(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】清掃性に優れた衛生陶器
(51)【国際特許分類】
C04B 41/91 20060101AFI20240723BHJP
E03D 11/02 20060101ALI20240723BHJP
A47K 1/04 20060101ALI20240723BHJP
B24C 1/04 20060101ALI20240723BHJP
E03C 1/14 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C04B41/91 Z
E03D11/02 Z
A47K1/04 H
B24C1/04 F
E03C1/14 Z
(21)【出願番号】P 2020033916
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【氏名又は名称】芳野 理之
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲
(72)【発明者】
【氏名】川崎 拓真
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-104272(JP,A)
【文献】特開2018-165394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80-41/91
E03D 11/00-11/18
E03C 1/14
A47K 1/00-1/14
B24C 1/00-1/10
B24C 3/32-3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器であって、
前記釉薬層の表面の
60°光沢度が20以上50未満であり、
JIS B0601(2001)で規定されるRzおよびRskが、JIS B0633(2001)で規定された条件で測定したとき、
1.90μm≦Rz<2.4
0μm、-0.20<Rsk<0.40であり、
ISO 25178-2(2012)で規定される最大谷深さSvが、ISO 25178-3(2012)で規定された条件で測定したとき、
2.0μm≦Sv≦3.2μmであること
を特徴とする、衛生陶器。
【請求項2】
前記釉薬層と前記陶器素地との間に中間層をさらに備えてなる、請求項1に記載の衛生陶器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の衛生陶器の製造方法であって、
釉薬層を備えた物品を用意し、
前記釉薬層の表面をウエットブラストにより処理することを
含んでなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清掃性に優れた、すなわち表面の汚れを容易に取り除くことが出来る、マット調の表面の衛生陶器に関する。
【背景技術】
【0002】
衛生陶器の外観は、一般的には艶のある光沢調で高級感や清潔感を想起させる質感としている。これに対して、光沢調とは反対に艶のないマット調の衛生陶器が市場において評価されつつある。マット調とすることで、製品の外観(意匠性)を高め、また、同じ空間にある壁や器具類の質感と調和させることが可能となり、デザインのバリエーションを広げることが出来るからである。
【0003】
衛生陶器のマット調は、基本的に表面に凹凸を形成することで光を散乱させて得ている。この凹凸は、時に衛生陶器の清掃性を低下させるため、表面性状を適切に制御することで清掃性を下げないようにする必要がある。しかしながら、衛生陶器の表面は使用によって徐々に釉薬表面のガラス質が侵食されるなど、表面形状が乱されることがある。このような状況にも対応するものとして、その表面を設計し、製造しなければならない。
【0004】
特開2012-46364号公報(特許文献1)は、釉薬焼成時に結晶粒子を析出させてマット調の表面を形成させる技術が開示されている。特定の物性の表面とすることで、防汚性とマット調の両立を図ることができるとされている。
【0005】
また、特開2018-104272号公報(特許文献2)には、施釉面をブラスト処理することでマット調と防汚性を備えた表面を得る技術が記載されている。
【0006】
これらを含め従来のマット調の衛生陶器をさらに改良し、マット調でありながら、清掃性に優れた衛生陶器が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-46364号公報
【文献】特開2018-104272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、今般、特定の表面性状を備えた釉薬層の表面が、清掃性に優れたマット調のもとなることを見出した。
【0009】
したがって、本発明は、清掃性に優れたマット調の釉薬層を備えた衛生陶器の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明による衛生陶器は、陶器素地と、表面に釉薬層とを備えてなる衛生陶器であって、
前記有楽層の表面の
60°光沢度が20以上50未満であり、
JIS B0601(2001)で規定されるRzおよびRskが、JIS B0633(2001)で規定された条件で測定したとき、
1.40μm≦Rz<2.40μm、-1.14<Rsk<0.40であり、
ISO 25178-2(2012)で規定される最大谷深さSvが、ISO 25178-3(2012)で規定された条件で測定したとき、
1.0μm<Sv<4.0μmであること
を特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明による衛生陶器の断面構造を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
衛生陶器
本発明において、「衛生陶器」とは、トイレおよび洗面所周りで用いられる陶器製品を意味し、具体的には大便器、小便器、便器のサナ、便器タンク、洗面台の洗面器、手洗い器などを意味する。
【0013】
図1は、本発明による衛生陶器の表面付近の断面構造を表した模式図である。衛生陶器100は、釉薬層10が、陶器素地80の上に形成された表面層構造を持ち、両者は界面80aで接合されている。また、釉薬層10はその表面10aを有している。さらに、釉薬層10と陶器素地80との間に他の釉薬層(図示せず)があっても良い。
【0014】
表面性状
本発明による衛生陶器が備える釉薬層(10)は、その表面(10a)の性状として、
(1) その表面の60°光沢度が20を超え50未満であり、
(2) その表面のJIS B0601(2001)で規定されるRzおよびRskが、JIS B0633(2001)で規定された条件で測定したとき、
1.40μm≦Rz<2.40μm、-1.14<Rsk<0.40であり、
(3) その表面のISO 25178-2(2012)で規定される最大谷深さSvが、ISO 25178-3(2012)で規定された条件で測定したとき、
1.0μm<Sv<3.4μmである
の三つの要件を満たす。
【0015】
本発明による上記性状を有する釉薬層の表面は、マット調となり、かつ、清掃性に優れる。本発明者の得た知見によれば、艶消し調の表面を実現するための釉薬層の凹凸について、光沢度80を超えるような光沢調の表面では汚れ除去性の低下はそれほどないが、光沢度が50未満に小さくなると、マット調の外観を呈するようにはなるが、汚れ除去性が悪化する傾向にある。おそらくは、凹凸形状に汚れが入り込んでしまい、除去することが困難になるか、除去のためには高い清掃負荷をかけなければならない。本発明にあっては、光沢度が50未満の低い値の釉薬層表面であっても、上記のとおり、その表面近傍に粒子が少なく、かつ、表面のRzおよびRskを所定範囲にすることで、高い清掃性、すなわち汚れが一旦ついても容易に除去できることを見出した。本発明によれば、清掃性の程度は、光沢度80を超えるような光沢調の表面に劣らないものである。
【0016】
本発明による衛生陶器の釉薬層が備える上記(2)の性状は、1.90μm≦Rz<2.40μm、-0.20<Rsk<0.40であることが好ましい。また、本発明による衛生陶器の釉薬層が備える上記(3)の性状は、2.0μm≦Sv≦3.2μmであることが好ましい。これら範囲とすることにより、より優れた清掃性を備えることができる。
【0017】
釉薬層
本発明によれば、種々の釉薬層、すなわち当業者が一般的に釉薬層と理解するものにおいて、上記性状を備えたマット調の表面を実現することが出来る。本発明においては、釉薬層10は、上記した性状がその表面において実現できる限り、当業者が一般的に釉薬層と理解する組成を備えるものとされてよい。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、釉薬層の組成は、酸化物に換算して以下の表に記載される組成を備える。
【表1】
【0019】
また、本発明のさらに一つの態様によれば、上記表における成分の外、Fe2O3、TiO2、BaO、B2O3、Li2O、Sb2O3、CuO、MnO、NiO、CoO、MoO3、SnO2、PbOなどを含んでもいてもよい。
【0020】
本発明において、釉薬層10には粒子が含まれてよい。粒子は、原料中に含まれる結晶質粒子や焼成によって析出される結晶質粒子が存在する。材質としては、ジルコン、石英、ジオプサイド、アノーサイトなどがある。
【0021】
陶器素地
本発明によれば、陶器素地80は特に限定されず、衛生陶器に使用される公知の陶器素地を利用できる。また、上記表面性状を有した釉薬層の下層に、かつ陶器素地80の上層に、当該陶器素地とは性状の異なる他の素地からなる中間層が設けられていてもよい。このことにより、製造時の焼成過程において陶器素地から釉薬層に浸入する気泡を抑制することができ、外観に優れるだけでなく、清掃性に優れた釉薬層を形成することができる。
【0022】
衛生陶器の製造
本発明による衛生陶器は、陶器素地上に釉薬層を形成し、さらに、釉薬層の表面を上記した表面性状となるよう加工することにより製造することができる。具体的には、以下の方法により製造することができる。
【0023】
先ず、陶器素地となる成形体を用意する。これは、珪砂、長石、石灰石、粘土、などを原料として調製した、従来知られた衛生陶器用の泥漿を、石膏等の型で鋳込み成形してなる。成形体は乾燥した後、施釉される。
【0024】
本発明において、釉薬層を形成する釉薬の原料は、前記釉薬層の組成を実現できる限り特に限定されないが、一般的には、釉薬原料として、珪砂、長石、石灰石等の天然鉱物粒子の混合物、コバルト化合物、鉄化合物等の顔料、珪酸ジルコニウム、酸化錫等の乳濁剤などが使用される。釉薬原料を高温で溶融した後、急冷してガラス化させることで釉薬層を得ることができる。本発明において好ましい釉薬原料の組成は、例えば、長石が10wt%~30wt%、珪砂が15wt%~40wt%、炭酸カルシウムが10wt%~25wt%、コランダム、タルク、ドロマイト、亜鉛華が、それぞれ10wt%以下、乳濁剤および顔料が合計15wt%以下のものである。上記した釉薬を、乾燥した成形体に塗布し、その後乾燥、焼成して、釉薬層を備えた物品を得る。焼成温度は釉薬が軟化する1,000℃以上1,300℃以下の温度が好ましい。
【0025】
本発明による衛生陶器の釉薬層が備える上記(1)、(2)および(3)の性状は、後記するように、好ましくはウエットブラスト処理により実現される。
【0026】
本発明において、上記した釉薬層の表面の性状は、好ましくはウエットブラスト処理により実現できる。ウエットブラスト処理は、釉薬層の表面に対して水と研磨材と圧縮空気の混合物を同時に噴射することで表面を削り、所望の表面状態を形成する手法である。研磨材の種類、平均粒径、圧縮空気の供給圧力、投射距離、投射角度、投射時間等を適宜選択することで、本発明によるマット調の表面を得ることが出来る。本発明の好ましい態様によれば、研磨材として非球形のアルミナ粒子を用い、その粒径範囲が1μm~100μmの範囲にあるものを用いることが好ましい。
【実施例】
【0027】
例1~14に使用するサンプルの用意
ガラスと顔料とを含んでなる釉薬層を、その最表面に備えた衛生陶器(TOTO株式会社製、色品番:#NW1)を用意し、平面部を約10cm切り出し、サンプルを得た。
【0028】
ブラスト処理
上記のサンプル釉薬層の表面を、市販のウエットブラスト装置を用いて処理した。研磨材として非球形のアルミナ粒子を用い、研磨材の粒径範囲を1μm~100μmから選択し、圧縮空気の供給圧力、投射距離、投射角度、投射時間を適宜選択して処理を行った。こうして得られた評価サンプルを例1~14とした。
【0029】
表面性状の測定
【0030】
(1)表面形状の測定1(Rsk、Rz、RSm、Rc)
得られた評価サンプルについて、JIS B0651(2001年)に準拠した触針式表面粗さ測定装置(株式会社ミツトヨ製SV-3200)を用い、JIS B0601(2001年)による定義と表示に従い、各表面粗さパラメータ(Rsk、Rz、RSm、Rc)を算出した。測定条件は、JIS B0633(2001年)の規定に従い、評価長さ4mm、カットオフ値λc0.8mm、λs0.0025mm、フィルタ種別Gaussian、補正は傾斜補正(全体)とし、計10箇所の線粗さを測定し、それらの平均値をサンプルの粗さパラメータの値として採用した。結果は後記の表2に示されるとおりであった。
【0031】
(2)表面形状の測定2(Sv)
得られた評価サンプルについて、ISO25178-2(2012)に規定された最大谷深さSvを、ISO25178-3(2012)に規定された条件で、レーザー顕微鏡 LEXT OLS4500(オリンパス製)を用いて測定した。測定は、以下の観察条件にて得られた画像を、以下の解析条件で解析することで行った。
【0032】
観察条件は、倍率:1071倍、高精度モード(ピッチ0.2μm)を選択し、1視野あたり258μm×258μmの画像を撮影した。
【0033】
解析条件は、評価領域を258μm×258μmとし、画像補正として、レーザー顕微鏡に付属している解析ソフトウェアを用いて、水平補正(自動)およびノイズ除去を行った。フィルタ処理は、Lフィルタのカットオフ値(λc)を30μm、Sフィルタのカットオフ値(λs)を設定なしとした。測定パラメータは「粗さ」を選択した。 以上の条件にて、最大谷深さSvを測定した。
【0034】
測定に用いたレーザー顕微鏡、解析ソフトウェアの構成を以下に示す。
レーザー顕微鏡
装置:OLS4500
製品バージョン:1.1.8
光源:405nm半導体レーザー
検出系:フォトマルチプライヤー
対物レンズ:OLYMPUS MPlan APO N 50X/0.95 LEXT
解析ソフトウェア
OLS4500アプリケーション(バージョン:1.1.8.3)
【0035】
1つのサンプルについて、それぞれ視野が重ならないように、3箇所で測定を行い、それらの平均値をサンプルのSvとした。結果は後記の表2に示されるとおりであった。
【0036】
(3)光沢度の測定
得られたサンプルについて、その60°光沢度を、JIS Z8741に基づき、光沢計(コニカミノルタ社製GM-268plus)により測定した。結果は後記の表2に示されるとおりであった。
【0037】
(4) 油性汚れに対する清掃性の評価
以下の方法によって、得られた評価サンプルの表面の、油性固形物に対する清掃性を評価した。色差計には、SPECTROPHOTOMETER CM-2600d(コニカミノルタ製)を用いた。測定条件の設定は、表色系:L*a*b*、マスク/グロス:S/I+E、UV設定:UV100%、光源:D65、観察視野:10度、表示:色差絶対値を用いて、同一箇所の3回測定の平均値を正反射光を含むSCIに表示されるa*値を用いた。
(a)サンプル表面のa*を色差計で測定し、その値をa0*とした。なお、以下も含めて、a*の測定時には、5mm幅の白いマスクを線上に被せて、にじみによる測定バラツキを防止した。
(b)赤色のクレパス(登録商標)でサンプル上に3mm幅の線を書き、線上のa*を色差計で測定し、その値をa1*とした。
(c)市販のトイレ掃除シート(商品名:トイレクイックル、花王(株)製、「クイックル」は花王(株)の登録商標)を用いて、線と垂直な方向に25g/cm
2の荷重をかけた状態で、30往復拭き取った。
(d)摺動後のサンプルのクレパスの線上の色を、色差計で測定し、その値をa2*とした。
(e)汚れ除去性を下記の式から算出した。
汚れ除去性(%)=(a1*-a2*)/(a1*-a0*)
得られた結果は、後記の表2に示されるとおりであった。
【表2】