(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】シリコンカーボン負極前駆体材料及びシリコンカーボン負極材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20240722BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240722BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20240722BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/36 C
C01B32/05
(21)【出願番号】P 2022562463
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(86)【国際出願番号】 CN2021087244
(87)【国際公開番号】W WO2021208968
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】202010291253.4
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522399998
【氏名又は名称】シャンシー コール ケミカル インダストリー テクノロジー リサーチ インスティテュート カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シーフェン
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ シンロン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン チャンアン
(72)【発明者】
【氏名】シュー シン
(72)【発明者】
【氏名】シュエ メンヤオ
(72)【発明者】
【氏名】ティエン ジャンユエン
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109873146(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110854368(CN,A)
【文献】特表2021-527917(JP,A)
【文献】特開2020-019702(JP,A)
【文献】特開2018-113187(JP,A)
【文献】特表2021-536102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01B 32/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンカーボン負極前駆体材料であって、前
記シリコンカーボン負極前駆体材料はナノシリコンとカーボン材料を複合してなり、前
記シリコンカーボン負極前駆体材料の顆粒は1つ又は複数の凹んだ曲面を有し、曲面を構成する曲線のうち少なくとも1つの曲線は、焦点が顆粒の外部にある放物線である、ことを特徴とす
るシリコンカーボン負極前駆体材料。
【請求項2】
前記シリコンカーボン負極前駆体材料中の
前記ナノシリコンの含有量は25.0wt.%~85.0wt.%である、ことを特徴とする請求項1に記載
のシリコンカーボン負極前駆体材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の
前記シリコンカーボン負極前駆体材料を用い
るシリコンカーボン負極材料であって、前記シリコンカーボン負極前駆体材料はカーボン
で被
覆され、且つ前
記シリコンカーボン負極材料の顆粒は1つ又は複数の凹んだ曲面を有し、曲面を構成する曲線のうち少なくとも1つの曲線は、焦点が顆粒の外部にある放物線である、ことを特徴とす
るシリコンカーボン負極材料
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池の技術分野に属し、具体的には高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料及びその製造方法並びに製造された高圧密シリコンカーボン負極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン材料は超高理論比容量(Li22Si5、4200mAh/g)、豊富な貯蔵量及び安価なコスト等の利点を有し、現在リチウムイオン電池用電極材料開発の重点及びホットスポットとなる。しかし、シリコン材料は、充放電プロセスにおいて巨大な体積膨張(300%に達する)が伴い、シリコン顆粒の破裂又は粉化を引き起こしやすく、電気的接触が失効し、電池性能が急速に低下することで、シリコン負極材料の産業化への路を深刻に制約する。シリコン負極の体積膨張を抑制及び緩和するために、主にシリコンのナノメーター(以下ナノと称する)化や、構造が粗めで多孔質であり、且つ顆粒分散が良好なシリコンカーボンコンポジット(複合)材料の構築により改善する。シリコンカーボンコンポジット材料中に、カーボン材料はナノシリコンの凝集を抑制しシリコンの体積膨張を緩和することができ、また、カーボン材料の良好な導電性はシリコンの体積膨張後の電気的接触を効果的に向上させ、それにより材料の電気化学性能を効果的に向上させる。しかし現在の多孔質シリコンカーボン負極材料の嵩密度と圧密密度が低く、単位面積当たりの容量の高い電池電極シート(electrode sheet)を取得することに不利であり、また後続で電極シートに対してローラープレス(rolling)処理を行う時、多孔質構造が破損しやすく、比表面積が激しく増大し、電気化学性能の減衰が深刻であり、リチウムイオン電池の利用の商業化の需要を満たすことが困難である。そのため高い圧密密度を有する高性能シリコンカーボンコンポジット材料を開発する必要がある。
【0003】
特許文献1(CN105932245B)は高い圧密密度のシリコンカーボン負極材料を提供し、当該発明は、粒径が200nmより小さく且つ表面に一層の均一な被覆層を有するナノシリコンを多孔質シリコンカーボンボールの内部に均一に分散させるものであり、シリコンカーボンコンポジット材料は多孔質の球形構造である。特許文献2(CN109360946B)は高い圧密密度のシリコンカーボン負極材料の製造方法を提供し、具体的には複数回の混合被覆プロセスによって表面においてのカーボン被覆の不均一及び不完全の問題を解決し、シリコンカーボン負極の圧密密度の向上が困難であるという難題を解決する。現在開発されたシリコンカーボンコンポジット材料はいずれもコア層と被覆層からなる顆粒と定義することができ、コア層はナノシリコンとカーボンが均一に分散する複合材料であり、すなわちシリコンカーボン負極の前駆体材料であり、後続の被覆プロセスによって比較的低い比表面積が得られ、それにより商業利用可能なシリコンカーボンコンポジット負極材料が製造される。上記特許文献にはナノシリコンとカーボンの分散及び複合を最適化する以外に、材料の圧密密度を向上させるための作業は被覆層の最適化プロセスに集中し、当該方法による被覆層はコア層に対して構造補強作用を有するが、ある程度だけで製品材料の機械的性能を向上させ、コア層材料の機械的性能を本質的に向上させないため、より高い圧密密度の電極シートの製造プロセスでは、コア層は被覆層から伝達された強い圧力を受けにくい場合、構造破損ひいては崩壊が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国特許第105932245号明細書
【文献】中国特許第109360946号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術における電池電極シートの製造プロセスのローラープレス工程において、シリコンカーボン材料は顆粒破損、複合構造崩壊が発生しやすいという問題に対して、本発明は、略くら型曲面構造を有する高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料及びその製造方法並びに製造されたシリコンカーボン負極材料を提供し、当該前駆体材料は、高い機械的強度と高い圧密密度(compaction density)を有し、電池の循環性能とエネルギー密度の向上に寄与する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の技術的解決手段により実現される。
高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料であって、前記高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料はナノシリコンとカーボン材料を複合してなり、前記高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料の顆粒は1つ又は複数の凹んだ曲面を有し、曲面を構成する曲線のうち少なくとも1つの曲線は、焦点が顆粒の外部にある放物線である。
【0007】
好ましくは、高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料におけるナノシリコンの含有量は25.0wt.%~85.0wt.%である。
【0008】
高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料の製造方法であって、
ナノシリコンとカーボン源を溶媒中に分散させ、均一に撹拌して懸濁液を製造するステップであって、ナノシリコンの粒径は50~200nmであり、ナノシリコン中の酸素の含有量は8.0wt.%~25.0wt.%であるステップ1と、
懸濁液を噴霧造粒するステップであって、噴霧入口温度は150~190℃であり、出口温度は75~100℃であるステップ2と、
噴霧造粒後のサンプルを不活性ガス雰囲気で焼成し、高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料を製造するステップ3と、を含む。
【0009】
好ましくは、ステップ1では、カーボン源は澱粉、クエン酸、フェノール樹脂、アスファルト及びポリビニルピロリドンのうちの一種又はそれらの組み合わせである。
【0010】
好ましくは、カーボン源はグラファイト及び/又はカーボン繊維をさらに含む。
【0011】
好ましくは、ステップ1では、溶媒は水、エタノール、テトラヒドロフラン及びイソプロピルアルコールのうちの一種又はそれらの組み合わせである。
【0012】
好ましくは、撹拌時間は0.1~3.0hである。
【0013】
好ましくは、ステップ3では、焼成温度は600~1100℃であり、焼成時間は2.0~8.0hである。
【0014】
高圧密シリコンカーボン負極材料は、前記高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料を用い、カーボン被覆(coating)プロセスを経て製造され、且つ前記高圧密シリコンカーボン負極材料の顆粒は1つ又は複数の凹んだ曲面を有し、曲面を構成する曲線のうち少なくとも1つの曲線は、焦点が顆粒の外部にある放物線である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は主に材料顆粒の外形設計から材料の機械的性能及び圧密密度を向上させる。構造力学の観点から言えば、本発明におけるシリコンカーボン負極前駆体材料は、焦点が顆粒の外部にある放物線で構成された凹んだ曲面を有し、このような顆粒形状は双曲放物面と同じ効果を有し、顆粒に先天的な超高機械的強度を取得させる。
図1に示すように、双曲放物面は開口が上向きの2本の放物線を有し、形状が鞍に類似するため、くら型曲面とも呼ばれ、このような形状の曲面は物理的構造上、高い安定性及び耐荷重性を有する。引っ張りに耐えるだけでなく、さらに押圧に耐えることができ、圧力と引張力との間に巧妙なバランスを形成し、構造用材が薄くても、構造が非常に安定的である。このような構造は建築学の分野で広く用いられており、例えばサン・ビセンテ・デ・パウル礼拝堂、カナダのスコシアバンク・サドルドーム、ロス・マナティアレス・レストラン、2012ロンドンオリンピックのロンドン・ヴェロパークなどが挙げられる。開口が上向きの放物線が1本のみあり、もう1本が直線となる曲面構造であっても耐荷重性に優れている。過負荷の応力により、クラックは中間の応力線方向にのみ現れ、他の方向へ延ばすことはない。このような開口が上向きの放物面構造の優位性に基づき、本発明は略くら型曲面形状を有する高圧密シリコンカーボン前駆体材料を製造する。本発明の高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料は機械的強度が高く、ローラープレス後にも顆粒構造が完全に保持され、高い圧密密度の電極シートを取得することができる。
【0016】
略くら型曲面形状の顆粒の製造には2つの技術的要点がある。1)ナノシリコン顆粒は粒径が50~200nmであり、比較的良好な分散性と流動性を有し、2)例えば澱粉、クエン酸、フェノール樹脂、アスファルト及びポリビニルピロリドン等、「噴霧乾燥」(瞬間高温)段階で比較的高い粘度及び撓み特性を有するカーボン源を選択し、ナノシリコン及びカーボン源で構成される球状液滴は毛細管メカニズムの作用で円滑に「成形」することができ、顆粒が凹んだ曲面の外形を形成することを促進する。このような曲面構造のため、顆粒の機械的強度が高くなり、これにより、材料は電極シートにおいて高い圧密密度を得ることができる。本発明により提供される合成方法は簡単且つ高効率で、規模化生産を実現しやすいという利点を有し、応用の将来性が広い。略くら型曲面形状の顆粒の外部形状設計に加え、材料の機械的性能及び圧密密度を向上させるように、本発明の方法はさらに顆粒の内部構造を最適化して設計する。主にナノシリコンとカーボンが均一に分散し、緊密に複合する構造を製造することにより、顆粒内部構造の機械的性能の向上を実現する。プロセス及び技術の観点から言えば、1)噴霧乾燥プロセスにより実現し、具体的には液滴形態でシリコンとカーボン源の均一分散&瞬間乾燥を実現するという方式によりシリコンとカーボン源の緊密複合を実現し、2)酸素の含有量が8~25wt.%のシリコンを選択し、この酸素の含有量では、ナノシリコン表面の酸化層は化学結合の作用により、シリコンとカーボン源との間の複合を効果的に補強することができ、また高すぎる酸素の含有量では酸化層物質(SiOx)によりシリコンカーボン前駆体材料の初回効率が低すぎるという影響を低減させる。
【0017】
本発明の高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料を用いて製造されたシリコンカーボン負極材料は、機械的強度が高く、比較により、その機械的強度が、非略くら型曲面形状の顆粒を用いて製造されたシリコンカーボン負極材料の機械的強度より強いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】双曲放物面(「くら型曲面」)の概略図である。
【
図2】実施例1におけるシリコンカーボン前駆体材料の電子顕微鏡写真であり、(a)は原始顆粒であり、(b)は120MPaの打錠後の顆粒である。
【
図3】実施例2における材料の電子顕微鏡写真であり、(a)はシリコンカーボン前駆体材料であり、(b)は圧密密度が1.65g/cm
3のシリコンカーボン前駆体材料の電極シートであり、(c)はシリコンカーボン負極材料であり、(d)は圧密密度が1.70g/cm
3のシリコンカーボン負極材料の電極シートである。
【
図4】実施例2におけるシリコンカーボン前駆体材料の初回充放電曲線である。
【
図5】実施例3におけるシリコンカーボン前駆体材料の電子顕微鏡写真であり、(a)は原始顆粒であり、(b)は60MPaの打錠後の顆粒である。
【
図6】実施例4におけるシリコンカーボン前駆体材料の走査型電子顕微鏡写真であり、(a)は原始顆粒であり、(b)は120MPaの打錠後の顆粒である。
【
図7】比較例における材料の電子顕微鏡写真であり、(a)はシリコンカーボン前駆体材料顆粒であり、(b)は120MPaの打錠後のシリコンカーボン前駆体材料顆粒であり、(c)は圧密密度が1.65g/cm
3のシリコンカーボン負極材料の電極シートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下は具体的な実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明し、説明の内容は本発明を限定するものではなく、説明するためのものである。
【0020】
本発明では、シリコンカーボン負極前駆体材料(すなわち、コア層)の機械的強度及び圧密密度を向上させることは高い圧密密度のシリコンカーボンコンポジット負極材料を製造するキーであると考える。高圧密のシリコンカーボン前駆体材料の製造には、ナノシリコン、カーボンの良好な分散及び複合を実現する上で、前駆体材料の顆粒形状も圧密密度に影響を与えるキー要素である。
【0021】
本発明は、くら型曲面に類似する形状を有する高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料及びその製造方法を提供し、顆粒の内部及び顆粒の外部形状という2つの面から材料の機械的性能及び圧密密度をそれぞれ向上させる。一面では、噴霧乾燥プロセスにより、ナノシリコンとカーボンの均一分散及び緊密複合を実現し、他面では、ナノシリコンの粒径及び酸素の含有量を合理的に制御し、熱可塑性に優れたカーボン源を優先的に選択することにより、高い機械的強度を有する曲面の顆粒を製造し、それにより、材料は電極シートにおいて高い圧密密度を取得することができる。
【0022】
具体的には以下のとおりであり、
本発明に記載の高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料の製造方法は、
ナノシリコンとカーボン源を溶媒中に分散させ、均一に撹拌して懸濁液を製造するステップであって、撹拌時間は0.1~3.0hであり、好ましくは0.5~1.0hであるステップ1と、
遠心式又は二流体式の噴霧乾燥機器を用いて、製造した懸濁液を造粒するステップであって、噴霧入口温度は150~190℃であり、出口温度は75~100℃であるステップ2と、
噴霧乾燥後のサンプルを不活性ガス雰囲気で焼成(calcination)し、焼成温度を600~1100℃、焼成時間を2.0~8.0hとし、高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料を製造するステップ3と、を含む。
【0023】
ステップ1では、ナノシリコンの粒径は50~200nmであり、酸素の含有量は8.0wt.%~25.0wt.%である。カーボン源は澱粉、クエン酸、フェノール樹脂、アスファルト及びポリビニルピロリドンのうちの一種又はそれらの組み合わせであってもよく、さらにグラファイト及び/又はカーボン繊維を含んでもよい。溶媒は水、エタノール、テトラヒドロフラン及びイソプロピルアルコールのうちの一種又はそれらの組み合わせである。
【0024】
ステップ3では、不活性ガスは窒素、アルゴンのうちの一種又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0025】
上記方法によって得られた高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料は、ナノシリコン、カーボンという2種類の成分が均一に分散し且つ緊密に複合してなり、前駆体材料の顆粒は1つ又は複数の凹んだ曲面を有し、曲面を構成する曲線のうち少なくとも1つは、焦点が顆粒の外部にある放物線であり、前駆体材料におけるナノシリコンの含有量は25.0wt.%~85.0wt.%であり、カーボンはグラファイト&熱分解カーボン、カーボン繊維&熱分解カーボン又は熱分解カーボンであってもよい。
【0026】
前記高圧密シリコンカーボン負極前駆体材料を、後続の被覆プロセスによって処理した後、シリコンカーボン負極材料を得、商業化リチウムイオン電池に用いることができる。
【0027】
(実施例1)
S1において、粒径が200nmであり且つ酸素の含有量が15%のナノシリコン70g、グラファイト20g、アスファルト10g及びクエン酸5gをエタノール中に分散させ、均一に撹拌して懸濁液を製造し、撹拌時間を0.5hとした。
S2において、遠心式の噴霧乾燥機器を用いて、製造した懸濁液を造粒し、噴霧入口温度を175℃、出口温度を80℃とした。
S3において、噴霧乾燥後のサンプルを窒素雰囲気で焼成し、焼成温度を1100℃、焼成時間を2.0hとし、シリコンカーボン負極前駆体材料を製造し、TG及びCHONS試験の結果により、当該材料中のナノシリコンの含有量が75.0%であることが示された。
【0028】
図2(a)から明らかなように、当該実施例で製造された顆粒は、曲面構造を有し、且つ曲面を構成する放物線の焦点が顆粒外部にある。粉末打錠機を用いて当該材料に120MPaの圧力を印加する時、
図2(b)に示すように、多数の顆粒構造が完全に保持され、少数の顆粒だけに構造破損が発生する。
【0029】
(実施例2)
S1において、粒径が100nmであり且つ酸素の含有量が25%のナノシリコン80g及びフェノール樹脂35g、アスファルト10gをエタノールとイソプロピルアルコールとの混合溶媒中に分散させ、均一に撹拌して懸濁液を製造し、撹拌時間を0.5hとした。
S2において、二流体式の噴霧乾燥機器を用いて、製造した懸濁液を造粒し、噴霧入口温度を190℃、出口温度を75℃とした。
S3において、噴霧乾燥後のサンプルを窒素雰囲気で焼成し、焼成温度を900℃、焼成時間を5.0hとし、シリコンカーボン負極前駆体材料を製造した。
【0030】
図3(a)に示すように、当該実施例で製造された材料は凹んだ椀状外形を呈し、曲面構造が良好である。当該シリコンカーボン負極前駆体材料と、グラファイトG1、導電性カーボンブラックSP、CMC、SBRとを9:91:2:2:4の質量比で、脱イオン水中で激しく撹拌して、均一に混合したスラリーを製造し、その後スラリーを銅箔集電体に均一に塗布し、80℃でオーブンにおいて10hベークして電極シートを得た。
図3(b)に示すように、電極シートは1.65g/cm
3の圧密密度でローラープレスされた後、顆粒構造が依然として完全に保持される。
【0031】
実施例2により製造された高圧密シリコンカーボン前駆体材料をアスファルトと90:10の質量比で混合した後、窒素雰囲気で高温処理を行い、具体的には600℃で3h保温し、900℃で2h保温し、アスファルト熱分解カーボン被覆層を有するシリコンカーボン負極材料を製造した。
図3(c)に示すように、シリコンカーボン負極材料はシリコンカーボン前駆体材料の略くら型曲面の外形特徴を保持する。シリコンカーボン前駆体と同じ方法により電極シートが製造され、
図3(d)に示すように、シリコンカーボン負極材料の電極シートは1.70g/cm
3の圧密密度でローラープレスされた後、顆粒構造が依然として完全に保持される。高圧密シリコンカーボン前駆体材料が熱分解カーボンで被覆された後、電極シートの圧密密度はある程度で向上し、これは従来の被覆層設計による材料の圧密密度に対する向上効果と一致する。
【0032】
シリコンカーボン負極前駆体材料、導電性カーボンブラックSP、CMC、SBRを90:2:2:4の質量比で、脱イオン水中で激しく撹拌して、均一に混合したスラリーを製造し、その後スラリーを銅箔集電体に均一に塗布し、80℃でオーブンにおいて10hベークし、直径10mmの円形電極シートに裁断した。金属リチウムシートを正極とし、PP/PE/PP微多孔膜(Celgard 2400)をセパレーターとし、1.15mol/LのLiPF
6(溶媒は体積比が1:1:1のエチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、ジエチルカーボネートとの混合液である)を電解液とし、アルゴンで保護されたグローブボックスにおいてボタン電池を組み立て、充放電試験を行った。
図4に示すように、当該シリコンカーボン負極前駆体材料の初回充電比容量は1785.2mAh/gに達することができ、初回効率は82.3%に達することができ、TG及びCHONSにより、材料中のナノシリコンの含有量は85.0wt.%であり、ナノシリコン容量は2100mAh/gに近く発揮することが示される。
【0033】
(実施例3)
S1において、粒径が50nmであり且つ酸素の含有量が8%のナノシリコン30g、グラファイト70g及びフェノール樹脂45gをテトラヒドロフランに分散させ、0.5h撹拌して均一な懸濁液を製造した。
S2において、遠心式の噴霧乾燥機器を用いて、製造した懸濁液を造粒し、噴霧入口温度を180℃、出口温度を85℃とした。
S3において、噴霧乾燥後のサンプルを窒素/アルゴン体積比8:1の雰囲気で焼成し、焼成温度を600℃、焼成時間を8.0hとし、シリコンカーボン負極前駆体材料を製造した。
【0034】
TG及びCHONSの試験結果により、当該材料中のシリコンの含有量が25.0%であることが示される。
図5(a)に示すように、当該材料は同様に凹んだ曲面構造を有し、
図5(b)に示す60MPaの圧力で、顆粒構造は完全に保持される。
【0035】
(実施例4)
S1において、粒径が100nmであり且つ酸素の含有量が15%のナノシリコン50g、カーボン繊維5g、澱粉10g及びポリビニルピロリドン(PVP k30)40gをテトラヒドロフラン内に分散させ、均一に撹拌して懸濁液を製造し、撹拌時間を0.6hとした。
S2において、遠心式の噴霧乾燥機器を用いて、製造した懸濁液を造粒し、噴霧入口温度を190℃、出口温度を75℃とした。
S3において、噴霧乾燥後のサンプルをアルゴン雰囲気で焼成し、焼成温度を900℃、焼成時間を4.0hとし、シリコンカーボン負極前駆体材料を製造した。
【0036】
図6(a)に示すように、当該材料は複数の曲面構造を有する。
図6(b)に示すように当該材料は120MPaの圧力で顆粒が依然として良好な構造完全性を有する。
【0037】
(比較例)
用いるナノシリコン酸素の含有量が5%である以外、他のプロセス条件は実施例2と同じである。酸素の含有量が5%のナノシリコンを用いて製造されたシリコンカーボン負極前駆体材料の電子顕微鏡写真は
図7(a)に示すとおりであり、材料は球状顆粒である。
図7(b)に示すように、当該材料は120MPaの圧力で全顆粒に深刻な顆粒破損が発生する。これから分かるように、ナノシリコン中の酸素の異なる含有量により、顆粒形状が異なっており、さらに材料の機械的強度に影響を与える。曲面構造を有する顆粒は、より高い機械的強度を有する。
【0038】
実施例2と同じ方式により、比較例で製造されたシリコンカーボン負極前駆体材料をアスファルトと混合し、シリコンカーボン負極材料を製造し、グラファイG1と配合してシリコンカーボン負極材料を製造した。
図7(c)に示すように、アスファルト被覆層を有する球状シリコンカーボン負極材料は、1.65g/cm
3の電極シートの圧密密度で顆粒が深刻に破損した。これから分かるように、高い機械的強度を有するシリコンカーボン負極前駆体材料はシリコンカーボン負極材料の電極シートの圧密密度を向上させるために非常に重要である。