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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】自動車塗装用の基材フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20240723BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240723BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20240723BHJP
   B44C 1/165 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B32B27/32 C
B32B27/32 D
B32B27/32 E
B32B27/00 L
B32B7/06
B44C1/165 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020025327
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021001306
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2019114685
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】森 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲平
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-505575(JP,A)
【文献】特開2004-202816(JP,A)
【文献】特開2019-059107(JP,A)
【文献】特開2013-071419(JP,A)
【文献】実開昭58-089363(JP,U)
【文献】特開2013-248851(JP,A)
【文献】特開2017-160339(JP,A)
【文献】特表平02-503077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
B32B 1/00-43/00
B44C 1/16-1/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の外装塗装を塗膜転写により行うため、ベースフィルムと塗膜との積層体から前記塗膜を仮保持する、基材フィルムであって、
前記基材フィルムは、前記塗膜を仮保持する際に前記塗膜に当接する仮保持層と、前記仮保持層の前記塗膜に当接する面とは反対側に積層されている保形層とを少なくとも含む積層フィルムであり、
記仮保持層は、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリアミドのうちの少なくとも一種を含み、かつ、
前記保形層は、ポリエチレン、アイオノマー、エチレンビニルアルコール及びポリアミドのうちの少なくとも一種を含み、
JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定したヤング率が120MPa以下である、自動車塗装用の基材フィルム(ただし、前記仮保持層および前記保形層の双方がポリエチレンを含む場合、並びに、前記仮保持層および前記保形層の双方がポリアミドを含む場合を除く)
【請求項2】
前記仮保持層の前記塗膜を仮保持する際に前記塗膜に当接する面の、ISO25178に従って測定した算術平均高さSaが、0.08μm以下である請求項1に記載の自動車塗装用の基材フィルム。
【請求項3】
JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定した破断伸びが300%以上である請求項1又は2に記載の自動車塗装用の基材フィルム。
【請求項4】
JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定した応力歪み曲線において、伸びが300%のときの応力が15MPa以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の自動車塗装用の基材フィルム。
【請求項5】
JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定した応力歪み曲線において、伸びが500%のときの応力が20MPa以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の自動車塗装用の基材フィルム。
【請求項6】
JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定した応力歪み曲線において、伸びが300~500%の区間における応力の傾きが20.0×10-3MPa以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の自動車塗装用の基材フィルム。
【請求項7】
前記保形層のビカット軟化点が50℃以上120℃以下である請求項1~6のいずれか一項に記載の自動車塗装用の基材フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車塗装用の基材フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の外装塗装を行うのに、従来から、スプレー塗装が利用されてきた(例えば特開平8-1071号公報の段落0003を参照)。スプレー塗装では、多くの場合、有機溶剤系塗料が使用されており、塗装工程において二酸化炭素や揮発性有機化合物が大量に放出されるため、地球環境保護の観点からは好ましくない。また、塗装工程及びその後の乾燥工程等を行うための大がかりな設備が必要であるため、コスト面からも好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-1071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
環境保護及びコストの点で優れた自動車塗装技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、自動車の外装塗装を塗膜転写により行うという基本思想に基づくものであり、塗膜転写のための基材フィルムを提供するものである。この自動車塗装用の基材フィルムは、自動車の外装塗装を塗膜転写により行うため、ベースフィルムと塗膜との積層体から前記塗膜を仮保持する。
【0006】
この構成によれば、ベースフィルムに積層された塗膜を基材フィルムで仮保持し、その後、仮保持されている塗膜を自動車関連の被塗装体に転写することができる。必要な塗膜を直接被塗装体に転写するので、例えばスプレー塗装とは異なり自動車の塗装工程で二酸化炭素や揮発性有機化合物が放出されることがなく、地球環境に優しい技術となる。塗膜転写後は特別な乾燥工程が不要なので、大がかりな設備が必要となることもなく、コスト面で優れる。よって、本発明の基材フィルムを用いることで、環境保護及びコストの点で優れた自動車塗装技術を実現することができる。
【0007】
以下、本発明の好適な態様について説明する。但し、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0008】
一態様として、前記塗膜を仮保持する際に前記塗膜に当接する面の、ISO25178に従って測定した算術平均高さSaが、0.08μm以下であることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、塗装後の塗膜の表面に光沢が付与されやすい。
【0010】
一態様として、JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定した破断伸びが300%以上であることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、塗膜転写時の形状追従性が良好になりやすい。
【0012】
一態様として、JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定した応力歪み曲線において、伸びが300%のときの応力が15MPa以下であることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、塗膜転写時の形状追従性が良好になりやすい。
【0014】
一態様として、JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定した応力歪み曲線において、伸びが500%のときの応力が20MPa以下であることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、塗膜転写時の形状追従性が良好になりやすい。
【0016】
一態様として、JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定した応力歪み曲線において、伸びが300~500%の区間における応力の傾きが20.0×10-3MPa以下であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、塗膜転写時の形状追従性が良好になりやすい。
【0018】
一態様として、JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定したヤング率が120MPa以下であることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、塗膜転写時の形状追従性が良好になりやすい。
【0020】
一態様として、前記塗膜を仮保持する際に前記塗膜に当接する部分は、アイオノマーを含むことが好ましい。
【0021】
この構成によれば、絞り加工性に優れるアイオノマーを利用して、塗膜転写時の形状追従性を向上させることができる。よって、例えば皺の発生を有効に抑制することができ、塗装後の外観を良好なものとしやすい。特に自動車関連の被塗装体は比較的複雑な外形形状を有していることも多いので、自動車塗装用に使用する場合には、その外形形状に適切に追従するように、上記のように塗膜を仮保持する際に塗膜に当接する部分がアイオノマーを含む基材フィルムが好ましい。
【0022】
一態様として、前記アイオノマーは、イオン成分としてNa、Zn、及びKのうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0023】
この構成によれば、汎用性が高く入手しやすいNa系、Zn系、又はK系のアイオノマーを用いて、皺の発生を有効に抑制できる基材フィルムを低コストに提供することができる。
【0024】
一態様として、前記塗膜を仮保持する際に前記塗膜に当接する部分は、ポリオレフィン及びポリアミドのうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0025】
ポリオレフィン及びポリアミドは塗膜の剥離性に優れるので、この構成によれば、塗膜転写時の剥離性を向上しうる。
【0026】
一態様として、前記塗膜を仮保持する際に前記塗膜に当接する部分は、ポリエチレン及びポリプロピレンのうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0027】
この構成によれば、塗膜転写時の剥離性を一層向上しうる。
【0028】
一態様として、前記塗膜を仮保持する際に前記塗膜に当接する部分は、ナイロン6、ナイロン66、及びナイロン12のうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0029】
この構成によれば、塗膜転写時の剥離性を一層向上しうる。
【0030】
一態様として、少なくとも1層の保形層を有することが好ましい。
【0031】
例えば、軟化温度が比較的低い材料を主体とする基材フィルムを用いる場合には、塗膜転写の際に全体を加熱したときに、塗膜を支持している基材フィルムが垂れ下がってしまう可能性がある。この点、上記のように基材フィルムが少なくとも1層の保形層を有することで、加熱時に基材フィルムの垂れ下がりを抑制して、塗膜転写を良好に行うことができる。
【0032】
一態様として、前記保形層のビカット軟化点が50℃以上120℃以下であることが好ましい。
【0033】
この構成によれば、加熱時にも基材フィルムの垂れ下がりを有効に抑制することができる。
【0034】
一態様として、前記保形層はポリオレフィンを含むことが好ましい。
【0035】
この構成によれば、汎用性が高く入手しやすく、かつ、軟化温度が比較的高いポリオレフィンを用いて、加熱時にも基材フィルムの垂れ下がりを有効に抑制できる基材フィルムを低コストに提供することができる。
【0036】
一態様として、前記保形層が、前記塗膜を仮保持する際に前記塗膜に当接する面とは反対側に積層されていることが好ましい。
【0037】
この構成によれば、塗膜を仮保持する際に塗膜に当接する面には塗膜転写時の形状追従性を重視した材料を採用し、当該面とは反対側の面には加熱時における基材フィルムの垂れ下がりを抑制するための材料を採用できるので、形状追従性を十分に確保しつつ垂れ下がりを抑制できる。
【0038】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】基材フィルムの模式図
図2】塗装処理の処理工程を示すフローチャート
図3】積層体の模式図
図4】塗装フィルム形成工程の模式図
図5】塗装フィルムの模式図
図6】塗膜転写工程の模式図
図7】剥離工程の模式図
図8】実施例に係る基材フィルムの応力歪み曲線
【発明を実施するための形態】
【0040】
基材フィルムの実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態の基材フィルム1は、自動車塗装用の塗装フィルム5において塗膜50を保持するために用いられ、塗装後は被塗装体6の表面の塗膜50から剥離される。ここで、自動車塗装とは、自動車のボディの塗装と、各種の自動車関連部品の塗装とを含む概念である。
【0041】
〔基材フィルムの基本構成〕
図1に示すように、基材フィルム1は、仮保持層10と少なくとも1層の保形層20とを備えている。本実施形態では、基材フィルム1は、仮保持層10と1層の保形層20とを備えている。仮保持層10と保形層20とは厚み方向に積層されており、保形層20は仮保持層10の一方の面に積層される。
【0042】
仮保持層10と保形層20とはいずれも樹脂材料製である。そのため、仮保持層10と保形層20とが積層された基材フィルム1は、積層フィルムを形成する一般的な方法、例えば共押出法、押出ラミネート法、及び熱ラミネート法等の各方法によって形成することができる。なお、仮保持層10及び保形層20の具体的な材料については後述する。
【0043】
仮保持層10と保形層20とを含む基材フィルム1の全体の厚みは、特に限定されないが、例えば30μm~200μmとすることができる。40μm~150μmが好ましく、50μm~120μmがより好ましい。仮保持層10と保形層20は、厚みが互いに同じであっても良いし異なっていても良い。
【0044】
本発明者らの鋭意検討により、基材フィルム1が全体として所定の機械物性を有する場合に、塗膜転写時の形状追従性が良好になることが明らかになった。まず、基材フィルム1全体として、JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定した破断伸びが300%以上であることが好ましい。なお、破断伸びは、400%以上であることがより好ましく、500%以上であることがさらに好ましい。
【0045】
また、基材フィルム1全体として、JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定した応力歪み曲線において、伸びが300%のときの応力が15MPa以下であることが好ましい。なお、伸びが300%のときの応力は、12MPa以下であることがより好ましく、9MPa以下であることがさらに好ましい。
【0046】
同様に、基材フィルム1全体として、JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定した応力歪み曲線において、伸びが500%のときの応力が20MPa以下であることが好ましい。なお、伸びが500%のときの応力は、15MPa以下であることがより好ましく、10MPa以下であることがさらに好ましい。
【0047】
加えて、JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定した応力歪み曲線において、伸びが300~500%の区間における応力の傾きが20.0×10-3MPa以下であることが好ましい。なお、上記の区間における応力の傾きは、17.0×10-3MPa以下であることがより好ましく、10.0×10-3MPa以下であることがさらに好ましい。
【0048】
さらに、JIS Z 1702:1994に準じて70℃において測定したヤング率が120MPa以下であることが好ましい。なお、ヤング率は、100MPa以下であることがより好ましく、70MPa以下であることがさらに好ましい。
【0049】
上記の破断伸び、伸びが300%のときの応力、伸びが500%のときの応力、伸びが300~500%の区間における応力の傾き、及びヤング率に関する好ましい数値範囲が少なくとも一つ満たされていると、塗膜転写時の形状追従性が良好になりやすい。なお、上記の各物性についての好ましい数値範囲に係る条件は、複数の条件が同時に満たされてもよい。
【0050】
〔仮保持層の構成〕
仮保持層10は、アイオノマーを含有する層でありうる。アイオノマーは、オレフィン-不飽和カルボン酸系共重合体(ベースポリマー)が有する酸性基の少なくとも一部が金属イオンで中和された化合物である。オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン等が挙げられる。不飽和カルボン酸に由来する構成単位としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等に由来する構成単位が挙げられる。酸性基の中和に用いられる金属イオン(イオン成分)としては、例えばアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、及び遷移金属イオン等が挙げられ、Na、Zn、及びKのうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。上記のアイオノマーとしては、市販品を用いても良い。
【0051】
アイオノマーは絞り加工性に優れるので、仮保持層10がアイオノマーを含む基材フィルム1を用いることで、塗膜転写時の形状追従性を向上させることができる。しかも、アイオノマーは軟化温度が比較的低いので、例えば60℃~80℃の低温域での成形が可能であり、皺も発生しにくい。一方、軟化温度が低いために塗膜転写時に基材フィルム1が垂れ下がってしまう可能性があるが、この点は、基材フィルム1が相対的に高い軟化温度を示す保形層20をさらに含んでいるので、加熱時の基材フィルム1の垂れ下がりが抑制される。
【0052】
また、仮保持層10は、ポリオレフィン及びポリアミドのうちの少なくとも一種を含有する層でありうる。ポリオレフィン及びポリアミドは塗膜の剥離性に優れるので、仮保持層10がポリオレフィン及びポリアミドのうちの少なくとも一種を含む基材フィルム1を用いることで、塗膜転写時の剥離性を向上させることができる。
【0053】
ポリオレフィンとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリオクテン、ポリメチルペンテン等、又はこれらの混合物が挙げられる。これらの中では、ポリエチレン及びポリプロピレンが好ましく、したがって仮保持層10がポリエチレン及びポリプロピレンのうちの少なくとも一種を含有することが好ましい。なお、上記のポリオレフィンとして市販品を用いても良い。
【0054】
ポリアミドとしては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12等、又はこれらの混合物が挙げられる。これらの中ではナイロン6、ナイロン66、及びナイロン12、又はこれらの混合物が好ましく、したがって仮保持層10がナイロン6、ナイロン66、及びナイロン12のうちの少なくとも一種を含有することが好ましい。なお、上記のポリアミドとして市販品を用いても良い。
【0055】
仮保持層10のうち、塗膜50を仮保持する際に塗膜に当接する面10aの平滑性は、ISO25178に従って測定した算術平均高さSaが、0.08μm以下であることが好ましい。算術平均高さSaが上記の範囲であると、塗装後の塗膜50の表面に光沢が付与されやすい。算術平均高さSaは、0.06μm以下であることがより好ましく、0.05μm以下であることがさらに好ましい。
【0056】
ISO306に準じて測定した仮保持層10のビカット軟化点は、特に限定されないが、例えば40℃~110℃であることが好ましい。50℃~105℃であることがより好ましく、60℃~100℃であることがさらに好ましい。
【0057】
〔保形層の構成〕
保形層20は、ポリオレフィンを含有する層でありうる。ポリオレフィンとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリオクテン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。これらの中ではポリエチレンが好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等を用いることができる。これらの各種ポリエチレン類の混合物であっても良い。市販品を用いても良い。
【0058】
その他、保形層20は、アイオノマーを含有する層、エチレンビニルアルコール樹脂を含有する層、ポリアミドを含有する層等でありうる。
【0059】
ISO306に準じて測定した保形層20のビカット軟化点は、仮保持層10の軟化温度よりも高いことを条件に特に限定されないが、例えば50℃~120℃であることが好ましい。60℃~115℃であることがより好ましく、80℃~110℃であることがさらに好ましい。
【0060】
〔塗装処理手順〕
以下、本実施形態の基材フィルム1を利用した塗装処理の手順について、順を追って説明する。図2に示すように、この塗装処理は、塗膜形成工程#1と塗装フィルム形成工程#2と塗膜転写工程#3と剥離工程#4とを含んでおり、これらは記載の順に実行される。
【0061】
塗膜形成工程#1は、ベースフィルム40上に塗膜50を形成する工程である。
【0062】
ベースフィルム40は、塗膜50を支持するためのフィルムであり、例えばポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル等を含有するフィルムで構成することができる。これらの中ではポリエステルが好ましく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等を用いることができる。2軸延伸ポリエチレンテレフタレートがさらに好ましい。
【0063】
図3に示すように、塗膜50は、例えば着色層51とクリア層52と接着層53とを含む。これらは、ベースフィルム40上に、接着層53→着色層51→クリア層52の順に積層されている。接着層53は、着色層51を被塗装体6に密着させるための層である。接着層53は、例えばゴム系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、シリコーン系等の各種の接着剤で形成することができる。着色層51は、被塗装体6の表面を着色するための層である。着色層51は、自動車のスプレー塗装に用いられる塗料と実質的に同じ成分の塗料で形成することができ、例えばメラミン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の塗料を用いることができる。着色層51には、顔料やレベリング材、紫外線吸収剤等の他の成分(助剤)が含まれていても良い。クリア層52は、着色層51を保護するための層である。クリア層52は、例えばメラミン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等で形成することができる。
【0064】
ベースフィルム40と塗膜50との積層体3は、ベースフィルム40の一方の表面に、接着層53、着色層51、及びクリア層52を順次コーティングしていくことによって形成することができる。
【0065】
なお、図3の例では3層構造の塗膜50を示しているが、4層以上の構造を有するように塗膜50が形成されても良い。
【0066】
塗装フィルム形成工程#2は、基材フィルム1と塗膜50とが積層された塗装フィルム5を形成する工程である。この塗装フィルム形成工程#2では、図4に示すように、予め準備された基材フィルム1と、塗膜形成工程#1で形成されたベースフィルム40と塗膜50との積層体3とを重ね合わせて一体化する。このとき、基材フィルム1の仮保持層10と塗膜50のクリア層52とを密着させて、基材フィルム1と積層体3とを一体化する。その後、ベースフィルム40だけを剥離させると、図5に示す塗装フィルム5が得られる。この塗装フィルム5において、保形層20は仮保持層10に対して塗膜50とは反対側に積層されている。
【0067】
塗膜転写工程#3は、塗装フィルム5に保持された塗膜50を被塗装体6に転写する工程である。本実施形態では、この塗膜転写工程#3を、図6に示すチャンバーボックス7内で行う。このチャンバーボックス7内には、塗装フィルム5が上下にクランプされた状態で保持される。そして、チャンバーボックス7内の空間は、塗装フィルム5よりも上側の上室71と、塗装フィルム5よりも下側の下室72とに区画される。上室71には、ヒーター76が設けられ、下室72には、支持テーブル78が設けられている。ヒーター76は、塗膜転写を行うに際して、塗装フィルム5の全体を加熱する。支持テーブル78は、昇降自在に構成されており、被塗装体6を載置した状態で支持する。
【0068】
なお、塗装フィルム5は、保形層20が上室71側(被塗装体6から遠い側)に位置し、接着層53が下室72側(被塗装体6に近い側)に位置する状態で保持される。
【0069】
塗膜転写工程#3では、図6の上段に示すように、チャンバーボックス7内に塗装フィルム5を保持した状態で、ヒーター76で塗装フィルム5を加熱しつつ、上室71及び下室72の両方を脱気する。上室71内の気圧と下室72内の気圧とを略真空として均衡させることで、塗装フィルム5はその姿勢を維持する。塗装フィルム5の全体が十分に温まると、図6の中段に示すように、被塗装体6を支持している支持テーブル78を、塗装フィルム5に近接するまで上昇させる。そしてその状態で、上室71だけに圧空を導入し或いは上室71だけを大気開放する。すると、上室71内と依然として真空に近い状態に維持された下室72内との間に大きな気圧差が生じ、この気圧差によって塗装フィルム5が下室72側に移動する推進力が働く。その結果、図6の下段に示すように、塗装フィルム5は、被塗装体6の表面に密着して当該被塗装体6を被覆する。塗装フィルム5は、接着層53の側から、被塗装体6を被覆する。
【0070】
剥離工程#4は、被塗装体6の表面を被覆している塗装フィルム5(基材フィルム1と塗膜50との積層フィルム)から基材フィルム1を剥離して取り除く工程である(図7を参照)。
【0071】
本実施形態の基材フィルム1を利用した塗膜転写による塗装処理は、従来から行われていたスプレー塗装とは異なり、自動車の塗装工程で二酸化炭素や揮発性有機化合物が放出されることがなく、地球環境に優しい。また、塗膜転写後は特別な乾燥工程が不要なので、大がかりな設備が必要となることもなく、コスト面で優れる。よって、本実施形態の基材フィルム1を用いることで、環境保護及びコストの点で優れた自動車塗装技術を実現することができる。
【0072】
また、基材フィルム1として、破断伸び、伸びが300%のときの応力、伸びが500%のときの応力、伸びが300~500%の区間における応力の傾き、及びヤング率に関する前述の好ましい数値範囲が少なくとも一つ満たされているフィルムを用いると、塗膜転写時の形状追従性を向上させることができる。よって、例えば皺の発生を有効に抑制することができ、塗装後の被塗装体6の外観を良好なものとしやすい。また、塗膜転写後の簡易な乾燥時にも耐熱性を発揮し、皺が発生しにくいことが確認された。また、剥離工程#4における塗膜50と基材フィルム1との剥離性も良好で、かつ、基材フィルム1の剥離後の塗膜50の表面(クリア層52)にも外観上の異常は特に見つからなかった。よって、本実施形態の基材フィルム1は、自動車塗装を塗膜転写により行うための基材フィルムとして良好な特性を有していることが確認された。
【0073】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、基材フィルム1が仮保持層10と保形層20とを備える積層フィルム状の構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、基材フィルム1が単層フィルムとして構成されてもよく、例えば基材フィルム1が仮保持層10だけで構成されても良い。或いは、基材フィルム1が積層フィルムとして構成される場合、基材フィルム1が仮保持層10及び保形層20以外の他の層を含んで構成されても良い。
【0074】
(2)上記の実施形態では、基材フィルム1が仮保持層10と1層の保形層20とを備える構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば基材フィルム1が2層以上の保形層20を含んで構成されても良い。この場合、例えば仮保持層10の両面にそれぞれ保形層20が設けられ、仮保持層10が一対の保形層20で挟まれた構成であっても良い。さらに、複数の保形層20が設けられる場合、それぞれの保形層20は同一の材料により形成されてもよいし、異なる材料により形成されてもよい。
【0075】
(3)上記の実施形態では、保形層20が、塗膜50の仮保持時に仮保持層10に対して塗膜50とは反対側に積層されている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、保形層20は、塗膜50の仮保持時に仮保持層10に対して塗膜50と同じ側に積層されていても良い。
【0076】
(4)上述した各実施形態(上記の実施形態及びその他の実施形態を含む;以下同様)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【実施例
【0077】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。なお、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0078】
〔試験片〕
後掲する表1に示す構成の仮保持層10及び保形層20を有する実施例1~、参考例1~を作成した。試験片寸法は50mm×100mmとした。各試験片の基材フィルム1全体の厚さは、表1に示す通りであった。
【0079】
実施例1~4は仮保持層10と保形層20とが異なる材料により形成されている積層フィルムである。なお、実施例3の保形層20は、仮保持層10側から順にエチレンビニルアルコール樹脂、ナイロン、及びポリエチレンがこの順で積層された積層体により形成した。
【0080】
参考例1~3は単層フィルムである。参考例1~3においては仮保持層10と保形層20との境界が存在しないが、表1では便宜上、仮保持層10及び保形層20の欄を設けている。
【0081】
〔表面平滑性の評価〕
実施例1~、参考例1~の各試験片の仮保持層10側の表面について、ISO25178に従って算術平均高さSaを測定した。
【0082】
〔機械物性の評価〕
実施例1~、参考例1~の各試験片について、JIS Z 1702:1994に準じた引張試験を行った。なお、図8には、得られた応力歪み曲線の、伸びが0~500%の領域を示した。
【0083】
破断伸び、伸びが300%のときの応力、伸びが500%のときの応力、及び、伸びが300~500%の区間における応力の傾きは、以下の試験条件で得られた応力歪み曲線に基づいて決定した。なお、特記していない条件については、JIS Z 1702:1994に従った。
測定温度 70℃
試験片 1号ダンベル
試験速度 500mm/分
標線間距離 10mm
チャック間距離 10mm
【0084】
ヤング率については、以下の試験条件で得られた応力歪み曲線に基づいて決定した。なお、特記していない条件については、JIS Z 1702:1994に従った。
測定温度 70℃
試験片 1号ダンベル
試験速度 2mm/分
【0085】
〔塗装性能の評価〕
上記の実施形態に示した塗装処理手順(塗膜形成工程#1、塗装フィルム形成工程#2、塗膜転写工程#3、及び剥離工程#4)に準じて、実施例1~、参考例1~をそれぞれ用いた塗装処理を行った。塗膜形成工程#1では、ベースフィルム40としてポリエチレンテレフタレート製のフィルムを用い、50mm×100mmの塗膜50を形成した。なお、塗膜50のうち、クリア層52はアクリル樹脂を含むものとした。また、塗膜転写工程#3では、被塗装体として鋼鉄製のテストピース(50mm×100mm)を用い、塗装フィルム5の温度が70℃の状態で被塗装体6の被覆が行われるようにした。
【0086】
上記の手順によりテストピース上に塗膜を形成する過程において、テストピース上に形成された塗膜の光沢、塗膜転写工程#3における車体への追従性、及び剥離工程#4における剥離性を評価した。
【0087】
塗膜の光沢については、目視による官能検査により評価した。表1中のA~Cの記号は、それぞれ以下の評価結果を表す。
A:十分な光沢性を有する
B:光沢性は実用性の観点から許容範囲内であるものの、Aに比べると劣る
C:十分な光沢性がなく、実用不可
【0088】
車体への追従性については、基材フィルムの皺の発生及び塗装後の塗膜外観の目視評価により評価した。表1中のA~Cの記号は、それぞれ以下の評価結果を表す。
A:基材フィルムに皺がなく、塗膜外観良好
B:塗膜外観は実用性の観点から許容範囲内であるものの、Aに比べると基材フィルムに皺が発生する
C:基材フィルムに皺が多く発生し、実用不可
【0089】
剥離性については、手による剥離可否で評価した。表1中のA~Cの記号は、それぞれ以下の評価結果を表す。
A:容易に剥離可能
B:実用性の観点から許容範囲内であるものの、剥離するためにAよりも強い力で剥離することが必要
C:剥離が困難で、実用不可
【0090】
〔結果〕
実施例1~、参考例1~のフィルム構成、ならびに、フィルム物性及び塗装性能の評価結果を表1に示した。
【0091】
【表1】
【0092】
なお、仮保持層10及び保形層20の欄に記載した符号は、それぞれ以下の材料を表す。
EVOH エチレンビニルアルコール樹脂
ION アイオノマー
LLDPE 直鎖状低密度ポリエチレン
LDPE 低密度ポリエチレン
Ny ナイロン(ポリアミド)
PE ポリエチレン
PP ポリプロピレン
【0093】
実施例1~及び参考例1~のいずれによっても、良好に塗膜転写を行うことができた。特に、仮保持層10側の表面平滑性が高い(算術平均高さSaが0.08μm以下)実施例1及び参考例1、4では、良好な光沢が得られた。また、実施例1~及び参考例1~のいずれも、車体への追従性は良好であった。特に、実施例1~及び参考例1、4では特に良好な追従性があることが分かった。加えて、実施例1~及び参考例1~のいずれも良好な剥離性を示し、実施例1~及び参考例2、3、4では特に良好な剥離性であることが分かった。
【符号の説明】
【0094】
1 基材フィルム
3 積層体
5 塗装フィルム
6 被塗装体
10 仮保持層
10a 仮保持層の塗膜に当接する面
20 保形層
40 ベースフィルム
50 塗膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8