(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】医療用拡張器具
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20240723BHJP
A61F 2/958 20130101ALI20240723BHJP
【FI】
A61M25/10 510
A61F2/958
(21)【出願番号】P 2019189288
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-09-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】坂口 幸彦
【審査官】豊田 直希
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-325672(JP,A)
【文献】特開2012-196294(JP,A)
【文献】特開2013-192566(JP,A)
【文献】特表2001-518328(JP,A)
【文献】特表2016-537179(JP,A)
【文献】特開2012-183366(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118362(WO,A1)
【文献】特開2017-195910(JP,A)
【文献】特開2016-073401(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0258476(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61M 29/00
A61F 2/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内にある管体、または前記管体内に挿入される留置型医療機器を拡張する医療用拡張器具であって、
軸方向に延在する軸体と、
前記軸体の先端の側に設けられ、前記軸方向と交差する交差方向に拡張、収縮可能な拡径部と、
前記軸体の基端の側に設けられ、機構的動作によって前記拡径部を径方向に拡張
して拡径状態とする、または縮小させ
て縮径状態とする操作機構と、を備え、
前記拡径部は、前記管体または前記留置型医療機器の内側に対し、前記交差方向に向かう力を加える加圧部を有し、前記管体を流れる液体が前記拡径部を通過して流動可能に構成されており、
前記拡径部は、前記軸体が挿通された被挿通部であって、自然状態で略球形に賦形されて
自己弾性力により前記縮径状態から拡径して前記自然状態に復元し、
前記被挿通部は、周面に前記軸方向に沿う切込みを有し、
前記軸方向に沿う複数の直線に沿って前記切込みと前記切込みが形成されていない非切込み部とが交互に形成され、
前記軸方向において前記切込みの長さは、当該切込みと同一の前記直線上にある前記非切込み部より長く、
複数の前記直線のうちの第一の直線の上にある前記非切込み部、および前記軸方向の両側において当該非切込み部にそれぞれ隣り合う二つの前記切込みは、前記被挿通部の周回方向において前記第一の直線の両側に隣接する第二の直線および第三の直線の上にそれぞれある一の前記切込みと前記周回方向に重なって形成されていることにより、前記非切込み部を中心に前記軸方向および前記周回方向の両側に隣接する四つの前記切込みが開口して前記拡径部が前記略球形になることを特徴とする、医療用拡張器具。
【請求項2】
前記軸体は、前記拡径部を前記軸方向に圧縮または伸張させる作用部を備え、
前記拡径部は、前記操作機構における操作によって前記作用部により前記軸方向に圧縮されて拡径し、または伸張されて縮径する、請求項1に記載の医療用拡張器具。
【請求項3】
前記拡径部は、前記軸体に一端が固定されて、かつ前記作用部に他端が固定されている弾性部材であって、前記作用部が前記軸方向に移動することによって前記軸方向に圧縮または伸張される、請求項2に記載の医療用拡張器具。
【請求項4】
前記拡径部は、前記作用部を前記先端の側に移動させることによって縮径し、自己の弾性力によって拡径する、請求項3に記載の医療用拡張器具。
【請求項5】
前記拡径部は、縮径状態から前記作用部を前記基端の側に移動させることによって拡径する、請求項3に記載の医療用拡張器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管体、または前記管体内に挿入されるステントを拡張する医療用拡張器具に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用拡張器具は、疾病により狭窄、あるいは閉塞している血管等の管体を拡張することに使用される器具である。例えば動脈硬化により狭窄した箇所を押し広げる場合、狭窄箇所にバルーンカテーテルが挿入される。挿入されたバルーンは、血管の拡張後に血管から取り除かれる。また、拡張力を持続的に得るためには、ステントと呼ばれる網目状の筒状体を血管内に留置する場合もある。
【0003】
ところで、バルーンカテーテルを血管内に挿入している間には、バルーンによって血管の血流が滞り、体内の臓器への影響が懸念される。このため、バルーンを使った施術には時間の制限が設けられる。この点を解消するため、血管を拡張しながらも血管内で血液を通過させる機能を有するバルーンが提案されている。
【0004】
血液が流動可能なバルーンは、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の還流カテーテルは、個々に膨張可能なバルーンの筒状アレイを用いたチャンネル環流カテーテルである。この環流カテーテルによれば、狭窄部を処置するとき、バルーンのアレイは狭窄部の壁に均一な半径方向の圧力を加えるようになる。バルーンの筒状アレイは、中空軸の周りに配置され、バルーンに膨張用流体を供給するため少なくとも1つのルーメンが軸内に形成される。軸内のルーメンに流体を流すよう接続された個々のチャンネルを介してバルーンが個々に膨張する。チャンネルはウエブによって互いに分離されていて、バルーンの膨張によってウエブに設けた開口が広がり、血液が開口及びアレイ内を流れるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の還流カテーテルは、バルーンを膨張用の流体によって膨張させるので、バルーンカテーテルの出荷前や使用前にバルーンの拡張状態を検査する、あるいは拡張したバルーンを収縮させて元の状態に戻す作業が必要になる。また、血管内使用においてはバルーン内の空気を吸引除去して真空に近い状態にする、あるいはバルーン内及びバルーン内に連通する流路内を生理食塩液で満たすプライミング操作も必要になる。複数のバルーンを備える上記還流カテーテルでは、このような処理が特に煩雑になる。
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、体内で血液等の液体の流通が可能であって、使用前の動作確認が容易な医療用拡張器具に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の医療用拡張器具は、管体、または前記管体内に挿入される留置型医療機器を拡張する医療用拡張器具であって、軸方向に延在する軸体と、前記軸体の先端の側に取り付けられて、前記軸方向と交差する交差方向に拡張、収縮可能な拡径部と、前記軸体の基端の側に設けられ、機構的動作によって前記拡径部を径方向に拡張または縮小させる操作機構と、を備え、前記拡径部は、前記管体または前記留置型医療機器の内側に対し、前記交差方向に向かう力を加える加圧部を有し、前記管体を流れる液体が前記拡径部を通過して流動可能に構成されており、前記拡径部は、前記軸体が挿通された被挿通部であって、自然状態で略球形に賦形されており、前記被挿通部は、周面に前記軸方向に沿う切込みを有し、前記軸方向に沿う複数の直線に沿って前記切込みと前記切込みが形成されていない非切込み部とが交互に形成され、前記軸方向において前記切込みの長さは、当該切込みと同一の前記直線上にある前記非切込み部より長く、複数の前記直線のうちの第一の直線の上にある前記非切込み部、および前記軸方向の両側において当該非切込み部にそれぞれ隣り合う二つの前記切込みは、前記被挿通部の周回方向において前記第一の直線の両側に隣接する第二の直線および第三の直線の上にそれぞれある一の前記切込みと前記周回方向に重なって形成されていることにより、前記非切込み部を中心に前記軸方向および前記周回方向の両側に隣接する四つの前記切込みが開口して前記拡径部が前記略球形になることを特徴とする。
【0008】
上記医療用拡張器具は、軸方向に延在する軸体の先端の側に設けられ、軸方向と交差する交差方向に拡張、収縮可能な拡径部を備えているため、血管等の内部から外方に向かって力を加えることができる。また、軸体の基端の側に設けられ、機構的動作によって拡径部を径方向に拡張または縮小させる操作機構を備えているため、拡径部の核縮を液体や気体といった流動体によらず機械的に行うことができる。このため、拡径部に流動体を送って動作確認する必要がなく、また血管内使用でも前述のプライミングの必要もなく、医療用拡張器具の使用を簡易にすることができる。さらに、拡径部が管体または留置型医療機器の内側を加圧しながら管体を流れる液体を流動可能に構成されているため、施術中にも体内の臓器に血液等の液体を供給することができる。
【発明の効果】
【0009】
体内で血液等の液体の流通が可能であって、使用前の動作確認が容易な医療用拡張器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態の医療用拡張器具を説明するための図であって、(a)は拡径部が拡張した状態を示し、(b)は拡径部が縮小した状態を示している。
【
図2】第一実施形態の他の拡径部を説明するための模式図である。
【
図3】
図2に示した拡径部の構成を説明するための図である。
【
図4】
図3に示す切込みと
図2に示す拡径部との関係を説明するための図である。
【
図5】第一実施形態の医療用拡張器具の操作機構を説明するための図であって、(a)は拡径状態、(b)は初期状態、(c)は縮径状態を示している。
【
図6】第二実施形態の医療用拡張器具を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の第一実施形態、第二実施形態について説明する。なお、本実施形態で用いる図面は、本発明の医療用拡張器具の構成、形状、医療用拡張器具を構成する各部材の配置を例示するものであり、本発明を限定するものではない。また、図面は、医療用拡張器具の長さ、幅、高さといった寸法比を必ずしも正確に表すものではない。
第一実施形態、第二実施形態では、医療用拡張器具を血管に適用する例を挙げて説明する。
【0012】
[概要]
第一実施形態の説明に先立って、先ず、本発明の概要について説明する。本発明は、管体、または管体内に挿入される留置型医療機器を拡張する医療用拡張器具である。このような医療用拡張器具は、バルーンカテーテルとも呼ばれることがある。
図1(a)、
図1(b)は、第一実施形態の医療用拡張器具1を説明するための図である。医療用拡張器具1は、軸方向に延在する軸体100と、軸体100の先端の側に設けられ、軸axの方向と交差する交差方向に拡張、収縮可能な拡径部10と、軸体100の基端の側に設けられ、機構的動作によって拡径部10を径方向に拡張または縮小させる操作機構3(
図5(a)等)と、を備え、拡径部10は、体内の管体または図示しない留置型医療機器の内側に対し、交差方向に向かう力を加える加圧領域P
1(
図1)を有し、加圧領域P
1内の管体または留置型医療機器の内側と接する部分が加圧部となる。このような医療用拡張器具1は、管体を流れる液体が拡径部10を通過して流動可能に構成されている。
図1(a)は拡径部10が拡張した状態を示し、
図1(b)は拡径部10が縮小した状態を示している。
【0013】
ここで、「管体」は、体内に存在する管状の組織をいい、例えば血管や消化管等を指す。「軸方向に延在する軸体」は、中心軸が一方向に伸びた棒状の部材であり、軸体に他の形状を有する部材が取り付けられていてもよい。
「基端」は、軸体100において、この軸体100が固定されている部材の側の端部であって、第一実施形態においては軸体100が固定されている操作機構3(
図5(a)等)の側の端部を指す。「先端」は、基端と異なる他方の端部である。不図示の留置型医療機器は、管体内に留置される医療機器であればよく、例えばステントやステントグラフトが考えられる。
「機構的動作」とは、機械等の複数の部分が互いに関連して働く仕組みをいう。仕組みとしては、例えば部材を少なくとも一方向に移動させるもの、あるいは部材を互いに係合させるもの、歯車、アクチュエータ、モータ等がある。「操作機構」とは、機構的動作によって拡径部を拡大、縮小するための操作を行う部分を指す。
【0014】
本発明の医療用拡張器具は、管体の内部で拡径部を径方向に拡大させ、管体の内壁を押し広げる。あるいは、医療用拡張器具は、拡張後の管体内に留置されるステントやステントグラフトを内部から拡張して管体内に留置する。このとき、本発明の医療用器具は、管体を流れる液体が拡径部を通過して流動可能に構成されているため、管体における拡張処理、または医療用留置機器の設置処理中にも臓器に血液を供給することができる。
【0015】
[第一実施形態]
(軸体)
医療用拡張器具1は、軸ax方向に延在する軸体を供えている。軸体は、第一パイプ11と、第一パイプ11よりも小径の第二パイプ12とによって構成されている。内パイプ14は、第二パイプ12のうちの拡径部10内にある部分を指す。ここで、パイプは、一方向に延在する中空の部材をいい、第一パイプ11、第二パイプ12はいずれも空洞部を有している。第二パイプ12は、第一パイプ11の空洞内に挿通されて、空洞内を摺動するように移動する。軸axは、この空洞の中心軸になっている。第二パイプ12の空洞13aaには医療用拡張器具1を血管に挿入する際の図示しないガイドワイヤが挿通されて、第二パイプ12はガイドワイヤに合わせて曲がる弾性を有している。また、第一パイプ11は、不図示の操作線が管壁に埋め込まれていて、この操作線を使って内パイプ14を手元で屈曲、偏向操作をすることができるものであってもよい。
【0016】
上記の第一パイプ11、第二パイプ12及び内パイプ14は、金属やセラミックス、プラスチック等によって形成される。このような材料のうち、金属としては、ステンレス鋼やコバルト、チタン及びそれらの合金を含むものが好ましい。特にニッケルとチタンとの合金は、その生体適合性、弾性及び形状記憶性等から医療用拡張器具1に適用することが好ましい。
第一パイプ11の径は例えば、3mmφ以上、5mmφ以下、第二パイプ12の径は例えば1mmφ以上、2mmφ以下が好ましい。
第一パイプ11の先端部であって固定部13bと第二パイプ12との間には、血液等が入り込むことを防ぐためにパッキングを設けることが好ましい。また、パッキングは、固定部13bと第一パイプ11との間にさらに設けてもよい。なお、パッキングは、第二パイプ12の第一パイプ11内における摺動を妨げない位置に設けられる。
【0017】
内パイプ14は、拡径部10を軸axに沿って貫通するパイプである。第二パイプ12は、内パイプ14と一続きに構成されている。第二パイプ12と内パイプ14とは、一体的なものであってもよいし、任意の箇所で接続されるものであってもよい。
図1(a)において、内パイプ14の先端は固定部13aにおいて拡径部10に固定されている。固定部13aは、例えば、細片15の先端側の端部を束ねて内パイプ14に固定するものであってもよい。第二パイプ12と内パイプ14との関係は、第二パイプ12が固定部13aの方向に移動することによって内パイプ14も固定部13aの方向に移動するものであればどのようなものであってもよい。
【0018】
第一パイプ11は、先端側の端部が固定部13bにおいて拡径部10に固定されている。固定部13bは、例えば第一パイプ11の内壁に挿入された環状の部材であってもよい。第二パイプ12は、固定部13bの環状の部分に挿通されて摺動し、拡径部10の基端側には非固定である。また、細片15の基端側の端部は固定部13bで束ねられていて、固定部13bが第一パイプ11の先端側に接合されている。このようにすれば、固定部13bを介して拡径部10を第一パイプ11に固定することができる。
このような構成により、第一実施形態では、第一パイプ11を固定しながら第二パイプ12を固定部13aの側に向かって押し込むことによって拡径部10内に位置する内パイプ14の長さが図中に示す長さd分だけ長くなる。このような動作により、第一パイプ11及び第二パイプ12は、拡径部10を軸ax方向に伸張させる力を加えることができる。また、第一パイプ11の空洞に第二パイプ12を押し込む力を解除、あるいは弱めると、内パイプ14が固定部13bの側に移動(後退)して、拡径部10は軸axと直交または略直交する方向に拡張する。
【0019】
また、上記動作において、第二パイプ12が第一パイプ11の空洞の内部を摺動するので、第二パイプ12が軸axに沿って直線上を移動する。このため、第一実施形態は、拡径部10に対して高い精度で軸axに沿う力を加えることができる。
【0020】
(拡径部)
拡径部10は、固定部13aと固定部13bとの間に固定されている。
図1に示す拡径部10は、端部が固定部13aまたは固定部13bに固定された複数の細片15を有している。細片15は、固定部13aと固定部13bとの間に形成される接続点151において細片部152、153に分岐され、他の接続点151で再度接続される。この結果、細片部152と細片部153との間には開口15aが形成される。また、細片15は互いに離間していて、複数の細片15同士の間は開口15bになる。このような拡径部10は、全体が細片15により形成された網(メッシュ)状になっている。
【0021】
上記構成により、拡径部10は、血管または留置型医療機器の内側に対し、交差方向に向かう力を加える加圧部を有するようになる。
図1(a)にあっては、拡径部10において血管の内径よりも大径の部分が加圧領域になる。
図1(a)において、拡径部10の加圧領域P
1の範囲を示す。加圧領域P
1内に含まれる細片15、接続点151、細片部152、153が第一実施形態の加圧部となる。
このような拡径部10は、開口15a、15bを有しているので、血管を流れる血液が拡径部10を通過して流動可能である。
図1(a)に示すように、第一実施形態では細片15が占める面積よりも開口15a、15bが占める範囲が大きいので血管が充分に流通可能である。
【0022】
なお、加圧領域P
1は、医療用拡張器具1に固有の領域ではなく、拡径部10が血管等に挿入される過程で変化する。つまり、
図1(a)に示すように、拡径部10は、拡径した状態で血管等の狭くなっている箇所にある場合には広い範囲で血管等に接する。また、
図1(b)に示すように、拡径部10は、縮径した状態で狭窄のない血管等の内部にある場合には血管等に接する領域が小さくなって血管に加わる圧力を極力小さくすることができる。
【0023】
なお、細片15上に開口15aを備える拡径部10は、細片15において幅方向の中心を通り、かつ長さ方向に沿うスリットを形成し、内パイプ14の周回上に互いに離間させて配置することによって形成できる。このとき、細片15は、固定部13a、13bの両端で固定される。このような拡径部10は、長さ方向の中央部分で剛性が低くなって撓みやすくなり、第二パイプ12を第一パイプ11に出し入れすることによって容易に伸張、圧縮されるようになる。
また、拡径部10は、上記のようにして形成されることに限定されず、ワイヤを編んでバルーン状のメッシュを作成することによっても形成できる。
【0024】
さらに、第一実施形態では、拡径部10にカバー膜2を設けてもよい。カバー膜2は、例えばシリコン等の伸縮性を有する樹脂製の薄膜であって、拡径、縮径の状態によらず拡径部10に圧力を加えている。圧力は、拡径部10の最大径に応じて変化する。カバー膜2によれば、拡径部10が血管、ステントまたはステントグラフト(以下、「血管等」と記す)の内部で拡径した際に血管等が傷つくことを確実に防ぐことができる。
カバー膜2は、拡径部20の外側、または外側及び内側を覆うものであってもよい。
図1(a)、
図1(b)にあっては、カバー膜2が拡径部10の外側を覆うものとし、破線で模式的に示している。
【0025】
拡径部10は、上記のように、操作機構(
図5(a)等)における操作によって作用部である固定部13aにより軸ax方向に圧縮されて拡径(
図1(a))し、または伸張されて縮径する(
図1(b))。拡張または収縮は、軸axの方向と交差する交差方向に行われる。交差方向は、内パイプ14と略直交する方向をいい、拡径部10は、その外郭が略球形になるように拡張する。
【0026】
ただし、拡径部10の拡径及び縮径は、拡径部10を伸張または縮小することによって行うものに限定されるものではない。縮径は、例えば、拡張可能な弾性部材に弾性力を規制する規制部材を取り付けることによって行うことができる。拡径は、例えば、このような規制部材を弾性部材から取り外すことによって行うことができる。このように構成は、規制部材をパイプとし、弾性部材をパイプの一方の端部から挿入して他方の端部から出して拡張させるように構成するものであってもよい。
【0027】
拡径部10は、軸体100の固定部13bに一端が固定されて、かつ固定部13aに他端が固定されている弾性部材であって、固定部13aが軸axの方向に移動することによって軸方向に圧縮または伸張される。拡径部10の基端は、軸体100のうち、第一パイプ11の先端部に設けられた固定部13bに固定されている。拡径部10の先端部は、第二パイプ12(内パイプ14)の先端部に設けられた固定部13aに固定されている。つまり、拡径部10は、前述の第二パイプ12を押し込むことによって内パイプ14が挿入されている部分が長くなり、固定部13a、13bの間で伸張する。伸張することによって拡径部10の径は小さくなり、血管の内部に挿入し易い状態になる。
【0028】
また、第一実施形態では、拡径部10が固定部13aを先端の側に移動させることによって縮径し、自己の弾性力によって拡径するようにしている。このため、拡径部10は、第二パイプ12の押し込みを解除または緩めることによって拡張する。さらに、第二パイプ12を操作機構3(
図5(a)等)の側に引き出すことによって拡径部10の最大径がさらに大きくなるようにしてもよい。
自己弾性力により拡径する拡径部10は、例えば、メッシュ状の細片15を球体または略球体の治具に被せ、約500℃で加熱、冷却することによって実現することができる。
【0029】
ただし、第一実施形態は、拡径部10が自己弾性力によって拡径する構成に限定されるものでなく、拡径部10が自然状態で縮径しており、縮径状態から固定部13aを基端の側に移動させることによって拡径するように構成するものであってもよい。このような拡径部では、医療用拡張器具1の挿入前に拡径部10を縮径させておき、拡径部10が血管内の拡張すべき患部に達したタイミングで第二パイプ12を引き戻し、固定部13aを基端の側に移動させる。このような動作により、拡径部10は、患部において拡径し、血管の内壁を押し広げる。
【0030】
第一実施形態では、前述のように、比較的大きな領域の開口15a、15cを通じて血液が充分に拡径部10を挟んで流動し、施術の間にも被験者の臓器に血液が供給され続ける。このような構成によれば、施術に許される時間が長くなってより安全に毛血管を拡張する施術を行うことができる。なお、このような効果は、拡径部10にカバー膜2を設けても損なわれるものではない。
【0031】
ただし、第一実施形態は、拡径部のメッシュ形状が上記に限定されるものではない。以下、他の形状の拡径部20を説明する。
図2は、第一実施形態の他の拡径部20を説明するための模式図である。拡径部20は、内パイプ14の周囲に配置されたメッシュ状の細片15を備えている。拡径部20は、拡径部10の細片15の開口15aが内パイプ14の周回方向に配置されているのに対し、内パイプ14の周回方向と共に長さ方向にも開口15cが配置されている。拡径部20の細片15は、接続点151により間欠的に接続されていて、接続点151を中心にして四つの開口15cが形成される。
【0032】
拡径部20においても、血管の内径よりも大径の部分が加圧領域になる。
図2において、拡径部20の加圧領域P
2の範囲を示す。加圧領域P
2内に含まれる細片15、接続点151の部分が加圧部となる。このような拡径部20は、細片15や接続点151が拡径部10よりも密に配置されていて、拡径部10よりも血管等を内部から均一に加圧して押し広げることができる。
【0033】
図3は、拡径部20の構成を説明するための模式図である。
図3に示すように、拡径部20は、例えば、内パイプ14が挿通された被挿通部155である。被挿通部155は、内部に空洞を有する環状のものであればよく、その周面は曲面であってもよい。被挿通部155は、周面に軸方向に沿う切込みs11、s12、s13、s21、s22を有するように構成される。
なお、
図3は、拡径部20に対応したものでなく、拡径部20の構造を説明するために簡略したものである。
図3にあっては、切込みs11等を二つの直線上に形成された例を示しているが、
図2に示す拡径部20を製造する場合、さらに多数の直線上に切込みを形成することが好ましい。直線の数としては、例えば、8から30の間が好ましい。
【0034】
切込みs11、s12、s13は、被挿通部155の周面上の直線L1上に形成されていて、切込みs11等の間の切込みがない部分を非切込み部と記す。直線L1上であって、切込みs11と切込みs12との間を非切込み部ns11,12、切込みs12と切込みs13との間を非切込み部ns12,13と記す。また、直線L2上であって、切込みs21と切込みs22との間を非切込み部ns21,22、切込みs22と切込みs23との間を非切込み部ns22,23と記す。このような被挿通部155に圧縮方向の力を加えると、切込みs11等が内パイプ14の周回方向に開口して開口15cになる。
【0035】
特に、拡径部20では、軸axの方向に沿う複数の直線L1、L2に沿って切込みと非切込み部とが交互に形成されている。切込みs11から切込みs23の長さは非切込み部ns11,12から非切込み部ns22,23より長く、複数の直線のうちの直線L1(第一の直線)の上にある非切込み部ns11,12は、直線L1と隣接する直線L2(第二の直線)の上にある切込みs21、s22、s23と被挿通部155の周回方向に重なって形成されている。
【0036】
上記のように切込みs11等を形成することにより、切込みs11から切込みs23が所謂「千鳥」状に配置される。千鳥状の切込みs11等を有する被挿通部155に圧縮方向の力が加わると、
図2に示す拡径部20のように、複数の非切込み部ns11,12等の各々を中心にして四つずつの開口15cが形成される。
【0037】
図4は、
図3に示す切込みと
図2に示す拡径部20との関係を説明するための図であって、被挿通部155に形成される複数の切込みsを平面上に展開して示した図である。
図4に示すように、切込みsは、平行な複数の直線上に複数形成されていて、切込みsの間の非切込み部nsが
図2に示す接続点151に相当する。千鳥状に切込みsが形成されている被挿通部155に対して図中に示す軸axと交差する方向の力が加わると、接続点151を中心にする四つの切込みsが開口する。
図4に示す例では、接続点151の左右に開口15c
1、開口15c
3が形成され、接続点151の上下に開口15c
2、開口15c
4が形成される。
拡径部20を拡径あるいは縮小することに必要な力は、被挿通部155の厚みと共に切込みsの幅や長さに応じて決定される。第一実施形態では、切込みsの軸ax方向及び軸axと直交する方向の間隔を、拡径部20の強度及び操作を考慮して決定している。
【0038】
切込みsの形成は、例えば、レーザー加工によって行うことができる。レーザー加工によれば、被挿通部155においてレーザー光が照射された箇所が溶融し、溶融物がアシストガスによって吹き飛ばされる。このため、形成された切込みsは、細溝の孔部になる。
【0039】
第一実施形態では、切込みsを有する被挿通部155を球形または略球形の治具に被せて拡径し、その状態で加熱処理をすることによって球形状に賦形する。これにより、拡径部20は自然状態で略球形になり、自己弾性力により拡径するようになる。このような拡径部20は、血管の内部で確実に、かつ設計の通りに拡径し、血管拡張の施術の信頼性を高めることができる。
【0040】
(操作機構)
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)は、医療用拡張器具1の操作機構3を説明するための模式図である。操作機構3は、軸体100の基端の側に設けられ、機構的動作によって拡径部20を径方向に拡張または縮小させている。
図5(a)は、拡径部20の径が最大である状態を示している。
図5(c)は拡径部20の径が最小の状態を示し、
図5(b)は拡径部20に伸張、圧縮のいずれの方向の力もかかっていない初期状態を示している。初期状態における拡径部20の径は例えば16mmであって、レバー33をラチェット溝32に沿って後退させることによって拡径部20は32mmまで拡径する。また、拡径部20は、レバー33をラチェット溝32に沿って前方に移動させることによって3mmにまで縮径する。血管挿入時、拡径部20は
図5(c)に示す最小径の状態になっている。
【0041】
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)に示すように、軸体100は、操作機構3のグリップ31に固定されている。より詳細には、拡径部20の基端部が固定部13bを介して第一パイプ11の先端部に接続され、第一パイプ11の基端部は、グリップ31の先端部にまで延び、かつグリップ31の先端部(拡径部20に向かう側)に接続されている。グリップ31の後方には第二パイプ12と連通する後軸34が突出している。グリップ31の内部には第二パイプ12が摺動可能に保持された保持溝(図示せず)が設けられている。後軸34と保持溝とは同軸かつ互いに連通しており、レバー33の操作によって第二パイプ12が前進、後退しても第二パイプ12と後軸34とは保持溝を介して液密に連通している。管体に挿入されたガイドワイヤの後端を、空洞13aaに挿通させると内パイプ14、保持溝を介して後軸34から突出させることができる。
【0042】
グリップ31には第二パイプ12を移動させて固定部13aを先端または基端の側に移動させるためのラチェット機構が設けられている。ラチェット機構は、ラチェット溝32と、ラチェット溝32に沿って移動可能なレバー33とによって構成されている。ラチェット溝32には三角波形状の凹凸係合部35が形成されていて、レバー33の側には凹凸係合部35と係り合う三角突起36が形成されている。また、グリップ31には、拡径部20の拡径の程度を示す目盛りがラチェット溝32に沿って記されている。
【0043】
このような構成において、医療用拡張器具1の操作者がグリップ31を把持し、レバー33を操作して第二パイプ12及び内パイプ14が前進、または後退するように移動させる。第一実施形態の医療用拡張器具1では、血管への挿入時、操作者は、初期状態からレバー33を前方に移動させて「S」に対応する凹凸係合部35に三角突起36を係合させる(
図5(c)参照)。凹凸係合部35と三角突起36とを係合させることによって固定部13aの位置が固定され、拡径部20が自己弾性によって拡径することを防ぐことができる。このような操作により、拡径部20が初期状態から縮径し、拡径部20を血管内に挿入する際の抵抗を小さくすることができる。
【0044】
第一実施形態では、例えば、固定部13aに放射線を透過しないマーカーが付されている。操作者は、放射線照射下でマーカーを視認しながら拡径部20を患部にまで到達させる。そして、レバー33を操作して拡径部20の径を所望の大きさまで拡径する。拡径部20の径は、血管の種別(太さ)や患部の状態等によって決定される。第一実施形態では、血管の太さや狭窄の状態に応じて操作者が予め拡径部20の径の大きさを決定するものとする。操作者は、決定されている径に対応する目盛の凹凸係合部35と三角突起36とを係合させ、拡径部20の径を所望の大きさに固定する。
【0045】
上記動作によれば、拡径部20の径が患部において所望の径に固定され、血管を好適に拡張する、あるいは拡張した血管内にステントやステントグラフトを留置して拡張した血管を維持することができる。
第一実施形態の医療用拡張器具1は、拡径部10、20が血管等の内側を加圧しながら血液を流動可能に構成されているため、血管拡張の施術中にも血液を体内の臓器に供給し、施術時間の制限を解消して施術の信頼性を高めることができる。
【0046】
ただし、第一実施形態は、固定部13aの移動をラチェット機構によって行うものに限定されず、他の方式によって行うものであってもよい。他の方式としては、例えば、ダイヤル式や後軸34の突出量をネジによって調整するものであってもよい。さらに、固定部の移動は、操作機構3に小型のモータを取り付けて第二パイプ12を前進、後退させるものであってもよいし、制御信号により動作するアクチュエータを使って第二パイプ12を駆動するものであってもよい。
【0047】
また、第一実施形態は、拡径部10、拡径部20が初期状態において拡径するものに限定されるものではない。拡径部は、例えば、初期状態において
図5(c)のように縮径していて、固定部13aを基端側に移動させることによって任意の径に拡径するものであってもよい。このような拡径部を有する医療用拡張器具によれば、操作者が拡径部に力を加えることなく医療用拡張器具を血管等に挿入し、患部に到達したタイミングで固定部13aを基端側に引き戻して拡径部を拡径する。
【0048】
[第二実施形態]
図6(a)、
図6(b)は、本発明の第二実施形態の医療用拡張器具5を説明するための図である。
図6(a)は、医療用拡張器具5における拡径部20の縮径状態を示し、
図6(b)は拡径状態を示している。医療用拡張器具5は、医療用拡張器具1と同様に、軸体110、拡径部20及び操作機構(図示せず)を備えている。ただし、第二実施形態の軸体110は、第一パイプ11に代えてカバー膜2が拡径部20及び第二パイプ12を覆っている点で第一実施形態と相違する。カバー膜2は、拡径部10の先端部までを覆い、かつ操作機構3まで延在している。
第二実施形態の操作機構は、軸体100の基端側に設けられていて、拡径部20を覆って伸張させるカバー膜2と、このカバー膜2を巻き取って拡径部20から取り外す機構とによって構成される。つまり、第二実施形態は、自己弾性によって拡径する拡径部20を、挿入時にはカバー膜2の圧力によって縮径しておき、患部に達したタイミングで取り外して拡径させるものである。
【0049】
カバー膜2の取り外しは、例えば、カバー膜2の一部を牽引する機構によって行うことができる。カバー膜2の牽引は、例えば、カバー膜2の先端の側の一部を拡径部20及び第二パイプ12から引き剥がす機構、あるいはカバー膜2を全体的に基端の側に後退させる機構によって行われる。カバー膜2を引き剥がす、あるいは後退させることにより、カバー膜2の圧力によって縮径状態にあった拡径部20が初期状態にまで拡径する。なお、
図6(b)に示す状態は、カバー膜2が図示した範囲外にまで後退した状態を示している。このような拡径部20は使い捨てであるので、挿入時の弾性力の変化がない。第二実施形態によれば、拡径部20を挿入対象の血管等に応じて所望の径に設計し、患部において拡径部20の径を確実に所望の大きさにすることができる。
【0050】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)体内にある管体、または前記管体内に挿入される留置型医療機器を拡張する医療用拡張器具であって、軸方向に延在する軸体と、前記軸体の先端の側に設けられ、前記軸方向と交差する交差方向に拡張、収縮可能な拡径部と、前記軸体の基端の側に設けられ、機構的動作によって前記拡径部を径方向に拡張または縮小させる操作機構と、を備え、前記拡径部は、前記管体または前記留置型医療機器の内側に対し、前記交差方向に向かう力を加える加圧部を有し、前記管体を流れる液体が前記拡径部を通過して流動可能に構成されている、医療用拡張器具。
(2)前記軸体は、前記拡径部を前記軸方向に圧縮または伸張させる作用部を備え、
前記拡径部は、前記操作機構における操作によって前記作用部により前記軸方向に圧縮されて拡径し、または伸張されて縮径する、(1)の医療用拡張器具。
(3)前記拡径部は、前記軸体に一端が固定されて、かつ前記作用部に他端が固定されている弾性部材であって、前記作用部が前記軸方向に移動することによって前記軸方向に圧縮または伸張される、(2)の医療用拡張器具。
(4)前記拡径部は、前記作用部を前記先端の側に移動させることによって縮径し、自己の弾性力によって拡径する、(3)の医療用拡張器具。
(5)前記拡径部は、縮径状態から前記作用部を前記基端の側に移動させることによって拡径する、(3)の医療用拡張器具。
(6)前記拡径部は、前記軸体が挿通された被挿通部であって、前記被挿通部は、周面に前記軸方向に沿う切込みを有する、(1)から(5)のいずれか一つの医療用拡張器具。
(7)前記軸方向に沿う複数の直線に沿って前記切込みと前記切込みが形成されていない非切込み部とが交互に形成され、
前記切込みの長さは前記非切込み部より長く、複数の前記直線のうちの第一の直線の上にある前記非切込み部は、前記第一の直線と隣接する第二の直線の上にある前記切込みと前記被挿通部の周回方向に重なって形成される、(6)の医療用拡張器具。
【符号の説明】
【0051】
1、5・・・医療用拡張器具
2・・・カバー膜
3・・・操作機構
10、20・・・拡径部
11・・・第一パイプ
12・・・第二パイプ
ns11,12、ns12,13、ns21,22、ns22,23・・・非切込み部
13a、13b・・・固定部
13aa・・・空洞
14・・・内パイプ
15・・・細片
15a、15b、15c・・・開口
31・・・グリップ
32・・・ラチェット溝
33・・・レバー
34・・・後軸
35・・・凹凸係合部
36・・・三角突起
100、110・・・軸体
151・・・接続点
152、153・・・細片部
155・・・被挿通部
L1、L2・・・直線
P1、P2・・・加圧領域
ax・・・軸
s11、s12、s13、s21、s22、s23・・・切込み