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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】スラストころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/30 20060101AFI20240723BHJP
   F16C 33/34 20060101ALI20240723BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240723BHJP
   F16C 33/62 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
F16C19/30
F16C33/34
F16C33/58
F16C33/62
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019210753
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021081038
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國分 圭介
(72)【発明者】
【氏名】中島 義仁
(72)【発明者】
【氏名】若山 泰三
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真悟
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-183783(JP,A)
【文献】特開2018-194039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/30
F16C 33/34
F16C 33/58
F16C 33/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射状に配置された複数のころと、
前記複数のころが転走する軌道面を有し、前記軌道面が対向するように配置された環状の一対の軌道盤と、を備え、
前記ころは、
高炭素クロム軸受鋼からなり、
その表面粗さが、Rvkで0.01以上0.10以下、かつ、Rkで0.01以上0.08以下であり、
その表面のビッカース硬さが700以上850以下であり、
前記一対の軌道盤は、
炭素鋼からなり、
前記軌道面の表面圧縮残留応力が-1400MPa以上-1000MPa以下であり、
前記軌道面の表面のビッカース硬さが850以上900以下である、
スラストころ軸受。
【請求項2】
前記一対の軌道盤は、
前記一対の軌道面の表面粗さが、Rvkで0.05以上0.22以下、かつ、Rkで0.05以上0.15以下である、
請求項1に記載のスラストころ軸受。
【請求項3】
前記ころは、
表面から0.1mmの範囲で、炭素を0.1mass%以上0.6mass%以下含み、かつ、窒素を1.1mass%以上1.6mass%以下含み、
表面圧縮残留応力が-1200MPa以上-900MPa未満である、
請求項1または2に記載のスラストころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラストころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
放射状に配置された複数のころと、複数のころが転走する軌道面を有する環状の一対の軌道盤と、を備えたスラストころ軸受が知られている(例えば、特許文献1参照)。スラストころ軸受は、例えば車両のトランスミッションにおいて非回転部材と回転部材との間に介挿され、軸受中心軸方向のスラスト力を受けながら回転部材の回転を円滑にするために用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-239981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スラストころ軸受では、潤滑油中の油量が少ない貧潤滑環境においては、摩耗が増大しやすくなる。近年、車両のトランスミッション等に供給される潤滑油の油量は減少傾向にあり、貧潤滑環境においても、摩耗を抑制可能な耐摩耗性の高いスラストころ軸受が望まれる。
【0005】
そこで、本発明は、耐摩耗性を向上したスラストころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、放射状に配置された複数のころと、前記複数のころが転走する軌道面を有し、前記軌道面が対向するように配置された環状の一対の軌道盤と、を備え、前記ころは、高炭素クロム軸受鋼からなり、その表面粗さが、Rvkで0.01以上0.10以下、かつ、Rkで0.01以上0.08以下であり、少なくとも一方の前記軌道盤は、炭素鋼からなり、前記軌道面の表面圧縮残留応力が-1400MPa以上-1000MPa以下であり、前記軌道面の表面のビッカース硬さが850以上900以下である、スラストころ軸受を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐摩耗性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態に係るスラストころ軸受の軸受中心軸を含む断面を示す断面図である。
図2】貧潤滑環境における潤滑油の動きを説明する図である。
図3】表面粗さを表すパラメータであるRvk及びRkを説明する図である。
図4】(a)は耐摩耗性を評価する試験において温度の測定位置を説明する図であり、(b)は摩耗開始時間を説明する図である。
図5】本発明の実施例、従来例、及び比較例におけるころの各種パラメータを示す図であり、(a)はRvk、(b)はRk、(c)は硬さ、(d)は表面残留応力を示す図である。
図6】本発明の実施例、従来例、及び比較例における軌道面の各種パラメータを示す図であり、(a)はRvk、(b)はRk、(c)は硬さ、(d)は表面残留応力を示す図である。
図7】本発明の実施例、従来例、及び比較例における摩耗開始時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図7を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0010】
図1は、本実施の形態に係るスラストころ軸受の軸受中心軸を含む断面を示す断面図である。スラストころ軸受1は、放射状に配置された複数のころ2と、複数のころ2が転動する第1の軌道面3aを有する環状の第1の軌道盤3と、複数のころ2が転動する第2の軌道面4aを有する環状の第2の軌道盤4と、を備えている。第1及び第2の軌道盤3,4は、第1及び第2の軌道面3a,4aが軸受中心軸Oの軸方向に対向するように配置されている。このスラストころ軸受は、軸受中心軸Oを中心として第1の軌道盤3と第2の軌道盤4とが相対回転する。
【0011】
このスラストころ軸受1は、例えば車両のトランスミッションや産業機械において回転部材と非回転部材との間に介挿され、複数のころ2の転動により、軸方向のスラスト力を受けながら回転部材の回転を円滑にするものである。
【0012】
複数のころ2は、図1に破線で示される環状の保持器5に転動可能に保持されており、第1の軌道盤3と第2の軌道盤4との相対回転に伴って自転しつつ、保持器5に保持されることで軸受中心軸Oの周囲を公転する。第1の軌道盤3は、軸方向に対して垂直な円環状で平板状の軌道部31と、軌道部31の径方向内方の端部から軸方向一方側(図1における右側、第2の軌道盤4側)に延びる短円筒状のつば32と、を一体に有している。軌道部31の軸方向一方側の面が、第1の軌道面3aである。第2の軌道盤4は、軸方向に対して垂直な円環状で平板状の軌道部41を有している。軌道部41の軸方向他方側(図1における左側、第1の軌道盤3側)の面が、第2の軌道面4aである。本実施の形態では、第1の軌道盤3が回転部材に設けられ、第2の軌道盤4が非回転部材に設けられる。
【0013】
なお、第1及び第2の軌道盤3,4の形状は図示のものに限定されない。例えば、第1の軌道盤3におけるつば32を省略してもよいし、第2の軌道盤4が、軌道部41の径方向外方の端部から軸方向他方側に延びる短円筒状のつばを有してもよい。
【0014】
ころ2としては、耐摩耗性が高い高炭素クロム軸受鋼からなるものを用いるとよい。本実施の形態では、高炭素クロム軸受鋼に特殊熱処理を施し、表面硬度をさらに向上させたころ2を用いた。より詳細には、ころ2は、表面から0.1mmの範囲で、炭素を0.1mass%以上0.6mass%以下含み、かつ、窒素を1.1mass%以上1.6mass%以下含んでいる。本実施の形態では、ころ2の表面圧縮残留応力を、-1200MPa以上-900MPa未満とし、ころ2の表面のビッカース硬さを700以上850以下とした。なお、ころ2にショットピーニングを施すことでころ2の表面硬度をさらに向上させることも考えられるが、後述のように、ころ2にショットピーニングを施すとスラストころ軸受1の耐摩耗性が低下してしまうことが確認されており、ころ2にショットピーニングを施すことは好ましくない。第1及び第2の軌道盤3,4としては、比較的硬質で耐摩耗性が高い炭素鋼からなるものを用いた。
【0015】
図2に示すように、潤滑油6の油量が少ない貧潤滑環境においては、ころ2を介して第1及び第2の軌道面3a,4a間を潤滑油6が移動する。例えば、第1の軌道面3aに供給された潤滑油6は、ころ2の自転によってころ2の表面へと移動し、さらにころ2の表面から第2の軌道面4aへと供給される。
【0016】
このとき、ころ2の表面が粗い状態であると、ころ2の表面に潤滑油6が保持され過ぎてしまい、潤滑油6が軌道面3a,4aへと供給されにくくなってしまう。よって、ころ2の表面をできるだけ滑らかにし、ころ2が潤滑油6を保持しすぎないようにすることが望ましいといえる。また、潤滑油6が少ない状態でも軌道面3a,4aが摩耗してしまわないように、軌道面3a,4aを硬くすることが望まれる。そこで、本実施の形態では、ころ2の表面を滑らかにし、かつ、軌道盤3,4にショットピーニングを施して軌道面3a,4aの表面の硬さを高くすることで、耐摩耗性を向上させた。
【0017】
具体的には、本実施の形態では、ころ2の表面粗さを、Rvkで0.01以上0.10以下、かつ、Rkで0.01以上0.08以下とした。また、本実施の形態では、軌道盤3,4にショットピーニングを施すことにより、軌道面3a,4aの表面圧縮残留応力を-1400MPa以上-1000MPa以下とし、軌道面3a,4aの表面のビッカース硬さを850以上900以下とした。なお、本実施の形態のように、第1及び第2の軌道盤3,4の軌道面3a,4aの両方の表面残留応力及び硬さを上記数値範囲内とすることが望ましいが、第1及び第2の軌道盤3,4の少なくとも一方の軌道面3a,4aの表面残留応力及び硬さを上記数値範囲内とすることでも、従来よりも耐摩耗性を向上する効果が得られる。特に、回転部材の回転に伴って回転する第1の軌道盤3では、遠心力により潤滑油6が飛散しやすく潤滑不良が発生しやすいため、少なくとも第1の軌道盤3における第1の軌道面3aの表面残留応力及び硬さを、上記数値範囲内とすることが望ましいといえる。
【0018】
また、遠心力による潤滑油6の飛散を抑制するために、第1の軌道盤3における第1の軌道面3aの表面粗さを比較的粗くし、第1の軌道面3aに潤滑油6が保持されやすくすることがより望ましいといえる。ただし、第1の軌道面3aの表面粗さを粗くし過ぎると、潤滑油6がころ2や第2の軌道面4aへと移動しにくくなり、耐摩耗性が低下してしまうおそれが生じる。そのため、第1の軌道面3aの表面粗さは、適度に潤滑油6を保持できるよう適宜な粗さに調整されることが望ましい。本実施の形態では、第1の軌道面3aの表面粗さを、Rvkで0.05以上0.22以下、かつ、Rkで0.05以上0.15以下とした。なお、本実施の形態では、第1及び第2の軌道面3a,4aの両方について、表面粗さを、Rvkで0.05以上0.22以下、かつ、Rkで0.05以上0.15以下とした。なお、ころ2や軌道面3a,4aの表面粗さは、例えばバレル研磨等の研磨工程における研磨条件により適宜調整することができる。また、軌道面3a,4aの表面圧縮残留応力及び表面のビッカース硬さについては、ショットピーニングの条件により適宜調整することができる。
【0019】
ここで、表面粗さを表すRvk及びRkは、プラトー構造表面の潤滑性評価パラメータ(負荷曲線パラメータ)である。図3に示すように、表面凹凸の負荷曲線71における中央部の最も緩い傾斜となる等価直線72が、負荷長さ率0%及び100%と交わる高さ位置の間の領域をコア部73とする。このコア部73の高さ(上下のレベル差)がRkである。Rvkは、突出谷部74の深さを表している。
【0020】
(耐摩耗性の評価)
本実施の形態に係るスラストころ軸受1を試作して実施例とし、耐摩耗性を評価した。
実施例にかかるスラストころ軸受1は、以下のように製造した。JISSUJ2の棒線を切断し、実施例のころのワークとした。カーボンポテンシャル1.2~1.6、アンモニア濃度0.1~0.5vol%の雰囲気とし、820~870℃の温度で実施例のころのワークを1時間保持することで浸炭窒化し、この後、80℃の油中に浸漬して急冷して焼入れした。焼入れ後、200℃で1時間焼戻しを行い、その後、研磨し、バレル研磨を2時間行い、実施例のころ2とした。実施例のころ2の表面から0.1mmの範囲で、炭素は1.1mass%~1.6mass%であり、窒素は0.1~0.6mass%である。SAE1075の鋼板を環状に打ち抜き、鍛造して実施例の第1の軌道盤のワークと実施例の第2の軌道盤のワークとを制作した。760~830℃の温度で実施例の第1の軌道盤のワークと実施例の第2の軌道盤のワークをと0.5時間保持し、80℃の油中に浸漬して急冷して焼入れした。焼入れ後、200℃で1時間焼戻し、この後、ショットピーングを施し、研磨し、バレル研磨を5時間行い、実施例の第1の軌道盤3と実施例の第2の軌道盤4とした。ショットピーニングの条件は、以下のとおりである。
・ショット粒径:100μm以下
・ショット粒材質:鉄
・ショット圧:0.5MPa
SPCDの鋼板を環状かつポケットとなる部分を除去するよう打ち抜き、保持器5とした。実施例のころ2と実施例の第1の軌道盤3と実施例の第2の軌道盤4と保持器5とを組み合わせてスラストころ軸受1を製造し、これを実施例のスラストころ軸受1とした。
【0021】
図4(a)に示すように、第1及び第2の軌道盤3,4を治具80に取り付け、軸方向荷重を9kN、回転速度を2000rpmとし、第1の軌道面3aに潤滑油6を0.05g滴下して試験を行った。試験では、図4(a)にAで示す領域、すなわち第2の軌道盤4を保持する治具80の背面の温度を測定し、当該温度が80度まで上昇した時点で試験を終了した。
【0022】
図4(b)は、上記試験で測定される温度の時間変化を示している。図4(b)に示すように、この温度の時間変化は、試験開始後徐々に温度が昇温する第1領域と、温度が略一定となり安定した第2領域と、摩耗が生じ温度が上昇する第3領域とに分けることができる。この第3領域の開始時間を摩耗開始時間とする。本実施形態では、この摩耗開始時間により、耐摩耗性の評価を行った。試験回数は3回とした。
【0023】
また、実施例との比較のために、高炭素クロム軸受鋼の焼入れ焼戻し材からなるころ2を用い、ころ2や軌道面3a,4aの表面粗さの調整やショットピーニングを施さない従来例のスラストころ軸受を作成し、実施例と同様に耐摩耗性の評価を行った。
【0024】
従来例にかかるスラスト転軸受1は、以下のように製造した。JISSUJ2の棒線を切断し、従来例のころのワークとした。820~850℃の温度で従来例のころのワークを0.5時間保持し、この後、80℃の油中に浸漬して急冷して焼入れした。焼入れ後、200℃で1時間焼戻しを行い、研磨し、バレル研磨を1時間行い、従来例のころ2とした。SAE1075の鋼板を環状に打ち抜き、鍛造して従来例の第1の軌道盤のワークと従来例の第2の軌道盤のワークとを制作した。760~830℃の温度で従来例の第1の軌道盤のワークと従来例の第2の軌道盤のワークをと0.5時間保持し、80℃の油中に浸漬して急冷して焼入れした。焼入れ後、200℃で1時間焼戻し、この後、研磨し、バレル研磨を1時間行い、従来例の第1の軌道盤3と従来例の第2の軌道盤4とした。SPCDの鋼板を環状かつポケットとなる部分を除去するよう打ち抜き、保持器5とした。従来例のころ2と従来例の第1の軌道盤3と従来例の第2の軌道盤4と保持器5とを組み合わせてスラストころ軸受1を製造し、これを従来例のスラストころ軸受1とした。
【0025】
さらに、ころ2として実施例と同じものを用い、軌道面3a,4aの表面粗さの調整のみを行いショットピーニングを施さない比較例1、及び、ころ2にショットピーニングを施した高炭素クロム軸受鋼を用い、軌道盤3,4として実施例と同じものを用いた比較例2のスラストころ軸受を作成し、実施例と同様に耐摩耗性の評価を行った。
【0026】
比較例1にかかるスラスト転軸受1は、以下のように製造した。JISSUJ2の棒線を切断し、比較例1のころのワークとした。カーボンポテンシャル1.2~1.6、アンモニア濃度0.1~0.5vol%の雰囲気とし、820~870℃の温度で比較例1のころのワークを1時間保持することで浸炭窒化し、この後、80℃の油中に浸漬して急冷して焼入れした。焼入れ後、200℃で1時間焼戻しを行い、その後、研磨し、バレル研磨を2時間行い、比較例1のころ2とした。比較例1のころ2の表面から0.1mmの範囲で、炭素は1.1mass%~1.6mass%であり、窒素は0.1~0.6mass%である。SAE1075の鋼板を環状に打ち抜き、鍛造して比較例1の第1の軌道盤のワークと比較例1の第2の軌道盤のワークとを制作した。760~830℃の温度で比較例1の第1の軌道盤のワークと比較例1の第2の軌道盤のワークをと0.5時間保持し、80℃の油中に浸漬して急冷して焼入れした。焼入れ後、200℃で1時間焼戻し、この後、研磨し、バレル研磨を5時間行い、比較例1の第1の軌道盤3と比較例1の第2の軌道盤4とした。SPCDの鋼板を環状かつポケットとなる部分を除去するよう打ち抜き、保持器5とした。比較例1のころ2と比較例1の第1の軌道盤3と比較例1の第2の軌道盤4と保持器5とを組み合わせてスラストころ軸受1を製造し、これを比較例1ののスラストころ軸受1とした。
【0027】
比較例2にかかるスラストころ軸受1は、以下のように製造した。JISSUJ2の棒線を切断し、比較例2のころのワークとした。カーボンポテンシャル1.2~1.6、アンモニア濃度0.1~0.5vol%の雰囲気とし、820~870℃の温度で比較例2のころのワークを1時間保持することで浸炭窒化し、この後、80℃の油中に浸漬して急冷して焼入れした。焼入れ後、200℃で1時間焼戻しを行い、その後、ショットピーングを施し、研磨し、バレル研磨を2時間行い、比較例2のころ2とした。比較例2のころ2の表面から0.1mmの範囲で、炭素は1.1mass%~1.6mass%であり、窒素は0.1~0.6mass%である。ショットピーニングの条件は、以下のとおりである。
・ショット粒径:100μm以下
・ショット粒材質:鉄
・ショット圧:0.5MPa
SAE1075の鋼板を環状に打ち抜き、鍛造して比較例2の第1の軌道盤のワークと比較例2の第2の軌道盤のワークとを制作した。760~830℃の温度で比較例2の第1の軌道盤のワークと比較例2の第2の軌道盤のワークをと0.5時間保持し、80℃の油中に浸漬して急冷して焼入れした。焼入れ後、200℃で1時間焼戻し、この後、ショットピーングを施し、研磨し、バレル研磨を5時間行い、比較例2の第1の軌道盤3と比較例2の第2の軌道盤4とした。ショットピーニングの条件は、以下のとおりである。
・ショット粒径:100μm以下
・ショット粒材質:鉄
・ショット圧:0.5MPa
SPCDの鋼板を環状かつポケットとなる部分を除去するよう打ち抜き、保持器5とした。比較例2のころ2と比較例2の第1の軌道盤3と比較例2の第2の軌道盤4と保持器5とを組み合わせてスラストころ軸受1を製造し、これを比較例2のスラストころ軸受1とした。
【0028】
表1に示すように、比較例1は、軌道盤3,4にショットピーニングを施さない以外は実施例と同じであり、比較例2は、ころ2にショットピーニングを施した以外は実施例と同じである。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例、従来例、及び比較例1,2におけるころ2表面のRvkを図5(a)に、Rkを図5(b)に、ころ2表面のビッカース硬さを図5(c)に、ころ2の表面残留応力を図5(d)にそれぞれ示す。また、実施例、従来例、及び比較例1,2における軌道盤3,4の軌道面3a,4a表面におけるRvkを図6(a)に、Rkを図6(b)に、軌道面3a,4aのビッカース硬さを図6(c)に、軌道面3a,4aの表面残留応力を図6(d)にそれぞれ示す。
【0031】
図5(a)に示すように、ころ2表面のRvkは、従来例では0.1より大きくなっているのに対し、表面粗さを改善した実施例及び比較例1,2では0.01以上0.10以下である。また、図5(b)に示すように、ころ2表面のRkは、従来例では0.1より大きくなっているのに対し、表面粗さを改善した実施例及び比較例1,2では0.01以上0.08以下である。このように、本発明による実施例(及び比較例1,2)は、従来例と比較してころ2の表面のRvkとRkが共に小さく、表面粗さが小さい。
【0032】
また、図5(c)に示すように、ころ2表面のビッカース硬さは、ショットピーニングを施した比較例1で850より大きくなっているサンプルがあるのに対して、ショットピーニングを施していない実施例(及び比較例2)では700以上850以下となっている。さらに、図5(d)に示すように、ころ2の表面圧縮残留応力は、従来例では-900MPaであり、比較例1では-1200より小さくなっているのに対し、実施例(及び比較例2)では、-1200MPa以上-900MPa未満となっている。つまり、本発明による実施例(及び比較例2)は、従来例と比較例2の中間の表面圧縮残留応力を有している。
【0033】
また、図6(a)に示すように、軌道面3a,4aの表面のRvkは、従来例では0.22より大きくなっているのに対し、表面粗さを改善した実施例及び比較例1,2では0.05以上0.22以下である。さらに、図6(b)に示すように、軌道面3a,4aの表面のRkは、従来例では0.2以上となっているのに対し、実施例では0.05以上0.15以下である。このように、本発明による実施例(及び比較例1,2)は、従来例と比較して軌道面3a,4aの表面のRvkとRkが共に小さく、表面粗さが小さい。
【0034】
また、図6(c)に示すように、軌道面3a,4a表面のビッカース硬さは、ショットピーニングを施していない従来例及び比較例では850未満となっているのに対し、ショットピーニングを行った実施例及び比較例2では850以上900以下となっている。さらに、図6(d)に示すように、軌道面3a,4aの表面圧縮残留応力は、ショットピーニングを施していない従来例及び比較例1では-600MPa以下となっているのに対し、実施例(及び比較例2)では、-1400MPa以上-1000MPa以下となっている。つまり、本発明による実施例(及び比較例2)は、従来例及び比較例1と比較して軌道面3a,4aの表面が硬く、表面圧縮残留応力の絶対値が大きくなっている。
【0035】
実施例、従来例、及び比較例1,2の摩耗開始時間の測定結果を図7に示す。図7の測定結果は、3回の試験の平均値を表している。図7に示すように、比較例1では、ころ2の表面粗さを改善することで従来例と比較して若干摩耗開始時間が長くなっているものの、軌道面3a,4aの硬さが不足し摩耗が大きくなっていると考えられる。比較例2では、ころ2にショットピーニングを施すことで、軌道面3a,4aが相対的に摩耗しやすくなり、十分な摩耗開始時間が得られなかったと考えらえる。これに対して、本発明による実施例では、摩耗開始時間が従来例と比較して5倍以上となっており、貧潤滑環境における耐摩耗性が大幅に向上していることが分かる。
【0036】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るスラストころ軸受1では、ころ2は、高炭素クロム軸受鋼からなり、その表面粗さが、Rvkで0.01以上0.10以下、かつ、Rkで0.01以上0.08以下であり、少なくとも一方の軌道盤3,4は、炭素鋼からなり、軌道面3a,4aの表面圧縮残留応力が-1400MPa以上-1000MPa以下であり、軌道面3a,4aの表面のビッカース硬さが850以上900以下である。
【0037】
ころ2の表面粗さを小さくすることで、ころ2の自転により第1及び第2軌道面3a,4a間で潤滑油6が循環しやすくなり、貧潤滑環境においても、耐摩耗性を向上させることができる。さらに、ショットピーニングにより軌道面3a,4aの表面の硬さを高めることで、潤滑油6が非常に少ない状態でも摩耗を抑制し、耐摩耗性をより向上させることが可能になる。
【0038】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0039】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、周方向に1列にころ2を配置する場合を説明したが、ころ2の配置はこれに限定されず、例えば、ころ2を2列以上に配置してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1…スラストころ軸受 2…ころ
3…第1の軌道盤 3a…第1の軌道面
31…軌道部 32…つば
4…第2の軌道盤 4a…第2の軌道面
41…軌道部 5…保持器
6…潤滑油 71…負荷曲線
72…等価直線 73…コア部
74…突出谷部 80…治具
O…軸受中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7