(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】樹脂組成物、平板状成形体、多層体、および、成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 33/04 20060101AFI20240722BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20240722BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20240722BHJP
C08L 25/00 20060101ALI20240722BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C08L33/04
C08L33/06
C08L33/14
C08L25/00
B32B27/30 A
(21)【出願番号】P 2023211738
(22)【出願日】2023-12-15
【審査請求日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2022203145
(32)【優先日】2022-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 香里
(72)【発明者】
【氏名】山口 円
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-145455(JP,A)
【文献】特開2018-002994(JP,A)
【文献】国際公開第2015/128995(WO,A1)
【文献】特開2010-170026(JP,A)
【文献】特開昭63-137943(JP,A)
【文献】特表2011-519389(JP,A)
【文献】特開2022-080269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂(A)30~85質量部と芳香族ビニル樹脂(B)15~70質量部とを含み、
前記アクリル樹脂(A)が、(メタ)アクリル単量体単位60~95質量%と、
グルタルイミド単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位からなる群から選択される少なくとも1種を合計で5~40質量%とを含み、
前記芳香族ビニル樹脂(B)が、芳香族ビニル単量体単位55~93質量%と、N置換マレイミド単位7~45質量%とを含む、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記アクリル樹脂(A)が、N置換マレイミド単位を5~40質量%を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物を3mm厚さに成形したときのヘイズが5.0%以下である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物のガラス転移温度が135~165℃である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ビニル樹脂(B)が、芳香族ビニル単量体単位55~81質量%と、N置換マレイミド単位9~35質量%と、環状酸無水物単位10~36質量%とを含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記芳香族ビニル樹脂(B)が、スチレン単位55~81質量%と、N置換フェニルマレイミド単位9~35質量%と、無水マレイン酸単位10~36質量%とを含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記芳香族ビニル樹脂(B)のガラス転移温度が150~200℃である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、樹脂組成物100質量部に対して、酸化防止剤および/または離型剤を0.001~0.5質量部含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂組成物を1mmの厚さに成形し、JIS K5600-5-4:1999に準拠して測定した鉛筆硬度がF以上である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記アクリル樹脂(A)が、N置換マレイミド単位を5~40質量%を含む、樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物を3mm厚さに成形したときのヘイズが5.0%以下であり、
前記樹脂組成物のガラス転移温度が135~165℃であり、
前記芳香族ビニル樹脂(B)が、スチレン単位55~81質量%と、N置換フェニルマレイミド単位9~35質量%と、無水マレイン酸単位10~36質量%とを含み、
前記芳香族ビニル樹脂(B)のガラス転移温度が150~200℃であり、
さらに、樹脂組成物100質量部に対して、酸化防止剤および/または離型剤を0.001~0.5質量部含み、
前記樹脂組成物を1mmの厚さに成形し、JIS K5600-5-4:1999に準拠して測定した鉛筆硬度がF以上である、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1、2または10に記載の樹脂組成物から形成された平板状成形体。
【請求項12】
ディスプレイ用である、請求項11に記載の平板状成形体。
【請求項13】
請求項11に記載の平板状成形体と他の少なくとも1層を含む、多層体。
【請求項14】
前記他の少なくとも1層が、ポリカーボネート樹脂を含む層である、請求項13に記載の多層体。
【請求項15】
さらに、ハードコート層を有する、請求項13に記載の多層体。
【請求項16】
前記多層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか1つ以上が施されている、請求項13に記載の多層体。
【請求項17】
請求項11に記載の平板状成形体を含む成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、平板状成形体、多層体、および、成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂は、優れた透明性と成形加工性を有し、表面硬度に優れることから光学材料として多くの用途に使用されている。一方で、アクリル樹脂は材料靭性に劣るため、透明性と材料靭性に優れたポリカーボネート樹脂との共押出により多層フィルム・シート等の多層体を作製することが行われている。
例えば、特許文献1には、(メタ)アクリル単量体単位と芳香族ビニル単量体単位を含む樹脂を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物中、前記(メタ)アクリル単量体単位と芳香族ビニル単量体単位の合計が55質量%以上であり、前記樹脂組成物の示差走査熱量測定により測定した初期ガラス転移温度(Tig)が135℃以上であり、前記樹脂組成物を3mm厚さのISO試験片に成形したときのノッチ無しシャルピー衝撃強さが10.0kJ/m 2以上であり、前記ノッチ無しシャルピー衝撃強さは、JIS K 7111-1において、ISO試験片の厚さを4mmから3mmに変更し、他は同様に行って測定した値であり、前記樹脂組成物の240℃、1220秒-1のせん断速度での溶融粘度が500Pa・s以下である樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた平板状成形体、および、多層体は優れたものであるが、用途によっては、さらなる性能の要求が求められる。その1つとして、透明性を維持しつつ、短時間での熱曲げによるクラックの抑制を求められることがある。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、透明性を維持しつつ、短時間での熱曲げによるクラックの抑制可能な樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた平板状成形体、および、多層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、所定のアクリル樹脂(A)に、所定の芳香族ビニル樹脂(B)を所定の割合でブレンドすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>アクリル樹脂(A)30~85質量部と芳香族ビニル樹脂(B)15~70質量部とを含み、
前記アクリル樹脂(A)が、(メタ)アクリル単量体単位60~95質量%と、グルタル酸無水物単位、グルタルイミド単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位からなる群から選択される少なくとも1種を合計で5~40質量%とを含み、
前記芳香族ビニル樹脂(B)が、芳香族ビニル単量体単位55~93質量%と、N置換マレイミド単位7~45質量%とを含む、
樹脂組成物。
<2>前記アクリル樹脂(A)が、N置換マレイミド単位を5~40質量%を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記樹脂組成物を3mm厚さに成形したときのヘイズが5.0%以下である、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記樹脂組成物のガラス転移温度が135~165℃である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記芳香族ビニル樹脂(B)が、芳香族ビニル単量体単位55~81質量%と、N置換マレイミド単位9~35質量%と、環状酸無水物単位10~36質量%とを含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記芳香族ビニル樹脂(B)が、スチレン単位55~81質量%と、N置換フェニルマレイミド単位9~35質量%と、無水マレイン酸単位10~36質量%とを含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記芳香族ビニル樹脂(B)のガラス転移温度が150~200℃である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>さらに、樹脂組成物100質量部に対して、酸化防止剤および/または離型剤を0.001~0.5質量部含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>前記樹脂組成物を1mmの厚さに成形し、JIS K5600-5-4:1999に準拠して測定した鉛筆硬度がF以上である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>前記アクリル樹脂(A)が、N置換マレイミド単位を5~40質量%を含む、樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物を3mm厚さに成形したときのヘイズが5.0%以下であり、
前記樹脂組成物のガラス転移温度が135~165℃であり、
前記芳香族ビニル樹脂(B)が、スチレン単位55~81質量%と、N置換フェニルマレイミド単位9~35質量%と、無水マレイン酸単位10~36質量%とを含み、
前記芳香族ビニル樹脂(B)のガラス転移温度が150~200℃であり、
さらに、樹脂組成物100質量部に対して、酸化防止剤および/または離型剤を0.001~0.5質量部含み、
前記樹脂組成物を1mmの厚さに成形し、JIS K5600-5-4:1999に準拠して測定した鉛筆硬度がF以上である、
<1>に記載の樹脂組成物。
<11><1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された平板状成形体。
<12>ディスプレイ用である、<10>に記載の平板状成形体。
<13><11>または<12>に記載の平板状成形体と他の少なくとも1層を含む、多層体。
<14>前記他の少なくとも1層が、ポリカーボネート樹脂を含む層である、<13>に記載の多層体。
<15>さらに、ハードコート層を有する、<13>または<14>に記載の多層体。
<16>前記多層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか1つ以上が施されている、<13>~<15>のいずれか1つに記載の多層体。
<17><11>または<12>に記載の平板状成形体を含む成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、透明性を維持しつつ、短時間での熱曲げによるクラックの抑制可能な樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた平板状成形体、および、多層体を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の多層体の層構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。本明細書では、置換および無置換を記していない表記は、無置換の方が好ましい。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルの双方、または、いずれかを表す。また、アクリル樹脂は、アクリレートの重合体の他、メタクリレートの重合体、(メタ)アクリレートとのモノマーとの共重合体等を含む趣旨である。
【0009】
本明細書における平板状成形体および多層体は、それぞれ、フィルムまたはシートの形状をしているものを含む趣旨である。「フィルム」および「シート」とは、それぞれ、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいう。また、本明細書における「フィルム」および「シート」は、単層であっても多層であってもよい。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
図1は模式図であり、縮尺度などは実際と整合していないこともある。
【0010】
本実施形態の樹脂組成物は、アクリル樹脂(A)30~85質量部と芳香族ビニル樹脂(B)15~70質量部とを含み、前記アクリル樹脂(A)が、(メタ)アクリル単量体単位60~95質量%と、グルタル酸無水物単位、グルタルイミド単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位からなる群から選択される少なくとも1種を合計で5~40質量%とを含み、前記芳香族ビニル樹脂(B)が、芳香族ビニル単量体単位55~93質量%と、N置換マレイミド単位7~45質量%とを含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、透明性を維持しつつ、短時間での熱曲げによるクラックの抑制可能な樹脂組成物が得られる。
この理由は、樹脂組成物が、ポリカーボネート同等の高いガラス転移温度を有することで、より高温条件で熱曲げを行うことが可能であることに基づく。
【0011】
<アクリル樹脂(A)>
本実施形態で用いるアクリル樹脂(A)は、(メタ)アクリル単量体単位60~95質量%と、グルタル酸無水物単位、グルタルイミド単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位からなる群から選択される少なくとも1種を合計で5~40質量%とを含む。アクリル樹脂(A)を含むことにより、汎用アクリル樹脂であるポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いる場合と比較して、芳香族ビニル樹脂(B)との相溶性が向上し、透明性に優れた樹脂組成物が得られる。
本実施形態においては、前記アクリル樹脂(A)が、N置換マレイミド単位を5~40質量%の割合で含むことが好ましい。
【0012】
アクリル樹脂(A)中の(メタ)アクリル単量体単位の割合は、62質量%以上であることが好ましく、64質量%以上であることがより好ましく、66質量%以上であることがさらに好ましく、68質量%以上であることが一層好ましく、70質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、鉛筆硬度が向上する傾向にある。また、アクリル樹脂(A)中の(メタ)アクリル単量体単位の割合は、90質量%以下であることが好ましく、88質量%以下であることがより好ましく、86質量%以下であることがさらに好ましく、84質量%以下であることが一層好ましく、82質量%以下であることがより一層好ましく、80質量%以下であることがさらに一層好ましく、78質量%以下であることがよりさらに一層好ましく、76質量%以下、74質量%以下、72質量%以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、耐熱性が向上する傾向にある。
【0013】
アクリル樹脂(A)中のグルタル酸無水物単位、グルタルイミド単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位からなる群から選択される少なくとも1種を合計の割合(好ましくはN置換マレイミド単位の割合)は、10質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることがより好ましく、14質量%以上であることがさらに好ましく、16質量%以上であることが一層好ましく、18質量%以上であることがより一層好ましく、20質量%以上であることがさらに一層好ましく、22質量%以上であることがよりさらに一層好ましい。また、アクリル樹脂(A)中のグルタル酸無水物単位、グルタルイミド単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位からなる群から選択される少なくとも1種を合計の割合(好ましくは、グルタルイミド単位、および/または、N置換マレイミド単位の割合、より好ましくはN置換マレイミド単位の割合)は、38質量%以下であることが好ましく、36質量%以下であることがより好ましく、34質量%以下であることがさらに好ましく、32質量%以下であることが一層好ましく、30質量%以下であることがより一層好ましく、28質量%以下であることがさらに一層好ましく、25質量%以下であってもよい。
【0014】
さらに、アクリル樹脂(A)は、上記以外の構成単位を含んでいてもよい。上記以外の単量体単位としては、芳香族ビニル単量体単位が例示される。芳香族ビニル単量体単位の詳細は、後述する芳香族ビニル樹脂(B)の項で述べる芳香族ビニル単量体単位と同じであり、好ましい範囲も同様である。前記アクリル樹脂(A)が他の単量体単位(好ましくは芳香族ビニル単量体単位)を含む場合、その含有量は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、また、12質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下であることが一層好ましい。
【0015】
また、アクリル樹脂(A)における、(メタ)アクリル単量体単位と、グルタル酸無水物単位、グルタルイミド単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位からなる群から選択される少なくとも1種と、必要に応じ配合される芳香族ビニル単量体単位の合計割合は、アクリル樹脂(A)100質量%中、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、93質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく、99質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。アクリル樹脂(A)中の(メタ)アクリル単量体単位と、グルタル酸無水物単位、グルタルイミド単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位からなる群から選択される少なくとも1種と、必要に応じ配合される芳香族ビニル単量体単位の合計割合の上限は100質量%である。
本実施形態において、アクリル樹脂(A)は、(メタ)アクリル単量体単位を1種のみを含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。また、アクリル樹脂(A)は、グルタル酸無水物単位、グルタルイミド単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位からなる群から選択される、いずれかを1種のみを含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。例えば、N置換マレイミド単位を2種以上含む態様なども例示される。
これらの成分を2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0016】
アクリル樹脂(A)は、(メタ)アクリル単量体単位を含む。(メタ)アクリル単量体単位を含むことにより、得られる平板状成形体の鉛筆硬度が向上する傾向にある。
(メタ)アクリル単量体としては、(メタ)アクリル基を含む限り特に定めるものではないが、式(a1)で表される化合物が好ましい。
式(a1)
【化1】
(式(a1)中、Ra
1は、水素原子またはメチル基であり、Ra
2は、脂肪族基である。)
上記式(a1)において、Ra
1は、水素原子またはメチル基であり、メチル基が好ましい。Ra
2は、脂肪族基であり、直鎖または分岐の脂肪族基であることが好ましく、直鎖の脂肪族基であることがより好ましい。脂肪族基は、アルキル基(シクロアルキル基を含む)、アルキニル基(シクロアルキニル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基を含む)等が例示され、アルキル基が好ましく、直鎖または分岐のアルキル基がより好ましく、直鎖のアルキル基がさらに好ましい。Ra
2である脂肪族基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、1~3であることがさらに好ましく、1または2であることが一層好ましく、1であることがより一層好ましい。
式(a1)で表される(メタ)アクリレートは、アルキル(メタ)アクリレート(好ましくはアルキルメタクリレート)であることが好ましく、メチル(メタ)アクリレート(好ましくはメチルメタクリレート)であることがより好ましい。メチルメタクリレートを用いることにより、得られる平板状成形体の衝撃強さと鉛筆硬度が向上する傾向にある。
【0017】
アクリル樹脂(A)は、グルタル酸無水物単位、グルタルイミド単位、N置換マレイミド単位、および、ラクトン環単位からなる群から選択される少なくとも1種を含み、グルタルイミド単位、および/または、N置換マレイミド単位を含むことが好ましく、N置換マレイミド単位を含むことがより好ましい。グルタルイミド単位、および/または、N置換マレイミド単位を含むことにより、(耐熱性がより向上する傾向にある。
【0018】
アクリル樹脂(A)におけるグルタル酸無水物単位はグルタル酸無水物構造を有する単位であり、式(a2)で表される単位が好ましい。
【化2】
(式(a2)中、R
2は水素原子またはメチル基を表し、R
3は水素原子またはメチル基を表す。)
【0019】
アクリル樹脂(A)におけるグルタルイミド単位は、グルタル酸無水物構造を有する単位であり、式(a3)で表される単位が好ましい。
式(a3)
【化3】
(式(a3)中、R
1は水素原子または置換基を表す。)
前記置換基は、炭素数1~20の炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基がより好ましい。
【0020】
アクリル樹脂(A)におけるラクトン環単位は、式(a4)で表される単位が好ましい。
式(a4)
【化4】
(式(a4)中、R
1、R
2、R
3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20の有機基を表す。なお、有機基は酸素原子を含んでいてもよい。)
前記有機基は、炭素数1~20の炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基がより好ましい。
【0021】
アクリル樹脂(A)におけるN置換マレイミド単位は、N-フェニルマレイミド単位、N-シクロヘキシルマレイミド単位、N-ベンジルマレイミド単位、N-(4-カルボキシフェニル)マレイミド)単量体単位が例示され、N-フェニルマレイミド単位、および/または、N-シクロヘキシルマレイミド単位が好ましい。N置換マレイミド単位、特に、N-フェニルマレイミド単位、および/または、N-シクロヘキシルマレイミド単位を含むことにより、さらには、N-フェニルマレイミド単位とN-シクロヘキシルマレイミド単位の両方を含むことにより、耐熱性、および、芳香族ビニル樹脂(B)との相溶性がより効果的に発揮される。
【0022】
前記アクリル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、120℃以上であることが好ましく、125℃以上であることがより好ましく、127℃以上であることがさらに好ましく、130℃以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ成形時のクラック発生防止効果がより向上する傾向にある。また、前記アクリル樹脂(A)の開始ガラス転移温度(T)は、170℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましく、140℃以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ成形時のスプリングバックの抑制効果がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物がアクリル樹脂(A)を2種以上含む場合、アクリル樹脂(A)の開始ガラス転移温度(Tg)とは、混合物のTgとする。また、ガラス転移温度の測定方法は後述する実施例に記載の方法に従う(以下、重量平均分子量、鉛筆硬度、ならびに、芳香族ビニル樹脂(B)のガラス転移温度、重量平均分子量、鉛筆硬度についても同じ)。
【0023】
前記アクリル樹脂(A)の重量平均分子量は、50,000以上であることが好ましく、70,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることがさらに好ましく、150,000以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、得られる平板状成形体の衝撃強さをより向上させることができる。前記アクリル樹脂(A)の重量平均分子量は、300,000以下であることが好ましく、250,000以下であることがより好ましく、225,000以下であることがさらに好ましく、210,000以下であることが一層好ましく、200,000以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の溶融粘度を効果的に低くすることができる。
【0024】
前記アクリル樹脂(A)の鉛筆硬度は、HB以上であることが好ましく、F以上がさらに好ましく、H以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる平板状成形体の表面硬度をより高くすることができる。また、前記アクリル樹脂(A)の鉛筆硬度は、2H以下であることが好ましく、H以下であることがより好ましい。
【0025】
<芳香族ビニル樹脂(B)>
本実施形態において、芳香族ビニル樹脂(B)は、芳香族ビニル単量体単位55~93質量%と、N置換マレイミド単位7~45質量%とを含む。このような樹脂を用いることにより、アクリル樹脂(A)との相溶性がより向上する傾向にある。
芳香族ビニル樹脂(B)中の芳香族ビニル単量体(好ましくはスチレン)単位の割合は、57質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、61質量%以上であることがさらに好ましく、64質量%以上であることが一層好ましく、67質量%以上であることがより一層好ましい。また、芳香族ビニル樹脂(B)中の芳香族ビニル単量体単位の割合は、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、81質量%以下であることがさらに好ましく、75質量%以下であることが一層好ましく、72質量%以下であることがより一層好ましい。前記下限値以上、および、上限値以下とすることにより、アクリル樹脂(A)と相溶し、透明性に優れた樹脂組成物が得られる傾向にある。
【0026】
芳香族ビニル樹脂(B)中のN置換マレイミド単量体(好ましくはN置換フェニルマレイミド)単位の割合は、9質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることが一層好ましく、17質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐熱性が向上する傾向にある。また、芳香族ビニル樹脂(B)中のマレイミド単位の割合は、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることが一層好ましく、25質量%未満であることがより一層好ましく、24質量%以下であることがさらに一層好ましく、20質量%以下であることが特に一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、アクリル樹脂(A)と相溶し、透明性に優れた樹脂組成物が得られる傾向にある。
【0027】
芳香族ビニル樹脂(B)が環状酸無水物(好ましくは無水マレイン酸)単位を含む場合、その割合は、10質量%以上であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐熱性が向上する傾向にある。また、芳香族ビニル樹脂(B)中のマレイミド単位の割合は、36質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが一層好ましく、15質量%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、アクリル樹脂(A)と相溶し、透明性に優れた樹脂組成物が得られる傾向にある。
【0028】
また、芳香族ビニル樹脂(B)における、芳香族ビニル単量体単位と、N置換マレイミド単位9~35質量%と、選択的に含まれる環状酸無水物単位の合計割合は、芳香族ビニル樹脂(B)100質量%中、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、93質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく、99質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。前記芳香族ビニル樹脂(B)中の芳香族ビニル単量体単位と、N置換マレイミド単位と、選択的に含まれる環状酸無水物単位の合計割合の上限は、100質量%である。
本実施形態において、芳香族ビニル樹脂(B)は、芳香族ビニル単量体単位、および、N置換マレイミド単位をそれぞれ1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
本実施形態において、芳香族ビニル樹脂(B)が、環状酸無水物単位を含む場合、環状酸無水物単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0029】
芳香族ビニル樹脂(B)における芳香族ビニル単量体は、ビニル基と芳香環基を有する化合物であり、(メタ)アクリレートと共重合可能な化合物を広く採用できる。芳香族ビニル単量体は、CH2=CH-L1-Ar1で表される化合物であることが好ましい。ここで、L1は単結合または2価の連結基であり、単結合または式量100~500の2価の連結基であることが好ましく、単結合または式量100~300の2価の連結基であることがより好ましく、単結合であることがさらに好ましい。L1が2価の連結基の場合、脂肪族炭化水素基または、脂肪族炭化水素基と-O-との組み合わせからなる基であることが好ましい。ここで、式量とは、芳香族ビニル単量体のL1に相当する部分の1モル当たりの質量(g)を意味する。以下、他の「式量」についても同様に考える。Ar1は芳香環基であり、置換または無置換の、ベンゼン環基またはナフタレン環(好ましくはベンゼン環)であることが好ましく、無置換のベンゼン環基であることがさらに好ましい。
【0030】
より具体的には、芳香族ビニル単量体は式(b1)で表される芳香族ビニル単量体を含むことが好ましい。
式(b1)
【化5】
(式(b1)中、Ra
3は、置換基であり、naは、0~6の整数である。)
【0031】
式(b1)中、Ra3は、置換基であり、ハロゲン原子(好ましくは、塩素原子、フッ素原子または臭素原子)、水酸基、アルキル基(好ましくは炭素数1~5のアルキル基)、アリール基(好ましくはフェニル基)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~5のアルケニル基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~5のアルコキシ基)、アリールオキシ基(好ましくはフェノキシ基)が例示される。naが2以上のとき、複数のRa3は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
naは、5以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましく、3以下の整数であることがさらに好ましく、2以下の整数であることが一層好ましく、1以下の整数であることがより一層好ましく、0であることがさらに一層好ましい。
【0032】
芳香族ビニル単量体は、分子量104~600の化合物であることが好ましく、分子量104~400の化合物であることがより好ましく、104~200であることがさらに好ましい。
芳香族ビニル単量体は、具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、トリブロモスチレン等のスチレン系モノマー(スチレン誘導体)が挙げられ、特にスチレンが好ましい。
【0033】
芳香族ビニル樹脂(B)におけるN置換マレイミド単位は、N-フェニルマレイミド単位、N-シクロヘキシルマレイミド単位、N-ベンジルマレイミド単位、N-(4-カルボキシフェニル)マレイミド)単位が例示され、N-フェニルマレイミド単位、および/または、N-シクロヘキシルマレイミド単位が好ましく、N-フェニルマレイミド単位がさらに好ましい。このような樹脂を用いることにより、屈折率が向上し、ポリカーボネートとの多層において、屈折率差により起こる虹ムラ模様を防止する傾向にある。
【0034】
芳香族ビニル樹脂(B)における環状酸無水物単位は、無水マレイン酸単位、グルタル酸無水物単位が例示され、無水マレイン酸単位が好ましい。環状酸無水物単位、特に、マレイン酸単位を含むことにより、アクリル樹脂(A)との相溶性の向上効果および耐熱性の向上効果がより効果的に発揮される。
【0035】
本実施形態において、芳香族ビニル樹脂(B)は、芳香族ビニル単量体単位55~81質量%と、N置換マレイミド単位9~35質量%と、環状酸無水物単位10~36質量%とを含むことが好ましく、スチレン単位55~81質量%と、N置換フェニルマレイミド単位9~35質量%と、無水マレイン酸単位10~36質量%とを含むことがより好ましい。
【0036】
前記芳香族ビニル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、150℃以上であることが好ましく、155℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることがさらに好ましく、165℃以上であることがさらに好ましく、168℃以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ成形時のクラックが抑制する傾向にある。また、前記芳香族ビニル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、200℃以下であることが好ましく、195℃以下であることがより好ましく、190℃以下であることがさらに好ましく、さらには185℃以下、180℃以下、175℃以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ成形時のスプリングバックの抑制効果がより向上する傾向にある。
【0037】
前記芳香族ビニル樹脂(B)の重量平均分子量は、50,000以上であることが好ましく、60,000以上であることがより好ましく、70,000以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる平板状成形体の衝撃強さをより向上させることができる。また、前記芳香族ビニル樹脂(B)の重量平均分子量は、200,000以下であることが好ましく、180,000以下であることがより好ましく、150,000以下であることがさらに好ましく、130,000以下であることが一層好ましく、110,000以下であることがより一層好ましく、100,000以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の溶融粘度を効果的に低くすることができる。
【0038】
前記芳香族ビニル樹脂(B)の鉛筆硬度は、B以上であることが好ましく、HB以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる平板状成形体の表面硬度をより高くすることができる。また、前記芳香族ビニル樹脂(B)の鉛筆硬度は、H以下であることが好ましく、HB以下であることがより好ましい。
【0039】
<アクリル樹脂(A)と芳香族ビニル樹脂(B)のブレンド形態>
本実施形態の樹脂組成物は、アクリル樹脂(A)30~85質量部と芳香族ビニル樹脂(B)15~70質量部とを含む。
本実施形態においては、アクリル樹脂(A)と芳香族ビニル樹脂(B)の合計100質量部に対し、アクリル樹脂(A)の割合が、通常、30質量部以上であり、35質量部以上であることが好ましく、40質量部以上であることがより好ましく、45質量部以上であることがさらに好ましく、51質量部以上であることが一層好ましく、56質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、鉛筆硬度や靭性が向上する傾向にある。また、前記アクリル樹脂(A)と芳香族ビニル樹脂(B)の合計100質量部に対し、アクリル樹脂(A)の割合が、通常、85質量部以下であり、80質量部以下であることがより好ましく、76質量部以下であることがさらに好ましく、74質量部以下であることが一層好ましく、70質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、耐熱性が向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、アクリル樹脂(A)および芳香族ビニル樹脂(B)を、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物は、アクリル樹脂(A)と芳香族ビニル樹脂(B)の合計含有量が樹脂組成物の85質量%以上を占めることが好ましく、90質量%以上を占めることがより好ましく、95質量%以上を占めることがさらに好ましく、97質量%以上を占めることが一層好ましく、99質量%以上を占めることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。樹脂組成物中のアクリル樹脂(A)と芳香族ビニル樹脂(B)の合計含有量の上限は100質量%である。
【0041】
本実施形態の樹脂組成物の総量に対する、N置換マレイミド単位の含有量は、10質量%超であることが好ましく、11質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることがさらに好ましく、また、35質量%以下であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、(耐熱性が向上する)傾向にある。また、上記上限値以下とすることにより、樹脂組成物から成形される平板状成形体の黄色みが軽減される傾向にある。
また、本実施形態の樹脂組成物に含まれるアクリル樹脂(A)と芳香族ビニル樹脂(B)の合計量に対する、N置換マレイミド単位の含有量は、10質量%超であることが好ましく、11質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることがさらに好ましく、また、35質量%以下であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、(耐熱性が向上する傾向にある。また、上記上限値以下とすることにより、(黄色みが軽減傾向にある。
【0042】
<酸化防止剤>
本実施形態の樹脂組成物は、酸化防止剤を含有することが好ましい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。中でも本実施形態においては、リン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤(より好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤)が好ましい。リン系酸化防止剤は、樹脂組成物や平板状成形体の色相に優れることから特に好ましい。
【0043】
リン系酸化防止剤は、ホスファイト系酸化防止剤が好ましく、以下の式(1)または(2)で表されるホスファイト化合物が好ましい。
【化6】
(式(1)中、R
11およびR
12はそれぞれ独立に、炭素数1~30のアルキル基または炭素数6~30のアリール基を表す。)
【化7】
(式(2)中、R
13~R
17は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数6~20のアリール基または炭素数1~20のアルキル基を表す。)
【0044】
上記式(1)中、R11、R12で表されるアルキル基は、それぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖または分岐のアルキル基であることが好ましい。R11、R12がアリール基である場合、以下の式(1-a)、(1-b)、または(1-c)のいずれかで表されるアリール基が好ましい。式中の*は結合位置を表す。
【0045】
【化8】
(式(1-a)中、R
Aは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基を表す。式(1-b)中、R
Bは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基を表す。)
【0046】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、特開2018-090677号公報の段落0063、特開2018-188496号公報の段落0076の記載を参照でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0047】
酸化防止剤は、上記の他、特開2017-031313号公報の段落0057~0061の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0048】
酸化防止剤の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.008質量部以上であることがより好ましい。また、酸化防止剤の含有量の上限値としては、樹脂組成物100質量部に対して、0.5質量部以下が好ましく、0.3質量部以下がより好ましく、0.2質量部以下がさらに好ましく、0.15質量部以下であることが一層好ましく、0.10質量部以下であることがさらに一層好ましく、0.08質量部以下であることが特に一層好ましい。
【0049】
酸化防止剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、色相、耐熱変色性がより良好な平板状成形体を得ることができる。また、酸化防止剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、耐熱変色性を悪化させることなく、湿熱安定性が良好な平板状成形体を得ることができる。
酸化防止剤は、1種のみ用いても、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合は合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0050】
<離型剤>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。
離型剤を含むことにより、平板状成形体の成形性を向上させることができる。
離型剤の種類は特に定めるものではないが、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、数平均分子量100~5,000のポリエーテル、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
【0051】
離型剤の詳細は、国際公開第2015/190162号の段落0035~0039の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0052】
離型剤の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.005質量部以上であることがより好ましく、0.01質量部以上であることがさらに好ましい。上限値としては、0.5質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以下であることがより好ましく、0.2質量部以下であることがさらに好ましい。
離型剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0053】
特に、本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物100質量部に対して、酸化防止剤および/または離型剤を合計で、0.001~0.5質量部含むことが好ましい。
【0054】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、上記成分の他、上記以外の熱可塑性樹脂、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤(Plust Blue 8520ブルーイング剤も含む)、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記成分の含有量は、含有する場合、合計で樹脂組成物の0.001~5質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。
【0055】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、透明性に優れていることが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂組成物を3mmの厚さに成形したときのヘイズが5.0%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましく、0.4%以下であることが一層好ましい。下限値は、0%が理想であるが、0.01%以上が実際的である。
ヘイズは後述する実施例の記載に従って測定される。
【0056】
本実施形態の樹脂組成物は、示差走査熱量測定によるガラス転移温度(Tg)が高いことが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、135℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましく、142℃以上であることがさらに好ましく、145℃以上であることが一層好ましく、147℃以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、クラックの発生を効果的に抑制することができる。示差走査熱量測定によるガラス転移温度(Tg)の上限は、例えば、165℃以下であっても十分に要求性能を満たす。
ガラス転移温度(Tg)は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
ガラス転移温度(Tg)を高くするには、樹脂の原料モノマーを調整することが例示される。また、樹脂の分子量を高くすることも挙げられる。
【0057】
本実施形態の樹脂組成物は、鉛筆硬度が高い(硬い)ことが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂組成物を1mmの厚さに成形し、JIS K5600-5-4:1999に準拠し、鉛筆硬度試験機を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度が、F以上であることが好ましく、H以上であることがより好ましい。前記鉛筆硬度をF以上とすることにより、多層体全体の硬度を高めることができ、耐擦傷性を向上させることができる。上限は特に定めるものではないが、3H以下が実際的である。
鉛筆硬度は後述する実施例の記載に従って測定される。
【0058】
<平板状成形体>
本実施形態の樹脂組成物は、平板状成形体に加工して用いることが好ましい。すなわち、本実施形態の平板状成形体は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。本実施形態の平板状成形体は、透明性に優れ、湿熱試験後の反りが効果的に抑制される。
平板状成形体としては、プレート、フィルム、シート等が例示される。また、平板状成形体は、詳細を後述するとおり、他の基材等に積層された多層体に含まれていてもよい。また、本実施形態の平板状成形体は、多層体の一部に組み込まれた後に、曲げ加工などが施されていてもよい。
平板状成形体の厚さは、下限値が、例えば、1μm以上であり、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましく、40μm以上であることが一層好ましく、50μm以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、成形がより容易となるとともに、硬度が向上する傾向にある。また、平板状成形体の厚さの上限に特に制限は無いが、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましく、100μm以下であることが一層好ましく、80μm以下であることがより一層好ましい。特に、詳細を後述する通り、平板状成形体とポリカーボネート樹脂層の厚さの合計に対し、平板状成形体が薄い方が好ましい。このような構成とすることにより、多層体を加熱成形しても、クラックの発生が効果的に抑制され、かつ、スプリングバックの発生が効果的に抑制されるとともに、湿熱試験後の反りも抑制される。
本実施形態の平板状成形体は、射出成形やTダイによる押出成形などにより成形される。
【0059】
<多層体>
本実施形態の多層体は、本実施形態の平板状成形体と他の少なくとも1層を含む。このような多層体は表面硬度に優れたものとなる。本実施形態においては、他の少なくとも1層がポリカーボネート樹脂を含む層(ポリカーボネート樹脂層)であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂層は、通常、多層体の基材の役割を果たす。
本実施形態の多層体は、さらに、ハードコート層を含むことが好ましい。ハードコート層は、少なくとも、本実施形態の平板状成形体の表面に設けることが好ましい。また、前記ハードコート層は、前記ポリカーボネート樹脂を含む層、前記平板状成形体、前記ハードコート層の順に積層していることがより好ましい。また、ハードコート層は、ポリカーボネート樹脂層側にも設けられていてもよい。なお、ポリカーボネート樹脂層と平板状成形体の間、および、平板状成形体とハードコート層の間には、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、他の層を有していてもよい。
図1は、本実施形態の多層体の一例を示す模式図であって、1は多層体を、2は基材(ポリカーボネート樹脂層)を、3は平板状成形体を、4はハードコート層を示している。本実施形態においては、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、他の層を有していてもよい。他の層としては、具体的には、接着層、粘着層、防汚層等が例示される。
さらに、本実施形態の多層体は、前記ハードコート層上であって、基材(前記ポリカーボネート樹脂層)とは反対側の面に、低屈折率層を有することも好ましい。すなわち、上記多層体は、反射防止フィルムとして用いることができる。
本実施形態の多層体は、また、前記多層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか1つ以上が施されていることが好ましい。このときの多層体の最表面の一例として、ハードコート層が挙げられる。また、アンチブロッキング処理とは、フィルム同士が密着しても容易に剥離できるようにする処理をいい、アンチブロッキング剤を添加すること、多層体の表面に凹凸を設けることなどが例示される。
【0060】
次に、基材1について説明する。
基材1は、その種類について特に定めるものではなく、本実施形態の多層体に求められる性能を満たす限り、公知の基材を採用できる。具体的には、樹脂基材が好ましく、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂がより好ましく、ポリカーボネート樹脂を含むことがさらに好ましい。これらの樹脂は、1種単独でも、2種以上による複合基材を構成していてもよい。本実施形態の多層体において、基材1は、上述の通り、ポリカーボネート樹脂を含む層(ポリカーボネート樹脂層)が好ましい。ポリカーボネート樹脂層におけるポリカーボネート樹脂の割合は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0061】
ポリカーボネート樹脂は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-構成単位(Rは、炭化水素基(例えば、脂肪族基、芳香族基、または脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの))を含むものであれば、特に限定されるものではなく、種々のポリカーボネート樹脂を用いることができる。
【0062】
本実施形態においては、ポリカーボネート樹脂はビスフェノール型ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂とは、ポリカーボネート樹脂を構成する構成単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上が、より好ましくは95モル%以上がビスフェノール(好ましくはビスフェノールA)および/またはその誘導体由来のカーボネート構成単位であることをいう。
ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0063】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、特に定めるものではないが、重量平均分子量で、20,000以上であることが好ましく、30,000以上であることがより好ましい。また、前記重量平均分子量は、好ましくは100,000以下、より好ましくは70,000以下である。前記重量平均分子量を下限値以上とすることにより、得られる平板状成形体の強度を高くすることができる。また、前記重量平均分子量を上記上限値以下とすることにより、成形加工性が向上する傾向にある。
なお、本実施形態においては、重量平均分子量の異なる2種以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、混合物の粘度平均分子量とする。
ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は後述する実施例の記載に従って測定される。
【0064】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、160℃以下であることが好ましく、155℃以下であることがより好ましく、154℃以下であることがさらに好ましく、153℃以下であることが一層好ましく、152℃以下であることがより一層好ましく、151℃以下であることがさらに一層好ましい。また、本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、140℃以上であり、さらには、143℃以上、145℃以上、147℃以上、148℃以上であってもよい。
ガラス転移温度は、特開2022-080270号公報の段落0056の記載に従って測定される。
【0065】
その他、ポリカーボネート樹脂の詳細は、本実施形態の趣旨を逸脱しない限り、特開2012-144604号公報の段落0011~0020の記載、特開2019-002023号公報の段落0014~0035の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0066】
基材1には、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、各種樹脂添加剤を含有していてもよい。樹脂添加剤としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、難燃剤、滴下防止剤、染料および顔料(カーボンブラックを含む)、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
【0067】
また、基材1は単層であってもよいが、多層であってもよい。
基材1(好ましくはポリカーボネート樹脂層)の厚みは、特に制限はないが、例えば、1μm以上であり、30μm以上であることが好ましく、35μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることが一層好ましく、100μm以上であることがより一層好ましく、300μm以上であることがさらに一層好ましく、500μm以上であることが特に一層好ましく、700μm以上であってもよい。また、基材1の厚みは、10,000μm以下であることが好ましく、5,000μm以下であることがより好ましく、3,000μm以下であってもよく、2,500μm以下であってもよい。
【0068】
本実施形態の多層体は、上述の通り、平板状成形体および基材を含むことが好ましいが、この時、平板状成形体と基材(好ましくは、ポリカーボネート樹脂層)の厚みの関係性は、平板状成形体の厚み/[平板状成形体と基材の合計厚み]<1/5を満たすことが好ましい。この関係を満たすことで、平板状成形体が多層体全体として薄いものとなるため、多層体を加熱成形しても、クラックの発生がより効果的に抑制され、かつ、スプリングバックの発生がより効果的に抑制される。より具体的には、スプリングバックを抑制するには、多層体を折り曲げた際に、多層体全体に残っている曲げに対する残留応力を緩和することがより効果的である。かかる観点から、基材だけでなく、平板状成形体についても残留応力を緩和することがより好ましい。平板状成形体と基材が上記関係を満たすようにすることにより、平板状成形体に由来する残留応力が緩和されやすくなり、スプリングバックをより効果的に抑制することができる。本実施形態においては、平板状成形体の厚み/[平板状成形体と基材の合計厚み]<1/6がより好ましく、平板状成形体の厚み/[平板状成形体と基材の合計厚み]<1/8がさらに好ましい。また、1/35<平板状成形体の厚み/[平板状成形体と基材の合計厚み]であることが好ましく、1/25<平板状成形体の厚み/[平板状成形体と基材の合計厚み]であることがより好ましい。特に、本実施形態では、平板状成形体と基材が上述した所定の厚みの好ましい範囲を、また、多層体が後述する厚みの好ましい範囲を満たしつつ、上記関係を満たすことがより好ましい。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に達成される。
【0069】
本実施形態において、前記平板状成形体(アクリル樹脂層)と、ポリカーボネート樹脂層とからなる多層体の温度85℃、相対湿度85%の環境下に120時間静置した後の反り変化量(絶対値)は、250μm未満であることがより好ましい。前記反り変化量の下限は0μmが理想であるが、1μm以上が実際的である。
反り変化量は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0070】
次に、ハードコート層の詳細について説明する。本実施形態の多層体に含まれていてもよいハードコート層は、基材(例えば、ポリカーボネート樹脂層)よりも、表面硬度が高い層である。このようなハードコート層を含むことにより、多層体ないし成形品の表面硬度を高めることができる。
ハードコート層の厚さは、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることがさらに好ましく、4μm以上であることが一層好ましく、5μm以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、ハードコート層による多層体全体の鉛筆硬度がより向上する傾向にある。ハードコート層の厚さの上限は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、12μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが一層好ましく、8μm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時の加工性がより向上する傾向にある。
【0071】
ハードコート層は、熱硬化または活性エネルギー線による硬化が可能なハードコート材料を塗布後、硬化させて得られるものが好ましい。
活性エネルギー線を用いて硬化させる塗料の一例としては、1官能あるいは多官能(好ましくは2~10官能)の(メタ)アクリレートモノマーあるいはオリゴマーなどの単独あるいは複数からなる樹脂組成物が挙げられ、好ましくは、1官能あるいは多官能(好ましくは2~10官能)ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む樹脂組成物等が挙げられる。これらの樹脂組成物には、硬化触媒として光重合開始剤が加えられることが好ましい。
また、熱硬化型樹脂塗料としてはポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などのものが挙げられる。この様な樹脂組成物は、アクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂フィルムまたはシート用ハードコート剤として市販されているものもあり、塗装ラインとの適正を加味し、適宜選択すればよい。
ハードコート層としては、特開2013-020130号公報の段落0045~0055の記載、特開2018-103518号公報の段落0073~0076の記載、特開2017-213771号公報の段落0062~0082の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0072】
本実施形態の多層体がハードコート層を有する場合、ハードコート層側から測定した、JIS K5600-5-4:1999に準拠して測定した鉛筆硬度が高いことが好ましい。具体的には、前記鉛筆硬度は2H以上であることが好ましく、3H以上であることがより好ましい。上限値としては、6H以下が実際的であり、5H以下であっても十分に要求性能を満たす。
【0073】
本実施形態の多層体の総厚みは、特に制限はないが、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることがさらに好ましい。層厚みが厚いほうが、多層体としての剛性が向上する傾向がある。また、多層体の総厚みは、10,000μm以下であることが好ましく、5,000μm以下であることがより好ましく、2,000μm以下であってもよい。このような層厚みにすることで、多層体成形時において、ロール間で多層シートを圧着させ、樹脂を冷却する際に、多層体内部まで樹脂が冷却されるため、多層体の成形性を向上させることができる。
【0074】
本実施形態の多層体は、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物を押出するメイン押出機と、本実施形態の樹脂組成物を押出するサブ押出機とを用い、各々用いる樹脂の条件にて樹脂を溶融し押し出しダイに導き、ダイ内部で積層しシート状に成形する、もしくはシート状に成形した後に積層することで多層体を形成することができる。
【0075】
本実施形態の多層体は、また、熱曲げ耐性に優れているため、屈曲部を有する用途に適している。例えば、曲率半径が50mmR以下(好ましくは曲率半径が40~50mmR)の部位を有する成形品にも好ましく用いられる。
前記成形品は、好ましくは、本実施形態の多層体を130~150℃(好ましくは133~147℃)で熱曲成形することにより得られる。本実施形態の多層体は、熱曲げ耐性に優れているため、曲率半径が50mmR以下の部位を有する成形品としたときに、特に有益である。さらに、スプリングバックやクラックの発生の観点から133℃以上であることが好ましく、140℃以上がさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ時間を短縮でき、また、樹脂の応力緩和が早くなり、スプリングバックが発生しにくくなり好ましい。また、前記熱曲げ温度は、148℃以下であることが好ましく、146℃以下であることがより好ましい。
【0076】
<用途>
本実施形態の樹脂組成物、平板状成形体および多層体は、成形品、例えば、光学部品や意匠製品、反射防止成形品などに好適に用いることができる。すなわち、本実施形態の成形品は、本実施形態の平板状成形体または多層体を含む。
本実施形態の平板状成形体および多層体は、表示装置、電気電子機器、OA機器、携帯情報末端、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器等の部品等に好適に用いられる。これらの中でも、特に、各種ディスプレイ、電気電子機器、OA機器、携帯情報末端および家電製品の筐体、照明機器および車輌部品(特に、車輌内装部品)、スマートフォンやタッチパネル等の表層フィルム、光学材料、光学ディスクに好適に用いられる。特に、本実施形態の成形品は、タッチパネルのセンサー用フィルムや各種ディスプレイの反射防止成形品として好ましく用いられる。
【実施例】
【0077】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0078】
<原料>
(A)アクリル樹脂(MMA樹脂)
(A1)日本触媒製、PML203、スチレン:N-フェニルマレイミド:N-シクロへキシルマレイミド:MMA(メタクリル酸メチル)の質量比=6質量%:19質量%:4質量%:71質量%、Tg:135℃、重量平均分子量:189,000
(A2)旭化成社製、SK540N、N-フェニルマレイミド:N-シクロへキシルマレイミド:MMA(メタクリル酸メチル)の質量比=8質量%:7質量%:85質量%、Tg:124℃、重量平均分子量:128,000
(A3)ダイセル・エボニック社製、hw55、スチレン:無水マレイン酸:MMA(メタクリル酸メチル)の質量比=16質量%:8質量%:76質量%、Tg:120℃、重量平均分子量:109,000
(A4)アルケマ社製、HT121、MMA(メタクリル酸メチル):MA(メタクリル酸)=94質量%:6質量%:Tg:117℃、重量平均分子量:75,800
(A5)旭化成社製、PMMA樹脂、デルペット80HD、MMA(メタクリル酸メチル):アクリル酸メチル=99質量%:1質量%、Tg:108℃、重量平均分子量:124,600
(A6)アルケマ社製、PMMA樹脂、ALTUGLAS(登録商標)V020、MMA(メタクリル酸メチル):アクリル酸メチル=97質量%:3質量%、Tg:109℃、重量平均分子量:127,000
【0079】
(B)芳香族ビニル樹脂
St-N置換マレイミド単量体共重合体
(B1)Polyscope社製、XIBOND330、スチレン:N-フェニルマレイミド:無水マレイン酸=70質量%:19質量%:11質量%、ガラス転移温度(Tg):171℃、重量平均分子量:99,800
(B2)Polyscope社製、XIBOND370、スチレン:N-フェニルマレイミド:無水マレイン酸=65質量%:13質量%:22質量%、ガラス転移温度(Tg):170℃、重量平均分子量:76,800
【0080】
St-MAH共重合体
(B3)Polyscope社製、XIRANSO23110、スチレン:無水マレイン酸=77質量%:23質量%、ガラス転移温度(Tg):145℃、重量平均分子量:74,300
(B4)Polyscope社製、XIRANSO26080、スチレン:無水マレイン酸=74質量%:26質量%、ガラス転移温度(Tg):150℃、重量平均分子量:47,600
【0081】
(C)酸化防止剤
(C1)アデカスタブ2112、下記化合物、tBuは、t-ブチル基を示す。
【化9】
【0082】
(D)離型剤
(D1)グリセリンモノステアレート、理研ビタミン株式会社製、リケマールS-100A
【0083】
(E)ポリカーボネート樹脂
(E)末端基がp-t-ブチルフェノキシ基であるビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、E-2000F、重量平均分子量:53,000、ガラス転移温度(Tg):149℃
【0084】
<ガラス転移温度の測定>
各種樹脂および樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、下記の示差走査熱量測定(DSC測定)条件のとおりに、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度を測定した。
低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点をガラス転移温度とTgとした。測定開始温度:30℃、昇温速度:10℃/分、到達温度:250℃、降温速度:20℃/分とした。単位は、℃で示した。
測定装置は、示差走査熱量計(DSC、日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7020」)を使用した。
【0085】
<重量平均分子量の測定方法>
各種樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定した。
具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィー装置には、LC-20AD system(島津製作所社製)を用い、カラムとして、LF-804(Shodex社製)を接続して用いた。カラム温度は40℃とした。検出器はRID-10A(島津製作所社製)のRI検出器を用いた。溶離液として、クロロホルムを用い、検量線は、東ソー社製の標準ポリスチレンを使用して作成した。
上記ゲル浸透クロマトグラフィー装置、カラム、検出器が入手困難な場合、同等の性能を有する他の装置等を用いて測定する。
【0086】
実施例1~4、比較例1~17
<樹脂組成物(表層材のペレット)の製造>
上記に記載した各成分を、表1~5に記載の添加量(表1~5の各成分は質量部表記である)となるように計量した。その後、タンブラーにて15分間混合した後、スクリュー径32mmのベント付二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」)により、シリンダー温度260℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
【0087】
<ペレット外観>
得られたペレットについて、目視で外観を評価した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:透明であった。
B:白濁していた。
評価がAのペレット(樹脂組成物)については、さらに、以下の評価を行った。
【0088】
<1mm厚および3mm厚の平板状成形体の製造>
得られた樹脂組成物(ペレット)をベント付二軸射出成形機(Sodick社製「PE-100」、二軸スクリュー径29mmの噛合型同方向回転式、プランジャー直径28mm)により、シリンダー温度260℃で溶融混練し、金型温度80℃の条件にて平板状成形体(100×100×1mm、および100×100×3mm)を成形した。
【0089】
<ヘイズの測定>
ヘイズメーターを用いて、D65光源10°視野の条件にて、上記で得られた平板状成形体(3mm厚)のヘイズを測定した。ヘイズメーターは、村上色彩技術研究所社製「HM-150」を用いた。単位は、%で示した。
【0090】
<鉛筆硬度>
上記で得られた平板状成形体(1mm厚)について、JIS K5600-5-4:1999に準拠し、鉛筆硬度試験機を用いて、750g荷重にて、鉛筆硬度を測定した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
【0091】
<ハードコートなし多層体の製造>
軸径32mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、全押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結された650mm幅のTダイを有する多層押出装置を用いて多層体を成形した。軸径32mmの単軸押出機に、表1~5に示す各実施例および比較例のアクリル樹脂層(表層)の形成に使用される樹脂組成物を導入し、シリンダー温度250℃、吐出量を2.1kg/hの条件で押し出した。また、軸径65mmの単軸押出機にポリカーボネート樹脂(E-2000F)を連続的に導入し、シリンダー温度は樹脂粘度によって280℃、吐出量を67.9kg/hで押し出した。全押出機に連結されたフィードブロックは2種2層の分配ピンを備え、押し出して、積層した。その先に連結されたTダイでシート状に押し出し、上流側から温度130℃、140℃、180℃とした3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却し、各多層体を得た。得られた多層体の中央部の全体厚みは2000μm、アクリル樹脂層(表層)の厚みは60μmであった。
【0092】
<ハードコートの塗工>
6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(製品名:U6HA、新中村化学工業株式会社製)60質量部、PEG200#ジアクリレート(製品名:4EG-A、共栄社化学株式会社製)35質量部、および含フッ素基・親水性基・親油性基・UV反応性基含有オリゴマー(製品名:RS-90、DIC株式会社製)5質量部の合計100質量部に対して、光重合開始剤(製品名:I-184〔化合物名:1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン〕BASF株式会社製)を1質量%加えた塗料を、上記で作製したハードコートなし多層体のアクリル樹脂層の表面にバーコーターにて塗布し、メタルハライドランプ(20mW/cm2)を5秒間当ててハードコートを硬化させた。ハードコート層の膜厚は6μmであった。
【0093】
<鉛筆硬度>
上記で得られたハードコート層付多層体のハードコート層側について、JIS K5600-5-4:1999に準拠し、鉛筆硬度試験機を用いて、750g荷重にて、鉛筆硬度を測定した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
【0094】
<熱プレス成形加工性(145℃、2分熱曲げ)>
上記で得られたハードコート層付多層体について、曲率半径が50mmRとなる凸型(オス型)と凹型(メス型)の金型を作製した。多層体は成形前に90℃で1分間予備加熱し、ハードコート層を塗装した側の表面が凸側になるように、金型に置き、金型温度145℃で2分間プレスを行い、自然冷却することにより、熱プレス成形品を作製した。
上記熱プレス成形品の曲げ部分のクラックを目視で評価した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:熱プレス成形品の曲げ部分にクラックが確認されなかった。
B:熱プレス成形品の曲げ部分にクラックが確認された。
【0095】
<高温高湿環境下の反り評価>
ハードコートなしの多層体の中央付近から縦10cm、横6cmの試験片を切り出した。試験片を2点支持型のホルダーにセットして温度23℃、相対湿度50%に設定した環境試験機に24時間以上投入して状態調整した後、反りを測定した。このときの値を処理前反り量の値とした。次に試験片をホルダーにセットして温度85℃、相対湿度85%に設定した環境試験機の中に投入し、その状態で120時間保持した。さらに温度23℃、相対湿度50%に設定した環境試験機の中にホルダーごと移動し、その状態で4時間保持後に再度反りを測定した。このときの値を処理後反り量の値とした。反りの測定には、電動ステージ具備の3次元形状測定機を使用し、取り出した試験片を上に凸の状態で水平に静置し、1mm間隔でスキャンし、中央部の盛り上がりを反りとして計測した。処理前後の反り量の差、すなわち、(処理後反り量)-(処理前反り量)を反り変化量として評価した。その際、アクリル樹脂層側が凸の場合は「-」符号、ポリカーボネート樹脂層側が凸の場合は「+」符号で評価した。
A:反り変化量の絶対値が250μm未満であった。
B:反り変化量の絶対値が250μm以上であった。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
上記表1~5において、PC(PC基材)の欄における「A」は、ポリカーボネート樹脂基材(ポリカーボネート樹脂層)との多層体を製造したことを意味している。
上記表1~5において、Tgは樹脂組成物のガラス転移温度を示している。
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、透明性に優れ、かつ、短時間での熱曲げによるクラックを効果的に抑制することができた。さらに、透明性に優れた樹脂組成物が得られた。また、高温湿熱後の反り変化量も小さかった。
【符号の説明】
【0102】
1 多層体
2 基材
3 平板状成形体
4 ハードコート層