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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/00 20060101AFI20240722BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20240722BHJP
   C08G 73/00 20060101ALI20240722BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20240722BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240722BHJP
   C08K 3/016 20180101ALI20240722BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C08L79/00 Z
C08L71/12
C08G73/00
C08L25/04
C08K3/36
C08K3/016
C08K5/54
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023076970
(22)【出願日】2023-05-08
(65)【公開番号】P2024091227
(43)【公開日】2024-07-04
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】111149617
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲徳▼超
(72)【発明者】
【氏名】黄 威儒
(72)【発明者】
【氏名】張 宏毅
(72)【発明者】
【氏名】劉 家霖
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-080459(JP,A)
【文献】特開2010-018791(JP,A)
【文献】国際公開第2020/262579(WO,A1)
【文献】特開2021-521312(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172342(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/090351(WO,A1)
【文献】特開2023-079174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/00
C08L 71/12
C08G 73/00
C08L 25/04
C08K 3/36
C08K 3/016
C08K 5/54
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン酸エステル樹脂と、
ビスマレイミド樹脂と、
以下の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂と、を備える樹脂組成物。
【化1】
式中、Rはビスフェノール化合物の2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置する化学基を表し、nは3~25の整数である。
【請求項2】
前記シアン酸エステル樹脂の重量比が、20重量%~40重量%の範囲である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性ポリフェニレンエーテル樹脂の重量比が、60重量%以下の範囲である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ビスマレイミド樹脂の重量比が、60重量%以下の範囲である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
スチレン系樹脂をさらに含み、前記スチレン系樹脂の重量比が、10重量%~30重量%の範囲である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
触媒、難燃剤、二酸化ケイ素、シリコーンカップリング剤、又はそれらの組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記触媒の量が、0.005phr~1phrの範囲である、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記難燃剤の量が25phr~40phrの範囲である、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記二酸化ケイ素の重量比が、40重量%~70重量%の範囲である、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記シリコーンカップリング剤の量が、0.1phr~5phrの範囲である、請求項6に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン酸エステル樹脂(トリアジン)とビスマレイミド樹脂から誘導されるビスマレイミドトリアジン(BT)樹脂ベースのシステムは、高剛性、低熱膨張係数、高ガラス転移温度(Tg)、高剥離強度などを有する樹脂組成物であり、さまざまな産業分野で広く使用されている。したがって、主にBT樹脂ベースのシステムに基づいて、どのように樹脂組成物を改善し、競争力のあるものにするかは、当業者が開発する緊急の目標である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、主に樹脂ベースの樹脂組成物をいかに競争力のあるものにするかを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、BT樹脂ベースのシステムのガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水率、耐熱性、誘電率、及び/又は誘電損失などの点で、その性能を効果的に改善することができ、競争力を有する樹脂組成物を提供する。
【0005】
本発明の樹脂組成物は、以下の構造式を有する、シアン酸エステル樹脂、ビスマレイミド樹脂及び変性ポリフェニレンエーテル樹脂を含む。
【化1】
式中、Rはビスフェノール化合物の2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置する化学基を表し、nは3~25の整数である。
【0006】
本発明の一実施形態において、シアン酸エステル樹脂の重量比は、20重量%から40重量%の範囲である。
【0007】
本発明の一実施形態において、変性ポリフェニレンエーテル樹脂の重量比は、60重量%以下の範囲である。
【0008】
本発明の一実施形態において、ビスマレイミド樹脂の重量比は、60重量%以下の範囲である。
【0009】
本発明の一実施形態において、樹脂組成物はさらにスチレン樹脂を含み、スチレン樹脂の重量比は、10重量%から30重量%の範囲である。
【0010】
本発明の一実施形態において、樹脂組成物は、触媒、難燃剤、二酸化ケイ素、シリコーンカップリング剤、又はそれらの組み合わせを含む。
【0011】
本発明の一実施形態において、触媒の量は、0.005phrから1phrの範囲である。
【0012】
本発明の一実施形態において、難燃剤の量は、25phrから40phrの範囲である。
【0013】
本発明の一実施形態において、二酸化ケイ素の重量比は、40重量%から70重量%の範囲である。
【0014】
本発明の一実施形態において、シリコーンカップリング剤の量は、0.1phrから5phrの範囲である。
【発明の効果】
【0015】
以上により、本発明では、樹脂組成物において主にBT樹脂ベースのシステムを使用し、架橋剤としてシアン酸エステル樹脂を特定の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂と組み合わせる。このようにして、シアン酸エステル樹脂と上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂の化学構造との官能基の相互作用により良好な反応性が生成されるので、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水率、耐熱性、誘電率及び/又は誘電損失などの点で効果的に性能を向上させ、競争力を高めることができる。
【0016】
本発明の特徴及び利点をより理解しやすくするために、以下の実施形態を引用し、以下に詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかしながら、これらの実施形態は例示であり、本発明はそれに限定されない。
【0018】
ここで、「ある値から別の値」によって示される範囲は、発明の詳細な説明において範囲内のすべての値を列挙することを回避するための一般的な表現である。したがって、特定値の範囲、この数値範囲内の任意の数、及びその数値範囲内の任意の数で区切られた任意のより小さな数値範囲の記録は、そのような任意の数及びそのようなより小さな数値範囲が、明細書に明示的に記載されているとみなされるべきである。
【0019】
本実施形態において、樹脂組成物は、シアン酸エステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、及び構造式(1)を有する変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂を含み、式中、Rは、ビスフェノール化合物の2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置する化学基を表し、nは3~25の整数である。したがって、本発明は、樹脂組成物において主にBT樹脂ベースのシステムを使用し、架橋剤としてシアン酸エステルエステル樹脂を特定の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂と組み合わせ、ここのようにして、シアン酸エステル樹脂と上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂の化学構造との官能基相互作用により良好な反応性が生成されるので、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水率、耐熱性、誘電率及び/又は誘電損失などの点でその性能を効果的に改善することができ、競争力を向上させることができる。ここで、変性ポリフェニレンエーテル樹脂及びシアン酸エステル樹脂について以下に詳細に説明する。
【0020】
【化1】
【0021】
さらに、多くの樹脂ベースのシステムの中で、本発明は、BT樹脂ベースのシステムにおいて、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水率、耐熱性、誘電率及び/又は誘電損失などの樹脂組成物の多くの特性が大幅に改善されることを明確に示している。これに基づいて、本発明の樹脂組成物は、BT樹脂ベースのシステムの応用分野において有益な効果を有することを明確に示している。
【0022】
いくつかの実施形態において、樹脂組成物は、回路基板に適用することができ、ここで、樹脂組成物からなる回路基板の誘電率は3.1~3.3であり、誘電損失は0.025未満であり、ガラス転移温度は250℃超であり、熱膨張係数は15ppm/°C未満であり、剥離強度は4lb/in超であり、吸水率は0.35%未満であるため、樹脂組成物は低耐水性及び低誘電特性であり得る。例えば、5G通信の応用分野では、回路基板の高周波伝送のニーズを満たすために、より低吸水率及び低誘電特性が求められており、現在のBT樹脂ベースのシステムは、しばしば吸水率及び高誘電特性の問題を抱えている。したがって、本発明は、変性ポリフェニレンエーテル樹脂とシアン酸エステル樹脂の反応性が、樹脂ベースのシステムの吸水率と誘電特性を効果的に低下させることができることを明確に示している。すなわち、本発明の樹脂組成物を5G通信に適用した場合、技術的性能が大幅に向上するが、本発明はこれに限定されない。
【0023】
シアン酸エステル樹脂
【0024】
いくつかの実施形態において、ロンザ株式会社によって製造されたシアン酸エステル官能基を有するシアン酸エステル樹脂のBA230及びPT60などのシアン酸エステルエステル樹脂が記載されるが、本発明はこれに限定されない。
【0025】
いくつかの実施形態において、シアン酸エステル樹脂の重量比は、樹脂組成物の樹脂の全重量に基づき、20重量%~40重量%(例えば、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、又は上記20重量%~40重量%内の任意の値)の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
【0026】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂
【0027】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法は、以下の工程を順に含む。本実施形態における工程の順序及び実際の操作方法は、必要に応じて調整することができ、本実施形態に限定されないことに留意されたい。
【0028】
高分子量ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂材料が提供され、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、第1の数平均分子量(Mn)を有し、ここで、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の第1の数平均分子量(Mn)は、18,000以上、好ましくは20,000以上であるが、本発明はこれに限定されない。
【0029】
高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の一般的な化学構造式(1-1)は次のとおりである。式中、nは150~330、好ましくは165~248の整数である。
【化2】
【0030】
いくつかの実施形態において、ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、ポリフェニレンオキシド(PPO)ともいう。ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、絶縁性、耐酸及び耐アルカリ性に優れ、誘電率に優れ、低誘電損失である。したがって、ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、より優れた電気的特性を有し、ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、高周波プリント回路基板用の絶縁基板材料としての使用により適しているが、本発明はこれに限定されない。
【0031】
高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料が提供された後、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の分解工程が実行され、これにより、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、第2の数平均分子量及びビスフェノール官能基(フェノール末端基を有する低分子 PPE ともいう)を有する低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料が形成され、第2の数平均分子量は第1の数平均分子量(つまり、分解前のポリフェニレンエーテル樹脂材料の数平均分子量)よりも小さく、ここで、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の第2の数平均分子量(Mn)は、12,000以下、好ましくは10,000以下であるが、本発明はこれに限定されない。
【0032】
より具体的には、分解工程は、ビスフェノール(フェノール材料)と、第1の数平均分子量(すなわち、大分子量PPE)を有する高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料と、過酸化物の存在下で反応する。したがって、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、第1の数平均分子量よりも小さい第2の数平均分子量を有する低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料に分解される。低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の片側は、フェノール官能基で変性されており、その一般化学構造式(1-2)は次の通りである。式中、Rは、その2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を表す。
【化3】
【0033】
例えば、以下の表2に示されるように、Rは、例えば、直接結合、メチレン、エチリデン、イソプロピリデン、1-メチルプロピル、スルホン、又はフルオレンであってよく、nは3から25、好ましくは10から18の整数である。いくつかの実施形態において、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の数平均分子量(Mn)は、一般に、500g/モルから5,000g/モル、好ましくは1,000g/モルから3,000、特に好ましくは1,500g/モルから2,500gである。また、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の重量平均分子量(Mw)は、一般に、1,000g/モルから10,000g/モル、好ましくは1,500g/モルから5,000g/モル、特に好ましくは2,500g/モルから4,000g/モルであるが、本発明はこれに限定されない。
【0034】
いくつかの実施形態において、ビスフェノール化合物は、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールS、ビスフェノールフルオレン、4,4’-エチリデンビスフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、3,5,3’,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパンからなる群から選択される少なくとも1つである。ビスフェノール化合物の種類を下記表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
上記ビスフェノール化合物の2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置する化学基を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
いくつかの実施形態において、過酸化物の材料は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンジル、及び過酸化ジクミルからなる群から選択される少なくとも1つである。過酸化物の材料タイプを下記表3に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
分解工程を行った後、硝化工程を行い、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料をニトロ化反応させ、さらに、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の両端を、それぞれニトロ官能基(末端ニトロPPEとも呼ばれる)で変性する。その一般化学構造式(1-3)は次の通りである。
【化4】
【0041】
より具体的には、ニトロ化工程は、以下を含む。4-ハロニトロベンゼン材料と、分解され、ビスフェノール官能基で変性された低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を使用して、アルカリ環境でニトロ化を行い、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の両端をそれぞれニトロ官能基で変性する。ニトロ化は、4-ハロニトロベンゼン材料と低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を使用してアルカリ環境で行われ、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の末端は、負に帯電した酸素イオンを形成する。負に帯電した酸素イオンは、4-ハロニトロベンゼンを攻撃しやすく、4-ハロニトロベンゼンのハロゲンが除去され、ニトロベンゼン官能基がそれぞれさらに低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の両端で変性される。つまり、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の両端は、上記の反応メカニズムにより、それぞれニトロ官能基で変性され得る。
【0042】
いくつかの実施形態において、ニトロ化工程は、ポリフェニレンエーテル樹脂材料を、pH値8~14、好ましくは10~14のアルカリ性環境でニトロ化させることであるが、本発明はこれに限定されない。
【0043】
いくつかの実施形態において、4-ハロニトロベンゼン材料の一般的化学構造式は、
【化5】
であり、材料の種類は下記表4に示す通りであり、Xはフッ素元素(F)、塩素元素(Cl)、臭素元素(Br)、又はヨウ素元素(I)であることが好ましい。
【0044】
【表4】
【0045】
硝化工程が実行された後、水素化工程が実行され、ポリマー鎖の両端でそれぞれ変性されたニトロ官能基を有する低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料が水素化され、鎖の両端がそれぞれ低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料(末端アミン基PPE)のアミノ官能基に変性されるように還元される。その一般化学構造式(1-4)は次の通りである。
【化6】
【0046】
より具体的には、水素化工程は、ポリマー鎖の両端でそれぞれ変性されたニトロ官能基を有する低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料と、水素化溶媒を用いて水素化反応を行う工程を含み、ここで、水素化溶媒の材料の種類は、ジメチルアセトアミド(DMAC、CAS番号 127-19-5)、テトラヒドロフラン(THF、CAS番号 109-99-9)、トルエン(CAS番号 108-88-3)、及びイソプロパノール(CAS番号 67-63-0)を含む材料からなる群の少なくとも1つから選択される。いくつかの実施形態において、水素化溶媒としてジメチルアセトアミドを使用すると、水素化工程で優れた水素化変換効率 (99%超の水素化変換効率など)を達成できるが、本発明はこれに限定されない。なお、水素化変換効率を制御するパラメータには、(1)溶媒の選択と混合溶媒の比率、(2)触媒添加量、(3)水素化反応時間、(4)水素化反応温度、及び(5)水素化反応圧力が含まれることに言及する価値がある。水素化溶媒の材料の種類を下記表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
水素化工程が実行された後、上記水素化工程で形成され、ポリマー鎖の両端がそれぞれアミノ官能基で変性されている低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料(つまり、末端アミン基PPE)と、無水マレイン酸と、を反応させ、変性ポリフェニレンエーテル樹脂を合成することを含む合成工程を実行する。その一般的化学構造式(1-5)は次の通りである。
【化7】
式中、Rは、その2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を表し、nは3から25、好ましくは10から18の整数であり、無水マレイン酸の化学構造は次の通りである。
【化8】
【0049】
より具体的には、合成工程では、ポリマー鎖の両端がそれぞれアミノ官能基で変性されている低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料(つまり、末端アミン基PPE)は、最初に無水マレイン酸と混合され、開環反応が起こる。そして、合成工程は、さらに脱水剤としてp-トルエンスルホン酸(p-toluene-sulfonic acid)を用いて閉環反応を起こし、変性ポリフェニレンエーテル樹脂を合成する。ポリマー鎖の両端が、それぞれ上記の工程で形成されたビスマレイミドで変性された低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、その化学構造が主鎖のポリフェニレンエーテルを有し、ポリマー鎖の末端位置が耐熱性の高い反応性基(ビスマレイミド)に変性されている。これにより、合成樹脂材料は、比較的低誘電率及び低誘電損失を有することに言及しておく価値がある。以上の一連の材料変性工程に従って、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料に分解することができ、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の分子構造をビスフェノール官能基で変性することができ、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の両端は、さらにビスマレイミドで変性されることができる。
【0050】
いくつかの実施形態において、変性ポリフェニレンエーテル樹脂の重量は、樹脂組成物の樹脂の全重量に基づき、60重量%以下(例えば、5重量%、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、60重量%、又は上記の範囲内の任意の値)の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
【0051】
いくつかの実施形態において、樹脂組成物は、ビスマレイミド樹脂をさらに含み、それは、フェニルメタンマレイミド樹脂(CAS番号:67784-74-1;BMI-2300(大和化学工業株式会社製、商品名、構造式(A)など)など)、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン(CAS番号:105391-33-1;BMI-70(K.I.化学製、商品名、構造式(B)など)など)、又はその組み合わせであって良いが、本発明はこれに限定されない。
【0052】
構造式(A)
【化9】
【0053】
構造式(B)
【化10】
【0054】
いくつかの実施形態において、ビスマレイミド樹脂の重量比は、樹脂組成物の樹脂の全重量に基づき、60重量%以下(例えば、5重量%、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、60重量%、又は上記60重量%以下の範囲内の任意の値)の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
【0055】
いくつかの実施形態において、フェニルメタンマレイミド樹脂の重量比は、樹脂組成物の樹脂の全重量に基づき、40重量%以下(例えば、0重量%、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、又は上記範囲内の任意の値で40重量%以下)であり、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタンの重量比は、0重量%から30重量%(例えば、0重量%、5重量%、10重量%、20重量%、30重量%、又は0重量%から30重量%までの任意の値) の範囲であり、ここで、フェニルメタンマレイミド樹脂及びビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタンの少なくとも1つは、0重量%ではないが、本発明はこれに限定されない。
【0056】
いくつかの実施形態において、樹脂組成物は、スチレン樹脂をさらに含み、ここで、スチレン(SB)樹脂は、スチレン系の比率が10%から40%、1,2ビニルの比率が60%から90%、及び1,4ビニルの比率が10%から30%である。スチレン樹脂の分子量(MW)は約3500から5500である。さらに、液状ゴムの代わりにSBS樹脂を使用することで、樹脂間の相分離が改善され、流動性と充填性が向上し、低誘電特性を維持しながら全体の加工性を向上させることができるが、本発明はこれに限定されない。
【0057】
いくつかの実施形態において、スチレン系樹脂の重量比は、樹脂組成物の樹脂の全重量に基づき、10重量%から30重量%(例えば、10重量%、15重量%、20重量%、30重量%、又は上記10重量%から30重量%内の任意の値)の範囲であるが、本発明はこれに限定されない。
【0058】
いくつかの実施形態において、樹脂組成物はまた、触媒、難燃剤、二酸化ケイ素、シリコーンカップリング剤、又はそれらの組み合わせを含み、触媒の量は、0.005phrから1phr(例えば、0.005phr、 0.01phr、0.05phr、0.1phr、0.5phr、1phr、又は上記の0.005phrから1phr内の任意の値) の範囲であり、難燃剤の量は 25phrから40phr(例えば、25phr、30phr、32phr、34phr、38phr、40phr、又は上記の25phrから40phr内の任意の値)の範囲であり、二酸化ケイ素の重量比は、40重量%から70重量%(例えば、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、70重量%、又は上記の40重量%から70重量%内の任意の値)の範囲であり、使用されるシリコーンカップリング剤の量は、0.1phrから5phrの範囲(例えば、0.1phr、0.5phr、1phr、2phr、3phr、5phr、又は上記0.1phrから5phr内の任意の値)であるが、本発明はこれに限定されない。ここで、phrの単位は、樹脂組成物の樹脂100重量部あたりに加えられる他の材料の重量部として定義することができ、二酸化ケイ素の重量比は、樹脂組成物の樹脂の重量に難燃剤を加えた重量に基づいて得られ、ここで、樹脂組成物の樹脂は、例えば、シアン酸エステル樹脂、スチレン樹脂、ビスマレイミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、又はそれらの組み合わせである。
【0059】
いくつかの実施形態において、触媒は、2-エチル 4-メチルイミダゾール(2E4MZ; CAS: 931-36-2;
【化11】
であって良い)であって良く、樹脂の熱硬化中の反応性を向上させることができるが、本発明はこれに限定されない。
【0060】
いくつかの実施形態において、難燃剤は、ハロゲンを含まない難燃剤であり、特定の実施例では、リン系難燃剤であって良く、トリフェニルホスフェート(TPP)、レゾルシノールジホスフェート(RDP)、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート(BPAPP)、ビスフェノールAビス(ジメチル)ホスフェート(BBC)、レゾルシノールジホスフェート(CR-733S)、レゾルシノール-ビス(ジ-2,6-ジメチルフェニルホスフェート)(PX-200)から選択されるリン酸エステルであって良く、ポリ(ビス(フェノキシ)ホスファゼン(SPB-100)、ポリリン酸アンモニウム、メラミンポリリン酸(MPP)、シアヌル酸メラミンなどのホスファゼン(phosphazene)から選択されても良く、DOPO(構造式(C)など)、DOPO-HQ (構造式(D)など)、二重 DOPO誘導体構造(構造式(E)など)などDOPO類の難燃剤から選択される1以上の組み合わせであっても良く、アルミニウム含有次亜リン酸脂質(構造式(F)など)であっても良い。
【化12】
【0061】
いくつかの実施形態において、二酸化ケイ素は球状の二酸化ケイ素であり、好ましくは電気的特性を低下させ、流動性及びゲル充填特性を維持するために合成法を使用して調製することができ、ここで、球状の二酸化ケイ素は、アクリル又はビニルより表面改質され、純度は99.0%超であり、平均粒子径(D50)は約2.0マイクロメートル(μm)から3.0μmであるが、本発明はこれに限定されない。
【0062】
いくつかの実施形態において、シリコーンカップリング剤は、シロキサン化合物を含むことができるが、これに限定されない。また、官能基の種類によって、アミノシラン化合物、エポキシシラン化合物、ビニルシラン化合物、エステルシラン化合物、ヒドロキシシラン化合物、イソシアン酸エステルシラン化合物、メチルアクリルオキシシラン化合物、及びアクリルオキシシラン化合物に分けることができ、回路基板のグラスファイバークロスとパウダーの相溶性と架橋度を高めるが、本発明はこれに限定されない。
【0063】
本発明の樹脂組成物は、実際の設計の必要性に基づき、プリプレグ及び銅被覆基板(CCL)に加工することができ、以上で列挙された特定の実施は、樹脂組成物が本発明の保護範囲に属する限り、本発明を限定するものではないことに留意されたい。
【0064】
以下の実施例及び比較例は、本発明の効果を説明するために記載されるが、本発明の保護範囲は、実施例の範囲に限定されない。
【0065】
各実施例及び比較例の銅箔基材を以下の方法に基づいて評価した。
【0066】
ガラス転移温度(°C)は、動的機械分析装置(DMA)で試験された。
【0067】
吸水率(%):試料を圧力鍋で120℃、2気圧で120分間加熱後、加熱前後の重量変化を算出した。
【0068】
288℃はんだ耐性及び耐熱性(秒):試料をプレッシャークッカーにて120℃、2気圧で120分加熱後、288℃のはんだ炉に浸漬し、試料が爆発して剥離する時間が記録された。
【0069】
誘電率(Dk):誘電率(Dk)は、アジレントE4991A 誘電アナライザ(Dielectric Analyzer)により、10GHzの周波数で測定された。
【0070】
誘電損失(Df):誘電損失(Df)は、アジレントE4991A 誘電アナライザ(Dielectric Analyzer)により、10GHzの周波数で測定された。
【0071】
熱膨張係数(CTE)は、熱機械分析装置(TMA)で試験された。
【0072】
銅箔剥離強度(ポンド/インチ):銅箔と回路キャリア間の剥離強度が試験された。
【0073】
実施例1~4及び比較例1
【0074】
表1の樹脂組成物をトルエンと混合して熱硬化性樹脂組成物のワニスを形成し、このワニスをNANYAガラス繊維クロス(ナン・ヤー・プラスチックス製、クロスタイプ:1078LD)に室温で含浸させ、次いで130℃で(含浸機により)数分間乾燥させ、樹脂含有量が70重量%のプリプレグを得た。最後に、厚さ35μmの銅箔2枚の間に4枚のプリプレグを重ね、圧力25kg/cm、温度85℃で20分間一定温度に保ち、昇温速度3℃/分で210℃まで昇温し、さらに120分間一定温度に保持した後、130℃まで徐冷し、厚さ0.59mmの銅箔基板を得た。ここで、表6の変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、低分子PPE(Mn=1,600)に分解され、溶媒においてジメチルアセトアミドに溶解し、炭酸カリウム及びテトラフルオロニトロベンゼンを添加し、温度を140℃に上げ、温度を8時間反応させた後、室温に下げ、濾過して固体を除去し、溶液をメタノール/水で沈殿させた沈殿物が生成物(PPE‐NO)である。次に、生成物を溶媒(ジメチルアセトアミド)に入れ、90℃で8時間水素化したものがPPE-NHである。生成物をトルエンに入れ、無水マレイン酸とp-トルエンスルホン酸を添加し、120℃に昇温して還流し、8時間反応させて変性ポリフェニレンエーテル樹脂を得た。
【0075】
製造された銅箔基板の物理的特性を試験し、結果を表6に詳細に示す。表6における実施例1~4と比較例1の結果を比較すると、比較例1と比較して、実施例1~4は、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水率、耐熱性、誘電率及び/又は誘電損失などの点で、その性能を効果的に改善することができるという結論を導き出すことができる。
【0076】
【表6】
【0077】
上述の回路基板が実施例として使用されているが、本発明のBT樹脂ベースのシステムの応用分野は、回路基板の分野に限定されず、吸水性及び耐熱性コーティング材料など、当業者が均等に応用し得るその他の分野も同様に、すべて本発明の保護範囲に属することに注意されたい。
【0078】
まとめると、本発明は、樹脂組成物において主にBT樹脂ベースのシステムを使用し、架橋剤としてシアン酸エステル樹脂を特定の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂と組み合わせる。このようにして、シアン酸エステル樹脂と上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂の化学構造との官能基相互作用により良好な反応性が生成されるので、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水率、耐熱性、誘電率及び/又は誘電損失などの点でその性能を効果的に向上させ、競争力を高めることができる。
【0079】
本発明を上記の実施形態に開示したが、実施形態は本発明を限定することを意図していない。当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、いくつかの変更及び修正を行うことができる。本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0080】
樹脂組成物は、樹脂組成物の分野に適用することができる。