(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ヒートシンク付き絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
H01L23/36 C
(21)【出願番号】P 2020010666
(22)【出願日】2020-01-27
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】湯本 遼平
(72)【発明者】
【氏名】北原 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】村中 亮
(72)【発明者】
【氏名】長友 義幸
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-021406(JP,A)
【文献】特開2015-211125(JP,A)
【文献】特開2017-126681(JP,A)
【文献】特開2018-056275(JP,A)
【文献】特開2016-072563(JP,A)
【文献】特開2018-200908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L23/29
H01L23/34 -23/36
H01L23/373-23/427
H01L23/44
H01L23/467-23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に回路層が形成されるとともに、前記セラミックス基板の他方の面に金属層が形成されてなる絶縁回路基板における金属層とヒートシンクとが接合されたヒートシンク付き絶縁回路基板であって、前記回路層は、前記セラミックス基板に接合された第1回路層と、前記第1回路層の前記セラミックス基板とは反対側の面に接合され、厚さ1.5mm以上5.0mm以下の銅又は銅合金からなる第2回路層と、を有し、前記ヒートシンクは、
板材と、該板材の前記金属層との接合面とは反対側の面から突出する複数のフィン
とを有し、前記回路層及び前記金属層は、平面視で前記ヒートシンクよりも小さく、かつ、前記ヒートシンクにおける前記複数のフィンが形成されたフィン領域よりも大きく形成され、かつ、前記金属層と前記ヒートシンクとの接合面の外周端から前記フィン領域の外周端までの前記絶縁回路基板と前記ヒートシンクとの積層方向に直交する方向の距離が8mm以下であり、
前記金属層は、前記セラミックス基板に接合された第1金属層と、前記第1金属層の前記セラミックス基板とは反対側の面に接合され、銅又は銅合金からなる第2金属層と、を有し、
前記第1回路層、前記第1金属層及び前記ヒートシンクは、アルミニウム又はアルミニウム合金からなることを特徴とするヒートシンク付き絶縁回路基板。
【請求項2】
前記セラミックス基板の厚さは0.2mm以上1.2mm以下、前記第1回路層の厚さは0.4mm以上1.6mm以下、第1金属層の厚さは0.4mm以上1.6mm以下、第2金属層の厚さは0.1mm以上5.0mm以下であ
り、前記ヒートシンクの前記板材の厚さは0.5mm以上1.5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーモジュール基板等の絶縁回路基板にヒートシンクが接合されたヒートシンク付き絶縁回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁回路基板として、窒化アルミニウムを始めとするセラミックス基板からなる絶縁層の一方の面に回路層が接合されるとともに、他方の面に金属層を介してヒートシンクが接合されたヒートシンク付き絶縁回路基板が知られている。
例えば、特許文献1には、セラミックス基板の一方の面に回路層が接続されるとともに、他方の面に金属層が接合され、この金属層に接合された放熱板を介してヒートシンクが接合されたヒートシンク付き絶縁回路基板が開示されている。また、特許文献2には、セラミックス基板の一方の面に複数の小回路層からなる回路層が接合されるとともに、他方の面に一枚の金属層を介して一枚のヒートシンクが接合されたヒートシンク付き絶縁回路基板が開示されている。これら特許文献1及び2に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板のヒートシンクの形状としては、多数のピン状フィンが設けられたものや、複数の流路が形成されたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-189421号公報
【文献】特開2017-73483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、パワーモジュールの高出力化に伴い、上記特許文献1及び2に開示されているヒートシンク付き絶縁回路基板の回路層及び金属層の面積を拡大することが求められている。しかしながら、絶縁回路基板の回路層及び金属層の面積を拡大すると、ヒートシンクも大型化する必要がある。さらに、ヒートシンクを大型化すると、これに取り付けられる部品の大型化を招く。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ヒートシンクの大型化を抑制できるヒートシンク付き絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板は、セラミックス基板の一方の面に回路層が形成されるとともに、前記セラミックス基板の他方の面に金属層が形成されてなる絶縁回路基板における金属層とヒートシンクとが接合されたヒートシンク付き絶縁回路基板であって、前記回路層は、前記セラミックス基板に接合された第1回路層と、前記第1回路層の前記セラミックス基板とは反対側の面に接合され、厚さ1.5mm以上5.0mm以下の銅又は銅合金からなる第2回路層と、を有し、前記ヒートシンクは、前記金属層との接合面とは反対側の面から突出する複数のフィンを有し、前記回路層及び前記金属層は、平面視で前記ヒートシンクにおける前記複数のフィンが形成されたフィン領域よりも大きく形成され、かつ、前記金属層と前記ヒートシンクとの接合面の外周端から前記フィン領域の外周端までの前記絶縁回路基板と前記ヒートシンクとの積層方向に直交する方向の距離が8mm以下である。
【0007】
ここで、上記特許文献1及び2に開示されているヒートシンク付き絶縁回路基板のヒートシンクの絶縁回路基板の反対側の面に複数のフィンを設けた構造が知られている。このヒートシンクの反対側の面における複数のフィンが形成された領域(以下、フィン領域という)の面積は、絶縁回路基板の面積よりも大きく形成されるのが一般的である。近年、フィン領域の面積を絶縁回路基板の面積よりも大きくすることが考えられている。しかしながら、絶縁回路基板の回路層及び金属層の面積を、ヒートシンクのフィン領域よりも拡大すると、一般的に絶縁回路基板に形成される1.2mm程度の厚さの回路層では、剛性が十分でないため、絶縁回路基板とヒートシンクとの接合時に積層方向に加圧される際にフィン(ヒートシンク)が曲がる可能性がある。この点、回路層を厚くして剛性を高めれば、押圧時にヒートシンクを曲がりにくくすることはできるが、フィン領域の面積が絶縁回路基板の面積に比べてあまりに小さいと、フィン領域の外周端を起点として、絶縁回路基板及びヒートシンクが曲がる場合がある。
【0008】
これに対し、本発明では、銅又は銅合金からなる第2回路層が1.5mm以上5.0mm以下と厚いことから、第2回路層の剛性(変形抵抗)が大きく、かつ、金属層とヒートシンクとの接合面の外周端からフィン領域の外周端までの距離が8mm以下に設定されていることから、絶縁回路基板とヒートシンクとを接合する際に、これらを積層方向に押圧しても絶縁回路基板及びヒートシンクがフィン領域の外周端を起点として曲がることがない。このため、絶縁回路基板の回路層に半導体素子をはんだ付けする場合に、セラミックス基板が割れることを抑制できる。さらに、第2回路層が厚く形成されているので、第2回路層からの放熱が可能となる。このため、絶縁回路基板の回路層及び金属層を拡大しつつ、ヒートシンクの大型化を抑制できる。
【0009】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の好ましい態様としては、前記金属層は、前記セラミックス基板に接合された第1金属層と、前記第1金属層の前記セラミックス基板とは反対側の面に接合され、銅又は銅合金からなる第2金属層と、を有し、前記第1回路層、前記第1金属層及び前記ヒートシンクは、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるとよい。
【0010】
上記態様では、第1回路層及び第1金属層をセラミックス基板に形成した後、第2回路層、第2金属層及びヒートシンクの接合を固相拡散接合により一度に実行できる。また、第2金属層及びヒートシンクの厚さを調整することで、セラミックス基板の両面の構成を同じとすることができるので、絶縁回路基板の反りを抑制でき、上記セラミックス基板の割れを確実に抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヒートシンクの大型化を抑制しつつ、絶縁回路基板のセラミックス基板の割れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板を用いたパワーモジュールを示す断面図である。
【
図2】
図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の一部を拡大して示す拡大図である。
【
図3】
図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法における第1接合工程を説明する断面図である。
【
図4】
図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法における第2接合工程を説明する断面図である。
【
図5】
図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法における第2接合工程を説明する断面図である。
【
図6】上記実施形態におけるパワーモジュールのケースへの取り付け例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
[ヒートシンク付き絶縁回路基板の概略構成]
本発明に係るヒートシンク付き絶縁回路基板1は、
図1に示すように、絶縁回路基板10に、複数のフィンが立設されたフィン一体型のヒートシンク20が接合されたものである。
【0015】
[パワーモジュールの構成]
そして、このヒートシンク付き絶縁回路基板1の表面に半導体素子30が搭載されて、パワーモジュール100が製造される。
なお、フィン一体型のヒートシンク20を備えるパワーモジュール100は、例えば
図6に示すようなケース40に取り付けられた状態で使用される。このケース40は、複数のピン状フィン25を内部に挿入状態として取り付けるための開口部41が形成されるとともに、その開口部41の周囲を囲むようにパッキン収容溝42が形成されている。そして、パッキン収容溝42の外側にねじ穴43が形成されており、ヒートシンク20をピン状フィン25が下方を向くように配置することにより開口部41内に挿入し、開口部41の周囲にパッキン50を介して密接させ、ねじ止めにより固定する構成とされる。
図6に示す例では、2個のヒートシンク付き絶縁回路基板1(パワーモジュール100)が取り付けられるようになっており、白抜き矢印で示すように、ケース40の内部に冷却媒体が流通して挿入状態のピン状フィン25を冷却するようになっている。
【0016】
[絶縁回路基板の構成]
ヒートシンク付き絶縁回路基板を構成する絶縁回路基板10は、セラミックス基板11と、セラミックス基板11の一方の面に積層された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に積層された金属層13とを備える。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13の間の電気的接続を防止する絶縁材であって、例えば窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)等により形成され、矩形板状に形成されている。このセラミックス基板11は、回路層12及び金属層13よりも若干大きく形成され、その厚さw1は、0.2mm~1.2mmに設定されている。
【0017】
回路層12は、セラミックス基板11よりも若干小さい矩形板状に形成されている。この回路層12は、
図1に示す例では、2つの小回路層により構成され、その上にそれぞれ半導体素子30が配置されている。なお、回路層12は、2つの小回路層に限らず、3つ以上の小回路層から構成されてもよいし、1つの回路層からなってもよい。また、以下の説明において、回路層12の面積とは、2つの小回路層の面積の総和ではなく、回路層12を平面視で1つの矩形状の層として見た場合における縦寸法×横寸法から求められる面積をいう。
このような回路層12は、セラミックス基板11に接合される第1回路層121と、第1回路層121の上面に接合される第2回路層122とを備えている。
【0018】
これらのうち第1回路層121は、純度99質量%以上の純アルミニウムが用いられ、JIS規格では1000番台の純アルミニウム、特に1N90(純度99.9質量%以上:いわゆる3Nアルミニウム)又は1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。一方、第2回路層122は、無酸素銅等の銅又はジルコニウム添加銅合金等の銅合金により構成されている。例えば、第1回路層121の厚さw2は、0.4mm~1.6mmに設定され、第2回路層121の厚さw3は、1.5mm~5.0mmに設定されている。
【0019】
金属層13は、セラミックス基板11よりも若干小さい矩形板状に形成されている。この金属層13は、セラミックス基板11に接合される第1金属層131と、第1金属層131に接合される第2金属層132と、を備えている。
これらのうち、第1金属層131は、純度99質量%以上の純アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられ、JIS規格では1000番台のアルミニウム、特に1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。一方、第2金属層132は、無酸素銅等の純銅又はジルコニウム添加銅合金等の銅合金により構成されている。例えば、第1金属層131の厚さw4は、0.4mm~1.6mmに設定され、第2金属層132の厚さw5は、0.1mm以上5.0mm以下に設定されている。
【0020】
そして、これら回路層12(第1回路層121)及び金属層13(第1金属層131)は、セラミックス基板11との間に、例えばAl-Si系、Al-Ge系、Al-Cu系、Al-Mg系、Al-Mn系、又はAl-Si-Mg系のろう材を介して積層し、これらを積層方向に加圧して加熱することにより形成される。また、第2回路層122及び第2金属層132は、第1回路層121及び第1金属層131のセラミックス基板11とは反対側の面に固相拡散接合されることにより形成される。
【0021】
[ヒートシンクの構成]
この絶縁回路基板10に接合されるヒートシンク20は、A6063系等のアルミニウム合金からなる板材により形成される。このヒートシンク20の表面に第1金属層131が接合されたセラミックス基板11を第2金属層132を介して積層し、これらを積層方向に加圧して加熱することにより絶縁回路基板10にヒートシンク20が接合される。
【0022】
例えば、ヒートシンク20の外径は、平面視で160mm×120mmとされ、絶縁回路基板10(セラミックス基板11)は、平面視で143mm×88mm、回路層12及び金属層13は、平面視で139mm×84mmとされている。これらのうち、回路層12は、複数の領域に分割されている。また、ヒートシンク20における複数のピン状フィン25が形成されたフィン領域Ar1は、130mm×75mmとされている。すなわち、回路層12及び金属層13は、フィン領域Ar1よりも大きく形成されている。なお、ヒートシンク上に絶縁回路基板10が複数存在していてもよい。
【0023】
このため、絶縁回路基板10を接合すると、
図2に示すように、フィン領域Ar1の外周端よりも外側に金属層13の外周端が位置することとなる。この絶縁回路基板10の回路層12及び金属層13の面積をフィン領域Ar1の面積よりも大きく拡大すると、絶縁回路基板10とヒートシンク20との接合時に、絶縁回路基板10及びヒートシンク20が曲がるおそれがある。このため、本実施形態では、金属層13とヒートシンク20との接合面の外周端からフィン領域Ar1の外周端までの絶縁回路基板10とヒートシンク20との積層方向に直交する方向の距離w6を8mm以下に設定している。
なお、上記距離w6は、1.0mm~5.0mmとすることがより好ましい。また、ヒートシンク20の厚さh2は、0.5mm~1.5mmに設定されている。
【0024】
また、このヒートシンク20の下面201の中央部分には、複数のピン状フィン25が立設され、このピン状フィン25の先端位置は水平面上に揃えられ、下面201の表面からほぼ等しい立設高さとなるように形成されている。例えば、ピン状フィン25の高さ寸法h4は、2.0mm~10.0mmに設定されている。
【0025】
なお、このようなヒートシンク20の外周縁には、例えば
図6に示すように、ケース40等の各種機器への取り付けの際にねじ止めを行うための締結穴26が形成されている。
また、ヒートシンク20に立設されるフィンの形状は特に限定されるものではなく、本実施形態のようなピン状フィン25の他、ひし形フィンや帯板状のフィン等を形成することもできる。
【0026】
なお、パワーモジュール100を構成する半導体素子30は、必ずしも限定されるものではないが、回路層12(2つの小回路層)の表面に形成されたNiめっき(不図示)上に、Sn‐Ag‐Cu系、Zn‐Al系、Sn‐Ag系、Sn‐Cu系、Sn‐Sb系もしくはPb‐Sn系等のはんだ材31を用いて接合される。また、半導体素子30と回路層12の端子部との間は、アルミニウムからなるボンディングワイヤ(不図示)により接続される。
【0027】
[ヒートシンク付絶縁回路基板の製造方法]
次に、本実施形態のヒートシンク付き絶縁回路基板1の製造方法について説明する。
その製造方法は、セラミックス基板11に第1回路層用金属板121a及び第1金属層用金属板131aを接合して、セラミックス基板11に第1回路層121及び第1金属層131を形成する第1接合工程と、第1回路層121上に第2回路層用金属板122aを接合して第2回路層122を形成するとともに、第1金属層131とヒートシンク20とを第2金属層用金属板132aにより接合して、第2金属層132を形成する第2接合工程とからなる。以下、この工程順に説明する。
【0028】
(第1接合工程)
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる2枚の第1回路層用金属板121a、セラミックス基板11、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1金属層用金属板131aを、
図3に示すように、それぞれAl-Si系、Al-Ge系、Al-Cu系、Al-Mg系、Al-Mn系、又はAl-Si-Mg系ろう材箔14を介して積層する。そして、積層体を積層方向に加圧した状態で加熱した後、冷却することにより、セラミックス基板11の一方の面に第1回路層用金属板121a、他方の面に第1金属層用金属板131aが接合されて、第1回路層121及び第1金属層131となる。ろう材箔14は、加熱により溶融し、第1回路層用金属板121aや第1金属層用金属板131a中に拡散して、これらをセラミックス基板11と強固に接合する。
【0029】
このときの接合条件は、必ずしも限定されるものではないが、真空雰囲気中で、積層方向の加圧力が0.3MPa~1.5MPaで、630℃以上655℃以下の加熱温度に20分以上120分以下保持するのが好適である。
なお、本実施形態では、ろう材箔14を用いることとしたが、これに限らず、ろう材ペーストを用いてもよい。この場合、ろう材ペーストは、セラミックス基板11に塗布してもよいし、第1回路層用金属板121a及び第1金属層用金属板131aに塗布してもよい。
【0030】
(第2接合工程)
そして、
図4に示すように、セラミックス基板11に形成された第1回路層121上に銅又は銅合金からなる2枚の第2回路層用金属板122aをそれぞれ積層するとともに、第1金属層131とヒートシンク20との間に、銅又は銅合金からなる第2金属層用金属板132aを配置して積層体を形成する。そして、
図5に示すように、真空雰囲気化でこの積層体を積層方向に加圧板61,62により挟持して加圧した状態で加熱した後、冷却することにより、第1回路層121上に第2回路層122が形成されるとともに、第1金属層131上に第2金属層132が形成され、この第2金属層132とヒートシンク20とが接合される。
【0031】
すなわち、第1回路層121、第1金属層131及びヒートシンク20がアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、第2回路層用金属板122a及び第2金属層用金属板132aが銅又は銅合金からなるため、これらは固相拡散接合する。このときの接合条件は、必ずしも限定されるものではないが、真空雰囲気中で、積層方向の加圧力が0.5MPa~2.0MPaで、500℃~540℃の加熱温度に30分~240分保持するのが好適である。
なお、金属層13の接合面及びヒートシンク20の接合面は、予め傷が除去されて平滑にされた後に固相拡散接合されるとよい。
【0032】
そして、上記製造方法により製造されたヒートシンク付き絶縁回路基板1の回路層12の表面に半導体素子30が搭載され、パワーモジュール100が製造される。
【0033】
ここで、絶縁回路基板10の回路層12及び金属層13の面積を、ヒートシンク20のフィン領域Ar1よりも大きく拡大すると、絶縁回路基板10とヒートシンク20との接合時に積層方向に加圧されることにより、フィン領域Ar1の外周端P1を起点として、絶縁回路基板10及びヒートシンク20が曲がる場合がある。これに対し、本実施形態では、金属層13とヒートシンク20との接合面の外周端からフィン領域Ar1の外周端P1までの絶縁回路基板10とヒートシンク20と距離w6を8mm以下に設定している。このため、第2接合工程において、絶縁回路基板10及びヒートシンク20がフィン領域Ar1の外周端P1を起点として曲がることを抑制している。
【0034】
これにより、セラミックス基板11の一方の面に複数の領域に分割された回路層12(第1回路層121及び第2回路層122)が形成され、他方の面に金属層13(第1金属層131及び第2金属層132)が形成された絶縁回路基板10が形成されるとともに、ヒートシンク20が絶縁回路基板10に接合される。
【0035】
上記実施形態のヒートシンク付き絶縁回路基板1では、銅又は銅合金からなる第2回路層122が1.5mm以上5.0mm以下と厚いことから、第2回路層122の剛性(変形抵抗が大きく)、かつ、金属層13とヒートシンク20との接合面の外周端からフィン領域Ar1の外周端までの距離w6が8mm以下に設定されていることから、絶縁回路基板10とヒートシンク20とを接合する際に、これらを積層方向に押圧してもフィン領域Ar1の外周端P1を起点として、絶縁回路基板10及びヒートシンク20が曲がることがない。このため、絶縁回路基板10の回路層12に半導体素子30をはんだ付けする際に、セラミックス基板11が割れることを抑制できる。また、第2回路層122が厚く形成されていることから、第2回路層122からの放熱が可能となる。このため、絶縁回路基板10の回路層12及び金属層13を拡大しつつ、ヒートシンク20の大型化を抑制できる。
【0036】
また、回路層12が第1回路層121及び第2回路層122からなり、金属層13が第1金属層131及び第2回路層132からなるので、ヒートシンク20の厚さh2及び第2金属層132の厚さw5を調整することで、セラミックス基板11の両面に形成された回路層12と金属層13との構成を略同じとでき、絶縁回路基板10が反ることを抑制できる。このため、上記セラミックス基板の割れを確実に抑制できる。さらに、第1回路層121及び第1金属層131をセラミックス基板11に形成した後、第2回路層用金属板122a、第2金属層用金属板132a及びヒートシンク20の接合を固相拡散接合により、一度に実行できる。
【0037】
その他、細部構成は上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、第1回路層121及び第1金属層131は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなることとしたが、これに限らず、第1回路層121及び第1金属層131は、銅又は銅合金からなることとしてもよい。
また、金属層13は、第1金属層131及び第2金属層132からなることとしたが、これに限らず、1つの金属層であってもよい。この場合、金属層13とヒートシンク20とを接合する際には、Al-Si系、Al-Ge系、Al-Cu系、Al-Mg系、Al-Mn系、又はAl-Si-Mg系ろう材箔を介して接合すればよい。
【実施例】
【0038】
実施例1~3及び比較例1~3では、143mm×88mm、厚さ0.32mmの窒化珪素(Si3N4)からなるセラミックス基板の上面に、139mm×84mm、厚さ0.9mmの純アルミニウムからなる第1回路層が形成され、第1回路層の上面に139mm×84mm、表1に示す厚さの無酸素銅からなる第2回路層が形成されるとともに、セラミックス基板の下面に、139mm×84mm、厚さ0.9mmのアルミニウムからなる第1金属層が形成され、第1金属層の下面に139mm×84mm、厚さ0.1mmの無酸素銅からなる第2金属層が形成された絶縁回路基板を用いた。
なお、セラミックス基板と第1回路層及び第1金属層との接合は、それぞれAl-Si系ろう材箔をこれらの間に積層して、真空雰囲気中で、積層方向の加圧力を1.2MPaで、645℃の加熱温度で、30分保持することにより接合した。また、第1金属層と第2金属層との接合、第1回路層と第2回路層との接合、及び、第2金属層とヒートシンクとの接合については、これらを重ねて真空雰囲気中で、積層方向の加圧力を1.2MPaで、515℃で120分保持することにより、一度に固相拡散接合した。
【0039】
実施例1~3及び比較例1~3では、ヒートシンクとして、160mm×120mm、厚さ(h2)0.5mmのA6063合金からなるヒートシンクを用い、実施例1~3及び比較例1~3の試料(
図1に示す形状の試料)とした。
これら実施例1~3及び比較例1~3のいずれにおいても、ヒートシンクの絶縁回路基板との接合面とは反対側の面における高さ4.6mmのピン状フィンが複数形成されるフィン領域の面積を130mm×75mmとした。
そして、上述した実施例1~3及び比較例1~3の各試料について、曲がり評価及び冷熱サイクル信頼性を評価した。
【0040】
(曲がり評価)
絶縁回路基板とヒートシンクとの接合後において、回路層(第2回路層)の表面を、第2回路層の中心から外端部に向かってレーザー顕微鏡(キーエンス社製VR5200)を用い、高さを測定した。この測定結果において、最も高い箇所と、最も低い箇所の差が2μm以上あった場合を不可「×」と評価し、それ以外を良好「○」と評価し、その結果を表1に示した。
【0041】
(冷熱サイクル信頼性)
絶縁回路基板とヒートシンクとの接合後のヒートシンク付き絶縁回路基板に対し、液相冷熱サイクル試験を行った。-40℃~150℃、2000サイクルの条件で冷熱サイクル試験を行い、試験後のセラミックス基板を目視で観察した。また、セラミックス基板と第1回路層との接合率は、得られた試料について、セラミックス基板と第1回路層とのAl/SiN界面の接合率を評価した。この接合率は、接合面の超音波探傷像を二値化処理して、剥離部分を除く接合された面積を求め、これを接合すべき界面の面積(Alの面積)で割った比率とした。
この際、セラミックス基板にクラックが生じているか、もしくは、接合率が80%以下の場合を不可「×」と評価し、クラックがなく、かつ、接合率が80%を超えている場合を良好「○」と評価し、その結果を表1に示した。
【0042】
【0043】
表1に示すように、実施例1~3は、第2回路層の厚さが1.5mm~5mmであり、金属層(第2金属層)とヒートシンクとの接合面の外周端からフィン領域の外周端までの距離が8mm以下であったため、収容凹部の有無にかかわらず、曲がり評価及び冷熱サイクル信頼性の評価のいずれもが良好「〇」であった。
【0044】
一方、比較例1では、金属層とヒートシンクとの接合面の外周端からフィン領域の外周端までの距離が10mmと大きいため、曲がりを起点にセラミックス基板が割れたため、曲がり評価及び冷熱サイクル信頼性の評価が不可「×」であった。また、比較例2では、第2回路層の厚さが1mmと小さいことから、第2回路層が曲がって、その曲がりを起点としてセラミックス基板が割れるため、曲がり評価及び冷熱サイクル信頼性の評価のいずれもが不可「×」であった。さらに、比較例3では、第2回路層の厚さが6mmと大きいことから、曲がり評価が良好「〇」であったものの、セラミックスが割れたり、第1回路層の疲労破壊が進んだりすることから、冷熱サイクル信頼性の評価が不可「×」であった。
【符号の説明】
【0045】
1 ヒートシンク付き絶縁回路基板
10 絶縁回路基板
11 セラミックス基板
12 回路層
121 第1回路層
121a 第1回路層用金属板
122 第2回路層
122a 第2回路層用金属板
13 金属層
131 第1金属層
131a 第1金属層用金属板
132 第2金属層
132a 第2金属層用金属板
20 ヒートシンク
201 下面
25 ピン状フィン(フィン)
26 締結穴
30 半導体素子
40 ケース
41 開口部
42 パッキン収容溝
43 ねじ穴
50 パッキン
61,62 加圧板
100 パワーモジュール
Ar1 フィン領域