(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】水溶性高分子を含む点眼剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/498 20060101AFI20240722BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20240722BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240722BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240722BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
A61K31/498
A61P27/06
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/38
(21)【出願番号】P 2022175507
(22)【出願日】2022-11-01
(62)【分割の表示】P 2018122169の分割
【原出願日】2018-06-27
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2017125781
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】家本 涼香
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-511628(JP,A)
【文献】特表2009-533462(JP,A)
【文献】特表2014-520895(JP,A)
【文献】国際公開第2004/073708(WO,A1)
【文献】特表2016-529297(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0051406(US,A1)
【文献】国際公開第2016/016908(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-33/44
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブリモニジン及び/又はその塩、水溶性セルロース系高分子及び/又はその塩、及び塩化ベンザルコニウムを含有する点眼剤であって、ブリモニジン及び/又はその塩の含有量が0.05w/v%~0.2w/v%であり、水溶性セルロース系高分子及び/又はその塩の含有量が0.1w/v%~1.5w/v%であり、塩化ベンザルコニウムの含有量が0.001w/v%~0.01w/v%であり、ブリモニジン及び/又はその塩と塩化ベンザルコニウムとの重量比が1:0.01~0.1であり、及びpH6.7~7.0であり、但し、チモロールを含まない、点眼剤。
【請求項2】
前記水溶性セルロース系高分子及び/又はその塩が、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項3】
ブリモニジン及び/又はその塩と水溶性高分子と、塩化ベンザルコニウムとの重量比が1:1~15:0.01~0.1である、請求項1又は2に記載の点眼剤。
【請求項4】
pHが6.7である、請求項1~3のいずれか一項に記載の点眼剤。
【請求項5】
前記点眼剤を60℃で4週間保管した後の該点眼剤の粘度を当該4週間保管する前の該点眼剤の粘度で除して算出した粘度安定性が、90%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の点眼剤。
【請求項6】
緑内障治療用である、請求項1~5のいずれか一項に記載の点眼剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性高分子、ブリモニジン及び/又はその塩、及び塩化ベンザルコニウム
(以下「BAK」ともいう。)を含む点眼剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
ブリモニジンは、選択的アドレナリンα2受容体作動薬であり、眼房水の産生を抑制すると共に、ぶどう膜強膜流出路を介した眼房水の流出を促進し、それにより、眼圧低下作用を示す。このため、ブリモニジン及びその塩は緑内障の治療に使用されている。
【0003】
点眼剤に含有される薬理成分の生物学的利用能を高めるために、眼粘膜での該成分の滞留性を向上させることが行われている。例えば、粘稠剤又は増粘剤として水溶性高分子を点眼剤に配合することで、該点眼剤に含有される薬理成分の滞留性を向上させ得ることが知られている。
【0004】
水溶性高分子の一種であるセルロース系高分子は熱により部分的に分解する。このため、セルロース系高分子を含有する組成物の粘度が経時的に低下し得る。カルボキシメチルセルロース(以下「CMC」ともいう。)を含有する組成物にアスパラギン酸又はその塩を配合し、粘度低下が抑制された組成物とした点眼剤が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ブリモニジンを含有する新規点眼剤を提供することを目的とする。本発明は、水溶性高分子を含有する、粘度低下が抑制された新規点眼剤を提供することを目的とする。また、本発明は、水溶性高分子を含有する点眼剤の粘度低下を抑制する方法又は粘度低下抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、CMCを含有する点眼剤の粘度低下を抑制するための成分について鋭意研究した結果、驚くべきことに、眼圧降下剤であるブリモニジン自体が、そのような粘度低下抑制作用を示すこと、更にBAKを組み合わせて用いることで、相乗的に高まった粘
度低下抑制作用を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の点眼剤、粘度低下を抑制する方法、及び粘度低下抑制剤に
関する。
【0009】
[項1] ブリモニジン及び/又はその塩、水溶性高分子、及び塩化ベンザルコニウムを含有する点眼剤であって、ブリモニジン及び/又はその塩の含有量が0.05w/v%~0.2w/v%であり、水溶性高分子の含有量が0.1w/v%~1.5w/v%であり、塩化ベンザルコニウムの含有量が0.001w/v%~0.01w/v%であり、且つブリモニジン及び/又はその塩と塩化ベンザルコニウムとの重量比が1:0.01~0.1である、点眼剤。
[項2] ブリモニジン及び/又はその塩と、水溶性高分子と、塩化ベンザルコニウムとの重量比が1:1~15:0.01~0.1である、項1に記載の点眼剤。
[項3] 水溶性高分子がカルボキシメチルセルロース及び/又はその塩である、項1又は2に記載の点眼剤。
[項4] 前記点眼剤を60℃で4週間保管した後の該点眼剤の粘度を当該4週間保管する前の該点眼剤の粘度で除して算出した粘度安定性が、90%以上である、項1~3のいずれか一項に記載の点眼剤。
[項5] pH6.7~7.5である、項1~4のいずれか一項に記載の点眼剤。
[項6] 緑内障治療用である、項1~5のいずれか一項に記載の点眼剤。
[項7] 水溶性高分子を含有する点眼剤の粘度低下を抑制する方法であって、点眼剤中にブリモニジン及び/又はその塩と、塩化ベンザルコニウムとのいずれか一方又は両方を共存させる工程を含み、ブリモニジン及び/又はその塩の含有量が0.05w/v%~0.2w/v%であり、水溶性高分子の含有量が0.1w/v%~1.5w/v%であり、塩化ベンザルコニウムの含有量が0.001w/v%~0.01w/v%である、方法。
[項8] 点眼剤中にブリモニジン及び/又はその塩と、塩化ベンザルコニウムとの両方を共存させる工程を含み、且つブリモニジン及び/又はその塩と塩化ベンザルコニウムとの重量比が1:0.01~0.1である、項7に記載の方法。
[項9] ブリモニジン及び/又はその塩と、水溶性高分子と、塩化ベンザルコニウムとの重量比が1:1~15:0.01~0.1である、項8に記載の方法。
[項10] 点眼剤がpH6.7~7.5である、項7~9のいずれか一項に記載の方法。
[項11] 水溶性高分子がカルボキシメチルセルロース及び/又はその塩である、項7~10のいずれか一項に記載の方法。
[項12] 水溶性高分子を含有する点眼剤の粘度低下を抑制するための、ブリモニジン及び/又はその塩と塩化ベンザルコニウムとを重量比1:0.01~0.1で含有する粘度低下抑制剤。
[項13] ブリモニジン及び/又はその塩と、水溶性高分子と、塩化ベンザルコニウムとの重量比が1:1~15:0.01~0.1となるように配合される、項12に記載の粘度低下抑制剤。
[項14] 前記水溶性高分子がカルボキシメチルセルロース及び/又はその塩である、項12又は13に記載の粘度低下抑制剤。
[項15]
ブリモニジン及び/又はその塩、カルボキシメチルセルロース、及び塩化ベンザルコニ
ウムを含有する点眼剤であって、
ブリモニジン及び/又はその塩の含有量が0.1w/v%であり、カルボキシメチルセルロースの含有量が0.1w/v%~1.5w/v%であり、塩化ベンザルコニウムの含有量が0.001w/v%~0.01w/v%であり、
該点眼剤がpH6.7~7.5であり、且つ
点眼剤を60℃で4週間保管した後の該点眼剤の粘度を当該4週間保管する前の該点眼剤の粘度で除して算出した粘度安定性が、90%以上である、点眼剤。
[項16]
カルボキシメチルセルロースを含有する点眼剤の粘度低下を抑制する方法であって、点眼剤中にブリモニジン及び/又はその塩と、塩化ベンザルコニウムとの両方を共存させる工程を含み、ここで、
ブリモニジン及び/又はその塩の含有量が0.1w/v%であり、
カルボキシメチルセルロースの含有量が0.1w/v%~1.5w/v%であり、
塩化ベンザルコニウムの含有量が0.001w/v%~0.01w/v%であり、
該点眼剤がpH6.7~7.5であり、且つ
該点眼剤を60℃で4週間保管した後の該点眼剤の粘度を当該4週間保管する前の該点
眼剤の粘度で除して算出した粘度安定性が、90%以上である、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水溶性高分子を含有する、粘度低下が抑制された点眼剤が提供される。本発明によれば、水溶性高分子を含有する点眼剤の粘度低下を抑制する方法又は粘度低下抑制剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において「緑内障」とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患を意味し、原発性開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、房水産生過多緑内障、高眼圧症、急性閉塞隅角緑内障、慢性閉塞隅角緑内障、混合型緑内障、ステロイド緑内障、アミロイド緑内障、血管新生緑内障、悪性緑内障、水晶体の嚢性緑内障、台地状虹彩シンドローム(plateau iris syndrome)等を含むものである。
【0012】
「水溶性高分子」は、増粘剤又は粘稠剤として点眼剤に一般的に使用されるものであれば、特に限定されず、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー(架橋ポリアクリル酸ポリマー等)、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどである。本発明の点眼剤において、好ましい水溶性高分子はセルロース系高分子及び/又はその塩である。セルロース系高分子及び/又はその塩としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びそれらの塩が挙げられる。本発明の点眼剤において、特に好ましい水溶性高分子は、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩である。これらの水溶性高分子は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
「カルボキシメチルセルロース(CMC)及び/又はその塩」は、は商業的に入手可能であり、具体的には例えば、NS-300、ECG-505(五徳薬品社製)、サンローズ(日本製紙ケミカル社製)、セロゲンシリーズ(第一工業製薬社製)、Ac-Di-Sol(旭化成ケミカルズ社製)、キッコレートND-2HS(ニチリン化学工業社製)等が用いられる。CMCの塩としては、限定するものではないが、ナトリウム塩が挙げられる。1つの実施形態において、CMCの塩はカルボキシメチルセルロースナトリウムである。CMC及びその塩はいずれか一方を単独で使用してもよく、又はこれらを組み合わせて使用してもよい。本明細書において、CMC及び/又はその塩の含有量又は濃度に関する言及は、そうではないと明記しない限り、カルボキシメチルセルロースナトリウムに換算された含有量又は濃度を意味する。
【0014】
水溶性高分子は、限定するものではないが、点眼剤に所望の粘度を付与するための増粘剤又は粘稠剤として用いられる。1つの実施形態において、水溶性高分子(例えばCMC及び/又はその塩)は、点眼剤が25℃、回転速度60rpmにて、1.0mPa・s以上30mPa・s未満の粘度となる量で、点眼剤に配合される。水溶性高分子は、好ましくは点眼剤に25℃、回転速度60rpmにて1.0mPa・s以上15mPa・s未満、1.5mPa・s以上5.0mPa・s未満、1.5mPa・s以上3.0mPa・s未満の粘度を与える量で配合される。
【0015】
1つの実施形態において、水溶性高分子(例えばCMC及び/又はその塩)の濃度は、点眼剤容量あたり0.1w/v%~1.5w/v%であり、好ましくは0.3w/v%~0.7w/v%である。
【0016】
他の実施形態において、点眼剤は、増粘剤又は粘稠剤としてCMC及び/又はその塩を
含み、実質的に他の増粘剤又は粘稠剤を含まない。
【0017】
「ブリモニジン」は選択的アドレナリンα2受容体作動薬であり、本発明の点眼剤に有効成分として配合される。ブリモニジン及びその塩は商業的に入手可能である。ブリモニジンの塩としては、限定するものではないが、酒石酸塩、塩酸塩又は酢酸塩が挙げられる。1つの実施形態において、ブリモニジンの塩はブリモニジン酒石酸塩である。本明細書において、ブリモニジン及び/又はその塩の含有量又は濃度に関する言及は、そうではないと明記しない限り、ブリモニジン酒石酸塩に換算された含有量又は濃度を意味する。
【0018】
1つの実施形態において、ブリモニジン及び/又はその塩は、限定するものではないが、点眼剤に配合された水溶性高分子(例えばセルロース系高分子、一例としてCMC)が熱によって分解又は変性し、それに伴う該点眼剤の粘度が低下するのを抑制するための粘度低下抑制剤の1成分として配合される。ブリモニジン及び/又はその塩の濃度は、点眼剤容量あたり0.05w/v%~0.2w/v%、好ましくは0.07w/v%~0.15w/v%、より好ましくは0.09w/v%~0.12w/v%である。
【0019】
1つの実施形態において、点眼剤は、ブリモニジン及び/又はその塩以外に、本発明の効果を妨げない範囲で、緑内障に対して治療効果を示す他の薬理成分を含んでもよい。このような他の薬理成分としては、例えば、タフルプロスト、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストンなどのプロスタグランジン類;ピロカルピン塩酸塩などの副交感神経刺激薬;ジスチグミン臭化物などの抗コリンエステラーゼ薬;ジピベフリン塩酸塩などの交感神経刺激薬;チモロールマレイン酸塩などのβ遮断剤;ベタキソロール塩酸塩などのβ1遮断薬;ニプラジロール、レボブノロール塩酸塩などのα1・β遮断薬;ブナゾシン塩酸塩などのα1遮断薬が挙げられる。
【0020】
1つの実施形態において、点眼剤は、緑内障に対する直接的な有効成分としてブリモニジン及び/又はその塩を含み、実質的に他の有効成分を含まない。
【0021】
「塩化ベンザルコニウム(BAK)」は、4級アンモニウム成分であり、本発明の点眼剤に保存剤として配合される。BAKは、商業的に入手可能である。1つの実施形態において、BAKは、限定するものではないが、点眼剤に配合された水溶性高分子(例えばセルロース系高分子、一例としてCMC)が熱によって分解又は変性し、それに伴う該点眼剤の粘度が低下するのを抑制するための粘度低下抑制剤の1成分として配合される。1つの実施形態において、BAKの濃度は、点眼剤容量当たり、0.001w/v%~0.01w/v%、好ましくは0.002w/v%~0.007w/v%、より好ましくは0.002w/v%~0.005w/v%である。
【0022】
1つの実施形態において、点眼剤は、BAK以外に、本発明の効果を妨げない範囲で、点眼剤に一般的に使用される防腐剤又は保存剤を更に含んでもよい。そのような防腐剤又は保存剤としては、限定するものではないが、ソルビン酸又はその塩、安息香酸又はその塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン塩酸塩、クロルヘキシジン酢酸塩、ホウ酸又はその塩、デヒドロ酢酸又はその塩、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化亜鉛、パラクロルメタキシレノール、クロルクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ポリドロニウム、チメロサール、ジブチルヒドロキシトルエンが挙げられる。これらの追加の防腐剤又は保存剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
1つの実施形態において、点眼剤は、防腐剤又は保存剤としてBAKを含み、実質的に他の防腐剤又は保存剤を含まない。
【0024】
1つの実施形態において、ブリモニジン及び/又はその塩とBAKとの重量比が1:0.01~0.1であり、好ましくは1:0.02~0.07でり、より好ましくは1:0.02~0.05である。
【0025】
1つの実施形態において、ブリモニジン及び/又はその塩と、水溶性高分子(例えばCMC及び/又はその塩)と、BAKとの重量比が1:1~15:0.01~0.1であり、好ましくは1:2~10:0.02~0.07であり、より好ましくは1:3~7:0.02~0.05である。
【0026】
1つの実施形態において、点眼剤は、緩衝作用を付与する緩衝剤を必要に応じて含む。緩衝剤は、限定するものではないが、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、Tris緩衝剤、アミノ酸が挙げられる。これらの緩衝剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。1つの実施形態において、緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤であり、好ましくはホウ酸及びホウ酸ナトリウムの組合せである。
【0027】
緩衝剤は、限定するものではないが、点眼剤に十分な緩衝能を付与するために一般的に使用される量で配合される。1つの実施形態において、緩衝剤はホウ酸であり、その含有量は、例えば0.01~5w/v%、好ましくは0.05~1w/v%、更に好ましくは0.1~0.5w/v%である。
【0028】
点眼剤は、前記成分の他に、必要に応じて、キレート剤、清涼化剤などの任意の添加剤を更に含有してもよい。
【0029】
キレート剤としては、限定するものではないが、エデト酸塩、クエン酸又はその塩が挙げられる。これらのキレート剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0030】
清涼化剤としては、限定するものではないが、l-メントール、ボルネオール、カンフル、ユーカリ油が挙げられる。これらの清涼化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0031】
本発明において「点眼剤」は水性組成物である。点眼剤は、常法に従って調製することができる。点眼剤は、限定するものではないが、水溶性高分子を精製水に溶解し、該水溶液を固形成分と共に精製水に溶解して調製することができる。調製した水溶液を、適宜、塩酸又は水酸化ナトリウムを用いてpHを調整してもよい。点眼剤は、常法に従って滅菌処理した後、製品容器に充填してよい。1つの実施形態において、滅菌処理はフィルター濾過である。
【0032】
1つ実施形態において、点眼剤は、pH6.7~7.5であり、浸透圧250~350ミリオスモルである。他の実施形態において、点眼剤は、pH6.7~7.3であり、浸透圧比0.85~1.15である。他の実施形態において、点眼剤は、好ましくはpH7.1、浸透圧比約1.0である。浸透圧比に関する「約」は±0.1を意味し、浸透圧比約1.0は0.9~1.1を示す。浸透圧は、常法に従って調整される。1つの実施形態において、浸透圧は、点眼剤に等張化剤として薬学上許容される塩を配合することにより調整される。薬学上許容される塩は、限定するものではないが、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及びこれらの水和物が挙げられる。
【0033】
本明細書において点眼剤の「粘度」は、実施例に記載されるように、日局一般試験法に定める粘度測定法 第2法 回転粘度計法に従って測定される。調製後の点眼剤の粘度は、使用目的に応じて適宜設定される。点眼剤の粘度は、限定するものではないが、25℃、回転速度60rpmにて、1.0mPa・s以上30mPa・s未満である。1つの実施形態において、調製後の点眼剤の25℃、回転速度60rpmでの粘度は、1.0mPa・s以上15mPa・s未満である。1つの実施形態において、調製後の点眼剤の25℃での粘度は、1.5mPa・s以上5.0mPa・s未満、1.5mPa・s以上3.0mPa・s未満である。
【0034】
点眼剤の粘度は、限定するものではないが、配合された水溶性高分子によって付与される。1つの実施形態において、点眼剤の粘度は、水溶性高分子(例えば、セルロース系高分子)の配合量によって、又は実質的にCMC及び/又はその塩のみの配合量によって調整される。他の実施形態において、点眼剤の粘度は、CMC及び/又はその塩と本明細書に記載の他の水溶性高分子とを組み合わせて調整される。
【0035】
本明細書において「粘度安定性」とは、実施例に記載されているように、点眼剤をガラスアンプルに充填した後に、60℃の恒温器中で4週間保管し、保管後の水性液剤の粘度を保管前の該水性液剤の粘度で除して算出される(=保管後の水性液剤の粘度[mPa・s]/保管前の水性液剤の粘度[mPa・s]×100)。1つの実施形態において、粘度安定性は、90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは94%以上である。
【0036】
本明細書において「粘度低下抑制」は、水溶性高分子を含有する点眼剤において、ブリモニジン及び/又はその塩とBAKとのいずれか一方又は両方を配合した場合の粘度安定性が、ブリモニジン及び/又はその塩もBAKも配合していない場合の粘度安定性よりも高いことを意味する。1つの実施形態において、粘度低下抑制の程度は、ブリモニジン及び/又はその塩及びBAKを配合した水溶性高分子(例えばCMC)含有点眼剤についての粘度安定性と、ブリモニジン及び/又はその塩及びBAKを配合していないこと除いて同一の水溶性高分子含有点眼剤の粘度安定性との差が、4%以上、5%以上、6%以上又は7%以上である。
【0037】
1つの実施形態において、点眼剤は、緑内障治療用である。本明細書において「治療」は、症状の軽減、緩和もしくは進行速度の低下を意味する。1つの実施形態において、点眼剤は、緑内障治療に有効な量のブリモニジン及び/又はその塩を含み、薬理成分として他の薬理成分を含まない。
【0038】
点眼剤は、限定するものではないが、1回数滴を、1日1回又は複数回点眼される。1つの実施形態において、点眼剤は、1回1滴を1日2回点眼される。点眼剤は、用法及び
用量に応じて配合される各成分の濃度は適宜設定される。
【0039】
本発明の第1の態様は、水溶性高分子、ブリモニジン及び/又はその塩、及びBAKを含む点眼剤に関する。1つの実施形態において、該点眼剤は、ブリモニジン及び/又はその塩を0.05w/v%~0.2w/v%、水溶性高分子(例えばセルロース系高分子、一例としてCMC及び/又はその塩)を0.1w/v%~1.5w/v%、及びBAKを0.001w/v%~0.01w/v%含有し、ブリモニジン及び/又はその塩とBAKとの重量比が1:0.01~0.1である。
【0040】
他の実施形態において、点眼剤は、ブリモニジン酒石酸塩を0.07w/v%~0.15w/v%(好ましくは0.09w/v%~0.12w/v%、より好ましくは0.1w/v%)、CMCを0.3w/v%~0.7w/v%(好ましくは0.5w/v%)、及びBAKを0.001w/v%~0.01w/v%(好ましくは0.002w/v%~0.007w/v%、より好ましくは0.002w/v%~0.005w/v%)を含有し、ブリモニジン酒石酸塩と塩化ベンザルコニウムとの重量比が1:0.01~0.1(好ましくは1:0.02~0.07、より好ましくは1:0.02~0.05)であり、更に、ホウ酸及びホウ砂を含む(浸透圧比:0.9~1.1(即ち約1.0)、pH:6.7~7.5)。
【0041】
他の実施形態において、点眼剤は、増粘剤又は粘稠剤として少なくとも1種のセルロース系高分子及び/又はその塩(例えばCMC及び/又はその塩)を含み、実質的に他の増粘剤又は粘稠剤を含まず、粘度低下抑制剤としてブリモニジン及び/又はその塩及びBAKの組合せを含み、実質的に他の粘度低下抑制剤を含まない。
【0042】
本発明の第2の態様は、水溶性高分子(例えばCMC及び/又はその塩)を含有する点眼剤中に、ブリモニジン及び/又はその塩とBAKとのいずれか一方又は両方を共存させる工程を含む、点眼剤の粘度低下を抑制する方法に関し、より好ましくは、水溶性高分子(例えばCMC及び/又はその塩)を含有する点眼剤中に、ブリモニジン及び/又はその塩とBAKとの両方を共存させることを含む、点眼剤の粘度低下を抑制する方法に関する。当該方法は、特に制限されず、例えば、該点眼剤に、ブリモニジン及び/又はその塩とBAKとを配合することにより実施されるが、水溶性高分子、ブリモニジン及び/又はその塩、及びBAKのそれぞれの成分における添加順序は特に限定されない。配合する際の各成分は、限定するものではないが、固体又は液体である。
【0043】
1つの実施形態において、配合されるブリモニジン及び/又はその塩とBAKとの重量比は、1:0.01~0.1、好ましくは1:0.02~0.07で、より好ましくは1:0.02~0.05である。1つの実施形態において、配合されるブリモニジン及び/又はその塩と、CMC及び/又はその塩と、BAKとの重量比は、1:1~15:0.01~0.1で、好ましくは1:2~10:0.02~0.07で、より好ましくは1:3~7:0.02~0.05である。
【0044】
1つの実施形態において、ブリモニジン及び/又はその塩と、水溶性高分子と、BAKとが共存する点眼剤は、ブリモニジン及び/又はその塩を点眼剤容量あたり0.05w/v%~0.2w/v%、CMC及び/又はその塩を点眼剤容量あたり0.1w/v%~1.5w/v%、及びBAKを点眼剤容量あたり0.001w/v%~0.01w/v%含有する。
【0045】
本発明の第3の態様は、ブリモニジン及び/又はその塩とBAKとを重量比1:0.01~0.1で含有する、水溶性高分子を含有する点眼剤の粘度低下を抑制するための粘度低下抑制剤に関する。1つの実施形態において、粘度低下抑制剤に配合されるブリモニジン及び/又はその塩とBAKとを重量比は1:0.02~0.07で、好ましくは1:0.02~0.05である。
【0046】
1つの実施形態において、粘度低下抑制剤は、粘度低下抑制剤を配合する点眼剤中の水溶性高分子(例えばCMC及び/又はその塩)の含有量に基づいて、該粘度低下抑制剤を配合した後の点眼剤におけるブリモニジン及び/又はその塩と、水溶性高分子と、BAKとの重量比が1:1~15:0.01~0.1、好ましくは1:2~10:0.02~0.07で、より好ましくは1:3~7:0.02~0.05である。粘度低下抑制剤は、限定するものではないが、液体又は固体(例えば粉剤又は錠剤)の形態であってよい。前記粉剤又は錠剤は、常法により製造することができる。
【0047】
本発明の第4の態様は、0.05w/v%~0.2w/v%のブリモニジン及び/又はその塩、0.1w/v%~1.5w/v%の水溶性高分子、及び0.001w/v%~0.01w/v%のBAKを、薬学上許容される水性媒体に混合する工程を含む、点眼剤の製造方法に関する。「薬学上許容される水性媒体」は、眼への局所適用に使用可能な水性媒体を意味し、限定するものではないが、精製水であってよい。1つの実施形態において、前記配合工程は、水性高分子(例えばCMC)と精製水を配合し、次いで、ブリモニジン及び/又はその塩、及びBAKを配合してもよい。前記製造方法は、限定するものではないが、追加の添加成分を配合する工程を更に含んでよい。前記製造方法は、限定するものではないが、滅菌処理する工程を更に含んでよい。1つの実施形態において、滅菌処理はフィルター濾過である。
【0048】
本明細書において言及される各要素、例えば配合される水溶性高分子(例えばCMC及び/又はその塩)、BAK及びブリモニジンの点眼剤における濃度、点眼剤の粘度、粘度安定性、任意の添加成分、点眼剤おけるpH、浸透圧などに関する特徴は、第1~第4の態様に関する各要素に適用される。本明細書に記載の数値範囲は、「超」又は「未満」と明記された場合を除き、その上限値と下限値を含む範囲を示す。
【実施例1】
【0049】
[点眼剤の調製]
表1に示す処方に従って、水性液剤を調製した。各水性液剤は適量の塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム水和物及び塩化マグネシウムを添加することで等張化し、塩酸又は水酸化ナトリウムを用いてpH7.0に調整した。
【0050】
【0051】
[加速劣化試験]
0.22μmフィルターで濾過した水性液剤5mLを、5mL容の無色ガラスアンプルに充填した。各ガラスアンプルを恒温器(CH-M20-01、ナガノサイエンス(株))に入れ、遮光条件下、60℃で4週間保管した。
【0052】
[粘度測定]
水性液剤の粘度[mPa・s]は、日局一般試験法に定める粘度測定法 第2法 回転粘度計法(円すい-平板形回転粘度計(コーンプレート型粘度計、TVE-20L、東機産業(株)))に従って、25℃、回転速度60rpmにて測定した。粘度測定は、前記加速劣化試験の前後に実施した。水性液剤の粘度安定性(%)を下記式に従って算出した。
(数1)
粘度安定性[%]=保管後の水性液剤の粘度[mPa・s]/保管前の水性液剤の粘度[mPa・s]×100
【0053】
[試験結果]
処方1の水性液剤の粘度は、加速劣化試験前は2.513[mPa・s]であり、加速化試験後は2.370[mPa・s]であった。粘度安定性は94.3[%]であった。
同様にして、処方2、処方3及び処方4の粘度安定性を算出した。
処方2:90.8[%](=2.399[mPa・s]/2.641[mPa・s]×100);
処方3:87.4[%](=2.213[mPa・s]/2.531[mPa・s]×100)、及び
処方4:86.5[%](=2.173[mPa・s]/2.513[mPa・s]×100)であった。
【0054】
表2に、処方1~4の試験結果及び成分の組合せの概要をまとめる。
【表2】
【0055】
0.5w/v%カルボキシメチルセルロースナトリウムを含有する水性液剤は、60℃で4週間保管すると、90%未満の粘度安定性を示した(処方3)。処方3の水性液剤成分に0.005w/v%BAKを更に配合した水性液剤も、90%未満の粘度安定性を示した(処方4)。これは、BAKの配合が、カルボキシメチルセルロースナトリウムを含有する水性液剤の粘度安定性にほとんど影響を及ぼさないことを示唆する(処方3及び処方4)。
【0056】
処方3の水性液剤成分に0.1w/v%ブリモニジン酒石酸塩を更に配合した水性液剤は、90%を上回る粘度安定性を示した(処方2)。これは、ブリモニジン酒石酸の配合が、カルボキシメチルセルロースナトリウムを含有する水性液剤の粘度安定性を向上させ得ることを示唆する(処方2及び処方3)。
【0057】
処方3の水性液剤成分に、0.1w/v%ブリモニジン酒石酸塩及び0.005w/v%BAKを更に配合した水性液剤は、ほぼ95%の粘度安定性を示した(処方1)。ブリモニジン酒石酸及びBAKの両方を配合した水性液剤の粘度安定性の向上幅は(処方1及び処方3)、上記両成分のいずれか一方を配合した水性液剤の粘度安定性の向上幅をそれぞれ合計した値(処方2~4)を上回った。以上の結果から、ブリモニジン酒石酸塩及びベンザルコニウム塩化物の組合せが、カルボキシメチルセルロースナトリウム含有水性液剤の粘度安定性を相乗的に向上させたことが示唆された。