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特許7524318呼吸監視のための体表面光学イメージング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】呼吸監視のための体表面光学イメージング
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/091 20060101AFI20240722BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
A61B5/091
A61B5/00 102A
A61B5/00 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022525749
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2020076116
(87)【国際公開番号】W WO2021083577
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】19306417.7
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522174122
【氏名又は名称】ソントル オスピタリエ レジョナル エ ウニベルシテール ド ブレスト
(73)【特許権者】
【識別番号】516133836
【氏名又は名称】ユニバーシテ デ ブルターニュ オキシデンタル
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ヴィスヴィキス,ディミトリス
(72)【発明者】
【氏名】ラー,エルワン
(72)【発明者】
【氏名】ナジール,ソウハ
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0055877(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0060215(US,A1)
【文献】特表2016-509939(JP,A)
【文献】特表2017-530762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
A61B 5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の胴体の少なくとも1つの部分の少なくともつの生画像を含むレンジイメージングセンサ(Sri)から得られた取得物のセットを受信する工程(110)であって、ここでは前記生画像の各点は前記レンジイメージングセンサ(Sri)と前記対象との間の距離を表す工程と、
前記生画像の表面近似により前記対象の胴体の表面の少なくとも1つの部分の表面画像を生成する工程(120)と、
前記取得物のセットから得られた所与の時間での前記表面画像の深度値と参照表面画像の深度値との差の前記対象の胴体上に定められた所与の関心領域(ROI)における空間平均を各表面画像のために計算することにより呼吸信号を時間の関数として推定する工程(130)と、
前記呼吸信号に前記関心領域の表面積を掛けることにより少なくとも肺気量を含む呼吸パラメータを時間の関数として推定する工程(140)と、
前記呼吸パラメータを出力として提供する工程と
を含む、対象の呼吸パラメータを推定するためのコンピュータ実装方法(100)。
【請求項2】
前記関心領域の表面積が掛けられた前記呼吸信号の1回の呼吸サイクルにおける最大値と最小値との差として一回換気量を推定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記呼吸信号における吸気ピークの検出から計算される呼吸数を推定する工程(150)をさらに含む、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記表面画像は基底スプライン関数を用いて得る、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
シーンの中の他の物体に由来するノイズを除去するために前記生画像をフィルタリングする工程(111)をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記生画像は飛行時間(ToF)型カメラである前記レンジイメージングセンサから得られたものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記生画像中の前記対象の胴体を前記飛行時間型カメラのxy平面と位置合わせするために回転マトリックスを前記生画像に適用するキャリブレーション工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記生画像は前記対象の胴体の前方に配置されている前記レンジイメージングセンサ(Sri)から得られたものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
プログラムがコンピュータによって実行された場合に、前記コンピュータに請求項1~のいずれか1項に記載の方法の工程を実行させる命令を含むプログラム。
【請求項10】
プログラムがコンピュータによって実行された場合に、前記コンピュータに請求項1~のいずれか1項に記載の方法の工程を実行させる命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項11】
レンジイメージングセンサ(Sri)から得られた取得物のセットを受信するように構成された入力モジュール(aM)であって、前記取得物のセットは対象の胴体の少なくとも1つの部分を含む少なくともつの生画像を含み、ここでは前記生画像の各点は前記レンジイメージングセンサ(Sri)と前記対象との間の距離を表す入力モジュール(aM)と、
前記生画像の表面補間により前記対象の胴体の表面の少なくとも1つの部分の表面画像を生成するように構成された表面生成モジュール(sgM)と、
前記取得物のセットから得られた所与の時間での前記表面画像の深度値と参照表面画像の深度値との差の前記対象の胴体上に定められた所与の関心領域における空間平均を各表面画像のために計算することにより呼吸信号を時間の関数として推定し、かつ前記呼吸信号に前記関心領域の表面積を掛けることにより少なくとも肺気量を含む呼吸パラメータを時間の関数として計算するように構成された計算モジュール(cM)と、
前記呼吸パラメータを出力するように構成された出力モジュールと
を備える、対象の呼吸パラメータを推定するためのシステム(S)。
【請求項12】
前記計算モジュールは、前記呼吸信号における吸気ピークの検出から計算される呼吸数をさらに計算するように構成されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
レンジイメージングセンサ(Sri)をさらに備える、請求項11または12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記レンジイメージングセンサ(Sri)は飛行時間型カメラであり、前記システムは前記生画像中の前記対象の胴体を前記レンジイメージングセンサ(Sri)のxy平面と位置合わせするために、回転マトリックスを前記生画像に適用するように構成されたキャリブレーションモジュールをさらに備える、請求項11~13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記計算モジュール(cM)はさらに、前記関心領域の表面積が掛けられた前記呼吸信号の1回の呼吸サイクルにおける最大値と最小値との差として一回換気量を計算するように構成されている、請求項11~14のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理学的パラメータの監視の分野に関する。特に本発明は、画像分析を用いた患者の呼吸パラメータの監視の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的換気または補助換気は、自発呼吸を補助するかその代わりとなるための機械的手段を使用する。機械的換気の臨床目的は、ガス交換を維持し、呼吸努力を減らすかその代わりとなり、全身のO消費を監視することにある。機械的換気はベンチレータと呼ばれる装置によって実施される。これは、非侵襲的装置を通して(マスクまたは鼻枝を介して)あるいは侵襲的装置を通して(チューブの挿入により)患者に空気を送る人工器官である。機械的に換気されている患者の呼吸パラメータの一定の監視は気道動態の変化を評価するために必須であるが、現在のところ侵襲的かつ気密なマスク換気装置によってのみ提供されており、気密でない非侵襲的換気装置(例えば高流量酸素療法システム)によって提供されていない。機械的換気は呼吸不全に罹患している患者の生存のために必須である。ベンチレータは圧力または量のいずれかで呼吸補助を行う。圧規定換気中の吸気圧は、ベンチレータにより限定されない圧力の変化によって引き起こされる量の変化を監視することにより調整される。肺活量測定や一回換気量に対するアラームを設定して外傷のリスクを回避する。量規定換気は、一回換気量の調整または肺活量測定を必要とする。機械的換気のためにパラメータを設定することは特に不安定な呼吸を有する患者にとって重要であり、特に一回換気量における異常は肺病変のような損傷を引き起こす可能性があることが分かっている。不安定な患者の場合、挿管はより高い合併症リスクを伴う。
【0003】
これに関連して、肺気量の連続的な監視により臨床医がこれらの患者の健康状態を追跡し、かつ特に換気パラメータの微調整により措置を取ることにより患者の予後を向上させることができ、これは有利には挿管のリスクを低下させ、侵襲的換気の時間を短くし、かつ機械的換気によって引き起こされる場合がある付随的肺病変を発症するリスクを低下させることができる。従って機械的換気状態にある患者の呼吸を連続的に測定するための非侵襲的非接触監視は、臨床集中治療では重要な行為である。
【0004】
患者の換気の監視のためにいくつかの臨床装置が実際に入手可能である。最もよく使用されている臨床装置は、空気を送ることにより呼吸筋の代わりとなり、かつ換気パラメータを患者の必要性に適合させるためにこれらのパラメータを監視することができるレスピレータである。
【0005】
昨今の臨床領域には、患者の換気を連続的に監視することができる入手可能な非侵襲的非接触監視システムが存在しない。プレチスモグラフィ、胸部インピーダンス、インピーダンス呼吸記録法、フォトプレチスモグラフィおよび磁力計などの正確な呼吸測定を提供する技術は非侵襲的である。しかし、これらの技術は扱いにくく、高価であり、全てが臨床環境に適合するわけではない。
【0006】
肺活量計および呼吸流量計などの従来の技術は呼吸時の空気流量を測定する。これらの接触技術は患者の協力に依存する手順を実行する。それらは肺気量を測定することができるが、肺水腫および胸部機能不全などの病態に関連づけられる胸郭の動きについての異常を検出することができない。呼吸器バンドは、患者の呼吸のリズムを測定することができる別のよく知られている非侵襲的接触技術である。
【0007】
従来の呼吸検出は実際に、患者に不都合だとみなされる正確性の低い接触法を用いて行われている。実際には呼吸動態の分析の分野では、測定システムと患者との間に物理的接触が確立されないことが有利である。
【0008】
これに関連して本発明は、患者の呼吸の非侵襲的非接触監視により患者の呼吸パラメータを測定するための方法およびシステムを提案することにより、それらの欠点を改善することを目的としている。
【0009】
呼吸監視を適用するさらに別の領域は、呼吸ガス交換の機能を調べる肺機能試験に関するものである。子供、高齢者または慢性閉塞性肺疾患などの肺疾患に罹患している対象などの何人かの対象は、マウスピースおよび鼻栓を試験中の対象の顔に取り付けなければならないという理由による拘束感覚または強制呼気/吸気を行うための強度の欠如により、肺活量計を用いてこの試験を行うためにいくつかの困難に遭遇する場合がある。さらに測定は、空気流の時折の漏れにより不正確になる場合がある。最後に、マウスピースは患者ごとに交換しなければならない。
【0010】
これに関連して本発明は、非侵襲的な非接触法で患者の呼吸パラメータを測定するための方法およびシステムを提案することにより、それらの欠点に対する解決法を提供する。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、
対象の胴体の少なくとも1つの部分の少なくとも1つの生画像を含むレンジイメージングセンサから得られた取得物のセットを受信する工程であって、ここでは生画像の各点はレンジイメージングセンサと対象との間の距離を表す工程と、
生画像の表面補間により対象の胴体の表面の少なくとも1つの部分の表面画像を生成する工程と、
取得物のセットから得られた所与の時間での表面画像の深度値と参照表面画像の深度値との差の対象の胴体上に定められた所与の関心領域における空間平均として計算される呼吸信号を時間の関数として推定する工程と、
呼吸信号に関心領域の表面積を掛けることにより少なくとも肺気量を含む呼吸パラメータを時間の関数として推定する工程と、
前記呼吸パラメータを出力として提供する工程と
を含む、対象の呼吸パラメータを推定するためのコンピュータ実装方法に関する。
【0012】
本方法は、一次元の呼吸信号を推定し、かつ他の呼吸パラメータをさらに計算するための3D表面画像(すなわち3D点群)の分析に基づいている。
【0013】
有利にはこの方法は、対象の呼吸の絶対的な定量的推定および呼吸パラメータをリアルタイムかつ連続的な方法で提供する。
【0014】
有利には本方法は、1つのみのカメラで取得された生データを用いた呼吸パラメータの正確な推定を可能にする。従って呼吸パラメータを推定するために、より少ないデータを分析すればよく、これは計算時間を短縮し、かつ本方法のリアルタイム実施に寄与することを可能にする。
【0015】
本発明の定義に係る呼吸パラメータは呼吸量としても知られている。肺容量は異なる呼吸量の合計から導出され、1回の呼吸サイクル中に吸い込むか吐き出すことができる空気量を表す。本発明では、レンジイメージングセンサによって提供される3D空間情報の分析によって胸部の動き(胸壁の動き)を追跡してもよい。参照表面画像に対する表面画像(胸壁形状)の違いは、吸い込むか吐き出すことができる空気量に関する情報を提供し、肺気量(参照に対する胸壁の変化)を正確に推定することを可能にする。
【0016】
一実施形態では、本発明は、
レンジイメージングセンサから対象の胴体の少なくとも1つの部分の少なくとも1つの生画像を受信する工程であって、ここでは生画像の各点はレンジイメージングセンサと対象との間の距離を表す工程と、
生画像の表面補間により対象の胴体の表面の少なくとも1つの部分の表面画像を生成する工程と、
所与の時間での表面画像の深度値と参照表面画像の深度値との差の対象の胴体上に定められた所与の関心領域(ROI)における空間平均として計算される呼吸信号を時間の関数として推定する工程と、
呼吸信号に関心領域の表面積を掛けることにより肺気量を時間の関数として推定する工程と
を含む、レンジイメージングセンサを用いて対象の呼吸パラメータを測定するための方法に関する。
【0017】
本発明では、胴体上に定められた関心領域は対象の肩から寛骨までの身体領域を含む。胸式呼吸は主に肋間筋の収縮に依存しており、腹式呼吸は主に横隔膜の筋収縮に依存している。胸壁の動きは胸式呼吸および腹式呼吸の両方を含む。故に本発明では、胴体領域全体の呼吸運動を考慮し、有利には呼吸パラメータのより正確な推定を可能にする。
【0018】
一実施形態によれば、本発明の方法はコンピュータ実装方法である。
【0019】
本方法は有利には、リアルタイムでの対象の呼吸パラメータの非侵襲的非接触監視を可能にする。この監視は、特に送られる空気量または圧力を調整することによる換気パラメータの微調整によって患者の機械的換気の効率を高めることを可能にする有用な情報を臨床医に提供する。従って呼吸パラメータの監視は、機械的換気の時間を短縮し、このようにしてこの換気によって引き起こされる付随的肺病変の発生を防止することを可能にする。呼吸パラメータの監視は、気胸、無気肺、横隔膜パラドックスなどの呼吸異常の存在の検出も可能にする。呼吸パラメータの監視は、特に長期間にわたって侵襲的に換気されている患者において、侵襲的換気の一時的停止の間または後に患者の健康状態を確認することも可能にする。
【0020】
一実施形態によれば、本方法は、関心領域の表面積が掛けられた呼吸信号の1回の呼吸サイクルにおける最大値と最小値との差として一回換気量を推定する工程をさらに含む。
【0021】
一実施形態によれば、本方法は呼吸信号における吸気ピークの検出から計算される呼吸数を推定する工程をさらに含む。
【0022】
一実施形態では、呼吸パラメータは肺気量に加えて、一回換気量、分時換気量、呼吸数、肺活量、予備呼気量、予備吸気量、最大吸気量および/または吸気肺活量を含む。予備吸気量および予備呼気量は、強制吸気および呼気を行うことができる覚醒している対象についてのみ推定されてもよい。
【0023】
一実施形態によれば、表面画像は基底スプライン関数を用いて得る。
【0024】
一実施形態によれば、レンジイメージングセンサは飛行時間(ToF)型カメラである。
【0025】
一実施形態によれば、本方法はシーンの中の他の物体に由来するノイズを除去するために生画像をフィルタリングする工程をさらに含む。
【0026】
一実施形態によれば、本方法は生画像中の対象の胴体をレンジイメージングセンサのxy平面と位置合わせするために回転マトリックスを生画像に適用するキャリブレーション工程をさらに含む。
【0027】
このキャリブレーションは有利には、胴体がカメラの視野に含まれている限り、対象の実際の位置に関わらず本方法を対象のために実施することができるように、生画像中の対象の胴体をレンジイメージングセンサのxy平面と位置合わせすることを可能にする。結果として本方法は、立っている、座っているまたは横たわっている対象のために呼吸パラメータを推定するように構成されている。
【0028】
一実施形態によれば、本方法は少なくとも1つの換気パラメータの値を修正することによりベンチレータを制御する工程をさらに含み、ここでは前記換気パラメータの値を推定される呼吸パラメータの少なくとも1つ、特に一回換気量を用いて計算する。本実施形態は有利には、換気によって引き起こされる病変の発生を低下させることを可能にする。
【0029】
本発明は、プログラムがコンピュータによって実行された場合に、コンピュータに上記実施形態のいずれか1つに係る方法の工程を実行させる命令を含むプログラムにも関する。
【0030】
本発明は、プログラムがコンピュータによって実行された場合に、コンピュータに上記実施形態のいずれか1つに係る方法の工程を実行させる命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体にも関する。
【0031】
以下ではモジュールは、物理的に区別される材料すなわち構成要素ではなく、機能実体として理解されるものとする。従ってそれらは、同じ有形かつ具体的な構成要素において一緒にグループ化されるか、あるいはいくつかのそのような構成要素に分散されるものとして具体化することができる。また、それらのモジュールのそれぞれは、場合により、それ自体が少なくとも2つの物理的構成要素間で共有されている。またモジュールは、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはそれらのあらゆる混合された形態でも実装される。
【0032】
本発明はさらに、
対象の胴体の少なくとも1つの部分を含む少なくとも1つの生画像の取得のためにレンジイメージングセンサを制御するように構成された取得モジュールであって、生画像の各点はレンジイメージングセンサと対象との間の距離を表す取得モジュールと、
生画像の表面補間により対象の胴体の表面の少なくとも1つの部分の表面画像を生成するように構成された表面生成モジュールと、
所与の時間での表面画像の深度値と参照表面画像の深度値との差の対象の胴体上に定められた所与の関心領域における空間平均として呼吸信号を時間の関数として計算し、かつ呼吸信号に関心領域の表面積を掛けることにより肺気量を時間の関数として計算するように構成された計算モジュールと
を備える、対象の呼吸パラメータを測定するためのシステムに関する。
【0033】
本発明は、
レンジイメージングセンサから得られた取得物のセットを受信するように構成された入力モジュールであって、前記取得物のセットは対象の胴体の少なくとも1つの部分を含む少なくとも1つの生画像を含み、ここでは生画像の各点はレンジイメージングセンサと対象との間の距離を表す入力モジュールと、
生画像の表面補間により対象の胴体の表面の少なくとも1つの部分の表面画像を生成するように構成された表面生成モジュールと、
取得物のセットから得られた所与の時間での表面画像の深度値と参照表面画像の深度値との差の対象の胴体上に定められた所与の関心領域における空間平均として呼吸信号を時間の関数として計算し、かつ呼吸信号に関心領域の表面積を掛けることにより少なくとも肺気量を含む呼吸パラメータを時間の関数として計算するように構成された計算モジュールと、
前記呼吸パラメータを出力するように構成された出力モジュールと
を備える、対象の呼吸パラメータを推定するためのシステムにも関する。
【0034】
一実施形態では、計算モジュールは、呼吸信号における吸気ピークの検出から計算される呼吸数をさらに計算するように構成されている。
【0035】
一実施形態では、計算モジュールはさらに、関心領域の表面積が掛けられた呼吸信号の1回の呼吸サイクルにおける最大値と最小値との差として一回換気量を計算するように構成されている。
【0036】
一実施形態によれば、本システムは、レンジイメージングセンサと、生画像のセットの取得のためにレンジイメージングセンサを制御するように構成された取得モジュールとをさらに備える。
【0037】
一実施形態によれば、本システムは赤外光照明を用いる飛行時間型カメラをさらに備える。
【0038】
一実施形態によれば、レンジイメージングセンサは対象の胴体の前方に配置されている。
【0039】
一実施形態によれば、レンジイメージングセンサは飛行時間型カメラであり、本システムは生画像中の対象の胴体を飛行時間型カメラのxy平面と位置合わせするために回転マトリックスを生画像に適用するように構成されたキャリブレーションモジュールを備える。
【0040】
一実施形態によれば、表面生成モジュールはさらに、シーンの中の他の物体に由来するノイズを除去するために生画像をフィルタリングするように構成されている。
【0041】
定義
本発明では、以下の用語は以下の意味を有する。
【0042】
「肺気量」は、呼吸サイクルの異なる段階での肺中の空気量を指す。
【0043】
「プロセッサ」という用語は、本明細書においてソフトウェアを実行することができるハードウェアに限定されず、一般的には処理装置を指し、例えばコンピュータ、マイクロプロセッサ、集積回路またはプログラマブルロジックデバイス(PLD)を挙げることができる。プロセッサは、コンピュータグラフィックスおよび画像処理または他の機能のために利用されるかを問わず、1つ以上のグラフィックス処理装置(GPU)も包含してもよい。さらに、関連するおよび/または得られる機能を実行することを可能にする命令および/またはデータは、例えば集積回路、ハードディスク、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタル多用途ディスク)などの光ディスク、RAM(ランダムアクセスメモリ)またはROM(リードオンリーメモリ)などのあらゆるプロセッサ読取り可能媒体に記憶されていてもよい。命令は特にハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはそれらの任意の組み合わせに記憶されていてもよい。
【0044】
「リアルタイム」は、データを受信し、それらを処理し、かつその時の環境に影響を与えるのに十分な程に迅速にその結果を返すことにより環境を制御するシステムの能力を指す。リアルタイム応答(すなわち出力)は、ミリ秒および場合によってはマイクロ秒のオーダーであるものと理解されることが多い。
【0045】
「呼吸パラメータ」は、患者の胴体全体を含むROIまたは腹部、胸部、左もしくは右肺領域に対応する複数のROIについて計算された肺気量、一回換気量および分時換気量を指す。また呼吸パラメータはさらに、肺活量(すなわち最も深い吸気後に吐き出される空気量)、予備呼気量(すなわち、呼気終末位から吐き出すことができる最大空気量)、予備吸気量(すなわち、吸気終末レベルから吸い込むことができる最大量)、最大吸気量(すなわち予備吸気量および一回換気量の合計)および吸気肺活量(すなわち最大呼気位から吸い込まれる最大空気量)を指す。予備吸気量および予備呼気量は、強制吸気および呼気を行うことができる覚醒している対象についてのみ推定されてもよい。
【0046】
「対象」は哺乳類、好ましくはヒトを指す。本発明の意味では、対象は規則的もしくは頻繁な投薬を必要とするあらゆる精神的もしくは身体的障害を有する個体であってもよく、あるいは患者、すなわち医学的配慮を受けている人、医学的治療を受けているか受けたことがある人、あるいは疾患の発生について監視されている人であってもよい。
【0047】
「一回換気量」は、余分な努力がなされない場合に正常な吸気と呼気との間で置き換えられる正常な空気量を指す。この呼吸パラメータはmlで表される。
【0048】
「躯幹」または「胴」は、首および肢がそこから伸びている多くの動物(ヒトを含む)の体の中心部分すなわちコアを指す。胴体は、躯幹の胸部の体節(すなわち胸郭または胸)、躯幹の腹部の体節(すなわち腹であって、胸郭と骨盤との間の体の部分)および会陰を含む。
【0049】
以下の詳細な説明は、図面と共に読めばより理解が深まるであろう。例示のために、本システムおよび本方法を記述するブロック図が好ましい実施形態に示されている。但し当然のことながら、その適用は図示されている正確な配置、構造、特徴、実施形態および態様に限定されない。図面は縮尺どおりではなく、特許請求の範囲を示されている実施形態に限定するものではない。従って当然のことながら、添付の特許請求の範囲において言及されている特徴に参照符号が付されている場合、そのような符号は単に特許請求の範囲の理解度を高めるために含まれており、決して特許請求の範囲を限定するものではない。
【0050】
本発明の特徴および利点は、添付の図面を参照しながら単に例として与えられているシステムの実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明の一実施形態に係る方法の工程を表すブロック図である。
図2】一実施形態に係る本発明のシステムの概略図である。
図3】対象の左肺(黒色の目印)および右肺(灰色の目印)における肺気量を時間の関数として表すグラフである。
図4】対象の胸部(黒色の目印)および腹部(灰色の目印)における肺気量を時間の関数として表すグラフである。
図5】6人の患者について計算された呼吸数パラメータの中央値、データの平均±1標準偏差、最小値および最大値を表す箱ひげ図である。
図6】6人の患者について計算された一回換気量パラメータの中央値、データの平均±1標準偏差、最小値および最大値を表す箱ひげ図である。
図7図7(a)および(b)は、参照および推定呼吸数についての相関およびブランド-アルトマンプロットである。参照RR値はマネキンのベンチレータによって提供される。推定RRはKinectを用いた監視システムを用いて行った。21回の記録について、RRの推定は参照方法に大きく相関していた(r=0.99;p<0.001)。ブランド-アルトマンプロットを用いた2つの方法の比較により、低い偏り(0bps)および偏差(<±1.86bps)が実証されている。
図8図8(a)および(b)は、参照および推定一回換気量についての相関およびブランド-アルトマンプロットである。参照Vt値はマネキンベンチレータによって提供される。Vtの推定はKinectを用いた監視システムを用いて行った。21回の記録について、RRの推定は参照方法に大きく相関していた(r=0.99;p<0.001)。ブランド-アルトマンプロットを用いた2つの方法の比較により、低い偏り(7.90ml)および偏差(<±22.03ml)が実証されている。
図9】マネキンの胸郭の左および右部分における局所換気推定を表すプロットである。換気量-時間曲線は、マネキンの非同期性換気モードを用いて右および左肺ROIを別々に分析することにより得る。黒色の曲線は左胸郭の換気量-時間曲線に対応しており、灰色の曲線は右胸郭の換気量-時間曲線に対応している。
図10図10(a)および(b)は、参照および推定呼吸数についての相関およびブランド-アルトマンプロットである。参照RR値は換気補助下にある患者のためのベンチレータによって提供される。RRの推定はKinectを用いた監視システムを用いて行った。16回のICU患者の記録について、RRの推定は参照方法に大きく相関していた(r=0.95;p<0.001)。ブランド-アルトマンプロットを用いた2つの方法の比較により、低い偏り(0.40bps)および偏差(<±1.67bps)が実証されている。
図11図11(a)および(b)は、参照および推定一回換気量についての相関およびブランド-アルトマンプロットである。参照Vt値は換気補助下にある患者のためのベンチレータによって提供される。Vtの推定はKinectを用いた監視システムを用いて行った。16回のICU患者の記録について、Vtの推定は参照方法に相関していた(r=0.90;p<0.001)。ブランド-アルトマンプロットを用いた2つの方法の比較により、低い偏り(-5.36ml)および許容される偏差(<±23.70ml)が実証されている。
図12】患者の推定RRの平均誤差±標準偏差を表すプロットである。
図13】患者の推定Vtの平均誤差±標準偏差を表すプロットである。
図14】2人のICU患者の左および右胸郭における(a)等しい換気、および(b)等しくない換気を表す。換気量-時間曲線は右および左肺のROIを別々に分析することにより得る。黒色の曲線は左胸郭の換気量-時間曲線に対応しており、灰色の曲線は右胸郭の換気量-時間曲線に対応している。
図15】2人のICU患者の胸郭と腹との間の(a)同期性換気および(b)非同期性換気を表す。換気量-時間曲線は、胸郭および腹のROIを別々に分析することにより得る。黒色の曲線は腹の換気量-時間曲線に対応しており、灰色の曲線は胸郭の換気量-時間曲線に対応している。
【0052】
様々な実施形態について説明および図示していきたが、「発明を実施するための形態」はそれらに限定されるものとして解釈されるべきではない。特許請求の範囲によって定義されている本開示の真の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者によって当該実施形態に対して様々な修正をなすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1は、レンジイメージングセンサを用いて対象の呼吸パラメータを測定するための方法100の主な工程のいくつかを表すブロック図を示す。好ましい一実施形態では、対象は機械的に換気されている患者である。
【0054】
集中治療室、回復室および救急医療サービスなどにおける臨床環境には複数の医療機器(すなわちモニター、換気装置、心臓監視装置など)が備えられており、看護を行うため、あるいは緊急時に患者への容易かつ迅速なアクセスを可能にするためにこれらの機器全てを移動させなければならないので、レンジイメージングセンサは有利には患者のベッドの上に配置されていてもよい。
【0055】
一実施形態では、本方法の第1の工程は、レンジイメージングセンサ110から取得された患者の胴体の少なくとも1つの部分の少なくとも1つの生画像を受信する工程からなる。レンジイメージングセンサから取得された生画像の各点は、レンジイメージングセンサと患者との間の距離を表す。
【0056】
ステレオ三角測量、光シート三角測量、構造化光、干渉計測、符号化開口および当業者によって知られているあらゆる他の技法などの、異なる種類のレンジイメージング技法に基づく様々なレンジイメージングセンサまたはカメラが現在入手可能である。
【0057】
1つの好ましい実施形態によれば、レンジイメージングセンサは飛行時間(ToF)型カメラである。ToFカメラは、レーザー、レーザーダイオードまたは異なる波長、特に赤外線または近赤外線のLEDによって提供される人工の光信号の往復時間を測定することにより、飛行時間技術を用いて画像の各点についてカメラと対象との間の距離を決定するレンジイメージングカメラシステムである。標準的なカメラを用いた場合のように周囲の光の強度を測定するのではなく、ToFカメラはカメラ自体の発光源から放射された光の反射光を測定する。
【0058】
(i)光パルスが装置から物体まで移動して再び戻ってくるのに要する時間を直接測定するパルス変調方式カメラ、および(ii)放射信号と受信信号との間の位相差を測定し、かつ故に移動時間を間接的に得る連続波変調方式カメラなどの異なる測定原理の飛行時間型カメラを本発明の目的のために使用してもよい。
【0059】
場合により回転機構に装着されたToFカメラは、単一もしくは複数のレーザービームを2Dアレイ型光検出器および時間-デジタル変換回路と組み合わせて、1Dもしくは2Dアレイの深度値を生成してもよい。
【0060】
本方法では、生画像が受信されるToFカメラは2種類のセンサ、すなわちパルス変調方式センサまたは連続波変調方式センサを含んでもよい。パルス変調方式センサは光パルスの往復時間を直接測定する。光パルスの幅は数ナノ秒である。連続波(CW)変調方式センサは、放射された連続的な正弦波の光波信号と各光検出器によって受信された後方散乱信号との位相差を測定する。放射信号と受信信号との位相差は、相互相関(復調)により推定する。既知の変調周波数であれば、位相は距離に直接関連している。これらのセンサは通常屋内で動作し、短距離測定(数センチメートルから数メートルまで)のみが可能であり、従って有利には臨床環境での使用に適している。
【0061】
ToFカメラはシーン情報の迅速な取得および迅速なリアルタイム処理を可能にする。ToFカメラは高い取得頻度を特徴とし、リアルタイムで体積の3D分析を可能にする。この種のカメラから提供される表面情報は有利には、動的運動の管理および監視に適している。
【0062】
送信および受信アンテナを有するレーダーシステムとは逆に、レンジイメージングセンサの使用は特に有利である。実際に送信アンテナは、患者にいくつかの二次的副作用を有し、かつ患者の体内にあるか患者に近接する他の医療装置(すなわちペースメーカーまたはインスリンポンプ)の機能を妨害する場合がある電磁波を使用する。逆に本方法およびシステムは患者への二次的影響を生じさせず、かつ臨床環境において医療装置の機能の乱れを生じさせない赤外線を使用するように構成されている。さらに、レーダーシステムの使用では肺気量の推定がより不十分となる時間通りの情報しか得られないが、レンジイメージングセンサから得られる画像では、患者の胴体全体の変位に関する詳細な情報を有することが可能になる。
【0063】
また本方法は、画像取得を制御し、かつ本方法の工程を実施するように構成されたデータ処理装置に転送するために、レンジイメージングセンサに命令を提供するように構成されていてもよい。画像取得は予め定められた時間スケジュールに基づいて計画されていてもよく、あるいはトリガー信号が受信された場合に開始されてもよい。
【0064】
連続波変調方式を実装しているToFカメラを用いる場合、放射信号s(t)の光パワーと、画像化される物体への光の反射から得られる受信信号r(t)の光パワーとの相互相関は、以下の方程式:
【数1】
に従って表される。
【0065】
1回の変調期間内で4つの等しく離間されたサンプルにおける相関関数の値:
【数2】
を検討する場合、これらの4つのサンプル値は、以下:
【数3】
のように得られる位相φの曖昧でない計算のために十分である。
【0066】
各画素における深度値dは、以下の式:
【数4】
(式中、cは光速度であり、fは変調周波数である)を用いて計算する。
【0067】
一実施形態によれば、ToFカメラは、光が照明源から物体まで移動してセンサに戻るために必要とする時間を測定するために、光を物体に送るように構成されたトランスミッタすなわち光源(一般にLEDまたは発光ダイオード)を備える。連続波(CW)の場合、放射される信号は正弦波の変調光信号である。受信信号は光信号の往復により位相変化する。さらに受信信号は物体の反射率、光路に沿った減衰および背景照明により影響を受ける。各画素は受信信号の復調を独立して行い、従ってその位相遅延ならびに振幅およびオフセット(背景照明)の両方を測定することができる。
【0068】
生画像は、階調レベル画像またはRGB画像を表す2次元アレイの形態で表すことができる深度マップまたは深度画像であり、ここではアレイのサイズは画像取得のために使用されるToFカメラ、特に光センサに依存する。生画像は例えば16ビットでコード化されていてもよく、ここでは各画素(u,v)における深度尺度に関する情報は、ToFカメラと物体(すなわち患者)との間の距離に直接対応している。
【0069】
一実施形態によれば、本方法は、生画像中の患者胴体を飛行時間型カメラのxy平面に位置合わせするために、回転マトリックスを生画像に提供することからなるキャリブレーション工程をさらに含む。一例では、以下の3つの回転:
【数5】
を以下の方程式:
【数6】
(式中、(X,Y,Z)は回転マトリックスR=R×R×Rから変換された点の座標であり、α、βおよびγはToFカメラの3つの軸に沿ったラジアンでの角度であり、(X,Y,Z)はToFカメラによって取得された生画像の点の座標である)に従って生画像に適用する。
【0070】
一実施形態によれば、本方法は、シーン111の中の他の物体に由来するノイズを除去するために生画像をフィルタリングする工程をさらに含む。
【0071】
一実施形態では、本方法は、生画像120の表面補間により患者の胴体の表面の少なくとも1つの部分の表面画像を生成する工程を含む。一実施形態では、表面画像は、生画像に対して基底スプライン(B-スプラインともいう)関数を用いて得る。B-スプライン関数は制御点と呼ばれる点の数を通り抜ける柔軟なバンドの組み合わせであり、滑らかな曲線を生成する。これらの関数は有限数の点を用いて、複雑な形状および表面の作成および管理を可能にする。B-スプライン関数およびベジェ関数は、形状最適化方法において広範囲に適用されている。本実施形態は有利には、領域ごとのベースではなく点ごとのベースで呼吸運動の動態を導き出すことを可能にする。さらにB-スプラインモデリングは深度推定の正確性を著しく高め、かつ呼吸信号測定における誤差を0.22±0.14mmまで減少させ、かつ測定再現性を3倍高める。
【0072】
一実施形態では、本方法は、患者の胴体上に定められた所与の関心領域(ROI)におけるデータを分析することにより、呼吸信号を時間の関数として得る工程130を含む。次いで、所与の時間での表面画像の深度値と参照表面画像の深度値との差の前記所与のROIにおける空間平均として呼吸信号を時間の関数として推定する。参照表面画像は取得物のセットの第1の画像であってもよい。有利には、この参照表面画像の使用はベースラインドリフトを定めることを可能にする。実際に呼吸信号は、ベースラインとして知られている参照値に対するものである。呼吸測定のためのベースラインは、参照画像(理想的にはゼロ流量線)によって定める。
【0073】
従って時間の関数としての呼吸信号は、
【数7】
(式中、Rは参照表面画像を表し、Lは取得されたk番目の深度画像に対応する胴体の表面画像を表し、Nは患者の胴体上に定められた関心領域における画素の数である)のように得る。
【0074】
有利には、参照平面(すなわち参照表面画像)の位置は一回換気量の推定において重要ではなく、表面間の体積の差の正確性に影響を与えない。
【0075】
一実施形態によれば、関心領域はユーザによって手動で予め定められる。他の実施形態によれば、関心領域の位置および寸法は、ディープラーニングアルゴリズムを用いて患者の胴体上に自動的に定められる。前記ディープラーニングアルゴリズムは、特に少なくとも患者の胴体を含む患者のRGB画像を入力として受信し、かつ対象の骨格モデル(すなわち患者の骨および関節の空間分布)を出力として提供するように構成されている。骨格モデルのリアルタイム追跡は、ディープラーニングアルゴリズムに基づいて実行してもよい。次いで対象の骨格モデルを使用して少なくとも1つの関心領域を選択する。一実施形態では、胴体全体に対応する寛骨から肩帯までの領域として1つの関心領域を定める。別の実施形態では、胴体上に2つの関心領域、すなわち肋骨、胸骨および肩帯を含む胸部ならびに横隔膜と寛骨との間に含まれる腹部を定める。あるいは、第1の領域は左肺を包含するために胸郭の左側に定めてもよく、第2の領域は右肺を包含するために胸郭の右側に定めてもよい。
【0076】
一例では骨格モデルのリアルタイム追跡のためのディープラーニングアルゴリズムは、人物姿勢推定を行うためのディープニューラルネットモデルに基づいている。このアルゴリズムは、肘、膝、首、肩、腰、胸などの様々なヒトの「キーポイント」(関節および目印)の位置を正確に予測することができることが分かっている。一実施形態では、ディープニューラルネットモデルは、患者のカラー画像を入力として受信し、かつ「キーポイント」の2D位置(すなわち患者の骨および関節の空間分布)を出力として生成するように構成されている。骨格における各座標は関節として知られている。データセットに対して予め訓練されたモデルを使用して、顔および体の「キーポイント」を含む18個の点を生成するヒトの関節を検出してもよい。その後に座標のセットを結合してROIを特定してもよい。次いで肩および寛骨の特定された関節を結合する表面によって患者胴体のROIを定めてもよい。また、このROI検出アルゴリズムを使用して患者の動きを追跡してもよい。
【0077】
時間の関数としての肺気量は、各フレームにおいてROIの体積を計算することにより得る。これは、ROI中の全ての画素について現在の深度表面と参照深度表面との差を計算することにより行う。その時は体積を得るためにROIのサイズが重要である。ROIのサイズは、mmの寸法を有する画素の数としてROIを測定してもよい。好ましくはROIのサイズは、ROIの幅と長さの積として測定される面積である。画素の幅および長さはそれぞれxおよびy軸に沿ったROI内の画素の最小座標と最大座標との間の距離として定める。内部カメラキャリブレーションは、カメラの自然単位(画像中の画素位置)と実世界の単位(mm)との関係を見つけるために画像取得を開始する前に行うので、表面寸法に深度の差(実際表面と参照表面との差)をただ掛けることができる。
【0078】
有利には、呼吸パラメータの推定のために表面積(3D点群)(2D画像の代わりに)を使用することにより、カメラの内部パラメータ、特にカメラ焦点距離に従属するスケーリング係数を用いて、さらなるキャリブレーション工程を回避することが可能である。
【0079】
一実施形態によれば、本発明の方法は、呼吸信号に関心領域の表面積を掛けることにより肺気量を時間の関数として推定する工程140をさらに含む。時間の関数として肺気量V(k)の値を表す方程式は、以下の方程式:
【数8】
(式中、D(k)は取得サンプルのk番目の画像のために推定される平均深度変化の尺度であり、Sはmmで定量化される関心領域の表面積を表すパラメータである)から得てもよい。この方程式の適用により、深度画像から、対象の各吸気のピークおよび各呼気のバレーを示す時間の関数として肺気量V(k)の曲線を得ることが可能になる。
【0080】
ROIが自動的に定められる実施形態によれば、パラメータSは計算される関心領域の表面積(mmで定量化される)として計算する。
【0081】
一実施形態によれば、時間の関数としての肺気量は、以下:
【数9】
(式中、乗法因子10はmmの体積からmlで定量化される体積への変換を可能にする)のように計算してもよい。
【0082】
一実施形態によれば、本発明の方法は、関心領域の表面積が掛けられた呼吸信号の1回の呼吸サイクルにおける最大値と最小値との間の振幅差、すなわち肺気量V(k)の1回の呼吸サイクルにおける最大値と最小値と振幅差として一回換気量を推定する工程をさらに含む。この一回換気量の推定は、換気されている患者の監視にとって重要なパラメータである。
【0083】
一実施形態では、時間の関数としての肺気量V(k)の曲線におけるピークは、例えば分のオーダーの少なくとも1つの呼吸サイクルを含む所与の時間ウィンドウで検出される。当業者によって知られているピーク検出のアルゴリズムを使用してこの工程を実施してもよい。各ピークの最大値と最小値との間の振幅は、対応する呼吸サイクルにおいて対象によって吸い込まれる量に対応している。本実施形態では、一回換気量は、所与の時間ウィンドウにおける複数の呼吸サイクルについて計算される振幅の平均値として計算する。一回換気量は、各呼吸サイクルから得られる平均値として表してもよく、有利にはランダムノイズならびに取得された尺度の不規則性および可変性によって引き起こされる誤差を回避することを可能にする。この値は、呼吸を評価し、それにより早期介入、換気パラメータの調整または異常の診断のための機会を提供するために重要である。
【0084】
一実施形態によれば、本方法は、胴体全体を含むROIについて得られる呼吸数と一回換気量との積として計算される分時換気量を表す1分当たりの換気量を推定する工程も含む。
【0085】
一実施形態によれば、本方法は、少なくとも1つの換気パラメータの値を修正することによりベンチレータを制御する工程をさらに含み、ここでは前記換気パラメータの値は推定される呼吸パラメータの少なくとも1つ、特に一回換気量を用いて計算する。例えば、制御される換気パラメータは、ベンチレータによって機械的に換気されている患者に送られる量または圧力であってもよい。本実施形態は有利には、ベンチレータによって各患者に行われる呼吸療法、特に患者の解剖学的構造および現在の健康状態に適合させることを可能にする。
【0086】
一実施形態によれば、本方法は上に記載されている実施形態に従って患者の胴体上の複数の関心領域を監視することにより、気胸、無気肺、横隔膜パラドックスなどの呼吸異常の存在を検出する工程をさらに含む。
【0087】
上に記載されているように、関心領域は手動または自動的に定めてもよい。一実施形態では、ROIは1つの肺の表面のみを包含するために胸郭の2分の1に自動的に定める。本実施形態では、第1の関心領域は右肺上に定め、第2の関心領域は患者の左肺上に定める。呼吸数および一回換気量は、第1の関心領域および第2の関心領域において上記実施形態に従って計算する。第1および第2のROIに対する呼吸数および一回換気量の監視は、左および右肺における別々でのこれらのパラメータの監視に対応している。第1および第2の関心領域において呼吸数と一回換気量との積として計算される分時換気量を表す1分当たりの換気量を推定することも可能である。図3は、ある患者についての右肺において計算された肺気量(灰色の線および目印)に重ね合わせられた左肺において計算された肺気量(黒色の線および目印)の一例を示す。この例では、左および右肺における肺気量の時間の関数としての漸進的変化は一様である。第1および第2のROIにおける呼吸数および一回換気量の比較は有利には、2つの肺の間での肺気量の分布を評価し、かつ肺の不均一性を検出することを可能にする。この情報は有利には、(間質性)肺炎または肺炎などの呼吸器系の問題を診断し、かつ患者の必要性に従って調整された最適な換気を得るために不均等な空気量分布を検出し、かつ局所異常を表すことを可能にする。
【0088】
一実施形態では、ROI検出および追跡工程は、取得中に生じた胸郭表面における全ての変化を考慮に入れるように構成されている。
【0089】
1つの他の実施形態では、胸部および腹部を関心領域として定める。胸郭および腹においてこれらのパラメータを別々に監視するために、上記実施形態に従って胸部および腹部において呼吸数および一回換気量を計算する。腹部および胸部における呼吸パラメータの監視により有利には、肺および横隔膜がそれらの正常な運動とは反対方向に動く奇異呼吸(胸腹部パラドックスともいう)を検出することが可能になる。この情報は特に、呼吸困難、外傷および神経学的問題などの生理学的機能異常を診断することを可能にする。図4は、ある患者についての腹部において計算された肺気量(灰色の線および目印)に重ね合わせられた胸部において計算された肺気量(黒色の線および目印)の一例を示す。この例では、胸郭および腹における肺気量の時間の関数としての漸進的変化は相関を有する。
【0090】
一実施形態によれば、本方法は、胴体の表面画像における形態学的変化から呼吸数を計算するために患者の呼吸信号を分析する工程150をさらに含む。
【0091】
一実施形態によれば、呼吸数は呼吸信号における吸気ピークの検出から計算する。ピーク検出は、振幅閾値を用いる極値検出のための技術を用いて行ってもよい。この技術は、取得サンプルの集合において符号変化を探すことによる呼吸信号における最大値および最小値の検出からなる。取得サンプルは10秒から5分の取得間隔に対応していてもよい。1分の取得間隔での取得サンプルを検討する一例では、極値(最大値および最小値)を取得間隔における呼吸信号の平均値の絶対値における高いものとみなしてもよい。ピークが検出されたら、取得間隔におけるピークの数に基づいて呼吸数を決定する。
【0092】
一例では、CHU Cavale de Brestの内科集中治療室に入院している患者の臨床的データを取得した。その監視は10~20分の期間にわたって行った。従って各患者について、毎分の取得物について換気パラメータを計算した(1人の患者につき10~20回の測定)。
【0093】
呼吸パラメータを測定するための方法100を35人の患者で確認した(そのうちの30人は挿管されており、5人は自発呼吸している)。30人の挿管されている患者については、その結果を臨床システムの測定値(レスピレータ)と比較し、一回換気量の計算では30±19mLの平均差が認められた。呼吸数に関しては、平均差は1.8±1.4cpmである。これらの値は臨床的に許容される限界をはるかに下回っている。
【0094】
レスピレータに接続された模型に対して局所量監視(右および左肺)を試験した。この模型は、空気が右肺(1つの弁が開放されており、他の弁は閉じたままである)のみに吹き込まれることを可能にする非対称動作モードを有する。計算した量をそのセットと比較し、吹き込まれた理論上の量の90%が右肺において検出された。
【0095】
図5および図6は、6人の患者における呼吸数および一回換気量についての箱型図を示す。これらの患者の測定値について得られた平均誤差は、一回換気量の計算では20±9mLであり、呼吸数の計算では1.6±1.1cpmである。
【0096】
本発明はさらに、プログラムがコンピュータによって実行された場合に、コンピュータに上に記載されている実施形態のいずれか1つに係る方法の工程を実行させる命令を含むプログラムに関する。
【0097】
上に記載されている方法を実行するためのコンピュータプログラム製品は、プロセッサまたはコンピュータがハードウェア構成要素によって実行される動作を実行するための機械または専用コンピュータとして動作するように個々にまたはまとめて命令または構成するためのコンピュータプログラム、コードセグメント、命令またはそれらの任意の組み合わせとして記述されていてもよい。一例ではコンピュータプログラム製品は、コンパイラによって生成される機械コードなどのプロセッサまたはコンピュータによって直接実行される機械コードを含む。別の例では、コンピュータプログラム製品は、インタプリタを用いてプロセッサまたはコンピュータによって実行されるより高レベルのコードを含む。当業者のプログラマであれば、図面に示されているブロック図およびフローチャートならびに上に記載されている方法の動作を行うためのアルゴリズムを開示している本明細書中の対応する記載に基づいて、命令またはソフトウェアを容易に記述することができる。
【0098】
本発明はさらに、プログラムがコンピュータによって実行された場合に、コンピュータに上に記載されている実施形態のいずれか1つに係る方法の工程を実行させる命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体に関する。
【0099】
本実施形態の方法を実行するコンピュータプログラムは一般に、限定されるものではないが、SDカード、外部記憶装置、マイクロチップ、フラッシュメモリ装置、携帯可能なハードドライブおよびソフトウェアウェブサイトなどの配布用コンピュータ可読記憶媒体によりユーザに配布することができる。配布媒体から、コンピュータプログラムはハードディスクまたは同様の中間記憶媒体にコピーすることができる。コンピュータプログラムは、コンピュータ命令をそれらの配布媒体またはそれらの中間記憶媒体のいずれかからコンピュータの実行メモリにロードし、コンピュータを本発明の方法に従って動作するように構成することにより実行させることができる。全てのこれらの動作はコンピュータシステムの当業者によく知られている。
【0100】
プロセッサまたはコンピュータをハードウェア構成要素を実行し、かつ上に記載されている方法を実行するように制御するための命令またはソフトウェアならびにあらゆる関連するデータ、データファイルおよびデータ構造は、1つ以上の非一時的コンピュータ可読記憶媒体の中または上に記録、記憶または固定されている。非一時的コンピュータ可読記憶媒体の例としては、リードオンリーメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フラッシュメモリ、CD-ROM、CD-R、CD+R、CD-RW、CD+RW、DVD-ROM、DVD-R、DVD+R、DVD-RW、DVD+RW、DVD-RAM、BD-ROM、BD-R、BD-R LTH、BD-RE、磁気テープ、フロッピーディスク、光磁気データ記憶装置、光データ記憶装置、ハードディスク、ソリッドステートディスク、命令またはソフトウェアならびにあらゆる関連するデータ、データファイルおよびデータ構造を非一時的に記憶し、かつプロセッサまたはコンピュータが命令を実行することができるように、プロセッサまたはコンピュータに命令またはソフトウェアならびにあらゆる関連するデータ、データファイルおよびデータ構造を提供することができる当業者に知られているあらゆる装置を挙げることができる。一例では、命令またはソフトウェアならびにあらゆる関連するデータ、データファイルおよびデータ構造は、命令およびソフトウェアならびにあらゆる関連するデータ、データファイルおよびデータ構造が記憶、アクセスおよび実行されるようにプロセッサまたはコンピュータによって配布される形で、ネットワークに結合されたコンピュータシステムを通して配布される。
【0101】
本発明のさらに別の態様は、対象(特に患者)の呼吸パラメータを測定するためのシステムSに関する。
【0102】
図2に示すように、本発明のシステムは、互いに協働して本発明の方法の工程を実行するように構成されたいくつかのモジュールを備える。
【0103】
一実施形態によれば、本システムはレンジイメージングセンサSriから得られた取得物のセットを受信するように構成された入力モジュールaMを備え、前記取得物のセットは対象の胴体の少なくとも1つの部分を含む少なくとも1つの生画像を含み、ここでは生画像の各点はレンジイメージングセンサSriと対象との間の距離を表す。
【0104】
一実施形態によれば、本システムは、患者の胴体の少なくとも1つの部分を含む少なくとも1つの生画像の取得のためにレンジイメージングセンサSriを制御するように構成された取得モジュールaMを備え、ここでは生画像の各点はレンジイメージングセンサSriと患者との間の距離を表す。
【0105】
本システムは、取得命令の送信のためのレンジイメージングセンサSriと本システムとの物理的接続または無線接続により、画像取得および取得された生画像の受信を制御する通信モジュールを備えていてもよい。
【0106】
一実施形態によれば、本システムはレンジイメージングセンサSriを備える。表面生成モジュールおよび/または計算モジュールを実行するプロセッサは、usb3バスを介してレンジイメージングセンサに接続されていてもよい。
【0107】
好ましい一実施形態では、レンジイメージングセンサSriは飛行時間型カメラである。ToFカメラはパルス変調方式センサを用いるパルス変調方式カメラまたは連続波変調方式センサを用いる連続波変調方式カメラであってもよい。ToFカメラは、場合により回転機構に装着されている単一もしくは複数のレーザービームを2Dアレイ型光検出器および時間-デジタル変換回路と組み合わせて、1Dもしくは2Dアレイの深度値を生成してもよい。ToFカメラはレーザーダイオードまたは異なる波長、特に赤外線または近赤外線のLEDを実装していてもよい。
【0108】
一実施形態によれば、飛行時間型カメラは赤外光照明を使用する。
【0109】
Photonic Mixer Devices(PMD)Technologies社製のCamCube PMD、Microsoft社のSwissRanger4000またはKinect V1センサなどのいくつかのToFカメラが実際に入手可能である。一実施形態によれば、ToFカメラは、複数の変調周波数(10~130MHz)を使用し、そのようにして深度の正確性と位相アンラッピングとの間の優れた妥協点を達成するKinect v2 RGB-Dカメラである。
【0110】
上に説明されているように、好ましい実施形態では、レンジイメージングセンサSriは患者の胸郭の前方に配置され、特に患者の上の天井に固定される。レンジイメージングセンサSriのこの配置により、患者を取り囲む環境内に余分な物体を持ち込むのを回避することができる。これは、障害物を含まない環境が、患者への介入の場合において健康スタッフへの容易なアクセスを可能にするので有利である。
【0111】
一実施形態によれば、本システムは、生画像中の患者の胸郭を飛行時間型カメラのxy平面に位置合わせするために、回転マトリックスを生画像に適用するように構成されたキャリブレーションモジュールを備える。キャリブレーションモジュールは特に、上記実施形態に記載されているキャリブレーション工程に関する本発明の方法の工程を実行するように構成されている。
【0112】
一実施形態によれば、本システムは表面生成モジュールsgMを備える。
【0113】
一実施形態によれば、表面生成モジュールsgMは、シーンの中の他の物体に由来するノイズを除去するために生画像をフィルタリングすることからなる生画像に対する予備動作を行うように構成されている。
【0114】
一実施形態によれば、表面生成モジュールsgMは、生画像の表面補間により患者の胴体の表面の少なくとも1つの部分の表面画像を生成するように構成されている。表面画像は基底スプライン関数を用いて前記モジュールによって得てもよい。表面生成モジュールsgMは特に、上記実施形態に記載されている表面画像生成工程120に関する本発明の方法の工程を実行するように構成されている。
【0115】
一実施形態によれば、本システムは、一回換気量および呼吸数などの胴体呼吸パラメータの表面画像における形態学的変化から計算するように構成された計算モジュールcMを備える。本実施形態では、計算モジュールcMは、所与の時間での表面画像の深度値と参照表面画像の深度値との差の対象の胴体上に定められた所与の関心領域における空間平均として呼吸信号を時間の関数として計算し、かつ関心領域の表面積が掛けられた呼吸信号の1回の呼吸サイクルにおける最大値として一回換気量を計算するように構成されている。
【0116】
計算モジュールcMは特に、上記実施形態に記載されている一回換気量の推定のために工程130および140に関する本発明の方法の工程を実行するように構成されている。
【0117】
一実施形態によれば、計算モジュールcMは、呼吸信号における吸気ピークの検出から計算される呼吸数をさらに計算するように構成されている。計算モジュールcMは特に、本明細書において上に記載されている工程150に関する本方法の実施形態に従って呼吸数を得るための計算動作を実行するように構成されている。
【0118】
一実施形態によれば、本システムは、前記呼吸パラメータを出力として提供するように構成された出力モジュールを備える。前記出力情報は、肺気量、呼吸数および/または一回換気量などの結果を表す視覚的もしくは聴覚的出力として表されてもよい。前記出力モジュールは、本システムに無線接続されているか接続されていないディスプレイまたはマイクロホンであってもよい。
【0119】
一実施形態によれば、本システムは、生画像を受信し、かつ上記実施形態に記載されている動作を実行するように構成された専用回路または汎用コンピュータ装置(すなわちプロセッサ)などのデータ処理システムである。前記コンピュータ装置は、プロセッサおよびコンピュータプログラムを備えていてもよい。データ処理システムとしては、例えば1つ以上のサーバ、マザーボード、処理ノード、パーソナルコンピュータ(携帯可能または携帯不可能)、携帯情報端末、スマートフォン、スマートウォッチ、スマートバンド、セルフォンすなわち携帯電話、少なくともプロセッサおよびメモリを有する他のモバイルデバイス、および/または命令によって少なくとも部分的に制御される1つ以上のプロセッサを提供する1つ以上の他の装置が挙げられる。
【0120】
一実施形態によれば、コンピュータ装置は本発明に係る方法の遠隔実施を可能にするネットワーク接続を備える。
【0121】
一例では入力(すなわち生データ)は、一体化されたプロセッサなどのデータ処理装置に送られ、ここでは信号を処理するためにソフトウェアおよびハードウェアが使用される。
【0122】
出力(呼吸の特徴、警報)はコンピューティングプラットフォームまたはユーザシステム(無線もしくは有線ネットワークを介したコンピュータまたはタブレットコンピュータ)に通信される。
【実施例
【0123】
以下の実施例により本発明をさらに例示する。
【0124】
実施例1:患者シミュレータマネキン
【0125】
材料および方法
100~500mlの量を異なる呼吸数(12~50)で送ることができるレスピレータに接続された患者シミュレータマネキン。このマネキンは2つの動作モード、すなわち空気を両方の肺に同時に移動させることができる対称モードおよび1つの肺のみ(右肺)への空気の移動を可能にする非対称モードを有する。第1のモードを使用してマネキン胴体において呼吸数(RR)および一回換気量(Vt)を評価し、第2の動作モードを使用して局所的な肺の機能を評価した。10分間にわたって計21回のマネキンの記録を分析し、1分ごとの取得物について呼吸測定値を計算した。推定パラメータを参照パラメータ(ベンチレータ設定)と比較した。
【0126】
結果
マネキンの記録を分析することにより得られた結果が図7(a)および(b)に報告されている。それらの散布図および回帰直線は、参照RRと推定RRとの一致の程度を示している。相関係数は低い偏り(0bps)および偏差(±1.86bps)により高い値(r=0.99;p<0.001)を示した。参照RRと推定RRとの平均誤差は1.6±0.9bpsの値を示しており、最小値は0bpsであり、最大値は3bpsに等しい。
【0127】
図8(a)および(b)は、参照一回換気量と推定一回換気量との相関を示している。それらの散布図および線形回帰は、低い偏り(7.90ml)および許容される偏差(±22.03ml)により高い一致(r=0.99;p<0.001)を実証している。平均誤差は18.0±14.5mlの値であり、最小差および最大差はそれぞれ1mlおよび45mlに等しい。
【0128】
空気を右肺のみに通すことができるマネキンの非同期モードを用いた局所量の評価が図9に示されている。ベンチレータ設定は250mlおよび22cpmに設定されている。
【0129】
この換気量-時間曲線は、ベンチレータによって送られる空気が全て右肺によって吸い込まれることを実証している。深度測定値におけるノイズによる僅かな揺らぎが左肺の換気量-時間曲線に現れているが、この信号は極めて低い振幅を有し、かつ明白なパターンは有していない。行われた試験の全ての総量への右胸郭の寄与は87.2%である。
【0130】
実施例2:患者
【0131】
材料および方法
この実施例は、ブレスト(Brest)大学病院のICUに入院している16人の機械的に換気されている患者(男性10人、女性6人)を含む臨床評価に関する。
【0132】
侵襲的換気手順では多くの場合に、患者の安全性を保障し、かつ空気の交換を最適化するために鎮静および麻痺薬を使用する。これは、ベンチレータとの非同期性および気管内チューブへの不耐性を防止するのを助ける。鎮静または意識レベルに従って、患者の自発換気を維持しなくてもよい。よく使用される換気モードは補助-調節呼吸(ACV)であり、1人の患者は患者の自発呼吸を支援および支持する圧支持換気(PSV)モードを有していた。ベンチレータ設定は患者の生理機能および病態に従って定めた。患者の生理学的特性が表1にまとめられている。
【表1】
【0133】
評価段階中に、呼吸パラメータの計算値を本システムを用いて自動的かつ連続的に測定した。各患者について10~20分間の監視期間を考慮して計216回の記録を分析した。RRおよびVtの推定パラメータをベンチレータによって提供される参照値(ゴールドスタンダードとみなされる)と比較した。但し、局所量(Vr)パラメータの参照値はベンチレータによって測定することができないため、入手可能ではない。推定パラメータと参照パラメータとの比較は、ピアソンの分析を用いた直線相関に基づいて行う。ピアソンの相関係数は、対のデータ間の直線関係の強さの統計学的尺度である。それは変数が正規分布され、連続的であり、かつ直線関係を有することを必要とする。データの正規性は、ダゴスティーノ(D’Agostino)およびピアソンのオムニバス正規性検定を使用することにより確認した。
【0134】
さらに、平均誤差(参照値と推定値との平均絶対差±標準偏差(std))を計算して本方法の正確性および信頼性を評価した。
【0135】
最後に、特定の臨床的ICU環境内で姿勢推定アルゴリズムを評価するために、患者の胸郭を検出するためのアルゴリズムの成功/失敗率を測定した。成功/失敗率を測定するための標準的な方法は、総実験数に対して成功/失敗した検出の数を数えることである。
【0136】
結果
計216回のICU患者の記録を分析した。推定RRと参照RRとの一致の程度が図10に報告されている。これらの散布図および線形回帰は、低い偏り(0.39bps)および偏差(±1.7bps)により高い相関(r=0.95;p<0.0001)を示している。
【0137】
RR推定の結果は、84.7%が2bps以下の誤差を有することを示している。測定値の4.1%のみが3bps超の誤差を有する。最小および最大偏差はそれぞれ0および5bpsに等しい。全ての患者の記録に対して計算した平均誤差は1.3±1.1bpsの値を示している。図11に示されている患者集団におけるVt推定は、低い偏り(-5.3ml)および偏差(<±23.7ml)により、参照値(r=0.90;p<0.0001)との強い相関を示している。
【0138】
これらの結果は、推定Vtの69.0%が25ml未満であることを示している。測定値の6.4%のみが35ml超であった。全ての患者の記録について計算した平均誤差は19.6±14.2mlである。
【0139】
測定値の可変性を評価するために、図12および図13は、各患者の記録に対して別々に計算した平均誤差(平均差±標準偏差)を報告している。
【0140】
図12は、各患者のRR推定の平均誤差が3bps未満であることを示している。最小および最大標準偏差はそれぞれ0.4および1.49bpsに等しい。最小誤差および標準偏差は患者1の記録において認められる(1.1±0.4bps)。
【0141】
図13に示されている各患者のVt推定は、各患者について28ml未満の誤差を示している。最小および最大標準偏差はそれぞれ5.0および18.2mlに等しい。最小誤差および標準偏差(8.5±6.3ml)は患者1の記録において認められ、より大きい誤差および標準偏差(26.7±17.2ml)は患者11の記録において認められる。
【0142】
局所監視に関するさらなる結果は以下の図に示されている。但し、局所監視のための臨床的非侵襲的装置が欠如していることによりグラウンドトゥルースが存在しないので、定量的分析を行うことができなかった。2人のICU患者の左および右肺における局所監視の一例が図14に示されている。左肺(黒色の曲線)および右肺(灰色の曲線)における図14(a)の換気量-時間曲線は量分布の良好な一致を明らかにしており、図14(b)は左と右との等しくない量分布を実証している。
【0143】
図15に示されている別の例は、2人のICU患者の胸部および腹部における局所監視を示している。図15(a)では換気量-時間曲線が同期されており、図15(b)は胸郭と腹との非同期運動を示している。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15