(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】新規樹脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 3/02 20060101AFI20240723BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240723BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20240723BHJP
C09H 9/04 20060101ALI20240723BHJP
C08H 99/00 20100101ALI20240723BHJP
【FI】
C08L3/02
C08L101/00
C08L101/16
C09H9/04
C08H99/00
(21)【出願番号】P 2019200098
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】竹本 紘基
(72)【発明者】
【氏名】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】重實 大介
(72)【発明者】
【氏名】高口 均
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-091763(JP,A)
【文献】特開2011-219633(JP,A)
【文献】特開2009-181890(JP,A)
【文献】特開2013-034437(JP,A)
【文献】特開2017-184654(JP,A)
【文献】特開2011-050394(JP,A)
【文献】特開2015-107802(JP,A)
【文献】特開平11-253114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
C08B 1/00 - 37/18
C09H 9/04
C08H 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性分岐多糖を分散状態で含む樹脂組成物であって、
水溶性分岐多糖の重量平均分子量が1000~10000であり、かつ、水溶性分岐多糖の水溶液(水溶性多糖濃度1.0質量%、エタノール濃度40質量%)の吸光度が25℃において0.7以下であり、水溶性分岐多糖が、難消化性グルカン、難消化性デキストリ
ンおよびイソマルトデキストリンからなる群から選択される1種または2種以上であり、かつ、樹脂組成物中の樹脂および水溶性分岐多糖の総質量に対する水溶性分岐多糖の質量の比率が60%以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物を原料として含んでなる、樹脂成形物。
【請求項3】
水溶性分岐多糖と樹脂原料とを混合する工程を含んでなる、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂組成物を成形する工程を含む、樹脂成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な樹脂組成物およびその製造方法に関する。本発明はまた、前記樹脂組成物を原料とする樹脂成形物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源等に基づくプラスチック成形品は、飲食用容器をはじめ、シート、フィルム等の各種包装材料、緩衝材、生活用品、農業用品等の産業資材として広範囲の用途に用いられている。一方で、大量消費により温室効果ガスによる地球温暖化や石油資源の枯渇が地球規模で長期的に取り組む重要な課題となっている。
【0003】
こうした課題に対し、石油系プラスチックに澱粉質系材料またはセルロース系材料に代表されるバイオマス材料を混合するという試みが多くなされている。しかしながら、一般に石油系プラスチックと前記バイオマス素材は親和性が悪く、均一化された混合物を形成できないことが知られ、相溶性を向上するためにはバイオマス材料自体の変性または相溶化剤と呼ばれる物質の使用が必要であった。
【0004】
実際、特許文献1は澱粉質系材料の水酸基をアルキレンオキサイドおよびエーテル、エステル、ウレタン、カルバメートまたはイソシアネートを形成する他の物質との反応により変性することで澱粉質系材料を熱可塑性プラスチックに分散させている。また、特許文献2では、不飽和ジカルボン酸やその酸無水物で変性された酸変性ポリオレフィン樹脂を相溶化剤として用いることで本課題の解決を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-239265号公報
【文献】特開2004-2613号公報
【発明の概要】
【0006】
特許文献1および2の技術はバイオマス材料自体を変性させたり相溶化剤を使用したりするため、石油系プラスチックへのバイオマス材料の混合に先立って追加工程が必要となる点で必ずしも簡便な手法であるとはいえない。また、相溶化剤を構成する物質は主に石油原料由来であることから、石油由来プラスチックをバイオマス材料で置換するという目的とも適合しない。
【0007】
このような背景のもと、本発明者らはバイオマス原料である水溶性分岐多糖に着目して鋭意研究を進めていたところ、特定の水溶性分岐多糖が樹脂組成物で良好な分散性を示すことを見出した。本発明者らはまた、相溶化剤を使用せずに水溶性分岐多糖を良好に分散させた樹脂組成物が得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
本発明は、バイオマス由来原料を含む新規な樹脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、バイオマス由来原料を含む樹脂組成物を原料とする新規な樹脂成形物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]水溶性分岐多糖を分散状態で含む樹脂組成物であって、前記水溶性分岐多糖の重量平均分子量が1000~10000であり、かつ、前記水溶性分岐多糖の水溶液(水溶性多糖濃度1.0質量%、エタノール濃度40質量%)の吸光度が25℃において0.7以下である、樹脂組成物。
[2]水溶性分岐多糖が、水溶性分岐グルコースポリマーである、上記[1]に記載の樹脂組成物。
[3]水溶性分岐グルコースポリマーが、難消化性グルカン、難消化性デキストリン、焙焼デキストリン、ポリデキストロースおよびイソマルトデキストリンからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4]樹脂組成物中の樹脂および水溶性分岐多糖の総質量に対する水溶性分岐多糖の質量の比率が60%以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物を原料として含んでなる、樹脂成形物。
[6]水溶性分岐多糖と樹脂原料とを混合する工程を含んでなる、上記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[7]上記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物を成形する工程を含む、樹脂成形物の製造方法。
【0010】
本発明によれば、バイオマス原料である水溶性分岐多糖を分散状態で含む新規な樹脂組成物と、前記樹脂組成物を原料とする新規な樹脂成形物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】「◎」と評価した樹脂成形物(フィルム)の顕微鏡写真の一例を示す。顕微鏡の倍率は100倍で、スケールバーは100μmを示す。
【
図2】「○」と評価した樹脂成形物(フィルム)の顕微鏡写真の一例を示す。円で囲まれた箇所は、わずかに確認されるフィラーの例を示す。顕微鏡の倍率は100倍で、スケールバーは100μmを示す。
【
図3】「×」と評価した樹脂成形物(フィルム)の顕微鏡写真の一例を示す。円または楕円で囲まれた箇所は、多数確認されるフィラーの例を示す。顕微鏡の倍率は100倍で、スケールバーは100μmを示す。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明に用いる水溶性分岐多糖は、重量平均分子量が1000~10000であり、かつ、吸光度が0.7以下であるという特徴を有する。上記性質を有する水溶性分岐多糖は、化石原料由来の樹脂(例えば、石油系プラスチック)のフィラーとして使用した場合、樹脂中に良好に分散するため化石原料由来の樹脂割合を低減しつつ品質の高い樹脂組成物と、品質の高い樹脂成形物を得ることができる。
【0013】
本発明において重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィーや多角度光散乱法等の公知の方法により求められ、重合体の構造によって適宜選択することができるが、本発明においては例えば、実施例の例1に記載した方法により重量平均分子量を測定することができる。本発明に用いる水溶性分岐多糖は、その重量平均分子量が1000~10000であり、好ましくは1200~9000、より好ましくは1400~8000である。
【0014】
本発明において吸光度は、水溶性分岐多糖濃度1.0質量%およびエタノール濃度40質量%で調製した水溶液の25℃(室温)の条件下における660nmの吸光度である。本発明に用いる水溶性分岐多糖は分岐構造に富む多糖であり、その分岐度合いを直接測定することは困難であるが、分岐度合いが不十分な場合には多糖が凝集または会合するため、吸光度は増加する傾向にある。従って、本発明に用いる水溶性分岐多糖は水溶性分岐多糖のうち吸光度が低いもの(例えば吸光度が0.7以下のもの)を用いることができ、好ましくは0.5以下(より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.1以下)の水溶性分岐多糖を用いることができる。
【0015】
本発明に用いる水溶性分岐多糖は、上記性質を有していれば特に制限はないが、入手し易さやコストの点から水溶性分岐グルコースポリマーを用いることが好ましい。水溶性分岐グルコースポリマーは、分岐構造を有する水溶性のグルコースポリマー(グルカン)を意味する。前記ポリマーを構成する糖はグルコースを主構成成分とするが、これに限られるものではない。水溶性分岐多糖は、後述のポリデキストロース(グルコースポリマーの骨格に一部ソルビトール等が結合した構造を有する)のようにグルコースポリマーとしての骨格を有するものであればよく、一部はグルコース以外の糖を有するものでもよい。水溶性分岐多糖はまた、澱粉等のバイオマス原料をその由来とすることができる。本発明に用いることができる水溶性分岐多糖としては、例えば、難消化性グルカン、難消化性デキストリン、焙焼デキストリン、ポリデキストロースおよびイソマルトデキストリンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明では1種の水溶性分岐多糖を用いても、2種以上の水溶性分岐多糖を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明の樹脂組成物を構成する樹脂としては、プラスチックの原料となるものが挙げられる。本発明に用いることができる樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル、ナイロン等のポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエーテル系樹脂、アクリル樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明では1種の樹脂を用いても、2種以上の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明の樹脂組成物における樹脂および水溶性分岐多糖の配合比率は、樹脂成形物に求められる性質に合わせて適宜調整することができるが、樹脂および水溶性分岐多糖の総質量に対する水溶性分岐多糖の質量の比率の上限値は60%、55%、50%、45%または40%とすることができ、石油由来プラスチックをバイオマス材料で置換するという観点から前記比率の下限値は0.5%、1%、5%、7%、10%または15%とすることができる。これらの上限値および下限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記比率の範囲は、例えば、0.5~60%、1%~55%または1%~50%とすることができる。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、特定の水溶性分岐多糖を含む以外は、通常の樹脂組成物に配合される原料を配合してもよい。このような配合原料としては、相溶化剤、充填剤、透明化剤、可塑剤、結合剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0019】
本発明に用いる水溶性分岐多糖は相溶化剤を配合しない場合でも、樹脂と混合した際に良好に分散するという特徴を有する。従って、本発明の樹脂組成物は相溶化剤を実質的に含まないものとすることができるが、水溶性分岐多糖の分散性をより向上させる観点から相溶化剤を配合してもよい。本発明の樹脂組成物に用いることができる相溶化剤としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィンや、シラン変性ポリオレフィンが挙げられる。本発明の樹脂組成物における相溶化剤の配合比率は、樹脂組成物全体に対する比率(質量比)で0.1~10%とすることができ、好ましくは1~5%である。
【0020】
本発明の樹脂成形物は、樹脂組成物を例えば押出成形、射出成形、プレス成形、充填、モールド成形、インフレーション成形といった手段により成形したものや、接着剤のように流動性を有する状態で使用しその後固化させたものであり、その形状等は特に制限されるものでない。上記の成形や固化は常法に従って実施することができる。また、樹脂成形物の形状は、具体的には、フィルム、ペレット、ビーズ、フォーム、ゲルといった形状とすることができる。
【0021】
本発明の樹脂成形物は、本発明の樹脂組成物に加え、充填剤(例えば、ガラス繊維、タルク)、難燃剤(例えば、塩素系難燃剤、リン系難燃剤、臭素系難燃剤、無機系難燃剤)、酸化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤)、透明化剤、可塑剤、帯電防止剤に例示されるような通常の樹脂成形物に配合される原料を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、特定の水溶性分岐多糖を配合すること以外は通常の樹脂組成物の製造方法と同様の方法で製造することができる。すなわち、本発明の樹脂組成物は、前記のような特定の水溶性分岐多糖と樹脂原料とを混合(例えば、混錬)することにより製造することができる。混合工程では、水溶性分岐多糖と樹脂原料とに加えて、他の配合原料(例えば、相溶化剤、充填剤、透明化剤、可塑剤)を添加して混合してもよい。水溶性分岐多糖と樹脂との混合は、溶融混錬法、溶液撹拌混合法、粉体コーティング、乳液重合法等の公知の方法により実施することができ、混合装置としては、単軸軸混練押出機、二軸混練押出機、加圧ニーダー、撹拌タンク、ミキサー等の公知の装置を使用することができる。
【0023】
本発明の樹脂成形物は、本発明の樹脂組成物を成形することにより製造することができる。成形工程は通常の樹脂成形と同様の方法で実施することができる。樹脂組成物の成形は、押出成形、射出成形、プレス成形、充填、モールド成形、インフレーション成形、真空成形、ブロー成形、発泡ビーズ成形、乳液ビーズ成形、スプレービーズ成形等の公知の方法により実施することができる。
【実施例】
【0024】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、以下の例における「%」とは特段の記載が無い限り、質量%を意味する。
【0025】
例1:フィルム中の各種多糖の分散性評価
(1)方法
ア 多糖
各種多糖は表1に示すものを使用し、単糖はグルコース(無水結晶ぶどう糖(日本食品化工株式会社))を使用した。なお、いずれも粉末状のものを用いた。
【0026】
【0027】
<吸光度の測定>
各種多糖溶液の吸光度は以下の手法で測定した。多糖濃度1.0質量%およびエタノール濃度40質量%の水溶液を調製し室温(25℃)条件下にて当該水溶液の660nmの吸光度を、分光光度計(U-2900、株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて測定した。なお、水溶性分岐多糖として知られるキサンタンガムに関しては、その粘度の影響で気泡が生じたため、気泡を除去した後に測定を行った。各多糖の吸光度は表3に示す通りであった。なお、吸光度が0.7より大きい多糖(デキストリン、クラスターデキストリン、コーンスターチ)は、分析に用いた溶液が目視で確認できるほど白濁していた。
【0028】
<重量平均分子量の測定>
各種多糖の重量平均分子量を以下の手法で測定した。各多糖を10%(w/v)となるよう純水で溶解し、1%(w/v)活性炭を添加し、煮沸後、0.45μmメンブレンフィルターろ過した。ろ液をイオン交換樹脂(MB4、オルガノ)処理後、0.45μmメンブレンフィルターろ過した。ろ液を終濃度50mM 硝酸ナトリウムとなるよう調整し、分子量分析を行なった。較正曲線のスタンダードは、グルコース(富士フイルム和光純薬株式会社)、マルトトリオース(富士フイルム和光純薬株式会社)、プルランスタンダードP-5およびP-10(昭和電工株式会社)を用いた。分析条件は表2に示す通りであった。
【0029】
【0030】
各多糖の重量平均分子量は表3に示す通りであった。試験区1~6の水溶性分岐多糖は上記分析手順に従って測定した実測値(有効数字2桁)を示す。また、試験区7~9の水溶性分岐多糖は分子量が大きく本手法で測定するのに適していないことから、書籍や製品パンフレットに記載されている公知の値を使用した。なお、試験区10はグルコース(単糖)の分子量を示す。
【0031】
イ 相溶化剤
相溶化剤は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(カヤブリッド、化薬ヌーリオン株式会社)を使用した。
【0032】
ウ 樹脂組成物の作製
樹脂ペレットとして高密度ポリエチレン(プライムポリマー株式会社、以下「HDPE」という)を使用した。HDPE87%、多糖10%、相溶化剤3%を予め200℃に加熱しておいた加圧式ニーダー(Ms式加圧ニーダーDS1-3MHB-E型、日本スピンドル製造株式会社)に同時に投入した。回転速度は40rpmとし、試料の品温が190℃に到達するまで混練を行った。品温が190℃に到達した時点でニーダーから試料を取り出し、室温で放冷し樹脂組成物を得た。
【0033】
エ フィルム成形
前記ウで得られた樹脂組成物0.68gを140℃に加温した熱プレス機(H300-1、アズワン)を用いて0.5tの加重下で圧縮し、コンパウンドフィルムを得た。
【0034】
オ フィルム中のフィラー(多糖)の分散性の評価
マイクロスコープ(VHX-5000、株式会社キーエンス)を用いて得られたフィルムを観察し、フィラーとして用いた多糖の分散性を評価した。評価結果は、フィラーが樹脂中に良好に分散しフィラーとして確認できないものを◎、フィラーが僅かに確認できるものを○、フィラーが樹脂中で十分に分散せず多数の大きなフィラー凝集物が確認できるものを×とし、○以上の評価を合格と判断した。
【0035】
(2)結果
結果は、表3に示す通りであった。フィルム観察の結果、本願所望の性質を有する水溶性分岐多糖を配合したフィルム(試験区1~5)は、フィラーが全く確認できず、分散性は良好であった(
図1参照)。一方で、重量平均分子量は所望の範囲を満たすが吸光度が0.7を上回る(分岐度が所望の範囲を下回る)多糖であるデキストリンを配合したフィルム(試験区6)は、フィラーが樹脂中で分散せずフィラーの凝集物が確認された(
図3参照)。吸光度(分岐度合い)は所望の範囲を満たすが重量平均分子量が10000を上回る多糖であるキサンタンガムを配合したフィルム(試験区7)も、同様にフィラーが樹脂中で分散せずフィラーの凝集物が確認された。さらに、吸光度および重量平均分子量のいずれも所望の範囲を満たさない多糖であるクラスターデキストリンおよびコーンスターチを配合したフィルム(試験区8および9)も、同様にフィラーが樹脂中で分散せずフィラーの凝集物が確認された。また、参考例として多糖の代わりに単糖であるグルコースを配合したフィルム(試験区10)は、フィラーが樹脂中に良好に分散していたが、着色が著しくフィルムとして許容できないレベルであった。
【0036】
【0037】
例2:フィルム中のフィラー(多糖)の分散性評価(相溶化剤不使用)
例2では、相溶化剤不使用の場合について検討した。試験は、樹脂はHDPEを使用し、例1の量(87%)に相溶化剤不使用分(3%)を上乗せした90%とした。水溶性分岐多糖として難消化性グルカンA、難消化性デキストリンおよびポリデキストロースを使用しそれぞれの量は例1と同量(10%)としたこと以外は、例1と同様の手順で行った。
【0038】
結果は、表4に示す通りであった。フィルム観察の結果、試験区12ではわずかにフィラーが確認されたが(
図2参照)、その他の2つの試験区ではフィラーは確認されず、3つの試験区いずれも品質に問題ないフィルムが得られた。
【0039】
【0040】
例3:フィルム中のフィラー(多糖)の分散性評価(各種樹脂)
例3では、例1および2で使用したHDPE以外のポリブチレンサクシネート(三菱ケミカル株式会社)、ナイロン(ダイセルエボニック株式会社)、ポリプロピレン(サンアロマー株式会社)およびポリ乳酸(富士ケミカル株式会社)の各種樹脂を使用した場合についてそれぞれ検討した。使用する樹脂に応じて混練前の予備加熱温度および到達温度を変更した以外は例2と同様の手順で行った。
【0041】
結果は、表5に示す通りであった。フィルム観察の結果、いずれの試験区でもフィラーは確認できず、分散性は良好であり品質に問題のないフィルムが得られた。
【0042】
【0043】
例4:フィルム中のフィラー(多糖)の分散性評価(難消化性グルカンA)
例4では、水溶性分岐多糖として難消化性グルカンAの配合量を30%(HDPE配合量70%)、50%(HDPE配合量50%)とした場合についてそれぞれ検討を行った。方法は、上記配合量の変更以外は例1と同様の手順で行った。
【0044】
結果は、表6に示す通りであった。フィルム観察の結果、難消化性グルカンAを30%配合した試験区18および50%配合した試験区19のいずれもフィラーは確認できず、分散性は良好であった。但し、試験区19はフィルムの熱プレス機への付着が他の試験区と比較して見られ、作業性がやや低下した。
【0045】