(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】有機絶縁体および配線基板
(51)【国際特許分類】
H01B 3/44 20060101AFI20240722BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240722BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240722BHJP
H01B 5/14 20060101ALN20240722BHJP
【FI】
H01B3/44 Z
B32B27/32 E
H05K1/03 610J
H01B5/14 B
(21)【出願番号】P 2022527009
(86)(22)【出願日】2021-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2021019496
(87)【国際公開番号】W WO2021241469
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2020092426
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】主税 智恵
(72)【発明者】
【氏名】長澤 忠
(72)【発明者】
【氏名】芦浦 智士
(72)【発明者】
【氏名】梶田 智
(72)【発明者】
【氏名】藤川 晃次
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-004347(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004223(WO,A1)
【文献】特開2015-206743(JP,A)
【文献】特開2010-100843(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016527(WO,A1)
【文献】特開2018-035257(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142570(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/44
B32B 27/32
H05K 1/03
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂の硬化体であり、
窒素ガス雰囲気下におけるケミルミネッセンス測定によって求められる積算発光量が3.7×10
5cpm以下である、有機絶縁体。
【請求項2】
前記硬化体のガラス転移温度が134℃以上140℃以下である、請求項1に記載の有機絶縁体。
【請求項3】
前記積算発光量が、2.8×10
5cpm以上3.2×10
5cpm以下である、請求項1または2に記載の有機絶縁体。
【請求項4】
絶縁層と該絶縁層の表面に配置された導体層とを具備し、前記絶縁層が請求項1~3のいずれかに記載の有機絶縁体である、配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機絶縁体および配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの高速化や高集積化、メモリーの大容量化などが進み、それに伴って各種電子部品の小型化、軽量化、薄型化などが急速に進んでいる。従来、このような電子部品の分野で使用される配線基板などには、例えば特許文献1に記載のような環状オレフィンコポリマーが絶縁材料として使用されている。このような絶縁材料は、例えば、その表面に銅箔を接着させて高周波用の配線基板として使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【0004】
本開示の有機絶縁体は、環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂の硬化体であり、ケミルミネッセンス測定によって求められる積算発光量が3.7×105cpm以下である。さらに、本開示の配線基板は、絶縁層と絶縁層の表面に配置された導体層とを具備し、絶縁層が上記の有機絶縁体である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】表1における積算発光量とDk変化率の関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
有機絶縁体の表面に銅箔などの金属箔を接着して高周波用の配線基板として適用される場合、通常、誘電特性の経時的安定性および耐熱性が要求される。本開示の有機絶縁体は、環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂の硬化体である。環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂の硬化体のことを、以下、硬化体と表記する場合がある。この硬化体は、ケミルミネッセンス測定によって求められる積算発光量が3.7×105cpm以下である。
【0007】
ここで、単位「cpm」は「count/min」であり、単位時間(1分)当たりに発生する光子の数量に相当する。これにより硬化体が示す誘電特性の経時的な変化率を小さくすることができる。例えば、上記硬化体を100℃以上の温度の環境下に長時間放置したときに誘電正接の変化率を小さくすることができる。この場合、100℃以上の温度とは、110℃以上130℃以下の範囲の温度である。
【0008】
具体的には、硬化体を一定の温度で高温の状態に放置したときの比誘電率(Dk)の変化率(ΔDk)が1%以内、誘電正接(Df)の変化率(ΔDf)が80%以内である。このときの高温放置の条件は、例えば、温度が125℃、放置時間が1000時間である。
【0009】
比誘電率(Dk)の変化率(ΔDk)は、高温放置前の硬化体の比誘電率をDk0、高温放置後の硬化体の比誘電率をDk1としたときに、下記の式(I)によって算出される。ΔDkには、算出した値の絶対値を用いる。
ΔDk(%)=(Dk1-Dk0)×100/Dk0 (I)
【0010】
誘電正接(Df)の変化率(ΔDf)は、高温放置前の硬化体の誘電正接をDf0、高温放置後の硬化体の誘電正接をDf1としたときに、下記の式(II)によって算出される。ΔDfには、算出した値の絶対値を用いる。
ΔDf(%)=(Df1-Df0)×100/Df0 (II)
【0011】
硬化体とは、生の樹脂組成物つまり未硬化状態の樹脂組成物を加熱により硬化させたものである。この場合、加熱とは、加熱と同時に加圧する工程も含むことを意味する。硬化体中には、環状オレフィンコポリマー以外の成分が含まれていてもよい。環状オレフィンコポリマー以外の成分のことを、以下添加剤と記載する場合がある。添加剤の割合としては目安として40体積%以下がよい。上記分析から環状オレフィンコポリマーを主成分とするとは、樹脂の硬化体中に占める環状オレフィンコポリマーに由来する樹脂成分の割合が60体積%以上となる場合とする。添加剤としては、シリカ、アルミナなどの無機フィラー、難燃剤などである。硬化開始剤、酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0012】
添加剤の割合については、有機絶縁体の断面を、例えば、分析装置を備えた走査型電子顕微鏡によって分析したときに、その断面の任意の場所において所定の面積を指定する。その領域における無機フィラーおよび難燃剤の面積を合計した割合から求める。この場合、分析した領域から無機フィラーおよび難燃剤の面積の部分を除いた部分が主成分である環状オレフィンコポリマーが占める領域である。この場合、求めた面積割合を体積割合として表してもよい。
【0013】
硬化体が、硬化開始剤、酸化防止剤を含んでいた場合、これらは環状オレフィンコポリマーを主成分とする樹脂に含まれるようにしてもよい。環状オレフィンコポリマーは、分子内にベンゼン環を有する過酸化物を含んでいてもよい。環状オレフィンコポリマーは、モノマーを含んでいてもよい。環状オレフィンコポリマーとしては、例えば、三井化学(株)製のLCOC-5を好適なものとして例示できる。
【0014】
硬化体のケミルミネッセンス測定によって求められる積算発光量が3.7×105cpm以下という状態は、ケミルミネッセンス測定を行う前の段階において、硬化体の酸化がそれほど進んでいない状態とみることができる。実施形態の硬化体には、以下に示すような初期の酸化という状態が存在していると考えられる。以下では、初期の酸化のことを1次酸化と表記する場合がある。この場合、1次酸化は、環状オレフィンコポリマーを主成分とする生(または未硬化)の樹脂を硬化させたときに起こる酸化のことである。硬化体の一部が酸化する現象は、環状オレフィンコポリマーを主成分とする生の樹脂を重合させて硬化体が形成された後、その硬化体を加圧加熱装置から取り出し、硬化体が空気中に晒されたときに発生すると考えられる。硬化体の中で酸化する部分は、環状オレフィンコポリマーの未反応の部分、重合後に分解した部分の少なくとも一方である。
【0015】
作製された硬化体は、動的粘弾性測定によって求められる貯蔵弾性率が8×107Pa以上であるのがよい。この場合、上記貯蔵弾性率は130℃以下の温度領域における値である。
【0016】
硬化体のガラス転移温度は134℃以上140℃以下であるのがよい。硬化体のガラス転移温度が134℃以上140℃以下であると、硬化体の比誘電率(Dk)の変化率(ΔDk)を0.83%以内にできる。さらに、硬化体の誘電正接(Df)の変化率(ΔDf)を72%以内にできる。
【0017】
実施形態の硬化体が上記のように、硬化体の比誘電率(Dk)の変化率(ΔDk)、硬化体の誘電正接(Df)の変化率(ΔDf)を小さくできるのは、硬化体が示す1次酸化の状態に制限を持たせているからである。硬化体が示す1次酸化の状態を示す指標がケミルミネッセンス測定の積算発光量である。この場合、硬化体の積算発光量としては、2.8×105cpm以上3.2×105cpm以下であるのがよい。硬化体の積算発光量が2.8×105cpm以上3.2×105cpm以下であると、硬化体の比誘電率(Dk)の変化率(ΔDk)を0.72%以内にできる。さらに、硬化体の誘電正接(Df)の変化率(ΔDf)を70%以内にできる。
【0018】
上記硬化体を含む有機絶縁体は、配線基板を構成する絶縁層に好適なものとなる。実施形態の配線基板は、絶縁層と、その絶縁層の表面に配置された導体層とを具備している。この場合、絶縁層が上記した硬化体により構成される有機絶縁体であるのがよい。配線基板を構成する絶縁層が上記硬化体によって構成される有機絶縁体であると、長期の高温放置を伴う条件に対して高い信頼性を有する配線基板を得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本開示の実施形態を具体的に説明するが、本開示の実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1~8で使用した成分は、下記のとおりである。耐熱環状オレフィンコポリマー(耐熱COC(ラジカル重合官能基含む)、三井化学(株)製)100質量部に対して、硬化開始剤(パークミルD、日油(株)製)を1質量部、酸化防止剤(Chimassorb944、BASF社製)を0.3質量部の割合で添加した。得られた混合物40質量%と溶媒60質量%とを混合して、樹脂ワニスを得た。溶媒としては、トルエンとシクロヘキサンとを1:1の質量比で混合した混合溶媒を用いた。
【0021】
次に、バーコーターを用いて、得られた樹脂ワニスをシート状に成形した。得られたシート状の成形体を、30℃で48時間乾燥させた後、140℃で2分の条件で乾燥させて、27μmの厚みを有する有機樹脂フィルムを得た。次に、得られた有機樹脂フィルムを小片に切断して12枚重ね合わせて積層した。得られた積層体の両面に18μmの厚みを有する銅箔(表面粗さ(Ra)=1.7μm)を積層して、未硬化状態の銅張積層板を作製した。
【0022】
次に、作製した未硬化状態の銅張積層板を4MPaの加圧下にて、表1に示す温度条件にて加圧加熱処理を行い、厚みが約0.3mmの銅張積層板を得た。表1では、加圧加熱処理を行うときの以下の条件について、硬化温度を最高温度と表記した。最高温度で保持する時間を保持時間として表記した。
【0023】
次に、作製した有機絶縁体を加工して以下の評価を行った。ケミルミネッセンス測定に用いた試料は、加圧加熱処理を行って作製した銅張積層板を切断して得た有機絶縁体(硬化体)の部分である。試料は高温放置試験(125℃、1000時間)に投入する前の段階の試料である。サイズは40mm×40mm×0.3mmである。ケミルミネッセンス測定は、以下の条件で行った。測定装置としては、Multi-Luminescence-Spectrometer MLA-GOALS(東北電子産業(株)製)を用いた。測定方法にはトータル発光量の経時変化測定を採用した。励起方法は熱励起法を採用した。測定温度は125℃とした。試料台にはステンレス製のシャーレを用いた。雰囲気には窒素ガスを用いた。窒素ガスの流量は50mL/min.とした。ケミルミネッセンス測定の測定時間は30分とした。測定数は各試料1個とした。表1に示した積算発光量の値は指数部をE表記で表した。高温放置試験は、温度を125℃に設定し、1000時間放置する条件を採用した。
【0024】
次に、得られた銅張積層板から銅箔を剥離して、室温(25℃)、79GHzにおける比誘電率(Dk)および誘電正接(Df)を平衡形円板共振器法にて測定した。比誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の測定は、各試料について、1000時間の高温放置試験を行う前と後に測定した。測定数は各試料1個とした。
【0025】
表1では、高温放置試験を行う前を初期と表記し、高温放置試験を行った後を125℃、1000時間後と表記した。比誘電率(Dk)の変化率(ΔDk)は、上述の式(I)によって算出した。誘電正接(Df)の変化率(ΔDf)は、上述の式(II)によって算出した。
【0026】
ガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定のデータにおける損失正接のピークの温度をガラス転移温度(Tg)として表示した。測定数は各試料1個とした。結果を表1に示す。表1における積算発光量とDk変化率の関係をプロットしたグラフを
図1に示した。
【0027】
【0028】
表1および
図1から明らかなように、ケミルミネッセンス測定によって求められる積算発光量が3.7×10
5cpm以下であった試料(試料No.1~7)は、比誘電率(Dk)の変化率(ΔDk)が0.87%以内、誘電正接(Df)の変化率(ΔDf)が78.05%以内であった。これらの試料は、いずれも硬化温度が180℃以下であった。
【0029】
これに対し、硬化温度を230℃とした試料No.8は、ケミルミネッセンス測定によって求められる積算発光量が4.3×105cpmであり、比誘電率(Dk)の変化率(ΔDk)が2.95%、誘電正接(Df)の変化率(ΔDf)が283.33%であった。
【0030】
ガラス転移温度(Tg)が134℃以上140℃以下であった試料(試料No.2~7)は、比誘電率(Dk)の変化率(ΔDk)が0.83%以内、誘電正接(Df)の変化率(ΔDf)が71.76%以内であった。
【0031】
積算発光量が2.8×105cpm以上3.2×105cpm以下であった試料(試料No.3~7)は、比誘電率(Dk)の変化率(ΔDk)が0.72%以内、誘電正接(Df)の変化率(ΔDf)が69.19%以内であった。