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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】経皮カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20240722BHJP
【FI】
A61M25/00 600
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022503304
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006066
(87)【国際公開番号】W WO2021172155
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020029665
(32)【優先日】2020-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】横山 研司
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/175531(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/175530(WO,A1)
【文献】特許第5059305(JP,B2)
【文献】特表2001-518325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延在し血液を通すための経皮カテーテルであって、
前記軸方向に延在し拡張可能な拡張部と、
前記軸方向に延在し、前記拡張部の挿入方向の基端側に設けられるシャフト部と、
前記拡張部および前記シャフト部の間に設けられる中間部と、を有し、
前記拡張部は、前記シャフト部よりも大きい内外径を備えるとともに、前記シャフト部よりも伸縮性が高く構成され、
前記中間部は、前記拡張部から前記シャフト部に向けて内外径が漸減するように構成され、
前記拡張部は、交差するように編組されたワイヤーからなる第1補強体を有し、
前記シャフト部は、交差するように編組された前記ワイヤーからなる第2補強体を有し、
前記中間部は、交差するように編組された前記ワイヤーからなる第3補強体を有し、
前記第3補強体は、交差する前記ワイヤーがなす角度のうち前記軸方向の内角である編み角度が、前記第1補強体および前記第2補強体よりも小さく構成されてなる経皮カテーテル。
【請求項2】
前記第3補強体は、
前記第1補強体の編み角度から漸減するように前記編み角度が構成される第1領域と、
前記第1領域から連続して、前記第2補強体の編み角度に向けて漸増するように前記編み角度が構成される第2領域と、を有する、請求項1に記載の経皮カテーテル。
【請求項3】
前記第3補強体は、前記編み角度が一定である一定領域を備える、請求項1に記載の経皮カテーテル。
【請求項4】
前記第1補強体の前記編み角度は、100度~120度であって、
前記第2補強体の前記編み角度は、130度~150度であって、
前記第3補強体の前記編み角度は、60度以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の経皮カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、救急治療における心肺蘇生や、循環補助、呼吸補助を行うため、経皮的心肺補助法(PCPS:percutaneous cardiopulmonary support)による治療が行われている。この経皮的心肺補助法とは、体外循環装置を用いて、一時的に心肺機能の補助・代行を行う方法である。
【0003】
体外循環装置は、遠心ポンプ、人工肺、脱血路および送血路等から構成される体外循環回路を備え、脱血した血液に対してガス交換を行い送血路へ送血するものである。
【0004】
この循環回路で血液循環を行う場合には、モータにより駆動されるポンプの力で血液を循環させている。したがって、血液循環を好適に行うために、循環回路を構成するチューブにおける圧力損失の低減が求められる。
【0005】
ただし、チューブの内径が小さいと圧力損失は高くなり、循環回路を流れる流量は減少する。このため、チューブの内径を十分な大きさとしないと、必要とされる血液の循環量は得られない。
【0006】
一方で、チューブの内径を大きくするとチューブの外径も大きくなる。したがって、患者の体内に挿入される脱血カテーテル(チューブ)や送血カテーテル(チューブ)の内径を大きくすると、患者の身体に対する侵襲の程度が大きくなり、患者の身体に対する負担が大きくなってしまう。
【0007】
これに関連して、例えば下記の特許文献1には、心棒(スタイレット)によって、カニューレ本体(カテーテル)を軸方向に伸長または収縮させて、直径を拡大または縮小させることのできる高性能カニューレが開示されている。このように構成された高性能カニューレによれば、心棒によって、カニューレ本体を軸方向に伸展して直径(外径)を小さくした状態で、生体内に挿入することによって、患者の身体に対する侵襲の程度が小さくなる。さらに、高性能カニューレを生体内に挿入した後に、心棒を抜去することによって、カニューレ本体は軸方向に収縮して直径(内径)が大きくなる。このため、カテーテルにおける圧力損失が低減されて、必要とする液体の流量を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5059305号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された高性能カニューレでは、スタイレットを挿入した際に、近位末端および遠位末端の間の挿入点近傍において、スタイレットを締め付けて、挿入されたスタイレットが動かなくなる虞がある。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、患者の身体に対する負担を抑制し、循環回路を循環中の液体の圧力損失を低減し必要とする液体の流量を確保するとともに、スタイレットを挿入した際に、スタイレットを締め付けることを好適に防止することのできる経皮カテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する経皮カテーテルは、軸方向に延在し血液を通すための経皮カテーテルである。経皮カテーテルは、前記軸方向に延在し拡張可能な拡張部と、前記軸方向に延在し、前記拡張部の挿入方向の基端側に設けられるシャフト部と、前記拡張部および前記シャフト部の間に設けられる中間部と、を有する。前記拡張部は、前記シャフト部よりも大きい内外径を備えるとともに、前記シャフト部よりも伸縮性が高く構成される。前記中間部は、前記拡張部から前記シャフト部に向けて内外径が漸減するように構成される。前記拡張部は、交差するように編組されたワイヤーからなる第1補強体を有し、前記シャフト部は、交差するように編組された前記ワイヤーからなる第2補強体を有し、前記中間部は、交差するように編組された前記ワイヤーからなる第3補強体を有する。前記第3補強体は、交差する前記ワイヤーがなす角度のうち前記軸方向の内角である編み角度が、前記第1補強体および前記第2補強体よりも小さく構成されてなる。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成した経皮カテーテルによれば、拡張部が軸方向に伸長して外径が小さくなった状態で、経皮カテーテルを生体内に挿入するため、患者の身体に対する負担を抑制することができる。また、経皮カテーテルを生体内に留置した後、スタイレットを経皮カテーテルから抜去すると、拡張部は軸方向に収縮して元に戻る。ここで、拡張部はシャフト部より大きい内径を備えるため、拡張部における圧力損失が低減されて、必要とする液体の流量を確保することができる。
【0013】
また、拡張部および中間部が軸方向に伸長したとき、拡張部の第1補強体および中間部の第3補強体を構成するワイヤーは、軸方向に対する傾斜角度が徐々に小さくなるように変形する。ここで、第3補強体は、交差するワイヤーがなす角度のうち軸方向の内角である編み角度が、第1補強体および第2補強体よりも小さく構成されてなるため、第3補強体の編み角度が第1補強体および第2補強体の編み角度よりも大きい場合と比較して、第3補強体を構成するワイヤーの軸方向に対する傾斜角度が小さくなり、経皮カテーテルにスタイレットを挿通するのに伴う中間部の軸方向に沿う伸長距離が短くなる。このように経皮カテーテルにスタイレットを挿通するのに伴う中間部の軸方向に沿う伸長距離が短くなることによって、中間部の径方向内方への収縮が抑制されて、スタイレットを締め付けることを好適に防止することができる。
【0014】
したがって、患者の身体に対する負担を抑制し、循環回路を循環中の液体の圧力損失を低減し必要とする液体の流量を確保するとともに、スタイレットを挿入した際に、スタイレットを締め付けることを好適に防止することのできる経皮カテーテルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る経皮カテーテルが適用されている体外循環装置の一例を示す系統図である。
図2】第1実施形態に係るカテーテルにスタイレットを挿通する前の様子を示す側面図である。
図3】第1実施形態に係るカテーテルを示す側面断面図である。
図4】カテーテルにスタイレットを挿通した後の様子を示す側面図である。
図5図5(A)は、第1補強体の編み角度を説明するための図であって、図5(B)は、第2補強体の編み角度を説明するための図であって、図5(C)は、第3補強体の編み角度を説明するための図である。
図6】中間部における編み角度を説明するためのグラフである。
図7】カテーテルの中間部近傍を示す側面断面図である。
図8】比較例に係る経皮カテーテルに対して、スタイレットを挿入したときの様子を示す写真である。
図9】第1実施形態に係る経皮カテーテルに対して、スタイレットを挿入したときの様子を示す写真である。
図10】第2実施形態に係るカテーテルにスタイレットを挿通する前の様子を示す平面図である。
図11】第2実施形態に係るカテーテルを示す側面断面図である。
図12】第2実施形態に係るカテーテルにスタイレットを挿通した後の様子を示す平面図である。
図13】変形例に係る中間部における編み角度を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る経皮カテーテルが適用され、患者の心臓が弱っているときに、心機能が回復するまでの間、一時的に心臓と肺の機能を補助・代行する経皮的心肺補助法(PCPS)として使用される体外循環装置の一例を示す系統図である。
【0018】
体外循環装置1によれば、ポンプを作動して患者の静脈(大静脈)から脱血して、人工肺により血液中のガス交換を行って血液の酸素化を行った後に、この血液を再び患者の動脈(大動脈)に戻す静脈-動脈方式(Veno-Arterial,VA)の手技を行うことができる。この体外循環装置1は、心臓と肺の補助を行う装置である。以下、患者から脱血して体外で所定の処置を施した後、再び患者の体内に送血する手技を「体外循環」と称する。
【0019】
図1に示すように、体外循環装置1は、血液を循環させる循環回路を有している。循環回路は、人工肺2と、遠心ポンプ3と、遠心ポンプ3を駆動するための駆動手段であるドライブモータ4と、静脈側カテーテル(脱血用の経皮カテーテル)5と、動脈側カテーテル(送血用カテーテル)6と、制御部としてのコントローラ10と、を有している。
【0020】
静脈側カテーテル(脱血用カテーテル)5は、大腿静脈より挿入され、下大静脈を介して静脈側カテーテル5の先端が右心房に留置される。静脈側カテーテル5は、脱血チューブ(脱血ライン)11を介して遠心ポンプ3に接続されている。脱血チューブ11は、血液を送る管路である。
【0021】
動脈側カテーテル(送血用カテーテル)6は、大腿動脈より挿入される。
【0022】
ドライブモータ4がコントローラ10の指令SGにより遠心ポンプ3を作動させると、遠心ポンプ3は、脱血チューブ11から脱血して血液を人工肺2に通した後に、送血チューブ(送血ライン)12を介して患者Pに血液を戻すことができる。
【0023】
人工肺2は、遠心ポンプ3と送血チューブ12との間に配置されている。人工肺2は、血液に対するガス交換(酸素付加および/または二酸化炭素除去)を行う。人工肺2は、例えば膜型人工肺であるが、特に好ましくは中空糸膜型人工肺を用いる。この人工肺2には、酸素ガス供給部13から酸素ガスがチューブ14を通じて供給される。送血チューブ12は、人工肺2と動脈側カテーテル6を接続している管路である。
【0024】
脱血チューブ11および送血チューブ12としては、例えば、塩化ビニル樹脂やシリコーンゴムなどの透明性の高い、弾性変形可能な可撓性を有する合成樹脂製の管路を使用することができる。脱血チューブ11内では、液体である血液はV1方向に流れ、送血チューブ12内では、血液はV2方向に流れる。
【0025】
図1に示す循環回路では、超音波気泡検出センサ20が、脱血チューブ11の途中に配置されている。ファストクランプ17は、送血チューブ12の途中に配置されている。
【0026】
超音波気泡検出センサ20は、体外循環中に三方活栓18の誤操作やチューブの破損等により循環回路内に気泡が混入された場合に、この混入された気泡を検出する。超音波気泡検出センサ20が、脱血チューブ11内に送られている血液中に気泡があることを検出した場合には、超音波気泡検出センサ20は、コントローラ10に検出信号を送る。コントローラ10は、この検出信号に基づいて、アラームによる警報を報知するとともに、遠心ポンプ3の回転数を低くする、あるいは、遠心ポンプ3を停止する。さらに、コントローラ10は、ファストクランプ17に指令して、ファストクランプ17により送血チューブ12を直ちに閉塞する。これにより、気泡が患者Pの体内に送られることを阻止する。コントローラ10は、体外循環装置1の動作を制御して、気泡が患者Pの身体に混入することを防止する。
【0027】
体外循環装置1の循環回路のチューブ11(12、19)には、圧力センサが設けられる。圧力センサは、例えば、脱血チューブ11の装着位置A1、循環回路の送血チューブ12の装着位置A2、あるいは遠心ポンプ3と人工肺2との間を接続する接続チューブ19の装着位置A3のいずれか1つあるいは全部に装着することができる。これにより、体外循環装置1によって患者Pに対して体外循環を行っている際に、圧力センサによって、チューブ11(12、19)内の圧力を測定することができる。なお、圧力センサの装着位置は、上記装着位置A1、A2、A3に限定されず、循環回路の任意の位置に装着することができる。
【0028】
<第1実施形態>
図2図7を参照して、本発明の第1実施形態に係る経皮カテーテル(以下、「カテーテル」と称する場合がある)30を説明する。図2図7は、第1実施形態に係るカテーテル30の構成の説明に供する図である。このカテーテル30は、図1の静脈側カテーテル(脱血用カテーテル)5として使用されるものである。
【0029】
本実施形態に係るカテーテル30は、図2に示すように、側孔63を備えるカテーテルチューブ31と、カテーテルチューブ31の先端に配置され貫通孔46、47を備える先端チップ41と、カテーテルチューブ31の基端側に配置されるクランプ用チューブ37と、カテーテルチューブ31およびクランプ用チューブ37を接続するカテーテルコネクター35と、ロックコネクター36と、を有している。
【0030】
なお、本明細書では、生体内に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、術者が操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称する。先端部とは、先端(最先端)およびその周辺を含む一定の範囲を意味し、基端部とは、基端(最基端)およびその周辺を含む一定の範囲を意味する。
【0031】
カテーテル30は、図3に示すように、先端から基端まで貫通したルーメン30Aを有している。先端チップ41が備える貫通孔46、47および側孔63は、生体内の互いに異なる脱血対象に配置されて効率的に脱血を行えるように構成されている。
【0032】
カテーテル30を生体内に挿入する際には、図2に示すスタイレット50を使用する。図4に示すように、スタイレット50をカテーテル30のルーメン30Aに挿通して、カテーテル30とスタイレット50とを予め一体化させた状態で生体内に挿入する。なお、カテーテル30の使用方法は後述する。
【0033】
以下、カテーテル30の各構成について説明する。
【0034】
カテーテルチューブ31は、図2に示すように、拡張可能な拡張部32と、拡張部32の基端側に設けられるシャフト部33と、拡張部32およびシャフト部33の間に設けられる中間部34と、を有している。
【0035】
拡張部32および中間部34は、シャフト部33よりも伸縮性が高くなるように構成されている。また、拡張部32は、図3に示すように、シャフト部33よりも外径および内径が大きくなるように構成されている。また、中間部34は、図3に示すように、拡張部32からシャフト部33に向けて内径および外径が漸減するように構成されている。換言すれば、中間部34は先端側に向けて内径および外径が増大するようにテーパー状に構成されている。
【0036】
拡張部32、シャフト部33、および中間部34の長さは、先端チップ41の貫通孔46、47および側孔63を所望の脱血対象に配置するために必要な長さに構成されている。拡張部32の長さは、例えば、10~40cm、シャフト部33の長さは、例えば、20~40cm、中間部34の長さは、3~4cmとすることができる。
【0037】
側孔63は、シャフト部33に設けられる。側孔63は脱血孔として機能する。側孔63は、周方向に複数有することが好ましい。本実施形態では、周方向に4つの側孔63が設けられている。これにより、脱血により、一の側孔63が血管壁に吸着して塞がれても、他の側孔63により脱血を行うことができるため、血液循環を安定して行うことができる。
【0038】
本実施形態では、脱血対象は、右心房および下大静脈の2箇所である。カテーテル30は、先端チップ41の貫通孔46、47が右心房に、側孔63が下大静脈に配置されるように生体内に挿入して留置される。
【0039】
貫通孔46、47および側孔63が脱血対象に配置された状態で、拡張部32は比較的太い血管である下大静脈に配置され、シャフト部33は比較的細い血管である大腿静脈に配置される。
【0040】
また、スタイレット50をカテーテル30のルーメン30Aに挿通すると、伸縮性が高い拡張部32および中間部34は、図4に示すように、軸方向に伸長して外径および内径が小さくなる。このとき、拡張部32および中間部34の外径はシャフト部33の外径と略同一になる。拡張部32および中間部34を軸方向に伸長させて外径および内径が小さくなった状態で、カテーテル30を生体内に挿入するため、低侵襲にカテーテル30の挿入を行うことができる。
【0041】
また、カテーテル30を生体内に留置した後、スタイレット50をカテーテル30のルーメン30Aから抜去すると、拡張部32および中間部34は軸方向に伸長した状態から収縮して、内径が大きくなる。ここで、拡張部32は、比較的太い血管である下大静脈に配置される。したがって、拡張部32の外径を大きくすることができ、これに伴って内径を大きくすることができる。
【0042】
ここで、拡張部32内の圧力損失は、それぞれ拡張部32の全長×(平均)通路断面積となる。すなわち、拡張部32の内径を大きくすることによって、拡張部32内の圧力損失が低減される。拡張部32内の圧力損失が低減されると、循環回路を流れる血液の流量は増加する。このため、十分な血液の循環量を得るためには、拡張部32の内径を大きくする必要がある。
【0043】
一方で、肉厚が略一定の場合、拡張部32、シャフト部33、および中間部34の内径を大きくすると、外径が大きくなるため、生体内へカテーテル30を挿入する際に患者の負担が大きくなり、低侵襲な手技の妨げとなる。
【0044】
以上の観点から、拡張部32の内径は、例えば、9~11mm、シャフト部33の内径は、例えば、4~8mmとすることができる。また、拡張部32、シャフト部33、および中間部34の肉厚は、例えば、0.4~0.5mmとすることができる。
【0045】
また、図2に示すように、拡張部32の先端部は、拡張部32の中央から軸方向の外側に向かってそれぞれ徐々に細くなるテーパー部を形成することが好ましい。これにより、拡張部32の先端の内径が、先端側に配置される先端チップ41の内径と連続するようになっている。
【0046】
以下、拡張部32、シャフト部33、および中間部34の構成についてさらに詳細に説明する。
【0047】
拡張部32は、図5(A)に示すように、交差するように編組されたワイヤーWからなる第1補強体321と、第1補強体321を被覆するように設けられた第1樹脂層322と、を有する。
【0048】
シャフト部33は、図5(B)に示すように、交差するように編組されたワイヤーWからなる第2補強体331と、第2補強体331を被覆するように設けられた第2樹脂層332と、を有する。
【0049】
中間部34は、図5(C)に示すように、交差するように編組されたワイヤーWからなる第3補強体341と、第3補強体341を被覆するように設けられた第3樹脂層342と、を有する。
【0050】
第1補強体321は、図5(A)に示すように、編み角度θ1となるように、ワイヤーWが編組されて構成している。また、第2補強体331は、図5(B)に示すように、編み角度θ2となるように、ワイヤーWが編組されて構成している。また、第3補強体341は、図5(C)に示すように、編み角度θ3となるように、ワイヤーWが編組されて構成している。
【0051】
本明細書において、編み角度θ1、θ2、θ3は、図5(A)、図5(B)、図5(C)に示すように、交差するワイヤーWがなす角度のうち、軸方向の内角として定義する。
【0052】
第1補強体321の編み角度θ1は、図5(A)、図5(B)に示すように、第2補強体331の編み角度θ2よりも小さく構成されている。このため、第1補強体321を構成するワイヤーWの軸方向に対する傾斜角度は、第1補強体321の編み角度が第2補強体331の編み角度より大きい場合と比較して、小さくなる。
【0053】
ここで、拡張部32の軸方向の伸長に伴って、拡張部32の第1補強体321を構成するワイヤーWは、軸方向に対する傾斜角度が徐々に小さくなるように変形する。そして、拡張部32の第1補強体321を構成するワイヤーWの軸方向に対する傾斜角度がおよそゼロになったときに、拡張部32の軸方向の伸長が規制される。
【0054】
したがって、第1補強体321の編み角度θ1を第2補強体331の編み角度θ2よりも小さく構成することによって、第1補強体321の編み角度が第2補強体331の編み角度より大きい場合と比較して、カテーテル30にスタイレット50を挿通するのに伴う拡張部32の軸方向に沿う伸長距離は短くなる。
【0055】
第1補強体321の編み角度θ1は、特に限定されないが、100度~120度である。また、第2補強体331の編み角度θ2は、特に限定されないが、130度~150度である。このように第2補強体331の編み角度θ2を、第1補強体321の編み角度θ1よりも大きくすることによって、第2補強体331の耐キンク性を向上させることができる。このため、入り組んだ構成となっている大腿静脈において、好適に、カテーテル30を生体内に挿入することができる。
【0056】
拡張部32の第1補強体321は、図5(A)、(B)に示すように、シャフト部33の第2補強体331よりも、疎となるように編組されて構成している。この構成によれば、シャフト部33に比較して、拡張部32を柔らかくすることができ、伸縮性を高めることができる。
【0057】
第3補強体341の編み角度θ3は、図5図6に示すように、第1補強体321の編み角度θ1および第2補強体331の編み角度θ2よりも小さくなるように構成されている。
【0058】
具体的には、第3補強体341は、図6に示すように、第1補強体321の編み角度θ1から漸減するように編み角度θ3が構成される第1領域341Aと、第1領域341Aから連続して、第2補強体331の編み角度θ2に向けて漸増するように構成される第2領域341Bと、を有する。第1領域341Aおよび第2領域341Bの境界Bにおける第3補強体341の編み角度θ3は、50度~70度である。
【0059】
中間部34が軸方向に伸長したとき、中間部34の第3補強体341を構成するワイヤーWは、軸方向に対する傾斜角度が徐々に小さくなるように変形する。このように、第3補強体341の編み角度θ3が、第1補強体321の編み角度θ1および第2補強体331の編み角度θ3よりも小さくなるように構成されているため、第3補強体341の編み角度θ3が第1補強体321の編み角度θ1および第2補強体331の編み角度θ2以上の場合と比較して、第3補強体341を構成するワイヤーWの軸方向に対する傾斜角度が小さくなり、カテーテル30にスタイレット50を挿通するのに伴う中間部34の軸方向に沿う伸長距離が短くなる。このようにカテーテル30にスタイレット50を挿通するのに伴う中間部34の軸方向に沿う伸長距離が短くなることによって、中間部34の径方向内方への収縮が抑制されて、スタイレット50を締め付けることを好適に防止することができる。
【0060】
図8は、比較例に係るカテーテル900に対して、スタイレット50を挿入したときの様子を示す写真である。図9は、本実施形態に係るカテーテル30に対して、スタイレット50を挿入したときの様子を示す写真である。図8に示す比較例に係るカテーテル900では、編み角度θ3が第1補強体321の編み角度θ1より大きくなるように構成されている。図8に示すように、カテーテル900に対してスタイレット50を挿入することによって、カテーテル900の中間部934における内腔がスタイレット50の外径よりも径方向内方に収縮して、スタイレット50を締め付けてしまう。
【0061】
これに対して、図9に示すように、本実施形態に係るカテーテル30によれば、中間部34の径方向内方への収縮が抑制されて、スタイレット50を締め付けることを好適に防止することができる。
【0062】
本実施形態においてワイヤーWは、公知の形状記憶金属や形状記憶樹脂の形状記憶材料によって構成される。形状記憶金属としては、例えば、チタン系(Ni-Ti、Ti-Pd、Ti-Nb-Sn等)や、銅系の合金を用いることができる。また、形状記憶樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、トランスイソプレンポリマー、ポリノルボルネン、スチレンーブタジエン共重合体、ポリウレタンを用いることができる。
【0063】
ワイヤーWが形状記憶材料によって構成されるため、カテーテル30からスタイレット50を抜去するのに伴う拡張部32の軸方向に沿う収縮距離は、カテーテル30にスタイレット50を挿通するのに伴う拡張部32の軸方向に沿う伸長距離と同一になる。
【0064】
ワイヤーWの線径としては、0.1mm~0.2mmであることが好ましい。
【0065】
ワイヤーWの線径を0.1mm以上にすることによって、強度を向上する補強体としての機能を好適に発揮することができる。
【0066】
一方、ワイヤーWの線径を0.2mm以下にすることによって、拡張部32の外径を小さくしつつ内径を大きくすることができるため、カテーテル30挿入時の患者の身体に対する負担抑制、および圧力損失の低減を両立することができる。また、このとき、ワイヤーWが編組されて2層になった箇所においても、ワイヤーWが第1樹脂層322からむき出しになることを防止することができる。本実施形態においては、ワイヤーWの断面は、円形であるが、これに限定されず、長方形、正方形、楕円形等であってもよい。
【0067】
拡張部32の第1樹脂層322は、シャフト部33の第2樹脂層332よりも、硬度の低い柔らかい材料によって構成される。この構成によれば、シャフト部33に比較して、拡張部32を柔らかくすることができ、伸縮性を高めることができる。
【0068】
中間部34の第3樹脂層342は、図7に示すように、拡張部32の第1樹脂層322からなる第1領域342Aと、拡張部32の第1樹脂層322およびシャフト部33の第2樹脂層332からなる第2領域342Bと、を有する。第2領域342Bの軸方向に沿う長さは特に限定されないが、例えば、5~8mmである。
【0069】
第1、第2樹脂層322、332は、塩化ビニル、シリコン、ポリエチレン、ナイロン、ウレタン、ポリウレタン、フッ素樹脂、熱可塑性エラストマー樹脂等を使用して、もしくはこれらの複合材料を用いて形成できる。
【0070】
シリコン素材は、生体適合性が高く、素材自体も柔らかいため、血管を傷つけにくい特長がある。ポリエチレン素材は、柔らかく、且つ、圧力に耐える硬さを有している。しかもポリエチレン素材は、シリコン素材に匹敵する生体適合性を持つ。ポリエチレン素材は、シリコンよりも硬く、細い血管に挿入し易い特長がある。また、ポリウレタン素材は、挿入後には柔らかくなる特長がある。第1、第2樹脂層322、332の材料としては、これらの素材の特長を生かして適用可能な材料を使用することができる。
【0071】
また、ポリウレタン素材に親水性のコーティングを施してもよい。この場合チューブ表面が滑らかで、血管挿入が行い易く、血管壁を傷つけにくい。血液やタンパク質が付着しにくく、血栓の形成を防ぐことが期待できる。
【0072】
カテーテルチューブ31を形成する方法は特に限定されないが、例えばディップコート(浸漬法)やインサート成形などにより形成することができる。なお、補強体321、331、341、は、少なくとも外表面が樹脂層322、332、342によって被覆されていればよい。
【0073】
先端チップ41は、図2図3に示すように、拡張部32の先端に配置される。先端チップ41は、先端側に向かって徐々に縮径された先が細い形状を備えている。
【0074】
先端チップ41の内側には、図3に示すように、カテーテル30の生体内への挿入に先立って使用されるスタイレット50の平坦面50aと当接する平坦な受け面48が形成されている。
【0075】
硬い先端チップ41を拡張部32の先端部に固定することで、脱血時に拡張部32が潰れることを有効に防止することができる。
【0076】
なお、先端チップ41の構成は上述の構成に限定されない。
【0077】
クランプ用チューブ37は、図2図4に示すように、シャフト部33の基端側に設けられる。クランプ用チューブ37の内側には、スタイレット50が挿通可能なルーメンが設けられている。クランプ用チューブ37は、カテーテルチューブ31と同様の材料を用いて形成することができる。
【0078】
カテーテルコネクター35は、図2図4に示すように、シャフト部33およびクランプ用チューブ37を接続する。カテーテルコネクター35の内側には、スタイレット50が挿通可能なルーメンが設けられている。
【0079】
ロックコネクター36は、図2図4に示すように、クランプ用チューブ37の基端側に接続されている。ロックコネクター36の内側には、スタイレット50が挿通可能なルーメンが設けられている。ロックコネクター36の基端側の外表面には、ネジ山が設けられた雄ネジ部36Aが設けられている。
【0080】
次に、スタイレット50の構成について説明する。
【0081】
スタイレット50は、図2に示すように、軸方向に延在して設けられるスタイレットチューブ51と、スタイレットチューブ51の基端が固定されるスタイレットハブ52と、スタイレットハブ52の先端に設けられたネジリング53と、を有する。
【0082】
スタイレットチューブ51は、軸方向に延在し、比較的剛性の高い長尺体である。スタイレットチューブ51の軸方向に沿う全長は、カテーテル30の軸方向に沿う全長よりも長く構成されている。スタイレットチューブ51は、ガイドワイヤー(図示せず)が挿通可能なガイドワイヤルーメン54を備えている。スタイレットチューブ51は、ガイドワイヤーに導かれて、カテーテル30とともに生体内へ挿入される。スタイレットチューブ51は、カテーテル30を生体内に留置した後に、スタイレットハブ52を基端側に引き抜くことでカテーテル30から抜去される。
【0083】
スタイレットチューブ51の先端は、図2に示すように、先端チップ41の受け面48が当接する平坦面50aを備えている。スタイレットチューブ51は、比較的剛性が高く、手元の操作による先端側への押し込み力を先端チップ41へ伝達することを可能にするコシを備えている。このため、スタイレットチューブ51は、その平坦面50aを先端チップ41の受け面48に当接させて先端チップ41を先端側へ押し込むことによって、狭い血管を拡張する役割を果たしている。
【0084】
ネジリング53は、内腔の内表面にネジ溝が設けられた雌ネジ部(図示せず)を有している。ネジリング53の雌ネジ部を、ロックコネクター36の雄ネジ部36Aに対してねじ込むことによって、スタイレット50をカテーテル30に対して取り付け可能に構成されている。
【0085】
<カテーテルの使用方法>
次に、上述したカテーテル30の使用方法について説明する。図2はスタイレット50のスタイレットチューブ51をカテーテル30のルーメン30Aに挿通する前の状態、図4はスタイレットチューブ51をカテーテル30のルーメン30Aに挿通した後の状態をそれぞれ示している。
【0086】
まず、図4に示すように、カテーテル30のルーメン30Aに対してスタイレット50のスタイレットチューブ51を挿通する。スタイレットチューブ51は、シャフト部33、拡張部32の内部を順に通過し、スタイレットチューブ51の平坦面50aが先端チップ41の受け面48に当接する。
【0087】
ここで、図2に示すように、スタイレットチューブ51の軸方向の全長は、カテーテル30の軸方向の全長よりも長く構成されている。このため、スタイレットチューブ51の平坦面50aが先端チップ41の受け面48に当接した状態で、先端チップ41が先端側に押圧される。これにより、先端チップ41に固定されている拡張部32の先端が先端側に引っ張られる。これにより、カテーテル30は、軸方向に伸長する力を受け、カテーテル30のうち比較的伸縮性が高い拡張部32および中間部34が軸方向に伸長する。その後、カテーテル30の基端をスタイレットハブ52に固定する。
【0088】
拡張部32は、軸方向に伸長するとともに、拡張部32の外径は小さくなり、シャフト部33の外径と略同一となる(図4参照)。拡張部32の第1補強体321を構成するワイヤーWは、拡張部32の軸方向の伸長に伴って、軸方向に対する傾斜角度が徐々に小さくなるように変形する。また、中間部34の第3補強体341を構成するワイヤーWは、中間部34の軸方向の伸長に伴って、軸方向に対する傾斜角度が徐々に小さくなるように変形する。
【0089】
上述したように、本実施形態に係るカテーテル30は、第3補強体341の編み角度θ3が、第1補強体321の編み角度θ1および第2補強体331の編み角度θ3よりも小さくなるように構成されているため、第3補強体341の編み角度θ3が第1補強体321の編み角度θ1および第2補強体331の編み角度θ2よりも大きい場合と比較して、第3補強体341を構成するワイヤーWの軸方向に対する傾斜角度が小さくなり、カテーテル30にスタイレット50を挿通するのに伴う中間部34の軸方向に沿う伸長距離が短くなる。このようにカテーテル30にスタイレット50を挿通するのに伴う中間部34の軸方向に沿う伸長距離が短くなることによって、中間部34の径方向内方への収縮が抑制されて、スタイレット50を締め付けることを好適に防止することができる。
【0090】
次に、スタイレット50が挿通されたカテーテル30を、予め生体内の対象部位に挿入されているガイドワイヤー(図示せず)に沿って挿入する。このとき、スタイレット50がカテーテル30に挿通されているため、拡張部32および中間部34の外径はシャフト部33の外径と略同一になっており、カテーテル30の生体内への挿入を低侵襲で行うことができ、患者の身体に対する負担を抑制することができる。
【0091】
また、先端チップ41の貫通孔46、47が右心房に、側孔63が下大静脈に配置されるまでカテーテル30を生体内に挿入し、留置する。貫通孔46、47および側孔63が脱血対象に配置された状態で、拡張部32は比較的太い血管である下大静脈に配置され、シャフト部33は比較的細い血管である大腿静脈に配置される。
【0092】
次に、スタイレットチューブ51およびガイドワイヤーをカテーテル30から抜去する。この際、スタイレットチューブ51およびガイドワイヤーは、一旦カテーテル30のクランプ用チューブ37の箇所まで抜いて鉗子(図示せず)によりクランプした後、カテーテル30から完全に抜去する。スタイレットチューブ51がカテーテル30のルーメンから抜去されることによって、カテーテル30は、カテーテル30がスタイレット50から受けていた軸方向に伸長する力から開放される。このため、拡張部32が軸方向に収縮し、拡張部32の内径は大きくなる。これにより、拡張部32内の圧力損失を低減し必要とする液体の流量を確保することができる。
【0093】
次に、カテーテル30のロックコネクター36を図1の体外循環装置の脱血チューブ11に接続する。送血側のカテーテルの接続が完了したことを確認後、クランプ用チューブ37の鉗子を解放して、体外循環を開始する。
【0094】
体外循環が終了したら、カテーテル30を血管から抜去し、挿入箇所必要に応じて外科的手技により止血修復する。
【0095】
以上のように、本実施形態に係るカテーテル30は、軸方向に延在し血液を通すためのカテーテル30である。カテーテル30は、軸方向に延在し拡張可能な拡張部32と、軸方向に延在し、拡張部32の挿入方向の基端側に設けられるシャフト部33と、拡張部32およびシャフト部33の間に設けられる中間部34と、を有する。拡張部32は、シャフト部33よりも大きい内外径を備えるとともに、シャフト部33よりも伸縮性が高く構成される。中間部34は、拡張部32からシャフト部33に向けて内外径が漸減するように構成される。拡張部32は、交差するように編組されたワイヤーWからなる第1補強体321を有し、シャフト部33は、交差するように編組されたワイヤーWからなる第2補強体331を有し、中間部34は、交差するように編組されたワイヤーWからなる第3補強体341を有する。第3補強体341は、交差するワイヤーWがなす角度のうち軸方向の内角である編み角度θ3が、第1補強体321および第2補強体331よりも小さく構成されてなる。
【0096】
このように構成したカテーテル30によれば、拡張部32が軸方向に伸長して外径が小さくなった状態で、カテーテル30を生体内に挿入するため、患者の身体に対する負担を抑制することができる。また、カテーテル30を生体内に留置した後、スタイレット50をカテーテル30から抜去すると、拡張部32は軸方向に収縮して元に戻る。ここで、拡張部32はシャフト部33より大きい内径を備えるため、拡張部32における圧力損失が低減されて、必要とする液体の流量を確保することができる。
【0097】
また、拡張部32および中間部34が軸方向に伸長したとき、拡張部32の第1補強体321および中間部34の第3補強体341を構成するワイヤーWは、軸方向に対する傾斜角度が徐々に小さくなるように変形する。ここで、第3補強体341は、交差するワイヤーWがなす角度のうち軸方向の内角である編み角度θ3が、第1補強体321および第2補強体331よりも小さく構成されてなるため、第3補強体の編み角度が第1補強体および第2補強体の編み角度よりも大きい場合と比較して、第3補強体を構成するワイヤーWの軸方向に対する傾斜角度が小さくなり、カテーテル30にスタイレット50を挿通するのに伴う中間部34の軸方向に沿う伸長距離が短くなる。このようにカテーテル30にスタイレット50を挿通するのに伴う中間部34の軸方向に沿う伸長距離が短くなることによって、中間部34の径方向内方への収縮が抑制されて、スタイレット50を締め付けることを好適に防止することができる。
【0098】
したがって、患者の身体に対する侵襲や負担を大きくすること無く、循環回路を循環中の液体の圧力損失を低減し必要とする液体の流量を確保するとともに、スタイレット50を挿入した際に、スタイレット50を締め付けることを好適に防止することのできるカテーテル30を提供することができる。
【0099】
また、第3補強体341は、第1補強体321の編み角度θ1から漸減するように編み角度θ3が構成される第1領域341Aと、第1領域341Aから連続して、第2補強体331の編み角度θ2に向けて漸増するように編み角度θ3が構成される第2領域341Bと、を有する。このように構成されたカテーテル30によれば、中間部34の軸方向に沿う長さを短くすることができ、軸方向に沿う長さが比較的短いカテーテル30にも好適に適用することができる。
【0100】
<第2実施形態>
図10図12を参照して、本発明の第2実施形態に係る経皮カテーテル(以下、「カテーテル」という。)60を説明する。図10図12は、第2実施形態に係るカテーテル60の構成の説明に供する図である。
【0101】
このカテーテル60はいわゆるダブルルーメンカテーテルであって、同時に送血と脱血の双方を行うことができるものである。したがって、本実施形態では、図1の体外循環装置においては、静脈側カテーテル(脱血用カテーテル)5と、動脈側カテーテル(送血用カテーテル)6の2つのカテーテルを用いることはなく、1つのカテーテル60のみを用いて手技を行う。
【0102】
第2実施形態に係るカテーテル60は、図10図11に示すように、送血用側孔163に連通する第1ルーメン61を備える第3チューブ161が、シャフト部133の内腔に配置された二重管構造を有する点で第1実施形態に係るカテーテル30と異なる。
【0103】
第2実施形態に係るカテーテル60によれば、体外循環装置のポンプを作動して患者の静脈(大静脈)から脱血して、人工肺により血液中のガス交換を行って血液の酸素化を行った後に、この血液を再び患者の静脈(大静脈)に戻す静脈-静脈方式(Veno-Venous,VV)の人工肺体外血液循環を行うことができる。
【0104】
以下、カテーテル60の各構成について説明する。なお、第1実施形態と共通する部分は説明を省略して、第2実施形態のみに特徴のある箇所について説明する。また、上述した第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して説明し、重複した説明は省略する。
【0105】
カテーテル60は、図10図12に示すように、拡張部32と、シャフト部133と、中間部34と、拡張部32の先端に配置される先端チップ41と、シャフト部133の内腔に配置された第3チューブ161と、を有している。拡張部32、中間部34および先端チップ41の構成は、第1実施形態のカテーテル30と同じ構成であるため、説明は省略する。
【0106】
カテーテル60は、図11に示すように、送血路として機能する第1ルーメン61と、脱血路として機能する第2ルーメン62と、を有している。
【0107】
第1ルーメン61は、第3チューブ161の内腔に形成される。第2ルーメン62は、拡張部32、中間部34、およびシャフト部133の内腔に形成され、先端から基端まで貫通している。
【0108】
シャフト部133には、送血路である第1ルーメン61に連通する送血用側孔163が設けられている。
【0109】
シャフト部133は、脱血路である第2ルーメン62に連通する脱血用側孔164を備えている。
【0110】
送血用側孔163および脱血用側孔164は、楕円形状に構成されている。
【0111】
第3チューブ161は、シャフト部133の基端側から第2ルーメン62に挿入されて送血用側孔163に連結している。
【0112】
送血用側孔163は、生体内の送血対象に配置され、人工肺により酸素化が行われた血液は送血用側孔163を介して生体内に送出される。
【0113】
先端チップ41が備える貫通孔46、47およびシャフト部133が備える脱血用側孔164は、生体内の異なる脱血対象に配置されて効率的に脱血を行えるように構成されている。また、貫通孔46、47または脱血用側孔164が血管壁に吸着して塞がれても、塞がれていない方の孔から脱血を行うことができるため、体外循環を安定して行うことができる。
【0114】
本実施形態では、カテーテル60は、首の内頸静脈から挿入され、上大静脈、右心房を介して先端が下大静脈に留置される。送血対象は、右心房であり、脱血対象は、上大静脈および下大静脈の2箇所である。
【0115】
カテーテル60は、図12に示すように、スタイレット50が挿入された状態で、先端チップ41の貫通孔46、47が下大静脈に、シャフト部133の脱血用側孔164が内頸静脈に配置されるように生体内に挿入して留置される。
【0116】
第1実施形態と同様に、拡張部32は、シャフト部133よりも内径が大きくなるように構成されている。貫通孔46、47および脱血用側孔164が脱血対象に配置された状態で、拡張部32は比較的太い血管である下大静脈に配置され、シャフト部133は比較的細い血管である大腿静脈に配置される。
【0117】
図11に示すように、ロックコネクター136は、第1ルーメン61に連通する第1ロックコネクター137と、第1ロックコネクター137に対して並列に設けられ、第2ルーメン62に連通する第2ロックコネクター138と、を有している。ロックコネクター136は、第1ロックコネクター137が第2ロックコネクター138から分岐して形成されたY字状のYコネクターである。
【0118】
第1ロックコネクター137は、第3チューブ161の基端部に連結されている。第2ロックコネクター138は、シャフト部133の基端部に同軸的に連結されている。第1ロックコネクター137には、送血チューブ(送血ライン)が接続され、第2ロックコネクター138には脱血チューブ(脱血ライン)が接続される。
【0119】
中間部34は、第1実施形態と同じ機能を発揮し、作用効果も共通している。
【0120】
以上のように、本実施形態に係るカテーテル60によれば、一つのカテーテルで脱血と送血の両方の機能を果たすことができる。
【0121】
以上、実施形態を通じて本発明に係るカテーテルを説明したが、本発明は実施形態および変形例において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0122】
例えば、上述した第1実施形態では、図6に示すように、第3補強体341は、第1補強体321の編み角度θ1から漸減するように編み角度θ3が構成される第1領域341Aと、第1領域341Aから連続して、第2補強体331の編み角度θ2に向けて漸増するように編み角度θ3が構成される第2領域341Bと、を有した。しかしながら、第3補強体341は、図13に示すように、第1領域341Aおよび第2領域341Bの間に、編み角度θ3が一定である一定領域341Cを有していてもよい。このように構成されたカテーテル30によれば、中間部34の軸方向に沿う長さを長くすることができ、軸方向に沿う長さが比較的長いカテーテルにも好適に適用することができる。
【0123】
ワイヤーWを構成する材料は、変形して元の形状に戻る復元力を備え、かつ、樹脂層を補強する機能を備える材料であれば形状記憶材料にさせる構成に限定されず、例えば、公知の弾性材料により構成することができる。
【0124】
また、上述した第2実施形態では、貫通孔46、47および脱血用側孔164は、脱血用に用いられ、送血用側孔163は、送血用に用いられた。しかしながら、貫通孔46、47および側孔164は、送血用に用いられ、側孔163は、脱血用に用いられてもよい。
【0125】
また、上述した第1実施形態、第2実施形態では、拡張部32は第1樹脂層322を備えるとしたが、当該構成に限定されず、第1樹脂層を備えない構成としてもよい。
【0126】
本出願は、2020年2月25日に出願された日本国特許出願第2020-029665号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
【符号の説明】
【0127】
30、60 カテーテル(経皮カテーテル)、
32 拡張部、
321 第1補強体、
33、133 シャフト部、
331 第2補強体、
34 中間部、
341 第3補強体、
θ1 第1補強体の編み角度、
θ2 第2補強体の編み角度、
θ3 第3補強体の編み角度、
W ワイヤー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13