(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
D03D 15/267 20210101AFI20240722BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240722BHJP
D06C 7/00 20060101ALI20240722BHJP
D06B 13/00 20060101ALI20240722BHJP
D06M 13/513 20060101ALI20240722BHJP
C03C 13/00 20060101ALI20240722BHJP
C03C 3/06 20060101ALI20240722BHJP
C03C 25/42 20060101ALI20240722BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20240722BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
D03D15/267
D03D1/00 A
D06C7/00 Z
D06B13/00
D06M13/513
C03C13/00
C03C3/06
C03C25/42
C08J5/24
H05K1/03 610L
H05K1/03 610T
(21)【出願番号】P 2024500298
(86)(22)【出願日】2023-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2023044188
【審査請求日】2024-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2023023729
(32)【優先日】2023-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】橋本 優香
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 周
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-339191(JP,A)
【文献】特開2002-242047(JP,A)
【文献】特開2018-127747(JP,A)
【文献】特開2020-158387(JP,A)
【文献】特開2001-073249(JP,A)
【文献】特開2023-006294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
C08J5/00-5/02,5/12-5/22
C03C1/00-14/00
D06B1/00-23/30
D06C3/00-29/00
D06G1/00-5/00
D06H1/00-7/24
D06J1/00-1/12
D06M13/00-15/715
H05K1/00-1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として構成されるガラスクロスであって、
前記ガラス糸のケイ素(Si)含有量が、二酸化ケイ素(SiO
2)換算で95.0質量%~100質量%であり、
前記ガラスクロスの厚み(T)が80μm以下であり、
下記式(A1):
{経糸束段数(N)-0.2}/厚み(T)[μm]<0.056・・・(A1)
{式(A1)中、経糸束段数(N)は、経糸フィラメント径[μm]×経糸フィラメント数[本]÷経糸幅[μm]で求められる値である。}
を満たす、ガラスクロス。
【請求項2】
前記ガラスクロスをエポキシ樹脂で包埋し前記エポキシ樹脂を硬化させた後、前記ガラスクロスの断面を観察したとき、下記式:
経糸接着割合=経糸中で互いに接着するフィラメントの接着点数÷経糸フィラメント数
で算出される経糸接着割合が、0超0.80以下である、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項3】
シランカップリング剤を含む表面処理剤で処理されている、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項4】
前記シランカップリング剤が、下記式(C):
X(R)
3-nSiY
n ・・・(C)
{式(C)中、Xは、アミノ基、及びラジカル反応性を有する不飽和二重結合基の少なくとも一方を有する有機基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基からなる群から選択される基である。}で表される化合物を含む、請求項3に記載のガラスクロス。
【請求項5】
前記式(C)中のXが、メタクリロイルオキシ基、又はアクリロイルオキシ基を1つ以上有する有機基である、請求項4に記載のガラスクロス。
【請求項6】
前記ガラス糸の平均フィラメント径(D)が4μm以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラスクロス。
【請求項7】
前記ガラスクロスの厚みが20μm以上80μm以下の場合、下記式(B1)を満たし、前記ガラスクロスの厚みが20μm未満の場合、下記式(B6)を満たす、請求項1~
5のいずれか一項に記載のガラスクロス。
24×平均フィラメント径(D)[μm]-厚み(T)[μm]>96・・・(B1)
14×平均フィラメント径(D)[μm]-厚み(T)[μm]>46・・・(B6)
【請求項8】
前記ガラスクロスの厚み(T)が60μm以下である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のガラスクロス。
【請求項9】
前記ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%~0.30質量%の範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラスクロス。
【請求項10】
プリント配線板用である、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラスクロス。
【請求項11】
請求項1~5いずれか一項に記載のガラスクロスと、熱硬化性樹脂と、無機充填剤と、を含有する、プリプレグ。
【請求項12】
請求項11に記載のプリプレグを含む、プリント配線板。
【請求項13】
請求項12に記載のプリント配線板を含む、集積回路。
【請求項14】
請求項12に記載のプリント配線板を含む、電子機器。
【請求項15】
ガラスクロスの製造方法であって、前記方法は、
複数本のフィラメントを含み、Si含有量がSiO
2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であるガラス糸を、経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロスを得る工程を含み、
前記方法は、前記製織する工程の前に、前記ガラス糸の糸束を扁平化させ、その後サイジングを行う整経工程と、
前記整経工程の後、かつ前記製織する工程の前、途中、又は後に、以下:
ガラス糸を50℃以上の水で洗浄する工程と、
前記洗浄された前記ガラス糸を加熱脱油する工程と、
前記加熱脱油された前記ガラス糸を、超音波が照射されている液体中、50m/分以下の速度で搬送しながら洗浄及び開繊する工程と
を更に含み、
前記開繊処理後のガラスクロスの厚み(T)が80μm以下であり、
前記開繊処理後のガラスクロスの厚みが20μm以上80μm以下の場合、下記式(B1)、前記開繊処理後のガラスクロスの厚みが20μm未満の場合、下記式(B6):
24×平均フィラメント径(D)[μm]-厚み(T)[μm]>96・・・(B1)
14×平均フィラメント径(D)[μm]-厚み(T)[μm]>46・・・(B6)
を満たす、方法。
【請求項16】
前記洗浄及び開繊された前記ガラスクロスを表面処理剤で表面処理する工程を更に含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板などに関する。本国際出願は、2023年2月17日に出願した日本国特許出願第2023-023729号に基づく優先権を主張するものであり、当該日本国特許出願の全内容を本国際出願に援用する。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、及び5G通信に代表される高速通信化が進んでいる。かかる背景に伴い、特に高速通信用のプリント配線板に対して、従来から求められている高密度化、極薄化、耐熱性の向上だけでなく、その絶縁材料の更なる誘電特性の向上(例えば、低誘電正接化)が望まれている。同様に、プリント配線板の絶縁材料に用いられるプリプレグ、該プリプレグに含まれるガラスクロス、及び該ガラスクロスを構成するガラス糸に対しても、誘電特性の向上が望まれている。
【0003】
プリプレグの誘電特性の向上を目的として、低誘電ガラスを用いてプリプレグを構成する手法が知られている。特許文献1及び2では、二酸化ケイ素(SiO2)組成量が98~100質量%であるガラス糸が用いられている。また、特許文献3にはこのようなガラス糸の毛羽の発生を抑制する集束剤について記載されている。
【0004】
一方、ガラスクロスに開繊処理を行うことで、プリプレグ及びプリント配線板中に存在するボイドと呼ばれる気泡を発生させにくくし、樹脂含浸性を向上させることが可能となる。ボイドを低減し、樹脂含浸性を向上させることによって、プリント配線板の耐熱性及び絶縁性を向上させることができることから、開繊処理工程はガラスクロスの製造工程において重要であることが知られている。特許文献4及び5には、ウォータージェット等の水流圧力によるガラスクロスの開繊技術、及び超音波等によるガラスクロスの開繊技術が記載されている。
【0005】
特許文献6には、糸幅のムラを特定範囲内とすることで、ボイドを低減しつつ、毛羽を抑制できることが記載されている。また、特許文献7には織物構造によってガラスクロスの平滑性及び樹脂含浸性を向上させることが記載されている。
【0006】
ガラスクロスはIPC規格にてタテヨコの織密度、フィラメント径、フィラメント数が定められた種々の規格があり、通常、この規格に沿って製織される。一般に、フィラメント径の細い糸を用いる方が、容易にガラスクロスの厚みを薄くでき、また、十分な織密度が確保できることで目ずれ等の問題が生じにくいことから、厚みの薄いガラスクロスはフィラメント径の細い糸を用いて製織されることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-127747号公報
【文献】特開2018-127752号公報
【文献】特開2015-78079号公報
【文献】特開2009-263824号公報
【文献】特開2020-158945号公報
【文献】特開2022-181738号公報
【文献】特開2003-82562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らの検討の結果、特許文献1~7に記載されるような従来の技術では、二酸化ケイ素(SiO2)含有量の高い石英ガラスを用いた場合、毛羽を更に改善する余地があることが分かった。詳細は後述する。
【0009】
本開示は、二酸化ケイ素(SiO2)含有量の高いガラス糸から構成され、毛羽が少ない石英ガラスクロス、並びにこれを含むプリプレグ、及びプリント配線板等を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の態様の一部を以下の項目[1]~[16]に例示する。
[1]
複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として構成されるガラスクロスであって、
前記ガラス糸のケイ素(Si)含有量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0質量%~100質量%であり、
前記ガラスクロスの厚み(T)が80μm以下であり、
下記式(A1):
{経糸束段数(N)-0.2}/厚み(T)[μm]<0.056・・・(A1)
{式(A1)中、経糸束段数(N)は、経糸フィラメント径[μm]×経糸フィラメント数[本]÷経糸幅[μm]で求められる値である。}
を満たす、ガラスクロス。
[2]
前記ガラスクロスをエポキシ樹脂で包埋し前記エポキシ樹脂を硬化させた後、前記ガラスクロスの断面を観察したとき、下記式:
経糸接着割合=経糸中で互いに接着するフィラメントの接着点数÷経糸フィラメント数
で算出される経糸接着割合が、0超0.80以下である、項目1に記載のガラスクロス。
[3]
シランカップリング剤を含む表面処理剤で処理されている、項目1または2に記載のガラスクロス。
[4]
前記シランカップリング剤が、下記式(C):
X(R)3-nSiYn ・・・(C)
{式(C)中、Xは、アミノ基、及びラジカル反応性を有する不飽和二重結合基の少なくとも一方を有する有機基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基からなる群から選択される基である。}で表される化合物を含む、項目3に記載のガラスクロス。
[5]
前記式(C)中のXが、メタクリロイルオキシ基、又はアクリロイルオキシ基を1つ以上有する有機基である、項目4に記載のガラスクロス。
[6]
前記ガラス糸の平均フィラメント径(D)が4μm以上である、項目1~5のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[7]
前記ガラスクロスの厚みが20μm以上80μm以下の場合、下記式(B1)を満たし、前記ガラスクロスの厚みが20μm未満の場合、下記式(B6)を満たす、項目1~6のいずれか一項に記載のガラスクロス。
24×平均フィラメント径(D)[μm]-厚み(T)[μm]>96・・・(B1)
14×平均フィラメント径(D)[μm]-厚み(T)[μm]>46・・・(B6)
[8]
前記ガラスクロスの厚み(T)が60μm以下である、項目1~7のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[9]
前記ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%~0.30質量%の範囲である、項目1~8のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[10]
プリント配線板用である、項目1~9のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[11]
項目1~10いずれか一項に記載のガラスクロスと、熱硬化性樹脂と、無機充填剤と、を含有する、プリプレグ。
[12]
項目11に記載のプリプレグを含む、プリント配線板。
[13]
項目12に記載のプリント配線板を含む、集積回路。
[14]
項目12に記載のプリント配線板を含む、電子機器。
[15]
ガラスクロスの製造方法であって、前記方法は、
複数本のフィラメントを含み、Si含有量がSiO2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であるガラス糸を、経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロスを得る工程を含み、
前記方法は、前記製織する工程の前に、前記ガラス糸の糸束を扁平化させ、その後サイジングを行う整経工程と、
前記整経工程の後、かつ前記製織する工程の前、途中、又は後に、以下:
ガラス糸を50℃以上の水で洗浄する工程と、
前記洗浄された前記ガラス糸を加熱脱油する工程と、
前記加熱脱油された前記ガラス糸を、超音波が照射されている液体中、50m/分以下の速度で搬送しながら洗浄及び開繊する工程と
を更に含み、
前記開繊処理後のガラスクロスの厚み(T)が80μm以下であり、
前記開繊処理後のガラスクロスの厚みが20μm以上80μm以下の場合、下記式(B1)、前記開繊処理後のガラスクロスの厚みが20μm未満の場合、下記式(B6):
24×平均フィラメント径(D)[μm]-厚み(T)[μm]>96・・・(B1)
14×平均フィラメント径(D)[μm]-厚み(T)[μm]>46・・・(B6)
を満たす、方法。
[16]
前記洗浄及び開繊された前記ガラスクロスを表面処理剤で表面処理する工程を更に含む、項目15に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、二酸化ケイ素(SiO2)含有量の高いガラス糸から構成され、毛羽が少ない石英ガラスクロス、並びにこれを含むプリプレグ、及びプリント配線板等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)及び(b)は、本開示における「接着割合」の算出手法を説明するためのSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について説明するが、本開示はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0014】
本開示において、「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。また、段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えることができる。更に、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えることもできる。そして、「工程」の語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、工程の機能が達成されれば、当該工程に含まれる。
【0015】
《ガラスクロス》
本開示のガラスクロスは、複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として含む、ガラスクロスである。ガラス糸におけるケイ素(Si)含量は、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0質量%以上100質量%以下であり、ガラスクロスの厚み(T)は80μm以下であり、下記式(A1):
{経糸束段数(N)-0.2}/T[μm]<0.056 ・・・(A1)
を満たす。式(A1)中、「経糸束段数(N)」とは、経糸フィラメント径[μm]、経糸フィラメント数[本]及び経糸幅[μm]から算出されるガラスクロスの経糸の糸束に含まれるフィラメントの段数である。本開示のガラスクロスは、好ましい実施形態において、ガラスクロスをエポキシ樹脂で包埋し該樹脂を硬化させた後、そのガラスクロスの断面を観察したとき、下記式:
経糸接着割合=経糸中で互いに接着するフィラメントの接着点数÷経糸フィラメント数
で算出される経糸接着割合が、0超え0.80以下である。エポキシ樹脂で包埋する対象は、ガラスクロスの少なくとも一部でよい。
【0016】
特許文献1及び2に記載されるように、一般的に、SiO2組成量が高いガラスは、耐屈曲性が低く、ガラスクロスの状態でも柔軟性に乏しいため、他のガラス種よりも毛羽やしわを生じやすいことから問題がある。この点、特許文献1では、ガラスクロスを表面処理することでプリプレグの毛羽を抑制する方法が記載されている。また、特許文献2には糊剤を所定量付着させたガラス糸を用いることでガラスクロスの毛羽を抑制する方法が記載されている。しかしながら、本発明者らの検討の結果、特許文献1の方法は、表面処理以前に生じる毛羽を抑制できず、改善の余地があることが分かった。また、特許文献1及び2に記載される方法では、特に、ガラスクロスの樹脂含浸性に改善の余地があることが分かった。
【0017】
特許文献3では、特定の組成を有するガラス繊維集束剤を用いることで、毛羽の発生を抑制する方法が記載されている。しかしながら、本発明者らの検討の結果、特許文献3の方法は、加熱脱油や開繊を行わなくてよいことで毛羽を抑制しているため、ガラスクロスの樹脂含浸性の観点から改善の余地があることが分かった。
【0018】
特許文献6には、フィラメント径の細い糸が、太い糸に比べて機械的強度が劣り、毛羽等が発生しやすく、比較的温和な条件での開繊処理をおこなう必要があることが記載されている。また、特許文献6では、糸幅にムラがある部分(ムラ部)で毛羽とボイドが発生していることが記載されており、また、ガラスヤーンの撚り数、集束剤、製織工程での張力等を制御することで、糸幅のムラを低減し、毛羽及びボイドを低減できることが記載されている。しかしながら、特許文献6では、20μm以下の厚みのガラスクロスでの効果が示されているのみであり、本発明者らの検討の結果、20μmを超える厚みのガラスクロスでは、毛羽及びボイド(樹脂含浸性)に改善の余地があることが分かった。また、特許文献6では、ガラス種としてEガラス、Tガラス、Sガラス、UTガラス、Dガラス、NEガラス、及びLガラス等が挙げられているのみであり、本発明者らの検討の結果、さらなる低誘電特性を備えた石英ガラスについては、毛羽及びボイド(樹脂含浸性)に改善の余地があることが分かった。
【0019】
特許文献4及び5は、ウォータージェット等の水流圧力によるガラスクロスの開繊技術、及び超音波等によるガラスクロスの開繊技術が記載されている。ガラスクロスに開繊処理を行うことで、ボイドを低減し、樹脂含浸性を向上させることができる。しかしながら、本発明者らの検討の結果、ガラス糸を構成するガラスのSiO2組成量が高いガラスクロスでは、他のガラス種と比べさらに機械的強度が劣るため、これまで温和な開繊条件が検討及び適用されてきたガラスクロスの厚みよりも比較的厚い、80μm以下のガラスクロスであっても、特許文献4及び5に記載の従来の開繊処理では毛羽が生じやすいことが明らかとなった。また、石英ガラスは硬度が高く、温和な開繊条件では開繊がされにくいために、糸幅のムラ部だけでなくムラの少ない部分においても毛羽やボイドが発生していることが明らかとなった。
【0020】
物理加工以外の方法として、特許文献7では、フィラメント径の太い糸を使用し、かつ織密度を低下させることで、交絡点を減らして表面を平滑化し、樹脂含浸性を向上させる方法が記載されている。しかしながら、本発明者らの検討の結果、毛羽及び樹脂含浸性に関して改良の余地があることが分かった。
【0021】
これに対して、本開示によれば、二酸化ケイ素(SiO2)含有量の高いガラス糸を用いつつ、毛羽の発生を抑制させたガラスクロス、並びにこれを含むプリプレグ及びプリント配線板等を提供することができる。本開示のガラスクロスは二酸化ケイ素(SiO2)含有量が高いため、プリプレグ及びプリント配線板の誘電特性を向上(例えば、誘電正接を低減)させることができる。また、好ましい実施形態において、本開示のガラスクロスは、優れた樹脂含浸性を有するため、マトリックス樹脂との複合体であるプリプレグ及びプリント配線板の耐熱性を向上させることができる。
【0022】
理論に限定されないが、本発明者らは、ガラス糸として石英ガラスを用いた場合における、ガラスクロスの毛羽の抑制について鋭意検討した結果、緯糸よりも経糸のほうが開繊されにくいことから、経糸の糸束中のフィラメントの段数(経糸束段数)に着目するに至った。そして、これを所定の範囲に制御することで、毛羽の発生を抑制することが可能であることを見出した。以下に詳述するように、厚みに対する経糸束段数が小さいことで、毛羽の発生を抑制することができる。さらに、ガラス糸として石英ガラスを用いた場合における、ガラスクロスの毛羽の抑制、及び樹脂含浸性の改善について鋭意検討した結果、緯糸よりも経糸のほうが開繊されにくいことから、経糸の糸束中のフィラメント間の接着割合に着目するに至った。そして経糸の糸束中のフィラメントの段数(経糸束段数)、及びフィラメント間の接着割合を所定の範囲に制御することで、毛羽の発生を抑制しつつ、樹脂含浸性を向上させることが可能であることを見出した。経糸接着割合が低いことで、樹脂含浸性を向上させることができる。そして、樹脂含浸性の向上は、プリプレグ及びプリント配線板の耐熱性の向上につながる。
【0023】
特定の製造方法に限定されないが、経糸束段数を所定の範囲に制御するためには、好ましくは、ガラスクロスの厚みに対してフィラメント径の太い糸を使用すること、フィラメント数を低下させること、整経時に糸束を扁平化した後にサイジング加工(糊付け)を行うこと、並びに、ガラスクロスを加熱脱油する前に所定温度以上の水でガラスクロスを洗浄すること等が挙げられる。さらに、経糸束段数及び経糸接着割合を所定の範囲に制御するためには、特定の製造方法に限定されないが、好ましくは、上記方法に加えて、ガラスクロスを表面処理する前に超音波でサイジング剤の燃焼残渣の洗浄及び開繊処理を行うこと、並びに、ガラスクロスの搬送速度を所定の速度以下に制御すること等が挙げられる。
【0024】
〔ガラス糸〕
ガラスクロスを構成するガラス糸は、Si含有量が、SiO2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であるガラスを原料にして得られる。このようなガラス糸を用いることで、得られるガラスクロスの誘電特性を向上することができる。Si含有量は、SiO2換算で98.0質量%~100質量%の範囲であることが好ましく、99.0質量%~100質量%がより好ましく、99.5質量%~100質量%が更に好ましく、99.9質量%~100質量%が特に好ましい。
【0025】
ガラス糸を構成するガラスフィラメントの平均フィラメント径(単に、「フィラメント径」ともいう。)は、好ましくは4.0μm以上11.0μm以下である。フィラメント径の下限値は、4.5μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、5.5μm以上であることが特に好ましい。これらの下限値と組み合わせることのできるフィラメント径の上限値は、10.0μm以下であることがより好ましく、9.5μm以下であることがさらに好ましい。また、式(A1)を満たすためには、フィラメント数にもよるが、フィラメント径が5.0μm以上であることが好ましく、5.5μm以上であることがより好ましく、6.0μm以上であることが特に好ましい。フィラメント径が上記の下限値以上であると、フィラメントの破断強度が高くなるため、得られるガラスクロスに毛羽が発生しにくくなる。フィラメント径が上記の上限値以下であると、ガラスクロスの質量が小さくなるため、搬送又は加工を行い易くなる。また、フィラメント径が上記の範囲内であれば、毛羽の抑制及び樹脂含浸性の向上の効果が得られ易い。本開示において、単に「平均フィラメント径」(又は「フィラメント径」)と記載する場合は、経糸を構成するフィラメントのみの平均フィラメント径(DMD)もしくは緯糸を構成するフィラメントのみの平均フィラメント径(DTD)を意味し、経糸緯糸双方をあわせた平均フィラメント径(D)ではない。
【0026】
平均フィラメント径(D)は、下式のとおり、経糸の平均フィラメント径(DMD)と緯糸の平均フィラメント径(DTD)から算出される値である。
D=(DMD+DTD)/2
平均フィラメント径(D)は、好ましくは4.0μm以上、11.0μm以下である。平均フィラメント径(D)の下限値は、4.0μm以上であることが好ましく、4.5μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、5.5μm以上であることが特に好ましい。これらの下限値と組み合わせることのできるフィラメント径(D)の上限値は、10.0μm以下であることがより好ましく、9.5μm以下であることがさらに好ましい。また、式(A1)を満たすためには、フィラメント数にもよるが、フィラメント径(D)が5.0μm以上であることが好ましく、5.5μm以上であることがより好ましく、6.0μm以上であることが特に好ましい。フィラメント径(D)が上記の下限値以上であると、フィラメントの破断強度が高くなるため、得られるガラスクロスに毛羽が発生しにくくなる。フィラメント径(D)が上記の上限値以下であると、ガラスクロスの質量が小さくなるため、搬送又は加工を行い易くなる。また、フィラメント径(D)が上記の範囲内であれば、毛羽の抑制及び樹脂含浸性の向上の効果が得られ易い。
【0027】
ガラス糸を構成するガラスフィラメントの平均フィラメント数(単に、「フィラメント数」ともいう。)は、好ましくは10本~250本であり、より好ましくは15本~200本であり、さらに好ましくは18本~150本であり、特に好ましくは20本~120本である。フィラメント数が10本以上であることにより、糸切れが抑制される傾向にある。また、ガラスフィラメントの平均フィラメント数が上記の範囲内であれば、毛羽の抑制及び樹脂含浸性の向上の効果が得られ易い。特に、式(A1)を満たすためには、フィラメント径にもよるが、経糸に用いるガラス糸のフィラメント数を150本以下とすることが好ましく、120本以下とすることがより好ましく、100本以下であることが特に好ましい。本開示において、平均フィラメント数は経糸を構成するガラス糸のフィラメントのみの平均値もしくは緯糸を構成するガラス糸のフィラメントのみの平均値であり、経糸緯糸双方をあわせた平均値ではない。
【0028】
〔織構造等〕
ガラスクロスは、複数本のガラスフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として構成される。ガラスクロスの織構造は、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り等の織構造が挙げられる。なかでも、平織り構造が好ましい。
【0029】
ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度(織密度)は、好ましくは10本/inch~120本/inch(=10~120本/25.4mm)であり、より好ましくは40本/inch~120本/inchである。打ち込み密度が上記の範囲内であれば、毛羽の抑制及び樹脂含浸性の向上の効果が得られ易い。
【0030】
ガラスクロスの目付量(ガラスクロスの質量)は、好ましくは8g/m2~90g/m2であり、より好ましくは8g/m2~80g/m2であり、更に好ましくは8g/m2~70g/m2であり、特に好ましくは8g/m2~60g/m2である。ガラスクロスの目付量が上記の範囲内であれば、毛羽の抑制及び樹脂含浸性の向上の効果が得られ易い。
【0031】
ガラスクロスの厚み(T)は、0μmより大きく80μm以下である。厚み(T)の上限値は、好ましくは60μm以下、より好ましくは55μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。ガラスクロスの厚みが上記の範囲内であれば、毛羽の抑制及び樹脂含浸性の向上の効果が得られ易い。これらの上限値と組み合わせることのできるガラスクロスの厚み(T)の下限値は、好ましくは5μm以上、10μm以上、15μm以上、又は20μm以上でよい。
【0032】
〔経糸束段数〕
ガラスクロスの厚み(T)と経糸束段数(N)は下記式(A1)を満たす。ガラスクロスの厚みと経糸束段数が下記式(A1)の関係を満たす場合、経糸中にフィラメントが層状に重なる部分が厚みに対して少なくなり、ガラスクロス表面、及び糸束中の凹凸が均一化されることで毛羽を抑制することができる。また、経糸中にフィラメントが層状に重なり空隙を形成する部分が厚みに対して少なくなり、樹脂含浸性を向上させることができる。
{経糸束段数(N)-0.2}/T[μm]<0.056・・・(A1)
ガラスクロスでは搬送時に張力がかかる経糸の方が開繊されにくく、緯糸と比べて糸束中の凹凸及び空隙が生じやすく、その結果、毛羽及びボイドが発生しやすい傾向がある。そのため、経糸の糸束段数を調整することが毛羽の抑制及び樹脂含浸性の向上に効果的である。
【0033】
経糸束段数(N)は、次式のとおり、経糸幅[μm]及び経糸のフィラメント径(DMD)[μm]、経糸フィラメント数[本]により算出される値である。
経糸束段数(N)=経糸フィラメント径(DMD)[μm]×経糸フィラメント数[本]÷経糸幅[μm]
ここで、好ましくは、フィラメント径を大きく、フィラメント数を少なく設定すること、整経での糊付け前に糸束の扁平化処理を行うこと、並びに、ガラスクロスを加熱脱油処理する前に50℃以上の水でサイジング剤の洗浄を行うことで、式(A1)を満たすことがより容易である。
【0034】
ガラスクロスの厚み(T)(μm)と経糸束段数(N)の関係は、好ましくは式(A2)、より好ましくは式(A3)、さらに好ましくは式(A4)、特に好ましくは式(A5)を満たす。
{N-0.2}/T[μm]<0.054・・・(A2)
{N-0.2}/T[μm]<0.052・・・(A3)
{N-0.2}/T[μm]<0.050・・・(A4)
{N-0.2}/T[μm]<0.048・・・(A5)
【0035】
〔経糸接着割合〕
経糸接着割合は、次式のとおり、経糸のフィラメント数と、互いに接着するフィラメントの接着点数から算出される値である。
経糸接着割合=経糸中で互いに接着するフィラメントの接着点数÷経糸フィラメント数
接着点数は、実施例の欄に詳述するように、ガラスクロスをエポキシ樹脂で包埋しエポキシ樹脂を硬化させた後、ガラスクロスの断面を観察することにより測定される。本開示のガラスクロスは、上記式で算出される経糸接着割合が0超0.80以下であることが好ましい。経糸接着割合は、0超0.70以下であることがより好ましく、0超0.60以下であることが更に好ましい。
【0036】
経糸接着割合が所定の値より小さいガラスクロスは、複数のフィラメント間への樹脂の含浸が阻害され難いために、良好な樹脂含浸性を得ることができる。ここで、経糸接着割合と式(A1)を同時に満たすように制御するためには、上述したフィラメントの径及び数の調整、糸束の扁平化処理、並びにサイジング剤の洗浄に加えて、例えば、ガラスクロスを表面処理する前に超音波でサイジング剤の燃焼残渣の洗浄及び開繊処理を行うこと、並びに、ガラスクロスの搬送速度を所定の速度以下に制御することで、フィラメントの接着点数を制御することが挙げられる。
【0037】
上記式において、「互いに接着するフィラメント」は、あるガラスフィラメントと、他のガラスフィラメントと、が接触する場合;あるガラスフィラメントにおける表面処理層と、他のガラスフィラメントと、が接触する場合;及び、あるガラスフィラメントにおける表面処理層と、他のガラスフィラメントにおける表面処理層と、が接触する場合のいずれも含まれる。
【0038】
経糸接着割合を測定する際の「エポキシ樹脂」は、本開示の趣旨に沿って上記接着割合を算出可能な樹脂であり、より具体的には、実施例に記載の樹脂を用いる。これを入手することができない場合、静置した状態で硬化させることのできるエポキシ樹脂を用いる。
【0039】
図1(a)及び(b)は、本開示における「接着割合」の算出手法を説明するためのSEM画像である。図中、エポキシ樹脂が黒色、フィラメントの断面が円形白色で示されている。
【0040】
図1(a)中、矢印a1で示される箇所は、フィラメント同士の接着点に該当し、矢印a2で示される箇所は、接着点に該当しない。ここで、走査型電子顕微鏡を用いて2000倍の倍率でガラスクロスの断面を観察した場合、フィラメントの断面同士(すなわち、SEM写真上、フィラメントの断面を示す円形白色同士)が50nm以上接する箇所が、「接着点」に該当するものとする。
【0041】
本開示における「フィラメントの総数」及び「接着点数」は、その断面の全部が観察画像に含まれているフィラメントを対象にカウントされるものとする。その断面の一部が観察画像から見切れているフィラメント、及び、そのようなフィラメントが与える接着点は、「フィラメントの総数」及び「接着点数」にカウントされない。
図1(b)を例に挙げると、その断面の全部が観察画像に含まれているフィラメントの総数は計30個あり(白色内の数字参照)、そのようなフィラメント同士が互いに接触する接着点は計18個あり(「×」印参照)、観察画像から見切れているフィラメントは、「フィラメントの総数」及び「接着点数」のカウントの対象とされない。これらより、
図1(b)の例では、接着割合は、18/30=0.6と算出される。
【0042】
なお、ガラスクロスは、いくつかの断面の平均として上記経糸接着割合が0超0.80以下であることが好ましく、局所的に当該経糸接着割合の範囲を満たさない断面を有してよい。
【0043】
〔フィラメント径とガラスクロスの厚み〕
ガラスクロスには、ガラスクロスの厚みに対して太い径のガラス糸、例えばIPC規格に定められたフィラメント径よりも太いものを用いることが好ましい。より具体的には、ガラスクロスを構成するガラス糸の平均フィラメント径(D)(μm)とガラスクロスの厚み(T)(μm)は、ガラスクロスの厚みが20μm以上80μm以下の場合、下記式(B1)を満たすことが好ましく、下記式(B2)を満たすことがさらに好ましく、下記式(B3)、(B4)又は(B5)を満たすことが特に好ましい。ガラスクロスの厚みが20μm未満の場合には下記式(B6)を満たすことが好ましく、下記式(B7)を満たすことがさらに好ましく、下記式(B8)又は(B9)を満たすことが特に好ましい。
24×D-T>96 ・・・(B1)
24×D-T>98 ・・・(B2)
24×D-T>100 ・・・(B3)
24×D-T>104 ・・・(B4)
24×D-T>108 ・・・(B5)
14×D-T>46 ・・・(B6)
14×D-T>48 ・・・(B7)
14×D-T>50 ・・・(B8)
14×D-T>52 ・・・(B9)
これにより、ガラスクロスの厚みに対してフィラメント1本あたりの強度が高くなり、
毛羽の発生を抑制することができる。
【0044】
〔フィラメント径とフィラメント数〕
ガラスクロスには、ガラスクロスの厚みに対してフィラメント径が太く、かつフィラメント数が少ないガラス糸を用いることが好ましい。経糸束段数が式(A1)を満たす限り、フィラメント径及び本数は特に限定されないが、フィラメント径を太くした場合のフィラメント数はガラス糸のTEXを従来程度、例えばIPC規格に定められたTEXと同程度となるように、あるいはガラス糸の断面積(フィラメント1本の断面積×フィラメント数)を従来程度、例えばIPC規格に定められた糸種の断面積と同程度とすることが好ましい。ここでの同程度とは、±30%、あるいは±20%の差異を許容する。これにより、厚みに対して十分な織密度を確保でき、目ずれ等の問題が生じにくくなる。
【0045】
〔シランカップリング剤〕
ガラスクロスを構成するガラス糸(ガラスフィラメントを含む)は、樹脂含浸性向上の観点から、好ましくは表面処理剤により、表面処理される。ガラス糸の表面処理剤は、好ましくはシランカップリング剤を含む。シランカップリング剤としては、例えば、下記式(C):
X(R)3-nSiYn ・・・(C)
{式(C)中、Xは、ラジカル反応性を有する炭素-炭素二重結合等のラジカル反応性を有する不飽和二重結合基、及びアミノ基の少なくとも一方を有する有機基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、Rは、メチル基、エチル基及びフェニル基から成る群より選ばれる基である。}
で示されるシランカップリング剤を使用することが好ましい。
【0046】
ガラスクロスの誘電正接を上昇させる原因としては、
(i)ガラスヤーン表面に物理的に付着した状態で残存する、ごく微量のサイジング剤の熱酸化劣化物、及び
(ii)ガラス表面と化学結合を形成せずに物理付着し、水による洗浄では低減できない表面処理剤の残留物又はその変性物が考えられる。上記(i)熱酸化劣化物の発生、及び/又は(ii)残留物若しくは変性物の発生を抑制するという観点から、式(C)中のXは、イオン性化合物と塩を形成していない有機基であることが好ましい。また、式(C)中のXは、マトリックス樹脂との反応性の観点から、メタクリロイルオキシ基、又はアクリロイルオキシ基を1つ以上有する有機基であることがより好ましい。
【0047】
上記の式(C)中のYについて、アルコキシ基としては、ガラスクロスへの安定処理化のため、炭素数1~5(炭素数が、1、2、3、4又は5)のアルコキシ基が好ましい。
【0048】
表面処理剤として、式(C)に示すシランカップリング剤は、1種単独で使用されてよく、式(C)中のXが異なる2種以上のシランカップリング剤と混合して使用されてもよい。式(C)に示されるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、5-ヘキセニルトリメトキシシラン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0049】
シランカップリング剤の分子量は、好ましくは100~600、より好ましくは150~500、更に好ましくは200~450である。なかでも、分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を用いることが特に好ましい。分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を用いてガラス糸表面を処理することにより、ガラス表面での処理剤密度が高くなり、マトリックス樹脂との反応性が更に向上する傾向にある。
【0050】
樹脂との反応性を阻害し難いという観点から、シランカップリング剤は非イオン性であることが好ましい。非イオン性のシランカップリング剤のなかでも、ビニル基、メタクリロイルオキシ基、及びアクリロイルオキシ基から成る群より選択される少なくとも1つの基を有するシランカップリング剤が好ましく、なかでもメタクリロイルオキシ基、又はアクリロイルオキシ基を少なくとも1つ有するシランカップリング剤が特に好ましい。樹脂との反応性を阻害しないことで、プリント配線板の耐熱性及び信頼性を高めることができる。
【0051】
一態様において、式(C)中、Xは、上記不飽和二重結合基、及びアミノ基の少なくとも一方を有する有機基である。従って、Xが、上記不飽和二重結合基、及び上記アミノ基の両方を有する態様だけでなく、上記不飽和二重結合基を有するが上記アミノ基を有しない態様と、上記不飽和二重結合基を有しないが上記アミノ基を有する態様と、のいずれの態様も、式(C)の範囲に含まれる。ただし、式(C)中のXは、上記不飽和二重結合基であることが好ましく、アミノ基を含まないことが好ましい。
【0052】
〔強熱減量値〕
ガラスクロスは、その強熱減量値が0.01質量%~0.30質量%の範囲が好ましい。より好ましくは0.02質量%~0.26質量%、更に好ましくは0.03質量%~0.22質量%、より更に好ましくは0.03質量%~0.18質量%、特に好ましくは0.03質量%~0.16質量%の範囲である。ガラスクロスの厚みにもよるが、強熱減量値が0.30質量%以下であれば、ガラス糸の表面と化学結合したシランカップリング剤の量が多くなり過ぎず、この場合、ガラスクロスの誘電正接、ひいては得られるプリント配線板の誘電正接が低下し易くなる。また、強熱減量値が0.01質量%以上であると、得られるプリント配線板の耐熱性が悪化しにくくなる。
【0053】
《ガラスクロスの製造方法》
本開示のガラスクロスの製造方法は、複数本のフィラメントを含み、Si含有量がSiO2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であるガラス糸を、経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロスを得る工程(製織工程)を含む。方法は、上記製織工程の前に、ガラス糸を引きそろえて扁平化し、その後サイジング剤を塗布する整経工程と、上記整経工程の後、かつ上記製織工程の前、途中、又は後に、加熱脱油前のガラス糸を50℃以上の水で洗浄する工程(加熱脱油前洗浄工程)と、その後ガラス糸を加熱脱油する工程(加熱脱油工程)を更に含む。これにより、ガラスクロスの経糸束段数と厚みが式(A1)を満たすように調整することができ、毛羽が少ない石英ガラスクロスを提供することができる。方法は、洗浄及び加熱脱油されたガラス糸を、超音波が照射されている液体中、50m/分以下の速度で搬送しながら洗浄及び開繊する工程(洗浄開繊工程)を更に含むことができる。これにより、ガラスクロスの経糸束段数と厚みが式(A1)を満たし、かつ経糸接着割合が所定の値以下となるように調整することができ、毛羽が少なく、優れた樹脂含浸性を有し、プリント配線板等の耐熱性を向上させることができる石英ガラスクロスを提供することができる。
【0054】
上記のガラスの処理方法(加熱脱油前洗浄工程、加熱脱油工程、及び洗浄開繊工程)は、製織前のガラス糸に適用することができ、また、製織されたガラスクロスにも適用することができる。言い換えれば、ガラス糸を製織してガラスクロスを得る工程は、当該ガラスの処理方法の前に設けられてもよく、途中に設けられてもよく、後に設けられてもよい。なお、ガラスの処理方法において「低減」とは、例えば、サイジング剤又はシランカップリング剤の少なくとも一部を取り除く趣旨であって、除去しきれなかった残存物が存在してもよい。以下、整経工程、製織工程、加熱脱油前洗浄工程、加熱脱油工程、及び洗浄開繊工程をこの順に含む態様を例に挙げて説明する。しかしながら、本開示のガラスクロスの製造方法はこれに限定されない。
【0055】
〔ガラス糸の整経工程〕
ガラス糸の整経工程は、Si含有量がSiO2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であるガラス糸を用い、その糸束を扁平化させた後にガラス糸のサイジングを行う工程を含む。当該処理により、糸幅を広げた状態で糊付けすることで、製織後のガラスクロスの状態での糸幅の拡幅が容易になり、得られるガラスクロスの経糸束段数と厚みが式(A1)を満たすように制御することができ、毛羽を抑制することができる。すなわち、ガラスクロスの表面や糸束中の凸凹が抑えられ、毛羽が起こりにくくなる。ガラス糸束の扁平化方法は特に限定されないが、例えば、ロールによる加圧での加工処理等の方法が挙げられる。毛羽を抑制しつつ糸束を扁平化するという観点から、加圧は、好ましくは1.0kg/cm2~6.0kg/cm2、より好ましくは2.0kg/cm2~5.0kg/cm2、さらに好ましくは2.5kg/cm2~5.5kg/cm2である。また、当該整経工程により、後の加熱脱油前洗浄工程での糊剤の除去が容易になる。
【0056】
〔ガラスクロス生機の製織工程〕
ガラスクロス生機の製織工程は、ガラス糸の整経工程にて準備した経糸に、Si含有量がSiO2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であるガラス糸を緯糸として、織機で打ち込んで製織を行うことができる。これによって、例えば、平織構造の織物であるガラスクロス生機を製造することができる。ガラスクロス生機に用いられるガラス糸は、ガラス糸の紡糸時および整経時の毛羽抑制のため、澱粉やポリビニルアルコ-ル等を主成分とするサイジング剤によって、表面処理されていることが好ましい。なお、本開示において、「ガラスクロス生機」は、加熱脱油前のガラスクロスを指す。
【0057】
上記工程、すなわちガラス糸の整経工程、及び、ガラスクロス生機の製織工程で用いるガラス糸には、得られるガラスクロスの厚みに対して太い径のガラス糸、例えばIPC規格に定められたフィラメント径よりも太いものを用いることが好ましい。より具体的には、目的とするガラスクロスの厚みに応じて、上記式(B1)~(B9)の少なくとも一つを満たすフィラメント径を有するガラス糸を用いることが好ましい。これにより、毛羽の発生を抑制し、かつ樹脂含浸性を向上させ易い。さらに、上記工程で用いるガラス糸には、得られるガラスクロスの厚みに対してガラス糸のTEX、あるいは断面積が従来程度、例えばIPC規格に定められたTEX、あるいは断面積であることが好ましい。これにより、厚みに対して十分な織密度を確保でき、目ずれ等の問題が生じにくくなる。
【0058】
〔加熱脱油前洗浄工程〕
加熱脱油前洗浄工程は、加熱脱油前のガラスクロスを50℃以上の水で洗浄することにより、糊剤を低減する工程を含む。これにより、フィラメントの糊剤、及び、加熱脱油時の糊剤の燃焼残渣による接着を低減でき、得られるガラスクロスの経糸束段数と厚みが式(A1)を満たすように制御することができる。さらには経糸接着割合が所定の値以下となるようにガラスクロスを開繊処理し易くなる。洗浄効率の観点から、当該処理で洗浄に用いる溶媒は水が好ましく、また、温度は50℃以上であることが好ましい。50℃以上の水を用いることで、加熱脱油工程までのガラス糸の保護に必要な量の糊剤を残しつつ、余剰の糊剤を洗浄することができる。水の温度は、好ましくは50℃以上100℃未満である。水の温度の下限値は、より好ましくは55℃以上、さらに好ましくは60℃以上、より更に好ましくは65℃以上である。これらの下限値と組み合わせることのできる水の温度の上限値は、より好ましくは95℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。洗浄に用いる溶媒は特に限定されないが、安全性やコストの観点から水、逆浸透(RO)水、イオン交換水等を用いた洗浄が好ましい。ガラスクロス生機の洗浄方法は特に限定されないが、例えば、超音波を用いる手法(例えば、超音波振動子を用いる手法)、スプレーによる噴射(例えば、高圧スプレーによる噴射)、水蒸気噴霧等の方法が考えられる。安価に加工できるという観点から、洗浄液を貯めた槽にガラスクロス生機を浸漬した後に、スクイズローラー等で余分な洗浄液を除去し、その後にガラスクロス生機を乾燥させる方法が好ましい。この場合、浸漬時間としては、例えば、2秒以上、5秒以上、10秒以上、又は15秒以上、及び、120秒以下、90秒以下、60秒以下、又は45秒以下でよい。
【0059】
〔サイジング剤を低減する工程(加熱脱油工程)〕
サイジング剤を低減する工程は、例えば、ガラスクロス生機を600℃~1600℃の温度で加熱する脱糊工程(加熱脱油工程)を有することができる。これにより、ガラスからサイジング剤を低減し易くなる。ガラスの表面に物理的に付着した状態で残存する、微量のサイジング剤の熱酸化劣化物を低減することで、得られるガラスクロスの誘電正接の上昇を効果的に抑制し易くなる。
【0060】
ガラスクロス生機の加熱脱油方法では、ガラスクロス生機を、600℃以上の温度で加熱脱油してよい。これにより、得られるガラスクロスの誘電正接を下げ易い。加熱脱油の温度は、好ましくは600℃以上1600℃以下、より好ましくは800℃以上1300℃以下、更に好ましくは900℃以上1100℃以下である。加熱脱油温度が600℃以上であれば、加熱脱油後のガラスクロスに付着する糊剤の残留物等を十分に除去し易いため、ガラスクロスの誘電正接を下げ易い。他方、加熱脱油温度が1500℃以下であれば、ガラスの失透現象を抑制し易くなり、ガラスクロスの強度低下を効果的に防ぐことが可能になる。
【0061】
加熱時間は、適宜選択でき、好ましくは1秒以上10分以下である。加熱時間の上限値としては、5分以下がより好ましく、2分以下がさらに好ましく、90秒以下が特に好ましい。高温で加熱処理をすることから、加熱時間が10分以下であると、ガラスクロスに与えるダメージが小さくなり、例えば加工中にガラスクロスに部分的に穴が開く、またはガラスクロスが切断するといった問題が生じにくくなる。これらの上限値と組み合わせることができる加熱時間の下限値は、糊剤の残留物等を効果的に除去する観点で、より好ましくは5秒以上、10秒以上、又は15秒以上であってよい。
【0062】
ガラスクロス生機を加熱する手段は、加熱脱油温度が600℃~1600℃の範囲となるように加熱が行なわれる限り、既知の加熱方法、加熱媒体、加熱機構、加熱装置、及び加熱部品を用いることができる。加熱手段としては、例えば、(1)加熱炉内でガラスクロス生機を加熱する、(2)加熱部にガラスクロス生機を接触させる、(3)高温蒸気をガラスクロス生機に当てる、等でよい。加熱脱油温度が600℃以上となるようにガラスクロス生機を加熱することによって、ガラスクロス生機表面に付着している有機物を効率よく除去したり、有機物の除去時間を短縮したりすることができる。ガラスクロス生機の加熱は、逐次的若しくは連続的に、閉鎖系若しくは開放系で、行われることができ、又は閉鎖系と開放系を組み合わせて行われることができる。
【0063】
閉鎖系の場合には、加熱手段による好適な加熱の観点から、ガラスクロス生機を加熱炉内に配置することが好ましく、かつ/又は貯蔵スペース及び加熱範囲の観点から、ガラスクロス生機を巻物の状態で貯蔵しながら加熱することが好ましい。また、有機物の除去効率を上げたり、有機物の除去時間を短縮したりするという観点から、加熱炉内でガラスクロス生機を搬送しながら加熱することも好ましい。
【0064】
開放系の場合には、被加熱面積の観点から、ガラスクロス生機を搬送させながら加熱することが好ましい。ガラスクロス生機の搬送は、例えば、巻出機構と巻取機構、例えば、Roll-to-Roll方式により行われることができる。
【0065】
(加熱炉)
加熱炉の加熱手段としては、加熱脱油温度が600℃~1600℃となるように加熱できるのであれば、電気式ヒーター、バーナー等種々のものが考えられ、特定の手段のみに限定されない。また、複数の手段を組み合わせて加熱をしてもよいが、ガス式シングルラジアントチューブバーナー又は電気式ヒーターを用いることが好ましい。
【0066】
加熱炉は、加熱効率の観点から、加熱炉内で生成したガスを排出する手段、及び/又は空気循環手段を備えることが好ましい。ガス排出手段は、例えば、ノズル、ガス管、小穴、ガス抜き弁等でよい。空気循環手段は、例えば、ファン、空気調和設備等でよい。
【0067】
ガラスクロス生機表面に付着している有機物を効率よく除去するため、ガラス繊維織物を巻芯に巻いて、所定の雰囲気温度でガラスクロス生機を加熱するバッチ方式よりも、ガラスクロス生機を連続的に加熱炉に通しながら加熱することが可能な連続方式が好ましい。更には、加熱脱油前のガラスクロス(ガラスクロス生機)の洗浄を連続で行えるような方式が特に好ましい。
【0068】
(ガラスクロス生機を加熱するための接触部材)
ガラスクロス生機を加熱する方法として、上記加熱炉を使用してもよいが、低ランニングコストの観点から、所定の温度に加熱した部材と、ガラスクロス生機と、を接触させることで、ガラスクロス生機を加熱してもよい。
【0069】
ガラスクロス生機の加熱脱油温度が600℃~1600℃の範囲になるように加熱できれば、接触部材の形状は特に限定されないが、ガラスクロス生機の搬送のし易さから、ロール形状が好ましい。ロール形状でガラスクロス生機を加熱することが可能な部材としては、高温領域での使用が可能で、幅方向の温度のばらつきが比較的少ない、誘導発熱方式で加温するロールが好ましい。接触部材でガラスクロス生機を加熱するときには、接触部材の温度とガラスクロス生機の表面温度が概ね等しいことが考えられる。
【0070】
ガラスクロス生機を連続加熱するにつれ、加熱ロールに付着する炭化物を除去するために、上記加熱ロール方式は、付着した異物を除去する機構、例えば、ブレード等の機構を備えた方式であることが好ましい。
【0071】
(高温蒸気をガラスクロス生機に適用する手段(蒸気適用手段))
ガラスクロス生機に適用される蒸気は、例えば、揮発性溶媒、水蒸気、水蒸気以外のガスなどを含んでよいが、人体への毒性の観点、ガラス繊維に用いられる集束剤の分解が促進し易い観点から、水蒸気が好ましい。その高温蒸気の温度は、ガラスクロス生機の表面温度が600℃~1600℃の範囲にするために、必要であれば、高温蒸気と加熱空気を任意の割合で供給できる方法を用いても良い。高温蒸気の温度は、500℃以上であり、600℃以上が好ましく、700℃以上がより好ましく、800℃以上がさらに好ましく、900℃以上が特に好ましい。蒸気適用手段は、限定されるものではないが、噴霧、シャワー拡散、ジェットノズルなどでよい。代替的には、加熱炉から排出したガスを高温蒸気として再利用することがある。
【0072】
(ガラスクロス生機の加熱脱油装置)
ガラスクロス生機の加熱脱油装置は、上述のとおり、ガラスクロス生機を加熱脱油温度が600℃~1600℃の範囲となるように加熱することができる。より詳細には、ガラスクロス生機の加熱脱油装置は、巻出機構と巻取機構を有し、ガラスクロス生機を搬送させながら、加熱脱油温度が600℃~1600℃の範囲となるように加熱する工程を実行可能な加熱炉を含むことが好ましい。
【0073】
巻出機構と巻取機構は、例えば、少なくとも一対のロール、Roll-tо-Roll方式等でよい。加熱炉、空気循環手段、接触部材、および蒸気適用手段は、上述のガラスクロス生機の加熱処理工程で説明されたとおりである。
【0074】
生産効率の観点から加熱炉の直前にガラスクロス生機のサイジング剤を洗い流すための洗浄装置を含むことが好ましい。
【0075】
〔ガラスクロスの開繊工程〕
加熱脱油後ガラスクロスの開繊工程は、得られるガラスクロスの経糸束段数と厚みが式(A1)を満たし、経糸接着割合が所定の値以下となるようにガラスクロスを開繊処理する工程を含む。当該開繊処理により、ガラスクロスへの樹脂含浸性を向上させることができる。当該開繊処理は、例えば、ガラスクロスに水流の圧力を掛ける開繊処理;水(例えば脱気水、イオン交換水、脱イオン水、電解陽イオン水又は電解陰イオン水等)等を媒体とした高周波振動による開繊処理;ロールによる加圧での加工処理等が挙げられる。かかる開繊処理は織成と同時に行ってもよいし、織成後に行ってもよい。加熱脱油前あるいは後若しくは加熱脱油と同時に行ってもよいし、表面処理工程と同時に若しくは後に行ってもよい。
【0076】
フィラメント径が比較的太い、すなわち上記式(B1)~(B9)のいずれかを満たすガラス糸から構成される、厚みが80μm以下のガラスクロスの経糸束段数及び経糸接着割合を所定の範囲に制御するという観点から、上記開繊工程は、加熱脱油工程の後かつ表面処理工程の前に、ガラスクロスを液体中で搬送しながら洗浄及び開繊する工程であることが好ましい。また、当該処理でのガラスクロスの搬送速度は50m/分以下であることが好ましい。フィラメント径が太いガラス糸は開繊されにくく、特に石英ガラス等のガラス硬度が高いガラス糸はさらに開繊されにくい。加熱脱油工程の後かつ表面処理工程の前に、ガラスクロスを洗浄及び開繊する処理を行うことにより、加熱脱油時の燃焼残渣を洗浄除去し、燃焼残渣が接着剤として作用することによるフィラメント間の接着を防ぐことができる。また、表面処理前に開繊することで表面処理工程でのフィラメント間の接着も防ぐことができる。これにより、ガラスクロスの経糸接着割合が所定の範囲を満たすように制御することができ、樹脂含浸性が向上する。単純に強い加工力で開繊するのではなく、開繊されやすくすることができるため、毛羽も生じにくい。
【0077】
ガラスクロスの洗浄開繊工程は、加熱脱油工程の後かつ表面処理工程前のガラスクロスに液体中で超音波を照射してガラスクロスから主に加熱脱油の燃焼残渣を洗浄し、かつ開繊する工程(超音波洗浄)であることが好ましい。好ましくは、超音波発振器によって超音波が照射されている液体中にRoll-to-Rollでガラスクロスを搬送させ処理を行う工程である。
【0078】
超音波洗浄に用いる液体としては、水、又は有機溶媒のいずれも使用できるが、安全性及び地球環境保護の観点から、水を主成分とする液体を用いることが好ましい。洗浄に用いる液体には、洗浄の効率を上げるために、界面活性剤やpH調整剤を加えることも可能である。
【0079】
超音波洗浄に用いる液体の温度に特に制約はないが、洗浄効果を高める観点で、5℃以上が好ましい。また、洗浄に用いる液体の温度は、安全性の観点から60℃以下が好ましい。
【0080】
超音波発振器によって超音波が照射されている液体中にガラスクロスを走行させることによって、ガラスクロスに液体中で超音波を照射して洗浄することができる。洗浄工程中の経糸に作用するライン張力は、30N~500N/1mが好ましい。
【0081】
超音波洗浄は、20kHz以上200kHz以下の周波数を有する超音波を用いることができる。超音波の周波数は、20kHz以上50kHz以下の周波数が好ましく、より好ましくは20kHz以上30kHz以下である。20kHz以上200kHz以下の周波数を有する超音波を用いれば、ガラスクロスの目曲り等の大きな欠点なく洗浄処理を行えるので好ましい。
【0082】
超音波洗浄には、0.07W/cm2以上3.60W/cm2以下の出力の超音波を好ましく用いることができる。超音波出力のより好ましい範囲は0.14W/cm2以上2.16W/cm2以下、更に好ましい範囲は0.21W/cm2以上1.44W/cm2以下である。超音波出力が0.07W/cm2以上で良好に洗浄することができ、超音波出力が3.60W/cm2以下で目曲りなどの発生がなく均一な洗浄を行うことができるので好ましい。
【0083】
超音波洗浄でのガラスクロスの搬送速度は、50m/分以下であることが好ましく、40m/分以下であることがさらに好ましく、30m/分以下であることが特に好ましい。ガラスクロスの搬送速度が50m/分以下であれば、良好にガラスクロスまたはその中間体を洗浄・開繊することができ、経糸束段数及び経糸接着割合を所定の範囲に制御することがより容易である。また、搬送でのダメージによる毛羽や目ずれを抑制できるので好ましい。
【0084】
超音波洗浄に用いる液体中には、通常、窒素や酸素を主成分とする空気が溶存しているが、該溶存酸素量(重量比)は1ppm以上20ppm以下であることが好ましく、より好ましい範囲は3ppm以上17ppm以下であり、更に好ましい範囲は4ppm以上14ppm以下である。溶存酸素量を管理することで、間接的に溶存気体量を制御することが可能であり、超音波が溶存気体により減衰される程度を制御することが可能となる。溶存酸素量は1ppm以上で、均一に開繊処理が施されるため好ましい。溶存酸素量が20ppm以下の時、繊維織物に良好な洗浄作用が与えられるので好ましい。溶存酸素量が1ppm以上20ppm以下の範囲で、均一で良好な開繊効果が得られるので好ましい。
【0085】
〔ガラスクロスの表面処理工程〕
本開示のガラスクロスの製造方法は、ガラスクロスを表面処理剤で表面処理する工程を更に含んでもよい。表面処理剤を付着させる工程は、例えば、ガラスの表面に表面処理剤を付着させる被覆工程と、加熱乾燥により表面処理剤をガラスの表面に固着させる固着工程と、の少なくとも1つの工程を有することができる。これにより、ガラスを好適に表面処理し易くなる。
【0086】
表面処理剤を付着させる方法は、表面処理剤を含有する処理液をガラスクロスに塗布する方法、又は処理液にガラスクロスを浸漬する方法が挙げられる。被覆工程で処理液をガラスに塗布する方法としては、(a)バスに溜めた処理液にガラスを浸漬又は通過させる方法(以下、「浸漬法」という。)、(b)ロールコーター、ダイコーター又はグラビアコーター等で処理液をガラスに塗布する方法、等が可能である。浸漬法を採用する場合は、ガラスの処理液への浸漬時間を0.5秒以上1分以下に選定することが好ましい。また、浸漬法を採用する場合は、ガラスに所定の張力(例えば、100~250N)を付与しながら、搬送速度10~50m/分の速度で、該ガラスを処理液内に通過させることができる。また、ガラスに処理液を塗布した後、熱風、電磁波等の方法により、処理液に含まれる溶媒を加熱乾燥させることができる。
【0087】
処理液に含まれる表面処理剤の濃度は、0.1~1.0質量%が好ましく、0.1~0.8質量%がより好ましく、0.1~0.5質量%が更に好ましい。これによれば、ガラスをより好適に表面処理し易くなる。
【0088】
固着工程において、加熱乾燥温度は、表面処理剤、例えばシランカップリング剤とガラスとの反応が十分に行われるように、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。また、加熱乾燥温度は、表面処理剤、例えばシランカップリング剤が有する有機基の劣化を防ぐため、300℃以下が好ましく、180℃以下であればより好ましい。
【0089】
〔表面処理後の開繊工程〕
表面処理剤によって、接着されたガラスフィラメントを開繊する工程としては、例えば、ガラスクロスを、スプレー水(高圧水開繊)、バイブロウォッシャー、超音波水又はマングル等で開繊加工する方法を採用できる。この開繊加工時に、ガラスクロスに掛かる張力を下げることにより、糸幅をより広げることができる傾向にある。なお、開繊加工によるガラスクロスの毛羽の発生を抑えるため、ガラス糸を製織する際の接触部材との低摩擦化、及び表面処理剤の最適化並びに高付着量化、等の対策を施すことが好ましい。
【0090】
以上説明した各工程は、必ずしも別工程で行われる必要はなく、複数の工程を1工程にまとめて行うこともできる。開繊前後ではガラスクロスの組成は通常変化しない場合が多い。また、ガラスクロスの製造方法は、上記工程以外においても任意の工程を有することができる。例えば、開繊工程後に、スリット加工工程を有することができる。また、可能であれば、上記工程の順番は入れ替えることができる。
【0091】
以上説明した、ガラスクロスの製造方法によれば、フィラメント径を太くし毛羽の発生を抑制しつつ、経糸束段数及び経糸接着割合を所定範囲に調整でき、樹脂含浸性を向上させることが可能となる。本開示のガラスクロスは、例えば、プリント配線板を製造するための材料として用いることができる。
【0092】
《プリプレグ》
本開示のプリプレグは、上記ガラスクロスと、上記ガラスクロスに含浸されたマトリックス樹脂と、を含有する。これにより、ボイドの少ないプリプレグを提供することができる。
【0093】
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用可能である。可能であれば、両者を併用してもよいし、他の樹脂を更に含んでもよい。
【0094】
熱硬化性樹脂としては、例えば、
(a)エポキシ基を有する化合物と、該エポキシ基に反応するアミノ基、フェノール基、酸無水物基、ヒドラジド基、イソシアネート基、シアネート基、及び水酸基から成る群より選択される少なくとも1つの基を有する化合物と、を反応させて硬化させて成るエポキシ樹脂;
(b)アリル基、メタクリル基、及びアクリル基から成る群より選択される少なくとも1つの基を有する化合物を硬化させて成るラジカル重合型硬化樹脂;
(c)シアネート基を有する化合物と、マレイミド基を有する化合物と、を反応させて硬化させて成るマレイミドトリアジン樹脂;
(d)マレイミド化合物と、アミン化合物と、を反応させて硬化させて成る熱硬化性ポリイミド樹脂;
(e)ベンゾオキサジン環を有する化合物を加熱重合により架橋硬化させて成るベンゾオキサジン樹脂;
等が例示される。なお、(a)エポキシ樹脂を得るにあたり、無触媒で化合物を反応させることができ、また、イミダゾール化合物、3級アミン化合物、尿素化合物、及びリン化合物等の反応触媒能を持つ触媒を添加して化合物を反応させることもできる。また、(b)ラジカル重合型硬化樹脂を得るにあたり、熱分解型触媒又は光分解型触媒を反応開始剤として使用することができる。
【0095】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、不溶性ポリイミド、ポリアミドイミド、及びフッ素樹脂等が例示される。高速通信用のプリント配線板の絶縁材料としては、ラジカル反応性に富んだポリフェニレンエーテル又は変性ポリフェニレンエーテルが好ましい。
【0096】
高速通信用のプリント配線板に使用されるマトリックス樹脂が、ビニル基又はメタクリル基を有する場合、疎水性が比較的高く、かつ、メタクリル基等のラジカル反応に関与する官能基を有するシランカップリング剤が、該マトリックス樹脂との相性が良い。
【0097】
上記のとおり、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とは併用することができる。また、プリプレグは、無機充填剤を更に含有することができる。無機充填剤は、熱硬化性樹脂と併用されることが好ましく、例えば、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、マイカ、炭酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、タルク、ガラス短繊維、ホウ酸アルミニウム、及び炭化ケイ素等が挙げられる。無機充填剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0098】
《プリント配線板》
本開示のプリント配線板は、一つ又は複数の上記プリプレグを含有する。すなわち、プリント配線板は、上記ガラスクロスと、上記ガラスクロスに含浸したマトリックス樹脂組成物の硬化物と、を有する。プリント配線板は、樹脂に対する密着性が高く、誘電特性に優れる。
【0099】
《集積回路及び電子機器》
本開示によれば、上記プリント配線板を含む集積回路及び電子機器もまた提供される。本開示のプリント配線板を用いて得られる集積回路及び電子機器は、各種特性に優れる。
【実施例】
【0100】
本開示の実施例及び比較例を説明するが、本開示は、以下の実施例及び比較例によって限定されない。
【0101】
《測定及び評価方法》
〔ガラス糸及びガラスクロスの物性〕
ガラス糸およびガラスクロスの物性、具体的には、フィラメント数、経糸及び緯糸の打ち込み密度(織密度)、ガラスクロスの厚み及びガラスクロスの強熱減量値は、JIS R3420に準拠して測定した。
【0102】
〔ガラス糸の平均フィラメント径〕
ガラス糸の任意の位置のガラス糸束30本の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、その平均値を算出し、平均フィラメント径を求めた。
【0103】
〔ガラス糸の平均フィラメント数〕
JIS R3420に準拠して測定したフィラメント数の平均値を算出し、平均フィラメント数を求めた。
【0104】
〔経糸及び緯糸の糸幅〕
視野サイズ約2.3×1.7mm、分解能2.26μm/PixelのカメラをガラスクロスのMD方向又はTD方向に1mm間隔ずつに撮影しながら走査させることで、ガラスクロスの経糸および緯糸の糸幅の平均値をそれぞれ求めた。この際、100本以上のガラス糸から得られた糸幅を用いてそれぞれの糸幅の平均値を求めた。
【0105】
〔経糸接着割合の算出〕
ガラスクロスをエポキシ樹脂(エポマウント(商品名)、硬化剤II、リファインテック株式会社製)に包埋して、エポキシ樹脂を硬化させた。その樹脂ごとガラスクロスの断面をガラスフィラメントの真円度が0.9以上となるよう削り出し研磨した後、日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡SU3500によりガラスクロスの断面を2000倍の倍率で観察した。経糸1本につき3分割にし、計5本の断面画像を撮影した。その後、各画像における、フィラメントの総数と、断面同士が50nm以上接するフィラメントの接着点数と、を目視によりカウントした。そして、下記式:
経糸接着割合=経糸中で互いに接着するフィラメントの接着点数÷経糸フィラメント数
により、経糸接着割合を算出した。得られた15枚で同様の作業を行い、平均値を経糸接着割合とした。
【0106】
〔毛羽の評価方法〕
ガラスクロスを、Roll-to-Rollの検査台にて、張力100N/1000mmをかけて、ハロゲンランプを照射しながら、目視にて1m2あたりの1mm以上の突起箇所の数を求め、下記の基準により毛羽を評価した。
A:毛羽数 10以下
B:毛羽数 11以上30以下
C:毛羽数 31以上60以下
D:毛羽数 61以上
【0107】
〔樹脂含浸性の測定・評価方法〕
ガラスクロスを50mm×50mm以上のサイズとなるようにサンプリングした。この際、測定箇所は曲げたり、触ったりしないようにサンプリングを行った。24℃の液温下でひまし油(林純薬工業株式会社製、品番:03001535、24℃での静粘度=560mPa・s×g/cm3)にサンプリングしたガラスクロスを所定時間含浸させた際のボイド数をカウントすることで評価を行った。ガラスクロスに対して垂直方向の位置に高精度カメラ(フレームサイズ:5120×5120pixel)を設置し、光源としてLEDライト(CCS株式会社製、パワーフラッシュ・バー型照明)をガラスクロスから15cm離れた真横の位置から、ガラスクロスを挟み込むように両側方向から照射した。そして、32mm×32mm視野角において、ガラスフィラメント間に存在する160μm以上のボイドの数をカウントし、3回測定した平均値をボイド数とした。ボイドは、マトリックス樹脂への未含浸部分に相当する。従って、ガラスクロスのボイド数が少ないことは、該ガラスクロスがマトリックス樹脂への含浸性に優れることを意味する。
【0108】
下記の基準により樹脂含浸性を評価した。なお、ガラスクロス試験片を含浸用ワニスに浸漬してから未含浸部位数をカウントするまでの時間は、3分後とした。
A:未含浸部位数 80以下
B:未含浸部位数 81以上160以下
C:未含浸部位数 161以上200以下
D:未含浸部位数 201以上250以下
E:未含浸部位数 251以上
【0109】
〔積層板の作製方法〕
実施例及び比較例で得たガラスクロスに、ポリフェニレンエーテル(SABIC社製、Noryl(商品名)SA9000)45質量部、トリアリルイソシアヌレート10質量部、トルエン45質量部、1,3-ジ(tert-ブチルイソプロピルベンゼン)0.6質量部をステンレス製の容器に加えて、1時間室温で撹拌させることで、ワニスを作製した。作製したワニスにガラスクロスを含浸させてから、115℃で1分間乾燥後、プリプレグを得た。得られたプリプレグを8枚重ね、更に上下に厚さ12μmの銅箔を重ね、200℃、40kg/cm2で120分間加熱加圧して積層板を得た。
【0110】
〔積層板の耐熱性の評価方法〕
上記のようにして得られた積層板の銅箔をエッチング処理によって除去してから、プレッシャークッカー容器で133℃70時間に亘り、加熱及び吸水させた。更に、吸水後の積層板を、288℃のハンダ浴に20秒浸漬し、ガラスクロス及び樹脂の界面での剥離に起因する0.03cm2以上の膨れ(ふくれ)の有無を目視確認した。各積層板で6回の試験を実施した。耐熱性の評価は以下のとおりである。なお、積層板の膨れが少ない傾向にあるほど、耐熱性に優れることを指す。
A:積層板6枚中、すべての積層板で膨れが無かった。
B:1枚の積層板で膨れが有った。
C:2枚の積層板で膨れが有った。
D:3枚の積層板で膨れが有った。
E:4~6枚の積層板で膨れが有った。
【0111】
《製造例》
〔実施例1〕
SiO2組成量が99.9質量%よりも多く、平均フィラメント径7.5μm、フィラメント数50本、撚り数1.0Zのシリカガラス糸を用いて、経糸の整経を行った。このとき、60m/minの搬送速度で引きそろえた経糸を3.0kg/cm2の荷重でロールにてニップすることで、ガラス糸の扁平化を行った。その後、以下の手順で、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂を主成分とするサイジング剤を付着させた。すなわち、PVA(商品名:PVA403、クラレ(株)製)の濃度が5%の水溶液を作製し、この水溶液に潤滑剤として水添ヒマシ油2%を配合し、サイジング剤を得た。60℃で保温したサイジング剤を、ガラス糸に付着させた後に乾燥させることで、サイジング処理を行った。その後、エアジェットルームを用い、経糸66本/inch、緯糸68本/inchの織密度でガラスクロス生機を製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。緯糸として、平均フィラメント径7.5μm、フィラメント数50本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。
【0112】
得られたガラスクロス生機を、60℃のイオン交換水を貯留した水槽に15秒間浸漬するライン速度で搬送させながら、ガラス表面に付着しているサイジング剤を洗浄した(脱油前洗浄工程)。その後、同一ライン上に設けられた加熱炉で、Roll-tо-Roll方式にて1000℃で30秒加熱し、ガラスクロス生機の脱油を行い、ガラスクロスを得た(加熱脱油工程)。次いで、搬送張力を200N、ライン速度が30m/分の速度でガラスクロスを水中で走行させながら、周波数25GHz、出力0.72W/cm2の超音波を照射し、残渣の洗浄を行った(洗浄開繊工程)。続いて、酢酸にてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン;Z6030(ダウ・東レ社製)を0.3質量%分散させた処理液を調整した。クロスを処理液に浸漬し、絞液後、130℃で60秒加熱乾燥し、シランカップリング剤の固着を行った。乾燥させたクロスをスプレーで3.0kg/cm2の圧力で高圧開繊し(表面処理後開繊工程)、その後、130℃で1分乾燥することでガラスクロスを得た。得られたガラスクロスの厚さ、経糸幅、緯糸幅、(経糸束段数-0.2)/T値、経糸接着割合、24×D-T値、14×D-T値、及び強熱減量値を測定した。また、毛羽と樹脂含浸性の評価を行った。さらに、上記の方法で積層板を作製し、耐熱性を評価した。
【0113】
〔実施例2〕
SiO2組成量が99.9質量%よりも多く、平均フィラメント径9.0μm、フィラメント数34本、撚り数1.0Zのシリカガラス糸を用いて、経糸の整経を行った。このとき、60m/minの搬送速度で引きそろえた経糸を3.0kg/cm2の荷重でロールにてニップすることで、ガラス糸の扁平化を行った。その後、以下の手順で、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂を主成分とするサイジング剤を付着させた。すなわち、PVA(商品名:PVA403、クラレ(株)製)の濃度が5%の水溶液を作製し、この水溶液に潤滑剤として水添ヒマシ油2%を配合し、サイジング剤を得た。60℃で保温したサイジング剤を、ガラス糸に付着させた後に乾燥させることで、サイジング処理を行った。その後、エアジェットルームを用い、経糸66本/inch、緯糸68本/inchの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。緯糸として、平均フィラメント径9.0μm、フィラメント数34本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。得られたガラスクロス生機を用い、表に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様の手法で、実施例2のガラスクロスを得た。
【0114】
〔実施例3〕
SiO2組成量が99.9質量%よりも多く、平均フィラメント径7.5μm、フィラメント数96本、撚り数1.0Zのシリカガラス糸を用いて、経糸の整経を行った。このとき、60m/minの搬送速度で引きそろえた経糸を3.5kg/cm2の荷重でロールにてニップすることで、ガラス糸の扁平化を行った。その後、以下の手順で、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂を主成分とするサイジング剤を付着させた。すなわち、PVA(商品名:PVA403、クラレ(株)製)の濃度が5%の水溶液を作製し、この水溶液に潤滑剤として水添ヒマシ油2%を配合し、サイジング剤を得た。60℃で保温したサイジング剤を、ガラス糸に付着させた後に乾燥させることで、サイジング処理を行った。その後、エアジェットルームを用い、経糸54本/inch、緯糸54本/inchの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。緯糸として、平均フィラメント径7.5μm、フィラメント数96本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。得られたガラスクロス生機を用い、洗浄開繊工程の張力を250Nとし、表に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様の手法で、実施例3のガラスクロスを得た。
【0115】
〔実施例4〕
SiO2組成量が99.9質量%よりも多く、平均フィラメント径6.0μm、フィラメント数22本、撚り数0.6Zのシリカガラス糸を用いて、経糸の整経を行った。このとき、60m/minの搬送速度で引きそろえた経糸を3.0kg/cm2の荷重でロールにてニップすることで、ガラス糸の扁平化を行った。その後、以下の手順で、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂を主成分とするサイジング剤を付着させた。すなわち、PVA(商品名:PVA403、クラレ(株)製)の濃度が5%の水溶液を作製し、この水溶液に潤滑剤として水添ヒマシ油2%を配合し、サイジング剤を得た。60℃で保温したサイジング剤を、ガラス糸に付着させた後に乾燥させることで、サイジング処理を行った。その後、エアジェットルームを用い、経糸95本/inch、緯糸95本/inchの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。緯糸として、平均フィラメント径6.0μm、フィラメント数22本、撚り数0.6Zのシリカガラスの糸を使用した。得られたガラスクロス生機を用い、表に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様の手法で、実施例4のガラスクロスを得た。
【0116】
〔比較例1〕
SiO2組成量が99.9質量%よりも多く、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラス糸を用いて、経糸の整経を行った。このとき、60m/minの搬送速度で引きそろえた経糸を3.0kg/cm2の荷重でロールにてニップすることで、ガラス糸の扁平化を行った。その後、以下の手順で、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂を主成分とするサイジング剤を付着させた。すなわち、PVA(商品名:PVA403、クラレ(株)製)の濃度が5%の水溶液を作製し、この水溶液に潤滑剤として水添ヒマシ油2%を配合し、サイジング剤を得た。60℃で保温したサイジング剤を、ガラス糸に付着させた後に乾燥させることで、サイジング処理を行った。その後、エアジェットルームを用い、経糸66本/inch、緯糸68本/inchの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。得られたガラスクロス生機を用い、実施例1と同様の手法で、比較例1のガラスクロスを得た。
【0117】
〔比較例2〕
比較例1で得られたガラスクロス生機を用い、表に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様の手法で、比較例2のガラスクロスを得た。
【0118】
〔比較例3〕
SiO2組成量が99.9質量%よりも多く、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数200本、撚り数1.0Zのシリカガラス糸を用いて、経糸の整経を行った。このとき、60m/minの搬送速度で引きそろえた経糸を3.5kg/cm2の荷重でロールにてニップすることで、ガラス糸の扁平化を行った。その後、以下の手順で、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂を主成分とするサイジング剤を付着させた。すなわち、PVA(商品名:PVA403、クラレ(株)製)の濃度が5%の水溶液を作製し、この水溶液に潤滑剤として水添ヒマシ油2%を配合し、サイジング剤を得た。60℃で保温したサイジング剤を、ガラス糸に付着させた後に乾燥させることで、サイジング処理を行った。その後、エアジェットルームを用い、経糸54本/inch、緯糸54本/inchの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。緯糸として、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数200本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。得られたガラスクロス生機を用い、実施例3と同様の手法で、比較例3のガラスクロスを得た。
【0119】
〔比較例4〕
SiO2組成量が99.9質量%よりも多く、平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数50本、撚り数0.6Zのシリカガラス糸を用いて、経糸の整経を行った。このとき、60m/minの搬送速度で引きそろえた経糸を3.0kg/cm2の荷重でロールにてニップすることで、ガラス糸の扁平化を行った。その後、以下の手順で、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂を主成分とするサイジング剤を付着させた。すなわち、PVA(商品名:PVA403、クラレ(株)製)の濃度が5%の水溶液を作製し、この水溶液に潤滑剤として水添ヒマシ油2%を配合し、サイジング剤を得た。60℃で保温したサイジング剤を、ガラス糸に付着させた後に乾燥させることで、サイジング処理を行った。その後、エアジェットルームを用い、経糸95本/inch、緯糸95本/inchの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。緯糸として、平均フィラメント径4.0μm、フィラメント数50本、撚り数0.6Zのシリカガラスの糸を使用した。得られたガラスクロス生機を用い、実施例4と同様の手法で、比較例4のガラスクロスを得た。
【0120】
〔実施例5〕
実施例1で得られたガラスクロス生機を用い、表面処理前に超音波を照射せず、表に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様の手法で、実施例5のガラスクロスを得た。
【0121】
〔実施例6〕
実施例1で得られたガラスクロス生機を用い、ライン速度を80m/分とした以外は、実施例1と同様の手法で、実施例6のガラスクロスを得た。
【0122】
〔比較例5〕
SiO2組成量が99.9質量%よりも多く、平均フィラメント径6.0μm、フィラメント数22本、撚り数0.6Zのシリカガラス糸を用いて、経糸の整経を行った。このとき、60m/minの搬送速度で引きそろえた経糸をニップせず、以下の手順で、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂を主成分とするサイジング剤を付着させた。すなわち、PVA(商品名:PVA403、クラレ(株)製)の濃度が5%の水溶液を作製し、この水溶液に潤滑剤として水添ヒマシ油2%を配合し、サイジング剤を得た。60℃で保温したサイジング剤を、ガラス糸に付着させた後に乾燥させることで、サイジング処理を行った。その後、エアジェットルームを用い、経糸95本/inch、緯糸95本/inchの織密度でクロスを製織した。なお、クロス幅は1300mmとなるように製織を行った。緯糸として、平均フィラメント径6.0μm、フィラメント数22本、撚り数0.6Zのシリカガラスの糸を使用した。得られたガラスクロス生機を用い、表に記載の条件に変更した以外は、実施例4と同様の手法で、比較例5のガラスクロスを得た。
【0123】
〔比較例6〕
実施例4で得られたガラスクロス生機を用い、脱油前洗浄工程にて、20℃のイオン交換水を使用した以外は、実施例4と同様の手法で、比較例6のガラスクロスを得た。
【0124】
【0125】
【0126】
ガラスクロスの厚みに対してフィラメント径の太いガラス糸を用い、整経時に糸束を扁平化した後に糊付けし、並びに、ガラスクロスを加熱脱油する前に所定温度以上の水で洗浄を行った実施例1~7のガラスクロスは、経糸束段数が所定の範囲となり、毛羽の発生が抑制された。加えて、所定の搬送速度で表面処理工程の前に超音波による洗浄を行った実施例1~4のガラスクロスは、経糸束段数と経糸接着割合が所定の範囲となり、良好な樹脂含浸性及び積層板の耐熱性が得られた。
【0127】
IPC規格に定められたフィラメント径で作製した比較例1~4のガラスクロスでは、経糸束段数が大きくなり毛羽の発生が抑制できず、また、樹脂含浸性に劣った。比較例2では開繊処理の加工力を強くすると、毛羽が増加した。
【0128】
また、ガラスクロスの厚みに対してフィラメント径の太いガラス糸を用いたものの、整経時に糸束を扁平化しなかった比較例5、及び、ガラスクロスを加熱脱油する前に所定温度以上の水で洗浄する工程を行わなかった比較例6では、経糸束段数と経糸接着割合が所定の範囲に制御できず、毛羽が多くなり、樹脂含浸性に劣った。
【要約】
本開示によれば、二酸化ケイ素(SiO2)含有量の高いガラス糸から構成され、毛羽が少ない石英ガラスクロス、並びにこれを含むプリプレグ、及びプリント配線板等が提供される。本開示のガラスクロスは、複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸及び緯糸として構成され、上記ガラス糸のケイ素(Si)含有量は、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0質量%以上100質量%以下である。上記ガラスクロスは、厚み(T)が80μm以下であり、{経糸束段数(N)-0.2}/厚み(T)[μm]<0.056を満たす。