IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ベークライト株式会社の特許一覧

特許7524552樹脂組成物、樹脂シートおよび樹脂組成物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂シートおよび樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 45/00 20060101AFI20240723BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240723BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240723BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240723BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240723BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C08L45/00
C08F2/44 A
C08J5/18 CES
C08K3/013
C08K3/36
C08K9/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020030325
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021134261
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】久保田 匠
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-111872(JP,A)
【文献】国際公開第2007/026527(WO,A1)
【文献】特開2013-129716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08J
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下一般式(A1)で表される構造単位を有する樹脂と、フィラーと、を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂の全構造単位中の一般式(A1)で表される構造単位の比率は40~100mol%であり、
前記樹脂のテトラヒドロフランへの溶解度は30質量%以下である、樹脂組成物。
【化1】
一般式(A1)において、
、R、RおよびRのうち3つは、水素であり、かつ、R、R、RおよびRのうち1つは、脂環構造および/または芳香環構造を含み、
前記R、R、RおよびRのうち少なくとも1つは、以下一般式(a1)で表される有機基であり、この一般式(a1)において、Lは単結合を表し、Cyはシクロヘキシル基、ノルボルニル基またはフェニル基を表し、
-L-Cy (a1)
は0、1または2である。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物であって、
前記樹脂は、さらに、以下一般式(A2)で表される構造単位を有する、樹脂組成物。
【化2】
一般式(A2)において、
´、R´、R´およびR´は、それぞれ独立に、水素、または、炭素数1~30の鎖状または分岐状の有機基であり、
は0、1または2である。
【請求項3】
請求項2に記載の樹脂組成物であって、
前記R´、R´、R´およびR´は、それぞれ独立に、水素、または、炭素数1~30の鎖状または分岐状のアルキル基である、樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物であって、
前記樹脂中の、カルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する構造単位の比率は、0~10mol%である、樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物であって、
前記フィラーは、無機フィラーを含む、樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物であって、
前記フィラーは、シリカを含む、樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物であって、
前記フィラーの表面は、ビニル基で修飾されている、樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物であって、
前記フィラーの平均粒径は、0.3~5μmである、樹脂組成物。
【請求項9】
以下一般式(A1)で表される構造単位を有する樹脂と、フィラーと、を含む樹脂シートであって、
前記樹脂の全構造単位中の一般式(A1)で表される構造単位の比率は40~100mol%であり、
前記樹脂のテトラヒドロフランへの溶解度は30質量%以下である、樹脂シート。
【化3】
一般式(A1)において、
、R、RおよびRのうち3つは、水素であり、かつ、R、R、RおよびRのうち1つは、脂環構造および/または芳香環構造を含み、
前記R、R、RおよびRのうち少なくとも1つは、以下一般式(a1)で表される有機基であり、この一般式(a1)において、Lは単結合を表し、Cyはシクロヘキシル基、ノルボルニル基またはフェニル基を表し、
-L-Cy (a1)
は0、1または2である。
【請求項10】
請求項9に記載の樹脂シートであって、
厚みが0.01~0.5mmである樹脂シート。
【請求項11】
請求項9または10に記載の樹脂シートであって、
周波数10GHzにおける比誘電率が2.0~3.0である樹脂シート。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載の樹脂シートであって、
周波数10GHzにおける誘電正接が0.0001~0.003である樹脂シート。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
以下一般式(A1-m)で表されるモノマーと、重合触媒と、フィラーとを含む混合物中の、前記モノマーを塊状重合させる塊状重合工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【化4】
一般式(A1-m)において、R、R、R、Rおよびaの定義は、一般式(A1)と同様である。
【請求項14】
請求項13に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
前記混合物中の有機溶剤の比率は0~10質量%である、樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項9~12のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法であって、
以下一般式(A1-m)で表されるモノマーと、重合触媒と、フィラーと、を含む混合物を用いて基材上に膜を形成するとする膜形成工程と、
前記膜中の前記モノマーを塊状重合させる塊状重合工程と、
を含む、樹脂シートの製造方法。
【化5】
一般式(A1-m)において、R、R、R、Rおよびaの定義は、一般式(A1)と同様である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂シートおよび樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料を用いて、電子デバイス中の低誘電部材(絶縁体)を得る試みが知られている。
【0003】
一例として、特許文献1には、基材と、基材に含浸され、環状オレフィン系の低分子量化合物同士を塊状重合して構成された付加型の環状オレフィン系樹脂とを含む成形体が記載されている。特許文献1の記載によれば、この成形体は、熱膨張係数が小さく、かつ、成形性、耐熱性および誘電特性に優れる。
【0004】
別の例として、特許文献2には、塊状重合により製造された付加型の環状オレフィン系樹脂を含む成形体が記載されている。特許文献2の記載によれば、この成形体は、耐熱性や誘電特性に優れる。
【0005】
さらに別の例として、特許文献3には、マイクロ波、ミリ波アンテナを製造するのに好適な、高温下での誘電正接の上昇が抑制された、熱可塑性液晶「ポリマーフィルム」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-246671号公報
【文献】特開2012-111872号公報
【文献】特開2018-109090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子デバイスに低誘電部材を組み込むにあたっては、低誘電部材の誘電特性が良好であることに加え、例えば低誘電部材の熱膨張率が適度であることが求められる。
本発明者の知見として、誘電特性と熱膨張率のバランスという点で、従来の低誘電部材には改善の余地があった。特に、低誘電部材がフィラー(粒子)を含む場合、誘電特性と熱膨張率はトレードオフの関係となることがあった。
【0008】
本発明の目的の1つは、誘電特性と熱膨張率のバランスに優れた低誘電部材を形成可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0010】
本発明によれば、
以下一般式(A1)で表される構造単位を有する樹脂と、フィラーと、を含む樹脂組成物
が提供される。
【0011】
【化1】
【0012】
一般式(A1)において、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1~30の有機基であり、かつ、R、R、RおよびRのうち少なくとも1つは、脂環構造および/または芳香環構造を含み、
は0、1または2である。
【0013】
また、本発明によれば、
以下一般式(A1)で表される構造単位を有する樹脂と、フィラーと、を含む樹脂シート
が提供される。
【0014】
【化2】
【0015】
一般式(A1)において、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1~30の有機基であり、かつ、R、R、RおよびRのうち少なくとも1つは、脂環構造および/または芳香環構造を含み、
は0、1または2である。
【0016】
また、本発明によれば、
上記の樹脂組成物の製造方法であって、
以下一般式(A1-m)で表されるモノマーと、重合触媒と、フィラーとを含む混合物中の、前記モノマーを塊状重合させる塊状重合工程を含む、樹脂組成物の製造方法
が提供される。
【0017】
【化3】
【0018】
一般式(A1-m)において、R、R、R、Rおよびaの定義は、一般式(A1)と同様である。
【0019】
また、本発明によれば、
上記の樹脂シートの製造方法であって、
以下一般式(A1-m)で表されるモノマーと、重合触媒と、フィラーと、を含む混合物を用いて基材上に膜を形成するとする膜形成工程と、
前記膜中の前記モノマーを塊状重合させる塊状重合工程と、
を含む、樹脂組成物の製造方法
が提供される。
【0020】
【化4】
【0021】
一般式(A1-m)において、R、R、R、Rおよびaの定義は、一般式(A1)と同様である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の樹脂組成物または樹脂シートを用いることで、誘電特性と熱膨張率のバランスに優れた低誘電部材を構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0024】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0025】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0026】
<樹脂組成物>
本実施形態の樹脂組成物は、以下一般式(A1)で表される構造単位を有する樹脂と、フィラーと、を含む。
本明細書では、「一般式(A1)で表される構造単位を有する樹脂」を単に「樹脂」と記載することもある。
【0027】
【化5】
【0028】
一般式(A1)において、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1~30の有機基であり、かつ、R、R、RおよびRのうち少なくとも1つは、脂環構造および/または芳香環構造を含み、
は0、1または2である。
【0029】
正確なメカニズムは不明であるが、環状オレフィン主鎖構造に、脂環構造および/または芳香環構造が置換されているという剛直な構造が、誘電特性と熱膨張率の良好なバランスにつながっているものと推察される。
【0030】
以下、樹脂やフィラーについてより具体的に説明する。
【0031】
(樹脂)
一般式(A1)において、R、R、RおよびRの、炭素数1~30の有機基は、特に限定されない。
炭素数1~30の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ヘテロ環基、カルボキシル基などを挙げることができる。
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アルケニル基としては、例えばアリル基、ペンテニル基、ビニル基などが挙げられる。
アルキニル基としては、例えばエチニル基などが挙げられる。
アルキリデン基としては、例えばメチリデン基、エチリデン基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばトリル基、キシリル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
アルカリル基としては、例えばトリル基、キシリル基などが挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばアダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
ヘテロ環基としては、例えばエポキシ基、オキセタニル基などが挙げられる。
【0032】
一般式(A1)において、好ましくは、R、R、RおよびRのうち少なくとも1つは、以下一般式(a1)で表される有機基である。
-L-Cy (a1)
一般式(a1)において、
Lは単結合または2価の連結基を表し、
Cyは脂環式基またはアリール基を表す。
【0033】
Lの2価の連結基は特に限定されない。2価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基、-O-、-S-、カルボニル結合、エステル結合、これらの2以上の組み合わせ、などが挙げられる。
Lは「長すぎない」ことが、諸性能のバランスの観点で好ましい。具体的には、Lの炭素数は大きすぎないことが好ましい。すなわち、Lが2価の連結基である場合、その炭素数は、好ましくは6以下、より好ましくは3以下である。
諸性能の一層の向上の点からは、Lは単結合が好ましい。
【0034】
Cyの脂環式基は、単環であっても多環であってもよい。Cyの芳香族基は、単環であっても多環(縮合環など)であってもよい。
好ましいCyとしては、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、フェニル基などが挙げられる。換言すると、R、R、RおよびRのうち少なくとも1つが含む脂環構造および/または芳香環構造は、好ましくは、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、フェニル基などを含む。
【0035】
樹脂中の、一般式(A1)で表される構造単位を有する構造単位の比率は、例えば30~100mol%、好ましくは40~80mol%である。
【0036】
樹脂は、さらに、以下一般式(A2)で表される構造単位を有することが好ましい。これにより、電特性と熱膨張率のバランスを良好としつつ、さらに、低誘電部材の靭性を高めることができる。これは、おそらくは、樹脂が以下一般式(A2)で表される構造単位を有することにより、樹脂が「適度に柔軟に」なるためと考えられる。
【0037】
【化6】
【0038】
一般式(A2)において、
´、R´、R´およびR´は、それぞれ独立に、水素、または、炭素数1~30の鎖状または分岐状の有機基であり、
は0、1または2である。
【0039】
´、R´、R´およびR´の、炭素数1~30の鎖状または分岐状の有機基の具体例としては、一般式(A1)におけるR、R、RおよびRの炭素数1~30の有機基の中から、鎖状または分岐状であるものを挙げることができる。
´、R´、R´およびR´は、それぞれ独立に、水素、または、炭素数1~30の鎖状または分岐状のアルキル基であることが好ましい。
【0040】
樹脂が、一般式(A2)で表される構造単位を有する場合、その量(共重合比率)を適切に調整することで、諸性能を一層向上させうる。具体的には、樹脂中の一般式(A1)で表される構造単位のモル%をa1、樹脂中の一般式(A2)で表される構造単位のモル%をa2としたとき、好ましくは0.1<a2/a1<6、より好ましくは0.25<a2/a1<4、さらに好ましくは0.5<a2/a1<1.5である。このように樹脂を設計することで、誘電特性、熱膨張率および靭性のバランスが非常によい低誘電部材を製造することができる。
【0041】
樹脂は、誘電特性の観点で、極性基を含まないか、または、含むとしても少ないことが好ましい。
一例として、樹脂中の、カルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する構造単位の比率は、0~10mol%、より好ましくは0~5mol%である。
【0042】
樹脂の、テトラヒドロフランへの溶解度は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
テトラヒドロフランへの溶解度が小さいことは、樹脂の分子量が大きいことに対応する。本実施形態の樹脂組成物が、テトラヒドロフランへの溶解度が30質量%以下である樹脂(≒大分子量の樹脂)を含むことで、この樹脂組成物を用いて得た低誘電部材がより強靭となる。「強靭さ」は、例えば、樹脂膜/シートの機械特性を測定することで評価することができる。
【0043】
樹脂の、テトラヒドロフランへの溶解度は、例えば、後掲の実施例の<溶解度の測定>の欄に記載のように、樹脂に対して質量で100倍量のテトラヒドロフランを用いて測定することができる。
【0044】
樹脂の溶解度を正確に測定する観点では、溶解度測定用の樹脂は、フィラーを含まないことが好ましい。すなわち、樹脂の溶解度測定にあたっては、フィラーを含まない測定用の樹脂組成物を準備することが好ましい。この準備の方法の一例は後掲の実施例を参照されたい。
一方、測定の簡便性などの観点では、フィラー含有の樹脂組成物をサンプルとして用いて測定してもよい。この場合、サンプル中の正味の樹脂量に対して100倍量のテトラヒドロフランを用いる。例えば、樹脂とフィラーが質量比1:1で含まれるサンプル0.2gを用いて測定を行う場合、テトラヒドロフランは10gを用いる。
【0045】
別観点として、樹脂の、シクロヘキサンへの溶解度は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。この値の測定法は、樹脂のテトラヒドロフランへの溶解度と同様の方法で測定することができる。
【0046】
テトラヒドロフラン/シクロヘキサンへの溶解度が小さい(分子量が大きい)樹脂は、例えば、塊状重合により得ることができる。塊状重合の詳細については追って説明する。
【0047】
参考までに述べておくと、以下のような方法で、樹脂の分子量が大きいことを推認することもできる。
1.まず、テトラヒドロフラン/シクロヘキサンへの溶解度が小さい樹脂を、できるだけテトラヒドロフラン/シクロヘキサンに溶解させる。
2.未溶解成分を除いた溶液中に含まれる樹脂の分子量(分子量分布)を、ポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィーなどの通常の手法により定量的に測定する。
このような測定で求められる樹脂の重量平均分子量は、例えば1×10以上1×10以下である。
【0048】
念のため述べておくと、本実施形態の樹脂組成物において、樹脂の分子量は必ずしも大きくなくてもよい。誘電特性と熱膨張率のバランスに優れた低誘電部材が得られる限り、樹脂の分子量は限定されない。
【0049】
(フィラー)
フィラーは、特に限定されないが、上記樹脂よりも熱膨張係数が小さいものが好適に用いられる。
【0050】
フィラーとしては、各種の無機フィラーまたは有機フィラーが挙げられる。
無機フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、ケイ藻土、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、金属フェライト等の酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物、炭酸カルシウム(軽質、重質)、炭酸マグネシウム、ドロマイト、ドーソナイト等の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩または亜硫酸塩、タルク、マイカ、クレー、ガラス繊維、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト等のケイ酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維等の炭素、その他鉄粉、銅粉、アルミニウム粉、亜鉛華、硫化モリブデン、ボロン繊維、チタン酸カリウム、チタン酸ジルコン酸鉛が挙げられる。
有機フィラーとしては、合成樹脂粉末が挙げられる。合成樹脂粉末としては、例えば、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル、(メタ)アクリル樹脂、アセタール樹脂、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の各種熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の粉末、またはこれらの樹脂の共重合体の粉末が挙げられる。また、有機フィラーの他の例としては、芳香族または脂肪族ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等が挙げられる。
【0051】
フィラーは、無機フィラーであることが好ましい。これにより、熱膨張係数を効果的に小さくすることができる。また、耐熱性を優れたものとすることができる。
【0052】
無機フィラーは、シリカを含む(シリカフィラーである)ことが好ましい。これにより、誘電特性を優れたものとしつつ、熱膨張係数を低めることができる。
シリカフィラーとしては、溶融シリカ(溶融球状シリカ、溶融破砕シリカ)、結晶シリカ等が挙げられる。なかでも溶融シリカフィラーが好ましい。また、最大充填量を大きくできるので球状シリカがより好ましい。適切なシリカフィラーを用いることで、誘電特性を特に優れたものとすることができる。
【0053】
フィラーは、1分子中にアルコキシシリル基と、アルキル基、エポキシ基、ビニル基、フェニル基、スチリル基、等の有機官能基を有するシラン化合物で処理されたものであるのが好ましい。このようなシラン化合物としては、例えば、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシランなどのアルキル基を有するシラン(アルキルシラン)、フェニルトリエトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、フェネチルトリエトキシシランなどのフェニル基を有するシラン、スチリルトリメトキシシラン、スチリルトリエトキシシラン等のスチリル基を有するシラン、ブテニルトリエトキシシラン、プロペニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシラン(ビニルシラン)、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン等の(メタ)アクリル基を有するシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基を有するシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシラン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
特にフィラーとして無機フィラーを用いる場合、フィラーは、無極性シラン化合物で処理されたものが好ましい。これにより、環状オレフィン系樹脂とフィラーとの密着性を向上させることができる。その結果、成形体の機械的特性を向上させることができる。また、「無極性」シラン化合物での処理により、誘電特性への悪影響をなくすまたは少なくすることができる。
「無極性シラン化合物」とは、極性置換基を有さない(含まない)シラン化合物を言う。極性置換基とは、水素結合しうる基、または、イオン性解離基を言う。このような極性置換基としては、特に限定されないが、例えば、-OH、-COOH、-COOM、-NH、-NR 、-CONH等が挙げられる。ここで、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、4級アンモニウム塩等のカチオンであり、Rは、Hまたは炭素数8以下の炭化水素基、Aはハロゲン原子等のアニオンである。
【0055】
好ましくは、フィラーの表面は、ビニル基で修飾されている。ビニル基は、上述の極性置換基に該当しないため、誘電特性の点で好ましい。
フィラーの表面をビニル基で修飾するためには、例えば、ビニルシランを用いることができる。ビニルシランの具体例は上掲の通りである。
【0056】
フィラーの平均粒径は、例えば0.1~10μm、好ましくは0.3~5μm、より好ましくは0.5~3μmである。平均粒径は、光散乱法による算術平均径として定義される。複数種類のフィラーが用いられる場合、フィラー全体としての平均粒径が上記数値範囲内にあることが好ましい。
フィラーの平均粒径が適度に大きいことにより、フィラーの比表面積が小さくなる。このことにより、誘電特性に悪影響を及ぼす可能性がある極性官能基の数が減り、誘電特性をより良好としやすい。
フィラーの平均粒径が適度に小さいことにより、樹脂組成物の取り扱い性、製造適性などを良好としやすい。また、樹脂組成物をシート状にするときに平坦性を担保しやすい。
フィラーの平均粒径が大きすぎないことにより、例えばビア加工時、デスミア処理時にフィラーがこぼれ落ちた際に「穴ができる」不具合が低減される。
【0057】
樹脂組成物中のフィラーの含有量は、樹脂組成物の全固形分中、例えば30~80質量%、好ましくは40~70質量%である。フィラーの含有量を適切に調整することで、誘電特性と熱膨張率のバランスをより良好とすることができる。
【0058】
(その他成分)
本実施形態の樹脂組成物は、上記以外の成分を含んでもよい。
上記以外の成分としては、カップリング剤、難燃剤、離型剤、酸化防止剤等を挙げることができる。
【0059】
シランカップリング剤としては、ビニルシラン類、(メタ)アクリルシラン類、スチリルシラン類、イソシアネートシラン類等を挙げることができる。シランカップリング剤を用いることで、樹脂組成物と基材等との密着性を向上させることができる。
【0060】
難燃剤としては、トリキシレニルホスフェート、ジキシレニルホスフェート、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレンー10-オキシドなどのリン系難燃剤、臭素化エポキシ樹脂等のハロゲン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤等を挙げることができる。
【0061】
(性状)
本実施形態の樹脂組成物の性状は特に限定されない。
好ましい一例として、本実施形態の樹脂組成物はシート状である。すなわち、本実施形態の樹脂組成物は、前述の一般式(A1)で表される構造単位を有する樹脂と、フィラーと、を含む樹脂シート(シート状の樹脂組成物)であることができる。
樹脂シートの厚みは特に限定されないが、誘電材料としての用途を考慮した場合、厚みは例えば0.01~0.5mm、より好ましくは0.02~0.2mmである。
樹脂シートは、通常、室温(25℃)においては、実質上流動しない。
樹脂シートは、任意のキャリア層の上に設けられてもよいし、樹脂シート単独で存在してもよい。キャリア層としては、例えばポリイミドフィルムを挙げることができる。その他、公知の易剥離性フィルムなども用いうる。
【0062】
前述のように、本実施形態の樹脂組成物は、良好な誘電特性を有する。これを定量的に記載すると、周波数10GHzにおける樹脂シートの比誘電率は、好ましくは2.0~3.0である。また、周波数10GHzにおける誘電正接は、好ましくは0.0001~0.005、より好ましくは0.0005~0.003である。特に周波数10GHzにおける誘電正接の値が上記数値範囲であることにより、本実施形態の樹脂組成物は、特許文献3で触れられているミリ波レーダに好ましく適用される。
比誘電率や誘電正接の測定方法については、後掲の実施例を参照されたい。
【0063】
本実施形態の樹脂組成物は、当然、シート状以外の性状であってもよい。特に、樹脂の重量平均分子量が比較的小さい場合には、本実施形態の樹脂組成物は、溶剤を含むワニス状であってもよい。樹脂組成物が溶剤を含むワニス状である場合、溶剤としては有機溶剤が典型的に用いられる。有機溶剤の種類や、単独溶剤/混合溶剤などの制限は特に無い。ワニス状の樹脂組成物の固形分濃度も特に限定されないが、典型的には固形分濃度は10~70質量%程度である。
【0064】
<樹脂組成物の製造方法>
上述の樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、好ましくは、以下一般式(A1-m)で表されるモノマーと、重合触媒と、フィラーとを含む混合物中の、モノマーを塊状重合させる塊状重合工程を含む。
特に、樹脂シートを製造しようとする場合、
・一般式(A1-m)で表されるモノマーと、重合触媒と、フィラーと、を含む混合物を用いて基材上に膜を形成するとする膜形成工程と、
・膜中のモノマーを塊状重合させる塊状重合工程と、
により、樹脂シートを製造することができる。
【0065】
【化7】
【0066】
一般式(A1-m)において、R、R、R、Rおよびaの定義は、一般式(A1)と同様である。
【0067】
塊状重合工程において、混合物は、さらに、一般式(A2-m)で表されるモノマーを含むことが好ましい。
【0068】
【化8】
【0069】
一般式(A2-m)において、R´、R´、R´、R´およびaの定義や具体例は、一般式(A2)と同様である。
【0070】
重合方法として塊状重合を採用することにより、きわめて大きい分子量の樹脂を製造しやすい。そして、強靭な(機械的強度が良好な)樹脂組成物を得やすい。
【0071】
塊状重合工程において、上記混合物中の有機溶剤の比率は、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%である。例えば、触媒の混合/分散/溶解のために有機溶剤を用いる場合、混合物は少量の有機溶剤を含む場合がある。ここでの有機溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、メチルシクロヘキサンなどの溶剤のうち1または2以上を挙げることができる。
【0072】
上記混合物を得るにあたっては、各成分を適切に混合することが好ましい。特に、フィラーについては、適当な方法で分散させることが好ましい。分散方法としては、例えば、2本ロールや3本ロール、単軸あるいは二軸ニーダー、ヘンシェルミキサー、ディスパーザ、ハンマーミル、ジェットミルなどを挙げることができる。また、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、自転公転式分散方式等を挙げることもできる。
【0073】
膜形成工程において、膜形成の具体的方法や、用いられる基材は特に限定されない。基材は、銅、アルミニウム、銅等の金属のシートまたは板、あるいは、公知のフレキシブル基板、リジット基板、ポリイミド基板などであることができる。
【0074】
塊状重合工程は、典型的には、混合物、または、混合物を基材上に塗布して得られた塗布膜を加熱することで行われる。
加熱方法としては、加熱された熱盤を用いる方法、加熱されたオーブンを用いる方法、赤外線を照射する方法等が挙げられる。
加熱の温度や時間は、混合物の組成等に応じて適宜設定される。誘電特性と熱膨張率のバランスに優れた低誘電部材が製造可能である限り任意の温度および時間であることができる。温度は、例えば10~250℃、好ましくは20~200℃である。加熱時間は、例えば0.5~10時間、好ましくは1~8時間である。シートの平坦性確保や、意図せぬ収縮抑制などの観点から、加熱のやり方を様々に工夫してもよい。例えば、最初は比較的低温で加熱し、その後徐々に昇温するようにしてもよい。
平坦性の確保などのため、加熱前に平坦な板(ガラス板)等で加圧する、かつ/または、平坦な板で加圧しながら加熱してもよい。加圧の圧力は、例えば0.1~8MPa、好ましくは0.3~5MPである。
【0075】
塊状重合工程における触媒としては、パラジウム、ニッケルおよび白金のうちの少なくとも1つを含有する触媒を含むことが好ましい。これにより、塊状重合を進行させることができる。なお、パラジウム、ニッケルおよび白金のうちの少なくとも1つを含有する触媒に代えて、ラジカル開始剤を用いてもよい。
【0076】
特に、触媒としては、パラジウムを含有する触媒を用いるのがより好ましい。これにより、塊状重合の重合速度を高めることができる。
具体的には、パラジウム触媒としては、特表2002-531648号公報、特表2007-521326号公報などに記載されている触媒を用いるのが好ましい。さらに、下記式Iで表されるパラジウム金属カチオンと弱配位性アニオンからなるものを用いるのが好ましい。
【0077】
[R'M(L')(L'')[WCA] (式I)
上記式Iにおいて、MはPdを表し、R'はカルボキシレート基、チオカルボキシレート基、ジチオカルボキシレート基、及びアニオンヒドロカルビル基から選択されるアニオン配位子を表し、L'は第15族の中性電子供与配位子を表し、L''は不安定中性電子供与配位子を表し、xは0~2の整数であり、yは0~2の整数であり、zは0~2の整数であり、そして、bおよびdは、それぞれ、触媒錯体全体の電子電荷のバランスをとるためにカチオン錯体と弱配位カウンターアニオン錯体(WCA)とが用いられた数を表す数字である。
【0078】
触媒を用いる場合、1のみの触媒を用いてもよいし、2以上の触媒を併用してもよい。
触媒を用いる場合、その量(複数併用の場合は合計量)は、触媒:全モノマーのモル比で、例えば1:1000~1:100000、好ましくは1:5000~1:50000である。触媒量を適切に調整することで、分子量(重合度)が適度となり、強靭性(機械的強度)と他性能とのバランスをより良好に設計しやすい。
【0079】
本実施形態においては、触媒に加え、助触媒を用いることが好ましい。
助触媒としては、弱配位性アニオン塩を含有するイオン錯体が好ましい。これにより、重合速度をより高めることができる。
【0080】
助触媒の使用量は特に限定されないが、モル比(触媒:助触媒)で1:0.1~10が好ましく、1:0.3~8がさらに好ましく、1:0.5~5が特に好ましい。これにより、重合反応の短時間化と、重合反応の暴走抑制とのバランスを取ることができる。
【0081】
助触媒は特に限定されないが、アルキルアルミニウム、ルイス酸又は、弱配位性アニオン(WCA)塩を含むイオン錯体等を挙げることができる。これらの中でも、弱配位性アニオン(WCA)塩を含むイオン錯体が好ましい。
【0082】
助触媒としては、特表2002-531648号公報、特表2007-521326号公報に記載されている下記式IIで表されるものが好ましい。
【0083】
[C][WCA] (式II)
上記式において、Cは、プロトン(H)、有機基含有カチオン、又はアルカリ金属、アルカリ土類金属若しくは遷移金属のカチオンを表し、WCAは、上記で定義したとおりであり、eとdは、それぞれ、カチオン錯体(C)と弱配位性アニオン塩(WCA)の、総合塩錯体上の電子電荷を釣り合わせるように定められる数である。
【0084】
弱配位性アニオン(WCA)塩を含むイオン錯体は、特に限定されず、リチウム(ジエチルエーテル)2.5テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウム・テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウム・テトラキス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、H(OEt2)xテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス[(4-メチル)-α,α-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンメタノラト-κO]アルミネート、ナトリウム・テトラキス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、トリアルキル及びトリアリールホスホニウム・テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチル・テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等を挙げることができる。
【0085】
<用途について>
本実施形態の樹脂組成物または樹脂シートは、電子デバイス中の低誘電部材(絶縁体)に好ましく適用される。
【0086】
適用の一例として、特許文献3で言及されているような、ミリ波レーダのアンテナへの適用がある。アンテナは、通常、絶縁体と導体層(銅箔等)から構成されている。絶縁体の一部または全部として本実施形態の樹脂組成物または樹脂シートを用いることができる。絶縁体の一部または全部として本実施形態の樹脂組成物または樹脂シートを用いたアンテナは、高周波特性や信頼性(耐久性)の点で良好である。
【0087】
アンテナにおける導体層は、例えば、少なくとも導電性を有する金属から形成される。この導体層に公知の回路加工方法を用いて回路が形成される。導体層を形成する導体としては、導電性を有する各種金属、例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウムまたはこれらの合金金属などが挙げられる。
【0088】
導体層を形成する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、蒸着、無電解めっき、電解めっきなどが挙げられる。また、金属箔(例えば銅箔)を熱圧着により圧着してもよい。
【0089】
導体層を構成する金属箔は、電気的接続に使用されるような金属箔が好適である。銅箔のほか、金、銀、ニッケル、アルミニウムなどの各種金属箔を挙げることができる。また実質的に(例えば、98質量%以上)これらの金属で構成される合金箔を含んでいてもよい。これらの金属箔のうち、銅箔が好ましく用いられる。銅箔は、圧延銅箔、電解銅箔のいずれであってもよい。
【0090】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
本発明の参考形態を以下に付記する。
1.
前掲の一般式(A1)で表される構造単位を有する樹脂と、フィラーと、を含む樹脂組成物。
一般式(A1)において、
、R 、R およびR は、それぞれ独立して、水素または炭素数1~30の有機基であり、かつ、R 、R 、R およびR のうち少なくとも1つは、脂環構造および/または芳香環構造を含み、
は0、1または2である。
2.
1.に記載の樹脂組成物であって、
前記R 、R 、R およびR のうち少なくとも1つは、前掲の一般式(a1)で表される有機基である樹脂組成物。
-L-Cy (a1)
一般式(a1)において、
Lは単結合または2価の連結基を表し、
Cyは脂環式基またはアリール基を表す。
3.
1.または2.に記載の樹脂組成物であって、
前記樹脂は、さらに、前掲の一般式(A2)で表される構造単位を有する、樹脂組成物。
一般式(A2)において、
´、R ´、R ´およびR ´は、それぞれ独立に、水素、または、炭素数1~30の鎖状または分岐状の有機基であり、
は0、1または2である。
4.
3.に記載の樹脂組成物であって、
前記R ´、R ´、R ´およびR ´は、それぞれ独立に、水素、または、炭素数1~30の鎖状または分岐状のアルキル基である、樹脂組成物。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載の樹脂組成物であって、
前記樹脂中の、カルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する構造単位の比率は、0~10mol%である、樹脂組成物。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載の樹脂組成物であって、
前記樹脂の、テトラヒドロフランへの溶解度が30質量%以下である、樹脂組成物。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載の樹脂組成物であって、
前記フィラーは、無機フィラーを含む、樹脂組成物。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載の樹脂組成物であって、
前記フィラーは、シリカを含む、樹脂組成物。
9.
1.~8.のいずれか1つに記載の樹脂組成物であって、
前記フィラーの表面は、ビニル基で修飾されている、樹脂組成物。
10.
1.~9.のいずれか1つに記載の樹脂組成物であって、
前記フィラーの平均粒径は、0.3~5μmである、樹脂組成物。
11.
前掲の一般式(A1)で表される構造単位を有する樹脂と、フィラーと、を含む樹脂シート。
一般式(A1)において、
、R 、R およびR は、それぞれ独立して、水素または炭素数1~30の有機基であり、かつ、R 、R 、R およびR のうち少なくとも1つは、脂環構造および/または芳香環構造を含み、
は0、1または2である。
12.
11.に記載の樹脂シートであって、
厚みが0.01~0.5mmである樹脂シート。
13.
11.または12.に記載の樹脂シートであって、
周波数10GHzにおける比誘電率が2.0~3.0である樹脂シート。
14.
11.~13.のいずれか1つに記載の樹脂シートであって、
周波数10GHzにおける誘電正接が0.0001~0.003である樹脂シート。
15.
1.~10.のいずれか1つに記載の樹脂組成物の製造方法であって、
前掲の一般式(A1-m)で表されるモノマーと、重合触媒と、フィラーとを含む混合物中の、前記モノマーを塊状重合させる塊状重合工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
一般式(A1-m)において、R 、R 、R 、R およびa の定義は、一般式(A1)と同様である。
16.
15.に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
前記混合物中の有機溶剤の比率は0~10質量%である、樹脂組成物の製造方法。
17.
11.~14のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法であって、
前掲の一般式(A1-m)で表されるモノマーと、重合触媒と、フィラーと、を含む混合物を用いて基材上に膜を形成するとする膜形成工程と、
前記膜中の前記モノマーを塊状重合させる塊状重合工程と、
を含む、樹脂シートの製造方法。
一般式(A1-m)において、R 、R 、R 、R およびa の定義は、一般式(A1)と同様である。
【実施例
【0091】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0092】
<原材料、素材>
以下を準備した。
【0093】
(モノマー)
DecNB:以下構造の化合物
【0094】
【化9】
【0095】
CyHexNB:以下構造の化合物
【0096】
【化10】
【0097】
PhNB:以下構造の化合物
【0098】
【化11】
【0099】
BuNB:以下構造の化合物
【0100】
【化12】
【0101】
(触媒、助触媒)
触媒1:CAS No.908591-42-4のパラジウム系触媒
触媒2:CAS No.59840-38-9のパラジウム系触媒
助触媒1:N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート
【0102】
(触媒溶解用溶剤)
テトラヒドロフラン
【0103】
(フィラー)
ビニルシランで表面処理されたシリカ粒子
【0104】
<フィラー含有の樹脂組成物(樹脂シート)の製造>
後掲の表1において、重合方式が「塊状」と記載されている実施例(実施例2~6)については、以下手順により行った。
1.触媒および助触媒を触媒溶解用溶剤に加え、10分攪拌し、触媒溶液Aを得た。
2.モノマー(低分子量化合物)に上記触媒溶液Aを加え、室温で10分間攪拌し、重合性反応液Bを得た。
3.重合性反応液Bに、表面処理を施したフィラー(株式会社アドマテックス製:SC6500-SVC:平均粒子径2.0μm)を混合、撹拌し、重合性反応液Cを得た。
4.平滑なフィルム(ポリイミドフィルム)上に、厚み0.1mm、200mm×200mmで中央が160mm×160mmで打ち抜かれたPTFEシートを敷き、水平になるようにセットした。
5.その打ち抜かれた中央部に、上記重合性反応液Cを3mL流し込み、上から平滑なフィルムで挟み込んだ。
6.反応液を挟み込んだ平滑なフィルム2枚を、200mm×200mm×10mmtのガラスで挟み込み、常温、10kPaで加圧した。
7.ガラスに挟み込んだ状態で乾燥炉に入れ、90℃で2h、その後110℃で2h、さらにその後150℃で2h加熱し、樹脂フィラー混合シートDを得た。
8.樹脂フィラー混合シートDを真空乾燥炉に入れ、150℃/12hで真空乾燥した。これにより、厚み100μmの樹脂フィラー混合シートEを得た。
【0105】
後掲の表1において、重合方式が「溶液」と記載されている実施例および比較例においては、まず、溶液重合によりポリマーを合成した。その後、ポリマーとフィラーとトルエンを混合してワニス状の組成物を調製し、その組成物を用いて、フィラー含有の樹脂組成物(樹脂シート)を製造した。
【0106】
以下では、比較例1について、フィラー含有の樹脂組成物(樹脂シート)製造の一連の流れを示す。重合方式が「溶液」と記載されている他の実施例・比較例(実施例1など)においても、原料モノマーが異なる以外は同様の方法でフィラー含有の樹脂組成物(樹脂シート)を製造した。
【0107】
1.デシルノルボルネンホモポリマーの合成
DecNB(32.1g、0.18モル)、連鎖移動剤として1-ヘキセン(4.54g、0.054モル)およびトルエン(150g)を、ドライボックス内の500mL容シーラムボトルに入れて混合し、さらにオイルバスにおいて80℃に加熱しながら撹拌して溶液とした。
この溶液に、触媒1(2.6×10-2g、1.80×10-5mol)および助触媒1(7.2×10-2g、9.0×10-5mol)を、それぞれTHFに溶かし、添加した。
添加後の混合物を、マグネチックスターラで80℃において1時間撹拌した。これにより反応混合物(トルエン溶液)を得た。
その後、反応混合物(トルエン溶液)をビーカーに移し変え、貧溶媒であるメタノール(1L)中に、反応混合物を滴下した。これにより、繊維状の白色固形分が沈殿した。固形分をろ過して集めて60℃のオーブン内で真空乾燥させて、乾燥質量31.8g(収率99%)の生成物を得た。
【0108】
2.ワニスの調製
上記ポリマーをトルエンに溶解して、30質量%の溶液A(30g)を調製した。溶液Aに、表面処理を施したフィラー(株式会社アドマテックス製:SC6500-SVC:平均粒子径2.0μm)を混合、撹拌し、溶液Bを得た。
【0109】
3.フィラー混合シート/フィラー含有の樹脂組成物(樹脂シート)の作製
厚さ250μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に、溶液B10gを注ぎ、これをドクターブレードでほぼ一定の厚さになるように広げてワニスの塗膜を形成した。この塗膜をPETフィルムと共にホットプレート上に配置して70℃で30分間加熱し、トルエンを蒸発させた。これにより厚さ0.1mmの乾燥塗膜(フィラー混合シートE')を得た。
【0110】
<誘電特性の測定>
周波数10GHzにおける誘電率および誘電正接の測定には、空洞共振器法による誘電率測定装置(AET社製、JIS C 2565規格準拠)を用いた。
測定サンプルとしては、上記「フィラー混合シートE」または「フィラー混合シートE'」を用いた。
【0111】
<熱膨張係数(CTE)の測定>
熱膨張係数(CTE)は、熱機械分析装置(セイコーインスツル社製、SS6000)を用い、測定サンプルサイズ:4mm(幅)×40mm(長さ)×0.1mm(厚み)、測定温度範囲:30~350℃、昇温速度:5℃/分により測定した。そして、50℃から100℃までの線膨張係数を線膨張係数として採用した。
測定サンプルとしては、上記「フィラー混合シートE」または「フィラー混合シートE'」を用いた。
【0112】
<強靭性(機械的強度)の評価>
強靭性(機械的強度)の評価として、「最小曲げ半径」を評価した。
具体的には、測定サンプル(4mm(幅)×40mm(長さ)×0.1mm(厚み))を、様々な径のステンレス製円筒部材の周囲に180°巻き付けた。この際、破断しなかった円筒部材の半径の最小値を「最小曲げ半径」として記録した。最小曲げ半径が小さいほど、測定サンプルは外力に対して機械的に強く、強靭であるといえる。
測定サンプルとしては、上記「フィラー混合シートE」または「フィラー混合シートE'」を用いた。
【0113】
後掲の表1には、最小曲げ半径の値を以下4段階で評価した結果を示す。
×(悪い):82mm以上
△(やや悪い):41mm以上82mm未満
〇(良い):20mm以上41mm未満
◎(とても良い):5mm以上20mm未満
【0114】
<樹脂板(溶解度測定用、フィラー不含有)の製造>
以下手順により行った。
1.触媒および助触媒を触媒溶解用溶剤に加え、10分攪拌し、触媒溶液Aを得た。
2.モノマー(低分子量化合物)に上記触媒溶液Aを加え、室温で10分間攪拌し、重合性反応液Bを得た。
3.重合性反応液Bを、40℃で30分から1時間攪拌することで、重合性反応液Gを得た。
4.平滑なフィルム(ポリイミドフィルム)上に、厚み0.1mm、200mm×200mmで中央が160mm×160mmで打ち抜かれたPTFEシートを敷き、水平になるようにセットした。
5.その打ち抜かれた中央部に、上記重合性反応液Gを3mL流し込み、上から平滑なフィルムで挟み込んだ。
6.反応液を挟み込んだ平滑なフィルム2枚を、200mm×200mm×10mmtのガラスで挟み込み、常温、10kPaで加圧した。
7.上記をガラスに挟み込んだ状態で乾燥炉に入れ、90℃で2h、その後110℃で2h、さらにその後150℃で2hの条件で加熱し、樹脂板H(溶解度測定用)を得た。
【0115】
<溶解度の測定>
1.上記樹脂板Hのサンプル(小片)の質量Mを秤量計で測定した。
2.樹脂板Hの質量Mに対して、質量で100倍の溶剤(テトラヒドロフランまたはシクロヘキサン)を用意した。
3.溶剤と撹拌子をビーカーに入れ、さらにそこにサンプル(小片)を入れた。
4.サンプルが溶剤に浸った状態で30分間攪拌し、攪拌後、吸引ろ過した(保留粒子:7μm、桐山ロート用ろ紙、No.5A)。
5.吸引ろ過後、ろ紙上に残ったサンプルを、オーブンで、120℃、30分加熱した。
6.加熱後に残った樹脂板Hのサンプル(小片)の質量Mを測定した。
7.以下式により溶解度を算出した。
溶解度(%)={(M-M)/M}×100
【0116】
原料や評価結果に関する情報をまとめて下表に示す。
表1には、フィラーを含む樹脂組成物について、処方、製法、評価結果などをまとめた。
表2には、溶解度測定用のフィラーを含まない樹脂組成物に関する情報を、参考例としてまとめた。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
表1より、一般式(A1)で表される構造単位を有する樹脂と、フィラーと、を含む樹脂組成物(実施例1~6)は、一般式(A1)で表される構造単位を有しない樹脂と、フィラーと、を含む樹脂組成物(比較例1)に比べ、誘電特性と熱膨張率のバランスに優れていることが理解される。
【0120】
また、実施例1と実施例2~6の対比より、樹脂組成物を得るに際して塊状重合を採用した実施例2~6においては、強靭性がより良好となることが理解される。さらに、表2から、塊状重合を採用した場合、テトラヒドロフランやシクロヘキサンに溶解しにくい(≒分子量が非常に大きい)ポリマーが得られることが理解される。
さらに、実施例2と4の対比、実施例3と5の対比より、樹脂が一般式(A2)で表される構造単位を有することにより、靭性がより高まることが理解される。