(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】コンデンサーマイクロフォンにおける自己ノイズの低減方法
(51)【国際特許分類】
H04R 19/01 20060101AFI20240722BHJP
H04R 19/04 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H04R19/01
H04R19/04
(21)【出願番号】P 2023098845
(22)【出願日】2023-06-16
(62)【分割の表示】P 2019210553の分割
【原出願日】2019-11-21
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】505424505
【氏名又は名称】川上 福司
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(72)【発明者】
【氏名】川上 福司
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-175509(JP,A)
【文献】特表2017-508394(JP,A)
【文献】特開2005-151267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 19/01
H04R 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板及び固定電極を備えるコンデンサーマイクロフォンにおける自己ノイズの低減方法であって、
前記固定電極は、第1固定電極と第2固定電極からなり、
前記第1固定電極は前記振動板の一方の側に空気層を介して配置され、
前記第2固定電極は前記振動板の他方の側に空気層を介して配置され、
前記一方の側の空気層を第1空気層、前記他方の側の空気層を第2空気層と称するときに、
前記第1空気層の厚みを、前記第2空気層の厚みと同等にすることにより、
前記第1空気層の空気の粒子が前記振動板に衝突する確率を、前記第2空気層の空気の粒子が前記振動板に衝突する確率と等しくなるようにして、
空気の粒子の衝突に起因する前記振動板の出力をほぼゼロにするようにしたコンデンサーマイクロフォンにおける自己ノイズの低減方法。
【請求項2】
振動板及び固定電極を備えるコンデンサーマイクロフォンにおける自己ノイズの低減方法であって、
前記固定電極は、第1固定電極とダミー電極からなり、
前記第1固定電極は前記振動板の一方の側に空気層を介して配置され、
前記ダミー電極は前記振動板の他方の側に空気層を介して配置され、
前記一方の側の空気層を第1空気層、前記他方の側の空気層を第2空気層と称するときに、
前記第1空気層の厚みを、前記第2空気層の厚みと同等にすることにより、
前記第1空気層の空気の粒子が前記振動板に衝突する確率を、前記第2空気層の空気の粒子が前記振動板に衝突する確率と等しくなるようにして、
空気の粒子の衝突に起因する前記振動板の出力をほぼゼロにするようにしたコンデンサーマイクロフォンにおける自己ノイズの低減方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のコンデンサーマイクロフォンにおける自己ノイズの低減方法であって、
前記固定電極は、音が通過する穴を有し、
前記穴は、0.1mm~2.0mmの穴径で、単位面積当たりの開口面の総和を前記単位面積で除して得られる開口率が10%超えないように穴数が決められているコンデンサーマイクロフォンにおける自己ノイズの低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサーマイクロフォンの改良技術に関する。
自己ノイズの元凶が振動板両側の物理条件の不一致にあると考え、『振動板への音の入射を妨げることなく、両側の物理的な条件を等しくする』ことにより自己雑音の除去・低減を図る、というのが発明の本旨である。
【背景技術】
【0002】
直流バイアス型コンデンサーマイクロフォンとエレクトレット型コンデンサーマイクロフォンは、広く実用化されている(例えば、特許文献1(
図1)参照。)。
【0003】
図17は従来のエレクトレット型コンデンサーマイクロフォン(pre-polaroid condenser microphone型, 略称・通称:ECM)の基本構成を説明する図であり、コンデンサーマイクロフォン100では、金属筐体101に、テーパー付きリング102が収納され、テーパー付きリング102の形成されているテーパー103に振動板104が当てられ、この振動板104が突き上げリング105で抑えられ、この突き上げリング105がリングナット106で押し上げられる。このリングナット106のねじ込み量を調節することで、振動板104の張力が調節される。
【0004】
突き上げリング105にナット形状のガラス製保持具107がねじ込まれ、このガラス製保持具107に背極と呼ばれる固定電極108が載せられ、止めねじ状の端子109で固定される。固定電極108に、エレクトレット膜111が貼られている。
【0005】
振動板104と固定電極108との間に微小隙間が設定されており、振動板104が振動すると、振動板104と固定電極108との間の静電容量が変化する。この電気情報は、端子109からコンデンサー112及びプリアンプ113を介して、電圧の形態で取り出される。
【0006】
このような構造のコンデンサーマイクロフォン100は、構造が簡単で、安価であるため広く普及している。
ところで、本発明者は、コンデンサーマイクロフォンに固有のノイズ(騒音)の研究する中で、周囲の音を消している完全無音空間に置かれているにも拘わらず、コンデンサーマイクロフォン100から、30dB-SPL(以下、dBと略記)程度の自己ノイズが出力されることを知見した。
【0007】
この自己ノイズは、コンデンサーマイクロフォン100の音響測定精度、特に測定下限に影響を与え微小音量の測定には有害である。
先ず、プリアンプ113を疑った。プリアンプ113が、自己ノイズの発生源であると仮定して、プリアンプ113を徹底的に改善したが、自己ノイズを低減することはできなかった。
【0008】
そのため、従来のコンデンサーマイクロフォン100は、不可避的に自己ノイズの問題を抱えている。そしてこの自己ノイズはコンデンサーマイクロフォンに固有のものであり、プリアンプなど電子的な発生源に由来するものではないことが分かってきた。
しかし、音響測定精度の向上が求められる中、自己ノイズがゼロ(又はほぼゼロ)であるコンデンサーマイクロフォンの実現が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、コンデンサーマイクロフォンにおける自己ノイズの低減方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、課題を解決する研究を進める過程で、振動板を囲う「空気」に注目した。 そこで、エレクトレット型コンデンサーマイクロフォン(ECM)に準じる構造を使って次に述べる実験を実施した。
【0012】
この実験を、
図1(a)~(c)に基づいて説明する。
図1(a)に示すように、金属製の密閉容器10に、振動板11を吊るし、真空ポンプ12で密閉容器10内を真空にした。なお、密閉容器10は、バックエレクトレット材14で内張りされている。
【0013】
すると、出力はゼロであった。これより、自己ノイズは空気の存在に由来するものであることが分かった。振動板は容器のどの位置に吊るしても同じ結果であった(なお、実際の実験では、ステンレス薄膜(数μm厚)からなる振動板は周囲を金属円環に固定し、これをばね定数の小さな金属スプリング経由で金属線で吊るす形態としている)これより、自己ノイズは空気の存在に由来するものであることが分かる。
【0014】
次に、
図1(b)に示すように、大気弁13を開放して、密閉容器10内を大気(略1気圧の空気)で満たした。なお、密閉容器10と振動板11との間は、微小隙間tとした。tは略10-30μmである。すると、ノイズ出力は20-30dBとなった。
【0015】
そこで今度は、
図1(c)に示すように、振動板11の位置を、密閉容器10の中央になるよう変更した。なお、図中、容器は同じ大きさで描いているが、実際にはT≒tで
図1(a)、(b)と同程度の感度が得られるように調整している。すると、この配置で出力は再びゼロになった。
【0016】
図1(b)では、振動板11の図面左側は空気層が厚く、空気の粒子(酸素分子や窒素分子)は高い頻度、かつ均等・ランダムな方向から振動板11に衝突する。一方、振動板11の図面右側は空気層がごく薄く、振動板11に衝突する空気の粒子は僅か~或いは衝突の方向に制約を受け均等・ランダムとはならない。そのため、振動板の両側のバランスが崩れ、振動板11が振動したと推定される。
既存のコンデンサーマイクロフォン(
図17、符号100)の構造は、振動板の片側(内側)に背極が存在しており、まさに
図1(b)に近似したものとなっている。
【0017】
一方、
図1(c)では、振動板11の図面左側と右側は空気層の厚みを含めて物理条件が同じである。結果として、振動板11の図面左側の面に衝突する空気の粒子と、図面右側の面に衝突する空気の粒子の衝突確率とは等しくなり、バランスして打ち消し合う。すなわち、振動板11の一方の面にかかる力と他方の面にかかる力が相殺され、結果として、振動板11は振動せず出力もほぼゼロになると推定される。
【0018】
次に、直流バイアス型コンデンサーマイクロフォンに準じる構造を使って実験を実施した。この実験を、
図2(a)~(c)に基づいて説明する。
実験の手順は、
図1(a)~(c)と同じであるため、詳細な説明は省略する。
実験の結果は、
図1(a)~(c)と同じであった。
【0019】
本発明のコンデンサーマイクロフォンの構造を、
図1(c)、
図2(c)に近似させることで、課題を解決することができると、知見するに至った。
【0020】
この知見に基づく本発明は、次のとおりである。
請求項1に係る発明は、振動板及び固定電極を備えるコンデンサーマイクロフォンにおける自己ノイズの低減方法であって、
前記固定電極は、第1固定電極と第2固定電極からなり、
前記第1固定電極は前記振動板の一方の側に空気層を介して配置され、
前記第2固定電極は前記振動板の他方の側に空気層を介して配置され、
前記一方の側の空気層を第1空気層、前記他方の側の空気層を第2空気層と称するときに、
前記第1空気層の厚みを、前記第2空気層の厚みと同等にすることにより、
前記第1空気層の空気の粒子が前記振動板に衝突する確率を、前記第2空気層の空気の粒子が前記振動板に衝突する確率と等しくなるようにして、
空気の粒子の衝突に起因する前記振動板の出力をほぼゼロにするようにした。
【0021】
請求項2に係る発明は、振動板及び固定電極を備えるコンデンサーマイクロフォンにおける自己ノイズの低減方法であって、
前記固定電極は、第1固定電極とダミー電極からなり、
前記第1固定電極は前記振動板の一方の側に空気層を介して配置され、
前記ダミー電極は前記振動板の他方の側に空気層を介して配置され、
前記一方の側の空気層を第1空気層、前記他方の側の空気層を第2空気層と称するときに、
前記第1空気層の厚みを、前記第2空気層の厚みと同等にすることにより、
前記第1空気層の空気の粒子が前記振動板に衝突する確率を、前記第2空気層の空気の粒子が前記振動板に衝突する確率と等しくなるようにして、
空気の粒子の衝突に起因する前記振動板の出力をほぼゼロにするようにした。
【0022】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載のコンデンサーマイクロフォンにおける自己ノイズの低減方法であって、
前記固定電極は、音が通過する穴を有し、
前記穴は、0.1mm~2.0mmの穴径で、単位面積当たりの開口面の総和を前記単位面積で除して得られる開口率が10%超えないように穴数が決められている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、振動板の一方の面に接する空気層の厚さと他方の面に接する空気層の厚さとが同じであり、結果的に振動板両側の物理条件が同一になる。すなわち、
図1(c)や
図2(c)と同様の形態となり、結果的に自己ノイズはゼロ又はほぼゼロになる。
本発明により、自己ノイズがゼロ(又はほぼゼロ)であるコンデンサーマイクロフォンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)はエレクトレット型コンデンサーマイクロフォンを想定して実施した真空での実験を説明する図、(b)は同大気雰囲気下での実験を説明する図、(c)は(b)を改良した図である。
【
図2】(a)は直流バイアス型コンデンサーマイクロフォンを想定して実施した真空での実験を説明する図、(b)は同大気雰囲気下での実験を説明する図、(c)は(b)を改良した図である。
【
図3】本発明に係るコンデンサーマイクロフォンの斜視図である。
【
図4】本発明に係るコンデンサーマイクロフォンの分解斜視図である。
【
図5】(a)はエレクトレット型コンデンサーマイクロフォンの断面図、(b)は(a)のb部拡大図である。
【
図6】(a)は直流バイアス型コンデンサーマイクロフォンの断面図、(b)は(a)のb部拡大図である。である。
【
図7】第1固定電極及び第2固定電極の正面図である。
【
図11】穴の径と音響透過率の相関を調べたグラフである。
【
図12】第1固定電極及び第2固定電極の変更例を説明する図である。
【
図13】コンデンサーマイクロフォンの変更例を説明する図である。
【
図14】コンデンサーマイクロフォンの更なる変更例を説明する図である。
【
図15】コンデンサーマイクロフォンの更なる変更例を説明する図である。
【
図16】コンデンサーマイクロフォンの更なる変更例を説明する図である。
【
図17】従来のエレクトレット型コンデンサーマイクロフォンの基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態例を添付図に基づいて以下に説明する。なお、請求項に沿う実施形態はこの他にも様々なものがあり、実施にあたってはそのうちのどの形態を採用しても良い。
【実施例】
【0026】
図3に示すように、コンデンサーマイクロフォン20は、円柱状の金属筐体21と、上部に被せた保護グリッド22と、下へ延びるハーネス23とを備えており、全体的に縦長の円柱形状を呈している。
図4に示すように、保護グリッド22を外すと、筐体上部24が現れる。筐体上部24から第1固定電極25と第2固定電極26を外すと、丸穴27を通して振動板11が見える。
【0027】
図5に基づいて、エレクトレット型コンデンサーマイクロフォンの詳細な構造を説明する。
図5(a)に示すように、振動板11が筐体上部24に張られている。
図5(b)に示すように、振動板11の一方の面から微小隙間tをおいて第1固定電極25が配置され、振動板11の他方の面から微小隙間tをおいて第2固定電極26が配置されている。
【0028】
なお、第1固定電極25と第2固定電極26との各々に、半永久的に電荷を保持するエレクトレット膜28が貼られている。このような構造のコンデンサーマイクロフォン20は、エレクトレット型コンデンサーマイクロフォン(ECM)と呼ばれる。
【0029】
図5(a)に示すように、第1固定電極25から延びる第1出力線31に第1コンデンサー32と第1プリアンプ33とが置かれ、第1プリアンプ33の出側(二次側)で、第1信号A(t)が検出される。第1信号A(t)=s(x)+n(t)。ここで、s(x)は信号出力、n(t)は自己ノイズである。
【0030】
第2固定電極26から延びる第2出力線35に第2コンデンサー36と第2プリアンプ37とが置かれる。
振動板11と第1固定電極25との間の静電容量の変化と、振動板11と第2固定電極26との間の静電容量の変化とは、プララスマイナスが逆になる。
そのため、第2プリアンプ37の出側(二次側)では、第2信号B(t)=―s(x)―n(t)が検出される。
【0031】
第1出力線31と第2出力線35とは、減算部38に繋がれ、この減算部38で、A(t)―B(t)の減算が行われる。A(t)―B(t)=出力X(t)とすると、出力X(t)=2s(x)+2n(t)となる。ここで、n(t)は、
図1(c)で述べたように、ゼロになる。結果、出力X(t)=2s(x)となる。信号出力が2倍であるため、コンデンサーマイクロファン20の感度は+6(dB)改善される。
【0032】
図6(a)、(b)に基づいて、直流バイアス型コンデンサーマイクロフォンの構造を説明する。
図5(a)、(b)と同一要素は、符号を流用して、説明は省略する。この直流バイアス型コンデンサーマイクロフォン20においても、感度は+6(dB)改善された。
【0033】
次に、第1固定電極25及び第2固定電極26の好ましい構造を詳しく説明する。
図7に示すように、第1固定電極25には、小径の穴39が規則的に且つ無数に設けられている。第2固定電極26も同様である。
【0034】
図8は拡大図であり、穴39が10倍に拡大されている。
図8に示すように、穴39の穴径がdであり、穴39と隣の穴39のピッチがPであり、縦の長さがaで横の長さがaであるエリア41に、n個の穴39が設けられている。
【0035】
開口率は、単位面積当たりの貫通穴の開口面積の総和を、単位面積で除して得られる。これを図面の表記に合わせると、開口率(%)は、100×(n×πd2/4)/a2で算出される。
例えば、n=9個、d=1mm、P=3.1mm、a=9.3mmであれば、100×(9×π×12/4)/9.32=8.2の計算により、開口率は約8%となる。
【0036】
図5(b)を参照すれば、エレクトレット膜28に事前に電圧をかけ半永久的に(外部電源無しで)帯電させる。エレクトレット膜28は、極めて薄いFEP膜であるため、いわゆる“腰が弱い”。そのため、第1固定電極25(又は第2固定電極26)の全面でエレクトレット膜28を支持する構造、つまり電極にエレクトレット膜を貼り付けたような構造が採用される。電極面積は感度に比例するため、開口率を高めることには抵抗がある。また、エレクトレット膜が貼り付けられた電極全体を全周波数帯域で全音響透過性とするため、大きな穴径ではなく微小穴径(数μm~数mm)とするのが好適である。
【0037】
本発明では、上記したように開口率は約8%であり、開口率が大きいとは言えない。
また、穴39の径dにしても、1.0mm程度に抑えているため、穴径が過大であるとは言えない。
本発明者らの検討では、開口率は30%まで高めることが可能である。しかし、安全若しくは余裕を見込んで、開口率は20%を上限とすることにした。
【0038】
上述した約8%の開口率を更に検証する。
図9に示すような検証装置50を作製した。検証装置50は、1/3オクターブトーンバーストジェネレータ51と、パワーアンプ52と、スピーカ53と、マイクロフォン54と、ヘッドアンプ55と、レベルレコーダ56とからなる。すなわち、スピーカ53で発生した音をマイクロフォン54で受ける。
【0039】
スピーカ53とマイクロフォン54の間隔Lを1000mmに設定する。そして、スピーカ53とマイクロフォン54の間に何も置かないで、音圧レベル(dB)を調べた。この調査は順次、周波数を変えながら実施したものである。結果、
図10に示す「試料無し」の周波数応答曲線を得た。
【0040】
次に、
図9にて、想像線で示す試料57を、スピーカ53とマイクロフォン54の間に置いた。試料57は第1固定電極25や第2固定電極26に相当する開孔金属板である。
試料57は、
図8に示すように、1.0mmの穴39が配置され、開口率が8%であって1.0mm厚さのアルミニウム板である。そして、同様に周波数を変えながら音圧レベル(dB)を調べた。結果、
図10に示す「試料有り」の曲線を得た。
【0041】
常識的にみて、開口率が8%であれば、音を通さない部分が92%となり、スピーカ53で発生した音の大部分が遮断されてマイクロフォン54に到達しないはずである。
しかし、
図10によれば、試料の有無による差はごく僅かであり、音が遮断されることなく、マイクロフォン54に到達したことになる。この現象は、上記の常識を逸脱するものであり、更なる検証が必要である。
【0042】
そこで、次に、穴39の穴径を検証する。
微細な穴は、レーザ加工や放電加工で開けることができる。ただし、開口径は小さいほど高い周波数まで全音響透過性となるが、加工コストの面から0.1mmを下限とすることが推奨される。そこで、開口率を8%(一定)とし、穴39の径dが0.1mm、0.2mm、0.5mm、2.0mm、5mm、10mmの試料57を作製し、
図9に示す検証装置50に掛けた。なお、最小穴径は、0.01mm、或いはそれ以下であっても差し支えない。
【0043】
図10に示すような音圧曲線が得られる。次に、曲線のグラフから次式により音響透過率X(%)を算出した。ただし、L0は
図10の試料無しの音圧レベル(dB)、L1は
図10の試料有りの音圧レベル(dB)である。
【0044】
【0045】
得られた音響透過率が、100%であれば、全ての音が試料を透過したことになり、0%であれば、全ての音が試料で遮断されたことになる。結果を
図11に示す。開口率は一定の条件下の結果である。
【0046】
図11に示すように、穴39の径が0.1~1.0mmの範囲では、音響透過率が約90%となり、ほぼ全音響透過現象が認められた。
穴39の径が1.0~2.0mmの範囲では、音響透過率が50~90%となり、音響透過率は良好であった。
一方、穴39の径が2.0~10mmの範囲では、音響透過率が50%未満となり、音響透過率は不良であった。
【0047】
図11のような曲線が出現した理由は、現在までのところ研究、解明されていないが、開口率を一定(8%)としたため、例えば穴径の低下と共に穴同士が接近し何らかの相互作用が発現するなど、穴径と穴の数に波動音響的な因果関係が予想される。そこで、穴の数、ピッチなどを調べることにした。
【0048】
【0049】
図11のグラフ中央に記載した、穴径が1.0mmの貫通穴が基準になる。
図8で説明したように、穴の数nは9個、ピッチPは3.1mmである。任意の貫通穴の縁と隣の貫通穴の縁との最短距離は(P-d)で表され、(3.1-1.0)=2.1mmと計算される。
【0050】
dが0.1mmの貫通穴であれば、穴の数は900個になり、(P-d)は0.2mmになる。貫通穴同士の距離が僅か0.2mmである。貫通穴同士が接近していることと、音の波動性との相関により、全周波数全音響透過という特異な音響現象が発現したと推定される。この傾向は、dが0.5mmの貫通穴でも同様に起こっていると思われる。
【0051】
これに対して、dが5mmの貫通穴では、(P-d)が10.6mmとなり、貫通穴同士が十分に離れており、特異な音響現象が起こりにくくなっている、或いは音響透過がごく限られた周波数領域に限られたと思われる。
【0052】
図11に示す曲線は、開口率を10%に変更しても、殆ど変化がなかった。
よって、
図11に基づき、開口率が10%以下であれば、貫通穴の穴径は0.01~2.0mm、好ましくは0.1~1.0mmの範囲に設定することが推奨される。
【0053】
次に、本発明に係る変更例を説明する。
図12に示すように、第1固定電極25(又は第2固定電極26)に設ける穴39は、微細な穴の他、外縁の近傍に設けた円弧穴であってもよい。すなわち、穴39は、音が通ればよく、形状や大きさや数は任意である。一定の感度を確保するために、固定電極の無孔部分面積をできるだけ損なわないよう、個々の孔は寸法ができるだけ小さく、多く分散していた方が良い、というだけである。
【0054】
また、
図13に示すように、保護グリッド22は、高さが小さい円筒部61と高さが大きい角筒部62とを合成した角形状体であってもよい。この場合、筐体上部24は、角穴63を有する角柱とする。第1固定電極25及び第2固定電極26は、角穴63に嵌まる矩形板とする。
【0055】
また、
図14に示すように、保護グリッド22は、角筒形状体であってもよい。金属筐体21も角筒形状とする。筐体上部24は、角穴63を有する角柱とする。第1固定電極25及び第2固定電極26は、角穴63に嵌まる矩形板とする。
【0056】
よって、
図3で説明したコンデンサーマイクロフォン20は、全体が円柱形状(正円形状の他、楕円柱形状や長円柱形状であってもよい。)を呈するもの、全体が角形状(正四角筒状の他、長方形筒状や三角筒状であってもよい。)を呈するもの、円筒形の金属筐体21の上部に角筒状の保護グリット22を載せたもの、何れであってもよい。また、筐体上部24の下端部をスカート状に拡げ金属狂態21とスムーズに繋がる形状にし、不要な反射を回避するようにしてもよい。
【0057】
このように、全体が細長断面の長方形筒状のコンデンサーマイクロフォン20であれば、車両のエンジンルームなど狭い空間に差し込んで、内燃機関やミッションやダイナモの異音を検出するなどに利用することもできる。
【0058】
本発明のコンデンサーマイクロフォン20のさらなる変更例を、
図15と
図16に基づいて説明する。
図1(c)に示したように、振動板11の両側が空気であることにより、振動板11の両側の音響的条件が同じになり、このことにより、自己ノイズをゼロ又はほぼゼロにすることができた。この知見から、
図15が提示される。
【0059】
図15(a)、(b)に示すエレクトレット型コンデンサーマイクロフォン20は、振動板11の一方の面に隙間をおいて第1固定電極25を配置し、振動板11の他方の面は「空気層」とした。
この構造であっても、振動板11の両側が空気と同等になり、自己ノイズをゼロ又はほぼゼロになった。その他の構成要素は、
図5(a)、(b)の符号を流用し、説明を省略する。
【0060】
また、
図2(c)に示したように、振動板11の両側が空気であることにより、振動板11の両側の音響的条件が同じになり、このことにより、自己ノイズをゼロ又はほぼゼロにすることができた。この知見から、
図16が提示される。
【0061】
図16に示す直流バイアス型コンデンサーマイクロフォン20は、振動板11の一方の面に隙間をおいて第1固定電極25を配置し、振動板11の他方の面は「空気層」とした。
この構造であっても、振動板11の両側が空気と同等になり、自己ノイズをゼロ又はほぼゼロになった。
【0062】
なお、
図15(a)において、振動板11の他方の面に隙間をおいて、ダミーの固定電極65を配置してもよい。
図16についても同様である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、エレクトレット型コンデンサーマイクロフォン(ECM)及び直流バイアス型コンデンサーマイクロフォンに好適である。
【符号の説明】
【0064】
11…振動板、20…コンデンサーマイクロフォン、25…固定電極(第1固定電極)、26…固定電極(第2固定電極)、28…エレクトレット膜、32…コンデンサー(第1コンデンサー)、36…コンデンサー(第2コンデンサー)、38…減算部、39…音が通る穴、65…ダミーの固定電極、t…微小隙間。