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特許7524503金属板用塗料およびこれを用いた塗装金属板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】金属板用塗料およびこれを用いた塗装金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/12 20060101AFI20240723BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20240723BHJP
   C09D 133/16 20060101ALI20240723BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20240723BHJP
   B05D 3/08 20060101ALI20240723BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240723BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240723BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D133/04
C09D133/16
B05D7/14 J
B05D3/08
C09D7/65
C09D7/63
C23C26/00 A
C23C26/00 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020021403
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021127368
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000207436
【氏名又は名称】日鉄鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 慶子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 成寿
(72)【発明者】
【氏名】川越 崇史
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-129110(JP,A)
【文献】特開2004-043559(JP,A)
【文献】特開平02-008249(JP,A)
【文献】特表2016-516101(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104403486(CN,A)
【文献】特開2008-274272(JP,A)
【文献】特開2001-246021(JP,A)
【文献】特開2006-102671(JP,A)
【文献】特開2019-77743(JP,A)
【文献】国際公開第2014/199653(WO,A1)
【文献】特表2018-524162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
C09D 1/00ー 10/00
C09D101/00ー201/10
C23C 24/00ー 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂の混合物、ならびに含フッ素モノマーおよび(メタ)アクリル基含有モノマーの共重合体のうちの少なくとも一方と、
シリコーンレジンと、
亜鉛カルボン酸塩触媒と、
を含む金属板用塗料であり
前記シリコーンレジンは、トリアルコキシシラン由来のSi原子の量が、シリコーンレジンが含むSi原子の総モル数に対して50モル%以上であり、
前記シリコーンレジンの分子量が700以上50000以下であり、
前記金属板用塗料の固形分100質量部に対して、前記シリコーンレジンの量が1質量部以上10質量部以下である、
金属板用塗料。
【請求項2】
前記亜鉛カルボン酸塩触媒が、下記一般式(1)で表される構造を有する、
請求項1に記載の金属板用塗料。
【化1】
(一般式(1)におけるRは、炭素数1~18の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、または炭素数が6~18のアリール基を表す)
【請求項3】
前記一般式(1)が、ビス(2ーエチルヘキサン酸)亜鉛である、
請求項2に記載の金属板用塗料。
【請求項4】
前記シリコーンレジンが、Si原子の総モル数に対して、5~50モル%のシラノール基を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の金属板用塗料。
【請求項5】
金属板の表面に、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属板用塗料を塗布し、硬化させて塗膜を形成する工程と、
前記塗膜にフレーム処理を行う工程と、
を含む、
塗装金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板用塗料およびこれを用いた塗装金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外の建造物や土木構造等には、塗装金属板が多く用いられている。また塗装金属板に、長期の耐久性が要求される場合には、その表面側に配置される塗膜の塗料として、耐候性や機械的性質に優れる含フッ素樹脂系塗料が多く用いられている。このような塗装金属板では、自動車の排気ガス、工場からの煤煙等に含まれるカーボン系汚染物質(以下、「疎水性カーボン」とも称する)の付着による汚れが問題となっている。汚れの中でも特に、雨筋に沿って付着する汚れ(以下、「雨筋汚れ」とも称する)が目立ちやすい。含フッ素樹脂系塗料を焼き付けた塗装金属板でも、雨筋汚れが比較的短時間のうちに目立つようになることは避けられない。そのため、雨筋汚れが発生し難い塗装金属板の提供が求められている。
【0003】
近年、塗膜の対水接触角を60°以下、つまり親水性にすることで、雨筋汚れを防止することが提案されている。対水接触角が低い親水性の塗膜表面では、雨水によって疎水性カーボンが浮き上がりやすく、浮き上がった疎水性カーボンが洗い流されると考えられる。塗装金属板表面を親水化する手法の一つとして、塗料にテトラアルコキシシランまたはその縮合物(以下、これらを「オルガノシリケート」とも称する)を含める方法が提案されている(特許文献1~3)。
【0004】
上記特許文献1~3に記載の塗料は、各種樹脂とオルガノシリケートを含む。このような塗料を金属板表面に塗布すると、オルガノシリケートが膜の表面側に移動する。そして、膜を硬化させると、オルガノシリケートが空気中の水分等と反応し、塗膜表面にシラノール基やシロキサン結合が生じる。これにより、塗膜表面が親水化し、雨筋汚れが抑制されると考えられている。
【0005】
しかしながら、オルガノシリケートは反応性が非常に高く、塗料中の水分によって反応しやすい。したがって、オルガノシリケートを含む塗料は貯蔵安定性が低く、オルガノシリケートの添加後、時間が経過した塗料では、オルガノシリケートが表面に移動し難く、塗膜表面を十分に親水化することが難しかった。
【0006】
そこで、オルガノシリケートの代わりに、塗料にシリコーンレジンを含めることが本発明者らによって検討されている。例えば特許文献4では、ポリエステル樹脂と、メラミン樹脂系硬化剤とを含む塗料に、シリコーンレジンおよびブロックスルホン酸触媒を添加することが提案されている。ブロックスルホン酸触媒は、シリコーンレジンを硬化させるための触媒である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第1994/6870号
【文献】特開平8-12921号公報
【文献】特開平10-128232号公報
【文献】特開2019-006931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4に記載のシリコーンレジンは、オルガノシリケートと比較して、反応性が穏やかであり、塗料中の水分によって反応し難い。またその三次元的な構造から、塗料の塗布後、表面に濃化しやすい。したがって、このようなシリコーンレジンを含む塗料を塗布し、その硬化膜にフレーム処理を行うことで、容易に塗膜表面を親水化(シリコーンレジンの有機基をOH基やシロキサン結合に置換)することができる。つまり、シリコーンレジンを含む塗料によれば、親水性が非常に高く、雨筋汚れの生じ難い塗膜が得られる。
【0009】
そこで、フッ素樹脂およびアクリル樹脂を含む塗料に対しても、特許文献4のように、シリコーンレジンおよびブロックスルホン酸触媒を添加することが考えられる。しかしながら、当該塗料では、塗膜を焼き付けた際に黄変が生じることがあり、均一な色の塗膜が得られ難い、という課題があった。
【0010】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、貯蔵安定性が非常に高く、さらに黄変がなく、雨筋汚れが生じ難い塗膜を形成可能な金属板用塗料、およびこれを用いた塗装金属板の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1は、以下の金属板用塗料に関する。
[1]含フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂の混合物、ならびに含フッ素モノマーおよび(メタ)アクリル基含有モノマーの共重合体のうちの少なくとも一方と、シリコーンレジンと、亜鉛カルボン酸塩触媒と、を含む、金属板用塗料。
【0012】
[2]前記亜鉛カルボン酸塩触媒が、下記一般式(1)で表される構造を有する、[1]に記載の金属板用塗料。
【化1】
(一般式(1)におけるRは、炭素数1~18の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、または炭素数が6~18のアリール基を表す)
【0013】
[3]前記一般式(1)が、ビス(2ーエチルヘキサン酸)亜鉛である、[2]に記載の金属板用塗料。
[4]前記シリコーンレジンが、Si原子の総モル数に対して、5~50モル%のシラノール基を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の金属板用塗料。
【0014】
本発明の第2は、以下の塗装金属板の製造方法に関する。
[5]金属板の表面に、上記[1]~[4]のいずれかに記載の金属板用塗料を塗布し、硬化させて塗膜を形成する工程と、前記塗膜にフレーム処理を行う工程と、を含む、塗装金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属板用塗料から得られる塗膜では、黄変が生じ難く、均一な色の塗膜が得られる。さらに、当該金属板用塗料から得られる塗膜は、表面に雨筋汚れが生じ難く、耐傷付き性が高い。また、当該金属板用塗料は貯蔵安定性が非常に高い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.金属板用塗料
本発明は、金属板の保護や、雨筋汚れを防止するために金属板表面に塗布する金属板用塗料に関する。当該金属板用塗料は、例えば、金属板上に塗布後、塗膜表面をフレーム処理して用いられる。
【0017】
前述のように、シリコーンレジンを含む金属板用塗料によれば、耐傷付き性が高く、雨筋汚れの生じ難い塗膜を得ることができる。ただし、金属板用塗料に、シリコーンレジンを硬化させるための触媒として、スルホン酸系の触媒を用いると、塗膜の焼き付け条件によって塗膜が黄変しやすく、塗膜の色が一定になり難かった。
【0018】
スルホン酸系の触媒を用いた際に塗膜が黄変する理由は定かではないが、以下のように考えられる。フッ素系の塗料では通常、フッ素系樹脂と(メタ)アクリル樹脂との混合樹脂、もしくは含フッ素モノマーおよび(メタ)アクリル基含有モノマーの共重合体をバインダとして使用する。このような塗料において、スルホン酸系の触媒を使用すると、触媒がアクリル樹脂の硬化を過度に促進させやすく、黄変が生じると考えられる。また、焼き付け時の条件によって、アクリル樹脂の硬化度合が変化すると、黄変の度合も変化するため、塗膜の色が一定になり難かったと考えられる。
【0019】
これに対し、本発明の金属板用塗料は、含フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂の混合物、ならびに含フッ素モノマーおよび(メタ)アクリル基含有モノマーの共重合体のうちの少なくとも一方と、シリコーンレジンと、亜鉛カルボン酸塩触媒と、を含む。亜鉛カルボン酸塩触媒は、シリコーンレジンの硬化触媒として十分に機能する。したがって、耐傷付き性が高く、雨筋汚れが生じ難い塗膜が得られる。一方で、亜鉛カルボン酸塩触媒は、樹脂成分、特に(メタ)アクリル基とは作用し難いことから、塗膜の黄変等を引き起こし難い。さらに、当該亜鉛カルボン酸塩触媒は、金属板用塗料の保存時にシリコーンレジンと反応し難いことから、塗料の貯蔵安定性が非常に良好となる。
【0020】
以下、本発明の金属板用塗料の各成分について、詳しく説明する。
【0021】
(1)亜鉛カルボン酸塩触媒
亜鉛カルボン酸塩触媒は、後述のシリコーンレジンの硬化触媒として作用する化合物であって、分子中に亜鉛およびカルボキシル基を有する化合物であれば、特に制限されない。金属板用塗料には、亜鉛カルボン酸塩触媒が、1種のみ含まれてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0022】
亜鉛カルボン酸塩触媒の例には、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物が含まれる。
【化2】
【0023】
上記一般式(1)において、Rは、炭素数が1~18の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、または炭素数が6~18のアリール基を表す。当該亜鉛カルボン酸塩触媒において、亜鉛に結合する2つのカルボキシル基は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0024】
上記一般式(1)においてRで表される、炭素数が1~18のアルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基等が含まれる。一方、上記一般式(1)においてRで表される、炭素数が6~18のアリール基の例には、フェニル基、ナフチル基、アズレン基等が含まれる。これらの中でも、入手容易性や安定性、シリコーンレジンの硬化性等の観点で、一般式(1)における配位化合物は、2-エチルヘキシル酸が好ましい。つまり、亜鉛カルボン酸塩触媒は、ビス(2-エチルヘキサン酸)亜鉛が好ましい。
【0025】
ここで、上記亜鉛カルボン酸塩触媒は、調製したものであってもよく、市販品であってもよい。市販品の例には、オクトープZn(ホープ製薬株式会社製)、Zn-OCTOATE(DIC株式会社製)、D-15(信越化学工業株式会社製)等が含まれる。
【0026】
金属板用塗料に含まれる亜鉛カルボン酸塩触媒の量は、シリコーンレジンの量に応じて適宜選択されるが、通常、金属板用塗料の固形分全量100質量部に対して、0.01~1質量部が好ましく、0.04~0.36質量部がより好ましい。また、シリコーンレジンの量100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~6質量部がより好ましい。亜鉛カルボン酸塩触媒の量が当該範囲であると、シリコーンレジンが効率良く硬化しやすく、硬度の高い塗膜が得られやすくなる。
【0027】
(2)シリコーンレジン
本明細書において「シリコーンレジン」とは、アルコキシシランが部分加水分解縮合した化合物であって、三次元状の架橋型構造を主体とするが、ゲル化までには至らず、有機溶剤に可溶なポリマーとする。シリコーンレジンが含む三次元状の架橋型構造は特に制限されず、例えば、カゴ状、梯子状、またはランダム状のいずれであってもよい。なお、本明細書において、テトラアルコキシシラン、およびテトラアルコキシシランのみを加水分解縮合させた縮合物(オルガノシリケート)は、シリコーンレジンに含まないものとする。
【0028】
シリコーンレジンは、三次元状の架橋型構造を含むため、金属板用塗料を金属板に塗布すると、膜の表面側に移行し、当該膜の表面に沿って均一に並ぶ。そして、このようなシリコーンレジンを上述の亜鉛カルボン酸塩触媒によって硬化させた後、フレーム処理を行うと、シリコーンレジンが含む有機基(例えば、メチル基やフェニル基等)がムラなく除去されて、塗膜表面にシラノール基やシロキサン結合が導入される。その結果、塗膜(塗装金属板)の表面の親水性が均一に高くなり、耐雨筋汚れ性が非常に良好となる。また、シリコーンレジンの硬化物が塗膜表面に均一に並ぶことで、塗膜の耐傷付き性も良好になる。
【0029】
シリコーンレジンは、上述のように、アルコキシシランを部分加水分解縮合させた化合物であり、その分子鎖には通常、下記一般式で表される、トリアルコキシシラン由来のT-1単位~T-3単位(これらを総称して「T単位」とも称する)のいずれか1つ、または2つ以上が含まれる。
【0030】
【化3】
上記一般式において、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。また、Xは水素原子、または炭化水素基を表す。シリコーンレジンには、上記RやXの種類が異なる複数種類のT単位が含まれていてもよい。
【0031】
は炭素数1~12の炭化水素基であることが好ましく、その具体例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;シクロヘキシル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基;等が含まれる。これらの中でも特に好ましくは、メチル基およびフェニル基である。
【0032】
一方、Xは水素原子または炭素数1~8の炭化水素基であることが好ましく、当該炭化水素基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;シクロヘキシル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基;等が含まれる。これらの中でも特に好ましくは、メチル基およびエチル基である。
【0033】
また、シリコーンレジンの分子鎖には、下記一般式で表される、ジアルコキシシラン由来のD-1単位およびD-2単位(これらを総称して「D単位」とも称する)のいずれか一方または両方が含まれていてもよい。
【0034】
【化4】
上記一般式において、RおよびRはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。また、Xは、水素原子、または炭化水素基を表す。なお、シリコーンレジンには、上記RやR、Xの種類が異なる複数種類のD単位が含まれていてもよい。
【0035】
およびRはそれぞれ、炭素数1~12の炭化水素基であることが好ましく、その具体例には、上述のT単位のRと同様の基が含まれる。一方、Xは水素原子または炭素数1~8の炭化水素基であることが好ましく、その具体例には、上述のT単位のXと同様の基が含まれる。
【0036】
さらに、シリコーンレジンの分子鎖には、下記一般式で表されるテトラアルコキシシラン由来のQ-1単位~Q-4単位(これらを総称して「Q単位」とも称する)のいずれか1つ、または2つ以上が含まれていてもよい。
【0037】
【化5】
上記一般式において、Xは水素原子、または炭化水素基を表す。なお、シリコーンレジンには、上記Xの種類が異なる複数種類のQ単位が含まれていてもよい。
【0038】
は水素原子または炭素数1~8の炭化水素基であることが好ましく、その具体例には、上述のT単位のXと同様の基が含まれる。
【0039】
シリコーンレジンは、上記T単位、D単位、および/またはQ単位が三次元的に結合した構造を有する。本発明の金属板用塗料に含まれるシリコーンレジン中のシラノール基の量(モル数)は、Si原子の総モル数に対して、5~50モル%であり、15~40モル%であることがより好ましい。シラノール基の量がSi原子の総モル数に対して50モル%を超えると、シリコーンレジンの反応性が高くなり、上述の亜鉛カルボン酸塩触媒を用いたとしても、金属板用塗料の貯蔵安定性が低くなることがある。一方、シラノール基の量がSi原子の総モル数に対して5モル%未満であると、シリコーンレジンどうし、もしくはシリコーンレジンと金属板用塗料中の他の成分とが水素結合し難くなり、金属板用塗料の硬化時に、シリコーンレジンが蒸発することがある。さらに、シラノール基の量が5モル%未満であると、金属板用塗料を硬化させる際、シリコーンレジンが十分に架橋し難く、塗膜の耐傷付き性が十分に高まらないことがある。
【0040】
これに対し、シリコーンレジン中のシラノール基量が上記範囲であると、金属板用塗料の貯蔵安定性が高まるだけでなく、金属板用塗料からなる膜の硬化時に、シリコーンレジンが蒸発し難くなり、加熱装置等を汚染し難くなる。またさらには、金属板用塗料からなる塗膜の耐傷付き性も良好になる。
【0041】
シリコーンレジンが含むSiのモル数、およびシリコーンレジンが含むシラノール基の量は、29Si-NMRによる分析、およびH-NMRによる分析、により特定することができる。また、シリコーンレジンにおけるシラノール基の量は、T単位、D単位、およびQ単位の仕込み比や、縮合反応の程度によって調整することができる。例えば、トリアルコキシシランを用いてシリコーンレジンを調製する場合、縮合反応時間を長くすること等で、T-3単位が多くなり、シラノール基の量が少なくなる。
【0042】
また、シリコーンレジンは、シリコーンレジンが含むSi原子の総モル数に対して、トリアルコキシシラン由来のSi原子、すなわちT単位を構成するSi原子を50~100モル%含むことが好ましく、60~100モル%含むことがより好ましい。T単位量が50モル%未満である(特にD単位量が50モル%より多くなる)と、シリコーンレジンがミセル構造を形成しやすくなり、塗膜表面にシリコーンレジンが海島状に濃化しやすくなる。その結果、塗膜表面の親水性や硬度を均一に高めることが難しくなり、塗膜の耐傷付き性や耐雨筋汚れ性にムラが生じやすくなる。なお、シリコーンレジンが塗膜表面で海島状に濃化していることは、フレーム処理後の塗膜表面をAFM(原子間力顕微鏡)で分析することで確認することが可能である。例えば、フレーム処理によるエッチング深度は塗膜表面の海部分と島部分で異なる。そこで、塗膜表面の凹凸によって、シリコーンレジンの海島分布を確認することが可能である。
【0043】
これに対し、T単位量が50モル%以上であると、シリコーンレジンがミセル構造を形成し難くなり、塗膜表面にシリコーンレジンが均一に濃化しやすくなる。その結果、金属板用塗料を塗布して得られる塗装金属板の耐雨筋汚れ性が良好になったり、塗膜の耐傷付き性が良好になる。T単位を構成するSi原子の量は、29Si-NMRによる分析によって特定することができる。
【0044】
また、シリコーンレジンがアルキル基およびアリール基を含む場合、Si原子に直接結合するアルキル基のモル数に対する、シリコーンレジンのSi原子に直接結合するアリール基のモル数、すなわちアリール基:アルキル基のモル比は0~80:100~20が好ましく、0~70:100~30がより好ましい。アリール基のモル比が多いほど、金属板用塗料中の他の成分にシリコーンレジンが溶解しやすくなる。また、塗料の貯蔵安定性も高まりやすくなる。ただし、アリール基の割合が過剰になると、塗膜形成時の反応速度が大幅に低下して、十分な架橋密度が得られ難くなることがある。上記アルキル基とアリール基との比は、H-NMRによる分析によって特定することができる。
【0045】
ここで、シリコーンレジンの重量平均分子量は好ましくは700~50000であり、より好ましくは1000~10000である。シリコーンレジンの重量平均分子量が700未満になると、金属板用塗料の硬化時に、シリコーンレジンが蒸発しやすくなり、加熱装置を汚染したり、塗膜の硬度が低下する傾向がある。一方、重量平均分子量が50000を超えると、金属板用塗料の粘度が高まりやすくなり、貯蔵安定性が低くなる傾向がある。なお、上記シリコーンレジンの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算量である。
【0046】
金属板用塗料には、その固形分100質量部に対して、シリコーンレジンが1~10質量部含まれることが好ましく、2~6質量部含まれることがより好ましい。金属板用塗料にシリコーンレジンが当該範囲含まれることで、得られる塗膜表面の親水性を十分に高めることが可能となり、雨筋汚れが生じ難くなる。また、塗膜表面の硬度も高くなる。
【0047】
上述のシリコーンレジンは、トリアルコキシシラン等を加水分解重合させて調製することができる。具体的には、トリアルコキシシラン等のアルコキシシランやその部分縮合物を水やアルコール等の溶剤に分散させる。そして、当該分散液のpHを好ましくは1~7、より好ましくは2~6に調整し、アルコキシシラン等を加水分解させる。その後、加水分解物どうし脱水縮合させることで、シリコーンレジンが得られる。脱水縮合時間等によって、得られるシリコーンレジンの分子量等を調整することができる。加水分解物の縮合は、上記加水分解と連続して行うことが可能であり、加水分解により生成したアルコールや、水を留去することで、縮合反応を促進させることができる。
【0048】
なお、シリコーンレジンの調製に用いるアルコキシシランは、所望のシリコーンレジンの構造に応じて適宜選択される。トリアルコキシシラン化合物の例には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリシラノール、フェニルトリシラノール等が含まれる。
【0049】
ジアルコキシシランの例には、メチルハイドロジェンジメトキシシラン、メチルハイドロジェンジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等が含まれる。
【0050】
さらに、テトラアルコキシシランの例には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシラン等が含まれる。
【0051】
シリコーンレジン調製の際には、上記トリアルコキシシランやジアルコキシシラン、テトラメトキシシランの部分縮合物を原料として用いてもよい。
【0052】
(3)含フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂の混合物、または含フッ素モノマーおよび(メタ)アクリル基含有モノマーの共重合体
本発明の金属板用塗料には、含フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂の混合物、ならびに含フッ素モノマーおよび(メタ)アクリル基含有モノマーの共重合体のうち、いずれか一方、もしくは両方が含まれる。これらは、塗膜において、バインダとなる成分である。本明細書において、(メタ)アクリルは、メタクリルおよびアクリルのいずれか一方、もしくは両方を表す。
【0053】
(含フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂の混合物)
含フッ素樹脂は、その分子中にフッ素を含有する樹脂であればよく、その種類は特に制限されない。含フッ素樹脂の例には、ポリフッ化ビニリデンが含まれる。ポリフッ化ビニリデンは、フッ化ビニリデン単独重合体、もしくはフッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体とすることができる。ただし、ポリフッ化ビニリデンは、フッ化ビニリデン由来の構成単位を、含フッ素樹脂を構成する構成単位の総量に対して50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましい。
【0054】
フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーの例には、フルオロオレフィン、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、イソプロペニルエーテル、イソプロペニルエステル、メタリルエーテル、メタリルエステル、α-オレフィン、(メタ)アクリル酸エステル等が含まれる。ポリフッ化ビニリデンは、これら由来の構造を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0055】
上記フルオロオレフィンの例には、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン等の炭素数2または3のフルオロオレフィンが含まれる。
【0056】
上記ビニルエーテルの例には、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、フルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等のアルキルビニルエーテルが含まれる。
【0057】
上記ビニルエステルの例には、2,2-ジメチルオクタン酸エテニル、酪酸ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルが含まれる。
【0058】
上記アリルエーテルの例には、エチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等のアルキルアリルエーテル等が含まれる。上記アリルエステルの例には、プロピオン酸アリル、酢酸アリル等の脂肪酸アリルエステル等が含まれる。
【0059】
上記イソプロペニルエーテルの例にはメチルイソプロペニルエーテル等のアルキルイソプロペニルエーテルが含まれる。上記イソプロペニルエステルの例には、酢酸イソプロペニル等が含まれる。上記メタリルエーテルの例には、エチレングリコールモノメタリルエーテル等が含まれ、メタリルエステルの例には、酢酸β-メタリル等が含まれる。
【0060】
上記α-オレフィンの例には、エチレン、プロピレン、イソブチレン等が含まれる。上記(メタ)アクリル酸エステルの例には、メタクリル酸メチル等が含まれる。
【0061】
上記の中でも、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、およびアリルエステルがフルオロオレフィンとの共重合性に優れる点から好ましい。また特に、炭素数1~10の直鎖状、分岐状あるいは脂環状のアルキル基を有するアルキルビニルエーテル、脂肪酸ビニルエステル、アルキルアリルエーテル、および脂肪酸アリルエステルが好ましい。
【0062】
一方で、含フッ素樹脂は、上記フルオロオレフィンと、上記のモノマー(ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、イソプロペニルエーテル、イソプロペニルエステル、メタリルエーテル、メタリルエステル、α-オレフィン、(メタ)アクリル酸エステル等)との共重合体であってもよい。
【0063】
ここで、含フッ素樹脂の重量平均分子量は、100000以上が好ましく、200000以上がより好ましく、400000以上がさらに好ましい。含フッ素樹脂の重量平均分子量が当該範囲であると、金属板用塗料中の他の成分との相溶性が良好になり、強度の高い膜が得られる。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される値(スチレン換算値)である。
【0064】
金属板用塗料には、その固形分100質量部に対して、上記含フッ素樹脂が、0.1~100質量部含まれることが好ましく、40~90質量部含まれることが好ましい。含フッ素樹脂の量が当該範囲であると、金属板用塗料を塗布して得られる塗装金属板の耐候性が良好になりやすい。一方で、十分な量の(メタ)アクリル樹脂が含まれるため、金属板用塗料中の他の成分との相溶性が良好になる。
【0065】
ここで、上記含フッ素樹脂と組み合わせる(メタ)アクリル樹脂は、熱可塑性であってもよく、熱硬化性であってもよい。
【0066】
熱可塑性(メタ)アクリル樹脂の例には、(メタ)アクリル酸を構成する構成単位の総量に対して、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を70モル%以上含む重合体が含まれる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例には、(メタ)アクリル酸メチルや(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸オクチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー等の炭素数が3~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれる。(メタ)アクリル樹脂は、これら由来の構造を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0067】
また、熱可塑性(メタ)アクリル樹脂は、上記以外のモノマー由来の構造を有していてもよく、例えばスチレンやビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニル由来の構成単位等を含んでいてもよい。
【0068】
熱可塑性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、40000~300000が好ましく、50000~200000がより好ましい。熱可塑性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、GPCにより測定される値(スチレン換算)である。
【0069】
含フッ素樹脂と、上記熱可塑性(メタ)アクリル樹脂とを組み合わせる場合、熱可塑性(メタ)アクリル樹脂の量は、含フッ素樹脂の量100質量部に対して150質量部以下が好ましく、10~50質量部がより好ましい。熱可塑性(メタ)アクリル樹脂を当該範囲混合すると、金属板用塗料の流動性が良好になりやすい。
【0070】
一方、熱硬化性(メタ)アクリル樹脂は、水酸基やカルボキシル基、グリシジル基、活性ハロゲン、イソシアナート基等の架橋性反応基を有する(メタ)アクリル樹脂とすることができる。このとき、アルキル化メラミンやポリオール、ポリアミン、ポリアミド、ポリオキシラン等が熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の硬化剤として使用される。
【0071】
熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、1000~20000が好ましく、2000~10000がより好ましい。熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、GPCにより測定される値(スチレン換算)である。
【0072】
含フッ素樹脂と、上記熱硬化性(メタ)アクリル樹脂とを組み合わせる場合、熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の量は、含フッ素樹脂の量100質量部に対して150質量部以下が好ましく、10~50質量部がより好ましい。熱硬化性(メタ)アクリル樹脂を当該範囲混合すると、金属板用塗料の流動性等が良好になりやすい。
【0073】
上記含フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂の混合物は、硬化剤をさらに含んでもよい。混合物が硬化剤を含むと、架橋構造が形成されやすく、得られる塗膜がより強靱になりやすい。硬化剤の例には、アミノプラスト系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、多塩基酸系硬化剤、多価アミン系硬化剤等が含まれる。金属板用塗料は、当該硬化剤を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0074】
アミノプラスト系硬化剤の例には、メチロールメラミン類、メチロールグアナミン類、メチロール尿素類等が含まれる。メチロールメラミン類の例には、ブチル化メチロールメラミン、メチル化メチロールメラミン等の低級アルコールによりエーテル化されたメチロールメラミン、エポキシ変性メチロールメラミン等が含まれる。メチロール尿素類の例には、メチル化メチロール尿素、エチル化メチロール尿素等のアルキル化メチロール尿素等が含まれる。
【0075】
イソシアネート系硬化剤の例には、多価イソシアネート化合物やそのブロック化物が含まれる。多価イソシアネート化合物は、2以上のイソシアネート基を有する化合物とすることができる。多価イソシアネート化合物の例にはエチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレントリイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族多価イソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン等の脂環族多価イソシアネート化合物;m-キシレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物等が含まれる。
【0076】
多価イソシアネート化合物の変性体や多量体の例には、ウレタン変性体、ウレア変性体、イソシアヌレート変性体、ビューレット変性体、アロファネート変性体、カルボジイミド変性体等が含まれる。
【0077】
多塩基酸系硬化剤の例には、長鎖脂肪族ジカルボン酸類、芳香族多価カルボン酸類等が含まれ、これらの酸無水物であってもよい。
【0078】
多価アミン系硬化剤の例には、エチレンジアミン、エチレントリアミン等が含まれる。
【0079】
金属板用塗料には、上記硬化剤が、含フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂の混合物100質量部に対して0.1~100質量部含まれることが好ましく、1~50質量部含まれルことがより好ましい。硬化剤の量が0.1質量部以上であると、得られる塗膜の硬度が高まりやすい。一方、硬化剤の量が100質量部以下であると、得られる塗装金属板の加工性や耐衝撃性が良好になりやすい。
【0080】
(含フッ素モノマーおよび(メタ)アクリル基含有モノマーの共重合体)
含フッ素モノマーおよび(メタ)アクリル基含有モノマーの共重合体の例には、フルオロオレフィンと、(メタ)アクリル基を有するモノマーとの共重合体等が含まれる。
【0081】
含フッ素モノマーは、フッ素を含有するモノマーであればよく、その例には、フッ化ビニリデンや、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン等の炭素数2または3のフルオロオレフィンが含まれる。共重合体は、含フッ素モノマーを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0082】
一方、(メタ)アクリル基含有モノマーは、(メタ)アクリル基を有するモノマーであればよい。その例には、(メタ)アクリル酸、または(メタ)アクリル酸エステル等が含まれる。(メタ)アクリル酸エステルの例には、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等が含まれる。共重合体は、(メタ)アクリル基含有モノマーを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。また、共重合体は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、含フッ素モノマーおよび(メタ)アクリル基含有モノマー以外のモノマー由来の構成単位を含んでいてもよい。含フッ素モノマーおよび(メタ)アクリル基含有モノマー以外のモノマーの例には、上述のビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、イソプロペニルエーテル、イソプロペニルエステル、メタリルエーテル、メタリルエステル、α-オレフィン等が含まれる。
【0083】
当該共重合体を構成する構成単位総量に対して、含フッ素モノマー由来の構成単位の量は、30~70モル%が好ましく、40~60モル%がより好ましい。一方、共重合体を構成する構成単位総量に対して、(メタ)アクリル基含有モノマーは、30~70モル%が好ましく、40~60モル%がより好ましい。含フッ素モノマー由来の構成単位が30モル%以上であると、金属板用塗料を塗布して得られる塗装金属板の耐候性が良好になりやすい。一方で、(メタ)アクリル基含有モノマー由来の構成単位が30モル%以上であると、共重合体と、金属板用塗料中の他の成分との相溶性が良好になる。
【0084】
共重合体の重量平均分子量は、3000~500000が好ましく、5000~50000がより好ましい。共重合体の重量平均分子量が当該範囲であると、共重合体と金属板用塗料中の他の成分との相溶性が良好になり、強度の高い塗膜が得られる。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される値(スチレン換算値)である。
【0085】
金属板用塗料には、その固形分100質量部に対して、上記共重合体が、0.1~100質量部含まれることが好ましく、40~90質量部含まれることが好ましい。共重合体の量が当該範囲であると、金属板用塗料を塗布して得られる塗装金属板の耐候性が良好になりやすい。
【0086】
ここで、上記共重合体と共に、硬化剤がさらに含まれていてもよい。金属板用塗料に、上記共重合体と共に硬化剤が含まれると、架橋構造が形成されやすく、得られる塗膜がより強靱になりやすい。硬化剤の例には、アミノプラスト系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、多塩基酸系硬化剤、多価アミン系硬化剤等が含まれる。金属板用塗料には、当該硬化剤が一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。また、これらは、上述の含フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂の混合物に使用する硬化剤と同様である。
【0087】
金属板用塗料には、上記硬化剤が、上記共重合体100質量部に対して0.1~100質量部含まれることが好ましく、1~50質量部含まれることがより好ましい。硬化剤の量を0.1質量部以上とすることで、塗膜の硬度が高まりやすい。一方、硬化剤の量を100質量部以下とすると、加工性や耐衝撃性が良好になりやすい。
【0088】
(4)その他の成分
金属板用塗料には、無機粒子や有機粒子がさらに含まれていてもよい。金属板用塗料にこれらが含まれると、得られる塗膜の表面粗さ等が調整されやすくなる。ここで、無機粒子または有機粒子の平均粒子径は4~80μmであることが好ましく、10~60μmであることがより好ましい。無機粒子や有機粒子の平均粒子径は、コールターカウンター法で測定される値である。なお、無機粒子や有機粒子の形状は特に制限されないが、得られる塗膜の表面状態を調整しやすいとの観点から、略球状であることが好ましい。
【0089】
無機粒子の例には、シリカ、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラスビーズ、ガラスフレークが含まれる。また、有機粒子の例には、アクリル樹脂やポリアクリロニトリル樹脂からなる樹脂ビーズが含まれる。これらの樹脂ビーズは、公知の方法を用いて製造したものであってもよく、市販品であってもよい。市販のアクリル樹脂ビーズの例には、東洋紡社製の「タフチック AR650S(平均粒径18μm)」、「タフチック AR650M(平均粒径30μm)」、「タフチック AR650MX(平均粒径40μm)」、「タフチック AR650MZ(平均粒径60μm)」、「タフチックAR650ML(平均粒径80μm)」が含まれる。また、市販のポリアクリロニトリル樹脂ビーズの例には、東洋紡社製の「タフチック A-20(平均粒径24μm)」、「タフチック YK-30(平均粒径33μm)」、「タフチック YK-50(平均粒径50μm)」および「タフチック YK-80(平均粒径80μm)」等が含まれる。
【0090】
金属板用塗料に含まれる無機粒子および/または有機粒子の量は、所望の塗膜の表面状態等に応じて適宜選択される。通常、金属板用塗料の固形分100質量部に対する無機粒子および/または有機粒子の合計量は、1~40質量部とすることができる。
【0091】
またさらに、金属板用塗料には、必要に応じて着色顔料が含まれていてもよい。着色顔料の平均粒子径は、例えば0.2~2.0μmとすることができる。このような着色顔料の例には、酸化チタン、酸化鉄、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー、カーボンブラック、コバルトブルー等が含まれる。なお、金属板用塗料に着色顔料が含まれる場合、その量は、金属板用塗料の固形分100質量部に対して、20~60質量部であることが好ましく、30~55質量部であることがより好ましい。
【0092】
さらに、金属板用塗料には、必要に応じてワックスが含まれていてもよい。ワックスの例には、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、フッ素系ワックス(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等)、パラフィン系ワックス、ステアリン酸系ワックス等が含まれるが、これに限定されない。また、ワックスの量は、ワックスの種類等に応じて適宜選択されるが、金属板用塗料の固形分100質量部に対して2~15質量部程度とすることができる。
【0093】
また、金属板用塗料には、必要に応じて有機溶剤が含まれていてもよい。当該有機溶剤は、上記シリコーンレジンや亜鉛カルボン酸塩触媒、含フッ素樹脂やその硬化剤、アクリル樹脂、無機粒子、有機粒子等を十分に溶解、または分散させることが可能なものであれば特に制限されない。有機溶剤の例には、トルエン、キシレン、Solvesso(登録商標)100(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)150(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)200(商品名、エクソンモービル社製)等の炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、フタル酸ジメチル等のエステル系溶剤;メタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;等が含まれる。塗料には、これらが1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。これらの中でも、樹脂との相溶性等の観点から、好ましくはイソホロン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサノン、フタル酸ジメチルである。
【0094】
(5)塗料の調製方法
塗料の調製方法は特に制限されない。公知の塗料と同様に、上記各材料を混合し、攪拌もしくは分散することで、調製することができる。なお、シリコーンレジンは、他の成分と予め混合してもよい。また、シリコーンレジン以外の材料を予め混合しておき、シリコーンレジンを後から混合してもよい。
【0095】
2.塗装金属板の製造方法
上述の金属板用塗料を用いて塗装金属板を作製する方法を以下説明する。当該塗装金属板の製造方法は、金属板の表面に、上述の金属板用塗料を塗布し、硬化させて塗膜を形成する工程と、当該塗膜にフレーム処理を行う工程と、を含む方法とすることができる。
【0096】
ここで、金属板用塗料を塗布する金属板は、一般的に建築板として使用されている金属板を使用することができる。このような金属板の例には、溶融Zn-55%Al合金めっき鋼板等のめっき鋼板;普通鋼板やステンレス鋼板等の鋼板;アルミニウム板;銅板等が含まれる。金属板には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その表面に化成処理皮膜や下塗り塗膜等が形成されていてもよい。さらに、当該金属板は、本発明の効果を損なわない範囲で、エンボス加工や絞り成形加工等の凹凸加工がなされていてもよい。
【0097】
金属板の厚みは特に制限されず、用途等に応じて適宜選択される。例えば、塗装金属板を金属サイディング材に使用する場合には、金属板の厚みは0.15~0.5mmとすることができる。
【0098】
金属板の表面に上述の金属板用塗料を塗布する方法は特に制限されず、公知の方法から適宜選択することが可能である。金属板用塗料の塗布方法の例には、ロールコート法や、カーテンフロー法、スピンコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法および浸漬引き上げ法が含まれる。これらの中でも、ロールコート法が効率よく、所望の厚みを有する塗膜を得やすいとの観点から好ましい。
【0099】
また、金属板用塗料の硬化方法は、例えば加熱による焼き付け等とすることができる。焼付け処理時の温度は、塗料中の樹脂等の分解を防止しつつ、上述の亜鉛カルボン酸塩触媒を活性化させてシリコーンレジンを硬化させたり、上記含フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂の混合物、もしくは含フッ素モノマーおよび(メタ)アクリル基含有モノマーの共重合体を硬化させたりすることが可能であれば特に制限されない。通常、100~300℃が好ましく、180~300℃がより好ましく、240~280℃がさらに好ましい。焼付け処理時間は特に制限されず、上記と同様の観点から、3~90秒が好ましく、10~70秒がより好ましく、40~60秒がさらに好ましい。
【0100】
また、金属板用塗料の焼き付け時には、短時間で金属板用塗料を硬化させるため、板面風速が0.9m/s以上となるように風を吹き付けてもよい。上述の金属板用塗料中では、シリコーンレジンと他の成分とが水素結合している。そのため、風を吹き付けながら金属板用塗料を硬化させても、シリコーンレジンが蒸発し難く、加熱装置を汚染し難い。
【0101】
ここで、金属板上に形成する塗膜の厚みは、塗装金属板の用途等に応じて適宜選択されるが、通常3~30μmの範囲内である。当該厚みは、焼付け塗膜の比重、およびサンドブラスト等による塗膜除去前後の塗装金属板の重量差から重量法によって求められる値である。塗膜が薄すぎる場合、塗膜の耐久性および隠蔽性が不十分となることがある。一方、塗膜が厚すぎる場合、製造コストが増大するとともに、焼付け時にワキが発生しやすくなることがある。
【0102】
一方、塗膜(硬化後の塗料)をフレーム処理する方法は特に制限されず、通常のフレーム処理方法と同様とすることができる。前述の金属板用塗料から得られる塗膜(硬化膜)をフレーム処理すると、塗膜表面のシリコーンレジンの炭化水素基(例えばメチル基やフェニル基等)が分解されて、シラノール基やシロキサン結合が生じる。これにより、塗膜表面の親水性が高まり、耐雨筋汚れ性が発現する。
【0103】
フレーム処理は、塗膜を形成した金属板を、ベルトコンベア等の搬送機に載置し、一定方向に移動させながら、フレーム処理用バーナーで塗膜に火炎を放射する方法等とすることができる。
【0104】
ここで、フレーム処理量は、30~1000kJ/mであることが好ましく、100~600kJ/mであることがより好ましい。なお、本明細書における「フレーム処理量」とは、LPガス等の燃焼ガスの供給量を基準として計算される塗装金属板の単位面積当たりの熱量である。当該フレーム処理量は、フレーム処理用バーナーのバーナーヘッドと塗膜表面との距離、塗膜の搬送速度等によって調整できる。フレーム処理量が30kJ/m未満では、処理にムラが生じることがあり、塗膜表面を一様に親水化することが難しい。一方、フレーム処理量が1000kJ/mを超えると、塗膜が酸化して黄変することがある。
【0105】
また、フレーム処理前に、塗膜表面を40℃以上に加熱する予熱処理を行ってもよい。熱伝導率が高い金属板(例えば、熱伝導率が10W/mK以上の金属板)表面に形成された塗膜に、火炎を照射すると、燃焼性ガスの燃焼によって生じた水蒸気が冷やされて水となり、一時的に塗膜の表面に溜まる。そして、当該水がフレーム処理時のエネルギーを吸収して水蒸気となることで、フレーム処理が阻害されることがある。これに対し、塗膜表面(金属板)を予め加熱しておくことで、火炎照射時の水の発生を抑えることができる。
【0106】
塗膜を予熱する手段は特に限定されず、一般に乾燥炉と呼ばれる加熱装置を使用することができる。例えば、バッチ式の乾燥炉(「金庫炉」とも称する。)を使用することができ、その具体例には、いすゞ製作所社製低温恒温器(型式 ミニカタリーナ MRLV-11)、東上熱学社製自動排出型乾燥器(型式 ATO-101)、および東上熱学社製簡易防爆仕様乾燥器(型式 TNAT-1000)等が含まれる。
【実施例
【0107】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されない。
【0108】
1.金属板用塗料の調製
以下の方法により、金属板用塗料を調製した。
【0109】
1-1.材料
各実施例および比較例において以下の樹脂成分、触媒、シリコーンレジン、オルガノシリケートを用いた。
【0110】
[樹脂成分]
・ポリフッ化ビニリデン樹脂100質量部と熱可塑性アクリル樹脂43質量部とを混合した組成物(ディックフロー-C:DIC社製)
・フルオロオレフィンとアクリル酸エステルの共重合物(ザフロン:東亞合成株式会社製)
【0111】
[触媒]
・ビス(2-エチルヘキサン酸)亜鉛
・カプロン酸亜鉛
・オレイン酸亜鉛
・ブロックスルホン酸触媒(pH7.0):下記化学式で表される構造を有する、パラトルエンスルホン酸エステル
【化6】
(R11は、平均炭素数10.4の分岐アルキル鎖を表す)
【0112】
[シリコーンレジン]
シリコーンレジンは、以下のように調製した。
・メチル系シリコーンレジンAの調製
2Lのフラスコにメチルトリメトキシシラン408g(3.0モル)を仕込み、10℃以下で水800gを加え、よく混合させた。次いで氷冷下、0.05Nの塩酸水溶液216g(12.0モル)を5℃で、40分間かけて滴下した。滴下終了後、10℃で6時間攪拌し、加水分解および脱水縮合を完了させた。これにより、メチル系シリコーンレジンAを含む調製液を得た。その後、当該調製液から、加水分解によって生成したメタノールを、70℃、60mmHgで1時間減圧留去した。メタノール留去後の調製液は白濁しており、一晩静置することで、2層に分離した。下層は、水に不溶となって沈降したシリコーンレジンである。当該調製液に、メチルイソブチルケトン(MIBK)469gを加え、室温で1時間攪拌した。これにより、沈降したシリコーンレジンを完全にMIBKに溶解させた。そして、当該調製液を静置し、水層とMIBK層とを分離させた。その後、コック付きフラスコにて下層の水層を取り除き、固形分が50質量%、かつ無色透明のシリコーンレジン溶液を得た。シリコーンレジンAの重量平均分子量、分子量分布、T単位(3官能シリコーンレジン由来の構造)/D単位(2官能シリコーンレジン由来の構造)、およびSi原子量に対するシラノール基量を表1に示す。なお、重量平均分子量および分子量分布は、GPC分析により特定した。さらに、T単位/D単位およびシラノール基量は、29Si-NMRおよびH-NMR分析により特定した。
【0113】
・メチル系シリコーンレジンBの合成
2Lのフラスコにメチルトリメトキシシラン286g(2.1モル)およびジメチルジメトキシシラン108g(0.9モル)を仕込み、10℃以下で水800gを加え、よく混合させた。次いで、氷冷下、0.05Nの塩酸水溶液198g(11.0モル)を5~25℃で20分間かけて滴下した。滴下終了後、15℃で6時間攪拌して加水分解および脱水縮合を行った。滴下終了後、メチル系シリコーンレジンAの合成と同様の操作を行い、固形分約50質量%のメチル系シリコーンレジンBを含むシリコーンレジン溶液を得た。シリコーンレジンBの重量平均分子量、分子量分布、T単位/D単位、およびSi原子量に対するシラノール基量を表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
・メチル/フェニル系シリコーンレジンCの合成
2Lのフラスコにメチルトリメトキシシラン272g(2.0モル)とフェニルトリメトキシシラン119g(1.0モル)とを仕込み、10℃以下で水800gを加え、よく混合させた。次いで、氷冷下、0.05Nの塩酸水溶液198g(11.0モル)を5~25℃で30分間かけて滴下した。滴下終了後、10℃で6時間攪拌し、加水分解および脱水縮合を完了させた。滴下終了後、メチル系シリコーンレジンAの合成と同様の操作を行い、固形分約50質量%のメチル/フェニル系シリコーンレジンCを含む調製液を得た。シリコーンレジンCの重量平均分子量、分子量分布、T単位/D単位、メチル基とフェニル基との含有比(メチル/フェニル)、およびSi原子量に対するシラノール基量を表2に示す。
【0116】
・メチル/フェニル系シリコーンレジンDの合成
2Lのフラスコにメチルトリメトキシシラン109g(0.8モル)、フェニルトリメトキシシラン198g(1.0モル)、およびジメチルジメトキシシラン144g(1.2モル)を仕込み、10℃以下で水800gを加え、よく混合させた。次いで、氷冷下、0.05Nの塩酸水溶液216g(12.0モル)を5~25℃で40分間かけて滴下し、10℃で6時間攪拌して加水分解および脱水縮合を完了させた。滴下終了後、メチル系シリコーンレジンAの合成と同様の操作を行い、固形分約50質量%のメチル/フェニル系シリコーンレジンDを含むシリコーンレジン溶液を得た。シリコーンレジンDの重量平均分子量、分子量分布、T単位/D単位、メチル基とフェニル基との含有比(メチル/フェニル)、およびSi原子量に対するシラノール基量を表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
[オルガノシリケート]
オルガノシリケートは、以下のものを用いた。
・メチルシリケートE(テトラメトキシシランの縮合物):メチルシリケート53A、コルコート社製、重量平均分子量(Mw) 840、数平均分子量(Mn) 610、Mw/Mn=1.4
・エチルシリケートF(テトラエトキシシランの縮合物):エチルシリケート48、コルコート社製、重量平均分子量(Mw) 1300、数平均分子量(Mn) 850、Mw/Mn=1.5
【0119】
1-2.調製
樹脂成分(ポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂との混合物)に、塗料の固形分量に対してそれぞれ、平均粒径0.28μmの酸化チタン((顔料)、テイカ社製、JR-603)が45質量%、平均粒径5.5μmの疎水性シリカA(富士シリシア化学社製、サイシリア456)が4質量%、平均粒径12μmの疎水性シリカB(富士シリシア化学社製、サイリシア476)が3質量%となるように添加した。さらに、表3に示す触媒を、金属板用塗料の固形分量に対して0.30質量%となるように添加した。なお、ブロックスルホン酸触媒については、ブロック基が脱離した後のスルホン酸量が、金属板用塗料の固形分量に対して1.0質量%となるように添加した。
【0120】
さらに、表3に示すように、メチル系シリコーンレジン、メチル/フェニル系シリコーンレジン、メチルシリケート、またはエチルシリケートを、それぞれ塗料の固形分量に対して5質量%となるように添加した。さらに、メチルシリケートまたはエチルシリケートを添加した金属板用塗料については、オルトギ酸トリエチルを、金属板用塗料の固形分量に対して5質量%となるように添加した。
【0121】
2.評価
上記金属板用塗料を用いて、以下のように塗装金属板を作製し、評価を行った。結果を表3に示す。
【0122】
2-1.金属板の準備
板厚0.27mm、A4サイズ(210mm×297mm)、片面当りめっき付着量90g/mの溶融Zn-55%Al合金めっき鋼板を金属板として準備し、表面をアルカリ脱脂した。その後、当該表面に、塗布型クロメート処理液(日本ペイント社製 NRC300NS)を、Crの付着量が50mg/mとなるように塗布した。さらに、エポキシ樹脂系プライマー塗料(日本ファインコーティングス社製 800P)を、硬化膜厚が5μmとなるようにロールコーターで塗布した。続いて、金属板の最高到達板温215℃となるように焼き付け、プライマー塗膜を形成しためっき鋼板(以下、単に「めっき鋼板」とも称する)を得た。
【0123】
2-2.塗料の塗布および硬化
上述のように調製した金属板用塗料を、40℃の恒温室中で15日間保存した後に、硬化膜厚が20μmとなるように上述のめっき鋼板にロールコーターで塗布した。その後、最高到達板温260℃、板面風速0.9m/sで60秒間焼き付けた。
【0124】
2-3.フレーム処理
実施例1~16、および比較例1~4の金属板用塗料を塗布した塗膜については、以下の方法でフレーム処理を行った。なお、比較例5および6については、フレーム処理を行わなかった。
フレーム処理用バーナーには、Flynn Burner社(米国)製のF-3000を使用した。また、燃焼性ガスには、LPガス(燃焼ガス)と、クリーンドライエアーとを、ガスミキサーで混合した混合ガス(LPガス:クリーンドライエアー(体積比)=1:25)を使用した。また、各ガスの流量は、バーナーの炎口の1cmに対してLPガス(燃焼ガス)が1.67L/分、クリーンドライエアーが41.7L/分となるように調整した。なお、塗膜の搬送方向のバーナーヘッドの炎口の長さは4mmとした。一方、バーナーヘッドの炎口の搬送方向と垂直方向の長さは、450mmとした。さらに、バーナーヘッドの炎口と塗膜表面との距離は、所望のフレーム処理量に応じて20mmとした。さらに、塗膜の搬送速度を24m/分とすることで、フレーム処理量を265kJ/mに調整した。
【0125】
2-4.塗膜の黄変
塗膜の黄変については、得られた塗装金属板について、ハンターLab表色系におけるb値を測定し、当該b値で評価した。b値の測定は、コニカミノルタオプティクス株式会社製「CM3700d」で行った。塗膜の黄変は、触媒添加なしの塗膜の色を基準とし、当該塗膜の色からの変化度合(Δb値)で評価した。より具体的には、以下の基準で評価した。
○:Δb値が0.5未満
×:Δb値が0.5以上
【0126】
2-5.金属板用塗料の貯蔵安定性評価
各金属板用塗料を40℃の恒温室中で保存し、15日後、1ヵ月後、3ヵ月後、および6ヵ月後の塗料粘度をB型粘度計で測定した。そして、保存前後の粘度を比較し、以下の基準で評価した。
◎:恒温室保存前後で塗料粘度上昇率が30%未満
○:恒温室保存前後で塗料粘度上昇率が30%以上、100%未満
△:恒温室保存前後で塗料粘度上昇率が100%以上
×:ゲル化が生じた
なお、△、○、◎を合格とした。
【0127】
2-6.対水接触角の測定
実施例および比較例で調製した塗料を用いて作製した塗装金属板の塗膜表面の対水接触角を測定した。測定は気温23±2℃、相対湿度50±5%の恒温恒湿度室で0.01ccの精製水の水滴を形成して、協和界面科学社製の接触角計DM901を使用して測定した。
【0128】
2-7.耐雨筋汚れ性の評価
耐雨筋汚れ性は、以下のように評価した。
まず、垂直暴露台に上述の塗装金属板をそれぞれ取り付けた。さらに、当該塗装金属板の上部に、地面に対して角度20°となるように、波板を取り付けた。このとき、雨水が塗装金属板表面を筋状に流れるように、波板を設置した。この状態で、屋外暴露試験を6ヶ月間行い、汚れの付着状態を観察した。耐雨筋汚れ性の評価は、暴露前後の塗装金属板の明度差(ΔL)で、以下のように評価した。
◎:ΔLが1未満であった(雨筋汚れが全く視認できない)
〇:ΔLが1未満であった(雨筋汚れがほとんど視認できない)
×:ΔLが1以上2未満であった(雨筋汚れは目立たないが視認できる)
××:ΔLが2以上であった(汚れが目立つ)
なお、○、◎を合格とした。
【0129】
【表3】
【0130】
表3に示されるように、シリコーンレジンの硬化触媒として、亜鉛カルボン酸塩触媒を用いた場合には、いずれの金属板用塗料においても、塗膜の黄変が生じず、貯蔵安定性についても、3ヵ月間安定であった(実施例1~16)。
【0131】
これに対し、メチルシリケートまたはエチルシリケートを含む金属板用塗料では、15日後には粘度が高くなり、1ヵ月後には、殆どがゲル化した(比較例5~8)。
【0132】
一方、シリコーンレジンを含む金属板用塗料であっても、硬化触媒として、ブロックスルホン酸触媒を用いた場合には、貯蔵安定性は良好であったものの、塗膜に黄変が生じた(比較例1~4)。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の金属板用塗料によれば、塗膜に黄変が生じ難い。さらに、当該金属板用塗料は、貯蔵安定性が非常に良好である。さらに、当該金属板用塗料によれば、雨筋汚れが生じ難く、かつ耐傷付き性の高い塗装金属板が得られる。したがって、当該金属板用塗料は、各種建築物の外装建材等を製造するための塗料として、非常に有用である。