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特許7524354耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240722BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240722BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240722BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20240722BHJP
   B22D 11/20 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/38
C21D9/46 H
B22D11/00 A
B22D11/20 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022572382
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 CN2021095802
(87)【国際公開番号】W WO2021238915
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】202010459228.2
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 偉
(72)【発明者】
【氏名】朱 暁 東
(72)【発明者】
【氏名】薛 鵬
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-156734(JP,A)
【文献】特開2010-180462(JP,A)
【文献】特開2004-323958(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013145(WO,A1)
【文献】特開2009-019258(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110331341(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 9/46
B22D 11/00
B22D 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼であって、前記超高張力二相鋼はフェライト+焼き戻しマルテンサイトの基体組織を有し、前記耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼の化学元素が以下の質量パーセントを有する
C:0.07-0.1%、Si:0.05-0.3%、Mn:2.0-2.6%、Cr:0.2-0.6%、Mo:0.1-0.25%、Al:0.02-0.05%、Nb:0.02-0.04%、V:0.06-0.2%、任意にB:0.0015-0.003%、残りがFeおよびその他の避けれない不純物である。
【請求項2】
避けれない不純物は、P、SとNを含み、その含有量が、以下の各項の少なくとも一つとする、請求項に記載の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼:P≦0.012%、S≦0.003%、N≦0.005%。
【請求項3】
前記焼き戻しマルテンサイトの相比>50%、請求項1に記載の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼。
【請求項4】
前記基体組織中に、微細且つ拡散した炭化物ペレットが析出し、前記炭化物ペレットは、MoC、VC、Nb(C,N)を含み、前記炭化物ペレットはいずれもコヒーレントな形式で基体組織中に分布する、請求項1に記載の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼。
【請求項5】
前記炭化物ペレットのサイズ≦60nm、請求項に記載の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼。
【請求項6】
前記焼き戻しマルテンサイトは、コヒーレント分布したε炭化物をさらに含有する、請求項1に記載の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼。
【請求項7】
その性能が、以下の各項の少なくとも一つを満たす、請求項1に記載の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼:降伏強度≧550MPa、引張強度≧980MPa、破断伸び率≧12%、初期水素含有量≦3ppm、プレストレスが引張強度の0.6倍以上1.2倍以下である場合において、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しない。
【請求項8】
以下のステップを含む、請求項1-のいずれ1項に記載の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼の製造方法:
(1)製錬および連続鋳造;
(2)熱間圧延;
(3)冷間圧延;
(4)焼鈍:3-10℃/sの加熱速度で昇温し、焼鈍均熱温度を780~820℃とし、焼鈍時間を40~200sとし、そして30~80℃/sの速度で急速に冷却し、急速冷却の開始温度を650~730℃とする;
(5)焼き戻し:焼き戻し温度を200~280℃とし、焼き戻し時間を100~400sとする;
(6)テンパー;
(7)電気めっき。
【請求項9】
ステップ(1)では、連続鋳造過程において、連続鋳造の引張速度を0.9-1.5m/minとする、請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
ステップ(2)では、鋳造スラブを1200~1260℃の温度で均熱する;そして圧延を行い、仕上げ圧延温度を840~900℃とし、圧延の後に20~70℃/sの速度で冷却する;そして卷取を行い、卷取温度を580~630℃とし、卷取の後に保温処理を行う、請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
ステップ(3)では、冷間圧延圧下率を45~65%とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項12】
ステップ(6)では、テンパー圧下率≦0.3%とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項13】
ステップ(2)では、鋳造スラブを1210~1245℃の温度で均熱する;ステップ(4)では、3~10℃/sの加熱速度で、焼鈍均熱温度790~810℃まで昇温し、焼鈍時間を40~160sとし、そして35~80℃/sの速度で急速に冷却し、急速冷却の開始温度を650~730℃とする;ステップ(5)では、焼き戻し温度を210~270℃とし、焼き戻し時間を120~300sとする、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料およびその製造方法、特に亜鉛電気めっき超高張力二相鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車工業において、自動車の軽量化や安全性への需要から、より高い強度を有する鋼板への需求量が増えている。二相鋼は、低い降伏強度、高い引張強度および高い初期加工硬化速度などの優れた性能を有し、自動車部品の生産において広く利用されている。現在、市販で求められる強度レベルは主に80キロや100キロ級であり、耐食性への要求から、現在の自動車工業では亜鉛めっき鋼板が多く使用されるが、この鋼板は通常遅れ破壊の問題が存在する。
【0003】
遅れ破壊とは、一定の時間で静的応力を受けた材料において、突然的に脆性破壊が発生する現象である。この現象は、材料と環境応力の相互作用によって発生する脆化であり、水素による材質劣化のある形態である。遅れ破壊現象は、超高張力鋼の応用を支障する主要な要素であり、大まかに以下の二種類に分類される:
(1)主に外部環境から侵入した水素(外部水素)による遅れ破壊。例えば、橋梁などに使用されるボルトが、湿り空気や雨水などの環境に長期的にさらされることで発生する遅れ破壊。
【0004】
(2)酸洗いや電気めっき処理などの製造過程で鋼中に侵入する水素(内部水素)による遅れ破壊。例えば、電気めっきボルトなどが、数時間または数日の短い時間で負荷を受けた後に発生する遅れ破壊。
【0005】
前者は通常、長期的な露出過程で発生する腐食や、腐食穴での腐食反応で生成する水素の侵入によるものである;後者は、例えば酸洗い、電気めっき処理などの製造過程時に鋼中に侵入する水素が、応力作用により応力が集中するところへの集中によるものである。
【0006】
中国特許文献(特許公開CN107148486B、開示日2019年1月8日、題名「高強度鋼板、高強度亜鉛熱めっき鋼板、高強度アルミニウム熱めっき鋼板および高強度亜鉛電気めっき鋼板、およびそれらの製造方法」)は、C:0.030%以上且つ0.250%以下、Si:0.01%以上且つ3.00%以下、Mn:2.60%以上且つ4.20%以下、P:0.001%以上且つ0.100%以下、S:0.0001%以上且つ0.0200%以下、N:0.0005%以上且つ0.0100%以下およびTi:0.005%以上且つ0.200%以下、残りがFeおよび避けなれない不純物からなる化学成分を有する、亜鉛電気めっき高張力鋼の製造方法を開示した。この鋼スラグは、1100℃以上且つ1300℃以下に加熱し、750℃以上且つ1000℃以下である仕上げ圧延出口側の温度下で熱間圧延を行い、300℃以上且つ750℃以下で卷取を行う。次に、酸洗いによって酸化皮膜を除去し、Ac1相転移点+20℃以上且つAc1相転移点+120℃以下の温度範囲内で600秒以上且つ21600秒以下保持し、30%以上の圧下率で冷間圧延を行う。そして、Ac1相転移点以上且つAc1相転移点+100℃以下の温度範囲内で20秒以上900秒以下保持し、冷却を行う。次に、亜鉛電気めっき処理を実施する。
【0007】
中国特許文献(特許公開CN106282790B、開示日2018年4月3日、題名「亜鉛電気めっき用超深絞り冷間圧延鋼板およびその生産方法」)は、C≦0.002%、Si≦0.030%、Mn:0.06%~0.15%、P≦0.015%、S≦0.010%、Als:0.030%~0.050%、Ti:0.040~0.070%、N≦0.0040%、残りがFeおよび避けなれない不純物からなる化学成分を有する、亜鉛電気めっき用超深絞り冷間圧延鋼板の製造方法を開示した。上記冷間圧延鋼板の生産方法は、以下のステップを含む:(1)溶鉄の前処理を行う;(2)転炉で製錬する;(3)合金を微調整する;(4)RH炉で精製する;(5)連続鋳造を行う;(6)熱間圧延を行う;(7)冷間圧延を行う;(8)連続焼鈍を行う;(9)テンパーを行う;本発明は、亜鉛電気めっき鋼板の表面品質を高め、亜鉛電気めっき鋼板に良好な板形を与えることができる。上記冷間圧延鋼板の力学性能は:降伏強度が120~180MPaであり、引張強度が260MPaを超えている。
【0008】
中国特許文献(特許公開CN1419607A、開示日2003年5月21日、題名「高強度二相薄鋼板と高強度二相電気めっき薄鋼板およびその製造方法」)は、0.01~0.08%C、2%以下のSi、3.0%以下のMn、0.01~0.5%V、VとCが0.5×C/12≦V/51≦3×C/12を満たし、残りがFeおよび避けなれない不純物からなる化学成分を有する、引張強度600~650MPa級の二相鋼板および製造方法を開示した。この鋼板は、1250℃に加熱し、均熱を行い、そして900℃の仕上げ圧延器輸送温度で三パスで圧延し、その後650℃×1時間の保温処理を行う。次に、70℃/sの圧縮率で薄鋼板に対し冷間圧延を行い、厚さ1.2mmの冷間圧延薄鋼板を得る。次に、850℃下で再結晶焼鈍を60秒行い、30℃/sの冷却速度で冷却した後に、電気めっき処理を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、上述の従来特許文献による製品では、引張強度レベルがいずれも980MPa未満であり、もしくは基体が熱プレス鋼である。そのため、工業上の要求を満たすために、耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つの目的は、耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼の提供である。遅れ破壊が発生しやすいという超高張力鋼の特徴に対し、本発明の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼は、合理的な成分設計を採用する。炭素、ケイ素、マンガンおよびニオブ、バナジウム、クロム、モリブデンなどのマイクロアロイの合理的な設計およびプロセス配合により、得られる鋼が優れた耐遅れ破壊性および超高強度を有する。この耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼は、降伏強度≧550MPa、引張強度≧980MPa、破断伸び率≧12%、初期水素含有量≦3ppm、好ましくは≦2ppmであり、プレストレスが引張強度の1.0倍以上である場合において、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しない。好ましい実施形態において、この耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼は、プレストレスが引張強度の1.2倍である場合において、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しない。本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼は優れた性能を有するため、工業上での要求を満たし、自動車安全構造部品の製造などに適用し、良好な汎用価値および展望がある。
【0011】
上記の目的を実現するために、本発明は、耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼であって、その基体組織がフェライト+焼き戻しマルテンサイトであり、Feに加え、以下の質量パーセントで下記の化学元素を有する、耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼を提供する:
C:0.07-0.1%、Si:0.05-0.3%、Mn:2.0-2.6%、Cr:0.2-0.6%、Mo:0.1-0.25%、Al:0.02-0.05%、Nb:0.02-0.04%、V:0.06-0.2%。
【0012】
さらに、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、その各化学元素の質量パーセントは:
C:0.07-0.1%、Si:0.05-0.3%、Mn:2.0-2.6%、Cr:0.2-0.6%、Mo:0.1-0.25%、Al:0.02-0.05%、Nb:0.02-0.04%、V:0.06-0.2%、残りがFeおよびその他の避けなれない不純物である。
【0013】
本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、各化学元素の設計原理は以下の通りであう:
C:本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Cは固溶強化元素であり、材料の高強度の基礎である。ただし、注意しなければならないが、鋼中にC含有量が高いほど、マルテンサイトが硬くなり、遅れ破壊の発生傾向が大きくなる。そのため、製品設計時に、できるだけ低炭素の設計にすべく、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Cの質量パーセントを0.07-0.1%とする。
【0014】
SiとAl:本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、SiとAlは、マルテンサイトの耐焼き戻し性能を高めることができ、FeCの析出および成長を抑制し、焼き戻し時に形成する主な析出物をε炭化物にすることができる。また、説明しなければならないが、Alはさらに脱酸素元素であり、鋼中で脱酸素の効果を有する。したがって、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Siの質量パーセントを0.05-0.3%とし、Alの質量パーセントを0.02-0.05%とする。
【0015】
Mn:本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Mnはオーステナイトの焼入れ性を強烈に高める元素であり、より多くのマルテンサイトを形成することによって、鋼の強度を有効に高めることができる。したがって、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Mnの質量パーセントを2.0-2.6%とする。
【0016】
Cr:本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Crはマルテンサイトの耐焼き戻し能力を有効に高めることができるため、遅れ破壊の改善には十分有益である。本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Crの質量パーセントを0.2-0.6%とする。
【0017】
Mo:本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、適量のMoの添加は、拡散分布の微細析出物の形成に有利であり、分散水素の集まりに有利である。Moは鋼中で大量のMoC析出物を形成できるため、部分領域における分散水素の集まりに有利であり、鋼の遅れ破壊の改善にはとても有利である。したがって、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Moの質量パーセントを0.1-0.25%とする。
【0018】
Nb:本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Nbは炭素窒素化物析出元素であり、結晶粒を微小化させ、炭素窒素化物を析出させ、材料の強度を高めることができると同時に、整合の微合金析出物が分散水素の集まりに有利であるため、遅れ破壊には有利である。したがって、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Nbの質量パーセントを0.02-0.04%とする。
【0019】
V:本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Vは結晶粒を微細化させる効果があり、同時に整合の微合金析出物が分散水素の集まりに有利である。したがって、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Vの質量パーセントを0.06-0.2%とする。
【0020】
さらに、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、0.0015-0.003%のBが含有される。
【0021】
本発明による技術案において、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼は、少量のBをさらに含有してもいい。Bは強焼入れ性元素であるため、適量のBは鋼の焼入れ性を高め、マルテンサイトの形成を促進することができる。
【0022】
さらに、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、避けなれない不純物は、P、SとNを含み、その含有量は、以下の各項の少なくとも一つとする:P≦0.012%、S≦0.003%、N≦0.005%。
【0023】
上述技術案では、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、P、SとNはいずれも鋼中における避けなれない不純物元素であり、鋼中でのP、SとNの含有量が低ければ低いほど良い。SはMnS介在物を形成しやすく、穴広げ率に強く影響する;Pは鋼の靱性を低減し、遅れ破壊には不利である;鋼中のN含有量が高すぎると、板スラブの表面で割れ目が生じやすく、鋼の性能に大きく影響される。したがって、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、Pの質量パーセントをP≦0.012%とし、Sの質量パーセントをS≦0.003%とし、Nの質量パーセントをN≦0.005%とする。
【0024】
さらに、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、上記焼き戻しマルテンサイトの相比例(体積比)>50%。
【0025】
さらに、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、上記基体組織中に、微細の炭化物ペレットが大量に拡散析出し、上記炭化物ペレットは、MoC、VC、Nb(C,N)を含み、上記炭化物ペレットはいずれも整合形式で基体組織中に分布する。
【0026】
さらに、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、上記炭化物ペレットのサイズ≦60nm。
【0027】
さらに、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、上記焼き戻しマルテンサイトは、整合分布したε炭化物を含有する。
【0028】
さらに、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、その性能が、以下の各項の少なくとも一つを満たす:降伏強度≧550MPa、引張強度≧980MPa、破断伸び率≧12%、初期水素含有量≦3ppm、プレストレスが引張強度の1.0倍以上である場合において、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しない。
【0029】
さらに、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼において、その性能が、以下の各項を満たす:降伏強度≧550MPa、引張強度≧980MPa、破断伸び率≧12%、初期水素含有量≦3ppm、プレストレスが引張強度の1.0倍以上である場合において、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しない。
【0030】
さらに、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼の降伏比は0.55-0.70である。
【0031】
また、本発明のもう一つの目的は、耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼の製造方法の提供である。この製造方法で作製される耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼は、降伏強度≧550MPa、引張強度≧980MPa、破断伸び率≧12%、初期水素含有量≦3ppm、好ましくは≦2ppmであり、プレストレスが引張強度の1.0倍以上である場合、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しない。
【0032】
上述の目的を実現するために、本発明は、以下のステップを含む上記耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼の製造方法を提供する:
(1)製錬および連続鋳造;
(2)熱間圧延;
(3)冷間圧延;
(4)焼鈍:3-10℃/sの加熱速度で昇温し、焼鈍均熱温度を780~820℃、好ましくは790-810℃とし、焼鈍時間を40~200s、好ましくは40-160sとし、そして30~80℃/s、好ましくは35-80℃/sの速度で急速に冷却し、急速冷却の開始温度を650~730℃とする;
(5)焼き戻し:焼き戻し温度を200~280℃、好ましくは210-270℃とし、焼き戻し時間を100~400s、好ましくは120-300sとする;
(6)テンパー;
(7)電気めっき。
【0033】
本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼の製造方法において、連続焼鈍加熱時に、中低温焼き戻し処理を使用し、関連するプロセスパラメータを制御することにより、マルテンサイトの硬度低減に有利だけでなく、粗大ペレットマルテンサイトの析出を有効に防ぐことができるため、鋼の遅れ破壊性能にはとても有利である。
【0034】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(1)では、連続鋳造過程における連続鋳造の引張速度を0.9-1.5m/minとする。
【0035】
上述技術案では、本発明による製造方法において、ステップ(1)の連続鋳造は大水量二次冷却モードによって行ってもいい。
【0036】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(2)では、鋳造スラブを1200~1260℃、好ましくは1210-1245℃の温度で均熱する;そして圧延を行い、仕上げ圧延温度を840~900℃とし、圧延の後に20~70℃/sの速度で冷却する;そして卷取を行い、卷取温度を580~630℃とし、卷取の後に保温処理または徐冷処理を行う。好ましくは、1-5時間で保温し、もしくは3-5℃/sの冷却速度で徐冷を行う。
【0037】
本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼の製造方法において、上記ステップ(2)では、圧延負荷を安定に保つため、加熱温度を1200℃以上とし、同時に酸化燃焼損失の増大を防ぐため、加熱温度の上限を1260℃とする。したがって、最終的に、鋳造スラブを1200~1260℃の温度下で均熱する。
【0038】
また、説明しなければならないが、ステップ(2)では、熱間圧延卷取後に保温、もしくは卷取後に徐冷を行うことは、拡散析出物の十分な析出に有利であり、各拡散分布の析出物は少量水素の吸着や分散水素の分布に有利であり、水素の集まりを防ぐため、耐遅れ破壊性には有利である。
【0039】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(3)における冷間圧延圧下率を45~65%とする。
【0040】
上述技術案では、上記ステップ(3)において、冷間圧延圧下率を45~65%とする。冷間圧延の前に、酸洗いによって鋼板表面の酸化鉄皮膜を除去してもいい。
【0041】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(6)におけるテンパー圧下率≦0.3%とする。
【0042】
本発明の上述技術案では、上記ステップ(6)において、鋼板のテンパー度を保つため、一定のテンパー量が必要とされるが、過大のテンパー量は鋼の降伏強度を大きく上昇させる場合がある。したがって、本発明による製造方法において、テンパー圧下率≦0.3%とする。
【0043】
本発明の上述技術案では、通常の亜鉛電気めっき法で上記ステップ(7)を実施してもいい。好ましくは、両面めっきを行い、片面のめっき層重量を10-100g/mとする。
【発明の効果】
【0044】
本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼およびその製造方法は、従来技術と比較して、以下の利点及び有益な効果を有する:
本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼は、合理的な成分設計を採用する。炭素、ケイ素、マンガンおよびニオブ、バナジウム、クロム、モリブデンなどの微合金の合理的な設計およびプロセス配合により、得られる鋼が優れた耐遅れ破壊性および超高強度を有する。この耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼は、降伏強度≧550MPa、引張強度≧980MPa、破断伸び率≧12%、初期水素含有量≦3ppmであり、プレストレスが引張強度の1.0倍以上である場合において、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しない。本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼は優れた性能を有するため、工業上での要求を満たし、自動車安全構造部品の製造などに適用し、良好な汎用価値および展望がある。
【0045】
本発明の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼は、合理的な成分設計および連続鋳造プロセスを使用するため、鋼板内部、特にその表面にTiNがなく、鋼板内部における水素の集まりの低減に有利であり、鋼の遅れ破壊性能の向上に有利である。
【0046】
本発明による製造方法は、高温均熱+中温焼き戻しの組み合わせを使用している。連続焼鈍加熱時に、高温均熱により、多くのオーステナイト転化が発生し、その後の急速冷却時より多くのマルテンサイトが得られるため、最終的に焼き戻し前より高い強度が得られる;中低温焼き戻し処理を使用し、関連のプロセスパラメータを制御することで、マルテンサイトの硬度低減に有利だけでなく、粗大ペレットマルテンサイトの析出を有効に防ぐことができるため、材料の降伏比が適宜であり、また鋼の遅れ破壊性能にもとても有利である。焼き戻し時に、使用する焼き戻し温度が低すぎると、マルテンサイトの硬度低減に不利である;焼き戻し温度が高すぎると、マルテンサイトが分解し、最終強度が980MPa未満になる。本発明の高温均熱+中温焼き戻しの組み合わせを使用することで、作製される耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼に、優れた耐遅れ破壊性および低い初期水素含有量の特性を有効に持たせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下では、具体的な実施例に基づき、本発明による耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼およびその製造方法をさらに詳しく説明するが、その説明は本発明の技術案を限定するものではない。
【0048】
実施例1-6および比較例1-14
表1は、実施例1-6の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼および比較例1-14の鋼に対応する鋼種における各化学元素の質量パーセントを示す。
【0049】
【表1】
【0050】
本発明による実施例1-6の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼および比較例1-14の鋼は、いずれも以下のステップで作製された:
(1)製錬と連続鋳造:連続鋳造過程において、連続鋳造の引張速度を0.9-1.5m/minとし、大水量二次冷却モードで連続鋳造を行った;
(2)熱間圧延:鋳造スラブを1200~1260℃の温度で均熱した;その後圧延を行い、仕上げ圧延温度を840~900℃とし、圧延後に20~70℃/sの速度で冷却した;その後卷取を行い、卷取温度を580~630℃とし、卷取後に保温カバーで1-5時間保温した;
(3)冷間圧延:冷間圧延圧下率を45~65%とした;
(4)焼鈍:3-10℃/sの加熱速度で昇温し、焼鈍均熱温度を780~820℃とし、焼鈍時間を40~200sとし、そして30~80℃/sの速度で急速に冷却し、急速冷却の開始温度を650~730℃とした;
(5)焼き戻し:焼き戻し温度を200~280℃とし、焼き戻し時間を100~400sとした;
(6)テンパー:テンパー圧下率≦0.3%とした;
(7)両面亜鉛電気めっき、片面のめっき層重量が10-100g/m2であった。
【0051】
説明しなければならないが、実施例1-6の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼の化学成分および関連のプロセスパラメータは、いずれも本発明の設計規範の制限要求を満たしている。比較例1-6の鋼の化学成分は、いずれも本発明に設計される要求のパラメータを満たさない;比較例7-14に対応するM鋼種の化学成分は、本発明の設計要求を満たすものの、関連のプロセスパラメータはいずれも本発明の設計規範のパラメータを満たさない。
【0052】
表2-1と表2-2は、実施例1-6の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼および比較例1-14の鋼の具体的なプロセスパラメータを示す。
【0053】
【表2-1】
【0054】
【表2-2】
【0055】
実施例1-6の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼および比較例1-14の鋼に対し各性能測定を行い、得られる測定結果を表3に示す。
【0056】
表3は、実施例1-6の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼および比較例1-14の鋼の性能測定結果を示す。性能測定方法は、GB/T13239-2006金属材料低温引張試験方法に基づき、標準サンプルを作製し、引張試験機で静的引張を行い、得られた相応の応力-ひずみ曲線に対しデータ処理を行い、最終的に降伏強度、引張強度と破断伸び率パラメータを得た。
【0057】
水素含有量の測定方法:サンプルを一定の温度に加熱し、水素分析器で温度変化(上昇)に伴って放出される水素の濃度を測定し、鋼中の初期水素含有量を判断する。
【0058】
【表3】
【0059】
表3で分かるように、本発明の各実施例の降伏強度はいずれも≧550MPaであり、引張強度はいずれも≧980MPaであり、破断伸び率はいずれも≧12%であり、初期水素含有量はいずれも≦3ppmである。各実施例の耐遅れ破壊性を有する亜鉛電気めっき超高張力二相鋼は、いずれも超高強度および同レベルのほかの比較鋼種より明らかに優れた遅れ破壊性能を有し、プレストレスが引張強度の1.0倍以上である場合でも、1mol/Lの塩酸に300時間を浸しても遅れ破壊が発生しない。本発明による耐遅れ破壊性を有する電気めっき亜鉛超高張力二相鋼は優れた性能を有するため、工業上での要求を満たし、自動車安全構造部品の製造などに適用し、良好な汎用価値および展望がある。
【0060】
説明しなければならないが、本発明の保護範囲中における従来技術の部分は、本願に提供される実施例に限定するものではなく、先行特許文献、先行開示出版物、先行開示応用などを含むがそれらに限らない本発明の技術案に矛盾しない技術案は、いずれも本発明の保護範囲に収まる。また、本願における各技術特徴の組み合わせ方式は、本願請求項に記載の組み合わせ方式もしくは具体的な実施例に記載の組み合わせ方式に限定するものではなく、本願に記載の全ての技術特徴は、お互いに矛盾しない限り、いかなる方式で自由に組み合わせもしくは結合してもいい。
【0061】
さらに、注意しなければならないが、以上に挙げられた実施例は、本発明の具体的な実施例でしかない。本発明は以上の実施例に限定されなく、当業者は、その類似変化や変形を、本発明の開示内容から直接得られ、もしくは容易に想到できるため、本発明の保護範囲に属すことは、言うまでもない。