(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】流動浸漬塗装法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/24 20060101AFI20240723BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240723BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240723BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20240723BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240723BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B05D1/24
C09D201/00
C09D7/61
C09D5/03
B05D3/00 D
B05D3/02 Z
(21)【出願番号】P 2020058594
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古木 真
(72)【発明者】
【氏名】吉野 進
(72)【発明者】
【氏名】三枝 浩
(72)【発明者】
【氏名】吉田 聡
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-147101(JP,A)
【文献】特表2002-508247(JP,A)
【文献】特開2017-023992(JP,A)
【文献】特開2016-183300(JP,A)
【文献】特開昭50-045023(JP,A)
【文献】米国特許第05614139(US,A)
【文献】米国特許第03090696(US,A)
【文献】米国特許第03063860(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化温度が45℃以上70℃以下である粉体塗料を収容した流動槽の底部から、前記底部の単位面積当たりの平均通気速度5mm/min以上20mm/min以下で空気を導入し、前記粉体塗料の浮上率を5%以上20%以下とした状態で、前記粉体塗料の軟化温度
+20℃以上溶融温度
+5℃以下の温度の被塗装物の少なくとも一部を前記粉体塗料に浸漬し、
前記粉体塗料から出した後、前記被塗装物に付着した前記粉体塗料の膜を加熱する流動浸漬塗装法。
【請求項2】
前記粉体塗料が、粉体粒子と前記粉体粒子に外添された外部添加剤とを有し、
前記外部添加剤が、疎水性外部添加剤であり、
前記外部添加剤がシリカ粒子を含み、
前記外部添加剤の体積平均粒径が、5nm以上30nm以下であり、
前記粉体塗料の体積平均粒径D50vが5μm以上20μm以下であり、
前記粉体塗料の平均円形度が、0.9以上0.995以下であり、
前記粉体塗料の、パウダーレオメータにより、50mmφの断面積のベッセルを用い、回転翼の先端スピードを100mm/sec、回転翼の進入角度を-5°、通気流量を20ml/minとする条件で測定された通気流動性エネルギーAEが5mJ以上100mJ未満である請求項
1に記載の流動浸漬塗装法。
【請求項3】
前記粉体塗料の体積粒度分布指標GSDvが、1.15以上1.40以下である請求項
2に記載の流動浸漬塗装法。
【請求項4】
前記粉体塗料の前記体積粒度分布指標GSDvが、1.15以上1.25以下である請求項
3に記載の流動浸漬塗装法。
【請求項5】
前記粉体塗料を流動槽に収容し、前記流動槽の底部から、前記底部の単位面積当たりの通気速度5mm/min以上10mm/min以下で空気を導入したとき、浮上率が10%以上20%以下である請求項
2~請求項
4のいずれか1項に記載の流動浸漬塗装法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動浸漬塗装法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体塗料を収容した流動槽の底部から空気を供給し、流動状態の粉体塗料に被塗装物を浸漬し、粉体塗料から出した後、被塗装物に付着した粉体塗料の膜を加熱して、塗装膜を形成する流動浸漬塗装法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「ポリオレフィン系樹脂粉末と、無機粉末と、金属石鹸粉末とを含み、中位粒子径が90~160μm、嵩比重が0.35~0.50g/mlおよび安息角が20~35度である流動浸漬塗装用粉体塗料」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、流動浸漬塗装法では、薄い塗装膜が形成され難い。
そこで、本発明の課題は、流動槽の底部から導入する空気の平均通気速度が5mm/min未満若しくは20mm/min超えである場合、粉体塗料の浮上率が5%未満若しくは20%超えである場合、被塗装物の温度が粉体塗料の軟化温度未満若しくは溶融温度超えである場合に比べ、連続薄膜塗装を実現できる流動浸漬塗装法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するための具体的手段は、次の態様を含む。
<1> 粉体塗料を収容した流動槽の底部から、底部の単位面積当たりの平均通気速度5mm/min以上20mm/min以下で空気を導入し、前記粉体塗料の浮上率を5%以上20%以下とした状態で、前記粉体塗料の軟化温度以上溶融温度以下の温度の被塗装物の少なくとも一部を前記粉体塗料に浸漬し、前記粉体塗料から出した後、前記被塗装物に付着した前記粉体塗料の膜を加熱する流動浸漬塗装法。
<2> 前記被塗装物は、前記粉体塗料の軟化温度+20℃以上溶融温度+5℃以下の範囲で予熱された状態で、前記粉体塗料に浸漬する<1>に記載の流動浸漬塗装法。
<3> 前記粉体塗料の体積平均粒径D50vが5μm以上20μm以下であり、
前記粉体塗料の、パウダーレオメータにより、50mmφの断面積のベッセルを用い、回転翼の先端スピードを100mm/sec、回転翼の進入角度を-5°、通気流量を20ml/minとする条件で測定された通気流動性エネルギーAEが5mJ以上100mJ未満である<1>又は<2>に記載の流動浸漬塗装法。
<4> 体積粒度分布指標GSDvが、1.15以上1.40以下である<3>に記載の流動浸漬塗装法。
<5> 前記体積粒度分布指標GSDvが、1.15以上1.25以下である<4>に記載の流動浸漬塗装法。
<6> 前記粉体塗料を流動槽に収容し、前記流動槽の底部から、前記底部の単位面積当たりの通気速度5mm/min以上10mm/min以下で空気を導入したとき、浮上率が10%以上20%以下である<3>~<5>のいずれか1項に記載の流動浸漬塗装法。
<7> 前記粉体塗料が、粉体粒子と前記粉体粒子に外添された外部添加剤とを有する<3>~<6>のいずれか1項に記載の流動浸漬塗装法。
<8> 前記外部添加剤が、疎水性外部添加剤である<7>に記載の流動浸漬塗装法。
<9> 前記外部添加剤の体積平均粒径が、5nm以上30nm以下である<7>又は<8>に記載の流動浸漬塗装法。
【発明の効果】
【0007】
<1>に係る発明によれば、流動槽の底部から導入する空気の平均通気速度が5mm/min未満若しくは20mm/min超えである場合、粉体塗料の浮上率が5%未満若しくは20%超えである場合、被塗装物の温度が粉体塗料の軟化温度未満若しくは溶融温度超えである場合に比べ、連続薄膜塗装を実現できる流動浸漬塗装法が提供される。
<2>に係る発明によれば、被塗装物の予熱温度が粉体塗料の軟化温度+20℃未満若しくは溶融温度+5℃超えである場合に比べ、連続薄膜塗装を実現できる流動浸漬塗装法される。
<3>、<7>、<8>、又は<9>に係る発明によれば、粉体塗料の体積平均粒径D50vが20μm超え、又は気流動性エネルギーが5mJ未満若しくは100mJ以上である場合に比べ、連続薄膜塗装を実現できる流動浸漬塗装法が提供される。
<3>、又は<4>に係る発明によれば、粉体塗料の体積粒度分布指標GSDvが、1.40超え又は1.25超えである場合に比べ、連続薄膜塗装を実現できる流動浸漬塗装法が提供される。
<5>に係る発明によれば、粉体塗料を流動槽に収容し、前記流動槽の底部から、前記底部の単位面積当たりの通気速度5mm/min以上10mm/min以下で空気を導入したとき、浮上率がが20%超えである場合に比べ、連続薄膜塗装を実現できる流動浸漬塗装法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】パウダーレオメータでの流動性エネルギー量の測定方法を説明するための図である。
【
図2】パウダーレオメータで得られた、垂直荷重とエネルギー勾配との関係を示す図である。
【
図3】パウダーレオメータで用いる回転翼の形状を説明するための模式図である。
【
図4】薄い連続塗装膜を得る被塗装物の予熱温度の条件を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
なお、段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
また、数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
<流動浸漬塗装法>
本実施形態に係る流動浸漬塗装法は、粉体塗料を収容した流動槽の底部から、底部の単位面積当たりの平均通気速度5秒以上mm/min以上20mm/min以下で空気を導入し、粉体塗料の浮上率を5%以上20%以下とした状態で、粉体塗料の軟化温度以上溶融温度+5℃以下の範囲で予熱した被塗装物を粉体塗料の少なくとも一部に浸漬し、粉体塗料から出した後、被塗装物に付着した粉体塗料の膜を加熱する方法である。
【0011】
本実施形態に係る流動浸漬塗装法は、連続薄膜塗装を実現できる。その理由は、次の通り推測される。
【0012】
まず、例えば、被塗装物の絶縁又は防錆を確保するために、表面を樹脂製粉体塗料により塗装する場合、溶剤塗料を用いたスプレー塗装では一回の塗装で膜厚20μm以上30μm以下の均質な塗装膜が塗装できる。
しかし、スプレー塗装では、パレットなどに被塗装物を固定して、200mm以上300mm以下離れた位置から、溶剤塗料を空間に広げて塗装するため、寸法が小さい被塗装物では塗着効率が10%以下と悪い。そのため、被塗装物の全面に塗装するには、少なくとも被塗装物を裏表2回に塗装する手法が採られている。しかも、被塗装物の裏表2回に塗装するには、被塗装物をバレットに付け直しするため、被塗装物をパレットに複数回固定するのに多くの手間がかかる。
【0013】
一方、粉体塗料による流動浸漬塗装法では、粉体塗料を収容した流動槽の底部から空気を供給し、流動状態の粉体塗料に被塗装物を浸漬し、粉体塗料から出した後、被塗装物に付着した粉体塗料の膜を加熱して、塗装膜を形成する。そのため、ほぼ100%の塗着効率となる。さらに、無接点で流動浸漬塗装すれば、被塗装物をパレットへの固定なしに一回の塗装で被塗装物の全面に塗装膜できる。この点で、粉体塗料による流動浸漬塗装法は、有利である。溶剤塗料でも粉体塗料に依るような浸漬法による塗装も考えうるが、一般的には溶剤を含んだ塗料の流動性が高すぎて、下に垂れたり、エッジ部が極端に薄くなったりするなど、精密な塗装には適さない。
一方で、従来の粉体塗料は、塗装膜としての連続膜が得られる最低膜厚は100μm以上と厚い。これより薄くしようとすると、表面が視認できるレベルで凸凹状態になったり不連続部分が多数視認できたりしてしまい、薄い膜状態での塗装は非常に困難であった。特に、組み立てて使用する小型の被塗装物に対しては、塗膜の厚みによる大きさのばらつきは組み立て精度ばらつきに直結し、高度な性能が要求される用途に対して流動浸漬塗装は使用でき難いのが現状である。
【0014】
薄く連続した塗装膜を得るためには被塗装物上に少なくとも2~3粒子層の吸着が必要である。従来の流動浸漬塗装法に用いられていた粉体塗料では粒径が大きく、2~3粒子層を吸着すると少なくとも50μm以上、通常は100μm以上の厚膜になってしまう。また、このような大粒径の粉体塗料は熱容量が大きいため、被塗装物上に吸着させるには、被塗装物の表面温度を粉体塗料(その樹脂)の溶融温度Tm以上にする必要がある。一方、塗装膜の薄膜化を狙って、小粒径の粉体塗料を吸着させようとすると、例えば50μm程度の膜厚の連続薄膜を得るには、およそ20μm以下の粒子が必要である。このような小径の粉体塗料の場合、粉体塗料(その樹脂)の溶融温度Tmを大きく超える温度の被塗装物に触れると、熱容量が小さいために素早く溶融し溶融液滴が形成され、連続薄膜を形成することが阻害される。
発明者らの鋭意研鑽の結果、塗装膜の薄膜形成を阻害する要因が上記にあるであろうという仮定の下、被塗装物の温度条件を検討した。これまで、粉体塗料を溶融させて塗装をするために被塗装物を粉体塗料(その樹脂)の溶融温度Tmを超える温度に加熱していたが、あえてそれよりも低い温度で設定した。また、粉体塗料を2~3粒子層、適切な時間内に軟化させるためには、樹脂の物性によって多少の違いはあるが、塗装される部分の近傍の粉体塗料が軟化温度Tg以上の軟化条件を少なくとも5秒以上継続する必要がある。これを満たす、被塗装物の温度、また被塗装物の温度低下に影響する流動のための空気流を調整する必要がある。
【0015】
そのため、本実施形態に係る流動浸漬塗装法では、流動槽の底部から平均通気速度5mm/min以上20mm/min以下、かつ粉体塗料の浮上率を5%以上20%とし、共に低減して、粉体塗料を流動状態にする。それにより、粉体塗料は、粉体塗料が嵩密度を高いままに保った流動状態となる。この流動状態の粉体塗料に、粉体塗料の軟化温度以上溶融温度以下の温度の被塗装物を浸漬すれば、被塗装物に粉体塗料が軟化吸着したとき、粉体塗料の、緻密でかつ連続した薄い膜が形成される、その膜の状態を保ったままで、被塗装物が粉体塗料から出される。
そして、被塗装物を粉体塗料から出した後、粉体塗料の膜を加熱することで、粉体塗料が溶融し、連続で薄い塗装膜(例えば、連続で、膜厚20μm以上50μm以下の塗装膜)が形成される。
【0016】
以上から、本実施形態に係る流動浸漬塗装法は、連続薄膜塗装を実現できると推測される。
【0017】
以下、本実施形態に係る流動浸漬塗装法の詳細について説明する。
【0018】
本実施形態に係る流動浸漬塗装法において、被塗装物を粉体塗料に浸漬し、粉体塗料から出す方法としては、被塗装物を保持した状態で、流動槽に収容された粉体塗料の上方から、被塗装物を粉体塗料に浸漬し、引き上げる方法、被塗装物を流動槽に収容された粉体塗料に、被塗装物を落下させた後、振動搬送により被塗装物を出す方法等、周知の方法が採用できる。
被塗装物を粉体塗料に浸漬する前、又は、浸漬している間、粉体塗料に振動を付与してもよい。
被塗装物を粉体塗料に浸漬している間、被塗装物は、静止状態でもよいが、例えば、10~20mm/secで直線状又は円弧を描くように移動させてもよい。
被塗装物は、一部を粉体塗料に浸漬しても、全部を粉体塗料に浸漬してもよく、塗装膜を形成する領域に応じて選択する。
【0019】
流動槽の底部から導入する空気の平均通気速度は、5mm/min以上20mm/min以下であるが、連続薄膜塗装を実現する観点から、5mm/min以上10mm/min以下が好ましい。
平均通気速度が少すぎると、粉体塗料の流動性が確保できず、被塗装物に不連続に粉体塗料が接着し、塗装膜が連続膜にならない。一方、平均通気速度が大きすぎると、必要な嵩密度(およそ80%以上)が確保できず、軟化接着膜の緻密さが失われ、凹凸が激しかったり欠陥ができて、溶融後の塗装膜の品質が悪くなる。
なお、流動槽の底部から、単位時間(min)当たりに導入する空気の体積を流動槽の底部(その空気導入面)の面積で割った値が、平均通気速度である。
【0020】
粉体塗料の浮上率は、5%以上20%以下であるが、連続薄膜塗装を実現する観点から、10%以上15%以下が好ましい。
浮上率が少すぎると、粉体塗料の流動性が確保できず、被塗装物に不連続に粉体塗料が接着し、塗装膜が連続膜にならない。一方、浮上率が大きすぎると、必要な嵩密度(およそ80%以上)が確保できず、軟化接着膜の緻密さが失われ、凹凸が激しかったり欠陥ができて、溶融後の塗装膜の品質が悪くなる。
なお、浮上率は、後述する式Hにより算出する。
【0021】
被塗装物の温度は、粉体塗料の軟化温度以上溶融温度以下の温度とするが、連続薄膜塗装を実現する観点から、粉体塗料の軟化温度+5℃以上溶融温度以下の温度、粉体塗料の軟化温度+10℃以上溶融温度以下の温度、又は粉体塗料の軟化温度+20℃以上溶融温度以下の温度が好ましい。
被塗装物の温度を上記範囲とすることで、必要な粉体塗料の軟化接着が生じ、連続薄膜塗装を実現できる。
特に、被塗装物を粉体塗料に浸漬直後から、5秒以上、被塗装物の表面温度が粉体塗料の軟化温度以上融解温度以下の範囲を保つことが好ましい。
なお、被塗装物の温度とは、被塗装物を粉体塗料に浸漬した時の被塗装物の表面温度である。
【0022】
被塗装物の予熱温度は、連続薄膜塗装を実現する観点から、粉体塗料の軟化温度+20℃以上溶融温度+5℃以下の範囲が好ましく、粉体塗料の軟化温度+25℃以上粉体塗料の溶解温度+5℃以下がより好ましく、粉体塗料の軟化温度+30℃以上粉体塗料の溶解温度以下がさらに好ましい。
予熱温度が低すぎかつ再加熱がなされない場合は、
図4に示すように、必要な粉体塗料の軟化接着時間経過を待たずに被塗装物の温度が下がりすぎてしまい、塗着不足が発生することがある。同じく、予熱温度が高すぎる場合、浸漬開始時に被塗装物表面に溶融液滴ができてしまうことがある。そのため、連続した塗装膜が得られ難くなる。
なお、粉体塗料の軟化温度及び溶融温度の測定方法は、後述する通りである。
【0023】
ここで、被塗装物の予熱温度は、加熱装置から出したときの温度である。被塗装物を粉体塗料の少なくとも一部に浸漬するときには、浸漬する部分の被塗装物の表面温度は概ね5℃低下している。また、粉体塗料の軟化接着膜を形成する時間は、およそ10秒であり、この時間内に被塗装物の温度が約10℃低下する。さらに、粉体塗料の軟化接着は被塗装物に直接吸着した粉体塗料の外側の粉体塗料も2粒子層程度軟化させる必要があり、軟化温度より20℃以上、望ましくは25℃以上高いことが望ましい。ただし、熱容量の大きな被塗装物を利用する場合には、被塗装物の温度低下は緩和される。特に、被塗装物として小型部品へ精密塗装する場合、浸漬までの空送並びに浸漬時の接触粒子への熱伝導による温度低下を考慮して予熱温度を決定する必要がある。
【0024】
被塗装物の浸漬時間は、生産性と連続薄膜塗装を実現する観点から、5秒以上20秒以下が好ましく、5秒以上10秒以下がより好ましい。
【0025】
被塗装物に付着した粉体塗料の膜を加熱する温度(以下、「焼き付け温度」とも称する)は、90℃以上250℃以下が好ましく、100℃以上220℃以下がより好ましい。焼付けの加熱時間(焼付時間)は、加熱温度(焼付温度)に応じて調節する。
【0026】
粉体塗料の塗装膜の厚さは、例えば、10μm以上50μm以下が好ましく、10μm以上30μm以下がより好ましく、15μm以上25μm以下がさらに好ましい。
【0027】
粉体塗料を塗装する対象物品は、特に、制限はなく、各種の金属部品、セラミック部品、樹脂部品等が挙げられる。これら対象物品は、板状品、線状品等の各物品への成形前の未成形品であってもよいし、電子部品用、道路車両用、建築内外装資材用等に成形された成形品であってもよい。また、対象物品は、被塗装面に、予め、プライマー処理、めっき処理、電着塗装等の表面処理が施された物品であってもよい。
【0028】
次に、本実施形態に係る流動浸漬塗装法に好適に適用する粉体塗料(以下、「本実施形態に係る粉体塗料」とも称する。)の一例について説明する。
【0029】
本実施形態に係る流動浸漬塗装用粉体塗料(以下「粉体塗料」とも称する)は、中心粒径D50vが5μm以上20μm以下であり、
パウダーレオメータを用いて回転翼の先端スピードを100mm/sec、回転翼の進入角度を-5°、通気流量を10ml/minとする条件で測定された通気流動性エネルギーAE10mJ以上100mJである。
【0030】
本実施形態に係る粉体塗料は、流動浸漬塗装法で、さらに、薄い塗装膜を形成され易くなる。特に、平滑で連続的な塗装膜が形成され易くなる。その理由は、次の通り推測される。
【0031】
体積平均粒径D50vが5μm以上20μm以下であり、
パウダーレオメータにより、50mmφの断面積のベッセルを用い、回転翼の先端スピードを100mm/sec、回転翼の進入角度を-5°、通気流量を20ml/minとする条件で測定された通気流動性エネルギーAEが5mJ以上100mJ未満である。
【0032】
本実施形態に係る粉体塗料は、流動浸漬塗装法で、薄い塗装膜を形成できる。特に、平滑で連続的な塗装膜の形成が可能である。その理由は、次の通り推測される。
【0033】
まず、例えば、被塗装物の絶縁又は防錆を確保するために、表面を樹脂製塗料により塗装する場合、溶剤塗料を用いたスプレー塗装では一回の塗装で膜厚20μm以上30μm以下の均質な塗装膜が塗装できる。
しかし、スプレー塗装では、パレットなどに被塗装物を固定して、200mm以上300mm以下離れた位置から、溶剤塗料を空間に広げて塗装するため、寸法が小さい被塗装物では塗着効率が10%以下と悪い。そのため、被塗装物の全面に塗装するには、少なくとも被塗装物を裏表2回に塗装する手法が採られている。しかも、被塗装物の裏表2回に塗装するには、被塗装物をバレットに付け直しするため、被塗装物をパレットに複数回固定するのに多くの手間がかかる。
【0034】
一方、粉体塗料による流動浸漬塗装法では、粉体塗料を収容した流動槽の底部から空気を供給し、流動状態の粉体塗料に被塗装物を浸漬し、粉体塗料から出した後、被塗装物に付着した粉体塗料の膜を加熱して、塗装膜を形成する。そのため、ほぼ100%の塗着効率となる。さらに、無接点で流動浸漬塗装すれば、被塗装物をパレットへの固定なしに一回の塗装で被塗装物の全面に塗装膜できる。この点で、粉体塗料による流動浸漬塗装法は、有利である。溶剤塗料でも粉体塗料に依るような浸漬法による塗装も考えうるが、一般的には溶剤を含んだ塗料の流動性が高すぎて、下に垂れたり、エッジ部が極端に薄くなったりするなど、精密な塗装には適さない。
一方で、従来の粉体塗料は、塗装膜としての連続膜が得られる最低膜厚は100μm以上と厚い。これより薄くしようとすると、表面が視認できるレベルで凸凹状態になったり不連続部分が多数視認できたりしてしまい、薄い膜状態での塗装は非常に困難であった。特に、組み立てて使用する小型の被塗装物に対しては、塗膜の厚みによる大きさのばらつきは組み立て精度ばらつきに直結し、高度な性能が要求される用途に対して流動浸漬塗装は使用でき難いのが現状である。
その原因については、粉体塗料の体積平均粒径が大きい(例えば50μm以上)こと、また、流動性が悪いことに起因するものであると考えられる。
【0035】
本実施形態に係る粉体塗料は、体積平均粒径D50vが5μm以上20μm以下と小径で、しかも、通気流動性エネルギーAEが5mJ以上100mJ未満と流動性が高い。
そのため、流動槽に収容した粉体塗料に、流動槽の空気を導入したとき、粉体塗料が嵩密度を高いままに保った低浮上率で、流動状態となる。この流動状態の粉体塗料に、予熱した被塗装物を浸漬すれば、被塗装物に粉体塗料が軟化吸着したとき、粉体塗料の、緻密でかつ連続した薄い膜が形成され、その膜の状態を保ったままで、被塗装物が粉体塗料から出される。
そして、被塗装物を粉体塗料から出した後、粉体塗料の膜を加熱することで、粉体塗料が溶融し、連続で薄い塗装膜(例えば、連続で、膜厚20μm以上50μm以下の塗装膜)が形成される。
【0036】
以上から、本実施形態に係る粉体塗料は、流動浸漬塗装法で、薄い塗装膜を形成できると推測される。
【0037】
以下、本実施形態に係る粉体塗料の詳細について説明する。
【0038】
(体積平均粒径)
本実施形態に係る粉体塗料の体積平均粒径D50vは、5μm以上20μm以下である。
粉体塗料の体積平均D50vを20μm以下とすることで、流動浸漬塗装法で、薄い塗装膜を形成できる。一方、粉体塗料の体積平均粒径D50vを5μm未満とすると、空気流によって舞い上がった粒子がなかなか落下しないなど、安定な粉体塗料の流動状態を確保できず、連続的な流動浸漬塗装が困難となる。
粉体塗料の体積平均粒径D50vは、5μm以上15μm以下が好ましく、7μm以上12μm以下がより好ましい。
【0039】
粉体塗料の体積平均粒径の測定方法は、後述する方法で実施する。
【0040】
(通気流動性エネルギーAE)
本実施形態に係る粉体塗料の通気流動性エネルギーAEは、5mJ以上100mJ未満である。
粉体塗料の通気流動性エネルギーAEを100mJ未満とすることで、粉体塗料の流動性が高く、粉体塗料の流動相が密となり、薄くて緻密な吸着層が形成され、平滑で薄く連続的な塗装膜が形成できる。
一方、粉体塗料の通気流動性エネルギーAEを5mJ以下とすると、粉体塗料の流動性が高くなりすぎて、粉体塗料の流動相が疎になりすぎて、被塗装物への付着量が少なくなるため、緻密な吸着層が形成できず、焼き付け後に薄くなりすぎて、不連続で、表面が荒れた塗膜となる。
粉体塗料の通気流動性エネルギーAEは、7mJ以上80mJ以下が好ましく、7mJ以上60以下がより好ましく、10mJ以上50mJ以下がさらに好ましい。
【0041】
粉体塗料の通気流動性エネルギーAEは、粉体粒子の粒径及び形状、並びに、外部添加剤の種類及び粒径等により調整できる。
【0042】
通気流動性エネルギーAEの測定方法は、次の通りである。
通気流動性エネルギーAEは、パウダーレオメータを用いて回転翼の先端スピードを100mm/sec、回転翼の進入角度を-5°、通気流量を10ml/minとする条件で測定する。
パウダーレオメータは、充填した粉体中を回転翼が螺旋状に回転することによって得られる回転トルクと垂直荷重とを同時に測定して、流動性を直接的に求める流動性測定装置である。回転トルクと垂直荷重の両方を測定することで、粉体自身の特性や外部環境の影響を含めた流動性について、高感度に検出する。また、粒子の充填の状態を一定とした上で測定を行うため、再現性の良好なデータを得られる。
【0043】
パウダーレオメータとしてfreeman technology社製のFT4を用いて測定する。なお、測定前に温湿度の影響をなくすため、粉体塗料は、温度25℃、湿度45%RHの状態で、8時間以上放置したものを用いる。
【0044】
まず、底部がメッシュ形状の空気導入構造で、内径50mm、高さ(全体132mm、摺り切り部81mmの円筒状スプリット容器に充填し、容積160mL以上の粉体塗料を充填する。
【0045】
粉体塗料を充填した後、充填された粉体塗料を穏やかに撹拌することによりサンプルの均質化を行う操作を実施する。この操作を以下ではコンディショニングと呼ぶことにする。
【0046】
コンディショニングでは、充填した状態で粉体塗料に負荷を与えないよう粉体塗料からの抵抗を受けない回転方向で回転翼を緩やかに撹拌して、過剰の空気や部分的ストレスのほとんどを除去し、サンプルを均質な状態にする。具体的なコンディショニング条件は、容器内を底面からの高さ100mmから10mmまで、5°の進入角で、60mm/secの回転翼の先端スピードで撹拌を行う。
【0047】
このとき、プロペラ型の回転翼が、回転と同時に下方向にも運動するので先端はらせんを描くことになり、このときのプロペラ先端が描くらせん経路の角度を進入角度と呼ぶ。
【0048】
コンディショニング操作を4回繰り返した後、スプリット容器の容器上端部を静かに動かし、高さ81mmの位置において、ベッセル内部の粉体塗料をすり切って、160mL容器を満たす粉体塗料を得る。コンディショニング操作を実施するのは、流動性エネルギー量を安定して求めるためには、常に安定して体積一定の粉体を得ることが重要であるからである。
【0049】
更にコンディショニング操作を1回行ったあとに、容器内を底面からの高さ100mmから10mmまで、進入角度-5°で移動しながら回転翼の先端スピード100mm/secで回転するときの、回転トルクと垂直荷重を測定する。このときのプロペラの回転方向は、コンディショニングと逆方向(上から見て右回り)である。
【0050】
底面からの高さHに対する回転トルク又は垂直荷重の関係を
図1(A)、
図1(B)に示す。回転トルクと垂直荷重から、高さHに対してのエネルギー勾配(mJ/mm)を求めたものが、
図1である。
図2のエネルギー勾配を積分して得られた面積(
図2の斜線部分)が、流動性エネルギー量(mJ)となる。底面からの高さ10mmから100mmの区間を積分して流動性エネルギー量を求める。
また、誤差による影響を少なくするため、このコンディショニングとエネルギー測定操作のサイクルを5回行って得られた平均値を、流動性エネルギー量(mJ)とする。
【0051】
回転翼は、freeman technology社製の
図3に示す2枚翼プロペラ型のφ48.0mm径である。
【0052】
そして、上記回転翼の回転トルクと垂直荷重を測定する際、容器底部から目的とする通気流量(ml/min)で空気を流入しながら測定した流動性エネルギー量が、「通気流動性エネルギー」である。なお、freeman technology社製のFT4では、通気量の流入状態は制御されている。
【0053】
(浮上率)
本実施形態に係る粉体塗料の浮上率は、20%以下が好ましい。
浮上率を低くとすることで、空気の導入により流動槽内の粉体塗料が流動状態となっても、嵩密度を高いままに保ったままとなりやすい。そのため、緻密で薄い粉体塗料の膜が被塗装物に付着しやすくなる。その結果、流動浸漬塗装法で、薄く連続な塗装膜を形成できやすくなる。
一方、浮上率が低すぎると、空気の導入により流動槽内の粉体塗料が流動状態になり難くなる。そのため、浮上率の下限は、5%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。
特に、浮上率は、10%以上20%以下が好ましく、15%以上20%以下がより好ましい。
【0054】
粉体塗料の浮上率は、平均通気速度、粉体粒子の粒径及び形状、並びに、外部添加剤の種類及び粒径等により調整できる。
【0055】
浮上率は、粉体塗料を流動槽に収容し、流動槽の底部から、通気した時の流動層の嵩高さ変化率である。
【0056】
浮上率は、流動槽に収容し、前記流動槽の底部から、前記底部の単位面積当たりの平均通気速度5mm/min以上10mm/min以下で空気を導入したときの値である。
そして、浮上率は、次の式Hにより算出する。
式H:浮上率(%)=(H2-H1)/H1×100
式H中、H1は、空気を導入していないときの、流動槽に収容された粉体塗料の表面の高さ(つまり、流動槽の底部から粉体塗料の表面までの高さ)を示す。
H2は、空気を導入したときの、流動槽に収容された粉体塗料の表面の高さ(つまり、流動槽の底部から粉体塗料の表面までの高さ)を示す。
【0057】
なお、流動槽の底部から、単位時間(min)当たりに導入する空気の体積を流動槽の底部(その空気導入面)の面積で割った値が、平均通気速度である。流動浸漬塗装において、流動槽の断面積が任意であることから、浸漬条件を表現する場合には、平均通気速度を利用する。
一例として50mmφの断面積の流動槽では、底部面積約20mm2であり、空気量20ml/minは平均通気速度10mm/minに相当する。
【0058】
(その他特性)
粉体塗料の体積粒度分布指標GSDvは、流動浸漬塗装法で、薄い塗装膜を形成する観点から、1.15以上1.40以下が好ましく、1.15以上1.30以下が好ましく、1.15以上1.25以下がより好ましい。粒度分布が悪くても、当初は顕著な塗膜品質の劣化はないが、連続的に塗装する場合に、徐々に残留する粒径分布が変化し、品質が安定しない結果となることがある。
【0059】
粉体塗料の平均円形度は、流動浸漬塗装法で、薄い塗装膜を形成する観点から、0.9以上0.995以下が好ましく、0.93以上0.995以下がより好ましく、0.96以上0.995以下が更に好ましい。
【0060】
粉体塗料の体積平均粒径D50v、及び体積粒度分布指標GSDvは、コールターマルチサイザーII(ベックマン・コールター社)を用い、電解液はISOTON-II(ベックマン・コールター社)を使用して測定される。
測定に際しては、分散剤として、界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい)の5質量%水溶液2ml中に測定試料を0.5mg以上50mg以下加える。これを電解液100ml以上150ml以下中に添加する。
試料を懸濁した電解液は超音波分散器で1分間分散処理を行い、コールターマルチサイザーIIにより、アパーチャー径として50μmのアパーチャーを用いて1μm以上30μm以下の範囲の粒径の粒子の粒度分布を測定する。サンプリングする粒子数は50000個である。
測定される粒度分布を基にして分割された粒度範囲(チャンネル)に対して体積基準の累積分布を小径側から描いて、累積16%となる粒径を体積粒径D16v、累積50%となる粒径を体積平均粒径D50v、累積84%となる粒径を体積粒径D84vと定義する。体積粒度分布指標GSDvは(D84v/D16v)として算出される。
【0061】
粉体塗料の平均円形度は、フロー式粒子像分析装置(FPIA-3000、シスメックス)を用いて測定される。具体的には、予め不純固形物を除去した水100ml以上150ml以下の中に、分散剤として界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩)を0.1ml以上0.5ml以下加え、ここに測定試料を0.1g以上0.5g以下加える。測定試料を分散した懸濁液は超音波分散器で1分間以上3分間以下分散処理を行ない、分散液濃度を3000個/μl以上1万個/μl以下とする。この分散液に対して、フロー式粒子像分析装置を用いて、粉体粒子の平均円形度を測定する。
【0062】
粉体粒子の平均円形度は、粉体粒子について測定されたn個の各粒子の円形度(Ci)を求め、下記式により算出される値である。下記式中、Ciは、円形度(=粒子の投影面積に等しい円の周囲長/粒子投影像の周囲長)を示し、fiは、粉体粒子の頻度を示す。
【0063】
【0064】
本実施形態に係る粉体塗料の軟化温度Tgは、塗料としての保存性の確保と焼き付け時の平滑性確保のために、45℃以上70℃以下が好ましく、50℃以上65℃以下がより好ましい。
粉体塗料の軟化温度は、ガラス転移温度であり、測定方法は、次の通りである。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により得られたDSC曲線より求め、より具体的にはJIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」のガラス転移温度の求め方に記載の「補外ガラス転移開始温度」により求められる。
【0065】
本実施形態に係る粉体塗料の溶融温度Tmは、予熱温度のラチチュード確保、被塗装物の汎用性および省エネルギーの観点から、80℃以上180℃以下が好ましく、90℃以上160℃以下がより好ましい。
粉体塗料の溶融温度の測定方法は、次の通りである。
溶融温度は、高化式フローテスターCFT-500(島津製作所社製)を用い、ダイスの細孔の径を0.5mm、加圧荷重を0.98MPa(10kgf/cm2)、昇温速度を1℃/分とした条件下で、1cm3の試料を溶融流出させた時の流出開始点の温度として求められるものである。
【0066】
(構成)
本実施形態に係る粉体塗料は、例えば、粉体粒子と、外部添加剤と、を有する。
【0067】
-粉体粒子-
粉体粒子は、樹脂を含む。粉体粒子には、着色剤、その他添加剤を含んでもよい。
【0068】
--樹脂--
樹脂は、熱可塑性樹脂、及び熱硬化性樹脂のいずれの樹脂を適用してもよい。
一方、塗装膜の強度向上の観点から、樹脂は、熱硬化性樹脂を適用することが好ましい。ただし、樹脂として、熱硬化性樹脂を適用する場合、熱可塑性樹脂を併用してもよい。例えば、全樹脂に占める熱可塑性樹脂の割合は、塗装膜の硬化密度(架橋密度)向上の観点から、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、実質的に含まれていないことが好ましい。即ち、粉体粒子に含まれる樹脂は、熱硬化性樹脂のみであることが好ましい。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を併用する場合には、双方、同じ樹脂種であることが好ましい。
なお、樹脂として、熱硬化性樹脂を適用する場合、粉体粒子には、熱硬化剤も含む。
【0069】
熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン類(例えばスチレン、パラクロロスチレン、α-メチルスチレン等)、(メタ)アクリル酸エステル類(例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等)、エチレン性不飽和ニトリル類(例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、ビニルエーテル類(例えばビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等)、ビニルケトン類(ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソプロペニルケトン等)、オレフィン類(例えばエチレン、プロピレン、ブタジエン等)等の単量体の単独重合体、又はこれら単量体を2種以上組み合せた共重合体からなるビニル系樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ポリエーテル樹脂、変性ロジン等の非ビニル系樹脂、これらと前記ビニル系樹脂との混合物、又は、これらの共存下でビニル系単量体を重合して得られるグラフト重合体等も挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂は、1種類単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0070】
熱硬化性樹脂は、熱硬化反応性基を有する樹脂である。熱硬化性樹脂としては、粉体塗料の粉体粒子に従来使用されている様々な種類の樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、熱硬化性エポキシ樹脂、熱硬化性(メタ)アクリル樹脂、熱硬化性シリコーン樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、熱硬化性メラミン樹脂、熱硬化性ユリア樹脂等が挙げられる。
なお、熱硬化性樹脂は、非水溶性(疎水性)の樹脂であることがよい。熱硬化性樹脂として非水溶性(疎水性)の樹脂を適用すると、粉体塗料(粉体粒子)の環境依存性が低減される。また、粉体粒子を凝集合一法で作製する場合、水性媒体中で乳化分散を実現する点からも、熱硬化性樹脂は、非水溶性(疎水性)の樹脂であることがよい。非水溶性(疎水性)とは、25℃の水100質量部に対する対象物質の溶解量が5質量部未満であることを意味する。
【0071】
熱硬化性樹脂としては、熱硬化性(メタ)アクリル樹脂及び熱硬化性ポリエステル樹脂よりなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0072】
・熱硬化性(メタ)アクリル樹脂
熱硬化性(メタ)アクリル樹脂は、熱硬化反応性基を有する(メタ)アクリル樹脂である。熱硬化性(メタ)アクリル樹脂への熱硬化反応性基の導入は、熱硬化反応性基を有するビニル単量体を用いることがよい。熱硬化反応性基を有するビニル単量体は、(メタ)アクリル単量体((メタ)アクリロイル基を有する単量体)であってもよいし、(メタ)アクリル単量体以外のビニル単量体であってもよい。
【0073】
熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の熱硬化反応性基としては、例えば、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基、酸無水基、(ブロック)イソシアネート基等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル樹脂の熱硬化反応性基としては、(メタ)アクリル樹脂が製造容易な観点から、エポキシ基、カルボキシル基、及び水酸基よりなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。粉体塗料の貯蔵安定性及び塗装膜外観が優れる観点から、熱硬化反応性基の少なくとも一種はエポキシ基であることが好ましい。
【0074】
熱硬化反応性基としてエポキシ基を有するビニル単量体としては、例えば、各種の鎖式エポキシ基含有単量体(例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル等)、各種の(2-オキソ-1,3-オキソラン)基含有ビニル単量体(例えば、(2-オキソ-1,3-オキソラン)メチル(メタ)アクリレート等)、各種の脂環式エポキシ基含有ビニル単量体(例えば、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート等)などが挙げられる。
【0075】
硬化性反応性基としてカルボキシル基を有するビニル単量体としては、例えば、各種のカルボキシル基含有単量体(例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等)、各種のα,β-不飽和ジカルボン酸と炭素数1以上18以下の1価アルコールとのモノエステル類(例えば、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸モノイソブチル、フマル酸モノtert-ブチル、フマル酸モノヘキシル、フマル酸モノオクチル、フマル酸モノ2-エチルヘキシル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノイソブチル、マレイン酸モノtert-ブチル、マレイン酸モノヘキシル、マレイン酸モノオクチル、マレイン酸モノ2-エチルヘキシル等)、各種のイタコン酸モノアルキルエステル(例えば、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸モノイソブチル、イタコン酸モノヘキシル、イタコン酸モノオクチル、イタコン酸モノ2-エチルヘキシル等)などが挙げられる。
【0076】
硬化性反応性基として水酸基を有するビニル単量体としては、例えば、各種の水酸基含有(メタ)アクリレート(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等)、上記各種の水酸基含有(メタ)アクリレートとε-カプロラクトンとの付加反応生成物、各種の水酸基含有ビニルエーテル(例えば、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、3-ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等)、上記各種の水酸基含有ビニルエーテルとε-カプロラクトンとの付加反応生成物、各種の水酸基含有アリルエーテル(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アリルエーテル、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、3-ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル(メタ)アリルエーテル、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アリルエーテル、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アリルエーテル等)、上記各種の水酸基含有アリルエーテルとε-カプロラクトンとの付加反応生成物などが挙げられる。
【0077】
熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の構成単位となる硬化性反応性基を有しない(メタ)アクリル単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルオクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等)、各種の(メタ)アクリル酸アリールエステル(例えば、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等)、各種のアルキルカルビトール(メタ)アクリレート(例えば、エチルカルビトール(メタ)アクリレート等)、他の各種の(メタ)アクリル酸エステル(例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等)、各種のアミノ基含有アミド系不飽和単量体(例えば、N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等)、各種のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート(例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等)、各種のアミノ基含有単量体(例えば、tert-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、tert-ブチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、アジリジニルエチル(メタ)アクリレート、ピロリジニルエチル(メタ)アクリレート、ピペリジニルエチル(メタ)アクリレート等)などが挙げられる。
【0078】
熱硬化性(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル単量体以外にも、硬化反応性基を有しない他のビニル単量体が共重合されていてもよい。
他のビニル単量体としては、各種のα-オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、ブテン-1等)、フルオロオレフィンを除く各種のハロゲン化オレフィン(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、各種の芳香族ビニル単量体(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等)、各種の不飽和ジカルボン酸と炭素数1以上18以下の1価アルコールとのジエステル(例えば、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジオクチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジオクチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジオクチル等)、各種の酸無水基含有単量体(例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水(メタ)アクリル酸、無水テトラヒドロフタル酸等)、各種のリン酸ステル基含有単量体(例えば、ジエチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ジブチル-2-(メタ)アクリロイルオキシブチルフォスフェート、ジオクチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ジフェニル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等)、各種の加水分解性シリル基含有単量体(例えば、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等)、各種の脂肪族カルボン酸ビニル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、炭素原子数9以上11以下の分岐状脂肪族カルボン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等)、環状構造を有するカルボン酸の各種のビニルエステル(例えば、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、メチルシクロヘキサンカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル、p-tert-ブチル安息香酸ビニル等)などが挙げられる。
熱硬化性(メタ)アクリル樹脂は、塗装膜の平滑性に優れる観点から、数平均分子量が1,000以上20,000以下であることが好ましく、1,500以上15,000以下であることがより好ましい。
【0079】
熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定する。GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー製GPC・HLC-8120GPCを用い、東ソー製カラム・TSKgel SuperHM-M(15cm)を使用し、THF溶媒で行う。重量平均分子量及び数平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して算出する。
【0080】
・熱硬化性ポリエステル樹脂
熱硬化性ポリエステル樹脂は、例えば、多塩基酸と多価アルコールとを少なくとも重縮合した重縮合体である。熱硬化性ポリエステル樹脂への熱硬化反応性基の導入は、多塩基酸と多価アルコールとの使用量を調整することにより行う。この調整により、熱硬化反応性基として、カルボキシル基及び水酸基の少なくとも一方を有する熱硬化性ポリエステル樹脂が得られる。
【0081】
多塩基酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、メチルテレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、これら酸の無水物;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、これら酸の無水物;マレイン酸、イタコン酸、これら酸の無水物;フマル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、これら酸の無水物;シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸;等が挙げられる。
【0082】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート、シクロヘキサンジメタノール、オクタンジオール、ジエチルプロパンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチルペンタンジオール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、水添ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレート等が挙げられる。
【0083】
熱硬化性ポリエステル樹脂は、多塩基酸及び多価アルコール以外の他の単量体が重縮合されていてもよい。
他の単量体としては、例えば、一分子中にカルボキシル基と水酸基とを併せ有する化合物(例えば、ジメタノールプロピオン酸、ヒドロキシピバレート等)、モノエポキシ化合物(例えば、「カージュラE10(シェル社)」等の分岐脂肪族カルボン酸のグリシジルエステル)など)、種々の1価アルコール(例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール等)、種々の1価の塩基酸(例えば、安息香酸、p-tert-ブチル安息香酸等)、種々の脂肪酸(例えば、ひまし油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸の等)等が挙げられる。
【0084】
熱硬化性ポリエステル樹脂の構造は、分岐構造のものでも、線状構造のものでもよい。
【0085】
熱硬化性ポリエステル樹脂は、塗装膜の平滑性に優れる観点から、酸価と水酸基価との合計が10mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であり、且つ数平均分子量が1000以上10,000以下であるポリエステル樹脂が好ましい。
【0086】
・熱硬化性樹脂のガラス転移温度
熱硬化性樹脂は、低温で焼き付けた場合でも塗装膜の平滑性に優れる観点から、ガラス転移温度(Tg)が65℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましい。また、ブロッキング等の保管安定性の観点から、40℃以上であることが好ましい。
【0087】
・熱硬化性樹脂の含有量
熱硬化性樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
熱硬化性樹脂の含有量は、粉体粒子全体に対して、20質量%以上99質量%以下が好ましく、30質量%以上95質量%以下が好ましい。
なお、後述するように、粉体粒子がコア/シェル型粒子である場合、樹脂被覆部の樹脂として熱硬化性樹脂を適用する場合には、上記の熱硬化性樹脂の含有量は、芯部及び樹脂被覆部の全熱硬化性樹脂の合計含有量を意味する。
【0088】
--熱硬化剤--
熱硬化剤は、熱硬化性樹脂の熱硬化反応性基の種類に応じて選択される。
具体的には、熱硬化性樹脂の熱硬化反応性基がエポキシ基の場合、熱硬化剤としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、エイコサン二酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の酸;これら酸の無水物;これらの酸のウレタン変性物;などが挙げられる。これらの中でも、熱硬化剤としては、塗装膜物性及び貯蔵安定性の観点から、脂肪族二塩基酸が好ましく、塗装膜物性の点から、ドデカン二酸が特に好ましい。
【0089】
熱硬化性樹脂の熱硬化反応性基がカルボキシル基の場合、熱硬化剤としては、例えば、種々のエポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールAのポリグリシジルエーテル等)、エポキシ基含有アクリル樹脂(例えば、グリシジル基含有アクリル樹脂等)、種々の多価アルコール(例えば、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等)のポリグリシジルエーテル、種々の多価カルボン酸(例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等)のポリグリシジルエステル、種々の脂環式エポキシ基含有化合物(例えば、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルアジペート等)、ヒドロキシアミド(例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、β-ヒドロキシアルキルアミド等)などが挙げられる。
【0090】
熱硬化性樹脂の熱硬化反応性基が水酸基の場合、熱硬化剤としては、例えば、ブロック型イソシアネート、アミノプラスト等が挙げられる。ブロック型イソシアネートを構成するイソシアネート化合物としては、有機ジイソシアネート、有機ジイソシアネートの重合体(イソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物をも含む)、有機ジイソシアネートの多価アルコール付加物、有機ジイソシアネートの低分子量ポリエステル樹脂(例えば、ポリエステルポリオール)付加物、有機ジイソシアネートの水付加物などが挙げられる。ここで、有機ジイソシアネートとしては、各種の脂肪族ジイソシアネート(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等)、各種の環状脂肪族ジイソシアネート(例えば、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等)、各種の芳香族ジイソシアネート(例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等)などが挙げられる。イソシアネート基のブロック剤としては、ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物が挙げられる。
【0091】
熱硬化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0092】
熱硬化剤の含有量は、粉体粒子に含まれる熱硬化性樹脂に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、3質量%以上20質量%以下が好ましい。
なお、後述するように、粉体粒子がコア/シェル型粒子である際、樹脂被覆部の樹脂として熱硬化性樹脂を適用する場合には、上記の熱硬化剤の含有量は、芯部及び樹脂被覆部の全熱硬化性樹脂に対する含有量を意味する。
【0093】
--着色剤--
着色剤としては、例えば、顔料が挙げられる。着色剤は、顔料と共に染料を併用してもよい。
顔料としては、例えば、酸化鉄(例えば、ベンガラ等)、酸化チタン、チタン黄 、亜鉛華、鉛白、硫化亜鉛、リトポン、酸化アンチモン、コバルトブルー、カーボンブラック等の無機顔料;キナクリドンレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、パーマネントレッド、ハンザイエロー、インダンスレンブルー、ブリリアントファーストスカーレット、ベンツイミダゾロンイエロー等の有機顔料;などが挙げられる。
顔料としては、その他、光輝性顔料も挙げられる。光輝性顔料としては、例えば、パール顔料、アルミニウム粉、ステンレス鋼粉等の金属粉;金属フレーク;ガラスビーズ;ガラスフレーク;雲母;リン片状酸化鉄(MIO);などが挙げられる。
【0094】
着色剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0095】
着色剤の含有量は、顔料の種類、塗装膜に求められる色彩、明度、及び深度等に応じて選択する。例えば、着色剤の含有量は、粉体粒子を構成する全樹脂に対して、1質量%以上70質量%以下が好ましく、2質量%以上60質量%以下が好ましい。
【0096】
〔その他添加剤〕
その他添加剤としては、粉体塗料に使用される各種の添加剤が挙げられる。具体的には、その他添加剤としては、例えば、表面調整剤(シリコーンオイル、アクリルオリゴマー等)、発泡(ワキ)防止剤(例えば、ベンゾイン、ベンゾイン誘導体等)、硬化促進剤(アミン化合物、イミダゾール化合物、カチオン重合触媒等)、可塑剤、帯電制御剤、酸化防止剤、顔料分散剤、難燃剤、流動付与剤等が挙げられる。
【0097】
-粉体粒子の特性-
粉体粒子の体積平均粒径D50vは、被塗装面に粉体塗料がより均一性高く付着し、結果、塗装膜の鮮映性をより高める観点から、5μm以上20μm以下が好ましく、5μm以上15μm以下がより好ましく、7μm以上12μm以下が更に好ましい。
【0098】
-コア/シェル型粒子-
粉体粒子は、芯部と、該芯部の表面を被覆する樹脂被覆部と、を有するコア/シェル型粒子であってよい。この際、芯部は、樹脂の他、必要に応じて、前述した、着色剤等のその他の添加剤を含有することがよい。
【0099】
また、コア/シェル型粒子における樹脂被覆部について、以下に説明する。
樹脂被覆部は、樹脂のみで構成されていてもよいし、他の成分(芯部を構成する成分として説明した熱硬化剤、その他の添加剤等)を含んでいてもよい。
ただし、ブリードを低減させる点から、樹脂被覆部は、樹脂のみで構成されていることがよい。なお、樹脂被覆部が、樹脂以外の他の成分を含む場合でも、樹脂は樹脂被覆部全体の90質量%以上(好ましくは95質量%以上)を占めることがよい。
【0100】
樹脂被覆部を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよいが、塗装膜の硬化密度(架橋密度)向上の点から、熱硬化性樹脂であることがよい。
樹脂被覆部の樹脂として、熱硬化性樹脂を適用する場合、この熱硬化性樹脂としては、芯部の熱硬化性樹脂と同様なものが挙げられ、好ましい例も同様である。但し、樹脂被覆部の熱硬化性樹脂は、芯部の熱硬化性樹脂と同じ種類の樹脂であってもよいし、異なる樹脂であってもよい。
【0101】
樹脂被覆部の被覆率は、ブリードの抑制の点から、30%以上100%以下が好ましく、50%以上100%以下がより好ましい。
樹脂被覆部の被覆率は、粉体粒子表面の樹脂被覆部の被覆率はXPS(X線光電子分光)測定により求められた値である。
具体的には、XPS測定は、測定装置として日本電子社製、JPS-9000MXを使用し、X線源としてMgKα線を用い、加速電圧を10kV、エミッション電流を30mAに設定して実施する。
上記条件で得られたスペクトルから、粉体粒子表面の芯部の材料に起因する成分と被覆樹脂部の材料に起因する成分をピーク分離することによって、粉体粒子表面の樹脂被覆部の被覆率を定量する。ピーク分離は、測定されたスペクトルを、最小二乗法によるカーブフィッティングを用いて各成分に分離する。
分離のベースとなる成分スペクトルは、粉体粒子の作製に用いた熱硬化性樹脂、硬化剤、顔料、添加剤、被覆用樹脂を単独に測定して得られたスペクトルを用いる。そして、粉体粒子で得られた全スペクトル強度の総和に対しての被覆用樹脂に起因するスペクトル強度の比率から、被覆率を求める。
【0102】
樹脂被覆部の厚さは、ブリード抑制の点から、0.2μm以上4μm以下が好ましく、0.3μm以上3μm以下がより好ましい。
樹脂被覆部の厚さは、次の方法により測定された値である。粉体粒子をエポキシ樹脂などに包埋し、ダイヤモンドナイフなどで切削することで薄切片を作製する。この薄切片を透過型電子顕微鏡(TEM)などで観察、複数の粉体粒子の断面画像を撮影する。粉体粒子の断面画像から樹脂被覆部の厚みを20か所測定して、その平均値を採用する。クリア粉体塗料などで断面画像において樹脂被覆部の観察が難しい場合は、染色を行って観察することで、測定を容易にすることもできる。
【0103】
〔外部添加剤〕
外部添加剤としては、例えば、無機粒子が挙げられる。無機粒子として、SiO2、TiO2、Al2O3、CuO、ZnO、SnO2、CeO2、Fe2O3、MgO、BaO、CaO、K2O、Na2O、ZrO2、CaO・SiO2、K2O・(TiO2)n、Al2O3・2SiO2、CaCO3、MgCO3、BaSO4、MgSO4等の粒子が挙げられる。
【0104】
これらの中でも、外部添加剤としては、シリカ粒子が好ましい。シリカ粒子としては、SiO2を主成分とする粒子であればよく、結晶性でも非晶性でもよい。また、シリカ粒子としては、水ガラス、アルコキシシラン等のケイ素化合物を原料に製造された粒子であってもよいし、石英を粉砕して得られる粒子であってもよい
具体的には、シリカ粒子としては、例えば、ゾルゲルシリカ粒子、水性コロイダルシリカ粒子、アルコール性シリカ粒子、気相法により得られるフュームドシリカ粒子、溶融シリカ粒子が挙げられる。
【0105】
外部添加剤は、疎水性外部添加剤であることが好ましい。疎水性外部添加剤を適用すると、上記通気流動性エネルギー、及び上記浮上率を上記範囲に制御しやすくなる。
疎水性外部添加剤は、表面に疎水化処理が施されている。疎水化処理は、例えば、疎水化処理剤に外部添加剤(無機粒子等)を浸漬する等して行う。疎水化処理剤は特に制限されないが、例えば、シランカップリング剤、シラン、シリコーンオイル、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。疎水化処理剤の量は、例えば、無機粒子100質量部に対して1質量部以上10質量部以下である。
【0106】
ここで、疎水性外部添加剤の疎水化度は、上記通気流動性エネルギー、及び上記浮上率を上記範囲に制御する観点から、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
外部添加剤の疎水化度は、イオン交換水50mlに、試料となるシリカ粒子を0.2質量%入れ、マグネティックスターラーで攪拌しながらビュレットからメタノールを滴下し、試料全量が沈んだ終点におけるメタノール-水混合溶液中のメタノール質量分率を、疎水化度として求める。
【0107】
外部添加剤の体積平均粒子径は、5nm以上30nm以下が好ましく、5nm以上20nm以下がより好ましく、5nm以上10nm以下がさらに好ましく、5nm以上9nm以下が特に好ましい。外部添加剤の体積平均粒子径を上記範囲とすると、上記通気流動性エネルギー、及び上記浮上率を上記範囲に制御しやすくなる。
【0108】
外部添加剤の体積平均粒子径は、次の通り測定する。
外部添加剤が外添された粉体塗料を、走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製、S-4700)を用いて、倍率4万倍で画像を撮影、加速電圧15kV、エミッション電流20μA、WD15mmで観察する。特定した外部添加剤を画像処理解析ソフトWinRoof(三谷商事(株)製)で解析し、外部添加剤の円相当径を求め、少なくとも200個の粒子について粒径(円相当径)を測定し、粒径の体積基準の分布において小径側から累積50%となる粒径である体積平均粒径を求める。
【0109】
外部添加剤の外添量としては、例えば、粉体粒子に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上7.0質量%以下がより好ましい。
【0110】
<粉体塗料の製造方法>
次に、本実施形態に係る粉体塗料の製造方法について説明する。
本実施形態に係る粉体塗料は、粉体粒子を製造後、必要に応じて、粉体粒子に対して、外部添加剤を外添することで得られる。
【0111】
粉体粒子は、乾式製法(例えば、混練粉砕法等)、湿式製法(例えば、凝集合一法、懸濁重合法、溶解懸濁法等)のいずれにより製造してもよい。これらの製法に特に制限はなく、周知の製法が採用される。これらの中でも、記通気流動性エネルギー、及び上記浮上率を上記範囲に容易に制御できる観点から、凝集合一法により、粉体粒子を得ることがよい。
【0112】
具体的には、
樹脂を含む複合粒子が分散された分散液中で、前記複合粒子を凝集して第1凝集粒子を形成する第1凝集工程と、
前記第1凝集粒子が分散された第1凝集粒子分散液と、樹脂を含む第2樹脂粒子が分散された第2樹脂粒子分散液とを混合し、前記第1凝集粒子の表面に前記第2樹脂粒子を凝集して、前記第2樹脂粒子が前記第1凝集粒子の表面に付着した第2凝集粒子を形成する第2凝集工程と、
前記前記第2凝集粒子が分散された第2凝集粒子分散液に対して加熱して、前記第2凝集粒子を融合及び合一する工程と、
を経て、粉体粒子を製造することが好ましい。
【0113】
この凝集合一法により製造された粉体粒子は、第1凝集粒子が融合合一した部分が芯部となり、第1凝集粒子の表面に付着した第2樹脂粒子が融合合一した部分が樹脂被覆部となる。そして、樹脂として熱硬化性樹脂を適用する場合、各分散液には熱硬化剤も含んでもよいし、別途、熱硬化剤を含む分散液を使用してもよい。
なお、第2凝集工程を省略し、単層構造の粉体粒子を製造してもよい。
【0114】
以下、各工程の詳細について説明する。以下の説明では、樹脂として熱硬化性樹脂を適用し、着色剤を含む粉体粒子の製造方法について説明する。
【0115】
-分散液準備工程-
まず、凝集合一法で使用する各分散液を準備する。具体的には、芯部の樹脂を含む第1樹脂粒子が分散された第1樹脂粒子分散液、熱硬化剤が分散された熱硬化剤分散液、着色剤が分散された着色剤分散液、樹脂被覆部の樹脂を含む第2樹脂粒子が分散された第2樹脂粒子分散液を準備する。
以下、第1樹脂粒子、第2樹脂粒子及び複合粒子を「樹脂粒子」と総称して説明する。
【0116】
樹脂粒子分散液は、例えば、樹脂粒子を界面活性剤により分散媒中に分散させることにより調製する。
【0117】
樹脂粒子分散液に用いる分散媒としては、例えば水性媒体が挙げられる。
水性媒体としては、例えば、蒸留水、イオン交換水等の水、アルコール類等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0118】
界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル塩系、スルホン酸塩系、リン酸エステル系、せっけん系等のアニオン界面活性剤;アミン塩型、4級アンモニウム塩型等のカチオン界面活性剤;ポリエチレングリコール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物系、多価アルコール系等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも特に、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤は、アニオン界面活性剤又はカチオン界面活性剤と併用してもよい。
界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0119】
樹脂粒子分散液において、樹脂粒子を分散媒に分散する方法としては、例えば、回転せん断型ホモジナイザー、メディアを有するボールミル、サンドミル、ダイノミル等を用いた一般的な分散方法が挙げられる。また、樹脂粒子の種類によっては、例えば、転相乳化法により樹脂粒子分散液中に樹脂粒子を分散させてもよい。
転相乳化法とは、分散すべき樹脂をその樹脂が可溶な疎水性有機溶剤中に溶解せしめ、有機連続相(O相)に塩基を加えて中和したのち、水性媒体(W相)を投入することによって、W/OからO/Wへの樹脂の変換(いわゆる転相)が行われて不連続相化し、樹脂を水性媒体中に粒子状に分散する方法である。
【0120】
具体的には、(メタ)アクリル樹脂粒子分散液の場合、(メタ)アクリル樹脂を構成する単量体を水性媒体に乳化し、水溶性開始剤及び連鎖移動剤を加え加熱し、乳化重合することによって、(メタ)アクリル樹脂粒子が分散された樹脂粒子分散を得る。
ポリエステル樹脂粒子分散液の場合、ポリエステル樹脂を構成する単量体を加熱溶融し減圧下で重縮合させ、得られた重縮合体に溶剤(例えば、酢酸エチル等)を加え溶解し、さらにアルカリ性水溶液を加えながら攪拌し転相乳化することによって、ポリエステル樹脂粒子が分散された樹脂粒子分散を得る。
【0121】
なお、ポリエステル樹脂は、水媒体に分散させる際に塩基性化合物を用いて中和される。熱硬化性ポリエステル樹脂のカルボキシル基との中和反応が水性化の起動力であり、しかも生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって、粒子間の凝集を抑制され易くなる。
塩基性化合物としてはアンモニア、沸点が250℃以下の有機アミン化合物等が挙げられるが、使用される塩基性化合物の全量に対し、10モル%以上がアンモニアであることが好ましく、25モル%以上がアンモニアであることがより好ましく、50モル%以上がアンモニアであることが更に好ましい。上記中和反応をアンモニアを用いて行うことにより、粉体塗料における上記アンモニウムイオン量が調整される。好ましい有機アミン化合物の例としては、トリエチルアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等が挙げられる。
塩基性化合物は、熱硬化性ポリエステル樹脂中に含まれるカルボキシ基に応じて、少なくとも部分中和し得る量、すなわち、カルボキシル基に対して0.2倍当量以上9.0倍当量以下を添加することが好ましく、0.6倍当量以上2.0倍当量以下を添加することがより好ましい。0.2倍当量以上であれば、塩基性化合物添加の効果が認められ易い。9.0倍当量以下であれば、油相の親水性が過剰に増すことが抑制されるためと思われるが、粒径分布が広くなりにくく良好な分散液を得られやすい。
【0122】
複合粒子分散液は、樹脂と熱硬化剤とを混合して、分散媒に分散(例えば、転相乳化等の乳化)することで、複合粒子分散液を得る。
【0123】
樹脂粒子分散液中に分散する樹脂粒子の体積平均粒径は、例えば、1μm以下がよく、0.01μm以上1μm以下が好ましく、0.08μm以上0.8μm以下がより好ましく、0.1μm以上0.6μmが更に好ましい。
樹脂粒子の体積平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、LA-700、堀場製作所)の測定によって得られた粒度分布を用い、分割された粒度範囲(チャンネル)に対し、体積について小粒径側から累積分布を描き、全粒子に対して体積50%となる粒径を体積平均粒径D50vとする。他の分散液中の粒子の体積平均粒径も同様に測定される。
【0124】
樹脂粒子分散液に含まれる樹脂粒子の含有量は、例えば、5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上40質量%以下がより好ましい。
【0125】
樹脂粒子分散液の調製方法と同様にして、熱硬化剤分散液、及び着色剤分散液も調製される。つまり、熱硬化剤分散液及び着色剤分散液の、分散媒、界面活性剤、分散方法、粒子の体積平均粒径、及び粒子含有量は、樹脂粒子分散液のそれらと同様である。
【0126】
-第1凝集工程-
次に、第1樹脂粒子分散液と、熱硬化剤分散液と、着色剤分散液と、を混合する。
そして、混合分散液中で、第1樹脂粒子と熱硬化剤と着色剤とをヘテロ凝集させ目的とする粉体粒子の径に近い径を有する、第1樹脂粒子と熱硬化剤と着色剤とを含む第1凝集粒子を形成する。
【0127】
具体的には、例えば、混合分散液に凝集剤を添加すると共に、混合分散液のpHを酸性(例えばpHが2以上5以下)に調整し、必要に応じて分散安定剤を添加した後、第1樹脂粒子のガラス転移温度に近い温度(具体的には、例えば、第1樹脂粒子のガラス転移温度-30℃以上且つガラス転移温度以下)に加熱し、混合分散液に分散された粒子を凝集させて、第1凝集粒子を形成する。
【0128】
第1凝集工程においては、熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含む複合粒子分散液と、着色剤分散液と、を混合し、混合分散液中で、複合粒子と着色剤とをヘテロ凝集させて、第1凝集粒子を形成してもよい。
【0129】
第1凝集工程においては、例えば、混合分散液を回転せん断型ホモジナイザーで攪拌下、室温(例えば25℃)で凝集剤を添加し、混合分散液のpHを酸性(例えばpHが2以上5以下)に調整し、必要に応じて分散安定剤を添加した後に、加熱を行ってもよい。
【0130】
凝集剤としては、例えば、混合分散液に含まれる界面活性剤と逆極性の界面活性剤、金属塩、無機金属塩重合体、及び金属錯体が挙げられる。凝集剤として金属錯体を用いた場合には、界面活性剤の使用量が低減され、帯電特性が向上する。
【0131】
凝集剤としての金属塩、無機金属塩重合体、及び金属錯体は、粉体塗料に含まれる金属イオンの供給源となる。金属塩、無機金属塩重合体、及び金属錯体の例示は、既述の通りである。
【0132】
-第2凝集工程-
次に、得られた第1凝集粒子が分散された第1凝集粒子分散液と、第2樹脂粒子分散液とを混合する。第2樹脂粒子は第1樹脂粒子と同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0133】
そして、第1凝集粒子及び第2樹脂粒子が分散された混合分散液中で、第1凝集粒子の表面に第2樹脂粒子を付着するように凝集して、第1凝集粒子の表面に第2樹脂粒子が付着した第2凝集粒子を形成する。
【0134】
具体的には、例えば、第1凝集工程において、第1凝集粒子が目的とする粒径に達したときに、第1凝集粒子分散液に、第2樹脂粒子分散液を混合する。この際、第1凝集粒子の表面に対する第2樹脂粒子の凝集を促進させるため、第1凝集粒子分散液に対する加熱を継続しながら第2樹脂粒子分散液を混合してもよい。次いで、混合後の分散液のpHを例えば6.5以上10.0以下程度の範囲に調整し、凝集の進行を停止させる。
上記pH調整を、アンモニアの添加によって行うことにより、粉体粒子における上記アンモニウムイオン濃度が調整される。
上記アンモニアはアンモニア水として添加することが好ましい。
アンモニアの添加量は、混合分散液中のアンモニウムイオン濃度が、0.0001質量%以上0.005質量%となるように添加することが好ましい。
これにより、第1凝集粒子の表面に第2樹脂粒子が付着するようにして凝集した第2凝集粒子が得られる。
【0135】
凝集の進行停止のために、キレート剤などを添加しても良い。キレート剤としては、EDTA、酒石酸、クエン酸、グルコン酸等のオキシカルボン酸;イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸等のアミノカルボン酸;などが挙げられる。キレート剤の総添加量は、全樹脂粒子に対して0.01質量%以上3.0質量%以下が好ましい。
【0136】
-融合合一工程-
次に、第2凝集粒子が分散された第2凝集粒子分散液に対して、例えば、第1及び第2樹脂粒子のガラス転移温度以上(例えば、第1及び第2樹脂粒子のガラス転移温度より10から30℃高い温度以上)に加熱して、第2凝集粒子を融合合一し、粉体粒子を形成する。
融合合一工程において、加熱前のpHを8.0以上とした後に加熱することにより、0.0≦(Xb/(Xc+Xo))/((Xrb/(Xrc+Xro))≦0.01を満たす粉体塗料が得られる。上記pHは8.5以上であることが好ましく、9.0以上であることがより好ましい。
【0137】
以上の工程を経て、粉体粒子が得られる。
得られた粉体粒子を含む溶液に対し、アンモニアを添加することにより、粉体粒子における上記アンモニウムイオン濃度が調整される。
上記アンモニアはアンモニア水として添加することが好ましい。
アンモニアの添加量は、粉体粒子を含む溶液中のアンモニウムイオン濃度が、0.0001質量%以上0.005質量%となるように添加することが好ましい。
【0138】
融合合一工程の終了後、分散液中に形成された粉体粒子に対して、公知の洗浄工程、固液分離工程、乾燥工程を施し、乾燥した状態の粉体粒子を得る。洗浄工程は、帯電性の観点から、イオン交換水による置換洗浄を充分に施すことがよい。固液分離工程は、生産性の観点から、吸引濾過、加圧濾過等を施すことがよい。乾燥工程は、生産性の観点から、凍結乾燥、気流式乾燥、流動乾燥、振動型流動乾燥等を施すことがよい。
【0139】
本実施形態に係る粉体塗料は、必要に応じて、得られた乾燥状態の粉体粒子に、外部添加剤を添加し、混合することにより製造される。混合は、例えばVブレンダー、ヘンシェルミキサー、レーディゲミキサー等によって行う。さらに、必要に応じて、振動篩分機、風力篩分機等を使って粉体塗料の粗大粒子を取り除いてもよい。
【実施例】
【0140】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【0141】
<アクリル樹脂製のクリア粉体塗料(PCA1)>
(熱硬化性アクリル樹脂粒子分散液(A1)の調製)
・スチレン: 160質量部
・メタクリル酸メチル: 200質量部
・n-ブチルアクリレート: 140質量部
・アクリル酸: 12質量部
・メタクリル酸グリシジル: 100質量部
・ドデカンチオール: 12質量部
上記成分を混合溶解したモノマー溶液Aを調製した。
【0142】
他方、アニオン性界面活性剤(ダウケミカル社製、ダウファックス) 12質量部をイオン交換水280質量部に溶解し、これに、前記モノマー溶液Aを加えてフラスコ中で分散し乳化した溶液(単量体乳化液A)を得た。
【0143】
次に、アニオン性界面活性剤(ダウケミカル社製、ダウファックス) 1質量部をイオン交換水555質量部に溶解し、重合用フラスコに仕込む。その後、重合用フラスコを密栓し、還流管を設置し、窒素を注入しつつ、ゆっくりと攪拌しながら、75℃まで重合用フラスコをウオーターバスで加熱し、保持する。
この状態で、重合用フラスコ中に、定量ポンプを介して過硫酸アンモニウム9質量部をイオン交換水43質量部に溶解した溶液を20分かけて滴下した後、さらに、単量体乳化液Aを定量ポンプを介して200分かけて滴下した。滴下終了後、ゆっくりと攪拌を続けながら重合用フラスコを75℃に、3時間保持して重合を終了し、固形分量が42%のアニオン性の熱硬化性アクリル樹脂粒子分散液(A1)を得た。
アニオン性の熱硬化性アクリル樹脂粒子分散液(A1)中に含まれる熱硬化性アクリル樹脂粒子は、体積平均粒径220nm、ガラス転移温度は55℃、重量平均分子量は24000であった。
【0144】
(熱硬化剤分散液(D1)の調製)
・ドデカンニ酸: 50質量部
・ベンゾイン: 1質量部
・アクリルオリゴマー(アクロナール4F、BASF社): 1質量部
・アニオン性界面活性剤(ダウケミカル社製、ダウファクス): 5質量部
・イオン交換水: 200質量部
上記成分を圧力容器中で140℃に加熱して、ホモジナイザー(IKA社製:ウルトラタラックスT50)を用いて分散した後、マントンゴーリン高圧ホモジナイザ(ゴ-リン社)で分散処理し、平均粒径が0.24μmである硬化剤及びその他添加剤を分散させてなる熱硬化剤分散液(D1)(硬化剤濃度:23%)を調製した。
【0145】
(クリア粉体塗料(PCA1)の調製)
-凝集工程-
・熱硬化性アクリル樹脂粒子分散液(A1): 200質量部(樹脂84質量部)
・熱硬化剤分散液(D1): 91質量部(硬化剤21質量部)
・10%ポリ塩化アルミニウム: 1質量部
上記成分を丸型ステンレス製フラスコ中でホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックス T50)で十分に混合・分散した後、加熱用オイルバスでフラスコを攪拌しながら48℃まで加熱し、48℃で60分間保持し、凝集粒子を8.8μmまで成長させた後、シェル系成分である熱硬化性アクリル樹脂粒子分散液(A1)を68質量部(樹脂28.56質量部)追加して緩やかに攪拌した。
【0146】
-融合工程-
その後、0.5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液でフラスコ内のpHを5.0に調整した後、攪拌を継続しながら95℃まで加熱した。フラスコ内を95℃まで加熱し終えた後、この状態を4時間維持した。温度を95℃に保持した際のpHは4.0程度であった。
【0147】
-濾過・洗浄・乾燥工程-
反応終了後、フラスコ内の溶液を冷却し、濾過することにより固形分を得た。次に、この固形分を、イオン交換水で十分に洗浄した後、ヌッチェ式吸引濾過で固液分離し、再度固形分を得た。
次に、この固形分を40℃のイオン交換水3リットル中に再分散し、15分、300rpmで攪拌、洗浄した。この洗浄操作を5回繰り返し、ヌッチェ式吸引濾過で固液分離して得られた固形分を12時間真空乾燥させた。
その後、固形分の粉体粒子100質量部に対して、疎水性シリカ粒子(体積平均粒径8nm)0.5質量部を外部添加剤として混合して、アクリル樹脂制のクリア粉体塗料(PCA1)を得た。
【0148】
このクリア粉体塗料は、体積平均粒径D50vが10.6μm、体積平均粒度分布指標GSDvが1.21、平均円形度Caが0.97であった。
クリア粉体塗料をエポキシ樹脂に包埋し後、切削し、粒子の断面像を透過型電子顕微鏡で観察したところ、粉体粒子表面が被覆樹脂部で被覆されていることが確認された。
乾燥後の粉体粒子100部に、体積平均粒径8nmの疎水性シリカ粒子0.51部を外添し、粉体塗料を得た。
【0149】
<ポリエステル樹脂製の市販品粉砕分級クリア粉体塗料(PCA2)>
混練粉砕法により製造された市販のポリエステル製粉体塗料(商品名「783-900クリア粉体粒子」久保孝社製)をターボミルR型T400-4RS110(フロイント・ターボ社製)にて回転速度2500min-1にて粉砕し、エルボージェットLABO(日鉄鉱業社製)にて中径分を分級して、体積平均粒径11.5μm、GSDv1.37、平均円形度Caが0.93の粉体粒子を得た。
得られた粉体粒子100部に対して、体積平均粒径8nmの疎水性シリカ粒子0.61部を外添してクリア粉体塗料(PCA2)を得た。
【0150】
<アクリル樹脂製のクリア粉体塗料(PCA3)>
粉体塗料(PCA1)と同じ方法で、5μmまで成長させたのちに、シェル系成分を加え、合一融合させ、ろ過乾燥後、体積平均粒径6.1μm、GSDv1.24、平均円形度Caが0.99の粉体粒子を得た。
得られた粉体粒子100部に対して、体積平均粒径8nmの疎水性シリカ粒子0.61部を外添し、クリア粉体塗料(PCA3)を得た。
【0151】
<実施例6:ポリエステル樹脂製の市販粉砕分級クリア粉体塗料(PCA4)>
粉体塗料(PCA2)と同じ操作で、エルボージェットの回転数を1800min-1として更に分級し、体積平均粒径18.9μm、GSDv1.20、平均円形度Caが0.90の粉体粒子を得た。
得られた粉体粒子100部に対して、体積平均粒径8nmの疎水性シリカ粒子0.70部を外添して、クリア粉体塗料(PCA4)を得た。
【0152】
(粉体塗料の各種特性)
記述の方法に従って、粉体塗料の各種特性を調べた。その結果を表中に示す。
・中心粒径D50v
・体積粒度分布指標GSDv
・平均円形度Ca
・通気流動性エネルギーAE
・浮上率
なお、表には、外部添加剤の体積平均粒径(表中は単に「粒径」と表記)も示す。
【0153】
<試験A~D>
(流動浸漬塗装による塗装膜の形成)
底部として円盤状の上面が2,300メッシュ(目開き5μm)のステンレス製空気導入面を有する金属治具と、側部として内径50mmΦ(断面積約2,000mm2)のガラス管(厚み3mm)と、で構成される流動槽を準備した。
次に、流動槽に粉体塗料を、容積が80mLになるように投入する。
次に、流動槽の底部から、表1に従った、平均通気速度における粉体塗料の浮上率となるように空気を導入し、粉体塗料を流動状態とした。ことのき、流動槽に、100Hzの振動を付与した。
次に、ホットプレートで加熱したアルミ基板(縦35mm×横75mm×厚さ3mmのアルミ基材)を浸漬した。具体的には、実施例では、粉体塗料への浸漬時に、アルミ基板の表面温度が「軟化温度以上かつ溶融温度以下」の範囲内となるよう、表1の予熱温度でアルミ基板を加熱した後、アルミ基板を粉体塗料に浸漬した。一方で、比較例では、粉体塗料への浸漬時に、アルミ基板の表面温度が「軟化温度以上かつ溶融温度以下」の範囲外となるよう、表1の予熱温度でアルミ基板を加熱した後、アルミ基板を粉体塗料に浸漬した。
また、アルミ基材は、粉体塗料に浸漬している間、10~20mm/secでゆっくり円弧を描くように移動させた。
次に、浸漬してから10秒経過後、アルミ基材を粉体塗料から引き上げた。
そして、アルミ基材に付着した粉体塗料の膜を、180℃30分間加熱して、焼き付けて、塗装膜を形成した。
【0154】
そして、次の評価基準で評価した。その結果を表に示す。
A:塗装膜が、膜厚20μm以上50μm以下の連続した平滑薄膜であった。
B:多少の凹凸はあるものの膜厚10μm以上50μm以下の連続膜となった
C:塗装膜が、下地の見える不連続な膜であった。
D:ほとんど塗着しなかった。
E:塗装膜が、膜厚100μm以上で、連続した膜であった。
【0155】
【0156】
【0157】
上記結果から、本実施例の流動浸漬塗布法は、比較例の流動浸漬塗布法に比べ、膜厚10μm以上50μm以下で、連続した薄い塗装膜が形成できることがわかる。
また、本実施例の流動浸漬塗布法は、連続した薄い塗装膜が良好に形成されていることから、浸漬開始時から皮膜形成に必要な時間まで適切な被塗装物の表面温度が保たれていると推認できる。