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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20240722BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20240722BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20240722BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20240722BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/08
C08K3/01
C09K5/14 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022580193
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 FR2021000066
(87)【国際公開番号】W WO2021260279
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】2006652
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507421304
【氏名又は名称】エルケム・シリコーンズ・フランス・エスアエス
【氏名又は名称原語表記】ELKEM SILICONES France SAS
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】オーレリ・ペレ
(72)【発明者】
【氏名】ルシル・フォーブル
(72)【発明者】
【氏名】ジュリー・デュボワ
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-218723(JP,A)
【文献】特開2010-072438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 3/00-3/08
C09K 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサン組成物Xであって、
- 1分子あたり、少なくとも2つのケイ素結合C2-C6アルケニル基を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA、
- 1分子あたり、少なくとも2つのSiH単位を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンB、
- 触媒的に有効な量の少なくとも1つのヒドロシリル化触媒C、および
- 熱伝導性フィラーD、
を含み、
前記熱伝導性フィラーDは、少なくとも40重量%の金属ケイ素を含み、前記熱伝導性フィラーDは、2μm以下の直径を有する粒子を3%~22%含み、粒度分布は、前記フィラーの比d90/d10が20以上200未満であることを特徴とする、オルガノポリシロキサン組成物X。
【請求項2】
前記オルガノポリシロキサン組成物X中の前記熱伝導性フィラーDの総重量が80%~95%であることを特徴とする、請求項1に記載のオルガノポリシロキサン組成物X。
【請求項3】
前記熱伝導性フィラーDが、2μm以下の直径を有する粒子を3%~20%、好ましくは6%~18%含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のオルガノポリシロキサン組成物X。
【請求項4】
前記フィラーの比d90/d10が30以上となるような粒度分布であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のオルガノポリシロキサン組成物X。
【請求項5】
前記熱伝導性フィラーDが少なくとも70重量%の金属ケイ素を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のオルガノポリシロキサン組成物X。
【請求項6】
前記熱伝導性フィラーDが100重量%の金属ケイ素を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のオルガノポリシロキサン組成物X。
【請求項7】
前記熱伝導性フィラーDが、金属ケイ素だけでなく、アルミナフィラー、アルミニウム三水和物フィラー、アルミニウムフィラー、シリカフィラー、酸化亜鉛フィラー、窒化アルミニウムフィラー、窒化ホウ素フィラー、およびそれらの混合物からなる群から選択される熱伝導性フィラーも含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のオルガノポリシロキサン組成物X。
【請求項8】
前記オルガノポリシロキサン組成物Xは:
- 1分子当たり、少なくとも2つのケイ素結合C2-C6アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンAを5%~30%、好ましくは8%~15%、
- 1分子当たり、少なくとも2つのSiH単位を有するオルガノポリシロキサンBを0.1%~10%、好ましくは0.5%~5%、
- ヒドロシリル化触媒Cを2ppm~400ppm、好ましくは5ppm~200ppm、
- 熱伝導性フィラーDを70%~95%、好ましくは80%~95%、
- 熱伝導性フィラー処理剤Eを0.1%~5%、好ましくは1%~3%、
- 架橋阻害剤Fを100ppm~3000ppm、好ましくは100ppm~2000ppm、
含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のオルガノポリシロキサン組成物X。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のオルガノポリシロキサン組成物Xの前駆体であり、請求項1~8のいずれか一項に記載の前記成分A、B、CおよびDを含む二成分システムPであって、前記二成分システムPは、混合して前記オルガノポリシロキサン組成物Xを形成するための2つの別個の部分P1およびP2の形態をとり、前記部分P1またはP2の一方が、前記触媒Cを含み、且つ、前記オルガノポリシロキサンBを含まず、前記部分P1またはP2の他方が、前記オルガノポリシロキサンBを含み、且つ、前記触媒Cを含まない、ことを特徴とする二成分システムP。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載のオルガノポリシロキサン組成物Xを架橋及び/又は硬化して得られるシリコーンエラストマー。
【請求項11】
a)請求項1~8のいずれか一項に記載のオルガノポリシロキサン組成物Xの全成分を含む二成分システムPを供給する工程;
b)前記2成分システムPの2つの前記部分を混合して、前記オルガノポリシロキサン組成物Xを得る工程;および
c)前記オルガノポリシロキサン組成物Xを架橋及び/又は硬化して前記シリコーンエラストマーを得る工程、
を含む、シリコーンエラストマーの調製方法。
【請求項12】
特にエレクトロニクス分野、電気用途、および自動車分野における、熱伝導性コーティングまたはフィラー材料としての、請求項10に記載のシリコーンエラストマーの使用。
【請求項13】
- 1分子あたり、少なくとも2つのケイ素結合C2-C6アルケニル基を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA、および
- 熱伝導性フィラーD、
を含み、
前記熱伝導性フィラーDは、少なくとも40重量%の金属ケイ素を含み、前記熱伝導性フィラーDは、2μm以下の直径を有する粒子を3%~22%含み、粒度分布は、前記フィラーの比d90/d10が20以上200未満であることを特徴とする、中間組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車分野、より具体的には電気自動車分野のための熱伝導性要素を製造するための、新規な重付加架橋オルガノポリシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性シリコーンエラストマーは、優れた熱伝達、高温および低温の熱抵抗、並びに電気絶縁特性でよく知られている。特に電気・電子用途や自動車分野で使用されている。特に自動車分野では、電気自動車やハイブリッド車(略して「EV」や「HEV」)のバッテリーに熱伝導性シリコーンエラストマーが使用され、バッテリーブロックのセルや車載電子機器から熱を取り除く。
【0003】
熱伝導性シリコーン配合物は、先行技術に記載されている。早くも1981年に、米国特許第4,292,223号には、オルガノポリシロキサン、粒状フィラー、および粘度調整剤を含む熱伝導性エラストマーが記載されている。粒状フィラーは、シリカおよび熱伝導性金属粉末を含む。しかし、金属粉末の重量含有量は、ポリマーに対する粉末の質量比として0.5:1~2.5:1にすぎず、得られる最大熱伝導率はわずか11.7×10-4cal/s.cm.℃または0.5W/m.Kであり、所望の用途には不十分であった。現在のところ、2.0W/m.Kを超える、好ましくは少なくとも3.0W/m.Kの熱伝導率を得ることが望ましい。
【0004】
金属酸化物粉末は、エラストマーの熱伝導率を高めるために伝統的に使用されており、例としては、三水和アルミニウム(ATH)、酸化アルミニウム、および/または酸化マグネシウムがある(例えば、米国特許出願公開第2019/0161666号明細書を参照)。しかし、これらの熱伝導性フィラーを非常に高濃度で添加すると、エラストマーの密度が増加する。自動車などの想定される応用分野では、エラストマー材料の密度は非常に重要な特性である。好ましくは4g/cm3未満、より好ましくは3g/cm3未満、さらに好ましくは2.5g/cm3未満、さらにより好ましくは2g/cm3未満の密度を有する熱伝導性エラストマー材料を得ることが望ましい。
【0005】
特開2000-063670号公報は、熱伝導性フィラーとして金属ケイ素を含有する熱伝導性シリコーンエラストマーを記載している。欧州特許第1788031号明細書はまた、高い熱伝導率および良好な貯蔵安定性を与えるための熱伝導性フィラーとしてシリコーンエラストマー中の金属ケイ素粉末の使用を記載している。しかし、この文書で得られた最大熱伝導率は、0.6W/m.K~1.0W/m.Kの間である。同様に、特開2007-311628号公報は、金属ケイ素粉末が熱伝導性フィラーおよび電気絶縁体として使用される熱伝導性エラストマーフィルムを記載している。前記金属ケイ素粉末は、好ましくは20μm未満の粒径を有する。韓国公開特許第20120086249号公報は、粉末状の熱伝導性フィラーと中空有機樹脂フィラーを含む熱伝導性シリコーンエラストマーを調製する方法を記載している。その文献によれば、直径が3~15μmの粒子を有する熱伝導性粉末が好ましく使用される。得られたシリコーンエラストマーは、0.15W/m.K~3.0W/m.Kの熱伝導率を有することができると規定されている。しかしながら、実施例では、熱伝導率は0.41W/m.Kを超えない。
【0006】
別の技術分野において、特許第524573号明細書は、金属ケイ素粉末を含むシリコーンエラストマー層を使用する熱伝導性ヒートシールストリップおよびロールを記載している。得られた熱伝導率は2W/m.Kである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱伝導性シリコーンエラストマーは、高い熱伝導率、好ましくは2.0W/m.K以上または3.0W/m.K以上を有するだけでなく、低い密度、好ましくは3g/cm3以下または2g/cm3以下も有することが望ましい。さらに、このシリコーンエラストマーは、所望の技術分野で採用および使用できるような稠度を有することが必要である。実際、本発明者らは、フィラーの選択を誤ると、組成物が粉状になり、その場合、エラストマーの調製が不可能になることを見出した。
【0008】
本発明の目的は、上記の問題を解決し、高い熱伝導率、低密度、および良好な加工特性を有する新規の熱伝導性オルガノポリシロキサン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の主題は、オルガノポリシロキサン組成物Xであって、
- 1分子あたり、少なくとも2つのケイ素結合C2-C6アルケニル基を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA、
- 1分子あたり、少なくとも2つのSiH単位を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンB、
- 触媒的に有効な量の少なくとも1つのヒドロシリル化触媒C、および
- 熱伝導性フィラーD、
を含み、
前記熱伝導性フィラーDは、少なくとも40重量%の金属ケイ素を含み、前記熱伝導性フィラーDは、2μm以下の直径を有する粒子を3%~22%含み、粒度分布は、前記フィラーの比d90/d10が20以上であることを特徴とする、オルガノポリシロキサン組成物Xである。
【0010】
本発明の他の主題は、上記で定義したオルガノポリシロキサン組成物Xの前駆体であり、上記で定義した前記成分A、B、CおよびDを含む二成分システムPであって、前記二成分システムPは、混合して前記オルガノポリシロキサン組成物Xを形成するための2つの別個の部分P1およびP2の形態をとり、前記部分P1またはP2の一方が、前記触媒Cを含み、且つ、前記オルガノポリシロキサンBを含まず、前記部分P1またはP2の他方が、前記オルガノポリシロキサンBを含み、且つ、前記触媒Cを含まない、ことを特徴とする二成分システムPに関する。
【0011】
本発明の他の主題は、上記で定義したオルガノポリシロキサン組成物Xを架橋および/または硬化することによって得られるシリコーンエラストマー、および特に自動車分野、より具体的には電気自動車分野向けの熱伝導性コーティングまたはフィリング材料としてのシリコーンエラストマーの使用にも関する。
【0012】
本発明の他の主題は、
a)上記で定義したオルガノポリシロキサン組成物Xの全成分を含む二成分システムPを供給する工程;
b)前記2成分システムPの2つの前記部分を混合して、前記オルガノポリシロキサン組成物Xを得る工程;および
c)前記オルガノポリシロキサン組成物Xを架橋及び/又は硬化して前記シリコーンエラストマーを得る工程、
を含む、シリコーンエラストマーの調製方法に関する。
【0013】
最後に、本発明の主題は、
- 1分子あたり、少なくとも2つのケイ素結合C2-C6アルケニル基を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA、および
- 熱伝導性フィラーD、
を含み、
前記熱伝導性フィラーDは、少なくとも40重量%の金属ケイ素を含み、前記熱伝導性フィラーDは、2μm以下の直径を有する粒子を3%~22%含み、粒度分布は、前記フィラーの比d90/d10が20以上であることを特徴とする、中間組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
別段の指示がない限り、本明細書に含まれるシリコーンオイルの粘度はすべて、25℃での「ニュートン」動的粘度パラメーターに対応し、これは、動的粘度が、測定される粘度が速度勾配に依存しないほど低いせん断速度勾配を有するブルックフィールド粘度計を従来通り使用して測定されることを意味する。
【0015】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物Xは、少なくとも以下の成分A、B、C及びDを含む:
- 1分子あたり、少なくとも2つのケイ素結合C2-C6アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンA、
- 1分子あたり、少なくとも2つのSiH単位を有するオルガノポリシロキサンB、
- ヒドロシリル化触媒C、および
- 熱伝導性フィラーD。
【0016】
1分子当たり、少なくとも2つのケイ素結合C2~C6アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンAは、特に次から形成され得る:
- 次の式の少なくとも2つのシロキシル単位:Ya1 bSiO(4-a-b)/2
(ここで:
YはC2-C6アルケニル、好ましくはビニルであり、
1は、1~12個の炭素原子を有する一価の炭化水素基であり、好ましくは、メチル基、エチル基およびプロピル基などの1~8個の炭素原子を有するアルキル基、3~8個の炭素原子を有するシクロアルキル基、および6~12個の炭素原子を有するアリール基、ならびに、
a=1または2、b=0、1または2、および合計a+b=1、2または3;)
- 任意に、次の式の単位:R1 cSiO(4-c)/2
(ここで、R1は上記と同じ意味を持ち、c=0、1、2または3である。)
【0017】
上記の式において、2つ以上の基R1が存在する場合、それらは互いに同一であっても異なっていてもよいことが理解される。
【0018】
これらのオルガノポリシロキサンAは、シロキシル単位Y2SiO2/2、YR1SiO2/2、およびR1 2SiO2/2からなる群より選択されるシロキシル単位「D」と、シロキシル単位YR1 2SiO1/2、Y21SiO1/2、およびR1 3SiO1/2からなる群より選択される末端シロキシル単位「M」とから本質的になる直鎖構造を有することができる。記号YおよびR1は、上記の通りである。
【0019】
末端「M」単位の例としては、トリメチルシロキシ基、ジメチルフェニルシロキシ基、ジメチルビニルシロキシ基またはジメチルヘキセニルシロキシ基が挙げられる。
【0020】
「D」単位の例としては、ジメチルシロキシ基、メチルフェニルシロキシ基、メチルビニルシロキシ基、メチルブテニルシロキシ基、メチルヘキセニルシロキシ基、メチルデセニルシロキシ基またはメチルデカジエニルシロキシ基が挙げられる。
【0021】
本発明によるオルガノポリシロキサンAの候補としての直鎖オルガノポリシロキサンの例は:
- ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン);
- ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン);
- ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルビニルシロキサン);
- トリメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルビニルシロキサン);および
- 環状ポリ(メチルビニルシロキサン)。
【0022】
最も推奨される形態では、オルガノポリシロキサンAは末端ジメチルビニルシリル単位を含み、より好ましくはオルガノポリシロキサンAはジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン)である。
【0023】
シリコーンオイルの粘度は、一般に1mPa.s~2,000,000mPa.sの間である。前記オルガノポリシロキサンAは、好ましくは、25℃で20mPa.s~100000mPa.sの間、好ましくは20mPa.s~80000mPa.sの間、より好ましくは100mPa.s~50000mPa.sの間の動的粘度を有するオイルである。
【0024】
オルガノポリシロキサンAは、シロキシル単位「T」(R1SiO3/2)および/またはシロキシル単位「Q」(SiO4/2)を任意にさらに含有してもよい。記号R1は上記の通りである。この場合のオルガノポリシロキサンAは分岐構造を有する。本発明によるオルガノポリシロキサンAの候補としての分岐オルガノポリシロキサンの例は次の通りである:
- トリメチルシロキシ「M」単位、ジメチルビニルシロキシ「M」単位、ジメチルシロキシ「D」単位、およびメチルシロキシ「T」単位からなる、トリメチルシリルおよびジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン)(メチルシロキサン);
- トリメチルシロキシ「M」単位、ジメチルビニルシロキシ「M」単位、および「Q」単位からなる樹脂;
- トリメチルシロキシ「M」単位、メチルビニルシロキシ「D」単位、および「Q」単位からなる樹脂。
【0025】
しかし、一実施形態によれば、オルガノポリシロキサン組成物Xは、分岐オルガノポリシロキサンまたはC2~C6アルケニル単位を含む樹脂を含まない。
【0026】
オルガノポリシロキサン化合物Aは、アルケニル単位の質量含有率が好ましくは0.001%~30%、好ましくは0.01%~10%、好ましくは0.02~5%である。
【0027】
オルガノポリシロキサン組成物Xは、オルガノポリシロキサン組成物Xの総重量に対して、好ましくは5重量%~30重量%のオルガノポリシロキサンA、より好ましくは8重量%~15重量%のオルガノポリシロキサンAを含む。
【0028】
オルガノポリシロキサン組成物Xは、単一のオルガノポリシロキサンA、または例えば異なる粘度および/若しくは異なる構造を有する2つ以上のオルガノポリシロキサンAの混合物を含み得る。
【0029】
オルガノポリシロキサンBは、1分子当たり、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つのハイドロジェノシリル官能基または単位Si-Hを含むオルガノハイドロジェノポリシロキサン化合物である。オルガノポリシロキサン組成物Xは、単一のオルガノハイドロジェノポリシロキサンB、または例えば異なる粘度および/または異なる構造を有する2つ以上のオルガノハイドロジェノポリシロキサンBの混合物を含み得る。
【0030】
オルガノハイドロジェノポリシロキサンBは、有利には、以下の式Hd2 eSiO(4-d-e)/2のシロキシル単位と:
(ここで、
- 同一または異なるラジカルR2は、1~12個の炭素原子を有する一価のラジカルを表し、
- d=1または2、e=0、1または2、およびd+e=1、2または3;)
および任意の、次の式R2 fSiO(4-f)/2の他の単位:
(ここで、R2は上記と同じ意味を持ち、f=0、1、2または3である)
を少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ含むオルガノポリシロキサンであり得る。
【0031】
上記の式において、2つ以上のR2基が存在する場合、それらは互いに同一であっても異なっていてもよいことが理解されるであろう。R2は、好ましくは、塩素またはフッ素などの少なくとも1個のハロゲン原子によって任意に置換された、1~8個の炭素原子を有するアルキル基からなる群から選択される一価ラジカル;3~8個の炭素原子を有するシクロアルキル基;炭素数6~12のアリール基を表すことができる。R2は、有利には、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、キシリル、トリル、およびフェニルからなる群より選択され得る。
【0032】
上記の式において、記号dは、好ましくは1である。
【0033】
オルガノハイドロジェノポリシロキサンBは、直鎖、分岐または環状の構造を有していてもよい。重合度は、好ましくは2以上である。一般に、それは5000未満である。ポリマーが直鎖状である場合、ポリマーは、次の式:D:R2 2SiO2/2またはD’:R2HSiO2/2、を有する単位から選択されるシロキシル単位と、次の式:M:R2 3SiO1/2またはM’:R2 2HSiO1/2を有する単位から選択される末端シロキシル単位とから本質的になり、ここでR2は上記と同じ意味を有する。
【0034】
ケイ素原子に結合した少なくとも2つの水素原子を含む、本発明によるオルガノポリシロキサンBの候補としてのオルガノハイドロジェノポリシロキサンの例は次の通りである:
- ハイドロジェノジメチルシリル末端を持つポリ(ジメチルシロキサン);
- トリメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルハイドロジェノシロキサン);
- ハイドロジェノジメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルハイドロジェノシロキサン);
- トリメチルシリル末端を有するポリ(メチルハイドロジェノシロキサン);および
- 環状ポリ(メチルハイドロジェノシロキサン)。
【0035】
オルガノハイドロジェノポリシロキサンBが分岐構造を有する場合、好ましくは、以下の式を有するシリコーン樹脂からなる群より選択され:
- ケイ素原子に結合した水素原子がM基によって担持されているM’Q、
- ケイ素原子に結合した水素原子がいくつかのM単位によって担持されているMM’Q、
- ケイ素原子に結合した水素原子がD基によって担持されているMD’Q、
- ケイ素原子に結合した水素原子がいくつかのD基によって担持されているMDD’Q、
- ケイ素原子に結合した水素原子がいくつかのM単位によって担持されているMM’TQ、
- ケイ素原子に結合した水素原子がいくつかのM単位およびD単位によって担持されているMM’DD’Q、
- およびそれらの混合物、
ここで、M、M’、DおよびD’は上記で定義したとおりであり、Tは式R2 3SiO1/2のシロキシル単位であり、Qは式SiO4/2のシロキシル単位であり、R2は上記と同じ意味を有する。
【0036】
オルガノハイドロジェノポリシロキサン化合物Bは、好ましくは0.2%~91%の間、より好ましくは3%~80%の間、さらにより好ましくは15%~70%の間の水素シリル官能基Si-Hの質量含有率を有する。
【0037】
オルガノポリシロキサン組成物X全体を考慮すると、アルケン官能基に対するハイドロジェノシリル官能基Si-Hのモル比は、有利には0.2~20の間、好ましくは0.5~15の間、より好ましくは0.5~10の間、さらにより好ましくは0.5~5の間であり得る。
【0038】
オルガノハイドロジェノポリシロキサンBの粘度は、好ましくは1mPa.s~5000mPa.s、より好ましくは1mPa.s~2000mPa.s、さらにより好ましくは5mPa.s~1000mPa.sである。
【0039】
オルガノポリシロキサン組成物Xは、オルガノポリシロキサン組成物Xの総重量に対して、好ましくは0.1重量%~10重量%のオルガノハイドロジェノポリシロキサンB、より好ましくは0.5重量%~5重量%を含む。
【0040】
ヒドロシリル化触媒Cは、特に白金化合物およびロジウム化合物から選択されてもよいが、国際公開第2015/004396号および国際公開第2015/004397号に記載されているものなどのケイ素化合物、国際公開第2016/075414号に記載されているものなどのゲルマニウム化合物、または国際公開第2016/071651号、国際公開第2016/071652号、および国際公開第2016/071654号に記載されているようなニッケル、コバルトまたは鉄錯体からも選択され得る。触媒Cは、好ましくは、白金族に属する少なくとも1つの金属から誘導される化合物である。これらの触媒はよく知られている。特に、米国特許第3,159,601号明細書、米国特許第3,159,602号明細書、米国特許第3,220,972号明細書および欧州特許出願公開第0057459号明細書、欧州特許出願公開第0188978号明細書、および欧州特許出願公開第0190530号明細書に記載されている有機生成物との白金の錯体、ならびに、米国特許第3,419,593号明細書、米国特許第3,715,334号明細書、米国特許第3,377,432号明細書、および米国特許第3,814,730号明細書に記載のビニルオルガノシロキサンとの白金の錯体を使用することができる。
【0041】
触媒Cは、白金由来の化合物であることが好ましい。その場合、白金金属の重量として計算される触媒Cの量は、組成物Xの総重量に基づいて、一般に2質量ppm~400質量ppmの間、好ましくは5質量ppm~200質量ppmの間である。
【0042】
触媒Cは好ましくはカールシュテット(Karstedt)白金である。
【0043】
本発明によるオルガノポリシロキサン組成物Xは、熱伝導性フィラーDを含むことを特徴とする。このフィラーは、単一のフィラー、または化学的性質および/または構造および/または粒径が異なるフィラーの混合物から構成され得る。本発明の好ましい一実施形態によれば、熱伝導性フィラーDは、化学的性質および/または粒径が異なる少なくとも2つのフィラーまたは少なくとも3つのフィラーの混合物からなる。本発明の別の好ましい実施形態によれば、熱伝導性フィラーDは、単一のフィラーからなる。
【0044】
オルガノポリシロキサン組成物X中の熱伝導性フィラーDの全重量は、オルガノポリシロキサン組成物Xの全重量に対して、好ましくは70重量%超、より好ましくは75重量%超、さらにより好ましくは80重量%~95重量%である。本発明の特に有利な一実施形態によれば、オルガノポリシロキサン組成物X中の熱伝導性フィラーDの総重量は、85%以上である。熱伝導性フィラーのこの特に高い含有量により、非常に高い熱伝導率を達成することが可能になる。
【0045】
前記熱伝導性フィラーDは、少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、さらにより好ましくは少なくとも80重量%の金属ケイ素を含む。
【0046】
第1の実施形態によれば、熱伝導性フィラーDは、60重量%~99.99重量%の間、好ましくは65重量%~99.95重量%の間、より好ましくは70重量%~99.9重量%の間、より好ましくは70重量%~99重量%の間、より好ましくは75重量%~97重量%の間、より好ましくは80重量%~95重量%の間の金属ケイ素を含む。
【0047】
金属ケイ素とは別に、熱伝導性フィラーDは、熱伝導性を有することが当業者に知られている1つまたは複数の他の異なるフィラーを、特に金属、合金、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属シリサイド、カーボン、軟磁性合金、およびフェライトの中から含んでもよい。これらのフィラーの熱伝導率は、好ましくは10W/m.K超、より好ましくは20W/m.K超、さらにより好ましくは50W/m.K超である。それらは特に、アルミナ、アルミニウム三水和物(ATH)、アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、並びに、例えばカーボンブラック、ダイヤモンド、カーボンナノチューブ、グラファイト、およびグラフェンなどの炭素からなる群より選択され得る。熱伝導性フィラーDは、好ましくは、金属ケイ素だけでなく、アルミナフィラー、アルミニウム三水和物(ATH)フィラー、アルミニウムフィラー、シリカフィラー、酸化亜鉛フィラー、窒化アルミニウムフィラー、窒化ホウ素フィラー、およびそれらの混合物ならなる群より選択される熱伝導性フィラーも含み得る。さらにより好ましくは、熱伝導性フィラーDは、金属ケイ素に加えて、アルミナフィラー、アルミニウム三水和物(ATH)フィラー、酸化亜鉛フィラー、シリカフィラー、およびそれらの混合物からなる群より選択される熱伝導性フィラーも含み得る。熱伝導性フィラーDは、金属ケイ素ではない熱伝導性フィラーを0.01重量%~60重量%、好ましくは0.05重量%~50重量%、より好ましくは0.1重量%~40重量%、より好ましくは1重量%~30重量%、より好ましくは3重量%~25重量%、より好ましくは5重量%~20重量%含むことができる。
【0048】
別の実施形態によれば、熱伝導性フィラーDは、100重量%の金属ケイ素を含み、すなわち、熱伝導性フィラーDは、他の化学的に異なる熱伝導性フィラーを除外して、金属ケイ素からなる。したがって、好ましくは:
- オルガノポリシロキサン組成物Xはアルミナを含まない、および/または
- オルガノポリシロキサン組成物Xはアルミニウム三水和物(ATH)を含まない、および/または
- オルガノポリシロキサン組成物Xは酸化亜鉛を含まない、および/または
- オルガノポリシロキサン組成物Xはシリカを含まない。
【0049】
本発明による熱伝導性フィラーDは、特定の粒度特性を有する。
【0050】
第1に、熱伝導性フィラーDは、2μm(マイクロメートル)以下の直径を有する粒子を3%~22%(体積で)含む。より好ましくは、熱伝導性フィラーDは、2μm(マイクロメートル)以下の直径を有する粒子を3%~20%(体積で)含む。さらにより好ましくは、熱伝導性フィラーDは、2μm以下の直径を有する粒子を6%~18%(体積で)含む。
【0051】
第2に、粒度分布は、前記フィラーの比d90/d10が20以上であるようなものである。より好ましくは、粒度分布は、前記フィラーの比d90/d10が30以上であるようなものである。前記フィラーの比d90/d10は、有利には200未満、好ましくは100未満であり得る。
【0052】
本明細書において、フィラーの粒度は、レーザー回折法によって測定される。直径2μm以下の粒子の含有量は、レーザー回折によって測定された直径2μm以下の粒子のすべての体積を合計することによって得られる体積含有量である。「d90」は、フィラーの粒度分布の累積体積頻度の90%に対応する特性直径に対応する。「d10」は、フィラーの粒度分布の累積体積頻度の10%に対応する特性直径に対応する。
【0053】
1つの熱伝導性フィラーまたは複数の熱伝導性フィラーは、BET法に従って測定された、少なくとも0.1m2/gの比表面積を有し得る。比表面積は典型的には3000m2/g以下である。1つの熱伝導性フィラーまたは複数の熱伝導性フィラーは、好ましくは、BET法に従って測定して、0.1m2/g~100m2/gの間、またはさらに0.1m2/g~10m2/gの間の比表面積を有し得る。
【0054】
熱伝導性フィラーDは、当業者に知られている任意の形状、例えば、球形、針形、ディスク形、棒形、または他の不定形を有することができる。熱伝導性フィラーは、球状または不定形であることが好ましい。異なる熱伝導性フィラーを混合して使用する場合、それらは同じ形状であっても異なる形状であってもよい。
【0055】
金属ケイ素の熱伝導性フィラーは、当業者に周知の任意の方法によって得ることができる。第1の実施形態によれば、金属ケイ素の熱伝導性フィラーは、シリカの化学的還元とそれに続く粉砕機または工業用ミルでの粉砕によって得られる粉末である。第2の実施形態によれば、金属ケイ素の熱伝導性フィラーは、細かく切断または粉砕された半導体産業からの金属ケイ素ウェーハおよびチップの破片から得られる粉末である。第3の実施形態によれば、金属ケイ素の熱伝導性フィラーは、金属ケイ素を高温で溶融し、溶融シリコンを微粒化(アトマイズ)し、得られた球状粒子を冷却または固化することによって得られる球状粉末である。金属ケイ素は単結晶であっても多結晶であってもよい。金属ケイ素の熱伝導性フィラーは、当業者に知られている方法、例えば、乾式分級または湿式分級、または一連の複数の同一または異なる分級工程によって分級することができる。
【0056】
金属ケイ素の熱伝導性フィラーは、典型的には、50%を超える、または80%を超える、または95%を超える(重量で)純粋である。しかし、金属ケイ素のフィラーの表面が酸化ケイ素の層で覆われている可能性があることが知られている。この酸化ケイ素層の外観は、自然のものでも、特定の処理によってもたらされたものでもよい。これは、フィラーに良好な熱安定性を有利に与えることができる。
【0057】
金属ケイ素の熱伝導性フィラーは、そのまま使用してもよいし、表面処理を施してもよい。前記表面処理の典型的な目的は、オルガノポリシロキサン組成物中のフィラーの分散性を改善すること、および/または組成物の熱安定性を改善することである。さらに、熱処理は、沈降または浸出、あるいは粘度上昇の現象を防止することによって、組成物の物理的安定性を改善することを可能にし得る。
【0058】
前記表面処理は、熱処理、化学処理、物理処理、またはそれらの組み合わせ、特に化学処理と化学処理の組み合わせであってもよい。
【0059】
好ましい実施形態によれば、金属ケイ素の熱伝導性フィラーは、この目的のために一般的に使用されるオルガノシリコン化合物で処理されてもよい。したがって、本発明によるオルガノポリシロキサン組成物Xは、熱伝導性フィラー処理剤Eを含むことができる。これらの処理剤は次の通りである:
- オルガノシロキサン、特にヘキサメチルジシロキサンおよびオクタメチルシクロテトラシロキサンなどのメチルポリシロキサン、
- オルガノシラザン、特にヘキサメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザンなどのメチルポリシラザン、
- クロロシラン、例えば、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、ジメチルビニルクロロシランなど、
- アルコキシシラン、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ビニルトリ(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ブテニルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリメトキシシラン、ガンマ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、およびトリメチルエトキシシラン。
【0060】
より好ましくは、金属ケイ素の熱伝導性フィラーは、アルコキシシラン、またはオルガノシラザンで処理され得る。アルコキシシランとしては特にオクチルトリメトキシシランであり、オルガノシラザンとしては、特にヘキサメチルジシラザン(HMDZ)およびジビニルテトラメチルジシラザン、またはそれらの混合物、特にHMDZとジビニルテトラメチルジシラザンとの混合物である。熱伝導性フィラーを化学薬品、特にオルガノシラザンで処理する場合、典型的には水を加えることができる。
【0061】
オルガノポリシロキサン組成物Xは、オルガノポリシロキサン組成物Xの全重量に対して、熱伝導性フィラー処理剤Eを好ましくは0.1重量%~5重量%、より好ましくは1重量%~3重量%含む。
【0062】
金属ケイ素の熱伝導性フィラーの熱処理は、前記フィラーを100℃~200℃の温度に1時間~4時間さらすことを含み得る。
【0063】
物理的処理とは、例えばイオン相互作用または水素結合によるなど、化学的ではなく本質的に物理的にフィラーと相互作用する物理的処理剤の熱伝導性フィラーへの添加を指す。物理的処理剤は、典型的には、基中にOHを含むオルガノポリシロキサンであり得る。
【0064】
一実施形態によれば、表面処理は、熱伝導性フィラーがオルガノポリシロキサン組成物に組み込まれる前に実行されてもよい。別の実施形態によれば、熱伝導性フィラーは、オルガノポリシロキサン組成物の調製中にその場で処理することができる。
【0065】
上述の成分A、B、C、およびDに加えて、本発明によるオルガノポリシロキサン組成物Xは、任意に他の成分を含んでもよい。
【0066】
一実施形態によれば、本発明によるオルガノポリシロキサン組成物Xは、任意に、熱伝導性フィラーではないフィラーEを含んでもよい。
【0067】
一実施形態によれば、本発明によるオルガノポリシロキサン組成物Xは、必要に応じて架橋阻害剤Fを含んでもよい。阻害剤Fの機能は、ヒドロシリル化反応を遅らせることである。架橋阻害剤Fは、以下の化合物から選択することができる:
- オルガノポリシロキサン、有利には環状で、少なくとも1つのアルケニルによって置換されており、テトラメチルビニルテトラシロキサンが特に好ましい。
- ピリジン、
- ホスフィンおよび有機ホスファイト、
- 不飽和アミン、
- マレイン酸アルキル、および
- アセチレンアルコール。
【0068】
架橋阻害剤Fは、好ましくは式(R1)(R2)C(OH)-C=CHのアセチレンアルコールであり、ここで:
- R1は、直鎖または分岐のアルキルラジカルまたはフェニルラジカルであり、
- R2は、水素原子、直鎖または分岐のアルキルラジカル、またはフェニルラジカルであり、
- R1ラジカルおよびR2ラジカル、ならびに三重結合に対してアルファに位置する炭素原子は、任意に環を形成することができ、
- R1およびR2の炭素原子の総数は、少なくとも5、好ましくは9~20である。
前記アルコールは、好ましくは沸点が250℃を超えるものから選択される。例としては、次の市販製品が挙げられる:1-エチニル-1-シクロヘキサノール、3-メチルドデカ-1-イン-3-オール、3,7,11-トリメチルドデカ-1-イン-3-オール、1,1-ジフェニルプロパ-2-イン-1-オール、3-エチル-6-エチルノナ-1-イン-3-オール、3-メチルペンタデカ-1-イン-3-オール。架橋阻害剤Fは、好ましくは1-エチニル-1-シクロヘキサノールである。
【0069】
本発明によるシリコーンエラストマーを製造するために採用されるプロセスによれば、阻害剤の存在は必要であるか、または必要でない場合がある。必要に応じて、この種の架橋阻害剤は、典型的には、オルガノポリシロキサン組成物Xの総重量に対して最大で3000ppm、好ましくは100ppm~2000ppmで存在し得る。
【0070】
一実施形態によれば、本発明によるオルガノポリシロキサン組成物Xは、当業者によってこの技術分野で伝統的に使用されている他の添加剤、例えば接着促進剤、染料、難燃剤、チキソ剤などのレオロジー剤を任意に含み得る。
【0071】
一実施形態によれば、本発明によるオルガノポリシロキサン組成物Xは、典型的には100μgC/g未満、好ましくは70μgC/g未満、または50μgC/g未満の低レベルの揮発性有機化合物を含有し得る。この目的のために、本発明による組成物に使用されるオルガノポリシロキサン化合物は、それ自体が低レベルの揮発性有機化合物を含む化合物から選択することが好ましい。
【0072】
好ましい一実施形態によれば、本発明によるオルガノポリシロキサン組成物Xは:
- 1分子当たり、少なくとも2つのケイ素結合C2-C6アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンAを5%~30%、好ましくは8%~15%、
- 1分子当たり、少なくとも2つのSiH単位を有するオルガノポリシロキサンBを0.1%~10%、好ましくは0.5%~5%、
- ヒドロシリル化触媒Cを2ppm~400ppm、好ましくは5ppm~200ppm、
- 熱伝導性フィラーDを70%~95%、好ましくは80%~95%、
- 熱伝導性フィラー処理剤Eを0.1%~5%、好ましくは1%~3%、
- 架橋阻害剤Fを100ppm~3000ppm、好ましくは100ppm~2000ppm、含む。
【0073】
パーセンテージおよびppmは、質量によるパーセンテージおよびppmである。触媒Cの重量は、白金金属の重量として計算される。
【0074】
本発明の別の主題は、上記で定義したオルガノポリシロキサン組成物Xを架橋および/または硬化することによって得られる、または得ることができるシリコーンエラストマー、前記エラストマーを得る方法、並びにこの方法で採用される中間組成物である。
【0075】
上記で定義したオルガノポリシロキサン組成物Xは、熱伝導特性を有するシリコーンエラストマーの調製に特に適している。
【0076】
一実施形態によれば、前記エラストマーは、オルガノポリシロキサン組成物Xのすべての成分を含む2成分システムPから調製される。
【0077】
より具体的には、本発明のさらなる主題は、上記で定義したオルガノポリシロキサン組成物Xの前駆体であり、少なくとも成分A、B、C、およびDを含む二成分システムPであり、前記二成分システムPは、混合して前記オルガノポリシロキサン組成物Xを形成するための2つの別個の部分P1およびP2の形態をとり、部分P1またはP2の一方は触媒Cを含みつつオルガノポリシロキサンBを含まず、一方、部分P1またはP2の他方はオルガノポリシロキサンBを含みつつ触媒Cを含まないことを特徴とする。
【0078】
本発明の別の主題は、以下の工程を含むシリコーンエラストマーの調製方法である:
a)上記で定義したオルガノポリシロキサン組成物Xの全成分を含む2成分システムPを供給する工程;
b)前記2成分システムPの2つの部分を混合して、オルガノポリシロキサン組成物Xを得る工程;および
c)前記オルガノポリシロキサン組成物Xを架橋及び/又は硬化して前記シリコーンエラストマーを得る工程。
【0079】
好ましい一実施形態によれば、部分P1は:
- 1分子あたり、少なくとも2つのケイ素結合C2~C6アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンAの一部または全て、
- ヒドロシリル化触媒C、
- 熱伝導性フィラーDの一部または全て、
- 任意の熱伝導性フィラー処理剤E、
を含み、部分P2は:
- 任意の、1分子あたり、少なくとも2つのケイ素結合C2~C6アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンAの一部、
- 1分子あたり、少なくとも2つのSiH単位を有するオルガノポリシロキサンB、
- 熱伝導性フィラーDの一部またはすべて、
- 任意の熱伝導性フィラー処理剤E、
- 任意の架橋阻害剤F、
を含む。
【0080】
熱伝導性フィラーDは、部分P1に、部分P2に、または、部分P1とP2との間で同じ量もしくは異なる量で部分P1とP2の両方に、存在し得る。熱伝導性フィラーDは、有利には、部分P1および部分P2に同じ量で存在し得る。したがって、熱伝導性フィラーDの総量は、オルガノポリシロキサン組成物Xにおいて部分P1と部分P2の混合比率に関わらず一定である。
【0081】
本発明による部分P1およびP2のそれぞれは、当業者に知られている適切な装置で様々な成分を混合することによって得ることができる。
【0082】
本発明の特に有利な一実施形態によれば、部分P1、部分P2、または部分P1およびP2の両方は、オルガノポリシロキサンAの一部またはすべてと、熱伝導性フィラーDの一部またはすべてと、任意の、熱伝導性フィラー処理剤Eとを含む中間組成物から得ることができる。
【0083】
本発明のさらなる主題は中間組成物であり、中間組成物は:
- 1分子あたり、少なくとも2つのケイ素結合C2~C6アルケニル基を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA、および
- 熱伝導性フィラーD、
を含み、
前記熱伝導性フィラーDは、少なくとも40重量%の金属ケイ素を含み、前記熱伝導性フィラーDは、2μm以下の直径を有する粒子を3%~22%含み、粒度分布は、前記フィラーの比d90/d10が20以上であるようなものであることを特徴とする。
【0084】
前記オルガノポリシロキサンAおよび前記熱伝導性フィラーDは、好ましくは上記の通りである。
【0085】
中間組成物中の熱伝導性フィラーDの全重量は、有利には、中間組成物の総重量に対して、70%超であることが有利であり、より好ましくは75%超、より好ましくは80%超、さらにより好ましくは85%~98%の間である。この中間組成物は、熱伝導性フィラーDが特に豊富であるが、オルガノポリシロキサン組成物Xまたは前駆体部分P1および/またはP2を容易に得るために、他の成分で希釈することができる。本発明による中間組成物は、少なくともオルガノポリシロキサンAと熱伝導性フィラーDとを当業者に知られている装置、例えばZアームミキサー(Z-arm mixer)またはバタフライミキサーによって混合することによって得ることができる。熱伝導性フィラーDは、任意に、熱処理、化学処理、または熱処理と化学処理との組み合わせであり得る表面処理を受けることができる。中間組成物は、上述のように、熱伝導性フィラー処理剤Eを任意に含んでもよい。熱伝導性フィラーを中間組成物に混合する前に、熱伝導性フィラーに対して熱処理を行ってもよい。あるいは、オルガノポリシロキサンA、熱伝導性フィラーD、および、任意の、熱伝導性フィラー処理剤Eを混合した後、中間組成物を熱処理してもよい。
【0086】
オルガノポリシロキサン組成物X、および、オルガノポリシロキサン組成物Xの二成分前駆体システムPの部分P1およびP2は、有利には良好な加工特性を有する。その理由は、非常に高い熱伝導性フィラーの含有量の存在にもかかわらず、前記組成物は、有利にはペースト状であり粉末状ではなく、操作が、より具体的には押出による操作が容易だからである。この技術的結果を達成することを可能にする熱伝導性フィラーの良好な特性を決定することに成功したことは、本発明者らの功績に値する。
【0087】
本発明の主題であるシリコーンエラストマーは、オルガノポリシロキサン組成物Xを架橋および/または硬化することによって得られる、または得ることができるが、有利には、1W/m.K以上、好ましくは1.5W/m.K以上、より好ましくは2W/m.K以上、より好ましくは3W/m.K以上、より好ましくは3W/m.K~7W/m.Kの間の熱伝導率を有する。
【0088】
さらに、前記シリコーンエラストマーは、有利には、4g/cm3以下、好ましくは3g/cm3以下、より好ましくは2g/cm3未満の密度を有する。
【0089】
本発明によるシリコーンエラストマーは、有利なことに、使用後に容易にリサイクルすることができる。これは、特に熱伝導性フィラー自体が非常に高レベルの金属ケイ素を含む場合、このエラストマーが非常に高レベルのシリコン元素を含むことが好ましいからである。使用済みのシリコーンエラストマーは、燃焼炉を使用して有利に再利用することができる。
【0090】
前記シリコーンエラストマーは、様々な技術分野、特にエレクトロニクス分野、電気用途、および自動車分野で熱伝導性材料として有利に使用することができる。前記シリコーンエラストマーは、熱伝導性コーティング(すなわち、ポッティング)またはフィリング(すなわち、ギャップフィラー)材料として、特にバッテリー、例えば、電気自動車およびハイブリッド自動車のバッテリーだけでなく、定置用バッテリーにも有利に使用することができる。エレクトロニクス分野では、本発明によるシリコーンエラストマーは、5Gデバイスの熱伝導性材料として有利に使用することができる。
【実施例
【0091】
以下に例示するシリコーン組成物は、次の出発物質から得られた:
A:末端ビニル化シリコーンオイル、ビニル基含有量1.2重量%、粘度=100mPa.s
B1:末端(α/ω)SiH基を有するハイドロジェノジメチルポリシロキサンオイル、5.7重量%のSiHビニル基含有量、粘度=8.5mPa.s
B2:中鎖および末端(α/ω)SiH基を有するポリ(メチルハイドロジェノ)(ジメチル)シロキサンオイル、7.3重量%のSiHビニル基含有量、粘度=30mPa.s
C:カールシュテット(Karstedt)白金触媒、10重量%の白金金属を含む
D1:シリコンパウダー(純度>99%)、d10=42.3μm、d50=70μm、d90=112μm、d100=200μm
D2:シリコン粉末(純度>99%)、d10=15μm、d50=31.6μm、d90=54μm、d100=100μm
D3:シリコン粉末(純度>99%)、d10=6.4μm、d50=10.4μm、d90=16.4μm、d100=30μm
D4:シリコン粉末(純度>99%)、d10=2μm、d50=10.7μm、d90=26μm、d100=60μm
D5:シリコン粉末(純度>99%)、d10=0.9μm、d50=2.7μm、d90=5.3μm、d100=10μm
D6:シリコン粉末(純度>99%)、d10=4.0μm、d50=10μm、d90=25
D7:アルミナ粉末、d10=1μm、d50=5.7μm、d90=12.3μm
D8:アルミナ粉末、d10=18μm、d50=46μm、d90=73μm
D9:アルミナ粉末、d10=0.3μm、d50=2.4μm、d90=18μm
D10:酸化亜鉛粉末、d10=0.2μm、d50=1.5μm、d90=5μm
E1:オクチルトリメトキシシラン
F:1-エチニル-1-シクロヘキサノール(ECH)
【0092】
以下の実施例において、フィラーの粒度は、レーザー回折法によって測定される:
- 「d10」は、フィラーの粒度分布の累積度数体積の10%に対応する特性直径に対応する。
- 「d50」は、フィラーの粒度分布の累積度数体積の50%に対応する特性直径に対応する。
- 「d90」は、フィラーの粒度分布の累積度数体積の90%に対応する特性直径に対応する。
- 「d100」は、フィラーの粒度分布の累積度数体積の100%に対応する特性直径に対応する。
- 2μm以下の直径を有する粒子の含有量は、レーザー回折によって測定された2μm以下の直径を有するすべての粒子の体積を合計することによって得られる体積含有量である。
【0093】
実施例1~17:
部分P1およびP2に対応するシリコーン組成物は、以下のプロトコルに従って調製された:
部分P1について:熱伝導性フィラーD、シリコーンオイルAおよび触媒Cを、以下の表1に示す濃度に従って、スピードミキサーで毎分1800回転で混合した。熱伝導性フィラーの濃度は85%である。
部分P2について:熱伝導性フィラーD、シリコーンオイルA、シリコーンオイルB1およびB2、ならびに1-エチニル-1-シクロヘキサノールFを、以下の表1に示す濃度に従って、スピードミキサーで毎分1800回転で混合した。熱伝導性フィラーの濃度は85%である。
【0094】
【表1】
【0095】
実施例1~17は、以下の表2および表3に記載のように熱伝導性フィラーDを変化させて、上記の製造プロトコルに従うことによって実現された。
【0096】
得られた組成物の加工特性を視覚的に評価し、以下のように分類した:
「--」=非常に悪い-粉末状の外観
「-」=不良-崩れ(クランブル)、凝集体の外観
「+」=良好-ペースト状の外観
「++」=非常に良い-ペースト状の外観で滑らか。
結果を以下の表2および表3に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
実施例18~22
実施例18~22は、スピードミキサー(毎分1800回転での2分間の撹拌を2回)を使用して、85%の熱伝導性フィラーDを15%のシリコーンオイルAと混合し、以下の表4に記載するように熱伝導性フィラーDを変化させながら実現した。得られた組成物の加工特性を、前述のように視覚的に評価した。例示した組成物から得られるエラストマー材料の熱伝導率および密度を計算によって推定した。
【0100】
【表4】
【0101】
実施例23
工程1:中間組成物の製造
熱伝導性フィラーDを89%、シリコーンオイルAを9%、オクチルトリメトキシシランE1を2%(それぞれ質量百分率)、Zアームミキサーで30分間混合した。得られた組成物を150℃で2時間熱処理した。
【0102】
熱伝導性フィラーDは、60重量%のフィラーD2および40重量%のフィラーD5からなる。フィラーの特徴:
- 直径が2μm以下の粒子の割合=13.7%
- d90/d10=32.
【0103】
工程2:部分P1およびP2の製造
部分P1について:工程1で得られたペースト状配合物を、以下の表5に示される濃度に従ってシリコーンオイルAおよび触媒Cで希釈する。熱伝導性フィラーの濃度は85%である。
部分P2について:工程1で得られたペースト状配合物を、以下の表5に示される濃度に従って、シリコーンオイルA、シリコーンオイルB1およびシリコーンオイルB2、ならびに1-エチニル-1-シクロヘキサノールFで希釈する。熱伝導性フィラーの濃度は85%である。これらの希釈製剤は、スピードミキサーで毎分1800回転で混合することによって得られる。部分P1と部分P2の加工特性は非常に良好であった。
【0104】
工程3:熱伝導性シリコーン組成物および熱伝導性シリコーンエラストマーの製造
工程2で得られた部分P1およびP2をスピードミキサーで1:1の比率で混合した。得られた混合物を減圧脱気した後、型に流し込んだ。次いで、型内の混合物を、100℃で2バールの圧力で30分間加熱プレスに入れた。
【0105】
【表5】
【0106】
エラストマーの熱伝導率は、ISO規格22007-2(「熱伝導率と熱拡散率の決定。パート2:過渡面熱源(ホットディスク)法」)に記載されている過渡面源法(TPS法)に従ってHot Disk TPS 2200デバイスを使用して測定された。エラストマーの熱伝導率は3.42W/m.Kであった。エラストマーの密度は1.94g/cm3であった。