(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】認知症ではない個体において認知的加齢を軽減する組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/12 20160101AFI20240722BHJP
A23L 33/15 20160101ALI20240722BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20240722BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240722BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20240722BHJP
A23K 20/174 20160101ALI20240722BHJP
A23K 50/40 20160101ALI20240722BHJP
【FI】
A23L33/12
A23L33/15
A23L33/175
A23L33/10
A23K20/158
A23K20/174
A23K50/40
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022206897
(22)【出願日】2022-12-23
(62)【分割の表示】P 2019550713の分割
【原出願日】2018-04-05
【審査請求日】2023-01-16
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/082148
(32)【優先日】2017-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/074731
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ライカー, クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ハドリー-ラベ, ジュリー, ロール
(72)【発明者】
【氏名】シュミット, イェルン, アントニウス, ヨハンネス
(72)【発明者】
【氏名】ボシャット, コリーナ
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-532696(JP,A)
【文献】特表2014-515011(JP,A)
【文献】国際公開第2016/207794(WO,A1)
【文献】特表2016-514673(JP,A)
【文献】AGE,2013年,Vol.35,p.1589-1606
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/
A23K
A61K 31/
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
認知症ではない個体において認知的加齢を軽減するための食品組成物を製造する方法であって、タンパク質、炭水化物、及び脂肪からなる群から選択される少なくとも1種の成分に、ω3脂肪酸と、シトルリンと、ビタミンB12及びコリンとの組み合わせを有効な量で添加することを含み、
前記ω3脂肪酸は、少なくともエイコサペンタエン酸を含み、
前記食品組成物を製造するにあたって、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB7及びビタミンB9からなる群から少なくとも前記ビタミンB6及び前記ビタミンB9が選択される少なくとも2種を有効な量で更に添加することを含み、
前記組成物が、1日当たり前記エイコサペンタエン酸を0.5g~1.0gの一日用量で投与され、
前記組成物が、
米国の1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.01~10.0倍のコリンを提供する一日用量で投与され、
前記組成物が、
米国の1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~50倍のビタミンB12を提供する一日用量で投与される、方法。
【請求項2】
前記食品組成物を製造するにあたって、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB7及びビタミンB9からなる群から
少なくとも前記ビタミンB6及び前記ビタミンB9が選択される少なくとも6種を有効な量で更に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が、1日当たり前記ビタミンB6を15mg~25mgの一日用量で投与され、
前記組成物が、1日当たり前記ビタミンB9を0.1mg~1.0mgの一日用量で投与される、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記食品組成物を製造するにあたって、ビタミンC、ビタミンD及びビタミンEからなる群から選択される少なくとも1種を有効な量で更に添加することを含む、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記食品組成物を製造するにあたって、ビタミンC、ビタミンD及びビタミンEを有効な量で更に添加することを含む、請求項
3に記載の方法。
【請求項6】
前記個体がコンパニオンアニマルである、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001]本開示は、概して、認知症ではない個体において、認知的加齢を軽減する組成物及び方法に関する。より具体的には、本開示は、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ある量のビタミンB12及びコリンとの組み合わせを含む組成物を投与することによる認知的加齢の軽減に関する。
【0002】
[0002]人口の高齢化は、顕著な人口統計事象である。寿命の長期化により、高齢者人口の増加が総人口の増加を上回るにつれて、高齢者人口の他の人口に対する割合は、出生率の低下もあって大幅に増加している。例えば、1950年代には60歳以上の高齢者は12人に1人であったのが、2000年代の終わりには60歳以上の高齢者は10人に1人となっていた。2050年代の終わりまでには、世界的に5人に1人が60歳以上の高齢者となると予測されている。
【0003】
[0003]高齢者や老化している個体は、年齢と共に進行する認知機能の低下を含む、ある程度の認知障害を患うことが多く、通常、加齢に伴う脳形態及び脳血管機能の変化が観察される。認知機能の低下は、処理速度、注意、エピソード記憶、空間能力及び遂行機能などを含む広範な認知領域の老化と併せて報告されている。脳の画像解析により、これらの通常の加齢に関連する認知機能の低下は、脳の灰白質及び白質の両方の容積の減少と関連しており、老化に伴って最も重く損傷を受けるのは前頭線条体系であることが判明している。このような皮質容積の減少は、例えば、時間経過に伴い酸化的損傷をもたらすフリーラジカルによる損傷の蓄積、慢性的な軽度の炎症、ホモシステインの蓄積(ホモシステイン量が多くなると、認知障害及び認知症に対するリスク因子となる)、及びミトコンドリア機能の低下などの、通常の老化に関与する多くの有害な細胞プロセスに起因する場合がある。直接的な細胞の損傷に加え、脳は、微小血管構造の傷害からも間接的な損傷を受ける。老化、更には認知症の病理が、これらの因子間の複雑な相互作用を内包することは明らかであり、また各作用は相関するものである。例えば、ミトコンドリアの機能不全は結果として酸化ストレスを増加させ、酸化ストレスは炎症及び血管損傷のトリガーとなり得る。
【0004】
[0004]更に、認知機能の低下はアルツハイマー病理の初期の予測因子であり、認知症の発症前に始まる。この場合、認知についての総合得点が、認知症前の認知機能の低下を評価するための信頼性の高い手段となる。多くのエビデンスから、脳の健康を維持し、加齢による認知機能低下を予防することで、アルツハイマー病及び他の加齢関連の神経病理による認知症の進行を予防又は先延ばしできることが示唆されている。
【0005】
[0005]近年、栄養摂取、学習、運動及び認知エクササイズは、加齢による認知機能の低下を予防し得る介入方法として実証されている。豊富な臨床的、疫学的及び個別的なエビデンスにより、個々の栄養因子が、認知症リスク及び加齢関連の神経変性を低減することが裏付けられている。しかしながら、栄養学的介入に関する公式な試験で得られた結果は錯綜している(Schmitt et al.,Nutrition Reviews 68:S2-S5(2010)。
【0006】
[0006]いくつかの長期試験が行われたが、B6と、B12と、葉酸塩との組み合わせを使用した介入では、認知機能に対するいかなる利益も観察できなかった。McMahon et al.(2006)N Engl J Med,354(26),2764-2772によると、葉酸塩(1000μg)と、ビタミンB12(500μg)と、B6(10mg)とを含有する栄養補助食品を2年摂取した後の65歳以上の成人の認知には効果がなかった。同様に、Hankey et al.(2013)(Stroke,44(8),2232-2239)によると、脳卒中又は一過性脳虚血発作の既往があるものの認知機能が損なわれていない患者に対し、葉酸(2000μg)と、ビタミンB6(25mg)と、ビタミンB12(500μg)とを毎日補給させた場合、中央値で2.8年の間、平均tHcyは低下したが、MMSEによって測定される認知障害又は認知機能低下の発生には効果はなかったことが判明している。
【0007】
[0007]いくつかの短期試験においてもまた、認知機能の改善について、B6と、B12と、葉酸塩とを組み合わせることによる効果を示すことができなかった。Lewerin et al.(2005)Am J Clin Nutrr,81(5),1155-1162によると、葉酸(800μg)と、ビタミンB12(500μg)と、ビタミンB6(3mg)との4ヶ月間の補給では、高齢者(年齢中央値76歳)における認知に効果はなかったことが判明している。
【発明の概要】
【0008】
[0008]理論に拘束されるものではないが、本発明者らは、認知症リスク及び加齢関連の神経変性の低減を試みる従来の栄養学的介入は、栄養分を単独で投与することに目を向けており、十分な理解のもとにそれらを組み合わせて、栄養素の相互作用により効果の程度を増強させるものではなかったものと考える。更に、認知機能に対する混合成分の効果を試験した研究では、構成成分の全てが同じ機序を標的とする混合物(例えば、Hcyレベルを標的とする葉酸塩と、B12と、B6との混合物の混合物、又は酸化的損傷を標的とするビタミンCとビタミンEとの混合物)を使用しており、この点が、このエビデンスが単一成分による研究と同様の矛盾を示す理由である可能性がある。したがって、本開示は、広義には、各栄養学的介入が、認知機能低下に関連する異なるリスク因子を標的とする複数の介入アプローチに関する。
【0009】
[0009]したがって、広義の実施態様において、本開示は、認知的加齢の軽減、治療若しくは予防を必要とする又は認知的加齢のリスクがある、認知症ではない個体において、認知的加齢を軽減、治療若しくは予防する方法を提供する。本方法は、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ビタミンB12及びコリンとを含む組成物を、治療有効量で個体に投与することを含む。組成物は、好ましくは1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~50倍のビタミンB12、より好ましくは1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~40倍のビタミンB12、及び推奨一日所要量(RDA)の0.01~10.0倍のコリンを提供する一日用量で投与される。
【0010】
[0010]より好ましい実施形態では、一日用量は、1日当たりRDAの約10倍、20倍、30倍又は40倍のビタミンB12、好ましくは1日当たりRDAの10~40倍、より好ましくは10~30倍、又は更により好ましくは10~25倍のビタミンB12、最も好ましくはRDAの約12~21倍のビタミンB12を提供する。
【0011】
[0011]別の好ましい実施形態では、コリンは、コリンクロリド、コリンビタートレート、シチコリン(CDP-コリン)、L-α-グリセロホスホコリン(α-GPC)、レシチン、ホスファチジルコリン、及びこれらの混合物、好ましくはコリンビタートレートからなる群から選択される成分によって提供され得る。更に、組成物は、5.5mg/日~5,500mg/日のコリン、好ましくは85mg/日~3,500mg/日のコリンを提供する一日用量で個体に投与することができる。上記に定義したとおり、組成物は、推奨一日所要量(RDA)の0.01~10.0倍のコリン、例えばRDAの0.15~6.0倍のコリンを提供する一日用量で個体に投与されてもよい。この関連で、コリンのRDAは、550mg/日である。
【0012】
[0012]一実施形態では、個体は高齢者、例えば老齢のヒトである。
【0013】
[0013]一実施形態では、個体はベースラインにおいて低DHA状態を有する。一実施形態では、個体はベースラインにおいて0.5の臨床的認知症尺度(CDR)を有する。一実施形態では、個体はベースラインにおいて少なくとも12μmol/Lの血漿ホモシステインレベルを有する。一実施形態では、個体はベースラインにおいて10~15の心臓血管リスク因子、老化及び認知症(Cardiovascular Risk Factors,Aging and Dementia(CAIDE))のリスクスコアを有する。一実施形態では、個体はベースラインにおいてアミロイドPETスキャンでアミロイド陽性である。一実施形態では、個体は、認知機能低下のリスクを示す遺伝子型を有する。
【0014】
[0014]一実施形態では、組成物は、個体に少なくとも1ヶ月間、毎日経口投与される。
【0015】
[0015]一実施形態では、一酸化窒素放出化合物は、シトルリンを含む。
【0016】
[0016]一実施形態では、ω3脂肪酸は、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びこれらの混合物からなる群から選択される脂肪酸を含む。
【0017】
[0017]一実施形態では、組成物は、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB7及びビタミンB9からなる群から選択される1種以上の追加のビタミンB類を含む。好ましくは少なくともビタミンB6及び/又はビタミンB9を、より好ましくはビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB7及びビタミンB9の全てを含む。
【0018】
[0018]一実施形態では、組成物は、コリンに加えて、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、及びセレンからなる群から選択される1種以上の更なる酸化防止剤を含む。
【0019】
[0019]別の実施形態では、本開示は、認知的加齢の軽減、治療若しくは予防を必要とする又は認知的加齢のリスクがある、認知症ではない個体において、認知的加齢を軽減、治療若しくは予防する方法であって、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ビタミンB12及びコリンとを含む組成物を治療有効量で個体に投与することを含む方法を提供し、上記組成物は、1日当たり約0.002mg~約0.4mgのビタミンB12、好ましくは1日当たり0.02~0.07mgのビタミンB12、より好ましくは1日当たり0.03~0.05mgのビタミンB12、及び約5.5mg/日~5,500mg/日のコリンを提供する一日用量で投与される。
【0020】
[0020]別の実施形態では、本開示は、脳萎縮の減少、シナプス数の増加又は維持、アミロイド-β食作用の増加又は維持、及び神経炎症の減少を必要とする認知症ではない個体において、脳萎縮の減少、シナプス数の増加又は維持、アミロイド-β食作用の増加又は維持、及び神経炎症の減少からなる群から選択される利益のうちの1つ以上を得る方法を提供する。本開示はまた、神経細胞の流動性の改善、神経可塑性及び活性の刺激、抗炎症性の改善、活性酸素種(ROS)及び/又は標的一酸化窒素放出の低減からなる群から選択される利益のうちの1つ以上を得る方法を提供する。本開示はまた、認知パフォーマンスの支持又は維持、脳パフォーマンスの支持又は維持、脳の加齢の緩徐化、活発な意識及び脳の適応性の支持、健康な脳の支持又は維持、記憶力の強化、遂行機能の強化、注意力の強化、健全な認知の維持、脳細胞の健康の維持などから選択される利益のうちの1つ以上を得る方法を提供する。このような利益はいずれも、好ましくは、本明細書で定義される方法、好ましくは認知的加齢の軽減、治療若しくは予防を必要とする又は認知的加齢のリスクがある、認知症ではない個体において、認知的加齢を軽減、治療若しくは予防する方法によって得られる。本方法は、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ビタミンB12及びコリン、好ましくは本明細書に記載されたとおりの量のビタミンB12及びコリンとを含む組成物を治療有効量で個体に投与することを含む。組成物は、典型的には、1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~50倍のビタミンB12、より好ましくは1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~40倍のビタミンB12、及び推奨一日所要量(RDA)の0.01~10.0倍のコリンを提供する一日用量で投与される。一日用量は、1日当たりRDAの約10倍、20倍、30倍又は40倍のビタミンB12を提供することができる。好ましくは、一日用量は、上記に定義したように、1日当たりRDAの10~40倍、より好ましくは10~30倍、又は更により好ましくは10~25倍のビタミンB12、最も好ましくはRDAの約12~21倍のビタミンB12を提供する。一日用量は更に、上記に定義したように、推奨一日所要量(RDA)の約0.01~10.0倍のコリン、好ましくはRDAの0.15~6.0倍のコリンを提供することができる。一酸化窒素放出化合物はシトルリンを含むことができ、ω3脂肪酸は、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びこれらの混合物からなる群から選択される脂肪酸を含むことができる。
【0021】
[0021]別の実施形態では、本開示は、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ビタミンB12及びコリンとの組み合わせを含む組成物を提供する。組成物の一日用量は、上記に定義したように、1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~50倍のビタミンB12、より好ましくは1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~40倍のビタミンB12、及び上記に定義したように、推奨一日所要量(RDA)の0.01~10.0倍のコリンを提供する。組成物は、認知症ではない個体において認知的加齢を軽減するのに有効な量での組み合わせを含む。組成物は、タンパク質、炭水化物、脂肪、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される成分を含む食品製品であり得る。組成物は、製薬上許容できる担体、希釈剤及び賦形剤からなる群から選択される構成成分を含む医薬組成物であり得る。
【0022】
[0022]別の実施形態では、本開示は、認知症ではない個体において認知的加齢を軽減するための食品組成物を製造する方法を提供する。本方法は、タンパク質、炭水化物、及び脂肪からなる群から選択される少なくとも1種の成分に、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ビタミンB12及びコリンとの組み合わせを有効な量で添加することを含む。食品組成物の一日用量は、本明細書において上記に定義したように、1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~50倍のビタミンB12、より好ましくは1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~40倍のビタミンB12、及び上記に定義したように、推奨一日所要量(RDA)の0.01~10.0倍のコリンを提供する。
【0023】
[0023]別の実施形態では、本開示は、認知症ではない個体において認知的加齢を軽減するための医薬組成物を製造する方法であって、製薬上許容できる担体、希釈剤、及び賦形剤からなる群から選択される少なくとも1種の構成成分に、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ビタミンB12及びコリンとの組み合わせを、有効量で添加することを含む、方法を提供する。医薬組成物の一日用量は、本明細書において上記に定義したように、1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~50倍のビタミンB12、より好ましくは1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~40倍のビタミンB12、及び上記に定義したように、推奨一日所要量(RDA)の0.01~10.0倍のコリンを提供する。
【0024】
[0024]別の実施形態では、本開示は、認知症のリスクがある個体において、認知症を予防する方法を提供する。本方法は、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ビタミンB12及びコリンとを含む組成物を、治療有効量で個体に投与することを含む。組成物は、本明細書において上記に定義したように、1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~50倍のビタミンB12、より好ましくは1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~40倍のビタミンB12、及び上記に定義したように、推奨一日所要量(RDA)の0.01~10.0倍のコリンを提供する一日用量で投与される。一日用量は、1日当たりRDAの約10倍、20倍、30倍又は40倍のビタミンB12を提供することができる。好ましくは、一日用量は、1日当たりRDAの10~40倍、より好ましくは10~30倍、又は更により好ましくは10~25倍のビタミンB12、最も好ましくは1日当たりRDAの約12~21倍のビタミンB12を提供する。更に、組成物は、上記に定義したように、推奨一日所要量(RDA)の約0.01~10.0倍のコリン、好ましくはRDAの0.15~6.0倍のコリンを提供する一日用量で投与される。予防される認知症は、アルツハイマー病、血管性認知症、レヴィー小体認知症、前頭側頭型認知症及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0025】
[0025]別の実施形態では、本開示は、認知症ではない個体(例えば、認知能力の改善を必要としている個体)において、認知能力を改善する方法であって、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ビタミンB12及びコリンとを含む組成物を、治療有効量で個体に投与することを含む方法を提供し、上記組成物は、本明細書において上記に定義したように、1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~50倍のビタミンB12、より好ましくは1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~40倍のビタミンB12、及び上記に定義したように、推奨一日所要量(RDA)の0.01~10.0倍のコリンを提供する一日用量で投与される。
【0026】
[0026]本開示により提供される1つ以上の実施形態による利益は、認知症ではない個体(例えば老齢のヒト)の認知的加齢を軽減させることである。
【0027】
[0027]本開示により提供される1つ以上の実施形態の別の利益は、例えばドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)などのω3脂肪酸を使用して、神経細胞の細胞膜流動性を調整し、神経可塑性を刺激し、抗神経炎症性効果を提供し、及び/又は脳酸化ストレスを低減させ、ビタミンB(例えばB12)との組合わせにより、血漿中のホモシステインレベルを低下させ、並びに例えばアルギニン又はシトルリンなどの一酸化窒素放出化合物との組み合わせによりシグナル伝達経路を保護することである。
【0028】
[0028]本開示により提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、認知的加齢のための既知の栄養学的介入に関連するある量のビタミンB12及びコリンと、ω3脂肪酸、例えばドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)などとを使用することである。
【0029】
[0029]本開示により提供される1つ以上の実施形態の更に別の利益は、脳萎縮及び神経炎症を減少させ、認知症ではない個体において、アミロイド-β食作用及びシナプス数を増加させ又は維持することである。本文脈において、本明細書で得られる利益のうちの1つ以上は、神経細胞の流動性の改善、神経可塑性及び活性の刺激、抗炎症性の改善、活性酸素種(ROS)(例えば、コリンの添加による)及び/若しくは標的NO放出の低減、又は本明細書に記載される他の利益からなる群から選択される。
【0030】
[0030]更なる特徴及び利益が本明細書において記述されており、以下の図面、及び発明を実施するための形態から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】異なる化合物で処理されたヒト神経細胞の神経機能の定量データを示す。x軸は測定が行われた時点であり、y軸はスパイク数の平方根である。T9処理は、他の処理及び対照と比較して、1時間、4時間及び24時間の時点において有意に高い神経細胞活性を示す。
*=p<0.05。
【
図2】上記のそれぞれの化合物で24時間処理したヒト星状細胞の定量データを示す。x軸は個々の処理に対応し、y軸は化学発光に対応する。左側には、炎症性分子IFNγ及びVCAM-1に対する処理剤の効果を示す。T9処理は、24時間の処理後に、IFNγ及びVCAM-1の量を有意に低下させる。
***=p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[0035]定義
[0036]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0033】
[0037]本明細書に記載する全てのパーセンテージは、別途記載のない限り組成物の総重量によるものである。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数又は分数を含むと理解されるべきである。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項を支持するために与えられていると解釈すべきである。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲を支持するものと解釈すべきである。
【0034】
[0038]本開示及び添付の特許請求の範囲において使用するとき、単数形「1つの」(「a」、「an」及び「the」)には、別段の指示がない限り、複数の参照物も含まれる。したがって、例えば、「1つの構成成分(a component)」又は「その構成成分(the component)」についての言及は、2つ以上の構成成分を含む。
【0035】
[0039]「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含んでいる(comprising)」という用語は、排他的にではなく包含的に解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは包括的なものであると解釈される。しかしながら、本明細書に開示されている組成物は、本明細書において具体的に開示されていない要素を含まない場合がある。したがって、「を含む(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成成分「本質的に~からなる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」実施形態の開示を含む。「本質的になる」組成物とは、参照された構成成分を少なくとも50重量%、好ましくは参照された構成成分を少なくとも75重量%、より好ましくは参照された構成成分を少なくとも85重量%、最も好ましくは参照された構成成分を少なくとも95重量%含むことをいう。
【0036】
[0040]「X及び/又はY」の文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」又は「Y」、あるいは「X及びY」として解釈すべきである。本明細書において使用する場合、「例」及び「例えば~など」という用語は、その後に用語の列挙が続くときは特に、単に例示的かつ説明的なものにすぎず、排他的又は網羅的なものとみなされるべきではない。
【0037】
[0041]用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取、並びにかかる個体に対する少なくとも1種の栄養分の提供が意図された、製品又は組成物を意味する。本開示の組成物には、本願明細書に記載されている多くの実施形態が含まれ、本願明細書に開示される要素、並びに本願明細書に記載される又はその他の食餌療法において有用である何らかの追加の若しくは任意的な成分、構成成分又は要素を含むか、それらからなるか、又はそれらから本質的になることができる。
【0038】
[0042]「予防」は、状態又は疾患のリスク及び/又は重症度を低減させることを含む。用語「治療」、「治療する」、「軽減する」及び「緩和する」には、予防若しくは予防的治療(標的とする病態若しくは障害の発現を予防する及び/又は遅らせる)と、治癒的、治療的若しくは疾患改善的な治療の両方が含まれ、例えば、診断された病態又は障害の治癒、遅延、症状の軽減、及び/又は進行の停止のための治療的手段、並びに、疾患のリスクがある患者又は疾患に罹患する疑いのある患者、及び体調不良の患者又は疾患若しくは医学的症状に罹患していると診断された患者の治療が含まれる。この用語は、完治するまで対象が治療されることを必ずしも意味するものではない。これらの用語はまた、疾患を患ってはいないが、不健康な状態を起こしやすい個体の健康維持及び/又は増進も意味する。これらの用語はまた、1つ以上の主たる予防的又は治療的手段の相乗作用あるいは強化を含むことを意図するものである。用語「治療」、「治療する」、「軽減する」及び「緩和する」は更に、疾患若しくは症状に対する食事療法、又は疾患若しくは症状の予防(prophylaxis)若しくは予防(prevention)のための食事療法を含むことを意図するものである。治療は患者に関連するものであってもよく、又は医師に関連するものであってもよい。
【0039】
[0043]用語「個体」は、認知的加齢を生じる可能性を有し、ゆえに、本願明細書に開示される1つ以上の方法から利益を得ることができる、ヒトを含む任意の動物を意味する。一般には、個体は、ヒト、又はトリ、ウシ、イヌ、ウマ、ネコ、ヤギ、オオカミ、ネズミ、ヒツジ、又はブタの動物である。「コンパニオンアニマル」は、任意の飼いならされた動物であり、限定されないが、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、フェレット、ハムスター、マウス、アレチネズミ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ブタなどが挙げられる。好ましくは、個体はイヌやネコ等のコンパニオンアニマル又はヒトであり、最も好ましくはヒトである。
【0040】
[0044]ヒトの文脈における用語「老齢」(elderly)は、少なくとも60歳、好ましくは63歳以上、より好ましくは65歳以上、最も好ましくは70歳以上の年齢を意味する。ヒトの文脈における用語「高齢者」(older adult)は、少なくとも45歳、好ましくは50歳以上、より好ましくは55歳以上の年齢を意味し、老齢の個体を含む。
【0041】
[0045]他の動物の場合、「高齢個体」とは、その個々の種及び/又は種内の系統において、平均寿命の50%を超えた動物をいう。動物は、平均期待寿命の66%を超えた場合、好ましくは平均期待寿命の75%を超えた場合、より好ましくは平均期待寿命の80%を超えた場合に、「老齢」と考えられる。老齢のネコ又はイヌは、少なくとも約7歳齢である。
【0042】
[0046]「認知的加齢」とは、例えば老齢になるなど、年齢を重ねるにつれ進行する認知能力の低下であり、脳の形態及び/又は脳血管の機能における加齢に伴う変化を含み得る。認知的加齢には、例えば頭部外傷又は鬱などの、老化以外の基礎症状により生じる認知能力の低下は含まれない。
【0043】
[0047]「認知能力」は、個体が観念を意識、知覚、又は理解するようになる知的プロセスとして定義される。認知能力は、認知することの質を包含し、これには知覚、認識、構想、感知、思考、推論、記憶及び想像の全ての態様を含む。認知能力の低下とは、新たな情報又は状況への対処又は反応が困難なことをいう。認知障害は多くの形で顕在化し、特に、例えば、短期記憶の低下、学習能力の低下、学習速度の低下、注意力低下、運動能力の低下、及び/又は認知症の形で表れる可能性がある。加齢と共に低下する能力を含む具体的な認知領域の非限定的な例には、(i)注意:処理速度、並びに選択的及び分割的注意;(ii)学習及び記憶:遅延自由再生、情報源記憶、展望的記憶、及びエピソード記憶;(iii)言語:発話流暢性、視覚性呼称、及び喚語;(iv)視覚空間能力:視覚構築技能;並びに(v)遂行機能:計画、意思決定、推論、及び精神的柔軟性がある。
【0044】
[0048]本明細書で使用するとき、「有効量」とは、欠乏を予防する、個体の疾患若しくは医学的状態を処置する、又はより一般的には、症状を低減させる、疾患の進行を管理する、若しくは個体に対して栄養学的、生理学的若しくは医学的利益を提供する、量である。本願明細書に開示される組成物の効果に関連する「改善された」、「増加した」、「高められた」等の相対的用語は、1つ以上の成分を欠く、及び/又は1つ以上の成分の量が異なるが、その他の成分については同一である組成物と比較した場合に用いられる。
【0045】
[0049]実施形態
[0050]本開示の一態様では、組成物は、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ある量のビタミンB12及びコリンを提供するビタミンBとの組み合わせを含み、好ましくは、組成物は、認知症ではない個体において、認知的加齢を軽減する、及び/又は認知能力を改善するのに有効な量の組み合わせを含む。別の態様においては、認知症ではない個体の認知的加齢を軽減する及び/又は認知能力を改善するための方法は、当該個体に有効量の組成物を(例えば経口的に)投与する工程を含む。組成物は、好ましくは本願明細書に定義されるものである。
【0046】
[0051]組成物は、加齢の過程でもたらされる認知機能の低下を生じやすい又はそれに罹患している、認知症ではない個体において、認知機能を向上させることができる。組成物は、加齢の過程でもたらされる認知機能の低下を生じやすい又はそれに罹患している、認知症ではない個体において、認知機能の低下を予防、低減又は先延ばしさせることができる。幾つかの実施形態では、方法は、投与の前に、認知的加齢を有する又は認知的加齢のリスクを有する個体を識別するステップを含む。例えば、方法は、投与の前に、認知能力の改善を必要とする個体を識別することを含み得る。組成物は、脳萎縮及び神経炎症を低減させることができ、かつアミロイド-βの食作用及びシナプス数を増加させることができる。
【0047】
[0052]例えば、本開示は、認知的加齢の治療を必要とする、認知症ではない個体(例えば、認知的加齢を有する)において、認知的加齢を治療する方法であって、本明細書に定義されるように、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ある量のビタミンB12及びコリンとを含む組成物を治療有効量で個体に投与することを含む方法を提供する。別の例として、本開示は、認知的加齢のリスクがある、認知症ではない個体(例えば、高齢個体又は老齢の個体であるが、認知的加齢はまだ有さない)において、認知的加齢を予防する方法であって、本明細書に定義されるように、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ある量のビタミンB12及びコリンとを含む組成物を治療有効量で個体に投与することを含む方法を提供する。更に別の例として、本開示は、認知症ではない個体(例えば、認知能力の改善を必要としている個体)において、認知能力を改善する方法であって、本明細書に定義されるように、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ある量のビタミンB12及びコリンとを含む組成物を治療有効量で個体に投与することを含む方法を提供する。
【0048】
[0053]「認知症ではない」個体は、最大で0.5までの臨床的認知症尺度を有する。CDRは、認知症の重症度を測定するものであり、半構造化された被験者及び情報提供者の問診により評価される、0~3(0、0.5、1、2及び3)の範囲で認知症をスコアリングする、世界的に用いられている評価方法である。Hughes et al.,Br.J.Psychiatry 140:566-72(1982)を参照。臨床医は、記憶、見当識、判断及び問題解決、共同体における活動、家庭内での活動及び趣味、並びに身の回りのケアを含む、6つのドメインに基づき、認知及び実効機能を総合評価する。この尺度は、評価者間でよく一致する。
【0049】
[0054]認知症ではない個体は、アルツハイマー病、血管性認知症、レヴィー小体認知症又は前頭側頭型認知症のいずれも有さない。いくつかの実施形態では、認知症ではない個体は、健常な高齢の個体である。他の実施態様では、認知症ではない個体は、加齢関連の認知障害に関連する表現型を有する。例えば、認知症ではない個体は、かかる表現型を有しない対照個体と比較したときに、思い出す能力の低下、短期記憶の喪失、学習速度の低下、学習能力の低下、問題解決能力の低下、注意持続時間の減少、運動能力の低下、又は混乱増加、のうちの1つ以上を含む表現型を有し得る。
【0050】
[0055]認知的加齢のリスクがある認知症ではない個体の非限定的な例は、自然発症した記憶障害を有するが、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコアが少なくとも24であり、かつ日常生活動作(ADL)スコアが少なくとも4であることにより示されるような、基本的な日常の活動においては自立しているヒトである。本発明の課題解決のためのMMSEスコアは、例えば24~30であってもよく、より好ましくは26~30であってもよい。
【0051】
[0056]MMSEは、非常に信頼性が高く、有効な手段であることが証明されており、神経変性疾患に関連する認知障害の進行を検出し、追跡するための、非常に簡便な、容易に制御/実施できる精神機能評価方法である。MMSEは、以下の7つのカテゴリーに分類される、30点からなる完全に構造化された尺度である:場所に対する見当識(州、郡、町、病院及びフロア)、時間に対する見当識(年、季節、月、曜日及び日付)、再生(3つの単語を即座に反復する)、注意力及び集中力(100から連続的に7を減算するか、又は単語worldのバックスペリング)、復唱(前に反復した3つの単語を思い出す)、言語(2つの物品の名称を応える、フレーズを復唱する、音読して文章を理解する、文章を書く、3段階命令に従うこと)、及び、視覚情報の構築(図形の模写)。Folstein et al.,J.Psychiat.Res.12:189-198(1975)。
【0052】
[0057]MMSEは、正確に完了した項目の数に関してスコアリングされ、スコアが低くなるほど、能力に乏しく、認知障害が大きいことを示す。合計スコアは0~30の範囲となる。
【0053】
[0058]ADLは、ADを有する又は有さない人の日常生活動作を評価するための、情報提供者ベースの日常生活動作スケールとして広く用いられている手段である。この手段は、広範囲にわたる能力を評価する。ADLは、障害のない対照と比較した、中程度に障害を有する個体における、変化に対する感度を示し、機能の変化を捕捉することができる。Galasko et al.,Alzheimer Dis.Assoc.Disord.11 Suppl.2:S33-9(1997)。
【0054】
[0059]本願明細書で前述したように、脳の健康を維持し、加齢による認知機能低下を予防することにより、認知症の発症を予防又は先延ばしできることを、多くのエビデンスが示唆している。したがって、本明細書に開示される、認知的加齢を治療又は予防する方法は、アルツハイマー病などの認知症を特異的に予防することもできる。したがって、本開示の別の態様は、認知症のリスクがある個体において、認知症を予防する方法である。本方法は、本明細書に開示される組成物を治療有効量で個体に投与することを含む。予防される認知症は、アルツハイマー病、血管性認知症、レヴィー小体認知症、前頭側頭型認知症及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。本発明の方法は、好ましくは本明細書に記載の組成物を投与することを含む。
【0055】
[0060]一実施形態では、個体はベースラインにおいて低DHA状態を有する(赤血球中のω3指数が4.8%未満)。一実施形態では、個体はベースラインにおいて0.5の臨床的認知症尺度(CDR)を有する。一実施形態では、個体はベースラインにおいて高血漿ホモシステインレベルを有する。本明細書で使用する場合、「高」血漿ホモシステインレベルとは、血漿中のホモシステインが少なくとも12μmol/Lであることをいう。別の実施形態では、個体は、ベースラインにおいてCAIDE(心臓血管リスク因子、老化及び認知症)リスクスコアが10~15である。別の実施形態では、個体は、ベースラインにおいて、PETアミロイドスキャンでアミロイド陽性である。別の実施形態では、個体は、認知機能低下のリスクを示す遺伝子型(例えばアポリポタンパク質E(APOE)遺伝子型)を有する。
【0056】
[0061]組成物の一日用量は、1日当たり推奨一日所要量(RDA)の0.1~50倍のビタミンB12、より好ましくは、推奨一日所要量(RDA)の0.1~40倍のビタミンB12を提供し得る。このような用量は、好ましくは、1日当たりRDAの約10倍、20倍、30倍又は40倍のビタミンB12の一日用量を含み得る。好ましくは、一日用量は、1日当たりRDAの10~40倍、より好ましくは10~30倍、又は更により好ましくは10~25倍のビタミンB12、最も好ましくは1日当たりRDAの約12~21倍のビタミンB12を提供する。更にこの関連で、ビタミンB12の米国RDAは、14歳以上のヒトに対して毎日2.4μgであり、そのため、このような個体には、1日当たり約0.002mg~約0.4mgのビタミンB12、好ましくは1日当たり0.02~0.07mgのビタミンB12、より好ましくは1日当たり0.03~0.05mgのビタミンB12を提供する組成物の一日用量を投与してもよい。
【0057】
[0062]加えて、組成物は、5.5mg/日~5,500mg/日のコリン、好ましくは85mg/日~3,500mg/日のコリンを提供する一日用量で個体に投与することができる。上記に定義したとおり、組成物は、推奨一日所要量(RDA)の0.01~10.0倍のコリン、例えばRDAの0.15~6.0倍のコリンを提供する一日用量で個体に投与されてもよい。この関連で、コリンのRDAは、550mg/日である。
【0058】
[0063]様々な実施形態において、ω3脂肪酸は、組成物の1~50重量%、好ましくは組成物の1~30重量%、最も好ましくは組成物の1~15重量%である。好ましくは、ω3脂肪酸はエイコサペンタエン酸(EPA)又はドコサヘキサエン酸(DHA)のうちの少なくとも1種を含み、より好ましくはEPA及びDHAの両方を含み、それらは各々が抗炎症性を有する。組成物の一日用量は、好ましくは1日当たり0.5g~1.0gのDHA、及び/又は1日当たり0.5g~1.0gのEPA、より好ましくは1日当たり0.7g~1.0gのDHA、及び/又は1日当たり0.6mg~0.75gのEPA、最も好ましくは1日当たり約770mgのDHA、及び/又は1日当たり約700mgのEPAを提供する。
【0059】
[0064]ω3脂肪酸は、1つ以上のω3脂肪酸源の混合物を含んでもよく、当該1つ以上のω3脂肪酸源の各々は、天然由来(例えば魚油)又は合成物(すなわち、天然由来のものとは対照的に、人工的に処理される化学的プロセスで形成されたもの)であってもよい。用語「魚油」は、ω3脂肪酸が豊富に含まれ、海産物個体、好ましくは、例えばサケ、マグロ、サバ、ニシン、スズキ、シマスズキ、オヒョウ、ナマズ及びイワシなどの冷水魚、並びにサメ、エビ及び二枚貝、又はそれらのいずれかの組み合わせから得られる、粗製の、又は精製された脂質又は油性抽出物を意味する。
【0060】
[0065]「一酸化窒素放出化合物」という用語は、個体において一酸化窒素の放出を引き起こす、又はもたらし得る任意の化合物(1種又は複数)を意味する。一酸化窒素放出化合物は、好ましくはアルギニン、シトルリン、オルニチンの1つ以上を含み、又はこれらのアミノ酸、好ましくはアルギニン及び/若しくはシトルリンの少なくとも1つ、より更に好ましくはシトルリンを含むペプチド又はタンパク質を含み、かかる分子は特に血流、内皮機能及び血圧を改善することから心血管系に対する有益な効果を提供する。種々の実施形態では、一酸化窒素放出化合物は、組成物の1~20重量%、好ましくは組成物の1~15重量%、より好ましくは組成物の1~10重量%である。一実施形態では、組成物の一日用量は、1日当たり0.5g~10.0g、好ましくは1日当たり1.0g~5.0g、より好ましくは1日当たり2.0g~4.0g、最も好ましくは1日当たり約3.0gの一酸化窒素放出化合物(例えばシトルリン)を提供する。
【0061】
[0066]ビタミンB類は、ビタミンB12に加え、例えばビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンB7(ビオチン)及びビタミンB9(葉酸)、又はビタミンB活性を有するそれらの塩、複合体若しくは誘導体のうちの1つ以上などの他のビタミンBを更に含んでもよい。組成物は、これらの1つ以上の追加のビタミンB類を、RDAの0.1~40倍、好ましくはRDAの1~20倍、より好ましくはRDAの1~10倍含むことができる。
【0062】
[0067]一実施形態では、ビタミンB類は、ビタミンB12に加え、少なくともビタミンB6を更に含む。一実施形態では、ビタミンB類は、ビタミンB12に加え、少なくともビタミンB9を更に含む。好ましい実施形態では、ビタミンB類は、ビタミンB12に加え、少なくともビタミンB6及びビタミンB9の両方を更に含む。最も好ましい実施形態では、ビタミンB類は、ビタミンB12に加え、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンB7(ビオチン)及びビタミンB9(葉酸)の全てを更に含む。
【0063】
[0068]組成物は、RDAの0.1~40倍、好ましくはRDAの1~20倍、より好ましくはRDAの1~10倍のビタミンB6及び/又はビタミンB9を含むことができる。例えば、組成物の一日用量は、1日当たり15mg~25mgのビタミンB6、好ましくは1日当たり15mg~20mgのビタミンB6、最も好ましくは1日当たり約18mgのビタミンB6を提供することができる。例えば、組成物の一日用量は、1日当たり0.1mg~1.0mgのビタミンB9、好ましくは1日当たり0.3mg~0.8mgのビタミンB9、最も好ましくは1日当たり約0.4mgのビタミンB9を提供することができる。ビタミンB6、B9、及びB12の各々は、血漿中のホモシステインレベルを低下させる能力を有する。
【0064】
[0069]いくつかの実施形態では、組成物は、酸化的損傷及び炎症誘発損傷に対して保護するために、コリンに加えて1種以上の酸化防止剤を更に含むことができる。好適な酸化防止剤の非限定的な例としては、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、セレン及びこれらの組み合わせが挙げられる。組成物は、存在する場合、0.0001重量%~25重量%の酸化防止剤、好ましくは、0.0001重量%~約15重量%、より好ましくは、0.001重量%~5重量%、最も好ましくは0.001重量%~2重量%の酸化防止剤を含み得る。
【0065】
[0070]いくつかの実施形態では、組成物は、ヒト及び/又はペット(例えばコンパニオン個体)用の食品組成物である。食品組成物は、例えばミネラル、他のビタミン、塩分、又は、例えば調味料、着色剤、乳化剤などの機能性添加剤、又は抗菌化合物、又は他の防腐剤など、1つ以上の追加の物質を含んでもよい。好適なミネラルの非限定的な例としては、カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、鉄、塩化物、ホウ素、銅、亜鉛、マグネシウム、マンガン及びヨウ素が挙げられる。好適な追加ビタミン類の非限定的な例としては、ビタミンA、D、E及びKなどの脂溶性ビタミンが挙げられる。
【0066】
[0071]別の実施形態では、組成物は、1つ以上の製薬上許容できる担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物である。一般に、医薬組成物は、本明細書に定義されるように、ω3脂肪酸と、一酸化窒素放出化合物と、ビタミンB12及びコリンとを、賦形剤、緩衝剤、結合剤、可塑剤、着色剤、希釈剤、圧縮剤、潤滑剤、風味剤、又は湿潤剤のうちの1つ以上と混合することによって調製される。
【0067】
[0072]組成物は、1ヶ月未満で確認できる急性の効果を有し得る。追加的に又は代替的に、組成物は、長期の効果を有することもでき、種々の実施形態では、該組成物が、(例えば経口投与により)少なくとも1カ月の期間、好ましくは少なくとも2カ月、より好ましくは少なくとも3、4、5又は6カ月、最も好ましくは少なくとも1年の期間にわたって個体に投与される。この期間中に、組成物は、少なくとも1週間に1日、好ましくは1週間に少なくとも2日、より好ましくは1週間に少なくとも3、4、5又は6日、最も好ましくは、1週間に7日、個体に投与できる。組成物は、1日1回投与することも、1日に複数の個別用量で投与することもできる。
【0068】
[0073]本明細書で定義される実施形態のいずれも、特に記載される組成物の成分のいずれも、特に明記しない限り、各々を組み合わせてもよい。このことはまた、かかる組成物を用いた、本明細書に定められる方法及び治療の特徴及び利益に関しても当てはまる。
[0074]
【実施例】
【0069】
[0075]実施例1
[0076]以下の非限定的な実施例は、認知症ではない個体において、認知的加齢を軽減するための、本開示により提供される実施形態における組成物を例示する。
【0070】
【0071】
[0077]実施例2-神経細胞機能の維持又は向上
[0078]以下の非限定的な実施例は、培養されたヒト人工多能性幹細胞由来の神経細胞の神経細胞機能を維持するために本明細書に定義される組成物の使用を支持する実験例である。
【0072】
[0079]神経細胞及び分子試薬
[0080]ヒト人工多能性幹細胞由来の神経細胞、及び付属の増殖培地は、Cellular Dynamics International社から購入した。神経細胞機能を測定するために、Axion BioSystemsのMaestro微小電極アレイ(MEA)技術、電気活動を測定する非侵襲性の無標識プラットフォームを使用した。神経細胞を、製造元のプロトコル(Cellular Dynamics International)に従って48ウェルMEAプレート(Axion BioSystems M768-KAP-48)上で培養した。製造元のプロトコルに従ってPLO/ラミニンでコーティングしたウェルに、1ウェル当たり100,000~120,000個の密度で神経細胞を蒔き、インキュベータ(37℃、5%CO2)内に維持した。維持培地の50%を週に2回交換した。
【0073】
[0081]2週間後、培養培地を完全に交換し、神経細胞活性を15分間測定した(ベースライン)。その後、培地をDHA+EPA(各々1.5μM);B6+B9(20μM及び10μM);B12(0.005μM);シトルリン(15μM);コリン(30μM);DHA+EPA+B6+B9+B12+シトルリン+コリン(15μM、15μM、20μM、10μM、0.005μM、15μM、30μM)を含有するT9、対照処理剤(培地のみ)、で栄養強化した。適用後の記録を、1時間、2時間、4時間及び24時間の時点で15分間実施した。
【0074】
[0082]標準手順に従ってAxisソフトウェア(Axion BioSystems)を使用することによってデータ分析を実施する。
【0075】
[0083]データは、
図1にてスパイクカウントの平方根±SEM、N=6として提示される。二元配置ANOVA続いてTukeyの多重比較試験を用いて統計的有意性を算出した。P<0.05を有意とみなした。
【0076】
[0084]
図1で見られるように、T9処理剤は、他の処理剤及び対照と比較して、1時間、4時間及び24時間の時点において有意に高い神経細胞活性を示す。
*=p<0.05。
【0077】
[0085]実施例3-炎症シグナルの減少
[0086]以下の非限定的な実施例は、培養されたヒト誘導多能性幹細胞由来の星状細胞における炎症シグナルを低下させるための本発明の組成物の使用を支持する実験例である。
【0078】
[0087]星状細胞及び分子試薬
[0088]ヒト誘導多能性幹細胞由来の星状細胞、及び付属の増殖培地は、Cellular Dynamics Internationalから購入した。星状細胞を、製造元のプロトコル(Cellular Dynamics International)に従って培養した。製造元のプロトコルに従ってPLO/ラミニンでコーティングした培養容器(6ウェルプラスチックウェル、Greiner)で、星状細胞を40,000~55,000個/cm2の密度で培養し、インキュベータ(37℃、5%CO2)内に維持した。
【0079】
[0089]1週間播種した培養培地を完全に交換し、DHA+EPA(各1.5μ);B6+B9(20μM及び10μM);B12(0.005μM);シトルリン(15μM);コリン(30μM);DHA+EPA+B6+B9+B12+シトルリン+コリン(15μM、15μM、20μM、10μM、0.005μM、15μM、30μM)を含有するT9、対照処理剤(培地のみ)、で栄養強化した培地で置換した。
【0080】
[0090]24時間後、細胞を採取し、細胞沈殿物をProteome Profiler Human XL Cytokine Array Kit(R&D systems;ARY022B)を使用して処理し、Licorシステムにより化学発光を測定した。
【0081】
[0091]データは棒グラフ±SEMとして提示される。一元配置ANOVA及びTukeyの多重比較試験を用いて統計的有意性を算出した。P<0.05未満を有意とみなした。
【0082】
[0092]
図2は、上記のそれぞれの化合物で24時間処理したヒト星状細胞の定量データを示す。X軸は個々の処理剤に対応し、Y軸は化学発光に対応する。左側には、炎症性分子IFNγ及びVCAM-1に対する処理剤の効果を示す。
【0083】
[0093]T9処理剤は、24時間の処理後に、IFNγ及びVCAM-1の量を有意に低下させる。
***=p<0.001。結果を
図2に示す。
【0084】
[0094]本明細書に記載されている、本発明の好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正が、当業者には明らかであることを理解されたい。かかる変更及び修正は、本発明の主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、行うことができる。したがって、かかる変更及び修正は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。