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特許7524567絶縁皮膜付き打ち抜き加工品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】絶縁皮膜付き打ち抜き加工品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 13/04 20060101AFI20240723BHJP
   C25D 13/00 20060101ALI20240723BHJP
   C25D 13/12 20060101ALI20240723BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C25D13/04
C25D13/00 307D
C25D13/12 A
C23C28/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020048868
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147665
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐古 渚
(72)【発明者】
【氏名】桜井 英章
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-044262(JP,A)
【文献】特開平11-274389(JP,A)
【文献】特開2002-280685(JP,A)
【文献】特開2010-062406(JP,A)
【文献】特開2014-173110(JP,A)
【文献】国際公開第09/157457(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00
C25D 5/00
C25D 13/00
C25D 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断面を有する打ち抜き加工品と、前記打ち抜き加工品の少なくとも前記切断面に形成されためっき層と、前記めっき層の表面に形成された絶縁皮膜と、を備えており、前記絶縁皮膜が電着膜である絶縁皮膜付き打ち抜き加工品。
【請求項2】
前記打ち抜き加工品が銅系金属材料を含み、前記めっき層が銅系金属材料を含む請求項1に記載の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品。
【請求項3】
前記めっき層は、厚みが1μm以上100μm以下の範囲内にある請求項1または請求項2に記載の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品。
【請求項4】
切断面を有する打ち抜き加工品の少なくとも前記切断面にめっき層を形成するめっき工程と、
前記めっき層を形成した前記打ち抜き加工品の前記めっき層の表面に絶縁皮膜を成膜する成膜工程と、
を含み、
前記成膜工程が下記の工程を含む、絶縁皮膜付き打ち抜き加工品の製造方法:
電荷を有する絶縁樹脂粒子を含む電着液に、前記めっき層を有する前記打ち抜き加工品と、電極とを浸漬して、前記打ち抜き加工品と前記電極との間に直流電圧を印加することによって、前記打ち抜き加工品の前記めっき層の上に前記絶縁樹脂粒子を電着させる工程、
前記絶縁樹脂粒子を電着させた前記打ち抜き加工品を加熱して、前記打ち抜き加工品に前記絶縁樹脂粒子を焼き付ける工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁皮膜付き打ち抜き加工品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
打ち抜き加工品は、金属板を所定の形状に打ち抜くことによって製造される。打ち抜き加工品は、例えば、バスバーやワイヤーハーネスの端子部材などの電子部品やコイルなどのモーター部品として利用されている。これらの電子部品やモーター部品で利用される打ち抜き加工品は、絶縁皮膜で被覆する場合がある。打ち抜き加工品を絶縁皮膜で被覆する方法としては、打ち抜き加工品に樹脂材料を塗布し、得られた塗布膜に紫外線、熱等を加えて樹脂材料を硬化させる方法が知られている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-113816号公報
【文献】特開2018-200848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
打ち抜き加工品は圧延成形品と比べて様々な形状に加工しやすいという利点がある。しかしながら、打ち抜き加工品を絶縁皮膜で被覆した絶縁皮膜付き打ち抜き加工品は、打ち抜き加工時に形成される切断面において、絶縁皮膜の部分的な剥離によるピンホールの発生や絶縁破壊電圧の低下が起こりやすい傾向があった。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、絶縁皮膜の部分的な剥離によるピンホールの発生を抑制し、絶縁破壊電圧が高い絶縁皮膜付き打ち抜き加工品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討を重ねた結果、打ち抜き加工による切断面に形成される、せん断面と破断面との間の界面もしくは破断面の凹凸で絶縁皮膜の剥離が起こりやすいことを見出した。そして、打ち抜き加工品の切断面にめっき層を形成して、切断面の表面状態を均一にした後、絶縁皮膜で被覆することによって、絶縁破壊電圧が高い絶縁皮膜付き打ち抜き加工品を得ることが可能となることを確認して、本発明を完成させた。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品は、切断面を有する打ち抜き加工品と、前記打ち抜き加工品の少なくとも前記切断面に形成されためっき層と、前記めっき層の表面に形成された絶縁皮膜と、を備えており、前記絶縁皮膜が電着膜である
【0008】
本発明の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品によれば、打ち抜き加工品は切断面にめっき層が形成され、打ち抜き加工品の切断面の表面状態が均一になるため、打ち抜き加工品の切断面と絶縁皮膜との密着性が向上する。このため、本発明の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品は、絶縁皮膜の部分的な剥離によるピンホールの発生を抑制でき、絶縁破壊電圧が高くなる。
【0009】
ここで、本発明の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品においては、前記絶縁皮膜が電着膜であり、電着法により絶縁皮膜を成膜できるので、打ち抜き加工品の形状に関わらず打ち抜き加工品の表面に均一な膜厚で絶縁皮膜を形成することができる。
【0010】
また、本発明の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品においては、前記打ち抜き加工品が銅系金属材料を含み、前記めっき層が銅系金属材料を含むことが好ましい。
この場合、打ち抜き加工品自体は高い導電性を有するので、バスバーやワイヤーハーネスの端子部材などの電子部品やコイルなどのモーター部品として有用である。また、打ち抜き加工品とめっき層が銅系金属材料を含むので、打ち抜き加工品とめっき層の密着性が向上する。これにより打ち抜き加工品とめっき層と絶縁皮膜の密着性がより高くなるので、絶縁皮膜の部分的な剥離によるピンホールの発生をより確実に抑制でき、絶縁皮膜付き打ち抜き加工品の絶縁破壊電圧がより高くなる。
【0011】
また、本発明の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品において、前記めっき層は、厚みが1μm以上100μm以下の範囲内にあることが好ましい。
この場合、めっき層の厚さが1μm以上であるので、打ち抜き加工品の表面状態の均一性がより確実に高くなる。一方、めっき層の厚さが100μm以下であるので、めっき層の厚さのばらつきが小さく、打ち抜き加工品の寸法への影響が小さくなる。よって、絶縁皮膜付き打ち抜き加工品を、例えば、バスバーやワイヤーハーネスの端子部材、コイルなどで使用する際の機能に影響を与えにくくなる。
【0012】
本発明の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品の製造方法は、切断面を有する打ち抜き加工品の少なくとも前記切断面にめっき層を形成するめっき工程と、前記めっき層を形成した前記打ち抜き加工品の前記めっき層の表面に絶縁皮膜を成膜する成膜工程と、を含み、前記成膜工程が下記の工程を含む。
電荷を有する絶縁樹脂粒子を含む電着液に、前記めっき層を有する前記打ち抜き加工品と、電極とを浸漬して、前記打ち抜き加工品と前記電極との間に直流電圧を印加することによって、前記打ち抜き加工品の前記めっき層の上に前記絶縁樹脂粒子を電着させる工程、
前記絶縁樹脂粒子を電着させた前記打ち抜き加工品を加熱して、前記打ち抜き加工品に前記絶縁樹脂粒子を焼き付ける工程。
【0013】
本発明の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品の製造方法によれば、成膜工程の前に、めっき工程を行なうので、打ち抜き加工品の表面が均一な状態で絶縁皮膜を成膜することができる。このため、本発明の製造方法によって得られた絶縁皮膜付き打ち抜き加工品は、打ち抜き加工品と絶縁皮膜との密着性が向上し、絶縁皮膜の部分的な剥離によるピンホールの発生を抑制でき、絶縁破壊電圧が高くなる。
【0015】
また、絶縁樹脂粒子を電着させるので、打ち抜き加工品の形状に関わらず打ち抜き加工品の表面に均一な膜厚で絶縁皮膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、絶縁皮膜の部分的な剥離によるピンホールの発生を抑制し、絶縁破壊電圧が高い絶縁皮膜付き打ち抜き加工品及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁皮膜付き打ち抜き加工品の平面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3】本発明例1で使用する銅基板の平面図である。
図4】本発明例1で得られた打ち抜き銅板の切断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態である絶縁皮膜付き打ち抜き加工品およびその製造方法について、添付した図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁皮膜付き打ち抜き加工品の平面図である。図2は、図1のII-II線断面図である。
【0019】
図1に示すように、絶縁皮膜付き打ち抜き加工品1は、平面視でコの字の形状とされている。絶縁皮膜付き打ち抜き加工品1は、図2に示すように、打ち抜き加工品2と、打ち抜き加工品2の表面に形成されためっき層3と、めっき層3の表面に形成された絶縁皮膜4と、を備える。
【0020】
打ち抜き加工品2は、金属板をコの字に打ち抜くことによって製造されている。このため打ち抜き加工品2は、互いに対向する1組の面が切断面2aとされている。切断面2aは、せん断面と破断面とが形成されている。打ち抜き加工品2の材料は、特に制限はない。打ち抜き加工品2は、銅系金属材料を含むことが好ましく、銅もしくは銅合金であることが特に好ましい。
【0021】
めっき層3は、打ち抜き加工品2の表面、特に切断面2aの表面状態を均一化する作用がある。めっき層の3の材料は、特に制限はない。めっき層3もまた打ち抜き加工品2と同様に、銅系金属材料を含むことが好ましく、めっき層3は銅系金属材料からなることが特に好ましい。銅系金属材料は、銅もしくは銅合金である。銅合金の例は、上記の打ち抜き加工品2の場合と同じである。めっき層3の厚さは、1μm以上100μm以下の範囲内にあることが好ましく、3μm以上21μm以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0022】
絶縁皮膜4の材料としては、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ホルマール化ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などの絶縁皮膜の材料として一般に利用されているものを用いることができる。絶縁皮膜4は、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂を含むことが好ましく、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂又はこれらの混合物からなることが特に好ましい。
【0023】
絶縁皮膜4の膜厚は、10μm以上200μm以下の範囲内にあることが好ましく、30μm以上100μm以下の範囲にあることが好ましい。
絶縁皮膜4は、電着膜であることが好ましい。電着膜とは、電着法によって成膜された膜である。電着法については後述する。
【0024】
次に、本実施形態の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品1の製造方法について説明する。
本実施形態の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品1の製造方法は、例えば、下記の工程を含む方法によって製造することができる。
(1)打ち抜き加工品2の表面にめっき層3を形成するめっき工程。
(2)めっき層3を形成した打ち抜き加工品2のめっき層3の表面に絶縁皮膜4を成膜する成膜工程。
【0025】
めっき工程は、打ち抜き加工品2の表面にめっき層3を形成する工程である。めっき層3を形成する方法としては、特に制限はなく、電解めっき法及び無電解めっき法のいずれの方法を用いることができる。例えば、銅めっき層を形成する場合は、硫酸銅浴を用いた電解めっき法を用いることができる。
【0026】
めっき工程を行なう前に、打ち抜き加工品2の表面に付着している油分及び酸化物を、表面処理により除去することが好ましい。例えば、打ち抜き加工品2の表面に付着している油分は、浸漬脱脂処理並びに電解脱脂処理により除去することができる。打ち抜き加工品2の表面に付着している酸化皮膜は、酸によるエッチング処理により除去することができる。
【0027】
成膜工程では、めっき工程で作製しためっき層3付き打ち抜き加工品2のめっき層3の表面に絶縁皮膜4を成膜する工程である。絶縁皮膜4の成膜は、電着法により行なうことが好ましい。絶縁皮膜4の成膜は、下記の工程を含む方法により行なうことが好ましい。
(3)電荷を有する絶縁樹脂粒子を含む電着液に、メッキ層3付き打ち抜き加工品2と、電極とを浸漬して、打ち抜き加工品2と電極との間に直流電圧を印加することによって、打ち抜き加工品2のめっき層3の上に絶縁樹脂粒子を電着させる電着工程。
(4)絶縁樹脂粒子を電着させた打ち抜き加工品2を加熱して、打ち抜き加工品2に絶縁樹脂粒子を焼き付ける焼き付け工程。
【0028】
電着工程で用いる電着液は、電荷を有する絶縁樹脂粒子と、有機溶媒と、水と、疎水性塩基とを含むことが好ましい。絶縁樹脂粒子としては、例えば、ポリアミドイミド粒子を用いることができる。ポリアミドイミド粒子の粒子径は特に制限はないが、例えば、メジアン径は50nm以上500nm以下の範囲内である。電着液のポリアミドイミド粒子の含有率は特に制限はないが、例えば、1質量%以上10質量%以下の範囲内であり、好ましくは1.5質量%以上5質量%以下の範囲内である。電着液は、さらに絶縁樹脂粒子としてフッ素樹脂粒子を含んでいてもよい。フッ素樹脂粒子の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)粒子、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)粒子を挙げることができる。電着液のフッ素樹脂粒子の含有率は特に制限はないが、例えば、電着液に対して0.5質量%以上5質量%以下の範囲内であり、ポリアミドイミド粒子に対して20質量%以上50質量%以下の範囲内である。
【0029】
電着液の有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、1,3ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)などの極性溶剤を用いることができる。これらの溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。また、疎水性塩基は、有機溶媒に対して親和性を有することが好ましい。疎水性塩基の例としては、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジベンジルアミン、デシルアミン、オクチルアミン、ヘキシルアミン、ジアミルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミントリアミルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリベンジルアミン、アニリン等を挙げることができる。これらの疎水性塩基は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。有機溶媒と水との合計量に対する有機溶媒の含有率は、例えば、70質量%以上87質量%以下の範囲内である。疎水性塩基の含有率は、例えば、電着液に対して0.02質量%以上0.1質量%以下の範囲内である。
【0030】
ポリアミドイミド粒子を含む電着液は、例えば、ポリアミドイミドと、ポリアミドイミドを溶解可能な有機溶媒と、疎水性塩基とを混合して調製したポリアミドイミド溶液に、ポリアミドイミド溶液の貧溶媒である水を加えることによって得ることができる。このようにして得られたポリアミドイミド粒子は、一般に、負の電荷を有する。
【0031】
電着工程では、電着液に、めっき層3付き打ち抜き加工品2と電極とを浸漬した状態で、めっき層3付き打ち抜き加工品2と電極との間に直流電圧を印加することにより、めっき層3付き打ち抜き加工品2に絶縁樹脂粒子を電着させる。印加する直流電圧は、1V以上600V以下の範囲内にあることが好ましい。
【0032】
焼き付け工程では、絶縁樹脂粒子が電着した打ち抜き加工品2を加熱して、打ち抜き加工品2に絶縁樹脂粒子を焼き付けて電着膜(絶縁皮膜4)を形成する。打ち抜き加工品2に絶縁樹脂粒子を焼き付ける際の加熱温度及び時間は、絶縁樹脂粒子が硬化して電着膜を生成する範囲であれば特に制限はない。加熱温度は、例えば、200℃以上450℃以下の範囲内である。加熱時間は、例えば、5分間以上60分間以下の範囲内である。
【0033】
焼き付け工程の前に、打ち抜き加工品2に付着している電着液を除去することが好ましい。電着液を除去する方法としては、打ち抜き加工品2に圧縮空気を吹き付けて電着液を吹き飛ばす方法、打ち抜き加工品2を電着膜が生成する温度よりも低い温度で加熱して電着液を揮発させる方法を用いることができる。
【0034】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品1によれば、打ち抜き加工品2は切断面2aを含む表面にめっき層3が形成され、打ち抜き加工品2の表面状態が均一になるため、打ち抜き加工品2と絶縁皮膜4との密着性が向上する。このため、本実施形態の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品1は、絶縁皮膜4の部分的な剥離によるピンホールの発生を抑制でき、絶縁破壊電圧が高くなる。
【0035】
また、本実施形態の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品1において、絶縁皮膜4が電着膜である場合は、電着法により絶縁皮膜を成膜できるので、打ち抜き加工品の形状に関わらず打ち抜き加工品の表面に均一な膜厚で絶縁皮膜を形成することができる。
【0036】
また、本実施形態の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品1において、打ち抜き加工品2が銅系金属材料を含み、めっき層3が銅系金属材料を含む場合は、打ち抜き加工品2自体は高い導電性を有するので、バスバーやワイヤーハーネスの端子部材などの電子部品やコイルなどのモーター部品として有用である。また、打ち抜き加工品2とめっき層3が銅系金属材料を含むので、打ち抜き加工品2とめっき層3の密着性が向上する。これにより打ち抜き加工品2とめっき層3と絶縁皮膜4の密着性がより高くなるので、絶縁皮膜4の部分的な剥離によるピンホールの発生をより確実に抑制でき、絶縁皮膜付き打ち抜き加工品1の絶縁破壊電圧がより高くなる。
【0037】
また、本実施形態の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品1において、めっき層3の厚さが1μm以上である場合は、打ち抜き加工品2の表面状態の均一性がより確実に高くなる。一方、めっき層3の厚さが100μm以下である場合は、めっき層3の厚さのばらつきが小さく、打ち抜き加工品の寸法への影響が小さくなる。よって、絶縁皮膜付き打ち抜き加工品1を、例えば、バスバーやワイヤーハーネスの端子部材、コイルなどで使用する際の機能に影響を与えにくくなる。
【0038】
本実施形態の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品の製造方法によれば、成膜工程の前に、めっき工程を行なうので、打ち抜き加工品の表面が均一な状態で絶縁皮膜を成膜することができる。このため、本実施形態の製造方法によって得られた絶縁皮膜付き打ち抜き加工品は、打ち抜き加工品と絶縁皮膜との密着性が向上し、絶縁皮膜4の部分的な剥離によるピンホールの発生を抑制でき、絶縁破壊電圧が高くなる。
【0039】
また、本実施形態の絶縁皮膜付き打ち抜き加工品の製造方法においては、前記成膜工程を電着法によって行なう場合は、絶縁樹脂粒子を電着させるので、打ち抜き加工品の形状に関わらず安定して打ち抜き加工品を絶縁皮膜で被覆することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態においては、めっき層3が打ち抜き加工品2の表面全体に形成されているが、めっき層3の形成場所はこれに限定されるものではない。めっき層3は、少なくとも打ち抜き加工品2の切断面2aに形成されていればよい。
【0041】
また、本実施形態においては、絶縁皮膜の成膜方法として電着法を用いているが、絶縁皮膜の成膜方法はこれに限定されるものではない。絶縁皮膜の成膜方法としては、例えば、塗布法を用いてもよい。塗布法は、絶縁樹脂材料が溶解した塗布液をめっき層付き打ち抜き加工品に塗布して塗布膜を形成し、次いで塗布膜を乾燥させた後、得られた乾燥膜を加熱して打ち抜き加工品に焼き付けることによって絶縁皮膜を成膜する方法である。塗布液をめっき層付き打ち抜き加工品に塗布する方法としては、スピンコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ディップコート法などを用いることができる。
【実施例
【0042】
[本発明例1]
(1)打ち抜き銅板の作製工程
図3は、本発明例1で使用した銅基板の平面図である。銅基板10は、厚さ2mmで、純度99.90質量%の純銅板である。この銅基板10を、コの字形状に打ち抜いて、打ち抜き銅板11を得た。得られた打ち抜き銅板11の窪み部12の断面の写真を図4に示す。図4の写真から、打ち抜き銅板11の切断面は、せん断面と破断面とが形成されていること、破断面は凹凸を有していることがわかる。
【0043】
(2)打ち抜き銅板の脱脂処理工程
打ち抜き銅板の表面に付着している油分を、下記の浸漬脱脂処理並びに電解脱脂処理により除去する脱脂処理を行なった。
浸漬脱脂処理では、得られた打ち抜き銅板を、液温30℃に調整した脱脂剤に1分間浸漬し、その後、水洗した。
【0044】
電解脱脂処理では、電極を備えた電解槽に、電解型脱脂剤(マックスクリーンBG-3200、キザイ株式会社)を投入し、電解型脱脂剤の液温を50℃に調整した後、電解型脱脂剤に打ち抜き銅板を浸漬した。次いで、電解槽の電極(陽極)と打ち抜き銅板(陰極)との間に6A/dmの電流密度で電流を1分間流して打ち抜き銅板を脱脂処理し、その後、水洗した。
【0045】
(3)打ち抜き銅板の銅めっき前処理工程
打ち抜き銅板を、濃度50g/Lの硫酸水溶液に10秒間で浸漬し、その後、水洗した。
【0046】
次に、打ち抜き銅板を、酸エッチング液(過酸化水素濃度:10g/L、硫酸濃度:100g/L)に30秒間で浸漬し、次いで、濃度50g/Lの硫酸水溶液に10秒間で浸漬した。その後、打ち抜き銅板を水洗した。以上のようにして打ち抜き銅板の前処理を行なった。
【0047】
(4)銅めっき層付き打ち抜き銅板の作製工程
電解めっき槽に、めっき液を投入し、液温を45℃に調整した後、めっき液に上記(3)の前処理した打ち抜き銅板を浸漬した。めっき液は、硫酸銅5水和物濃度250g/L、硫酸濃度55g/Lの水溶液を用いた。次いで、電流密度5A/dmの条件で5分間電解銅めっき処理を行なった。その後、打ち抜き銅板を水洗して、銅めっき層付き打ち抜き銅板を得た。得られた銅めっき層付き打ち抜き銅板の銅めっき層の厚さを、マイクロメータを用いて測定したところ、4μmであった。
【0048】
(5)電着液の調製工程
NMP(N-メチル-2-ピロリドン)にPAI(ポリイミドアミド)を溶解して、PAIワニス(PAI:NMP=20質量%:80質量%)を調製した。得られたPAIワニスに、NMPとトリ-n-プロピルアミンと水を加えてPAI粒子を析出させて、PAI粒子を0.5質量%、NMPを76.0質量%、水を18.8質量%、トリ-n-プロピルアミンを0.2質量%の割合で含むPAI粒子分散液を調製した。
【0049】
また、市販のポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)ディスパージョンを水で希釈した後、撹拌混合して、PTFE粒子を30質量%含むPTFE粒子分散液を得た。
【0050】
PAI粒子分散液と、PTFE粒子分散液と、NMPと、水と、トリ-n-プロピルアミンとを混合して、PAI粒子4.3質量%、PTFE粒子4.3質量%、NMP65質量%、水26.2質量%、トリ-n-プロピルアミン0.2質量%の割合で含む電着液を調製した。
【0051】
(6)電着膜(絶縁皮膜)の成膜工程
電着槽に、上記(5)で調製した電着液を投入し、その電着液に上記(4)で作製した銅めっき層付き打ち抜き銅板と電極とを浸漬した。なお、銅めっき層付き打ち抜き銅板は、銅めっき層の酸化皮膜を除去するために、予め、酸化皮膜除去剤に1分間で浸漬した後、水洗した。
【0052】
次に、銅めっき層付き打ち抜き銅板を正極とし、電極を負極として直流電圧500Vを40秒間印加して、銅めっき層付き打ち抜き銅板の表面に絶縁樹脂粒子(PAI粒子とPTFE粒子)を電着させた。
【0053】
次に、絶縁樹脂粒子が電着した打ち抜き銅板を電着液から取り出し、300℃で5分間加熱して、乾燥した。その後乾燥した打ち抜き銅板を330℃で7分間加熱して、絶縁樹脂粒子を打ち抜き銅板に焼き付けて、電着膜(絶縁皮膜)を形成した。得られた絶縁皮膜付き打ち抜き銅板の絶縁皮膜の厚さを、マイクロメータを用いて測定したところ、78μmであった。
【0054】
[本発明例2]
本発明例1の(4)銅めっき層付き打ち抜き銅板の作製工程において、電解銅めっき処理の時間を、15分間とし、銅めっき層の厚さを11μmとしたこと以外は、本発明例1と同様にして、絶縁皮膜付き打ち抜き銅板を作製した。得られた絶縁皮膜付き打ち抜き銅板の絶縁皮膜の厚さは76μmであった。
【0055】
[比較例1]
本発明例1の(2)打ち抜き銅板の脱脂処理工程を行なって、表面に付着している油分を浸漬脱脂処理及び電解脱脂処理により除去した後、(3)~(4)の工程を行なわずに、(6)電着膜の成膜工程を行なったこと以外は、本発明例1と同様にして、絶縁皮膜付き打ち抜き銅板を作製した。得られた絶縁皮膜付き打ち抜き銅板の絶縁皮膜の厚さは81μmであった。
【0056】
[比較例2~4]
本発明例1の(2)~(4)の工程を行なわずに、(6)の電着膜の成膜工程を行なったこと以外は、本発明例1と同様にして、絶縁皮膜付き打ち抜き銅板を作製した。得られた絶縁皮膜付き打ち抜き銅板の絶縁皮膜の厚さは79μm(比較例2)、81μm(比較例3)、82μm(比較例4)であった。
【0057】
[評価]
本発明例1、2及び比較例1~4で得られた絶縁皮膜付き打ち抜き銅板をグリセリン溶液に浸漬して、絶縁破壊電圧を、破壊試験器(YHT-20K-05KMR、株式会社YAMABISHI製)を用いて測定した。その結果を、下記の表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
打ち抜き銅板の表面に対して銅めっき処理を行なった本発明例1、2の絶縁皮膜付き打ち抜き銅板は、打ち抜き銅板の表面にめっき層が形成されていない比較例1~4の絶縁皮膜付き打ち抜き銅板と比較して、絶縁破壊電圧が顕著に高い値を示すことがわかる。これは、打ち抜き銅板の表面にめっき層が形成されていることによって、打ち抜き銅板の表面状態が均一になり、打ち抜き銅板と絶縁皮膜との密着性が向上したためである。
【符号の説明】
【0060】
1 絶縁皮膜付き打ち抜き加工品
2 打ち抜き加工品
2a 切断面
3 めっき層
4 絶縁皮膜
10 銅基板
11 打ち抜き銅板
12 窪み部
図1
図2
図3
図4