(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】探査対象物の異常箇所推定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/88 20060101AFI20240722BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20240722BHJP
G01N 22/02 20060101ALI20240722BHJP
G01V 3/12 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
G01S13/88 200
G01N22/00 S
G01N22/02 A
G01V3/12 B
(21)【出願番号】P 2022039466
(22)【出願日】2022-03-14
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】509072803
【氏名又は名称】株式会社土木管理総合試験所
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598017790
【氏名又は名称】西日本高速道路エンジニアリング九州株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 達也
(72)【発明者】
【氏名】緒方 辰男
(72)【発明者】
【氏名】平八重 真嗣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 真一郎
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-004598(JP,A)
【文献】特開2005-331404(JP,A)
【文献】特開2017-167002(JP,A)
【文献】特開2006-208201(JP,A)
【文献】特開2004-301610(JP,A)
【文献】特開2020-051851(JP,A)
【文献】特許第6729948(JP,B1)
【文献】特開2002-257744(JP,A)
【文献】米国特許第08306747(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第111441329(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
G01N 22/00 - 22/04
24/00 - 24/14
G01R 33/28 - 33/64
G01V 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測者が探査対象物の表面に走査方向における単位計測区間ごとに電磁波を照射し、前記探査対象物の内部からの前記電磁波の反射波を受信して得た各々の前記単位計測区間に対応する反射波データを用い、
計算機の制御部が、
前記単位計測区間のうち、任意に選択した任意位置単位計測区間における任意位置単位計測区間反射波データと、前記任意位置単位計測区間とは前記走査方向に異なる他位置単位計測区間における他位置単位計測区間反射波データとの一致度を算出し、前記任意位置単位計測区間反射波データと前記他位置単位計測区間反射波データとの一致度に基づいて、前記探査対象物の内部における異常がない正常単位計測区間を推定し、
前記正常単位計測区間に対応する前記反射波データをリファレンス反射波データとして、各前記単位計測区間に対応する前記反射波データと前記リファレンス反射波データとの一致度を反射波データ間一致度として算出し、
前記反射波データ間一致度が、予め設定された基準値から外れている前記反射波データに対応する前記単位計測区間を予想異常区間として抽出し、
前記走査方向における複数の前記
単位計測区間の各前記単位計測区間に対応する前記反射波データの前記走査方向における移動分散を算出し、
前記走査方向における複数の前記
単位計測区間における前記移動分散が予め設定された閾値未満である前記単位計測区間を前記予想異常区間から除去することで異常箇所を抽出することを特徴とする探査対象物の異常箇所推定方法。
【請求項2】
前記移動分散の算出は、
前記走査方向における複数の前記
単位計測区間の各前記単位計測区間に対応する前記反射波データの前記走査方向における反射強度の増減変化の微分値に対して行われることを特徴とする請求項1記載の探査対象物の異常箇所推定方法。
【請求項3】
前記走査方向における複数の前記
単位計測区間における前記移動分散が予め設定された閾値未満である前記単位計測区間を前記予想異常区間から除去して抽出した前記異常箇所の前記反射波データに対し、幾何学形状除去フィルタ処理を追加することを特徴とする請求項1または2記載の探査対象物の異常箇所推定方法。
【請求項4】
前記幾何学形状除去フィルタ処理は、ハフ変換処理であることを特徴とする請求項3記載の探査対象物の異常箇所推定方法。
【請求項5】
前記走査方向における複数の前記
単位計測区間における前記移動分散が予め設定された閾値未満である前記単位計測区間を前記予想異常区間から除去して抽出した前記異常箇所の前記反射波データに対し、前記走査方向における平滑化フィルタ処理をさらに行うことを特徴とする請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の探査対象物の異常箇所推定方法。
【請求項6】
予め設定された面積未満の前記異常箇所を除去する微少面積箇所除去処理をさらに行うことを特徴とする請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の探査対象物の異常箇所推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探査対象物の異常箇所推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
探査対象物を非破壊にて探査する方法としては、特許文献1(特開2018-004598号公報)に開示されているようなものが知られている。特許文献1において開示されている探査対象物の異常箇所推定方法によれば、探査対象物が単一材料による構成であるか複数材料による構成であるかにかかわらず、内部の異常箇所を短時間で正確に推定することが可能になり、広く好適に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている探査対象物の異常区間推定方法においては、探査対象物に電磁波レーダを照射して得られた反射波データから、探査対象物の内部における正常箇所と異常箇所を判別することが可能であるが、反射波データの中には、探査対象物に埋設されている人工物が異常箇所として判別されてしまうことがある。このため、異常箇所と判断された箇所からマンホール等に代表される人工物やアンテナ特性によって異常箇所とされた部分をノイズとして除去する必要があるといった課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明は上記課題を解決するためのものであり、その目的とするところは次のとおりである。すなわち、探査対象物に電磁波レーダを照射して得られた反射波データから人工物やアンテナ特性によって異常箇所と判断された部分をノイズ部分として除去し、効率的に探査対象物における異常箇所の特定が可能な探査対象物の異常箇所推定方法を提供することにある。
【0006】
上記課題を解決するため発明者が鋭意研究した結果、以下の構成に想到した。すなわち、本発明は、計測者が探査対象物の表面に走査方向における単位計測区間ごとに電磁波を照射し、前記探査対象物の内部からの前記電磁波の反射波を受信して得た各々の前記単位計測区間に対応する反射波データを用い、計算機の制御部が、前記単位計測区間のうち、任意に選択した任意位置単位計測区間における任意位置単位計測区間反射波データと、前記任意位置単位計測区間とは前記走査方向に異なる他位置単位計測区間における他位置単位計測区間反射波データとの一致度を算出し、前記任意位置単位計測区間反射波データと前記他位置単位計測区間反射波データとの一致度に基づいて、前記探査対象物の内部における異常がない正常単位計測区間を推定し、前記正常単位計測区間に対応する前記反射波データをリファレンス反射波データとして、各前記単位計測区間に対応する前記反射波データと前記リファレンス反射波データとの一致度を反射波データ間一致度として算出し、前記反射波データ間一致度が、予め設定された基準値から外れている前記反射波データに対応する前記単位計測区間を予想異常区間として抽出し、前記走査方向における複数の前記単位計測区間の各前記単位計測区間に対応する前記反射波データの前記走査方向における移動分散を算出し、前記走査方向における複数の前記単位計測区間における前記移動分散が予め設定された閾値未満である前記単位計測区間を前記予想異常区間から除去することで異常箇所を抽出することを特徴とする探査対象物の異常箇所推定方法である。
【0007】
これにより、探査対象物に電磁波レーダを照射して得られた反射波データから人工物やアンテナ特性によって異常箇所と判断されたノイズ部分を除去することができ、より効率的に探査対象物における異常箇所の特定が可能になる。
【0008】
また、前記移動分散の算出は、前記走査方向における複数の前記単位計測区間の各前記単位計測区間に対応する前記反射波データの前記走査方向における反射強度の増減変化の微分値に対して行われることが好ましい。
【0009】
これにより、探査対象物に電磁波レーダを照射して得られた反射波データから人工物やアンテナ特性によって異常箇所と判断されたいわゆるノイズ部分を効率的に除去することができる。
【0010】
また、前記走査方向における複数の前記単位計測区間における前記移動分散が予め設定された閾値未満である前記単位計測区間を前記予想異常区間から除去して抽出した前記異常箇所の前記反射波データに対し、幾何学形状除去フィルタ処理を追加することが好ましい。さらに、前記幾何学形状除去フィルタ処理は、ハフ変換処理であることより好ましい。
【0011】
これらにより、探査対象物に電磁波レーダを照射して得られた反射波データから人工物やアンテナ特性によって予想異常区間と判断されてしまったノイズ部分から特に人工物によるノイズ部分を効率的に除去することができる。
【0012】
また、前記走査方向における複数の前記単位計測区間における前記移動分散が予め設定された閾値未満である前記単位計測区間を前記予想異常区間から除去して抽出した前記異常箇所の前記反射波データに対し、前記走査方向における平滑化フィルタ処理をさらに行うことが好ましい。
【0013】
これにより、ノイズ部分の除去処理を行ったことによる弊害で断片化されてしまった予想異常区間を連続的な予想異常区間となるように適宜修復することができる。
【0014】
また、予め設定された面積未満の前記予想異常箇所を除去する微少面積箇所除去処理をさらに行うことが好ましい。
【0015】
これにより、断片化された予想異常区間を連続的な予想異常区間に修復した際に生じたノイズ部分を除去することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、探査対象物に電磁波レーダを照射して得られた反射波データから人工物やアンテナ特性によって異常箇所と判断されたノイズ部分を除去し、効率的に探査対象物の異常箇所推定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態における探査対象物の異常箇所推定装置を搭載した車両を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態における探査対象物の異常箇所推定装置の概略構成を示す説明図である。
【
図3】本実施形態にかかるRCスラブの異常箇所推定方法における概略工程図である。
【
図4】正常単位計測区間推定工程における処理フロー図である。
【
図5】それぞれの単位計測区間における断面画像データどうしの相関係数の変化を示したグラフである。
【
図6】
図5のグラフの上に他位置断面画像データ相関係数の走査方向における変化のグラフを重ねて表示したグラフである。
【
図7】それぞれの単位測点位置における第1単位計測区間画像データと第2単位計測区間画像データとの一致度の分散のグラフである。
【
図8】反射波データ間一致度の数値に応じた色彩により単位計測区間のそれぞれを塗りつぶし表示した単位計測区間の縮小表示マップである。
【
図10】1次予想異常区間反映データから健全部が除去された2次予想異常区間データである。
【
図11】
図10中の矢印Cにおける説明対象範囲の反射波データ間一致度を示した説明図である。
【
図12】2次予想異常区間データから健全部とみなした部分が削除された3次予想異常区間データを示した説明図である。
【
図13】平滑化フィルタ処理工程を経た6次予想異常区間データを示す説明図である。
【
図14】最終的な異常区間データのみが抽出された状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示すように、本実施形態における探査対象物の異常箇所推定装置100は、探査対象物としてのRCスラブ10の上面(走行面)を走行する車両VHに搭載されている形態について説明する。異常箇所推定装置100は、車両VHの前方位置に取り付けられた電磁波レーダ20と、車両VHの内部に配設された計算機30とを具備している。なお、本実施形態における異常箇所推定装置100における計算機30はノートパソコン等に代表される持ち運び可能な形態にすることもでき、車両VHとは別体とした計算機30を採用することもできる。
【0019】
計算機30は、
図2に示すように、受信部やキーボードに代表されるデータ入力部32、フラッシュメモリに代表される記憶部34、CPUに代表される制御部36、送信部やモニタに代表されるデータ出力部38を有する。データ入力部32は、電磁波レーダ20等の外部機器と通信可能である。記憶部34は、反射波データ等の各種データの記憶が可能であると共に探査対象物の異常箇所推定プログラム(以下、単にプログラムという)が予め記憶(インストール)されている。制御部36は、プログラムに基づいて所定の動作を実行するものである。データ出力部38は、データ入力部32から入力された反射波データや記憶部34に記憶されている各種データを表示等によって出力するものである。
【0020】
本実施形態における電磁波レーダ20は、電磁波照射部22と反射波受信部24とを有し、車両VHの走行方向(走査方向)前方側に電磁波照射部22を配設し、電磁波照射部22よりも走行方向後方側に反射波受信部24が配設されている。電磁波レーダ20のオンオフ動作は車両VHに搭乗している補助者または運転前後の運転者が図示しないオンオフスイッチを操作することにより切り替えが行われる。
図1に示すように本実施形態における電磁波レーダ20は、車両VHの前端部(図示しないフロントバンパー)に取り付けられている形態を採用しているが、電磁波レーダ20は車両VHの底面や後端部(リアバンパー)の他、図示しない牽引車両に電磁波レーダ20を搭載した形態を採用することもできる。
【0021】
本実施形態における電磁波レーダ20の電磁波照射部22および反射波受信部24は、車両VHの幅方向(走行方向と水平面内において直交する方向)に複数のチャンネルを有している。また、電磁波照射部22および反射波受信部24のチャンネル数は同一であって、互いのチャンネルは対をなしている。これにより電磁波照射部22は、探査対象であるRCスラブ10をRCスラブ10の延長方向と水平面内で直交するいわゆる道路幅方向に所要間隔で分割した単位計測区間12ごとに電磁波を照射して、反射波受信部24が単位計測区間12ごとに反射波を受信することができる。反射波受信部24が受信した反射波データは制御部36によって計算機30の記憶部34にそれぞれの単位計測区間12に紐づけした状態で順次記憶される。本実施形態にかかる電磁波レーダ20を取り付けた車両VHは、走行面を時速80kmで走行した場合、走査方向(走行方向)に7cm程度の間隔で、走査方向と水平方向に直交する方向の複数箇所(1車線幅あたり30チャンネル程度)に同時に電磁波の送受信を行うことができる。
【0022】
計算機30の制御部36としてはCPUおよびGPUを例示することができる。制御部36はプログラムに基づいて、RCスラブ10の異常箇所推定方法を実行すべく、各種の機能として作動する。具体的な機能とその内容は後述する。
【0023】
次に、異常箇所推定装置100を用いたRCスラブ10の異常箇所推定方法について説明を行う。
図3は、本実施形態にかかるRCスラブ10の異常箇所推定方法における概略工程図である。計測者が異常箇所推定装置100が搭載された車両VHを探査対象物であるRCスラブ10の延長方向に走行させながら車両VHに搭載されたスタートスイッチ(図示はせず)を操作すると、反射光データ収集機能としての制御部36が電磁波レーダ20を作動させて反射波データを収集する反射波データ収集工程を実行する。このようにして収集された反射波データはRCスラブ10の延長方向(走査方向)および幅方向に分割されたそれぞれの単位計測区間12に対応させた状態で記憶部34に記憶される。
【0024】
反射波データ収集手段としての制御部36は、収集した反射波を単位計測区間12に対応させた反射波データとしていわゆるコンピュータに読み取り可能な記憶媒体(図示せず)に記憶(保存)させるようにしてもよい。このような記憶媒体は、電磁波レーダ20にデータ通信可能に接続されたデータ処理端末内の記憶部34であってもよい。この場合、車両VHに搭載したデータ処理端末は反射波データ収集装置として作動することになる。
【0025】
(正常単位計測区間推定工程)
正常単位計測区間推定工程においては、正常単位計測区間推定手段である制御部36が反射波データに対して
図4に示すような処理フローを実行することにより正常単位計測区間の推定が行われる。まず、反射波データ一致度算出手段としての制御部36が走査方向に異なる位置における複数(3箇所以上であることが好ましい)の単位計測区間12に対応する反射波データの一致度(相関度)を算出する。この後、正常単位計測区間推定手段である制御部36が、算出された単位計測区間12に対応する反射波データの相関度に基づいて正常単位計測区間の推定を行う。ここでは、それぞれの単位計測区間12に対応する反射波データの相関度が算出される際において、それぞれの単位計測区間12における反射波データから得た断面画像データが反射波データとして用いられている。
【0026】
より詳細には、断面画像データ生成手段(任意位置単位計測区間断面画像データ生成手段および他位置単位計測区間断面画像データ生成手段)である制御部36が走査方向において同一位置にあるすべての単位計測区間12に対応する反射波データに基づいて、断面画像データの生成を行う(断面画像データ生成工程(任意位置単位計測区間断面画像データ生成工程と他位置単位計測区間断面画像データ生成工程を含む))。次に正常単位計測区間推定用画像データ一致度算出手段としての制御部36は、走査方向における任意位置の単位計測区間12に対応する断面画像データ(任意位置単位計測区間断面画像データ)と、任意位置を除いた走査方向における他の位置の単位計測区間12に対応する断面画像データ(他位置単位計測区間断面画像データ)とに基づいて、正常単位計測区間推定用画像データ一致度を算出する(正常単位計測区間推定用画像データ一致度算出工程)。これを換言すると、制御部36は、走査方向における任意位置単位計測区間反射波データと他位置単位計測区間反射波データとの一致度を算出していることになる。
【0027】
正常単位計測区間推定用画像データ一致度算出工程についてさらに詳細に説明する。ここでは、説明を簡略化するため、任意位置における単位計測区間12として走査方向において異なる位置にある2つの任意位置単位計測区間(
図5における任意の断面位置AとB)が用いられた形態について説明する。なお、断面位置Aは打音検査等による異常非検知箇所であり、断面位置Bは打音検査等による異常検知箇所である。
【0028】
任意位置断面画像データ相関係数算出手段としての制御部36は、任意位置単位計測区間断面画像データに対する走査方向におけるすべての単位計測区間12の断面画像データの一致度(相関度)を、任意位置断面画像データ相関係数として相関関数に基づいて算出する(任意位置断面画像データ相関係数算出工程)。本実施形態においては相関関数としてゼロ平均化正規化相互相関関数が用いられている。ここでは、ある位置における単位計測区間12の断面画像データに対する相関係数を算出する際、走査方向におけるすべての単位計測区間12の断面画像データ(の関数)に対し、ある位置における単位計測区間12の断面画像データ(の関数)を予め設定されている間隔ずつ高さ方向(RCスラブ10の深さ方向)にずらしながらそれぞれの高さ位置に対する相関係数が算出されている。
【0029】
そしてそれぞれの高さ位置に対する相関係数を算出した後、最も値が大きい相関係数をその単位計測区間12における相関係数として採用している。
図5は、任意位置AおよびBにおいて、それぞれの任意位置断面画像データ相関係数の走査方向における変化をグラフにしたものである。このような相関係数の算出方法を採用することにより、反射波データ収集時において車両VHの走行時(走査時)の高さ方向(上下方向)の動きに伴う電磁波レーダ20の高さ方向のずれにより生じる反射波データ(断面画像データ)の深さ方向位置についての誤差補正を行うことができる点において好都合である。
【0030】
次に、他位置断面画像データ相関係数算出手段としての制御部36は、他位置単位計測区間断面画像データに対する走査方向におけるすべての単位計測区間12の断面画像データの一致度(相関度)を、他位置断面画像データ相関係数として相関関数に基づいて算出する(他位置断面画像データ相関係数算出工程)。ここでは他位置単位計測区間として、任意の断面位置AおよびBのそれぞれに対し、走査方向に異なる位置における複数の単位計測区間12が選択されている。より詳細には、2つの任意位置単位計測区間である断面位置AおよびBから10測点以内にある全ての単位計測区間12が他位置単位計測区間として採用されている。
図6は、
図5のグラフの上に他位置断面画像データ相関係数の走査方向における変化のグラフを重ねて表示したグラフである。
【0031】
このように、走査方向において互いに近接した複数の位置(単位計測区間12)において任意位置単位計測区間と他位置単位計測区間を採用するのは、探査対象物であるRCスラブ10は、人工構造物であることに注目した結果である。具体的には、RCスラブ10は、走査方向における大多数の位置においてその断面形状がほぼ同じ形状を有している点と、RCスラブ10の内部に破損がある部分は、その部分での断面形状にはランダム性が存在している点と、をそれぞれ利用した結果である。
【0032】
図5および
図6から明らかなとおり、断面位置Aにおいては、任意位置単位計測区間画像データと他位置単位計測区間画像データとの一致度である相関係数のグラフのモードは変動が小さい。すなわち任意位置単位計測区間における断面画像データと他位置単位計測区間における断面画像データとは互いに類似しているということになる。これに対して断面位置Bにおいては、任意位置単位計測区間画像データと他位置単位計測区間画像データとの一致度である相関係数のグラフのモードは変動が大きい。すなわち任意位置単位計測区間における断面画像データと他位置単位計測区間における断面画像データは異なっているということになる。
【0033】
このような任意位置単位計測区間画像データと他位置単位計測区間画像データとの一致度の走査方向における変動モードの差が具体的な数値で表されている。具体的には、任意位置-他位置画像間データ一致度分散値算出手段としての制御部36に、走査方向におけるそれぞれの単位計測区間12における任意位置単位計測区間画像データと他位置単位計測区間画像データとの一致度(相関係数)の分散が算出されている(任意位置-他位置画像間データ一致度分散値算出工程)。
図7は、
図6に断面位置A,Bを含む走査方向におけるすべての単位計測区間12について、任意位置単位計測区間画像データ相関係数と他位置単位計測区間画像データ相関係数との分散のグラフを追加表示したものである。
【0034】
断面位置Aについては、
図7に示す分散の値が極めて小さいことからも明らかなように、走査方向において互いに近接する任意位置単位計測区間と他位置単位計測区間とにおける断面状態に変化(損傷)が極めて少ない(断面画像データが類似している)といえる。すなわち断面位置Aにおいては、任意位置単位計測区間と他位置単位計測区間とは断面状態に変化のない正常単位計測区間であると推定することができる。
【0035】
断面位置Bについては、
図7に示す分散の値が大きいことからも明らかなように、走査方向に互いに近接する任意位置単位計測区間と他位置単位計測区間とにおける断面状態に明確な変化(損傷)がある(断面画像データが異なっている)ということになる。すなわち断面位置Bにおいては、任意位置単位計測区間と他位置単位計測区間とにおいてはそれぞれの断面状態に何かしらの変化(損傷)があり、正常単位計測区間ではないと推定することができる。
【0036】
以上に説明した正常単位計測区間推定工程におけるデータ処理方法の他、任意位置単位計測区間画像データ相関係数と他位置単位計測区間画像データ相関係数との分散の数値が、予め設定された基準分散数値未満である場合、任意位置単位計測区間または他位置単位計測区間のいずれかを正常単位計測区間推定手段としての制御部36に選択させるようにしてもよい。このようにして推定した正常単位計測区間の位置は、打音検査による異常非検知箇所の位置と一致しており、適切な位置の推定が行われていると判断することができる。以上のようにしてRCスラブ10の内部における異常箇所がない断面位置(いわゆる健全断面位置)である正常単位計測区間を推定した後、正常単位計測区間として推定した単位計測区間12に対応する反射波データをリファレンス反射波データとして採用する。
【0037】
(反射波データ間一致度算出工程)
反射波データ間一致度算出手段である制御部36は、リファレンス反射波データを基準として、リファレンス反射波データとした単位計測区間12を除いた全ての走査方向における単位計測区間12に対応する反射波データの一致度を算出する(反射波データ間一致度算出工程)。このようにして算出された反射波データ間一致度は、記憶部34に単位計測区間12を縮小表示したマップに対応させた状態で記憶される。そして反射波データ間一致度表示手段である制御部36は、記憶部34に予め記憶されていた(または事後的にデータ入力部32から入力された)反射波データ間一致度の数値に応じた色彩データに基づいて単位計測区間12を縮小表示したマップの塗りつぶし表示処理をしてもよい(反射波データ間一致度表示工程)。このようにして得られた単位計測区間12を縮小表示したマップをモニタ等に代表されるデータ出力部38に出力することもできる。
【0038】
図8は反射波データ間一致度の数値に応じた色彩により単位計測区間12のそれぞれを塗りつぶし表示した単位計測区間12の縮小表示マップである。これにより、RCスラブ10の延長方向の所要範囲における内部状態を閲覧者に直感的に把握させることができる。制御部36は、それぞれの単位計測区間12の反射波データ間一致度の数値に応じたグレースケール表示を用い、単色のグラデーションで単位計測区間12を塗りつぶし表示した単位計測区間12の縮小表示マップとして出力してもよい。
【0039】
(予想異常区間推定工程)
予想異常区間推定手段である制御部36は、それぞれの単位計測区間12における反射波データ間一致度について、予め設定され、記憶部34に記憶されている反射波データ間一致度基準値との比較を実行し比較結果に基づいてすべての単位計測区間12の中から予想異常区間を推定する(予想異常区間推定工程)。ある単位計測区間12において反射波データ間一致度が反射波データ間一致度基準値から外れた場合、その単位計測区間12は、正常単位計測区間における反射波データに対して十分な相違がある(異常(損傷)がある)と考えることができる。よって、予想異常区間推定手段としての制御部36はこのような単位計測区間12を予想異常区間として推定することができる。
【0040】
以上のようにして推定された予想異常区間は、RCスラブ10の単位計測区間12の縮小表示マップに出力されてもよい。このとき、予想異常区間と推定された単位計測区間12の反射波データ間一致度からの外れ量に応じて色分けして表示させることもできる。このような予想異常区間推定工程は、単位計測区間12ごとに行われる。
【0041】
RCスラブ10の単位計測区間12の縮小表示マップに出力された予想異常区間における反射波データ間一致度の数値が、予め設定され(記憶部34に記憶され)ている予想異常箇所特定用閾値未満であるか否かによって、反射波データ間一致度二値化表示手段である制御部36が、RCスラブ10の単位計測区間12の縮小表示マップの単位計測区間12を二値化して塗りつぶし表示するようにしてもよい(反射波データ間一致度二値化表示工程)。
【0042】
本実施形態においては、予想異常箇所特定用閾値として、いわゆる外れ値検定により得られた外れ値が採用されている。本実施形態における予想異常箇所特定用閾値の外れ値検定には、予想異常箇所特定用閾値外れ値検定手段としての制御部36が記憶部34に記憶されているすべての単位計測区間12の反射波データに対してフィッシャーのZ変換処理を実行している(予想異常箇所特定用閾値外れ値検定工程)。このようにして制御部36は、
図8に示した反射波データ間一致度(オリジナルの相関係数のマップ)のデータを正規分布とみなしたデータ処理を実行している。フィッシャーのZ変換処理により反射波データの統計データの横軸(平均値からのずれ)変換をすることにより、外れ値検定の結果がより良好になる。
【0043】
以上のようにして得られた予想異常区間を1次予想異常区間として実際の反射波画像データに反映した実際の1次予想異常区間反映データYIKD1が
図9に示されている。なお、
図9に示す1次予想異常区間反映データYIKD1は、これまでの説明に用いていたRCスラブ10とは異なるRCスラブ10について、上述の手順に沿って作成された1次予想異常区間をRCスラブ10の所要範囲における反射波画像データの平面図上に反映したものである。また、
図9において四角で囲まれている領域は、RCスラブ10の上面での打音検査時における打音変状箇所やRCスラブ10の上面の過去における補修確認箇所を示すものである。
【0044】
図9に示す1次予想異常区間反映データYIKD1が得られた後、閾値処理手段としての制御部36は、
図9に示す1次予想異常区間反映データYIKD1から健全部に相当する箇所を除去する閾値処理工程を実行する。具体的には、記憶部34に予め記憶され、またはデータ入力部32により入力された健全部除去用閾値に基づいて、閾値処理手段としての制御部36が1次予想異常区間反映データYIKD1から健全部除去用閾値に該当する箇所を除去する処理を実行する。このようにして1次予想異常区間反映データYIKD1から健全部が除去された2次予想異常区間データYIKD2を
図10に示す。なお、
図10において四角で囲まれている領域は、
図9と同様である。
【0045】
(移動分散算出工程)
図10に示す2次予想異常区間データYIKD2を整形するための処理が引き続き行われる。具体的には、移動分散算出手段としての制御部36が
図10に示す2次予想異常区間データYIKD2に対し走査方向における移動分散を算出する移動分散算出工程を実行する。本実施形態における移動分散算出工程においては、2次予想異常区間データYIKD2の反射波データ間一致度の増減変化を走査方向に偏微分して得た偏微分値から走査方向移動分散を算出する工程が実行されている。
図11には
図10中の矢印Cにおける説明対象範囲の反射波データ間一致度が示されている。
【0046】
(ノイズ成分除去工程)
図10と
図11を比較すると、
図10の説明対象範囲における左側部分における反射波データ間一致度の変化量に対し、右側部分における反射波データ間一致度の変化量が少ないことが明らかである。反射波データ間一致度の変化量が多い部分は反射波の反応が不規則であることを意味し、反射波データ間一致度の変化量が少ない部分は反射波の反応が規則的であることを意味する。このことから反射波データ間一致度の変化量が少ない
図10の説明対象範囲における右側部分は健全部とみなすことができ、
図10に示す2次予想異常区間データYIKD2から健全部とみなした部分を削除することができる。具体的には、異常箇所抽出手段としての制御部36は、記憶部34またはデータ入力部32から入力された異常区間抽出するための反射波データ間一致度変化量の移動分散の閾値(移動分散用閾値)と2次予想異常区間データYIKD2における反射波データ間一致度変化量の移動分散とを比較する。移動分散を用いることにより,反射波データ間一致度の変化量を範囲として評価することができる。
【0047】
そして、異常箇所抽出手段としての制御部36は、それぞれの単位計測区間12における走査方向移動分散の変化量が移動分散用閾値未満である単位計測区間12を異常箇所から除去する処理を行う。幅員方向移動分散の変化量に対しても同様に移動分散用閾値との比較を行って、単位計測区間12における幅員方向移動分散の変化量が移動分散用閾値未満である単位計測区間12を異常箇所から除去する処理を行うこともできる。このようにして2次予想異常区間データYIKD2から健全部とみなした部分が削除された3次予想異常区間データYIKD3を
図12に示す。なお、
図12に示す3次予想異常区間データYIKD3の色調は、異常区間がほぼ絞り込まれているため、見やすくなるように、それ以前における色調から変更されている。また、
図12おいて四角で囲まれている領域は、
図9および
図10と同様である。
【0048】
特定箇所除去手段としての制御部36は、3次予想異常区間データYIKD3からジョイント部分等に代表される特定箇所を除去する特定箇所除去工程を実行することもできる。特定箇所除去実行工程の具体的内容について詳細に説明する。特定周波数箇所検索手段としての制御部36は、予め記憶部34に記憶されている(またはデータ入力部32により入力された)特定周波数を有する反射波データ箇所の有無を検索する特定周波数箇所検索工程を実行する。例えば橋梁部分においては、道路部分と橋梁部分との境界部分に鋼鉄製のジョイントが配設されており、道路部分はアスファルト舗装であり、橋梁部分はRCスラブ10であるため、これらの境界部分である鋼鉄製のジョイント部分は、鋼鉄により反射された反射波は特定の周波数を有している。したがって、特定周波数箇所検索手段としての制御部36は鋼鉄製のジョイント部分を容易に抽出すると共に3次予想異常区間データYIKD3からジョイント部分を除去することができる。これにより、3次予想異常区間データYIKD3をさらにシンプルな構成にすることができる。なお、
図12の中にはジョイント部分が存在していなかったため、3次予想異常区間データYIKD3に特定箇所除去工程を実行しても変化はなく、4次予想異常区間データYIKD4は3次予想異常区間データYIKD3と同一データになった。
【0049】
また、幾何学形状除去手段としての制御部36は、予め記憶部34に記憶され、またはデータ入力部32から入力された幾何学形状除去フィルタを用い、4次予想異常区間データYIKD4から幾何学形状部分を除去する処理(幾何学形状除去フィルタ処理工程)を実行することもできる。このような幾何学形状除去フィルタとしては、円形部分を除去するハフ変換処理を例示することができる。なお、幾何学形状除去工程においては、使用するフィルタの種類に応じて円形部分以外の幾何学形状を除去することもできる。さらに、幾何学形状部分除去工程に先立って、エッジ強調処理手段としての制御部36が、4次予想異常区間データYIKD4における境界線部分を明確にさせるためのエッジ強調処理工程を行ってもよい。ところで
図12の中には円形部分が存在していなかったため、4次予想異常区間データYIKD4に幾何学形状部分除去工程を実行しても変化はなく、5次予想異常区間データYIKD5は4次予想異常区間データYIKD4と同一データになった。すなわち、本実施形態における5次予想異常区間データYIKD5は、3次予想異常区間データYIKD3と同一データになっている。
【0050】
次に平滑化処理手段としての制御部36は、幾何学形状部分除去工程の後に3×3の2次元メディアンフィルタを用いて5次予想異常区間データYIKD5において離散的に現れている予想異常区間を適宜結合させる平滑化フィルタ処理工程を実行することもできる。このような平滑化フィルタ処理工程を行うことにより、5次予想異常区間データYIKD5における予想異常区間を連続的にすることができ、各種の処理で複数の予想異常区間に分散してしまった予想異常区間を本来の場所に集約させることができる。ここでは、平滑化フィルタとして3×3の2次元メディアンフィルタを用いた形態を例示しているが、他の公知の平滑化フィルタを採用することもできる。
図13は、平滑化フィルタ処理工程を経た6次予想異常区間データYIKD6が示されている。なお、
図13おいて四角で囲まれている領域は、
図9、
図10および
図12と同様である。
【0051】
図13に示す6次予想異常区間データYIKD6は、平滑化フィルタ処理をした弊害として
図12において健全部において散点的に認められていた予想異常区間(ノイズ)の範囲が拡大している。そこで本実施における微少面積箇所除去手段としての制御部36は、予め記憶部34に記憶(設定)され、またはデータ入力部32から入力された微少面積データに基づいて、
図13の6次予想異常区間データYIKD6から微少面積データ未満の予想異常区間を除去する微少面積箇所除去処理工程を実行している。このような微少面積箇所除去処理工程を経ることで、平滑化処理により生じた弊害を除去することができ、
図14に示すような最終的な異常区間データIKDのみが抽出された図を得ることができる。なお、
図14おいて四角で囲まれている領域は、
図9、
図10、
図12および
図13と同様である。このようにして得られた異常区間データIKDは、制御部36がプログラムに基づいて反射波データを処理してRCスラブ10の異常箇所を自動的に推定することができる。
【0052】
また、以上の実施形態においては探査対象物として、橋梁におけるRCスラブ10を例示しているが、探査対象物は橋梁におけるRCスラブ10に限定されるものではない。空港滑走路や道路における内部損傷状態の推定や、鉄道の路盤状態の推定に加え、トンネル内の覆工部分の状態推定などに代表されるような複数材料からなる人工構造物の内部における異常箇所の推定に本発明を特に好適に適用することができる。さらには、ダイヤモンド等の希少鉱物やシリコンインゴット等の単一物質で構成されている天然物質および人工物質の内部に含まれる異物抽出や、食品分野における異物混入の確認を行う際においても本発明を適用することができる。
【0053】
また、以上の実施形態においては、本発明にかかる探査対象物の異常箇所推定方法に基づいたRCスラブ10の異常箇所推定プログラムを記憶部34に予め記憶させた計算機30を車両VHに搭載した形態例について説明しているが、この形態に限定されるものではない。車両VHは電磁波レーダ20からの反射波データを単位計測区間12に対応させた状態で記憶手段に記憶させるためのデータ収集装置の構成とし、RCスラブ10の異常箇所推定プログラムがインストールされた別体のデータ処理端末にリムーバブルな記憶媒体等を介して単位計測区間12に対応させた反射波データを計算機30の記憶部34に取り込む形態を採用することもできる。さらには、データ出力部38は、モニタ等の表示部ではなく、処理データを別体の表示部に出力させる形態を採用することもできる。
【0054】
そして以上に説明した変形例の他、実施形態において説明した変形例等を適宜組み合わせた形態を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0055】
10:RCスラブ(探査対象物)
12:単位計測区間
20:電磁波レーダ
22:電磁波照射部,24:反射波受信部
30:計算機
32:データ入力部,34:記憶部,36:制御部,38:データ出力部
100:探査対象物の異常箇所推定装置
VH:車両
YIKD1:1次予想異常区間データ
YIKD2:2次予想異常区間データ
YIKD3:3次予想異常区間データ
YIKD4:4次予想異常区間データ
YIKD5:5次予想異常区間データ
YIKD6:6次予想異常区間データ
IKD:異常区間データ