した後、組換えP30タンパク質をHis trap Kit(Amersham社の製品)を用いて精製した。この精製タンパク質をリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと称する)に対して透析し、目的の組換えP30タンパク質とした。
【0048】
(実施例2:組換えP30タンパク質に対するモノクローナル抗体の作出)
実施例1で得られた組換えP30タンパク質を免疫用抗原として、組換えP30タンパク質に対するモノクローナル抗体(以下、抗P30抗体と称する)を作出した。モノクローナル抗体の作出は常法に従っておこなった。100μgの組換えP30タンパク質と等量のAdjuvant Complete Freund(Difco社の製品)を混合して、マウス(BALB/c、5週齢、日本SLC)に3回免疫し、その脾臓細胞を細胞融合に用いた。細胞融合には、マウスの骨髄腫細胞であるSp2/0-Ag14細胞(Shulmanら、1978)を用いた。細胞の培養には、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(Gibco社の製品)にL-グルタミン 0.3mg/ml、ペニシリンGカリウム 100単位/ml、硫酸ストレプトマイシン 100μg/ml、Gentacin 40μg/mlを添加し(以下、DMEMと称する)、これに牛胎児血清(JRH社の製品)を10%となるように加えた培養液を用いた。細胞融合は、免疫マウスの脾臓細胞とSp2/0-Ag14細胞を混合し、そこにPolyethylene glycol solution(Sigma社の製品)を添加することにより行った。融合細胞はHAT-DMEM[0.1mM Sodium Hypoxanthine、0.4μM Aminopterinおよび0.016mM Thymidine(Gibco社の製品)を含む血清加DMEM]で培養し、酵素結合抗体法(ELISA)により培養上清中の抗体産生を確認した。抗体産生陽性の細胞をHT-DMEM[0.1mM Sodium Hypoxanthineおよび0.16mM Thymidineを含む血清加DMEM]で培養し、さらに血清加DMEMで培養を続けた。
【0049】
(実施例3:モノクローナル抗体の調製)
クローニングした細胞は、2, 6, 10, 14-Tetramethylpentadecane(Sigma社の製品)を接種しておいたマウス(BALB/c、リタイア、日本SLC)に腹腔内接種し、腹水を採取した。この腹水をプロテインGカラムに供し、モノクローナル抗体を精製した。作出したモノクローナル抗体のアイソタイプは、Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Reagents(Sigma社の製品)を用いて同定した。
最終的にP30タンパク質に対するモノクローナル抗体産生細胞が6クローン得られた。
【0050】
(参考例1:試験用標準菌液の作製)
マイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株の標準株をPPLO液体培地に接種し、所定濃度になるまで5% CO2雰囲気下、37℃で培養した。得られた培養液をPPLO液体培地にて、10万倍希釈液まで10倍段階希釈液を調製し、その各希釈液をPPLO寒天培地上の発育コロニー数を実体顕微鏡下にて計測し、菌濃度を算出した。得られた培養液を試験用菌液とした。
【0051】
(比較例1:マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質の精製)
マイコプラズマ・ニューモニエM129株をPPLO液体培地に接種し、37℃にて培養した。得られた培養液を遠心分離し、菌体を回収した。菌体からのP1タンパク質の精製方法はNakaneらの方法(Journal of Bacteriology, 2011)に基づき実施した。
得られた菌体はPBS、pH7.4にて二回洗浄した。前記菌体を1% CHAPSを含むPBSに懸濁させた後、前記懸濁液を遠心分離し、さらに得られた沈渣に対し、2% オクチルグルコシドを含むPBSを添加し溶解させた。前記溶液を遠心分離し、上清を回収した。得られた上清を硫安分画に供し、遠心分離により残渣を得た。得られた残渣を0.3% Triton X-100を含むPBSに溶解させ、Superdex200を用いたゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより精製した。この精製タンパク質を含む画分をSDS-pageにより分析し約170kDaに単一のバンドを確認し、目的のP1タンパク質を得た。
【0052】
(実施例4:抗P30抗体のエピトープ解析)
配列番号1のマイコプラズマ・ニューモニエ由来のP30タンパク質のアミノ酸配列より、N末端側に存在するプロリンを多く含む領域からエピトープとなり得る可能性のあるアミノ酸配列を選択し、配列番号3乃至5のアミノ酸配列からなるポリペプチドを合成した。合成したポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から178-189番目のGMAPRPGMPPHP(配列番号3)、190-201番目のGMAPRPGFPPQP(配列番号4)および、250-262番目のGMAPRPGMQPPRP(配列番号5)であった。なお、配列番号3に示す配列は、N末端から202-213番目および226-237番目において同様の配列が存在し、また配列番号4に示す配列は214-225番目および238-249番目において同様の配列が存在する。すなわち、配列番号3および4のアミノ酸配列はP30タンパク質内に複数存在し、繰り返し構造を有している。
前記配列番号3乃至5に示すアミノ酸配列からなるペプチドを、96穴マイクロプレートに添加し固相化した。対照として、マイコプラズマ・ニューモニエ(M.pneumoniae)精製菌体、実施例1にて調製した精製P30タンパク質、P30タンパク質のN末端側から101-125番目のKRKEKRLLEEKERQEQLORIS(配列番号6)、126-145番目のAQQEEQQALEQQAAAEAHAE(配列番号7)からなるポリぺプチド、および参考例1にて調製したマイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質を固相化し、前記と同様に実施例3にて作出したモノクローナル抗体の反応性を確認した。
ペプチドを所定濃度にて固相化したマイクロプレートに、実施例3にて作製したモノクローナル抗体を添加し、室温にて1時間反応させた。次にウェル内の溶液を吸引除去し、洗浄後、ビオチン標識抗マウス抗体を反応させた。1時間の反応の後、ウェル内の溶液を吸引除去し洗浄した後、アビジン標識ホースラディッシュペルオキシダーゼを添加し反応させた。その後、発色基質として3, 3’, 5, 5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)溶液を添加し反応させ、2規定の硫酸により反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Biorad社の製品)にて主波長450nmにて吸光度を測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0053】
上記結果より、モノクローナル抗体BLMP001は、配列番号5のアミノ酸配列からなるポリペプチドに最も強い反応を示した。また類似配列である配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドおよび配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドに対しても反応を示した。
モノクローナル抗体BLMP002は配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドに対し強い反応を示し、モノクローナル抗体BLMP003は配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドに強い反応を示した。モノクローナル抗体BLMP001と同様に、類似するアミノ酸配列からなる他のポリペプチドに対しても反応性を示した。
モノクローナル抗体BLMP004は、配列番号3、配列番号4および配列番号5のアミノ酸配列からなるポリペプチド全てに対し反応を示した。それぞれのアミノ酸配列における共通する配列を認識するモノクローナル抗体であることが推測される。
モノクローナル抗体BLMP001、BLMP002及びBLMP003はM.pneumoniae精製菌体および精製P30タンパク質に対し高い反応を示し、対照とした精製P1タンパク質に対し反応性を示さなかった。
よってモノクローナル抗体BLMP001はP30タンパク質における配列番号5のアミノ酸配列からなるポリペプチドを認識し、モノクローナル抗体BLMP002は配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドを認識し、モノクローナル抗体BLMP003は配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドを認識する抗体であることが確認された。
【0054】
(実施例5:抗P30抗体を用いたイムノクロマトグラフィー法テストストリップの作製)
(1)抗P30抗体の調製
実施例3で得られたモノクローナル抗体BLMP001産生細胞およびモノクローナル抗体BLMP004産生細胞をマウス腹腔に接種し得られた腹水それぞれを、さらに常法によりプロテインGを用いたIgG精製を行い、抗P30抗体とした。
【0055】
(2)白金-金コロイド粒子溶液の調製
使用するガラス器具の全てを王水で洗浄した。390mlの超純水をフラスコに入れて沸騰させ、この沸騰水に塩化金酸水溶液(水溶液1リットル当たり金として1g 、片山化学工業株式会社製)30mlを加え、その後、1重量% クエン酸ナトリウム水溶液60mlを加え、6分45秒後に、塩化白金酸水溶液(水溶液1リットル当たり白金として1g、和光純薬工業株式会社製) 30mlを加えた。塩化白金酸水溶液添加から5分後に1重量% クエン酸ナトリウム水溶液60mlを加え、4時間、還流を行い、白金-金コロイド懸濁液を得た。
【0056】
(3)白金-金コロイド標識抗P30抗体溶液の調製
白金-金コロイド標識する抗P30抗体として、上記(1)で得られたモノクローナル抗体BLMP001を用い、下記の手順で白金-金コロイド標識を行った。
抗P30抗体の蛋白換算重量1μg(以下、抗体の蛋白換算重量を示すとき、単に、その精製蛋白質の重量分析による重量数値で示す)と上記(2)の白金-金コロイド溶液1mlとを混合し、室温で2分間静置してこの抗体のことごとくを白金-金コロイド粒子表面に結合させた後、白金-金コロイド溶液における最終濃度が1%となるように10% ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」と記す)水溶液を加え、この白金-金コロイド粒子の残余の表面をことごとくこのBSAでブロックして、白金-金コロイド標識抗P30抗体(以下、「白金-金コロイド標識抗体」と記す)溶液を調製した。この溶液を遠心分離(5600×G、30分間)して白金-金コロイド標識抗体を沈殿せしめ、上清液を除いて白金-金コロイド標識抗体を得た。この白金-金コロイド標識抗体を10% サッカロース・1% BSA・0.5% Triton-X100を含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に懸濁して白金-金コロイド標識抗体溶液を得た。
【0057】
(4)マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質検出用イムノクロマトグラフィー法テストストリップの作製
(4-1)マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質と金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位
幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3として用意した。抗P30抗体1.0 mg/mlが含有されてなる溶液0.5μlを、このクロマト展開用膜担体3におけるクロマト展開開始点側の末端から7.5mmの位置にライン状に塗布して、これを室温で乾燥し、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質と白金-金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位31とした。この塗布用抗P30抗体として、上記(1)で得られたモノクローナル抗体BLMP004を用いた。
(4-2)白金-金コロイド標識抗体含浸部材
5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布に、白金-金コロイド標識抗体溶液37.5μlを含浸せしめ、これを室温で乾燥させて白金-金コロイド標識抗体含浸部材2とした。
(4-3)イムノクロマトグラフィー法テストストリップの作製
上記クロマト展開用膜担体3、上記標識抗体含浸部材2の他に、試料添加用部材5として綿布と、吸収用部材4として濾紙を用意した。そして、これらの部材を用いて、
図1と同様のイムノクロマトグラフィー法テストストリップを作製した。
【0058】
(5)試験
マイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株の培養菌液を検体抽出液で希釈して、所定濃度に調製し、被検試料とした。そして、被検試料100μ1を用いて上記(4)で得られたテストストリップの試料添加用部材5にマイクロピペットで滴下してクロマト展開し、室温で15分放置後、上記捕捉部位31で捕捉されたP30タンパク質と白金-金コロイド標識抗体との複合体の捕捉量を肉眼で観察した。捕捉量は、その量に比例して増減する黒色の呈色度合いを肉眼で-(着色なし)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)、+++(極めて顕著な着色)の5段階に区分して判定した。陰性対照として、マイコプラズマ・ジェニタリウム(M.genitalium)の培養菌液を所定濃度にて用いた。
その結果を表2に示す。表2から明らかなように、マイコプラズマ・ニューモニエの2株に対し高い反応性を示し、陰性対照であるマイコプラズマ・ジェニタリウムに対しては適用した濃度全てにおいて陰性を示した。2種の抗P30抗体を使用したイムノクロマトグラフィー測定法により、高感度かつ高精度にマイコプラズマ・ニューモニエを検出できることがわかった。
【表2】
【0059】
(実施例6:P30タンパク質検出イムノクロマトグラフィー法テストストリップとP1タンパク質検出イムノクロマトグラフィー法テストストリップの反応性比較試験)
参考例1にて調製したマイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株の培養菌液を、検体抽出液にて所定濃度に調製し、被検試料とした。各イムノクロマトグラフィー法テストストリップに、被検試料100μlを試料添加用部材5にマイクロピペットでそれぞれ滴下してクロマト展開し、室温で15分間放置後、捕捉部位31で捕捉された抗原と白金-金コロイド標識抗体との複合体を肉眼で観察して判定を行った。捕捉量は、その量に比例して増減する黒色の呈色度合いを肉眼で-(着色なし)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)、+++(極めて顕著な着色)の5段階に区分して判定した。従来法として、市販されているマイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質を検出する試薬を用いた。結果を表3に示す。
【表3】
【0060】
表3から明らかなように、本発明の実施例5にて作製したP30タンパク質検出用イムノクロマトグラフィー法テストストリップを用いた場合、M129株では1×107 CFU/ml、FH株では1×106 CFU/mlで顕著な呈色を示し、M129株では1×106 CFU/ml、FH株では1×105 CFU/mlで明確な呈色を示した。
一方、従来法はM129株では1×107 CFU/ml以上にて、FH株では1×107 CFU/mlにて明確な呈色を示した。
【0061】
表3の結果から明らかなように、同じ呈色強度を示した被検試料の菌濃度を比較した結果、本発明の実施例5にて作製したP30タンパク質検出用イムノクロマトグラフィー法テストストリップが、P1タンパク質検出用イムノクロマトグラフィー法テストストリップに対し、M129株において約100倍、FH株において100倍、検出感度が高いことが示された。また従来法はマイコプラズマ・ジェニタリウムに対し、僅かではあるが交差反応を示し、非特異的呈色が確認された。本発明のP30タンパク質検出用イムノクロマトグラフィー法テストストリップにおいて交差反応は確認されなかった。
以上の結果より、本発明の抗P30抗体を用いたP30タンパク質検出用イムノクロマトグラフィー法テストストリップにより、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度かつ特異的に検出することが可能であることが示された。
【0062】
(実施例7:咽頭拭い液からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出)
臨床的にマイコプラズマ・ニューモニエの感染が疑われる患者20例を対象とし、前記患者から滅菌した綿棒を用いて、咽頭拭い液を採取した。前記咽頭拭い液は国立感染症研究所報告の核酸増幅法により、咽頭拭い液中にマイコプラズマ・ニューモニエが存在するか確認した。その結果より、採取した咽頭拭い液中からマイコプラズマ・ニューモニエの存在が確認された検体16例(陽性例)と遺伝子が検出されなかった検体4例(陰性例)を選択し、選択された咽頭拭い液を被験試料として調製した。被験試料は本発明のP30タンパク質検出イムノクロマトグラフィー法テストストリップを用いて、マイコプラズマ・ニューモニエの検出を実施した。従来法として市販されているマイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質を検出する試薬を用いた。
【0063】
被検試料100μlを実施例5にて作製したイムノクロマトグラフィー法テストストリップの試料添加用部材5にマイクロピペットでそれぞれ滴下してクロマト展開し、室温で15分間放置後、捕捉部位31で捕捉された抗原と白金-金コロイド標識抗体との複合体を肉眼で観察して判定を行った。捕捉量は、その量に比例して増減する黒色の呈色度合いを肉眼で-(着色なし)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)、+++(極めて顕著な着色)の5段階に区分して判定した。試験の結果を表4に示す。
【表4】
【0064】
表4から明らかなように、本発明の検出法と核酸増幅法の比較結果から、本発明の検出法は陽性一致率93.8%、陰性一致率100.0%、および、全体一致率95.0%と非常に高い一致率を示し、核酸増幅法と同等の精度にて検出することができることを確認した。従来法と比較し、本発明の検出法は高い検出感度と特異性を有する検出法であることが示された。
以上の結果から、本発明のイムノクロマトグラフィー法テストストリップは、咽頭拭い液からマイコプラズマ・ニューモニエを高感度かつ高精度に検出することができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質における特定のエピトープを認識する抗体を用いる免疫測定法からなるマイコプラズマ・ニューモニエの検出法およびキットが提供され、特殊な機器および熟練した技術を必要することなく、従来法と比較して、マイコプラズマ・ニューモニエの感染を迅速かつ特異的に診断することが可能となる。
【符号の説明】
【0066】
1 粘着シート
2 含浸部材
3 膜担体
31 捕捉部位
32 対照捕捉部位
4 吸収用部材
5 試料添加用部材
【配列表】