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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】調光シートの管理方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20240723BHJP
   G02F 1/1334 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1334
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019121808
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021009187
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安原 寿二
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄大
【審査官】植田 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109307966(CN,A)
【文献】特開2017-223950(JP,A)
【文献】特開平02-310522(JP,A)
【文献】特許第6493598(JP,B1)
【文献】特開平05-107562(JP,A)
【文献】実公平06-026891(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1334
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調光シートの管理方法であって、
前記調光シートは、
透明状態と不透明状態とに変わる調光層と、
前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備え、
前記調光層は、
複数のドメインを有した透明高分子層と、
前記ドメインを埋める液晶組成物と、を備え、
前記調光層が正常であるか否かを判定することを含み、
前記調光層が正常であると判定する条件に、前記調光層における液晶組成物の濃度が37%以上55%以下であり、前記ドメインの平均サイズが1.0μm以上1.55μm以下であることを含む
調光シートの管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光シート、調光装置、および、調光シートの管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、高分子層のなかに液晶組成物を含む。調光シートは、高分子層に印加される電圧が変わることに応じて透明と不透明とに変わる。(例えば、特許文献1を参照)。調光シートの型式は、ノーマル型とリバース型とに分類される。ノーマル型の調光シートは、非通電時に不透明であり、通電時に透明である。リバース型の調光シートは、非通電時に透明であり、通電時に不透明である(例えば、特許文献2を参照)。
【0003】
調光シートの不透明さを示す物性値として、ヘイズ(JIS K 7136:2000)、透過像鮮明度(JIS K 7374:2007)、および、クラリティが知られている(例えば、特許文献3、4を参照)。特に、不透明さのなかでも、調光シートを通して物体の輪郭を把握できるか否かは、透過像鮮明度、あるいは、クラリティによる判別が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-091986号公報
【文献】特開2000-321562号公報
【文献】特開2018-031870号公報
【文献】特許第6493598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
透過像鮮明度、および、クラリティは、調光シートで生じる狭角散乱の度合いに大きな影響を受けるが、高分子層が備える構成要素によってどのように依存するかが定かであるとは言えない。調光シートが実装された調光装置では、透過像鮮明度、および、クラリティに所定値が求められるため、所定の不透明さが得られるように、調光シートに印加される電圧の調整が専ら行われる。例えば、空間内に存在する人物のプライバシーが保護されるように、クラリティーを80%以下とするべく、空間を区画する一方の調光シートには、所定電圧による駆動が設定される一方で、同空間を区画する他方の調光シートには、所定電圧よりも高い電圧による駆動が設定される。しかし、印加電圧の変更による不透明さの調整は、駆動装置の複雑化、および、初期設定の煩雑化を招くと共に、調光装置の消費電力にも大きなばらつきを生じさせている。
【0006】
本発明は、調光シートが有する不透明さのばらつきを抑制可能とした調光シート、および、調光装置、および、調光シートの管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための調光シートは、透明状態と不透明状態とに変更可能に構成された調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備え、前記調光層は、複数のドメインを有した透明高分子層と、各ドメインを埋める液晶組成物と、を備え、前記調光層における液晶組成物の濃度が37%以上55%以下であり、かつ、前記ドメインの平均サイズが1.0μm以上1.55μm以下である。
【0008】
本発明者らは、液晶組成物の濃度が37%以上55%以下である場合において、ドメインの平均サイズの減少が、透過像鮮明度、および、クラリティに極小値を与えること、を見出した。すなわち、本発明者らは、ドメインの平均サイズが1.0μm以上1.55μm以下である範囲のなかの中央付近に、透過像鮮明度、および、クラリティの極小値が存すること、を見出した。
【0009】
ここで、調光層に存するドメインごとの液晶組成物は、調光シートの不透明さに寄与する要素である。液晶組成物の濃度が37%以上55%以下であり、かつ、ドメインの平均サイズが1.0μm以上1.55μm以下である調光シートであれば、不透明さに寄与する要素のサイズ、および、単位体積あたりに存する要素の数量が、およそ特定される。そして、ドメインの平均サイズの範囲である1.0μm以上1.55μm以下のなかの中央付近においては、透過像鮮明度、および、クラリティの値が、極小値を有する。これらにより、仮に、ドメインの大きさがばらつきを有したとしても、所定の不透明さを実現する条件のなかに、数多くのドメインを分布させやすい。そして、所定の不透明さは、観測対象の輪郭を視覚認識不能とするような不透明さである。結果として、観測対象の輪郭が視覚認識不能となるような不透明さを得ること、および、その不透明さのばらつきを抑制することが可能となる。
【0010】
上記調光シートにおいて、前記調光層が前記不透明状態であるときに、前記調光シートのクラリティ(clarity)が71%以下であり、前記クラリティは、前記調光シートを透過した光のなかで、前記調光シートに入射した平行光の光軸に沿って直進する直進光の光量を光量LCとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量LRとするときに、100×(LC-LR)/(LC+LR)によって算出される。
【0011】
上記調光シートにおいて、JIS K 7374:2007に準拠した透過像鮮明度であって、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度が、前記調光シートの透過像鮮明度であり、前記調光層が前記不透明状態であるときに、前記調光シートの透過像鮮明度が47%以下である。
【0012】
上記調光シートにおいて、前記調光層は、前記透明高分子層の間に電圧が印加されているときに不透明状態であってもよい。この調光シートによれば、調光シートが有する不透明さのばらつきが抑制される分だけ、印加電圧の変更による不透明さの調整、ひいては、駆動装置の複雑化、初期設定の煩雑化、および、調光装置の消費電力におけるばらつきを抑制することができる。
【0013】
上記課題を解決するための調光装置は、上述した調光シートと、前記調光シートを駆動する駆動回路と、を備える。
上記課題を解決するための調光シートの管理方法は、調光シートの管理方法であって、前記調光シートは、透明状態と不透明状態とに変わる調光層と、前記調光層を挟む一対の透明電極層と、を備え、前記調光層は、複数のドメインを有した透明高分子層と、前記ドメインを埋める液晶組成物と、を備え、前記調光層が正常であるか否かを判定することを含み、前記調光層が正常であると判定する条件に、前記調光層における液晶組成物の濃度が37%以上55%以下であり、前記ドメインの平均サイズが1.0μm以上1.55μm以下であることを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る調光シート、調光装置、および、調光シートの管理方法によれば、調光シートが有する不透明さのばらつきを抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電圧が印加されていないときのノーマル型の調光シートを示す断面図。
図2】電圧が印加されているときのノーマル型の調光シートを示す断面図。
図3】電圧が印加されていないときのリバース型の調光シートを示す断面図。
図4】電圧が印加されているときのリバース型の調光シートを示す断面図。
図5】透過像鮮明度の測定装置を模式的に示す装置構成図。
図6】透過像鮮明度の測定装置における透過光量と受光位置との関係を示すグラフ。
図7】クラリティの測定装置を模式的に示す装置構成図。
図8】ヘイズ、透過像鮮明度、および、クラリティと目視順位との関係を示すグラフ。
図9】(a)(b)(c)(d)(e)調光シートの透過画像の一例を示す図。
図10】ドメインの平均サイズとクラリティとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1から図10を参照して、調光シート、調光装置、および、調光シートの管理方法の一実施形態を説明する。本実施形態では、調光シートを挟んで観測点とは反対側に存在する物体を観測対象と表す。観測対象は、例えば、人物などの動体、および、装置や置物などの静体を含む。
【0017】
[調光シート]
調光シートは、例えば、車両や航空機などの移動体が備える窓に取り付けられる。また、調光シートは、例えば、住宅、駅、空港などの各種の建物が備える窓、オフィスに設置されたパーティション、店舗に設置されたショーウインドウなどに取り付けられる。また、調光シートは、映像を投影するスクリーンなどに用いられる。
【0018】
調光シートの形状は、平面状であってもよいし、曲面状であってもよい。調光シートの形状は、調光シートが取り付けられる対象の形状に追従した形状であってもよいし、調光シートが取り付けられる対象とは異なる形状であってもよい。調光シートの型式は、ノーマル型であってもよいし、リバース型であってもよい。
【0019】
図1、および、図2を参照して、ノーマル型の調光シート、および、ノーマル型の調光シートを備えた調光装置を説明する。図1は、ノーマル型の調光シートが不透明状態であるときの調光シートの断面構造を示し、図2は、ノーマル型の調光シートが透明状態であるときの調光シートの断面構造を示す。
【0020】
図1が示すように、ノーマル型の調光シート10は、調光層11と、一対の透明電極層12とを備える。調光層11は、複数のドメインを有した透明高分子層と、各ドメインを埋める液晶組成物とを備える。
【0021】
液晶組成物の保持型式は、ポリマーネットワーク型、高分子分散型、カプセル型からなる群から選択されるいずれか一種である。ポリマーネットワーク型は、3次元の網目状を有したポリマーネットワークを備える。ポリマーネットワークは、相互に連通した網目状の空隙のなかに液晶組成物を保持する。高分子分散型は、孤立した多数の空隙を区画する高分子層を備え、高分子層に分散した空隙のなかに液晶組成物を保持する。カプセル型は、カプセル状を有した液晶組成物を高分子層のなかに保持する。
【0022】
ドメインは、ポリマーネットワークが形成する空隙、高分子層のなかに分散した孤立する空隙、あるいは、高分子層のなかに分散したカプセルである。ドメインは、透明高分子に囲まれた空隙であってもよいし、隣接する他のドメインと繋がる空隙であってもよい。なお、図1から図4に示す調光シートは、保持形式がポリマーネットワーク型である例を示す。
【0023】
図1が示すように、調光層11は、透明高分子層の一例であるポリマーネットワーク11Aと、液晶組成物11Bとを備える。ポリマーネットワーク11Aは、複数のドメイン11Dを区画する。ドメイン11Dは、隣接する他のドメイン11Dと繋がる空隙である。調光層11は、例えば、塗膜に対する紫外線の照射によって形成される。塗膜は、ポリマーネットワーク11Aを形成するための紫外線重合性化合物と、液晶組成物11Bとの混合物である。
【0024】
ポリマーネットワーク11Aは、紫外線重合性化合物の重合体である。ポリマーネットワーク11Aは、調光層11の厚みを保つためのスペーサを含んでもよい。スペーサは、例えば、ガラス粒子、あるいは、樹脂粒子であって、調光層11が有する色と同じ色を有することが好ましい。
【0025】
液晶組成物11Bは、複数の液晶分子11BLを含む。液晶組成物11Bは、ドメイン11Dを充填する。液晶分子11BLは、例えば、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ジオキサン系からなる群から選択される一種である。液晶組成物11Bの主成分は、液晶分子11BLである。
【0026】
液晶組成物11Bにおける主成分の重量濃度は、液晶組成物11Bに対して80%以上である。液晶組成物11Bは、主成分以外の成分として、二色性色素、耐候剤、および、調光層11の形成に際して混入する不可避成分を含んでもよい。耐候剤は、液晶組成物11Bの劣化を抑制するための紫外線吸収剤、あるいは、光安定剤である。不可避成分は、例えば、ポリマーネットワーク11Aの形成に用いられる紫外線重合性化合物の未反応成分である。
【0027】
調光シート10の断面構造において、ドメイン11Dが円形状である場合、ドメインサイズは、ドメイン11Dの直径である。調光シート10の断面構造において、ドメイン11Dの断面構造が楕円形状である場合、ドメインサイズは、ドメイン11Dの長径である。調光シート10の断面構造において、ドメイン11Dが不定形である場合、ドメインサイズは、ドメイン11Dに外接する円の直径である。ドメインの平均サイズは、ドメインサイズの平均値である。
【0028】
一対の透明電極層12は、調光層11の厚さ方向において、調光層11を挟む。各透明電極層12は、可視光領域の光を透過する。各透明電極層12を構成する材料は、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選択されるいずれか一種である。
【0029】
調光シート10は、一対の透明基材13を備える。一対の透明基材13は、調光層11の厚さ方向において、一対の透明電極層12を挟む。各透明基材13は、可視光領域の光を透過する。各透明基材13を構成する材料は、例えば、透明ガラスや透明合成樹脂などである。
【0030】
調光層11は、透明状態と不透明状態とを有する。調光層11は、液晶分子11BLの配向を変える電圧の印加に応じて、液晶分子11BLの配向を変える。調光層11は、液晶分子11BLの配向の変化に基づいて、透明状態と不透明状態とに切り替わる。調光層11の透明状態は、観測対象の輪郭を、調光シート10を通して視覚認識可能とする状態である。調光層11の不透明状態は、観測対象の輪郭を、調光シート10を通して視覚認識不能とする状態である。
【0031】
図1の調光シート10は、配向を変える電圧が印加されていない状態を示す。配向を変える電圧が調光層11に印加されていないとき、各ドメイン11Dに位置する液晶分子11BLの配向方向はランダムである。そして、一対の透明基材13のいずれかから調光シート10に入射した光は、調光層11において様々な方向に散乱される。結果として、ノーマル型の調光層11は、電圧が印加されていないときに、濁った状態である不透明状態となる。不透明状態の調光層11は、白色に濁った状態であってもよいし、調光層11が色素を有して有色に濁った状態であってもよい。
【0032】
調光層11が不透明状態であるときに、JIS K 7374:2007に準拠した調光シート10の透過像鮮明度は、47%以下である。透過像鮮明度は、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度である。調光シート10の透過像鮮明度が47%以下であれば、観測対象の輪郭を、調光シート10を通して十分に視覚認識不能にできる。
【0033】
調光層11が不透明状態であるときに、調光シート10のクラリティ(clarity)の値が、71%以下である。これにより、調光シート10の透過像鮮明度が47%以下である場合と同等の効果を得ることができる。
【0034】
調光層11が不透明状態であるときに、JIS K 7136:2000に準拠した調光シートのヘイズ(haze)が95%以上であることが好ましい。これにより、観測対象の輪郭を視覚認識不能にできることに加え、観測対象の存否を視覚認識不能にできる。
【0035】
図2が示すように、液晶分子11BLの配向を変える電圧が駆動回路10Dから調光層11に印加されると、複数の液晶分子11BLの配向がランダムな配向から光を透過する方向に変わる。例えば、各液晶分子11BLは、調光層11が広がる平面に対して、液晶分子11BLの長軸がほぼ垂直であるように、配向を変える。そして、一対の透明基材13のいずれかから調光シート10に入射した光は、調光層11においてほぼ散乱されることなく、調光層11を透過する。結果として、ノーマル型の調光層11は、電圧が印加されるときに、透明状態となる。
【0036】
図3、および、図4を参照して、リバース型の調光シート、および、それを備えた調光装置を説明する。図3は、リバース型の調光層11が透明状態であるときの断面構造を示し、図4は、リバース型の調光層11が不透明状態であるときの断面構造を示す。
【0037】
図3が示すように、リバース型の調光シート20は、調光層11、一対の透明電極層12、および、一対の透明基材13に加えて、一対の配向層21を備える。一対の配向層21は、調光層11の厚さ方向において調光層11を挟み、かつ、調光層11の厚さ方向において一対の透明電極層12よりも中央部寄りに位置している。
【0038】
一方の配向層21は、調光層11と一方の透明電極層12との間に位置して、液晶分子11BLに配向規制力を加える。他方の配向層21は、調光層11と他方の透明電極層12との間に位置して、液晶分子11BLに配向規制力を加える。配向層21を構成する材料は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、シアン化化合物等の有機化合物、シリコーン、シリコン酸化物、酸化ジルコニウムなどの無機化合物、または、これらの混合物により構成されている。
【0039】
各配向層21が垂直配向層である場合、液晶分子11BLの配向を変える電圧が調光層11に印加されていないとき、各ドメイン11Dに位置する液晶分子11BLの配向方向は、垂直配向である。そして、一対の透明基材13のいずれかから調光シート20に入射した光は、調光層11においてほぼ散乱されることなく、調光層11を透過する。結果として、リバース型の調光層11は、液晶分子11BLの配向を変える電圧が印加されていないときに、透明状態となる。
【0040】
図4が示すように、液晶分子11BLの配向を変える電圧が駆動回路10Dから調光層11に印加されるとき、複数の液晶分子11BLの配向は、例えば、垂直配向から水平配向に変わる。このとき、各液晶分子11BLは、液晶分子11BLの長軸が、調光層11が広がる平面に沿って延びるように、ドメイン11Dに位置する。そして、一対の透明基材13のいずれかから調光シート20に入射した光は、調光層11によって散乱される。結果として、リバース型の調光層11は、液晶分子11BLの配向を変える電圧が印加されるときに、不透明状態となる。
【0041】
リバース型の調光シート20においても、透過像鮮明度の値、および、クラリティの値は、ノーマル型の調光シート10と同様である。すなわち、調光層11が不透明状態であるときに、調光シート20の透過像鮮明度であって、JIS K 7374:2007に準拠し、かつ、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度は、47%以下である。また、調光層11が不透明状態であるときに、調光シート20のクラリティの値は、71%以下である。なお、調光層11が不透明状態であるときに、JIS K 7136:2000に準拠した調光シート20のヘイズ(haze)が、95%以上であることが好ましい。
【0042】
ここで、透過像鮮明度の値、および、クラリティの値は、調光シート10,20で生じる狭角散乱の度合いに大きな影響を受けるが、上述したように、調光層11が備える構成要素によってどのように依存するかが定かであるとは言えない。
【0043】
一方、透過像鮮明度の値、および、クラリティの値は、ノーマル型の調光層11において、印加される電圧が低いほど低い、という傾向を有する。また、透過像鮮明度の値、および、クラリティの値は、リバース型の調光層11において、印加される電圧が高いほど低い、という傾向を有する。調光シート10,20が実装された調光装置は、透過像鮮明度、および、クラリティに所定値が求められるため、所定の不透明さが得られるように、調光シート10,20に印加される電圧の調整が専ら行われる。しかし、印加電圧の変更によって不透明さを調整することは、駆動回路10Dの複雑化、および、駆動回路10Dにおける初期設定の煩雑化を招くと共に、調光装置の消費電力にも大きなばらつきを生じさせている。
【0044】
この点、本発明者らは、液晶組成物の濃度が所定範囲内である場合において、ドメインの平均サイズの減少が、透過像鮮明度、および、クラリティに極小値を与えること、を見出した。すなわち、本発明者らは、下記条件1が満たされる場合に、下記条件2が示す平均サイズの範囲のなかの中央付近に、透過像鮮明度、および、クラリティの極小値を存すること、を見出した。本実施形態の調光シート10,20は、下記条件1,2を満たす。
(条件1)液晶組成物の濃度が、37%以上55%以下である。
(条件2)ドメインの平均サイズが、1.0μm以上1.55μm以下である。
【0045】
液晶組成物の濃度は、調光層11の重量に対する液晶組成物11Bの重量の比率である。液晶組成物の濃度は、調光層11に対する液晶分子11BLの配合比にほぼ相当するパラメータである。液晶組成物の濃度は、調光シート10,20の不透明さに寄与する要素の密度に関わるパラメータである。調光シート10,20の不透明さに寄与する要素は、1つのドメイン11Dを埋める一纏まりの液晶組成物11Bである。
【0046】
条件1,2を満たす調光シート10,20における調光シート10,20の不透明さに寄与する要素に関して、単位体積あたりに存する要素の数量、および、要素のサイズをおよそ特定することができる。なお、液晶組成物の濃度が37%以上であれば、透明状態と不透明状態とのコントラストを十分に得ることができる。また、液晶組成物の濃度が55%以下であれば、ポリマーネットワーク11Aを形成するためのモノマーに液晶組成物を十分に溶解させることが可能ともなる。加えて、条件2における平均サイズの範囲のなかの中央付近においては、透過像鮮明度、および、クラリティが、極小値を有する。そのため、仮に、ドメイン11Dの大きさがばらつきを有したとしても、上述した不透明さを実現する条件のなかに、数多くのドメイン11Dを分布させやすい。不透明さを実現する条件は、単位体積あたりのドメイン11Dの数量、および、ドメイン11Dの平均サイズである。これにより、調光シート10,20が有する不透明さに、観測対象の輪郭が視覚認識不能となるような不透明さを得ること、および、その不透明さのばらつきを抑制することが可能となる。そして、観測対象の輪郭を視覚認識不能とするような不透明さを得るための電圧の調整、ひいては、駆動回路10Dの複雑化、および、駆動回路10Dにおける初期設定の煩雑化を抑えることが可能となる。また、調光シート10,20に印加される電圧の均一化を図ることが可能ともなるため、調光装置の消費電力にばらつきが生じることも抑えられる。
【0047】
[透過像鮮明度]
次に、図5、および、図6を参照して、不透明状態における透過像鮮明度の測定方法を説明する。上述したように、透過像鮮明度は、JIS K 7374:2000に準拠する方法によって測定される値である。なお、ノーマル型の調光シート10では、調光層11に電圧が印加されていない状態を不透明状態とする。また、リバース型の調光シート20では、調光層11に所定の基準電圧が印加された状態を不透明状態とする。
【0048】
図5が示すように、透過像鮮明度の測定装置30は、光源31、光学くし32、および、受光部33を備える。測定装置30において、測定対象である調光シート10,20は、光源31と光学くし32との間に配置される。透過像鮮明度の測定時において、光学くし32は、光源31、調光シート、および、光学くし32が並ぶ方向と直交する平面に沿って、一定の速度で移動する。光学くし32では、光を遮蔽する遮蔽部32aにおいて、光学くし32の移動方向に沿う幅が、光学くし目幅である。光学くし32では、光学くし32が移動する方向において、遮蔽部32aの幅とスリットの幅とが互いに等しい。本実施形態において、光学くし目幅は0.125mmである。
【0049】
図6が示すように、光学くし32を透過する光量、言い換えれば、受光部33が受光する光量は、周期的に変化する。受光部33が受光する光量の最大値は、最高光量Mであり、光量の最小値は、最低光量MBである。最高光量Mは、調光シート10,20を透過した光が光学くし32によって遮蔽されなかったときに得られる光量である。最低光量MBは、調光シート10,20を透過した光が光学くし32によって遮蔽されたときに得られる光量である。
光学くし目幅がnであるときの透過像鮮明度C(n)(%)は、最高光量Mおよび最低光量MBを用いて、以下の式(1)によって算出することができる。
C(n) =100×(M-MB)/(M+MB) … 式(1)
【0050】
[クラリティ]
次に、図7を参照して、不透明状態におけるクラリティの測定方法を説明する。図7は、クラリティの測定に用いられる測定装置の一例を模式的に示している。なお、ノーマル型の調光シート10では、調光層11に電圧が印加されていない状態を不透明状態とする。また、リバース型の調光シート20では、調光層11に所定の基準電圧が印加された状態を不透明状態とする。
【0051】
図7が示すように、クラリティの測定装置40は、照射部41、受光部42、および、積分球43を備える。照射部41は、光源41Aとレンズ41Bとを備える。光源41Aは白色LEDであり、レンズ41Bは、光源41Aが放出した光を平行光に変換する。受光部42は、中央センサー42Cと、外周センサー42Rとを備える。中央センサー42Cおよび外周センサー42Rは、互いの中心軸を同一とする環状を有する。外周センサー42Rは、中央センサー42Cの外側に位置している。なお、測定装置40は、測定対象のクラリティを測定だけでなく、ヘイズの測定にも用いることが可能である。測定装置40の積分球43は、ヘイズの測定時にのみ用いられる。
【0052】
測定装置40において、測定対象である調光シート10,20は、照射部41と積分球43との間に配置される。レンズ41Bから射出された平行光LPの光束における直径は、本実施形態では14mmである。調光シート10,20を透過した光には、調光層11に入射した平行光LPの光軸に沿って直進する直進光LSと、平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°以内であって直進光LSを除く狭角散乱光LNSとが含まれる。直進光LSが平行光LPの光軸と形成する角度の範囲は、例えば、調光シート10,20が存しない状態で平行光LPが進行する範囲内であって実質的に0°であるように、測定装置40の仕様によって定められる。
【0053】
受光部42では、中央センサー42Cが直進光LSを受光し、外周センサー42Rが狭角散乱光LNSを受光する。調光層11を透過した光のなかで、中央センサー42Cが受光した直進光LSの光量が中央光量LCであり、外周センサー42Rが受光した狭角散乱光LNSの光量が外周光量LRである。クラリティの値は、以下の式(2)によって算出される。
100×(LC-LR)/(LC+LR) … 式(2)
【0054】
上述したように、測定装置40を用いて調光シートにおけるヘイズを測定することが可能である。なお、ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠する方法によって測定される。また、測定装置40を用いてヘイズを測定する場合には、積分球43に配置された受光部によって、調光シートを透過した光を受光する。
【0055】
ヘイズは、測定対象を通過する透過光のうち、前方散乱によって入射光から2.5°以上それた透過光の百分率のことである。ヘイズの測定において、上述した平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°未満の光が平行光であり、±2.5°以上の光が広角散乱光である。広角散乱光の透過率を拡散透過率Tdとし、平行光の透過率を平行透過率Tpとし、平行透過率Tpと拡散透過率Tdとの和を全光透過率Ttとする。このとき、ヘイズは、全光透過率Tt中の拡散透過率Tdの割合である。
【0056】
上述したように、測定装置40を用いて、クラリティとヘイズとを測定することは可能ではある。一方、クラリティとヘイズとは、調光シート10,20における、互いに異なる性質を示す。透過像鮮明度とヘイズとは、これもまた、調光シート10,20における、互いに異なる性質を示す。なお、透過像鮮明度とクラリティとは、調光シート10,20において、互いに等しい性質を示し、互換性を有したパラメータである。
【0057】
ヘイズは、広角散乱光に基づく調光シート10,20の性質を示す。ヘイズは、調光シート10,20を目視によって観察した場合に、観察者が知覚する調光シート10,20の全体の濁り度合い、例えば、調光シート10,20の全体の白茶け度合いを示す。例えば、調光シート10,20におけるヘイズが大きいほど、観察者には観測対象がかすんで見える。
【0058】
クラリティは、狭角散乱光に基づく調光シート10,20の性質を示す。クラリティは、観測対象と観測対象以外との境界となる部分、あるいは、観測対象のなかの微小な部分が、どの程度鮮明であるかを示す。例えば、調光シート10,20におけるクラリティの値が小さいほど、調光シート10,20越しの観測対象の輪郭がぼやける、言い換えれば、観測対象の鮮明さが低下する。
【0059】
調光シート10,20における不透明さをヘイズによって定めた場合には、調光シート10,20の濁り度合いは十分であっても、観測対象の輪郭が鮮明である場合もあれば、観測対象の輪郭が不鮮明である場合もある。こうした輪郭のぼやけ度合いの差は、調光シート10,20が観察者によって目視された場合に、不透明さの度合いの違いとして観察者に知覚される。結果として、ヘイズによる不透明さと、視覚によって認識される不透明さとの間に乖離が生じてしまう。
【0060】
一方、調光シート10,20の不透明さをクラリティの範囲によって定めた場合には、クラリティの値が小さいほど、観測対象の輪郭のぼやけ度合いが高まる。結果として、クラリティによる不透明さと、視覚によって認識される不透明さとの間に、乖離が生じることが抑えられる。そして、クラリティの値が上述した範囲内(≦71%)であることによって、観測対象の輪郭における不鮮明さが担保される。このような調光シート10,20は、特に、調光シート10,20から観測対象までの距離が近い場面や、観測対象を照明する光源の照明範囲が狭い、あるいは、観測対象への照射光量が大きい場面での使用に有益である。
【0061】
なお、透過像鮮明度を用いて調光シート10,20の不透明さを評価した場合にも、クラリティを用いて不透明さを評価した場合と同等の効果を得ることができる。すなわち、透過像鮮明度によれば、透過像鮮明度による不透明さと、視覚によって認識される不透明さとの間に乖離が生じることが抑えられる。
【0062】
[ドメインの平均サイズ]
次に、ドメインの平均サイズの測定方法を説明する。
ドメインの平均サイズは、ポリマーネットワーク11Aの断面を電子線走査顕微鏡を用いて観察することによって求められる。ポリマーネットワーク11Aは、一対の透明電極層12に挟まれた状態であって、一対の透明電極層12に挟まれた調光層11から液晶組成物11Bを取り除くことによって得られる。
【0063】
例えば、一辺が10cmである矩形板状のシート片が、調光シート10,20から切り出される。次いで、液晶組成物11Bを溶解し、かつ、ポリマーネットワーク11Aを溶解しないイソプロピルアルコールなどの有機溶媒にシート片が浸積されて、これにより、シート片から液晶組成物11Bが取り除かれる。
【0064】
続いて、液晶組成物11Bが取り除かれたシート片の断面が、電子線走査顕微鏡によって撮像される。この際、シート片の断面のなかから任意に選択される30箇所の矩形領域に対して、拡大倍率が1000倍であるように、電子線走査顕微鏡による画像が得られる。なお、互いに隣り合う2つの矩形領域の間の距離は、少なくとも1mm以上であるように、各矩形領域は選択される。
【0065】
次に、1つの画像のなかから任意に選択される10箇所のドメイン11Dについてドメインサイズを計測し、10箇所のドメインサイズのなかから最大値と最小値とを除いた8箇所のドメインサイズについて平均値を算出し、算出された平均値を1つの画像におけるドメインサイズの代表値とする。そして、30箇所の画像におけるドメインサイズの代表値について平均値を算出し、その算出値をドメインの平均サイズとする。この際、画像のなかで円形状を有したドメイン11Dは、当該ドメイン11Dの直径をドメインサイズとして計測される。画像のなかで楕円形状を有したドメイン11Dは、当該ドメイン11Dの長径をドメインサイズとして計測される。画像のなかで不定形を有したドメイン11Dは、当該ドメイン11Dに外接する円の直径をドメインサイズとして測定される。
【0066】
[調光装置の管理方法]
調光シートの管理方法は、調光シートの製造方法に用いられる。調光シートの管理方法は、調光シートが正常であるか否かの判定を行う。調光シートが正常であると判定する条件は、上記条件1,2を含む。
【0067】
調光シートの製造方法は、条件1を満たすロール状の調光シート、あるいは、条件1を満たす大判の調光シートを製造すること、および、製造された調光シートからシート片を切り出すことを含む。また、調光シートの製造方法は、切り出されたシート片におけるドメインの平均サイズを測定することを含む。そして、調光シートの製造方法は、ドメインの平均サイズが条件2を満たす調光シートを正常であると判定し、かつ、ドメインの平均サイズが条件2を満たさない調光シートを異常であると判定することを含む。
【0068】
この製造方法によれば、調光シートの不透明さを、観測対象の輪郭を視覚認識不能とすることが可能であって、その不透明さが調光シートごとにばらつくことが抑制できる。
【0069】
[目視評価]
次に、不透明状態の調光シートについて、ヘイズ、透過像鮮明度、および、クラリティと、視覚によって認識される不透明さとの関係を説明する。なお、ノーマル型の調光シート10と、リバース型の調光シート20との間では、各パラメータと視覚によって認識される不透明さとの関係に、同様の関係が得られるため、以下では、ノーマル型の調光シート10を用いた評価を説明する。
【0070】
視覚によって認識される不透明さは、不透明状態の調光シートの背面から80cmの位置に光量が約3500lmの蛍光灯LTを配置し、調光シートの前面から20cmの位置から目視によって観察した評価の結果である。観察者の視点、調光シート、および、蛍光灯LTは、同一直線上に位置する。蛍光灯LTが目視によって最も近くされない水準から順に、目視順位を1位、2位、3位、4位、5位と付ける。
【0071】
透過像鮮明度は、写像性測定機(ICM‐1T、スガ試験機(株)製)を用い、かつ、JIS K 7374:2007に準拠した方法での測定値である。ヘイズは、ヘーズメーター(NDH7000SD、日本電色工業(株)製)を用い、かつ、JIS K 7136:2000に準拠した方法での測定値である。クラリティは、ヘイズ・透明性測定器(ヘイズガードi、BYK-Gardner社製)を用いて得られる測定値である。
【0072】
各目視順位におけるヘイズ、透過像鮮明度、および、クラリティの測定値を、図8に示す。各目視順位において調光シート10を観察側から撮像した結果を、図9(a)(b)(c)(d)(e)に示す。
【0073】
図8が示すように、透過像鮮明度の値は、目視順位が高い調光シート10から順に、30.4%、36.5%、42.6%、51.5%、56.2%である。クラリティの値は、目視順位が高い調光シート10から順に、49.0%、64.6%、66.8%、75.8%、81.7%である。このように、透過像鮮明度の値、および、クラリティの値は、目視順位が高いほど低い。
【0074】
図9(a)が示すように、1位の調光シートでは、調光シートのほぼ全面が白色に濁っており、蛍光灯LTの輪郭を視覚認識することが不可能である。図9(b)、および、図9(c)が示すように、2位、および、3位の調光シートでも、調光シートの一部分で白色が薄れてはいるが、蛍光灯LTの輪郭を視覚認識することが不可能である。これに対し、図9(d)、および、図9(e)が示すように、4位、および、5位の調光シートでは、蛍光灯LTの輪郭のなかで一部分を視覚認識することが可能である。特に、図9(e)が示すように、5位の調光シート10では、蛍光灯LTの輪郭のなかで下端縁を視覚認識することが可能である。
【0075】
このように、クラリティ、および、透過像鮮明度は、より高い不透明さが与えられる範囲において、視覚によって認識される不透明さと合致する。そして、透過像鮮明度の値が47%以下であれば、蛍光灯LTの輪郭が視認されない程度の十分な不透明さが得られる。クラリティの値が71%以下であれば、蛍光灯LTの輪郭が視認されない程度の十分な不透明さが得られる。
【0076】
図8に戻り、ヘイズの値は、目視順位が高い調光シートから順に、98.5%、98.2%、98.5%、97.9%、98.1%である。このように、ヘイズは、より高い不透明さが与えられる範囲において、目視順位との相関性が非常に低い。ヘイズは、より高い不透明さが与えられる範囲において、視覚によって認識される不透明さと合致しない。
【0077】
[ドメインの平均サイズとクラリティとの関係]
次に、調光シートが有するドメインの平均サイズとクラリティとの関係について説明する。なお、ノーマル型の調光シート10と、リバース型の調光シート20との間では、ドメインの平均サイズとクラリティとの関係に、同様の関係が得られるため、以下では、ノーマル型の調光シート10を用いた例を説明する。
【0078】
まず、調光シート10として、液晶組成物の濃度が互いに異なる配合1から配合3を準備した。配合1の液晶組成物の濃度は、41.5%である。配合2の液晶組成物の濃度は、42.5%である。配合3の液晶組成物の濃度は、50.0%である。
【0079】
次いで、配合1の液晶組成物の濃度(=41.5%)を有した7例について、調光層11を形成するための露光条件を変更し、それによって、配合1のなかで、ドメインの平均サイズの平均値が互いに異なる7つの試験例を得た。また、配合2の液晶比率(=42.5%)を有した5例について、調光層11を形成するための露光条件を変更し、それによって、配合2のなかで、ドメインの平均サイズの平均値が互いに異なる5つの試験例を得た。また、配合3の液晶組成物の濃度(=50.0%)を有した5例について、調光層11を形成するための露光条件を変更し、それによって、配合3のなかで、ドメインの平均サイズの平均値が互いに異なる5つの試験例を得た。
【0080】
そして、上述したクラリティの測定方法に準じて、ヘイズ・透明性測定器(ヘイズガードi、BYK-Gardner社製)を用い、各試験例におけるクラリティの値を測定した。また、上述したドメインの平均サイズの測定方法に準じて、各試験例におけるドメインの平均サイズの値を測定した。ドメインの平均サイズの測定値と、クラリティの測定値との関係を図10に示す。
【0081】
図10が示すように、配合1の調光シート10において、ドメインの平均サイズが1.54μmであるとき、クラリティは85.1%である。ドメインの平均サイズが1.40μm以上1.54μm以下の範囲では、ドメインの平均サイズが小さくなるに連れて、クラリティが85.1%から47%まで減少する。一方、ドメインの平均サイズが0.83μm以上1.40μm以下の範囲では、ドメインの平均サイズが小さくなるに連れて、クラリティが47%から79.4%まで増大する。
【0082】
すなわち、配合1の調光シート10では、ドメインの平均サイズが1.40μmであるときに、クラリティが極小値を有する。クラリティの値は、極小値を与えるドメインの平均サイズ(=1.40μm)を底としたU字状の曲線上に位置する。
【0083】
配合2の調光シート10において、ドメインの平均サイズが1.65μmであるとき、クラリティは73.0%である。ドメインの平均サイズが1.28μm以上1.65μm以下の範囲では、ドメインの平均サイズが小さくなるに連れて、クラリティが73.0%から56.5%まで減少する。一方、ドメインの平均サイズが0.90μm以上1.28μm以下の範囲では、ドメインの平均サイズが小さくなるに連れて、クラリティが56.5%から86.2%まで増大する。
【0084】
すなわち、配合2の調光シート10では、ドメインの平均サイズが1.28μmであるときに、クラリティが極小値を有する。クラリティの値は、極小値を与えるドメインの平均サイズ(=1.28μm)を底としたU字状の曲線上に位置する。
【0085】
配合3の調光シート10において、ドメインの平均サイズが1.58μmであるとき、クラリティは78.5%である。ドメインの平均サイズが1.28μm以上1.58μm以下の範囲では、ドメインの平均サイズが小さくなるに連れて、クラリティが78.5%から44.4%まで減少する。一方、ドメインの平均サイズが0.90μm以上1.28μm以下の範囲では、ドメインの平均サイズが小さくなるに連れて、クラリティが44.4%から80.7%まで増大する。
【0086】
すなわち、配合3の調光シート10では、ドメインの平均サイズが1.28μmであるときに、クラリティが極小値を有する。クラリティの値は、極小値を与えるドメインの平均サイズ(=1.28μm)を底としたU字状の曲線上に位置する。
【0087】
観測対象の輪郭が目視によって認識されない不透明さは、上記目視評価で示したように、クラリティの値が71%以下となる範囲である。そして、ドメインの平均サイズが1.0μm以上1.55μm以下であれば、クラリティの値が71%以下であって、観測対象の輪郭が目視によって認識されない不透明さを得られる。加えて、ドメインの平均サイズが1.0μm以上1.55μm以下であれば、この範囲のなかの中央付近に、クラリティの値が極小値を有する。そのため、ドメイン11Dの大きさがばらつきを有したとしても、観測対象の輪郭が目視によって認識されない不透明さを実現する大きさのなかに、数多くのドメイン11Dが分布しやすい。結果として、調光シートが有する不透明さのばらつきを抑制することができる。
【0088】
以上、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)条件1,2を満たす調光シート10,20であれば、観測対象の輪郭を視覚認識不能とするような不透明さを実現する範囲のなかに、数多くのドメイン11Dを分布させることが可能となる。結果として、調光シート10,20が有する不透明さのばらつきを抑制することができる。
【0089】
(2)調光シート10,20のクラリティが71%以下であるため、観測対象の輪郭を十分に視覚認識不能とする調光シート10,20を、その不透明さのばらつきを抑えて得ることができる。
【0090】
(3)調光シート10,20の透過像鮮明度が47%以下であるため、観測対象の輪郭を十分に視覚認識不能とする調光シート10,20を、その不透明さのばらつきを抑えて得ることができる。
【0091】
(4)特に、リバース型の調光シート20においては、調光シート20が有する不透明さのばらつきが抑制される分だけ、印加電圧の変更による不透明さの調整、ひいては、駆動装置の複雑化、初期設定の煩雑化、および、調光装置の消費電力におけるばらつきを抑制することができる。
【0092】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・調光シート10,20は、調光層11の端面や透明電極層12の表面などを覆うバリア層をさらに備えることも可能である。バリア層は、ガスバリア機能と紫外線バリア機能との少なくとも一方を備えてもよい。
【0093】
・調光シート10,20は、調光シートの機械的な強度を高める機能を有した光透過性基材をさらに備えることも可能である。光透過性基材を構成する材料の一例は、ガラスやシリコンなどの透明無機材料、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリサルホンなどの透明有機材料である。
・ノーマル型の調光シート10において、調光層11の不透明状態は、透明状態よりも低い電圧の印加によって実現されてもよい。
【0094】
・調光装置は、調光シート10,20の不透明さを、クラリティが71%以下である不透明さと、クラリティが71%を越える不透明さとに変更する制御部を、さらに備えることも可能である。調光シート10,20の駆動を制御する制御部は、相互に異なるクラリティを電圧に変換するためのテーブルなどの情報を備え、外部の操作機器などから指定されるクラリティに対応付けられた電圧を駆動回路10Dに印加させる。これらの制御部を備える調光装置によれば、調光シート10,20の不透明さを、視覚認識不能な不透明さと、視覚認識可能な不透明さとに変更することが可能であるから、調光装置の利用者の意図に準じた不透明さを調光装置で実現することが可能となる。
【0095】
・調光装置が備える駆動回路10Dは、互いに異なる2つの調光シートに対して、各調光シートの透明電極層間に、互いに等しい電圧を印加してもよい。調光シート20が有する不透明さのばらつきが複数の調光シート20のなかで抑制されるため、互いに等しい電圧を印加する構成であれば、2つの調光シートで等しい不透明さを得ることが可能である。そして、調光シートごとに電圧を変更する機能を省略することが可能ともなるため、駆動回路10Dの簡素化を図ることが可能ともなる。
【符号の説明】
【0096】
LP…平行光、LS…直進光、LNS…狭角散乱光、M…最高光量、MB…最低光量、Td…拡散透過率、Tt…全光透過率、Tp…平行透過率、LC…中央光量、LR…外周光量、10,20…調光シート、10D…駆動回路、11…調光層、11A…ポリマーネットワーク、11B…液晶組成物、11BL…液晶分子、12…透明電極層、13…透明基材、21…配向層、30,40…測定装置、31…光源、32…光学くし、32a…遮蔽部、33…受光部、41…照射部、41A…光源、41B…レンズ、42…受光部、42C…中央センサー、42R…外周センサー、43…積分球。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10