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特許7524287基地局間連携によって伝搬チャネル推定を行うシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】基地局間連携によって伝搬チャネル推定を行うシステム
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/024 20170101AFI20240722BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20240722BHJP
   H04W 92/20 20090101ALI20240722BHJP
   H04B 7/0413 20170101ALI20240722BHJP
【FI】
H04B7/024
H04W16/28 130
H04W92/20
H04B7/0413 100
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022198376
(22)【出願日】2022-12-13
(65)【公開番号】P2024084219
(43)【公開日】2024-06-25
【審査請求日】2022-12-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「移動通信三次元空間セル構成」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝也
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-206457(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0142345(US,A1)
【文献】安井 謙一 Kenichi YASUI,共有RRHを用いた基地局連携セルラネットワークにおける非線形クラスタ間干渉キャンセラ Nonlinear Inter Cluster Interference Cancellation for Based Station Cooperation Cellular Networks with Shared RRH,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.113 No.130 IEICE Technical Report,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2013年07月10日,第113巻,pp.19-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/024
H04W 16/28
H04W 92/20
H04B 7/0413
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末と無線通信を行う複数の基地局を有するシステムであって、
前記複数の基地局の間で、前記基地局のアンテナ部で受信された受信信号を伝送するための信号伝送手段と、
前記端末と前記複数の基地局との間の伝搬チャネル情報を伝送するための基地局連携ネットワークと、を有し、
前記複数の基地局はそれぞれ、
アンテナ部と、
前記アンテナ部から送信信号を送信する処理を行う送信機と、
前記アンテナ部で受信された受信信号を処理する第一受信機と、
周辺の1又は2以上の基地局のアンテナ部で受信され前記信号伝送手段を介して伝送されてきた受信信号を処理する1又は2以上の第二受信機と、
前記第一受信機で受信された自セル端末からの基地局固有信号の受信結果と、前記1又は2以上の第二受信機で受信された前記自セル端末からの基地局固有信号の受信結果とに基づいて、前記自セル端末と前記複数の基地局との間の伝搬チャネル情報を推定する推定部と、を有する、
ことを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記基地局連携ネットワークは、前記複数の基地局それぞれから転送される前記伝搬チャネル情報を集約する連携制御装置を有する、
ことを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記複数の基地局それぞれのアンテナ部から離れた位置に、前記複数の基地局それぞれの前記送信機、前記第一受信機、前記1又は2以上の第二受信機及び前記推定部を集約して配置した集中基地局構成部を有する、
ことを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のシステムにおいて、
前記集中基地局構成部は、前記複数の基地局それぞれから転送される前記伝搬チャネル情報を集約する制御装置を前記複数の基地局ごとに有する、
ことを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項3に記載のシステムにおいて、
前記基地局連携ネットワークは、前記複数の基地局それぞれから転送される前記伝搬チャネル情報を集約する連携制御装置を有する、
ことを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記基地局固有信号は、サウンディング参照信号(SRS:Sounding Reference Signal)である、
ことを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
下り回線の通信信号及び上り回線の通信信号が時分割複信(TDD)方式で多重化され、
前記時分割複信方式では、前記上り回線のパイロット信号を使用して推定した前記伝搬チャネル情報を、下り回線の伝搬チャネル情報とする、
ことを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記複数の基地局それぞれから転送される上り回線及び下り回線の伝搬チャネル情報に基づいて、前記基地局で受信した受信信号及び前記基地局で送信される送信信号の少なくとも一方について干渉抑圧処理を行う干渉抑圧部を有する、
ことを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局間連携によって伝搬チャネル推定を行うシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、移動通信システムにおいて、セル境界付近における下り回線の干渉抑圧技術として、隣接する基地局が連携して仮想的なセルを構成し、隣接セル干渉を抑圧する仮想化セルMU-MIMOキャンセラーに、Massive MIMOアンテナによる適応ビームフォーミングを適用した干渉抑圧技術が記載されている。この文献には、この干渉抑圧技術を上り回線に適用した場合の干渉抑圧効果についても記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】前田稜平、藤井輝也著、「適応ビームフォーミングを適用した基地局連携仮想化セルMU-MIMOキャンセラによる上り回線通信容量改善の検討」、電子情報通信学会技術研究報告、一般社団法人電子情報通信学会、2021年11月3日、Volume 121、Number 234、p.46-51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなシステムを構築するためには各基地局と各端末との間の伝搬チャネル情報の取得が不可欠であるが、それを実際に取得することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るシステムは、端末と無線通信を行う複数の基地局を有するシステムである。このシステムは、前記複数の基地局の間で、前記基地局のアンテナ部で受信された受信信号を伝送するための信号伝送手段と、前記端末と前記複数の基地局との間の伝搬チャネル情報を伝送するための基地局連携ネットワークと、を有する。前記複数の基地局はそれぞれ、アンテナ部と、前記アンテナ部から送信信号を送信する処理を行う送信機と、前記アンテナ部で受信された受信信号を処理する第一受信機と、周辺の1又は2以上の基地局のアンテナ部で受信され前記信号伝送手段を介して伝送されてきた受信信号を処理する1又は2以上の第二受信機と、前記第一受信機で受信された自セル端末からの基地局固有信号(例えばパイロット信号)の受信結果と、前記1又は2以上の第二受信機で受信された前記自セル端末からの基地局固有信号(例えばパイロット信号)の受信結果とに基づいて、前記自セル端末と前記複数の基地局との間の伝搬チャネル情報を推定する推定部と、を有する。
【0006】
前記システムにおいて、前記基地局連携ネットワークは、前記複数の基地局それぞれから転送される前記伝搬チャネル情報を集約する連携制御装置を有してもよい。
【0007】
また、前記システムにおいて、前記複数の基地局それぞれのアンテナ部から離れた位置に、前記複数の基地局それぞれの前記送信機、前記第一受信機、前記1又は2以上の第二受信機及び前記推定部を集約して配置した集中基地局構成部を有してもよい。
【0008】
また、前記システムにおいて、前記集中基地局構成部は、前記複数の基地局それぞれから転送される前記伝搬チャネル情報を集約する制御装置を前記複数の基地局ごとに有してもよい。
【0009】
また、前記システムにおいて、前記基地局連携ネットワークは、前記複数の基地局それぞれから転送される前記伝搬チャネル情報を集約する連携制御装置を有してもよい。
【0010】
また、前記システムにおいて、前記基地局固有信号は、サウンディング参照信号(SRS:Sounding Reference Signal)であってもよい。
【0011】
また、前記システムにおいて、下り回線の通信信号及び上り回線の通信信号が時分割複信(TDD)方式で多重化されてもよく、TDDでは前記上り回線のパイロット信号を使用して推定した前記伝搬チャネル情報を、下り回線の伝搬チャネル情報としてもよい。なお、前記上り回線のパイロット信号を使用して推定した前記伝搬チャネル情報に基づいて導出される受信干渉抑圧ウェイトを前記下り回線で送信される送信信号に適用してもよい。
【0012】
また、前記システムにおいて、前記複数の基地局それぞれから転送される前記上り回線及び下り回線の伝搬チャネル情報に基づいて、前記基地局で受信した受信信号及び前記基地局で送信される送信信号の少なくとも一方について干渉抑圧処理を行う干渉抑圧部を有してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、各基地局と各端末との間の伝搬チャネル情報を容易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る移動通信システムで生じ得る干渉の説明をするための説明図。
図2】上り干渉を抑圧する干渉キャンセラーの説明図。
図3】下り干渉を抑圧する干渉キャンセラーの説明図。
図4】他セル端末から送信されるパイロット信号の伝搬チャネル情報を取得する方法の一例を示す説明図。
図5】実施形態1に係る移動通信システムにおいて伝搬チャネル情報を取得する方法を示す説明図。
図6】実施形態1について、N個の基地局間における全部の伝搬チャネル情報を取得する例を示す説明図。
図7】実施形態2に係る移動通信システムにおいて伝搬チャネル情報を取得する方法を示す説明図。
図8】実施形態2について、N個の基地局間における全部の伝搬チャネル情報を取得する例を示す説明図。
図9】実施形態3に係る移動通信システムにおいて伝搬チャネル情報を取得する方法を示す説明図。
図10】実施形態3について、N個の基地局間における全部の伝搬チャネル情報を取得する例を示す説明図。
図11】伝搬チャネル情報を取得するための所定信号としてSRSを用いる例の説明図。
図12】実施形態3の構成において、SRSを用いて伝搬チャネル情報を取得する例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本書に記載された実施形態に係るシステムは、第5世代等の移動通信システムの基地局と端末との間で行われる無線通信において、各端末と各基地局との間の伝搬チャネル情報を取得することのできるシステムである。各端末と各基地局との間の伝搬チャネル情報を得ることで、干渉抑圧などの送受信信号処理により各端末と各基地局との間の通信品質の向上などを図ることが可能となる。
【0016】
例えば、互いに近接する基地局間(隣接セルや重複セルを形成する基地局間)で互いに同一の周波数帯(例えば1GHz~6GHz内のCバンド)を利用する場合に生じ得る干渉を抑圧(以下「キャンセル」ともいう。)して、通信品質の向上を図ることが可能となる。ここでいう干渉は、ある基地局のセル内の端末から送信される信号(干渉信号)が他の基地局に受信されて当該他の基地局で干渉を引き起こす上り回線干渉と、ある基地局から送信される信号(干渉信号)が他の基地局のセル内の端末に受信されて当該端末で干渉を引き起こす下り回線干渉とのうちの少なくとも一方である。
【0017】
なお、以下の説明では、第5世代の移動通信システム(以下「5Gシステム」という。)の基地局(例えばgNodeB)と端末との間の通信回線で生じ得る上り回線干渉及び下り回線干渉について説明する。ただし、本発明を干渉の抑圧に利用する場合、複数の基地局が互いに同一周波数帯を用いることで当該干渉を引き起こし得るものであれば、LTE(Long Term Evolution)/LTE-Advancedの移動通信システムや第5世代よりも後の次世代の移動通信システム(「NRシステム」ともいう。)等の移動通信システムにおける当該干渉についても適用することができる。
【0018】
図1は、本実施形態に係る移動通信システムで生じ得る干渉の説明をするための説明図である。ここでは、説明の簡略化のため、互いに隣接する2つのセルをそれぞれ形成する2つの基地局30-1,30-2の例で説明する。
各基地局30-1,30-2は、それぞれセル(自セル)100-1,100-2を形成し、アンテナ部31を介して、自セル内の端末(「端末装置」、「ユーザ装置(UE)」、「移動局」などともいう。)10-1,10-2と無線通信することができる。各基地局30-1,30-2に割り当てられる周波数帯は、同一の周波数帯(例えば1GHz~6GHz内のCバンド)である。
【0019】
図1に示す2つの基地局30-1,30-2において、各端末10-1,10-2との間の通信には、複数のアンテナを用いるMIMO(Multi Input Multi Output)伝送方式が用いられ、各端末10-1,10-2の通信時におけるスループットの向上、通信品質の向上を実現している。
【0020】
本実施形態における移動通信システムを構成する2つの基地局30-1,30-2は、それぞれ、送受信機35がアンテナ部31から離れて配置された構成を採用しているが、送受信機35がアンテナ部31と実質的に同じ場所に配置された構成を採用してもよい。本実施形態の構成における各基地局30-1,30-2は、張り出し基地局などとも呼ばれる。送受信機35から離れて配置されるアンテナ部31(張り出し部)は、無線電波を送受信するアンテナのほか、電波の変復調機能を有する無線装置や信号増幅器などを備えていてもよい。各基地局30-1,30-2において、アンテナ部31と送受信機35との間は、例えば光ファイバーケーブルなどの有線ラインである信号伝送手段としての伝送ケーブル51-1,51-2によって接続される。
【0021】
第一基地局30-1のセル100-1内の端末10-1から送信されて第一基地局30-1のアンテナ部31に受信される受信信号(上り通信信号)Su11の電波は、第二基地局30-2のアンテナ部31に到達し、干渉信号(上り干渉信号)Iu21として受信されるおそれがある。
また、第一基地局30-1の送信機33からアンテナ部31を介して送信される送信信号(下り通信信号)Sd11の電波は、第二基地局30-2のセル100-2内の端末10-2に到達し、干渉信号(下り干渉信号)Id21として受信されるおそれがある。
【0022】
同様に、第二基地局30-2のアンテナ部31から送信される送信信号Sd22の電波は、第一基地局30-1のセル100-1内の端末10-1に到達し、干渉信号Id12として受信されるおそれがある。
また、第二基地局30-2のセル100-2内の端末10-2から送信されて第二基地局30-2のアンテナ部31に受信される受信信号Su22の電波は、第一基地局30-1のアンテナ部31に到達し、干渉信号Iu12として受信されるおそれがある。
【0023】
図2は、上り干渉信号Iu12,Iu21を抑圧する干渉キャンセラーの説明図である。
本実施形態の移動通信システムは、2つの基地局30-1,30-2が受信する上り干渉信号Iu12,Iu21を抑圧する干渉抑圧部として、干渉キャンセラー(例えばMU-MIMOキャンセラー)40を備える。
【0024】
干渉キャンセラー40により、第一基地局30-1の送受信機35内に組み込まれている受信機32が受信した受信信号からは、他セル端末10-2からの上り干渉信号Iu12が抑圧され、第一基地局30-1のセル(自セル)100-1内の端末(自セル端末)10-1からの受信信号Su11が得られる。よって、他セル端末10-2からの上り干渉信号Iu12による干渉に起因した上り回線の通信品質の低下などの不具合が解消される。
【0025】
なお、第一基地局30-1のセル100-1内の端末(他セル端末)10-1から送信されて第二基地局30-2のアンテナ部31に到達する上り干渉信号Iu21を抑圧する場合についても同様であるため、その説明は省略する。
【0026】
図3は、下り干渉信号Id12,Id21を抑圧する干渉キャンセラーの説明図である。
本実施形態の移動通信システムは、2つの基地局30-1,30-2から送信される下り干渉信号Id12,Id21を抑圧する干渉抑圧部として、干渉キャンセラー41を備える。
【0027】
干渉キャンセラー41により、第一基地局30-1の自セル端末10-1は、第二基地局30-2からの下り干渉信号Id12が抑圧された状態で当該第一基地局30-1のアンテナ部31から送信される送信信号Sd11を受信することができる。よって、第二基地局30-2からの下り干渉信号Id12による干渉に起因した下り回線の通信品質の低下などの不具合が解消される。
【0028】
なお、第一基地局30-1のアンテナ部31から送信されて第二基地局30-2のセル100-2内の端末10-2に到達する下り干渉信号Id21を抑圧する場合についても同様であるため、その説明は省略する。
【0029】
本実施形態の移動通信システムにおける干渉キャンセラー40は、上り干渉信号Iu12,Iu21と下り干渉信号Id12,Id21の両方を抑圧するものであるが、上り干渉信号Iu12,Iu21と下り干渉信号Id12,Id21のうちの一方だけを抑圧するものであってもよい。
【0030】
ここで、干渉キャンセラー40は、各基地局と各端末との間の伝搬チャネル情報hu11,hu12,hu21,hu22から干渉キャンセルウェイトを導出し、受信信号に乗算することで、干渉を抑圧する。そのため、上り通信信号Su11,Su22と上り干渉信号Iu12,Iu21についての伝搬チャネル情報hu11,hu12,hu21,hu22を取得する必要がある。同様に、干渉キャンセラー41は、各基地局と各端末との間の伝搬チャネル情報hd11,hd12,hd21,hd22から干渉キャンセルウェイトを導出し、送信信号に乗算することで、干渉を抑圧する。そのため、下り通信信号Sd11,Sd22と下り干渉信号Id12,Id21についての伝搬チャネル情報hd11,hd12,hd21,hd22を取得する必要がある。
上述した干渉キャンセラーなど、通信品質を向上させる技術を適用するためには伝搬チャネル情報が不可欠である。
【0031】
ただし、本実施形態における移動通信システムでは、TDD(Time Division Duplex)伝送方式を用いているため、同一周波数帯域を上り回線と下り回線とで極短時間で切り替えて双方向通信している。そのため、例えば、第一基地局30-1のセル100-1内の端末10-1と第二基地局30-2のアンテナ部31との間で送受信される上り干渉信号Iu21と下り干渉信号Id12は、共に同一の伝搬チャネルを通して通信されるので、これらの上り干渉信号Iu21と下り干渉信号Id12の伝搬チャネル情報は、同一のものを用いることができる。
【0032】
したがって、本実施形態では、例えば、上り回線の通信信号である上り通信信号Su11,Su22の伝搬チャネル情報hu11,hu22と上り回線の干渉信号である上り干渉信号Iu12,Iu21の伝搬チャネル情報hu12,hu21を取得することで、これを下り回線の通信信号である下り通信信号Sd11,Sd22の伝搬チャネル情報hd11,hd22、下り回線の干渉信号である下り干渉信号Id12,Id21の伝搬チャネル情報hd21,hd12として利用する。以下、伝搬チャネルごとの伝搬チャネル情報については、上り回線の伝搬チャネル情報h11,h12,h21,h22として記載する。
【0033】
伝搬チャネル情報は、振幅と位相で表現でき、例えば、伝搬チャネル情報h11は、振幅|h11|と位相θ11とを用いて、h11=|h11|×ejθ11と表現できる。このような伝搬チャネル情報(上り回線)は、各端末10-1,10-2から送信されて各基地局30-1,30-2のアンテナ部31で受信されるパイロット信号(例えば、サウンディング参照信号(SRS:Sounding Reference Signal))から求めることが可能である。
【0034】
ただし、従来の基地局は、一般に、自局のアンテナ部31で受信される受信信号から、他セル端末からの信号を識別して受信する構成を備えていない。そのため、自セル端末から送信されるパイロット信号(上り通信信号Su11,Su22)の伝搬チャネル情報h11,h22を取得することはできても、他セル端末から送信されるパイロット信号(上り干渉信号Iu12,Iu21)の伝搬チャネル情報h12,h21を取得することはできない。
【0035】
図4は、他セル端末10-2,10-1から送信されるパイロット信号の伝搬チャネル情報h11,h12,h21,h22を取得する方法の一例を示す説明図である。
図4の例は、各基地局30-1,30-2の送受信機35に、それぞれの自セル端末10-1,10-2からの受信信号(上り通信信号)Su11,Su22を受信する受信機32-11,32-22のほか、自局のアンテナ部31が受信する他セル端末10-2,10-1からの上り干渉信号Iu12,Iu21を受信する受信機32-12,32-21を追加した構成である。このような受信機32-12,32-21を各基地局30-1,30-2に追加することで、各基地局30-1,30-2のアンテナ部31で受信される受信信号から、他セル端末10-2,10-1からの信号(上り干渉信号Iu12,Iu21)を識別して受信することができる。
【0036】
なお、以下の説明では、適宜、第一基地局30-1が受信する上り通信信号Su11は、この信号の伝搬チャネル情報h11とこの信号の通信情報S1とを用いて、「h11S1」と表記し、第一基地局30-1が受信する上り干渉信号Iu12は、この信号の伝搬チャネル情報h12とこの信号の通信情報S2とを用いて、「h12S2」と表記する。同様に、第二基地局30-2が受信する上り通信信号Su22は、この信号の伝搬チャネル情報h22とこの信号の通信情報S2とを用いて、「h22S2」と表記し、第二基地局30-2が受信する上り干渉信号Iu21は、この信号の伝搬チャネル情報h21とこの信号の通信情報S1とを用いて、「h21S1」と表記する。
【0037】
図4の例によれば、第一基地局30-1では、受信機32-11により、自セル端末10-1からのパイロット信号h11S1(上り通信信号Iu11)を識別して受信する。この場合、第一基地局30-1の伝搬チャネル推定部34において、受信したパイロット信号h11S1から、自セル端末10-1から当該第一基地局30-1のアンテナ部31までの伝搬チャネルに関する伝搬チャネル情報h11を算出する。同様に、第二基地局30-2では、受信機32-22により、自セル端末10-2からのパイロット信号h22S2(上り干渉信号Iu22)を識別して受信する。この場合、第二基地局30-2の伝搬チャネル推定部34において、受信したパイロット信号h22S2から、自セル端末10-2から当該第二基地局30-2のアンテナ部31までの伝搬チャネルに関する伝搬チャネル情報h22を算出する。
【0038】
図4の例によれば、第一基地局30-1では、受信機32-12により、他セル端末10-2からのパイロット信号h12S2(上り干渉信号Iu12)を識別して受信する。この場合、第一基地局30-1の伝搬チャネル推定部34において、受信したパイロット信号h12S2から、他セル端末10-2から当該第一基地局30-1のアンテナ部31までの伝搬チャネルに関する伝搬チャネル情報h12を算出することが可能となる。同様に、第二基地局30-2では、受信機32-21により、他セル端末10-1からのパイロット信号h21S1(上り干渉信号Iu21)を識別して受信する。この場合、第二基地局30-2の伝搬チャネル推定部34において、受信したパイロット信号h21S1から、他セル端末10-1から当該第二基地局30-2のアンテナ部31までの伝搬チャネルに関する伝搬チャネル情報h21を算出することが可能となる。
【0039】
ただし、各基地局30-1,30-2の伝搬チャネル推定部34において、パイロット信号から伝搬チャネル情報を適切に算出するためには、当該パイロット信号の送信タイミングズレと送信周波数ズレを把握することが必要である。このパイロット信号の送信タイミングズレと送信周波数ズレは、当該パイロット信号を送信する端末が接続している基地局の送受信機35が把握している。
【0040】
そのため、伝搬チャネル情報のうち、自セル端末10-1,10-2から送信されるパイロット信号h11S1,h22S2の伝搬チャネル情報h11,h22については、それぞれの基地局30-1,30-2の伝搬チャネル推定部34で求めることができる。すなわち、第一基地局30-1に接続している端末10-1から送信されるパイロット信号h11S1の伝搬チャネル情報h11は、第一基地局30-1の伝搬チャネル推定部34が自己の送受信機35で把握している送信タイミングズレと送信周波数ズレを用いて求めることができる。同様に、第二基地局30-2に接続している端末10-2から送信されるパイロット信号h22S2の伝搬チャネル情報h22は、第二基地局30-2の伝搬チャネル推定部34が自己の送受信機35で把握している送信タイミングズレと送信周波数ズレを用いて求めることができる。
【0041】
しかしながら、他セル端末10-2,10-1から送信されるパイロット信号h12S2,h21S1を受信する各基地局30-1,30-2の送受信機35は、当該パイロット信号の送信タイミングズレと送信周波数ズレを把握していない。そのため、他セル端末10-2,10-1から送信されるパイロット信号h12S2,h21S1の伝搬チャネル情報h12,h21を取得するためには、当該パイロット信号の送信タイミングズレと送信周波数ズレを把握するための処理を行う必要がある。
しかし、他セル端末の送信タイミングズレと送信周波数ズレを他の基地局に設置した受信機がリルタイムに把握することは、基地局が相互にそれらの情報を相互に転送する必要があり、一般には極めて困難である。
【0042】
この処理を実現するため、図4の例では、各基地局30-1,30-2に連携通信部37を設置し、各基地局30-1,30-2間を通信可能なように光ファイバーケーブルなどの有線ラインで接続した基地局連携ネットワーク50を利用している。第一基地局30-1において、他セル端末10-2から送信されるパイロット信号h12S2を受信する受信機32-12は、基地局連携ネットワーク50を介した第二基地局30-2との同期通信により、他セル端末10-2から送信されるパイロット信h22S2を受信する第二基地局30-2の受信機32-22との間の同期処理を行うことができる。この同期処理を行うことで、第一基地局30-1では、受信機32-12で受信される他セル端末10-2から送信されるパイロット信号h12S2の送信タイミングズレと送信周波数ズレを把握して、当該パイロット信号h12S2の伝搬チャネル情報h12を取得することができる。
【0043】
また、第二基地局30-2において、他セル端末10-1から送信されるパイロット信号h21S1を受信する受信機32-21は、基地局連携ネットワーク50を介した第一基地局30-1との同期通信により、他セル端末10-1から送信されるパイロット信号h11S1を受信する第一基地局30-1の受信機32-11との間の同期処理を行うことができる。この同期処理を行うことで、第二基地局30-2では、受信機32-21で受信される他セル端末10-1から送信されるパイロット信号h21S1の送信タイミングズレと送信周波数ズレを把握して、当該パイロット信号h21S1の伝搬チャネル情報h21を取得することができる。
【0044】
そして、図4の例では、基地局連携ネットワーク50に連携制御装置70を設け、第一基地局30-1で取得した伝搬チャネル情報h11,h12と、第二基地局30-2で取得した伝搬チャネル情報h21,h22とを、連携制御装置70に転送する。これにより、連携制御装置70は、全部の伝搬チャネル情報h11,h12,h21,h22を取得することができる。
【0045】
ところが、上述した同期処理を行うためには、基地局30-1,30-2間でタイムラグの少ない同期通信が必要であったり、基地局30-1,30-2での高負荷の処理が必要であったりするなど、実現のハードルが高い。また、このような同期処理以外の方法で、各基地局30-1,30-2においてそれぞれの受信機32-12,32-21で受信される他セル端末10-2,10-1からのパイロット信号h12S2,h21S1の送信タイミングズレと送信周波数ズレを把握することも困難である。
【0046】
〔実施形態1〕
図5は、本発明の実施形態(以下、本実施形態を「実施形態1」という。)に係る移動通信システムにおいて伝搬チャネル情報h11,h12,h21,h22を取得する方法を示す説明図である。
本実施形態1では、図5に示すように、各基地局30-1,30-2の送受信機35に、それぞれの自セル端末10-1,10-2からの受信信号(上り通信信号)Su11,Su22を受信する第一受信機としての受信機32-11,32-22のほか、他の基地局30-2,30-1のアンテナ部31が受信する当該自セル端末10-1,10-2からの上り干渉信号Iu21,Iu12を受信する第二受信機としての受信機32-21,32-12を設けた構成である。
【0047】
すなわち、本実施形態1の移動通信システムでは、各基地局の送受信機35に、周辺基地局の数だけ、自セル端末から送信されるパイロット信号を受信するための第二受信機を追加して設置する。
【0048】
第一基地局30-1の送受信機35は、上述したとおり、第一基地局30-1の端末10-1から送信されて第二基地局30-2のアンテナ部31で受信される上り干渉信号Iu21の送信タイミングズレと送信周波数ズレを把握している。したがって、第一基地局30-1の推定部としての伝搬チャネル推定部34では、図4の例で必要であった同期処理を行うことなく、自己の送受信機35に組み込まれた受信機32-21が受信する上り干渉信号Iu21から伝搬チャネル情報h21を推定(生成あるいは取得)することができる。同様に、第二基地局30-2の送受信機35も、第二基地局30-2の端末10-2から送信されて第一基地局30-1のアンテナ部31で受信される上り干渉信号Iu12の送信タイミングズレと送信周波数ズレを把握している。したがって、第二基地局30-2の伝搬チャネル推定部34では、図4の例で必要であった同期処理を行うことなく、自己の送受信機35に組み込まれた受信機32-12が受信する上り干渉信号Iu12から伝搬チャネル情報h12を推定することができる。
【0049】
図5の例によれば、図4と同様に、第一基地局30-1では、受信機32-11により、自セル端末10-1からのパイロット信号h11S1(上り通信信号Iu11)を識別して受信する。この場合、第一基地局30-1の伝搬チャネル推定部34において、受信したパイロット信号h11S1から、自セル端末10-1から当該第一基地局30-1のアンテナ部31までの伝搬チャネルに関する伝搬チャネル情報h11を算出する。同様に、第二基地局30-2では、受信機32-22により、自セル端末10-2からのパイロット信号h22S2(上り干渉信号Iu22)を識別して受信する。この場合、第二基地局30-2の伝搬チャネル推定部34において、受信したパイロット信号h22S2から、自セル端末10-2から当該第二基地局30-2のアンテナ部31までの伝搬チャネルに関する伝搬チャネル情報h22を算出する。
【0050】
したがって、本実施形態1では、第一基地局30-1の伝搬チャネル推定部34では伝搬チャネル情報h11,h21を推定することができ、かつ、第二基地局30-2の伝搬チャネル推定部34では伝搬チャネル情報h22,h12を推定することができる。よって、各基地局30-1,30-2の伝搬チャネル推定部34で推定した伝搬チャネル情報を基地局連携ネットワーク50により連携制御装置70へ転送することで、連携制御装置70において全部の伝搬チャネル情報h11,h12,h21,h22を取得することができる。
【0051】
以上より、本実施形態1によれば、連携制御装置70において全部の伝搬チャネル情報h11,h12,h21,h22を取得するにあたり、図4の例では必要であった送信タイミングズレと送信周波数ズレなどの同期処理を行わずに済む。
【0052】
図6は、本実施形態1について、N個の基地局30-1,30-2,・・・,30-N間における全部の伝搬チャネル情報h11,h12,・・・,h1N,・・・,hN1,hN2,・・・,hNNを取得する例を示す説明図である。
本実施形態1によれば、図6に示すように、各基地局30-1,30-2,・・・,30-Nの送受信機35に、それぞれの自セル端末10-1,10-2,10-NNからの受信信号を受信する第一受信機としての受信機32-11,32-22,・・・,32-NNに加え、他の基地局のアンテナ部31が受信する当該自セル端末10-1,10-2,10-NNからの上り干渉信号を受信する(N-1)個の第二受信機としての受信機32-21,・・・,32-N1,・・・を設ける。そして、各基地局30-1,30-2,・・・,30-Nの伝搬チャネル推定部34でそれぞれ推定される伝搬チャネル情報を、基地局連携ネットワーク50により連携制御装置70へ転送することで、連携制御装置70において全部の伝搬チャネル情報h11,h12,・・・,h1N,・・・,hN1,hN2,・・・,hNNを取得することができる。
【0053】
〔実施形態2〕
図7は、本発明の他の実施形態(以下、本実施形態を「実施形態2」という。)に係る移動通信システムにおいて伝搬チャネル情報h11,h12,h21,h22を取得する方法を示す説明図である。
図8は、本実施形態2について、N個の基地局30-1,30-2,・・・,30-N間における全部の伝搬チャネル情報h11,h12,・・・,h1N,・・・,hN1,hN2,・・・,hNNを取得する例を示す説明図である。
【0054】
本実施形態2における移動通信システムでは、集中基地局構成を採用し、2つの基地局30-1,30-2の送受信機35を、それぞれのアンテナ部31から離れて一か所に集約して配置したものである。以下、2つの基地局30-1,30-2の送受信機35が集約して配置される当該一か所を「集中基地局構成部60」という。
【0055】
上述した実施形態1の構成は、各基地局30-1,30-2の送受信機35に、他の基地局30-2,30-1のアンテナ部31が受信する自セル端末10-1,10-2からの上り干渉信号Iu21,Iu12を受信する受信機32-21,32-12を設けるものである。そのため、各基地局30-1,30-2の送受信機35に、他の基地局30-2,30-1のアンテナ部31からの信号を伝送する信号伝送手段である伝送ケーブルを配設する必要がある。そのため、図5に示した例では、自局内におけるアンテナ部31と送受信機35との間を接続する伝送ケーブル51-11,51-22のほか、他の基地局30-2,30-1のアンテナ部31と自局の送受信機35との間を接続する伝送ケーブル51-21,51-12が追加で配設されている。
【0056】
このような伝送ケーブル51-21,51-12を追加で配設する構成は、他の基地局30-2,30-1のアンテナ部31と自局の送受信機35との距離に相当する長い伝送ケーブル(光ケーブルなど)が必要となる。特に、図6に示したように、3以上の多くの基地局間で当該伝送ケーブルを配設する構成では、多数の長い伝送ケーブルを敷設する必要が生じ、敷設コストが高騰する。
【0057】
本実施形態2の移動通信システムでは、図7に示すように、集中基地局構成部60内に設置される各基地局30-1,30-2の送受信機35とそれぞれのアンテナ部31との間を接続する既存の伝送ケーブル51-1,51-2を分岐させる分岐部62-1,62-2が集中基地局構成部60内に設置されている。
【0058】
第一基地局30-1のアンテナ部31から延びる伝送ケーブル51-1は、集中基地局構成部60内の分岐部62-1により2つに分岐される。分岐した一方の伝送ケーブルは、第一基地局30-1の送受信機35に接続され、分岐した他方の伝送ケーブルは第二基地局30-2の送受信機35に接続される。これにより、第一基地局30-1のアンテナ部31で受信された受信信号は、第一基地局30-1の送受信機35と第二基地局30-2の送受信機35とにそれぞれ入力される。その結果、受信した受信信号に含まれる自セル端末10-1からの上り通信信号h11S1は、第一基地局30-1の送受信機35内の受信機32-11によって識別されて受信され、受信した受信信号に含まれる他セル端末10-2からの上り干渉信号h12S2は、第二基地局30-2の送受信機35内の受信機32-12によって識別されて受信される。
【0059】
同様に、第二基地局30-2のアンテナ部31から延びる伝送ケーブル51-2は、集中基地局構成部60内の分岐部62-2により2つに分岐される。分岐した一方の伝送ケーブルは、第一基地局30-1の送受信機35に接続され、分岐した他方の伝送ケーブルは第二基地局30-2の送受信機35に接続される。これにより、第二基地局30-2のアンテナ部31で受信された受信信号は、第一基地局30-1の送受信機35と第二基地局30-2の送受信機35とにそれぞれ入力される。その結果、受信した受信信号に含まれる自セル端末10-2からの上り通信信号h22S2は、第二基地局30-2の送受信機35内の受信機32-22によって識別されて受信され、受信した受信信号に含まれる他セル端末10-1からの上り干渉信号h21S1は、第一基地局30-1の送受信機35内の受信機32-21によって識別されて受信される。
【0060】
以上のように、本実施形態2の移動通信システムは、各基地局30-1,30-2の送受信機35に他の基地局30-2,30-1のアンテナ部31からの信号を伝送する既存の伝送ケーブル51-1,51-2を集中基地局構成部60内の分岐部62-1,62-2により分岐する構成である。この構成によれば、上述の実施形態1のように追加の伝送ケーブル51-21,51-12を敷設する構成と比較して、敷設コストを大幅に低減させることができる。
【0061】
〔実施形態3〕
図9は、本発明の更に他の実施形態(以下、本実施形態を「実施形態3」という。)に係る移動通信システムにおいて伝搬チャネル情報h11,h12,h21,h22を取得する方法を示す説明図である。
図10は、本実施形態3について、N個の基地局30-1,30-2,・・・,30-N間における全部の伝搬チャネル情報h11,h12,・・・,h1N,・・・,hN1,hN2,・・・,hNNを取得する例を示す説明図である。
【0062】
本実施形態3における移動通信システムでは、上述した実施形態2における集中基地局構成を採用するとともに、連携制御装置70の機能を各基地局30-1,30-2,・・・,30-Nに分散させたものである。詳しくは、上述した実施形態2において各基地局30-1,30-2,・・・,30-Nで推定した伝搬チャネル情報を連携制御装置70に転送していた構成に代えて、本実施形態3では、各基地局に制御装置71を配置し、各基地局同士がそれぞれお互いの伝搬チャネル情報を受け渡す構成を採用する。そして、各基地局の制御装置71において、それぞれが全部の伝搬チャネル情報h11,h12,・・・,h1N,・・・,hN1,hN2,・・・,hNNを取得する。
【0063】
本実施形態3の移動通信システムでは、各基地局30-1,30-2,・・・,30-Nの制御装置71が全部の伝搬チャネル情報h11,h12,・・・,h1N,・・・,hN1,hN2,・・・,hNNを取得する構成であるため、上述した実施形態2のように全部の伝搬チャネル情報を集約するための連携制御装置70を別途設ける必要がない。
【0064】
上述した実施形態においては、伝搬チャネル情報を求めるために用いるパイロット信号として、各端末10-1,10-2から各基地局30-1,30-2のアンテナ部31が受信するサウンディング参照信号(SRS)を用いる。このSRSは、5Gの規格で採用されており、基地局30-1,30-2側で上りリンクのチャネル品質や受信タイミングなどを測定するための上りリンク参照信号である。このSRSは、後ろから6OFDMシンボル中の1、2、4OFDMシンボルを使用し、各基地局30-1,30-2の端末10-1,10-2に割り当てられるSRSは、図11に示すように、周波数軸上にて直交させているため、互いに干渉しない。
【0065】
図12は、上述した実施形態2の構成において、SRSを用いて伝搬チャネル情報h12,h21を取得する例を示す説明図である。
伝搬チャネル情報を求めるための所定信号としてSRSを用いることで、第一基地局30-1では、自セル端末10-1からの信号h11S1(SRS)と他セル端末10-2からの信号h12S2(SRS)とを容易に識別することができる。同様に、第二基地局30-2でも、自セル端末10-2からの信号h22S2(SRS)と他セル端末10-1からの信号h21S1(SRS)とを容易に識別することができる。よって、各基地局30-1,30-2では、各端末10-1,10-2との間の伝搬チャネル情報h11,h12,h21,h22を精度よく生成(取得)することが可能となる。
【0066】
なお、本発明は、第5世代等の移動通信システムの基地局と端末との間で行われる無線通信において、互いに近接する基地局間で互いに同一の周波数帯を利用する場合に生じ得る干渉を、伝搬路チャネル情報に基づく干渉抑圧技術により抑圧(キャンセル)して、各基地局と各端末との間の上り回線や下り回線の高品質な通信を実現できるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献できる。
【0067】
なお、本明細書で説明された処理工程並びにシステム、基地局及び端末の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0068】
ハードウェア実装については、実体(例えば、各種無線通信装置、gNodeB、端末、管理装置、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブルロジックデバイス(PLD)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0069】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0070】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であればよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0071】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0072】
10 :端末
30-1 :第一基地局
30-2 :第二基地局
31 :アンテナ部
32 :受信機
33 :送信機
34 :伝搬チャネル推定部
35 :送受信機
37 :連携通信部
40,41:干渉キャンセラー
50 :基地局連携ネットワーク
51 :伝送ケーブル
60 :集中基地局構成部
62 :分岐部
70 :連携制御装置
71 :制御装置
100 :セル
Cd :下り干渉キャンセル信号
Cu :上り干渉キャンセル信号
Id :下り干渉信号
Iu :上り干渉信号
Sd :送信信号(下り通信信号)
Su :受信信号(上り通信信号)
h :伝搬チャネル情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12